説明

人員搬送用コンベヤベルト

【課題】送り焼きによる加硫が実施されて形成され、帆布露出部がベルト内周側に形成されている人員搬送用コンベヤベルトの製品寿命を長期化させる。
【解決手段】帆布41として、人員搬送用コンベヤベルト10の内周長よりも長さの短い帯状の帆布41が複数枚用いられており、人員搬送用コンベヤベルト10の内周面側に前記帯状帆布41がベルト周方向に間隙部を設けて備えられることにより、前記帆布露出部がベルト周方向に不連続状態で延在されて形成されており、しかも、前記間隙部が前記焼き境部に位置された状態に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人員搬送用ベルトコンベヤ装置に用いられる人員搬送用コンベヤベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、“動く歩道”や“ムービングウォーク”などと呼ばれる人員搬送用ベルトコンベヤ装置が広く用いられている。
図5(a)〜(c)は、従来の人員搬送用ベルトコンベヤ装置の一例を示しており、図5(a)は、その側面視を示す概略図である。
この図5(a)に示すように、従来の人員搬送用ベルトコンベヤ装置は、無端ベルト状に形成された人員搬送用コンベヤベルト10xがプーリ間に掛け渡されて用いられている。
そして同図において人員搬送用コンベヤベルト10xは、駆動プーリAxと従動プーリBx、ならびに、この駆動プーリAxと従動プーリBxとの間に所定間隔で配されている複数の支持ローラCxに掛け渡された状態で用いられており、この駆動プーリAxの回転に伴って周回運転されてベルト上面側に人員を載せて搬送すべく人員搬送用ベルトコンベヤ装置に備えられている。
【0003】
図5(b)は、従来の人員搬送用ベルトコンベヤ装置の人員搬送区間中間部分の断面(図5(a)Y−Y’線矢視断面)を表す部分断面図である。
この図に示すように、前記支持ローラCxは、人員搬送用コンベヤベルト10xの幅方向両端部をその内周面側から支持すべく備えられている。
そして、この人員搬送用コンベヤベルト10xのベルト幅が広くなると搬送する人員の重量などによりベルト幅方向中央部が下方に撓みやすくなり、利用者の使用感を低下させるおそれがあることから、従来の人員搬送用ベルトコンベヤ装置には、人員搬送用コンベヤベルト10xのベルト幅方向中央部下方に板状あるいは棒状の支持部材Exが備えられてベルトの撓みが抑制されたりしている。
この板状や棒状の支持部材Exは、通常、人員搬送用ベルトコンベヤ装置の人員搬送方向に沿って延在されており、人員搬送用コンベヤベルト10xの内周面に下方から上方に向けて当接されるべく備えられている。したがって、通常、人員搬送用コンベヤベルト10xの周回運転時には、この支持部材Exと人員搬送用コンベヤベルト10xの内周面とが摺接する状態となっている。
【0004】
ところで、通常、この人員搬送用コンベヤベルト10xは、ゴムが用いられて形成されており、例えば、図5(c)に示すような構造を有している。
すなわち、同図において20xは上カバーゴム層、40xは下カバーゴム層、30xは中間ゴム層を示している。
この人員搬送用コンベヤベルト10x内部には、長手方向に延びる心体スチールコード31xと、ベルト幅方向の撓みを抑制させる幅方向補強体32xとが埋設されて人員搬送用コンベヤベルト10xの長手方向と幅方向とが補強され、駆動プーリAxによって加えられる張力(搬送動力)や、人員の荷重に対して十分な強度を備えるべく構成されている。
そして、上記に説明したような、人員搬送用コンベヤベルト10xの内周面に摺接される支持部材Exを有する人員搬送用ベルトコンベヤ装置に用いられる場合には、人員搬送用コンベヤベルト10xに加えられる張力を低減させて搬送動力が低減できるとともに支持部材Exによる摩耗を抑制することができ、人員搬送用コンベヤベルト10xの運転コストの低減と長寿命化を図ることができることから、周回運転時における人員搬送用コンベヤベルト10xと支持部材Exとの接触抵抗を低減させるべく、下カバーゴム層40xの形成に用いられているゴムよりも摩擦係数の小さな部材が用いられて支持部材Exとの摺接個所が形成されている。
【0005】
この図5に例示の人員搬送用コンベヤベルト10xでは、下カバーゴム層40xの一部が、この下カバーゴム層40xのゴムよりも摩擦係数の小さな帆布41xを用いて形成されている。従来の人員搬送用コンベヤベルト10xでは、この帆布41xを用いる場合、通常、ベルト周長と略同一長さの一枚の帯状の帆布が用いられて人員搬送用コンベヤベルト10xの内周全長に渡って帆布を露出させた帆布露出部が形成されている。
【0006】
また、例えば、特許文献1には、人員搬送用コンベヤベルト10xの内周面側に支持部材Exに嵌合させるべく溝を形成し、しかも、この溝と支持部材Exとを嵌合させた状態で人員搬送用コンベヤベルト10xを周回可能とすべく溝をベルト全周にわたって連続的に形成させ、さらに溝内全体にポリテトラフロロエチレン製ライナーを配することが記載されている。
【0007】
この人員搬送用コンベヤベルト10xは、例えば、図5(c)におけるスチールコード31xよりも上側部分と、下側部分とがそれぞれ未加硫状態のゴムにより長尺帯状の部材形状に形成された後にスチールコード31xを挟んで熱プレス機により加硫一体化されるなどして製造されている。
この人員搬送用コンベヤベルト10xのベルト長は、通常、加硫に用いる熱プレス機の熱盤寸法に比べて数倍以上の長さを有することから、この人員搬送用コンベヤベルト10xの製造においては、例えば、特許文献2に記載されているような送り焼きによる加硫が行われたりしている。
この送り焼きは、未加硫状態の帯状ゴム部材を端から順次熱プレス機の熱盤で加圧してゆくことにより全体の加硫を実施する方法であり、この送り焼きにおいては、通常、一回の熱プレスにおいて供給する帯状ゴム部材の供給長さ(送り長さ)を熱プレス機の熱盤長さよりも短くして、帯状ゴム部材が供給される熱盤入り口側で一旦熱プレスされた部分を、熱盤出口側で再び熱プレスさせて熱プレスがなされない個所が生じることが防止されている。
したがって、通常、送り焼きにより加硫された後の帯状ゴム部材には、加硫に用いられた熱プレスの熱盤長さの間隔で、二度の熱プレスが実施された焼き境部と呼ばれる部分が複数形成されている。
【0008】
このような従来の人員搬送用コンベヤベルト10xにおいては、上記に説明したように人員を快適に搬送することのみならず、低動力で使用でき、製品寿命の長いものが求められているが、特に、帆布露出部がベルト内周側に形成されている人員搬送用コンベヤベルト10xがこの送り焼きによって加硫されて製造されている場合には、支持部材Exに摺接される個所に用いられている帆布41xが剥離しやすいという問題を有している。
この帆布41xの剥離が生じた人員搬送用コンベヤベルト10xは、剥離状態の帆布がプーリなどに巻き込まれてしまうおそれがあることから、それ以上の使用を取りやめるか、あるいは、補修するかしなければならず、いずれにせよ剥離を生じさせないものに比べその製品寿命が短いものとなる。また、このことに対する対策方法についても確立されてはいない。
すなわち、送り焼きによる加硫が実施されて形成され、帆布露出部がベルト内周側に形成されている従来の人員搬送用コンベヤベルトにおいては、製品寿命が短くなることを防止することが困難であるという問題を有している。
【特許文献1】特開2003−292275号公報
【特許文献1】特開平6−15740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、送り焼きによる加硫が実施されて形成され、帆布露出部がベルト内周側に形成されている人員搬送用コンベヤベルトの製品寿命を長期化させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、送り焼きによる加硫が実施されて形成され、帆布露出部がベルト内周側に形成されている人員搬送用コンベヤベルトにおける帆布の剥離について鋭意検討を行った結果、帆布が、特に、焼き境部において切断され易く、この切断にともなって帆布の剥離が生じ易くなっていることを見出し、本発明の完成に到ったのである。
【0011】
すなわち、本発明は、前記課題を解決すべく、人員搬送用ベルトコンベヤ装置のプーリに掛け渡されて用いられ、該掛け渡された状態で周回運転されて人員の搬送に用いられるべく無端ベルト形状に形成されており、未加硫ゴムが用いられて帯状に形成された部材が熱プレス機で送り焼きされてゴムの加硫が実施されることにより焼き境部がベルト周方向に間隔を設けて複数形成されており、しかも、無端ベルト形状内周面側には、帆布が露出された状態で備えられ、前記帆布が露出された帆布露出部がベルト周方向に延在された状態に形成されている人員搬送用コンベヤベルトであって、前記帆布として、人員搬送用コンベヤベルトの内周長よりも長さの短い帯状の帆布が複数枚用いられており、人員搬送用コンベヤベルトの内周面側に前記帯状帆布がベルト周方向に間隙部を設けて備えられることにより、前記帆布露出部がベルト周方向に不連続状態で延在されて形成されており、しかも、前記間隙部が前記焼き境部に位置された状態に形成されていることを特徴とする人員搬送用コンベヤベルトを提供する。
【0012】
なお、本明細書中における“焼き境部”との用語は、送り焼きにより熱プレス機で2回以上の熱プレスが実施された個所を意図しており、通常、この“焼き境部”と“焼き境部以外の部分”とは、表面の艶や摩擦係数の違いにより区別することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の人員搬送用コンベヤベルトにおける帆布露出部は、複数の帯状帆布がベルト周方向に間隙部を設けて人員搬送用コンベヤベルトの内周側に備えられることによりベルト周方向に不連続状態で延在されており、しかも、前記間隙部を前記焼き境部に位置させている。
すなわち、帆布の切断が生じ易い焼き境部に帆布の無い間隙部が位置されていることから、本発明によれば、帆布の切断ならびにそれにともなう帆布の剥離を抑制させることができ、人員搬送用コンベヤベルトの製品寿命を長期化させ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について(添付図面に基づき)説明する。
【0015】
まず、図1を参照しつつ、人員搬送用ベルトコンベヤ装置と、この人員搬送用ベルトコンベヤ装置に用いられる人員搬送用コンベヤベルトについて説明する。
図1(a)は、人員搬送用ベルトコンベヤ装置の側面視を示す概略図である。
また、図1(b)は図1(a)中のX−X’線矢視断面を示す人員搬送用ベルトコンベヤ装置の部分断面図である。
また、図1(c)は、人員搬送用コンベヤベルトの断面構成を示す図である。
【0016】
この図1(a)において10は人員搬送用コンベヤベルトであり、この人員搬送用コンベヤベルト10は、通常、数十cmあるいは1m以上のベルト幅を有し、数十mあるいは100m以上の周長の無端ベルト形状に形成されており、人員搬送区間の終端部分に設けられた駆動プーリAと人員搬送区間の開始地点に設けられた従動プーリBとの間に掛け渡されており、さらに、この駆動プーリAと従動プーリBとの間に所定の間隔で設けられた複数の支持ローラCにも掛け渡されて用いられている。
【0017】
この駆動プーリA、従動プーリBおよび支持ローラCは、その回転軸を互いに平行に配し、それぞれの上端部が垂直方向略同一位置となるよう人員搬送用ベルトコンベヤ装置に備えられている。
したがって、この駆動プーリA、従動プーリBおよび支持ローラCに掛け渡された状態の人員搬送用コンベヤベルト10は、その上側部分が略水平に支持されており、人員搬送用ベルトコンベヤ装置おいては、この水平に保持された人員搬送用コンベヤベルト10の上側部分を人員の搬送に用いる搬送側10aとし、下側を返送側10bとしている。
【0018】
この人員搬送用ベルトコンベヤ装置おいては、この支持ローラCは、図1(b)にも示すように人員搬送用コンベヤベルト10の搬送側10aをそのベルト幅方向両端部で支持すべく、対をなしてベルト幅方向端部に備えられている。
この支持ローラCは、人員搬送用コンベヤベルト10の内周面側から人員搬送用コンベヤベルト10にローラ外周面を当接させて備えられている。
また、この支持ローラCは、人員搬送用コンベヤベルト10が周回運転された際に、人員搬送用コンベヤベルト10と当接されている上端部を人員搬送用コンベヤベルト10の移動方向に移動させるべく回転可能な状態で人員搬送用ベルトコンベヤ装置に備えられている。
【0019】
また、この人員搬送用ベルトコンベヤ装置には、駆動プーリAと従動プーリBとの間にわたって延在された支持部材Eが備えられている。
この支持部材Eは、人員搬送用コンベヤベルト10の搬送側10aを人員搬送用コンベヤベルト10の内周面側から上方に向けて支持すべく備えられており、ベルト幅方向中央部のたわみを防止すべくベルト幅方向中央部に備えられている。
支持部材Eは、人員搬送用コンベヤベルト10の内周面側に当接される上端部をベルト幅方向中央部に位置させて駆動プーリAと従動プーリBとの間に人員搬送方向に沿って延在されている。
この支持部材Eは、その延在されている区間において上端部が垂直方向に略同一位置となるように形成されており、しかもこの支持部材E上端部の垂直方向の位置は、駆動プーリA、従動プーリBおよび支持ローラCの上端部と略同一位置とされている。
また、この支持部材Eの上端部は、通常、数十mmの幅を有する平面形状に形成されており、この支持部材Eの上端部には、数十mm幅で、駆動プーリAと従動プーリBとの間の距離と略同等長さの平面領域E1が形成されている。
【0020】
このように人員搬送用ベルトコンベヤ装置においては、人員搬送用コンベヤベルト10の搬送側10aが、支持ローラCと支持部材Eとによりベルト幅方向両端部と中央部とが支持されている。
【0021】
一方、人員搬送用コンベヤベルト10の返送側10bは、支持プーリDにより支持されている。
この支持プーリDは、返送側10bの下側から人員搬送用コンベヤベルト10の外周面に当接され、返送側10bを上方に向けて支持すべく人員搬送用ベルトコンベヤ装置に備えられている。
【0022】
次いで、このような人員搬送用ベルトコンベヤ装置に用いられる人員搬送用コンベヤベルト10について、さらに詳しく説明する。
【0023】
本実施形態における、人員搬送用コンベヤベルト10は、未加硫ゴムが用いられて帯状に形成された部材が熱プレス機で送り焼きされてゴムの加硫が実施されることにより前記熱プレス機で二度以上の加硫が実施された焼き境部がベルト周方向に間隔を設けて複数形成された無端ベルト形状を有している。
この送り焼きの方法などの人員搬送用コンベヤベルト10の製造方法については、後段において詳述する。
【0024】
この人員搬送用コンベヤベルト10は、外周面側を構成する上カバーゴム層20と、内周面側を構成する下カバーゴム層40と、それらの間の中間ゴム層30とを有して形成されている。
上カバーゴム層20は、人員搬送面となる外周面側に、人員搬送方向に延在する複数条の線状突起21を有するように形成されている。
【0025】
中間ゴム層30には、厚み方向中央部に、本実施形態の人員搬送用コンベヤベルト10にベルト周方向の抗張力を付与すべく、ベルト周方向に沿って延在された状態で人員搬送用コンベヤベルト10の心体となる心体スチールコード31が複数本埋設されており、さらに、人員搬送用コンベヤベルト10のベルト幅方向のたわみを抑制すべく、ベルト幅方向に沿って延在された複数本のスチールコード(幅方向補強体32)が心体スチールコード31の内周面側と外周面側との両方に埋設されている。
この複数本の心体スチールコード31は、ベルト幅方向に所定間隔を設けてベルト周方向に沿って延在された状態で中間ゴム層に備えられている。
幅方向補強体32は、心体スチールコード31の外周面側と内周面側とに2箇所に備えられており、この2箇所に設けられた幅方向補強体32は、ベルト周方向に所定間隔を設けてベルト幅方向に沿って延在された状態で中間ゴム層に備えられている。
【0026】
下カバーゴム層40は、その内周面側に前記支持部材Eとの摺接個所に相当する位置に帆布41(以下「スライダー帆布41」ともいう)が備えられて形成されている。
また下カバーゴム層40は、このスライダー帆布41を人員搬送用コンベヤベルト10の内周面側に露出させた状態に形成されている。
図2は、人員搬送用コンベヤベルト10を内周面側からの正面視を示す正面図であり、この図2にも示されているように、スライダー帆布41は、前記支持部材Eとの摺接個所となる人員搬送用コンベヤベルト10のベルト幅中央部分に備えられている。
また、この下カバーゴム層40のスライダー帆布41としては、人員搬送用コンベヤベルト10に形成されている焼き境部50の間の領域のベルト周方向長さ(L1)と同等の長さを有し、前記支持部材Eの平面領域E1幅よりもわずかに広幅な帯状のスライダー帆布41が複数枚用いられており、それぞれの帯状のスライダー帆布41がその全面を露出させた状態で、二つの焼き境部50に挟まれた領域に配されている。
また、この複数の帯状のスライダー帆布41は、上記のようにベルト幅方向中央部に備えられていることから、人員搬送用コンベヤベルト10の内周面側には、帯状スライダー帆布41が露出されている帆布露出部Sがベルト周方向に不連続に延在された状態で形成されている。
そして、この下カバーゴム層40における、二つの帯状スライダー帆布41の間に形成された間隙部M、すなわち、スライダー帆布41が備えられていない部分に焼き境部50が位置されている。
【0027】
なお、帯状のスライダー帆布41の長さを焼き境部間の寸法(L1)よりもさらに短いものとすることも可能ではあるが、その場合には、人員搬送用コンベヤベルト10の内周長に占める間隙部Mの割合が大きくなってしまうため、支持部材Eとの接触抵抗が増大されてしまうこととなる。
このような点において、人員搬送用コンベヤベルト10のベルト内周長における前記間隙部Mの長さの割合、すなわち、人員搬送用コンベヤベルト10のベルト内周長を100%としたときの、人員搬送用コンベヤベルト10に形成されている間隙部Mのベルト周方向の長さ(L2)の総合計が25%以下となるよう形成されていることが好ましい。
【0028】
そして、この帯状のスライダー帆布41が、人員搬送用コンベヤベルト10の焼き境部50間に配され、前記間隙部Mが焼き境部50に配された状態で人員搬送用コンベヤベルト10の内周面側に帆布露出部Sと間隙部Mとが形成されている。
【0029】
このスライダー帆布41の材質は、特に、限定されるものではないが、例えば、綿、ポリエステル、ポリアミドなどの材質のものをあげることができる。
なお、このスライダー帆布41としては、人員搬送用ベルトコンベヤ装置において人員搬送用コンベヤベルト10の外周面側に当接される支持プーリDなどプーリの内、最小径のプーリに対して、下記の式を満足させるものであることが好ましい。
B>{t2÷(R+t1)}×100
ここで、EBは、帆布の破断伸び(%)であり、t1は、ベルト心体の中心部から外周面に至る部分の厚み(mm)である。
また、t2は、ベルト心体の中心部から内周面に至る部分の厚み(mm)であり、Rは、人員搬送用コンベヤベルト10の外周面側に当接されるプーリの内、最小径のプーリの半径(mm)である。
なおこのスライダー帆布の破断伸びとは、JIS K 6322 9.3.5項の布層の引張試験に記載の引張試験を標線間200mmで実施し、破断する瞬間の標線間距離から計算により求めることが出来る。
たとえば、破断する瞬間の標線間距離がX(mm)であったとすると
破断伸び:EB(%)={(X−200)/200}×100(%)
として、求めることができる。
また、t1、t2は、心体スチールコード31の中心から外周面に至る部分の厚みと内周面に至る部分の厚みについてそれぞれ平均値を計算して求めることができる。
【0030】
次いで、図3を参照しつつ、このような人員搬送用コンベヤベルトを製造する製造方法について説明する。
本実施形態における人員搬送用コンベヤベルトの製造には、未加硫ゴムにより形成された部材を上下方向から加圧して加硫を実施するための熱盤が備えられた熱プレス機により送り焼きを実施する。
図3中の200は、熱プレス機の上下の熱盤を表しており、この熱盤200には、プレスされる部材100が通常の加硫時間での熱プレスで十分加硫される温度、例えば、160〜180℃に設定された高温領域200aと、通常の加硫時間での熱プレスでは、加硫アンダーとなる温度、例えば、100〜140℃に設定された低温領域200bとが形成されている。
この低温領域200bは、この熱盤200にプレスされる部材100を供給する入り口側に形成されており、例えば、熱盤200の長さが5m程度のものである場合には、この低温領域の幅をその内25%以内、すなわち、1m以内程度とすることができる。
【0031】
このような、熱プレス機による送り焼きについて説明すると、上記に例示したような、5m長さの熱盤200の内、1mの区間を低温領域200bとし、残りの4mの区間を高温領域200aとして設定し、第一回目のプレスを実施する(図3(a))。
このことにより、部材100に対し、長さ1mの区間を加硫アンダー領域Uとして形成させ、この加硫アンダー領域Uに隣接する部分を十分加硫されている通常加硫領域Nとして形成させる。
次いで、熱盤200を開き、この部材100を熱盤200の低温領域200b側から高温領域200aに4m長さで送り(図3(b))、第二回目のプレスを実施する(図3(c))。
この部材100の送りにより、通常加硫領域N部分のみが熱盤200間から送り出され、加硫アンダー領域Uが熱盤200間にとどまることとなる。
その後の第二回目のプレスにより、加硫アンダー領域Uが高温領域200aで二度目のプレスを実施されてこの部分が焼き境部Zとして形成されることとなる。
その後、部材の送りとプレスとを繰り返して実施して必要長さの加硫を実施する。
ここに例示の方法によれば、加硫後の部材には、3m長さの通常加硫領域Nと1m長さの焼き境部Zとがベルト長さ方向に交互に形成されることとなる。
【0032】
この送り焼きに供する部材の形成については、例えば、縦補強スチールコード31よりも上カバーゴム層側と下カバーゴム層側とを未加硫ゴムによりそれぞれ一つの帯状の部材形状に形成し、この上カバーゴム層側形成用の帯状ゴム部材と下カバーゴム層側形成用の帯状ゴム部材とで縦補強スチールコード31を上下から挟持させた状態を形成することにより熱プレス機に導入する帯状の部材100とする方法など、従来公知の方法を用いることができる。
この熱プレス機に導入する帯状の部材100の形成に際しては、例えば、人員搬送用コンベヤベルト10の内周面側に備えさせるスライダー帆布41として、3m長さの帯状の帆布41を複数枚用いて、熱プレス機に導入する帯状の部材100の長さ方向に沿ってこの3m長さの帯状のスライダー帆布41を1mの間隙部Mを設けて、配置しておき、このスライダー帆布41の備えられていない間隙部Mと熱盤200の低温領域200bとを位置合わせした状態で、上述したような送り焼きを開始させることにより、焼き境部50に間隙部Mが形成された人員搬送用コンベヤベルト10を作製し得る。
この、送り焼きにより加硫された帯状の部材は、フィンガー方式、ラップ方式、ダブルフィンガー方式など従来公知の接続方法により無端ベルト形状に形成させることができる。
【0033】
このようにして形成された人員搬送用コンベヤベルト10を備えた人員搬送用ベルトコンベヤ装置は、例えば、図1(a)のような場合においては、駆動プーリAが反時計回りとなるように回転させて運転させることができる。
すなわち、駆動プーリAの外周面と人員搬送用コンベヤベルト10の内周面との間に摩擦力を作用させて、駆動プーリAを、人員搬送用コンベヤベルト10の搬送側10aを駆動プーリA側に引き寄せるように回転させて人員搬送用コンベヤベルト10を周回運転させる。
このとき、前記支持部材Eの平面領域E1と人員搬送用コンベヤベルト10の内周面に形成されている帆布露出部Sとが摺接されることとなる。
したがって、人員搬送用コンベヤベルト10と支持部材Eとの摩擦抵抗を低減することができ、人員搬送用コンベヤベルト10に加えられる張力を低減させて搬送動力を低減させ得るとともに支持部材Eによる人員搬送用コンベヤベルト10内周面の摩耗を抑制することができ、人員搬送用コンベヤベルト10の運転コストの低減と長寿命化を図ることができる。
【0034】
さらには、この人員搬送用ベルトコンベヤ装置の運転時において、人員搬送用コンベヤベルト10に加えられる振動や、各プーリやローラなどによる屈曲により、人員搬送用コンベヤベルト10の内周面側に備えられているスライダー帆布41に張力が加えられることになるが、スライダー帆布41の切断が発生しやすい焼き境部50には、そもそもスライダー帆布41が備えられていないことから、スライダー帆布41の切断が発生することが抑制でき、このスライダー帆布41の切断に伴うスライダー帆布41の剥離が抑制されることとなる。
したがって、人員搬送用コンベヤベルト10の使用期間の長期化を図ることができる。
【0035】
なお、本実施形態においては、人員搬送用コンベヤベルトとして上記のような構造のものを上記のような製造方法により製造し、上記のような人員搬送用ベルトコンベヤ装置に用いる場合を例示して説明したが本発明においては、人員搬送用コンベヤベルトを上記構造のものに限定するものではない。
また、上記に例示した製造方法により製造されているものに限定するものではない。
さらに、上記に例示した人員搬送用ベルトコンベヤ装置に用いられる場合に限定するものではない。
【実施例】
【0036】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
(模擬ベルトの作製)
人員搬送用コンベヤベルトを模擬した模擬ベルトとして周長約3300mm×幅約250mm×厚さ約30mmの無端ベルトを製造した。
このとき、この模擬ベルトの内周側には、下記A〜Cの3種類の帆布を備えさせた。
A:ポリアミド製帆布、長さ3000mm×幅70mm×厚さ1.3mm
B:ポリエステル製帆布、長さ3000mm×幅70mm×厚さ0.8mm
C:綿製帆布、長さ3000mm×幅70mm×厚さ1.5mm
また、この模擬ベルトの製作にあたっては、長さ約3600mmの帯状の未加硫ゴム部材に対して長さ方向両端部300mmを残して3000mmの区間、帆布を備えさせた状態で、長さ方向中央部500mmの区間を、60〜120℃の温度勾配を設けたプレス熱盤で45分間のプレスを実施した後、全体を150℃×45分間のプレスを実施して全体の加硫を実施した。すなわち、長さ方向中央部500mmの区間を60〜120℃×45分と150℃×45分間との複数回の加硫が実施された焼き境部とし、この焼き境部以外の部分を150℃×45分間の一度の加硫のみがなされた通常加硫部として加硫を実施した。
この加硫後、帆布の設けられていない長さ方向両端部の300mmの区間どうしを接合し周長約3300mmの無端ベルト状に形成させた。
このようにして、上記A〜Cの3種類の帆布を用いて、該帆布を内周面に露出させた模擬ベルトを作製した。
【0038】
(評価)
(伸び測定)
上記模擬ベルトの焼き境部に相当する部分とその他の部分(通常加硫部)について、JIS K 6322 9.3.5項の布層の引張試験に記載の引張試験を実施し帆布の切断時伸び量を求めた。結果を、表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
この表からも、焼き境部においては、帆布の切断が生じ易いことがわかる。
【0041】
(ベルト走行試験)
上記のように作製された模擬サンプルを図4に示すような方法でベルト走行試験を実施した。
なお、図中の数値の単位は、“mm”である。
ベルト走行試験は、3つのプーリを用いて実施した。すなわち、直径250mmの2つのプーリを中心軸間距離1270mm離間させて配置し、この2つのプーリ間に直径160mmのプーリを配した。
この直径160mmのプーリは、直径250mmのプーリの中止軸を結ぶ仮想線上に中心軸を配し、しかも、一方の直径250mmのプーリとの中心軸間距離が540mm(他方の直径250mmのプーリとの中心軸間距離が730mm)の位置に配した。
このように配された3つのプーリに、上記のように作製した模擬ベルトを図4のごとく掛け渡して、周速240m/分の速度で最長50時間のベルト走行試験を実施した。
このベルト走行試験により、焼き境部と通常加硫部とに帆布の切断が観察されるまでの時間を測定した。
結果を、表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
この表からも、焼き境部においては、帆布の切断が生じ易いことがわかる。
したがって、帆布の切断が生じ易い焼き境部に帆布の無い間隙部を位置させることにより、帆布の切断ならびにそれにともなう帆布の剥離を抑制させ得ることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】a)本実施形態の人員搬送用コンベヤベルトが用いられる人員搬送用ベルトコンベヤ装置の側面視を示す概略図、b)同人員搬送用ベルトコンベヤ装置部分断面図、c)本実施形態の人員搬送用コンベヤベルトの構造を示す断面斜視図。
【図2】本実施形態の人員搬送用コンベヤベルトの内周面側からの正面視を示す正面図。
【図3】本実施形態の人員搬送用コンベヤベルトの製造方法(送り焼)を示す概略図。
【図4】ベルト走行試験の方法を示す概略図。
【図5】従来の人員搬送用コンベヤベルトならびに人員搬送用ベルトコンベヤ装置の説明のための説明図。
【符号の説明】
【0045】
10:人員搬送用コンベヤベルト、41:帆布(スライダー帆布)、50:焼き境部、A:駆動プーリ、B:従動プーリ、E:支持部材、M:間隙部、S:帆布露出部、Z:焼き境部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人員搬送用ベルトコンベヤ装置のプーリに掛け渡されて用いられ、該掛け渡された状態で周回運転されて人員の搬送に用いられるべく無端ベルト形状に形成されており、未加硫ゴムが用いられて帯状に形成された部材が熱プレス機で送り焼きされてゴムの加硫が実施されることにより焼き境部がベルト周方向に間隔を設けて複数形成されており、しかも、無端ベルト形状内周面側には、帆布が露出された状態で備えられ、前記帆布が露出された帆布露出部がベルト周方向に延在された状態に形成されている人員搬送用コンベヤベルトであって、
前記帆布として、人員搬送用コンベヤベルトの内周長よりも長さの短い帯状の帆布が複数枚用いられており、人員搬送用コンベヤベルトの内周面側に前記帯状帆布がベルト周方向に間隙部を設けて備えられることにより、前記帆布露出部がベルト周方向に不連続状態で延在されて形成されており、しかも、前記間隙部が前記焼き境部に位置された状態に形成されていることを特徴とする人員搬送用コンベヤベルト。
【請求項2】
人員搬送用コンベヤベルトのベルト内周長における前記間隙部の長さの割合が25%以下とされている請求項1記載の人員搬送用コンベヤベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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