説明

交流高電圧放射式除電装置

【課題】放射電極に対向する接地電極を備えることなく、正弦波交流高電圧を放射電極に印加して、該放射電極より交流電気力線を放射して、帯電物体を除電する交流高電圧放射式除電装置である。
【解決手段】微細径のカーボン繊維糸を高温で熱処理した熱処理カーボン繊維糸16を、筆状に密集集束して形成した1本の放射電極6、または前記筆状に密集集束して複数本間隔を有して形成した放射電極6に、正弦波交流高電圧を印加して、前記放射電極6に対向する接地電極を備えていない放射電極周辺に、それぞれプラスとマイナスに帯電した荷電粒子8を交互に、且つ等量生成して、該プラスとマイナスに帯電した荷電粒子8を送風ファン13による風力をキャリアとして帯電物体15に送風して、該帯電物体15を除電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電電極と接地(対向)電極を備えたコロナ放電式の除電器とは異なり、放射電極に対向する接地電極を備えることなく、正弦波交流高電圧を放射電極に印加して、該放射電極より交流電気力線を放射して、該放射電極周辺にプラスに帯電した荷電粒子とマイナスに帯電した荷電粒子とを交互に、且つ等量生成せしめると共に、該荷電粒子を送風ファンにより帯電物体へ送風して、該帯電物体を除電する交流高電圧放射式除電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、製造工場等において、静電気を帯びた物体の帯電を除去するには、放電電極と接地(対向)電極間に高電圧を印加し、コロナ放電を発生させて空気をイオン化して、これにより帯電物体を除電することが行われている。
【0003】
しかしながら、放電電極と接地電極間に高電圧を印加してコロナ放電に至ると、オゾンが大量に発生して、人体に対して有害である。
【0004】
また、コロナ放電により電磁波が発生し、帯電物体が半導体素子、または電子機器の場合は、電磁波により誤動作し、電磁波が強力な場合には、半導体素子、または電子機器が破壊されることがある。
【0005】
一方、接地電極を備えることなく交流高電圧を放電電極に印加することにより、該放電電極周辺にプラスイオンとマイナスイオンを生成せしめ、該イオンを送風ファンにより帯電物体へ送風して、該帯電物体を除電する交流電気力線放射式帯電除電器が、下記の特許文献1において開示されて公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−183350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に開示された除電器は、交流高電圧を放電電極に印加することにより、該放電電極周縁にプラスイオンとマイナスイオンを生成せしめ、該イオンを送風ファンにより帯電物体へ送風して、該帯電物体を除電する旨、記載されているが、該イオンが帯電物体へどのようなメカニズムで移動するのか詳細が不明で、然も接地電極を備えていないことから、該特許文献1の記載のみによっては、充分その除電効果を確認することができないという課題があった。
【0008】
更に、前記特許文献1に開示された除電器に使用する放電電極は、先の尖った電極針を使用しているために、イオンの生成量が少なく、また頻繁に該電極針を清掃したり、あるいは取換えなければならず、極めて不便であるという課題があった。
【0009】
本発明は、前記課題を解決すべくなされたものであって、5〜100μm程度の微細径のカーボン繊維糸を高温で熱処理した熱処理カーボン繊維糸を、少なくとも100本以上を筆状に密集集束して形成した1本の放射電極、または前記筆状に密集集束して複数本間隔を有して形成した放射電極に、正弦波交流高電圧を印加することにより、前記放射電極に対向する接地電極を備えていない放射電極周辺に、それぞれプラスとマイナスに帯電した荷電粒子を交互に、且つ等量生成して、該プラスとマイナスに帯電した荷電粒子を送風ファンによる風力をキャリアとして帯電物体に送風して、該帯電物体を除電するようにした交流高電圧放射式除電装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、5〜100μm程度の微細径のカーボン繊維糸を高温で熱処理した熱処理カーボン繊維糸を、少なくとも100本以上を筆状に密集集束して形成した1本の放射電極、または前記筆状に密集集束して複数本間隔を有して形成した放射電極に、正弦波交流高電圧を印加して、前記放射電極に対向する接地電極を備えていない放射電極周辺に、それぞれプラスとマイナスに帯電した荷電粒子を交互に、且つ等量生成して、該プラスとマイナスに帯電した荷電粒子を送風ファンによる風力をキャリアとして帯電物体に送風して、該帯電物体を除電するという手段を採用することにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、以上説明したような構成より成り、以下に記載したような効果を奏する。
【0012】
本発明除電器においては、プラスの極性を有する荷電粒子とマイナスの極性を有する荷電粒子とは、正弦波と同周期で等量であり、50Hzまたは60Hzでは、プラス極性とマイナス極性の荷電粒子が交互に発生するので、荷電中は前記荷電粒子が一定に連続して発生しているし、そのバランスが崩れることがなく、プラスとマイナスの電荷が荷電電圧に追従するので、供給電圧の上昇に伴ってイオン生成数も増加し、これにより除電効率が高めることができる。また、本発明交流電気力線除電器は、送風ファンからの風力をキャリアとする荷電粒子の移動方向に、帯電物体があれば、その帯電物体に前記荷電粒子が作用して除電作業を行うことができる。そして、帯電物体がプラスに帯電しておれば、マイナスに帯電した荷電粒子が作用し、また帯電物体がマイナスに帯電しておれば、プラスに帯電した荷電粒子が作用して、該帯電物体を中和して除電すると共に、前記帯電物体内でプラスとマイナス極性の帯電粒子をバランスして除電するので、逆帯電発生がなく、除電効果も良好であり、更にコロナ放電もないため、毒性のあるオゾンの発生もなく、交流電源のプラスとマイナスが周波数により自動的に変化するので、特別の音も発光もなく、非常に安定した除電器であり、また、電流が発生しないため、電源の電気量も電圧だけであって、トランスのコアの電気的ロスや送風のための電気代だけという優れた効果を奏する。
【0013】
また、本発明除電器において、使用する交流電源は、市販電力会社よりの送電であり、プラス極性とマイナス極性の電気量がほぼ等量で、時間と共に交互に変換し、且つ周波数も非常に安定した交流電源または同等に安定した交流発電装置等を使用し、これを変圧器を介し発生させた交流高電圧を放射電極より交流電気力線として放射し、プラス極性とマイナス極性の荷電粒子を生成せしめ、且つ該プラス極性とマイナス極性の荷電粒子を送風ファンの送風により、帯電物体に吹き付けて除電するので、何日でも安定した逆帯電発生のない除電ができる除電器を容易に製造することができる。
【0014】
更に、本発明除電器は、5〜100μm程度の微細径の熱処理カーボン繊維糸を、少なくとも100本以上を筆状に密集集束して形成した1本の放射電極、または前記筆状に密集集束して複数本間隔を有して形成した放射電極を使用しているので、該放射電極に交流高電圧が印加されると、前記放射電極を構成する各熱処理カーボン繊維糸が、静電気の作用で広がって扇状に拡開されるため、従来のコロナ式除電器で使用されている先の尖った1本の針状の電極よりも荷電粒子の生成効率がよく、従って除電時間も短縮できるという優れた効果を有する。
【0015】
また更に、本発明除電器においては、荷電粒子の噴き出し口の外壁面に電磁波を吸収する網目状の金網を接地して取付けることにより、電磁波による半導体素子、または電子機器の誤動作や、内部電気回路の絶縁破壊等が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】送風ファンを放射電極の上流側に設置した本発明除電器の全体を示す概略縦断面図である。
【図2】本発明除電器に使用する放射電極を取り付けた放射電極保持具の正面図である。
【図3】同縦断面図である。
【図4】本発明除電器における荷電粒子の生成状態を示す説明図である。
【図5】本発明除電器の除電効果をテストしたときの機器の配置図である。
【図6】送風ファンを放射電極の下流側に設置した本発明除電器の全体を示す概略縦断面図である。
【図7】送風ファンを放射電極の上流側と下流側に設置した本発明除電器の全体を示す概略縦断面図である。
【図8】本発明除電器に使用する他の実施例による放射電極を取り付けた放射電極保持具の正面図である。
【図9】同縦断面図である。
【実施例】
【0017】
従来汎用されている除電器がコロナ放電を利用してイオンを発生させて、放電電極と接地電極との間に配置された帯電物体を除電する放電式除電器であるのに対し、本発明交流高電圧放射式除電装置は、放射電極に対向する接地電極を不要として、放射電極より交流電気力線を放射して、該放射電極周辺に発生したプラスとマイナスに帯電した荷電粒子を、送風ファンによって帯電物体に送風して除電する放射式除電器である。以下本発明除電器につき詳細に説明する。
【0018】
本発明の実施例を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本発明除電器の全体を示す概略縦断面図であり、耐電性が高く、絶縁性に優れ、且つ耐重量性に優れた材質、特に限定する必要はないが、好ましくはポリカーボネートにより形成されたケーシング1内に、1次コイル2と2次コイル3を備えた変圧器4が設置され、且つ該変圧器4の低電圧側の1次コイル2には、前記ケーシング1外部に設けられた交流電源入力部5より商用周波数の正弦波交流電圧、例えば、50Hzまたは60Hzの100Vの正弦波交流電圧が入力される。
【0019】
前記変圧器4の高電圧側の2次コイル3の一方の極は、放射電極6に接続すると共に、該2次コイル3の他方の極は接地7されて、前記放射電極6に前記2次コイル3を介して正弦波交流高電圧を印加することにより、放射電極6に対向する接地電極を不要として、該放射電極6より電気力線を放射して荷電粒子8を生成することができるよう形成する。
【0020】
そして、前記ケーシング1の下流側壁面には、後述するプラスとマイナスに帯電した荷電粒子8を、送風をキャリアとして噴き出す噴き出し口9が開口され、且つ該噴き出し口9の下流側のケーシング1の外壁面には、前記噴き出し口9を被覆する金網10が配設されると共に、該金網10は接地7されている。
【0021】
前記放射電極6は、図1に示すように、筒状の絶縁体より成り、且つ下流側端部に前記ケーシング1の噴き出し口9に臨むように、送風開口11を備えた絶縁ケース12内に設置されると共に、前記放射電極6は、前記変圧器4の2次コイル3の一方の極に接続されている。
【0022】
更に、前記絶縁ケース12内に設置された放射電極6の上流側には送風ファン13が設置されており、絶縁ケース12の上流側端部に開口された通気開口14を介して、前記送風ファン13が前記ケーシング1内の空気を吸引し、該送風ファン13からの送風をキャリアとして、後述する前記放射電極6の周辺に生成されたプラスとマイナスに帯電した荷電粒子8を、送気開口11より噴き出し口9を経て下流側の帯電物体15方向へ送風できるよう形成されている。
【0023】
また、前記放射電極6は、図2・図3に示すように、特に限定する必要はないが、5〜100μm程度、好ましくは5〜50μm程度、特に好ましくは、5〜10μm程度の微細径のカーボン繊維糸を高温で熱処理して得られた、長さ20mm前後の熱処理カーボン繊維糸16を、少なくとも100本以上を密着集束して1本の筆状にして形成されている。なお、前記
微細径の熱処理カーボン繊維糸16は、従来広く市販されている微細径の熱処理カーボン繊維糸を使用することができる。
【0024】
前記構成より成る放射電極6は、図3に示すように、前記絶縁ケース12の径と略一致する長さの、プラスチック等の絶縁体より成る放射電極保持具17の中央長手方向に埋設された銅線18に、その基端部を接続して固定すると共に、該放射電極保持具17の一方側端部の前記銅線18に連結された接続端子19を介して、前記2次コイル3に接続され、更に前記各熱処理カーボン繊維糸16の各先方部側は、搖動自在なるように下流側へ延設して形成する一方、前記絶縁ケース12の内周壁面に、前記放射電極保持具17の両端を密接して固定されている。
【0025】
すなわち、本発明における放射電極6は、従来汎用されているコロナ放電式除電器に使用されているような、1本の先が尖った電極針で形成されるのではなく、5〜100μm程度の微細径のカーボン繊維糸より成る熱処理カーボン繊維糸16を、少なくとも100本以上を筆状に密集集束して形成され、前記放射電極6を構成する各熱処理カーボン繊維糸16がそれぞれ個々に電極の役目を果たしている。
【0026】
なお、本発明において、前記微細径のカーボン繊維糸より成る熱処理カーボン繊維糸16を放射電極6として使用するのは、以下に記載した理由による。従来使用されている電極針(金属)と本発明に使用する前記熱処理カーボン繊維糸とを比較した結果、電極針は、腐食、あるいは放電による針先端部の溶解、更には前記溶解に基づく針先の形状変化、有毒ガス等の発生、塵埃の吸着による汚れ等により除電能力の低下が認められる。これに対して、本発明のように、放射電極に熱処理カーボン繊維糸を使用することにより、前記電極針におけるような障害を改善することができる。すなわち、本発明において使用する熱処理カーボン繊維糸は、カーボンを素材としているため、腐食することがなく、仮に放電した場合でも、熱処理カーボン繊維糸の太さが一定であるので、放電面積の変化がなく、また溶解せず燃焼するので、燃焼によるガス化(CO)によって粉塵としての残留物もない。更に、交流印加電圧による静電気の作用で、前記熱処理カーボン繊維糸が振動するので、粉塵の付着もなく、従って、除電能力の劣化もなく、安定した除電作用を確保することができる。そして、前記電極針のように、掃除したり、あるいは交換等のメンテナンスが不要であると共に、放電がないのでオゾン(O)等、有毒ガスの発生がない。以上のように、従来使用されている電極針よりも熱処理カーボン繊維糸の方が、電極として優れているので、本発明においては、熱処理カーボン繊維糸を放射電極として採用した。
【0027】
前記構成より成る本発明の実施例の作用について説明する。前記放射電極6に正弦波交流高電圧を印加することにより、該放射電極6より電気力線が放射されると共に、前記放射電極6の周辺部に荷電粒子8が生成される。印加する高電圧は、プラス極とマイナス極によって、荷電粒子8もまたプラス極とマイナス極の極性を示す。荷電粒子8の生成量は、直流電圧の時は0Vから印加電圧最高値に達する時間に生成され、電圧が一定値(サチュレート)になると、荷電粒子8の生成は停止する。最大限荷電粒子8を生成させるときは、交流高電圧を使用することにより、高電圧から荷電粒子8にエネルギーを変換することができるので、本発明除電器においては、前記正弦波交流高電圧を使用する。
【0028】
前記生成された荷電粒子8は空気中に混在して浮遊する一方、該荷電粒子8によって荷電粒子の電場ができる。しかしながら、この電場は動電気の特性はない。電気的には、交流電圧から直流電圧に変換されたことになり、プラスに帯電した荷電粒子8とマイナスに帯電した荷電粒子8とが存在することになる。そして、本発明においては、印加電圧として正弦波交流高電圧を使用するので、プラスに帯電した荷電粒子8とマイナスに帯電した荷電粒子8の生成量は等量となる。
【0029】
前記生成された荷電粒子8は、空気中に浮遊している状態であり、送風ファン13の送風により、空気を移動させることによって、荷電粒子8も空気の移動方向へ移動する。空気の移動方向に接地された、例えば、電磁波カット用の金網10等の金属が存在しても、後述するように影響は受けない。すなわち、前記送風ファン13による風力が、前記生成された荷電粒子8のキャリアとなる。
【0030】
そして、前記キャリアによる荷電粒子8の移動方向に、帯電物体15があれば、その帯電物体15に前記荷電粒子8が作用して除電作業を行う。帯電物体15がプラスに帯電しておれば、マイナスに帯電した荷電粒子8が作用し、また帯電物体15がマイナスに帯電しておれば、プラスに帯電した荷電粒子8が作用して、該帯電物体15を中和して除電する。そして、前記帯電物体15の静電エネルギ―が消滅するまで、除電作業が行われる。これに要する時間が除電時間である。
【0031】
すなわち、本発明において、前記構成より成る放射電極6に正弦波交流高電圧が印加されると、該放射電極6を構成する各熱処理カーボン繊維糸16は、前記各熱処理カーボン繊維糸16の先方部が、プラスとマイナスに帯電する度ごとに静電気の作用で反発して、互いに吸引されることなく、図3に示すように、扇状に常に広がりバラバラの状態となって、該各熱処理カーボン繊維糸16の各先端断端縁より電気力線が放射されると共に、前記放射された電気力線によって、図4に示すように、前記放射電極6の周辺に、プラスに帯電した荷電粒子8とマイナスに帯電した荷電粒子8が交互に、且つ等量生成される。従って、前記放射電極6を構成する各熱処理カーボン繊維糸16が、広がって扇状に拡開されているので、荷電粒子8の生成効率が1本の針状の電極よりも優れており、その結果除電時間が短縮できる。
【0032】
前記放射電極6に前記2次コイル3を介して正弦波交流高電圧を印加すると、該放射電極6を構成する各熱処理カーボン繊維糸16の各先端断端縁より電気力線が放射されると共に、前記絶縁ケース12内の空気は、前記放射した交流電気力線の極性に帯電し、前記各熱処理カーボン繊維糸16の各先端断端縁近傍において、プラスに帯電した荷電粒子8とマイナスに帯電した荷電粒子8とが交互に、且つ等量生成され、他の電気抵抗無限大の空気が帯電した空気の全面に静電気的に吸着した電場が発生し、この電場を送風ファン13により発生した風力をキャリアとして、帯電物体15に送風し、該帯電物体15を除電するのである。
【0033】
前記放射電極6を構成する各熱処理カーボン繊維糸16の各先端断端縁と、これに接近している接地された部品との間隔は、高電圧の5倍以上の高電圧を印加しても放電が発生しない広い間隔に設定することにより、放電電流は発生せず、コロナ放電も発生しない。従って、放電電流による毒性のあるオゾンの発生もなく、安全である。また、本発明除電器は、電気力線の放射であって、放電電流がないので、ジュール熱(W=I2 R=VI)が発生せず、更にガス等に火が着火しないので安全である。
【0034】
なお、前記金網10は、電磁気的な障害防止と物理的な安全性を確保することを目的として設置されたものであり、該金網10は接地7されているが、前記金網10はコロナ放電式除電器におけるような接地電極とはならない。このことは、後述するテストによって実証した。
【0035】
すなわち、具体的には、接地した金網10が、放射電極6から電気力線放射時に発生する電磁波を吸収し除去するので、電磁波による半導体素子、または電子機器の誤動作、あるいは破壊を防止すると共に、人体の一部が誤って金網10に接触しても電撃が発生せず、また前記絶縁ケース12内に異物が侵入することがなく、事故が発生することを防止することができる。
【0036】
本発明者は、前記接地7されている金網10が、コロナ放電式除電器におけるような接地電極として作用しないことを確認するため、本発明除電器から前記金網10を取外しても除電効果が認められるか否かをテストしたところ、除電効果が認められた。すなわち、本発明除電器においては、金網10の有無は除電効果に全く関係がなく、該金網10は、コロナ放電式除電器におけるような接地電極としては作用していないことを確認することができた。なお、本発明者は、前記テストの対照とするため、金網10を備えた本発明除電器の除電効果の比較テストも合わせて実施した。
【0037】
前記各テストは、図5に示すように、機器を配置して行った。[テスト1]は、金網を備えた本発明除電器を使用した場合の機器の配置図であり、[テスト2]は、本発明除電器から金網を取外した場合の機器の配置図である。なお、テスト条件は、下記の通りである。
テスト日 平成21年9月26日(気温 26℃ 湿度 55%)
電極 7μmの熱処理カーボン繊維糸3000本を1本の筆状に形成したものを使用
帯電物体 ポリエチレン丸棒 80φ 300mm
イオン測定器 199万個/cmまで測定可能
[テスト1]の空気噴き出し口における
風速は、4.9m/sec 風量は、290m/min
[テスト2]の空気噴き出し口における
風速は、4.6m/sec 風量は、285m/min
表1中の風速および風量は、帯電物体の位置で測定した。
また、表1中の各テスト結果の最下段の「L0.5m」の測定は、送風ファンを停止して測定した。更に、表1中の各テスト結果の「イオン数」における「スケールアウト」という表示は、イオン数が199万個以上で測定不能であるという意味である。
【0038】
【表1】

【0039】
前記表1の測定結果から、除電器の金網を取り外して行ったテスト結果は、除電に要する時間が、除電器と帯電物体との距離が、0.5mの場合のみ、0.1秒多くかかったが、その距離が0.75m、1.0m、1.5m、2.0mの場合はいずれも、より短時間で除電され、除電のみの機能からみると、金網がない方が高率的であることが実証された。
【0040】
前記テスト1およびテスト2の測定結果から対比すると、金網は放射電極の対向電極となる接地電極として機能していないことが明らかとなった。
【0041】
また、前記表1の各テストの結果の最下段の「L0.5m」の測定結果から、テスト1およびテスト2とも、送風ファンを停止して、風速・風量をゼロにした場合、プラスイオンが僅かに移動しただけで、除電効果は全くないことが確認された。また、等量の風力を印加した場合、距離Lが長くなると、帯電物体に到達するイオン数値が減少し、除電時間が長くなることも確認できた。以上のことから、放射電極周辺で発生したイオンは、自力では移動せず、風力によって他動的に移動することによってのみ、初めて除電されることが実証された。
【0042】
すなわち、コロナ放電式の除電器であれば、前記本発明除電器におけるような送風ファンがなくても除電することができるが、前記テストのように、送風ファンによる送風がない限り、帯電物体の除電ができないということは、本発明除電器が、コロナ放電式の除電器のように、放電を利用した除電器ではなく、電気力線の放射により生成された荷電粒子を利用した除電器であることを確認できた。
【0043】
本来、物体はプラスの電荷とマイナスの電荷を等量有し、これが均一に分布しているために電気的には中性である。しかし、そのバランスが崩れて、プラスまたはマイナスの電荷が過剰になると、その物体は静電気が帯電し帯電物体となる。換言すれば、帯電物体は、プラスまたはマイナスの電荷が過剰になり、不均一な状態になったものである。除電は、この過剰な電荷を逆極性の電荷で中和し、もとの状態に近い電気的中性に戻すことである。すなわち、プラスの電荷が過剰なものへは、マイナスの電荷を供給することによって、あるいは、その逆によって、帯電物体の電荷を中和することである。
【0044】
本発明除電器においては、プラスの極性を有する荷電粒子とマイナスの極性を有する荷電粒子とは、正弦波(サインウェブ)の同型で等量であり、50Hzまたは60Hzでは、プラス極性の荷電粒子とマイナス極性の荷電粒子とが交互に発生するので、荷電中は前記荷電粒子が一定に連続して発生し、そのバランスが崩れることがなく、プラスとマイナスの電荷が荷電電圧に追従するので、供給電圧の上昇に伴ってイオンの生成数も増加し、これにより除電効率を高めることができる。また、本発明交流電気力線除電器は、コロナ放電もないため、電磁波または毒性のあるオゾンの発生もなく、交流電源のプラスとマイナスが周波数により自動的に変化するので、特別の音も発光もなく、非常に安定した除電器である。更に、本発明交流電気力線除電器は、電流が発生しないため、電源の電気量も電圧だけであって、トランスのコアの電気的ロスや送風のための電気代だけである。
【0045】
本発明除電器は、正弦波交流高電圧を放射電極6に印加して電気力線を空間に放射し、プラス極性とマイナス極性の荷電粒子8を生成し、これに別の電気抵抗無限大の空気が静電的に包囲した電場を作り、これを送風ファン13の風力で目的の帯電物体15に送風し除電するので、放電電流が不要であり、ジュール熱(W=I2 R=VI)の電圧Vのみを使用し、電流Iがなく、ジュール熱が発生せず、ガス等には着火することがないので安全であり、またコロナ放電による除電ではないので、毒性のあるオゾンの発生がなく衛生上安全である。
【0046】
空気中の除電において、送風機13は交流電気力線のプラスとマイナス極性の質量が等量で、交互に変換するのと同一の作用で、空気をプラス極性とマイナス極性のバランスした荷電粒子8としたものを、帯電物体15に送風して除電するので、該帯電物体15の極性によって、前記荷電粒子8が吸引されるか、反発されるかのいずれかの繰返しで除電作業が行われるため、コロナ放電式除電器と異なり、逆帯電の発生がなく、帯電物体15の帯電を除電することができる。なお、前記送風ファン13によって送風される荷電粒子8の数が多いと除電処理時間が速い。
【0047】
前記除電時において、荷電粒子8の噴き出し口9から帯電物体15までの距離が、60cm位の時は、図1に示すように、放射電極6の上流側に送風ファン13を設置することが推奨される。また、荷電粒子8の噴き出し口9から帯電物体15までの距離が、1m位の時は、図6に示すように、放射電極6の下流側に送風ファン13を設置することが推奨される。更に、荷電粒子8の噴き出し口9から帯電物体15までの距離を、最大にする時は、図7に示すように、放射電極6の上・下流側の両方に送風ファン13をそれぞれ設置することが推奨される。
【0048】
交流電源5のプラス極性とマイナス極性の質量が、ほぼ等量で、1秒間50回、または60回交互に変換するAC100Vの市販電力会社より送電の交流電源5、または前記以外の周波数のときは、同等に安定した交流発電装置を使用して、変圧器4を介し高電圧にすることにより、放射電極6より放射される交流電気力線は、非常に安定している。
【0049】
そして、電磁波による半導体、電子機器の誤動作を生ずる虞れのない現場において使用する場合、図示していないが、前記金網10に代えて網状に形成された合成樹脂製の網状部材を用いてもよい。当然、この場合接地は不要である。
【0050】
図8は、放射電極6の他の実施例を示す正面図、図9は同縦断面図である。前記図1〜図3に示す放射電極が、少なくとも100本以上の熱処理カーボン繊維糸16を筆状に1本密集集束して形成されているのに対し、図8・図9に示す放射電極6は、少なくとも100本以上の熱処理カーボン繊維糸16を筆状に密集集束して複数本間隔を有して形成されている。前記他の実施例における放射電極6における荷電粒子の生成および除電のメカニズムは、前記図1〜図3に示す放射電極6と同じであるので、その説明は省略する。
【0051】
そして、前記複数本形成されている放射電極は、前記1本の放電電極の場合と異なり、電気力線の放射面積が広いので、生成される荷電粒子も多くなり、除電効率が高い。
【符号の説明】
【0052】
1 ケーシング
2 1次コイル
3 2次コイル
4 変圧器
5 交流電源入力部
6 放射電極
7 接地
8 荷電粒子
9 噴き出し口
10 金網
11 送風開口
12 絶縁ケース
13 送風ファン
14 通気開口
15 帯電物体
16 熱処理カーボン繊維糸
17 放射電極保持具
18 銅線
19 接続端子


【特許請求の範囲】
【請求項1】
5〜100μm程度の微細径のカーボン繊維糸を高温で熱処理した熱処理カーボン繊維糸を、少なくとも100本以上を筆状に密集集束して形成した1本の放射電極、または前記筆状に密集集束して複数本間隔を有して形成した放射電極に、正弦波交流高電圧を印加して、前記放射電極に対向する接地電極を備えていない放射電極周辺に、それぞれプラスとマイナスに帯電した荷電粒子を交互に、且つ等量生成して、該プラスとマイナスに帯電した荷電粒子を送風ファンによる風力をキャリアとして帯電物体に送風して、該帯電物体を除電することを特徴とする交流高電圧放射式除電装置。
【請求項2】
ケーシング内に、1次コイルと2次コイルを備えた変圧器が設置され、且つ該変圧器の低電圧側の1次コイルには、前記ケーシング外部に設けられた交流電源入力部より商用周波数の正弦波交流電圧が入力され、且つ前記変圧器の高電圧側の2次コイルの一方の極は、放射電極に接続すると共に、該2次コイルの他方の極は接地され、前記放射電極に、前記2次コイルを介して正弦波交流高電圧を印加して、該放射電極に対向する接地電極を備えることなく、前記放射電極より交流電気力線を放射して、該放射電極周辺にプラスに帯電した荷電粒子とマイナスに帯電した荷電粒子とを交互に、且つ等量生成せしめると共に、前記ケーシングの下流側壁面には、前記荷電粒子を、送風ファンよりの風力をキャリアとして噴き出す噴き出し口が開口され、且つ該噴き出し口の下流側のケーシングの外壁面には、前記噴き出し口を被覆する金網が接地されて配置され、更に、前記放射電極は、下流側端部に前記ケーシングの噴き出し口に臨むように、送風開口を備えた絶縁ケース内に設置されると共に、該放射電極は、微細カーボン繊維糸を高温で熱処理した熱処理カーボン繊維糸を、少なくとも100本以上を密集集束して1本筆状に形成され、且つその基端部を絶縁体より成る放射電極保持具に埋設された銅線に接続して形成されると共に、前記熱処理カーボン繊維糸の先方部側は下流側へ延設して搖動自在になるよう形成したことを特徴とする交流高電圧放射式除電装置。
【請求項3】
ケーシング内に、1次コイルと2次コイルを備えた変圧器が設置され、且つ該変圧器の低電圧側の1次コイルには、前記ケーシング外部に設けられた交流電源入力部より商用周波数の正弦波交流電圧が入力され、且つ前記変圧器の高電圧側の2次コイルの一方の極は、放射電極に接続すると共に、該2次コイルの他方の極は接地され、前記放射電極に、前記2次コイルを介して正弦波交流高電圧を印加して、該放射電極に対向する接地電極を備えることなく、前記放射電極より交流電気力線を放射して、該放射電極周辺にプラスに帯電した荷電粒子とマイナスに帯電した荷電粒子とを交互に、且つ等量生成せしめると共に、前記ケーシングの下流側壁面には、前記荷電粒子を、送風ファンよりの送風をキャリアとして噴き出す噴き出し口が開口され、且つ該噴き出し口の下流側のケーシングの外壁面には、前記噴き出し口を被覆する金網が接地されて配置され、更に、前記放射電極は、下流側端部に前記ケーシングの噴き出し口に臨むように、送風開口を備えた絶縁ケース内に設置され、更に前記放射電極は、微細カーボン繊維糸を高温で熱処理した熱処理カーボン繊維糸を、少なくとも100本以上を密集集束して複数本筆状に形成され、且つその各基端部を間隔を有して絶縁体より成る放射電極保持具に埋設された銅線に接続して形成されると共に、前記熱処理カーボン繊維糸の先方部側は下流側へ延設して搖動自在になるよう形成したことを特徴とする交流高電圧放射式除電装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3記載の金網に代えて、絶縁性の合成樹脂製の網状材を使用したことを特徴とする交流高電圧放射式除電装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項3記載のいずれかに記載の送風ファンが、放射電極の上流側に設置されたことを特徴とする交流高電圧放射式除電装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項3記載のいずれかに記載の送風ファンが、放射電極の下流側に設置されたことを特徴とする交流高電圧放射式除電装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項3記載のいずれかに記載の送風ファンが、放射電極の上流側と下流側に設置されたことを特徴とする交流高電圧放射式除電装置。










【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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