説明

人工皮革及びその製造方法

【課題】軽量でありながら強度に優れ、且つ難燃性を有し、且つ加工性、着用性に優れた人工皮革の提供する。
【解決手段】ポリエステル収縮繊維、潜在捲縮繊維、およびメタ型アラミド繊維を主体とする混合繊維が交絡され、且つそれぞれの収縮と捲縮が顕在化された不織布からなる見掛け密度が0.25〜0.55g/cmの人工皮革であって、下記(a)〜(c)の要件を同時に満足する人工皮革により、上記の加工性、着用性、高強度軽量性、および難燃性の課題が解決される。
(a)ポリエステル収縮繊維が人工皮革を基準として10〜45重量%の範囲にあること。
(b)潜在捲縮繊維が人工皮革を基準として7〜25重量%の範囲にあること。
(c)メタ型アラミド繊維が人工皮革を基準として4〜35重量%の範囲にあること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量で強度に優れ、難燃性を有し、且つ加工性、着用性に優れた人工皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人工皮革は多岐に渡る用途に使用され、その天然皮革には無い軽量性、耐水性などの特徴から現在ではなくてはならない素材として生活に浸透している。特にスポーツシューズ、シルバー向けウォーキングシューズ、ランドセル、あるいは家具・車輌シートなどの用途ではさらなる軽量化と着用時の引っ張り強度、限定された引っ張り伸度(伸び止め)が望まれている。また同時に、登山靴、鞄類、および家具・車輌シートなどは、火気に対する安全の面から難燃性が求められている。従来から人工皮革の軽量化が追求されてきているが、軽量化をすすめるには繊維と高分子弾性体の複合構造物である人工皮革の繊維構成量と高分子弾性体の構成量を少なくすることが必要となり、皮革類の本来の風合い(加工性、着用性)などを犠牲にせざるを得ないのが現状である。
【0003】
そのため人工皮革の軽量化について、繊維面で改良を加え、例えば、特開平11−100780号公報、特開平11−81153号公報の記載にあるように、高中空ポリエステル綿を使用して軽量化を実現させる試みがなされている。しかしながら軽量化による人工皮革としての風合い(加工性、着用性)の低下を防ぐために、ここに使用する高中空ポリエステル綿に収縮性を付与して、不織布となした後に加熱により面積収縮で密度を高めている。この方法では、高中空綿を使用し軽量化を試みながら、風合いを維持するために面積収縮を併用しているため、高密度不織布となり、せっかくの軽量化の効果が減する方向にある。このように軽量化と風合い向上を同時に達成できていないのが現状である。
【0004】
また、これらの人工皮革に火気に対する安全性を高める目的で難燃性付与の要求が高まり、ハロゲン系の難燃剤、リン系の難燃剤などが人工皮革に処理されている。これらの難燃剤は、ハロゲン、リンなどが使用され、製造時の排水汚染、使用時の人体への悪影響、および製品使用後の廃棄における環境汚染などが大きな課題となっている。
【0005】
この点で非ハロゲン非リン系の難燃性繊維として公知のアラミド繊維を使用することが考えられる。しかしながらアラミド繊維は高弾性、高密度であるため人工皮革とした場合粗硬で重くペーパーライクで着用感に劣るものである。特開平4−209858号公報にはアラミド繊維を多量の高収縮性繊維と混合し収縮させた不織布を用いた人工皮革の実施例が示されている。ある程度改良は可能なものの、しかしこのように高収縮性繊維を多量に用いると高密度の人工皮革となり、重く且つ風合いの硬いものとなり、難燃性は良くてもよりソフトで足なじみの良い人工皮革とすることは難しいというのが現状であった。
こうした現状に鑑み軽量で高強度、風合いが天然ライクで、難燃性に富む人工皮革の開発が大いに望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開平11−100780号公報
【特許文献2】特開平11−81153号公報
【特許文献3】特開平4−209858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、人工皮革の難燃性向上を図り、且つ風合いがソフトで、加工性、着用性の低下を生じることなく、むしろ向上させた人工皮革を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、ポリエステル収縮繊維(A)、および潜在捲縮繊維(B)、およびメタ型アラミド繊維(C)を主体とする混合繊維が交絡され、且つそれぞれの収縮と捲縮が顕在化された不織布(D)を構成成分とする見掛け密度が0.25〜0.55g/cmの範囲の人工皮革であって、該ポリエステル収縮繊維(A)が人工皮革を基準として10〜45重量%の範囲にあること、および該潜在捲縮繊維(B)が人工皮革を基準として7〜25重量%の範囲にあること、およびメタ型アラミド繊維(C)が人工皮革を基準として4〜35重量%の範囲にあることの要件を同時に満足する人工皮革とする。特にポリエステル収縮繊維が高中空繊維であることが軽量化に好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、軽量化された人工皮革であり、従来の同等の見掛け密度を有する人工皮革に比べ、その風合い(加工性、着用性)と共に難燃性が大幅に改良されたものである。これは、公知の収縮糸による不織布適正密度化技術と、特に潜在捲縮糸の捲縮発現による不織布繊維構造改良効果により、軽量性と風合い指数のバランスを実現させ、高強度難燃性のメタ型アラミド繊維を併用したとしても粗硬感がなく、風合い、軽量、強度、難燃性を兼ね備えた人工皮革とすることが出来たことによるものである。特に潜在捲縮繊維自体は公知であるが人工皮革の不織布に用いて適切に立体捲縮を発現させる効果により軽量と風合いをバランスさせることができたことが大きい。高中空ポリエステル収縮繊維を用いることが軽量化に好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明について詳細に説明する。本発明におけるポリエステル収縮繊維(A)とは、70℃の温水中で45%以上の収縮率を有している繊維である。中でも中空部割合が40%以上の高中空であるポリエステル収縮繊維が好ましい。高中空とは、繊維横断面における中空率が40〜85%の範囲にあるものであり、45〜75%より好ましくは50〜70%の範囲にあることが軽量性の点で好ましい。中空率が85%を超える場合には、繊維壁面の厚さが薄くなりすぎ中空部破断が発生しやすくなり好ましくない。
【0011】
中空率とは、繊維横断面において該横断面の外周部で囲まれた図形の面積を基準とした時の、中空部の総面積の割合(%)をいう。繊維横断面における中空部の数は一つであっても複数であってもよいが、複数の中空部を形成した場合には、一つの中空部を形成した中空繊維と同一の中空率であっても、繊維壁面の厚さが薄くなり、風合いがソフトなものになる、また中空内に部分的な支えができて中空部が潰れ難くなるとともに回復性も向上するといった好ましい点もあるが、形成する中空部の数が15を超えるようなハニカム状の繊維横断面形状を有する中空繊維では、繊維壁面の厚さが薄くなり過ぎて紡糸延伸性が低下し易い、中空破断が発生し易い、圧縮応力に対する抵抗性が低下して形態保持性が悪化し易い、といった問題が生じるので好ましくない。また、中空部の形状は任意であるが、該形状が真円である場合には高中空率のものが得られ易く、また中空形状の回復特性も良好なので好ましい。
【0012】
ポリエステル収縮繊維(A)の単繊維繊度は、0.1〜8.0dtexであり、好ましくは0.2〜1.0dtex、特に、0.5〜1.0dtexの範囲にあることが好ましい。該単繊維繊度が0.1dtex未満の場合には、カード機での生産効率が低下するため好ましくない。一方、8.0dtexを超える場合には、カード機での生産効率は安定で良好であるものの、本発明のソフト性、加工性を人工皮革に発現させることが困難となるため好ましくない。
【0013】
高中空ポリエステル収縮繊維の場合も、単繊維繊度は、0.1〜8.0dtexであり、好ましくは0.2〜1.0dtex、特に、0.5〜1.0dtexの範囲にあることが好ましい。上記の理由の他に、該単繊維繊度が0.1dtex未満の場合には、繊維を安定して生産することができなくなり、また得られる中空繊維の中空率も小さくなりやすい。一方、8.0dtexを超える場合には、製糸時の工程安定性は良好であるものの、繊維横断面における中空壁面の厚さが大きくなるため中空潰れが発生した場合の変形歪が大きくなり、中空形状の回復特性が低下するため好ましくない。
【0014】
本発明のポリエステル収縮繊維に収縮性を付与させるためには、延伸温度、および延伸倍率を調整することにより得ることができる。繊維に収縮性を付与することにより、交絡された不織布を温水中で面積収縮させて繊維分布の均質化を図り、人工皮革としての風合いを向上させることができる。(ここで人工皮革の風合いとは、ソフト性、ストレッチバック性、厚み方向のクッション性、折れジワ感、ボリューム感、加工性、着用性を含めた天皮ライク性を示し、単に風合いといっても全ての特性を含む場合もあり、一つが二つの特性を言う場合もある)しかしながら、面積収縮により結果として不織布の見掛け密度が高まるため軽量化の目的からは反するものともなっている。これらの面積収縮による風合い改良を生かし、且つ密度アップを防ぐことを目的として潜在捲縮繊維(B)を混合させることが本発明の特徴である。
【0015】
本発明の潜在捲縮繊維(B)とは、乾熱温度100℃以上の温度で三次元捲縮を発現するものが好適に使用され、温度が100℃未満では捲縮が発現しないか、又は発現しても一部分であり大部分(50%以上)の捲縮は温度が100℃以上の時に発現するものが好ましい。三次元捲縮とは加熱処理により発現する例えば微細なスパイラル或いはループ状の捲縮を指す。
【0016】
潜在捲縮繊維(B)としては、従来公知の繊維が使用できるが、極限粘度の異なる2種類以上のポリエステルからなる複合繊維であって、例えば2成分のサイドバイサイド型や偏芯芯鞘型の複合繊維が挙げられる。ポリエステルの極限粘度差は熱収縮特性差となり、熱処理することで微細な捲縮が発現する潜在捲縮能を有するものとなる。又潜在捲縮能としては170℃でのフリー収縮で20〜90ヶ/inchを発現するものが好ましい。20ヶ未満では得られる不織布、人工皮革のソフト性、人工皮革の風合い指数の高いものが得られない。又90より高いと余りに捲縮が微細に成りすぎ風合いを向上させる効果が低下する。潜在捲縮能は使用するポリエステルの種類、使用割合、延伸条件、延伸倍率等で調整することが出来る。また、ポリエチレンテレフタレートの紡糸時に片面から冷却する方法なども潜在捲縮能を付与する方法として挙げられる。
【0017】
潜在捲縮繊維に使用するポリエステルとしては、例えばポリエチレンテレフタレートとイソフタル酸変性などの変性ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートとポリプロピレンテレフタレートなど適宜2成分として用いることができる。2成分の重量比率としては30:70〜70:30、好ましくは40:60〜60〜40である。
【0018】
該潜在捲縮繊維(B)の単繊維繊度としては、0.1〜8.0dtexであり、好ましくは0.2〜1.0dtex、特に、0.5〜1.0dtexの範囲にあることが好ましい。該単繊維繊度が0.1dtex未満の場合には、カード機での生産効率が低下するため好ましくない。一方、8.0dtexを超える場合には、同じ重量であっても細い繊維と比較して繊維本数が減少するため不織布の密度均一性得られ難く、本発明の人工皮革の風合いが得られないため好ましくない。
【0019】
本発明で使用されるアラミド繊維とは、アミド結合の60%以上、好ましくは85%以上が芳香環に直接結合した線状高分子化合物からなる繊維を意味する。このようなアラミド繊維としては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミドおよびその共重合体のようなメタ型アラミド繊維、ポリパラフェニレンテレフタルアミドおよびその共重合体、ポリ(パラフェニレン)−コポリ(3,4−ジフェニルエーテル)テレフタルアミドのようなパラ型アラミド繊維などがあるが、難燃性の点で前者のメタ型アラミド繊維が好ましい。
【0020】
該メタ型アラミド繊維(C)の単繊維繊度は、0.1〜4.0dtexであり、好ましくは0.2〜1.0dtex、特に、0.5〜1.0dtexの範囲にあることが好ましい。該単繊維繊度が0.1dtex未満の場合には、カード機での生産効率が低下するため好ましくない。一方、4.0dtexを超える場合には、同じ重量であっても細い繊維と比較して繊維本数が減少するため不織布の密度均一性得られ難いことと、他の繊維との硬さの差が大き過ぎて本発明の目的とする人工皮革の風合いが得られないため好ましくない。
【0021】
本発明では、該ポリエステル収縮繊維(A)が人工皮革を基準として10〜45重量%、好ましくは10〜35重量%の範囲にあることと、該潜在捲縮繊維(B)が人工皮革を基準として7〜25重量%の範囲にあること、およびメタ型アラミド繊維(C)が人工皮革を基準として4〜35重量%好ましくは7〜25重量%の範囲にあることが難燃性、高強度軽量性、および優れた風合い、加工性、着用性とのバランスをとるために必要である。該ポリエステル収縮繊維(A)の混綿比率が、人工皮革を基準として45%を超えると面積収縮が大き過ぎるため硬くなり、又潜在捲縮繊維とメタ型アラミド繊維の混綿比率が低くなるため本発明の難燃性、高強度と良好な風合い、すなわち良好な加工性、着用性が得られず、また、10%未満では収縮率が小さすぎるため良好な風合い、すなわち良好な加工性、着用性が得られない。
【0022】
また、本発明の該潜在捲縮繊維(B)の混綿比率が、人工皮革を基準として25%を超えると高中空ポリエステル収縮繊維(A)とメタ型アラミド繊維(C)の比率を適正化しても本発明の人工皮革の見かけ密度が低下し、強度と風合いの良好なバランスが得られず、7%未満では本発明の風合いが得られない。
【0023】
また、メタ型アラミド繊維(C)の混綿比率が、人工皮革を基準として35%を超えると難燃性、高強度は満足できるが、硬くなるため本発明の風合いが得られず、4%未満では難燃性が得られない。
【0024】
以上で説明した該ポリエステル収縮繊維(A)、該潜在捲縮繊維(B)、およびメタ型アラミド繊維(C)を前記の混合割合で計量混綿して公知の手段であるローラーカード、フラットカードなどを用いて開繊し、得られたウェブを機械的に積層するか、空気流を使用して積層する。さらに、積層された該ウェブを絡合させるには、ニードルロッカー等によりバーブ付針でパンチングするのが最も効率的である。さらに、その他の方法としては高圧水流等による方法を採用してもよい。
【0025】
次にこのようにして得られた絡合ウェブに熱処理を施して該ウェブの面積が30%以上減少するように、好ましくは35〜60%の範囲の減少となるように収縮させる。この面積が30%未満であると、繊維密度の均一性が不十分となり、得られる人工皮革に折れ皺が発生し易くなる。また、この面積が60%を超えると、繊維密度が高過ぎるため人工皮革となされた場合の風合いが硬い、あるいは軽量性が得られないため本発明を達成することができない。
【0026】
収縮のための熱処理温度は100℃未満で行われることが好ましい。該収縮熱処理温度が100℃以上の場合は、該潜在捲縮繊維(B)の三次元捲縮が同時に発現することとなり好ましくない。該収縮処理温度が100℃未満の場合には該潜在捲縮繊維(B)の三次元捲縮が全く発現しないか、または、その一部(発現率が50%未満)が発現するため、続いて行う高温熱処理で残りの三次元の捲縮が発現する。特に、該収縮処理では三次元捲縮を発生させず、次の高温熱処理で三次元捲縮を全面的に発生させることが好ましい。
【0027】
このように後の高温熱処理で三次元捲縮を発現させた場合には捲縮発現による繊維の変形が表層部から内層部までほぼ均一に起こるので繊維密度が均一となり風合いが向上する。さらに該高温熱処理において、ウェブの面積、厚さをほぼ一定に保つことにより密度を上げることなく行うことが出来るため風合いが向上する。面積が実質的に変化しないように拘束するには、具体的にはウェブを加圧加工してやればよく、該潜在捲縮繊維(B)の三次元捲縮の発現のみを起こさせることとなる。
【0028】
該ウェブを加圧加工する方法としては、平板プレス、シリンダープレス、ローラープレス等の滑らかな表面を有する平板、又はロール、ベルトを使用したものが採用される。さらに、それらの表面の速度を若干変えて加圧時にウェブ層内に剪断力が作用するように行うことが好ましい。また、加圧と同時に熱を加えても良く、又は、加圧前にウェブに所定温度の加熱をしておき該ウェブが冷却しない間に加圧するようにしても良い。
【0029】
以上のようにして製造したウェブは、軽量でかつソフトでボリューム感に富み、且つ高強度の人工皮革用基材に適した不織布(D)となる。この風合いが天皮ライクなソフトでボリューム感に富むようになる理由としては、明確ではないが次のような点が考えられる。収縮処理、及び高温熱処理の工程において不織布ウエッブ内のポリエステル収縮繊維、潜在捲縮繊維等の繊維相互の相対的繊維移動量が大きくなってパンチングで生じた繊維の交絡部の緊張が緩和されるためではないかと考えられる。同時に特に潜在捲縮繊維の三次元捲縮の発現によりウェブ内の繊維密度の不均一性が修正され、均一にする効果、又三次元捲縮の発現により不織布の厚さ方向の圧縮回復性が向上し高密度化が防がれていることも考えられる。
【0030】
以上で説明した不織布(D)に高分子弾性体(E)が含浸されて人工皮革用の基材(繊維複合体)となされる。高分子弾性体(E)としては、例えばポリウレタン、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、あるいはポリブタジエン、ポリイソプレンなどの合成ゴムなどが挙げられる。この中では、耐摩耗性、弾性回復性、柔軟性等の面からポリウレタンが好ましく用いられる。これらの高分子弾性体は有機溶剤で溶解、あるいは分散された溶液、あるいは水分散液として含浸に供される。好ましくは、これらの高分子は地球環境保護、および作業環境保護のためにも水溶液、あるいは水分散として含浸に供されることが好ましい。
【0031】
繊維複合体は、その表面にそのまま高分子弾性体(F)からなる着色表皮層が形成されて人工皮革となされるが、その表面にポリウレタン多孔質層を形成した上で着色表皮層を形成して人工皮革となしても良い。ポリウレタン多孔質層を得る方法としては、従来から知られている方法が採用できる。例えば、ポリウレタンの良溶剤でありかつ水と相溶性の有機溶剤にポリウレタンを溶解させ、このポリウレタン溶液を任意の厚みで支持体上にコーティングし、水浴中に浸漬して多孔凝固させる所謂湿式凝固法、またはポリウレタンを水と相溶性はないがポリウレタンを溶解あるいは分散できる有機溶剤に溶解、あるいは分散させた溶液、あるいは分散液を任意の厚みで支持体上にコーティングし、水の蒸発を妨げながら有機溶剤を選択的に蒸発させる乾式多孔成形法、またはポリウレタンの水溶液あるいは水分散液中に熱膨張性微粒子カプセルを分散させ任意の厚みで支持体上にコーティングし、乾燥しながら熱膨張性カプセルを膨張させる方法、またはポリウレタンの分子末端にアルコール性水素を有するプレポリマーとポリイソシアネート、および水を混合し、直後に任意の厚みで支持体上にコーティングする方法、または溶融ポリウレタン中に不活性ガスを分散させて任意の厚みで支持体上にコーティング、発泡させる方法、または、ケミカル発泡剤を混合したポリウレタン溶液あるいは分散液を任意の厚みで支持体上にコーティングする方法などが挙げられる。この中でも、湿式凝固法が孔の形状を制御し易く本発明のポリウレタン多孔質層を得るのに好ましい。
【0032】
ポリウレタン多孔質層は、前述の繊維複合体上に直接、コーティングなどにより形成することができ、または剥離性支持体上で作成された着色表皮層を繊維複合体に接着剤により貼り合わせても良い。
【0033】
使用するポリウレタンとしては、人工皮革用として使用されるものが適当であり、人工皮革用として使用されるポリウレタンが最も適当であり、有機ジイソシアネート、高分子ジオールおよび鎖伸長剤の重合反応で得られる従来公知の熱可塑性ポリウレタンである。
【0034】
使用される有機ジイソシアネートとしては分子中にイソシアネート基を2個含有する脂肪族、脂環族または芳香族ジイソシアネート、特に4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、P−フェニレンジイソシアネート、トルイレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0035】
高分子ジオールとしては例えばグリコールと脂肪族ジカルボン酸の縮合重合で得られたポリエステルグリコール、ラクトンの開環重合で得られたポリラクトングリコール、脂肪族または芳香族ポリカーボネートグリコール、あるいはポリエーテルグリコールの少なくとも1種から選ばれた平均分子量が500〜4000のポリマーグリコールが挙げられる。そして鎖伸長剤としてはイソシアネートと反応しうる水素原子を2個含有する分子量500以下のジオール、例えばエチレングリコール、1,4ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、キシリレングリコール、シクロヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等が挙げられる。
【0036】
以上のように作成された繊維複合体は、その表面に高分子弾性体(F)からなる着色表皮層が形成されて人工皮革となる。着色表皮層の形成方法は、従来から知られている方法が採用され、例えば、表皮用ポリマーの有機溶剤溶液、あるいは水溶液、あるいはこれらの分散液に染料、顔料などの着色剤を混合した液を繊維複合体の表面に、スプレー、あるいはコーティング、あるいは転写(ラミネート)などの方法が挙げられる。表皮用の高分子弾性体(F)としては、前記の高分子弾性体(E)と同じものが使用できるが、人工皮革用として使用されるポリウレタンが最も適当である。また、転写用の接着剤としては、従来から知られている接着剤が使用できるが、その中でもポリウレタン系接着剤(ポリイソシアネート系接着剤)が好ましく、有機溶剤系、あるいは水系のどちらも使用できる。
【0037】
また、このようにして作成される本発明の人工皮革の見掛け密度は、0.25〜0.55g/cmの範囲となるように、不織布の密度、および不織布に含浸されるポリウレタン量、および表面形成用のポリウレタンコーティング量が任意に決定される。見掛け密度が0.25g/cmに満たない場合は、軽量ではあるが、本発明の風合い(加工性、着用性)が得られない。また、見掛け密度が0.55g/cmを超える場合は、重く硬い着用性の劣るものとなる。
【実施例】
【0038】
以下、具体的に実施例によって本発明を詳細に説明する。なお、実施例中「部」および「%」とあるのは、いずれも重量基準であり、特性測定値は下記の方法で得られたものである。また、以下の例において繊度、収縮率、捲縮数、引張強度、切断伸度、柔軟性(曲げ抵抗)、腰の強さ(曲げ圧縮応力:P5)、風合い指数、は次のような方法で測定した。
【0039】
繊度
JIS L−1010−7−5−1A法により測定し、単位はdtexで表す。
収縮率
収縮前の面積をS1とする。収縮後の面積をS2とする。
収縮率は次の計算で求める。
収縮率(%)=(S1−S2)×100/S1
捲縮数
JIS L−1010−7−12−1の方法により測定し、単位はケ/inchで表す。
引張強度
JIS K 6505に準じて測定し、単位はN/cmで表す。
破断伸度
JIS K 6505に準じて測定し、単位は%で表す。
曲げ抵抗:Rb
試験片25mm×90mmを準備し、長手方向の下部の20mmを保持具で垂直方向に保持し、保持具より20mmの高さの位置にあるUゲージの測定部に試験片のもう一方の片端の先端から20mmの位置の中央部があたるように、試験片を曲げながら保持具をスライドさせて固定し、固定してから5分後の応力を記録計より読み取り、幅1cm当たりの応力に換算して柔軟度として単位はg/cmで表す。
曲げ圧縮応力:P5
2.5cm×9.0cmの試験片を一方の端より30mmの位置で折り曲げて、20mmの間隔にセットされた平板とUゲージの測定板との間に固定する。次いでUゲージの測定板を10mm/分の速度で平板と水平に下方へ移動させて試験片を圧縮し、平板とUゲージとの間隔が5mmとなった時の応力を記録計より読み取り、幅1cm当たりの応力に換算して曲げ圧縮応力(腰の強さ)とした。単位はmN/cmとした。
風合い指数
風合い(加工性、着用性等)を評価する手段として、その構造の緻密性と均一性によってもたらされる柔らかくて腰が強いことを評価することとし、この指標として(曲げ圧縮応力)/(曲げ抵抗)を皮革ライク性として表す。この値が高いほど風合いが良いことを示す。
難燃性
英国防炎規格(布張家具用防炎試験)BS5862に準じた方法で実施し、バーナーとしはブンゼンバーナーを使用し、ガスは都市ガスを使用し、炎長3.5cmとしてバーナーを45°に傾け20秒接炎した後の燃焼長さで表す。
【0040】
[実施例1]
[ポリエステル収縮繊維の作成]
酸化チタンを0.07重量%含有する、固有粘度0.64のポリエチレンテレフタレートを溶融し紡糸ノズルから引き取って単繊維繊度が3.2dtexの未延伸糸を得た。得られた該未延伸糸を温度65℃の温水中で、延伸倍率3.5倍で1段延伸して、単繊維繊度が1.0dtex、カット長が51mmのポリエステルの短繊維(ポリエステル収縮繊維−1)を得た。なお、該ポリエステル収縮繊維−1は、温度70℃、20分間の温水処理により45%収縮する繊維であった。
【0041】
[潜在捲縮繊維−1の作成]
5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分を2.5モル%共重合した固有粘度0.48のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルと、固有粘度0.35のポリエチレンテレフタレートとを複合重量比1:1のサイドバイサイド型複合繊維として製糸し、加熱処理により三次元捲縮を発現する繊維繊度1.5dtexの二成分コンジュゲートポリエステル繊維を作成した。カット長35mmにカットし短繊維(潜在捲縮繊維−1)とした。乾熱170℃の無荷重下で処理した時の捲縮数は55ケ/inchであった。
【0042】
[メタアラミド繊維の作成]
2500部のテトラヒドロフランに152.5部のイソフタル酸クロライドを溶解し0℃に冷却した。次に、2500部の水にメタキシリレンジアミン102.3部と無水の炭酸ナトリウム111.3部を溶解し5℃に冷却した後、激しく攪拌しながら上記テトラヒドロフラン溶液を加えた。3分後に2500部の水を加え、5分間攪拌を続けた後、生成したポリマーを濾別し、2500部の水で3回水洗した後、100℃で減圧乾燥した。得られたポリメタキシリレンイソフタルアミド(IV:1.0)をN−メチル―2―ピロリドンにポリマー濃度が20.0%となるように溶解して紡糸液を調整した。得られた紡糸液を孔径0.08mm、孔数10,000のノズルより速度4.0m/分で塩化カルシウムを主体とする無機塩浴中に押し出し凝固を行い、水洗後沸水中で2.30倍に延伸し、引き続き320℃の温度の熱板上で1.82倍に延伸し、捲縮、カットした。このようにして、繊度1.5dtex、カット長51mm、強度3.6g/dtex、および伸度40%のメタアラミド短繊維を得た。
【0043】
[不織布−1の作成]
上記の作成したポリエステル収縮繊維50部と潜在捲縮繊維−1、25部、およびメタ型アラミド繊維25部を混綿した後、カード機を通してウェブを作成し、次いでバーブ3個を有する針を装着したニードルロッカールームで1000本/cmの打ち込み密度にてパンチングを行い繊維を交絡させて、目付け145g/mのウェブを得た。該ウェブを70℃の温水中に2分間浸漬して、面積収縮が37%となるように収縮させ、次いで50℃で乾燥させて、150℃に加熱された金属ドラムと60メッシュのステンレスネットベルト間に把持しながら60秒間の加熱処理を施して目付け230g/m、厚さ1.00mm、見掛け密度0.23g/cmの不織布−1を得た。得られた不織布−1は、ソフトでクッション性に富み、伸び止め感のあるものであった。
【0044】
[人工皮革−1の作成]
得られた不織布−1を6重量%のポリウレタン(大日本インキ化学工業(株)製;クリスボンTF50P)−DMF溶液を浸漬させた後、繊維集合体表面の余分な溶液をかきとり、基材厚さの90%でスクイズした後、基材の圧縮が回復する前に20重量%のポリウレタン(大日本インキ化学工業(株)製;クリスボンTF50P)−DMF溶液を500g/mの目付けでコーティングし、次いで水中に浸漬してポリウレタンを凝固させDMFを十分に洗浄除去した後120℃で乾燥してポリウレタン多孔質層の形成されたシートを得た。得られたポリウレタン多孔質層を有するシートの表面に、10%ポリウレタン−DMF溶液に白顔料を分散させた塗料を110メッシュのグラビアロールにて塗布と乾燥を4回繰り返し、白色表面を有する人工皮革−1を得た。得られた人工皮革−1は、目付けが387g/m、厚さが1.25mm、見かけ密度が0.310g/cmであり、ポリエステル収縮繊維の人工皮革重量を基準としての比率は29.7重量%、また、潜在捲縮繊維の人工皮革重量を基準としての比率は14.9重量%、またメタ型アラミド繊維の人工皮革重量を基準としての比率は14.9%であった。なお、人工皮革−1は、ソフトであり、厚さ方向でのクッション性に富み、表面を内側に曲げても大きな皺で折れることもないものであり、曲げ抵抗(Rb)1.3g/cm、曲げ圧縮応力(P5)67g/cmであり、風合い指数は51.5であった。また、引張強度は、タテ141N/cm、ヨコ135N/cmであり、切断伸度は、タテ86%、ヨコ92%であり人工皮革としての強度と伸度のバランスのとれたものであった。なお、難燃性は、5mmと僅かに燃焼したが自己消火の良好なものであった。表1に物性を併せて示す。
【0045】
[実施例2]
[高中空収縮繊維の作成]
酸化チタンを0.07重量%含有する、固有粘度0.64のポリエチレンテレフタレートを溶融し中空型紡糸ノズルから引き取って単繊維繊度が3.2dtex、中空率が50%の未延伸糸を得た。得られた該未延伸糸を温度65℃の温水中で、延伸倍率3.5倍で1段延伸して、単繊維繊度が1.0dtex、中空率が50%、カット長が51mmの高中空ポリエステルの短繊維(高中空ポリエステル収縮繊維)を得た。なお、該高中空ポリエステル収縮繊維は、温度70℃、20分間の温水処理により45%収縮する繊維であった。
【0046】
[不織布−2の作成]
上記で作成した高中空ポリエステル収縮繊維50部と潜在捲縮繊維−1、25部、およびメタ型アラミド繊維25部を混綿した後、カード機を通してウェブを作成し、次いでバーブ3個を有する針を装着したニードルロッカールームで1000本/cmの打ち込み密度にてパンチングを行い繊維を交絡させて、目付け134g/mのウェブを得た。該ウェブを70℃の温水中に2分間浸漬して、面積収縮が33%となるように収縮させ、次いで50℃で乾燥させて、150℃に加熱された金属ドラムと60メッシュのステンレスネットベルト間に把持しながら60秒間の加熱処理を施して目付け200g/m、厚さ1.05mm、見掛け密度0.19g/cmの不織布−2を得た。得られた不織布−2は、ソフトなクッション性に富んだものであった。
【0047】
[人工皮革−2の作成]
得られた不織布−2を6重量%のポリウレタン(大日本インキ化学工業製;クリスボンTF50P)−DMF溶液を浸漬させた後、繊維集合体表面の余分な溶液をかきとり、基材厚さの90%でスクイズした後、基材の圧縮が回復する前に20重量%のポリウレタン(大日本インキ化学工業製;クリスボンTF50P)−DMF溶液を500g/mの目付けでコーティングし、次いで水中に浸漬してポリウレタンを凝固させDMFを十分に洗浄除去した後120℃で乾燥してポリウレタン多孔質層の形成されたシートを得た。得られたポリウレタン多孔質層を有するシートの表面に、10%ポリウレタン−DMF溶液に白顔料を分散させた塗料を110メッシュのグラビアロールにて塗布と乾燥を4回繰り返し、白色表面を有する人工皮革−1を得た。得られた人工皮革−1は、目付けが376g/m、厚さが1.2mm、見かけ密度が0.313g/cmであり、高中空ポリエステル収縮繊維の人工皮革重量を基準としての比率は26.6重量%、また、潜在捲縮繊維の人工皮革重量を基準としての比率は13.3重量%、またメタ型アラミド繊維の人工皮革重量を基準としての比率は13.3%であった。なお、人工皮革−2は、ソフトであり、厚さ方向でのクッション性に富み、表面を内側に曲げても大きな皺で折れることもないものであり、曲げ抵抗(Rb)1.1g/cm、曲げ圧縮応力(P5)62g/cmであり、風合い指数は56.4であった。また、引張強度は、タテ132N/cm、ヨコ126N/cmであり、切断伸度は、タテ95%、ヨコ87%であり人工皮革としての強度と伸度のバランスのとれたものであった。なお、難燃性は、5mmと僅かに燃焼したが自己消火の良好なものであった。表1に物性を併せて示す。
【0048】
[実施例3]
[潜在捲縮繊維−2の作成]
5−ナトリウムスルホイソフタル酸成分を2.5モル%共重合した固有粘度0.48のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルと、固有粘度0.35のポリエチレンテレフタレートとを複合重量比1:1のサイドバイサイド型複合繊維として製糸し、温度130℃の加熱処理により三次元クリンプを発現する繊維繊度0.8dtexの二成分コンジュゲートポリエステル繊維を作成した。なお、カット長35mmにカットし短繊維(潜在捲縮繊維−2)とした。乾熱170℃の無荷重下で処理した時の捲縮数は45ケ/inchであった。
【0049】
[不織布−3の作成]
実施例1で作成したポリエステル収縮繊維−1を60部と潜在捲縮繊維−2を25部、およびメタ型アラミド繊維15部とを混綿した後、カード機を通してウェブを作成し、次いでバーブ1個を有する針を装着したニードルロッカールームで1500本/cmの打ち込み密度にてパンチングを行い、繊維を交絡させて、目付け160g/mのウェブを得た。該ウェブを70℃の温水中に2分間浸漬して、面積収縮が41%となるように収縮させ、次いで50℃で乾燥させて、150℃に加熱された金属ドラムと60メッシュのステンレスネットベルト間に把持しながら60秒間の加熱処理を施して目付け271g/m、厚さ1.00mm、見掛け密度0.27g/cmの不織布−3を得た。得られた不織布−3は、ソフトなクッション性に富み伸び止め感のあるものであった。
【0050】
[人工皮革−3の作成]
得られた不織布−3を8重量%のポリウレタン(大日本インキ化学工業製;クリスボンTF50P)−DMF溶液を浸漬させた後、繊維集合体表面の余分な溶液をかきとり、基材厚さの90%でスクイズした後、基材の圧縮が回復する前に20重量%のポリウレタン(大日本インキ化学工業(株)製;クリスボンTF50P)−DMF溶液を450g/mの目付けでコーティングし、次いで水中に浸漬してポリウレタンを凝固させDMFを十分に洗浄除去した後120℃で乾燥してポリウレタン多孔質層の形成されたシートを得た。得られたポリウレタン多孔質層を有するシートの表面に、10%ポリウレタン−DMF溶液に白顔料を分散させた塗料を110メッシュのグラビアロールにて塗布と乾燥を4回繰り返し、白色表面を有する人工皮革−3を得た。得られた人工皮革−3は、目付けが434g/m、厚さが1.20mm、見かけ密度が0.362g/cmであり、ポリエステル収縮繊維の人工皮革重量を基準としての比率は37.5重量%であり、また、潜在捲縮繊維の人工皮革重量を基準としての比率は15.6重量%、またメタ型アラミド繊維の人工皮革重量を基準としての比率は9.4%であった。なお、人工皮革−3は、ソフトであり、表面を内側に曲げても大きな皺で折れることもないものであり、曲げ抵抗(Rb)1.05g/cm、曲げ圧縮応力(P5)76g/cmであり、風合い指数は72.4であった。また、引張強度は、タテ157N/cm、ヨコ149N/cmであり、切断伸度は、タテ96%、ヨコ106%であり人工皮革としての強度と伸度のバランスのとれたものであった。なお、難燃性は、0mmと自己消火の良好なものであった。表1に物性を併せて示す。
【0051】
[実施例4]
[不織布−4の作成]
実施例2で作成した高中空ポリエステル収縮繊維を50部と潜在捲縮繊維−2を25部、およびメタ型アラミド繊維25部とを混綿した後、カード機を通してウェブを作成し、次いでバーブ1個を有する針を装着したニードルロッカールームで1500本/cmの打ち込み密度にてパンチングを行い、繊維を交絡させて、目付け160g/mのウェブを得た。該ウェブを70℃の温水中に2分間浸漬して、面積収縮が36%となるように収縮させ、次いで50℃で乾燥させて、150℃に加熱された金属ドラムと60メッシュのステンレスネットベルト間に把持しながら60秒間の加熱処理を施して目付け250g/m、厚さ1.25mm、見掛け密度0.20g/cmの不織布−4を得た。得られた不織布−4は、ソフトなクッション性に富んだものであった。
【0052】
[人工皮革−4の作成]
得られた不織布−4を6重量%のポリウレタン(大日本インキ化学工業製;クリスボンTF50P)−DMF溶液を浸漬させた後、繊維集合体表面の余分な溶液をかきとり、基材厚さの90%でスクイズした後、基材の圧縮が回復する前に20重量%のポリウレタン(大日本インキ化学工業製;クリスボンTF50P)−DMF溶液を450g/mの目付けでコーティングし、次いで水中に浸漬してポリウレタンを凝固させDMFを十分に洗浄除去した後120℃で乾燥してポリウレタン多孔質層の形成されたシートを得た。得られたポリウレタン多孔質層を有するシートの表面に、10%ポリウレタン−DMF溶液に白顔料を分散させた塗料を110メッシュのグラビアロールにて塗布と乾燥を4回繰り返し、白色表面を有する人工皮革−4を得た。得られた人工皮革−4は、目付けが430g/m、厚さが1.35mm、見かけ密度が0.319g/cmであり、高中空ポリエステル収縮繊維の人工皮革重量を基準としての比率は29.1重量%であり、また、潜在捲縮繊維の人工皮革重量を基準としての比率は14.5重量%、またメタ型アラミド繊維の人工皮革重量を基準としての比率は14.5%であった。なお、人工皮革−4は、ソフトであり、厚さ方向でのクッション性に富み、表面を内側に曲げても大きな皺で折れることもないものであり、曲げ抵抗(Rb)0.92g/cm、曲げ圧縮応力(P5)64g/cmであり、風合い指数は69.6であった。また、引張強度は、タテ172N/cm、ヨコ154N/cmであり、切断伸度は、タテ87%、ヨコ81%であり人工皮革としての強度と伸度のバランスのとれたものであった。なお、難燃性は、0mmと自己消火の良好なものであった。表1に物性を併せて示す。
【0053】
[比較例1]
[不織布−5の作成]
0.8dtex、カット長38mmの非収縮ポリエチレンテレフタレート短繊維(帝人テクノプロダクツ製)50部と実施例−2で作成した潜在捲縮繊維−2を25部、および実施例−1で作成したメタ型アラミド繊維25部とを混綿した後、カード機を通してウェブを作成し、次いでバーブ1個を有する針を装着したニードルロッカールームで1500本/cmの打ち込み密度にてパンチングを行い、繊維を交絡させて、目付け220g/mのウェブを得た。該ウェブを70℃の温水中に2分間浸漬して、次いで110℃で乾燥させたが、面積収縮は発現せず、目付け220g/m、厚さ0.92mm、見掛け密度0.239g/cmの不織布−5を得た。得られた不織布−5は、ソフトではあるがダンボール紙のような折れ皺が生じるものであった。
【0054】
[人工皮革−5の作成]
得られた不織布−5を実施例1と同様のポリウレタン溶液を使用して、また実施例1と同様の操作で含浸、コート、および表面塗装を施して白色表面を有する人工皮革−5を得た。得られた人工皮革−5は、目付けが427g/m、厚さが1.33mm、見かけ密度が0.321g/cmであり、ポリエステル収縮繊維の人工皮革重量を基準としての比率は0重量%であり、また、潜在捲縮繊維の人工皮革重量を基準としての比率は12.9重量%、またメタ型アラミド繊維の人工皮革重量を基準としての比率は12.9%であった。また、人工皮革−5は、実施例1の人工皮革−1、および実施例2の人工皮革−2に比べ、表面を内側に曲げるとダンボール紙で見られるような大きな皺で折れるものであり、曲げ抵抗(Rb)1.29g/cm、曲げ圧縮応力(P5)29g/cmであり、風合い指数は22.5であった。また、引張強度は、タテ198N/cm、ヨコ176N/cmであり、切断伸度は、タテ85%、ヨコ79%であり人工皮革としての強度と伸度のバランスのとれたものではあった。なお、難燃性は、0mmと自己消火の良好なものであった。表1に物性を併せて示す。
【0055】
[比較例2]
[不織布−6の作成]
実施例−1で作成したポリエステル収縮繊維を50部と0.8dtex、カット長38mmの非収縮ポリエチレンテレフタレート短繊維(帝人テクノプロダクツ製)を25部、および実施例−1で作成したメタ型アラミド繊維25部とを混綿した後、カード機を通してウェブを作成し、次いでバーブ1個を有する針を装着したニードルロッカールームで1500本/cmの打ち込み密度にてパンチングを行い、繊維を交絡させて、目付け130g/mのウェブを得た。該ウェブを70℃の温水中に2分間浸漬して、面積収縮が35%となるように収縮させ、次いで50℃で乾燥させて、150℃に加熱された金属ドラムと60メッシュのステンレスネットベルト間に把持しながら60秒間の加熱処理を施して目付け200g/m、厚さ0.85mm、見掛け密度0.235g/cmの不織布−6を得た。得られた不織布−6は、ソフトでクッション性のあるものであったが、表を内に曲げた場合、大きな皺が発生し、折れるものであった。
【0056】
[人工皮革−6の作成]
得られた不織布−6を実施例2と同様のポリウレタン溶液を使用して、また実施例2と同様の操作で含浸、コート、および表面塗装を施して白色表面を有する人工皮革−6を得た。得られた人工皮革−6は、目付けが370g/m、厚さが1.0mm、見かけ密度が0.37g/cmであり、ポリエステル収縮繊維の人工皮革重量を基準としての比率は27重量%であり、また、潜在捲縮繊維の人工皮革重量を基準としての比率は0重量%、またメタ型アラミド繊維の人工皮革重量を基準としての比率は13.5%であった。また、人工皮革−6は、実施例1の人工皮革−1、および実施例2の人工皮革−2に比べ、表面を内側に曲げるとダンボール紙で見られるような大きな皺で折れるものであり、曲げ抵抗(Rb)0.86g/cm、曲げ圧縮応力(P5)27g/cmであり、風合い指数は31.4であった。また、引張強度は、タテ141N/cm、ヨコ135N/cmであり、切断伸度は、タテ84%、ヨコ80%であり人工皮革としての強度と伸度のバランスのとれたものではあった。なお、難燃性は、5mmと僅かに燃焼したが自己消火の良好なものであった。表1に物性を併せて示す。
【0057】
[比較例3]
[不織布−7の作成]
実施例−1で作成したポリエステル収縮繊維を50部と実施例−2で作成した潜在捲縮短繊維−2を25部、および0.8dtex、カット長38mmの非収縮ポリエチレンテレフタレート短繊維(帝人テクノプロダクツ製)を25部とを混綿した後、カード機を通してウェブを作成し、次いでバーブ1個を有する針を装着したニードルロッカールームで1500本/cmの打ち込み密度にてパンチングを行い、繊維を交絡させて、目付け130g/mのウェブを得た。該ウェブを70℃の温水中に2分間浸漬して、面積収縮が38%となるように収縮させ、次いで50℃で乾燥させて、150℃に加熱された金属ドラムと60メッシュのステンレスネットベルト間に把持しながら60秒間の加熱処理を施して目付け210g/m、厚さ0.85mm、見掛け密度0.247g/cmの不織布−7を得た。得られた不織布−7は、ソフトなクッション性に富んだものであった。
【0058】
[人工皮革−7の作成]
得られた不織布−7を実施例2と同様のポリウレタン溶液を使用して、また実施例2と同様の操作で含浸、コート、および表面塗装を施して白色表面を有する人工皮革−6を得た。得られた人工皮革−7は、目付けが383g/m、厚さが1.0mm、見かけ密度が0.383g/cmであり、ポリエステル収縮繊維の人工皮革重量を基準としての比率は27.4重量%であり、また、潜在捲縮繊維の人工皮革重量を基準としての比率は13.7重量%、またメタ型アラミド繊維の人工皮革重量を基準としての比率は0%であった。また、人工皮革−7は、実施例1の人工皮革−1、および実施例2の人工皮革−2と同様にソフトであり、厚さ方向でのクッション性に富み、表面を内側に曲げても大きな皺で折れることもないものであり、曲げ抵抗(Rb)0.64g/cm、曲げ圧縮応力(P5)42g/cmであり、風合い指数は65.6であった。また、引張強度は、タテ87N/cm、ヨコ76N/cmであり、切断伸度は、タテ167%、ヨコ191%であり人工皮革としての強度は低く、また伸度の大きいものであった。又難燃性は、∞mmと完全燃焼し難燃性の無いものであった。表1に物性を併せて示す。
【0059】
[実施例5]
メタ型アラミド繊維(C)として実施例1のメタ型アラミド繊維を35重量%と、潜在捲縮繊維(B)として、5ナトリウムスルホイソフタル酸成分を2.5モル%共重合した極限粘度η=0.48で溶融粘度3500ポイズのポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルと、極限粘度η=0.35で溶融粘度300ポイズのポリエチレンテレフタレートとを複合重量比1:1のサイドバイサイド型複合繊維であって加熱処理により三次元捲縮を発現する2成分コンジュゲートポリエステル繊維(2.5dtex×51mm 乾熱170℃の無荷重下で処理した時の捲縮数は43ケ/inch)を30重量%と、ポリエステル収縮繊維(A)として実施例1と同様の方法で作成した温度70℃の温水で収縮性能を有する1.5dtex×51mmのポリエステル収縮繊維を35重量%とを混綿し、カード、クロスレーヤーを用いて200g/mのウェブを作成し、800本/cmのニードルパンチングにより交絡ウェブを得た。次いで、この交絡ウェブを70℃の温水中に2分間浸漬して元のウェブの表面積に対し30%収縮させた。この収縮させたウェブをニップローラーで含水率350%に絞った後、ベルトプレス機を用いて温度160℃の平滑面を有する熱シリンダーと金属ネットベルトの間で表面積が実質的に変化しないように保持して面圧0.18kg/cmにて圧縮熱処理し、捲縮処理を施し、さらに温度100℃で熱風乾燥した。
【0060】
次に分子量1800のポリヘキサメチレンカーボネートと分子量2050のポリテトラメチレンエーテルグリコール、4,4’ジフェニルメタンジイソシアネート、エチレングリコールとを反応させて得たポリウレタンエラストマーのDMF溶液(濃度7%)を作成し、上記繊維質基材に含浸させ、DMF水溶液中に浸漬し湿式凝固させた。
【0061】
次にしぼ模様を有する離型紙上に表皮層として一液型の無黄変ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(レザミンNES9950−3NT、大日精化株式会社製)の15%ジメチルホルムアミド溶液(にメタ系アラミド繊維を平均20μmの長さにカットした粉末をウレタン樹脂100部に対し10部ブレンドした溶液)を150μmの間隙でコーティングし、乾燥を行った。この表皮層に接着剤層として二液型のポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(レザミンUD8348、大日精化株式会社製)の50%ジメチルホルムアミド−トルエン溶液100部にリン・チッソ系の難燃性パウダーを10部添加、撹拌したものを200μmの間隙でコーティングし、110℃の熱風乾燥機中で20秒間乾燥し、次いで表皮層と接着剤層が塗布された離型紙を繊維質基材に貼り合せ、基材厚さの70%のクリアランスでロールにより圧着させた。その後架橋反応を行い、離型紙をシート状物から分離し、スビット揉み機で揉み加工を施し、人工皮革を得た。得られた人工皮革を基準とした各々の繊維の比率はメタ型アラミド繊維が20%、潜在捲縮繊維が18%、ポリエステル収縮繊維が20%であった。また人工皮革の密度は0.4g/cmであった。
【0062】
得られたシート状物はボリューム感があり小皺感に富む天然皮革様のシート状物であり、燃焼性(USの自動車用規格であるFMVSS302法で測定)が自己消火性を示し、表面摩耗性は1万回を超える優れた高耐久性を有する皮革様シート状物であった。
【0063】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の人工皮革は靴類、鞄類、各種競技用ボール、装丁材、壁装飾、化粧箱、研磨布、あるいは家具・車輌シートなど幅広い用途に高強度軽量性、難燃性、および優れた加工性、着用性を生かして利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル収縮繊維(A)、潜在捲縮繊維(B)、およびメタ型アラミド繊維(C)を主体とする混合繊維が交絡され、且つそれぞれの収縮と捲縮が顕在化された不織布(D)を構成成分とする、見掛け密度が0.25〜0.55g/cmの範囲の人工皮革であって、下記(a)〜(c)の要件を同時に満足することを特徴とする人工皮革。
(a)ポリエステル収縮繊維(A)が人工皮革を基準として10〜45重量%の範囲にあること。
(b)潜在捲縮繊維(B)が人工皮革を基準として7〜25重量%の範囲にあること。
(c)メタ型アラミド繊維(C)が人工皮革を基準として4〜35重量%の範囲にあること。
【請求項2】
下記(a)〜(c)の要件を同時に満足し、見掛け密度が0.35〜0.55g/cmの範囲である請求項1記載の人工皮革。
(a)ポリエステル収縮繊維(A)が人工皮革を基準として10〜35重量%の範囲にあること。
(b)潜在捲縮繊維(B)が人工皮革を基準として7〜25重量%の範囲にあること。
(c)メタ型アラミド繊維(C)が人工皮革を基準として10〜35重量%の範囲にあること。
【請求項3】
下記(a)〜(c)の要件を同時に満足し、見掛け密度が0.30〜0.45g/cmの範囲の人工皮革である請求項1記載の人工皮革。
(a)ポリエステル収縮繊維(A)が人工皮革を基準として10〜45重量%の範囲にあること。
(b)潜在捲縮繊維(B)が人工皮革を基準として7〜25重量%の範囲にあること。
(c)メタアラミド繊維(C)が人工皮革を基準として4〜20重量%の範囲にあること。
【請求項4】
ポリエステル収縮繊維(A)が中空部割合が40%以上の高中空であるポリエステル収縮繊維であり、下記(a)〜(c)の要件を同時に満足し、見掛け密度が0.25〜0.36g/cmの範囲である請求項1記載の人工皮革。
(a)ポリエステル収縮繊維(A)が人工皮革を基準として10〜35重量%の範囲にあること。
(b)潜在捲縮繊維(B)が人工皮革を基準として7〜25重量%の範囲にあること。
(c)メタ型アラミド繊維(C)が人工皮革を基準として7〜25重量%の範囲にあること。
【請求項5】
ポリエステル収縮繊維(A)の繊度が0.1〜1dtexである請求項1〜4いずれか記載の人工皮革。
【請求項6】
潜在捲縮繊維(B)の繊度が0.1〜1dtexである請求項1〜5いずれか記載の人工皮革。
【請求項7】
メタ型アラミド繊維(C)の繊度が0.1〜1dtexである請求項1〜6のいずれかに記載の人工皮革。
【請求項8】
該不織布(D)に高分子弾性体(E)が含浸されてなる請求項1〜7のいずれかに記載の人工皮革。
【請求項9】
該不織布(D)の少なくとも片面に高分子弾性体(F)が被覆されてなる請求項1〜8のいずれかに記載の人工皮革。
【請求項10】
該高分子弾性体(E)、および該高分子弾性体(F)がポリウレタンである請求項8〜9記載の人工皮革。
【請求項11】
ポリエステル収縮繊維(A)、および潜在捲縮繊維(B)、メタ型アラミド繊維(C)を主体とし、3種の繊維が下記範囲を満足するように混合した繊維ウェブを交絡処理した後、該繊維ウェブの面積収縮と立体捲縮の発現をその順序で行って不織布(D)とした後、高分子弾性体を付与し、見掛け密度を0.25〜0.55g/cmの範囲とすることを特徴とする人工皮革の製造方法。
(a)ポリエステル収縮繊維(A)が人工皮革を基準として10〜45重量%の範囲にあること。
(b)潜在捲縮繊維(B)が人工皮革を基準として7〜25重量%の範囲にあること。
(c)メタ型アラミド繊維(C)が人工皮革を基準として4〜35重量%の範囲にあること。
【請求項12】
ポリエステル収縮繊維(A)が中空部割合が40%以上の高中空であるポリエステル収縮繊維である請求項11記載の人工皮革の製造方法。
【請求項13】
立体捲縮の発現をウェブの面積、厚さを一定に拘束しつつ行う請求項11〜12いずれか記載の人工皮革の製造方法。

【公開番号】特開2008−133578(P2008−133578A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355004(P2006−355004)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(303000545)帝人コードレ株式会社 (66)
【Fターム(参考)】