説明

人体用害虫忌避剤

【課題】害虫忌避効果の持続性や人体への安全性が高いことはもちろん、塗布する際に薬剤を吸い込む恐れがなく、使用性に優れた固形状の人体用害虫忌避剤の提供。
【課題の解決手段】(a)害虫忌避成分、(b)前記害虫忌避成分を溶解するC2〜C6のアルコール及び/又はグリコール、(c)C10〜C22の脂肪酸から選ばれる2種以上とアルカリ水溶液とで鹸化された石鹸ペーストからなる固形組成物である人体用害虫忌避剤。好ましくは、(c)C10〜C22の脂肪酸から選ばれる2種以上は、C10〜C18の脂肪酸から選ばれる1種又は2種以上とC19〜C22の脂肪酸から選ばれる1種又は2種以上であり、更に好ましくは、C18の脂肪酸とC10〜C17の脂肪酸から選ばれる1種又は2種とC19〜C22の脂肪酸から選ばれる1種又は2種の混合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蚊、ブヨ、サシバエ、イエダニ、ナンキンムシ等の害虫から人体を守るための人体用害虫忌避剤に関する。更に詳しくは、害虫忌避効果の持続性や人体への安全性にすぐれることはもちろん、塗布する際に薬剤を吸い込む恐れがなく、使いやすい固形状の人体用害虫忌避剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、害虫忌避剤としては、使用法が簡便なエアゾールタイプが主流であるが、害虫忌避成分を微粒子にして皮膚面に噴霧するため、薬剤を吸い込む恐れがあり、鼻粘膜に刺激を感じる人も多い。また、塗布面の塗りむらを生じて薬剤の付着していない部分ができやすく、蚊はこの僅かな部分を敏感に感知し吸血行動を起こす。このため、塗りむらがなく、薬剤の飛散しにくい塗布タイプの害虫忌避剤を求めるニーズが増加傾向にある。
かかる現状からゲル状害虫忌避剤が種々検討されているが、ゲル状害虫忌避剤を皮膚に塗布するにあたっては、内容物を手の平にとってから腕や足などの皮膚に塗り延ばすか、又は腕や足などの皮膚の一部に内容物を吐出後、手の平で皮膚全面に塗り延ばす必要があり、エアゾールタイプと比べて使い易い製剤とは言い難い。
【0003】
ところで、実開平6−30103号公報には、害虫忌避剤含有スティックの記載があり、固形組成物を容器から吐出させて皮膚に塗布できることが提案されている。そして、該公報の具体例では、乳剤状の忌避成分もしくはこれを無機質中空多孔性粒子に内包させたものを、ステアリン酸石鹸に混合分散させた固形組成物が開示されている。しかしながら、例えば常温で液体状を呈する害虫忌避成分に前記開示技術を適用した場合、固化程度の調整がうまくいかなかったり、あるいは固形組成物の耐熱性が劣るという不都合があり、使用性の点で十分満足できるものが得られなかった。
【特許文献1】実開平6−30103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、害虫忌避効果の持続性や人体への安全性が高いことはもちろん、塗布する際に薬剤を吸い込む恐れがなく、使用性に優れた固形状の人体用害虫忌避剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は以下のような構成を採用する。
(1)(a)害虫忌避成分、(b)前記害虫忌避成分を溶解するC2〜C6のアルコール及び/又はグリコール、(c)C10〜C22の脂肪酸から選ばれる2種以上とアルカリ水溶液とで鹸化された石鹸ペーストからなる固形組成物である人体用害虫忌避剤。
(2)(c)C10〜C22の脂肪酸から選ばれる2種以上が、C10〜C18の脂肪酸から選ばれる1種又は2種以上と、C19〜C22の脂肪酸から選ばれる1種又は2種以上である(1)記載の人体用害虫忌避剤。
(3)(c)C10〜C22の脂肪酸から選ばれる2種以上が、C18の脂肪酸と、C10〜C17の脂肪酸から選ばれる1種又は2種と、C19〜C22の脂肪酸から選ばれる1種又は2種である(2)記載の人体用害虫忌避剤。
(4)C18の脂肪酸がステアリン酸、C10〜C17の脂肪酸から選ばれる1種がラウリン酸、C19〜C22の脂肪酸から選ばれる1種がベヘニン酸である(3)記載の人体用害虫忌避剤。
(5)(a)害虫忌避成分が、ディート、3−(N−n−ブチル−N−アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、p−メンタン−3,8−ジオール及び1−メチルプロピル 2−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペリジンカルボキシラートから選ばれる1種又は2種以上である(1)ないし(4)のいずれか記載の人体用害虫忌避剤。
(6)更に、(d)前記C2〜C6のアルコール及び/又はグリコールに可溶なシリコーン組成物を配合する(1)ないし(5)のいずれか記載の人体用害虫忌避剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明の人体用害虫忌避剤は、害虫忌避効果の持続性や人体への安全性が高いことはもちろん、塗布する際に薬剤を吸い込む恐れがなく、内容物を手の平にとって皮膚に塗り延ばす必要もない。また、使用性にすぐれ、しかも、石鹸であるため、水洗除去が可能で、衣服にシミや汚れが残らないというメリットも有し、その実用性は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いる(a)害虫忌避成分としては、害虫に対して忌避作用あるいは吸血阻害作用を有する合成あるいは天然の各種化合物が挙げられ、常温で液体状を呈するものが一般的である。例えば、ディート、3−(N−n−ブチル−N−アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル[以降、IR3535と略称する]、p−メンタン−3,8−ジオール、1−メチルプロピル 2−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペリジンカルボキシラート[以降、ピカリジンと略称する]、シトロネラール、シトロネロール、シトラール、リナロール、テルピネオール、メントール、α―ピネン、ゲラニオール、カランー3,4−ジオールなどを例示できる。更に天然物としては、桂皮、シトロネラ、レモングラス、クローバ、ベルガモット、月桂樹、ユーカリなどから採れる精油、抽出液などを例示でき、これらの1種または2種以上を選択して用いることができる。上記化合物及び天然物のなかでは、ディート、IR3535、p−メンタン−3,8−ジオール及びピカリジンが好ましい。例えば、ディートは長年にわたる使用実績があり、また、IR3535はディートとほぼ同等の忌避効果を有し、ディートよりも水に溶けやすいので本発明の人体用害虫忌避剤により適した害虫忌避成分といえる。
害虫忌避成分は各薬剤の忌避効力等により異なるが、本発明で用いる人体用害虫忌避剤全体量に対して1〜25重量%、好ましくは5〜20重量%配合される。
【0008】
(b)前記害虫忌避成分を溶解するC2〜C6のアルコール及び/又はグリコールとしては、エタノールやイソプロパノールのようなアルコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、イソプレングリコール等のグリコールが代表的である。エタノールを用いる場合、肌への作用が緩和で、かつ食品用として一般的な醸造エタノールが好ましい。なお、(b)の成分は、人体用害虫忌避剤全体量中に、好ましくは10〜40重量%配合される。
【0009】
本発明は、石鹸ペーストを構成する脂肪酸として、(c)C10〜C22の脂肪酸から選ばれる2種以上を用いたことに特徴を有する。すなわち、実開平6−30103号公報の害虫忌避剤含有スティックではステアリン酸のみを主体としていたのに対し、本発明のように、(A)常温で液体の害虫忌避成分を用いた場合には、(c)C10〜C22の脂肪酸から選ばれる2種以上、好ましくは、C10〜C18の脂肪酸から選ばれる1種又は2種以上とC19〜C22の脂肪酸から選ばれる1種又は2種以上、更に好ましくは、C18の脂肪酸とC10〜C17の脂肪酸から選ばれる1種又は2種とC19〜C22の脂肪酸から選ばれる1種又は2種を選択することによって、特に石鹸ペーストの固さの調節や耐熱性の改善の面で有利となることを新たに知見するに至ったものである。
【0010】
18の脂肪酸としてはステアリン酸、オレイン酸などがあり、C10〜C17の脂肪酸としてはラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸などがあげられる。また、C19〜C22の脂肪酸としてはツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸などが代表的であるがこれらに限定されない。
(c)C10〜C22の脂肪酸の配合量は、C10〜C17の脂肪酸、C18の脂肪酸及びC19〜C22の脂肪酸をそれぞれ人体用害虫忌避剤全体量に対して1.0〜10重量%の範囲で適宜組み合わせて決定すればよい。なお、C10〜C17の脂肪酸は石鹸ペーストの固さを調節するうえで効果的であり、一方、C19〜C22の脂肪酸の配合は耐熱性の改善に役立つ。
【0011】
本発明では、前記脂肪酸とアルカリ水溶液とで鹸化された石鹸ペーストを形成する。アルカリ水溶液としては、約50%の水酸化ナトリウム水溶液や約50%の水酸化カリウム水溶液があげられ、脂肪酸の使用量に相応するアルカリ水溶液が配合される。
【0012】
本発明の人体用害虫忌避剤は、塗布した皮膚にスベスベ感を付与するために、更に(d)前記C2〜C6のアルコール及び/又はグリコールに可溶なシリコーン組成物を配合してもよい。
【0013】
また、本発明の人体用害虫忌避剤には、本発明の趣旨を損なわない限り、例えば上記組成物の安定性を高めたり、使用感を更に良くしたりするために、必要に応じて、キサンタンガムやヒドロキシプロピルセルロース等の増粘剤、パラオキシ安息香酸ブチル等の安定剤、紫外線吸収剤や紫外線散乱剤、消炎剤、制汗剤、あるいは保湿剤、界面活性剤、分散剤、香料等の添加剤や補助剤を、組成物の安定性等に影響を及ぼさない範囲で配合することができる。
【0014】
紫外線吸収剤や紫外線散乱剤としては、パラアミノ安息香酸、アミルサリシネート、オクチルシンナメート、メトキシ桂皮酸オクチル、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、酸化チタン、酸化亜鉛等があげられ、消炎剤としては、グリチルリチン酸ジカリウム、アラントイン、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、酢酸トコフェロール、カンフル等を、また制汗剤としては、硫酸アルミニウム、クロルヒドロキシアルミニウム、フェノールスルホン酸亜鉛等を例示できる。更に、透明感を損なわない程度に、無水ケイ酸、タルク等の無機粉末、変性デンプン、シルクプロテイン等の有機粉末、あるいは無機及び/又は有機粉末をベースとした光沢材を配合してもよい。
【0015】
本発明の人体用害虫忌避剤を調製するにあたっては、(a)害虫忌避成分、(b)C2〜C6のアルコール及び/又はグリコール、(c)C10〜C22の脂肪酸から選ばれる2種以上とアルカリ水溶液、及び水や添加成分を60〜80℃で均一に混合・分散させる。得られた粘稠液をプラスチック製のスティック容器内に注入し、常温まで冷却して石鹸ペースト状の固形組成物を得ることができる。
【0016】
こうして得られた本発明の人体用害虫忌避剤は、塗布する際に薬剤を吸い込む恐れがなく、内容物を手の平にとって皮膚に塗り延ばす必要もない。また、使用性にすぐれ、しかも、石鹸であるため、水洗除去が可能で、衣服にシミや汚れが残らないというメリットも有している。そして、蚊、ブヨ、サシバエ、イエダニ、ナンキンムシ等の刺咬害虫に対して極めて高い害虫忌避効果を示すので、その実用性は極めて高い。
【0017】
次に具体的な実施例ならびに試験例に基づき、本発明の人体用害虫忌避剤について更に詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
ステアリン酸3.0g、ラウリン酸3.5g及びベヘニン酸5.5gにイソプレングリコール30gを加え70℃に加温して溶融させ、これに48%水酸化ナトリウム水溶液3.6gを添加して鹸化した。この混合物に、p−メンタン−3,8−ジオール20g、球状シリカ5.0g、パラオキシ安息香酸ブチル0.1g、脱イオン水約30gを加え、よく混合・分散させた。得られた粘稠液30gをプラスチック製のスティック容器内に注入し、常温まで冷却して石鹸ペースト状の本発明の人体用害虫忌避剤を得た。
【0019】
この人体用害虫忌避剤は、60℃の条件下に1ケ月間保存しても石鹸ペースト状態が変質することがなく耐熱性にすぐれた。
夏季の晴天日に、本品約3gを片腕の1箇所に塗布して実使用に供した。その際、固形組成物は固すぎたり柔らかすぎたりすることがなく、使用感のよいペースト状態であった。本品は、石鹸であるため安心して使用することができ、約4時間にわたり害虫忌避効果を保持した。また、使用後の塗布部残渣の除去も水洗いで十分で簡単であった。
【実施例2】
【0020】
実施例1に準じて表1に示す各種人体用害虫忌避剤を調製し、下記に示す試験を行った。
(1) 耐熱性
供試害虫忌避剤を60℃の条件下に1ケ月間保存し、変質しないかどうかを調べた。結果を、○(変質が殆どなし)、△、×(ペーストの崩壊など明らかに変質が認められる)で示した。
(2)使用感
片腕の1箇所に約3g塗布した際、ペースト状態の固さや塗り延ばしやすさなどの使用感を評価した。結果を、〇(固さが適当で塗りやすい)、△、×(固すぎ、又は柔らかすぎて使用感が悪い)で示した。
(3)害虫忌避効果
蚊に対する害虫忌避効果の持続時間を観察した。○(4時間以上)、△(2〜4時間)、×(2時間未満)で示した。
【0021】
【表1】





【0022】
本発明の人体用害虫忌避剤は、保存時の耐熱性、塗布時におけるペースト状態の固さや塗り延ばしやすさなどの使用感、害虫忌避効果のいずれにおいても優れ、実用性の高いものであった。なお、実施例1〜3及び比較例1の評価からみて、C19〜C22の脂肪酸の配合は耐熱性の改善に有効であり、一方、C10〜C17の脂肪酸は石鹸ペーストの固さを調節するうえで効果的なことが確認された。
これに対し、脂肪酸がステアリン酸のみ(比較例1)では、耐熱性や使用感が劣り、また、比較例2のように、C19〜C22の範囲を超えた脂肪酸(C28:メリシン酸)を配合しても耐熱性の改善に繋がらなかった。更に、比較例3の如く、C2〜C6のアルコール及び/又はグリコールの範囲から外れた溶剤の使用は、好ましくなかった。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の人体用害虫忌避剤は、人体用の害虫忌避用途だけでなく、殺虫・殺ダニ用や殺菌・抗菌用、あるいは消臭・防臭用途等にも利用できる可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)害虫忌避成分、(b)前記害虫忌避成分を溶解するC2〜C6のアルコール及び/又はグリコール、(c)C10〜C22の脂肪酸から選ばれる2種以上とアルカリ水溶液とで鹸化された石鹸ペーストからなる固形組成物であることを特徴とする人体用害虫忌避剤。
【請求項2】
(c)C10〜C22の脂肪酸から選ばれる2種以上が、C10〜C18の脂肪酸から選ばれる1種又は2種以上と、C19〜C22の脂肪酸から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1記載の人体用害虫忌避剤。
【請求項3】
(c)C10〜C22の脂肪酸から選ばれる2種以上が、C18の脂肪酸と、C10〜C17の脂肪酸から選ばれる1種又は2種と、C19〜C22の脂肪酸から選ばれる1種又は2種であることを特徴とする請求項2記載の人体用害虫忌避剤。
【請求項4】
18の脂肪酸がステアリン酸、C10〜C17の脂肪酸から選ばれる1種がラウリン酸、C19〜C22の脂肪酸から選ばれる1種がベヘニン酸であることを特徴とする請求項3記載の人体用害虫忌避剤。
【請求項5】
(a)害虫忌避成分が、ディート、3−(N−n−ブチル−N−アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、p−メンタン−3,8−ジオール及び1−メチルプロピル 2−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペリジンカルボキシラートから選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか記載の人体用害虫忌避剤。
【請求項6】
更に、(d)前記C2〜C6のアルコール及び/又はグリコールに可溶なシリコーン組成物を配合することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか記載の人体用害虫忌避剤。

【公開番号】特開2009−1501(P2009−1501A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161116(P2007−161116)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【出願人】(000236584)不易糊工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】