説明

人工海藻部材

【課題】人工海藻の構造体を構成する人工海藻部材において、人工海藻の葉状体が堅牢であって、水流が強い環境に使用しても容易に破損せず、十分な耐久性を発揮するとともに、葉状体の表面が、海藻の胞子が付着して生育するためにより好適な状態にあるものを提供する。
【解決手段】人工海藻部材と、その固定部材とからなる人工海藻の構造体に使用する人工海藻部材が、葉状体3、葉状体取付部材および浮き5からなるものにおいて、葉状体3は、不織布製または織布製の裏打材31と、表面が凹凸に富んだ再生ラバーシート32との積層体を裁断して得たベルトである。葉状体のベルトは、浮き5により水中でU字形状を形成する。浮き5は、閉鎖気泡を有する発泡プラスチック製の浮力付与材51をプラスチック製の浮き取付具52により、葉状体のほぼ中央部に取り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工海藻の構造体に使用する人工海藻部材に関する。人工海藻の構造体とは、その表面に海藻が付着して生育することにより、魚礁として役立つとともに、海岸または河岸の砂浜の洗掘を防止するはたらきも期待して設置する構造体である。
【背景技術】
【0002】
海岸や河岸の砂浜の砂が水流に流されて失われる、いわゆる「洗掘」を防ぐことを目的として、水底に置いた格子状の基礎にとりつけたプラスチックのリボンを海藻のように生やした、人工海藻の使用が試みられた(非特許文献1)。この人工海藻を試験的に用いた結果、漂砂が堆積して洗掘が防止されるという効果に加えて、魚礁としての効果も得られることがわかった。人工海藻となるプラスチックのリボンにほんものの海藻が生え、それを食べに貝類が付着し、また魚が卵を産み、幼魚が育つという働きである。水流で砂が流されなければ、次第に砂が堆積して格子が砂に埋もれ、人工海藻とそれに付着したほんものの海藻とが安定して生育するようになる。このようにして、漁業者らが「藻場」と呼んでいる海藻の密集した区域が、人工的に形成される。
【0003】
海藻に模したプラスチックのリボンとして、最近では、発泡プラスチックを使用して、海水・河水との比重の差を大きくし、浮力によりリボンが水中でよく立ち上がるようにしている。激しい海流でリボンが千切れると、人工海藻としての効力を失い、千切れた片が水面を漂って環境を損なうので、丈夫なシート状物と積層するなどして、リボンを補強することが行なわれている。
【0004】
このようにして形成される人工の藻場は、その効果を発揮するためには、ある程度の広がりをもつことが必要である。そこで実際には、鋼の丸棒か、またはワイヤを撚ったものを何本か、平行かつ直交させて配置し、交点で溶接して一体化し、たとえば幅が1mで長さが2mの長方形といった大きさの格子状体とし、そこへ発泡プラスチックのリボンからなる葉状体をとりつけた構造体を製作して、それらを必要な数だけ、海底、河底、湖底(以下「海底」で代表させる)へ配列することで、藻場を形成している。発明者は、上記のような人工海藻構造体において、鋼の丸棒に代えてスチールワイヤを使用し、ワイヤへの人工海藻リボンの取り付け方を合理化することにより、組立てに工数がかからず、製造コストも低く抑えられる構造体を開発して、すでに開示した(特許文献1)。
【0005】
ところが、人工海藻の構造体を配置する海底は、平坦とは限らない。大きな石を海底に敷き並べたマウンドは、比較的平坦であるが、天然のままの海底面は様々である。スチールワイヤで格子を形成し、ポリエチレンのコーティングを施して耐食性をもたせたものでも、緩やかに変化する面にはある程度対応できるが、急激な変化には追従できない。そうなると、人工海藻の固定からして困難な場合が出てくるし、藻場として役に立たないこともある。
【0006】
この問題を解決し、藻場を形成するための人工海藻の構造体が、海底の激しい凹凸や、急な傾斜にもよく適応して、海底に密着した人工の藻場を形成することを可能にする、フレキシブルであって、しかも構造が簡単で容易に組み立てることができ、コストが低廉なものを提供することを意図して、発明者は、柔軟なロープで格子状体を形成した基礎部材、基礎部材にとりつける人工海藻部材、人工海藻部材の取付部分を包み込んで基礎部材に固定する人工海藻取付部材、およびこれら各部材の組み合わせを海底の所定の位置に固定するための固定部材を本質的な構成要素とする、人工海藻の構造体を提案した(特許文献2)。
【特許文献1】特開2001−54334
【特許文献2】特開2003−158947
【非特許文献1】菅原・永井「港湾技研資料」No.771, Mar. 1994 (運輸省港湾技術研究所)
【0007】
上記した人工海藻の構造体は、試用の結果、基礎が剛体のものも、フレキシブルなものも、人工海藻としての機能を果たすことが確認できたが、長期にわたって使用した場合、使用環境によっては耐久性に問題が出ることがわかった。すなわち、水流がほとんどないか、または弱い環境であれば問題ないが、流れの強いところに使用した場合、発泡プラスチックのリボンからなる葉状体が、たとえ丈夫なシート状物と積層してリボンを補強してもなお、破損して失われることが経験された。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の第一の目的は、人工海藻の構造体を構成する人工海藻部材において、葉状体が堅牢であって、水流が強い環境に使用しても容易に破損せず、十分な耐久性を発揮するとともに、浮力が向上して、水中でほぼ直立の状態を保つことができるものを提供することにある。本発明の第二の目的は、人工海藻の構造体において、葉状体の表面が、海藻の胞子が付着して生育するためにより好適なものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の第一および第二の目的を達成する本発明の人工海藻部材は、水中に設置したときの状態を図1および図2に示すように、人工海藻部材(1)と、人工海藻部材を水中の所定の位置に固定するための固定部材(図示してない)とからなる人工海藻の構造体に使用する人工海藻部材において、人工海藻部材(1)が、葉状体(3)、葉状体取付部材(4)および浮き(5)からなり、葉状体(3)は、不織布製または織布製の裏打材(31)と再生ラバーシート(32)との積層体を裁断して得たベルトを、再生ラバーシートの側を表面に向けたものであり、葉状体のベルトの両端はそれぞれが葉状体取付部材(4)に把持されてU字形状を形成し、浮き(5)は、閉鎖気泡を有する発泡プラスチック製の浮力付与材(51)をプラスチック製の浮き取付具(52)により、葉状体のほぼ中央部に取り付けたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の人工海藻部材は、葉状体(3)として、織布または不織布からなる裏打ち材(31)と再生ラバーシート(32)との積層体を裁断して得たベルトを使用するから、激しい水流にさらされても、また葉状体どうしが接触するようなことがあっても、葉状体が破損することが少なく、発泡プラスチックシート製のリボンにくらべて、葉状体の耐久性が格段に向上している。葉状体のU字状体の底部、つまり水中では頂部の付近に浮きを設け、十分な浮力を与えることによって、水中でのU字形状の維持が十分に行われることも、葉状体どうしの接触の可能性を減らすのに寄与する。
【0011】
再生ラバーシート、とりわけ後記する方法で製造した再生ラバーシートの表面は、凹凸に富んでいて、海藻の胞子が付着して生育するためにより好適な条件を与える。したがって、この葉状体を用いた人工海藻部材は、海藻が生育しやすく、かつ、成長が速やかであるうえ、生育した海藻が脱落することもない。各構成部品は、葉状体を構成する裏打ち材と再生ゴムのラバーシートとの積層材をはじめ、安価な原料を使用して容易に製造できるから、コストは低く抑えることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
葉状体(3)のベルトとして使用する、不織布製または織布製の裏打材(31)と再生ラバーシート(32)との積層体の製造は、さまざまな手段により行うことができるが、つぎの方法が好適である。すなわち、廃タイヤをカットして「ひじき」状の(サイズが比較的大きく、形が不規則なもの)再生ゴム破砕片を得、それに接着剤となるものを適用して型に入れ、上にポリエステルなど、ゴムとなじみのよく、海水に耐える繊維の不織布を広げて載せ、適宜の時間、加圧下に加熱して固結させる。この製造方法によれば、表面が凹凸に富んだ、強固な再生ラバーシート(32)が形成される。再生ラバーシートの側を外にしてU字形状を形成させれば、その凹凸に富んだ表面を利用できる。
【0013】
浮き(5)は、葉状体に対し、水中でU字形状を保つために必要な浮力を与える能力があり、それを維持することができればよい。取り付け位置は、葉状体の長さ方向の中央部付近、つまりU字形状の底部となる部分の近くが適当である。好ましくは、図示したように、2個またはそれ以上を取り付ける。浮力が十分であれば、葉状体が常にU字形状を保っているから、隣接する葉状体どうしが接触して、海藻が打撃を受けたり、葉状体自体が損なわれたりする危険がほとんどなくなる。具体的な構成例としては、図2に示したように、フランジを有するプラスチック製の箱である浮き取付具(52)の内部に、発泡ポリスチレン製の浮力付与材(51)を充填したものを、葉状体(3)を挟んで、フランジどうしを接合することにより取り付ける。フランジどうしの接合は、接着剤の使用、熱融着、適宜のビスないし釘の使用など、任意の手段で行なえる。
【0014】
葉状体取付部材(4)は、図1Bに示すような、U字型の溝の形状である底部(41)と、それから延びる、葉状体(3)の厚さに対応した間隔の平行部(42)を有し、葉状体を固定するファスナー(44)を通すための、適宜の数(図示した例では2個)の孔(43)を設けたものが適切である。1個の葉状体取付部材に対して、1枚ないし数枚(図示した例では2枚)の葉状体をとりつけることができる。この葉状体取付部材は、たとえば、プラスチック材料で製造することができる。プラスチック材料としては、剛性とともに若干の弾性をもつものがよく、通常は、低密度ないし高密度のポリエチレン、またはポリプロピレンが好適である。製造方法は任意であるが、押出成形と切断の組み合わせで容易に製造することができ、その方法が推奨される。
【0015】
人工海藻の構造体は、人工海藻部材を海底に固定することによって完成する。そのための固定部材として図3に示したものは、両端が相互に遠ざかる方向に延びた、コ字型の軸と、その両端を構造体に固定するアンカーボルトの組である。これは、人工海藻を人工漁礁のようなコンクリート構造体に取り付ける場合に使用するのに適した固定部材であるが、そのほかに、人工海藻の構造体を構成する基礎部材があり、それらは、たとえば前掲の特許文献1および2に開示のようなものがある。
【0016】
特許文献1に記載した基礎部材は、スチールワイヤを縦横に交差させて格子を形成し、各交点を溶接して形成した格子状体であって、全体が剛体である。特許文献2に記載した基礎部材は、柔軟なロープが縦横に交差して格子を形成し、各交点において、ロープを通すための、近接して直交する2本の孔をもった、プラスチック成形品のブロックである交点固定具により固定されて格子を維持するものであり、フレキシブルである。このような基礎部材を有する人工海藻は、各部材の組み合わせを水底に沈めるに足りる重さのオモリ、または水底に固定するアンカーを用いて、海底に固定する。基礎部材として剛体を使用するか、フレキシブルなものを使用するか、また固定にどのような手段を採用するかは、人工海藻に作用する水流の強さや施工の難易など、設置しようとする海底の状況に応じてえらべばよい。
【実施例】
【0017】
使用済みタイヤから取得したゴムの破砕片を積み重ね、トルエンを加えて撹拌してから、縦2m×横1mの、浅い箱と蓋とからなる構造の型に入れた。その上にポリエステル繊維の不織布を敷いて、蓋をした。この型を、加熱手段を備えたプレスに挟み、100〜130℃に加熱し、0.15kg/cm2の圧力で加圧することにより、厚さ10mmの不織布−再生ゴムのラバーシート積層材を得た。この積層材を長手方向に幅50mmでスリットし、長さ2m×幅50mm×厚さ10mmのベルトとすることによって、葉状体を製作した。葉状体の両端には取り付けのための孔を、2個ずつあけた。
【0018】
ポリエチレンの射出成形により、内部が縦50mm×横50mm×深さ15mmの空所をもち、両側にフランジが張り出した箱状の成型品を、浮き取付具として用意した。フランジには、一方に3本、他方に2本の突出部と、それに対応する孔とを設けておいた。成型品の空所に、浮力付与材として、発泡ポリスチレンを対応するサイズに切断したものを押し込んだ。これを2個、葉状体のベルトを挟んで対抗させ、フランジの突出部を孔に通し、突き出た部分を加熱してつぶすことにより接合して、浮きとした。この浮きは、葉状体の中程に、約10cmの間隔をもって、2個とりつけた。
【0019】
別に、ポリエチレンの押出成形−切断−孔あけという一連の加工により、図1に示した形状をもち、長さ18cm、平行部分(42)の間隔が12mmで、底部(41)がこれと同じ半径の半円形断面をもつ、ブラケット形状をした葉状体取付部材(4)を成形した。これに4個の孔(43)をあけ、外側から銅のワイヤをファスナー(44)として通し、内側でその端を曲げることにより、2本の葉状体ベルトの両端を固定した。一方、鋼製の棒をコ字型に曲げ、その両端に、ボルトの通る孔を開けた長方形の板を溶接した。その表面に、ポリエチレン粉末の流動浸漬によるコーティングを施し、図3にみるような基礎部材を用意した。
【0020】
人工漁礁用のコンクリート構造体を製造するに当たり、25cm間隔で、硬質プラスチック製のアンカーボルト4本を、長辺が25cm、短辺が15cmの長方形の頂点に埋め込んだ。上記した、2本の葉状体を取り付けた葉状体取付部材の底部に通した基礎部材を、これらのアンカーボルトでコンクリート構造体に固定した。2本ひと組の葉状体は、12組、すなわち24本が1セットの人工海藻の構造体を形成するようにした。このような人工海藻を備えたコンクリート構造体を、潮の満ち干に伴って海水の流入および流出があるために水流が激しい海底に設置し、1年後に観察したところ、多量のアラメやカジメが付着生育しており、一方、葉状体には損傷はみられなかった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の人工海藻部材の一例についてその構造を示す図であって、Aは葉状体の面方向からみた側面図、Bはそれと直角方向からみた側面図。
【図2】本発明の人工海藻部材を構成する葉状体と、浮きの構造を示す拡大断面図。
【図3】人工海藻部材を固定する態様について一例を示す、固定部分の断面図。
【符号の説明】
【0022】
1 人工海藻部材
3 葉状体
31 裏打材
32 再生ラバーシート
4 葉状体取付部材
41 葉状体取付部材の底部
42 平行部
43 孔
44 ファスナー
5 浮き
51 浮力付与材
52 浮き取付具


【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工海藻部材(1)と、人工海藻部材を水中の所定の位置に固定するための固定部材(図示してない)とからなる人工海藻の構造体に使用する人工海藻部材において、人工海藻部材(1)が、葉状体(3)、葉状体取付部材(4)および浮き(5)からなり、葉状体(3)は、不織布製または織布製の裏打材(31)と再生ラバーシート(32)との積層体を裁断して得たベルトであり、葉状体のベルトの両端はそれぞれが葉状体取付部材(4)に支持されてU字形状を形成し、浮き(5)は、閉鎖気泡を有する発泡プラスチック製の浮力付与材(51)をプラスチック製の浮き取付具(52)により、葉状体のほぼ中央部に取り付けたものであることを特徴とする人工海藻部材。
【請求項2】
葉状体(3)のベルトとして、使用済みゴム製品の破砕片の表面に接着材を適用したものを型に入れ、その上にポリエステル繊維製の不織布を積み重ね、加圧下に加熱して融着させることによって得た、表面が凹凸に富んだ再生ラバーシートの層を有する積層体を使用した請求項1の人工海藻部材。
【請求項3】
浮き(5)が、フランジを有するプラスチック製の箱である浮き取付具(52)の内部に、発泡ポリスチレン製の浮力付与材(51)を充填したものを2個、葉状体(3)を挟んで、フランジどうしを接合することにより取り付けた請求項1の人工海藻部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−98(P2008−98A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174645(P2006−174645)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(506218701)
【Fターム(参考)】