説明

交通情報推定システム、境界用交通情報推定装置、分割領域用交通情報推定装置、コンピュータプログラム、交通情報推定方法、境界用交通情報推定方法、及び分割領域用交通情報推定方法

【課題】広範な領域で交通情報の推定を適切に行う。
【解決手段】 複数の道路リンクが含まれる領域における前記道路リンクの交通情報を、前記領域に含まれる他の道路リンクの交通情報に基づいて推定可能な交通情報推定システムSである。このシステムSは、前記領域を複数に分割した各分割領域に含まれる推定対象の道路リンクの交通情報の推定を、当該推定対象の道路リンクが含まれる分割領域以外の他の分割領域に含まれる他の道路リンクの交通情報を用いずに、当該推定対象の道路リンクが含まれる分割領域と同一の分割領域に含まれる他の道路リンクの交通情報を用いて行う分割領域用推定部11を備えている。また、前記領域に含まれる道路リンクのうち前記分割領域の境界又は境界付近に位置している境界道路リンクの交通情報を、他の分割領域における境界道路リンクの交通情報を用いて、推定する境界用推定部11Aも備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通情報推定システム、境界用交通情報推定装置、分割領域用交通情報推定装置、コンピュータプログラム、交通情報推定方法、境界用交通情報推定方法、及び分割領域用交通情報推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
道路の交通情報をドライバーに提供する技術として、財団法人道路交通情報通信システムセンターによるVICS(Vehicle Information and Communication System:なお、「VICS」は上記財団法人の登録商標)が広く知られている。
このVICSは、各種の路側センサ(車両感知器やループコイル等)から収集した車両台数や車両速度等よりなる定点観測情報に基づいて、各路線での渋滞やリンク旅行時間を含む交通情報を集計し、その交通情報を、ビーコンによる狭域通信やFM放送等の広域通信によってドライバーに提供するものである。
【0003】
また、道路の交通情報をドライバーに提供する他の技術として、プローブカーを利用した交通情報推定システム(以下、プローブシステムという。)も知られている。
このプローブシステムは、例えば特許文献1および2に示すように、実際に道路を走行する車両(プローブ車両)を移動体センサとして利用するもので、現時点の車両位置や時刻などのプローブ情報を無線通信によって各プローブ車両から収集し、道路の交通情報を生成するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−151496号公報
【特許文献2】特開2005−4467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記VICS情報は、路側センサが設置された主要幹線道路などの一部の道路に関してしか得られない。
一方、プローブシステムでは、実際に道路を走行する車両(プローブ車両)を移動体センサとして利用するため、路側センサが設置されていない道路に関しても、交通情報を取得することが可能となる。
【0006】
しかし、現状では、プローブカーの台数は、非常に少なく、VICS及びプローブシステムのいずれからもデータが得られていない道路リンクについては、交通情報を得ることができない。
【0007】
そこで、(VICS及び)プローブシステムからデータが得られていない道路リンクについては、別の道路リンクの交通情報に基づいて、交通情報を推定することが考えられる。例えば、ある道路リンクの交通情報は、当該道路リンクに接続している道路リンク又はその他関連のある道路リンクにおける交通情報との相関が認められる。このような相関関係を利用すれば、別の道路リンクの交通情報を用いて、推定対象となる道路リンクの交通情報を補完することができる。
【0008】
しかし、上記のような推定を、非常に広範な領域で行おうとすると、推定の必要な道路リンクの数が非常に多くなり、推定の演算負荷が増大する。
このため、領域を複数に分割した分割領域を設定し、分割領域毎に交通情報の推定を行うことが考えられる。この場合、比較的狭い分割領域毎に推定の演算を行うことが可能であるため、処理を分散化するのが容易となる。
【0009】
ところが、分割領域毎に交通情報の推定を行う場合、分割領域の境界付近における道路リンクは、他の分割領域の道路リンクとの相関が高い場合があるにもかかわらず、当該他の分割領域の道路リンクの交通情報を考慮できない、という事態が生じる。このため、分割領域の境界付近の推定精度が低下する。
【0010】
そこで、本発明は、広範な領域で交通情報の推定を適切に行うための新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明は、複数の道路リンクが含まれる領域における前記道路リンクの交通情報を、前記領域に含まれる他の道路リンクの交通情報に基づいて推定可能な交通情報推定システムであって、前記領域を複数に分割した各分割領域に含まれる推定対象の道路リンクの交通情報の推定を、当該推定対象の道路リンクが含まれる分割領域以外の他の分割領域に含まれる他の道路リンクの交通情報を用いずに、当該推定対象の道路リンクが含まれる分割領域と同一の分割領域に含まれる他の道路リンクの交通情報を用いて行う分割領域用推定部と、前記領域に含まれる道路リンクのうち前記分割領域の境界又は境界付近に位置している境界道路リンクの交通情報を、他の分割領域における境界道路リンクの交通情報を用いて、推定する境界用推定部と、を備えていることを特徴とする交通情報推定システムである。
【0012】
上記本発明によれば、分割領域毎に道路リンクの交通情報の推定を行えるため、処理の分散化が可能である。しかも分割領域の境界又は境界付近に位置している境界道路リンクの交通情報を、他の分割領域における境界道路リンクの交通情報を用いて推定する境界用推定部を備えているため、境界道路リンクにおける交通情報の推定精度低下を防止できる。
【0013】
(2)前記境界用推定部は、他の分割領域における境界道路リンクの交通情報を、前記分割領域用推定部から取得するのが好ましい。この場合、分割領域用推定部によって推定された境界道路リンクの交通情報を用いて、境界道路リンクの推定を行うことができる。
【0014】
(3)前記境界用推定部は、他の分割領域に含まれる境界道路リンクの交通情報を用いて交通情報を推定する境界道路リンクを、交通情報の実測値が得られた道路リンクから当該境界道路リンクまでの推定上の距離に基づいて抽出することができる。これによって、分割領域毎に交通情報の推定を行う場合でも、他の分割領域に含まれる道路リンクの交通情報の実測値を適切に活用して、分割領域の境界付近の推定精度が低下するのを抑制することができる。
【0015】
(4)境界用推定部によって推定対象となり得る境界道路リンクにおける実測値に基づく交通情報と、当該推定対象となり得る境界道路リンクの交通情報を推定するために用いられる前記他の分割領域における境界道路リンクの交通情報との組み合わせを境界学習用データとして蓄積し、蓄積された境界学習用データを用いて、当該推定対象となり得る境界道路リンクの交通情報を推定するための推定パラメータを最適化する境界用学習部を更に備えているのが好ましい。この場合、境界道路リンクの交通情報を推定するための推定パラメータを最適化することができる。
【0016】
(5)分割領域用推定部によって推定対象となり得る道路リンクにおける実測値に基づく交通情報と、当該推定対象となり得る道路リンクの交通情報を推定するために用いられる前記他の道路リンクの交通情報との組み合わせを分割領域学習用データとして蓄積し、蓄積された分割領域学習用データを用いて、当該推定対象となり得る道路リンクの交通情報を推定するための推定パラメータを最適化する分割領域用学習部を更に備えているのが好ましい。この場合、分割領域において道路リンクの交通情報を推定するための推定パラメータを最適化することができる。
【0017】
(6)他の観点からみた本発明は、複数の道路リンクが含まれる領域における前記道路リンクの交通情報を、前記領域を複数に分割した分割領域毎に推定する交通情報推定システムに用いられる境界用交通情報推定装置であって、前記領域に含まれる道路リンクのうち前記分割領域の境界又は境界付近に位置している境界道路リンクの交通情報を、他の分割領域における境界道路リンクの交通情報を用いて、推定する境界用推定部を備えていることを特徴とする境界用交通情報推定装置である。
【0018】
(7)更に他の観点から見た本発明は、複数の道路リンクが含まれる領域における前記道路リンクの交通情報を、前記領域を複数に分割した分割領域毎に推定する交通情報推定システムに用いられる分割領域用交通情報推定装置であって、一の分割領域に含まれる推定対象の道路リンクの交通情報の推定を、他の分割領域に含まれる他の道路リンクの交通情報を用いずに、当該一の分割領域に含まれる他の道路リンクの交通情報を用いて行う分割領域用推定部を備え、前記分割領域用推定部は、前記一の分割領域の境界又は境界付近に位置している境界道路リンクの交通情報を、他の分割領域における境界道路リンクの交通情報を推定するための境界用推定部に与えるよう構成されていることを特徴とする分割領域用交通情報推定装置である。
【0019】
(8)更に他の観点から見た本発明は、コンピュータを、前記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の交通情報推定システムとして機能させるためのコンピュータプログラムである。
【0020】
(9)更に他の観点からみた本発明は、コンピュータを、前記(6)記載の境界用交通情報推定装置として機能させるためのコンピュータプログラムである。
【0021】
(10)更に他の観点から見た本発明は、コンピュータを、前記(7)記載の分割領域用交通情報推定装置として機能させるためのコンピュータプログラムである。
【0022】
(11)更に他の観点から見た本発明は、複数の道路リンクが含まれる領域における前記道路リンクの交通情報を、前記領域に含まれる他の道路リンクの交通情報に基づいて推定する交通情報推定方法であって、前記領域を複数に分割した各分割領域に含まれる推定対象の道路リンクの交通情報の推定を、当該推定対象の道路リンクが含まれる分割領域以外の他の分割領域に含まれる他の道路リンクの交通情報を用いずに、当該推定対象の道路リンクが含まれる分割領域と同一の分割領域に含まれる他の道路リンクの交通情報を用いて行う分割領域用推定ステップと、前記領域に含まれる道路リンクのうち前記分割領域の境界又は境界付近に位置する境界道路リンクの交通情報を、他の分割領域における境界道路リンクの交通情報を用いて、推定する境界用推定ステップと、を含むことを特徴とする交通情報推定方法である。
【0023】
(12)更に他の観点から見た本発明は、複数の道路リンクが含まれる領域における前記道路リンクの交通情報を、前記領域を複数に分割した分割領域毎に推定する交通情報推定システムにおける境界用交通情報推定方法であって、前記領域に含まれる道路リンクのうち前記分割領域の境界又は境界付近に位置する境界道路リンクの交通情報を、他の分割領域における境界道路リンクの交通情報を用いて、推定する境界用推定ステップを含むことを特徴とする境界用交通情報推定方法である。
【0024】
(13)更に他の観点からみた本発明は、複数の道路リンクが含まれる領域における前記道路リンクの交通情報を、前記領域を複数に分割した分割領域毎に推定する交通情報推定システムにおける分割領域用交通情報推定方法であって、一の分割領域に含まれる推定対象の道路リンクの交通情報の推定を、他の分割領域に含まれる他の道路リンクの交通情報を用いずに、当該一の分割領域に含まれる他の道路リンクの交通情報を用いて行うステップと、前記一の分割領域の境界又は境界付近に位置する境界道路リンクの交通情報を、他の分割領域における境界道路リンクの交通情報の推定において利用可能とするステップと、を含むことを特徴とする分割領域用交通情報推定方法である。
【発明の効果】
【0025】
上記本発明によれば、広範な領域で交通情報の推定を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】交通情報システムの全体構成図である。
【図2】対象領域を複数の分割領域に分割した状態を示す図である。
【図3】交通情報推定システムの全体構成図である。
【図4】交通情報推定システムの推定/学習処理の手順を示すフローチャートである。
【図5】分割領域用交通情報推定装置の全体構成図である。
【図6】入力情報処理部の構成図である。
【図7】変換情報を示す図である。
【図8】分割領域における交通情報推定処理手順を示すフローチャートである。
【図9】ニューラルネットワークの構成図である。
【図10】一の分割領域における道路リンクの例を示す図である。
【図11】分割領域推定データベースの初期状態を示す図である。
【図12】分割領域重みデータベースの初期状態を示す図である。
【図13】入力情報として取得したVICS情報及びプローブ情報を示す図である。
【図14】1回目の更新後の分割領域推定データベースを示す図である。
【図15】2回目の更新後の分割領域推定データベースを示す図である。
【図16】3回目の更新後の分割領域推定データベースを示す図である。
【図17】スナップショットとして抽出される部分を示す図である。
【図18】分割領域学習用データベースを示す図である。
【図19】学習処理を示すフローチャートである。
【図20】対象領域のうちの境界領域に含まれる境界道路リンクを示す図である。
【図21】境界用交通情報推定装置の全体構成を示す図である。
【図22】分割領域用交通情報推定装置から取得した速度情報がセットされた境界推定データベースを示す図である。
【図23】境界重みデータベースの初期状態を示す図である。
【図24】境界推定データベースを示す図である。
【図25】境界推定データベースを示す図である。
【図26】境界推定データベースを示す図である。
【図27】境界推定データベースを示す図である。
【図28】境界推定データベースを示す図である。
【図29】境界推定データベースを示す図である。
【図30】境界推定データベースを示す図である。
【図31】境界推定データベースを示す図である。
【図32】二次推定完了後の境界推定データベースを示す図である。
【図33】学習後の境界重みデータベースを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
[1.全体構成]
図1は、交通情報推定システム1を有する交通情報システムを示している。この交通情報システムは、交通情報推定システム1のほか、車載装置2を搭載したプローブ車両3、車載装置2と無線通信する路側通信機4、及び路側センサ5などを含む。
【0028】
前記交通情報推定システム1は、VICS情報及びプローブ情報などの交通情報(観測情報)を取得し、車両に提供するための提供用の交通情報を生成する機能を有している。なお、交通情報推定システム1は、交通情報に基づいて、信号機制御や交通管制などの各種の交通用処理を行う交通管制システムの一部として構成することもできる。
【0029】
この交通情報推定システム1は、処理装置(CPU)及び記憶装置を有するコンピュータによって構成されている。このシステム1は、複数のコンピュータによって構成されるのが好ましいが、1台のコンピュータによって構成されていてもよい。1又は複数のコンピュータの記憶装置には、当該コンピュータを、交通情報推定システムとして機能させるためのコンピュータプログラムが記憶されている。このコンピュータプログラムは、前記処理装置によって実行され、前記処理装置が前記記憶装置等に対し入出力を行うことで、交通情報推定システム1としての機能を実現する。なお、以下に説明する交通情報推定システム1の機能は、特に断らない限り、前記コンピュータプログラムによって実現されるものである。
【0030】
前記車載装置2は、プローブ車両3の観測情報としてプローブ情報を生成し、路側通信機4に無線送信する。プローブ情報は、プローブ車両の位置、当該位置の通過速度、当該位置の通過時刻及びプローブ車両の車両IDなどを含む交通情報である。また、プローブ情報には、その他の情報を含めても良い。なお、プローブ車両の位置は、車載装置2が有するGPS受信機によって受信したGPS信号に基づいて算出される。
【0031】
前記路側通信機4は、車載装置2との間で無線通信によって情報の送受信を行うものである。具体的には、路側通信機4は、車載装置2が送信した観測情報としてのプローブ情報を受信し、交通情報推定装置(中央装置)1に転送する。また、路側通信機4は、交通情報推定装置(中央装置)1から、車両への提供用の交通情報を取得し、その交通情報を、車載装置2に送信することができる。なお、路側通信機4と交通情報推定装置1との間は、通信回線によって接続されている。
【0032】
前記路側センサ5は、観測情報(実測値)としての交通情報を検出するためのものであり、例えば、直下を通行する車両を超音波感知する車両感知器や、インダクタンス変化で車両を感知するループコイル、或いは、カメラの映像を画像処理して交通量や車両速度する計測する画像感知器よりなり、交差点に流入する車両台数や車両速度を計測する目的で、高速道路や主要な幹線道路などに設置されている。
【0033】
路側センサ5によって検出した観測情報は、通信回線を介して、VICSセンタサーバ6に送信され、このVICSセンタサーバ6では、路側センサ5の観測情報に基づいて、VICS情報を生成する。このVICS情報は、通信回線を介して、交通情報推定装置1に送信される。
【0034】
前記VICS情報は、各道路リンクでの渋滞やリンク旅行時間を含む交通情報である。VICS情報は、路側センサ5から5分ごとに観測情報を取得して、情報更新されるため、時間的に高密度な情報が得られる。しかし、路側センサ5はすべての道路に設置されているわけではなく(主要道路でも20%以下)、エリアカバー率が低い。
一方、前記プローブ情報は、道路を走行するプローブ車両3から取得するため、エリアカバー率を高くすることが可能である。ただし、プローブ車両3となるための車載装置2の普及率がまだ低いため、時間的に低密度のデータしか得られない。
【0035】
つまり、所定エリア内の道路に、道路リンクを設定した場合、VICS情報が得られる道路リンクについては、VICS情報の更新単位時間ごとに常に交通情報(VICS情報)が得られる。一方、VICS情報が得られない道路リンクについては、VICS情報の更新単位時間ごとにみると、プローブ情報が交通情報として得られる道路リンクがある一方、プローブ情報も得られない道路リンクが混在することになる。
【0036】
[2.交通情報推定システムの詳細]
[2.1 はじめに]
本実施形態に係る交通情報推定システムは、VICS情報及び/又はプローブ情報を取得するとともに、VICS情報もプローブ情報も得られない道路リンクの交通情報を推定して、当該道路リンクの交通情報を補完することで、交通情報の生成が必要とされる領域(対象領域)内の全道路リンクの交通情報を生成する。
このように、VICS情報もプローブ情報も得られない道路リンクの交通情報を補完することで、より精度が高い交通情報を車両(ナビゲーションシステム)に提供したり、精度良く交通管制を行ったりすることが可能となる。
なお、以下では、VICS情報もプローブ情報も得られず交通情報を推定して補完する必要がある道路リンクを、「推定対象道路リンク」という。
【0037】
[2.2 分割領域と境界領域]
本実施形態では、複数の道路リンクを含んでおり、交通情報の生成が必要とされる領域(対象領域)の全体は、分割された複数の分割領域の集合によって構成されているものとみなす。なお、ここでの対象領域とは、例えば、ある国又は地域の全部又は一部の領域が相当する。したがって、分割領域の数は、現実には、数百から数万程度となるが、本実施形態では、図2に示すように、対象領域全体を、4個の分割領域(第1分割領域〜第4分割領域)に分割した場合について説明する。なお、以下では、分割領域を「メッシュ」とよぶことがある。
また、本実施形態では、対象領域のうち、分割領域同士が接する境界部分を「境界領域」とよぶ。
【0038】
[2.3 交通情報推定システムの全体構成]
図3に示すように、交通情報推定システムSは、第1分割領域〜第4分割領域の各分割領域に対応して設けられた複数の(4個の)分割領域用の交通情報推定装置1と、境界領域用の境界用交通情報推定装置1Aと、を備えている。
【0039】
複数の分割領域用交通情報推定装置1それぞれは、対応する分割領域に含まれる道路リンクの交通情報を取得・推定する。また、境界用交通情報推定装置1Aは、境界領域に含まれる道路リンクの交通情報を取得・推定する。したがって、境界領域に含まれる道路リンクの交通情報については、分割領域用交通情報推定装置1によって推定可能であるとともに、境界用交通情報推定装置1Aによっても推定可能である。
【0040】
なお、本実施形態の交通情報推定システムSは、推定装置1,1Aが5個存在することに対応して、5個のコンピュータによって構成することができるが、5個より少ない数のコンピュータによって構成してもよい。
つまり、図3に示す5個の装置1,1Aは、それぞれの装置1,1Aの機能を発揮するためのコンピュータプログラム(分割領域用交通情報推定コンピュータプログラム又は境界用交通情報推定コンピュータプログラム)に対応していると考えることができ、ハードウェアとしてのコンピュータに対応する必要はない。
したがって、1個のコンピュータに、複数の推定装置1,1Aの機能を担わせても良い。本システムSを構成するために、何個のコンピュータを使用するかは、コンピュータの処理速度や記憶容量によって適宜決定すればよく、図示した装置数に限定されるものではない。
【0041】
各推定装置1,1Aそれぞれは、推定対象道路リンクの交通情報を推定する機能と、推定に用いられるパラメータ(推定用パラメータ)を学習する機能と、を備えている。
本推定システムSでは、各分割領域用の推定装置1それぞれが、分割領域毎に、分割領域に含まれる道路リンクの交通情報の推定及び推定用パラメータの学習を行うとともに、境界領域用の推定装置1Aが、境界領域に含まれる道路リンク(境界道路リンク)についての交通情報の推定(再推定)及び推定用パラメータの学習を行う。
【0042】
図4は、交通情報推定システムSにおける推定/学習処理の手順を示している。まず、システムの起動時には、各推定装置1,1Aが備えている推定データベース(後述)13,13A及び重みデータベース(後述)15,15に対し、必要に応じて初期値を設定しておく。
【0043】
そして、交通情報推定システムSの各分割領域用交通情報推定装置1が、VICS情報やプローブ情報を取得し、そのVICS情報やプローブ情報から各道路リンクの速度情報(交通情報)を生成する。ただし、速度情報が取得できる道路リンクは、各分割領域内の道路リンクのうちの一部であり、速度情報が得られない道路リンクがある。
そこで、各分割領域用交通情報推定装置1は、速度情報が得られていない道路リンクの速度情報を推定するとともに、推定用パラメータの学習を行う(ステップS101)。
なお、他の分割領域の道路リンクにしか接続されていない等の理由で、分割領域毎の速度情報の推定(ステップS101)では、速度情報を推定できない道路リンク(境界道路リンク)が生じることがある。また、同一の分割領域の道路リンクに接続されているが、他の分割領域の道路リンクにも接続されているため、適切な速度情報の推定には、他の分割領域の道路リンクの速度情報も考慮すべき道路リンク(境界道路リンク)が生じることもある。
【0044】
これらの道路リンク(境界道路リンク)の速度情報を推定するため、分割領域用の交通情報推定装置1それぞれは、各分割領域における道路リンクの速度情報を取得・推定すると、分割領域のうち境界領域に含まれる全道路リンク(境界道路リンク)の速度情報を、境界用交通情報推定装置1Aに送信する(ステップS102)。
【0045】
この結果、境界用交通情報推定装置1Aには、境界領域に含まれる全ての境界道路リンクの速度情報が集約される。境界用交通情報推定装置1Aは、異なる分割領域の境界道路リンクの速度情報を用いて、各境界道路リンクの速度情報を推定する(ステップS103)。また、境界道路リンクの速度情報を推定するための推定パラメータの学習も行われる(ステップS103)。
なお、分割領域用交通情報推定装置1による推定を「一次推定」とすると、境界用交通情報推定装置1Aによる推定は、「二次推定」ということができる。
【0046】
二次推定によって更新された境界道路リンクの速度情報は、境界用交通情報推定装置1Aから、各分割領域用交通情報推定装置1へ戻すべく、送信される(ステップS104)。
【0047】
以上のステップS101〜S104の処理によって、対象領域全体の各道路リンクの速度情報が得られる。
本実施形態によれば、対象領域が広範で、対象領域に含まれる道路リンクの数が非常に多くなっても、分割領域毎に速度情報を推定/学習することで、分割領域単位で処理を分散化することができる。また、分割領域単位で推定すると、分割領域の境界又は境界付近に位置する境界道路リンクの速度情報の推定精度が低下するが、二次推定によって、境界道路リンクの推定/再推定を行うことで、境界道路リンクの速度情報の推定精度低下を防止できる。
【0048】
また、以上のステップS101〜ステップS104の処理は、速度情報が取得・生成される度に繰り返し実行される。本推定システムSでは、VICS情報の更新周期(例えば5分)に合わせて、VICS情報及びプローブ情報を取得して、速度情報を生成するため、ステップS101〜ステップS104の処理は、VICS情報の更新周期(例えば5分)に合わせて繰り返し実行されることになる。
【0049】
[2.4 分割領域用の交通情報推定装置の構成]
図5は、分割領域用の交通情報推定装置1を示している。この推定装置1は、第1分割領域〜第4分割領域のうちのいずれか1つの分割領域における推定/学習処理を行うものである。
この推定装置1は、対応する分割領域における推定対象道路リンクの交通情報を推定するための分割領域用推定システム(分割領域用推定部)11と、当該推定に用いられるパラメータ(推定用パラメータ)を学習するための分割領域用学習システム(分割領域用学習部)12と、を備えている。
【0050】
また、交通情報推定装置1は、分割領域用推定システム11によって推定した交通情報等を蓄積するための分割領域推定データベース(交通情報データベース)13、推定データベース13におけるデータのうち、分割領域用学習システム12における学習に用いるデータを蓄積する分割領域学習用データベース14、推定パラメータ(本実施形態では、「重み」)を蓄積するための分割領域重みデータベース(推定パラメータデータベース)15と、を記憶装置上に備えている。
【0051】
さらに、分割領域用交通情報推定装置1は、当該分割領域用交通情報推定装置1が取得したVICS情報及びプローブ情報(以下、両情報を総称する場合、「入力情報」という)に対する処理を行う入力情報処理部16を備えている。
【0052】
前記入力情報処理部16は、入力情報から、各リンクの「速度情報」を生成する処理を行うものであり、生成した「速度情報」は、分割領域推定データベース13に与えられ、分割領域推定データベース13の更新に用いられる。
【0053】
図6に示すように、入力情報処理部16は、取得したVICS情報から「速度情報」を生成するVICS情報処理部17と、取得したプローブ情報から、「速度情報」を生成するプローブ情報処理部18と、を備えている。
VICS情報処理部17は、VICS情報に含まれるリンク旅行時間から、当該道路リンクのリンク旅行速度を算出するリンク旅行速度算出部17aと、リンク旅行速度を当該リンクの「速度情報」に変換する速度情報変換部17bとを備えている。
【0054】
VICS情報処理部17のリンク旅行速度算出部17aは、リンク旅行速度を算出しようとする道路リンクのリンク長を、当該道路リンクのリンク旅行時間で除することで、リンク旅行速度[km/h]を算出する。なお、対象エリア内の全道路リンクのリンク長は、予め、装置1の記憶装置に格納されている。
【0055】
VICS情報処理部17の速度情報変換部17bは、リンク旅行速度算出部17aで求めたリンク旅行速度を、「速度情報」(規格化速度)という指標値(速度指標情報)に変換する。この変換は、速度情報変換部17bが、装置1に予め設定された「速度−速度情報」変換情報19を参照することで行われる。「速度−速度情報」変換情報19は、例えば、図7に示すように設定されたものであるが、詳細については後述する。
【0056】
プローブ情報処理部18のリンク旅行速度算出部18bは、プローブ情報に含まれる位置及び時刻に基づいて、リンク旅行速度を算出しようとする道路リンクのリンク旅行速度を算出する。
【0057】
プローブ情報処理部18の速度情報変換部18bは、VICS情報処理部17の速度情報変換部17bと同様に、リンク旅行速度を「速度情報」に変換する。その処理内容は、速度情報変換部17bと同様である。
【0058】
前述の「速度情報」は、リンク旅行速度の大小に応じた値をとる指標値である。本実施形態では、図7に示すように、速度情報は、0から1までの値をとり、リンク旅行速度が100[km/h]付近でほぼ「0」に近くなり、リンク旅行速度が0[km/h]のときに1の値をとる。図7に示す変換情報19は、自然対数を利用しており、具体的には、リンク旅行速度(図7の横軸)をxとし、速度情報(図7の縦軸)をyとすると、y=exp(−(x/20))の関数となっている。なお、この式中の「20」という値は、好ましい例であり、「20」に限定されるものではなく、任意の正数aを採用することができる。
【0059】
このy=exp(−(x/20))の関数において、xからみた傾きは、この式をxで微分したものとなり、下記の通りである。
【数1】

【0060】
このように、図7の変換情報は、リンク旅行速度xが大きくなるほど、リンク旅行速度xの変化に対する速度情報(規格化速度)yの変化の割合(xからみた傾き)が小さくなるように設定されている。
【0061】
ここで、図7の関数を、yについての関数として表すと、x=−20×ln(y)となり、この場合、yからみた傾きは、この式をyで微分したものとなり、下記の通りである。
【数2】

この場合、yからみた傾きは、yの逆数に比例することになる。
【0062】
図7のように、変換情報を設定することで、速度情報(規格化速度)が同じ値ほど変化しても、実際のリンク旅行速度への影響は、速度情報(規格化速度)の大小によって異なる。
例えば、速度情報が、0.1の場合と、0.5の場合を考える。この場合、yからみた傾きは、yの逆数に比例するため、dx/dy=−20/0.1=−200、ならびに、dx/dy=−20/0.5=−40となる。
【0063】
したがって、速度情報が0.01ほど変化した場合、より高速である速度情報=0.1の場合には、リンク旅行速度の変化は、−0.01(dx/dy)=2[km/h]となって比較的大きく、比較的低速である速度情報=0.5である場合には、リンク旅行速度の変化は、−0.01(dx/dy)=0.4[km/h]となって比較的小さくなる。
【0064】
つまり、速度情報(規格化速度)が同じ値変化しても、実際のリンク旅行速度への影響は、速度情報(規格化速度)の逆数によって決まる。傾きである速度情報の逆数は、単位距離(例えば、1km)を移動するリンク旅行時間に比例するので、旅行時間を評価する際には、図7のような変換情報を用いると有効である。
【0065】
以上のように設定された変換情報19によれば、速度情報という指標に、単なる「速度」という要素以外に、道路が混雑していて渋滞気味であるか、それとも道路が空いており車両が順調に流れているのかという渋滞度(交通流の度合)の要素も、持たせることができる。なお、変換情報は、図7に示すものに限定されるものではない。また、速度情報として、指標値を用いる必要はなく、「速度情報」を「速度」そのものとしてもよい。
【0066】
図8は、分割領域用交通情報推定装置1によって行われる、分割領域における交通情報推定処理(ステップS101における推定処理)を示している。まず、分割領域用交通情報推定装置1が、対応する分割領域についてのVICS情報やプローブ情報を取得すると、入力情報処理部16がVICS情報やプローブ情報から各道路リンクの速度情報を生成する(ステップS1)。ただし、ステップS1において速度情報が取得できる道路リンクは、対象エリア内の全道路リンクのうちの一部であり、ステップS1では速度情報が得られない道路リンクがある。
【0067】
続いて、ステップS1で得られた速度情報を、分割領域推定データベース13にセットし、分割領域推定データベースDB4を更新する(ステップS2)。そして、分割領域用推定システム11は、ステップS2で更新された分割領域推定データベース13の内容に基づいて、速度情報が得られていない道路リンクについての速度情報を推定し、推定した速度情報を、分割領域推定データベース13にセットし、分割領域推定データベース13を更新する(ステップS3)。このステップS4により、分割領域用交通情報推定装置1が担当する分割領域内の全道路リンクについての速度情報(実測値に基づく速度情報と推定値である速度情報とが混在したもの)が得られる。
【0068】
ステップS3にて得られた全道路リンクについての速度情報は、装置1外部に出力される(ステップS4)。具体的には、推定システムSのディスプレイに表示されるか、車載装置2への提供情報として出力される。
また、ステップS3で更新された分割領域推定データベース13の内容の一部は、分割領域学習用データベース14にスナップショットとして蓄積され、分割領域用学習システム12による学習用データとして用いられる(ステップS5)。
【0069】
図9は、推定システム11が、推定対象道路リンクの速度情報を推定するためのニューラルネットワークを示している。図示のニューラルネットワークは、0〜1の値をとるN個の入力信号xi(i:1〜N)それぞれに、重みwiを(wi:0〜1)乗じて、出力値yを生成する単純パーセプトロンとして構成されている。
ここで、入力信号xiは、推定対象道路リンク以外の他の道路リンク(推定対象道路リンクに接続された道路リンク)の速度情報であり、出力値yは推定対象道路リンクの速度情報である。
【0070】
また、重みwiは、推定対象道路リンク以外の複数の道路リンクそれぞれの速度情報を、どの程度の割合で反映させるかという値であり、推定対象道路リンクとの相関の高い道路リンク(例えば、推定対象道路リンクと同じ道路を構成し、推定対象道路リンクに隣接する道路リンク)ほど大きな値に設定されるべきであり、相関が低い道路リンクほど小さな値に設定されるべきものである。
【0071】
ただし、図9のものでは、一般的な単純パーセプトロンとは異なり、入力信号xiに乗じられることなくノードに加算される独立パラメータw0が設けられている。この独立パラメータw0は、推定対象道路リンク以外の道路リンクにおける速度情報以外の要因が、推定対象道路リンクの速度情報に与える要因(例えば、道路リンク間での制限速度の差)を表現することができ、速度情報を精度良く推定することができる。また、推定用パラメータ(重み)の学習の際に、推定用パラメータを最適値に収束させやすくなって、学習処理を容易又は高速に行える。
【0072】
以上のように、推定システム11が、ある推定対象道路リンクの速度情報を求めるには、当該推定対象道路リンクとの相関が多少なりとも認められる他の道路リンクの速度情報と、当該他の道路リンクの速度情報をどの程度ほど推定対象道路リンクの速度情報に反映させるかを示す重みと、が得られればよい。そのような他の道路リンクの速度情報は、推定データベース(交通情報データベース)13に蓄積され、重みは重みデータベース15に蓄積されており、推定システム11は、両データベース13,15から必要な情報を取得する。
【0073】
上記のようなニューラルネットは、各道路リンクについて設けられることになるため、推定システム11は、複数の道路リンクそれぞれに関する速度情報を、他の道路リンクに関する速度情報及びその寄与度を表す推定パラメータ(重み)を用いて推定可能に構成されていることになる。
【0074】
なお、速度情報を推定するためのニューラルネットワークとしては、図9のような単層のパーセプトロンに限られるものではなく、入力層、中間層、出力層を有する多層パーセプトロンであってもよい。多層パーセプトロンとして構成すると、推定対象道路リンクと他の道路との間で、速度情報が非線形関係を持つ場合であっても、推定対象道路リンクの速度情報を適切に求めることができる。
【0075】
本実施形態では、分割領域内での速度情報の推定に関しては、図10のように接続された道路リンクを想定する。図10は、ある1つの分割領域内の全道路リンクを示しているものとする。
図10において、Vxは、道路リンクの速度情報(0〜1の値)を示している。また、Vxにおける添え字xは、道路リンクのリンク番号を示しており、1〜24の値をとる。つまり、図7では、リンク番号1〜24までの24個の道路リンクが存在する。また、各リンクの矢印方向は、車両の進行方向を示す。
【0076】
図10において、実線の矢印で示す道路リンク(リンク番号x=1〜10)は、VICS情報が取得可能なリンクであり、例えば、高速道路や主要幹線道路に対応する道路リンクである。また、点線の矢印で示す道路リンク(リンク番号x=11〜24)は、VICS情報が取得できないリンクであり、例えば、高速道路や主要幹線道路以外の一般道路である。点線の矢印で示す道路リンクは、速度情報の推定対象道路リンクとなる可能性がある。つまり、点線の矢印で示す道路リンクについては、標本情報であるプローブ情報が得られた場合には、推定対象道路リンクとはならず、プローブ情報が得られなかった場合には、推定対象道路リンクとなり、速度情報の推定処理が実行される。
なお、VICS情報が取得可能な道路リンクであっても、何らかの事情でVICS情報が取得できない場合には、推定対象道路リンクとして扱われる。
【0077】
以下、図10の道路リンクを前提とし、図4及び図8も再度参照しつつ、速度情報の推定手順について詳細に説明する。
まず、分割領域推定データベース(交通情報データベース)13及び分割領域重みデータベース15には、装置管理者によって、初期値が入力されている(ステップS101)。
【0078】
図11に示すように、分割領域推定データベース13は、「チェック」31、「速度情報」32、「関連道路リンク情報」33、「リンク長」34、「学習?」のデータ項目を有しており、各道路リンク(リンク番号)についてそれぞれのデータ項目の値を保存可能なものである。
【0079】
前記データ項目のうち、「チェック」31は、各道路リンクの速度情報の更新の有無及び更新された順番(更新順位;推定順位)を示す項目である。「速度情報」32は、各道路リンクの速度情報がセットされる項目である。
「関連道路リンク情報」33は、各道路リンクに相関のある道路リンク(関連道路リンク)を示しており、ここでは、それぞれの道路リンクに接続されている道路リンク(リンク番号)を示している。分割領域推定データベース13における関連道路リンクは、同一の分割領域に限られており、他の分割領域の道路リンクは、実際には相関があったとしても、ここでの関連道路リンクとはならない。
【0080】
「関連道路リンク情報」33は、「逆」、「A順」、「A逆」、「B順」、「B逆」の5種類に分けられている。
「逆」は、任意の道路リンクと逆方向の道路リンクのリンク番号を示し、例えばリンク番号1の道路リンクについては、リンク番号8の道路リンクが「逆」の道路リンクとなる。
「A順」は、ある道路リンクの後方で順方向に接続している道路リンクであり、例えば、リンク番号1の道路リンクについては、リンク番号12,7,15の道路リンクが「A順」の道路リンクとなる。
「A逆」は、ある道路リンクの後方で逆方向に接続している道路リンクであり、例えば、リンク番号1の道路リンクについては、リンク番号11,15,13の道路リンクが「A逆」の道路リンクとなる。
【0081】
「B順」は、ある道路リンクの前方で順方向に接続している道路リンクであり、例えば、リンク番号1の道路リンクについては、リンク番号4,9の道路リンクが「B順」の道路リンクとなる。
「B逆」は、ある道路リンクの前方で逆方向に接続している道路リンクであり、例えば、リンク番号1の道路リンクについては、リンク番号3,6の道路リンクが「B逆」の道路リンクとなる。
【0082】
また、前記データ項目のうち「リンク長」34は、各道路リンクのリンク長を示すものである。「学習?」35は、各道路リンクの速度情報等が分割領域用学習部20(学習システム12)による学習のためのデータ(学習用データ)となるものであるか否かを示しており、ここでは0又は1の値をとる。「0」はその道路リンクの速度情報等が分割領域学習用データとはならないことを示しており、「1」はその道路リンクの速度情報等が分割領域学習用データとなることを示している。
【0083】
ステップS101の初期値入力は、システムSの運用開始時やリセット時に行われ、分割領域推定データベース11については、上記データ項目のうち、「速度情報」32、「関連道路リンク情報」33、「リンク長」34について初期値が設定される。「速度情報」32の初期値としては、例えば、全道路リンクについて0を設定すればよい。「関連道路リンク情報」33及び「リンク長」34の初期値については、対象エリアの道路構成に従って設定される。「関連道路リンク情報」33及び「リンク長」34の初期値は、VICS情報及びプローブ情報からなる交通情報(速度情報)を取得しても更新されることはない。
【0084】
一方、「速度情報」34の値は、VICS情報及びプローブ情報からなる交通情報(速度情報)を取得する度に、全道路リンクについて更新される(ステップS2,S3)。
また、「チェック」31については、交通情報(速度情報)を取得する度に(ステップS1)、0に初期化される。「学習?」35についても、交通情報(速度情報)を取得する(ステップS1)度に、各道路リンクの速度情報等を学習データとすべきか否かに応じて0又は1に設定される。
【0085】
図12に示すように、分割領域重みデータベース15には、分割領域における各道路リンクにおける速度情報の推定値を他の道路リンクの速度情報から求める際に用いる重みwiが、初期値として設定される。重みwiは、各道路リンクについて、「関連道路リンクの数+1」ほど設定される。図12において、w0は独立パラメータであり、w1以降は関連道路リンクの速度情報それぞれに乗じられる重みである。
【0086】
推定用パラメータである重みwiは、分割領域用学習システム12による学習によって、より適切な値へと自動的に更新されるため、初期値としては、適当な値を設定してもよい。したがって、初期設定が容易である。
【0087】
さて、分割領域推定データベース及び分割領域重みデータベースについて、上記の初期化を行ったのち、図10に示す道路リンクに関し、ある時点において、図13のようなVICS情報及びプローブ情報(交通情報)が得られたものとする。
図13では、リンク番号1〜10の道路リンクについてのVICS情報(リンク旅行時間)が得られ、リンク番号20の道路リンクについてのプローブ情報が得られている。他の道路リンクについてはVICS情報もプローブ情報も得られていない。なお、図13では、表記の容易化のため、リンク番号20の道路リンクについてのプローブ情報を、VICS情報と同様に「リンク旅行時間」で示した。
【0088】
また、図13の情報では、プローブ情報が存在する道路リンク(リンク番号20)については、学習対象となることを示す値「1」が設定されており、VICS情報が存在する道路リンク(リンク番号1〜10)については、学習対象ではないことを示す値「0」が設定されている。
【0089】
図13のような入力情報が取得された場合、この情報における「旅行時間」は、入力情報処理部16によって「速度情報」に変換され(ステップS1)、その速度情報によって、推定データベース13の対応する道路リンクの「速度情報」32が更新される(第1回目の更新;ステップS2)。更新された道路リンクについては、「チェック」31に、第1回目の更新で速度情報が更新されたことを示す「1」が設定される。また、図13の入力情報の「学習対象」が「1」である道路リンク(ここでは、リンク番号20の道路リンク)については、学習フラグである「学習?」35が「1」に設定される。
【0090】
以上のようにして第1回目の更新(入力情報のセット)が行われた後の推定データベース13の内容を、図14に示す。
【0091】
続いて、速度情報が未更新の道路リンク(リンク番号11〜19,21〜24)についての速度情報の推定を行って、当該推定値により推定データベース13の更新を行う(ステップS3)。
具体的には、まず、「チェック」31項目に、前回の更新を示す「1」が設定されている道路リンク(リンク番号1〜10,20)の関連道路リンク(隣接道路リンク)のうち、今回の入力情報(図13)に基づく速度情報の更新が未だなされていない道路リンク(チェック=0)を抽出する。ここでは、リンク番号12,15,11,13,19,18,17,21,24,14,16の11個の道路リンクが抽出される(図15参照)。これら11個の道路リンクが、ここでの推定対象道路リンクとなる。
【0092】
そして、分割領域用推定システム11は、11個の推定対象道路リンクそれぞれについての関連道路リンクを、分割領域推定データベース13から読み出すとともに、11個の推定対象道路リンクそれぞれについて設定された重み(推定用パラメータ)を、分割領域重みデータベース15から読み出し、これらを用いて、各推定対象道路リンクの速度情報の推定値を算出する。算出された、速度情報の推定値は、分割領域推定データベース13の「速度情報」にセットされ、速度情報についての第2回目の更新が行われる。なお、更新された道路リンクについては、「チェック」31に、第2回目の更新で速度情報が更新されたことを示す「2」が設定される。
【0093】
上記推定対象道路リンクのうち、例えば、リンク番号12,15,11,13の道路リンクの速度情報の推定値(V12,V15,V11,V13)を求めるための演算式は、下記のとおりである。
12=w0+w111+w21+w35+w413+w58+w67+w715
15=w0+w113+w220+w316+w417+w514+w61+w711
+w85+w98+w1012+w115
11=w0+w112+w28+w315+w47+w51+w611+w75
13=w0+w115+w28+w312+w47+w51+w611+w75
+w814+w917+w1016+w1120
【0094】
そして、「チェック」31項目に、前回の更新を示す「2」が設定されている道路リンク(リンク番号11〜19,21,24)の関連道路リンク(隣接道路リンク)のうち、今回の入力情報(図13)に基づく速度情報の更新が未だなされていない道路リンク(チェック=0)を抽出する。ここでは、リンク番号22,23の2個の道路リンクが抽出される(図16参照)。これら2個の道路リンクが、次の推定対象道路リンクとなる。
【0095】
そして、分割領域用推定システム11は、2個の推定対象道路リンクそれぞれについての関連道路リンクを、推定データベース13から読み出すとともに、2個の推定対象道路リンクそれぞれについて設定された重み(推定用パラメータ)を、重みデータベース15から読み出し、これらを用いて、各推定対象道路リンクの速度情報の推定値を算出する。算出された、速度情報の推定値は、推定データベース13の「速度情報」にセットされ、速度情報についての第3回目の更新が行われる。なお、更新された道路リンクについては、「チェック」31に、第3回目の更新で速度情報が更新されたことを示す「3」が設定される。
【0096】
上記のような処理は、全ての道路リンクについての速度情報が推定されるまで繰り返される(ステップS3)。ここでは、3回の更新により全ての速度情報が補完されたため、推定処理を終了する。
【0097】
すると、推定データベースの内容の出力が行われる(ステップS4)。
さらに、今回の入力情報(図13)に基づく、推定処理が終了した推定データベース13の各道路リンクのデータのうち、「学習?」35に「1」が設定されたリンク番号20の道路リンクのスナップショット(図17参照)を、学習用データベース14に追加する。ここで、スナップショットとは、「学習?」35に「1」が設定されたリンク番号の道路リンクの「速度情報」、当該道路リンクの関連道路リンクの「速度情報」と、の組み合わせを記憶したものである。ここで、「学習?」35に「1」が設定されたリンク番号の道路リンクの速度情報は、プローブ情報から得られた値であるから実測値に基づく速度情報(交通情報)である。また、当該道路リンクの関連道路リンクの「速度情報」には、VICS情報から得た実測値と推測値とが混在している。
【0098】
スナップショットは、入力情報が取得されて、推定データベースの全道路リンクの更新(ステップS2,S3)が行われる度に発生する。このスナップショットは、プローブ情報を取得できた道路リンクについて発生する。
したがって、上記の例では、リンク番号20の道路リンクのみスナップショットが発生したが、推定データベースの全道路リンクの更新(ステップS2,S3)が何度も行われると、他の道路リンクについてもスナップショットが蓄積される。また、入力情報が繰り返し発生するほどの十分な時間が経過すると、一つの道路リンクについて複数のスナップショットが蓄積される。
【0099】
図18は、複数の道路リンクについて、それぞれ複数のスナップショットが蓄積された分割領域学習用データベース14の内容を示している。
このようにして多数のスナップショットが蓄積された分割領域学習用データベース14に基づいて、分割領域用学習システム12が、分割領域重みデータベース15に記憶されている重み(推定用パラメータ)の学習(最適化)を行って、分割領域重みデータベース15の内容を更新する。
【0100】
図19は、分割領域用学習システム12による学習処理(ステップS101)の手順を示している。まず、分割領域用学習システム12は、誤差判定のための許容誤差、ニューラルネットワーク(図9)を構成する中間層の数、学習計数などの学習用のパラメータ設定を行う(ステップS11)。
分割領域用学習システム12は、図9に示すようなニューラルネットワークを最適化(学習)するニューロエンジンとして構成されている。つまり、分割領域用学習システム12は、分割領域学習用データベース14に蓄積されているスナップショットのうち、実測値である速度情報を教師信号とし、教師信号となる速度情報を持つ道路リンクの関連道路リンクについての速度情報から、この教師信号を出力するための適切なニューラルネットワークを再構築する。すなわち、分割領域用学習システム12は、実測値に基づく速度情報と、当該速度情報を持つ道路リンクの関連道路リンクについての速度情報とからなる学習用データから、重みの最適値を算出する。重みの最適値の算出は、例えば、最小自乗法などによって行える。
【0101】
重みの最適値の算出は、関連道路リンクについての速度情報から算出される速度情報が、教師信号に近づいて、教師信号との誤差が、設定された許容誤差未満になるまで行われる(ステップS13)。
【0102】
重みが収束して分割領域における学習処理が終了すると、得られた重みは、分割領域重みデータベース15に反映され、分割領域重みデータベース15が更新される。
【0103】
分割領域重みデータベース15が更新された後に、VICS情報及びプローブ情報からなる入力情報が発生すると、分割領域用推定システム11による速度情報の推定は、新たな重みを用いて、より精度良く行われる。このように、本実施形態の交通情報推定システムSでは、運用を続けることで、交通情報(速度情報)の推定精度が自然に向上する。
【0104】
以上のようにして、各分割領域用の交通情報推定装置1が、対応する分割領域における速度情報の推定を完了すると、各交通情報推定装置1は、分割領域用推定データベース13に記憶されている各道路リンクの速度情報のうち、境界道路リンクとして設定されている道路リンクの速度情報を、境界用の交通情報推定装置1Aに送信する。
【0105】
[2.5 境界用の交通情報推定装置の構成]
本実施形態では、第1分割領域〜第4分割領域における境界道路リンクは、図20に示すように存在するものとする。図20は、第1分割領域〜第4分割領域における全道路リンクのうち、境界道路リンクとして設定された道路リンクのみを示している。ここでの境界道路リンクは、他の道路リンクとの接続点が、隣接する分割領域同士の境界線上に存在するものをいう。
【0106】
図20に示すように、境界道路リンクの番号は、分割領域の領域番号(メッシュ番号;1〜4の値)を示す[領域番号]と道路リンク番号との組み合わせによって示される。図20において、境界道路リンク番号の後の括弧付き番号は、各分割領域における推定順位(分割領域推定データベース13の「チェック」31欄に記憶されている推定順位(更新順位))を示している。
なお、分割領域の領域番号(メッシュ番号)や推定順位は、境界道路リンクの速度情報とともに、分割領域用交通情報推定装置1から、境界用の交通情報推定装置1Aに送信される。
【0107】
図21は、境界領域における道路リンクの速度情報の推定(二次推定)を行う境界用交通情報推定装置1Aを示している。境界用交通情報推定装置1Aは、各分割領域交通情報推定装置1にて更新(一次推定)された分割領域推定データベース13における境界道路リンクの速度情報を、他の分割領域の境界道路リンクの速度情報を用いて更新(二次推定)する処理を行う。また、境界用交通情報推定装置1Aでは、二次推定のための推定パラメータの学習処理も行われる。
【0108】
この推定装置1Aは、境界領域における推定対象道路リンクの交通情報を推定するための境界用推定システム(境界用推定部)11Aと、当該推定に用いられるパラメータ(推定用パラメータ)を学習するための境界用学習システム(境界用学習部)12Aと、を備えている。
【0109】
また、この推定装置1は、境界用推定システム11Aによって推定した速度情報などを蓄積するための境界推定データベース13A、境界推定データベース13Aにおけるデータのうち、境界用学習システム12Aにおける学習に用いるデータを蓄積する境界学習用データベース14A、推定パラメータ(本実施形態では、「重み」)を蓄積するための境界重みデータベース(推定パラメータデータベース)15Aと、を記憶装置上に備えている。
【0110】
各分割領域用交通情報推定装置1から与えられた各境界道路リンクの「速度情報」及び「推定順位」は、境界推定データベース13Aに与えられ、設定される。なお、境界道路リンクのうち、一次推定では速度情報が推定できなかった道路リンクについては、速度情報=0.00が設定され、推定順位=0が設定される。
【0111】
図22に示すように、境界推定データベース13は、「推定順位」31A、「二次推定」36A,「速度情報」32A、「リンク長」34A、「学習フラグ」35A、「関連道路リンク情報」33Aのデータ項目を有しており、「メッシュ番号−リンク番号」で示される各境界道路リンクについて、それぞれのデータ項目の値を保存可能なものである。
【0112】
前記データ項目のうち、「推定順位」31Aは、分割領域推定データベース13における「チェック」31に対応するものであり、同データベース13から送信された推定順位を示す情報が、境界推定データベース13の「推定順位」31Aにセットされる。
「二次推定」36Aの項目は、境界用推定システム11Aによる二次推定を行うか否かの判断に用いられる情報がセットされる項目であり、その値は、速度情報の実測値の得られた道路リンクから境界道路リンクまでの推定上の距離(リンク数)を表す。「二次推定」36Aの項目の詳細は後述する。
「速度情報」32Aの項目は、分割領域推定データベース13から送信された速度情報がセットされる項目であり、各境界リンクにおける速度情報を示す。
【0113】
「リンク長」34Aの項目は、各境界道路リンクのリンク長を示すものである。
「学習フラグ」35Aの項目は、各境界道路リンクの速度情報が、境界用学習部20Aによる学習のためのデータ(学習用データ)となるものであるか否かを示しており、ここでは0又は1の値をとる。「0」はその道路リンクの速度情報等が境界学習用データとはならないことを示しており、「1」はその道路リンクの速度情報等が境界学習用データとなることを示している。なお、「学習フラグ」35Aは、分割領域推定データベース13における「学習?」35に対応しており、分割領域推定データベース13から送信されたフラグ情報が、この「学習フラグ」35Aにセットされる。
【0114】
「関連道路リンク情報」33Aは、各境界道路リンクに相関のある他の分割領域の境界道路リンク(関連道路リンク)を示しており、ここでは、それぞれの境界道路リンクに接続されている他の境界道路リンク(メッシュ番号−リンク番号)を示している。
【0115】
「関連道路リンク情報」33Aは、分割領域推定データベース13と同様に、「逆」、「A順」、「A逆」、「B順」、「B逆」の5種類に分けられているが、図20の道路リンク構造では、「A順」、「B順」、「A逆」、「B逆」の4種類しか存在しないため、図22等では、「逆」については省略している。
【0116】
図22に示す境界推定データベース13Aの内容は、境界道路リンクの速度情報等の情報が、各分割領域用の交通情報推定装置1から、境界用の交通情報推定装置1へ与えられ、境界推定データベース13Aにセットされた状態を示している。つまり、同データベース13Aには、分割領域用交通情報推定装置1から送信された「推定順位」31、「速度情報」32A、「学習フラグ」35の各情報がセットされている。また、「推定順位」31、「速度情報」32A、「学習フラグ」35の各情報がセットされる度に、「二次推定」36Aの各値は、リセットされて「0」となる。
【0117】
なお、「リンク長」34Aや「関連道路リンク情報」33Aは、予め設定された値が用いられ、「推定順位」31、「速度情報」32A、「学習フラグ」35の各情報がセット
されても更新されない。
【0118】
図23に示すように、境界重みデータベース15Aには、境界領域における各境界道路リンクの速度情報の推定値を、他の境界道路リンク(関連道路リンク)の速度情報から求める際に用いる重みwiが、セットされる。重みwiは、各境界道路リンクについて、「関連道路リンクの数+1」ほど設定される。図23において、w0は独立パラメータであり、w1以降は関連道路リンクの速度情報それぞれに乗じられる重みである。
【0119】
図23の境界重みデータベース15Aにおける重みwiの値は、システムS起動時に初期設定された初期状態であるが、この重みwiの値は、分割領域用学習システム12における学習と同様に、境界用学習システム12Aによる学習によって、より適切な値へと自動的に更新されるため、初期値としては、適当な値を設定してもよい。したがって、初期設定が容易である。
【0120】
図24は、境界用交通情報推定装置1Aによって行われる、境界領域における交通情報推定処理(ステップS103における推定処理;二次推定)を示している。
まず、分割領域用交通情報推定装置1それぞれから、境界道路リンクの速度情報等を、取得し、境界推定データベース13Aにセットする(ステップS21)。なお、図22に示すように、一次推定で速度情報を推定できなかった境界道路リンクについては、速度情報として、「0.00」がセットされる。
【0121】
続いて、全境界道路リンクのうち、二次推定の対象となる境界道路リンクを決定する(ステップS22)。二次推定の対象となる境界道路リンクを決定するには、境界推定データベース13Aにおける「推定順位」31Aと「二次推定」36Aの値が用いられる。
【0122】
図25〜図32は、境界用推定システム11Aが、「二次推定」36Aの値を決定するための手順を示している。
まず、「推定順位」31Aが「1」である境界道路リンク、つまりプローブ情報又はVICS情報などの実測値に基づく速度情報が得られている道路リンクが、境界推定データベース13A内で検索され、図25に示すように、当該検索によってヒットした境界道路リンク1−4,4−5の「二次推定」36Aの値が「1」にセットされる。
【0123】
さらに、「推定順位」31Aが「1」である境界道路リンクに接続された境界道路リンク(関連道路リンク)が検索され、図26に示すように、当該検索によってヒットした境界道路リンク2−4,3−4,4−3の「二次推定」36Aの値が「2」にセットされる。
【0124】
続いて、「二次推定」36Aの値が「2」となった境界道路リンク2−4,3−4,4−3に接続された境界道路リンク(関連道路リンク)が検索される。当該検索によってヒットした境界道路リンクの「二次推定」36Aの値が「3」にセットされる。
ただし、境界道路リンク2−4,3−4,4−3に接続された境界道路リンクとして、境界道路リンク1−4,3−1,4−5,3−1,1−4が存在するが、境界道路リンク1−4,4−5,3−1,1−4の4つについては、既に、1以上3以下の二次推定の値が設定されているため、これらの道路リンク1−4,4−5,3−1,1−4については、「二次推定」36Aの値は変更されない。したがって、図27に示すように、境界道路リンク3−1の「二次推定」36Aの値だけが「3」にセットされる。
【0125】
さらに、続いて、「二次推定」36Aの値が「3」となった境界道路リンク3−1に接続された境界道路リンク(関連道路リンク)が検索される。当該検索によってヒットした境界道路リンクの「二次推定」36Aの値が「4」にセットされる。
ただし、境界道路リンク3−1に接続された境界道路リンクとして、境界道路リンク2−4,4−3が存在するが、これらの境界道路リンク2−4,4−3については、既に、1以上4以下の二次推定の値が設定されているため、図28に示すように、これらの道路リンク2−4,4−3については、「二次推定」36Aの値は変更されない。以上で、「推定順位」36Aの値が「1」である境界道路リンクに直接又は間接的に接続された境界道路リンクについての「二次推定」36Aの値の設定を終了する。
【0126】
このように、「推定順位」31Aの値が「1」である境界道路リンク1−4,4−5に直接又は間接的に接続された境界道路リンクついては、「推定順位」31Aの値が「1」である境界道路リンク1−4,4−5の速度情報(実測値に基づく速度情報であり最も信頼できる速度情報)を、関連する他の境界道路リンクに順次波及させるため、「二次推定」36Aに「1」以上の値がセットされる。
【0127】
引き続き、「推定順位」36Aの値が「2」である境界道路リンクに直接接続された境界道路リンクについての「二次推定」36Aの値の設定を行う。本実施形態では、「推定順位」36Aの値が「2」以上である境界道路リンクについては、処理の簡単化のため、当該境界道路リンクに直接接続された境界道路リンクの二次推定だけを行い、当該境界道路リンクに間接的に接続された境界道路リンクは二次推定の対象としない。これにより、二次推定から再度、二次推定をおこなうことを回避できる。
【0128】
具体的には、図29に示すように、「推定順位」31Aの値が「2」である境界道路リンク1−1,1−2,4−1,4−4に接続された境界道路リンクの検索が行われる。当該検索によってヒットした境界道路リンク2−1,2−2,2−3,1−3,1−5,3−3の「二次推定」36Aの値が「3」にセットされる。
【0129】
次に、図30に示すように、「推定順位」31Aの値が「3」である境界道路リンク1−3,2−1,2−2,3−4,4−2に接続された境界道路リンクの検索が行われる。当該検索によってヒットした境界道路リンク1−1,1−2,1−3,1−5,2−1,2−2,2−3,4−5のうち、二次推定の値が1以上4以下の値ではない境界道路リンク1−1,1−2の「二次推定」36Aの値が「4」にセットされる。
【0130】
続いて、「推定順位」36Aの値が「4」である境界道路リンクに接続された境界道路リンクの検索が行われるのであるが、「推定順位」36Aの値が「4」である境界道路リンクは存在しないので、この処理は行われない。
【0131】
さらに続いて、「推定順位」31Aの値が「5」である境界道路リンク2−5に接続された境界道路リンクの検索が行われる。図31に示すように、当該検索によってヒットした境界道路リンク3−2の「二次推定」36Aの値が「6」にセットされる。
【0132】
以上の処理によって、「二次推定」36Aの値の設定が終了する。境界用推定システム12Aは、これらの「二次推定」36Aの値と「推定順位」31Aの値とに基づいて、二次推定を行うべき境界道路リンクの抽出と、二次推定を行う境界道路リンクの順番を決定する。
【0133】
具体的には、「二次推定」36Aの値が、「0」又は「1」である境界道路リンクについては、二次推定の対象から除外される。「二次推定」36Aの値が「0」である場合、関連道路リンクとなる他の境界道路リンクには信頼できる速度情報が無いことを示しており、二次推定を行わない方がよいからである。「二次推定」36Aの値が「1」である場合は、その境界道路リンクの速度情報は実測値に基づくものであり、信頼性が高く、二次推定を行う必要がないからである。
【0134】
そして、境界用推定システム12Aは、二次推定の対象から除外されていない境界道路リンクについては、「二次推定」36Aの値が小さい順に、二次推定を行う。推定の仕方は、一次推定と同様であり、関連道路リンクの速度情報と重みとから、推定対象となった境界道路リンクの速度情報を算出する。
ここで、「推定順位」31Aの値<「二次推定」36Aの値、となっている境界道路リンクについては、二次推定は行われない。すなわち、他の分割領域に含まれる実測値の得られた道路リンクから境界道路リンクまでの推定上の距離が、同一の分割領域に含まれる実測値の得られた道路リンクから当該境界道路リンクまでの推定上の距離よりも大きい場合には、二次推定は行われない。二次推定を行うと、速度情報の信頼性が却って低下するからである。ただし、「推定順位」31Aの値<「二次推定」36Aの値、となっていても、「推定順位」31Aの値=0である境界道路リンクの場合には、必ず推定を行う。「推定順位」31Aの値=0である境界道路リンクについては、速度情報が未だ得られておらず、必ず推定すべきだからである。
【0135】
具体的には、図32に示すように、境界道路リンク1−4,2−5,4−1,4−2,4−4,4−5については、「二次推定」36Aの値が「0」又は「1」であるため、二次推定の対象から除外される。また、境界道路リンク1−1,1−2については、「推定順位」31Aの値<「二次推定」36Aの値となっているため、二次推定の対象から除外される。
【0136】
残りの境界道路リンクについては、図32に示すように、「速度情報」32Aの値が、推定後の値に更新される。
【0137】
そして、二次推定が終了した境界推定データベース13Aの各境界道路リンクのデータのうち、「学習フラグ」35Aに「1」が設定された境界道路リンク1−4,4−5のスナップショットが、境界学習用データとして、境界学習用データベース14Aに追加される。このスナップショットも、「学習フラグ」35Aに「1」が設定された境界道路リンクの「速度情報」、当該境界道路リンクの関連道路リンクの「速度情報」と、の組み合わせを記憶したものである。
【0138】
スナップショットは、境界学習用データベース14Aに蓄積され、重みの学習処理(ステップS103の学習処理)に用いられる。境界領域の学習システム12Aは、分割領域の学習システムシステム12と同様の方法で、境界重みデータベース15Aに記憶されている重み(推定用パラメータ)の学習(最適化)を行って、境界重みデータベース15Aの内容を更新する。
【0139】
図33は、境界道路リンク1−4,4−5のスナップショットによって、学習が行われることにより更新された境界重みデータベース15Aの内容を示している。図33に示すように、境界道路リンク1−4,4−5についての重みが更新されている。この重みの更新は、境界領域の推定が行われる度に行われるため、システムSの運用を続けると、自然に適切な値の重みが得られる。
【0140】
以上の処理が終了すると、境界推定データベース13Aの各速度情報は、各分割領域推定データベース13に戻される。これにより、各分割領域推定データベース13における速度情報は、他の分割領域の道路リンクの速度情報が考慮されたものとなる。
【0141】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0142】
例えば、推定対象道路リンクの速度情報を推定するために用いられる他の道路リンク(関連道路リンク)は、推定対象道路リンクに接続されているものに限らず、推定対象道路リンクとは離れているが、速度情報の時間的変化の仕方が似ている道路リンク(例えば、推定対象道路リンクと並行する道路リンク)であってもよい。
【0143】
また、時刻の要素を速度情報の推定に反映させたい場合には、時間的に特徴的な変化をする道路リンク(例えば、朝だけ混雑する道路リンク、夜だけ混在する道路リンクなど)を他の道路リンク(関連道路リンク)に含めることもできる。この場合、時間的に特徴的な変化をする道路リンクの速度情報は、全ての推定対象道路リンクに共通して用いられる。
【0144】
さらに、本実施形態では、推定対象道路リンクの速度情報を推定するために用いられる他の道路リンクの速度情報として、時間的に同一の時間帯にある速度情報だけを用いたが、異なる時間帯の速度情報を用いても良い。例えば、推定対象道路リンクから遠く離れた道路リンクの場合、その道路リンクにおける交通状況が、推定対象道路リンクに反映されまでには時間遅れがある。そこで、遠く離れた道路リンクの場合、例えば、1時間前の速度情報を推定に用いることで、より適切な推定が行える。
【0145】
さらにまた、推定の対象となる交通情報は、速度情報に限らず、これに加えて/代えて、渋滞情報など他の交通情報とすることもできる。この場合、渋滞度は、上記速度情報の1を混雑、0を順調の2値に割り当てることで算出できる。また、渋滞度を推定対象の交通情報として扱う場合、ニューラルネットワークでは、2値のいずれかを決定するための閾値も推定用パラメータとして必要となる。この場合、閾値も学習部による学習対象となる。
【0146】
さらにまた、速度情報としては、規格化されたものに限らず、リンク旅行速度そのものを利用してもよい。
【0147】
さらにまた、本実施形態において、境界道路リンクは、分割領域の境界に位置しており他の分割領域の道路リンクに直接接続されているもの、すなわち、他の道路リンクとの接続点が、分割領域の境界上に位置するもの、を例として説明したが、これに限られない。
境界道路リンクとしては、境界付近に位置することで、他の分割領域の道路リンクとの間に、交通情報に関する一定の相関が認められるものであってもよい。
【0148】
また、例えば、2本の並行する幹線道路を想定すると、境界道路リンクは、必ずしも、他の分割領域の道路リンクに接続されていなくてもよい。
さらに、境界道路リンクとしては、分割領域の境界付近に位置しているが、他の分割領域の道路リンクに直接接続されてはおらず、同じ分割領域に含まれる1又は数個の道路リンクを介して、他の分割領域の道路リンクに接続されているものであってもよい。
【符号の説明】
【0149】
S:交通情報推定システム,1:分割領域用交通情報推定装置,2:車載装置,3:プローブ車両,4:路側通信機,5:路側センサ,6:VICSセンタコンピュータ,11:分割領域用推定システム(分割領域用推定部),12:分割領域用学習システム,13:分割領域推定データベース,14:分割領域学習用データベース,15:分割領域重みデータベース,16:入力情報処理部,17:VICS情報処理部,17a:リンク旅行速度算出部,17b:速度情報変換部,18:プローブ情報処理部,18a:リンク旅行速度算出部,18b:速度情報変換部,19:変換情報,20:分割領域用学習部,1A:境界用交通情報推定装置,11A:境界用推定システム(境界用推定部),12A:境界用学習システム,13A:境界推定データベース,14A:境界学習用データベース,15A:境界重みデータベース,

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の道路リンクが含まれる領域における前記道路リンクの交通情報を、前記領域に含まれる他の道路リンクの交通情報に基づいて推定可能な交通情報推定システムであって、
前記領域を複数に分割した各分割領域に含まれる推定対象の道路リンクの交通情報の推定を、当該推定対象の道路リンクが含まれる分割領域以外の他の分割領域に含まれる他の道路リンクの交通情報を用いずに、当該推定対象の道路リンクが含まれる分割領域と同一の分割領域に含まれる他の道路リンクの交通情報を用いて行う分割領域用推定部と、
前記領域に含まれる道路リンクのうち前記分割領域の境界又は境界付近に位置している境界道路リンクの交通情報を、他の分割領域における境界道路リンクの交通情報を用いて、推定する境界用推定部と、
を備えていることを特徴とする交通情報推定システム。
【請求項2】
前記境界用推定部は、他の分割領域における境界道路リンクの交通情報を、前記分割領域用推定部から取得する
請求項1記載の交通情報推定システム。
【請求項3】
前記境界用推定部は、他の分割領域に含まれる境界道路リンクの交通情報を用いて交通情報を推定する対象となる境界道路リンクを、実測値に基づく交通情報が得られた道路リンクから当該境界道路リンクまでの推定上の距離に基づいて抽出する請求項1又は2記載の交通情報推定システム。
【請求項4】
境界用推定部によって推定対象となり得る境界道路リンクにおける実測値に基づく交通情報と、当該推定対象となり得る境界道路リンクの交通情報を推定するために用いられる前記他の分割領域における境界道路リンクの交通情報との組み合わせを境界学習用データとして蓄積し、蓄積された境界学習用データを用いて、当該推定対象となり得る境界道路リンクの交通情報を推定するための推定パラメータを最適化する境界用学習部を
更に備えている請求項1〜3のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項5】
分割領域用推定部によって推定対象となり得る道路リンクにおける実測値に基づく交通情報と、当該推定対象となり得る道路リンクの交通情報を推定するために用いられる前記他の道路リンクの交通情報との組み合わせを分割領域学習用データとして蓄積し、蓄積された分割領域学習用データを用いて、当該推定対象となり得る道路リンクの交通情報を推定するための推定パラメータを最適化する分割領域用学習部を
更に備えている請求項1〜4のいずれか1項に記載の交通情報推定システム。
【請求項6】
複数の道路リンクが含まれる領域における前記道路リンクの交通情報を、前記領域を複数に分割した分割領域毎に推定する交通情報推定システムに用いられる境界用交通情報推定装置であって、
前記領域に含まれる道路リンクのうち前記分割領域の境界又は境界付近に位置している境界道路リンクの交通情報を、他の分割領域における境界道路リンクの交通情報を用いて、推定する境界用推定部を備えている
ことを特徴とする境界用交通情報推定装置。
【請求項7】
複数の道路リンクが含まれる領域における前記道路リンクの交通情報を、前記領域を複数に分割した分割領域毎に推定する交通情報推定システムに用いられる分割領域用交通情報推定装置であって、
一の分割領域に含まれる推定対象の道路リンクの交通情報の推定を、他の分割領域に含まれる他の道路リンクの交通情報を用いずに、当該一の分割領域に含まれる他の道路リンクの交通情報を用いて行う分割領域用推定部を備え、
前記分割領域用推定部は、前記一の分割領域の境界又は境界付近に位置している境界道路リンクの交通情報を、他の分割領域における境界道路リンクの交通情報を推定するための境界用推定部に与えるよう構成されている
ことを特徴とする分割領域用交通情報推定装置。
【請求項8】
コンピュータを、請求項1〜5のいずれか1項に記載の交通情報推定システムとして機能させるためのコンピュータプログラム。
【請求項9】
コンピュータを、請求項6記載の境界用交通情報推定装置として機能させるためのコンピュータプログラム。
【請求項10】
コンピュータを、請求項7記載の分割領域用交通情報推定装置として機能させるためのコンピュータプログラム。
【請求項11】
複数の道路リンクが含まれる領域における前記道路リンクの交通情報を、前記領域に含まれる他の道路リンクの交通情報に基づいて推定する交通情報推定方法であって、
前記領域を複数に分割した各分割領域に含まれる推定対象の道路リンクの交通情報の推定を、当該推定対象の道路リンクが含まれる分割領域以外の他の分割領域に含まれる他の道路リンクの交通情報を用いずに、当該推定対象の道路リンクが含まれる分割領域と同一の分割領域に含まれる他の道路リンクの交通情報を用いて行う分割領域用推定ステップと、
前記領域に含まれる道路リンクのうち前記分割領域の境界又は境界付近に位置する境界道路リンクの交通情報を、他の分割領域における境界道路リンクの交通情報を用いて、推定する境界用推定ステップと、
を含むことを特徴とする交通情報推定方法。
【請求項12】
複数の道路リンクが含まれる領域における前記道路リンクの交通情報を、前記領域を複数に分割した分割領域毎に推定する交通情報推定システムにおける境界用交通情報推定方法であって、
前記領域に含まれる道路リンクのうち前記分割領域の境界又は境界付近に位置する境界道路リンクの交通情報を、他の分割領域における境界道路リンクの交通情報を用いて、推定する境界用推定ステップ
を含むことを特徴とする境界用交通情報推定方法。
【請求項13】
複数の道路リンクが含まれる領域における前記道路リンクの交通情報を、前記領域を複数に分割した分割領域毎に推定する交通情報推定システムにおける分割領域用交通情報推定方法であって、
一の分割領域に含まれる推定対象の道路リンクの交通情報の推定を、他の分割領域に含まれる他の道路リンクの交通情報を用いずに、当該一の分割領域に含まれる他の道路リンクの交通情報を用いて行うステップと、
前記一の分割領域の境界又は境界付近に位置する境界道路リンクの交通情報を、他の分割領域における境界道路リンクの交通情報の推定において利用可能とするステップと、
を含むことを特徴とする分割領域用交通情報推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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