説明

人工多能性幹細胞の製造方法

【課題】体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法において、製造される人工多能性幹細胞から分化誘導された体細胞の発癌性を低減することができる方法を提供すること。
【解決手段】下記の工程を含む、体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法。
(a)少なくとも1種類以上の初期化遺伝子を体細胞に導入する工程;及び
(b)体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上を除去し、かつ体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上が除去された細胞を、体細胞に導入された初期化遺伝子が除去されていない細胞から選別する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工多能性幹細胞の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、製造される人工多能性幹細胞から分化誘導された体細胞の発癌性を低減することができる、人工多能性幹細胞の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細(Embryonic Stem cells: ES細胞)は、動物の発生初期段階の胚から作られる 幹細胞株であり、生体外において全ての組織に分化できる多能性を維持しつつ、長期間に 増殖させることができるため、再生医療への応用が期待されている。ES細胞を再生医療に応用するためには、ES細胞をある特定の細胞に分化させる必要があるが、現在、神経細胞、心筋細胞、及び膵臓β細胞などに分化させる方法が開発されつつある。このようにしてES細胞から分化された特定の細胞を生体に移植することによって、再生医療を行うことになる。
【0003】
しかし、ES細胞の移植は、臓器移植と同様に拒絶反応の問題がある。また、ES細胞を樹立するには、受精卵又は胚盤胞までの段階の初期胚が必要となるため、生命の消失という倫理的な問題もある。
【0004】
一方、人工多能性幹細胞(誘導多能性幹細胞)(induced pluripotent stem cell; iPS細胞)とは、体細胞を初期化することによって得られる多能性を有する細胞である。人工多能性幹細胞の作製は、京都大学の山中伸弥教授らのグループ、マサチューセッツ工科大学のルドルフ・ヤニッシュ(Rudolf Jaenisch)らのグループ、ウイスコンシン大学のジェームズ・トムソン(James Thomson)らのグループ、ハーバード大学のコンラッド・ホッケドリンガー(Konrad Hochedlinger)らのグループなどを含む複数のグループが成功している。人工多能性幹細胞は、拒絶反応や倫理的問題のない理想的な多能性細胞として大きな期待を集めている。
【0005】
例えば、国際公開WO2007/069666号公報には、Octファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、及びMycファミリー遺伝子の遺伝子産物を含む体細胞の核初期化因子、並びにOctファミリー遺伝子、Klfファミリー遺伝子、Soxファミリー遺伝子及びMycファミリー遺伝子の遺伝子産物を含む体細胞の核初期化因子が記載されており、さらに体細胞に上記核初期化因子を接触させる工程を含む、体細胞の核初期化により誘導多能性幹細胞を製造する方法が記載されている。
【0006】
これまで報告されている一般的な人工多能性幹細胞の作製においては、レトロウイルスベクター等により体細胞に初期化因子の遺伝子が導入され、染色体中にランダムに導入遺伝子断片が挿入される。そして、従来の方法では、作製された人工多能性幹細胞のゲノム中に初期化因子の遺伝子がそのまま残存していた。初期化因子の中で、特にc-Mycは、過剰に発現した場合に細胞のがん化を引き起こす強力な作用を有していることが知られている。実際に、マウスの人工多能性幹細胞に由来するキメラマウスにおいて、導入されたc-Myc遺伝子が再活性化して発現することにより、がんの発生が認められたことが報告されている。このように、人工多能性幹細胞から発生した分化細胞においては、導入初期化遺伝子が再度発現し、細胞が癌化する可能性があり、再生医療への応用等を実現するためには、導入初期化遺伝子を有さず、がん化の可能性の低い人工多能性幹細胞の作製技術の開発が求められている。
【0007】
また、WO2008/124133号公報には、体細胞を初期化する方法が記載されており、例えば、請求項48には、体細胞を初期化してES様状態にする少なくとも1種の外来的に導入した遺伝子を含む体細胞を用意する工程;及び上記の外来的に導入した遺伝子のうちの少なくとも1種を機能的に不活化する工程を含む、初期化された体細胞を製造する方法が記載されている。また、WO2008/124133号公報の第46頁には、「機能的に不活化とは、導入したポリヌクレオチドの除去又は切り取り含むことも意図する。ある態様では、1以上の導入したポリヌクレオチドの少なくとも一部に、部位特異的リコンビナーゼのための部位を隣接させておく。導入したポリヌクレオチドは、細胞にリコンビナーゼを発現させるか、細胞にリコンビナーゼを導入することによって機能的に不活化することができる。得られる初期化された体細胞は、外来的に導入したコード配列及び/又は調節要素の何れかを欠いている可能性がある。」ということが記載されている。即ち、WO2008/124133号公報には、導入した初期化遺伝子を除去する方法として部位特異的リコンビナーゼを使用することが示唆されているが、初期化因子をコードする遺伝子を除去した細胞の選別が必要であること、並びにそのような選別方法については何ら記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開WO2007/069666号公報
【特許文献2】国際公開WO2008/124133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法において、製造される人工多能性幹細胞から分化誘導された体細胞の発癌性を低減することができる方法を提供することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、初期化因子遺伝子を有さず、癌化の可能性の低い人工多能性幹細胞を製造する方法を提供することを解決すべき課題とした。さらに本発明は、上記した体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法により製造される人工多能性幹細胞;上記した体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法を含む、人工多能性幹細胞から分化誘導された体細胞を製造する方法;上記方法により製造される人工多能性幹細胞から分化誘導された体細胞;並びに上記の人工多能性幹細胞から分化誘導された体細胞を含む組織又は臓器を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、少なくとも1種類以上の初期化遺伝子を体細胞に導入して体細胞の初期化を行った後に、体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上を除去し、さら体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上が除去された細胞を、体細胞に導入された初期化遺伝子が除去されていない細胞から選別することによって、体細胞から発癌のリスクを低減させた人工多能性幹細胞を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) 下記の工程を含む、体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法。
(a)少なくとも1種類以上の初期化遺伝子を体細胞に導入する工程;及び
(b)体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上を除去し、かつ体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上が除去された細胞を、体細胞に導入された初期化遺伝子が除去されていない細胞から選別する工程。
【0012】
(2) 工程(a)において体細胞に導入される初期化遺伝子が、少なくともMyc遺伝子を含む、(1)に記載の方法。
(3) 工程(a)において体細胞に導入される初期化遺伝子が、Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子、及びMyc遺伝子である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 工程(a)において体細胞に導入される初期化遺伝子が、Oct3/4遺伝子、Klf4遺伝子、Sox2遺伝子、及びc-Myc遺伝子である、(1)から(3)の何れかに記載の方法。
【0013】
(5) 工程(a)において、初期化遺伝子が体細胞の染色体に組み込まれる、(1)から(4)の何れかに記載の方法。
(6) 工程(a)において、レンチウイルスベクターを用いて初期化遺伝子を体細胞に導入する、(1)から(5)の何れかに記載の方法。
【0014】
(7) 工程(b)において除去される初期化遺伝子が、少なくともMyc遺伝子を含む1種類以上の遺伝子である、(1)から(6)の何れかに記載の方法。
(8) 除去すべき初期化遺伝子の両端にDNA組換え酵素の認識配列を付加させておき、工程(a)において、初期化遺伝子を体細胞に導入した後に、工程(b)において、DNA組換え酵素を作用させて導入された初期化遺伝子の除去を行う、(1)から(7)の何れかに記載の方法。
(9) 工程(b)において、薬剤選択により、体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上が除去された細胞を、体細胞に導入された初期化遺伝子が除去されていない細胞から選別する、(1)から(8)の何れかに記載の方法。
【0015】
(10) 工程(b)において、DNA組換え酵素と薬剤耐性遺伝子を同時に発現する発現ベクターを体細胞に導入して、DNA組換え酵素と薬剤耐性遺伝子を体細胞に発現させ、DNA組換え酵素の作用により体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上を除去し、また上記薬剤の存在下で体細胞を培養することによって、上記薬剤耐性遺伝子の発現の作用に基づいて、体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上が除去された細胞を、体細胞に導入された初期化遺伝子が除去されていない細胞から選別する、(1)から(9)の何れかに記載の方法。
【0016】
(11) DNA組換え酵素と薬剤耐性遺伝子を同時に発現する発現ベクターが、DNA組換え酵素遺伝子とIRES(internal ribosomal entry site)と薬剤耐性遺伝子とを含む発現ベクターである、(10)に記載の方法。
(12) DNA組換え酵素遺伝子がCre遺伝子であり、薬剤耐性遺伝子がネオマイシン耐性遺伝子である、(11)に記載の方法。
【0017】
(13) 下記の工程を含む、体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法。
(a)Oct3/4遺伝子、Klf4遺伝子、Sox2遺伝子、及びc-Myc遺伝子(但し、各遺伝子の両末端にLox配列を付加されている)を体細胞に導入する工程;及び
(b)工程(a)の体細胞に、Cre遺伝子、IRES(internal ribosomal entry site)及び薬剤耐性遺伝子を含む発現ベクターを導入して、上記薬剤の存在下で培養することによって、Creの作用により工程(a)で導入された遺伝子の全部又はそのうちの一部を除去し、かつCreの作用により工程(a)で導入された遺伝子の全部又はそのうちの一部を除去された細胞を、体細胞に導入された遺伝子が除去されていない細胞から選別する工程。
【0018】
(14) 体細胞が、哺乳類動物の体細胞である、(1)から(13)の何れかに記載の方法。
(15) 体細胞がヒト体細胞である、(1)から(14)の何れかに記載の方法。
(16) (1)から(15)の何れかに記載の方法により得ることができる人工多能性幹細胞。
(17) 以下の工程を含む、人工多能性幹細胞から分化誘導された体細胞を製造する方法。
(a)(1)から(15)の何れかに記載の方法により人工多能性幹細胞を製造する工程;及び
(b)工程(a)で得られた人工多能性幹細胞を分化誘導する工程。
【0019】
(18) (17)に記載の方法により得ることができる、人工多能性幹細胞から分化誘導された体細胞。
(19) (18)に記載の体細胞の集団を含む、組織又は臓器。
【発明の効果】
【0020】
本発明により提供される人工多能性幹細胞は、体を構成する任意の組織又は臓器に分化誘導することが可能であり、拒絶反応が無い移植用の組織や臓器を作製することが可能である。また、本発明では、ES細胞の場合のように初期胚を使用することもないため、倫理的問題に直面することなく再生医療に応用することが可能である。特に、本発明により製造される人工多能性幹細胞は外部から導入された初期化遺伝子を有していないため、分化した細胞が癌化する可能性が非常に低いという利点を有しており、より安全性の高い人工多能性幹細胞を提供することができる。また、本発明の人工多能性幹細胞を分化させることにより得られる各種細胞(例えば心筋細胞、肝細胞など)は各種の薬剤や毒物などの薬効や毒性を評価するためのシステムとして使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、Cre−IRES−NeoRを用いたリプログラミング遺伝子を除去したiPS細胞の選択と分離を示。
【図2】図2は導入した初期化遺伝子を除去したヒトiPS細胞の作製法を示す。
【図3】図3は、樹立したヒトiPS細胞の位相差顕微鏡像を示す。
【図4】図4は、PCRによる導入c-Myc遺伝子の検出を示す。レーン1−6:第1法によりCre遺伝子を導入した後に単離したiPS細胞クローン。レーン7−10:第2法によりCre遺伝子を導入した後に単離したiPS細胞クローン。レーン11:Cre遺伝子導入前のiPS細胞クローン。
【図5】図5は、PCRによる導入Sox2遺伝子の検出を示す。レーン1:Cre遺伝子導入前のiPS細胞クローン。レーン2、3、4、11:第2法によりCre遺伝子を導入した後に単離したiPS細胞クローン。レーン5−10:第1法によりCre遺伝子を導入した後に単離したiPS細胞クローン。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明による体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法は、下記の工程を含むことを特徴とする。
(a)少なくとも1種類以上の初期化遺伝子を体細胞に導入する工程;及び
(b)体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上を除去し、かつ体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上が除去された細胞を、体細胞に導入された初期化遺伝子が除去されていない細胞から選別する工程。
【0023】
本発明の好ましい態様によれば、配列特異的DNA組換え酵素の認識配列を付加した初期化因子遺伝子の導入により体細胞の初期化を行う。体細胞の初期化が終了した後、配列特異的DNA組換え酵素と薬剤耐性マーカー因子の構造遺伝子がIRESを介して結合している配列特異的DNA組換え酵素発現ベクターを導入することにより、初期化因子遺伝子の除去を行う。配列特異的DNA組換え酵素発現ベクターを導入した後の細胞集団は、初期化因子遺伝子が除去された細胞と非除去細胞が混在しているので、発現ベクターに組み込んだ耐性遺伝子に対応する薬剤による選択を行いつつ一定期間培養を行うことにより、発現配列特異的DNA組換え酵素が少なくともその期間は安定的に発現し、初期化因子遺伝子が染色体から除去された誘導多能性幹細胞を選別することができる(図1)。
【0024】
本発明で初期化のために用いる体細胞の種類は特に限定されず、任意の体細胞を用いることができる。即ち、本発明で言う体細胞とは、生体を構成する細胞のうち生殖細胞以外の全ての細胞を包含し、分化した体細胞でもよいし、未分化の幹細胞でもよい。体細胞の由来は、哺乳動物、鳥類、魚類、爬虫類、両生類の何れでもよく特に限定されないが、好ましくは哺乳動物(例えば、マウスなどのげっ歯類、またはヒトなどの霊長類)であり、特に好ましくはヒトである。また、ヒトの体細胞を用いる場合、胎児、新生児又は成人の何れの体細胞を用いてもよい。本発明の方法で製造される人工多能性幹細胞を再生医療など疾患の治療に用いる場合には、該疾患を患う患者自身から分離した体細胞を用いることが好ましい。
【0025】
本発明で言う人工多能性幹細胞とは、所定の培養条件下(例えば、ES細胞を培養する条件下)において長期にわたって自己複製能を有し、また所定の分化誘導条件下において外胚葉、中胚葉及び内胚葉への多分化能を有する幹細胞のことを言う。また、本発明における人工多能性幹細胞はマウスなどの試験動物に移植した場合にテラトーマを形成する能力を有する幹細胞でもよい。
【0026】
本発明では、まず、少なくとも1種類以上の初期化遺伝子を体細胞に導入する。本発明で言う初期化遺伝子とは、体細胞を初期化して人工多能性幹細胞とする作用を有する初期化因子をコードする遺伝子である。本発明では、少なくとも1種類以上の初期化遺伝子を使用する。好ましくは、少なくともMyc遺伝子を使用する。本発明で使用する初期化遺伝子の組み合わせの具体例としては、以下の組み合わせをあげることができるが、これらに限定されるものではない。
(1)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子、Myc遺伝子
(2)Oct遺伝子、Sox遺伝子、NANOG遺伝子、LIN28遺伝子
(3)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子、Myc遺伝子、hTERT遺伝子、SV40 large T遺伝子
(4)Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子
【0027】
上記の中でも、少なくともMyc遺伝子を使用する組み合わせが好ましく、特に好ましくは、(1)のOct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子及びMyc遺伝子の組み合わせである。
【0028】
Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子及びMyc遺伝子にはそれぞれ、複数のファミリー遺伝子が含まれている。それぞれのファミリー遺伝子の具体例としては、国際公開WO2007/069666号公報の明細書の第11頁から第13頁に記載されているものを用いることができる。具体的には、以下の通りである。
【0029】
Oct遺伝子に属する遺伝子の具体例としては、Oct3/4(NM_002701)、Oct1A(NM_002697)、及びOct6(NM_002699)などを挙げることができる(括弧内は、ヒト遺伝子のNCBI accession 番号を示す)。好ましくはOct3/4である。Oct3/4はPOUファミリーに属する転写因子であり、未分化マーカーとして知られており、また多能性維持に関与しているとの報告もある。
【0030】
Klf遺伝子に属する遺伝子の具体例としては、Klf1(NM_006563)、Klf2(NM_016270)、Klf4(NM_004235)、及びKlf5(NM_001730)などを挙げることができる(括弧内は、ヒト遺伝子のNCBI accession 番号を示す)。好ましくはKlf4である。Klf4(Kruppel like factor-4)は腫瘍抑制因子として報告されている。
【0031】
Sox遺伝子に属する遺伝子の具体例としては、例えば、Sox1(NM_005986)、Sox2(NM_003106)、Sox3(NM_005634)、Sox7(NM_031439)、Sox15(NM_006942)、Sox17(NM_0022454)、及びSox18(NM_018419)を挙げることができる(括弧内は、ヒト遺伝子のNCBI accession 番号を示す)。好ましくはSox2である。Sox2は初期発生過程で発現し、転写因子をコードする遺伝子である。
【0032】
Myc遺伝子に属する遺伝子の具体例としては、c-Myc(NM_002467)、N-Myc(NM_005378)、及びL-Myc(NM_005376)などを挙げることができる(括弧内は、ヒト遺伝子のNCBI accession 番号を示す)。好ましくは、c-Myc である。c-Mycは細胞の分化及び増殖に関与する転写制御因子であり、多能性維持に関与しているとの報告がある。
【0033】
上記した遺伝子は、ヒトを含む哺乳類動物において共通して存在する遺伝子であり、本発明において任意の哺乳類動物由来(例えばヒト、マウス、ラット、サルなどの哺乳類動物由来)の遺伝子を用いることができる。また、野生型の遺伝子に対して、数個(例えば1〜30個、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1から3個)の塩基が置換、挿入及び/又は欠失した変異遺伝子であって、野生型の遺伝子と同様の機能を有する遺伝子を使用することもできる。
【0034】
本発明では特に好ましくは、初期化遺伝子として、Oct3/4遺伝子、Klf4遺伝子、Sox2遺伝子、及びc-Myc遺伝子の組み合わせを用いることができる。
【0035】
初期化遺伝子を体細胞に導入する方法は、導入された初期化遺伝子が発現して体細胞の初期化を達成できる限り特に限定されない。例えば、少なくとも1種類以上の初期化遺伝子を含む発現ベクターを用いて該初期化遺伝子を体細胞に導入することができる。ベクターを用いて2種類以上の初期化遺伝子を体細胞に導入する場合には、一つの発現ベクターに2種類以上の初期化遺伝子を組み込んで、該発現ベクターを体細胞に導入してもよいし、1種類の初期化遺伝子を組み込んだ発現ベクターを2種類以上用意して、それらを体細胞に導入してもよい。
【0036】
発現ベクターの種類は特に限定されず、ウイルスベクターでもプラスミドベクターでもよいが、好ましくはウイルスベクターであり、特に好ましくは導入した初期化遺伝子が体細胞の染色体に組み込まれるようなウイルスベクターである。本発明で使用できるウイルスベクターとしては、レトロウィルスベクター(レンチウィルスベクターを含む)、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどを挙げることができる。上記の中でも好ましくはレトロウィルスベクターであり、特に好ましくはレンチウィルスベクターである。
【0037】
組み換えウイルスベクターを作製するために用いるパッケージング細胞としては、ウイルスのパッケージングに必要なタンパク質をコードする遺伝子の少なくとも1つを欠損している組換えウイルスベクタープラスミドの該欠損するタンパク質を補給できる細胞であれば任意の細胞を用いることができる。例えばヒト腎臓由来のHEK293細胞、マウス繊維芽細胞NIH3T3に基づくパッケージング細胞を用いることができる。
【0038】
組換えウイルスベクタープラスミドをパッケージング細胞に導入することで組換えウイルスベクターを生産することができる。上記パッケージング細胞への上記ウイルスベクタープラスミドの導入法は、特に限定されず、リン酸カルシウム法、リポフェクション法又はエレクトロポレーション法などの公知の遺伝子導入法で行うことができる。
【0039】
本発明においては、体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上を除去する。除去される初期化遺伝子は、導入された初期化遺伝子の全部でもよいし、そのうちの一部でもよいが、導入された初期化遺伝子に癌遺伝子(例えば、Myc遺伝子など)が含まれる場合には、当該癌遺伝子は除去されることが好ましい。例えば、本発明の好ましい態様によれば、初期化遺伝子としてOct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子、及びMyc遺伝子が導入されるが、この場合は、少なくともMyc遺伝子は除去されることが好ましい。
【0040】
初期化遺伝子の除去方法は特に限定されないが、例えば、DNA組み換え酵素を用いる方法、相同組み換えを用いる方法などを挙げることができる。DNA組み換え酵素を用いる方法としては、除去すべき初期化遺伝子の両端にDNA組換え酵素の認識配列を付加させておき、初期化遺伝子を体細胞に導入した後に、DNA組換え酵素を作用させて導入された初期化遺伝子の除去を行うことができる。ここで用いるDNA組換え酵素遺伝子としては、例えば、Cre遺伝子を用いることができる。
【0041】
本発明ではさらに、体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上が除去された細胞を、体細胞に導入された初期化遺伝子が除去されていない細胞から選別する。この選別においては、薬剤選択により、体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上が除去された細胞を、体細胞に導入された初期化遺伝子が除去されていない細胞から選別することができる。具体的には、DNA組換え酵素と薬剤耐性遺伝子を同時に発現する発現ベクターを体細胞に導入して、DNA組換え酵素と薬剤耐性遺伝子を体細胞に発現させ、DNA組換え酵素の作用により体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上を除去し、さらに、上記薬剤の存在下で体細胞を培養することによって、上記薬剤耐性遺伝子の発現の作用に基づいて、体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上が除去された細胞を、体細胞に導入された初期化遺伝子が除去されていない細胞から選別することができる。ここで用いる薬剤耐性遺伝子と薬剤の組み合わせは特に限定されないが、好ましくは抗生物質耐性遺伝子と抗生物質の組み合わせが挙げられ、一例としては、ネオマイシン耐性遺伝子とG418の組み合わせを挙げることができる。
【0042】
DNA組換え酵素を用いて導入遺伝子の除去を行う場合、DNA組換え酵素とタンパク質として細胞に導入する場合でも、DNA組換え酵素遺伝子を細胞に導入して細胞内でDNA組換え酵素を発現させる場合でも、導入した初期化遺伝子の除去効率は100%にはならない。即ち、DNA組換え酵素を導入した細胞集団には、導入した初期化遺伝子が除去された細胞と、導入した初期化遺伝子が除去されていない細胞とが混在している。この場合、Myc遺伝子などの初期化遺伝子が残存している細胞の方が、増殖及び生存の上で有利であることから、このような状態では、発癌のリスクは低減しない。そこで本発明では、発癌のリスクの低減を図るという目的で、体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上が除去された細胞を、体細胞に導入された初期化遺伝子が除去されていない細胞から選別するのである。
【0043】
ES細胞の未分化性及び多能性を維持可能な培地は当業界で公知であり、適当な培地を組み合わせて用いることにより、本発明の人工多能性幹細胞を分離及び培養することができる。即ち、本発明の人工多能性幹細胞を培養するための培地としては、ES培地、ES培地に10ng/ml FGF-2を添加後にマウス胚性繊維芽細胞を24時間培養した上清であるMEF馴化ES培地(以下MEF馴化ES培地)などをあげることができる。本発明の人工多能性幹細胞を培養するための培地には、各種の成長因子、サイトカイン、ホルモンなど(例えば、FGF-2、TGFb-1、アクチビンA、ノギン(Nanoggin)、BDNF、NGF、NT-1、NT-2、NT-3等のヒトES細胞の増殖・維持に関与する成分)を添加してもよい。また、分離された人工多能性幹細胞の分化能及び増殖能は、ES細胞について知られている確認手段を利用することにより確認することができる。
【0044】
本発明の方法で製造される人工多能性幹細胞の用途は特に限定されず、各種の試験・研究や疾病の治療などに使用することができる。例えば、本発明の方法により得られた誘導多能性幹細胞をレチノイン酸、EGFなどの増殖因子、又はグルココルチコイドなどで処理することにより、所望の分化細胞(例えば神経細胞、心筋細胞、肝細胞、膵臓細胞、血球細胞など)を誘導することができ、そのようにして得られた分化細胞を患者に戻すことにより自家細胞移植による幹細胞療法を達成することができる。
【0045】
本発明の人工多能性幹細胞を用いて治療を行うことができる中枢神経系の疾患としてはパーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、脳梗塞、脊髄損傷などが挙げられる。パーキンソン病の治療のためには、多能性幹細胞をドーパミン作動性ニューロンへと分化しパーキンソン病患者の線条体に移植することができる。ドーパミン作動性ニューロンへの分化はマウスのストローマ細胞株であるPA6細胞と本発明の人工多能性幹細胞を無血清条件で共培養することで進めることができる。アルツイハイマー病、脳梗塞、脊髄損傷の治療においては本発明の人工多能性幹細胞を神経幹細胞に分化誘導した後に、傷害部位に移植することができる。
【0046】
また、本発明の人工多能性幹細胞は肝炎、肝硬変、肝不全などの肝疾患の治療に用いることができる。これら疾患を治療するには、本発明の人工多能性幹細胞を肝細胞あるいは肝幹細胞に分化し移植することができる。本発明の人工多能性幹細胞をアクチビンA存在下で5日間培養し、その後肝細胞増殖因子(HGF)で1週間程度培養することで肝細胞あるいは肝幹細胞を取得することができる。
【0047】
さらに本発明の人工多能性幹細胞はI型糖尿病などのすい臓疾患の治療に用いることができる。I型糖尿病の場合には、本発明の人工多能性幹細胞を膵臓β細胞に分化させ、膵臓に移植することができる。本発明の人工多能性幹細胞を膵臓β細胞に分化させる方法は、ES細胞を膵臓β細胞に分化させる方法に準じて行うことができる。
【0048】
さらに本発明の人工多能性幹細胞は虚血性心疾患に伴う心不全の治療に用いることができる。心不全の治療には、本発明の人工多能性幹細胞を心筋細胞に分化させた後に傷害部位に移植することが好ましい。本発明の人工多能性幹細胞は胚様体を形成させる3日前よりノギンを添加し培地中に添加することで、胚様体形成後2週間程度で心筋細胞を得ることができる。
【0049】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
1.細胞材料の調整
ヒト腹部の皮膚片を採取し、細胞培養用プレート中で培養液(DMEM / 10%牛血清)を用いて培養した。培養開始1週間後より、皮膚片からの線維芽細胞の遊走と増殖が認められたので、トリプシンとEDTAを用いて適宜、線維芽細胞を回収した。その後、細胞の増殖に応じて培養スケールを拡大した。培養開始から1〜2か月の間で、回収した線維芽細胞を凍結保存し、その後のiPS細胞の作製に使用した。
【0051】
2.初期化因子発現ベクターの作製
Genbank等に公開されているcDNAの塩基配列に基づき、ヒトのOct3/4, Sox2, Klf4, c-MycをPCR法により増幅するためのオリゴDNAプライマーを作製した。ヒトES細胞(KhES-1)に由来するmRNAを鋳型として逆転写反応により作製したcDNA、あるいはゲノムDNAを鋳型として、PCR法によりヒトのOct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycの構造遺伝子をPCR法により増幅し、プラスミドベクター(pENTR-D-TOPO, Gibco-Invitrogen社)へ挿入した。この際、一部の遺伝子についてはPCRプライマーの末端にLox配列を付加したものを用いた。クローニングを行ったプラスミドDNAの塩基配列をシークエンス解析により確認の後、LR clonase (Gibco-Invitrogen社)を用いて、レンチウイルスベクター(CSII-EF-RfAl, 理化学研究所 三好博士より分与)へ導入した。一部のものについては、CSII-EF-RfAlへ挿入後にcDNA両端へのLOX配列の付加を行った。
【0052】
3.Cre発現ベクターの作製
Creの構造遺伝子を鋳型として、PCR法により遺伝子断片を作製した。これを、CAGプロモーターにより作動し、IRES (internal ribosomal entry site)とネオマイシン耐性遺伝子が組込まれたベクターであるpCAGGS-IRES-Neoへ挿入し、Cre酵素とネオマイシン耐性遺伝子を同時に発現するベクターを作製した。
【0053】
4.組換えレンチウイルスベクターの作製:
リポフェクション法(Lipofectamine 2000, Invitrogen社)を用いて、上記で作製したCSII-EFに導入したリプログラミング因子遺伝子の各々とパッケージングコンストラクトおよびエンベロープ&Revコンストラクトを293T細胞へ遺伝子導入した。遺伝子導入3日後に、細胞培養液を回収し、0.45μmのフィルターを通した後、遠心分離法(50,000G、2時間)によりウイルス粒子を沈澱させ回収した。回収した組換えウイルス粒子は、DMEM溶液に懸濁した後、凍結チューブに分注し、使用時まで冷凍庫(-80℃)にて保存した。
【0054】
5.遺伝子導入:
凍結保存しておいたヒト線維芽細胞を解凍し、数日間、再度培養した後、培養プレート中においてウイルス懸濁液を加えることにより、感染させ、遺伝子導入を行った。遺伝子導入の4-6日後、トリプシンとEDTAを用いて感染細胞を回収し、事前に準備しておいた、マイトマイシンC処理により増殖を停止させたマウス胎児由来線維芽細胞(フィーダー細胞)との共培養を開始した。その翌日より、培養液をヒトES細胞用の培養液に置換し、培養を継続した。その数日後より、一部の細胞が増殖しコロニーを形成した。図1に以下の操作手順の説明図を添付している。
【0055】
遺伝子導入から、20−30日の後、顕微鏡観察の下で、マイクロチップを用いてES細胞様の形態を示すコロニーをiPS細胞クローンとして単離し、別に準備しておいたマウス胎児由来フィーダー細胞との共培養を行った。その後、細胞の増殖に応じて、培養容器を拡大しつつ培養を継続し、一部はそのまま凍結保存し、一部は血液細胞への分化誘導を行い、一部はCre遺伝子の導入を行った。ES細胞様の形態を示すコロニーを単離した残りの細胞の一部、あるいは、コロニーを単離しなかった細胞の一部、についてもCre遺伝子の導入を行った。
【0056】
6.Cre発現ベクターの導入:
Cre発現ベクターの導入は、2通りの方法により行った(図2)。第1の方法は、前項で述べたように、細胞コロニーの形態に基づいて、iPS細胞クローンとして単離した細胞にCre発現ベクターを導入した(クローン単離後導入)。第2の方法は、iPS細胞と非iPS細胞が混在した細胞集団に対してCre発現ベクターを導入した(クローン単離前導入)。Cre発現ベクターの導入は、電気穿孔法により行い、G418耐性(ネオマイシン耐性)フィーダー細胞との共培養を行なった。電気穿孔法施行後、24−48時間後より、培養液中にG418 (Gibco- Invitrogen社)を加え、培養を継続した。そして、電気穿孔法施行後15-25日後に、顕微鏡観察の下で、iPS細胞様の形態を示すG418耐性の細胞コロニーをマイクロチップを用いて単離し、別に準備しておいたマウス胎児由来フィーダー細胞との共培養を行った。その後、細胞の増殖に応じて、培養容器を拡大しつつ培養を継続し、一部はそのまま凍結保存し、一部は血液細胞への分化誘導を行った。
【0057】
7.細胞の形態および血液細胞への分化誘導:
顕微鏡観察の下でiPS細胞として単離した細胞クローン(約70クローン)のうち半分は、継続して培養可能であり、ヒトES細胞あるいはすでに論文報告されているヒトiPSと類似した形態、増殖速度を示し、その多くが血液系細胞への分化能力を有していた。Cre発現ベクターの導入を行ったものも、行っていないものも、いずれも、血液系細胞への分化能力を有していた。全体的な傾向として、Cre発現ベクターの導入を行ったものは、未分化状態での増殖がやや遅く、分化が進みやすい傾向があった。クローン単離前導入、クローン単離後導入のいずれからも、血液系細胞への分化能力を有するiPS細胞クローンが作製できた。図3に、Cre発現ベクターの導入を行ったiPS細胞(クローン単離前導入)と行っていないiPS細胞の形態を示す。これらはいずれも、血液系細胞への分化能力を有している。
【0058】
8.リプログラミング因子遺伝子の除去の有無についての解析:
Cre発現ベクターの導入により、iPS細胞作製の目的で導入したリプログラミング因子の遺伝子が除去されたかどうか、PCR法による解析を行った。Cre発現ベクターの導入により、iPS細胞作製の目的で導入した初期化因子の遺伝子を検出するためのPCR法に用いたプライマーの塩基配列は以下の通りである。
c-Myc:
GATCAGCAACAACCGAAAAT (配列番号1)
GTTGCGTCAGCAAACACAGT (配列番号2)
Sox2:
CATGTCCCAGCACTACCAGA (配列番号3)
GGCATTAAAGCAGCGTATCC (配列番号4)
【0059】
Cre発現ベクターの導入で述べた方法のうち、第1および第2の方法でCre発現ベクターを導入した後、単離したiPS細胞クローン、および、Cre発現ベクターの導入を行っていないiPS細胞クローンのc-Mycについての解析結果を図4に、Sox2についての解析結果を図5に示す。図4及び図5の結果から、Cre発現ベクターの導入によりc-Myc遺伝子及びSox2遺伝子が除去されていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含む、体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法。
(a)少なくとも1種類以上の初期化遺伝子を体細胞に導入する工程;及び
(b)体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上を除去し、かつ体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上が除去された細胞を、体細胞に導入された初期化遺伝子が除去されていない細胞から選別する工程。
【請求項2】
工程(a)において体細胞に導入される初期化遺伝子が、少なくともMyc遺伝子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)において体細胞に導入される初期化遺伝子が、Oct遺伝子、Klf遺伝子、Sox遺伝子、及びMyc遺伝子である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(a)において体細胞に導入される初期化遺伝子が、Oct3/4遺伝子、Klf4遺伝子、Sox2遺伝子、及びc-Myc遺伝子である、請求項1から3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
工程(a)において、初期化遺伝子が体細胞の染色体に組み込まれる、請求項1から4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
工程(a)において、レンチウイルスベクターを用いて初期化遺伝子を体細胞に導入する、請求項1から5の何れかに記載の方法。
【請求項7】
工程(b)において除去される初期化遺伝子が、少なくともMyc遺伝子を含む1種類以上の遺伝子である、請求項1から6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
除去すべき初期化遺伝子の両端にDNA組換え酵素の認識配列を付加させておき、工程(a)において、初期化遺伝子を体細胞に導入した後に、工程(b)において、DNA組換え酵素を作用させて導入された初期化遺伝子の除去を行う、請求項1から7の何れかに記載の方法。
【請求項9】
工程(b)において、薬剤選択により、体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上が除去された細胞を、体細胞に導入された初期化遺伝子が除去されていない細胞から選別する、請求項1から8の何れかに記載の方法。
【請求項10】
工程(b)において、DNA組換え酵素と薬剤耐性遺伝子を同時に発現する発現ベクターを体細胞に導入して、DNA組換え酵素と薬剤耐性遺伝子を体細胞に発現させ、DNA組換え酵素の作用により体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上を除去し、また上記薬剤の存在下で体細胞を培養することによって、上記薬剤耐性遺伝子の発現の作用に基づいて、体細胞に導入された初期化遺伝子の全部又はそのうちの少なくとも1種類以上が除去された細胞を、体細胞に導入された初期化遺伝子が除去されていない細胞から選別する、請求項1から9の何れかに記載の方法。
【請求項11】
DNA組換え酵素と薬剤耐性遺伝子を同時に発現する発現ベクターが、DNA組換え酵素遺伝子とIRES(internal ribosomal entry site)と薬剤耐性遺伝子とを含む発現ベクターである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
DNA組換え酵素遺伝子がCre遺伝子であり、薬剤耐性遺伝子がネオマイシン耐性遺伝子である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
下記の工程を含む、体細胞から人工多能性幹細胞を製造する方法。
(a)Oct3/4遺伝子、Klf4遺伝子、Sox2遺伝子、及びc-Myc遺伝子(但し、各遺伝子の両末端にLox配列を付加されている)を体細胞に導入する工程;及び
(b)工程(a)の体細胞に、Cre遺伝子、IRES(internal ribosomal entry site)及び薬剤耐性遺伝子を含む発現ベクターを導入して、上記薬剤の存在下で培養することによって、Creの作用により工程(a)で導入された遺伝子の全部又はそのうちの一部を除去し、かつCreの作用により工程(a)で導入された遺伝子の全部又はそのうちの一部を除去された細胞を、体細胞に導入された遺伝子が除去されていない細胞から選別する工程。
【請求項14】
体細胞が、哺乳類動物の体細胞である、請求項1から13の何れかに記載の方法。
【請求項15】
体細胞がヒト体細胞である、請求項1から14の何れかに記載の方法。
【請求項16】
請求項1から15の何れかに記載の方法により得ることができる人工多能性幹細胞。
【請求項17】
以下の工程を含む、人工多能性幹細胞から分化誘導された体細胞を製造する方法。
(a)請求項1から15の何れかに記載の方法により人工多能性幹細胞を製造する工程;及び
(b)工程(a)で得られた人工多能性幹細胞を分化誘導する工程。
【請求項18】
請求項17に記載の方法により得ることができる、人工多能性幹細胞から分化誘導された体細胞。
【請求項19】
請求項18に記載の体細胞の集団を含む、組織又は臓器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−161960(P2010−161960A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5691(P2009−5691)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】