説明

交流用超電導ケーブル

【課題】超電導線材の機械的劣化を低減して、超電導特性に優れる超電導ケーブルを提供する。
【解決手段】超電導ケーブル1は、超電導層4を具える3心のケーブルコア2が撚り合わされて断熱管6内に収納されている。超電導層4(超電導導体層4c、超電導シールド層4s)は、螺旋状に撚り合わされた複数の超電導フィラメントを金属マトリクス中に内蔵する超電導線材40を螺旋状に巻回して構成される。超電導線材40中の超電導フィラメントの撚り方向と、当該線材40の巻回方向とが異なっている。超電導ケーブル1では、超電導フィラメントに超電導線材40の巻回に伴う撚り方向と同じ方向の捻りが加わっていないため、上記捻りに起因する超電導フィラメントの機械的な劣化を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いわゆるツイスト線材を螺旋状に巻回してなる超電導層を具える交流用超電導ケーブルに関するものである。特に、ツイスト線材の機械的劣化を低減して、超電導特性に優れる交流用超電導ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超電導導体層及び超電導シールド層といった超電導層を有するケーブルコアと、このコアを収納する断熱管とを具える交流用超電導ケーブルが開発されている。超電導層の代表的な構成として、銀や銀合金といった金属マトリクス中に酸化物超電導体を内蔵する超電導線材を螺旋状に巻回してなる多層構造が挙げられる。
【0003】
上記超電導線材を螺旋状に巻回した状態で交流電流を通電すると、超電導体内部に侵入する磁場に起因するヒステリシス損や、金属マトリクスを介して発生する結合電流(誘導電流)に起因する結合損失(いわゆるジュール損)といった交流損失が発生する。このような交流損失を低減するために、超電導線材として、複数の超電導体が撚り合わされた、いわゆるツイスト線材が提案されている。特許文献1は、多層構造の超電導層において、ツイスト線材を用いると共に、層ごとに巻回ピッチを異ならせた超電導ケーブルを開示している。
【0004】
【特許文献1】特開2002-075078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、ツイスト線材を螺旋状に巻回するにあたり、線材中の超電導体の撚り方向と、線材自体の巻回方向との双方について格別の規定を設けていなかった。しかし、本発明者が検討したところ、ツイスト線材中の超電導体の撚り方向と線材の巻回方向とが同じである場合、超電導層の臨界電流特性が低下し易い傾向にあるとの知見を得た。
【0006】
そこで、本発明の目的の一つは、超電導線材の機械的劣化を低減することで、高い超電導特性を有する交流用超電導ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ツイスト線材中の超電導体の撚り方向とこの線材の巻回方向とが等しい場合、線材を巻回することで超電導体は更に同じ方向に捩られることから、超電導体に歪みが加えられる。そのため、超電導層を形成した時点で超電導層に機械的な劣化、具体的には超電導体にクラックが発生したり、超電導体が途中で破断したりするなどして、超電導層の臨界電流が低下したり、超電導特性を示さなくなったりする。このような超電導線材の機械的な劣化を防止するために、本発明では、ツイスト線材中の超電導体の撚り方向とこの線材の巻回方向とを異ならせた構成とする。
【0008】
具体的には、本発明は、金属マトリクス中に複数の超電導フィラメントを内蔵する超電導線材を螺旋状に巻回して形成された超電導層を具える交流用超電導ケーブルに係るものである。上記複数の超電導フィラメントは、螺旋状に撚り合わされている。そして、上記超電導層は、上記超電導フィラメントの撚り方向と、上記超電導線材の巻回方向とが異なって構成されている。
【0009】
上記構成によれば、超電導線材中に撚り合わされた状態で存在する複数の超電導フィラメントに対して、線材の巻回に伴う撚り方向と同じ方向の捻りが加わっていないため、上記捻りに起因する超電導フィラメントの機械的な劣化を抑制することができる。従って、上記構成によれば、超電導層の構成材料の機械的な劣化を低減することができ、臨界電流や臨界電流密度が高く、超電導特性に優れる超電導ケーブルを提供することができる。
【0010】
本発明超電導ケーブルにおいて、特に、超電導層を構成する超電導線材の巻き径をdw、巻回ピッチをPwとするとき、(Pw22×dw2)1/2が130以下となる層は、超電導フィラメントの撚り方向と、電導線材の巻回方向とが異なって構成されていることが好ましい。なお、巻回ピッチは、上記巻き径dwで超電導線材を1回巻回したときに形成される超電導層の軸方向の長さをいう。また、上記(Pw22×dw2)1/2は、巻き径dwかつ巻回ピッチPwで超電導線材を1回(1ピッチ)巻回したときの超電導線材の実際長さに相当する。
【0011】
超電導線材の巻き径dwに対して、線材の巻きピッチPwが十分に大きい場合、即ち、線材が比較的緩やかに巻かれている場合、線材中の超電導フィラメントの撚り方向と線材の巻回方向とが等しくても、線材の巻回により上記フィラメントに加わる捩りが少ない。そのため、超電導線材の巻回ピッチが大きい場合、超電導フィラメントの撚り方向とツイスト線材の巻回方向との異同による機械的劣化の程度が小さい。即ち、超電導線材の巻回ピッチが大きい場合における線材の機械的劣化は、線材の巻回方向による影響を受け難い。しかし、超電導線材の巻回ピッチが小さい場合、特に後述する試験例で示すように(Pw22×dw2)1/2≦130の範囲では、線材の機械的劣化は、線材の巻回方向による影響を受け易い(線材の巻回方向に依存し易い)。そこで、(Pw22×dw2)1/2≦130の範囲では、超電導フィラメントの撚り方向と、超電導線材の巻回方向とが異なった構成が好適である。
【0012】
本発明超電導ケーブルにおいて、上記超電導層は単層構造とすることもできるが、多層構造であることが好ましい。
【0013】
超電導層が多層構造である場合、大容量の交流送電を行える。また、超電導層が多層構造である場合、超電導線材の巻回ピッチを層ごとに異ならせた構成とすると、各層を流れる電流を均一的にする(均流化する)ことができる。超電導層が多層構造である場合、全ての層について超電導フィラメントの撚り方向と超電導線材の巻回方向とを異ならせてもよいし、(Pw22×dw2)1/2≦130を満たす層についてのみ、超電導フィラメントの撚り方向と超電導線材の巻回方向とを異ならせてもよい。
【0014】
本発明超電導ケーブルにおいて、上記超電導線材は、銀又は銀合金からなる金属マトリクス中に、ビスマス系酸化物超電導相からなる超電導フィラメントを螺旋状に撚り合わされて内蔵された構成が好適である。上記銀は、Ag及び不純物からなるもの、銀合金は、Ag-Au合金、Ag-Mg合金、Ag-Sb合金、Ag-Mn合金が挙げられる。また、この超電導線材の断面形状は特に限定されない。断面が矩形のテープ状線材でも、丸線でもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明超電導ケーブルは、超電導線材の機械的劣化が少なく、超電導特性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態に係る超電導ケーブルを詳細に説明する。
【0017】
(実施形態1)
図1は、3心一括型の交流用超電導ケーブルの概略を示す斜視図、図2は、複数の超電導フィラメントを撚り合わせた状態で内蔵する超電導線材の概略を示す斜視図である。図2では、複数の超電導フィラメントのうち、一つの超電導フィラメントの撚り状態のみを示すが、全ての超電導フィラメントが螺旋状に撚り合わされている。超電導ケーブル1は、超電導層4を具える3心のケーブルコア2が撚り合わされて断熱管6内に収納された構成である。超電導層4は、螺旋状に撚り合わされた複数の超電導フィラメント41を金属マトリクス42中に内蔵する超電導線材40を螺旋状に巻回して構成され、超電導導体層4cと超電導シールド層4sとを具える。この超電導ケーブル1の特徴とするところは、超電導線材40中の超電導フィラメント41の撚り方向と、当該線材40の巻回方向とが異なる点にある。以下、各構成をより詳細に説明する。
【0018】
[ケーブルコア]
各ケーブルコア2は、中心から順に、フォーマ3、超電導導体層4c、電気絶縁層5、超電導シールド層4sを具える。
【0019】
<フォーマ(芯材)>
フォーマは、銅といった常電導材料からなる中空のパイプや、複数の素線を撚り合わせた撚り線を利用することができる。フォーマ3は、銅素線の撚り線から構成されており、最外側の素線を内側の素線よりも細径としている。この構成により、フォーマ3の外周面が滑らかであり、超電導線材40を巻回し易い。
【0020】
<超電導導体層>
超電導導体層4cは、フォーマ3の外周に超電導線材40を螺旋状に巻回して形成された4層構造であり、層間には、クラフト紙といった絶縁材を巻回して層間絶縁層を設けている。超電導線材40は、図2に示すように複数の超電導フィラメント41が螺旋状に撚り合わされて金属マトリクス42中に内蔵された構成である。ここでは、Bi2223酸化物超電導体からなる超電導フィラメント41を撚り合わせて銀シース42a及び銀合金シース42bで被覆したツイストテープ線材を用いている。
【0021】
上記テープ線材の最終的な厚さは、0.2〜0.4mm程度、アスペクト比(幅/厚さ)は、10〜20程度が好ましい。また、超電導フィラメントの撚りピッチPfは、短い方が交流損失の低減効果が大きいことから、10mm以下が好ましい。
【0022】
超電導導体層4cは、上記多芯の超電導線材40をフォーマ3の外周に螺旋状に巻回して形成するにあたり、超電導フィラメントの撚り方向と、線材40の巻回方向とを異ならせている。即ち、S撚りの超電導層を形成する場合、超電導フィラメントがZ撚りされた超電導線材を用い、Z撚りの超電導層を形成する場合、超電導フィラメントがS撚りされた超電導線材を用いている。
【0023】
特に、超電導導体層4cは、超電導導体層4cを構成する4層のうち、少なくとも、超電導線材40の巻き径をdw、巻回ピッチをPwとするとき、(Pw22×dw2)1/2が130(mm)以下となる層を上述のように撚り方向と巻回方向とが異なる構成としている。
【0024】
<電気絶縁層5>
電気絶縁層は、PPLP(登録商標)といった半合成絶縁紙やクラフト紙といった絶縁紙を巻回して構成する。電気絶縁層5は、PPLP(登録商標)を巻回して構成されている。また、超電導ケーブル1は、電気絶縁層5の内側に内部半導電層、外側に外部半導電層を具える。
【0025】
<超電導シールド層4s>
超電導シールド層4sは、電気絶縁層5の外周に、超電導導体層4cと同様の多芯の超電導線材40(上述のBi2223系テープ線材)を螺旋状に巻回して形成された2層構造であり、基本的な構成は超電導導体層4cと同様である。この超電導シールド層4sは、超電導導体層4cとほぼ同じ大きさで逆方向の電流が誘導されることで、ケーブル1の外部への磁界の発生を打ち消す作用を有する。
【0026】
そして、超電導シールド層4sは、電気絶縁層5の外周に超電導線材40を螺旋状に巻回して形成するにあたり、超電導シールド層4sを構成する2層のうち、少なくとも(Pw22×dw2)1/2≦130(mm)を満たす層について、超電導導体層4cと同様に超電導フィラメントの撚り方向と、線材40の巻回方向とを異ならせている。なお、この例に示す超電導ケーブル1では、超電導シールド層4sの外周に、超電導線材40を保護するために、銅といった常電導材料からなる常電導保護層9、及び常電導保護層9の外周にクラフト紙などからなる保護層を具えている。
【0027】
<断熱管>
断熱管は、例えば、ステンレス鋼(SUS)といった強度に優れる金属からなり、可撓性に富むコルゲート管からなる二重構造管が利用できる。断熱管6は、ケーブルコア2を収納すると共に、コア2を冷却する冷媒(図示せず)が充填される内管6iと、内管6iの外周に配置され、内部が真空引きされる外管6oとを具える。両管6i,6oは、SUSコルゲート管からなる。内管6iと外管6oとの間には、スーパーインシュレーションといった断熱材7を配置させて、断熱効果を高めている。冷媒は、液体窒素が代表的であり、その他、液体水素、液体ヘリウム、水素ガス、ヘリウムガスなどを利用できる。断熱管6の外周には、ポリ塩化ビニルからなる防食層8を具えて、耐食性を高めている。
【0028】
《試験例》
ツイストテープ線材を螺旋状に巻回した超電導層を具えるモデルケーブルを作製し、臨界電流Icの維持率を測定した。その結果を図3に示す。
【0029】
モデルケーブルは、以下のように作製した。超電導層4に用いた多芯のBi2223系ツイストテープ線材のうち、超電導フィラメントの撚り方向がZ撚りである線材(撚りピッチPf:5mm)を用意する。このZ撚り線材を直径φ18mmの銅パイプの上(巻き径dw:18mm)に種々の巻回ピッチPwでS方向又はZ方向に巻回して、単層構造の超電導層を具えるモデルケーブルを得る。
【0030】
得られた各モデルケーブルの臨界電流Icmを測定し、用いた線材の臨界電流の総和Icbに対する維持率:Icm/Icbを求めた。
【0031】
図3に示すように、(Pw22×dw2)1/2が130(mm)超であれば、超電導フィラメントの撚り方向(この試験ではZ撚り)と超電導線材の巻回方向とが同じ(この試験では巻回方向がZ方向の場合)であっても、臨界電流Icの維持率Icm/Icbが1.0(100%)程度であり、撚り方向と巻回方向との異同による超電導特性の差異が小さい。しかし、(Pw22×dw2)1/2が130(mm)以下となる範囲、即ち、巻き径dwが一定のとき、巻回ピッチPwが小さくなった場合では、超電導フィラメントの撚り方向と超電導線材の巻回方向とが異なる構成(この試験では巻回方向がS方向の場合)の方が臨界電流Icの維持率Icm/Icbの低下度合いが小さく、維持率Icm/Icbが高い。特に、(Pw22×dw2)1/2が110(mm)以上130(mm)以下の範囲では、維持率Icm/Icbが1.0である。
【0032】
超電導フィラメントの撚り方向と超電導線材の巻回方向とが同じ構成の方が維持率が低くなった一原因として、線材を巻回するにあたり、超電導フィラメントに撚り方向と同じ方向の捻りが加わることで、超電導フィラメントが機械的に劣化したことが考えられる。なお、この試験では、超電導フィラメントがZ撚りの超電導線材を用いたが、S撚りの超電導線材を用いた場合も同様の傾向が見られる。
【0033】
上記試験結果から、超電導線材中の超電導フィラメントの撚り方向と、線材の巻回方向とが異なる超電導ケーブル1は、線材の機械的劣化を低減することで、超電導特性に優れると期待される。
【0034】
上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、超電導層の積層数、超電導線材の材質、超電導フィラメントの撚りピッチなどを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明超電導ケーブルは、交流送電用の電力供給路に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】3心一括型の交流用超電導ケーブルの概略を示す斜視図である。
【図2】複数の超電導フィラメントを撚り合わせた状態で内蔵する超電導線材の概略を示す斜視図である。
【図3】超電導線材の巻き径dwと超電導線材の巻回ピッチPwに対して定める(Pw22×dw2)1/2と、臨界電流Icの維持率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0037】
1 交流用超電導ケーブル 2 ケーブルコア 3 フォーマ 4 超電導層
4c 超電導導体層 4s 超電導シールド層 5 電気絶縁層 6 断熱管
6i 内管 6o 外管 7 断熱材 8 防食層 9 常電導保護層
40 超電導線材 41 超電導フィラメント 42 金属マトリクス
42a 銀シース 42b 銀合金シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属マトリクス中に複数の超電導フィラメントを内蔵する超電導線材を螺旋状に巻回して形成された超電導層を具える交流用超電導ケーブルであって、
前記複数の超電導フィラメントは、螺旋状に撚り合わされており、
前記超電導層の少なくとも1層は、前記超電導フィラメントの撚り方向と、前記超電導線材の巻回方向とが異なって構成されていることを特徴とする交流用超電導ケーブル。
【請求項2】
前記超電導層を構成する超電導線材の巻き径をdw、巻回ピッチをPwとするとき、前記超電導層のうち、以下の式を満たす層は、前記超電導フィラメントの撚り方向と、前記超電導線材の巻回方向とが異なって構成されていることを特徴とする請求項1に記載の交流用超電導ケーブル。
【数1】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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