説明

人工内耳装置用のフック保持具

【課題】人工内耳装置用であって、フックと耳かけ本体からなる耳かけ部にマイクロホンを設け、この耳かけ部の位置ずれを抑制しつつ、脱着作業が容易で、美観に優れ、マイクロホンをフック先端部に設けた場合でも、マイクロホン付近の音場への影響を少なくすることができる人工内耳装置用のフック保持具を提供する。
【解決手段】フック保持具は樹脂製のモールド部と金属ワイヤでなるフック把持部からなり、前記フック保持具を耳甲介腔と耳甲介艇からなる耳甲介部に装着し、前記フック先端部を前記フック把持部のバネ性で把持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フックと耳かけ本体からなる耳かけ部にマイクロホンを設け、この耳かけ部の位置ずれを抑制する人工内耳装置用のフック保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
人工内耳装置とは、蝸牛内部にある聞こえの神経を電気信号で刺激し、音感を与える装置である。この人工内耳装置は大きく分けて、体外部分と体内部分の2つで構成されている。体外部分は人の声等の環境音を電気信号に変えるマイクロホンと体内部分でどのように通電するかを決めるスピーチプロセッサや送信用のアンテナ等で構成される。体内部分は受信用のアンテナや蝸牛内部の神経に刺激を与える内部電極等で構成される。
【0003】
人工内耳装置は耳かけ型と携帯型に分けることができる。耳かけ型はマイクロホンやスピーチプロセッサ等が耳かけ部に設けられている。また、携帯型はマイクロホンが耳かけ部に設けられ、スピーチプロセッサ等は携帯本体部に設けられ、使用者はこの携帯本体部を腰部(例えば、ベルト)等に装着する。耳かけ型と携帯型は共に耳かけ部を備え、この耳かけ部には少なくともマイクロホンが設けられている。また、耳かけ部は耳かけ本体とフックで構成され、使用者の耳介上部に装着し使用することになる。
【0004】
耳かけ部には、フックの先端であるフック先端部にマイクロホンを設け、このフック先端部を使用者の外耳道付近に位置させることにより、耳介の集音効果を利用して聞き取りをするものがある。このような耳かけ部を使用した場合、使用者の日常生活での動きによって、マイクロホンを設けたフック先端部の位置が外耳道付近からずれることがある。特に、使用者が小児の場合では、耳かけ部を装着していることを忘れ、手で触れたり、走り回るなどの身体の動きにより、フック先端部の位置がずれてしまうことが多くなる。
【0005】
この対応として、図5に示すように、フック先端部の位置ずれを抑制するために、使用者の耳甲介部を型どりしたモールド部分とフック先端部を篏通し保持する孔部(D)を形成した部分が、共に樹脂で形成されて一体でなる保持具(以下、樹脂製保持具。)がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、樹脂製保持具では、強度や耐久性を確保しつつ、フック先端部を篏通させて保持する孔部(D)を形成するには、樹脂の厚みと幅は数mm必要となることから、フック先端部のほとんどは樹脂で覆われ、マイクロホンの周囲には盛り上がったこの樹脂(E)が存在することになる。この盛り上がった樹脂(E)のため、マイクロホン付近の音場を不必要に乱してしまうことがある。また、外耳道付近の目立つ位置であることから美観を損ねることになる。さらに、フックと樹脂製保持具を脱着する際に、樹脂製保持具に設けた孔部(D)にフック先端部を嵌通させなければならないので、脱着作業が容易でなく、フック先端部の劣化につながる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、従来の技術が有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耳かけ部の位置ずれを抑制しつつ、脱着作業が容易で、美観に優れ、マイクロホンをフック先端部に設けた場合でも、マイクロホン付近の音場への影響を少なくすることができる人工内耳装置用のフック保持具を提供するものである。
【0008】
上記課題を解決すべく請求項1に係る発明は、人工内耳装置は耳かけ本体とフックからなる耳かけ部を備え、この耳かけ部にマイクロホンを設け、前記耳かけ部を使用者の耳介上部に装着し、フック先端部を外耳道付近で保持する人工内耳装置用のフック保持具において、前記フック保持具は樹脂製のモールド部と金属ワイヤでなるフック把持部からなり、前記フック保持具を耳甲介部に装着し、前記フック先端部を前記フック把持部のバネ性で把持するものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の人工内耳装置用のフック保持具において、前記耳かけ部のフック先端部にマイクロホンを設け、このフック先端部を外耳道付近で保持するものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の人工内耳装置用のフック保持具において、前記フック把持部は一方向が開放された形状を形成しているものである。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3に記載の人工内耳装置用のフック保持具において、前記モールド部に貫通部を有するものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、使用者の日常生活での動きや手で触れることによる耳かけ部の位置ずれを抑制することができ、目立ち難く美観的にも優れたものになる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、フック先端部に設けたマイクロホン付近の音場をほとんど乱すことがないものになる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、耳かけ部のフック先端部とフック保持具の脱着作業が容易となる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、軽量となり、外耳道を塞ぐことなく、使用者がより快適に装着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るフック保持具の第1実施の形態の斜視図
【図2】本発明に係るフック保持具の第1実施の形態の上面図
【図3】本発明に係るフック保持具の第1実施の形態の装着状態を示す図
【図4】本発明に係るフック把持部の第2実施の形態の上面図
【図5】従来例の樹脂製保持具の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。本発明に係る人工内耳装置用のフック保持具の第1実施の形態は、図1及び図2に示すように、フック保持具1はモールド部2とフック把持部3からなる。モールド部2の外形形状は人工内耳装置の使用者の耳甲介腔と耳甲介艇からなる耳甲介部に合う形状となっている。また、外耳道を塞ぐことなく、皮膚との接触部を減らし、軽量となり、使用者がより快適に装着することができるように、モールド部2のモールドを取り除いた貫通部4を設けている。フック把持部3は金属のワイヤであり、マイクロホンを設けた耳かけ部5のフック先端部8の形状に合わせて形成され、このフック先端部8を金属の弾性により把持することができる形状である。なお、図2の破線で示すように、モールド部2が外耳道にも形成される場合は、外耳道を塞ぐことがないように、貫通部(B)を設けるとよい。
【0018】
モールド部2は使用者の耳甲介部の耳型取りをし、この耳型を基にして石膏型や寒天型等を形成する。形成した型へ、モールド部2に貫通部4を設けるための挿入部材とフック把持部3をセットし、モールド材を注入し硬化させることで製造することができる。また、耳型の三次元データを用いた光造形により、モールド部を形成してから、フック把持部を取り付けることもできる。モールド材としては、アクリル系樹脂等が用いられる。光造形では、エポキシ系樹脂等の光硬化性樹脂を用いる。なお、使用者の要望に応じて、貫通部4の形状を追加工により変更することができるし、貫通部4自体を設けなくてもよい。また、モールド材の硬度や色を選択できるようにしてもよい。
【0019】
フック把持部3は金属ワイヤであり、図1乃至図3に示すように、耳かけ部5のフック先端部8の形状に合わせた形状で、一方向を開放させて形成され、このフック先端部8を金属ワイヤのバネ性で把持することができる。金属ワイヤは1本に限らず、複数本で形状を形成してもよい。金属ワイヤの材質としては、加工性や使用時の耐久性等が求められるので、ニッケル・コバルト等を含むステンレスやニッケル・チタン合金等で、弾性特性・耐腐食性等への配慮をして選定する必要がある。線径はステンレスであれば0.5から0.8ミリメートルであるが、材質や形成する形状寸法等により選定することになる。金属ワイヤには色づけしたり、耐久性等を高めるためにコーティング等を施してもよい。
【0020】
以上のようなフック保持具1の装着方法を説明する。図1乃至図3に示すように、フック保持具1を使用者の耳甲介部に装着する。人工内耳装置の耳かけ部5は耳かけ本体6とフック7からなり、弓なり形状を形成し、使用者の耳介上部に装着される。このときフック先端部8は、フック保持具1のフック把持部3付近に位置することになるので、フック先端部8をフック把持部3に、図2のAの矢印方向から挿入することで、フック先端部8はフック把持部3のバネ性で把持される。使用者は耳かけ部5の耳介への装着とフック保持具1の取り付けを容易にできる。
【0021】
よって、耳かけ部5は使用者の耳介上部に装着されると共に、フック保持具1により保持され、使用者の日常生活での動きや手で触れることによる耳かけ部5の位置ずれを抑制することができる。また、フック保持具1は、フック先端部8との脱着作業が容易で、美観に優れ、マイクロホンをフック先端部8に設けた場合でも、マイクロホン付近の音場への影響が少ない。
【0022】
次に、本発明に係る人工内耳装置用のフック保持具の第2実施の形態は、図4に示すように、フック保持具9のフック把持部11に孔部12を設けた8の字形状に形成している。交点部(C)は固定されていないので、孔部12の孔径は矢印方向に押し広げることができ、力を除くと金属ワイヤのバネ性で元に戻るようになっている。その他の構成は第1実施の形態と同様である。ここでは、以上のようなフック保持具9の装着方法を説明する。フック把持部11の孔部12の孔径を押し広げながら耳かけ部5のフック先端部8を挿入する。次に、フック保持具9が耳かけ部5のフック先端部8に取り付けられた状態で、使用者は装着する。
【0023】
よって、耳かけ部5は使用者の耳介上部に装着されると共に、フック保持具9により保持され、使用者の日常生活での動きや手で触れることによる耳かけ部5の位置ずれを抑制することができる。さらに、フック保持具1は、フック先端部8との脱着作業が容易で、美観に優れ、マイクロホンをフック先端部に設けた場合でも、マイクロホン付近の音場への影響が少ない。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、マイクロホンを設けた耳かけ部のフック先端部を保持することにより、フック先端部の位置ずれを抑制し、脱着作業が容易で、美観に優れ、マイクロホンをフック先端部に設けた場合でも、マイクロホン付近の音場への影響が少ない人工内耳装置用のフック保持具を提供することができる。
【符号の説明】
【0025】
1・9…フック保持具、2・10…モールド部、3・11…フック把持部、4…貫通部、5…耳かけ部、6…耳かけ本体、7…フック、8…フック先端部、12…孔部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工内耳装置は耳かけ本体とフックからなる耳かけ部を備え、この耳かけ部にマイクロホンを設け、前記耳かけ部を使用者の耳介上部に装着し、フック先端部を外耳道付近で保持する人工内耳装置用のフック保持具において、前記フック保持具は樹脂製のモールド部と金属ワイヤでなるフック把持部からなり、前記フック保持具を耳甲介部に装着し、前記フック先端部を前記フック把持部のバネ性で把持することを特徴とする人工内耳装置用のフック保持具。
【請求項2】
前記耳かけ部のフック先端部にマイクロホンを設け、このフック先端部を外耳道付近で保持することを特徴とする請求項1に記載の人工内耳装置用のフック保持具。
【請求項3】
前記フック把持部は一方向が開放された形状を形成していることを特徴とする請求項1又は2に記載の人工内耳装置用のフック保持具。
【請求項4】
前記モールド部に貫通部を有することを特徴とする請求項1乃至3に記載の人工内耳装置用のフック保持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−251910(P2010−251910A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97179(P2009−97179)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000115636)リオン株式会社 (128)
【Fターム(参考)】