人工多能性幹細胞のマーカー
本開示は、人工多能性幹細胞表面上のポドカリキシン様タンパク質(PODXL)の発現に、そして排他的ではないが、特に、人工多能性幹細胞のマーカーとしてのPODXLの使用に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工多能性幹細胞表面上のポドカリキシン様タンパク質(PODXL)の発現に、そして排他的ではないが、特に、人工多能性幹細胞のマーカーとしてのPODXLの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
胚性および他の多能性幹細胞は、療法において大きな潜在能力を有する。こうした細胞を再生医学中で用いて、疾患または傷害によって損傷を受けている組織を修復することも可能である。しかし、医学における胚性幹細胞の使用は、ヒト胚使用に関連する重大な倫理的懸念のため限定されている。最近、山中研究室2およびThomson研究室3は、ヒト線維芽細胞が少数の遺伝子の一過性過剰発現によって再プログラミングされて、機能的および表現型的にhESCに似た人工多能性幹細胞(IPSC)になりうることを立証した。したがって、多能性幹細胞は、胚を破壊する必要性を伴わずに得られうる。
【0003】
これらのIPSCは、機能的および表現型的に胚性幹細胞(ESC)に似ており、そして胚を破壊する必要性を回避する。いくつかのIPSCは、hESC同様、Oct−4、ならびにTra−1−60/81およびSSEA−3/4などの他の細胞表面マーカーを発現する。しかし、IPSCは、倍加時間がより遅く11、全体的な遺伝子発現パターン2、3およびDNAメチル化状態2が異なることによって示されるように、ESCと同一ではない。核再プログラミングが完全であるかどうか10、そしてしたがってIPSCが分化中にhESCと類似の経路にしたがうかどうかは未知のままである。
【0004】
この重要なブレークスルーは、患者特異的投入細胞を用いた細胞療法が、将来、現実のものとなりうる可能性を生じさせる。倫理的懸念およびありうる免疫拒絶の問題があるhESCと異なり、IPSCはドナーから生成され、再プログラミングされ、適切な細胞タイプに分化し、そしてドナー内に移植し直されることも可能である。その潜在能力にもかかわらず、分化の後に残ったIPSCが奇形腫を形成する問題が残っており、そしてこれに取り組む必要がある。
【0005】
ヒト細胞からIPSCが成功裡に生成された報告が公表される前に、本発明者らは、その内容が本出願に援用される、WO2007/102787において未分化ヒト胚性幹細胞(hESC)上の表面抗原に対する一団のモノクローナル抗体(mAb)の生成を記載した1(本明細書の図10もまた参照されたい)。これらのmAbは、未分化hESC株に強い反応性を示したが、分化したもの(胚様体)には反応性を示さなかった。該mAbは、マウス線維芽細胞とは交差反応せず、そしてヒト胚性癌細胞に対して、弱い反応性を示すかまたはまったく反応を示さない。したがって、これらのmAbは、hESCに非常に強い結合特異性を示し、そしてこの結合は、hESCが分化するにつれて失われた。特に、ポドカリキシン様タンパク質−1(PODXL)に結合する1つの抗体(mAb 84)は、濃度依存性、補体独立方式で、未分化hESCおよびNCCIT細胞に対して細胞毒性である。mAb 84は、未分化hESCの細胞死をインキュベーション30分以内に誘導するが、分化hESCの細胞死を誘導せず、そしてmAb−抗原複合体の免疫沈降によって、抗原がポドカリキシン様タンパク質−1であることが明らかになった。重要なことに、SCIDマウスに移植する前に、hESCをmAb 84で処理すると、腫瘍形成が存在しないことが観察される。この以前のデータによって、mAb84が、臨床適用のため、分化した細胞集団から残りのhESCを排除する際に有用でありうることが示される。
【0006】
未分化多能性幹細胞自体を細胞療法で用いてもよいが、分化し始めたかまたは分化している細胞を用いることが有益であると見なされる。未分化ヒト多能性幹細胞を特定の細胞系譜に分化させるよう促す方法が当該技術分野で周知である。この分化プロセスが開始するかまたは進行すると、そうでなければ望ましくない奇形腫を形成しうる未分化多能性幹細胞を除去するかまたは破壊することが有益である。
【0007】
したがって、未分化ヒト多能性幹細胞を同定するかまたは単離することが有用であるこ
とがわかる(これらをそれ自体、療法で用いることも可能であるし、または療法で使用可能な特定の細胞系譜に分化させるよう促すことも可能であるため)。これらの分化細胞は療法で有用であるため、ある程度の細胞が分化し始めたかまたは分化している細胞混合物から、未分化ヒト多能性幹細胞を取り除くかまたは破壊することもまた有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2007/102787
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポドカリキシン様タンパク質−1(PODXL)が、未分化の人工多能性幹細胞(IPSC)のマーカーであるという発見から生じる。
本発明において、IPSCに結合し、そしてこれを特徴付ける抗体が発見されてきている。IPSCを殺す能力に関してmAb84をさらに調べた。
【0010】
したがって、分化または未分化IPSCを同定するか、単離するか、分離するか、精製するか、濃縮するか、または除去するための方法を提供する。未分化IPSCを破壊する方法もまた提供する。好ましくは、これらの方法は、PODXLを発現している細胞へのPODXLに結合可能な結合部分の結合を伴う。
【0011】
本発明の1つの側面において、1つまたは複数の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料において、単数または複数の未分化人工多能性幹細胞を同定する方法を提供し、該方法は、表面上にポドカリキシン様タンパク質(PODXL)を発現する、試料内の単数または複数の細胞を同定する工程を含む。
【0012】
いくつかの態様において、PODXLに結合する結合部分と試料を接触させ、そして結合部分に結合していることによって、前記未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)を同定する。
【0013】
いくつかの態様において、該方法は、表面上にPODXLを発現する単数または複数の細胞を単離する工程をさらに含み、該方法は:(i)PODXLに結合可能な結合部分と試料を、試料中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして(ii)結合部分に結合していない細胞から、結合部分に結合している細胞を分離する工程を含む。
【0014】
この方法によって得た単離未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)を提供する。
本発明の別の側面において、分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞から、未分化人工多能性幹細胞を分離する方法を提供し、ここで、未分化人工多能性幹細胞、および分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞が、試料中に存在しており、該方法は:(i)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と試料を、試料中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして(ii)結合部分に結合していない細胞から、結合部分に結合している細胞を分離する工程を含む。
【0015】
この方法によって得た単離未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)を提供する。この方法によって得た単離分化人工多能性幹細胞(単数または複数)もまた提供する。
本発明の別の側面において、単数または複数の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料から、こうした細胞を単離する方法を提供し、該方法は、表面上にPODXLを発現する、試料内の単数または複数の細胞を単離する工程を含む。
【0016】
いくつかの態様において、PODXLに結合する結合部分と試料を接触させ、そして結合部分に結合していることによって、前記未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)を試料から単離する。
【0017】
この方法によって単離した未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)を提供する。
本発明のさらなる側面において、未分化人工多能性幹細胞、および分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞を含む混合物から、未分化人工多能性幹細胞を濃縮する方法を提供し、該方法は:(i)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と混合物を、混合物中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合
を可能にする条件下で接触させ;そして(ii)未分化人工多能性幹細胞が濃縮された細胞集団を生成するように、結合部分に結合していない細胞から、結合部分に結合している細胞を分離する工程を含む。
【0018】
本発明の別の側面において、未分化人工多能性幹細胞、および分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞を含む混合物から、分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞を濃縮する方法を提供し、該方法は:(i)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と混合物を、混合物中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして(ii)分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞が濃縮された細胞集団を生成するように、結合部分に結合している細胞から、結合部分に結合していない細胞を分離する工程を含む。
【0019】
本発明のさらなる側面において、未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含有する組成物であって、表面上にPODXLを発現する未分化人工多能性幹細胞を実質的に含有しない前記組成物を調製する方法を提供し、該方法は:(i)未分化人工多能性幹細胞、および未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含む、細胞集団を提供し;(ii)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と集団を、試料中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして(iii)結合部分に結合している細胞から、結合部分に結合していない細胞を分離する工程を含む。
【0020】
いくつかの態様において、該方法は、結合部分に結合していない分離細胞を、薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤と混合する工程をさらに含む。
本発明の別の側面において、表面上にPODXLを発現する未分化人工多能性幹細胞を含有する組成物であって、未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を実質的に含有しない前記組成物を調製する方法を提供し、該方法は:(i)未分化人工多能性幹細胞、および未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含む、細胞集団を提供し;(ii)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と集団を、試料中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして(iii)結合部分に結合していない細胞から、結合部分に結合している細胞を分離する工程を含む。
【0021】
いくつかの態様において、該方法は、結合部分に結合している分離細胞から、結合部分を解離させる工程をさらに含む。該方法はまた、結合部分に結合している分離細胞を、薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤と混合する工程も含んでもよい。
【0022】
本発明のさらに別の側面において、未分化人工多能性幹細胞に、PODXLに結合可能な結合部分を結合させる方法を提供し、該方法は、1以上の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料と、PODXLに結合可能な結合部分を、試料中の細胞表面上に発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させる工程を含む。
【0023】
本発明のさらなる側面において、単数または複数の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料中のこうした細胞を破壊する方法を提供し、該方法は、表面上にPODXLを発現する、試料中の単数または複数の該細胞を破壊する工程を含む。
【0024】
本発明の別の側面において、単数または複数の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料から、こうした細胞を除去する方法を提供し、該方法は、表面上にPODXLを発現する単数または複数の該細胞を試料から除去する工程を含む。
【0025】
いくつかの態様において、PODXLに結合する結合部分と試料を接触させ、そして結合部分に結合していることによって、前記未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)を試料から除去する。
【0026】
上述の本発明の側面のいずれにおいても、いくつかの態様において、結合部分は抗体であり、そして好ましい態様において、mAb84である。
本発明のさらなる側面において、未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含有する組成物を提供し、該組成物は、表面上にPODXLを発現する未分化人工多能性幹細胞を実質的に含有しない。
【0027】
本発明の別の側面において、未分化人工多能性幹細胞を含有する組成物を提供し、該組成物は、未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を実質的に含有しない。未分化人工多能性幹細胞は、好ましくは、表面上にPODXLを発現する。
【0028】
本発明のさらなる側面において、細胞療法が必要な患者を治療する方法を提供し、該方法は:(i)本発明の方法によって得た単数または複数の単離未分化人工多能性幹細胞;(ii)本発明の方法によって得た単数または複数の単離分化人工多能性幹細胞;あるいは(iii)本発明記載の組成物を、患者に投与する工程を含む。
【0029】
本発明のさらなる側面において、細胞療法が必要な患者を治療するための薬剤製造における、(i)本発明の方法によって得た単数または複数の単離未分化人工多能性幹細胞;(ii)本発明の方法によって得た単数または複数の単離分化人工多能性幹細胞;あるいは(iii)本発明記載の組成物の使用を提供する。
【0030】
本発明の別の側面において、細胞療法が必要な患者を治療する際に使用するための、本発明の方法によって得た単数または複数の単離未分化人工多能性幹細胞;あるいは本発明の方法によって得た単数または複数の単離分化人工多能性幹細胞;あるいは本発明記載の組成物を提供する。
【0031】
本発明のさらにさらなる側面において、表面上にポドカリキシン様タンパク質(PODXL)を発現している未分化人工多能性幹細胞、および未分化人工多能性幹細胞の表面上に発現されるPODXLに結合している、PODXLに結合可能な結合部分を含む、複合体を提供する。該複合体は、好ましくは、結合部分およびPODXLの非共有および非イオン性相互作用によって形成される。単離型で、あるいは混合物または試料の一部として、例えば細胞培養物の一部として、複合体を提供してもよい。
【0032】
本発明のさらなる側面において、PODXLに結合する結合部分、および別の人工多能性幹細胞マーカーを検出するさらなる剤を含む部分のキットを提供する。
本発明のさらなる側面において、人工多能性幹細胞を生成し、そして同定する方法を提供し、該方法は:
(i)非多能性ドナー細胞を誘導して多能性状態にして、表面上にPODXLを発現している人工多能性幹細胞を生成し;
(ii)該人工多能性幹細胞を、PODXLに結合可能な結合部分と、人工多能性幹細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして(iii)結合部分によって結合された細胞を同定する;
工程を含む。
【0033】
本発明の別の側面において、未分化人工多能性幹細胞の破壊におけるmAb84の使用を提供する。したがって、こうした細胞を含有する試料中の単数または複数の未分化人工多能性幹細胞を破壊する方法を提供し、該方法は、試料中の細胞をmAb84と接触させて、mAb84を特定の細胞に結合させる工程を含む。該方法は、mAb84に結合している細胞の破壊を可能にするのに十分な時間、試料を培養するかまたはインキュベーションする工程をさらに含んでもよい。
【0034】
本発明のさらにさらなる側面において、mAb84に結合している未分化人工多能性幹細胞を含む複合体を提供する。該複合体は、好ましくは、結合部分およびPODXLの非共有および非イオン性相互作用によって形成される。単離型で、あるいは混合物または試料の一部として、例えば細胞培養物の一部として、複合体を提供してもよい。
【0035】
本発明のさらなる側面を以下に示す。
本発明の1つの側面において、未分化人工多能性幹細胞を含有しうる試料において、こうした細胞を同定する方法を提供し、該方法は、表面上にポドカリキシン様タンパク質(PODXL)を発現する、試料内の単数または複数の細胞を同定する工程を含む。
【0036】
本発明の別の側面において、未分化人工多能性幹細胞を含有する試料から、こうした細胞を単離する方法を提供し、該方法は、表面上にPODXLを発現する、試料内の単数または複数の細胞を単離する工程を含む。
【0037】
本発明の別の側面において、未分化人工多能性幹細胞を含有する試料から、こうした細胞を除去する方法を提供し、該方法は、表面上にPODXLを発現する単数または複数の
細胞を試料から除去する工程を含む。
【0038】
本発明の別の側面において、未分化人工多能性幹細胞を含有する試料において、こうした細胞を破壊する方法を提供し、該方法は、表面上にPODXLを発現する、試料中の単数または複数の細胞を破壊する工程を含む。
【0039】
本発明の別の側面において、未分化人工多能性幹細胞を含有する試料から、こうした細胞を単離する方法によって単離した未分化人工多能性幹細胞を提供し、該方法は、表面上にPODXLを発現する、試料内の単数または複数の細胞を単離する工程を含む。
【0040】
本発明の別の側面において、表面上にPODXLを発現する単離未分化人工多能性幹細胞を提供する。
本発明の別の側面において、未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含有する組成物を提供し、該組成物は表面上にPODXLを発現する未分化人工多能性幹細胞を実質的に含有しない。
【0041】
本発明の別の側面において、細胞療法が必要な患者を治療する方法を提供し、該方法は、未分化人工多能性幹細胞を含有する試料から、こうした細胞を単離する方法によって単離された未分化人工多能性幹細胞、または表面上にPODXLを発現する単離未分化人工多能性幹細胞、または未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含有する組成物であって、表面上にPODXLを発現する未分化人工多能性幹細胞を実質的に含有しない前記組成物を、患者に投与する工程を含む。
【0042】
本発明の別の側面において、細胞療法が必要な患者を治療するための薬剤製造における、本発明の上記側面にしたがった細胞、または本発明の上記側面にしたがった組成物の使用を提供する。
【0043】
本発明の別の側面において、本発明の上記側面にしたがった方法を提供し、ここでPODXLに結合する結合部分と試料を接触させ、そして結合部分に結合していることによって、前記人工多能性幹細胞を試料中で同定するかまたは試料から単離するかまたは試料から除去する。好ましくは結合部分は抗体である。
【0044】
本発明の別の側面において、PODXLに結合する部分、および別の人工多能性幹細胞マーカーを検出するさらなる剤を含む部分のキットを提供する。
以下の番号付けした段落は、本明細書に開示する本発明の技術特徴の広い組み合わせの言及を含有する:
1. 未分化人工多能性幹細胞を含有しうる試料において、こうした細胞を同定する方法であって、表面上にポドカリキシン様タンパク質(PODXL)を発現する、試料内の単数または複数の細胞を同定する工程を含む、前記方法。
【0045】
2. 未分化人工多能性幹細胞を含有する試料から、こうした細胞を単離する方法であって、表面上にPODXLを発現する、試料内の単数または複数の細胞を単離する工程を含む、前記方法。
【0046】
3. 未分化人工多能性幹細胞を含有する試料から、こうした細胞を除去する方法であって、表面上にPODXLを発現する単数または複数の細胞を試料から除去する工程を含む、前記方法。
【0047】
4. 未分化人工多能性幹細胞を含有する試料において、こうした細胞を破壊する方法であって、試料中の、表面上にPODXLを発現する単数または複数の細胞を破壊する工程を含む、前記方法。
【0048】
5. 第2段落の方法によって単離された未分化人工多能性幹細胞。
6. 表面上にPODXLを発現する単離未分化人工多能性幹細胞。
7. 未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含有する組成物であって、表面上にPODXLを発現する未分化人工多能性幹細胞を実質的に含有しない前記組成物。
【0049】
8. 第5または6段落記載の細胞、あるいは第7段落記載の組成物を、患者に投与する工程を含む、細胞療法が必要な患者を治療する方法。
9. 細胞療法が必要な患者を治療するための薬剤製造における、第5または6段落記載の細胞、あるいは第7段落記載の組成物の使用。
【0050】
10. PODXLに結合する結合部分と試料を接触させ、そして結合部分に結合して
いることによって、試料中の前記未分化人工多能性幹細胞を同定するか、または試料から単離するか、または試料から除去する、第1〜3段落のいずれか1つに記載の方法。
【0051】
11. 結合部分が抗体である、第10段落記載の方法。
12. PODXLに結合する部分、および別の人工多能性幹細胞マーカーを検出するさらなる剤を含む部分のキット。
【0052】
本発明の原理を例示する態様および実験は、ここで、付随する図に言及して論じられるであろう:
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、hESC(HES−3)、IPSC(ES4SKIN、ESIMR90)、および線維芽細胞株(BJ1、IMR90)に対するmAb結合の分析を示す。hESC上の細胞表面抗原に対して作製した異なるmAbクローン(mAb5、8、14、63、84、85、329、432および529)、TRA−1−60に対するmAbまたはOct−4に対するmAbで細胞を染色した。細胞に結合している抗体を、FITCコンジュゲート化抗マウス抗体で検出した。赤いヒストグラムは陰性対照での染色を表し、そして緑のヒストグラムは一次抗体での染色を表す。
【図2】図2は、hESC(HES−3)、IPSC(ES4SKIN、ESIMR90)、および線維芽細胞株(BJ1、IMR90)に対するmAb結合の分析を示す。hESC上の細胞表面抗原に対して作製した異なるmAbクローン(mAb5、8、14、63、84、85、320、432および529)、TRA−1−60に対するmAbまたはOct−4に対するmAbで細胞を染色した。細胞に結合している抗体を、FITCコンジュゲート化抗マウス抗体で検出した。赤いヒストグラムは陰性対照での染色を表し、そして緑のヒストグラムは一次抗体での染色を表す。
【図3】図3は、hESC(HES−3)、IPSC(ES4SKIN、ESIMR90)、および線維芽細胞株(BJ1、IMR90)に対するmAb結合の分析を示す。hESC上の細胞表面抗原に対して作製した異なるmAbクローン(mAb5、8、14、63、84、85、320、432および529)、TRA−1−60に対するmAbまたはOct−4に対するmAbで細胞を染色した。細胞に結合している抗体を、FITCコンジュゲート化抗マウス抗体で検出した。赤いヒストグラムは陰性対照での染色を表し、そして緑のヒストグラムは一次抗体での染色を表す。
【図4】図4は、hESC(HES−3)、IPSC(ES4SKIN、ESIMR90)、および線維芽細胞株(BJ1、IMR90)に対するmAb結合の分析を示す。hESC上の細胞表面抗原に対して作製した異なるmAbクローン(mAb5、8、14、63、84、85、320、432および529)、TRA−1−60に対するmAbまたはOct−4に対するmAbで細胞を染色した。細胞に結合している抗体を、FITCコンジュゲート化抗マウス抗体で検出した。赤いヒストグラムは陰性対照での染色を表し、そして緑のヒストグラムは一次抗体での染色を表す。
【図5】図5は、hESC(HES−3)、IPSC(ES4SKIN、ESIMR90)、および線維芽細胞株(BJ1、IMR90)に対するmAb結合の分析を示す。hESC上の細胞表面抗原に対して作製した異なるmAbクローン(mAb5、8、14、63、84、85、320、432および529)、TRA−1−60に対するmAbまたはOct−4に対するmAbで細胞を染色した。細胞に結合している抗体を、FITCコンジュゲート化抗マウス抗体で検出した。赤いヒストグラムは陰性対照での染色を表し、そして緑のヒストグラムは一次抗体での染色を表す。
【図6】図6は、hESC(HES−3)、IPSC(ES4SKIN、ESIMR90)、および線維芽細胞株(BJ1、IMR90)に対するmAb結合の分析を示す。hESC上の細胞表面抗原に対して作製した異なるmAbクローン(mAb5、8、14、63、84、85、320、432および529)、TRA−1−60に対するmAbまたはOct−4に対するmAbで細胞を染色した。細胞に結合している抗体を、FITCコンジュゲート化抗マウス抗体で検出した。赤いヒストグラムは陰性対照での染色を表し、そして緑のヒストグラムは一次抗体での染色を表す。
【図7】図7は、hESC、IPSCおよび線維芽細胞株に対するmAb84の細胞毒性を示す。(A)細胞を5μgのmAb84と(B)、または抗体を含まず(対照、A)、4℃で45分間インキュベーションした。その後、フローサイトメーター上でのPI排除アッセイによる分析のため、細胞を回収した。スキャッタープロット中のゲート化領域は、生存細胞集団を表す。
【図8】図8。細胞毒性mAb84はまた、人工多能性幹細胞も殺す。図7の結果の要約を示すチャート。5μg mAb84と(濃青色のバー)、または抗体を含まずに(淡青色のバー)、4℃で45分間インキュベーションした後の細胞生存度パーセント。
【図9】図9。ES4SKINおよびESIMR90細胞による多能性マーカーOct4 SSEA4およびTra−1−60の発現を示す顕微鏡写真。
【図10】図10。hESC(HES−3)、IPSC(ES4SKINおよびESIMR90)、包皮およびIMR90細胞に対する、ある範囲のモノクローナル抗体の結合(チェックマークによって示す)を示す表。
【図11】図11。528アミノ酸ポドカリキシン様タンパク質1前駆体のアミノ酸配列(配列番号1)。
【図12】図12。ヒトPODXL GenBank寄託番号O00592.2 GI:229462740のアミノ酸配列(配列番号2)。
【図13】図13。ヒトPODXL GenBank寄託番号AAI43319.1 GI:219520307のアミノ酸配列(配列番号3)。
【図14】図14。mAb84のVL鎖のアミノ酸配列(およびコードポリヌクレオチド配列)(配列番号4および5)。下線がないアミノ酸は、フレームワーク領域に対応する。下線のアミノ酸は、相補性決定領域(CDR)に対応する。
【図15】図15。mAb84のVH鎖のアミノ酸配列(およびコードポリヌクレオチド配列)(配列番号6および7)。下線がないアミノ酸は、フレームワーク領域に対応する。下線のアミノ酸は、CDRに対応する。
【図16】図16。2つのPODXL変異体のアミノ酸配列(配列番号8および9)。
【発明を実施するための形態】
【0054】
好ましい態様の説明
方法
本発明記載の方法は、好ましくは、表面上にPODXLを発現する細胞へのPODXL結合部分の結合を伴う。
【0055】
本発明記載の方法は:
(a)未分化人工多能性幹細胞を同定する工程;
(b)未分化または分化人工多能性幹細胞を単離する工程;
(c)他の細胞から、例えば分化人工多能性幹細胞から、未分化人工多能性幹細胞を分離する工程;
(d)未分化または分化人工多能性幹細胞を濃縮する工程;
(e)未分化人工多能性幹細胞を実質的に持たない、分化人工多能性幹細胞の組成物を調製する工程;あるいは
(f)分化人工多能性幹細胞を実質的に持たない、未分化人工多能性幹細胞の組成物を調製する工程
を含んでもよい。
【0056】
本発明記載の方法は、PODXLに結合可能な部分(PODXL結合部分)と試料を接触させる工程を伴ってもよい。これは、PODXLへの結合部分の結合を可能にするのに適した条件下であってもよい。こうした条件は、一般の当業者に周知であり、例えば、生理学的pHおよび生理学的緩衝液を含む。
【0057】
結合部分がPODXLに結合するのを可能にするのに十分な時間、PODXL結合部分と試料を接触させてもよい。十分な時間は、例えば、5分間、10分間、30分間、45分間、60分間、90分間、または2時間より長くてもよい。
【0058】
好ましい態様において、本発明記載の方法は、PODXL結合部分と試料を接触させ、
PODXL結合部分が細胞表面上のPODXLに結合するのを可能にし、そしてどの細胞が結合しているPODXL結合部分を有するかを決定する工程を含む。
【0059】
本発明記載の方法は、PODXL結合部分が結合している細胞を同定する工程を含んでもよい。本発明記載の方法は、PODXL結合部分が結合している細胞を単離する工程を含んでもよい。本発明記載の方法は、PODXL結合部分が結合している細胞を分配するか、除去するか、分離するか、または精製する工程を含んでもよい。本発明記載の方法は、PODXL結合部分が結合している細胞を破壊する工程を含んでもよい。本発明記載の方法は、同定されているか、単離されているか、分離されているか、分配されているか、濃縮されているか、結合しているかまたは除去されている細胞を定量化する工程をさらに含んでもよい。
【0060】
本明細書に開示する未分化人工多能性幹細胞を同定する方法は、未分化IPSCを画像化するために、特に、細胞が検出可能標識でタグ化されている場合に有用であり、そしてIPSCを特徴付けるために有用である。
【0061】
IPSC表面上に発現されるPODXLへのPODXL結合部分の結合を伴う方法は、IPSCに関する研究、およびIPSCの臨床開発に有用である。
細胞表面上に発現されるPODXLに結合しているPODXL結合部分は、結合部分およびPODXLの複合体を形成する。結合部分が結合するPODXLを発現している細胞は、複合体の一部を形成する。
【0062】
本発明のいくつかの方法は、例えば結合部分の存在を検出することによって、または結合部分にカップリングした検出可能標識を検出することによって、複合体を検出する工程を含む。
【0063】
本発明のいくつかの方法は、試料からまたは試料中の他の複合体化されていない細胞から、これらの複合体を分配する工程を含み、そして例えば結合部分の存在を検出することによって、または結合部分にカップリングした検出可能標識を検出することによって、複合体を検出する工程をさらに含んでもよい。
【0064】
本発明のいくつかの方法は、結合部分およびPODXLの複合体の形成を可能にするのに十分な時間、PODXL結合部分と試料を接触させ、そして試料から複合体化細胞を除去する工程を含む。こうした方法は、分化および/または未分化人工多能性幹細胞の単離および/または精製に有用である。
【0065】
本発明の方法において、人工多能性幹細胞がアフィニティ結合によって結合可能であるように、PODXL結合部分を、固体支持体上に固定してもよく、例えば固体支持体にコンジュゲート化してもよい。好適には、固体支持体は、アガロース、アクリルアミド、SepharoseTMおよびSephadexTMなどの任意の適切なマトリックスを含む。固体支持体は、マイクロタイタープレートまたはチップ、あるいはカラムなどの固体支持体であってもよい。
【0066】
いくつかの態様において、結合した際に、適切な磁場の提供に際して、ヒト胚性幹細胞が試料の残りから分離可能であるように、結合部分は、磁気的に標識されている(直接または間接的のいずれかで)。磁気細胞ソーティングに用いられるマイクロビーズは、しばしば、MACSコロイド状超常磁性マイクロビーズと呼ばれる。この方式で標識された人工多能性幹細胞は、磁気活性化細胞ソーティング(MACS)によってソーティング可能である。
【0067】
特異的細胞マーカーを含む細胞を分離する他の方法が当該技術分野に知られ、そしてこれには、結合部分が蛍光分子で標識されるFACS(蛍光活性化細胞ソーティング)が含まれる。
【0068】
本発明記載の方法は、結合しているか、同定されているか、単離されているか、分離されているか、濃縮されているか、または除去されている、未分化または分化人工多能性幹細胞を培養する工程を含んでもよい。該方法はまた、こうして得た未分化人工多能性幹細胞を分化させる工程も含んでもよい。
【0069】
本発明記載の方法を用いて、分化または未分化人工多能性幹細胞の濃縮されたかまたは実質的に単離された組成物を提供してもよい。こうした組成物を多様な方式で用いてもよ
く、例えばこれを細胞療法で用いてもよいし、またはこれを細胞供給源として用いて、これを次いで、特定の療法に有用な特定の細胞系譜に分化させるよう促してもよいし、またはこれを用いて、細胞が他の細胞に分化することを可能にする因子を調べてもよい(in
vitroまたはin vivo)。
【0070】
典型的には、人工多能性胚性幹細胞の濃縮組成物は、分化または未分化ヒト胚性幹細胞としての細胞を少なくとも50%含有し、好ましくは少なくとも70%、または少なくとも90%、または少なくとも95%含有する。好ましくは、組成物中の細胞はすべて、前記分化または未分化人工多能性幹細胞である。
【0071】
細胞集団を濃縮するための方法は、好ましくは、試料中の細胞濃度を増加させるか、あるいは絶対的にまたは試料中の他の細胞の数に対して相対的にのいずれかで、細胞集団(すなわち所定のタイプの細胞数)を増加させることを伴う。
【0072】
本発明はまた、未分化人工多能性幹細胞を破壊する方法も提供し、該方法は、表面上にPODXLを発現する、試料中の単数または複数の細胞を破壊する工程を含む。いくつかの態様において、表面上にPODXLを発現している細胞に、該部分が結合するのを可能にするのに十分な時間、PODXL結合部分と細胞試料を接触させる。該部分は、結合した細胞を破壊することが可能な細胞毒性剤を含んでもよい。あるいは、結合部分自体によって細胞を破壊してもよいし、または結合部分の付着によって破壊してもよい。あるいは、結合部分と細胞毒性剤の相互作用によって細胞を破壊してもよい。したがって、該方法は、結合部分に結合している細胞を破壊するように、結合部分と相互作用可能な細胞毒性剤の添加を含んでもよい。
【0073】
いくつかの方法において、PODXL結合部分は、腫瘍症機構によって細胞死を仲介し、腫瘍症は、細胞浸透性(ヨウ化プロピジウム/トリパンブルーなどの色素に対する浸透性によって示されるように)および細胞収縮の増加につながる膜損傷から生じる細胞死の形である。本発明の方法によって誘導される細胞死には、細胞膜の孔形成(poration)、小疱形成および/または細胞凝集が先行しうる。未分化IPSCを破壊する好ましい方法において、PODXLに結合可能な部分は、mAb84であってもよい。
【0074】
抗体または他の結合部分に連結可能な、適切な細胞毒性部分には、放射性原子、細胞毒性薬剤、細胞毒性タンパク質、およびプロドラッグを細胞毒性薬剤に変換する酵素系が含まれる。これらは当該技術分野に周知である。
【0075】
好ましい態様において、本発明には、未分化人工多能性幹細胞を含有する試料において、こうした細胞を破壊する方法が含まれ、該方法は、前記細胞に対して毒性であるPODXL結合部分と試料を接触させ、そして前記細胞表面上のPODXLに結合部分が結合するのを可能にし、そして結合部分が前記細胞を殺すのを可能にする工程を含む。結合部分は、前記細胞に対してそれ自体が細胞毒性である抗体であってもよいし、または該細胞に対して毒性であるさらなる部分を含んでもよい。
【0076】
いくつかの態様において、細胞毒性剤と同時にまたは連続して、PODXL結合部分を試料にまたは細胞に投与する。残ったIPSCの完全な除去を確実にするため、PODXL結合部分を、他の幹細胞関連分子に結合可能な1以上の他の剤と組み合わせて投与してもよい。
【0077】
未分化IPSCを破壊するための方法を用いて、分化するように誘導されているIPSC集団から、未分化細胞を除去してもよい。組織または臓器の移植前に、未分化IPSCを破壊するための方法を用いて、残ったIPSCを排除して、こうして、特に奇形腫形成のリスクを減少させることによって、移植片の成功および安全性を増加させてもよい。
【0078】
本発明は、表面上にPODXLを発現する単離未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)、ならびにPODXL結合部分が結合しているPODXLを表面上に発現する単離未分化人工多能性幹細胞を提供する。
【0079】
本発明はまた、試料から、再プログラミングされた人工多能性幹細胞を生成しそして同定する方法も提供する。これによって、成功裡に再プログラミングされなかった細胞から、成功裡に再プログラミングされた人工多能性幹細胞の選択が可能になる。
【0080】
こうした方法は、非多能性ドナー細胞を誘導して多能性状態にして、表面上にPODX
Lを発現している人工多能性幹細胞を生成し、人工多能性幹細胞表面上に発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で、PODXLに結合可能な結合部分と人工多能性幹細胞を接触させ;そして結合部分によって結合された細胞を同定する工程を含む。
【0081】
非多能性ドナー細胞を誘導して多能性状態にするための技術が当該技術分野に知られる。例えば、どちらも本明細書に援用される、Takahashiら((2007) Induction of Pluripotent Stem Cells from Adult Human Fibroblasts by Defined Factors. Cell 131(5):861−72)およびYuら((2007) Induced Pluripotent Stem Cell Lines Derived from Human Somatic Cells. Science 318(5858):1917−20)によって報告されるもの。
【0082】
こうした技術には、ウイルスベクターを用いた、幹細胞関連遺伝子および/または転写因子でのドナー細胞のトランスフェクションが含まれる。こうした遺伝子および因子には、「人工多能性幹細胞」以下に説明するように、Oct−3/4(Pouf51)、Sox2、c−Myc、Klf4、NonaogおよびLIN28の1以上が含まれてもよい。
【0083】
ドナー細胞は、「人工多能性幹細胞」以下に説明するように、成体体細胞、例えば線維芽細胞を含んでもよい。
本発明記載の方法は、好ましくはin vitroで行われる。用語「in vitro」は、培養中の細胞を用いた実験を含むように意図され、一方、用語「in vivo」は、損なわれていない(intact)多細胞生物を用いた実験を含むように意図される。
【0084】
キット
本発明のいくつかの側面にしたがって、部分のキットを提供する。いくつかの態様において、マーカーは、Oct4、SSEA−4、Tra−1−60、Tra−1−81およびGCTM−2の1以上である。さらなる剤は、mAb 5、mAb 8、mAb 14、mAb 63、mAb 84、mAb 85、mAb 95、mAb 375、mAb
432、mAb 529の任意の1以上であってもよい。
【0085】
いくつかの態様において、キットは、PODXLに対する抗体、ならびにOct4、SSEA−4、Tra−1−60、Tra−1−81およびGCTM−2の1以上に対する抗体を含む。典型的には、キットはまた:免疫化学において使用するための試薬;固体支持体に固定された抗体;抗体を標識するための手段;細胞毒性部分に抗体を連結するための手段の1以上も含有してもよい。
【0086】
試料
本発明のいくつかの方法は、細胞を含有する試料を伴う。試料は、1以上の未分化人工多能性幹細胞を含有するかまたは含有すると推測される任意の量の細胞であってもよい。試料は、in vitroで増殖した細胞の培養物であってもよい。例えば、培養物は、細胞懸濁物あるいは培養プレートまたはディッシュ中で培養された細胞を含んでもよい。
【0087】
好ましい態様において、試料は、未分化人工多能性幹細胞を含有する。いくつかの態様において、試料は、未分化人工多能性幹細胞、および分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞を含有する。分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞は、もはや多能性ではない可能性もあり、そして好ましくは、表面上にPODXLを発現しない。
【0088】
試料は、未分化人工多能性幹細胞が特定の細胞系譜に分化するよう促されている(または促進されている)ものであってもよく、そしてしたがって、試料は、未分化および分化細胞の混合物を含有してもよい(分化はしばしば効率的なプロセスではないため)。典型的には、こうした試料中で、未分化人工多能性幹細胞は、細胞総数の数パーセントを構成する。典型的には、試料中の分化細胞は、心筋細胞、膵島細胞、ニューロン前駆体細胞または間葉幹細胞であってもよく、これらは(分化によって)人工多能性幹細胞から得られ
る。潜在的に、未分化細胞は望ましくない奇形腫を形成しうるため、分化細胞を含有する試料の臨床適用前に、こうした試料由来の(またはこうした試料中の)未分化人工多能性幹細胞を除去(または破壊)することは、有用であろう。典型的には、未分化人工多能性幹細胞の少なくとも95%を除去するかまたは破壊する。好ましくは、前記細胞すべてを除去するかまたは破壊する。
【0089】
いくつかの態様において、試料は、非人工多能性幹細胞、例えば胚性幹細胞(ESC)を含有しない。いくつかの好ましい態様において、試料はヒト胚性幹細胞またはヒト非人工多能性幹細胞を含有しない。
【0090】
試料は、表面上にPODXLを発現している未分化IPSCを含有してもよい。いくつかの例において、試料は、多能性が誘導されている体細胞に由来している。他の例において、試料は、他の細胞に分化するよう誘導されているIPSCを含んでもよい。試料は、他の非多能性細胞、例えばフィーダー細胞または線維芽細胞を含有してもよい。
【0091】
ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)
本明細書においてポドカリキシン様タンパク質(PODXL)と称するポドカリキシン様タンパク質1前駆体のアミノ酸配列を図11に示し(配列番号1)、そして該配列はまた、EntrezPubMedを通じてアクセス可能な、NCBIタンパク質配列データベースの寄託番号O00592号にも見出される(Kershawら(1997) J.
Biol. Chem. 272, 15708−15714もまた参照されたい)。また、該タンパク質をPCLPIおよびPODXLとも呼ぶ。便宜上、本明細書において、以後、これをPODXLと呼ぶ。PODXLは図11に提供するものとまったく同じ配列を有してもよいし、またはその天然存在変異体であってもよい(例えば図16を参照されたい)。例えば、O00592にしたがって、Rは残基62のTに関する変異体であり、そしてSは残基196のLの変異体である。
【0092】
成熟PODXLは、528残基のグリコシル化細胞表面ポリペプチドであり、このうち残基1〜22がシグナルペプチドであり、そして残基23〜528は成熟タンパク質に相当する。残基23〜431はタンパク質の細胞外部分であると考えられ、そして残基432〜452は膜貫通領域である。残基23〜304はSer/Thrリッチ領域に相当する。PODXLに結合する結合部分がPODXLの細胞外領域に、例えばSer/Thrリッチ領域内、またはこの領域の外に結合するのが好ましい。
【0093】
ポドカリキシン様タンパク質は、シアロムチンタンパク質ファミリーのメンバーである。PODXLは、元来、糸球体足細胞の重要な構成要素として同定された。足細胞は、互いにかみ合う足突起を持つ非常に分化した上皮細胞であり、糸球体基底膜の外面を覆っている。PODXLの他の生物学的活性には、Na+/H+交換体制御因子を伴う膜タンパク質複合体中で細胞内細胞骨格要素に結合すること、造血細胞分化において役割を果たすこと、および血管内皮細胞中で発現され、そしてL−セレクチンに結合することが含まれる。
【0094】
PODXLは、シアロムチンのCD34ファミリーに属する非常にグリコシル化されたI型膜貫通タンパク質である。PODXLは、元来、腎糸球体の足細胞上の主なシアロタンパク質として記載されたが、後に、血管内皮細胞および初期造血前駆体上で発現されることが見出された。より最近、PODXLは、乳房、肝臓、および前立腺癌中の腫瘍攻撃性の指標とされてきている。ヒトPODXLは、染色体7q32−q33上に位置し、そして528アミノ酸のタンパク質をコードする。しかし、PODXLの細胞外ドメインは、シアル酸付加O連結炭水化物で非常にグリコシル化され、そしてN連結グリコシル化の5つの潜在的な部位があるため、PODXLのおよその分子量は160〜165kDaである。
【0095】
機能的に、PODXLは、細胞タイプに応じて、非常に多様な役割を有すると報告されてきている。足細胞において、PODXLは、電荷反発によって、足細胞足突起間に開いたろ過スリットを維持する、抗接着分子として作用する。しかし、高内皮静脈においては、PODXLは、L−セレクチンに結合する接着分子として作用し、そしてリンパ球の束縛および回転を仲介する。
【0096】
hESCにおいて、PODXLは、未分化hESCにおいて高発現されることが転写的に同定された5、6。発現タグ頻度分析によって、PODXL発現レベルは、7〜8日の胚様体中でほぼ2.5倍下方制御され、そして神経外胚葉様細胞および肝細胞様細胞において、それぞれ、およそ7倍および12倍下方制御された5。この結果は、hESCおよび8日のEBの免疫組織化学によって支持され、後者では染色が有意に減少した7。hESCおよびmESCのトランスクリプトーム・プロフィールを比較する、Weiらによる別個の研究において、Weiらは、PODXLの発現が、hESCに比較して、mESC株E−14において、MPSSによっては検出されないことを観察した8。タンパク質レベルでは、SchopperleおよびDeWolf9は、PODXLが、レチノイン酸に対する2つの胚性癌細胞株の曝露後、翻訳後グリコシル化変化を経ることを報告した(分子量が200kDaから170kDaに減少する)。抗TRA−1−60/81抗体が修飾PODXLに結合できないことから、胚性幹細胞上に幹細胞PODXL(SC−PODXL)が存在することが示唆された。総合すると、ESCにおけるPODXL発現のこれらの独立の報告は、本発明者らのフローサイトメトリーによるmAb84の観察と緊密に対応し、ここで、結合反応性は、未分化hESCに比較して8日の胚様体で減少した。同時に、それぞれ、FGF2枯渇hESCおよび22日のEBに対するmAb84が仲介する殺傷の減少または喪失は、分化に際してのPODXL発現の下方制御に起因しうる。さらに、胚様体形成中のhESCへのmAb84およびTRA−1−60結合が同時に減少することは、分化中にSC−PODXLが喪失することと関連しうる。
【0097】
本発明の好ましい方法において、PODXLは、ヒトPODXLである。ヒトPODXLは、配列番号1のアミノ酸配列、またはGenBank寄託番号O00592.2 GI:229462740のアミノ酸配列(配列番号2;図12)またはGenBank寄託番号AAI43319.1 GI:219520307のアミノ酸配列(配列番号3;図13)を有してもよい。いくつかの態様は、図16に開示するものなどのPODXL変異体に関する(配列番号8および9)。
【0098】
いくつかの態様において、PODXLタンパク質は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号8または配列番号9のアミノ酸配列に対して、60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の1つの配列同一性を含む。いくつかの態様において、PODXLタンパク質は、アミノ酸1〜22を除いて、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号8または配列番号9のアミノ酸配列に対して、60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の1つの配列同一性を含む。好ましいPODXLタンパク質は、mAb84に結合可能なものである。
【0099】
PODXL結合部分
適切な結合部分には、核酸アプタマー(例えば、指数的濃縮によるリガンドの系統的進化(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment(SELEX))によって得られる)、抗体(ポリクローナルおよびモノクローナル抗体ならびに抗体断片を含む)、リガンド、酵素および他の生物学的分子が含まれる。
【0100】
本発明のすべての態様に関して、PODXL結合部分が選択的であることが好ましいと認識されるであろう。したがって、PODXL結合部分が選択的にPODXLに結合する、すなわち他のヒト・タンパク質よりもより高いアフィニティーでPODXLに結合することが好ましい。典型的には、抗PODXL抗体は、選択的方式で、実質的に他のヒト・タンパク質には結合しない。
【0101】
好適には、結合部分は抗体であり、この用語には、その断片または誘導体、あるいは合成抗体または合成抗体断片が含まれる。
PODXLに結合する抗体はすでに知られている。例えば、ポリクローナル抗血清が細胞外ドメインに結合する、ヒト・ポドカリキシンに特異的なヤギIgGが、カタログ番号AF1658のもとで、R&D Systems, Incから入手可能である。また、モノクローナル抗ヒト・ポドカリキシン抗体(マウスIgG2A)が、カタログ番号MA
B1658のもとで、R&D Systems, Incから入手可能である。モノクローナル抗体技術に関連した今日の技術を考慮すると、抗体は、大部分の抗原に対して調製可能である。抗原結合部分は、抗体の部分(例えばFab断片)または合成抗体断片(例えば一本鎖Fv断片[ScFv])であってもよい。選択した抗原に対する適切なモノクローナル抗体は、既知の技術、例えば、“Monoclonal Antibodies: A manual of techniques”, H Zola(CRC Press, 1988)に、そして“Monoclonal Hybridoma Antibodies: Techniques and Applications”, J
G R Hurrell(CRC Press, 1982)に開示されるものによって調製可能である。キメラ抗体は、Neubergerら(1988, 8th International Biotechnology Symposium Part 2, 792−799)によって論じられる。
【0102】
モノクローナル抗体(mAb)は、本発明の方法において有用であり、そして抗原上の単一のエピトープを特異的にターゲティングする抗体の均質な集団である。したがって、PODXLに結合するmAbは、潜在的に、特定の細胞系譜に分化する単数または複数の未分化細胞を特徴付ける抗原のレパートリーを示す生存細胞サブセットを精製するかまたは除去するのに使用可能である。
【0103】
ポリクローナル抗体は、本発明の方法において有用である。単一特異的ポリクローナル抗体が好ましい。当該技術分野に周知の方法を用いて、適切なポリクローナル抗体を調製してもよい。
【0104】
FabおよびFab2断片などの抗体断片もまた用いてもよく、遺伝子操作した抗体および抗体断片もまた用いてもよい。抗体の可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)ドメインは、抗原認識に関与し、この事実は、初期のプロテアーゼ消化実験によって最初に認識された。さらなる確認は、げっ歯類抗体の「ヒト化」によって見出された。げっ歯類起源の生存ドメインを、ヒト起源の定常ドメインに融合させて、生じる抗体が、げっ歯類親抗体の抗原特異性を保持するようにしてもよい(Morrisonら(1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81, 6851−6855)。
【0105】
抗原特異性は可変ドメインによって与えられ、そして定常ドメインからは独立であることは、すべて1以上の可変ドメインを含有する抗体断片の細菌発現を伴う実験から知られる。これらの分子には、Fab様分子(Betterら(1988) Science 240, 1041); Fv分子(Skerraら(1988) Science 240, 1038); VHおよびVLパートナードメインが柔軟なオリゴペプチドを通じて連結される、一本鎖Fv(ScFv)分子(Birdら(1988) Science 242, 423; Hustonら(1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85, 5879);ならびに単離Vドメインを含む単一ドメイン抗体(dAb)(Wardら(1989) Nature 341, 544)が含まれる。特異的結合部位を保持する抗体断片合成に関与する技術の一般的な概説は、Winter & Milstein(1991) Nature 349, 293−299中に見出されるはずである。
【0106】
「ScFv分子」によって、本発明者らは、VHおよびVLパートナードメインが、例えば柔軟なオリゴペプチドによって、共有結合されている分子を意味する。
Fab、Fv、ScFvおよびdAb抗体断片は、すべて大腸菌(E. coli)において発現可能であり、そして大腸菌から分泌可能であり、したがって、多量の前記断片の容易な産生が可能になる。
【0107】
全抗体、およびF(ab’)2断片は「二価」である。「二価」によって、本発明者らは、前記抗体およびF(ab’)2断片が2つの抗原結合部位を有することを意味する。対照的に、Fab、Fv、ScFvおよびdAb断片は一価であり、1つの抗原結合部位しか持たない。また、やはり当該技術分野に周知であるファージディスプレイ技術を用いて、PODXLに結合する合成抗体も作製してもよい。
【0108】
特定の方法において、抗体はmAb84である。mAb84のVHおよびVL鎖のアミ
ノ酸配列(およびコードポリヌクレオチド配列)が、図14(配列番号4)および15(配列番号5)に示すように決定されてきている。
【0109】
本明細書において、mAb84に対する言及には、配列番号4および6に対する高い配列同一性パーセントを有するVLおよび/またはVH鎖を有する抗体が含まれる。mAb84に対する言及には、配列番号6に対して少なくとも70%の配列同一性を有するVH鎖、より好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の1つの配列同一性を有するVH鎖を有する、PODXL(好ましくはヒトPODXL)に結合する抗体が含まれる。mAb84に対する言及には、配列番号4に対して少なくとも70%の配列同一性を有するVL鎖、より好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の1つの配列同一性を有するVL鎖を有する、PODXL(好ましくはヒトPODXL)に結合する抗体が含まれる。
【0110】
PODXLに対する他のmAbおよびその使用は、本明細書に援用されるWO2007/102787に記載される。
mAb84を用いて、分化後に、そして場合によって分化細胞の機能を試験する動物移植試験前に、残った未分化人工多能性幹細胞を除去してもよい。
【0111】
mAb84(場合によって、WO2007/102787に記載されるような、または図10に示すような、他のmAbと組み合わせて)は、潜在的に、残った未分化hESCまたは未分化人工多能性幹細胞を除去して、したがって再生臨床適用において移植片の成功および安全性を増加させるために、移植前に使用可能である。
【0112】
本出願のPODXL結合部分は、潜在的に、特定の細胞系譜に分化する単数または複数の未分化細胞を特徴付ける抗原のレパートリーを示す生存細胞サブセットを精製するかまたは除去するのに使用可能である。
【0113】
適切な結合部分は、配列番号1〜3、8または9の1つに対して、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%または100%の1つの配列同一性を有するポリペプチドに結合可能である。
【0114】
いくつかの好ましい態様において、結合部分は、検出可能に標識されているか、または少なくとも検出が可能である。例えば、結合部分を放射性原子または着色分子または蛍光分子または任意の他の方式で容易に検出可能な分子で標識してもよい。適切な検出可能分子には、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、酵素基質、および放射標識が含まれる。結合部分を、検出可能標識で直接標識してもよいし、または間接的に標識してもよい。例えば、結合部分は、それ自体が標識されている別の抗体によって検出可能な非標識抗体であってもよい。あるいは、第二の抗体が、結合しているビオチンを有してもよく、そしてビオチンに対する標識ストレプトアビジンの結合を用いて、第一の抗体を間接的に標識する。
【0115】
幹細胞
用語「幹細胞」は、一般的に、分裂に際して、2つの発生オプションに直面する細胞を指す:娘細胞は元来の細胞と同一であってもよいし(自己再生)、またはこれらはより特殊化された細胞タイプの子孫であってもよい(分化)。したがって、幹細胞は、1つまたは別の経路を採用可能である(各細胞タイプを1つ形成可能である、さらなる経路が存在する)。したがって、幹細胞は、最終的に分化しておらず、そして他のタイプの細胞を産生可能な細胞である。
【0116】
本文書において、用語「幹細胞」は、特に、人工多能性幹細胞を指す。
胚性幹細胞
胚性幹(ESC)細胞は、着床が起こる胚発生段階である胚盤胞の内部細胞塊(ICM)から単離可能である。
【0117】
多能性幹細胞
多能性幹細胞は、体内の任意の分化細胞を作製する潜在能力を持つ、真の幹細胞である。しかし、これらは、栄養膜に由来する胚体外膜を作製するのには寄与しえない。いくつかのタイプの多能性幹細胞が見出されてきている。
【0118】
多分化能(multipotent)幹細胞
多分化能幹細胞は、真の幹細胞であるが、限定された数のタイプにしか分化しえない。例えば、骨髄は、血液細胞のすべてを生じさせるが、他のタイプの細胞を生じさせない、多分化能幹細胞を含有する。多分化能幹細胞は、成体動物において見られる。体内のすべての臓器がこうした細胞を含有すると考えられ、これらは死んだ細胞または損傷を受けた細胞を置換しうる。
【0119】
幹細胞を特徴付ける方法が当該技術分野に知られ、そしてこれには、クローンアッセイ、フローサイトメトリー、長期培養、ならびに分子生物学的技術、例えばPCR、RT−PCRおよびサザンブロッティングなどの標準的なアッセイ法の使用が含まれる。
【0120】
成体幹細胞
成体幹細胞は、非常に多様なタイプを含み、ニューロン、皮膚、および骨髄移植における活性構成要素である血液形成幹細胞を含む。
【0121】
これらの後者の幹細胞タイプはまた、臍帯由来幹細胞の主な特徴でもある。成体幹細胞は、実験室内および体内の両方で、機能するより特殊化された細胞タイプに成熟可能であるが、細胞タイプの正確な数は、選択した幹細胞のタイプによって制限される。
【0122】
人工多能性幹細胞
一般的にiPS細胞またはiPSCと略される人工多能性幹細胞は、特定の遺伝子を挿入することによって、非多能性細胞、特に成体体細胞に人工的に由来する多能性幹細胞のタイプである。iPS細胞は、すべて本明細書に援用される、Takahashi, K. & Yamanaka(2006)、Yamanaka Sら(2007)、Wernig Mら(2007)、Maherali Nら(2007)、Yu Jら(2007)およびTakahashiら(2007)に概説され、そして論じられる。
【0123】
iPS細胞は、典型的には、非多能性細胞、例えば成体線維芽細胞内に特定の幹細胞関連遺伝子をトランスフェクションすることによって得られる。トランスフェクションは、典型的には、ウイルスベクターを通じて、例えばレトロウイルス再プログラミングを通じて達成される。トランスフェクション遺伝子には、マスター転写制御因子Oct−3/4(Pouf51)およびSox2が含まれるが、他の遺伝子が誘導効率を増進させると示唆される。3〜4週間後、少数のトランスフェクション細胞が、形態学的におよび生化学的に多能性幹細胞と類似となり始め、そして典型的には、形態学的選択、倍加時間を通じて、またはレポーター遺伝子および抗生物質感染を通じて単離される。
【0124】
IPSCは、1以上の転写因子でのトランスフェクションによって、線維芽細胞などの体細胞から誘導可能である。いくつかの場合、細胞をOct3/4、Sox2、c−MycおよびKlf4で形質転換する。転写因子および/またはマーカー遺伝子を含む他の遺伝子で、細胞をさらにトランスフェクションしてもよい。Cre/loxP組換え系などのトランスポゾン系を用いて、または外因性再プログラミング遺伝子を含まないiPSCを生じるため、非組込みベクターを用いて、遺伝子を導入してもよい。レトロウイルスなどのウイルスベクターを用いて、トランスフェクションを達成してもよい。ウイルスは両種指向性ウイルスであってもよい。細胞がトランスフェクションされたら、細胞をESC培地にトランスファーする前に、フィーダー細胞上で増殖させてもよい。
【0125】
IPSCは、ウサギ、モルモット、ラット、マウスまたは他のげっ歯類、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、非ヒト霊長類または他の非ヒト脊椎動物生物に由来してもよい。好ましい態様において、IPSCは、ヒト細胞に由来する。
【0126】
本発明で有用なiPS細胞は、肺、包皮線維芽細胞、皮膚線維芽細胞、角化細胞、血液前駆体細胞、骨髄細胞、肝細胞、胃上皮細胞、膵臓細胞、神経幹細胞、Bリンパ球、ES由来体細胞および胚性線維芽細胞を含む、任意の適切な細胞タイプに由来してもよい。iPS細胞は、ヒト、マウスまたは他の哺乳動物に由来してもよい。好ましくは、iPS細胞はヒトである。いくつかの場合、細胞はヒト皮膚線維芽細胞でない。IPSCは、ESCに類似の遺伝子発現パターンおよび表現型を示してもよい。本発明において、未分化IPSCは表面上にPODXLを発現する。
【0127】
ESC同様、分化人工多能性幹細胞の将来の療法的適用は、残った未分化IPSCが混
入することによる、奇形腫形成のリスクを負う。この問題にもかかわらず、現在、これらの細胞集団を分離するために開発された戦略はそれほど多くはない。
【0128】
本発明は、特に、細胞表面上にPODXLを発現しているIPSC、すなわちPODXL結合部分に結合するのに利用可能なPODXLを表面上に有するIPSCに関する。本発明はまた、特に、ヒト細胞に由来するIPSCにも関する。
【0129】
幹細胞培養
幹細胞を培養する任意の適切な方法を、本明細書に記載する方法および組成物において用いてもよい。
【0130】
任意の適切な容器を用いて、本明細書に記載する方法および組成物にしたがって、幹細胞を増殖させてもよい。適切な容器には、米国特許公報US2007/0264713(Terstegge)に記載されるものが含まれる。
【0131】
容器には、例えば、バイオリアクターおよびスピナーが含まれてもよい。本文書で用いる際、用語「バイオリアクター」は、真核細胞、例えば動物細胞または哺乳動物細胞を、例えば大規模に培養するのに適した容器である。制御バイオリアクターの典型的な培養体積は、20ml〜500mlの間である。
【0132】
バイオリアクターは、1以上の条件、例えば酸素分圧を調節または監視可能な制御バイオリアクターを含んでもよい。これらの条件を測定しそして制御するためのデバイスが当該技術分野に知られる。例えば、酸素分圧に関して、酸素電極を用いてもよい。選択するガス混合物(例えば空気、あるいは空気および/または酸素および/または窒素および/または二酸化炭素の混合物)の量および組成を通じて、酸素分圧を制御してもよい。酸素分圧を測定しそして制御するのに適したデバイスは、Bailey, J E.(Bailey, J E., Biochemical Engineering Fundamentals, 第2版, McGraw−Hill, Inc. ISBN 0−07−003212−2 Higher Education, (1986))またはJackson A T. Jackson A T., Verfahrenstechnik in der Biotechnologie, Springer, ISBN 3540561900(1993))に記載される。
【0133】
他の適切な容器にはスピナーが含まれる。スピナーは、ガラスボール攪拌装置、羽根車攪拌装置、および他の適切な攪拌装置などの多様な攪拌機構を用いて攪拌可能な、制御または非制御バイオリアクターである。スピナーの培養体積は、典型的には20ml〜500mlの間である。回転ボトルは、400〜2000cm2の間の培養面積を有するプラスチックまたはガラス製の丸い細胞培養フラスコである。これらのフラスコの全内表面に沿って、細胞を培養する;細胞は培地で覆われ、これは「回転」運動によって達成され、すなわちボトルをそれ自体の個々の軸の周りに回転させる。
【0134】
あるいは、培養は静的であってもよく、すなわち培養/培地の能動的な攪拌を使用しなくてもよい。培養の攪拌を減少させることによって、細胞凝集塊の形成が可能になりうる。何らかの攪拌を使用して、培養細胞上への培地の分布および流動を促してもよいが、凝集塊形成を実質的に妨害しないようにこの攪拌を適用してもよい。例えば、低いrpm、例えば30rpm未満または20rpm未満の攪拌を使用してもよい。
【0135】
継代による増殖
本明細書に記載する方法および組成物は、培養中の継代または分割を含んでもよい。該方法は、連続的なまたは頻繁な継代を伴ってもよい。
【0136】
「頻繁な」または「連続的な」によって、本発明者らは、本発明者らの方法が、幹細胞が継代される、例えば増殖中のプレートまたはマイクロキャリアーから剥がされ、そして他のプレート、マイクロキャリアーまたは粒子にトランスファーされるのを可能にする方式で該細胞の増殖を可能にすることを意味し、そしてこのプロセスを少なくとも1回、例えば2回、3回、4回、5回等、反復してもよいことを意味する。いくつかの場合、これを任意の回数、例えば不確定にまたは無限に反復してもよい。
【0137】
培養中の細胞を、支持体またはフラスコから解離させ、そして組織培地内に希釈しそして再プレーティングすることによって、「分割する」か、継代培養するか、または継代し
てもよい。
【0138】
粒子上で増殖している細胞を、粒子培養に継代し直してもよい。あるいは、これらを慣用的な(2D)培養に継代し直してもよい。プレート上で増殖している組織培養細胞を粒子培養に継代し直してもよい。
【0139】
用語「継代」は、一般的に、細胞培養のアリコットを取り、細胞を完全にまたは部分的に解離させ、希釈し、そして培地に接種するプロセスを指してもよい。継代を1回以上反復してもよい。アリコットは、細胞培養のすべてまたは一部を含んでもよい。アリコットの細胞は、完全に集密、部分的に集密、または集密でなくてもよい。継代は、工程の以下の順列の少なくともいくつかを含んでもよい:吸引、リンス、トリプシン処理、インキュベーション、除去、急冷(quenching)、再植え付けおよびアリコット。カリフォルニア大学サンディエゴ校のHedrick研究室によって公表されたプロトコルを用いてもよい(http://hedricklab.ucsd.edu/Protocol/COSCell.html)。
【0140】
当該技術分野に知られる機械的または酵素的手段などの任意の適切な手段によって、細胞を解離させてもよい。機械的解離によって、例えば細胞スクレーパーまたはピペットを用いて、細胞を破壊してもよい。100ミクロンまたは500ミクロン篩を通じるなど、適切な篩サイズを通じて篩にかけることによって、細胞を解離させてもよい。酵素的解離によって、例えばコラゲナーゼまたはtrypLEでの処理によって採取し、分割してもよい。解離は完全であってもまたは部分的であってもよい。
【0141】
希釈は任意の適切な希釈であってもよい。細胞培養中の細胞を任意の適切な比で分割してもよい。例えば、細胞を1:2以上、1:3以上、1:4以上または1:5以上の比で分割してもよい。したがって、幹細胞を1継代以上、継代してもよい。例えば、幹細胞を2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25継代以上、継代してもよい。継代を細胞増殖の世代として表してもよい。本発明者らの方法および組成物は、幹細胞が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25世代以上、増殖することを可能にする。
【0142】
また、継代を細胞倍加の回数として表してもよい。本発明者らの方法および組成物は、幹細胞が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25細胞倍加以上、増殖することを可能にする。
【0143】
幹細胞特性の維持
増殖した幹細胞は、霊長類またはヒト幹細胞の少なくとも1つの特性を維持しうる。幹細胞は、1回以上の継代後、該特性を維持しうる。幹細胞は、複数回の継代後、その特性を維持しうる。幹細胞は、上述のような言及する回数の継代後、該特性を維持しうる。
【0144】
特性は、形態学的特性、免疫組織化学的特性、分子生物学的特性等を含んでもよい。特性は、生物学的活性を含んでもよい。
幹細胞特性
本発明者らの方法によって増殖する幹細胞は、以下の幹細胞特性のいずれを示してもよい。
【0145】
幹細胞は、Oct4および/またはSSEA−1および/またはTRA−1−60の発現増加を示しうる。自己再生性である幹細胞は、自己再生性でない幹細胞に比較して短い細胞周期を示しうる。
【0146】
幹細胞は定義される形態を示しうる。例えば、標準的顕微鏡画像の二次元において、ヒト胚性幹細胞は、画像平面における高い核/細胞質比、顕著な仁、および細胞接合がほとんど認識不能な緊密なコロニー形成を示す。
【0147】
幹細胞はまた、以下にさらに詳細に記載するような、発現細胞マーカーによっても特徴付け可能である。
多能性マーカーの発現
維持される生物学的活性は、1以上の多能性マーカーの発現を含んでもよい。
【0148】
ステージ特異的胎児抗原(SSEA)は、特定の胚性細胞タイプに特徴的である。SSEAマーカーに対する抗体は、Developmental Studies Hybridoma Bank(メリーランド州ベセスダ)より入手可能である。他の有用なマーカーは、Tra−1−60およびTra−1−81と称される抗体を用いて検出可能である(Andrewsら, Cell Lines from Human Germ Cell Tumors, E. J. Robertson, 1987, 上記中)。ヒト胚性幹細胞は、典型的には、SSEA−1陰性およびSSEA−4陽性である。hEG細胞は、典型的には、SSEA−1陽性である。霊長類多能性幹細胞(pPS)細胞のin vitroでの分化は、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81発現の喪失、およびSSEA−1発現増加を生じる。pPS細胞はまた、アルカリホスファターゼ活性の存在によっても特徴付け可能であり、これは、4%パラホルムアルデヒドで細胞を固定し、そして次いで、製造者によって記載されるように、基質としてVector Redで現像することによって検出可能である(Vector Laboratories、カリフォルニア州バーリンゲーム)。
【0149】
胚性幹細胞はまた、典型的には、テロメラーゼ陽性およびOCT−4陽性である。テロメラーゼ活性は、商業的に入手可能なキット(TRAPeze.RTM. XKテロメラーゼ検出キット、カタログ番号s7707; Intergen Co.、ニューヨーク州パーチェス;またはTeloTAGGG.TM.テロメラーゼPCR ELISAプラス、カタログ番号2,013,89; Roche Diagnostics, インディアナポリス)を用い、TRAP活性アッセイ(Kimら, Science 266:2011, 1997)を用いて決定可能である。また、RT−PCRによって、mRNAレベルでhTERT発現を評価してもよい。LightCycler TeloTAGGGTM hTERT定量化キット(カタログ番号3,012,344; Roche Diagnostics)が、研究目的のため、商業的に入手可能である。
【0150】
FOXD3、PODXL、アルカリホスファターゼ、OCT−4、SSEA−4、TRA−1−60およびMab84等を含む、これらの多能性マーカーの任意の1以上が、増殖幹細胞によって保持されうる。
【0151】
マーカーの検出は、当該技術分野に知られる任意の手段を通じて、例えば免疫学的に達成可能である。組織化学染色、フローサイトメトリー(FACS)、ウェスタンブロット、酵素連結イムノアッセイ(ELISA)等が使用可能である。
【0152】
フロー免疫細胞化学を用いて、細胞表面マーカーを検出してもよい。細胞内または細胞表面マーカーに関して、免疫組織化学(例えば固定細胞または組織切片の)を用いてもよい。細胞抽出物に対してウェスタンブロット分析を行ってもよい。細胞抽出物または培地内に分泌される産物に関して、酵素連結イムノアッセイを用いてもよい。
【0153】
この目的のため、商業的供給源から入手可能であるような、多能性マーカーに対する抗体を用いてもよい。
ステージ特異的胎児抗原1および4(SSEA−1およびSSEA−4)ならびに腫瘍拒絶抗原1−60および1−81(TRA−1−60、TRA−1−81)を含む幹細胞マーカーの同定のための抗体は、例えばChemicon International, Inc(米国カリフォルニア州テメキュラ)より得られうる。モノクローナル抗体を用いたこれらの抗原の免疫学的検出は、多能性幹細胞を特徴付けるために広く用いられてきている(Shamblott M.J.ら(1998) PNAS 95:13726−13731; Schuldiner M.ら(2000). PNAS 97:11307−11312; Thomson J.A.ら(1998). Science 282:1145−1147; Reubinoff B.E.ら(2000). Nature Biotechnology 18:399−404; Henderson
J.K.ら(2002). Stem Cells 20:329−337; Pera M.ら(2000). J. Cell Science 113:5−10.)。
【0154】
組織特異的遺伝子産物の発現はまた、ノーザンブロット分析、ドットブロット分析によって、あるいは標準的増幅法において配列特異的プライマーを用いた逆転写酵素ポリメラ
ーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって、mRNAレベルで検出可能である。本開示に列挙する特定のマーカーに関する配列データは、GenBank(URL www.ncbi.nlm.nih.qov:80/entrez)などの公的データベースから得られうる。さらなる詳細に関しては、米国特許第5,843,780号を参照されたい。
【0155】
実質的にすべての増殖細胞、またはそのかなりの部分が、マーカー(単数または複数)を発現しうる。例えば、単数または複数のマーカーを発現する細胞の割合は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または実質的に100%でありうる。
【0156】
細胞生存度
生物学的活性は、言及する回数の継代後の細胞生存度を含んでもよい。細胞生存度は、例えばトリパンブルー排除によるなど、多様な方式でアッセイされうる。生存染色のプロトコルは以下の通りである。適切な試験管に、適切な体積の細胞懸濁物(20〜200μL)および等体積の0.4%トリパンブルーを入れ、そして穏やかに混合し、室温で5分間放置する。10μlの染色細胞を血球計数板に入れ、そして生存(未染色)および死亡(染色)細胞の数を計数する。各象限の未染色細胞の平均数を計算し、そして2x104を乗じて、細胞/mlを見出す。生存細胞の割合は、生存細胞数を死亡細胞および生存細胞の数で割ったものである。
【0157】
細胞生存度は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または実質的に100%でありうる。
【0158】
核型
増殖幹細胞は、増殖中または増殖後、正常な核型を保持しうる。「正常な」核型は、幹細胞が由来する親幹細胞の核型と同一であるか、類似であるかまたは実質的に類似である核型、あるいは親幹細胞と異なるが、いかなる実質的な方式でも異ならないものである。例えば、転位、染色体の喪失、欠失等のいかなる全体的な異常もあってはならない。
【0159】
核型は、いくつかの方法によって、例えば光学顕微鏡法のもとで視覚的に評価可能である。核型は、McWhirら(2006)、Hewittら(2007)、ならびにGallimoreおよびRichardson(1973)に記載されるように、調製および分析可能である。また、標準的なGバンド形成技術(カリフォルニア州オークランドのCytogenetics Labなどの、ルーチンの核型決定サービスを提供する多くの臨床診断実験室で利用可能)を用いて細胞の核型を決定し、そして公表される幹細胞核型と比較してもよい。
【0160】
増殖細胞のすべてまたはかなりの部分が正常な核型を保持しうる。この比率は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または実質的に100%でありうる。
【0161】
多能性
増殖幹細胞は、3つの細胞系譜すべて、すなわち内胚葉、外胚葉および中胚葉に分化する能力を保持しうる。幹細胞を誘導して、これらの細胞系譜の各々に分化させる方法が当該技術分野に知られ、そしてこれを用いて、増殖幹細胞の能力をアッセイしてもよい。増殖細胞のすべてのまたはかなりの部分がこの能力を保持しうる。これは、増殖幹細胞の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または実質的に100%でありうる。
【0162】
生成される幹細胞の多能性は、適切なアッセイの使用によって決定可能である。こうしたアッセイは、多能性の1以上のマーカー、例えばSSEA−1抗原、アルカリホスファターゼ活性、Oct−4遺伝子および/またはタンパク質発現を検出する工程を含んでもよいし、SCIDマウスにおける奇形腫形成または胚様体形成の度合いを観察することによってもよい。Oct−4、SSEA−4、Tra−1−60、Tra−1−81、SOX−2およびGCTM−2などの1以上のマーカーの発現によって、hESCの多能性を定義してもよい。
【0163】
共培養およびフィーダー
方法は、共培養の存在下または非存在下で、幹細胞を培養する工程を含んでもよい。用語「共培養」は、一緒に増殖する2以上の異なる種類の細胞混合物、例えば間質フィーダー細胞の混合物を指す。2以上の異なる種類の細胞を、同じ表面上で、例えば粒子または細胞容器表面上で、または異なる表面上で、増殖させてもよい。異なる種類の細胞を異なる粒子上で増殖させてもよい。
【0164】
本文書で用いる場合、用語、フィーダー細胞は、異なるタイプの細胞の培養のために用いられるかまたは必要とされる細胞を意味する。幹細胞培養の状況において、フィーダー細胞は、生存、増殖、および細胞多能性の維持を確実にする機能を有する。細胞多能性は、フィーダー細胞を直接共培養することによって達成されうる。あるいは、またはさらに、フィーダー細胞を培地中で培養して、培地を馴化させてもよい。馴化培地を用いて、幹細胞を培養してもよい。
【0165】
培養ディッシュなどの容器の内表面を、分裂しないように処理してあるマウス胚性皮膚細胞のフィーダー層でコーティングしてもよい。フィーダー細胞は、ES細胞増殖に必要な栄養分を培地内に放出する。したがって、粒子上で増殖する幹細胞は、こうしたコーティングされた容器中で増殖可能である。
【0166】
フィーダー細胞が存在しないか、または必要とされない設定もまた可能である。例えば、フィーダー細胞または幹細胞によって馴化された培地中で細胞を増殖させてもよい。
培地およびフィーダー細胞
多能性幹細胞を単離しそして増殖させるための培地は、得られる細胞が望ましい特性を有し、そしてさらに増殖可能である限り、いくつかの異なる配合のいずれを有してもよい。
【0167】
適切な供給源は以下の通りである:Dulbeccoの修飾イーグル培地(DMEM)、Gibco#11965−092;ノックアウトDulbeccoの修飾イーグル培地(KO DMEM)、Gibco#10829−018; 200mM L−グルタミン、Gibco#15039−027;非必須アミノ酸溶液、Gibco 11140−050;ベータ−メルカプトエタノール、Sigma#M7522;ヒト組換え塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、Gibco#13256−029。例示的な血清含有胚性幹(ES)培地は、80% DMEM(典型的にはKO DMEM)、熱不活化されていない20%定義ウシ胎児血清(FBS)、0.1mM非必須アミノ酸、1mM L−グルタミン、および0.1mMベータ−メルカプトエタノールで作製される。培地をろ過し、そして4℃で2週間以内、保存する。血清不含胚性幹(ES)培地は、80% KO DMEM、20%血清代用品(replacement)、0.1mM非必須アミノ酸、1mM L−グルタミン、および0.1mMベータ−メルカプトエタノールで作製される。有効な血清代用品は、Gibco#10828−028である。培地をろ過し、そして4℃で2週間以内、保存する。使用直前、ヒトbFGFを最終濃度4ng/mLまで添加する(Bodnarら、Geron Corp、国際特許公報WO 99/20741)。
【0168】
培地は、10%血清置換培地(Invitrogen−Gibco、ニューヨーク州グランドアイランド)、5ng/ml FGF2(Invitrogen−Gibco、ニューヨーク州グランドアイランド)および5ng/ml PDGF AB(Peprotech、ニュージャージー州ロッキーヒル)を補充したノックアウトDMEM培地(Invitrogen−Gibco、ニューヨーク州グランドアイランド)を含んでもよい。
【0169】
フィーダー細胞(用いる場合)は、90% DMEM(Gibco#11965−092)、10% FBS(Hyclone#30071−03)、および2mMグルタミンを含有するmEF培地中で増殖可能である。mEFをT150フラスコ(Corning#430825)中で増殖させ、トリプシンを用いて、1日おきに1:2で細胞を分割し、細胞を集密以下に維持する。フィーダー細胞層を調製するため、増殖を阻害するが、ヒト胚性幹細胞を支持する、重要な因子の合成を可能にする線量(約4000radガンマ照射)で、細胞を照射する。6ウェル培養プレート(Falcon#304など)を、ウェルあたり1mLの0.5%ゼラチンと、37℃で一晩インキュベーションすることによってコーティングし、そしてウェルあたり375,000の照射mEFをプレーティング
する。フィーダー細胞層は、典型的には、プレーティング5時間後〜4日後に用いられる。
【0170】
他の幹細胞を培養するための条件が知られ、そして細胞タイプに応じて、適切に最適化可能である。先のセクションに言及される特定の細胞タイプのための培地および培養技術は、引用する参考文献中に提供される。
【0171】
血清不含培地
本明細書に記載する方法および組成物には、血清不含培地中の幹細胞の培養が含まれてもよい。
【0172】
用語「血清不含培地」は、血清タンパク質、例えばウシ胎児血清を含まない細胞培地を含んでもよい。血清不含培地は、当該技術分野に知られ、そして例えば、米国特許5,631,159および5,661,034に記載される。血清不含培地は、例えば、Gibco−BRL(Invitrogen)から商業的に入手可能である。
【0173】
血清不含培地は、タンパク質、加水分解物、および未知の組成の構成要素を欠いていてもよいという点で、タンパク質不含であってもよい。血清不含培地は、すべての構成要素が既知の化学構造を有する、化学的に定義された培地を含んでもよい。化学的に定義される血清不含培地は、変動を排除し、そして改善された再現性およびより一貫した性能を可能にし、そして不定の剤による混入の可能性を減少させる、完全に定義された系を提供するため、好適である。
【0174】
血清不含培地は、ノックアウトDMEM培地(Invitrogen−Gibco、ニューヨーク州グランドアイランド)を含んでもよい。
血清不含培地に、例えば5%、10%、15%等の濃度で、血清置換培地などの1以上の構成要素を補充してもよい。血清不含培地に、Invitrogen−Gibco(ニューヨーク州グランドアイランド)の血清置換培地を10%補充してもよい。
【0175】
解離または脱凝集された胚性幹細胞を培養する血清不含培地は、1以上の増殖因子を含んでもよい。FGF2、IGF−2、ノギン、アクチビンA、TGFベータ1、HRG1ベータ、LIF、S1P、PDGF、BAFF、April、SCF、Flt−3リガンド、Wnt3Aおよびその他を含む、いくつかの増殖因子が当該技術分野に知られる。増殖因子(単数または複数)を、1pg/ml〜500ng/mlの間などの任意の適切な濃度で用いてもよい。
【0176】
培地補充物
培地に1以上の添加物を補充してもよい。例えばこれらは:脂質混合物、ウシ血清アルブミン(例えば0.1% BSA)、大豆タンパク質の加水分解物の1以上から選択可能である。
【0177】
人工多能性幹細胞の供給源
現在、胚の破壊につながらない、例えば成体体細胞または生殖細胞の形質転換(誘導)による、多能性幹細胞の単離のためのいくつかの方法が提供されてきている。これらの方法には、以下が含まれる:
1.核トランスファーによる再プログラミング。この技術は、体細胞から卵母細胞または接合子内への核のトランスファーを伴う。いくつかの状況において、これは、動物−ヒト・ハイブリッド細胞の生成を導きうる。例えば、ヒト体細胞と動物卵母細胞または接合子の融合、あるいはヒト卵母細胞または接合子と動物体細胞の融合によって、細胞を生成することも可能である。
【0178】
2.胚性幹細胞との融合による再プログラミング。この技術は、体細胞と胚性幹細胞の融合を伴う。この技術はまた、上記1におけるように、動物−ヒト・ハイブリッド細胞の生成を導きうる。
【0179】
3.培養による自発的再プログラミング。この技術は、長期培養後の非多能性細胞からの多能性細胞の生成を伴う。例えば、始原生殖細胞(PGC)の長期培養によって、多能性胚性生殖(EG)細胞が生成されてきている(本明細書に援用される、Matsuiら, Derivation of pluripotential embryonic
stem cells from murine primordial germ
cells in culture. Cell 70, 841−847, 1992)。骨髄由来細胞の長期培養後の多能性幹細胞の発生もまた報告されてきている(本明細書に援用される、Jiangら, Pluripotency of mesenchymal stem cells derived from adult marrow. Nature 418, 41−49, 2002)。Jiangらは、これらの細胞を多分化能成体前駆細胞(MAPC)と称した。Shinoharaらもまた、新生マウス精巣由来の生殖系列幹(GS)細胞の培養経過中に多能性幹細胞が生成可能であることを示し、これを多分化能生殖系列幹(mGS)細胞と称した(Kanatsu−Shinoharaら, Generation of pluripotent stem cells from neonatal mouse testis. Cell 119, 1001−1012, 2004)。
【0180】
4.定義される因子による再プログラミング。例えば、レトロウイルスが仲介する、例えば上述のようなマウス胚性または成体線維芽細胞内への転写因子(例えばOct−3/4、Sox2、c−Myc、およびKLF4)の導入による、iPS細胞の生成。Kajiら(Virus−free induction of pluripotency and subsequent excision of reprogramming
factors. Nature. Online publication 1 March 2009)はまた、2Aペプチドと連結されたc−Myc、Klf4、Oct4およびSox2のコード配列を含む、単一多タンパク質発現ベクターの非ウイルストランスフェクションを記載し、これは、マウスおよびヒト線維芽細胞をどちらも再プログラミング可能であった。この非ウイルスベクターで産生されたiPS細胞は、多能性マーカーの頑強な発現を示し、再プログラミング状態が、in vitro分化アッセイおよび成体キメラマウスの形成によって、機能的に確認されることを示した。Kajiらは、胚性線維芽細胞から、多能性マーカーを頑強に発現する再プログラミングヒト細胞株を確立するのに成功した。
【0181】
方法1〜4は、本明細書に援用される、山中伸弥による、Strategies and New Developments in the Generation of Patient−Specific Pluripotent Stem Cells(Cell Stem Cell 1, July 2007a2007 Elsevier Inc)に記載され、そして論じられる。
【0182】
5.単一卵割球または生検卵割球由来のhESC株の誘導。すべて本明細書に援用される、Klimanskaya I, Chung Y, Becker S, Lu SJ, Lanza R. Human embryonic stem cell lines derived from single blastomeres. Nature 2006; 444:512、Leiら Xeno−free derivation and culture of human embryonic stem cells: current status, problems and challenges. Cell Research(2007)17:682−688、Chung Y, Klimanskaya I, Becker Sら Embryonic and extraembryonic stem cell lines derived from single mouse blastomeres. Nature. 2006;439:216−219. Klimanskaya I, Chung Y, Becker Sら Human embryonic stem cell lines derived from single blastomeres.
Nature. 2006;444:481−485. Chung Y, Klimanskaya I, Becker Sら Human embryonic stem cell lines generated without embryo destruction. Cell Stem Cell. 2008;2:113−117およびDusko Ilicら(Derivation of human embryonic stem cell lines from biopsied blas
tomeres on human feeders with a minimal exposure to xenomaterials. Stem Cells And Development−公表前の論文)を参照されたい。
【0183】
6. in vitroで、卵割を停止し、そして桑実胚および胚盤胞まで発生するのに失敗した停止胚から得られるhESC株。どちらも本明細書に援用される、Zhang
X, Stojkovic P, Przyborski Sら Derivation of human embryonic stem cells from developing and arrested embryos. Stem Cells
2006;24:2669−2676およびLeiら Xeno−free derivation and culture of human embryonic stem cells: current status, problems and challenges. Cell Research(2007)17:682−688を参照されたい。
【0184】
7.単為生殖。この技術は、未受精卵を化学的または電気的に刺激して、胚性幹細胞を得られうる桑実胚に発生させる工程を伴う。例えば、幹細胞を産生するために未受精中期II卵母細胞の化学的活性化を使用した、Linら Multilineage potential of homozygous stem cells derived from metaphase II oocytes. Stem Cells. 2003;21(2):152−61を参照されたい。
【0185】
8.胎児起源の幹細胞。これらの細胞は、多能性の観点からは胚性および成体幹細胞の間に位置し、そしてこれを用いて、多能性または多分化能細胞を得ることも可能である。多能性マーカー(Nanog、Oct−4、Sox−2、Rex−1、SSEA−3、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81、β−ガラクトシダーゼ染色によって示されるような老化の証拠が最小限であること、およびテロメラーゼ活性の一貫した発現を含む)を発現するヒト臍帯由来胎児間質幹細胞(UC fMSCs)が、Chris H. Joら(本明細書に援用される、Fetal mesenchymal stem cells derived from human umbilical cord sustain primitive characteristics during extensive expansion. Cell Tissue Res(2008)334:423−433)によって成功裡に得られている。Winston Costa Pereiraら(本明細書に援用される、Reproducible
methodology for the isolation of mesenchymal stem cells from human umbilical cord and its potential for cardiomyocyte generation J Tissue Eng Regen Med 2008;2:394−399)は、ヒト臍帯のWhartonゼリーから、間葉幹細胞の純粋な集団を単離した。Whartonゼリー由来の間葉幹細胞はまた、Troyer & Weiss(Concise Review: Wharton’s Jelly−Derived Cells Are a primitive Stromal Cell Population. Stem Cells 2008:26:591−599)にも概説されている。Kimら(本明細書に援用される、Ex vivo characteristics of human amniotic membrane−derived
stem cells. Cloning Stem Cells 2007 Winter;9(4):581−94)は、ヒト羊膜からヒト羊膜由来間葉細胞を単離することに成功した。臍帯は、通常廃棄される組織であり、そしてこの組織由来の幹細胞は、道徳的または倫理的な反対を招かない傾向がある。
【0186】
人工多能性幹細胞は、これらが胚の破壊を引き起こさない方法によって、より具体的には、ヒトまたは哺乳動物胚の破壊を引き起こさない方法によって得られうるという利点を有する。こうしたものとして、こうした細胞が得られうるヒトまたは動物胚の破壊を必然的に伴う方法のみによって調製されたのではない細胞を用いることによって、本発明の側
面を行うかまたは実施してもよい。この場合による限定は、欧州特許庁拡大審判廷の2008年11月25日の決定G0002/06を考慮に入れることが特に意図される。
【0187】
未分化細胞の分化
IPSCを誘導して、多様な異なる細胞タイプに分化させることも可能である。例えばIPSCを誘導して、心臓細胞(心筋細胞)、肝細胞、神経細胞、軟骨(軟骨細胞)、筋肉、脂肪(脂肪細胞)、骨(骨細胞)または他の細胞に分化させることも可能である。IPSCを誘導して、上皮組織、中胚葉、内胚葉、外胚葉または表皮などの組織を形成することも可能である。
【0188】
幹細胞を分化させる方法は当該技術分野に知られ、そして例えば、Itskovitz−Eldor(2000)およびGraichenら(2007)に記載され、そしてIPSCでこれらを用いてもよい。また、胚様体を形成するために培養幹細胞を用いてもよい。胚様体および胚様体を作製するための方法が当該技術分野に知られる。用語「胚様体」は、懸濁中で胚性幹細胞を増殖させることによって産生可能な、培養中に見られる球状コロニーを指す。胚様体は、混合細胞タイプのものであり、そして特定の細胞タイプの分布および出現タイミングは、胚内で観察されるものに対応する。半固形培地などの培地上に胚性幹細胞をプレーティングすることによって、胚様体を生成することも可能である。Limら, Blood. 1997;90:1291−1299に記載されるように、メチルセルロース培地を用いてもよい。
【0189】
例えばItskovitz−Eldor(2000)に記載される方法を用いて、胚性幹細胞を誘導して胚様体を形成してもよい。胚様体は、3つの胚性胚葉すべて(内胚葉、外胚葉、中胚葉)の細胞を含有する。
【0190】
例えば適切な誘導因子または環境変化への曝露によって、胚様体をさらに誘導して、異なる細胞系譜に分化させることも可能である。Graichenら(2007)は、p38MAPキナーゼ経路の操作によって、ヒト胚性幹細胞からの心筋細胞の形成を記載する。Graichenは、10μm未満のSB203580などのp38 MAPキナーゼの特異的阻害剤に曝露することによって、幹細胞から心筋細胞形成が誘導されることを示す。
【0191】
当該技術分野に知られるような、再生療法および細胞移植などの、任意の適切な目的のために、分化細胞を使用してもよい。
療法使用
本発明の方法によって同定されそして/または単離される分化および未分化IPSCは、医学において、例えば細胞療法において、多様な使用を有する。細胞療法は、個々の細胞の集団として、あるいは細胞凝集物または組織の形で、ならびに/あるいは再生療法、例えば組織再生、置換および/または修復のいずれでもよい、細胞の移入または移植を含んでもよい。分化および未分化IPSCをin vitro培養で拡大して、そして患者に直接投与してもよい。外傷後の損傷組織の再増殖および/または修復のために、これらを用いてもよい。
【0192】
IPSCを、再生療法のため直接用いてもよいし、あるいはこれを用いて外胚葉、中胚葉または内胚葉前駆細胞集団を生成してもよい。ex vivo拡大によって前駆細胞を作製してもよいし、または患者に直接投与してもよい。また、外傷後の損傷組織の再増殖および/または修復のために、これらを用いてもよい。
【0193】
したがって、骨髄置換のために造血前駆細胞を用いてもよいし、一方、心臓不全患者のために心臓前駆細胞を用いてもよい。患者のための皮膚移植片を増殖させるために皮膚前駆細胞を使用してもよく、そしてステントまたは人工心臓などの人工装具の内皮化(endothelization)のために内皮前駆細胞を使用してもよい。
【0194】
糖尿病、ハンチントン病、アルツハイマー病およびパーキンソン病などの変性疾患の治療のために、外胚葉、中胚葉または内胚葉前駆細胞の供給源として、IPSCを用いてもよい。癌の免疫療法のために、NKまたは樹状細胞の中胚葉または内胚葉前駆体の供給源として、IPSCを用いてもよい。
【0195】
本明細書記載の方法および組成物は、外胚葉、中胚葉または内胚葉前駆細胞の産生を可
能にし、もちろん、当該技術分野に知られる方法を用いて、これらを最終分化細胞タイプにさらに分化させることも可能である。したがって、供給源である内胚葉、中胚葉または外胚葉前駆細胞(または幹細胞)には、最終分化細胞のいかなる使用も等しく伴うであろう。
【0196】
本明細書記載の方法および組成物によって産生されるIPSC、外胚葉、中胚葉または内胚葉前駆細胞および分化細胞は、疾患の治療のため、または疾患の治療のための薬学的組成物の調製のために使用可能である。こうした疾患は、再生療法によって治療可能な疾患を含んでもよく、心不全、骨髄疾患、皮膚疾患、火傷、糖尿病、アルツハイマー病、パーキンソン病および癌などの変性疾患が含まれる。
【0197】
本明細書記載の方法および組成物にしたがって増殖する幹細胞(および該幹細胞から得られる分化細胞)を、療法、例えば必要がある個々の患者における組織再構成または再生に用いてもよい。細胞が意図される組織部位に移植され、そして機能的に欠陥がある領域を再構成するかまたは再生するのを可能にする方式で、細胞を投与してもよい。
【0198】
増殖幹細胞または該幹細胞から得られる分化細胞を、組織操作のため、例えば皮膚移植片の増殖のため、用いてもよい。人工臓器または組織のバイオエンジニアリングのため、あるいはステントなどの装具のため、これらを用いてもよい。また、その必要があるヒト患者における組織再構成または再生のため、分化細胞を用いてもよい。細胞が意図される組織部位に移植され、そして機能的に欠陥がある領域を再構成するかまたは再生するのを可能にする方式で、細胞を投与してもよい。
【0199】
例えば、本明細書記載の方法および組成物を用いて、幹細胞の分化を調節してもよい。分化細胞を組織操作のため、例えば皮膚移植片の増殖のため、用いてもよい。人工臓器または組織のバイオエンジニアリングのため、あるいはステントなどの装具のため、幹細胞分化の調節を用いてもよい。
【0200】
別の例において、治療中の疾患に応じて、中枢神経系の実質部位またはクモ膜下腔内部位に、神経幹細胞を直接移植する。μLあたり25,000〜500,000細胞の密度で単細胞懸濁物または小凝集塊を用いて、移植を行う(米国特許第5,968,829号)。McDonaldら(Nat. Med. 5:1410, 1999)によって記載されるように、急性脊髄傷害のラットモデルにおいて、神経細胞移植の有効性を評価してもよい。成功した移植は、2〜5週間後に、病変中に移植片由来細胞が存在し、アストロサイト、オリゴデンドロサイトおよび/またはニューロンに分化し、そして病変端から脊髄に沿って移動し、そしてゲート、協調および荷重付加が改善していることを示すであろう。
【0201】
神経系に対する急性または慢性損傷の治療のため、特定の神経前駆細胞を設計する。例えば、癲癇、脳卒中、虚血、ハンチントン病、パーキンソン病およびアルツハイマー病を含む多様な状態において、興奮毒性が関連付けられてきている。本明細書に記載する方法にしたがって作製するような特定の分化細胞はまた、ペリツェウス・メルツバッヘル病、多発性硬化症、白質ジストロフィー、神経炎および神経疾患などのミエリン形成不全障害(dysmyelinating disorders)を治療するのにもまた適切でありうる。これらの目的に適しているのは、再ミエリン形成を促進する、オリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆体が濃縮された細胞培養である。
【0202】
本発明者らの方法を用いて調製した肝細胞および肝細胞前駆体が肝臓損傷を修復する能力に関して、動物モデルにおいて評価してもよい。1つのこうした例は、D−ガラクトサミンの腹腔内注射によって引き起こされる損傷である(Dabevaら, Am. J.
Pathol. 143:1606, 1993)。肝臓細胞マーカーに関する免疫組織化学染色、増殖中の組織において毛細胆管構造が形成されるかどうかの微視的決定、および治療が肝臓特異的タンパク質の合成を回復する能力によって、治療有効性を決定してもよい。直接投与によって、または被験体の肝臓組織が、劇症肝不全後に再生する間、一時的な肝機能を提供する生体補助(bioassist)デバイスの一部として、療法において肝細胞を用いてもよい。
【0203】
例えば、Graichenら(2007)に記載されるような、特異的p38 MAP
キナーゼ阻害剤であるSB203580を用いて、MPAキナーゼ経路を調節することにより、幹細胞の分化を誘導することによって、心筋細胞を調製してもよい。治療を伴わないと左心室壁組織の55%を瘢痕組織にする、心臓凍結傷害(cryoinjury)の動物モデルにおいて、こうした心筋細胞の有効性を評価してもよい(Liら, Ann.
Thorac. Surg. 62:654, 1996; Sakaiら, Ann. Thorac. Surg. 8:2074, 1999、 Sakaiら, J.
Thorac. Cardiovasc. Surg. 118:715, 1999)。治療が成功すると、瘢痕面積が減少し、瘢痕拡大が限定され、そして収縮期圧、拡張期圧、および最大圧によって決定されるように、心臓機能が改善されるであろう。また、左前下行枝の遠位部分において塞栓コイルを用いて、心臓傷害をモデリングしてもよく(Watanabeら, Cell Transplant. 7:239, 1998)、そして組織学および心臓機能によって、治療有効性を評価してもよい。療法において、心筋細胞調製物を用いて、心筋を再生し、そして不十分な心臓機能を治療してもよい(米国特許第5,919,449号およびWO 99/03973)。
【0204】
IPSCが多様な細胞タイプに分化するように導き、そして置換細胞および組織の再生可能供給源が、ある範囲の疾患および障害を治療する可能性を提供することも可能である。これらの疾患および障害には、ハンチントン病、パーキンソン病、アルツハイマー病、脊髄傷害、骨傷害(例えば骨折)、脳卒中、火傷、心臓疾患、糖尿病、骨関節炎、および関節リウマチが含まれる。移植可能組織および臓器を必要とする疾患および障害が治療可能であり、そして特に例えば奇形腫の形成を防止するために、移植前に未分化細胞を破壊することが有用である場合にあてはまる。
【0205】
本発明は、本発明の方法のいずれかによって単離された未分化人工多能性幹細胞および分化人工多能性幹細胞を含んでもよい、薬剤および薬学的組成物を提供する。該薬剤および薬学的組成物は、上述のような医学的治療法で使用するため、提供可能である。適切な薬学的組成物は、薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤をさらに含んでもよい。
【0206】
したがって、本発明はまた、本発明の方法を用いて、未分化IPSCを破壊するように処理されている細胞を含む、薬学的組成物および薬剤も提供する。
PODXLの細胞表面発現を通じて、未分化人工多能性幹細胞を同定し、そして選択する能力によって、未分化人工多能性幹細胞を含有し、そして分化人工多能性幹細胞を実質的に含有しないか、あるいは分化人工多能性幹細胞を含有し、そして未分化人工多能性幹細胞を実質的に含有しない、組成物および薬剤の提供が可能になる。用語「実質的に含まない」には、明記する細胞の数が、組成物中の細胞総数の約10%未満である組成物が含まれる。より好ましくは、これは約9%未満、約8%未満、約7%未満、約6%未満、約5%未満、約4%未満、約3%未満、約2%未満、または約1%未満である。いくつかの態様において、明記する細胞は存在しないか、または検出限界を超えるような十分に低い量でしか存在しなくてもよく、すなわち組成物は、明記する細胞を実質的に0パーセント有する。
【0207】
本発明記載の方法によって単離される分化および未分化人工多能性幹細胞を、医学的治療法において用いてもよい。医学的治療法は、治療の必要がある個体に、療法的に有効な量の前記薬剤または薬学的組成物を投与する工程を含んでもよい。
【0208】
本発明にしたがった方法および技術を通じて得られる分化および未分化人工多能性幹細胞を用いて、医学的治療法で使用するための別の細胞タイプに分化させてもよい。したがって、分化した細胞タイプは、記載する方法および技術によって得られ、続いて分化することが可能にされた幹細胞に由来してもよいし、そしてその産物と見なされてもよい。場合によって、薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤とともに、こうした分化細胞を含む薬学的組成物を提供してもよい。こうした薬学的組成物は、医学的治療法において有用でありうる。
【0209】
治療しようとする被験体は、任意の動物またはヒトであってもよい。被験体は、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。被験体は男性(雄)または女性(雌)であっ
てもよい。被験体は患者であってもよい。療法的使用は、ヒトまたは動物(獣医学的使用)におけるものであってもよい。
【0210】
本発明の側面にしたがった薬剤および薬学的組成物を、限定されるわけではないが、非経口、静脈内、動脈内、筋内、腫瘍内、経口および鼻を含む、いくつかの経路による投与のために配合してもよい。薬剤および組成物を注射用に配合してもよい。
【0211】
投与は、好ましくは、「療法的に有効な量」であり、これは、個体に対して利益を示すのに十分な量である。投与する実際の量、ならびに投与の速度および時間経過は、治療される疾患の性質および重症度に応じるであろう。治療の指示、例えば投薬量に関する決定等は、開業医および他の医師の責任の範囲内であり、そして典型的には、治療される障害、個々の患者の状態、送達部位、投与法、および医師に知られる他の要因が考慮されるであろう。上述の技術およびプロトコルの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 第20版, 2000, Lippincott, Williams & Wilkins刊行に見出されうる。
【0212】
薬学的に有用な組成物および薬剤の配合
本発明にしたがって、こうして同定される単数または複数の細胞に基づいてもよい、薬学的に有用な組成物を産生するための方法もまた提供する。本明細書に記載する方法の工程に加えて、こうした産生法は:
(a)単数または複数の未分化または分化人工多能性幹細胞を同定する工程;
(b)単数または複数の未分化または分化人工多能性幹細胞を単離しそして/または得る工程;
(c)単数または複数の未分化または分化人工多能性幹細胞と、薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤を混合する工程
より選択される1以上の工程をさらに含んでもよい。
【0213】
工程(c)は、好ましくは、療法的使用に適した薬学的組成物または薬剤の配合/調製を生じる。
配列同一性
配列同一性パーセント(%)は、配列を整列させ、そして最大配列同一性を達成するために、必要であればギャップを導入した後、そしていかなる保存的置換も配列同一性の一部と見なさずに、所定の列挙する配列(配列番号によって言及する)中の残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基の割合と定義される。配列同一性は、好ましくは、各配列の全長に渡って計算される。
【0214】
整列させる配列が異なる長さである場合、より短い比較配列の配列同一性を、より長い所定の配列の全長に渡って決定してもよいし、または比較配列が所定の配列より長い場合、比較配列の配列同一性を、より短い所定の配列の全長に渡って決定してもよい。
【0215】
アミノ酸配列同一性パーセントを決定する目的のための整列を、当業者に知られる多様な方式で達成してもよく、例えば公的に入手可能なコンピュータソフトウェア、例えばClustalW 1.82. T−coffeeまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアを用いてもよい。こうしたソフトウェアを用いる場合、好ましくは、デフォルトパラメーター、例えばギャップペナルティおよび伸長ペナルティに関するものを用いる。ClustalW 1.82のデフォルトパラメーターは:タンパク質ギャップ・オープンペナルティ=10.0、タンパク質ギャップ伸長ペナルティ=0.2、タンパク質マトリックス=Gonnet、タンパク質/DNA ENDGAP=−1、タンパク質/DNA GAPDIST=4である。
【0216】
本発明には、記載する側面および好ましい特徴の組み合わせが含まれるが、こうした組み合わせが明らかに許容されえないかまたは明らかに回避される場合を除く。
本明細書に用いるセクション見出しは、構成上の目的のみのためであり、そして記載する主題を限定するとは意図されないものとする。
【0217】
例えば、付随する図に言及して、本発明の側面および態様がここで例示される。さらなる側面および態様が当業者には明らかであろう。本明細書に言及するすべての文書は、本明細書に援用される。
【0218】
発明の詳細な説明
例として、本発明を実施するために本発明者らに意図される最適な様式の特定の詳細を含めて、本発明の1以上の態様の詳細を、以下の付随する説明に示す。当業者には、これらの特定の詳細に限定されることなく、本発明を実施可能であることが明らかであろう。
【0219】
hESC同様、分化人工多能性幹細胞の将来の療法的適用は、残ったIPSCが混入することによって、奇形腫形成のリスクを負う。こうした問題にも関わらず、現在、これらの細胞集団を分離するように開発された戦略はそれほど多くはない。mAbは、抗原上の単一エピトープを特異的にターゲティングする抗体の均質な集団である。したがって、本出願のmAbは、潜在的に、特定の細胞系譜に分化する単数または複数の未分化細胞を特徴付ける抗原のレパートリーを示す生存細胞サブセットを精製するかまたは除去するのに使用可能である。
【0220】
mAb84を用いて、分化後に、そして分化細胞の機能を試験する動物移植試験前に、残った人工多能性幹細胞を除去してもよい。
mAb84(WO2007/102787に記載されるような他のmAbと組み合わせて)は、残ったhESCまたは人工多能性幹細胞を除去して、したがって再生医学適用において移植片の成功および安全性を増加させるために、潜在的に、移植前に使用可能である。
【実施例】
【0221】
実施例1
材料および方法
細胞培養
ヒト胚性幹細胞株HES−3をES Cell Internationalから得た。マウスフィーダー由来の馴化培地、ΔE−MEFを補充したmatrigelコーティング臓器培養ディッシュ上で、37℃/5%CO2で、細胞を培養した(フィーダー不含培養)。hESCを培養するのに用いた培地は、ノックアウト(KO)培地であった。フィーダー不含培養のため、先に記載されるように4、酵素処理後に、hESCを継代した。
【0222】
ヒト人工多能性幹細胞株、ES4SKINおよびESIMR90をウィスコンシン大学から得て、そして先に記載されるように4培養した。ヒト包皮線維芽細胞株、BJ1(CRL−2522)および肺線維芽細胞株、IMR90(CCL−186)をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから購入し、そして供給者の指示にしたがって培養した。
【0223】
フローサイトメトリー分析
トリプシンを用いて、単細胞懸濁物として細胞を採取し、1%BSA/PBS中、10μl体積あたり2x105細胞に再懸濁し、そして各mAbクローン(200μl 1%BSA/PBS中、5〜10μgの精製mAb)またはTRA−1−60(200μl 1%BSA/PBS中、2.5μg、Chemicon、MAB4360/4381)と45分間インキュベーションした。次いで、細胞を冷たい1%BSA/PBSで洗浄し、そして1:500希釈のFITC−コンジュゲート化ヤギα−マウス抗体(DAKO)と15分間さらにインキュベーションした。インキュベーション後、細胞を再び洗浄し、そしてFACScan(Becton Dickinson FACS Calibur)上で分析するため、1%BSA/PBSおよび1.25mg/mlヨウ化プロピジウム(PI)中に再懸濁した。別に示さない限り、すべてのインキュベーションを4℃で行った。陰性対照として、適切なアイソタイプ対照で細胞を染色した。
【0224】
Oct−4染色のため、単細胞懸濁物を固定し、透過処理し(Caltag Laboratories)、そして1:20希釈のOct−4に対するマウスmAb(Santa Cruz、sc−5279)とインキュベーションした。次いで、細胞を1%BSA/PBSで洗浄し、そして1:500希釈のFITC−コンジュゲート化ヤギα−マウス抗体(DAKO)と15分間さらにインキュベーションした。インキュベーション後、細胞を再び洗浄し、そして分析のため、1%BSA/PBSに再懸濁した。すべてのインキ
ュベーションを室温で15分間行った。陰性対照として、適切なアイソタイプ対照で細胞を染色した。
【0225】
細胞毒性アッセイ
PI排除アッセイおよびフローサイトメトリーを用いて、細胞に対するmAb84の細胞毒性を評価した。上述のように、1%BSA/PBS中、10μl体積あたり2x105細胞の単細胞懸濁物をmAb84(200μl 1%BSA/PBS中、5μgの精製mAb)と45分間インキュベーションした。その後、細胞を洗浄し、そしてFACSによって分析するため、1%BSA/PBSおよび1.25mg/mlヨウ化プロピジウム(PI)中に再懸濁した。陰性対照として、一次抗体を含まずに細胞をインキュベーションした。別に示さない限り、すべてのインキュベーションを4℃で行った。
【0226】
結果
hESC、IPSCおよび線維芽細胞株とのmAbの反応性
最初の例において、多能性マーカーOct−4およびTra−1−60の発現に関してすべての細胞株を試験した(それぞれ、図1aおよびb)。予期されるように、hESCおよびIPSCのみが両方のマーカーを発現する一方、どちらの線維芽細胞株においても、発現は有意に下方制御された。
【0227】
続いて、hESCに対する9つの自社mAbの一団を、5つの細胞株に対する結合に関してスクリーニングした(図2〜6)。hESC同様、9つのmAbすべてが、hESCおよびIPSCに結合することが見出された。ES4SKINおよびESIMR90は、それぞれ、包皮および肺由来の初代線維芽細胞から再プログラミングされているため、これらの初代細胞株をスクリーニングに採用して、「再プログラミングされた」細胞株にのみ結合し、そして親線維芽細胞株に結合しない抗体を同定した。スクリーニング結果に基づけば、mAbクローンのうち7つが、初代線維芽細胞に結合しない。しかし、mAb5およびmAb63に関しては、反応性が観察された。この結果は、hESCでの先の観察と一致する1。この結果によって、これらの2つのmAbクローンに関する抗原ターゲットの発現は、すべてのヒト細胞で保存される可能性もあり、そして特にmAb5に関しては、hESCまたはIPSCに比較して、最終分化線維芽細胞において上方制御されうることが示唆される。
【0228】
細胞毒性抗体mAb84の特徴付け
mAb84がhESCに類似のIPSCを殺すかどうかを調べるため、細胞をmAb84とインキュベーションし、そしてPI排除アッセイを用いて、細胞毒性を評価した。対照に比較して、mAb84(4℃で45分間)とインキュベーションした後に、hESC、ES4SKINおよびESIMR90細胞のそれぞれ2.5、7.6および6.4%が生存したままであることが見出された(図7および8)。対照的に、BJ1およびIMR90線維芽細胞株に関しては、生存度は100%のままであった。mAb84に関する結合および細胞毒性データを総合すると(図6〜9)、mAb84は、hESCおよびIPSCの両方に結合し、そしてこれらを殺すと推測できる。mAb84のこの細胞毒性効果は、該mAbに結合しない細胞(BJ1およびIMR90)に対してmAb84が細胞毒性効果を発揮しないように、細胞株に対するmAbの結合と相関する。
【0229】
参考文献
【0230】
【化1−1】
【0231】
【化1−2】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工多能性幹細胞表面上のポドカリキシン様タンパク質(PODXL)の発現に、そして排他的ではないが、特に、人工多能性幹細胞のマーカーとしてのPODXLの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
胚性および他の多能性幹細胞は、療法において大きな潜在能力を有する。こうした細胞を再生医学中で用いて、疾患または傷害によって損傷を受けている組織を修復することも可能である。しかし、医学における胚性幹細胞の使用は、ヒト胚使用に関連する重大な倫理的懸念のため限定されている。最近、山中研究室2およびThomson研究室3は、ヒト線維芽細胞が少数の遺伝子の一過性過剰発現によって再プログラミングされて、機能的および表現型的にhESCに似た人工多能性幹細胞(IPSC)になりうることを立証した。したがって、多能性幹細胞は、胚を破壊する必要性を伴わずに得られうる。
【0003】
これらのIPSCは、機能的および表現型的に胚性幹細胞(ESC)に似ており、そして胚を破壊する必要性を回避する。いくつかのIPSCは、hESC同様、Oct−4、ならびにTra−1−60/81およびSSEA−3/4などの他の細胞表面マーカーを発現する。しかし、IPSCは、倍加時間がより遅く11、全体的な遺伝子発現パターン2、3およびDNAメチル化状態2が異なることによって示されるように、ESCと同一ではない。核再プログラミングが完全であるかどうか10、そしてしたがってIPSCが分化中にhESCと類似の経路にしたがうかどうかは未知のままである。
【0004】
この重要なブレークスルーは、患者特異的投入細胞を用いた細胞療法が、将来、現実のものとなりうる可能性を生じさせる。倫理的懸念およびありうる免疫拒絶の問題があるhESCと異なり、IPSCはドナーから生成され、再プログラミングされ、適切な細胞タイプに分化し、そしてドナー内に移植し直されることも可能である。その潜在能力にもかかわらず、分化の後に残ったIPSCが奇形腫を形成する問題が残っており、そしてこれに取り組む必要がある。
【0005】
ヒト細胞からIPSCが成功裡に生成された報告が公表される前に、本発明者らは、その内容が本出願に援用される、WO2007/102787において未分化ヒト胚性幹細胞(hESC)上の表面抗原に対する一団のモノクローナル抗体(mAb)の生成を記載した1(本明細書の図10もまた参照されたい)。これらのmAbは、未分化hESC株に強い反応性を示したが、分化したもの(胚様体)には反応性を示さなかった。該mAbは、マウス線維芽細胞とは交差反応せず、そしてヒト胚性癌細胞に対して、弱い反応性を示すかまたはまったく反応を示さない。したがって、これらのmAbは、hESCに非常に強い結合特異性を示し、そしてこの結合は、hESCが分化するにつれて失われた。特に、ポドカリキシン様タンパク質−1(PODXL)に結合する1つの抗体(mAb 84)は、濃度依存性、補体独立方式で、未分化hESCおよびNCCIT細胞に対して細胞毒性である。mAb 84は、未分化hESCの細胞死をインキュベーション30分以内に誘導するが、分化hESCの細胞死を誘導せず、そしてmAb−抗原複合体の免疫沈降によって、抗原がポドカリキシン様タンパク質−1であることが明らかになった。重要なことに、SCIDマウスに移植する前に、hESCをmAb 84で処理すると、腫瘍形成が存在しないことが観察される。この以前のデータによって、mAb84が、臨床適用のため、分化した細胞集団から残りのhESCを排除する際に有用でありうることが示される。
【0006】
未分化多能性幹細胞自体を細胞療法で用いてもよいが、分化し始めたかまたは分化している細胞を用いることが有益であると見なされる。未分化ヒト多能性幹細胞を特定の細胞系譜に分化させるよう促す方法が当該技術分野で周知である。この分化プロセスが開始するかまたは進行すると、そうでなければ望ましくない奇形腫を形成しうる未分化多能性幹細胞を除去するかまたは破壊することが有益である。
【0007】
したがって、未分化ヒト多能性幹細胞を同定するかまたは単離することが有用であるこ
とがわかる(これらをそれ自体、療法で用いることも可能であるし、または療法で使用可能な特定の細胞系譜に分化させるよう促すことも可能であるため)。これらの分化細胞は療法で有用であるため、ある程度の細胞が分化し始めたかまたは分化している細胞混合物から、未分化ヒト多能性幹細胞を取り除くかまたは破壊することもまた有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2007/102787
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポドカリキシン様タンパク質−1(PODXL)が、未分化の人工多能性幹細胞(IPSC)のマーカーであるという発見から生じる。
本発明において、IPSCに結合し、そしてこれを特徴付ける抗体が発見されてきている。IPSCを殺す能力に関してmAb84をさらに調べた。
【0010】
したがって、分化または未分化IPSCを同定するか、単離するか、分離するか、精製するか、濃縮するか、または除去するための方法を提供する。未分化IPSCを破壊する方法もまた提供する。好ましくは、これらの方法は、PODXLを発現している細胞へのPODXLに結合可能な結合部分の結合を伴う。
【0011】
本発明の1つの側面において、1つまたは複数の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料において、単数または複数の未分化人工多能性幹細胞を同定する方法を提供し、該方法は、表面上にポドカリキシン様タンパク質(PODXL)を発現する、試料内の単数または複数の細胞を同定する工程を含む。
【0012】
いくつかの態様において、PODXLに結合する結合部分と試料を接触させ、そして結合部分に結合していることによって、前記未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)を同定する。
【0013】
いくつかの態様において、該方法は、表面上にPODXLを発現する単数または複数の細胞を単離する工程をさらに含み、該方法は:(i)PODXLに結合可能な結合部分と試料を、試料中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして(ii)結合部分に結合していない細胞から、結合部分に結合している細胞を分離する工程を含む。
【0014】
この方法によって得た単離未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)を提供する。
本発明の別の側面において、分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞から、未分化人工多能性幹細胞を分離する方法を提供し、ここで、未分化人工多能性幹細胞、および分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞が、試料中に存在しており、該方法は:(i)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と試料を、試料中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして(ii)結合部分に結合していない細胞から、結合部分に結合している細胞を分離する工程を含む。
【0015】
この方法によって得た単離未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)を提供する。この方法によって得た単離分化人工多能性幹細胞(単数または複数)もまた提供する。
本発明の別の側面において、単数または複数の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料から、こうした細胞を単離する方法を提供し、該方法は、表面上にPODXLを発現する、試料内の単数または複数の細胞を単離する工程を含む。
【0016】
いくつかの態様において、PODXLに結合する結合部分と試料を接触させ、そして結合部分に結合していることによって、前記未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)を試料から単離する。
【0017】
この方法によって単離した未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)を提供する。
本発明のさらなる側面において、未分化人工多能性幹細胞、および分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞を含む混合物から、未分化人工多能性幹細胞を濃縮する方法を提供し、該方法は:(i)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と混合物を、混合物中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合
を可能にする条件下で接触させ;そして(ii)未分化人工多能性幹細胞が濃縮された細胞集団を生成するように、結合部分に結合していない細胞から、結合部分に結合している細胞を分離する工程を含む。
【0018】
本発明の別の側面において、未分化人工多能性幹細胞、および分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞を含む混合物から、分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞を濃縮する方法を提供し、該方法は:(i)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と混合物を、混合物中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして(ii)分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞が濃縮された細胞集団を生成するように、結合部分に結合している細胞から、結合部分に結合していない細胞を分離する工程を含む。
【0019】
本発明のさらなる側面において、未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含有する組成物であって、表面上にPODXLを発現する未分化人工多能性幹細胞を実質的に含有しない前記組成物を調製する方法を提供し、該方法は:(i)未分化人工多能性幹細胞、および未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含む、細胞集団を提供し;(ii)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と集団を、試料中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして(iii)結合部分に結合している細胞から、結合部分に結合していない細胞を分離する工程を含む。
【0020】
いくつかの態様において、該方法は、結合部分に結合していない分離細胞を、薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤と混合する工程をさらに含む。
本発明の別の側面において、表面上にPODXLを発現する未分化人工多能性幹細胞を含有する組成物であって、未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を実質的に含有しない前記組成物を調製する方法を提供し、該方法は:(i)未分化人工多能性幹細胞、および未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含む、細胞集団を提供し;(ii)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と集団を、試料中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして(iii)結合部分に結合していない細胞から、結合部分に結合している細胞を分離する工程を含む。
【0021】
いくつかの態様において、該方法は、結合部分に結合している分離細胞から、結合部分を解離させる工程をさらに含む。該方法はまた、結合部分に結合している分離細胞を、薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤と混合する工程も含んでもよい。
【0022】
本発明のさらに別の側面において、未分化人工多能性幹細胞に、PODXLに結合可能な結合部分を結合させる方法を提供し、該方法は、1以上の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料と、PODXLに結合可能な結合部分を、試料中の細胞表面上に発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させる工程を含む。
【0023】
本発明のさらなる側面において、単数または複数の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料中のこうした細胞を破壊する方法を提供し、該方法は、表面上にPODXLを発現する、試料中の単数または複数の該細胞を破壊する工程を含む。
【0024】
本発明の別の側面において、単数または複数の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料から、こうした細胞を除去する方法を提供し、該方法は、表面上にPODXLを発現する単数または複数の該細胞を試料から除去する工程を含む。
【0025】
いくつかの態様において、PODXLに結合する結合部分と試料を接触させ、そして結合部分に結合していることによって、前記未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)を試料から除去する。
【0026】
上述の本発明の側面のいずれにおいても、いくつかの態様において、結合部分は抗体であり、そして好ましい態様において、mAb84である。
本発明のさらなる側面において、未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含有する組成物を提供し、該組成物は、表面上にPODXLを発現する未分化人工多能性幹細胞を実質的に含有しない。
【0027】
本発明の別の側面において、未分化人工多能性幹細胞を含有する組成物を提供し、該組成物は、未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を実質的に含有しない。未分化人工多能性幹細胞は、好ましくは、表面上にPODXLを発現する。
【0028】
本発明のさらなる側面において、細胞療法が必要な患者を治療する方法を提供し、該方法は:(i)本発明の方法によって得た単数または複数の単離未分化人工多能性幹細胞;(ii)本発明の方法によって得た単数または複数の単離分化人工多能性幹細胞;あるいは(iii)本発明記載の組成物を、患者に投与する工程を含む。
【0029】
本発明のさらなる側面において、細胞療法が必要な患者を治療するための薬剤製造における、(i)本発明の方法によって得た単数または複数の単離未分化人工多能性幹細胞;(ii)本発明の方法によって得た単数または複数の単離分化人工多能性幹細胞;あるいは(iii)本発明記載の組成物の使用を提供する。
【0030】
本発明の別の側面において、細胞療法が必要な患者を治療する際に使用するための、本発明の方法によって得た単数または複数の単離未分化人工多能性幹細胞;あるいは本発明の方法によって得た単数または複数の単離分化人工多能性幹細胞;あるいは本発明記載の組成物を提供する。
【0031】
本発明のさらにさらなる側面において、表面上にポドカリキシン様タンパク質(PODXL)を発現している未分化人工多能性幹細胞、および未分化人工多能性幹細胞の表面上に発現されるPODXLに結合している、PODXLに結合可能な結合部分を含む、複合体を提供する。該複合体は、好ましくは、結合部分およびPODXLの非共有および非イオン性相互作用によって形成される。単離型で、あるいは混合物または試料の一部として、例えば細胞培養物の一部として、複合体を提供してもよい。
【0032】
本発明のさらなる側面において、PODXLに結合する結合部分、および別の人工多能性幹細胞マーカーを検出するさらなる剤を含む部分のキットを提供する。
本発明のさらなる側面において、人工多能性幹細胞を生成し、そして同定する方法を提供し、該方法は:
(i)非多能性ドナー細胞を誘導して多能性状態にして、表面上にPODXLを発現している人工多能性幹細胞を生成し;
(ii)該人工多能性幹細胞を、PODXLに結合可能な結合部分と、人工多能性幹細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして(iii)結合部分によって結合された細胞を同定する;
工程を含む。
【0033】
本発明の別の側面において、未分化人工多能性幹細胞の破壊におけるmAb84の使用を提供する。したがって、こうした細胞を含有する試料中の単数または複数の未分化人工多能性幹細胞を破壊する方法を提供し、該方法は、試料中の細胞をmAb84と接触させて、mAb84を特定の細胞に結合させる工程を含む。該方法は、mAb84に結合している細胞の破壊を可能にするのに十分な時間、試料を培養するかまたはインキュベーションする工程をさらに含んでもよい。
【0034】
本発明のさらにさらなる側面において、mAb84に結合している未分化人工多能性幹細胞を含む複合体を提供する。該複合体は、好ましくは、結合部分およびPODXLの非共有および非イオン性相互作用によって形成される。単離型で、あるいは混合物または試料の一部として、例えば細胞培養物の一部として、複合体を提供してもよい。
【0035】
本発明のさらなる側面を以下に示す。
本発明の1つの側面において、未分化人工多能性幹細胞を含有しうる試料において、こうした細胞を同定する方法を提供し、該方法は、表面上にポドカリキシン様タンパク質(PODXL)を発現する、試料内の単数または複数の細胞を同定する工程を含む。
【0036】
本発明の別の側面において、未分化人工多能性幹細胞を含有する試料から、こうした細胞を単離する方法を提供し、該方法は、表面上にPODXLを発現する、試料内の単数または複数の細胞を単離する工程を含む。
【0037】
本発明の別の側面において、未分化人工多能性幹細胞を含有する試料から、こうした細胞を除去する方法を提供し、該方法は、表面上にPODXLを発現する単数または複数の
細胞を試料から除去する工程を含む。
【0038】
本発明の別の側面において、未分化人工多能性幹細胞を含有する試料において、こうした細胞を破壊する方法を提供し、該方法は、表面上にPODXLを発現する、試料中の単数または複数の細胞を破壊する工程を含む。
【0039】
本発明の別の側面において、未分化人工多能性幹細胞を含有する試料から、こうした細胞を単離する方法によって単離した未分化人工多能性幹細胞を提供し、該方法は、表面上にPODXLを発現する、試料内の単数または複数の細胞を単離する工程を含む。
【0040】
本発明の別の側面において、表面上にPODXLを発現する単離未分化人工多能性幹細胞を提供する。
本発明の別の側面において、未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含有する組成物を提供し、該組成物は表面上にPODXLを発現する未分化人工多能性幹細胞を実質的に含有しない。
【0041】
本発明の別の側面において、細胞療法が必要な患者を治療する方法を提供し、該方法は、未分化人工多能性幹細胞を含有する試料から、こうした細胞を単離する方法によって単離された未分化人工多能性幹細胞、または表面上にPODXLを発現する単離未分化人工多能性幹細胞、または未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含有する組成物であって、表面上にPODXLを発現する未分化人工多能性幹細胞を実質的に含有しない前記組成物を、患者に投与する工程を含む。
【0042】
本発明の別の側面において、細胞療法が必要な患者を治療するための薬剤製造における、本発明の上記側面にしたがった細胞、または本発明の上記側面にしたがった組成物の使用を提供する。
【0043】
本発明の別の側面において、本発明の上記側面にしたがった方法を提供し、ここでPODXLに結合する結合部分と試料を接触させ、そして結合部分に結合していることによって、前記人工多能性幹細胞を試料中で同定するかまたは試料から単離するかまたは試料から除去する。好ましくは結合部分は抗体である。
【0044】
本発明の別の側面において、PODXLに結合する部分、および別の人工多能性幹細胞マーカーを検出するさらなる剤を含む部分のキットを提供する。
以下の番号付けした段落は、本明細書に開示する本発明の技術特徴の広い組み合わせの言及を含有する:
1. 未分化人工多能性幹細胞を含有しうる試料において、こうした細胞を同定する方法であって、表面上にポドカリキシン様タンパク質(PODXL)を発現する、試料内の単数または複数の細胞を同定する工程を含む、前記方法。
【0045】
2. 未分化人工多能性幹細胞を含有する試料から、こうした細胞を単離する方法であって、表面上にPODXLを発現する、試料内の単数または複数の細胞を単離する工程を含む、前記方法。
【0046】
3. 未分化人工多能性幹細胞を含有する試料から、こうした細胞を除去する方法であって、表面上にPODXLを発現する単数または複数の細胞を試料から除去する工程を含む、前記方法。
【0047】
4. 未分化人工多能性幹細胞を含有する試料において、こうした細胞を破壊する方法であって、試料中の、表面上にPODXLを発現する単数または複数の細胞を破壊する工程を含む、前記方法。
【0048】
5. 第2段落の方法によって単離された未分化人工多能性幹細胞。
6. 表面上にPODXLを発現する単離未分化人工多能性幹細胞。
7. 未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含有する組成物であって、表面上にPODXLを発現する未分化人工多能性幹細胞を実質的に含有しない前記組成物。
【0049】
8. 第5または6段落記載の細胞、あるいは第7段落記載の組成物を、患者に投与する工程を含む、細胞療法が必要な患者を治療する方法。
9. 細胞療法が必要な患者を治療するための薬剤製造における、第5または6段落記載の細胞、あるいは第7段落記載の組成物の使用。
【0050】
10. PODXLに結合する結合部分と試料を接触させ、そして結合部分に結合して
いることによって、試料中の前記未分化人工多能性幹細胞を同定するか、または試料から単離するか、または試料から除去する、第1〜3段落のいずれか1つに記載の方法。
【0051】
11. 結合部分が抗体である、第10段落記載の方法。
12. PODXLに結合する部分、および別の人工多能性幹細胞マーカーを検出するさらなる剤を含む部分のキット。
【0052】
本発明の原理を例示する態様および実験は、ここで、付随する図に言及して論じられるであろう:
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、hESC(HES−3)、IPSC(ES4SKIN、ESIMR90)、および線維芽細胞株(BJ1、IMR90)に対するmAb結合の分析を示す。hESC上の細胞表面抗原に対して作製した異なるmAbクローン(mAb5、8、14、63、84、85、329、432および529)、TRA−1−60に対するmAbまたはOct−4に対するmAbで細胞を染色した。細胞に結合している抗体を、FITCコンジュゲート化抗マウス抗体で検出した。赤いヒストグラムは陰性対照での染色を表し、そして緑のヒストグラムは一次抗体での染色を表す。
【図2】図2は、hESC(HES−3)、IPSC(ES4SKIN、ESIMR90)、および線維芽細胞株(BJ1、IMR90)に対するmAb結合の分析を示す。hESC上の細胞表面抗原に対して作製した異なるmAbクローン(mAb5、8、14、63、84、85、320、432および529)、TRA−1−60に対するmAbまたはOct−4に対するmAbで細胞を染色した。細胞に結合している抗体を、FITCコンジュゲート化抗マウス抗体で検出した。赤いヒストグラムは陰性対照での染色を表し、そして緑のヒストグラムは一次抗体での染色を表す。
【図3】図3は、hESC(HES−3)、IPSC(ES4SKIN、ESIMR90)、および線維芽細胞株(BJ1、IMR90)に対するmAb結合の分析を示す。hESC上の細胞表面抗原に対して作製した異なるmAbクローン(mAb5、8、14、63、84、85、320、432および529)、TRA−1−60に対するmAbまたはOct−4に対するmAbで細胞を染色した。細胞に結合している抗体を、FITCコンジュゲート化抗マウス抗体で検出した。赤いヒストグラムは陰性対照での染色を表し、そして緑のヒストグラムは一次抗体での染色を表す。
【図4】図4は、hESC(HES−3)、IPSC(ES4SKIN、ESIMR90)、および線維芽細胞株(BJ1、IMR90)に対するmAb結合の分析を示す。hESC上の細胞表面抗原に対して作製した異なるmAbクローン(mAb5、8、14、63、84、85、320、432および529)、TRA−1−60に対するmAbまたはOct−4に対するmAbで細胞を染色した。細胞に結合している抗体を、FITCコンジュゲート化抗マウス抗体で検出した。赤いヒストグラムは陰性対照での染色を表し、そして緑のヒストグラムは一次抗体での染色を表す。
【図5】図5は、hESC(HES−3)、IPSC(ES4SKIN、ESIMR90)、および線維芽細胞株(BJ1、IMR90)に対するmAb結合の分析を示す。hESC上の細胞表面抗原に対して作製した異なるmAbクローン(mAb5、8、14、63、84、85、320、432および529)、TRA−1−60に対するmAbまたはOct−4に対するmAbで細胞を染色した。細胞に結合している抗体を、FITCコンジュゲート化抗マウス抗体で検出した。赤いヒストグラムは陰性対照での染色を表し、そして緑のヒストグラムは一次抗体での染色を表す。
【図6】図6は、hESC(HES−3)、IPSC(ES4SKIN、ESIMR90)、および線維芽細胞株(BJ1、IMR90)に対するmAb結合の分析を示す。hESC上の細胞表面抗原に対して作製した異なるmAbクローン(mAb5、8、14、63、84、85、320、432および529)、TRA−1−60に対するmAbまたはOct−4に対するmAbで細胞を染色した。細胞に結合している抗体を、FITCコンジュゲート化抗マウス抗体で検出した。赤いヒストグラムは陰性対照での染色を表し、そして緑のヒストグラムは一次抗体での染色を表す。
【図7】図7は、hESC、IPSCおよび線維芽細胞株に対するmAb84の細胞毒性を示す。(A)細胞を5μgのmAb84と(B)、または抗体を含まず(対照、A)、4℃で45分間インキュベーションした。その後、フローサイトメーター上でのPI排除アッセイによる分析のため、細胞を回収した。スキャッタープロット中のゲート化領域は、生存細胞集団を表す。
【図8】図8。細胞毒性mAb84はまた、人工多能性幹細胞も殺す。図7の結果の要約を示すチャート。5μg mAb84と(濃青色のバー)、または抗体を含まずに(淡青色のバー)、4℃で45分間インキュベーションした後の細胞生存度パーセント。
【図9】図9。ES4SKINおよびESIMR90細胞による多能性マーカーOct4 SSEA4およびTra−1−60の発現を示す顕微鏡写真。
【図10】図10。hESC(HES−3)、IPSC(ES4SKINおよびESIMR90)、包皮およびIMR90細胞に対する、ある範囲のモノクローナル抗体の結合(チェックマークによって示す)を示す表。
【図11】図11。528アミノ酸ポドカリキシン様タンパク質1前駆体のアミノ酸配列(配列番号1)。
【図12】図12。ヒトPODXL GenBank寄託番号O00592.2 GI:229462740のアミノ酸配列(配列番号2)。
【図13】図13。ヒトPODXL GenBank寄託番号AAI43319.1 GI:219520307のアミノ酸配列(配列番号3)。
【図14】図14。mAb84のVL鎖のアミノ酸配列(およびコードポリヌクレオチド配列)(配列番号4および5)。下線がないアミノ酸は、フレームワーク領域に対応する。下線のアミノ酸は、相補性決定領域(CDR)に対応する。
【図15】図15。mAb84のVH鎖のアミノ酸配列(およびコードポリヌクレオチド配列)(配列番号6および7)。下線がないアミノ酸は、フレームワーク領域に対応する。下線のアミノ酸は、CDRに対応する。
【図16】図16。2つのPODXL変異体のアミノ酸配列(配列番号8および9)。
【発明を実施するための形態】
【0054】
好ましい態様の説明
方法
本発明記載の方法は、好ましくは、表面上にPODXLを発現する細胞へのPODXL結合部分の結合を伴う。
【0055】
本発明記載の方法は:
(a)未分化人工多能性幹細胞を同定する工程;
(b)未分化または分化人工多能性幹細胞を単離する工程;
(c)他の細胞から、例えば分化人工多能性幹細胞から、未分化人工多能性幹細胞を分離する工程;
(d)未分化または分化人工多能性幹細胞を濃縮する工程;
(e)未分化人工多能性幹細胞を実質的に持たない、分化人工多能性幹細胞の組成物を調製する工程;あるいは
(f)分化人工多能性幹細胞を実質的に持たない、未分化人工多能性幹細胞の組成物を調製する工程
を含んでもよい。
【0056】
本発明記載の方法は、PODXLに結合可能な部分(PODXL結合部分)と試料を接触させる工程を伴ってもよい。これは、PODXLへの結合部分の結合を可能にするのに適した条件下であってもよい。こうした条件は、一般の当業者に周知であり、例えば、生理学的pHおよび生理学的緩衝液を含む。
【0057】
結合部分がPODXLに結合するのを可能にするのに十分な時間、PODXL結合部分と試料を接触させてもよい。十分な時間は、例えば、5分間、10分間、30分間、45分間、60分間、90分間、または2時間より長くてもよい。
【0058】
好ましい態様において、本発明記載の方法は、PODXL結合部分と試料を接触させ、
PODXL結合部分が細胞表面上のPODXLに結合するのを可能にし、そしてどの細胞が結合しているPODXL結合部分を有するかを決定する工程を含む。
【0059】
本発明記載の方法は、PODXL結合部分が結合している細胞を同定する工程を含んでもよい。本発明記載の方法は、PODXL結合部分が結合している細胞を単離する工程を含んでもよい。本発明記載の方法は、PODXL結合部分が結合している細胞を分配するか、除去するか、分離するか、または精製する工程を含んでもよい。本発明記載の方法は、PODXL結合部分が結合している細胞を破壊する工程を含んでもよい。本発明記載の方法は、同定されているか、単離されているか、分離されているか、分配されているか、濃縮されているか、結合しているかまたは除去されている細胞を定量化する工程をさらに含んでもよい。
【0060】
本明細書に開示する未分化人工多能性幹細胞を同定する方法は、未分化IPSCを画像化するために、特に、細胞が検出可能標識でタグ化されている場合に有用であり、そしてIPSCを特徴付けるために有用である。
【0061】
IPSC表面上に発現されるPODXLへのPODXL結合部分の結合を伴う方法は、IPSCに関する研究、およびIPSCの臨床開発に有用である。
細胞表面上に発現されるPODXLに結合しているPODXL結合部分は、結合部分およびPODXLの複合体を形成する。結合部分が結合するPODXLを発現している細胞は、複合体の一部を形成する。
【0062】
本発明のいくつかの方法は、例えば結合部分の存在を検出することによって、または結合部分にカップリングした検出可能標識を検出することによって、複合体を検出する工程を含む。
【0063】
本発明のいくつかの方法は、試料からまたは試料中の他の複合体化されていない細胞から、これらの複合体を分配する工程を含み、そして例えば結合部分の存在を検出することによって、または結合部分にカップリングした検出可能標識を検出することによって、複合体を検出する工程をさらに含んでもよい。
【0064】
本発明のいくつかの方法は、結合部分およびPODXLの複合体の形成を可能にするのに十分な時間、PODXL結合部分と試料を接触させ、そして試料から複合体化細胞を除去する工程を含む。こうした方法は、分化および/または未分化人工多能性幹細胞の単離および/または精製に有用である。
【0065】
本発明の方法において、人工多能性幹細胞がアフィニティ結合によって結合可能であるように、PODXL結合部分を、固体支持体上に固定してもよく、例えば固体支持体にコンジュゲート化してもよい。好適には、固体支持体は、アガロース、アクリルアミド、SepharoseTMおよびSephadexTMなどの任意の適切なマトリックスを含む。固体支持体は、マイクロタイタープレートまたはチップ、あるいはカラムなどの固体支持体であってもよい。
【0066】
いくつかの態様において、結合した際に、適切な磁場の提供に際して、ヒト胚性幹細胞が試料の残りから分離可能であるように、結合部分は、磁気的に標識されている(直接または間接的のいずれかで)。磁気細胞ソーティングに用いられるマイクロビーズは、しばしば、MACSコロイド状超常磁性マイクロビーズと呼ばれる。この方式で標識された人工多能性幹細胞は、磁気活性化細胞ソーティング(MACS)によってソーティング可能である。
【0067】
特異的細胞マーカーを含む細胞を分離する他の方法が当該技術分野に知られ、そしてこれには、結合部分が蛍光分子で標識されるFACS(蛍光活性化細胞ソーティング)が含まれる。
【0068】
本発明記載の方法は、結合しているか、同定されているか、単離されているか、分離されているか、濃縮されているか、または除去されている、未分化または分化人工多能性幹細胞を培養する工程を含んでもよい。該方法はまた、こうして得た未分化人工多能性幹細胞を分化させる工程も含んでもよい。
【0069】
本発明記載の方法を用いて、分化または未分化人工多能性幹細胞の濃縮されたかまたは実質的に単離された組成物を提供してもよい。こうした組成物を多様な方式で用いてもよ
く、例えばこれを細胞療法で用いてもよいし、またはこれを細胞供給源として用いて、これを次いで、特定の療法に有用な特定の細胞系譜に分化させるよう促してもよいし、またはこれを用いて、細胞が他の細胞に分化することを可能にする因子を調べてもよい(in
vitroまたはin vivo)。
【0070】
典型的には、人工多能性胚性幹細胞の濃縮組成物は、分化または未分化ヒト胚性幹細胞としての細胞を少なくとも50%含有し、好ましくは少なくとも70%、または少なくとも90%、または少なくとも95%含有する。好ましくは、組成物中の細胞はすべて、前記分化または未分化人工多能性幹細胞である。
【0071】
細胞集団を濃縮するための方法は、好ましくは、試料中の細胞濃度を増加させるか、あるいは絶対的にまたは試料中の他の細胞の数に対して相対的にのいずれかで、細胞集団(すなわち所定のタイプの細胞数)を増加させることを伴う。
【0072】
本発明はまた、未分化人工多能性幹細胞を破壊する方法も提供し、該方法は、表面上にPODXLを発現する、試料中の単数または複数の細胞を破壊する工程を含む。いくつかの態様において、表面上にPODXLを発現している細胞に、該部分が結合するのを可能にするのに十分な時間、PODXL結合部分と細胞試料を接触させる。該部分は、結合した細胞を破壊することが可能な細胞毒性剤を含んでもよい。あるいは、結合部分自体によって細胞を破壊してもよいし、または結合部分の付着によって破壊してもよい。あるいは、結合部分と細胞毒性剤の相互作用によって細胞を破壊してもよい。したがって、該方法は、結合部分に結合している細胞を破壊するように、結合部分と相互作用可能な細胞毒性剤の添加を含んでもよい。
【0073】
いくつかの方法において、PODXL結合部分は、腫瘍症機構によって細胞死を仲介し、腫瘍症は、細胞浸透性(ヨウ化プロピジウム/トリパンブルーなどの色素に対する浸透性によって示されるように)および細胞収縮の増加につながる膜損傷から生じる細胞死の形である。本発明の方法によって誘導される細胞死には、細胞膜の孔形成(poration)、小疱形成および/または細胞凝集が先行しうる。未分化IPSCを破壊する好ましい方法において、PODXLに結合可能な部分は、mAb84であってもよい。
【0074】
抗体または他の結合部分に連結可能な、適切な細胞毒性部分には、放射性原子、細胞毒性薬剤、細胞毒性タンパク質、およびプロドラッグを細胞毒性薬剤に変換する酵素系が含まれる。これらは当該技術分野に周知である。
【0075】
好ましい態様において、本発明には、未分化人工多能性幹細胞を含有する試料において、こうした細胞を破壊する方法が含まれ、該方法は、前記細胞に対して毒性であるPODXL結合部分と試料を接触させ、そして前記細胞表面上のPODXLに結合部分が結合するのを可能にし、そして結合部分が前記細胞を殺すのを可能にする工程を含む。結合部分は、前記細胞に対してそれ自体が細胞毒性である抗体であってもよいし、または該細胞に対して毒性であるさらなる部分を含んでもよい。
【0076】
いくつかの態様において、細胞毒性剤と同時にまたは連続して、PODXL結合部分を試料にまたは細胞に投与する。残ったIPSCの完全な除去を確実にするため、PODXL結合部分を、他の幹細胞関連分子に結合可能な1以上の他の剤と組み合わせて投与してもよい。
【0077】
未分化IPSCを破壊するための方法を用いて、分化するように誘導されているIPSC集団から、未分化細胞を除去してもよい。組織または臓器の移植前に、未分化IPSCを破壊するための方法を用いて、残ったIPSCを排除して、こうして、特に奇形腫形成のリスクを減少させることによって、移植片の成功および安全性を増加させてもよい。
【0078】
本発明は、表面上にPODXLを発現する単離未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)、ならびにPODXL結合部分が結合しているPODXLを表面上に発現する単離未分化人工多能性幹細胞を提供する。
【0079】
本発明はまた、試料から、再プログラミングされた人工多能性幹細胞を生成しそして同定する方法も提供する。これによって、成功裡に再プログラミングされなかった細胞から、成功裡に再プログラミングされた人工多能性幹細胞の選択が可能になる。
【0080】
こうした方法は、非多能性ドナー細胞を誘導して多能性状態にして、表面上にPODX
Lを発現している人工多能性幹細胞を生成し、人工多能性幹細胞表面上に発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で、PODXLに結合可能な結合部分と人工多能性幹細胞を接触させ;そして結合部分によって結合された細胞を同定する工程を含む。
【0081】
非多能性ドナー細胞を誘導して多能性状態にするための技術が当該技術分野に知られる。例えば、どちらも本明細書に援用される、Takahashiら((2007) Induction of Pluripotent Stem Cells from Adult Human Fibroblasts by Defined Factors. Cell 131(5):861−72)およびYuら((2007) Induced Pluripotent Stem Cell Lines Derived from Human Somatic Cells. Science 318(5858):1917−20)によって報告されるもの。
【0082】
こうした技術には、ウイルスベクターを用いた、幹細胞関連遺伝子および/または転写因子でのドナー細胞のトランスフェクションが含まれる。こうした遺伝子および因子には、「人工多能性幹細胞」以下に説明するように、Oct−3/4(Pouf51)、Sox2、c−Myc、Klf4、NonaogおよびLIN28の1以上が含まれてもよい。
【0083】
ドナー細胞は、「人工多能性幹細胞」以下に説明するように、成体体細胞、例えば線維芽細胞を含んでもよい。
本発明記載の方法は、好ましくはin vitroで行われる。用語「in vitro」は、培養中の細胞を用いた実験を含むように意図され、一方、用語「in vivo」は、損なわれていない(intact)多細胞生物を用いた実験を含むように意図される。
【0084】
キット
本発明のいくつかの側面にしたがって、部分のキットを提供する。いくつかの態様において、マーカーは、Oct4、SSEA−4、Tra−1−60、Tra−1−81およびGCTM−2の1以上である。さらなる剤は、mAb 5、mAb 8、mAb 14、mAb 63、mAb 84、mAb 85、mAb 95、mAb 375、mAb
432、mAb 529の任意の1以上であってもよい。
【0085】
いくつかの態様において、キットは、PODXLに対する抗体、ならびにOct4、SSEA−4、Tra−1−60、Tra−1−81およびGCTM−2の1以上に対する抗体を含む。典型的には、キットはまた:免疫化学において使用するための試薬;固体支持体に固定された抗体;抗体を標識するための手段;細胞毒性部分に抗体を連結するための手段の1以上も含有してもよい。
【0086】
試料
本発明のいくつかの方法は、細胞を含有する試料を伴う。試料は、1以上の未分化人工多能性幹細胞を含有するかまたは含有すると推測される任意の量の細胞であってもよい。試料は、in vitroで増殖した細胞の培養物であってもよい。例えば、培養物は、細胞懸濁物あるいは培養プレートまたはディッシュ中で培養された細胞を含んでもよい。
【0087】
好ましい態様において、試料は、未分化人工多能性幹細胞を含有する。いくつかの態様において、試料は、未分化人工多能性幹細胞、および分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞を含有する。分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞は、もはや多能性ではない可能性もあり、そして好ましくは、表面上にPODXLを発現しない。
【0088】
試料は、未分化人工多能性幹細胞が特定の細胞系譜に分化するよう促されている(または促進されている)ものであってもよく、そしてしたがって、試料は、未分化および分化細胞の混合物を含有してもよい(分化はしばしば効率的なプロセスではないため)。典型的には、こうした試料中で、未分化人工多能性幹細胞は、細胞総数の数パーセントを構成する。典型的には、試料中の分化細胞は、心筋細胞、膵島細胞、ニューロン前駆体細胞または間葉幹細胞であってもよく、これらは(分化によって)人工多能性幹細胞から得られ
る。潜在的に、未分化細胞は望ましくない奇形腫を形成しうるため、分化細胞を含有する試料の臨床適用前に、こうした試料由来の(またはこうした試料中の)未分化人工多能性幹細胞を除去(または破壊)することは、有用であろう。典型的には、未分化人工多能性幹細胞の少なくとも95%を除去するかまたは破壊する。好ましくは、前記細胞すべてを除去するかまたは破壊する。
【0089】
いくつかの態様において、試料は、非人工多能性幹細胞、例えば胚性幹細胞(ESC)を含有しない。いくつかの好ましい態様において、試料はヒト胚性幹細胞またはヒト非人工多能性幹細胞を含有しない。
【0090】
試料は、表面上にPODXLを発現している未分化IPSCを含有してもよい。いくつかの例において、試料は、多能性が誘導されている体細胞に由来している。他の例において、試料は、他の細胞に分化するよう誘導されているIPSCを含んでもよい。試料は、他の非多能性細胞、例えばフィーダー細胞または線維芽細胞を含有してもよい。
【0091】
ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)
本明細書においてポドカリキシン様タンパク質(PODXL)と称するポドカリキシン様タンパク質1前駆体のアミノ酸配列を図11に示し(配列番号1)、そして該配列はまた、EntrezPubMedを通じてアクセス可能な、NCBIタンパク質配列データベースの寄託番号O00592号にも見出される(Kershawら(1997) J.
Biol. Chem. 272, 15708−15714もまた参照されたい)。また、該タンパク質をPCLPIおよびPODXLとも呼ぶ。便宜上、本明細書において、以後、これをPODXLと呼ぶ。PODXLは図11に提供するものとまったく同じ配列を有してもよいし、またはその天然存在変異体であってもよい(例えば図16を参照されたい)。例えば、O00592にしたがって、Rは残基62のTに関する変異体であり、そしてSは残基196のLの変異体である。
【0092】
成熟PODXLは、528残基のグリコシル化細胞表面ポリペプチドであり、このうち残基1〜22がシグナルペプチドであり、そして残基23〜528は成熟タンパク質に相当する。残基23〜431はタンパク質の細胞外部分であると考えられ、そして残基432〜452は膜貫通領域である。残基23〜304はSer/Thrリッチ領域に相当する。PODXLに結合する結合部分がPODXLの細胞外領域に、例えばSer/Thrリッチ領域内、またはこの領域の外に結合するのが好ましい。
【0093】
ポドカリキシン様タンパク質は、シアロムチンタンパク質ファミリーのメンバーである。PODXLは、元来、糸球体足細胞の重要な構成要素として同定された。足細胞は、互いにかみ合う足突起を持つ非常に分化した上皮細胞であり、糸球体基底膜の外面を覆っている。PODXLの他の生物学的活性には、Na+/H+交換体制御因子を伴う膜タンパク質複合体中で細胞内細胞骨格要素に結合すること、造血細胞分化において役割を果たすこと、および血管内皮細胞中で発現され、そしてL−セレクチンに結合することが含まれる。
【0094】
PODXLは、シアロムチンのCD34ファミリーに属する非常にグリコシル化されたI型膜貫通タンパク質である。PODXLは、元来、腎糸球体の足細胞上の主なシアロタンパク質として記載されたが、後に、血管内皮細胞および初期造血前駆体上で発現されることが見出された。より最近、PODXLは、乳房、肝臓、および前立腺癌中の腫瘍攻撃性の指標とされてきている。ヒトPODXLは、染色体7q32−q33上に位置し、そして528アミノ酸のタンパク質をコードする。しかし、PODXLの細胞外ドメインは、シアル酸付加O連結炭水化物で非常にグリコシル化され、そしてN連結グリコシル化の5つの潜在的な部位があるため、PODXLのおよその分子量は160〜165kDaである。
【0095】
機能的に、PODXLは、細胞タイプに応じて、非常に多様な役割を有すると報告されてきている。足細胞において、PODXLは、電荷反発によって、足細胞足突起間に開いたろ過スリットを維持する、抗接着分子として作用する。しかし、高内皮静脈においては、PODXLは、L−セレクチンに結合する接着分子として作用し、そしてリンパ球の束縛および回転を仲介する。
【0096】
hESCにおいて、PODXLは、未分化hESCにおいて高発現されることが転写的に同定された5、6。発現タグ頻度分析によって、PODXL発現レベルは、7〜8日の胚様体中でほぼ2.5倍下方制御され、そして神経外胚葉様細胞および肝細胞様細胞において、それぞれ、およそ7倍および12倍下方制御された5。この結果は、hESCおよび8日のEBの免疫組織化学によって支持され、後者では染色が有意に減少した7。hESCおよびmESCのトランスクリプトーム・プロフィールを比較する、Weiらによる別個の研究において、Weiらは、PODXLの発現が、hESCに比較して、mESC株E−14において、MPSSによっては検出されないことを観察した8。タンパク質レベルでは、SchopperleおよびDeWolf9は、PODXLが、レチノイン酸に対する2つの胚性癌細胞株の曝露後、翻訳後グリコシル化変化を経ることを報告した(分子量が200kDaから170kDaに減少する)。抗TRA−1−60/81抗体が修飾PODXLに結合できないことから、胚性幹細胞上に幹細胞PODXL(SC−PODXL)が存在することが示唆された。総合すると、ESCにおけるPODXL発現のこれらの独立の報告は、本発明者らのフローサイトメトリーによるmAb84の観察と緊密に対応し、ここで、結合反応性は、未分化hESCに比較して8日の胚様体で減少した。同時に、それぞれ、FGF2枯渇hESCおよび22日のEBに対するmAb84が仲介する殺傷の減少または喪失は、分化に際してのPODXL発現の下方制御に起因しうる。さらに、胚様体形成中のhESCへのmAb84およびTRA−1−60結合が同時に減少することは、分化中にSC−PODXLが喪失することと関連しうる。
【0097】
本発明の好ましい方法において、PODXLは、ヒトPODXLである。ヒトPODXLは、配列番号1のアミノ酸配列、またはGenBank寄託番号O00592.2 GI:229462740のアミノ酸配列(配列番号2;図12)またはGenBank寄託番号AAI43319.1 GI:219520307のアミノ酸配列(配列番号3;図13)を有してもよい。いくつかの態様は、図16に開示するものなどのPODXL変異体に関する(配列番号8および9)。
【0098】
いくつかの態様において、PODXLタンパク質は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号8または配列番号9のアミノ酸配列に対して、60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の1つの配列同一性を含む。いくつかの態様において、PODXLタンパク質は、アミノ酸1〜22を除いて、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号8または配列番号9のアミノ酸配列に対して、60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の1つの配列同一性を含む。好ましいPODXLタンパク質は、mAb84に結合可能なものである。
【0099】
PODXL結合部分
適切な結合部分には、核酸アプタマー(例えば、指数的濃縮によるリガンドの系統的進化(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment(SELEX))によって得られる)、抗体(ポリクローナルおよびモノクローナル抗体ならびに抗体断片を含む)、リガンド、酵素および他の生物学的分子が含まれる。
【0100】
本発明のすべての態様に関して、PODXL結合部分が選択的であることが好ましいと認識されるであろう。したがって、PODXL結合部分が選択的にPODXLに結合する、すなわち他のヒト・タンパク質よりもより高いアフィニティーでPODXLに結合することが好ましい。典型的には、抗PODXL抗体は、選択的方式で、実質的に他のヒト・タンパク質には結合しない。
【0101】
好適には、結合部分は抗体であり、この用語には、その断片または誘導体、あるいは合成抗体または合成抗体断片が含まれる。
PODXLに結合する抗体はすでに知られている。例えば、ポリクローナル抗血清が細胞外ドメインに結合する、ヒト・ポドカリキシンに特異的なヤギIgGが、カタログ番号AF1658のもとで、R&D Systems, Incから入手可能である。また、モノクローナル抗ヒト・ポドカリキシン抗体(マウスIgG2A)が、カタログ番号MA
B1658のもとで、R&D Systems, Incから入手可能である。モノクローナル抗体技術に関連した今日の技術を考慮すると、抗体は、大部分の抗原に対して調製可能である。抗原結合部分は、抗体の部分(例えばFab断片)または合成抗体断片(例えば一本鎖Fv断片[ScFv])であってもよい。選択した抗原に対する適切なモノクローナル抗体は、既知の技術、例えば、“Monoclonal Antibodies: A manual of techniques”, H Zola(CRC Press, 1988)に、そして“Monoclonal Hybridoma Antibodies: Techniques and Applications”, J
G R Hurrell(CRC Press, 1982)に開示されるものによって調製可能である。キメラ抗体は、Neubergerら(1988, 8th International Biotechnology Symposium Part 2, 792−799)によって論じられる。
【0102】
モノクローナル抗体(mAb)は、本発明の方法において有用であり、そして抗原上の単一のエピトープを特異的にターゲティングする抗体の均質な集団である。したがって、PODXLに結合するmAbは、潜在的に、特定の細胞系譜に分化する単数または複数の未分化細胞を特徴付ける抗原のレパートリーを示す生存細胞サブセットを精製するかまたは除去するのに使用可能である。
【0103】
ポリクローナル抗体は、本発明の方法において有用である。単一特異的ポリクローナル抗体が好ましい。当該技術分野に周知の方法を用いて、適切なポリクローナル抗体を調製してもよい。
【0104】
FabおよびFab2断片などの抗体断片もまた用いてもよく、遺伝子操作した抗体および抗体断片もまた用いてもよい。抗体の可変重鎖(VH)および可変軽鎖(VL)ドメインは、抗原認識に関与し、この事実は、初期のプロテアーゼ消化実験によって最初に認識された。さらなる確認は、げっ歯類抗体の「ヒト化」によって見出された。げっ歯類起源の生存ドメインを、ヒト起源の定常ドメインに融合させて、生じる抗体が、げっ歯類親抗体の抗原特異性を保持するようにしてもよい(Morrisonら(1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81, 6851−6855)。
【0105】
抗原特異性は可変ドメインによって与えられ、そして定常ドメインからは独立であることは、すべて1以上の可変ドメインを含有する抗体断片の細菌発現を伴う実験から知られる。これらの分子には、Fab様分子(Betterら(1988) Science 240, 1041); Fv分子(Skerraら(1988) Science 240, 1038); VHおよびVLパートナードメインが柔軟なオリゴペプチドを通じて連結される、一本鎖Fv(ScFv)分子(Birdら(1988) Science 242, 423; Hustonら(1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85, 5879);ならびに単離Vドメインを含む単一ドメイン抗体(dAb)(Wardら(1989) Nature 341, 544)が含まれる。特異的結合部位を保持する抗体断片合成に関与する技術の一般的な概説は、Winter & Milstein(1991) Nature 349, 293−299中に見出されるはずである。
【0106】
「ScFv分子」によって、本発明者らは、VHおよびVLパートナードメインが、例えば柔軟なオリゴペプチドによって、共有結合されている分子を意味する。
Fab、Fv、ScFvおよびdAb抗体断片は、すべて大腸菌(E. coli)において発現可能であり、そして大腸菌から分泌可能であり、したがって、多量の前記断片の容易な産生が可能になる。
【0107】
全抗体、およびF(ab’)2断片は「二価」である。「二価」によって、本発明者らは、前記抗体およびF(ab’)2断片が2つの抗原結合部位を有することを意味する。対照的に、Fab、Fv、ScFvおよびdAb断片は一価であり、1つの抗原結合部位しか持たない。また、やはり当該技術分野に周知であるファージディスプレイ技術を用いて、PODXLに結合する合成抗体も作製してもよい。
【0108】
特定の方法において、抗体はmAb84である。mAb84のVHおよびVL鎖のアミ
ノ酸配列(およびコードポリヌクレオチド配列)が、図14(配列番号4)および15(配列番号5)に示すように決定されてきている。
【0109】
本明細書において、mAb84に対する言及には、配列番号4および6に対する高い配列同一性パーセントを有するVLおよび/またはVH鎖を有する抗体が含まれる。mAb84に対する言及には、配列番号6に対して少なくとも70%の配列同一性を有するVH鎖、より好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の1つの配列同一性を有するVH鎖を有する、PODXL(好ましくはヒトPODXL)に結合する抗体が含まれる。mAb84に対する言及には、配列番号4に対して少なくとも70%の配列同一性を有するVL鎖、より好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の1つの配列同一性を有するVL鎖を有する、PODXL(好ましくはヒトPODXL)に結合する抗体が含まれる。
【0110】
PODXLに対する他のmAbおよびその使用は、本明細書に援用されるWO2007/102787に記載される。
mAb84を用いて、分化後に、そして場合によって分化細胞の機能を試験する動物移植試験前に、残った未分化人工多能性幹細胞を除去してもよい。
【0111】
mAb84(場合によって、WO2007/102787に記載されるような、または図10に示すような、他のmAbと組み合わせて)は、潜在的に、残った未分化hESCまたは未分化人工多能性幹細胞を除去して、したがって再生臨床適用において移植片の成功および安全性を増加させるために、移植前に使用可能である。
【0112】
本出願のPODXL結合部分は、潜在的に、特定の細胞系譜に分化する単数または複数の未分化細胞を特徴付ける抗原のレパートリーを示す生存細胞サブセットを精製するかまたは除去するのに使用可能である。
【0113】
適切な結合部分は、配列番号1〜3、8または9の1つに対して、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%または100%の1つの配列同一性を有するポリペプチドに結合可能である。
【0114】
いくつかの好ましい態様において、結合部分は、検出可能に標識されているか、または少なくとも検出が可能である。例えば、結合部分を放射性原子または着色分子または蛍光分子または任意の他の方式で容易に検出可能な分子で標識してもよい。適切な検出可能分子には、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、酵素基質、および放射標識が含まれる。結合部分を、検出可能標識で直接標識してもよいし、または間接的に標識してもよい。例えば、結合部分は、それ自体が標識されている別の抗体によって検出可能な非標識抗体であってもよい。あるいは、第二の抗体が、結合しているビオチンを有してもよく、そしてビオチンに対する標識ストレプトアビジンの結合を用いて、第一の抗体を間接的に標識する。
【0115】
幹細胞
用語「幹細胞」は、一般的に、分裂に際して、2つの発生オプションに直面する細胞を指す:娘細胞は元来の細胞と同一であってもよいし(自己再生)、またはこれらはより特殊化された細胞タイプの子孫であってもよい(分化)。したがって、幹細胞は、1つまたは別の経路を採用可能である(各細胞タイプを1つ形成可能である、さらなる経路が存在する)。したがって、幹細胞は、最終的に分化しておらず、そして他のタイプの細胞を産生可能な細胞である。
【0116】
本文書において、用語「幹細胞」は、特に、人工多能性幹細胞を指す。
胚性幹細胞
胚性幹(ESC)細胞は、着床が起こる胚発生段階である胚盤胞の内部細胞塊(ICM)から単離可能である。
【0117】
多能性幹細胞
多能性幹細胞は、体内の任意の分化細胞を作製する潜在能力を持つ、真の幹細胞である。しかし、これらは、栄養膜に由来する胚体外膜を作製するのには寄与しえない。いくつかのタイプの多能性幹細胞が見出されてきている。
【0118】
多分化能(multipotent)幹細胞
多分化能幹細胞は、真の幹細胞であるが、限定された数のタイプにしか分化しえない。例えば、骨髄は、血液細胞のすべてを生じさせるが、他のタイプの細胞を生じさせない、多分化能幹細胞を含有する。多分化能幹細胞は、成体動物において見られる。体内のすべての臓器がこうした細胞を含有すると考えられ、これらは死んだ細胞または損傷を受けた細胞を置換しうる。
【0119】
幹細胞を特徴付ける方法が当該技術分野に知られ、そしてこれには、クローンアッセイ、フローサイトメトリー、長期培養、ならびに分子生物学的技術、例えばPCR、RT−PCRおよびサザンブロッティングなどの標準的なアッセイ法の使用が含まれる。
【0120】
成体幹細胞
成体幹細胞は、非常に多様なタイプを含み、ニューロン、皮膚、および骨髄移植における活性構成要素である血液形成幹細胞を含む。
【0121】
これらの後者の幹細胞タイプはまた、臍帯由来幹細胞の主な特徴でもある。成体幹細胞は、実験室内および体内の両方で、機能するより特殊化された細胞タイプに成熟可能であるが、細胞タイプの正確な数は、選択した幹細胞のタイプによって制限される。
【0122】
人工多能性幹細胞
一般的にiPS細胞またはiPSCと略される人工多能性幹細胞は、特定の遺伝子を挿入することによって、非多能性細胞、特に成体体細胞に人工的に由来する多能性幹細胞のタイプである。iPS細胞は、すべて本明細書に援用される、Takahashi, K. & Yamanaka(2006)、Yamanaka Sら(2007)、Wernig Mら(2007)、Maherali Nら(2007)、Yu Jら(2007)およびTakahashiら(2007)に概説され、そして論じられる。
【0123】
iPS細胞は、典型的には、非多能性細胞、例えば成体線維芽細胞内に特定の幹細胞関連遺伝子をトランスフェクションすることによって得られる。トランスフェクションは、典型的には、ウイルスベクターを通じて、例えばレトロウイルス再プログラミングを通じて達成される。トランスフェクション遺伝子には、マスター転写制御因子Oct−3/4(Pouf51)およびSox2が含まれるが、他の遺伝子が誘導効率を増進させると示唆される。3〜4週間後、少数のトランスフェクション細胞が、形態学的におよび生化学的に多能性幹細胞と類似となり始め、そして典型的には、形態学的選択、倍加時間を通じて、またはレポーター遺伝子および抗生物質感染を通じて単離される。
【0124】
IPSCは、1以上の転写因子でのトランスフェクションによって、線維芽細胞などの体細胞から誘導可能である。いくつかの場合、細胞をOct3/4、Sox2、c−MycおよびKlf4で形質転換する。転写因子および/またはマーカー遺伝子を含む他の遺伝子で、細胞をさらにトランスフェクションしてもよい。Cre/loxP組換え系などのトランスポゾン系を用いて、または外因性再プログラミング遺伝子を含まないiPSCを生じるため、非組込みベクターを用いて、遺伝子を導入してもよい。レトロウイルスなどのウイルスベクターを用いて、トランスフェクションを達成してもよい。ウイルスは両種指向性ウイルスであってもよい。細胞がトランスフェクションされたら、細胞をESC培地にトランスファーする前に、フィーダー細胞上で増殖させてもよい。
【0125】
IPSCは、ウサギ、モルモット、ラット、マウスまたは他のげっ歯類、ネコ、イヌ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、非ヒト霊長類または他の非ヒト脊椎動物生物に由来してもよい。好ましい態様において、IPSCは、ヒト細胞に由来する。
【0126】
本発明で有用なiPS細胞は、肺、包皮線維芽細胞、皮膚線維芽細胞、角化細胞、血液前駆体細胞、骨髄細胞、肝細胞、胃上皮細胞、膵臓細胞、神経幹細胞、Bリンパ球、ES由来体細胞および胚性線維芽細胞を含む、任意の適切な細胞タイプに由来してもよい。iPS細胞は、ヒト、マウスまたは他の哺乳動物に由来してもよい。好ましくは、iPS細胞はヒトである。いくつかの場合、細胞はヒト皮膚線維芽細胞でない。IPSCは、ESCに類似の遺伝子発現パターンおよび表現型を示してもよい。本発明において、未分化IPSCは表面上にPODXLを発現する。
【0127】
ESC同様、分化人工多能性幹細胞の将来の療法的適用は、残った未分化IPSCが混
入することによる、奇形腫形成のリスクを負う。この問題にもかかわらず、現在、これらの細胞集団を分離するために開発された戦略はそれほど多くはない。
【0128】
本発明は、特に、細胞表面上にPODXLを発現しているIPSC、すなわちPODXL結合部分に結合するのに利用可能なPODXLを表面上に有するIPSCに関する。本発明はまた、特に、ヒト細胞に由来するIPSCにも関する。
【0129】
幹細胞培養
幹細胞を培養する任意の適切な方法を、本明細書に記載する方法および組成物において用いてもよい。
【0130】
任意の適切な容器を用いて、本明細書に記載する方法および組成物にしたがって、幹細胞を増殖させてもよい。適切な容器には、米国特許公報US2007/0264713(Terstegge)に記載されるものが含まれる。
【0131】
容器には、例えば、バイオリアクターおよびスピナーが含まれてもよい。本文書で用いる際、用語「バイオリアクター」は、真核細胞、例えば動物細胞または哺乳動物細胞を、例えば大規模に培養するのに適した容器である。制御バイオリアクターの典型的な培養体積は、20ml〜500mlの間である。
【0132】
バイオリアクターは、1以上の条件、例えば酸素分圧を調節または監視可能な制御バイオリアクターを含んでもよい。これらの条件を測定しそして制御するためのデバイスが当該技術分野に知られる。例えば、酸素分圧に関して、酸素電極を用いてもよい。選択するガス混合物(例えば空気、あるいは空気および/または酸素および/または窒素および/または二酸化炭素の混合物)の量および組成を通じて、酸素分圧を制御してもよい。酸素分圧を測定しそして制御するのに適したデバイスは、Bailey, J E.(Bailey, J E., Biochemical Engineering Fundamentals, 第2版, McGraw−Hill, Inc. ISBN 0−07−003212−2 Higher Education, (1986))またはJackson A T. Jackson A T., Verfahrenstechnik in der Biotechnologie, Springer, ISBN 3540561900(1993))に記載される。
【0133】
他の適切な容器にはスピナーが含まれる。スピナーは、ガラスボール攪拌装置、羽根車攪拌装置、および他の適切な攪拌装置などの多様な攪拌機構を用いて攪拌可能な、制御または非制御バイオリアクターである。スピナーの培養体積は、典型的には20ml〜500mlの間である。回転ボトルは、400〜2000cm2の間の培養面積を有するプラスチックまたはガラス製の丸い細胞培養フラスコである。これらのフラスコの全内表面に沿って、細胞を培養する;細胞は培地で覆われ、これは「回転」運動によって達成され、すなわちボトルをそれ自体の個々の軸の周りに回転させる。
【0134】
あるいは、培養は静的であってもよく、すなわち培養/培地の能動的な攪拌を使用しなくてもよい。培養の攪拌を減少させることによって、細胞凝集塊の形成が可能になりうる。何らかの攪拌を使用して、培養細胞上への培地の分布および流動を促してもよいが、凝集塊形成を実質的に妨害しないようにこの攪拌を適用してもよい。例えば、低いrpm、例えば30rpm未満または20rpm未満の攪拌を使用してもよい。
【0135】
継代による増殖
本明細書に記載する方法および組成物は、培養中の継代または分割を含んでもよい。該方法は、連続的なまたは頻繁な継代を伴ってもよい。
【0136】
「頻繁な」または「連続的な」によって、本発明者らは、本発明者らの方法が、幹細胞が継代される、例えば増殖中のプレートまたはマイクロキャリアーから剥がされ、そして他のプレート、マイクロキャリアーまたは粒子にトランスファーされるのを可能にする方式で該細胞の増殖を可能にすることを意味し、そしてこのプロセスを少なくとも1回、例えば2回、3回、4回、5回等、反復してもよいことを意味する。いくつかの場合、これを任意の回数、例えば不確定にまたは無限に反復してもよい。
【0137】
培養中の細胞を、支持体またはフラスコから解離させ、そして組織培地内に希釈しそして再プレーティングすることによって、「分割する」か、継代培養するか、または継代し
てもよい。
【0138】
粒子上で増殖している細胞を、粒子培養に継代し直してもよい。あるいは、これらを慣用的な(2D)培養に継代し直してもよい。プレート上で増殖している組織培養細胞を粒子培養に継代し直してもよい。
【0139】
用語「継代」は、一般的に、細胞培養のアリコットを取り、細胞を完全にまたは部分的に解離させ、希釈し、そして培地に接種するプロセスを指してもよい。継代を1回以上反復してもよい。アリコットは、細胞培養のすべてまたは一部を含んでもよい。アリコットの細胞は、完全に集密、部分的に集密、または集密でなくてもよい。継代は、工程の以下の順列の少なくともいくつかを含んでもよい:吸引、リンス、トリプシン処理、インキュベーション、除去、急冷(quenching)、再植え付けおよびアリコット。カリフォルニア大学サンディエゴ校のHedrick研究室によって公表されたプロトコルを用いてもよい(http://hedricklab.ucsd.edu/Protocol/COSCell.html)。
【0140】
当該技術分野に知られる機械的または酵素的手段などの任意の適切な手段によって、細胞を解離させてもよい。機械的解離によって、例えば細胞スクレーパーまたはピペットを用いて、細胞を破壊してもよい。100ミクロンまたは500ミクロン篩を通じるなど、適切な篩サイズを通じて篩にかけることによって、細胞を解離させてもよい。酵素的解離によって、例えばコラゲナーゼまたはtrypLEでの処理によって採取し、分割してもよい。解離は完全であってもまたは部分的であってもよい。
【0141】
希釈は任意の適切な希釈であってもよい。細胞培養中の細胞を任意の適切な比で分割してもよい。例えば、細胞を1:2以上、1:3以上、1:4以上または1:5以上の比で分割してもよい。したがって、幹細胞を1継代以上、継代してもよい。例えば、幹細胞を2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25継代以上、継代してもよい。継代を細胞増殖の世代として表してもよい。本発明者らの方法および組成物は、幹細胞が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25世代以上、増殖することを可能にする。
【0142】
また、継代を細胞倍加の回数として表してもよい。本発明者らの方法および組成物は、幹細胞が、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25細胞倍加以上、増殖することを可能にする。
【0143】
幹細胞特性の維持
増殖した幹細胞は、霊長類またはヒト幹細胞の少なくとも1つの特性を維持しうる。幹細胞は、1回以上の継代後、該特性を維持しうる。幹細胞は、複数回の継代後、その特性を維持しうる。幹細胞は、上述のような言及する回数の継代後、該特性を維持しうる。
【0144】
特性は、形態学的特性、免疫組織化学的特性、分子生物学的特性等を含んでもよい。特性は、生物学的活性を含んでもよい。
幹細胞特性
本発明者らの方法によって増殖する幹細胞は、以下の幹細胞特性のいずれを示してもよい。
【0145】
幹細胞は、Oct4および/またはSSEA−1および/またはTRA−1−60の発現増加を示しうる。自己再生性である幹細胞は、自己再生性でない幹細胞に比較して短い細胞周期を示しうる。
【0146】
幹細胞は定義される形態を示しうる。例えば、標準的顕微鏡画像の二次元において、ヒト胚性幹細胞は、画像平面における高い核/細胞質比、顕著な仁、および細胞接合がほとんど認識不能な緊密なコロニー形成を示す。
【0147】
幹細胞はまた、以下にさらに詳細に記載するような、発現細胞マーカーによっても特徴付け可能である。
多能性マーカーの発現
維持される生物学的活性は、1以上の多能性マーカーの発現を含んでもよい。
【0148】
ステージ特異的胎児抗原(SSEA)は、特定の胚性細胞タイプに特徴的である。SSEAマーカーに対する抗体は、Developmental Studies Hybridoma Bank(メリーランド州ベセスダ)より入手可能である。他の有用なマーカーは、Tra−1−60およびTra−1−81と称される抗体を用いて検出可能である(Andrewsら, Cell Lines from Human Germ Cell Tumors, E. J. Robertson, 1987, 上記中)。ヒト胚性幹細胞は、典型的には、SSEA−1陰性およびSSEA−4陽性である。hEG細胞は、典型的には、SSEA−1陽性である。霊長類多能性幹細胞(pPS)細胞のin vitroでの分化は、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81発現の喪失、およびSSEA−1発現増加を生じる。pPS細胞はまた、アルカリホスファターゼ活性の存在によっても特徴付け可能であり、これは、4%パラホルムアルデヒドで細胞を固定し、そして次いで、製造者によって記載されるように、基質としてVector Redで現像することによって検出可能である(Vector Laboratories、カリフォルニア州バーリンゲーム)。
【0149】
胚性幹細胞はまた、典型的には、テロメラーゼ陽性およびOCT−4陽性である。テロメラーゼ活性は、商業的に入手可能なキット(TRAPeze.RTM. XKテロメラーゼ検出キット、カタログ番号s7707; Intergen Co.、ニューヨーク州パーチェス;またはTeloTAGGG.TM.テロメラーゼPCR ELISAプラス、カタログ番号2,013,89; Roche Diagnostics, インディアナポリス)を用い、TRAP活性アッセイ(Kimら, Science 266:2011, 1997)を用いて決定可能である。また、RT−PCRによって、mRNAレベルでhTERT発現を評価してもよい。LightCycler TeloTAGGGTM hTERT定量化キット(カタログ番号3,012,344; Roche Diagnostics)が、研究目的のため、商業的に入手可能である。
【0150】
FOXD3、PODXL、アルカリホスファターゼ、OCT−4、SSEA−4、TRA−1−60およびMab84等を含む、これらの多能性マーカーの任意の1以上が、増殖幹細胞によって保持されうる。
【0151】
マーカーの検出は、当該技術分野に知られる任意の手段を通じて、例えば免疫学的に達成可能である。組織化学染色、フローサイトメトリー(FACS)、ウェスタンブロット、酵素連結イムノアッセイ(ELISA)等が使用可能である。
【0152】
フロー免疫細胞化学を用いて、細胞表面マーカーを検出してもよい。細胞内または細胞表面マーカーに関して、免疫組織化学(例えば固定細胞または組織切片の)を用いてもよい。細胞抽出物に対してウェスタンブロット分析を行ってもよい。細胞抽出物または培地内に分泌される産物に関して、酵素連結イムノアッセイを用いてもよい。
【0153】
この目的のため、商業的供給源から入手可能であるような、多能性マーカーに対する抗体を用いてもよい。
ステージ特異的胎児抗原1および4(SSEA−1およびSSEA−4)ならびに腫瘍拒絶抗原1−60および1−81(TRA−1−60、TRA−1−81)を含む幹細胞マーカーの同定のための抗体は、例えばChemicon International, Inc(米国カリフォルニア州テメキュラ)より得られうる。モノクローナル抗体を用いたこれらの抗原の免疫学的検出は、多能性幹細胞を特徴付けるために広く用いられてきている(Shamblott M.J.ら(1998) PNAS 95:13726−13731; Schuldiner M.ら(2000). PNAS 97:11307−11312; Thomson J.A.ら(1998). Science 282:1145−1147; Reubinoff B.E.ら(2000). Nature Biotechnology 18:399−404; Henderson
J.K.ら(2002). Stem Cells 20:329−337; Pera M.ら(2000). J. Cell Science 113:5−10.)。
【0154】
組織特異的遺伝子産物の発現はまた、ノーザンブロット分析、ドットブロット分析によって、あるいは標準的増幅法において配列特異的プライマーを用いた逆転写酵素ポリメラ
ーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって、mRNAレベルで検出可能である。本開示に列挙する特定のマーカーに関する配列データは、GenBank(URL www.ncbi.nlm.nih.qov:80/entrez)などの公的データベースから得られうる。さらなる詳細に関しては、米国特許第5,843,780号を参照されたい。
【0155】
実質的にすべての増殖細胞、またはそのかなりの部分が、マーカー(単数または複数)を発現しうる。例えば、単数または複数のマーカーを発現する細胞の割合は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または実質的に100%でありうる。
【0156】
細胞生存度
生物学的活性は、言及する回数の継代後の細胞生存度を含んでもよい。細胞生存度は、例えばトリパンブルー排除によるなど、多様な方式でアッセイされうる。生存染色のプロトコルは以下の通りである。適切な試験管に、適切な体積の細胞懸濁物(20〜200μL)および等体積の0.4%トリパンブルーを入れ、そして穏やかに混合し、室温で5分間放置する。10μlの染色細胞を血球計数板に入れ、そして生存(未染色)および死亡(染色)細胞の数を計数する。各象限の未染色細胞の平均数を計算し、そして2x104を乗じて、細胞/mlを見出す。生存細胞の割合は、生存細胞数を死亡細胞および生存細胞の数で割ったものである。
【0157】
細胞生存度は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または実質的に100%でありうる。
【0158】
核型
増殖幹細胞は、増殖中または増殖後、正常な核型を保持しうる。「正常な」核型は、幹細胞が由来する親幹細胞の核型と同一であるか、類似であるかまたは実質的に類似である核型、あるいは親幹細胞と異なるが、いかなる実質的な方式でも異ならないものである。例えば、転位、染色体の喪失、欠失等のいかなる全体的な異常もあってはならない。
【0159】
核型は、いくつかの方法によって、例えば光学顕微鏡法のもとで視覚的に評価可能である。核型は、McWhirら(2006)、Hewittら(2007)、ならびにGallimoreおよびRichardson(1973)に記載されるように、調製および分析可能である。また、標準的なGバンド形成技術(カリフォルニア州オークランドのCytogenetics Labなどの、ルーチンの核型決定サービスを提供する多くの臨床診断実験室で利用可能)を用いて細胞の核型を決定し、そして公表される幹細胞核型と比較してもよい。
【0160】
増殖細胞のすべてまたはかなりの部分が正常な核型を保持しうる。この比率は、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または実質的に100%でありうる。
【0161】
多能性
増殖幹細胞は、3つの細胞系譜すべて、すなわち内胚葉、外胚葉および中胚葉に分化する能力を保持しうる。幹細胞を誘導して、これらの細胞系譜の各々に分化させる方法が当該技術分野に知られ、そしてこれを用いて、増殖幹細胞の能力をアッセイしてもよい。増殖細胞のすべてのまたはかなりの部分がこの能力を保持しうる。これは、増殖幹細胞の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または実質的に100%でありうる。
【0162】
生成される幹細胞の多能性は、適切なアッセイの使用によって決定可能である。こうしたアッセイは、多能性の1以上のマーカー、例えばSSEA−1抗原、アルカリホスファターゼ活性、Oct−4遺伝子および/またはタンパク質発現を検出する工程を含んでもよいし、SCIDマウスにおける奇形腫形成または胚様体形成の度合いを観察することによってもよい。Oct−4、SSEA−4、Tra−1−60、Tra−1−81、SOX−2およびGCTM−2などの1以上のマーカーの発現によって、hESCの多能性を定義してもよい。
【0163】
共培養およびフィーダー
方法は、共培養の存在下または非存在下で、幹細胞を培養する工程を含んでもよい。用語「共培養」は、一緒に増殖する2以上の異なる種類の細胞混合物、例えば間質フィーダー細胞の混合物を指す。2以上の異なる種類の細胞を、同じ表面上で、例えば粒子または細胞容器表面上で、または異なる表面上で、増殖させてもよい。異なる種類の細胞を異なる粒子上で増殖させてもよい。
【0164】
本文書で用いる場合、用語、フィーダー細胞は、異なるタイプの細胞の培養のために用いられるかまたは必要とされる細胞を意味する。幹細胞培養の状況において、フィーダー細胞は、生存、増殖、および細胞多能性の維持を確実にする機能を有する。細胞多能性は、フィーダー細胞を直接共培養することによって達成されうる。あるいは、またはさらに、フィーダー細胞を培地中で培養して、培地を馴化させてもよい。馴化培地を用いて、幹細胞を培養してもよい。
【0165】
培養ディッシュなどの容器の内表面を、分裂しないように処理してあるマウス胚性皮膚細胞のフィーダー層でコーティングしてもよい。フィーダー細胞は、ES細胞増殖に必要な栄養分を培地内に放出する。したがって、粒子上で増殖する幹細胞は、こうしたコーティングされた容器中で増殖可能である。
【0166】
フィーダー細胞が存在しないか、または必要とされない設定もまた可能である。例えば、フィーダー細胞または幹細胞によって馴化された培地中で細胞を増殖させてもよい。
培地およびフィーダー細胞
多能性幹細胞を単離しそして増殖させるための培地は、得られる細胞が望ましい特性を有し、そしてさらに増殖可能である限り、いくつかの異なる配合のいずれを有してもよい。
【0167】
適切な供給源は以下の通りである:Dulbeccoの修飾イーグル培地(DMEM)、Gibco#11965−092;ノックアウトDulbeccoの修飾イーグル培地(KO DMEM)、Gibco#10829−018; 200mM L−グルタミン、Gibco#15039−027;非必須アミノ酸溶液、Gibco 11140−050;ベータ−メルカプトエタノール、Sigma#M7522;ヒト組換え塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、Gibco#13256−029。例示的な血清含有胚性幹(ES)培地は、80% DMEM(典型的にはKO DMEM)、熱不活化されていない20%定義ウシ胎児血清(FBS)、0.1mM非必須アミノ酸、1mM L−グルタミン、および0.1mMベータ−メルカプトエタノールで作製される。培地をろ過し、そして4℃で2週間以内、保存する。血清不含胚性幹(ES)培地は、80% KO DMEM、20%血清代用品(replacement)、0.1mM非必須アミノ酸、1mM L−グルタミン、および0.1mMベータ−メルカプトエタノールで作製される。有効な血清代用品は、Gibco#10828−028である。培地をろ過し、そして4℃で2週間以内、保存する。使用直前、ヒトbFGFを最終濃度4ng/mLまで添加する(Bodnarら、Geron Corp、国際特許公報WO 99/20741)。
【0168】
培地は、10%血清置換培地(Invitrogen−Gibco、ニューヨーク州グランドアイランド)、5ng/ml FGF2(Invitrogen−Gibco、ニューヨーク州グランドアイランド)および5ng/ml PDGF AB(Peprotech、ニュージャージー州ロッキーヒル)を補充したノックアウトDMEM培地(Invitrogen−Gibco、ニューヨーク州グランドアイランド)を含んでもよい。
【0169】
フィーダー細胞(用いる場合)は、90% DMEM(Gibco#11965−092)、10% FBS(Hyclone#30071−03)、および2mMグルタミンを含有するmEF培地中で増殖可能である。mEFをT150フラスコ(Corning#430825)中で増殖させ、トリプシンを用いて、1日おきに1:2で細胞を分割し、細胞を集密以下に維持する。フィーダー細胞層を調製するため、増殖を阻害するが、ヒト胚性幹細胞を支持する、重要な因子の合成を可能にする線量(約4000radガンマ照射)で、細胞を照射する。6ウェル培養プレート(Falcon#304など)を、ウェルあたり1mLの0.5%ゼラチンと、37℃で一晩インキュベーションすることによってコーティングし、そしてウェルあたり375,000の照射mEFをプレーティング
する。フィーダー細胞層は、典型的には、プレーティング5時間後〜4日後に用いられる。
【0170】
他の幹細胞を培養するための条件が知られ、そして細胞タイプに応じて、適切に最適化可能である。先のセクションに言及される特定の細胞タイプのための培地および培養技術は、引用する参考文献中に提供される。
【0171】
血清不含培地
本明細書に記載する方法および組成物には、血清不含培地中の幹細胞の培養が含まれてもよい。
【0172】
用語「血清不含培地」は、血清タンパク質、例えばウシ胎児血清を含まない細胞培地を含んでもよい。血清不含培地は、当該技術分野に知られ、そして例えば、米国特許5,631,159および5,661,034に記載される。血清不含培地は、例えば、Gibco−BRL(Invitrogen)から商業的に入手可能である。
【0173】
血清不含培地は、タンパク質、加水分解物、および未知の組成の構成要素を欠いていてもよいという点で、タンパク質不含であってもよい。血清不含培地は、すべての構成要素が既知の化学構造を有する、化学的に定義された培地を含んでもよい。化学的に定義される血清不含培地は、変動を排除し、そして改善された再現性およびより一貫した性能を可能にし、そして不定の剤による混入の可能性を減少させる、完全に定義された系を提供するため、好適である。
【0174】
血清不含培地は、ノックアウトDMEM培地(Invitrogen−Gibco、ニューヨーク州グランドアイランド)を含んでもよい。
血清不含培地に、例えば5%、10%、15%等の濃度で、血清置換培地などの1以上の構成要素を補充してもよい。血清不含培地に、Invitrogen−Gibco(ニューヨーク州グランドアイランド)の血清置換培地を10%補充してもよい。
【0175】
解離または脱凝集された胚性幹細胞を培養する血清不含培地は、1以上の増殖因子を含んでもよい。FGF2、IGF−2、ノギン、アクチビンA、TGFベータ1、HRG1ベータ、LIF、S1P、PDGF、BAFF、April、SCF、Flt−3リガンド、Wnt3Aおよびその他を含む、いくつかの増殖因子が当該技術分野に知られる。増殖因子(単数または複数)を、1pg/ml〜500ng/mlの間などの任意の適切な濃度で用いてもよい。
【0176】
培地補充物
培地に1以上の添加物を補充してもよい。例えばこれらは:脂質混合物、ウシ血清アルブミン(例えば0.1% BSA)、大豆タンパク質の加水分解物の1以上から選択可能である。
【0177】
人工多能性幹細胞の供給源
現在、胚の破壊につながらない、例えば成体体細胞または生殖細胞の形質転換(誘導)による、多能性幹細胞の単離のためのいくつかの方法が提供されてきている。これらの方法には、以下が含まれる:
1.核トランスファーによる再プログラミング。この技術は、体細胞から卵母細胞または接合子内への核のトランスファーを伴う。いくつかの状況において、これは、動物−ヒト・ハイブリッド細胞の生成を導きうる。例えば、ヒト体細胞と動物卵母細胞または接合子の融合、あるいはヒト卵母細胞または接合子と動物体細胞の融合によって、細胞を生成することも可能である。
【0178】
2.胚性幹細胞との融合による再プログラミング。この技術は、体細胞と胚性幹細胞の融合を伴う。この技術はまた、上記1におけるように、動物−ヒト・ハイブリッド細胞の生成を導きうる。
【0179】
3.培養による自発的再プログラミング。この技術は、長期培養後の非多能性細胞からの多能性細胞の生成を伴う。例えば、始原生殖細胞(PGC)の長期培養によって、多能性胚性生殖(EG)細胞が生成されてきている(本明細書に援用される、Matsuiら, Derivation of pluripotential embryonic
stem cells from murine primordial germ
cells in culture. Cell 70, 841−847, 1992)。骨髄由来細胞の長期培養後の多能性幹細胞の発生もまた報告されてきている(本明細書に援用される、Jiangら, Pluripotency of mesenchymal stem cells derived from adult marrow. Nature 418, 41−49, 2002)。Jiangらは、これらの細胞を多分化能成体前駆細胞(MAPC)と称した。Shinoharaらもまた、新生マウス精巣由来の生殖系列幹(GS)細胞の培養経過中に多能性幹細胞が生成可能であることを示し、これを多分化能生殖系列幹(mGS)細胞と称した(Kanatsu−Shinoharaら, Generation of pluripotent stem cells from neonatal mouse testis. Cell 119, 1001−1012, 2004)。
【0180】
4.定義される因子による再プログラミング。例えば、レトロウイルスが仲介する、例えば上述のようなマウス胚性または成体線維芽細胞内への転写因子(例えばOct−3/4、Sox2、c−Myc、およびKLF4)の導入による、iPS細胞の生成。Kajiら(Virus−free induction of pluripotency and subsequent excision of reprogramming
factors. Nature. Online publication 1 March 2009)はまた、2Aペプチドと連結されたc−Myc、Klf4、Oct4およびSox2のコード配列を含む、単一多タンパク質発現ベクターの非ウイルストランスフェクションを記載し、これは、マウスおよびヒト線維芽細胞をどちらも再プログラミング可能であった。この非ウイルスベクターで産生されたiPS細胞は、多能性マーカーの頑強な発現を示し、再プログラミング状態が、in vitro分化アッセイおよび成体キメラマウスの形成によって、機能的に確認されることを示した。Kajiらは、胚性線維芽細胞から、多能性マーカーを頑強に発現する再プログラミングヒト細胞株を確立するのに成功した。
【0181】
方法1〜4は、本明細書に援用される、山中伸弥による、Strategies and New Developments in the Generation of Patient−Specific Pluripotent Stem Cells(Cell Stem Cell 1, July 2007a2007 Elsevier Inc)に記載され、そして論じられる。
【0182】
5.単一卵割球または生検卵割球由来のhESC株の誘導。すべて本明細書に援用される、Klimanskaya I, Chung Y, Becker S, Lu SJ, Lanza R. Human embryonic stem cell lines derived from single blastomeres. Nature 2006; 444:512、Leiら Xeno−free derivation and culture of human embryonic stem cells: current status, problems and challenges. Cell Research(2007)17:682−688、Chung Y, Klimanskaya I, Becker Sら Embryonic and extraembryonic stem cell lines derived from single mouse blastomeres. Nature. 2006;439:216−219. Klimanskaya I, Chung Y, Becker Sら Human embryonic stem cell lines derived from single blastomeres.
Nature. 2006;444:481−485. Chung Y, Klimanskaya I, Becker Sら Human embryonic stem cell lines generated without embryo destruction. Cell Stem Cell. 2008;2:113−117およびDusko Ilicら(Derivation of human embryonic stem cell lines from biopsied blas
tomeres on human feeders with a minimal exposure to xenomaterials. Stem Cells And Development−公表前の論文)を参照されたい。
【0183】
6. in vitroで、卵割を停止し、そして桑実胚および胚盤胞まで発生するのに失敗した停止胚から得られるhESC株。どちらも本明細書に援用される、Zhang
X, Stojkovic P, Przyborski Sら Derivation of human embryonic stem cells from developing and arrested embryos. Stem Cells
2006;24:2669−2676およびLeiら Xeno−free derivation and culture of human embryonic stem cells: current status, problems and challenges. Cell Research(2007)17:682−688を参照されたい。
【0184】
7.単為生殖。この技術は、未受精卵を化学的または電気的に刺激して、胚性幹細胞を得られうる桑実胚に発生させる工程を伴う。例えば、幹細胞を産生するために未受精中期II卵母細胞の化学的活性化を使用した、Linら Multilineage potential of homozygous stem cells derived from metaphase II oocytes. Stem Cells. 2003;21(2):152−61を参照されたい。
【0185】
8.胎児起源の幹細胞。これらの細胞は、多能性の観点からは胚性および成体幹細胞の間に位置し、そしてこれを用いて、多能性または多分化能細胞を得ることも可能である。多能性マーカー(Nanog、Oct−4、Sox−2、Rex−1、SSEA−3、SSEA−4、Tra−1−60、およびTra−1−81、β−ガラクトシダーゼ染色によって示されるような老化の証拠が最小限であること、およびテロメラーゼ活性の一貫した発現を含む)を発現するヒト臍帯由来胎児間質幹細胞(UC fMSCs)が、Chris H. Joら(本明細書に援用される、Fetal mesenchymal stem cells derived from human umbilical cord sustain primitive characteristics during extensive expansion. Cell Tissue Res(2008)334:423−433)によって成功裡に得られている。Winston Costa Pereiraら(本明細書に援用される、Reproducible
methodology for the isolation of mesenchymal stem cells from human umbilical cord and its potential for cardiomyocyte generation J Tissue Eng Regen Med 2008;2:394−399)は、ヒト臍帯のWhartonゼリーから、間葉幹細胞の純粋な集団を単離した。Whartonゼリー由来の間葉幹細胞はまた、Troyer & Weiss(Concise Review: Wharton’s Jelly−Derived Cells Are a primitive Stromal Cell Population. Stem Cells 2008:26:591−599)にも概説されている。Kimら(本明細書に援用される、Ex vivo characteristics of human amniotic membrane−derived
stem cells. Cloning Stem Cells 2007 Winter;9(4):581−94)は、ヒト羊膜からヒト羊膜由来間葉細胞を単離することに成功した。臍帯は、通常廃棄される組織であり、そしてこの組織由来の幹細胞は、道徳的または倫理的な反対を招かない傾向がある。
【0186】
人工多能性幹細胞は、これらが胚の破壊を引き起こさない方法によって、より具体的には、ヒトまたは哺乳動物胚の破壊を引き起こさない方法によって得られうるという利点を有する。こうしたものとして、こうした細胞が得られうるヒトまたは動物胚の破壊を必然的に伴う方法のみによって調製されたのではない細胞を用いることによって、本発明の側
面を行うかまたは実施してもよい。この場合による限定は、欧州特許庁拡大審判廷の2008年11月25日の決定G0002/06を考慮に入れることが特に意図される。
【0187】
未分化細胞の分化
IPSCを誘導して、多様な異なる細胞タイプに分化させることも可能である。例えばIPSCを誘導して、心臓細胞(心筋細胞)、肝細胞、神経細胞、軟骨(軟骨細胞)、筋肉、脂肪(脂肪細胞)、骨(骨細胞)または他の細胞に分化させることも可能である。IPSCを誘導して、上皮組織、中胚葉、内胚葉、外胚葉または表皮などの組織を形成することも可能である。
【0188】
幹細胞を分化させる方法は当該技術分野に知られ、そして例えば、Itskovitz−Eldor(2000)およびGraichenら(2007)に記載され、そしてIPSCでこれらを用いてもよい。また、胚様体を形成するために培養幹細胞を用いてもよい。胚様体および胚様体を作製するための方法が当該技術分野に知られる。用語「胚様体」は、懸濁中で胚性幹細胞を増殖させることによって産生可能な、培養中に見られる球状コロニーを指す。胚様体は、混合細胞タイプのものであり、そして特定の細胞タイプの分布および出現タイミングは、胚内で観察されるものに対応する。半固形培地などの培地上に胚性幹細胞をプレーティングすることによって、胚様体を生成することも可能である。Limら, Blood. 1997;90:1291−1299に記載されるように、メチルセルロース培地を用いてもよい。
【0189】
例えばItskovitz−Eldor(2000)に記載される方法を用いて、胚性幹細胞を誘導して胚様体を形成してもよい。胚様体は、3つの胚性胚葉すべて(内胚葉、外胚葉、中胚葉)の細胞を含有する。
【0190】
例えば適切な誘導因子または環境変化への曝露によって、胚様体をさらに誘導して、異なる細胞系譜に分化させることも可能である。Graichenら(2007)は、p38MAPキナーゼ経路の操作によって、ヒト胚性幹細胞からの心筋細胞の形成を記載する。Graichenは、10μm未満のSB203580などのp38 MAPキナーゼの特異的阻害剤に曝露することによって、幹細胞から心筋細胞形成が誘導されることを示す。
【0191】
当該技術分野に知られるような、再生療法および細胞移植などの、任意の適切な目的のために、分化細胞を使用してもよい。
療法使用
本発明の方法によって同定されそして/または単離される分化および未分化IPSCは、医学において、例えば細胞療法において、多様な使用を有する。細胞療法は、個々の細胞の集団として、あるいは細胞凝集物または組織の形で、ならびに/あるいは再生療法、例えば組織再生、置換および/または修復のいずれでもよい、細胞の移入または移植を含んでもよい。分化および未分化IPSCをin vitro培養で拡大して、そして患者に直接投与してもよい。外傷後の損傷組織の再増殖および/または修復のために、これらを用いてもよい。
【0192】
IPSCを、再生療法のため直接用いてもよいし、あるいはこれを用いて外胚葉、中胚葉または内胚葉前駆細胞集団を生成してもよい。ex vivo拡大によって前駆細胞を作製してもよいし、または患者に直接投与してもよい。また、外傷後の損傷組織の再増殖および/または修復のために、これらを用いてもよい。
【0193】
したがって、骨髄置換のために造血前駆細胞を用いてもよいし、一方、心臓不全患者のために心臓前駆細胞を用いてもよい。患者のための皮膚移植片を増殖させるために皮膚前駆細胞を使用してもよく、そしてステントまたは人工心臓などの人工装具の内皮化(endothelization)のために内皮前駆細胞を使用してもよい。
【0194】
糖尿病、ハンチントン病、アルツハイマー病およびパーキンソン病などの変性疾患の治療のために、外胚葉、中胚葉または内胚葉前駆細胞の供給源として、IPSCを用いてもよい。癌の免疫療法のために、NKまたは樹状細胞の中胚葉または内胚葉前駆体の供給源として、IPSCを用いてもよい。
【0195】
本明細書記載の方法および組成物は、外胚葉、中胚葉または内胚葉前駆細胞の産生を可
能にし、もちろん、当該技術分野に知られる方法を用いて、これらを最終分化細胞タイプにさらに分化させることも可能である。したがって、供給源である内胚葉、中胚葉または外胚葉前駆細胞(または幹細胞)には、最終分化細胞のいかなる使用も等しく伴うであろう。
【0196】
本明細書記載の方法および組成物によって産生されるIPSC、外胚葉、中胚葉または内胚葉前駆細胞および分化細胞は、疾患の治療のため、または疾患の治療のための薬学的組成物の調製のために使用可能である。こうした疾患は、再生療法によって治療可能な疾患を含んでもよく、心不全、骨髄疾患、皮膚疾患、火傷、糖尿病、アルツハイマー病、パーキンソン病および癌などの変性疾患が含まれる。
【0197】
本明細書記載の方法および組成物にしたがって増殖する幹細胞(および該幹細胞から得られる分化細胞)を、療法、例えば必要がある個々の患者における組織再構成または再生に用いてもよい。細胞が意図される組織部位に移植され、そして機能的に欠陥がある領域を再構成するかまたは再生するのを可能にする方式で、細胞を投与してもよい。
【0198】
増殖幹細胞または該幹細胞から得られる分化細胞を、組織操作のため、例えば皮膚移植片の増殖のため、用いてもよい。人工臓器または組織のバイオエンジニアリングのため、あるいはステントなどの装具のため、これらを用いてもよい。また、その必要があるヒト患者における組織再構成または再生のため、分化細胞を用いてもよい。細胞が意図される組織部位に移植され、そして機能的に欠陥がある領域を再構成するかまたは再生するのを可能にする方式で、細胞を投与してもよい。
【0199】
例えば、本明細書記載の方法および組成物を用いて、幹細胞の分化を調節してもよい。分化細胞を組織操作のため、例えば皮膚移植片の増殖のため、用いてもよい。人工臓器または組織のバイオエンジニアリングのため、あるいはステントなどの装具のため、幹細胞分化の調節を用いてもよい。
【0200】
別の例において、治療中の疾患に応じて、中枢神経系の実質部位またはクモ膜下腔内部位に、神経幹細胞を直接移植する。μLあたり25,000〜500,000細胞の密度で単細胞懸濁物または小凝集塊を用いて、移植を行う(米国特許第5,968,829号)。McDonaldら(Nat. Med. 5:1410, 1999)によって記載されるように、急性脊髄傷害のラットモデルにおいて、神経細胞移植の有効性を評価してもよい。成功した移植は、2〜5週間後に、病変中に移植片由来細胞が存在し、アストロサイト、オリゴデンドロサイトおよび/またはニューロンに分化し、そして病変端から脊髄に沿って移動し、そしてゲート、協調および荷重付加が改善していることを示すであろう。
【0201】
神経系に対する急性または慢性損傷の治療のため、特定の神経前駆細胞を設計する。例えば、癲癇、脳卒中、虚血、ハンチントン病、パーキンソン病およびアルツハイマー病を含む多様な状態において、興奮毒性が関連付けられてきている。本明細書に記載する方法にしたがって作製するような特定の分化細胞はまた、ペリツェウス・メルツバッヘル病、多発性硬化症、白質ジストロフィー、神経炎および神経疾患などのミエリン形成不全障害(dysmyelinating disorders)を治療するのにもまた適切でありうる。これらの目的に適しているのは、再ミエリン形成を促進する、オリゴデンドロサイトまたはオリゴデンドロサイト前駆体が濃縮された細胞培養である。
【0202】
本発明者らの方法を用いて調製した肝細胞および肝細胞前駆体が肝臓損傷を修復する能力に関して、動物モデルにおいて評価してもよい。1つのこうした例は、D−ガラクトサミンの腹腔内注射によって引き起こされる損傷である(Dabevaら, Am. J.
Pathol. 143:1606, 1993)。肝臓細胞マーカーに関する免疫組織化学染色、増殖中の組織において毛細胆管構造が形成されるかどうかの微視的決定、および治療が肝臓特異的タンパク質の合成を回復する能力によって、治療有効性を決定してもよい。直接投与によって、または被験体の肝臓組織が、劇症肝不全後に再生する間、一時的な肝機能を提供する生体補助(bioassist)デバイスの一部として、療法において肝細胞を用いてもよい。
【0203】
例えば、Graichenら(2007)に記載されるような、特異的p38 MAP
キナーゼ阻害剤であるSB203580を用いて、MPAキナーゼ経路を調節することにより、幹細胞の分化を誘導することによって、心筋細胞を調製してもよい。治療を伴わないと左心室壁組織の55%を瘢痕組織にする、心臓凍結傷害(cryoinjury)の動物モデルにおいて、こうした心筋細胞の有効性を評価してもよい(Liら, Ann.
Thorac. Surg. 62:654, 1996; Sakaiら, Ann. Thorac. Surg. 8:2074, 1999、 Sakaiら, J.
Thorac. Cardiovasc. Surg. 118:715, 1999)。治療が成功すると、瘢痕面積が減少し、瘢痕拡大が限定され、そして収縮期圧、拡張期圧、および最大圧によって決定されるように、心臓機能が改善されるであろう。また、左前下行枝の遠位部分において塞栓コイルを用いて、心臓傷害をモデリングしてもよく(Watanabeら, Cell Transplant. 7:239, 1998)、そして組織学および心臓機能によって、治療有効性を評価してもよい。療法において、心筋細胞調製物を用いて、心筋を再生し、そして不十分な心臓機能を治療してもよい(米国特許第5,919,449号およびWO 99/03973)。
【0204】
IPSCが多様な細胞タイプに分化するように導き、そして置換細胞および組織の再生可能供給源が、ある範囲の疾患および障害を治療する可能性を提供することも可能である。これらの疾患および障害には、ハンチントン病、パーキンソン病、アルツハイマー病、脊髄傷害、骨傷害(例えば骨折)、脳卒中、火傷、心臓疾患、糖尿病、骨関節炎、および関節リウマチが含まれる。移植可能組織および臓器を必要とする疾患および障害が治療可能であり、そして特に例えば奇形腫の形成を防止するために、移植前に未分化細胞を破壊することが有用である場合にあてはまる。
【0205】
本発明は、本発明の方法のいずれかによって単離された未分化人工多能性幹細胞および分化人工多能性幹細胞を含んでもよい、薬剤および薬学的組成物を提供する。該薬剤および薬学的組成物は、上述のような医学的治療法で使用するため、提供可能である。適切な薬学的組成物は、薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤をさらに含んでもよい。
【0206】
したがって、本発明はまた、本発明の方法を用いて、未分化IPSCを破壊するように処理されている細胞を含む、薬学的組成物および薬剤も提供する。
PODXLの細胞表面発現を通じて、未分化人工多能性幹細胞を同定し、そして選択する能力によって、未分化人工多能性幹細胞を含有し、そして分化人工多能性幹細胞を実質的に含有しないか、あるいは分化人工多能性幹細胞を含有し、そして未分化人工多能性幹細胞を実質的に含有しない、組成物および薬剤の提供が可能になる。用語「実質的に含まない」には、明記する細胞の数が、組成物中の細胞総数の約10%未満である組成物が含まれる。より好ましくは、これは約9%未満、約8%未満、約7%未満、約6%未満、約5%未満、約4%未満、約3%未満、約2%未満、または約1%未満である。いくつかの態様において、明記する細胞は存在しないか、または検出限界を超えるような十分に低い量でしか存在しなくてもよく、すなわち組成物は、明記する細胞を実質的に0パーセント有する。
【0207】
本発明記載の方法によって単離される分化および未分化人工多能性幹細胞を、医学的治療法において用いてもよい。医学的治療法は、治療の必要がある個体に、療法的に有効な量の前記薬剤または薬学的組成物を投与する工程を含んでもよい。
【0208】
本発明にしたがった方法および技術を通じて得られる分化および未分化人工多能性幹細胞を用いて、医学的治療法で使用するための別の細胞タイプに分化させてもよい。したがって、分化した細胞タイプは、記載する方法および技術によって得られ、続いて分化することが可能にされた幹細胞に由来してもよいし、そしてその産物と見なされてもよい。場合によって、薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤とともに、こうした分化細胞を含む薬学的組成物を提供してもよい。こうした薬学的組成物は、医学的治療法において有用でありうる。
【0209】
治療しようとする被験体は、任意の動物またはヒトであってもよい。被験体は、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。被験体は男性(雄)または女性(雌)であっ
てもよい。被験体は患者であってもよい。療法的使用は、ヒトまたは動物(獣医学的使用)におけるものであってもよい。
【0210】
本発明の側面にしたがった薬剤および薬学的組成物を、限定されるわけではないが、非経口、静脈内、動脈内、筋内、腫瘍内、経口および鼻を含む、いくつかの経路による投与のために配合してもよい。薬剤および組成物を注射用に配合してもよい。
【0211】
投与は、好ましくは、「療法的に有効な量」であり、これは、個体に対して利益を示すのに十分な量である。投与する実際の量、ならびに投与の速度および時間経過は、治療される疾患の性質および重症度に応じるであろう。治療の指示、例えば投薬量に関する決定等は、開業医および他の医師の責任の範囲内であり、そして典型的には、治療される障害、個々の患者の状態、送達部位、投与法、および医師に知られる他の要因が考慮されるであろう。上述の技術およびプロトコルの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 第20版, 2000, Lippincott, Williams & Wilkins刊行に見出されうる。
【0212】
薬学的に有用な組成物および薬剤の配合
本発明にしたがって、こうして同定される単数または複数の細胞に基づいてもよい、薬学的に有用な組成物を産生するための方法もまた提供する。本明細書に記載する方法の工程に加えて、こうした産生法は:
(a)単数または複数の未分化または分化人工多能性幹細胞を同定する工程;
(b)単数または複数の未分化または分化人工多能性幹細胞を単離しそして/または得る工程;
(c)単数または複数の未分化または分化人工多能性幹細胞と、薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤を混合する工程
より選択される1以上の工程をさらに含んでもよい。
【0213】
工程(c)は、好ましくは、療法的使用に適した薬学的組成物または薬剤の配合/調製を生じる。
配列同一性
配列同一性パーセント(%)は、配列を整列させ、そして最大配列同一性を達成するために、必要であればギャップを導入した後、そしていかなる保存的置換も配列同一性の一部と見なさずに、所定の列挙する配列(配列番号によって言及する)中の残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基の割合と定義される。配列同一性は、好ましくは、各配列の全長に渡って計算される。
【0214】
整列させる配列が異なる長さである場合、より短い比較配列の配列同一性を、より長い所定の配列の全長に渡って決定してもよいし、または比較配列が所定の配列より長い場合、比較配列の配列同一性を、より短い所定の配列の全長に渡って決定してもよい。
【0215】
アミノ酸配列同一性パーセントを決定する目的のための整列を、当業者に知られる多様な方式で達成してもよく、例えば公的に入手可能なコンピュータソフトウェア、例えばClustalW 1.82. T−coffeeまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアを用いてもよい。こうしたソフトウェアを用いる場合、好ましくは、デフォルトパラメーター、例えばギャップペナルティおよび伸長ペナルティに関するものを用いる。ClustalW 1.82のデフォルトパラメーターは:タンパク質ギャップ・オープンペナルティ=10.0、タンパク質ギャップ伸長ペナルティ=0.2、タンパク質マトリックス=Gonnet、タンパク質/DNA ENDGAP=−1、タンパク質/DNA GAPDIST=4である。
【0216】
本発明には、記載する側面および好ましい特徴の組み合わせが含まれるが、こうした組み合わせが明らかに許容されえないかまたは明らかに回避される場合を除く。
本明細書に用いるセクション見出しは、構成上の目的のみのためであり、そして記載する主題を限定するとは意図されないものとする。
【0217】
例えば、付随する図に言及して、本発明の側面および態様がここで例示される。さらなる側面および態様が当業者には明らかであろう。本明細書に言及するすべての文書は、本明細書に援用される。
【0218】
発明の詳細な説明
例として、本発明を実施するために本発明者らに意図される最適な様式の特定の詳細を含めて、本発明の1以上の態様の詳細を、以下の付随する説明に示す。当業者には、これらの特定の詳細に限定されることなく、本発明を実施可能であることが明らかであろう。
【0219】
hESC同様、分化人工多能性幹細胞の将来の療法的適用は、残ったIPSCが混入することによって、奇形腫形成のリスクを負う。こうした問題にも関わらず、現在、これらの細胞集団を分離するように開発された戦略はそれほど多くはない。mAbは、抗原上の単一エピトープを特異的にターゲティングする抗体の均質な集団である。したがって、本出願のmAbは、潜在的に、特定の細胞系譜に分化する単数または複数の未分化細胞を特徴付ける抗原のレパートリーを示す生存細胞サブセットを精製するかまたは除去するのに使用可能である。
【0220】
mAb84を用いて、分化後に、そして分化細胞の機能を試験する動物移植試験前に、残った人工多能性幹細胞を除去してもよい。
mAb84(WO2007/102787に記載されるような他のmAbと組み合わせて)は、残ったhESCまたは人工多能性幹細胞を除去して、したがって再生医学適用において移植片の成功および安全性を増加させるために、潜在的に、移植前に使用可能である。
【実施例】
【0221】
実施例1
材料および方法
細胞培養
ヒト胚性幹細胞株HES−3をES Cell Internationalから得た。マウスフィーダー由来の馴化培地、ΔE−MEFを補充したmatrigelコーティング臓器培養ディッシュ上で、37℃/5%CO2で、細胞を培養した(フィーダー不含培養)。hESCを培養するのに用いた培地は、ノックアウト(KO)培地であった。フィーダー不含培養のため、先に記載されるように4、酵素処理後に、hESCを継代した。
【0222】
ヒト人工多能性幹細胞株、ES4SKINおよびESIMR90をウィスコンシン大学から得て、そして先に記載されるように4培養した。ヒト包皮線維芽細胞株、BJ1(CRL−2522)および肺線維芽細胞株、IMR90(CCL−186)をアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから購入し、そして供給者の指示にしたがって培養した。
【0223】
フローサイトメトリー分析
トリプシンを用いて、単細胞懸濁物として細胞を採取し、1%BSA/PBS中、10μl体積あたり2x105細胞に再懸濁し、そして各mAbクローン(200μl 1%BSA/PBS中、5〜10μgの精製mAb)またはTRA−1−60(200μl 1%BSA/PBS中、2.5μg、Chemicon、MAB4360/4381)と45分間インキュベーションした。次いで、細胞を冷たい1%BSA/PBSで洗浄し、そして1:500希釈のFITC−コンジュゲート化ヤギα−マウス抗体(DAKO)と15分間さらにインキュベーションした。インキュベーション後、細胞を再び洗浄し、そしてFACScan(Becton Dickinson FACS Calibur)上で分析するため、1%BSA/PBSおよび1.25mg/mlヨウ化プロピジウム(PI)中に再懸濁した。別に示さない限り、すべてのインキュベーションを4℃で行った。陰性対照として、適切なアイソタイプ対照で細胞を染色した。
【0224】
Oct−4染色のため、単細胞懸濁物を固定し、透過処理し(Caltag Laboratories)、そして1:20希釈のOct−4に対するマウスmAb(Santa Cruz、sc−5279)とインキュベーションした。次いで、細胞を1%BSA/PBSで洗浄し、そして1:500希釈のFITC−コンジュゲート化ヤギα−マウス抗体(DAKO)と15分間さらにインキュベーションした。インキュベーション後、細胞を再び洗浄し、そして分析のため、1%BSA/PBSに再懸濁した。すべてのインキ
ュベーションを室温で15分間行った。陰性対照として、適切なアイソタイプ対照で細胞を染色した。
【0225】
細胞毒性アッセイ
PI排除アッセイおよびフローサイトメトリーを用いて、細胞に対するmAb84の細胞毒性を評価した。上述のように、1%BSA/PBS中、10μl体積あたり2x105細胞の単細胞懸濁物をmAb84(200μl 1%BSA/PBS中、5μgの精製mAb)と45分間インキュベーションした。その後、細胞を洗浄し、そしてFACSによって分析するため、1%BSA/PBSおよび1.25mg/mlヨウ化プロピジウム(PI)中に再懸濁した。陰性対照として、一次抗体を含まずに細胞をインキュベーションした。別に示さない限り、すべてのインキュベーションを4℃で行った。
【0226】
結果
hESC、IPSCおよび線維芽細胞株とのmAbの反応性
最初の例において、多能性マーカーOct−4およびTra−1−60の発現に関してすべての細胞株を試験した(それぞれ、図1aおよびb)。予期されるように、hESCおよびIPSCのみが両方のマーカーを発現する一方、どちらの線維芽細胞株においても、発現は有意に下方制御された。
【0227】
続いて、hESCに対する9つの自社mAbの一団を、5つの細胞株に対する結合に関してスクリーニングした(図2〜6)。hESC同様、9つのmAbすべてが、hESCおよびIPSCに結合することが見出された。ES4SKINおよびESIMR90は、それぞれ、包皮および肺由来の初代線維芽細胞から再プログラミングされているため、これらの初代細胞株をスクリーニングに採用して、「再プログラミングされた」細胞株にのみ結合し、そして親線維芽細胞株に結合しない抗体を同定した。スクリーニング結果に基づけば、mAbクローンのうち7つが、初代線維芽細胞に結合しない。しかし、mAb5およびmAb63に関しては、反応性が観察された。この結果は、hESCでの先の観察と一致する1。この結果によって、これらの2つのmAbクローンに関する抗原ターゲットの発現は、すべてのヒト細胞で保存される可能性もあり、そして特にmAb5に関しては、hESCまたはIPSCに比較して、最終分化線維芽細胞において上方制御されうることが示唆される。
【0228】
細胞毒性抗体mAb84の特徴付け
mAb84がhESCに類似のIPSCを殺すかどうかを調べるため、細胞をmAb84とインキュベーションし、そしてPI排除アッセイを用いて、細胞毒性を評価した。対照に比較して、mAb84(4℃で45分間)とインキュベーションした後に、hESC、ES4SKINおよびESIMR90細胞のそれぞれ2.5、7.6および6.4%が生存したままであることが見出された(図7および8)。対照的に、BJ1およびIMR90線維芽細胞株に関しては、生存度は100%のままであった。mAb84に関する結合および細胞毒性データを総合すると(図6〜9)、mAb84は、hESCおよびIPSCの両方に結合し、そしてこれらを殺すと推測できる。mAb84のこの細胞毒性効果は、該mAbに結合しない細胞(BJ1およびIMR90)に対してmAb84が細胞毒性効果を発揮しないように、細胞株に対するmAbの結合と相関する。
【0229】
参考文献
【0230】
【化1−1】
【0231】
【化1−2】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料において、単数または複数の未分化人工多能性幹細胞を同定する方法であって、表面上にポドカリキシン様タンパク質(PODXL)を発現する、試料内の単数または複数の細胞を同定する工程を含む、前記方法。
【請求項2】
PODXLに結合する結合部分と試料を接触させ、そして結合部分に結合していることによって、前記未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)を同定する、請求項1の方法。
【請求項3】
表面上にPODXLを発現する単数または複数の細胞を単離する工程をさらに含み:
(i)PODXLに結合可能な結合部分と試料を、試料中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして
(ii)結合部分に結合していない細胞から、結合部分に結合している細胞を分離する;工程を含む、請求項1の方法。
【請求項4】
分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞から、未分化人工多能性幹細胞を分離する方法であって、ここで、未分化人工多能性幹細胞、および分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞が、試料中に存在しており:
(i)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と試料を、試料中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして
(ii)結合部分に結合していない細胞から、結合部分に結合している細胞を分離する;工程を含む、前記方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項の方法によって得られる、単数または複数の単離未分化人工多能性幹細胞。
【請求項6】
請求項4の方法によって得られる、単数または複数の単離分化人工多能性幹細胞。
【請求項7】
単数または複数の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料から、こうした細胞を単離する方法であって、表面上にPODXLを発現する、試料内の単数または複数の細胞を単離する工程を含む、前記方法。
【請求項8】
PODXLに結合する結合部分と試料を接触させ、そして結合部分に結合していることによって、前記未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)を試料から単離する、請求項7の方法。
【請求項9】
請求項7または8の方法によって単離される、単数または複数の未分化人工多能性幹細胞。
【請求項10】
未分化人工多能性幹細胞、および分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞を含む混合物から、未分化人工多能性幹細胞を濃縮する方法であって:
(i)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と混合物を、混合物中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして
(ii)未分化人工多能性幹細胞が濃縮された細胞集団を生成するように、結合部分に結合していない細胞から、結合部分に結合している細胞を分離する;
工程を含む、前記方法。
【請求項11】
未分化人工多能性幹細胞、および分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞を含む混合物から、分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞を濃縮する方法であって:
(i)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と混合物を、混合物中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして
(ii)分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞が濃縮された細胞集団を生成するように、結合部分に結合している細胞から、結合部分に結合していない細胞を分離する
工程を含む、前記方法。
【請求項12】
未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含有する組成物であって、表面上にPODXLを発現する未分化人工多能性幹細胞を実質的に含有しない前記組成物を調製する方法であって:
(i)未分化人工多能性幹細胞、および未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含む、細胞集団を提供し;
(ii)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と集団を、試料中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして
(iii)結合部分に結合している細胞から、結合部分に結合していない細胞を分離する;
工程を含む、前記方法。
【請求項13】
結合部分に結合していない分離細胞を、薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤と混合する工程をさらに含む、請求項12の方法。
【請求項14】
表面上にPODXLを発現する未分化人工多能性幹細胞を含有する組成物であって、未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を実質的に含有しない前記組成物を調製する方法であって:
(i)未分化人工多能性幹細胞、および未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含む、細胞集団を提供し;
(ii)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と集団を、試料中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして
(iii)結合部分に結合していない細胞から、結合部分に結合している細胞を分離する;
工程を含む、前記方法。
【請求項15】
結合部分に結合している分離細胞から、結合部分を解離させる工程をさらに含む、請求項14の方法。
【請求項16】
結合部分に結合している分離細胞を、薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤と混合する工程をさらに含む、請求項14または15の方法。
【請求項17】
未分化人工多能性幹細胞に、PODXLに結合可能な結合部分を結合させる方法であって、1以上の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料と、PODXLに結合可能な結合部分を、試料中の細胞表面上に発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させる工程を含む、前記方法。
【請求項18】
単数または複数の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料中のこうした細胞を破壊する方法であって、表面上にPODXLを発現する、試料中の単数または複数の細胞を破壊する工程を含む、前記方法。
【請求項19】
単数または複数の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料中のこうした細胞を除去する方法であって、表面上にPODXLを発現する単数または複数の細胞を試料から除去する工程を含む、前記方法。
【請求項20】
PODXLに結合する結合部分と試料を接触させ、そして結合部分に結合していることによって、前記未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)を試料から除去する、請求項19の方法。
【請求項21】
結合部分が抗体である、請求項2〜4、8、10〜17または20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
抗体がmAb84である、請求項21の方法。
【請求項23】
未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含有する組成物であって、表面上にPODXLを発現する未分化人工多能性幹細胞を実質的に含有しない、前記組成物。
【請求項24】
未分化人工多能性幹細胞を含有する組成物であって、未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を実質的に含有しない、前記組成物。
【請求項25】
未分化人工多能性幹細胞が表面上にPODXLを発現する、請求項24の組成物。
【請求項26】
請求項5、6または9のいずれか一項記載の単数または複数の細胞あるいは請求項23〜25のいずれか一項記載の組成物を、患者に投与する工程を含む、細胞療法が必要な患者を治療する方法。
【請求項27】
細胞療法が必要な患者を治療するための薬剤製造における、請求項5、6または9のいずれか一項記載の単数または複数の細胞あるいは請求項23〜25のいずれか一項記載の組成物の使用。
【請求項28】
細胞療法が必要な患者を治療する際に使用するための、請求項5、6または9のいずれか一項記載の単数または複数の細胞あるいは請求項23〜25のいずれか一項記載の組成物。
【請求項29】
表面上にポドカリキシン様タンパク質(PODXL)を発現している未分化人工多能性幹細胞、および未分化人工多能性幹細胞の表面上に発現されるPODXLに結合している、PODXLに結合可能な結合部分を含む、複合体。
【請求項30】
PODXLに結合する結合部分、および別の人工多能性幹細胞マーカーを検出するさらなる剤を含む部分のキット。
【請求項31】
人工多能性幹細胞を生成し、そして同定する方法であって:
(i)非多能性ドナー細胞を誘導して多能性状態にして、表面上にPODXLを発現する人工多能性幹細胞を生成し;
(ii)該人工多能性幹細胞を、PODXLに結合可能な結合部分と、人工多能性幹細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして(iii)結合部分によって結合された細胞を同定する;
工程を含む、前記方法。
【請求項1】
1つまたは複数の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料において、単数または複数の未分化人工多能性幹細胞を同定する方法であって、表面上にポドカリキシン様タンパク質(PODXL)を発現する、試料内の単数または複数の細胞を同定する工程を含む、前記方法。
【請求項2】
PODXLに結合する結合部分と試料を接触させ、そして結合部分に結合していることによって、前記未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)を同定する、請求項1の方法。
【請求項3】
表面上にPODXLを発現する単数または複数の細胞を単離する工程をさらに含み:
(i)PODXLに結合可能な結合部分と試料を、試料中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして
(ii)結合部分に結合していない細胞から、結合部分に結合している細胞を分離する;工程を含む、請求項1の方法。
【請求項4】
分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞から、未分化人工多能性幹細胞を分離する方法であって、ここで、未分化人工多能性幹細胞、および分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞が、試料中に存在しており:
(i)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と試料を、試料中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして
(ii)結合部分に結合していない細胞から、結合部分に結合している細胞を分離する;工程を含む、前記方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項の方法によって得られる、単数または複数の単離未分化人工多能性幹細胞。
【請求項6】
請求項4の方法によって得られる、単数または複数の単離分化人工多能性幹細胞。
【請求項7】
単数または複数の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料から、こうした細胞を単離する方法であって、表面上にPODXLを発現する、試料内の単数または複数の細胞を単離する工程を含む、前記方法。
【請求項8】
PODXLに結合する結合部分と試料を接触させ、そして結合部分に結合していることによって、前記未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)を試料から単離する、請求項7の方法。
【請求項9】
請求項7または8の方法によって単離される、単数または複数の未分化人工多能性幹細胞。
【請求項10】
未分化人工多能性幹細胞、および分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞を含む混合物から、未分化人工多能性幹細胞を濃縮する方法であって:
(i)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と混合物を、混合物中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして
(ii)未分化人工多能性幹細胞が濃縮された細胞集団を生成するように、結合部分に結合していない細胞から、結合部分に結合している細胞を分離する;
工程を含む、前記方法。
【請求項11】
未分化人工多能性幹細胞、および分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞を含む混合物から、分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞を濃縮する方法であって:
(i)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と混合物を、混合物中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして
(ii)分化を経たかまたは分化を経ている人工多能性幹細胞が濃縮された細胞集団を生成するように、結合部分に結合している細胞から、結合部分に結合していない細胞を分離する
工程を含む、前記方法。
【請求項12】
未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含有する組成物であって、表面上にPODXLを発現する未分化人工多能性幹細胞を実質的に含有しない前記組成物を調製する方法であって:
(i)未分化人工多能性幹細胞、および未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含む、細胞集団を提供し;
(ii)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と集団を、試料中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして
(iii)結合部分に結合している細胞から、結合部分に結合していない細胞を分離する;
工程を含む、前記方法。
【請求項13】
結合部分に結合していない分離細胞を、薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤と混合する工程をさらに含む、請求項12の方法。
【請求項14】
表面上にPODXLを発現する未分化人工多能性幹細胞を含有する組成物であって、未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を実質的に含有しない前記組成物を調製する方法であって:
(i)未分化人工多能性幹細胞、および未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含む、細胞集団を提供し;
(ii)ポドカリキシン様タンパク質(PODXL)に結合可能な結合部分と集団を、試料中の細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして
(iii)結合部分に結合していない細胞から、結合部分に結合している細胞を分離する;
工程を含む、前記方法。
【請求項15】
結合部分に結合している分離細胞から、結合部分を解離させる工程をさらに含む、請求項14の方法。
【請求項16】
結合部分に結合している分離細胞を、薬学的に許容されうるキャリアー、アジュバントまたは希釈剤と混合する工程をさらに含む、請求項14または15の方法。
【請求項17】
未分化人工多能性幹細胞に、PODXLに結合可能な結合部分を結合させる方法であって、1以上の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料と、PODXLに結合可能な結合部分を、試料中の細胞表面上に発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させる工程を含む、前記方法。
【請求項18】
単数または複数の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料中のこうした細胞を破壊する方法であって、表面上にPODXLを発現する、試料中の単数または複数の細胞を破壊する工程を含む、前記方法。
【請求項19】
単数または複数の未分化人工多能性幹細胞を含有する試料中のこうした細胞を除去する方法であって、表面上にPODXLを発現する単数または複数の細胞を試料から除去する工程を含む、前記方法。
【請求項20】
PODXLに結合する結合部分と試料を接触させ、そして結合部分に結合していることによって、前記未分化人工多能性幹細胞(単数または複数)を試料から除去する、請求項19の方法。
【請求項21】
結合部分が抗体である、請求項2〜4、8、10〜17または20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
抗体がmAb84である、請求項21の方法。
【請求項23】
未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を含有する組成物であって、表面上にPODXLを発現する未分化人工多能性幹細胞を実質的に含有しない、前記組成物。
【請求項24】
未分化人工多能性幹細胞を含有する組成物であって、未分化人工多能性幹細胞から分化した細胞を実質的に含有しない、前記組成物。
【請求項25】
未分化人工多能性幹細胞が表面上にPODXLを発現する、請求項24の組成物。
【請求項26】
請求項5、6または9のいずれか一項記載の単数または複数の細胞あるいは請求項23〜25のいずれか一項記載の組成物を、患者に投与する工程を含む、細胞療法が必要な患者を治療する方法。
【請求項27】
細胞療法が必要な患者を治療するための薬剤製造における、請求項5、6または9のいずれか一項記載の単数または複数の細胞あるいは請求項23〜25のいずれか一項記載の組成物の使用。
【請求項28】
細胞療法が必要な患者を治療する際に使用するための、請求項5、6または9のいずれか一項記載の単数または複数の細胞あるいは請求項23〜25のいずれか一項記載の組成物。
【請求項29】
表面上にポドカリキシン様タンパク質(PODXL)を発現している未分化人工多能性幹細胞、および未分化人工多能性幹細胞の表面上に発現されるPODXLに結合している、PODXLに結合可能な結合部分を含む、複合体。
【請求項30】
PODXLに結合する結合部分、および別の人工多能性幹細胞マーカーを検出するさらなる剤を含む部分のキット。
【請求項31】
人工多能性幹細胞を生成し、そして同定する方法であって:
(i)非多能性ドナー細胞を誘導して多能性状態にして、表面上にPODXLを発現する人工多能性幹細胞を生成し;
(ii)該人工多能性幹細胞を、PODXLに結合可能な結合部分と、人工多能性幹細胞表面上で発現されるPODXLへの該部分の結合を可能にする条件下で接触させ;そして(iii)結合部分によって結合された細胞を同定する;
工程を含む、前記方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2012−502653(P2012−502653A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527781(P2011−527781)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際出願番号】PCT/SG2009/000346
【国際公開番号】WO2010/033084
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際出願番号】PCT/SG2009/000346
【国際公開番号】WO2010/033084
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]