人工ペルオキシダーゼ及びその使用方法
【課題】容易に利用することができるとともに安定なペルオキシダーゼを提供する。
【解決手段】本発明のペルオキシダーゼは、X1−X2−His(X1、X2はそれぞれ独立に任意のアミノ酸を示す)のアミノ酸配列を含むアミノ酸の数が3〜14個のポリペプチドであって、該ポリペプチドに金属イオンが結合していることを特徴とする。
【解決手段】本発明のペルオキシダーゼは、X1−X2−His(X1、X2はそれぞれ独立に任意のアミノ酸を示す)のアミノ酸配列を含むアミノ酸の数が3〜14個のポリペプチドであって、該ポリペプチドに金属イオンが結合していることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工ペルオキシダーゼに係り、詳しくは特定のポリペプチドからなる人工ペルオキシダーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、生物が生産する天然の触媒である酵素はアミノ酸が連なることで形成されるタンパク質(ポリペプチド)からなることが知られている。現在までに遺伝子工学に基づくアプローチにより既知の酵素のアミノ酸配列にランダムにアミノ酸配列を付加・延長させる人為的な「分子進化」によって有用な触媒機能を持つタンパク質を創出・選抜する手法(random elongation mutagenesis)の有用性が確認されている。例えば、非特許文献1には、カタラーゼ活性を主として有するタンパク質を、ペルオキシダーゼ活性を主として有するタンパク質へと改変(進化)させる方法が開示されている。また、非特許文献2には、ランダムな配列からDNA結合能を持つタンパク質を選抜する方法が開示されている。
【0003】
現在、世界では、多くの研究者が、分子生物学の知見と技術を駆使してペプチド配列をデザインすることで新規の触媒活性を付与したタンパク質を創出することに取り組んでいる。しかしながら既に機能することが知られる酵素中のアミノ酸配列ですら、それらが実際の反応において果たす役割についての理解は、全く十分ではない。そのため、人為的に「酵素」を創出する試みは必ずしも成功しているとは言えない。
【0004】
ところで、従来より、基質の脱水素反応において、酸化剤として過酸化水素を用い、AH2+H2O2→A+2H2Oの反応を触媒する酵素としてペルオキシダーゼが知られている。ペルオキシダーゼは、分子生物学および生化学の基礎研究から医療・保健・食品・環境分野で必須とされる抗体を用いた免疫学的な分子認識・検出手法(発光法、蛍光法、着色法、色素沈着法の何れにも利用可能)に必須の酵素であるために、人工的な合成に成功すれば工業的な応用が最も容易な酵素群の一つである。しかしながら、植物(特にセイヨウワサビ)による産生に依存するため、収量と品質がバッチやメーカーによって大きく異なるため、高純度で高活性の酵素の調達にかかるコストは無視できない。また、植物及び微生物等の生物由来の全ての天然ペルオキシダーゼは、通常の酵素と同様に高分子としての高次構造を維持することで活性を示すため、高温によって活性が失われるという問題があった。また、同様の理由で、低温で酵素を使用あるいは保存する場合、溶媒の凍結と融解を経験すると活性が消失するという問題があった。そのため、流通、保蔵、使用条件、装置化が大きく制限されてきたため、熱に安定で凍結・融解の繰り返しによって変性しない水溶液中で安定な「酵素」の創出が求められている。また、既存の酵素の多くは、水溶液中、常温での触媒としての寿命が短いという問題及び過酷な環境に対する耐候性が低いという問題があった。このことは、例えば、常温又は屋外で使用される固定化酵素を利用したセンサーの開発等において大きな障害となっていた。
【0005】
天然のペルオキシダーゼはヘムタンパク質であり、活性中心はヘムを中心としたヘムポケット内のヘムと周辺アミノ酸残基が協調して担うことが知られ、ヘムのみではペルオキシダーゼ活性は示さない。ペルオキシダーゼ活性の改変の為の試みとしては、例えばヘモグロビン等は変性などを経て構造が変化した場合(メトヘモグロビン)は、活性は低いが、ペルオキシダーゼ様活性(シュードペルオキシダーゼ活性)を示すことがある。そして、植物ペルオキシダーゼと同様にモノアミン類を基質として酸化し、スーパーオキシドの生成を触媒することが知られている。一方、本来ペルオキシダーゼではないタンパク質骨格を基礎にヘムを取り込ませペルオキシダーゼ活性を付与する試みとしては、アミロイドβペプチドにヘムが結合した場合、ペルオキシダーゼ活性を示す例が知られている(非特許文献3)。
【非特許文献1】Matsuura, T. et al. Nature Biotechnol. 17, 58-61 (1999)
【非特許文献2】Nakashima, T. et al. J. Biosci. Bioeng. 103(2), 155-160 (2007)
【非特許文献3】Atamna, H and Boyle, K. Proc Natl Acad Sci country-regionplaceU.S.A. 103(9), 3381-6 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、本発明者らの鋭意研究の結果、人為的にペプチド鎖を合成し、これまでに酵素としての機能が全く知られていない配列を有するペプチド短鎖について、ペルオキシダーゼ活性を有することを発見したことによりなされたものである。本発明の目的とするところは、容易に利用することができるとともに安定な人工ペルオキシダーゼを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明の人工ペルオキシダーゼは、X1−X2−His(X1,X2はそれぞれ独立に任意のアミノ酸を示す)のアミノ酸配列を含むアミノ酸の数が3〜14個のポリペプチドに金属イオンが結合していることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記ポリペプチドは、C末端がヒスチジンでありアミノ酸の数が3〜5個の単一のオリゴペプチド、又は該オリゴペプチドの繰り返し配列を含有するオリゴペプチドであることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記オリゴペプチドは、アミノ酸の数が3〜6個のオリゴペプチドであることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記ポリペプチドは、Gly−Gly−His(GGH)、Gln−Pro−His(QPH)、Lys−Gly−His(KGH)、Arg−Gly−His(RGH)、配列番号2で表されるポリペプチド、又は配列番号3で表されるポリペプチドであることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記ポリペプチドは、Gly−Gly−His(GGH)又はGly−Thr−His(GTH)で表される配列を含み、該配列のN末端にGlyを任意の数付加したポリペプチドであることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記ポリペプチドは、配列番号1,6〜14から選ばれる少なくとも一種のポリペプチドである。
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記ポリペプチドは、Gly−Gly−His(GGH)、Gly−Thr−His(GTH)、又はGln−Pro−His(QPH)で表される配列を含み、該配列のC末端に任意の数及び組み合わせのアミノ酸を付与したポリペプチドであることを特徴とする。
【0012】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記ポリペプチドは、配列番号15〜20から選ばれる少なくとも一種のポリペプチドである。
請求項9に記載の発明は、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記金属イオンは、遷移金属イオンであることを特徴とする。
【0013】
請求項10に記載の発明は、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、タンパク質、ペプチド、多糖類、合成樹脂、金属及びガラスから選ばれる少なくとも一種に結合されていることを特徴とする。
【0014】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記タンパク質は抗体であることを特徴とする。
請求項12に記載の発明は、請求項10に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記多糖類、合成樹脂、金属、又はガラスは、繊維状、顆粒状、板状、棒状、及び球状から選ばれる少なくとも一種の形態であることを特徴とする。
【0015】
請求項13に記載の発明は、以下の理化学的性質を有する請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のペルオキシダーゼ。(a)90℃、100分の処理で50%以上の活性を保持する。(b)溶媒に前記ペルオキシダーゼを溶解させて、該溶媒を液体窒素中で凍結、次に融解させる処理を10回繰り返した場合、50%以上の活性を保持する。(c)芳香族アミン、アミノ酸、アミノ酸誘導体、フェノール誘導体、安息香酸、安息香酸誘導体、及びアスコルビン酸から選ばれる少なくとも一種が基質となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、容易に利用することができるとともに安定な人工ペルオキシダーゼを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明のペルオキシダーゼを具体化した実施形態を詳細に説明する。
本実施形態のペルオキシダーゼは、X1−X2−His(X1,X2はそれぞれ独立に任意のアミノ酸を示す。尚、向かって左端がN末端、右端がC末端を示す。以下、同じ)のアミノ酸配列を含むアミノ酸の数が3〜14個のポリペプチドであって、該ポリペプチドに金属イオンが結合している構造を有している。ペルオキシダーゼの基本骨格であるX1−X2−Hisのトリペプチド構造により、例えば、遷移金属族である銅(イオン)、ニッケル(イオン)、希土類元素と結合することができる。このポリペプチドと金属が結合することによりペルオキシダーゼ様活性を発揮する。
【0018】
ペルオキシダーゼを構成するアミノ酸のうち基本骨格であるX1−X2−Hisを構成する必須のヒスチジン以外のアミノ酸は、いずれのアミノ酸でもよい。具体的には、天然のタンパク質を構成する20種類のアミノ酸を示す。より具体的には、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リシン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、及びバリン(Val)を示す。
【0019】
本実施形態のペルオキシダーゼを構成するポリペプチドにおいて、好ましくは、C末端がヒスチジンであるアミノ酸の数が3〜5個のオリゴペプチドである。より好ましくは、C末端がヒスチジンであるアミノ酸の数が3個のトリペプチドである。X1−X2−Hisのアミノ酸配列を含むアミノ酸の数が3〜14個のポリペプチドとして、例えばGly−Gly−His(GGH)、Gln−Pro−His(QPH)、Lys−Gly−His(KGH)、Arg−Gly−His(RGH)、配列番号1で表されるオリゴペプチド、配列番号2で表されるポリペプチド、及び配列番号3で表されるポリペプチドが挙げられる。
【0020】
本実施形態のペルオキシダーゼを構成するポリペプチドにおいて、好ましくは、C末端がヒスチジンであるアミノ酸の数が3個以上のオリゴペプチドである。より好ましくは、金属の結合において重要な役割を担う中心部分のX1−X2−His配列が、Gly−Gly−His(GGH)、Gly−Thr−His(GTH)、Gln−Pro−His(QPH)、Lys−Gly−His(KGH)、Arg−Gly−His(RGH)であり、これらのトリペプチド配列を含むアミノ酸の数が3〜14個のポリペプチドとして、配列番号6,配列番号7,配列番号8、配列番号9、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号1で表されるオリゴペプチド(活性は僅かだが有意に存在)、X1−X2−His配列から派生する高活性のペプチド群である配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号2で表されるポリペプチド、配列番号3で表されるポリペプチド、または配列番号3から派生した配列、さらには上記配列を部分的に含むペプチド、および/または、これら配列の繰り返しを含むペプチドが挙げられる。
【0021】
ポリペプチドは、最低単位の金属結合領域として機能する配列であるGly−Gly−His(GGH)やGly−Thr−His(GTH)配列のアミノ基末端側に任意のアミノ酸を任意の数だけ付与し、ペプチド鎖長を伸ばすことにより、より安定した活性を実現することができる。即ち、GGH配列を配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10と長くする、あるいはGTH配列を配列番号11、配列番号1、配列番号12、配列番号13、配列番号14と鎖長を伸ばすことにより、高い活性を付与することができることを特徴とする。同様にQPH配列、KGH配列、RGH配列など、X1X2Hモチーフを持つ金属結合配列の鎖長をアミノ基側への任意のアミノ酸の付加により延長することで、より高い活性を付与することができる。
【0022】
ポリペプチドは、Gly−Gly−His(GGH)やGly−Thr−His(GTH)配列、Gln−Pro−His(QPH)、などの最低単位の金属結合配列のカルボキシル基末端(Hの下流)に任意の数および組み合わせのアミノ酸を付与し、ペプチド鎖長を伸ばすことによっても活性を損なうことがないことを特徴とする。
【0023】
ポリペプチドは、Gly−Gly−His(GGH)やGly−Thr−His(GTH)配列、Gln−Pro−His(QPH)、などの最低単位の金属結合配列のアミノ基末端側(XXH配列の上流)および/または、カルボキシル基末端側(Hの下流)に任意の数および組み合わせのアミノ酸を付与し、ペプチド鎖長を伸ばすことによっても活性を損なうことがないことを特徴とする。即ち、金属結合部位として機能するX1X2H構造が分断されることなく維持されていれば、人工ペルオキシダーゼとしての機能を有する。例として、配列番号21という配列や配列番号5の配列を持つ八つのアミノ酸からなるオリゴペプチドは人工ペルオキシダーゼとしての機能を有さないが、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20といった、QPH配列が分断されることなく含まれるペプチドは人工ペルオキシダーゼとしての機能を有する。
【0024】
ポリペプチドが遊離のトリペプチドやオリゴペプチドである場合は、アミノ基末端をアセチル化し、環状化するのを防ぐことが望ましい。
人工ペルオキシダーゼは、タンパク質、ペプチド、多糖類、合成樹脂、金属及びガラスから選ばれる少なくとも一種に結合されている。前記タンパク質は抗体である。前記タンパク質およびペプチドは任意の天然および/または人工の酵素であり、触媒活性の高度および/または複雑化および/または改質できることを特徴とする。多糖類、合成樹脂、金属及びガラスは、繊維、顆粒、板状、棒状、球体、又は容器壁面コーティングのいずれかの形態である。
【0025】
人工ペルオキシダーゼは、以下の理化学的性質を有する。(a)90℃、100分の処理で50%以上の活性を保持する。
(b)溶媒に前記ペルオキシダーゼを溶解させて、該溶媒を液体窒素中で凍結、次に融解させる処理を10回繰り返した場合、50%以上の活性を保持する。
【0026】
(c)芳香族アミン、アミノ酸、アミノ酸誘導体、フェノール誘導体、安息香酸、安息香酸誘導体、及びアスコルビン酸から選ばれる少なくとも一種が電子供与体としての基質となる。
(d)過酸化水素および/または有機過酸化物(ROOH)などペルオキシ構造(−O−O−)を有する過酸化物が電子受容体としての基質となる。
【0027】
(e)反応産物として、上記(c)に記載の基質の酸化物およびラジカル種や上記(d)に記載の過酸化物の分解産物である酸素、水、活性酸素種の生成、および/または反応中間体である有機ラジカル種と反応系に共存する分子酸素との二次反応の産物として生じるスーパーオキシド、さらには、そこから派生する活性酸素種など、二次的な反応産物が生じる。
【0028】
前記一次反応産物および/または二次反応産物の生成を指標とする方法および/または、これら反応産物と反応することにより発光、蛍光、着色、色素沈着など指標となる性質を示すプローブ化合物および/または疑似基質として発光、蛍光、着色、色素沈着など指標となる性質を示すプローブ化合物を利用することにより、触媒活性の定性と定量が可能であることを特徴とする請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の人工ペルオキシダーゼ。プローブ化合物の例としてルミノール、ジアミノベンジジン、スーパーオキシドに特異的な発光を示すウミホタルルシフェリンアナログなどがあげられる。
【0029】
人工ペルオキシダーゼは、以下の理化学的性質を有する。
(a)金属結合領域およびその周辺の領域を構成するアミノ酸配列に酸性アミノ酸を含めることで芳香族アミンなど塩基性の基質に対する反応性を高めることができる。
【0030】
(b)金属結合領域およびその周辺の領域を構成するアミノ酸配列に塩基性アミノ酸を含めることで安息香酸誘導体など酸性の基質に対する反応性を高めることができる。
人工ペルオキシダーゼおよびその存在形態は、グルコースオキシダーゼやアルカリフォスファターゼやルシフェラーゼ等、他の酵素および他の無機触媒との組み合わせによりバイオセンサーや検出キットの構成要素となりうる。
【0031】
人工ペルオキシダーゼおよびその存在形態は、耐熱性の酵素(例、耐熱性グルコースオキシダーゼ)および無機触媒との組み合わせによる、高温での反応で利用可能である。
ペルオキシダーゼの直接的な基質とならない物質であってもペルオキシダーゼ反応の産物あるいは中間体である活性酸素種や有機ラジカル種と反応することにより2次的に進行する反応の触媒として利用できることを特徴とする請求項1〜18のいずれかに記載の人工ぺルオキシダーゼ。そのような基質の例としてペルオキシダーゼの直接的な基質である過酸化水素およびフェノール類と共存することで初めてペルオキシダーゼが触媒する反応により酸化的な開環反応がおきるポルフィリン類などがあげられる。
【0032】
反応メカニズムは異なるが、上記ペルオキシダーゼ反応と類似の基質の改質により類似の産物を生じる酵素群(カタラーゼ、フェノールオキシダーゼ、チロシナーゼ、NADHオキシダーゼ、NADPHオキシダーゼ、デアミナーゼ、ヒドロキシラーゼなど)の代替となる触媒、すなわち人工酵素として利用できることを特徴とする。
【0033】
本実施形態のペルオキシダーゼは、耐熱性に優れ、長期間安定であるという特徴を有する。また、溶媒に溶解させて凍結及び融解処理を繰り返した場合においても、活性の低下が極めて低く、耐候性能が高いという特徴を有する。本実施形態のペルオキシダーゼは、好ましくは、以下の理化学的性質を示すことが好ましい。耐熱性においては、90℃、100分の処理で50%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上の活性を保持する。凍結・融解処理の安定性については、溶媒にペルオキシダーゼを溶解させて、該溶媒を液体窒素中で凍結、次に融解させる処理を10回繰り返した場合、50%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上の活性を保持する。
【0034】
上記ポリペプチドは、公知の化学合成法又は遺伝子工学的手法によって製造することができる。また、既知配列からなるポリペプチドを各種特異的プロテアーゼ処理することにより、目的のポリペプチドを生成させてもよい。遺伝子工学的手法によって本実施形態のポリペプチドを得るためには、公知のインビトロ(in vitro)タンパク合成系を利用して製造することができる。具体的には、ポリペプチドをコードする塩基配列からなる遺伝子を公知の任意のベクターに組み込み、該ベクターを宿主内に導入して形質転換体を作製し、該形質転換体を培養することによって得ることができる。形質転換体は、使用する組換えベクターにより適宜決定され、例えば大腸菌、酵母、昆虫細胞、植物細胞、哺乳動物細胞等の種々の細胞を用いることができる。
【0035】
ポリペプチドに結合する金属イオンとしては、例えば遷移金属、希土類金属、アルカリ土類金属、及びアルカリ金属が挙げられる。ポリペプチドに結合する金属イオンは、ペルオキシダーゼ活性を発揮するための補因子として必要な成分である。遷移金属としては、例えばニッケル(Ni)、銅(Cu)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、及びチタン(Ti)が挙げられる。希土類としては、例えばセリウム(Ce)、ユーロピウム(Eu)、及びテルビウム(tb)が挙げられる。アルカリ土類金属としては、例えばマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、及びストロンチウム(Sr)が挙げられる。アルカリ金属としては、例えばリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、及びカリウム(K)が挙げられる。これらの中で、Cu、Ni、Co、Fe、Mgが好ましく、Cuがより好ましい。
【0036】
上記ポリペプチドに金属イオンが結合することによって、ペルオキシダーゼ様活性が発現する。ペルオキシダーゼは、基質(AH2)の脱水素反応において、酸化剤として過酸化水素を用い、AH2+H2O2→A+2H2Oの反応を触媒する酵素として知られている。本実施形態のペルオキシダーゼが作用する基質は、ペルオキシダーゼの基質となり得る基本構造を有するものであれば特に限定されないが、例えば、芳香族アミン、アミノ酸、アミノ酸誘導体、フェノール誘導体、安息香酸、安息香酸誘導体、及びアスコルビン酸が挙げられる。芳香族アミンとしては、例えば、チラミン、フェニルエチルアミン、及びトリプタミンが挙げられる。アミノ酸及びその誘導体としては、例えば、チロシン、N−アセチルチロシン、フェニルアラニン、及びトリプトファンが挙げられる。フェノール誘導体としては、例えばグアヤコール、及びカテコールが挙げられる。安息香酸誘導体としては、例えばサリチル酸、3−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、及び2,6−ジヒドロキシ安息香酸が挙げられる。さらに一般にペルオキシダーゼ活性の指標に用いられ、且つ上記基質としての特徴を示す化合物群も本実施形態のペルオキシダーゼが作用する基質に含有されるものとする。例えば、ルミノール、フルオロセイン及びフルオレシンの誘導体、ピラニン及びその誘導体、並びにベンジジン誘導体が挙げられる。フルオロセイン及びフルオレシンの誘導体としては、例えば、ジクロロフルオレシン2酢酸が挙げられる。ベンジジン誘導体としては、例えば、テトラメチルベンジジン及びジアミノベンジジンが挙げられる。
【0037】
本実施形態のペルオキシダーゼは、例えば試薬、医薬品及び飲食品等の分野において使用することができる。また、ペルオキシダーゼ自体をそのままポリペプチドの形で使用してもよく、例えば他のタンパク質、多糖類、合成樹脂、金属、ガラス等に結合させることにより使用してもよい。他のタンパク質に結合させたペルオキシダーゼは、例えば分子生物学及び生化学の基礎研究から医療、保健、食品、及び環境分野で必須とされる抗体を用いた免疫学的な分子認識・検出手法(発光法、蛍光法、着色法の何れにも利用可能)の分野において用いることができる。より具体的には、免疫染色の酵素抗体法において用いられる抗体とペルオキシダーゼを結合させた標識二次抗体が挙げられる。また、抗体のみならず、このペプチドを医薬品、試薬の分野において標識のために酵素を含むタンパク質又はペプチドに人工的に結合させることにより使用してもよい。また、工業用の触媒等として使用してもよい。例えば、これらのペルオキシダーゼを担持させた合成樹脂やガラス等が挙げられる。これらは、例えば、カラム等に充填することにより使用することができる。尚、合成樹脂にペプチドを結合させる方法として、例えばグラフト重合法を挙げることができる。ガラス表面にペプチドを固定する方法は、アレイ作成技術を適用することにより実施することができる。
【0038】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態のペルオキシダーゼは、X1−X2−His(X1、X2はそれぞれ独立に任意のアミノ酸を示す)のアミノ酸配列を含むアミノ酸の数が3〜14個のポリペプチドであって、該ポリペプチドに金属イオンが結合している。したがって、容易に生産することができ、ペルオキシダーゼ活性を容易に利用することができる。
【0039】
(2)本実施形態のペルオキシダーゼは、従来の高分子構造からなるペルオキシダーゼと比較して安定性を向上させることができる。
(3)本実施形態のペルオキシダーゼは、耐熱性を有する。したがって、高温条件でのペルオキシダーゼ反応を行なうことができる。また、常温での保存安定性を向上させることができ、長期間の保存が可能である。尚、高温耐性であることからアレニウスの10℃2倍則に基づいた触媒能の加速寿命試験が可能となり、検証可能な形で触媒能の長寿命性を実現することができる。
【0040】
(4)本実施形態のペルオキシダーゼは、低温安定性を有する。したがって、凍結させても活性を維持することができる。また、高次構造を有する酵素では通常容易に失活してしまうような、凍結及び融解を繰り返す条件下においても、活性を維持することができる。
【0041】
また、熱耐性、長寿命性、並びに凍結及び融解の反復に対する耐性は、高温と低温が繰り返される屋外での厳しい気象条件下での長期間に亘る使用に対する適正、即ち耐候性の高さを示すものであり、常温又は屋外での使用を想定した酵素固定型センサー等の開発に道を拓くものである。
【0042】
(5)本実施形態のペルオキシダーゼは、好ましくは、オリゴペプチドはC末端がヒスチジンであるアミノ酸の数が3〜5個のオリゴペプチドである。したがって、より容易に生産することができる。
【0043】
(6)本実施形態のペルオキシダーゼは、より好ましくは、オリゴペプチドはアミノ酸の数が3個のトリペプチドである。したがって、一層容易に生産することができる。
(7)本実施形態のペルオキシダーゼは、ポリペプチド部分において、好ましくはGly−Gly−His(GGH)、Gln−Pro−His(QPH)、Lys−Gly−His(KGH)、Arg−Gly−His(RGH)、配列番号1で表されるオリゴペプチド、配列番号2で表されるポリペプチド、又は配列番号3で表されるポリペプチドを使用することができる。したがって、より高いペルオキシダーゼ活性を期待することができる。
【0044】
(8)本実施形態のペルオキシダーゼは、例えば、タンパク質、合成樹脂、及びガラスから選ばれる少なくとも一種に結合されることによって、工業、試薬、医薬品、飲食品等の各分野において有用に利用することができる。
【0045】
(9)本実施形態のペルオキシダーゼは、抗体と結合させることにより、例えば標識二次抗体として利用することができる。したがって、従来の植物(特にセイヨウワサビ)による産生に比べ、収量及び品質が時期及び製造者間で相違することがない。また、植物体からの高純度の精製処理を行なう必要がなく、安価で且つ短時間で高活性のペルオキシダーゼを得ることができる。
【0046】
(10)本実施形態のペルオキシダーゼは、好ましくは90℃、100分の処理で50%以上の活性を保持するとともに、溶媒にペルオキシダーゼを溶解させて、該溶媒を液体窒素中で凍結、次に融解させる処理を10回繰り返した場合、50%以上の活性を保持するという理化学的な性質を有する。したがって、従来知られていない新規な性質を有するペルオキシダーゼであり、貯蔵安定性の向上を期待できるのみならず、基質と成り得る化学物質のモニターに用いる化学センサー(例えば固定酵素型センサーや屋外用酵素型センサー)への適用が期待され、野外等の過酷な気象条件で長期間に亘る使用を可能にする。
【0047】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態において、ポリペプチドは、緩衝液等の溶液中に保存してもよく、結晶状又は粉末状にして保存してもよい。
【実施例】
【0048】
次に、実施例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。
<試験例1:ポリペプチドのペルオキシダーゼ活性の測定>
実施例のポリペプチドとして、実施例1:Gly−Gly−His(GGH)、実施例2:Gln−Pro−His(QPH)、実施例3:Lys−Gly−His(KGH)、実施例4:Arg−Gly−His(RGH)、実施例5:配列番号1で表されるオリゴペプチド、実施例6:配列番号2で表されるポリペプチド、実施例7:配列番号3で表されるポリペプチドを合成した。比較例のオリゴペプチドとして、比較例1:His−Gly−Gly(HGG)、比較例2:配列番号4で表されるオリゴペプチド、比較例3:配列番号5で表されるオリゴペプチドを合成した。各例のポリペプチドにおいて、ペルオキシダーゼ活性を測定した。
【0049】
ペルオキシダーゼ活性は、発光試薬である2−メチル−6−フェニル−3,7−ジヒドロイミダゾール[1,2−a]ピラジン−3−オン(CLA:Cypridina luciferin analog、東京化成工業社製)を使用することにより測定することができる。ペルオキシダーゼによって触媒される酸化還元反応は、基質(AH)と活性酸素が反応し、A・(ラジカル)と水を生じさせる反応である。A・はさらに酸素と反応しA+とスーパーオキシドアニオンを生成する。CLAはこのスーパーオキシドアニオンと反応し発光する。CLAによって生じる発光を測定することにより、ペルオキシダーゼ活性を測定することができる。
【0050】
基質としては、芳香族アミンとしてチラミン、フェノール誘導体としてサリチル酸(SA)、安息香酸誘導体として安息香酸(BA)、3−ヒドロキシ安息香酸(3HBA)、及び4−ヒドロキシ安息香酸(4HBA)を使用した。実施例5〜7及び比較例3の場合は、基質としてさらにL−チロシンも使用した。
【0051】
反応は、pH7.0の50mMリン酸緩衝液に5μMのCLA、0.15mMの各例のポリペプチド、補因子として0.5mMのCuSO4、0.5mMの過酸化水素を順に添加し、最後に基質を0.5mM添加した。その時のCLAの発光を検出した。発光の検出はルミノメーター(ルミネッセンサーAB-2200、アトー株式会社製)(実施例1〜4、比較例1,2)及びペンレコーダーを備えてなるCHEM−GLOWフォトメーター(America Instrument社製)(実施例5〜7、比較例3)を使用した。検出された最大発光強度は相対発光ユニット(relative luminesence unit(rlu))として表した。結果を図1〜8に示す。グラフ中の縦軸は、相対発光ユニット(rlu)を示す。
【0052】
図1に示されるように、実施例1:Gly−Gly−His(GGH)を使用する場合、基質としてチラミンを使用する場合に強い発光が生じることが確認された。3HBAを基質とした場合にも発光が生じることが確認された。
【0053】
図2に示されるように、実施例2:Gln−Pro−His(QPH)を使用する場合、基質としてチラミンを使用する場合に強い発光が生じることが確認された。4HBAを基質とした場合にも発光が生じることが確認された。
【0054】
図3に示されるように、実施例3:Lys−Gly−His(KGH)を使用する場合、基質としてチラミンと4HBAを使用する場合に強い発光が生じることが確認された。
図4に示されるように、実施例4:Arg−Gly−His(RGH)を使用する場合、基質として4HBAを使用する場合に強い発光が生じることが確認された。基質としてチラミンを使用した場合には、発光は観察されなかった。
【0055】
図5に示されるように、比較例1:His−Gly−Gly(HGG)を使用した場合は、発光は観察されなかった。またHisがトリペプチドの中央に位置するGly−His−Gly(GHG)およびGly−His−Lys(GHK)やHisの上流に十分な数のアミノ酸が存在しないGly−His(GH)では発光が観察されなかった。
図6に示されるように、比較例2:配列番号4で表されるポリペプチドを使用した場合、発光は観察されなかった。図には示さないが、比較実験として、ペプチドでなく、アミノ酸を遊離アミノ酸の状態で利用した場合、20種類の天然のアミノ酸の全てが活性を示さなかった。
【0056】
また以下のGly−Gly(GG)、Gly−Gly−Gly(GGG)、配列番号22、配列番号23、Ala−Ala(AA)、Ala−Gly−Gly(AGG)、Ala−His(AH),Ala−Gly−Asp(AGD)、Lys−Lys−Lys(KKK),Leu−Leu−Leu(LLL)などのX1−X2−Hisの法則に当てはまらないペプチド配列はいずれも、チラミンを基質とした発光を触媒しないことを確認している。
【0057】
以上の結果より、オリゴペプチドとしてC末端がヒスチジンであるX1X2H構造を有する場合に発光が認められるものと思料される。
図7,8に示されるように、実施例5〜7のポリペプチドにおいて、基質がL−チロシン及びチラミンである場合、発光が認められた。特に実施例5のポリペプチドは強い発光が認められた。一方、比較例3のオリゴペプチドは発光が認められなかった。
【0058】
図9に示されるように、実施例7のポリペプチドは、基質としてL−チロシン、3HBA及び4HBAを使用する場合に強い発光が生じることが確認された。
以上により、ポリペプチドとしてXXH構造を基本骨格としてアミノ酸数14以内のポリペプチドにおいて発光が認められるものと思料される。一方、XXHからなる基本骨格を有しない比較例1〜3は発光が認められなかった。また、各実施例のポリペプチドによるスーパーオキシドアニオン生成反応は、基質の種類により異なる反応性を示す(基質特異性を有する)ことからポリペプチドと金属イオンにより、ペルオキシダーゼ様の酵素反応が行なわれることが確認された。
【0059】
<試験例2:ペルオキシダーゼ反応における各因子の要求性>
ペルオキシダーゼ反応における各因子の要求性を評価した。実施例5のオリゴペプチドを使用した。図10において、CHEM−GLOWフォトメーターによる記録データを示す。
【0060】
図10に示されるように、オリゴペプチド、補因子である銅イオン、酸化剤である過酸化水素、及び基質であるチラミンのいずれが欠けてもCLAの発光は認められないことが確認された。図中「complete」とはオリゴペプチド、銅イオン、過酸化水素、及びチラミンを全て混合させた場合を示す。また、図中「DDW」とは蒸留水を示す。尚、実施例1、2、3、4、7、8のオリゴペプチドを用いた場合も同様の結果を得ている。
【0061】
<試験例3:ポリペプチドからなるペルオキシダーゼ活性の高温安定性>
ポリペプチドからなるペルオキシダーゼ活性の高温安定性を評価した。実施例1,2のトリペプチドについて、溶媒としてpH7.0の50mMリン酸緩衝液に溶解させて、該溶媒を90℃の温度で所定時間(0〜100分間)加熱処理し、その後、試験例1と同様にCLAの発光を測定した。結果を図11,12に示す。尚、グラフ中の縦軸は、相対発光ユニット(rlu)を示し、横軸は、加熱時間を示す。
【0062】
図11,12に示されるように、実施例1,2のトリペプチドは、一般にタンパク質を完全に変性させてしまう温度処理(90℃で100分間)では活性が失われないことが確認された。したがって、高温条件でのペルオキシダーゼ反応に応用できるものと思料される。また、常温での保存安定性を向上させることができるものと思料される。尚、配列QPHについて、121℃15分間のオートクレーブ処理では活性は失われた。
【0063】
この高温域で維持される活性を利用して、「アレニウスの10℃2倍則」に基づいた触媒としての加速寿命試験を行い、長寿命性を試験により示すことが可能となった。例として、室温20℃での水溶液条件での使用を想定すると、使用想定温度よりも70℃高い90℃という高温での100分間の処理後にも活性に低下が認められなかったことから、20℃での8.8日間の連続使用後にも活性の低下が認められないことを示している。尚、このような加速寿命試験は、熱耐性を示さない一般のタンパク質からなる酵素には適用することは不可能である。
【0064】
<試験例4:ポリペプチドからなるペルオキシダーゼ活性の低温安定性>
ポリペプチドからなるペルオキシダーゼ活性の凍結・融解処理の安定性を評価した。実施例1,2のトリペプチドについて、溶媒としてpH7.0の50mMリン酸緩衝液に溶解させて、該溶媒を液体窒素中に5秒間浸漬し、完全に凍結したことを確認した後、室温にて融解させた。その後、試験例1と同様にCLAの発光を測定した。同様の操作を複数回(3,5,10回)繰り返した後についてもCLAの発光を測定した。結果を図13,14に示す。尚、グラフ中の縦軸は、相対発光ユニット(rlu)を示し、横軸は、凍結及び融解の繰り返し回数を示す。
【0065】
図13,14に示されるように、本実施例のトリペプチドは、高次構造を有する酵素では通常容易に失活してしまうような、凍結及び融解を繰り返す条件下においても安定であり、活性を維持し続けることが確認された。
【0066】
このデータ及び前記の熱耐性のデータから、該ペプチドが高い耐候性(野外での高温と低温の繰り返しなどの過酷な気象条件に対する耐性)を示すことが思料でき、屋外での使用を想定した固定酵素型センサーなどへの応用に道を拓くものである。
【0067】
<試験例5:ペプチド間の活性比較例>
配列番号1のペプチドと配列番号3のペプチドがチラミンに対して高い活性をしめすことを明らかにした(図15)。実施例1から4と同様の条件の銅と過酸化水素の存在下、基質濃度に依存してスーパーオキシド生成がおきるこを示している。図15の(B)と(C)では基質であるチラミンと過酸化水素の濃度依存性の例を配列番号3のペプチドを用いて示している。
【0068】
<試験例6:ペプチド間の活性比較例その2>
配列番号1のペプチドと配列番号3のペプチドが生体内に存在する芳香族アミノ酸であるチロシンに対して高い活性をしめすことを明らかにした(図16)。しかし、別の芳香族アミノ酸であるフェニルアラニンは基質とならなかった。
【0069】
<試験例7:ペプチド間の活性比較例その3>
上記実施例と同様の組合わせのペプチドを用いて、様々な安息香酸誘導体(図17、18)およびベンゼンジオール類(図19)に対する基質特異性および活性の高低の例を示した。さらに代表的な基質となりうる物質の構造式の例を図20にまとめた。
【0070】
<試験例8:ペプチド鎖延長の効果>
GGH配列とGTH配列をもったペプチド鎖をアミノ基側でのGly付加により延長させ、ペプチド鎖長が活性に及ぼす影響を調べたところ、ペプチド鎖長の延伸に伴って顕著な活性の増大が確認できた。反応条件は実施例4と同様とした。図20では、プリオンでの類似のペプチドの構造を参考に金属ペプチド複合体の構造を予測した。図21ではペプチド鎖延長による活性の増大を示し、図22と図23では、ペプチド鎖長延長により活性の大幅な増大が認められた配列番号8のポリペプチドが、凍結・融解耐性と高温耐性を示すことをあきらかにしている。ペプチド鎖の延長モデルペプチド配列番号8での高温耐性の確認。90℃で1,3,10,30と100分加熱した場合の活性の推移(A)とオートクレーブにも影響されない活性ようすを示した(図24)。
【0071】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(a)Gly−Gly−His(GGH)、Gln−Pro−His(QPH)、Lys−Gly−His(KGH)、Arg−Gly−His(RGH)、配列番号1、配列番号2又は配列番号3のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる遺伝子。(b)前記遺伝子を組み込んだ組換えベクター。(c)前記組換えベクターを含む形質転換体。したがって、この(a)〜(c)に記載の発明によれば、形質転換体として大腸菌等の宿主を用いて、本発明のポリペプチドを大量に且つ安価に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】トリペプチドがGGHの場合(実施例1)において、各基質に対する発光強度を示すグラフ。
【図2】トリペプチドがQPHの場合(実施例2)において、各基質に対する発光強度を示すグラフ。
【図3】トリペプチドがKGHの場合(実施例3)において、各基質に対する発光強度を示すグラフ。
【図4】トリペプチドがRGHの場合(実施例4)において、各基質に対する発光強度を示すグラフ。
【図5】トリペプチドがHGGの場合(比較例1)において、各基質に対する発光強度を示すグラフ。
【図6】テトラペプチドが配列番号4の場合(比較例2)において、各基質に対する発光強度を示すグラフ。
【図7】実施例5〜7及び比較例3のポリペプチドにおいて、基質がL−チロシンの場合の発光強度を示すグラフ。
【図8】実施例5〜7及び比較例3のポリペプチドにおいて、基質がチラミンの場合の発光強度を示すグラフ。
【図9】実施例7の配列番号3のポリペプチドにおいて、各基質に対する発光強度を示すグラフ。
【図10】実施例5のポリペプチドのペルオキシダーゼ反応における各因子の要求性を示す(試験例2)。
【図11】トリペプチドがQPH(実施例2)の場合において、温度安定性を示すグラフ(試験例3)。
【図12】トリペプチドがGGH(実施例1)の場合において、温度安定性を示すグラフ(試験例3)。
【図13】トリペプチドがQPH(実施例2)の場合において、低温安定性を示すグラフ(試験例4)。
【図14】トリペプチドがGGH(実施例1)の場合において、低温安定性を示すグラフ(試験例4)。
【図15】実施例5において、(A)5種類のペプチドの場合、チラミンを基質としたときのそれぞれの発光強度を示すグラフ。(B)基質の濃度依存性を示したグラフ。(C)基質の銅濃度依存性を示したグラフ。(ペプチド:CuSO4:H2O2:チラミン=1:3:3:3)
【図16】実施例6。実施例5と同じ組合わせのペプチド5種類をもちい、生体中に存在するアミノ酸であるチロシンを基質としたときのそれぞれのスーパーオキシド生成を反映したCLA発光強度を示すグラフ。(混合比は、ペプチド:CuSO4:H2O2:チロシン=1:3:3:3)
【図17】ヒドロキシ安息香酸類の基質としての効果。実施例7として実施した、各種ポリペプチドのペルオキシダーゼ反応における各因子の要求性(A)の再確認と基質として用いた安息香酸誘導体の構造(B)、5種類のポリペプチドの場合、安息香酸類を基質としたときのそれぞれのCLA発光強度の比較を示す(C)。(混合比は、ペプチド:CuSO4:H2O2:基質=1:3:3:3)
【図18】ジヒドロキシ安息香酸類の基質としての効果。実施例7として実施した、各種ポリペプチドのペルオキシダーゼ反応における基質として用いた安息香酸誘導体の構造(A)、5種類のポリペプチドの場合、安息香酸類を基質としたときのそれぞれのCLA発光強度の比較を示す(B)。(混合比は、ペプチド:CuSO4:H2O2:基質=1:3:3:3)
【図19】ベンゼンジオール類の基質としての効果。実施例7として実施した、各種ポリペプチドのペルオキシダーゼ反応における基質として用いたベンゼンジオール類の構造(A)、5種類のポリペプチドの場合、ベンゼンジオール類を基質としたときのそれぞれのCLA発光強度の比較を示す(B)。(混合比は、ペプチド:CuSO4:H2O2:基質=1:3:3:3)
【図20】代表的な基質となりうる物質の構造式の例。
【図21】プリオンモデルをもとに考えられる人工ペルオキしダーゼ構成ペプチドと金属との複合体の構造。参考としてプリオン蛋白質上の金属結合配列を示した(A)。ペプチド鎖の延長モデルに使用したポリペプチドの配列(B)。考えられる配列番号1と配列番号7での金属の配位の様子(C)。
【図22】ペプチド鎖の延長モデルペプチドの効果。基質にはチラミンを利用した。反応条件は、他の実施例と同じ。(A)GTH構造を基本とした3種類のポリペプチドの場合チラミンを基質としたときのCLA発光強度。(B)GGH構造を基本とした4種類のポリペプチドの場合チラミンを基質としたときのCLA発光強度。コノ場合、GGHの活性は、多のペプチドの活性が大きいためにグラフではみえない。
【図23】ペプチド鎖の延長モデルペプチド配列番号8での凍結・融解耐性の確認。実施例4と同条件で凍結と融解を繰り返し、活性を比較した。
【図24】ペプチド鎖の延長モデルペプチド配列番号8での高温耐性の確認。90℃で1,3,10,30と100分加熱した場合の活性の推移(A)とオートクレーブにも影響されない活性ようすを示した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工ペルオキシダーゼに係り、詳しくは特定のポリペプチドからなる人工ペルオキシダーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、生物が生産する天然の触媒である酵素はアミノ酸が連なることで形成されるタンパク質(ポリペプチド)からなることが知られている。現在までに遺伝子工学に基づくアプローチにより既知の酵素のアミノ酸配列にランダムにアミノ酸配列を付加・延長させる人為的な「分子進化」によって有用な触媒機能を持つタンパク質を創出・選抜する手法(random elongation mutagenesis)の有用性が確認されている。例えば、非特許文献1には、カタラーゼ活性を主として有するタンパク質を、ペルオキシダーゼ活性を主として有するタンパク質へと改変(進化)させる方法が開示されている。また、非特許文献2には、ランダムな配列からDNA結合能を持つタンパク質を選抜する方法が開示されている。
【0003】
現在、世界では、多くの研究者が、分子生物学の知見と技術を駆使してペプチド配列をデザインすることで新規の触媒活性を付与したタンパク質を創出することに取り組んでいる。しかしながら既に機能することが知られる酵素中のアミノ酸配列ですら、それらが実際の反応において果たす役割についての理解は、全く十分ではない。そのため、人為的に「酵素」を創出する試みは必ずしも成功しているとは言えない。
【0004】
ところで、従来より、基質の脱水素反応において、酸化剤として過酸化水素を用い、AH2+H2O2→A+2H2Oの反応を触媒する酵素としてペルオキシダーゼが知られている。ペルオキシダーゼは、分子生物学および生化学の基礎研究から医療・保健・食品・環境分野で必須とされる抗体を用いた免疫学的な分子認識・検出手法(発光法、蛍光法、着色法、色素沈着法の何れにも利用可能)に必須の酵素であるために、人工的な合成に成功すれば工業的な応用が最も容易な酵素群の一つである。しかしながら、植物(特にセイヨウワサビ)による産生に依存するため、収量と品質がバッチやメーカーによって大きく異なるため、高純度で高活性の酵素の調達にかかるコストは無視できない。また、植物及び微生物等の生物由来の全ての天然ペルオキシダーゼは、通常の酵素と同様に高分子としての高次構造を維持することで活性を示すため、高温によって活性が失われるという問題があった。また、同様の理由で、低温で酵素を使用あるいは保存する場合、溶媒の凍結と融解を経験すると活性が消失するという問題があった。そのため、流通、保蔵、使用条件、装置化が大きく制限されてきたため、熱に安定で凍結・融解の繰り返しによって変性しない水溶液中で安定な「酵素」の創出が求められている。また、既存の酵素の多くは、水溶液中、常温での触媒としての寿命が短いという問題及び過酷な環境に対する耐候性が低いという問題があった。このことは、例えば、常温又は屋外で使用される固定化酵素を利用したセンサーの開発等において大きな障害となっていた。
【0005】
天然のペルオキシダーゼはヘムタンパク質であり、活性中心はヘムを中心としたヘムポケット内のヘムと周辺アミノ酸残基が協調して担うことが知られ、ヘムのみではペルオキシダーゼ活性は示さない。ペルオキシダーゼ活性の改変の為の試みとしては、例えばヘモグロビン等は変性などを経て構造が変化した場合(メトヘモグロビン)は、活性は低いが、ペルオキシダーゼ様活性(シュードペルオキシダーゼ活性)を示すことがある。そして、植物ペルオキシダーゼと同様にモノアミン類を基質として酸化し、スーパーオキシドの生成を触媒することが知られている。一方、本来ペルオキシダーゼではないタンパク質骨格を基礎にヘムを取り込ませペルオキシダーゼ活性を付与する試みとしては、アミロイドβペプチドにヘムが結合した場合、ペルオキシダーゼ活性を示す例が知られている(非特許文献3)。
【非特許文献1】Matsuura, T. et al. Nature Biotechnol. 17, 58-61 (1999)
【非特許文献2】Nakashima, T. et al. J. Biosci. Bioeng. 103(2), 155-160 (2007)
【非特許文献3】Atamna, H and Boyle, K. Proc Natl Acad Sci country-regionplaceU.S.A. 103(9), 3381-6 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、本発明者らの鋭意研究の結果、人為的にペプチド鎖を合成し、これまでに酵素としての機能が全く知られていない配列を有するペプチド短鎖について、ペルオキシダーゼ活性を有することを発見したことによりなされたものである。本発明の目的とするところは、容易に利用することができるとともに安定な人工ペルオキシダーゼを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明の人工ペルオキシダーゼは、X1−X2−His(X1,X2はそれぞれ独立に任意のアミノ酸を示す)のアミノ酸配列を含むアミノ酸の数が3〜14個のポリペプチドに金属イオンが結合していることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記ポリペプチドは、C末端がヒスチジンでありアミノ酸の数が3〜5個の単一のオリゴペプチド、又は該オリゴペプチドの繰り返し配列を含有するオリゴペプチドであることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記オリゴペプチドは、アミノ酸の数が3〜6個のオリゴペプチドであることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記ポリペプチドは、Gly−Gly−His(GGH)、Gln−Pro−His(QPH)、Lys−Gly−His(KGH)、Arg−Gly−His(RGH)、配列番号2で表されるポリペプチド、又は配列番号3で表されるポリペプチドであることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記ポリペプチドは、Gly−Gly−His(GGH)又はGly−Thr−His(GTH)で表される配列を含み、該配列のN末端にGlyを任意の数付加したポリペプチドであることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記ポリペプチドは、配列番号1,6〜14から選ばれる少なくとも一種のポリペプチドである。
請求項7に記載の発明は、請求項1に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記ポリペプチドは、Gly−Gly−His(GGH)、Gly−Thr−His(GTH)、又はGln−Pro−His(QPH)で表される配列を含み、該配列のC末端に任意の数及び組み合わせのアミノ酸を付与したポリペプチドであることを特徴とする。
【0012】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記ポリペプチドは、配列番号15〜20から選ばれる少なくとも一種のポリペプチドである。
請求項9に記載の発明は、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記金属イオンは、遷移金属イオンであることを特徴とする。
【0013】
請求項10に記載の発明は、請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、タンパク質、ペプチド、多糖類、合成樹脂、金属及びガラスから選ばれる少なくとも一種に結合されていることを特徴とする。
【0014】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記タンパク質は抗体であることを特徴とする。
請求項12に記載の発明は、請求項10に記載の人工ペルオキシダーゼにおいて、前記多糖類、合成樹脂、金属、又はガラスは、繊維状、顆粒状、板状、棒状、及び球状から選ばれる少なくとも一種の形態であることを特徴とする。
【0015】
請求項13に記載の発明は、以下の理化学的性質を有する請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のペルオキシダーゼ。(a)90℃、100分の処理で50%以上の活性を保持する。(b)溶媒に前記ペルオキシダーゼを溶解させて、該溶媒を液体窒素中で凍結、次に融解させる処理を10回繰り返した場合、50%以上の活性を保持する。(c)芳香族アミン、アミノ酸、アミノ酸誘導体、フェノール誘導体、安息香酸、安息香酸誘導体、及びアスコルビン酸から選ばれる少なくとも一種が基質となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、容易に利用することができるとともに安定な人工ペルオキシダーゼを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明のペルオキシダーゼを具体化した実施形態を詳細に説明する。
本実施形態のペルオキシダーゼは、X1−X2−His(X1,X2はそれぞれ独立に任意のアミノ酸を示す。尚、向かって左端がN末端、右端がC末端を示す。以下、同じ)のアミノ酸配列を含むアミノ酸の数が3〜14個のポリペプチドであって、該ポリペプチドに金属イオンが結合している構造を有している。ペルオキシダーゼの基本骨格であるX1−X2−Hisのトリペプチド構造により、例えば、遷移金属族である銅(イオン)、ニッケル(イオン)、希土類元素と結合することができる。このポリペプチドと金属が結合することによりペルオキシダーゼ様活性を発揮する。
【0018】
ペルオキシダーゼを構成するアミノ酸のうち基本骨格であるX1−X2−Hisを構成する必須のヒスチジン以外のアミノ酸は、いずれのアミノ酸でもよい。具体的には、天然のタンパク質を構成する20種類のアミノ酸を示す。より具体的には、アラニン(Ala)、アルギニン(Arg)、アスパラギン(Asn)、アスパラギン酸(Asp)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、ヒスチジン(His)、イソロイシン(Ile)、ロイシン(Leu)、リシン(Lys)、メチオニン(Met)、フェニルアラニン(Phe)、プロリン(Pro)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、トリプトファン(Trp)、チロシン(Tyr)、及びバリン(Val)を示す。
【0019】
本実施形態のペルオキシダーゼを構成するポリペプチドにおいて、好ましくは、C末端がヒスチジンであるアミノ酸の数が3〜5個のオリゴペプチドである。より好ましくは、C末端がヒスチジンであるアミノ酸の数が3個のトリペプチドである。X1−X2−Hisのアミノ酸配列を含むアミノ酸の数が3〜14個のポリペプチドとして、例えばGly−Gly−His(GGH)、Gln−Pro−His(QPH)、Lys−Gly−His(KGH)、Arg−Gly−His(RGH)、配列番号1で表されるオリゴペプチド、配列番号2で表されるポリペプチド、及び配列番号3で表されるポリペプチドが挙げられる。
【0020】
本実施形態のペルオキシダーゼを構成するポリペプチドにおいて、好ましくは、C末端がヒスチジンであるアミノ酸の数が3個以上のオリゴペプチドである。より好ましくは、金属の結合において重要な役割を担う中心部分のX1−X2−His配列が、Gly−Gly−His(GGH)、Gly−Thr−His(GTH)、Gln−Pro−His(QPH)、Lys−Gly−His(KGH)、Arg−Gly−His(RGH)であり、これらのトリペプチド配列を含むアミノ酸の数が3〜14個のポリペプチドとして、配列番号6,配列番号7,配列番号8、配列番号9、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号1で表されるオリゴペプチド(活性は僅かだが有意に存在)、X1−X2−His配列から派生する高活性のペプチド群である配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号2で表されるポリペプチド、配列番号3で表されるポリペプチド、または配列番号3から派生した配列、さらには上記配列を部分的に含むペプチド、および/または、これら配列の繰り返しを含むペプチドが挙げられる。
【0021】
ポリペプチドは、最低単位の金属結合領域として機能する配列であるGly−Gly−His(GGH)やGly−Thr−His(GTH)配列のアミノ基末端側に任意のアミノ酸を任意の数だけ付与し、ペプチド鎖長を伸ばすことにより、より安定した活性を実現することができる。即ち、GGH配列を配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10と長くする、あるいはGTH配列を配列番号11、配列番号1、配列番号12、配列番号13、配列番号14と鎖長を伸ばすことにより、高い活性を付与することができることを特徴とする。同様にQPH配列、KGH配列、RGH配列など、X1X2Hモチーフを持つ金属結合配列の鎖長をアミノ基側への任意のアミノ酸の付加により延長することで、より高い活性を付与することができる。
【0022】
ポリペプチドは、Gly−Gly−His(GGH)やGly−Thr−His(GTH)配列、Gln−Pro−His(QPH)、などの最低単位の金属結合配列のカルボキシル基末端(Hの下流)に任意の数および組み合わせのアミノ酸を付与し、ペプチド鎖長を伸ばすことによっても活性を損なうことがないことを特徴とする。
【0023】
ポリペプチドは、Gly−Gly−His(GGH)やGly−Thr−His(GTH)配列、Gln−Pro−His(QPH)、などの最低単位の金属結合配列のアミノ基末端側(XXH配列の上流)および/または、カルボキシル基末端側(Hの下流)に任意の数および組み合わせのアミノ酸を付与し、ペプチド鎖長を伸ばすことによっても活性を損なうことがないことを特徴とする。即ち、金属結合部位として機能するX1X2H構造が分断されることなく維持されていれば、人工ペルオキシダーゼとしての機能を有する。例として、配列番号21という配列や配列番号5の配列を持つ八つのアミノ酸からなるオリゴペプチドは人工ペルオキシダーゼとしての機能を有さないが、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20といった、QPH配列が分断されることなく含まれるペプチドは人工ペルオキシダーゼとしての機能を有する。
【0024】
ポリペプチドが遊離のトリペプチドやオリゴペプチドである場合は、アミノ基末端をアセチル化し、環状化するのを防ぐことが望ましい。
人工ペルオキシダーゼは、タンパク質、ペプチド、多糖類、合成樹脂、金属及びガラスから選ばれる少なくとも一種に結合されている。前記タンパク質は抗体である。前記タンパク質およびペプチドは任意の天然および/または人工の酵素であり、触媒活性の高度および/または複雑化および/または改質できることを特徴とする。多糖類、合成樹脂、金属及びガラスは、繊維、顆粒、板状、棒状、球体、又は容器壁面コーティングのいずれかの形態である。
【0025】
人工ペルオキシダーゼは、以下の理化学的性質を有する。(a)90℃、100分の処理で50%以上の活性を保持する。
(b)溶媒に前記ペルオキシダーゼを溶解させて、該溶媒を液体窒素中で凍結、次に融解させる処理を10回繰り返した場合、50%以上の活性を保持する。
【0026】
(c)芳香族アミン、アミノ酸、アミノ酸誘導体、フェノール誘導体、安息香酸、安息香酸誘導体、及びアスコルビン酸から選ばれる少なくとも一種が電子供与体としての基質となる。
(d)過酸化水素および/または有機過酸化物(ROOH)などペルオキシ構造(−O−O−)を有する過酸化物が電子受容体としての基質となる。
【0027】
(e)反応産物として、上記(c)に記載の基質の酸化物およびラジカル種や上記(d)に記載の過酸化物の分解産物である酸素、水、活性酸素種の生成、および/または反応中間体である有機ラジカル種と反応系に共存する分子酸素との二次反応の産物として生じるスーパーオキシド、さらには、そこから派生する活性酸素種など、二次的な反応産物が生じる。
【0028】
前記一次反応産物および/または二次反応産物の生成を指標とする方法および/または、これら反応産物と反応することにより発光、蛍光、着色、色素沈着など指標となる性質を示すプローブ化合物および/または疑似基質として発光、蛍光、着色、色素沈着など指標となる性質を示すプローブ化合物を利用することにより、触媒活性の定性と定量が可能であることを特徴とする請求項1から請求項14のいずれか一項に記載の人工ペルオキシダーゼ。プローブ化合物の例としてルミノール、ジアミノベンジジン、スーパーオキシドに特異的な発光を示すウミホタルルシフェリンアナログなどがあげられる。
【0029】
人工ペルオキシダーゼは、以下の理化学的性質を有する。
(a)金属結合領域およびその周辺の領域を構成するアミノ酸配列に酸性アミノ酸を含めることで芳香族アミンなど塩基性の基質に対する反応性を高めることができる。
【0030】
(b)金属結合領域およびその周辺の領域を構成するアミノ酸配列に塩基性アミノ酸を含めることで安息香酸誘導体など酸性の基質に対する反応性を高めることができる。
人工ペルオキシダーゼおよびその存在形態は、グルコースオキシダーゼやアルカリフォスファターゼやルシフェラーゼ等、他の酵素および他の無機触媒との組み合わせによりバイオセンサーや検出キットの構成要素となりうる。
【0031】
人工ペルオキシダーゼおよびその存在形態は、耐熱性の酵素(例、耐熱性グルコースオキシダーゼ)および無機触媒との組み合わせによる、高温での反応で利用可能である。
ペルオキシダーゼの直接的な基質とならない物質であってもペルオキシダーゼ反応の産物あるいは中間体である活性酸素種や有機ラジカル種と反応することにより2次的に進行する反応の触媒として利用できることを特徴とする請求項1〜18のいずれかに記載の人工ぺルオキシダーゼ。そのような基質の例としてペルオキシダーゼの直接的な基質である過酸化水素およびフェノール類と共存することで初めてペルオキシダーゼが触媒する反応により酸化的な開環反応がおきるポルフィリン類などがあげられる。
【0032】
反応メカニズムは異なるが、上記ペルオキシダーゼ反応と類似の基質の改質により類似の産物を生じる酵素群(カタラーゼ、フェノールオキシダーゼ、チロシナーゼ、NADHオキシダーゼ、NADPHオキシダーゼ、デアミナーゼ、ヒドロキシラーゼなど)の代替となる触媒、すなわち人工酵素として利用できることを特徴とする。
【0033】
本実施形態のペルオキシダーゼは、耐熱性に優れ、長期間安定であるという特徴を有する。また、溶媒に溶解させて凍結及び融解処理を繰り返した場合においても、活性の低下が極めて低く、耐候性能が高いという特徴を有する。本実施形態のペルオキシダーゼは、好ましくは、以下の理化学的性質を示すことが好ましい。耐熱性においては、90℃、100分の処理で50%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上の活性を保持する。凍結・融解処理の安定性については、溶媒にペルオキシダーゼを溶解させて、該溶媒を液体窒素中で凍結、次に融解させる処理を10回繰り返した場合、50%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上の活性を保持する。
【0034】
上記ポリペプチドは、公知の化学合成法又は遺伝子工学的手法によって製造することができる。また、既知配列からなるポリペプチドを各種特異的プロテアーゼ処理することにより、目的のポリペプチドを生成させてもよい。遺伝子工学的手法によって本実施形態のポリペプチドを得るためには、公知のインビトロ(in vitro)タンパク合成系を利用して製造することができる。具体的には、ポリペプチドをコードする塩基配列からなる遺伝子を公知の任意のベクターに組み込み、該ベクターを宿主内に導入して形質転換体を作製し、該形質転換体を培養することによって得ることができる。形質転換体は、使用する組換えベクターにより適宜決定され、例えば大腸菌、酵母、昆虫細胞、植物細胞、哺乳動物細胞等の種々の細胞を用いることができる。
【0035】
ポリペプチドに結合する金属イオンとしては、例えば遷移金属、希土類金属、アルカリ土類金属、及びアルカリ金属が挙げられる。ポリペプチドに結合する金属イオンは、ペルオキシダーゼ活性を発揮するための補因子として必要な成分である。遷移金属としては、例えばニッケル(Ni)、銅(Cu)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、及びチタン(Ti)が挙げられる。希土類としては、例えばセリウム(Ce)、ユーロピウム(Eu)、及びテルビウム(tb)が挙げられる。アルカリ土類金属としては、例えばマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、及びストロンチウム(Sr)が挙げられる。アルカリ金属としては、例えばリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、及びカリウム(K)が挙げられる。これらの中で、Cu、Ni、Co、Fe、Mgが好ましく、Cuがより好ましい。
【0036】
上記ポリペプチドに金属イオンが結合することによって、ペルオキシダーゼ様活性が発現する。ペルオキシダーゼは、基質(AH2)の脱水素反応において、酸化剤として過酸化水素を用い、AH2+H2O2→A+2H2Oの反応を触媒する酵素として知られている。本実施形態のペルオキシダーゼが作用する基質は、ペルオキシダーゼの基質となり得る基本構造を有するものであれば特に限定されないが、例えば、芳香族アミン、アミノ酸、アミノ酸誘導体、フェノール誘導体、安息香酸、安息香酸誘導体、及びアスコルビン酸が挙げられる。芳香族アミンとしては、例えば、チラミン、フェニルエチルアミン、及びトリプタミンが挙げられる。アミノ酸及びその誘導体としては、例えば、チロシン、N−アセチルチロシン、フェニルアラニン、及びトリプトファンが挙げられる。フェノール誘導体としては、例えばグアヤコール、及びカテコールが挙げられる。安息香酸誘導体としては、例えばサリチル酸、3−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、及び2,6−ジヒドロキシ安息香酸が挙げられる。さらに一般にペルオキシダーゼ活性の指標に用いられ、且つ上記基質としての特徴を示す化合物群も本実施形態のペルオキシダーゼが作用する基質に含有されるものとする。例えば、ルミノール、フルオロセイン及びフルオレシンの誘導体、ピラニン及びその誘導体、並びにベンジジン誘導体が挙げられる。フルオロセイン及びフルオレシンの誘導体としては、例えば、ジクロロフルオレシン2酢酸が挙げられる。ベンジジン誘導体としては、例えば、テトラメチルベンジジン及びジアミノベンジジンが挙げられる。
【0037】
本実施形態のペルオキシダーゼは、例えば試薬、医薬品及び飲食品等の分野において使用することができる。また、ペルオキシダーゼ自体をそのままポリペプチドの形で使用してもよく、例えば他のタンパク質、多糖類、合成樹脂、金属、ガラス等に結合させることにより使用してもよい。他のタンパク質に結合させたペルオキシダーゼは、例えば分子生物学及び生化学の基礎研究から医療、保健、食品、及び環境分野で必須とされる抗体を用いた免疫学的な分子認識・検出手法(発光法、蛍光法、着色法の何れにも利用可能)の分野において用いることができる。より具体的には、免疫染色の酵素抗体法において用いられる抗体とペルオキシダーゼを結合させた標識二次抗体が挙げられる。また、抗体のみならず、このペプチドを医薬品、試薬の分野において標識のために酵素を含むタンパク質又はペプチドに人工的に結合させることにより使用してもよい。また、工業用の触媒等として使用してもよい。例えば、これらのペルオキシダーゼを担持させた合成樹脂やガラス等が挙げられる。これらは、例えば、カラム等に充填することにより使用することができる。尚、合成樹脂にペプチドを結合させる方法として、例えばグラフト重合法を挙げることができる。ガラス表面にペプチドを固定する方法は、アレイ作成技術を適用することにより実施することができる。
【0038】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態のペルオキシダーゼは、X1−X2−His(X1、X2はそれぞれ独立に任意のアミノ酸を示す)のアミノ酸配列を含むアミノ酸の数が3〜14個のポリペプチドであって、該ポリペプチドに金属イオンが結合している。したがって、容易に生産することができ、ペルオキシダーゼ活性を容易に利用することができる。
【0039】
(2)本実施形態のペルオキシダーゼは、従来の高分子構造からなるペルオキシダーゼと比較して安定性を向上させることができる。
(3)本実施形態のペルオキシダーゼは、耐熱性を有する。したがって、高温条件でのペルオキシダーゼ反応を行なうことができる。また、常温での保存安定性を向上させることができ、長期間の保存が可能である。尚、高温耐性であることからアレニウスの10℃2倍則に基づいた触媒能の加速寿命試験が可能となり、検証可能な形で触媒能の長寿命性を実現することができる。
【0040】
(4)本実施形態のペルオキシダーゼは、低温安定性を有する。したがって、凍結させても活性を維持することができる。また、高次構造を有する酵素では通常容易に失活してしまうような、凍結及び融解を繰り返す条件下においても、活性を維持することができる。
【0041】
また、熱耐性、長寿命性、並びに凍結及び融解の反復に対する耐性は、高温と低温が繰り返される屋外での厳しい気象条件下での長期間に亘る使用に対する適正、即ち耐候性の高さを示すものであり、常温又は屋外での使用を想定した酵素固定型センサー等の開発に道を拓くものである。
【0042】
(5)本実施形態のペルオキシダーゼは、好ましくは、オリゴペプチドはC末端がヒスチジンであるアミノ酸の数が3〜5個のオリゴペプチドである。したがって、より容易に生産することができる。
【0043】
(6)本実施形態のペルオキシダーゼは、より好ましくは、オリゴペプチドはアミノ酸の数が3個のトリペプチドである。したがって、一層容易に生産することができる。
(7)本実施形態のペルオキシダーゼは、ポリペプチド部分において、好ましくはGly−Gly−His(GGH)、Gln−Pro−His(QPH)、Lys−Gly−His(KGH)、Arg−Gly−His(RGH)、配列番号1で表されるオリゴペプチド、配列番号2で表されるポリペプチド、又は配列番号3で表されるポリペプチドを使用することができる。したがって、より高いペルオキシダーゼ活性を期待することができる。
【0044】
(8)本実施形態のペルオキシダーゼは、例えば、タンパク質、合成樹脂、及びガラスから選ばれる少なくとも一種に結合されることによって、工業、試薬、医薬品、飲食品等の各分野において有用に利用することができる。
【0045】
(9)本実施形態のペルオキシダーゼは、抗体と結合させることにより、例えば標識二次抗体として利用することができる。したがって、従来の植物(特にセイヨウワサビ)による産生に比べ、収量及び品質が時期及び製造者間で相違することがない。また、植物体からの高純度の精製処理を行なう必要がなく、安価で且つ短時間で高活性のペルオキシダーゼを得ることができる。
【0046】
(10)本実施形態のペルオキシダーゼは、好ましくは90℃、100分の処理で50%以上の活性を保持するとともに、溶媒にペルオキシダーゼを溶解させて、該溶媒を液体窒素中で凍結、次に融解させる処理を10回繰り返した場合、50%以上の活性を保持するという理化学的な性質を有する。したがって、従来知られていない新規な性質を有するペルオキシダーゼであり、貯蔵安定性の向上を期待できるのみならず、基質と成り得る化学物質のモニターに用いる化学センサー(例えば固定酵素型センサーや屋外用酵素型センサー)への適用が期待され、野外等の過酷な気象条件で長期間に亘る使用を可能にする。
【0047】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態において、ポリペプチドは、緩衝液等の溶液中に保存してもよく、結晶状又は粉末状にして保存してもよい。
【実施例】
【0048】
次に、実施例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。
<試験例1:ポリペプチドのペルオキシダーゼ活性の測定>
実施例のポリペプチドとして、実施例1:Gly−Gly−His(GGH)、実施例2:Gln−Pro−His(QPH)、実施例3:Lys−Gly−His(KGH)、実施例4:Arg−Gly−His(RGH)、実施例5:配列番号1で表されるオリゴペプチド、実施例6:配列番号2で表されるポリペプチド、実施例7:配列番号3で表されるポリペプチドを合成した。比較例のオリゴペプチドとして、比較例1:His−Gly−Gly(HGG)、比較例2:配列番号4で表されるオリゴペプチド、比較例3:配列番号5で表されるオリゴペプチドを合成した。各例のポリペプチドにおいて、ペルオキシダーゼ活性を測定した。
【0049】
ペルオキシダーゼ活性は、発光試薬である2−メチル−6−フェニル−3,7−ジヒドロイミダゾール[1,2−a]ピラジン−3−オン(CLA:Cypridina luciferin analog、東京化成工業社製)を使用することにより測定することができる。ペルオキシダーゼによって触媒される酸化還元反応は、基質(AH)と活性酸素が反応し、A・(ラジカル)と水を生じさせる反応である。A・はさらに酸素と反応しA+とスーパーオキシドアニオンを生成する。CLAはこのスーパーオキシドアニオンと反応し発光する。CLAによって生じる発光を測定することにより、ペルオキシダーゼ活性を測定することができる。
【0050】
基質としては、芳香族アミンとしてチラミン、フェノール誘導体としてサリチル酸(SA)、安息香酸誘導体として安息香酸(BA)、3−ヒドロキシ安息香酸(3HBA)、及び4−ヒドロキシ安息香酸(4HBA)を使用した。実施例5〜7及び比較例3の場合は、基質としてさらにL−チロシンも使用した。
【0051】
反応は、pH7.0の50mMリン酸緩衝液に5μMのCLA、0.15mMの各例のポリペプチド、補因子として0.5mMのCuSO4、0.5mMの過酸化水素を順に添加し、最後に基質を0.5mM添加した。その時のCLAの発光を検出した。発光の検出はルミノメーター(ルミネッセンサーAB-2200、アトー株式会社製)(実施例1〜4、比較例1,2)及びペンレコーダーを備えてなるCHEM−GLOWフォトメーター(America Instrument社製)(実施例5〜7、比較例3)を使用した。検出された最大発光強度は相対発光ユニット(relative luminesence unit(rlu))として表した。結果を図1〜8に示す。グラフ中の縦軸は、相対発光ユニット(rlu)を示す。
【0052】
図1に示されるように、実施例1:Gly−Gly−His(GGH)を使用する場合、基質としてチラミンを使用する場合に強い発光が生じることが確認された。3HBAを基質とした場合にも発光が生じることが確認された。
【0053】
図2に示されるように、実施例2:Gln−Pro−His(QPH)を使用する場合、基質としてチラミンを使用する場合に強い発光が生じることが確認された。4HBAを基質とした場合にも発光が生じることが確認された。
【0054】
図3に示されるように、実施例3:Lys−Gly−His(KGH)を使用する場合、基質としてチラミンと4HBAを使用する場合に強い発光が生じることが確認された。
図4に示されるように、実施例4:Arg−Gly−His(RGH)を使用する場合、基質として4HBAを使用する場合に強い発光が生じることが確認された。基質としてチラミンを使用した場合には、発光は観察されなかった。
【0055】
図5に示されるように、比較例1:His−Gly−Gly(HGG)を使用した場合は、発光は観察されなかった。またHisがトリペプチドの中央に位置するGly−His−Gly(GHG)およびGly−His−Lys(GHK)やHisの上流に十分な数のアミノ酸が存在しないGly−His(GH)では発光が観察されなかった。
図6に示されるように、比較例2:配列番号4で表されるポリペプチドを使用した場合、発光は観察されなかった。図には示さないが、比較実験として、ペプチドでなく、アミノ酸を遊離アミノ酸の状態で利用した場合、20種類の天然のアミノ酸の全てが活性を示さなかった。
【0056】
また以下のGly−Gly(GG)、Gly−Gly−Gly(GGG)、配列番号22、配列番号23、Ala−Ala(AA)、Ala−Gly−Gly(AGG)、Ala−His(AH),Ala−Gly−Asp(AGD)、Lys−Lys−Lys(KKK),Leu−Leu−Leu(LLL)などのX1−X2−Hisの法則に当てはまらないペプチド配列はいずれも、チラミンを基質とした発光を触媒しないことを確認している。
【0057】
以上の結果より、オリゴペプチドとしてC末端がヒスチジンであるX1X2H構造を有する場合に発光が認められるものと思料される。
図7,8に示されるように、実施例5〜7のポリペプチドにおいて、基質がL−チロシン及びチラミンである場合、発光が認められた。特に実施例5のポリペプチドは強い発光が認められた。一方、比較例3のオリゴペプチドは発光が認められなかった。
【0058】
図9に示されるように、実施例7のポリペプチドは、基質としてL−チロシン、3HBA及び4HBAを使用する場合に強い発光が生じることが確認された。
以上により、ポリペプチドとしてXXH構造を基本骨格としてアミノ酸数14以内のポリペプチドにおいて発光が認められるものと思料される。一方、XXHからなる基本骨格を有しない比較例1〜3は発光が認められなかった。また、各実施例のポリペプチドによるスーパーオキシドアニオン生成反応は、基質の種類により異なる反応性を示す(基質特異性を有する)ことからポリペプチドと金属イオンにより、ペルオキシダーゼ様の酵素反応が行なわれることが確認された。
【0059】
<試験例2:ペルオキシダーゼ反応における各因子の要求性>
ペルオキシダーゼ反応における各因子の要求性を評価した。実施例5のオリゴペプチドを使用した。図10において、CHEM−GLOWフォトメーターによる記録データを示す。
【0060】
図10に示されるように、オリゴペプチド、補因子である銅イオン、酸化剤である過酸化水素、及び基質であるチラミンのいずれが欠けてもCLAの発光は認められないことが確認された。図中「complete」とはオリゴペプチド、銅イオン、過酸化水素、及びチラミンを全て混合させた場合を示す。また、図中「DDW」とは蒸留水を示す。尚、実施例1、2、3、4、7、8のオリゴペプチドを用いた場合も同様の結果を得ている。
【0061】
<試験例3:ポリペプチドからなるペルオキシダーゼ活性の高温安定性>
ポリペプチドからなるペルオキシダーゼ活性の高温安定性を評価した。実施例1,2のトリペプチドについて、溶媒としてpH7.0の50mMリン酸緩衝液に溶解させて、該溶媒を90℃の温度で所定時間(0〜100分間)加熱処理し、その後、試験例1と同様にCLAの発光を測定した。結果を図11,12に示す。尚、グラフ中の縦軸は、相対発光ユニット(rlu)を示し、横軸は、加熱時間を示す。
【0062】
図11,12に示されるように、実施例1,2のトリペプチドは、一般にタンパク質を完全に変性させてしまう温度処理(90℃で100分間)では活性が失われないことが確認された。したがって、高温条件でのペルオキシダーゼ反応に応用できるものと思料される。また、常温での保存安定性を向上させることができるものと思料される。尚、配列QPHについて、121℃15分間のオートクレーブ処理では活性は失われた。
【0063】
この高温域で維持される活性を利用して、「アレニウスの10℃2倍則」に基づいた触媒としての加速寿命試験を行い、長寿命性を試験により示すことが可能となった。例として、室温20℃での水溶液条件での使用を想定すると、使用想定温度よりも70℃高い90℃という高温での100分間の処理後にも活性に低下が認められなかったことから、20℃での8.8日間の連続使用後にも活性の低下が認められないことを示している。尚、このような加速寿命試験は、熱耐性を示さない一般のタンパク質からなる酵素には適用することは不可能である。
【0064】
<試験例4:ポリペプチドからなるペルオキシダーゼ活性の低温安定性>
ポリペプチドからなるペルオキシダーゼ活性の凍結・融解処理の安定性を評価した。実施例1,2のトリペプチドについて、溶媒としてpH7.0の50mMリン酸緩衝液に溶解させて、該溶媒を液体窒素中に5秒間浸漬し、完全に凍結したことを確認した後、室温にて融解させた。その後、試験例1と同様にCLAの発光を測定した。同様の操作を複数回(3,5,10回)繰り返した後についてもCLAの発光を測定した。結果を図13,14に示す。尚、グラフ中の縦軸は、相対発光ユニット(rlu)を示し、横軸は、凍結及び融解の繰り返し回数を示す。
【0065】
図13,14に示されるように、本実施例のトリペプチドは、高次構造を有する酵素では通常容易に失活してしまうような、凍結及び融解を繰り返す条件下においても安定であり、活性を維持し続けることが確認された。
【0066】
このデータ及び前記の熱耐性のデータから、該ペプチドが高い耐候性(野外での高温と低温の繰り返しなどの過酷な気象条件に対する耐性)を示すことが思料でき、屋外での使用を想定した固定酵素型センサーなどへの応用に道を拓くものである。
【0067】
<試験例5:ペプチド間の活性比較例>
配列番号1のペプチドと配列番号3のペプチドがチラミンに対して高い活性をしめすことを明らかにした(図15)。実施例1から4と同様の条件の銅と過酸化水素の存在下、基質濃度に依存してスーパーオキシド生成がおきるこを示している。図15の(B)と(C)では基質であるチラミンと過酸化水素の濃度依存性の例を配列番号3のペプチドを用いて示している。
【0068】
<試験例6:ペプチド間の活性比較例その2>
配列番号1のペプチドと配列番号3のペプチドが生体内に存在する芳香族アミノ酸であるチロシンに対して高い活性をしめすことを明らかにした(図16)。しかし、別の芳香族アミノ酸であるフェニルアラニンは基質とならなかった。
【0069】
<試験例7:ペプチド間の活性比較例その3>
上記実施例と同様の組合わせのペプチドを用いて、様々な安息香酸誘導体(図17、18)およびベンゼンジオール類(図19)に対する基質特異性および活性の高低の例を示した。さらに代表的な基質となりうる物質の構造式の例を図20にまとめた。
【0070】
<試験例8:ペプチド鎖延長の効果>
GGH配列とGTH配列をもったペプチド鎖をアミノ基側でのGly付加により延長させ、ペプチド鎖長が活性に及ぼす影響を調べたところ、ペプチド鎖長の延伸に伴って顕著な活性の増大が確認できた。反応条件は実施例4と同様とした。図20では、プリオンでの類似のペプチドの構造を参考に金属ペプチド複合体の構造を予測した。図21ではペプチド鎖延長による活性の増大を示し、図22と図23では、ペプチド鎖長延長により活性の大幅な増大が認められた配列番号8のポリペプチドが、凍結・融解耐性と高温耐性を示すことをあきらかにしている。ペプチド鎖の延長モデルペプチド配列番号8での高温耐性の確認。90℃で1,3,10,30と100分加熱した場合の活性の推移(A)とオートクレーブにも影響されない活性ようすを示した(図24)。
【0071】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(a)Gly−Gly−His(GGH)、Gln−Pro−His(QPH)、Lys−Gly−His(KGH)、Arg−Gly−His(RGH)、配列番号1、配列番号2又は配列番号3のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる遺伝子。(b)前記遺伝子を組み込んだ組換えベクター。(c)前記組換えベクターを含む形質転換体。したがって、この(a)〜(c)に記載の発明によれば、形質転換体として大腸菌等の宿主を用いて、本発明のポリペプチドを大量に且つ安価に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】トリペプチドがGGHの場合(実施例1)において、各基質に対する発光強度を示すグラフ。
【図2】トリペプチドがQPHの場合(実施例2)において、各基質に対する発光強度を示すグラフ。
【図3】トリペプチドがKGHの場合(実施例3)において、各基質に対する発光強度を示すグラフ。
【図4】トリペプチドがRGHの場合(実施例4)において、各基質に対する発光強度を示すグラフ。
【図5】トリペプチドがHGGの場合(比較例1)において、各基質に対する発光強度を示すグラフ。
【図6】テトラペプチドが配列番号4の場合(比較例2)において、各基質に対する発光強度を示すグラフ。
【図7】実施例5〜7及び比較例3のポリペプチドにおいて、基質がL−チロシンの場合の発光強度を示すグラフ。
【図8】実施例5〜7及び比較例3のポリペプチドにおいて、基質がチラミンの場合の発光強度を示すグラフ。
【図9】実施例7の配列番号3のポリペプチドにおいて、各基質に対する発光強度を示すグラフ。
【図10】実施例5のポリペプチドのペルオキシダーゼ反応における各因子の要求性を示す(試験例2)。
【図11】トリペプチドがQPH(実施例2)の場合において、温度安定性を示すグラフ(試験例3)。
【図12】トリペプチドがGGH(実施例1)の場合において、温度安定性を示すグラフ(試験例3)。
【図13】トリペプチドがQPH(実施例2)の場合において、低温安定性を示すグラフ(試験例4)。
【図14】トリペプチドがGGH(実施例1)の場合において、低温安定性を示すグラフ(試験例4)。
【図15】実施例5において、(A)5種類のペプチドの場合、チラミンを基質としたときのそれぞれの発光強度を示すグラフ。(B)基質の濃度依存性を示したグラフ。(C)基質の銅濃度依存性を示したグラフ。(ペプチド:CuSO4:H2O2:チラミン=1:3:3:3)
【図16】実施例6。実施例5と同じ組合わせのペプチド5種類をもちい、生体中に存在するアミノ酸であるチロシンを基質としたときのそれぞれのスーパーオキシド生成を反映したCLA発光強度を示すグラフ。(混合比は、ペプチド:CuSO4:H2O2:チロシン=1:3:3:3)
【図17】ヒドロキシ安息香酸類の基質としての効果。実施例7として実施した、各種ポリペプチドのペルオキシダーゼ反応における各因子の要求性(A)の再確認と基質として用いた安息香酸誘導体の構造(B)、5種類のポリペプチドの場合、安息香酸類を基質としたときのそれぞれのCLA発光強度の比較を示す(C)。(混合比は、ペプチド:CuSO4:H2O2:基質=1:3:3:3)
【図18】ジヒドロキシ安息香酸類の基質としての効果。実施例7として実施した、各種ポリペプチドのペルオキシダーゼ反応における基質として用いた安息香酸誘導体の構造(A)、5種類のポリペプチドの場合、安息香酸類を基質としたときのそれぞれのCLA発光強度の比較を示す(B)。(混合比は、ペプチド:CuSO4:H2O2:基質=1:3:3:3)
【図19】ベンゼンジオール類の基質としての効果。実施例7として実施した、各種ポリペプチドのペルオキシダーゼ反応における基質として用いたベンゼンジオール類の構造(A)、5種類のポリペプチドの場合、ベンゼンジオール類を基質としたときのそれぞれのCLA発光強度の比較を示す(B)。(混合比は、ペプチド:CuSO4:H2O2:基質=1:3:3:3)
【図20】代表的な基質となりうる物質の構造式の例。
【図21】プリオンモデルをもとに考えられる人工ペルオキしダーゼ構成ペプチドと金属との複合体の構造。参考としてプリオン蛋白質上の金属結合配列を示した(A)。ペプチド鎖の延長モデルに使用したポリペプチドの配列(B)。考えられる配列番号1と配列番号7での金属の配位の様子(C)。
【図22】ペプチド鎖の延長モデルペプチドの効果。基質にはチラミンを利用した。反応条件は、他の実施例と同じ。(A)GTH構造を基本とした3種類のポリペプチドの場合チラミンを基質としたときのCLA発光強度。(B)GGH構造を基本とした4種類のポリペプチドの場合チラミンを基質としたときのCLA発光強度。コノ場合、GGHの活性は、多のペプチドの活性が大きいためにグラフではみえない。
【図23】ペプチド鎖の延長モデルペプチド配列番号8での凍結・融解耐性の確認。実施例4と同条件で凍結と融解を繰り返し、活性を比較した。
【図24】ペプチド鎖の延長モデルペプチド配列番号8での高温耐性の確認。90℃で1,3,10,30と100分加熱した場合の活性の推移(A)とオートクレーブにも影響されない活性ようすを示した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X1−X2−His(X1,X2はそれぞれ独立に任意のアミノ酸を示す)のアミノ酸配列を含むアミノ酸の数が3〜14個のポリペプチドに金属イオンが結合していることを特徴とする人工ペルオキシダーゼ。
【請求項2】
前記ポリペプチドは、C末端がヒスチジンでありアミノ酸の数が3〜5個の単一のオリゴペプチド、又は該オリゴペプチドの繰り返し配列を含有するオリゴペプチドであることを特徴とする請求項1に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項3】
前記オリゴペプチドは、アミノ酸の数が3〜6個のオリゴペプチドであることを特徴とする請求項2に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項4】
前記ポリペプチドは、Gly−Gly−His(GGH)、Gln−Pro−His(QPH)、Lys−Gly−His(KGH)、Arg−Gly−His(RGH)、配列番号2で表されるポリペプチド、又は配列番号3で表されるポリペプチドであることを特徴とする請求項1に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項5】
前記ポリペプチドは、Gly−Gly−His(GGH)又はGly−Thr−His(GTH)で表される配列を含み、該配列のN末端にGlyを任意の数付加したポリペプチドであることを特徴とする請求項1に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項6】
前記ポリペプチドは、配列番号1,6〜14から選ばれる少なくとも一種のポリペプチドである請求項5に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項7】
前記ポリペプチドは、Gly−Gly−His(GGH)、Gly−Thr−His(GTH)、又はGln−Pro−His(QPH)で表される配列を含み、該配列のC末端に任意の数及び組み合わせのアミノ酸を付与したポリペプチドであることを特徴とする請求項1に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項8】
前記ポリペプチドは、配列番号15〜20から選ばれる少なくとも一種のポリペプチドである請求項7に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項9】
前記金属イオンは、遷移金属イオンであることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項10】
タンパク質、ペプチド、多糖類、合成樹脂、金属及びガラスから選ばれる少なくとも一種に結合されていることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項11】
前記タンパク質は抗体であることを特徴とする請求項10に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項12】
前記多糖類、合成樹脂、金属、又はガラスは、繊維状、顆粒状、板状、棒状、及び球状から選ばれる少なくとも一種の形態であることを特徴とする請求項10に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項13】
以下の理化学的性質を有する請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のペルオキシダーゼ。
(a)90℃、100分の処理で50%以上の活性を保持する。
(b)溶媒に前記ペルオキシダーゼを溶解させて、該溶媒を液体窒素中で凍結、次に融解させる処理を10回繰り返した場合、50%以上の活性を保持する。
(c)芳香族アミン、アミノ酸、アミノ酸誘導体、フェノール誘導体、安息香酸、安息香酸誘導体、及びアスコルビン酸から選ばれる少なくとも一種が基質となる。
【請求項1】
X1−X2−His(X1,X2はそれぞれ独立に任意のアミノ酸を示す)のアミノ酸配列を含むアミノ酸の数が3〜14個のポリペプチドに金属イオンが結合していることを特徴とする人工ペルオキシダーゼ。
【請求項2】
前記ポリペプチドは、C末端がヒスチジンでありアミノ酸の数が3〜5個の単一のオリゴペプチド、又は該オリゴペプチドの繰り返し配列を含有するオリゴペプチドであることを特徴とする請求項1に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項3】
前記オリゴペプチドは、アミノ酸の数が3〜6個のオリゴペプチドであることを特徴とする請求項2に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項4】
前記ポリペプチドは、Gly−Gly−His(GGH)、Gln−Pro−His(QPH)、Lys−Gly−His(KGH)、Arg−Gly−His(RGH)、配列番号2で表されるポリペプチド、又は配列番号3で表されるポリペプチドであることを特徴とする請求項1に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項5】
前記ポリペプチドは、Gly−Gly−His(GGH)又はGly−Thr−His(GTH)で表される配列を含み、該配列のN末端にGlyを任意の数付加したポリペプチドであることを特徴とする請求項1に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項6】
前記ポリペプチドは、配列番号1,6〜14から選ばれる少なくとも一種のポリペプチドである請求項5に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項7】
前記ポリペプチドは、Gly−Gly−His(GGH)、Gly−Thr−His(GTH)、又はGln−Pro−His(QPH)で表される配列を含み、該配列のC末端に任意の数及び組み合わせのアミノ酸を付与したポリペプチドであることを特徴とする請求項1に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項8】
前記ポリペプチドは、配列番号15〜20から選ばれる少なくとも一種のポリペプチドである請求項7に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項9】
前記金属イオンは、遷移金属イオンであることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項10】
タンパク質、ペプチド、多糖類、合成樹脂、金属及びガラスから選ばれる少なくとも一種に結合されていることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項11】
前記タンパク質は抗体であることを特徴とする請求項10に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項12】
前記多糖類、合成樹脂、金属、又はガラスは、繊維状、顆粒状、板状、棒状、及び球状から選ばれる少なくとも一種の形態であることを特徴とする請求項10に記載の人工ペルオキシダーゼ。
【請求項13】
以下の理化学的性質を有する請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のペルオキシダーゼ。
(a)90℃、100分の処理で50%以上の活性を保持する。
(b)溶媒に前記ペルオキシダーゼを溶解させて、該溶媒を液体窒素中で凍結、次に融解させる処理を10回繰り返した場合、50%以上の活性を保持する。
(c)芳香族アミン、アミノ酸、アミノ酸誘導体、フェノール誘導体、安息香酸、安息香酸誘導体、及びアスコルビン酸から選ばれる少なくとも一種が基質となる。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2009−131250(P2009−131250A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282597(P2008−282597)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究(知的クラスター創成事業第II期)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究(知的クラスター創成事業第II期)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】
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