説明

人工臓器のパージ液循環装置

【課題】人工臓器のパージ液循環装置において、パージ液の性状管理を確実にして信頼性を向上する。
【解決手段】パージ液の循環経路90,91,93,94内を循環するパージ液を限外濾過フイルタ等のタンパク質除去フイルタ71によって濾過し、このパージ液中に侵入するタンパク質を除去し、このタンパク質を除去したパージ液を人工心臓1に送り、その内部のシール機構等にタンパク質が凝固堆積するのを防止してその機能低下を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工心臓、人工心肺、その他の人工心臓の内部を通してパージ液を循環させる装置に関する。さらに特定すれば、本発明は人工臓器のシール性維持、潤滑、冷却等をなすパージ液を循環させる装置において、人体の血液、体液等からこのパージ液中に混入するタンパク質を除去し、このタンパク質が人工臓器のシール機構等に付着堆積するのを防止するとともに、このパージ液の消毒を確実になすことができるパージ液の循環装置を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、人工臓器たとえば人工心臓では、その内部を通して生理食塩水等からなるパージ液を循環させ、この人工心臓のシール機構の部分の潤滑、冷却をなすとともに、外部からこの人工心臓内に血液等が侵入するのを防止している。
【0003】
しかし、長時間の使用の場合には、このパージ液中に血液中のタンパク質が拡散等により侵入する。このようにパージ液中にタンパク質が混入すると、このタンパク質がシール機構のシール面等に凝固堆積し、このシール機構のシール性を劣化させ、このパージ液の人工心臓外への漏洩が増加し、このパージ液の消費量の増大を招く。
【0004】
このような不具合を防止するため、従来からこのパージ液中にタンパク質分解酵素等を添加し、このパージ液中に侵入したタンパク質の凝固を防止することがなされている。しかしながら、このようなタンパク質分解酵素は、その作動温度の範囲が狭く、また有効に作用する期間が制限される等の不具合があった。また当然ながら、このようなパージ液内に侵入した細菌、ウイルス、細菌毒素等の消毒の必要もあり、そのための処置も講じておく必要がある。
【0005】
【特許文献1】特表昭61−500058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の事情に基づいてなされたもので、人工心臓等の人工臓器内を通して循環するパージ液中に侵入するタンパク質を確実に除去し、このタンパク質の凝固堆積によるシール性の低下等の不具合を確実に防止することのできるパージ液の循環装置を提供するものである。
【0007】
さらに、本発明は上記のようにパージ液中のタンパク質を確実に除去することができるとともに、このパージ液中に侵入した細菌、ウイルス、細菌毒素等を確実に消毒することができるパージ液の循環装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、パージ液を貯溜するリザーバと上記の人工臓器との間でパージ液を循環させるパージ液循環経路と、このパージ液循環経路を通してパージ液を循環させるパージ液循環ポンプと、この循環ポンプと上記の人工臓器との間のパージ液循環経路に設けられこのパージ液中に混入したタンパク質を除去する限外濾過フイルタまたは逆浸透フイルタからなるタンパク質除去フイルタとを具備したものである。
【0009】
このような限外濾過フイルタや逆浸透フイルタは、分子量が数百の物質まで濾過除去することが可能であり、これに対して血液等からこのパージ液中に侵入するタンパク質はその分子量が1万以上のものがほとんどである。したがって、このような限外濾過フイルタまたは逆浸透フイルタを用いることにより、タンパク質をほぼ確実に除去でき、このタンパク質の凝固堆積を確実に防止することができる。
【0010】
また、この限外濾過フイルタでは1〜10nmの大きさ、逆浸透フイルタでは1nm以下の物まで除去できる。これに対してウイルスの大きさは10〜100nm、細菌は1〜10μmの大きさであるから、このような限外濾過フイルタまたは逆浸透フイルタの使用により細菌やウイルスも除去することができる。
【0011】
また、本発明の実施態様によれば、上記のパージ液中に消毒剤を添加する消毒剤添加手段を備え、また前記のタンパク質除去フイルタは、上記の消毒剤の透過を許容するとともにフイブリノーゲンの透過を許容しないポアサイズに設定されている。
【0012】
したがって、上記の消毒剤添加手段からこのパージ液中に消毒剤が添加され、この消毒剤はフイルタを透過してこのパージ液とともに循環する。よって、このパージ液中のタンパク質、細菌、ウイルス等はこのフイルタによって捕捉されるとともに、この捕捉された細菌やウイルスがこの消毒剤によって消毒され、また万一捕捉されなかった細菌やウイルスもこの消毒剤で消毒されるので、安全性が高い。
【0013】
また、本発明の別の実施態様によれば、前記の消毒剤は次亜塩素酸または電解強酸性水であり、また前記のタンパク質除去フイルタは分子量34万以上の物質の透過を許容しないポアサイズの限外濾過フイルタである。
【0014】
上記の電解強酸性水は、たとえば水に電流を流して水素イオンおよび水酸基イオンを生成させ、この水およびイオンをフイルタ膜で分離して水素イオンを含んだ水すなわち酸性水と、水酸基イオンを含んだ水すなわちアルカリ性水とに分離して生成されるものである。
【0015】
一般に人体の血液中からパージ液中に侵入して凝固を生じるタンパク質成分は、主としてフイブリノーゲンであり、分子量34万の物質を捕捉するフイルタによればこのフイブリノーゲンをほぼ完全に捕捉除去することができる。また、このポアサイズのフイルタによれば、細菌やウイルスをほぼ捕捉することができる。一方、次亜塩素酸(HOCl)は分子量が約数十であり、このフイルタを確実に透過してパージ液中に拡散する。また、この次亜塩素酸は、低濃度でもほとんどの細菌、ウイルスを殺菌することができるとともに、シール部で大部分が抑止されて生体内には入らないので、パージ液の消費もなく、生体には影響を与えない。また、上記の電解強酸性水はたとえばPH値が2.7と低く、微生物が生息しにくい酸化還元電位が+1000mVと高く、また安全な量の塩素が含まれているので生体内においても高い除菌効果と安全性を有する。もちろん、この電解強酸性水は、本質的に分子量の大きな物質は含んでいないので、上記のフイルタを確実に透過する。
【0016】
したがって、この発明によれば、タンパク質、細菌、ウイルスの除去を確実に達成できるとともに、フイルタのポアサイズが不必要に小さくはないので、このフイルタの目詰まりを最小にすることができ、かつ次亜塩素酸との組み合わせにより消毒も完全でかつ安全である。
【0017】
また、本発明の別の実施態様によれば、前記のパージ液循環経路は、前記のリザーバと前記のタンパク質除去フイルタとの間でパージ液を循環させるクロスフロー循環経路と、このタンパク質除去フイルタで濾過されたパージ液を前記の人工臓器を通して循環させる濾過循環経路とから構成されているものである。
【0018】
したがって、このパージ液のクロスフローにより、このフイルタの濾過膜の表面に濃度分極が生じるのを防止し、このフイルタの目詰まりを防止することができる。また、このフイルタに中空糸膜フイルタを用いたような場合には、このクロスフローによりこのフイルタ内に空気がトラップされるのを確実に防止することができる。また、万一この人工臓器に接続されている循環チューブ等が折れ曲がり、または外部の物に挟まれる等の原因で詰まった場合でも、パージ液はこのクロスフロー循環経路を介して循環するので、このパージ液の循環経路が圧力で破裂するような不具合を防止することができる。
【0019】
さらに、本発明の別の実施態様によれば、前記のパージ液循環経路は、前記のリザーバと前記のタンパク質除去フイルタと前記の人工臓器との間でパージ液を循環させるエンドフロー循環経路で構成されている。
【0020】
したがって、このパージ液のエンドフローにより、循環経路内のほとんどの不純物が濾過されるので除去効率が高くなる。また、パージ流量は循環経路分ですむことからパージ液の量を最小限に抑えられる。さらに、循環サイクルが短くなることからフイルタの濾過効率が向上する。
【0021】
また、フイルタの出入口を複数とし、入口を2個、出口を2個をつなぎ合わせたダブルエンドフロー方式とすることにより、フイルタの圧力損失を減らすことができ、一方の出口を空気抜き口として使用することもできる。さらに、一方の入口の1つを循環経路内のパージ液排出口として使用した場合に、流通方向を通常とは逆にすることによりフイルタの清掃を同時に行うこともできる。さらに、循環経路内にこれらフイルタを並列に配置しておけば、フイルタの交換時にも機能を中断させずに行うことができる。
【0022】
また、本発明の別の実施態様によれば、前記のクロスフロー循環経路内を循環するパージ液中にタンパク質凝固剤を添加する凝固剤添加手段を備え、またこのクロスフロー循環経路には凝固したタンパク質粒子を濾過する凝固タンパク質除去フイルタを備えている。したがって、このパージ液中に侵入したタンパク質はこのタンパク質凝固剤によって凝固されて寸法の大きな粒子状となり、上記の凝固タンパク質除去フイルタによって除去される。よって、上記のタンパク質除去フイルタの負荷が軽減され、その目詰まりを効果的に防止できる。
【0023】
また、本発明の別の実施態様によれば、前記のパージ液循環ポンプはローラポンプであり、また前記のリザーバおよびタンパク質除去フイルタは一体的な交換ユニットに形成され、この交換ユニットには上記のローラポンプのチューブが一体に取り付けられており、このチューブを上記のローラポンプのローラヘッドに着脱することにより、この交換ユニットはこのチューブと一体的に着脱可能なものである。
【0024】
また、さらに別の実施態様では、前記のパージ液循環ポンプはダイヤフラムポンプであり、このダイヤフラムポンプはダイヤフラムを含むダイヤフラム部と、このダイヤフラム部と着脱自在で上記のダイヤフラムを往復駆動する駆動部とから構成されており、また前記のリザーバおよびタンパク質除去フイルタは一体的な交換ユニットに形成され、この交換ユニットには上記のダイヤフラム部が一体に取り付けられており、このダイヤフラム部を上記の駆動部に対して着脱することによりこの交換ユニットはこのダイヤフラム部と一体的に着脱可能なものである。したがって、これらのものは、この交換ユニットを一体的に交換でき、しかもこのチューブまたはダイヤフラム部をこの交換ユニットと一体化でき、保管、交換等の際にこの交換ユニット内のパージ液の汚染や漏洩が防止され、保管、交換が容易であるとともに、この交換ユニットの管理も容易になる。
【0025】
また、本発明の別の実施態様によれば、前記の交換ユニットに接続されパージ液に静圧をかける加圧ユニットを前記のパージポンプユニットとは別体とし前記のリザーバと限外濾過フイルタとの間または前記の人工臓器と限外濾過フイルタとの間に設け、装置全体を密閉形として構成されている。これにより、パージ液の圧力損失を補い一定の圧力に保持させることができるとともに、血液のパージ液側への逆流を防ぎ、フイルタの交換サイクルを長くすることができ、またメカニカルシールの摺動面への血液成分の接触が軽減されてシールの寿命を長くすることができる。
【0026】
さらに、加圧ユニットには往復動できるリニア形の推進手段を有しており、リザーバを兼ねるとともに圧力の補充とパージ液とは非接触でリザーバの残量を検出することができる。
【0027】
また、本発明の別の実施態様によれば、前記のパージ液循環経路内にパージ液の通路と採液口をY字状に形成したサンプリングポートが1個以上設けられおり、採液口には弾性材料が装着されている。よって、この採液口からパージ液循環中でも機能を中断させずにパージ液の補充、交換や採液、検査、分析および加圧、消毒等を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、図を参照して本発明の実施形態を説明する。これらの実施形態はいずれも人工心臓のパージ液循環装置であるが、上述の如く本発明のパージ液循環装置は人工心肺、その他の人工臓器のパージ液循環装置としても適用可能なものであり、いずれの人工臓器の場合でも、本発明のパージ液循環装置の構成は概略同様のものである。
【0029】
図1ないし図6には本発明の第1の実施形態を示す。まず、このパージ液の循環装置と接続される人工心臓について図1および図6を参照して説明する。この人工心臓1は、体内埋設形の補助人工心臓で、人体の心臓の鼓動を妨げず、この鼓動だけでは不足する血液量を補うものである。この人工心臓1は、図6に示すように、駆動部2とポンプ部3とから構成され、このポンプ部4の先端部にはノズル13が突設されている。そして、この人工心臓1は、図1に示すように人体Aの心臓Bの心尖部Cを貫通して心室、たとえば左心室D内に上記のポンプ部3が挿入されており、その先端部のノズル13は僧帽弁Fを介して大動脈E内に挿入されている。そして、上記の駆動部2によって上記のポンプ部3が駆動され、左心室D内の血液を吸入するとともに加圧して上記の僧帽弁Fを通過したノズル13から大動脈E内に送るものである。
【0030】
この人工心臓1は、左心室D内に挿入されたポンプ部3の容積が小さく、上述の如くこの心臓Bの自然の鼓動を妨げず、鼓動だけでは不足する血液量を直接大動脈Eに送り込むものである。
【0031】
次に、この人工心臓1の内部の構造を図6を参照して説明する。上記の駆動部2内にはキヤンドモータ形のモータ4が内蔵され、このモータ4は電線15を介して外部から供給される電力により駆動される。また、このモータ4の駆動軸7は、軸筒部6内を延長され、この軸筒部6の先端部に設けられた上記のポンプ部3を駆動する。このポンプ部3内にはロータ10とステータ12が設けられ、このロータ10は上記の駆動軸7の先端部に連結され、吸入口14から左心室D内の血液を吸入するとともに加圧して上記のノズル13の先端から大動脈E内に送り込む。
【0032】
また、この人工心臓1の内部にはたとえば生理食塩水を主成分とするパージ液が循環され、この人工心臓1の内部に血液や体液が侵入するのを防止し、またこの人工心臓1の内部の潤滑や冷却等をなすように構成されている。この人工心臓1の駆動部2には、パージ液の入口21および出口22が形成されている。そして、これらの入口21および出口22は、可撓性の供給チューブおよび戻りチューブ(図示せず)を介して後述するパージ液の循環装置に接続されている。
【0033】
この人工心臓1内には、上記の駆動軸7のシール機構が設けられている。このシール機構は、たとえばメカニカルシール機構11から構成されている。このメカニカルシール機構11は、セラミック材料からなる外筒部材22を備え、この外筒部材22の先端部にはシールリング部23が一体に形成されている。この外筒部材22は、上記の軸筒部6内に挿通されており、この外筒部材22内には上記の駆動軸7が挿通されている。また、上記のシールリング部23の端面には、セラミック材料または炭素繊維複合材料等からなるフオローリング24が密嵌しており、このフオローリング24は上記の駆動軸7に取り付けられている。なお、上記の駆動部2内には、モータ4のステータ側およびロータ側にそれぞれ永久磁石25,26が設けられ、これらの永久磁石の吸引力により上記の駆動軸7に軸方向の荷重が与えられ、上記のフオローリング23が所定の圧力で上記のシールリング部23に密着されている。
【0034】
そして、上記の外筒部材22の内部はパージ液室20に形成されている。また、上記の駆動軸7は上記の外筒部材22の内周面にベアリング8,9を介して回転自在に支承されており、これらのベアリング8,9の外周面には動圧溝(図示せず)が形成され、これらのベアリング8,9が駆動軸7と一体に回転した場合には、この動圧溝によってこのパージ液室20内のパージ液が上記のシールリング23とフオローリング24の間の摺動面に送られるように構成されている。
【0035】
このような人工心臓1は、上記の入口21からパージ液が上記の駆動部2内に供給され、この駆動部2内のモータ4の潤滑および冷却をした後に、上記のパージ液室20内を通って上記のメカニカルシール機構11のシールリング部23とフオローリング24との摺動面に送られる。そして、この供給されるパージ液によって、上記の摺動面の潤滑および冷却がなされるともに、このパージ液はこの摺動面を介して拡散等によって人工心臓の内部に侵入した微量の血液成分を洗浄し、このパージ液とともに戻り通路28、パイプ出口21bを通して速やかに人工心臓の外に搬出し、軸受内部やモータ内部に血液成分が侵入するのを確実に防止する。
【0036】
また、上記の外筒部材22の先端部には戻り口27が形成され、この戻り口27は上記の軸筒部6に沿って形成された戻り通路28に連通され、この戻り通路28はさらに前記の出口22に連通している。したがって、上記の外筒部材22の先端部の摺動面の部分に送られたパージ液は、外部に流出する一部を除いてこの戻り口27、戻り通路28および出口22を介してこの人工心臓外に排出され、このパージ液はこの人工心臓内を上記の経路で循環する。
【0037】
この人工心臓1は、上記のように内部を循環するパージ液によって、冷却、潤滑およびシール性の維持等がなされる。しかし、このパージ液には拡散等によって外部すなわち血液中から微量ずつではあるが、タンパク質が侵入する。そして、このように侵入したタンパク質がこの循環するパージ液中に蓄積されると、このタンパク質が上記のメカニカルシール機構11の摺動面に凝固堆積し、そのシール性を低下させ、外部に流出するパージ液の流量すなわちパージ液の消費量が増大する不具合を生じる。またこのタンパク質が凝固して粒子状となり、この人工心臓内の各部に堆積したり、このパージ液の流路が閉塞したりする可能性もある。この人工心臓では、上記のような不具合を防止するために、上記の入口21、駆動部2内の流路、パージ液室20、戻り口27,戻り通路28,出口22の順序でその流路断面積が順次大きくなるように構成されており、凝固したタンパク質の粒子等がこの人工心臓内で詰まる可能性を排除してある。
【0038】
次に、上記のような人工心臓1の内部を通して、上記のパージ液を循環させる装置を説明する。図1および図2にはこの装置の概略を示す。図中の50は、このパージ液循環装置の装置本体部であり、この装置本体部50は車輪51およびハンドル52を備えており、可搬形のものである。そして、この装置本体部50には、電源部53、制御部55、装着部56が設けられ、この装着部56には交換ユニット57およびパージ液循環ポンプすなわちパージポンプユニット58が着脱自在に取り付けられるように構成されている。
【0039】
上記の電源部53内には、たとえばリチウム電池等の電池を備え、上記の人工心臓1の駆動用の電力およびこのパージ液循環装置のパージポンプユニット58の駆動用の電力、その他の電力を供給する。なお、この電源部53内には充電器が内蔵されており、また外部の商業電源に接続する商業電源コード61、自動車のシガレットライターを介して自動車のバッテリー等の電源に接続するための車両電源コード62を備えている。そして、これらのコード61,62を介して外部からの電力によって上記の人工心臓1やこの循環装置に電力を供給し、また移動等の際に外部からの電力の供給を受けられない場合には、この電源部53内に内蔵された電池により上記の電力の供給が可能となっている。なお、この電源部53内に内蔵されている電池は、外部からの電力の供給なしに連続して12時間の電力供給を可能とする容量を有している。
【0040】
また、上記の制御部55は、マイクロチップ等の電子回路を内蔵し、このパージ液循環装置の全体の制御や作動の監視、また上記の人工心臓1の作動状態の制御および監視を行うように構成されている。なお、この制御部55には電話回線に接続するための電話接続コード63が設けられ、電話回線、インターネット等の通信回線を介して、病院のコンピュータと接続可能となっており、この病院のコンピュータによって上記の制御、監視を行えるように構成されている。
【0041】
また、上記の交換ユニット57には、パージ液の循環に必要な機器がユニット化されて内蔵されており、また上記のパージポンプユニット58によってこのパージ液が上記の人工心臓1との間で循環されるように構成されている。なお、上記の装着部56からは接続ホース60が延長されており、この接続ホース60は人体Aにベルト65によって装着されたコネクタ66を介して別の接続チューブ68に接続されている。そして、この接続チューブ68は人体Aに埋設された皮膚ボタン67を通して人体の体腔内に導入され、人工心臓1の駆動部2に接続されている。これらの接続ホース60および接続チューブ68は、可撓性の材料で形成されたチューブであって、内部には上記の人工心臓1の入口21に接続される供給チューブ、出口22に接続される戻りチューブ、この人工心臓1のモータ4に電力を供給する電線15等が内蔵されている。
【0042】
次に、上記の図1、図2、および図3ないし図5を参照してこのパージ液の循環装置のパージ液循環系統を説明する。上記の交換ユニット57は、ハウジング70を有しており、このハウジング70内が実質的にパージ液のリザーバとして形成されている。そして、このハウジング70内には、このパージ液の循環経路を構成する各種の機器が内蔵され、またパージ液の流通する通路が形成されている。すなわち、このハウジング70内には、タンパク質除去フイルタ71、凝固タンパク質除去フイルタ72、パージ液の殺菌のための紫外線ランプ73、消毒剤徐放カプセル74、タンパク質凝固剤徐放カプセル75、その他の機器が収容されており、またこれらを連通する通路も形成されている。なお、これらの機器および流通経路については、後に説明する。好ましくは、このハウジング70は透明な材料で形成され、内部のパージ液の状態等を目視で確認できるように構成されている。
【0043】
また、上記のパージポンプユニット58はこの実施形態の場合はローラーポンプである。このパージポンプユニット58は、モータ、減速機等を内蔵した駆動部76とローラヘッド部77を備えている。このローラヘッド部77は、図3に示すように回転円板78と、この回転円板78の外周縁部に回転自在に設けられた複数のローラ79を備え、この回転円板78が回転することにより、円弧状のガイド壁80との間で弾性材料からなるチューブ81を挟み、このチューブ81内のパージ液を送るものである。そして、このチューブ81は、上記の交換ユニット57と一体に設けられ、この交換ユニット57の着脱の際には、このチューブ81を上記のローラヘッド部77に着脱し、このチューブ81はこの交換ユニット57と一体的に着脱できるように構成されている。
【0044】
また、この交換ユニット57には、パージ液の供給および戻りの液コネクタ82が設けられている。また、上記の装着部56には、上記の液コネクタ82に接続される液ソケット83が設けられ、上記の液コネクタ82はこの液ソケット83に着脱自在に接続されている。また、この液ソケット83は、チューブ84を介してヘッド85に接続され、このヘッド85には前記の接続ホース60が接続されており、このヘッド85を介して上記のチューブ84はこの接続ホース60内のチューブに接続されている。したがって、上記の液コネクタ82、液ソケット83、接続ホース60を介してパージ液がこの交換ユニット57と人工心臓1との間を循環するように構成されている。
【0045】
上記の液コネクタ82は、液ソケット83との接続が外された場合には自動的に閉塞するような弁機構を内蔵している。また、この液ソケット83には汚染防止用のカバー等が装着される。そして、この交換ユニット57は、内部に新しいパージ液、フイルタ等が密封された状態で供給され、患者自身がこの交換ユニットを簡単に交換できるように構成されている。
【0046】
なお、このヘッド85内には電気コネクタ等が内蔵され、この接続ホース60内に内蔵された電線15はこの装置本体部50の電源部53に接続され、上記の人工心臓1にその駆動用の電力を供給する。また、この装着部56の上面は着脱自在のカバー59によって覆われている。
【0047】
次に、上記のパージ液の循環経路を図5を参照して説明する。なお、この図5は概略図であって、各機器や循環経路の配置は実際の装置とは相違し、これら各機器や循環通路は上記の交換ユニット57内に一体に内蔵されていることは前述の通りである。
【0048】
図中の70はこの交換ユニット57のハウジングからなるリザーバであって、このリザーバ70内には所定量のパージ液が貯溜されている。このパージ液は、たとえば生理食塩水を主成分としたものである。また、純水を使用することもできる。そして、このリザーバ70内のパージ液は、クロスフロー供給通路90を介して前記のパージポンプユニット58に送られ、このパージポンプユニットによって所定の圧力でタンパク質除去フイルタ71に送られる。なお、このクロスフロー供給通路90の一部は、前述のローラーポンプのチューブ81で構成されていることはもちろんである。
【0049】
上記のタンパク質除去フイルタ71は、たとえば中空糸膜の限外濾過フイルタで、たとえば分子量34万以上の物質の透過を許容しないポアサイズに設定されている。そして、この供給されたパージ液は、たとえば上記の中空糸膜の内部を通過して流れ、いわゆるクロスフローの状態でこのタンパク質除去フイルタ71内を通過して流れる。そして、このタンパク質除去フイルタ71から流出したパージ液は、クロスフロー戻り通路91を介して上記のリザーバ70に戻される。そして、上記のクロスフロー供給通路90とクロスフロー戻り通路91とでこのパージ液のクロスフロー循環経路が構成され、このパージ液は上記の経路を循環する。
【0050】
また、上記のタンパク質除去フイルタ71ではパージ液の一部が濾過され、この濾過されたパージ液は濾過循環供給通路93を介して上記の人工心臓1内に供給され、この人工心臓1内を循環したパージ液は濾過循環経戻り通路94を介して上記のクロスフロー戻り通路91の途中に合流してリザーバ70に戻される。そして、この濾過循環供給通路93と濾過循環経戻り通路94とで濾過循環経路が構成され、上記のタンパク質除去フイルタ71で濾過されたパージ液はこの経路を循環する。なお、この濾過循環供給通路93および濾過循環経戻り通路94は、上記の液コネクタ82、チューブ84、接続ホース60等で構成されるものであることは前述の通りである。
【0051】
また、上記のクロスフロー循環戻り通路91のタンパク質除去フイルタ71の出口側には、絞り弁機構92が設けられている。この絞り弁機構92は、このタンパク質除去フイルタ71を介してクロスフローするパージ液に所定の流動抵抗を与え、このタンパク質除去フイルタ71内の圧力を所定の圧力に維持し、このタンパク質除去フイルタ71で濾過され、上記の濾過循環供給通路93を介して上記の人工心臓1に供給されるパージ液の流量を制御する。さらに、この絞り弁機構92は、循環経路のどの場所に配置してもよく、配置された場所の圧力を所定の圧力に維持することができる。
【0052】
なお、この絞り弁機構92は、上記の濾過循環供給通路93および濾過循環経戻り通路94を構成するチューブ等が折れ曲がったり、または他の物に挟まれたりして閉塞した場合に、上記のパージポンプユニット58で送られるパージ液をこのクロスフロー循環経路90,91内で十分な流量で循環させ、このパージポンプユニット58の破損や循環経路各部の破裂を確実に防止できるような流量に設定されている。また、この絞り弁機構92は、通常の弁機構でも良いが、弁体や弁口の隙間や各部に凝固タンパク質が堆積するのを防止するために、内面が円滑に縮径した絞り管を弁機構として使用してもよい。この場合の絞り管の内径の設定は、各種の試験の結果に基づいて設定しておくことができる。
【0053】
また、シール部からの血液成分の漏洩量が十分小さい場合には、図10に示すように、エンドフロー方式による濾過方式を用いてもよく、この場合には、循環経路内のパージ液中の血液成分が微量のときはほとんどの不純物が濾過されるので除去効率が高くなる。
【0054】
上記の血液中からこのパージ液内に混入したタンパク質のうち、この人工心臓1内のベアリング等の可動部分に凝固、堆積してこれらのベアリング等の機能を疎外するのはフィブリノーゲンである。そして、このフイブリノーゲンの分子量は、一般に34万以上であり、上記のようなポアサイズ34万以下の限外濾過フイルタを使用したタンパク質除去フイルタ71によりこのフィブリノーゲンがほとんど除去される。このようなタンパク質除去フイルタ71のポアサイズの設定は、このフィブリノーゲンを除去するために必要でかつ最大のポアサイズである。よって、このフィブリノーゲンを確実に除去でき、かつ目詰まりを最小にすることができる。
【0055】
上記のように、このパージ液循環装置では、タンパク質除去フイルタ71によってフィブリノーゲンが除去されたパージ液が人工心臓1に送られるので、この人工心臓1のメカニカルシール機構やその他の部分にタンパク質が凝固堆積してその機能を低下させるようなことがなく、この人工心臓1の機能を長期間にわたって確実に維持することができる。
【0056】
また、このパージ液は、クロスフロー循環経路を通ってこのタンパク質除去フイルタを通過してクロスフローの状態で流れるので、このタンパク質除去フイルタ71のフイルタ膜の表面に濃度分極が生じるのを防止し、このフイルタの目詰まりを防止することができる。
【0057】
また、上記のリザーバ70内には、消毒剤添加手段として、消毒剤徐放カプセル74が収容されている。この消毒剤徐放カプセル74は、たとえば米国のArza社製のドラッグデリバリーシステムのカプセルが使用される。このものは、カプセル内に電解質溶液等の溶液が封入され、半透膜を介して外部からカプセル内に浸透してくる液の浸透圧により、このカプセル内に封入された薬剤の小さな袋を押し潰し、この袋内の消毒剤等の薬剤を所定量ずつ徐々に外部に放出するものである。この実施形態の場合には、この消毒剤は次亜塩素酸、たとえば次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)であり、約1か月の期間にわたり、このパージ液中の濃度が0.05〜2.0ppmを維持するようにこの次亜塩素酸ナトリウムを徐々に放出するものである。なお、消毒剤として電解強酸性水を使用してもよく、消毒も持続的に行うものに限らず、リザーバ交換時等に間欠的に消毒を行うこともできる。
【0058】
このように放出された消毒剤すなわち次亜塩素酸ナトリウムは、このパージ液中に拡散するが、その分子量は数十程度であるため、上記のタンパク質除去フイルタ71を透過し、濾過循環経路93,94を流れるパージ液にもこの次亜塩素酸ナトリウムが拡散する。したがって、この次亜塩素酸ナトリウムは、このパージ液全体に拡散し、細菌、ウイルス等の消毒をなす。また、上記のタンパク質除去フイルタ71は、フイブリノーゲンの他に多くの細菌やウイルスも捕捉するが、これらの細菌やウイルスもこの次亜塩素酸ナトリウムによって消毒される。よって、この実施形態のパージ液循環装置は、上記のタンパク質除去フイルタによる細菌やウイルスの捕捉と併用して、この次亜塩素酸ナトリウムによる消毒がなされ、パージ液の汚染を確実に防止でき、安全性が高い。なお、このような次亜塩素酸系の消毒剤は、生体内では有機物と結合して有機塩素化合物となり無毒化するので生体に対する安全性も高い。
【0059】
また、上記のリザーバ70内には、タンパク質凝固剤を徐々に放出するタンパク質凝固剤徐放カプセル75が収容されている。この凝固剤徐放出カプセル75は、上記の消毒剤徐放カプセル74と同様のカプセル内に、タンパク質凝固剤が封入され、このタンパク質凝固剤を所定量ずつ徐々に放出する。このようなタンパク質凝固剤によって、このパージ液内に侵入したフイブリノーゲン等は凝固して粒子状となる。そして、上記のクロスフロー循環供給通路90の途中には、凝固タンパク質除去フイルタ72が設けられている。この凝固タンパク質除去フイルタ72は通常のフイルタで、上記のように凝固したタンパク質粒子を捕捉する。したがって、これによりこのパージ液中に侵入したフイブリノーゲン等のタンパク質の多くは、上記のように凝固してこの凝固タンパク質除去フイルタ72で除去されるので、上記のタンパク質除去フイルタ71の負担を軽減し、その目詰まりを効果的に防止することができる。
【0060】
また、このパージ液の循環経路には、このパージ液やこのパージ液の循環装置の作動を管理するための各種の検出器が設けられている。すなわち、上記のパージポンプユニット58の下流側には、パージ液の圧力を検出する圧力検出器95が設けられている。また、上記の濾過循環供給通路93の途中には、流量検出器96が設けられ、人工心臓1に供給されるパージ液の流量を検出する。また、上記の濾過循環経戻り通路94の途中には温度検出器97が設けられ、人工心臓1から排出されるパージ液の温度を検出する。さらに、上記のクロスフロー戻り通路91の途中には、血液検出器98が設けられ、このパージ液に血液が混入した場合にこれを検出する。なお、上記の各検出器95,96,97,98は上記の設置場所に限定されるものではなく、パージ液循環装置の作動状態に対応して循環経路内の任意の場所に配置することができる。
【0061】
そして、上記のような検出器95,96,97,98からの信号は、前述した制御部55に送られ、このパージ液の状態や、このパージ液循環装置の作動状態が監視制御される。
【0062】
また、上記のパージ液循環経路は、クロスフロー循環経路90,91が形成されているので、大量のパージ液がこのクロスフロー循環経路90,91を循環し、このパージ液の冷却がなされ、このパージ液の温度が上昇するのを効果的に防止することができる。
【0063】
しかし、高温の地域で使用されるような場合には、必要に応じて冷却器99が設けられる。この冷却器99は、たとえばペルチェ効果素子等から構成された小形のもので、循環されるパージ液の温度が所定の温度以上に上昇した場合には、このパージ液を冷却して所定の温度に維持する。
【0064】
また、上記の図5には記載されていないが、上記のリザーバ内には紫外線ランプ73が収容されており、必要に応じてこの紫外線ランプ73を点灯することにより、このリザーバ70内のパージ液の殺菌をなすことができる。
【0065】
なお、本発明は上記の第1の実施形態には限定されない。たとえば、図7には本発明の第2の実施形態のパージ液循環装置を示す。この実施形態のものは、第1のリザーバ70の他に第2のリザーバ101を設け、第1のクロスフロー循環経路90,91とは別に第2のクロスフロー循環経路102を設け、この第2のクロスフロー循環経路102内を介してこの第2のリザーバ101とタンパク質除去フイルタ71との間でパージ液を循環させるものである。なお、この実施形態では、第1のリザーバ70から第1のリザーバ101に送りポンプ103によってパージ液を送るように構成されている。また、前記のタンパク質凝固剤徐放カプセル75はこの第2のリザーバ101内に収容されている。
【0066】
この実施形態のものは、人工心臓1を介して循環するパージ液と、上記の第2のクロスフロー循環経路102内を循環するパージ液とが完全な別系統となる。したがって、たとえばタンパク質徐放カプセル75から放出されるタンパク質凝固剤を含んだパージ液がこの第2のクロスフロー循環経路102内のみを循環し、パージ液の管理が容易となる等の特徴がある。なお、この第2の実施形態のものは、上記の点以外は前記の第1の実施形態のものと同様であり、図7中で第1の実施形態に対応する部分には同じ符号を付してその説明は省略する。
【0067】
また、図8には本発明の第3の実施形態のパージ液循環装置を示す。この実施形態のものは、パージポンプユニットとして、ダイヤフラムポンプ110を使用したものである。このダイヤフラムポンプ110は、ダイヤフラム、ケーシング、弁機構等を含むパージ液の流通する部分であるダイヤフラム部と、このダイヤフラム部111を駆動するモータ、減速機、クランク機構等を含む駆動部113とに分割されており、これらは継手機構112により着脱自在に接続される。
【0068】
この実施形態のものは、上記の継手機構112の部分を着脱することにより、ダイヤフラム部111を前記の交換ユニット57と一体的に着脱できる。なお、この実施形態のものは、上記の点以外は前記の第1の実施形態と同様の構成であり、図8中で第1の実施形態と対応する部分には同じ符号を付してその説明を省略する。なお、パージポンプは他にもロータリーポンプ、ギヤポンプ、プランジャーポンプ等でもよく、これらパージポンプの形式は限定されない。
【0069】
なお、上記の第3の実施形態のダイヤフラム部111および前記の第1の実施形態のローラーポンプユニット58のチューブ81は、これらのポンプの可動部分である。上記の第1および第3の実施形態のように、これらダイヤフラムブ111またはチューブ81を交換ユニット57と一体的に交換するように構成すれば、この交換ユニット57の交換ごとにこれらダイヤフラム部111またはチューブ81が新品に交換されるので、信頼性が高くなる。なお、これらダイヤフラム部111またはチューブ81は、弾性変形によりパージ液を送るものであり、シール部を有していない一体的な構造のものであるから、これらを交換ユニットとともに交換する際にパージ液の漏れることもない。
【0070】
また、本発明のパージ液循環装置は、前述のような人工心臓とは別の形式の人工心臓のパージ液循環装置としても適用できる。たとえば、図9にはこの別の形式の人工心臓を示す。
【0071】
この人工心臓は、人体の外側に装着するもので、ポンプ部121と駆動部122とから構成されている。そして、上記のポンプ部121内にはインペラ123が内蔵され、血液入口24がチューブ等によりたとえば心臓の心室に接続され、また血液出口125がチューブ等を介してたとえば人体の大動脈に接続され、血液を心室から大動脈に送るものである。
【0072】
そして、上記の駆動部112内にはモータ126が設けられ、駆動軸127を介して上記のインペラ123に連結されている。また、この駆動軸127の先端部にはメカニカルシール機構128が設けられ、129はセラミック材料からなる外筒部材、130はその先端部に形成されたシールリング、131はフオローリングである。そして、パージ液はパージ液入口141から駆動部内に流入し、上記の駆動軸127の中心に形成された通路142を通って上記のメカニカルシール機構128の摺動面の部分に供給され、また戻り通路143を通ってパージ液出口144から排出され、パージ液はこの人工心臓120内をこの経路で循環する。
【0073】
また、本発明のタンパク質除去フイルタは、前述のような限外濾過フイルタには限定されず、逆浸透フイルタを使用することもできる。さらに、本発明は前述のような人工心臓のパージ液循環装置だけでなく、人工心肺、その他の人工臓器のパージ液循環装置としても適用可能であることはもちろんである。
【0074】
なお、本発明の人工心臓において軸流ポンプについて説明したが、この形式には限定されず、図9に示すような遠心ポンプ、その他の形式のポンプが使用できることはもちろんである。
【0075】
また、図10には本発明の第4の実施形態のパージ液の循環装置を示す。このものは、タンパク質除去フイルタ71にエンドフローの形態でパージ液を流通させるように構成されており、この構成以外は本質的に前記の実施形態のパージ液循環装置の構成と略同様である。
【0076】
また、この実施形態のパージ液の循環装置には、適宜の箇所に複数の空気抜き弁46が設けられており、このパージ液循環系統内に混入した空気またはガスをこの系統外に排出できるように構成されている。また、開閉弁47が設けられ、これらの開閉弁47はパージ液の交換の際に使用されるものである。
【0077】
さらに、この実施形態のパージ液の循環装置には、サンプリングポート45が設けられている。このサンプリングポート45は、たとえば図14に断面で示すように構成されている。このサンプリングポート45はパージ液の通路45aと採液口45bをY字状に形成したもので、採液口45bには弾性部材が装着されている。このために図に示すようにたとえば注射針を抜き差しでき、かつ針を抜いたあとでもパージ液が漏れ出ないようにすることができる。これにより、パージ液循環中でも機能を中断させずにパージ液の補充、交換や採液、検査、分析および加圧、消毒を行うことができる。
【0078】
なお、この第4の実施形態のものは、上記の点以外は前記の実施形態と同様の構成であり、図10中、前記の実施形態に対応する部分には同じ符号を付してその説明は省略する。
【0079】
次に、本発明の第5の実施形態のパージ液の循環経路を図11を参照して説明する。なお、この図11は概略図であって、各機器や循環経路の配置は実際の装置とは相違し、これらの各機器や循環経路は上記の交換ユニット57内に一体的に内蔵されていることは前述の通りである。
【0080】
図中の70はこの交換ユニット57のハウジングからなるリザーバであって、このリザーバ70内には所定量のパージ液が貯溜されている。このパージ液は、凝固タンパク質除去フイルタ72を通り、2つのパージポンプ33,34に送られ、このパージポンプ33,34によって所定の圧力で2つのタンパク質除去フイルタ35,36に送られる。そして、このタンパク質除去フイルタ35,36で濾過されたパージ液は、人工心臓1内に供給され、この人工心臓1内を循環したパージ液は上記のリザーバ70に戻される。このようにしてパージ液の循環経路が構成され、このパージ液は上記の経路を循環する。2つのタンパク質除去フイルタ35,36の入口、出口をつなぎ合わせたダブルエンドフロー方式にすることにより、フイルタの圧力損失を減らすことができ、一方の出口を空気抜き口として使用することもできる。その上に、一方の入口の1つを循環経路内のパージ液排出口として使用した場合に流通方向を通常とは逆にすることによりフイルタの清掃を同時に行うこともできる。さらに、循環経路内に並列に配置しておけばフイルタの交換時にも機能を中断させずに行うことができる。
【0081】
また、パージポンプとフイルタの並列経路の入口にそれぞれ逆流防止弁40,41,42,43を配設しておけば、循環経路内でパージ液が逆流してしまうのを防止することができる。
【0082】
また、図12には本発明の第6の実施形態のパージ液循環装置を示し、このものはリザーバを前記の加圧ポンプ44を介して循環経路の外部に設けたもので、これにより循環サイクルが早くなるとともに、パージ液循環中でも機能を中断させずにリザーバを交換させることができる。なおこの加圧ポンプ44は、たとえばボールネジを用いたリニア形式で構成してもよく、これに限定されることなくロータリーポンプ、ギアポンプ、プランジャーポンプ、その他の形式のポンプで構成してもよい。またさらに、必要に応じて空気抜きドレン46と開閉弁47を循環経路の数箇所に設けておけば、循環経路中のパージ液内の空気抜きができるとともに開閉弁47の操作によりパージ液の交換もできる。
【0083】
また、前記のパージポンプ33を前記のタンパク質除去フイルタ35の手前に配置することにより、パージポンプから発生する不純物を濾過したパージ液を人工心臓1に送り込むことができる。
【0084】
また、図13には本発明の第7の実施形態のパージ液循環装置を示し、このものは前記のパージポンプ33を人工心臓1の手前に配置したもので、これにより人工心臓1に至るまでのパージ液の圧力損失を減らすことができる。
【0085】
上述の如く本発明は、循環するパージ液がタンパク質除去フイルタによって濾過され、侵入したフイブリノーゲン等のタンパク質が除去されるので、このタンパク質が人工心臓のシール機構やその他の部分に凝固堆積して機能を低下させることがなく、信頼性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の第1の実施形態の人工心臓のパージ液循環装置の全体の概略図。
【図2】第1の実施形態のパージ液循環装置の装置本体部の斜視図。
【図3】装置本体部の装着部の平面図。
【図4】交換ユニットの側面図。
【図5】パージ液循環経路の概略図。
【図6】第1の実施形態の人工心臓の縦断面図。
【図7】第2の実施形態のパージ液循環経路の概略図。
【図8】第3の実施形態のパージ液循環経路の概略図。
【図9】別の形式の人工心臓の縦断面図。
【図10】第4の実施形態のパージ液循環経路の概略図。
【図11】第5の実施形態のパージ液循環経路の概略図。
【図12】第6の実施形態のパージ液循環経路の概略図。
【図13】第7の実施形態のパージ液循環経路の概略図。
【図14】実施形態におけるサンプリングポートの断面図。
【符号の説明】
【0087】
1 人工心臓、50 装置本体部、57 交換ユニット、58 パージポンプユニット、70 リザーバ、71 タンパク質除去フイルタ、90 クロスフロー供給通路、91 クロスフロー戻り通路、93 濾過循環供給通路、94 濾過循環戻り通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工臓器の内部の潤滑、冷却またはシール性の維持をなすためのパージ液をこの人工臓器の内部を通して循環させる装置であって、パージ液を貯溜するリザーバと上記の人工臓器との間でパージ液を循環させるパージ液循環経路と、このパージ液循環経路を通してパージ液を循環させるパージ液循環ポンプと、この循環ポンプと上記の人工臓器との間のパージ液循環経路に設けられこのパージ液中に混入したタンパク質を除去する限外濾過フイルタまたは逆浸透フイルタからなるタンパク質除去フイルタとを具備したことを特徴とする人工臓器のパージ液循環装置。
【請求項2】
上記のパージ液中に消毒剤を添加する消毒剤添加手段を備え、また前記のタンパク質除去フイルタのポアサイズは、上記の消毒剤の透過を許容するとともにフイブリノーゲンの透過を許容しないものであることを特徴とする請求項1の人工臓器のパージ液循環装置。
【請求項3】
前記の消毒剤は次亜塩素酸または電解強酸性水であり、また前記のタンパク質除去フイルタは分子量34万以上の物質の透過を許容しないポアサイズの限外濾過フイルタであることを特徴とする請求項2の人工臓器のパージ液除去装置。
【請求項4】
前記のパージ液循環経路は、前記のリザーバと前記のタンパク質除去フイルタとの間でパージ液を循環させるクロスフロー循環経路と、このタンパク質除去フイルタで濾過されたパージ液を前記の人工臓器を通して循環させる濾過循環経路とから構成されていることを特徴とする請求項2の人工臓器のパージ液循環装置。
【請求項5】
前記のパージ液循環経路は、前記のリザーバと前記のタンパク質除去フイルタとの間でパージ液を循環させるエンドフロー循環経路であることを特徴とする請求項4の人工臓器のパージ液循環装置。
【請求項6】
前記のクロスフロー循環経路内を循環するパージ液中にタンパク質凝固剤を添加する凝固剤添加手段を備え、またこのクロスフロー循環経路には凝固したタンパク質粒子を濾過する凝固タンパク質除去フイルタを備えていることを特徴とする請求項4の人工臓器のパージ液循環装置。
【請求項7】
前記のパージ液循環ポンプはローラポンプであり、また前記のリザーバおよびタンパク質除去フイルタは一体的な交換ユニットに形成され、この交換ユニットには上記のローラポンプのチューブが一体にユニット化されて取り付けられており、このチューブを上記のローラポンプのローラヘッドに着脱することにより、この交換ユニットはこのチューブと一体的に着脱可能であることを特徴とする請求項1の人工臓器のパージ液循環装置。
【請求項8】
前記のパージ液循環ポンプはダイヤフラムポンプであり、このダイヤフラムポンプはダイヤフラムを含むダイヤフラム部と、このダイヤフラム部と着脱自在で上記のダイヤフラムを往復駆動する駆動部とから構成されており、また前記のリザーバおよびタンパク質除去フイルタは一体的な交換ユニットに形成され、この交換ユニットには上記の上記のダイヤフラム部が一体に取り付けられており、このダイヤフラム部を上記の駆動部に対して着脱することによりこの交換ユニットはこのダイヤフラム部と一体的に着脱可能であることを特徴とする請求項1の人工臓器のパージ液循環装置。
【請求項9】
前記の交換ユニットに接続されパージ液に静圧をかける加圧ユニットを前記のパージポンプユニットとは別体に設け、装置全体を密閉形とすることを特徴とする請求項7の人工臓器のパージ液循環装置。
【請求項10】
前記の加圧ユニットは、前記のリザーバと前記の限外濾過フイルタとの間に設けてなることを特徴とする請求項7の人工臓器のパージ液循環装置。
【請求項11】
前記の加圧ユニットは、前記の人工臓器と前記の限外濾過フイルタとの間に設けてなることを特徴とする請求項7の人工臓器のパージ液循環装置。
【請求項12】
前記の加圧ユニットは、往復動可能なリニア形の推進手段を有してなることを特徴とする請求項7の人工臓器のパージ液循環装置。
【請求項13】
前記のパージ液循環ポンプは、前記タンパク質除去フイルタと前記人工臓器との間に設けられてなることを特徴とする請求項7の人工臓器のパージ液循環装置。
【請求項14】
前記のリザーバは、前記のパージ液循環経路とは別体に設けられてなることを特徴とする請求項1の人工臓器のパージ液循環装置。
【請求項15】
前記のパージ液循環経路の少なくとも1箇所以上に、前記のパージ液の注入と採液可能なサンプリングポートを配設してなることを特徴とする請求項1の人工臓器のパージ液循環装置。
【請求項16】
前記のパージ液循環経路の少なくとも1箇所以上に、循環経路内の空気抜き用の空気抜きドレンを配設してなることを特徴とする請求項1の人工臓器のパージ液循環装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動部2,122内に設けられたモータ4,126と、
ポンプ部3,121に設けられ、前記モータ4,126によって駆動されるインペラ10,123と、
前記モータ4,126の回転力を前記インペラ10,123に伝達する駆動軸7,127と、
前記駆動軸7,127の周囲に配置され、内部に前記駆動軸7,127が挿通される外筒部材22,129と、
前記外筒部材22,129の先端に形成されたシールリング23,130及び前記駆動軸7,127に取り付けられ前記シールリング23,130に密着して配置されたフォローリング24,131を有するメカニカルシール機構11,128とを備える人工心臓1であって、
前記駆動部2,122内にそれぞれ設けられた固定側磁石25及び回転側磁石26により、前記モータ4,126の駆動軸7,127に軸方向の荷重が与えられ、前記フォローリング24,131が所定の圧力で前記シールリング23,130に密着されていることを特徴とする人工心臓1。
【請求項2】
駆動部2,122内に設けられたモータ4,126と、
ポンプ部3,121に設けられ、前記モータ4,126によって駆動されるインペラ10,123と、
前記モータ4,126の回転力を前記インペラ10,123に伝達する駆動軸7,127と、
前記駆動軸7,127の周囲に配置され、内部に前記駆動軸7,127が挿通される外筒部材22,129と、
前記外筒部材22,129の先端に形成されたシールリング23,130及び前記駆動軸7,127に取り付けられ前記シールリング23,130に密着して配置されたフォローリング24,131を有するメカニカルシール機構11,128とを備える人工心臓1であって、
前記シールリング23,130は、前記外筒部材22,129の先端部に一体に形成されてなることを特徴とする人工心臓。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の人工心臓において、
前記外筒部材は、セラミックス材料からなることを特徴とする人工心臓。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の人工心臓において、
前記人工心臓の内部の潤滑、冷却またはシール性の維持をなすためのパージ液入口21a,141及びパージ液出口21b,144をさらに備え、
前記パージ液入口21a,141から供給されたパージ液によって、前記駆動部7,127内のモータ4,126の潤滑及び冷却、前記メカニカルシール機構11,128におけるシールリング23,130とフォローリング24,131との摺動面の潤滑及び冷却、並びに前記摺動面を介して人工心臓の内部に侵入した微量の血液成分を前記パージ液出口21b,144から人工心臓の外に搬出することでシール性の維持がなされるよう構成されていることを特徴とする人工心臓。
【請求項5】
請求項4に記載の人工心臓において、
前記駆動軸7,127は前記外筒部材22,129の内周面にベアリング8,9を介して回転自在に支承されており、前記ベアリング8,9の外周面には動圧溝が形成され、前記ベアリング8,9が駆動軸7と一体に回転した場合には、この動圧溝によってパージ液が前記シールリング23,130とフオローリング24,131との間の摺動面に向けて送られるように構成されていることを特徴とする人工心臓。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の人工心臓において、
前記駆動軸127の中心には通路142が形成され、パージ液入口141から駆動部内に流入したパージ液は、前記通路142を通って前記メカニカルシール機構128の摺動面の部分に供給されるよう構成されていることを特徴とする人工心臓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−150106(P2006−150106A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60464(P2006−60464)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【分割の表示】特願平9−132295の分割
【原出願日】平成9年5月22日(1997.5.22)
【出願人】(392000796)株式会社サンメディカル技術研究所 (9)
【Fターム(参考)】