説明

交流直接変換器の制御方法

【課題】転流による誤差電圧を補償して出力電圧の歪みを低減させた交流直接変換器の制御方法を提供する。
【解決手段】出力電圧指令に応じた仮想直流中間電圧指令を仮想整流器制御手段に与えて仮想直流中間電圧の大きさを所定値に制御する仮想AC/DC/AC変換方式の制御方法において、電源電圧及び負荷電流極性検出値、転流時間及びキャリア周波数から転流誤差電圧を計算する手段4と、最大誤差電圧により仮想直流中間電圧指令を補正する加算手段5とを備え、仮想整流器制御手段1は、補正後の仮想直流中間電圧指令に従って出力電圧を飽和させない大きさの仮想直流中間電圧を出力し、仮想インバータ制御手段2は、この仮想直流中間電圧のもとで前記誤差電圧を補償するオンオフパルスを演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサ等のエネルギーバッファを用いることなく、半導体スイッチング素子のオンオフによって多相交流電圧を任意の大きさ及び周波数の多相交流電圧に直接変換する交流直接変換器の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図3は、この種の直接変換器の一種であるマトリクスコンバータの主回路構成図である。同図において、10は電流を双方向に通流可能な9個の双方向スイッチSWからなるマトリクスコンバータ、20は三相交流電源、30はフィルタ、R,S,Tは交流入力端子、U,V,Wは交流出力端子である。
上記マトリクスコンバータ10は、9個の双方向スイッチSWをオンオフさせることで、電源20の三相交流電圧を任意の大きさ、周波数の三相交流電圧に直接変換するものであり、その動作については周知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0003】
ところで、双方向スイッチSWは、一般に図4に示すような自己消弧形の半導体スイッチング素子からなる単方向スイッチS,Sを複数組み合わせて構成されており、図4では、半導体スイッチング素子として逆耐圧を有するIGBTを用いた例を示してある。
マトリクスコンバータ10において、通流する双方向スイッチSWを切り替える場合、電源の短絡及び負荷端の開放を生じないように、各双方向スイッチSWを構成する単方向スイッチのオンオフタイミングを調整する必要がある。以下、上記オンオフタイミングを調整しつつ通流する双方向スイッチ(単方向スイッチ)を切り替えることを転流と呼ぶ。
【0004】
しかし、このような転流動作は、オンオフタイミングの調整によって本来の出力電圧指令と実際の出力電圧との間に誤差を生じさせることになり、例えば負荷が電動機である場合には、電動機の回転むらを発生させる等の問題を引き起こす。
このため、後述する非特許文献1では、図5に示すようにマトリクスコンバータ10を仮想整流器11と仮想インバータ12との組み合わせに見立てて制御し(以下、仮想AC/DC/AC変換方式という)、転流により発生する誤差電圧を予め計算して仮想インバータ12の出力電圧指令に加算することにより、仮想インバータ12によって転流誤差電圧を補償している。なお、図5において、S,Sは単方向スイッチを示す。
【0005】
【非特許文献1】大口英樹,伊東淳一,小太刀博和,佐藤以久也,小高章弘,江口直也,「マトリックスコンバータの電圧制御性向上に関する研究」,電気学会,半導体電力変換・産業電力電気応用合同研究会資料,SPC−03−135/IEA−03−47,2003年11月27日,p.7−13
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、本発明者は、非特許文献1と同様な仮想AC/DC/AC変換方式による交流直接変換器の制御方法として、特願2005−218756号に係る制御方法(以下、先願発明という)を提案している。
以下、この先願発明について略述する。
【0007】
図6は先願発明に係る制御装置の構成図である。
図6において、1は三相入力電流指令及び仮想直流中間電圧指令が与えられる仮想整流器制御手段、2は三相出力電圧指令が与えられる仮想インバータ制御手段、3は各制御手段1,2から出力されるPWMパルスを合成するパルス合成手段であり、この合成手段2から出力されたPWMパルスによってマトリクスコンバータ10の双方向スイッチをオンオフするように構成されている。なお、仮想整流器制御手段1は図5の仮想整流器11を制御し、仮想インバータ制御手段2は図5の仮想インバータ12を制御するためのものである。
【0008】
この先願発明では、三相出力電圧指令に応じた大きさの仮想直流中間電圧指令を仮想整流器制御手段1に入力し、この仮想直流中間電圧指令に従って、仮想整流器8から出力させる仮想直流中間電圧の大きさを積極的に制御する。そして、この仮想直流中間電圧を仮想インバータ制御手段2に入力し、三相出力電圧指令を補正してPWMパルスを作成している。
【0009】
すなわち、前述した非特許文献1に記載された制御方法では、電圧利用率を向上させる観点から、仮想整流器11により仮想直流中間電圧を理論的に得られる最大の電圧に制御する一方で、仮想インバータ12により出力電圧の大きさと周波数を制御しているのに対し、先願発明では、仮想整流器11により仮想直流中間電圧の大きさを積極的に制御している。
これにより、例えば三相入力電圧に比べて十分に低い電圧を仮想インバータ12から出力させる場合には、その三相出力電圧指令に応じて仮想直流中間電圧指令を積極的に低く設定することにより、低い仮想直流中間電圧を低い三相出力電圧に変換するようにして非特許文献1の制御方法よりも誤差電圧を低減することができる。
【0010】
しかしながら、上記先願発明の制御方法でも、双方向スイッチSWによる転流時には転流に伴う誤差電圧が発生する。その場合、非特許文献1と同様に、誤差電圧を予め計算して仮想インバータ12により出力電圧を補償しようとしても、原理的に補償できない場合があり、その結果、出力電圧の歪みを招くことになる。この出力電圧の歪みを低減するには出力電圧や出力電流が所望の値になるように出力電圧等を調整する高価なフィードバック制御装置を備える必要があり、これが装置全体の高価格化を招いていた。
【0011】
例えば、先願発明の制御方法を用いた場合には、以下に述べるように転流時の誤差電圧が発生する。
図7は、図3のマトリクスコンバータ10の出力側一相(例えばU相)分を符号10’として表した図である。図7において、三相交流電源電圧のうち最大相電圧Vmaxが印加される双方向スイッチをSmax、中間相電圧Vmidが印加される双方向スイッチをSmid、最小相電圧Vminが印加される双方向スイッチをSminとし、これらの双方向スイッチを構成する単方向スイッチをそれぞれ添字1,2を付して表すものとする。
なお、三相交流電源電圧の最大相、中間相、最小相はR,S,T相の間で時々刻々変化するので、例えば双方向スイッチSmaxはR,S,T相の何れにも接続され得る。
【0012】
いま、PWM制御のキャリア一周期の間に、電源側と出力端子Uとを接続する双方向スイッチがSmax→Smid→Smin→Smid→Smaxの順番で変化すると、転流によるオンオフタイミングの誤差により、数式1に示す誤差電圧が一周期中に発生する。
[数式1]
(Vmax−Vmin)×T×{−sign(i)}
但し、Tは転流時間、iは負荷電流である。
また、sign(i)は符号関数であり、i<0の時にsign(i)=−1、i=0の時にsign(i)=0、i>0の時にsign(i)=1である。
【0013】
図8は、上記の誤差電圧が発生する様子を示した図であり、負荷電流iの極性が正の時には実際の出力電圧が出力電圧指令よりも一部で減少し、負荷電流iの極性が負の時には実際の出力電圧が出力電圧指令よりも一部で増加して出力電圧の誤差が発生する。
【0014】
数式1の誤差電圧が1秒間にスイッチング回数(=1/キャリア周波数)だけ生じるので、1秒間では数式2の誤差電圧が生じることになる。
[数式2]
(Vmax−Vmin)×T×f×{−sign(i)}
但し、fはキャリア周波数である。
【0015】
この誤差電圧を補償するために、上記数式1,2により予め求めた誤差電圧を仮想インバータ12の出力電圧指令に加算して出力電圧を補償しようとしても、以下に述べるようにこれが不可能な場合がある。
例えば、先願発明では、仮想インバータ12の出力電圧のピーク値がE'〔V〕である正弦波電圧にするために、仮想整流器11により仮想直流中間電圧をE〔V〕に調整している。ここで、前記ピーク値E'〔V〕は、仮想直流中間電圧E〔V〕を用いて出力可能な最大の電圧である。
【0016】
しかし、仮想インバータ12が実際に出力する電圧のピーク値は、前述した転流誤差に起因してE'〔V〕を下回ることがある。
この場合、数式1,2により予め求めた誤差電圧を仮想インバータ12の出力電圧指令に加算すると、元の出力電圧指令が本来的に仮想直流中間電圧によって出力し得る最大の大きさの電圧指令であるため、誤差電圧加算後の出力電圧指令は、その時の仮想直流中間電圧を用いて出力可能な電圧範囲を超えることとなる。すなわち、仮想インバータの出力電圧指令が飽和してしまい、その結果、実際の出力電圧が歪むと共に、転流に起因する誤差電圧を補償できないという問題があった。
【0017】
そこで本発明の解決課題は、先願発明の如く仮想直流中間電圧を積極的に制御して出力電圧を所定値に制御するような制御方法において、転流に伴う誤差電圧を確実に補償して出力電圧の歪みを低減させ、しかも、高価なフィードバック制御装置を不要にした交流直接変換器の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、請求項1に記載した発明は、エネルギーバッファを用いずに双方向スイッチのオンオフによって多相交流電圧を任意の大きさ及び周波数を有する多相交流電圧に直接変換するために、前記直接変換器を、交流/直流変換を行う仮想整流器とこの仮想整流器の直流側に接続されて直流/交流変換を行う仮想インバータとの組み合わせとして想定し、前記仮想整流器の入力電流を入力電流指令に応じて制御するためのPWMパルスを仮想整流器制御手段により演算すると共に、前記仮想インバータの出力電圧を出力電圧指令に応じて制御するためのPWMパルスを仮想インバータ制御手段により演算し、前記仮想整流器制御手段及び仮想インバータ制御手段により演算された両PWMパルスを合成して前記双方向スイッチに与える交流直接変換器の制御方法であって、
前記出力電圧指令に応じた仮想直流中間電圧指令を前記仮想整流器制御手段に与えて、前記仮想整流器と仮想インバータとの間の仮想直流中間電圧の大きさを所定値に制御する制御方法において、
電源電圧検出値、負荷電流極性検出値、前記双方向スイッチ間の転流時間及びPWM制御のキャリア周波数から、前記双方向スイッチ間の転流による出力電圧の誤差電圧を計算する手段と、前記誤差電圧により仮想直流中間電圧指令を補正する手段と、を備え、
前記仮想整流器制御手段は、補正後の仮想直流中間電圧指令に従って前記出力電圧を飽和させない大きさの仮想直流中間電圧を出力し、
前記仮想インバータ制御手段は、この仮想直流中間電圧のもとで、前記誤差電圧を補償するようなPWMパルスを演算するものである。
【0019】
請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した交流直接変換器の制御方法において、
仮想直流中間電圧指令を補正する手段は、元の仮想直流中間電圧指令に前記誤差電圧の最大値を加算した結果を新たな仮想直流中間電圧指令として生成し、この仮想直流中間電圧指令を前記仮想整流器制御手段に与えるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、転流による誤差電圧を加算した仮想直流中間電圧に基づいて、仮想インバータ制御手段により上記誤差電圧を補償するように制御することにより、出力電圧の飽和を防止してその歪みを低減することができる。これにより、所望の出力電圧や出力電流を得るための高価なフィードバック制御装置を備える必要がなく、装置全体の低価格化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態が適用される制御回路の構成図であり、図6と同一の機能を有する構成要素には同一の参照符号を付して説明を省略し、以下では異なる部分を中心に説明する。
【0022】
図1において、4は三相負荷電流極性検出値、三相電源電圧検出値がそれぞれ各相ごとに入力され、かつ、双方向スイッチ間の転流時間及びPWM制御のキャリア周波数が入力される三相出力電圧誤差計算手段であり、この誤差計算手段4は、前述した数式2に基づいて転流による誤差電圧を各相ごとに計算し、仮想インバータ制御手段2に出力する。
一方、上記誤差電圧の最大値(最大誤差電圧)が加算手段5により元の仮想直流中間電圧指令に加算されて仮想直流中間電圧指令が補正され、補正後の仮想直流中間電圧指令が仮想整流器制御手段1に入力されている。
仮想整流器制御手段1では、仮想直流中間電圧指令に従って仮想直流中間電圧を出力すると共に、三相入力電流指令に応じた入力電流を流すように仮想整流器のPWMパルスを生成してパルス合成手段3に出力する。
【0023】
また、仮想インバータ制御手段2は、仮想整流器制御手段1から出力された仮想直流中間電圧のもとで、三相出力電圧指令に応じた電圧を出力するために、三相出力電圧誤差計算手段4により計算された誤算電圧を補償するような仮想インバータのPWMパルスを生成してパルス合成手段3に出力する。
パルス合成手段3では、仮想整流器のPWMパルス及び仮想インバータのPWMパルスを合成し、図3のマトリクスコンバータ10を構成する双方向スイッチSWに対するPWMパルスを生成して出力する。
【0024】
図2は、本実施形態と先願発明における、出力電圧の大きさと仮想直流中間電圧の大きさとの関係を示している。
本実施形態では、転流による最大電圧誤差を加算した仮想直流中間電圧指令に従って仮想整流器制御手段1が仮想直流中間電圧を出力し、仮想インバータ制御手段2では、上記仮想直流中間電圧に基づいて、誤差電圧を補償しながら三相出力電圧指令に応じた電圧を出力するように仮想インバータのPWMパルスを生成する。
【0025】
このため、図2から明らかなように、同一の仮想直流中間電圧に対する出力電圧は、仮想インバータにより誤差電圧補償を行わない先願発明に比べて低下することになる。従って、本実施形態により誤差電圧補償を行った場合に実際に出力される電圧は、誤差電圧補償を行わない場合の三相出力電圧指令以下になるので、三相出力電圧の飽和を未然に防止して出力電圧の歪みを低減することができる。
よって、出力電圧を調整するための高価なフィードバック制御装置が不要になり、装置全体の低価格化に寄与することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施形態を示す構成図である。
【図2】本発明の実施形態及び先願発明における、出力電圧の大きさと仮想直流中間電圧の大きさとの関係を示す図である。
【図3】マトリクスコンバータの主回路構成図である。
【図4】マトリクスコンバータの双方向スイッチの構成図である。
【図5】仮想AC/DC/AC変換方式による交流直接変換器の構成図である。
【図6】先願発明に係る制御装置の構成図である。
【図7】図3のマトリクスコンバータの出力側一相分を表した図である。
【図8】先願発明において、転流により誤差電圧が発生する様子を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1:仮想整流器制御手段
2:仮想インバータ制御手段
3:パルス合成手段
4:三相出力電圧誤差計算手段
5:加算手段
10:マトリクスコンバータ
10’:マトリクスコンバータ(出力側一相分)
20:三相交流電源
30:フィルタ
SW,Smax,Smid,Smin:双方向スイッチ
,S,Smax1,Smax2,Smid1,Smid2,Smin1,Smin2,S,S:単方向スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギーバッファを用いずに双方向スイッチのオンオフによって多相交流電圧を任意の大きさ及び周波数を有する多相交流電圧に直接変換するために、前記直接変換器を、交流/直流変換を行う仮想整流器とこの仮想整流器の直流側に接続されて直流/交流変換を行う仮想インバータとの組み合わせとして想定し、前記仮想整流器の入力電流を入力電流指令に応じて制御するためのPWMパルスを仮想整流器制御手段により演算すると共に、前記仮想インバータの出力電圧を出力電圧指令に応じて制御するためのPWMパルスを仮想インバータ制御手段により演算し、前記仮想整流器制御手段及び仮想インバータ制御手段により演算された両PWMパルスを合成して前記双方向スイッチに与える交流直接変換器の制御方法であって、
前記出力電圧指令に応じた仮想直流中間電圧指令を前記仮想整流器制御手段に与えて、前記仮想整流器と仮想インバータとの間の仮想直流中間電圧の大きさを所定値に制御する制御方法において、
電源電圧検出値、負荷電流極性検出値、前記双方向スイッチ間の転流時間及びPWM制御のキャリア周波数から、前記双方向スイッチ間の転流による出力電圧の誤差電圧を計算する手段と、
前記誤差電圧により仮想直流中間電圧指令を補正する手段と、
を備え、
前記仮想整流器制御手段は、補正後の仮想直流中間電圧指令に従って前記出力電圧を飽和させない大きさの仮想直流中間電圧を出力し、
前記仮想インバータ制御手段は、この仮想直流中間電圧のもとで、前記誤差電圧を補償するようなPWMパルスを演算することを特徴とする交流直接変換器の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載した交流直接変換器の制御方法において、
仮想直流中間電圧指令を補正する手段は、元の仮想直流中間電圧指令に前記誤差電圧の最大値を加算した結果を新たな仮想直流中間電圧指令として生成し、この仮想直流中間電圧指令を前記仮想整流器制御手段に与えることを特徴とする交流直接変換器の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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