説明

人工毛髪用繊維

【課題】人工毛髪用繊維において、静電気が発生し難く、櫛通り性に優れ、かつベタツキの少ない手触り感の良い人工毛髪用ポリ乳酸系繊維を提供すること。
【解決手段】人工毛髪用繊維1は、ポリ乳酸系樹脂を主成分とする人工毛髪用繊維であって、ポリ乳酸系樹脂中に0.3〜1重量%のグリセリン脂肪酸エステルが含有されており、総重量の0.001〜0.3重量%のシリコーンオイルが繊維表面に付着している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、カツラ、エクステンション、及び人形毛髪等に用いることができる人工毛髪用繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の人工毛髪用繊維としては、難燃性であり、かつ光沢、透明性等の外観やヘアースタイリング性に優れる繊維として、ポリ塩化ビニル系繊維やモダアクリル系繊維に代表される合成繊維が広く用いられている。一方、近年、塩化ビニル系樹脂については、廃棄時の処理(焼却、地中投棄等)における環境に対する負荷低減を図る為、脱ハロゲン系素材、脱石油素材への開発が進みつつある。ところが、人工毛髪については、その特殊な要求性能として、櫛通し性などのヘアースタイリング性を兼備していることが必要であり、適した代替素材が見つかっていないのが現状である。
【0003】
例えば、下記特許文献1,2では、人工毛髪用の脱塩化ビニル素材の選定にあたり、バイオマス素材であり生分解性を有し環境負荷が少なく、かつ人毛に近い剛性、風合い、カール性と難燃性を有する人工毛髪に適した素材として、ポリ乳酸系樹脂を用いた繊維を人工毛髪に応用する試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−169967号公報
【特許文献2】特開2007−211355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリ乳酸系繊維は静電気が非常に発生しやすく、特許文献1や特許文献2の繊維を用いた人工毛髪では、ブラッシングの際に毛髪が逆立ったり、櫛にまとわりついたりして、良好なヘアースタイリング性が得られ難い。また、人工毛髪用繊維としては重要な品質である櫛通り性についても、櫛との滑り性、及び糸同士の滑り性が悪く、櫛が通り難く、カツラ加工が上手く出来なかったり、良好なヘアースタイリング性が得らないといった問題がある。
【0006】
また、このポリ乳酸系樹脂に帯電防止剤を練りこみ、帯電防止性を向上させようとする試みもある。ところが、人工毛髪用繊維の場合は櫛通し性の向上の為、潤滑油を表面塗布する事が必要であり、潤滑油の影響で、繊維に練り込んだ帯電防止剤の効果が薄れてしまう。このため、更に多量の帯電防止剤を繊維に練り込むこととすれば、練りこんだ帯電防止剤がブリードアウトし、表面塗布した潤滑油と混じり、ベタツキを生じたりして風合いを損ねてしまうという問題がある。このようなベタツキが生じたり風合いを損ねたりする問題は、人工毛髪としては致命的であるため、実用化が進んでいない。
【0007】
そこで、本発明は、上記の問題を解決し、静電気が発生し難く、櫛通り性に優れ、かつベタツキの少ない手触り感の良い人工毛髪用繊維を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らはこの課題に対し、繊維に対してある特定の帯電防止剤を特定範囲の量だけ練りこむことと、同時に、ある特定の潤滑油を特定範囲の量だけ表面塗布する事を組み合わせる事で、通常起こりうる上記の問題の発生が起こらない場合がある事を見出した。そして、本発明者らは、静電気の発生が少なく、かつ櫛通り性も良好で、その上更にベタツキも少なく手触り良好な人工毛髪用繊維を開発するに至った。
【0009】
具体的には、本発明の人工毛髪用繊維は、ポリ乳酸系樹脂を主成分とする人工毛髪用繊維であって、ポリ乳酸系樹脂中に0.3〜1重量%のグリセリン脂肪酸エステルが含有されており、総重量の0.001〜0.3重量%のシリコーンオイルが繊維表面に付着していることを特徴とする。
【0010】
この構成により、静電気が発生し難く、櫛通り性に優れ、かつベタツキの少ない手触り感の良い人工毛髪用ポリ乳酸系繊維を得ることができる。
【0011】
また、上記シリコーンオイルが、アミノ変性シリコーンオイルであることが好ましい。この構成により、人工毛髪用繊維の櫛通り性が向上する。
【0012】
また、更に、平均粒子径D50が0.5〜10μmであるタルクが、ポリ乳酸系樹脂中に0.05〜1重量%含有されていることが好ましい。含有されたタルクは、梨地剤として機能し、ベタツキ感が和らぎ手触りの点で優れた風合いの人工毛髪用繊維を得ることができる。
【0013】
また、本発明の人工毛髪用繊維は、断面形状が、2つの円を一部重複させ連結してなる形状、又は2つの楕円を一部重複させ連結してなる形状をなす繭型であり、円又は楕円が連結された方向に測った断面の最長の長さをaとし、円又は楕円が連結された方向に直交する方向に測った断面の最長の長さをbとし、円又は楕円が重複する部分に現れるくびれ部分の最狭部を、円又は楕円が連結された方向に直交する方向に測った長さをcとしたとき、長さの比a/bが1〜3であり、長さbが0.02〜0.1mmであり、長さの比b/cが1.1〜2.5であることが好ましい。このように、断面形状を繭型とすることで、人工毛髪用繊維の櫛通り性がより向上する。
【0014】
また、上記グリセリン脂肪酸エステルが、グリセリンモノステアレートであることが好ましい。この構成により、人工毛髪用繊維の特に手触り感が向上する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の人工毛髪用繊維は、静電気が発生し難く、櫛通り性に優れ、かつベタツキが少なく手触り感が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に用いる人工毛髪繊維の繊維断面形状の一例を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の人工毛髪用繊維は、ポリ乳酸系樹脂と、グリセリン脂肪酸エステルとを含有する人工毛髪用ポリ乳酸系繊維である。更に、本発明の人工毛髪繊維の繊維表面には、シリコーンオイルが塗布されている。
【0018】
ポリ乳酸系樹脂としては、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、ポリ(D/L−乳酸)、D−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、L−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体等が挙げられる。また、ポリ乳酸系樹脂は、上記の重合体を50重量%以上含む樹脂であってもよい。また、このポリ乳酸系樹脂は、生分解性を有する樹脂である。これらの中で、L−乳酸とD−乳酸の光学異性体の共重合体であるポリ(D/L−乳酸)は、L−乳酸とD−乳酸の比率により結晶性のコントロールが出来、人工毛髪用繊維として適度な剛性と風合いが得られる事から好ましい。
【0019】
ポリ(D/L−乳酸)のL−乳酸とD−乳酸の比率は、通常光学純度(%)で表され、本発明で用いるポリ乳酸系樹脂の光学純度は、特に制限されるものではないが、人工毛髪用繊維として適度な剛性を得られる光学純度80〜99重量%が好ましい。より好ましくは90〜97重量%である。
【0020】
ポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は、特に制限されるものではないが、人工毛髪用繊維として十分な繊維強度が得られかつ、溶融紡糸における可紡性が良好な10×10〜20×10が好ましい。
【0021】
本発明の人工毛髪用繊維に含有されるグリセリン脂肪酸エステルは、主として帯電防止剤として機能する。帯電防止剤としてグリセリン脂肪酸エステルを用いた場合、他の帯電防止剤を用いた場合と比較してベタツキが少なく手触りの点で優れた人工毛髪用繊維が得られる。
【0022】
グリセリン脂肪酸エステルとしては、脂肪酸モノグリセライド、脂肪酸ジグリセライド、脂肪酸トリグリセライド等が挙げられる。この中でも、人工毛髪用繊維のベタツキがより抑えられ、より良好な手触りが得られる観点から、脂肪酸モノグリセライドが好ましい。
【0023】
グリセリン脂肪酸エステルの具体例としては、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、酢酸グリセライド、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノオレエート、グリセリンモノラウレート、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシルイン酸エステル等が挙げられる。中でもグリセリンモノステアレートが、ベタツキ低減や手触り向上の点でより好ましい。
【0024】
グリセリン脂肪酸エステルの含有量としては、ポリ乳酸系樹脂中で、0.3〜1重量%であることが必要である。グリセリン脂肪酸エステルを0.3重量%以上添加することにより、帯電防止の効果が得られる。また、グリセリン脂肪酸エステルの含有量を1重量%以下とすることで、グリセリン脂肪酸エステルの繊維表面への析出が抑えられ、透明性が高く、繊維表面がベタつかず手触りの良い人工毛髪用繊維が得られる。グリセリン脂肪酸エステルの含有量は、好ましくは0.4〜0.5重量%である。
【0025】
本発明の人工毛髪用繊維は、さらにタルクを含有することが好ましい。タルクは、主として梨地剤として機能する。タルクを添加した場合、ベタツキ感が和らぎ手触りの点で優れた風合いの人工毛髪用繊維が得られる。含有するタルクとしては、平均粒子径D50が0.5〜10μmのものが、2次凝集による分散性の面で好ましい。タルクの含有量がポリ乳酸系樹脂中で、0.05〜1重量%であると、紡糸時の糸切れが少なく、かつベタツキ感が和らぎ手触り感が好ましい人工毛髪用繊維が得られるので好ましい。中でも、特に好ましいタルクの含有量は、0.1〜0.2重量%である。
【0026】
上記ポリ乳酸系樹脂とグリセリン脂肪酸エステルとを含有した繊維は、さらに表面にシリコーンオイルを付着させることが必要である。シリコーンオイルは、主として櫛通りを向上させる潤滑油として機能する。また、潤滑油としてシリコーンオイルを用いた場合、他の潤滑油を用いた場合と比較して、櫛通り性に優れる。特に、シリコーンオイルを、上記グルセリン脂肪酸エステルを練りこんだ繊維表面に塗布した場合は、帯電防止性、手触り感にも非常に優れた人工毛髪用繊維が得られる。
【0027】
シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、あるいは有機変性シリコーンオイルのいずれでも良い。有機変性シリコーンオイルには、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、アルコール変性シリコーンオイル、エポキシ・ポリエーテル変性シリコーンオイル、アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、アルキル・アラルキル・ポリエーテル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、アルキル・高級アルコールエステル変性シリコーンオイル等があり、いずれでも良い。中でもアミノ変性シリコーンオイルは、繊維上に強固な皮膜を形成し、持続性のある櫛通りが得られる事から好ましい。
【0028】
さらに、上記シリコーンオイルは、水やアルコール等と混合した希釈溶液、あるいはエマルジョン溶液とすることが好ましい。水やアルコールを媒体として希釈することにより、高粘度で扱いにくいシリコーンオイルを、薄く均一に繊維表面に塗布する事が可能となる。シリコーンオイルをエマルジョン化するために、シリコーンオイルの滑性や粘性等の性能に影響を与えない程度の微量の乳化剤を加えても良い。
【0029】
この乳化剤としては脂肪族4級アンモニウム塩が好ましく、例えば塩化テトラメチルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化トリメチルベンジルアンモニウム、塩化トリエチルベンジルアンモニウム、塩化トリブチルベンジルアンモニウム、塩化ジドデシルジメチルアンモニウム、塩化オクタデシルトリメチルアンモニウムなどが挙げられる。
【0030】
シリコーンオイルの繊維表面への付着量としては、当該シリコーンオイルを含めた繊維総重量に対して0.001〜0.3重量%である。0.001重量%以上のシリコーンオイルを繊維表面に表面塗布することにより、櫛通り性の向上が得られやすくなる。また、シリコーンオイルの繊維表面への付着量を0.3重量%以下とすることで、繊維表面がべたつかず手触りの良い人工毛髪用繊維が得られる。シリコーンオイルの繊維表面への付着量として、更に好ましくは、繊維総重量に対して0.01〜0.1重量%である。
【0031】
上記シリコーンオイルを付着させる方法としては、スプレー方式、ディッピング方式、ロールコーター方式等の従来公知の方式で塗布すればよく、特に制限されない。中でも、安定的かつ均一に塗布するには、ロールコーター方式を用いるのが好ましい。
【0032】
得られた人工毛髪用繊維は、温風加熱等の熱処理工程により、希釈に使用した水分が蒸発するので、水分による影響はなくなる。
【0033】
本発明における人工毛髪用繊維の断面形状はいかなるものでもよく、例えば丸、楕円、3角、Y字、I字、C字、8葉、繭型などが挙げられる。これらの形状は中空であってもよい。これらの中でも、図1に示すような繭型(「交差円形状」、「交差楕円形状」、又は「瓢箪型」等と表現してもよい)の断面形状をなす繊維1が好ましい。ここで、「繭型」とは、2つの円を一部重複させ連結してなる形状、又は2つの楕円を一部重複させ連結してなる形状を言う。
【0034】
特に、図1に示す繊維1の繭型断面において、円又は楕円が連結された方向(X軸方向)に測った断面の最長の長さをaとし、円又は楕円が連結された方向に直交する方向(Y軸方向)に測った断面の最長の長さをbとし、円又は楕円が重複する部分に現れるくびれ部分の最狭部を、円又は楕円が連結された方向に直交する方向(Y軸方向)に測った長さをcとしたとき、長さの比a/bが1〜3であり、長さbが0.02〜0.1mmであり、長さの比b/cが1.1〜2.5である断面形状とすれば、繊維の櫛通し性が良好であり、かつくびれ部の糸割れもなく強度低下もなく、光沢面からも人工毛髪用繊維としての外観を有するので、より好ましい。更に好ましい最太部の長さbの値は、0.03〜0.08mmである。
【0035】
本発明の繊維には、必要に応じて、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤、染料、蛍光染料、顔料、蛍光顔料、夜光顔料、蓄光顔料、フォトクロミック材料、エレクトロクロミック材料、感温変色顔料、パール顔料、ガラスビーズ、金属粉、可塑剤、ワックス、撥水剤、難燃剤、ダル化剤、艶消剤、架橋剤、香料、消臭剤、光触媒、防虫剤、防カビ剤、忌避剤、抗菌剤などの従来公知の各種添加剤を支障のない範囲で含有してもよい。
【0036】
滑剤としては、滑りやすくポリ乳酸系樹脂との相溶性もよい脂肪酸アミドが好ましく、ベタツキ難いステアリン酸アミドがより好ましい。滑剤の添加量は0.1〜1重量%が好ましく、0.3〜0.6重量%がより好ましい。
【0037】
また、人工毛髪用繊維の耐水性向上の為の手段として、カルボジイミド化合物を含有してもよい。その場合のカルボジイミド化合物の含有量は、0.1〜3重量%が好ましく、0.5〜1.5重量%がより好ましい。
【0038】
本発明の繊維を得る方法は、特に限定されるものではないが、低コストで高品質の繊維が得られる溶融紡糸法が好ましい。例えば、ポリ乳酸系樹脂を用いる場合は、溶融紡出し、一旦冷却固化した樹脂を、再加熱し延伸することにより、配向と結晶化が促進され、適度な強度を有する繊維が効率よく得られるため好ましい。
【0039】
本発明における繊維の好適な具体的生産条件は、例えば以下に挙げるようなものである。例えば、顔料、グリセリン脂肪酸エステル、タルク等を混合したポリ乳酸系樹脂混合物を溶融押出ししてノズルより紡出し、ついで冷水槽で急冷した後、ポリ乳酸樹脂のガラス転移点温度より30〜50℃高い温水槽に浸せきしながら速度差のあるローラーにより繊維を3〜4倍程度に延伸し、巻取機でボビンに巻き取る。次に巻き取られたボビンより糸を取り出し、塗布ローラーに通し表面にシリコーンを塗布した後に、さらに100〜150℃の温風等の熱媒体を用いて緊張熱処理した後、所望の繊維を得る事が出来る。
【0040】
さらに本発明の繊維の形態としては特に制限はないが、カツラ等への加工性や取り扱いの面から、糸束であるトウ状が好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例に基づき詳しく説明する。なお、本発明で用いる評価方法は下記の通りである。すなわちここでは、実施例1〜12及び比較例1〜12の24種の繊維サンプルについて、以下の通り帯電防止性能評価、手触り感評価、櫛通り性評価を行った。そして、上記の三評価の結果をもとに、各繊維サンプルについて人工毛髪用繊維としての総合判定を行った。実施例1〜12及び比較例1〜12の繊維サンプルの組成等は、表1に示している。また、評価結果は、表2に示している。
【0042】
《帯電防止性能評価》
JIS L 1094(1997)半減期測定法に準じて、帯電圧の半減期を以下の条件で測定した。
測定装置:半減期測定機(商品名:STATIC HONESTOMETER TYPE S−4104、宍戸商会株式会社製)
試験片:後述の実施例1〜12、比較例1〜12で得られた人工毛髪用合成繊維を、それぞれ45mm×45mmの厚紙に均一に300周巻いたもの
環境条件:23℃湿度65%
【0043】
帯電防止性能評価の評価基準は以下の通りである。
◎:半減期1秒未満
○:半減期1秒以上10秒未満
△:半減期10秒以上30秒未満
×:半減期30秒以上
繊維に静電気が発生し難いほど、上記半減期は短くなり、人工毛髪として適した繊維であると言える。なお、半減期が1秒未満の場合は、静電気が瞬間的になくなり、人工毛髪としては、非常に良好である。半減期が1秒以上10秒未満では、ブラッシングで毛髪は逆立たず、人工毛髪として良好である。10秒以上30秒未満では、ブラッシングで毛髪が逆立ち、人工毛髪として問題がある。30秒以上では、ブラッシングで毛髪が激しく逆立ち、人工毛髪として使用できない。
【0044】
《手触り感評価》
以下の通り、手触り感の評価を行った。
試料:長さ約20cmの単糸2000本を房状に束ねたもの。
環境条件:23℃湿度65%
【0045】
上記試料を、繊維表面のベタツキについて官能評価を行った。モニター人数は20人。各モニターにおける評価基準は以下の通りである。
4点:さらっとした手触りを感じる。
3点:少し粘着性を感じる。
2点:ベタツキ感を感じる。
1点:油のようなベトベトした感触を感じる。
【0046】
次に、20人のモニターがそれぞれつけた点数を単純平均して評価点数を求め、以下の基準で糸のベタツキ性評価とした。
◎:4.0点以下3.5点以上
○:3.5点未満3.0点以上
△:3.0点未満2.0点以上
×:2.0点未満1.0点以上
【0047】
《櫛通り性評価》
以下の通り、櫛通り性の評価を行った。
試料:長さ約50cmの単糸20000本を房状に束ねたもの。
環境条件:23℃65%RH
【0048】
上記試料を直径4mm、長さ50mmの釘を10mm間隔で縦方向10本、横方向10本、合計100本を板に打ち付けた櫛通し板の上に、繊維束(トウ)を置き、櫛通し板から引き抜く時にかかる抵抗力を測定する。
評価基準は以下の通りである。
◎:0.2kg未満(殆ど無抵抗で櫛が通る)
○:0.2以上1kg未満(やや抵抗感はあるが、問題なく櫛が通る)
△:1kg以上5kg未満 (抵抗があり、櫛が通りにくい)
×:5kg以上(繊維が釘に引っ掛かり、ちぢれたり、糸が切れる)
【0049】
《総合判定》
上記の三評価結果をもとに、以下の基準で総合判定を行った。
◎:全ての評価結果で◎である。(人工毛髪としては非常に優れている)
○:全ての評価結果で○以上である。(人工毛髪としては優れている)
△:いずれかの評価結果において△があるが、×がない。(人工毛髪として、とりあえず使用は可能である)
×:いずれかの評価結果において×が1つでもある。(人工毛髪としては実用に不向き)
【0050】
実施例1〜12、比較例1〜12の繊維サンプルは、それぞれ以下の方法で得たものである。
【0051】
[実施例1]
ポリ乳酸系樹脂としての三井化学株式会社製のポリ乳酸樹脂LACEA:H−440(ポリD/L乳酸、光学純度92%、ガラス転移点53℃、融点156℃)に、帯電防止剤としてのグリセンリンモノステアレート0.5重量%と、タルク(平均粒子径2μm)0.15重量%と、を練りこんだ樹脂組成物を、スクリュー直径65mmφサイズの押出機で210℃の温度で溶融紡出し、紡口ノズル(繭型断面形状ノズル140ホール)から吐出した。吐出された樹脂(吐出量25kg/hr)を冷却した後、90℃の加熱槽で加熱すると同時に速度差ローラーで3.6倍に延伸し、巻取機により単糸50デニールを20フィラメントに束ねたマルチフィラメントを紙管に巻き取った。
【0052】
次に紙管に巻き取ったマルチフィラメント100本に、表面塗布剤としてアミノ変性シリコーンオイル含有量を4%重量濃度に調節したエマルジョン水溶液を、コーティングローラーにより、アミノ変性シリコーンオイルが繊維全重量に対し0.06重量%の重量比となるように連続的に表面塗布した後、1:1の速度比のピンチローラー間で120℃の温風を当て、緊張加熱処理を行い、2000フィラメントのマルチフィラメントを紙管に巻き取った。更にこの2000フィラメントの繊維束を10本集めて、枷巻き機に巻き取り繊維束を得た。
【0053】
この繊維の断面形状は繭型であり(図1参照)、長さaと長さbとの長さの比a/bが1.5であり、長さbが0.05mmであり、長さbと長さcとの長さの比b/cが2.0であった。
【0054】
[実施例2]
ポリ乳酸系樹脂を、NATURE WORKS LLC社製6400D(ポリD/L乳酸、光学純度96%、ガラス転移点55〜60℃、融点160〜170℃)とする以外は、実施例1と同様の方法で、マルチフィラメントの繊維を得た。
【0055】
[実施例3〜9]
グリセリンモノステアレートの添加量と、アミノ変性シリコーンオイルの塗布量を表1の実施例3〜9の通りにする以外は、実施例2と同様の方法で、マルチフィラメントの繊維を得た。
【0056】
[実施例10]
シリコーンオイルの種類をジメチルシリコーンオイルにする以外は、実施例2と同様の方法で、マルチフィラメントの繊維を得た。
【0057】
[実施例11]
紡口ノズル(丸断面形状ノズル140ホール)を用いて、繊維の断面形状を直径0.075mmの丸断面形状にする以外は、実施例2と同様の方法で、マルチフィラメントの繊維を得た。
【0058】
[実施例12]
タルクを無添加とする以外は、実施例2と同様の方法で、マルチフィラメントの繊維を得た。
【0059】
[比較例1〜3]
グリセリンモノステアレートの添加量と、アミノ変性シリコーンオイルの塗布量とを表1の比較例1〜3の通りにする以外は、実施例2と同様の方法で、マルチフィラメントの繊維を得た。
【0060】
[比較例4]
表面塗布をなしとする以外は、実施例2と同様の方法で、マルチフィラメントの繊維を得た。
【0061】
[比較例5〜7]
表面塗布油剤の種類を表1の比較例5〜7の通りにする以外は、実施例2と同様の方法で、マルチフィラメントの繊維を得た。
【0062】
[比較例8〜12]
ポリ乳酸系樹脂に練り込む帯電防止剤の種類を表1の比較例8〜12の通りにする以外は、実施例2と同様の方法で、マルチフィラメントの繊維を得た。
【0063】
《評価結果の考察》
表1及び表2を参照し、実施例6、実施例7、実施例9、比較例1、及び比較例2を比較する。これらの各サンプルは、帯電防止剤としてのグリセリンモノステアレートの含有量が異なっている。
【0064】
グリセリンモノステアレートの含有量が0.1重量%と少ない比較例1は、帯電防止性能が劣る(評価「×」)ため、人工毛髪としては実用に不向きであった。含有量が0.3重量%である実施例6は、帯電防止性能が良好(評価「○」)であった。含有量を0.4重量%とした実施例7は、帯電防止性能が更に向上し、評価「◎」であった。更に、含有量を0.9重量%と増加させた実施例9は、帯電防止性能が更に向上したものの、手触り感がやや劣化(評価「○」)している。更に、含有量を2.0重量%と増加させた比較例2は、手触り感の更なる劣化(評価「×」)により、人工毛髪としては実用に不向きであった。
【0065】
以上より、人工毛髪用として優れた繊維を得るためには、グリセリンモノステアレートの含有量を0.3〜1重量%とすることが必要であり、中でも、グリセリンモノステアレートの含有量を0.4〜0.5重量%とすることが好ましいことが確認された。
【0066】
また、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5、比較例3、及び比較例4を比較する。これらの各サンプルは、櫛通り性向上のためのアミノ変性シリコーンオイル(潤滑油)の表面塗布量が異なっている。
【0067】
アミノ変性シリコーンオイルの塗布量がゼロである比較例4は、櫛通り性が劣る(評価「×」)ため、人工毛髪としては実用に不向きであった。塗布量が0.005重量%である実施例3は、櫛通り性は問題なし(評価「○」)であった。塗布量を0.015重量%とした実施例4、及び塗布量を0.06重量%とした実施例2は、櫛通り性が更に向上し、評価「◎」であった。更に、塗布量を0.25重量%と増加させた実施例5は、櫛通り性の評価は「◎」であったものの、手触り感がやや劣化(評価「○」)している。更に、塗布量を0.4重量%と増加させた比較例3は、手触り感の更なる劣化(評価「×」)により、人工毛髪としては実用に不向きであった。
【0068】
以上より、人工毛髪用として優れた繊維を得るためには、アミノ変性シリコーンオイルの塗布量を0.001〜0.3重量%とすることが必要であり、中でも、アミノ変性シリコーンオイルの塗布量を0.01〜0.1重量%とすることが好ましいことが確認された。
【0069】
また、実施例2と実施例12とを比較すれば、タルクを含有する(実施例2)ことにより、タルクを含有しない(実施例11)場合よりも手触り感に優れることが確認された。
【0070】
また、実施例2と実施例11とを比較すれば、繊維断面形状を繭型(実施例2)とすることにより、丸形断面(実施例11)よりも櫛通り性に優れることが確認された。
【0071】
また、実施例2と実施例10とを比較すれば、潤滑油としてアミノ変性シリコーンオイルを用いる(実施例2)ことにより、ジメチルシリコーンオイルを用いる(実施例10)よりも櫛通り性に優れることが確認された。
【0072】
また、実施例2と比較例8〜12とを比較すれば、帯電防止剤としてグリセリンモノステアレートを用いる(実施例2)ことにより、他の帯電防止剤を用いる(実施例8〜12)よりも、特に手触り感に優れることが確認された。
【0073】
以上のとおり、表1及び表2に示す実施例1〜12、比較例1〜12の評価から明らかなように、本発明のポリ乳酸系樹脂からなる人工毛髪用繊維は、帯電防止性能、手触り感、櫛通り性が優れ商品価値の高いものであることが確認された。
【表1】


【表2】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、ポリ乳酸系樹脂を人工毛髪として用いた時の欠点である静電気の発生も少なく、櫛通り性にも優れ、かつベタツキの少ないサラッとした優れた手触り感を有する人工毛髪用繊維を提供できる。このような櫛通り性やサラッとした手触り感のある風合いは、特に、人工毛髪用繊維として非常に重要な要素である。この人工毛髪用繊維は、例えば、カツラ、エクステンション、及び人形毛髪等に好適に用いることができる。また、かかる繊維は、バイオマス素材でありかつ生分解性を有し、地球環境上も産業上も有用なものである。
【符号の説明】
【0075】
1…人工毛髪用繊維。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂を主成分とする人工毛髪用繊維であって、
前記ポリ乳酸系樹脂中に0.3〜1重量%のグリセリン脂肪酸エステルが含有されており、
総重量の0.001〜0.3重量%のシリコーンオイルが繊維表面に付着していることを特徴とする人工毛髪用繊維。
【請求項2】
前記シリコーンオイルが、アミノ変性シリコーンオイルであることを特徴とする請求項1に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項3】
更に、平均粒子径D50が0.5〜10μmであるタルクが、前記ポリ乳酸系樹脂中に0.05〜1重量%含有されていることを特徴とする請求項1または2に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項4】
断面形状が、
2つの円を一部重複させ連結してなる形状、又は2つの楕円を一部重複させ連結してなる形状をなす繭型であり、
前記円又は楕円が連結された方向に測った断面の最長の長さをaとし、
前記円又は楕円が連結された方向に直交する方向に測った断面の最長の長さをbとし、
前記円又は楕円が重複する部分に現れるくびれ部分の最狭部を、前記円又は楕円が連結された方向に直交する方向に測った長さをcとしたとき、
長さの比a/bが1〜3であり、
長さbが0.02〜0.1mmであり、
長さの比b/cが1.1〜2.5であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項5】
前記グリセリン脂肪酸エステルが、グリセリンモノステアレートであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の人工毛髪用繊維。


【図1】
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【公開番号】特開2011−42899(P2011−42899A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192130(P2009−192130)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】