説明

人体接触型温調具

【課題】 椅子やソファーや座席等は、使用者の背中や臀部とに密着するのでエアコンによる空調が効かず、また、人体を直接的に冷房或いは暖房することができない。
【解決手段】 車輌用の座席の少なくとも人体と直接接触する部分に蓄熱材を充填したクッションパッドと、このクッションパッドの裏面に電熱体を積層状態に設け、
前記クッションパッドは、少なくとも内面が熱圧着性を有する袋体に使用状態で液状の潜熱形蓄熱材が充填され、前記袋体の表裏面が格子状に熱圧着されて前記蓄熱材が分断され、蓄熱材入りの独立した小体積のクッション素子が形成され、このクッション素子が複数個連結して形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者との間で直接的に熱の授受を行うことのできる温調具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
夏季において、革製や布製の座席やソファー等は、熱容量や熱伝導性が比較的小さいので、人体から放出される熱によって直ぐに暖められてしまい、夏季においては人体と座席とが密着している部分が短時間の内に蒸し暑い感じがする。
【0003】
同様に、車輌で使用されている座席(運転席、後部座席など)は、一般的に表面は革製や布製であり、内部はウレタン等の発泡材が使用されており、熱容量と熱伝導性がかなり小さいものとなっている。そして、前記発泡材は断熱作用もあるので、運転者や同乗者から放出される熱をほとんど吸収することができず、夏季においては臀部や背中に熱がこもって蒸し暑くなっているのである。
【0004】
特に、長距離を運転される輸送車(トラック)の運転者は、長時間座席に座ることとなるので、前述の蒸し暑さによる集中力の低下や不快感によるストレスが発生するという問題があった。そこで、カーエアコンからの冷風により車内温度を低下させることが一般的に行われているが、臀部や背中は座席と密着しているので、この密着部分の蒸し暑さと不快感はは解消されない。しかしながら車内空間は狭いので十分に室温は低下していることが多くあり、腕や脚は冷却されてしまって筋肉疲労や不快感を発生することがある。
【0005】
冬季においては、カーエアコンからの乾燥した温風により喉や鼻等の呼吸器系を痛めてしまうことがあった。
【0006】
ところで、夏季においても金属製のベンチや木製の座席は、前記革製や布製の座席や車輌用座席よりも熱容量と熱伝導性が比較的大きいのでヒンヤリ感があって気持ちがよいことが知られている。また、冬季においては人が使用した後の暖められている座席や座席に腰掛けると冷たい思いをすることなく快適に座ることができる。
【0007】
また、人体表面は一年を通してほぼ30℃であり、人体と接触している部分の温度が32℃であると極めて心地よい暖かさを感じ、また、28℃であると爽快な心地よいヒンヤリ感があることが知られている。この暑くも寒くもない快適な温度領域、即ち28℃乃至32℃が人間にとっての「至適温度」である(三浦豊彦著、「暑さ寒さと人間」、中央公論社、昭和52年7月25日発行)。健康な普通人で、体表面から放出される熱は約52kcal/hであり、70代の老人では約30kcal/hであるということも知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、座席や座席等に、前記のような夏季においては28℃に冷却する冷却作用、或いは、冬季においては32℃に暖める暖房作用があれば、カーエアコンを長時間使用することもなく、体を直接冷却したり、或いは、直接暖房することができ、従来にはない快適な暖冷房を行うことができるのである。
【0009】
本発明は、前述の知見に基づいてなされたのであって、夏季においては使用者から放出される熱を吸熱し続けることで人体と座席との接触部分の温度を28℃に保持し続け、或いは、冬季においては使用者に熱を付与し続けることで人体と座席との接触部分の温度を32℃に保持し続けるようにしたのである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するべく、本発明に係るクッションパッドは、
1)車輌用の座席の少なくとも人体と直接接触する部分に蓄熱材を充填したクッションパッドと、このクッションパッドの裏面に電熱体を積層状態に設け、前記クッションパッドは、少なくとも内面が熱圧着性を有する袋体に使用状態で液状の潜熱形蓄熱材が充填され、前記袋体の表裏面が格子状に熱圧着されて前記蓄熱材が分断され、蓄熱材入りの独立した小体積のクッション素子が形成され、このクッション素子が複数個連結して形成されていることを特徴としている。
2)前記車輌用の座席は背当て部と座部とを有しており、この背当て部と座部の人体に直接接触する部分に前記クッションパッドと、このクッションパッドの裏面に電熱体を積層状態に設けたことを特徴としている。
3)前記クッションパッドを構成する多数の分離されたクッション素子は、その上に腰掛けた人体をクッション素子に充填された蓄熱材が発生する内圧力によって弾性力を発生して支持するように構成したことを特徴としている。
4)前記潜熱形蓄熱材は、28℃乃至32℃の温度範囲で潜熱を吸収し、或いは蓄熱していた潜熱を放出する特性を有する材料が使用されていることを特徴としている。
5)前記潜熱形蓄熱材は、28℃乃至32℃の温度範囲で車輌のキャビン内の熱を吸収し、或いは蓄熱していた潜熱をキャビン内に放出してこのキャビン内の温度を調節できるように座席や側壁或いは天井等の一部として使用されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
夏季においては28℃で人体を冷やし続け、冬季においては32℃で人体を暖め続けるので、カーエアコンのように空気が乾燥して呼吸器系を痛めてしまったり、人体に高温或いは低温の空気を直接吹き付けることがなくなり、快適な運転環境となる。また、夏季においてはエアコンからの冷たい風を直に浴びることによる体調不良や疲労感が軽減されたり、冬季においては暑すぎて頭がのぼせるようなことがない。
【0012】
また、座席と接触する臀部や背中などは人体の体表の約半分であるので、人体と蓄熱材との熱交換が効率よく行われる。更に、クッション性も有しており運転者の体型に合わせて座席が馴染むようになるので、座席による圧迫感がなくなる。
【0013】
そして、冷却作用或いは暖房作用は、潜熱形蓄熱材の潜熱を利用しているので外部からエネルギーを供給することなく至適温度に保持し続けることができ、省エネである。
【0014】
従来の座席や座席等は使用者との間で熱の授受がなされることはなかったが、本発明に係る座席は蓄熱材と使用者とを実質的に密着させるので、使用者と蓄熱材との間で熱の授受が行われるようになっている。従って、夏季は使用者や運転者・乗員等から放出される熱を吸収し続けることで28℃で冷やし続け、一方の冬季では使用者等に蓄熱した潜熱を付与し続けることで32℃で暖め続けることができ、至適温度が保持されるのである。
【0015】
蓄熱材を封入した敷物は、その蓄熱材がジェル状或いは液体中に固体が分散したような状態となっているのでふっくらと柔らかくて使用者に気持ちの良い感触を与える。また、蓄熱材はクッション素子に充填されて弾性を有しているので、本発明に係る座席に腰掛けた使用者や乗員が弾力を持って支持される。よって、車輌等における静的かけ心地や動的かけ心地も改善される。
【0016】
また、座部と背当て部とにそれぞれクッションパッドを設けたので、この座部と背当て部とが一体となった固定式座席、背当て部が可動式の折りたたみ式・リクライニング調節式座席などにも適用することができる。したがって、車輌用座席や映画館等の座席、事務用座席、コタツなどで使用することのできる座座席などにも好適に使用することができる。
【0017】
更に、蓄熱材がクッション素子に充填されているので、使用者が本発明に係る座席に腰掛けても蓄熱材が周辺部に逃げてしまったり、蓄熱材が偏在したりすることが防止され、常に均一に蓄熱材が充填された状態が保たれ、吸熱或いは放熱のムラが生じないようになっている。
【0018】
蓄熱材を分断して細分化したことにより、潜熱形蓄熱材が熱を吸収して固体状態から液体状態となり、また熱を放出して液体状態から固体状態となる相変化を繰り返しても過冷却現象を生ずることが防止され、長期に亘って使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(実施例1)
図1は、本発明に係るクッションパッドPを組み込んだ座席5を示す概略構成図であり、図2は前記座席5の側断面図を示す。そして、図3は車輌(乗用車)の座席5に運転者M1と同乗者M2とが腰掛けた状態を示している。
【0020】
図1に示す座席は、一実施例としての車輌用の座席5であり、乗員M1,M2の上体を支持する背当て部5bと、乗員の臀部を支持する座部5cとを有しており、前記背当て部5bの上端側に頭部5aが設けられている。この座席5は図示しない調節装置により背当て部5bがリクライニング調節できるようになっている。
【0021】
また背当て部5bの両側部にはサイドサポート8aが背当て部5bの中心よりも突出して形成され、車輌がカーブを曲がるときの遠心力が作用しても乗員M1,M2を安定的に座席に保持するようになっている。同様に、座部5cの両側部にもサイドサポート8bが形成されている。
【0022】
また、前記背当て部5bは、乗員と密着する表面側からカバー部品に相当するカバー層と、パッド部品に相当するパッド層と、弾性部品に相当するスプリング層とをこの順に配設された状態の3層構造となっている。前記カバー層は布地やビニールレザー、皮革、モケット等のカバー7aと、このカバー7aの内側に設けられた蓄熱材が充填されたクッションパッドPと、このクッションパッドPの裏面に該クッションパッドと積層状態に配設された電熱体hとから形成されている。
【0023】
パッド層はウレタンフォーム等からなる発泡材6aが設けられ、スプリング層は金属製のスプリング(不図示)が設けられている。そして、最背面には前記3層構造の背当て部5bを支持し且つ保持する金属製或いは合成樹脂製のフレーム(不図示)が設けられている。
【0024】
前記座部5cは、乗員と密着する表面側からカバー部品に相当するカバー層と、クッションパッド部品に相当するパッド層と、弾性部品に相当するスプリング層とがこの順に配設された3層構造となっている。前記カバー層は布地やビニールレザー、皮革、モケット等のカバー7bと、このカバー7bの内側に設けられたクッションパッドPと、このクッションパッドPの裏面に設けられた電熱体hとから形成されている。パッド層はウレタンフォーム等の発泡材6bにより形成され、スプリング層は金属製のスプリング(不図示)により形成されている。最底面には前記座部5cを支持し且つ保持する金属製或いは合成樹脂製のフレーム(不図示)が設けられている。
【0025】
前記背当て部5b及び座部5cのカバー層は、前記クッションパッドPに充填された蓄熱材3と乗員の人体との熱交換が容易になされる厚みに形成され、また、乗員との摩擦により耐える耐久性を有している。また、このカバー層は乗員と直接接触しかつ目に触れるので、さわり心地等の感触、高級感等の外観などに適した素材(布地やビニールレザー等)が使用されている。ビニールレザーが一般的によく使用されているので、本実施例においては一例として前記ビニールレザーが使用されている。
【0026】
前記電熱体hは面状ヒーターであって、PTC特性を有するものが使用されている。詳しくは、本発明者が開発したプラヒート(ミサトの登録商標)が採用されており、温度が上昇するにつれて電気抵抗が高くなり電流が流れにくくなり発熱が抑制されるという極めて高い安全性が確認されているものである。この面状ヒーターhは、両側部のそれぞれに長手方向に延長して設けられた電極が設けられている。
【0027】
本実施例においては、前記面状ヒーターhの両側部に設けられた電極間の電流方向に沿って複数のスリット(切断線)を形成している。乗員が腰掛けた際に、面状ヒーターhに長手方向に引っ張られる応力が生ずるが、前記スリットの間隙が前記応力に応じて拡大するのでヒーターh本体に負荷がかからないようになっている。
【0028】
本実施例における面状ヒーターhの消費電力は20W程度のものを使用しており、背当て部5bと座部5cとにそれぞれ面状ヒーターhが内蔵されているので1座席あたりの消費電力は40W程度となっている。
【0029】
そして、図4に示すようにクッションパッドPと面状ヒーターhとは袋体12に収納されており、前記クッションパッドPは一方の袋12aに、面状ヒーターhは他方の袋12bにそれぞれ収納されている。袋体12に収納することにより、施工の際にクッションパッドPと面状ヒーターhとを別々に取り付ける手間が省かれている。また、取付後にクッションパッドPとヒーターhとの位置がずれないようになっている。
【0030】
また、図5に示すようにクッションパッドPのみを収納するようにすることもできる。他には、例えば、座席5の表面側にクッションパッドPのみを収納した袋体13を配設し、この袋体13の裏面に図4に示す電熱体hを有する袋体12を敷設して座席5のカバー層を形成することもできる。このようにクッションパッドPを積み重ねるだけで吸熱・放熱できる熱容量を増加することができる。本実施例においては前記面状ヒーターhは各部位(背当て部5b、座部5c)にそれぞれ1枚使用したが、態様によっては複数枚で構成することもできる。
【0031】
なお、クッションパッドPと面状ヒーターhとにそれぞれ座席5の発泡材6a,6b等に固定できる固定手段を設けたり、クッション材にクッションパッドPと面状ヒーターhとを受け入れる凹部などを形成することで、前記クッションパッドPと面状ヒーターhとを袋体に収納せずに座席5を製作することもできる。
【0032】
(蓄熱材3)
次に、蓄熱材3を充填したクッションパッドPについて説明する。
クッションパッドPは、図6に示すように、充填された蓄熱材3が間仕切り1aにより分断されて細分化されたクッション素子1が形成されている。このようなクッションパッドPは、熱圧着性を有する直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(LLDPEフィルム)にナイロンフィルムが積層されたフィルム状体が使用され、このフィルム状体のポリエチレンフィルム層を内側にして熱圧着によってシール1cを形成して小分け袋が形成されている。そして、この小分け袋に潜熱形蓄熱材が充填され、更に、プレス機によって間仕切り1aが熱圧着されて形成されている。前記間仕切り1aにより複数のクッション素子1が形成され、この集合体がクッションパッドPとなっている。
【0033】
本実施例では前記フィルム状体を構成するLLDPEフィルムは厚さが150μm、ナイロンフィルム1dは厚さが15μmとなっており、このナイロンフィルム1dは前記LLDPEフィルムを透過してしまう蓄熱材3が外部に漏れ出さないようにするバリア層として設けてある。なお、前記各フィルムの厚さはクッションパッドPの強度などにより決定されるのであって、前記厚さに限定されるものではない。
【0034】
前記シール1cは、使用者が座席5に腰掛けた際にクッションパッドPが押圧されて発生する圧力によって液密が破壊されないように5乃至7mm程度の幅に形成されている。前記間仕切り1aは、幅が1mm程度の突条或いはローラーをヒートシーラーにより形成されている。この間仕切り1aに分断された複数のクッション素子1(蒲鉾状弾性体)が形成されている。この蒲鉾状弾性体は、内部に充填されている蓄熱材により表裏が接触しない程度の内圧を有しており、使用者の体重を支えることができるようになっている。
【0035】
また、前記フィルム状体は柔軟性があり、このフィルム状体から構成されるクッションパッドPも柔軟性を有している。通常は取扱性を考慮して250×500mm程度に形成されている。
【0036】
クッション素子1の大きさが小さくなると弾力性が増し、大きくすると弾力性が低下する。即ち、クッション素子はその大きさが長手方向或いは幅方向に大きくなると、蓄熱材が移動できる空間が広がるのでクッション素子が柔らかくなり、一方、クッション素子が小さくなると蓄熱材が移動できる空間が狭まることからクッション素子が硬くなるという性質を有している。従って、例えば、本実施例においては人体の肩部や臀部に接触する箇所のクッション素子は小さく形成したり、背中に位置するクッション素子は大きく形成したりし、就寝中の人体のカーブを均等に支持するように形成されている。また、臀部や上体、背中などを支持しているときのクッション素子の弾力は、クッション素子の表裏が接触しない程度の固さを有している。従って、人体との接触部位毎に大きさを変化させて弾性を調節し、体重を均等に分散して支持できるようにして静的かけ心地や動的かけ心地を向上させることもできる。
【0037】
具体的には、前記クッションパッドPは、座席5に腰掛ける使用者の臀部や背中に十分に密着できる大きさに形成されており、本実施例においては背当て部5bに使用されるクッションパッドP(図6の右側)は座席の幅方向に350mm、上下方向に450mmとなっている。また、前記座部5cに使用されるクッションパッドP(図の左側)は座席の幅方向に350mm、前後方向に350mmとなっている。それぞれのクッションパッドPのクッション素子1は、座席の幅方向に350mm、幅方向(上下方向)に50mmとなっているので、背当て部5bのクッションパッドPはクッション素子1が9個形成され、座部5cのクッションパッドPはクッション素子1が7個形成されている。また、前記クッション素子1の厚さは25mmとなっている。そして、前記背当て部5bのクッションパッドPには蓄熱材が約5.6kg、座部5cのクッションパッドPには蓄熱材が約4.4kg充填されている。
【0038】
なお、クッションパッドPのクッション素子1のサイズは、充填される蓄熱材3の量や、クッション性や弾力性に応じて変更できるので、前記サイズに限定されるものではない。例えば、50×50mm(厚さ25mm)として弾性の強いクッションパッドを形成することもできる。
【0039】
ところで、前記クッションパッドPの厚さは本実施例の25mmに限定されるものではない。例えば、クッションパッドPの厚さを5〜10mm程度とし、座席5の発泡材6a,6bを厚くしてクッション性を使用者の好みに合わせて調節することもできる。
【0040】
また、図1においては一人がけの座席を図示しているが、三人掛けの座席やそれ以上の座席についてもクッションパッドPを設けることができることはいうまでもない。
【0041】
また、冬季においてはクッションパッドPの蓄熱材3が固化しないように電熱体hにより保温されるようになっている。
【0042】
(蓄熱材の種類と充填量)
人体の体表面から放出される熱量は約52kcal/hであり、連続乗車時間が8時間程度(長距離輸送トラックなど)であるとすると、その乗車中の熱量は416kcal程度となる。従って、この熱量に対応した吸熱量或いは放熱量を有するように十分な量の蓄熱材が使用されている。この蓄熱材としては硫酸ナトリウム十水和物が使用されており、前述の快適温度である28乃至32℃の温度範囲において、結晶が析出し始めたり結晶が融けたりする温度領域(結晶混合帯域)を有していることを特徴としている。この蓄熱材の潜熱は約42kcal/hであるので前記416kcalの熱量を吸熱するために約10kg使用されている。
【0043】
なお、クッション素子1のサイズを比較的小さく(例えば50×50mm程度)形成し、厚さを5〜10mm程度として蓄熱材の充填量を増加させても良い。クッション素子1のサイズを小さくすることで弾力性を維持することができ、蓄熱材3の充填量を増加しても快適なクッション性が得られる。
【0044】
図7を参照し、前記蓄熱材(硫酸ナトリウム十水和物)を加熱したり冷却したりしたときの蓄熱材の温度変化の挙動について説明する。
【0045】
冬季の暖房の場合、硫酸ナトリウム十水和物を車内室温(15℃程度)から40℃にまで暖めた場合は、15℃から28℃近辺までは直線的、かつ急速に温度が上昇(顕熱による第一温度上昇)しているが、28℃近傍から温度上昇が極めて緩やかとなっている。この28度近傍から温度上昇が緩やかとなる帯域において、硫酸ナトリウム十水和物は結晶が徐々に溶解して液体となる相変化を起こし、その間に潜熱を蓄熱していき、このときの蓄熱量は約42kcal/kgである(結晶混合帯域t)。前記相変化が終わるまで前記蓄熱量が蓄えられる。そして結晶が液体となって蓄熱量が充足されると、即ち32℃近傍から再び直線的に温度が急上昇(顕熱による第二温度上昇)する。
【0046】
前記暖房と逆の過程については、硫酸ナトリウム十水和物を40℃から室温にまで放冷すると、40℃から32℃付近までは顕熱の放出により直線的で急速に温度低下(顕熱による第一温度低下)するが、32℃近傍からほとんど温度が低下しなくなるが、この現象は先に加熱されたときに蓄熱した潜熱を徐々に放出しているからであり、潜熱の放出に伴って結晶が徐々に析出する段階である(結晶混合帯域t)。液体が結晶となって潜熱を放出し終えると、28℃近傍から再び顕熱を放出して直線的に温度が低下する(顕熱による第二温度低下)。
【0047】
なお、前記硫酸ナトリウム十水和物中に金属繊維(ステンレス繊維あるいは防食被膜処理されたアルミニウム繊維等)を混入させて熱伝導性の向上を図ることもできる。
【0048】
即ち、本発明においては、前述した温度がほとんど変化しなくなる帯域、即ち結晶が消滅しつつある状態或いは結晶が析出しつつある状態である結晶混合帯域tと、前述の人体が快適に感ずる「至適温度」とが一致しているので、潜熱を利用して28℃で冷やし続けたり或いは32℃で暖め続けたりすることができるのである。
【0049】
このように構成された座席5は、図3に示すように運転者M1或いは同乗者M2といった乗員が腰掛けたときに人体の臀部と背中、大腿部(裏側)が座席5と密着し、この密着部分にて人体と蓄熱材3との熱の授受がなされる。
【0050】
夏季においては、座席は28℃程度に保たれており、座席に腰掛けた乗員は心地よいヒンヤリ感を感ずる。
【0051】
冬季においては、電熱体hの電源を入れて蓄熱材3を加熱し、この蓄熱材3が約40℃となったら電源を切り、蓄熱された潜熱によって座席表面が約32℃に暖められる。従って、座席5に腰掛けた乗員は心地よい暖かさを感ずることができる。
【0052】
(実施例2)
本実施例は車輌におけるキャビンはかなり狭く、一方このキャビンに対して座席が占有する体積が大きいことに注目し、更にはクッションパッドに充填した蓄熱材と空気との間においても熱の授受がなされることに注目したものである。
【0053】
図8に示すように、車輌Vのキャビンは、住宅のようにその内部で生活をすることが前提となっていないので、かなり狭い空間となっている。このキャビン20に設けられた座席5は運転時の心地よさや体の保持性、安定性の観点から事務用や家庭用の座席と比較してかなり大型となっており、前記キャビン20に占める体積大きくなっている。従って、座席に内蔵されている蓄熱材の割合も大きくなるので、蓄熱材が車内の熱を吸熱して冷却したり、或いは車内の空気に熱を付与して暖めたりすることができるのである。
【0054】
一般的な5人乗りの車輌V(乗用車)のキャビンは2.5〜3.0m程度となっており、このキャビンに設置されている座席の背当て部と座部とに設けられたクッションパッドの面積は1.4m程度である。単位体積当たりのクッションパッド面積は0.5程度となっており、前記クッションパッドPの蓄熱材が蓄熱していた潜熱を放出してキャビン20の空気を暖めたり、或いはクッションパッドPが吸熱してキャビン20の空気を冷却するようになっている。
【0055】
また、運転者1人で車輌を運転する場合は、運転者自身は運転席のクッションパッドにより快適な温度に保持され、キャビン20も快適な温度に保持される。運転席は運転者を至適温度に保ち、他の座席は車内の温度を至適温度にするのである。従って、乗車する際にも車内温度が快適温度となっており、座席に腰掛けても快適温度となっている。
【0056】
本実施例により、車輌のキャビンの温度が調節されるようになるので運転中にカーエアコンを使用する頻度が少なくなり省エネとなる。また、乗員がカーエアコンによる乾燥した空気によって呼吸器系を痛めてしまうことが防止される。また、座席による人体の温調作用と、キャビンの温調作用とがなされており、一層快適に過ごすことができるのである。
【0057】
なお、本実施例(図8)においては室温を調節することのできるクッションパッドを座席に設けた一例を示しているが、全ての座席に乗員が着席していてもキャビン内の温調ができるように天井やドア等にクッションパッドを設けることができる。
【0058】
また、本実施例においては蓄熱材を充填したクッションパッドと電熱体とを積層状態として使用する態様について説明したが、例えばヒーター付きの座席等にはクッションパッドのみを敷設して使用することもできる。
【0059】
(発明の効果)
1)上述のように、本発明に係るクッションパッドにより、従来の座席や座席等は使用者との間で熱の授受がなされることはなかったが、本発明に係る座席は蓄熱材と使用者とを実質的に密着させるので、使用者と蓄熱材との間で熱の授受が行われるようになっている。従って、夏季は使用者や運転者・乗員等から放出される熱を吸収し続けることで28℃で冷やし続け、一方の冬季では使用者等に蓄熱した潜熱を付与し続けることで32℃で暖め続けることができ、至適温度が保持されるのである。
【0060】
2)夏季においては28℃で人体を冷やし続け、冬季においては32℃で人体を暖め続けるので、カーエアコンのように空気が乾燥して呼吸器系を痛めてしまったり、人体に高温或いは低温の空気を直接吹き付けることがなくなり、快適な運転環境となる。また、夏季においてはエアコンからの冷たい風を直に浴びることによる体調不良や疲労感が軽減されたり、冬季においては暑すぎて頭がのぼせるようなことがない。
【0061】
3)また、蓄熱材は、人体の表面温度の30℃よりも少し高い温度に加熱するだけであるので、1座席あたり20W程度の小さい消費電力で十分である。
【0062】
4)更には、人体表面の約半分を占める背中と臀部とが座席に直接接触するのでエアコンを強力に使用することなく人体を快適に保つことができる。
【0063】
5)そして、キャビンの温調と、人体の温調とがなされるようになるので、より一層快適に過ごすことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係るクッションパッドを用いた座席である。
【図2】本発明に係るクッションパッドを用いた座席の側断面図である。
【図3】本発明に係るクッションパッドを用いた座席を備えた車輌に乗員が乗車している状態を示す図である。
【図4】本発明に係るクッションパッドと電熱体の断面図である。
【図5】本発明に係るクッションパッドの断面図である。
【図6】本発明に係るクッションパッドの図である。(イ)座部のクッションパッドの平面図、(ロ)背当て部のクッションパッドの平面図、(ハ)座部のクッションパッドの裏面図、(ニ)背当て部のクッションパッドの裏面図。
【図7】蓄熱材の温度特性を示す図である。(A)は冷却状態と加熱状態にあるもの、(B)は加熱状態、(C)は冷却状態を示す。
【図8】本発明に係るクッションパッドを車輌のキャビンに配置した状態を示す概略図である。
【符号の説明】
【0065】
P クッションパッド
h 電熱体
M1 乗員(運転者)
M2 乗員(同乗者)
s スリット(切断線)
t 結晶混合帯域
1 クッション素子
1a 間仕切り(熱圧着部)
1c シール
3 蓄熱材
5 座席(座席)
5a 頭部
5b 背当て部
5c 座部
6a,6b 発泡材
7a,7b カバー
8a,8b サイドサポート
9 電極
12,13 袋体
12a,12b 袋部
20 キャビン(居住空間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輌用の座席の少なくとも人体と直接接触する部分に蓄熱材を充填したクッションパッドと、このクッションパッドの裏面に電熱体を積層状態に設け、
前記クッションパッドは、少なくとも内面が熱圧着性を有する袋体に使用状態で液状の潜熱形蓄熱材が充填され、前記袋体の表裏面が格子状に熱圧着されて前記蓄熱材が分断され、蓄熱材入りの独立した小体積のクッション素子が形成され、このクッション素子が複数個連結して形成されていることを特徴とする車輌用の座席。
【請求項2】
前記車輌用の座席は背当て部と座部とを有しており、この背当て部と座部の人体に直接接触する部分に前記クッションパッドと、このクッションパッドの裏面に電熱体を積層状態に設けたことを特徴とする車輌用の座席。
【請求項3】
前記クッションパッドを構成する多数の分離されたクッション素子は、その上に腰掛けた人体をクッション素子に充填された蓄熱材が発生する内圧力によって弾性力を発生して支持するように構成したことを特徴とする請求項1又は2記載の車輌用の座席。
【請求項4】
前記潜熱形蓄熱材は、28℃乃至32℃の温度範囲で潜熱を吸収し、或いは蓄熱していた潜熱を放出する特性を有する材料が使用されていることを特徴とする請求項1又は2記載の車輌用の座席。
【請求項5】
前記潜熱形蓄熱材は、28℃乃至32℃の温度範囲で車輌のキャビン内の熱を吸収し、或いは蓄熱していた潜熱をキャビン内に放出してこのキャビン内の温度を調節できるように座席や側壁或いは天井等の一部として使用されていることを特徴とする請求項1又は2記載の車輌用の座席。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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