人工透析における流路の回路機構及び人工透析における透析液の一時貯留方法
【課題】本発明の課題は、透析血液中の老廃物の除去、水分の除去、電解質の調節、血液のpHの調節などの人工透析を行った後に、血液回路及びダイアライザ中に滞留する血液を安全かつ効率的に患者の体内に戻すことができる人工透析における流路の回路機構及び人工透析における透析液の一時貯留方法を提供する。
【解決手段】ダイアライザに動脈側血液回路管と静脈側血液回路管及び透析液供給管と透析液排水管とを取り付け、動脈側血液回路管と連通する状態で補液回路を備え、補液回路の先端に、洗浄・プライミング工程時に動脈側血液回路管の透析液が一時的に貯留される構成の補液収納体を取り付け、透析液排水管は流路開閉が可能な構成であり、動脈側血液回路管と静脈側血液回路管の端縁部付近には、各血液回路管の流路開閉を行う血液クランパを備え、補液回路の動脈側血液回路管との接続部付近には、補液回路の流路開閉を行う補液クランパが備えられている。
【解決手段】ダイアライザに動脈側血液回路管と静脈側血液回路管及び透析液供給管と透析液排水管とを取り付け、動脈側血液回路管と連通する状態で補液回路を備え、補液回路の先端に、洗浄・プライミング工程時に動脈側血液回路管の透析液が一時的に貯留される構成の補液収納体を取り付け、透析液排水管は流路開閉が可能な構成であり、動脈側血液回路管と静脈側血液回路管の端縁部付近には、各血液回路管の流路開閉を行う血液クランパを備え、補液回路の動脈側血液回路管との接続部付近には、補液回路の流路開閉を行う補液クランパが備えられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイアライザ(透析器)を使用する人工透析であって、透析血液中の老廃物の除去、水分の除去、電解質の調節、血液のpHの調節などの人工透析を行った後に、血液回路及びダイアライザ中に滞留している血液を安全かつ効率的に患者の体内に戻すことができる人工透析における流路の回路機構及び人工透析における透析液の一時貯留方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医療の現場ではダイアライザを利用した人工透析が広く実施されており、この人工透析(血液透析)における主な作業としては、洗浄・プライミング、透析、返血という作業が存在する。
ここで洗浄・プライミングとは、人工透析の準備段階で、患者の血液を通過させる血液回路(動脈側穿刺針の接続部からダイアライザ入り口までの動脈側血液回路と、ダイアライザ出口から静脈側穿刺針の接続部までの静脈側血液回路とがある)とダイアライザの内部を洗浄して、透析すべき血液を受け入れるための準備をする工程のことであり、透析とは、ダイアライザの働きで血液と透析液を半透膜を介して、拡散作用に基づき、血液中の老廃物を除去したり、過剰になった電解質を取り除き、不足している電解質を補い、あるいは限外ろ過作用に基づき、余分な水分を除去したりするなどして血液を正常化させる工程のことであり、返血とは、透析終了後に、患者の体内から血液回路とダイアライザに導いている血液を、患者の体内に残りのない状態で戻す工程のことである。
【0003】
従来行われている洗浄・プライミングの工程は、ダイアライザの透析液回路の供給側から透析液を注入(このとき透析液回路の排水側は閉じられている)し、この透析液を半透膜をすり抜けるように加圧して、透析液を強制的に血液回路及びダイアライザ中に送り込んで、血液回路及びダイアライザの内部を洗浄していた。
【0004】
また従来行われている返血の工程は、ダイアライザの透析液回路の供給側から透析液を加圧注入(このとき透析液回路の排水側は閉じられているので、加圧注入された透析液は血液回路に送り込まれる)し、このようにして透析液を強制的に血液回路中に送り込んで、血液回路中の残血を透析液で押し戻すという形態で返血が行われていた。
【0005】
ここで血液回路中に透析液を送り込む手段としては、ダイアライザの透析液回路の途中に設置してある透析液ポンプ(除水ポンプ)を利用する方法が採用されていた。
この方法は、透析液ポンプを回転させて上記の透析液に圧力をかけ、ダイアライザ中の半透膜を強制的に通過した透析液が血液回路中に送り込まれていたが、透析液ポンプは、洗浄・プライミング、透析の工程時にも随時使用されるものであり、各工程によっては透析液を排水側の透析液回路から排水する場合もあることから、透析液ポンプは正転又は逆転を繰り返すことになり、同様に透析液回路の排水側はその流路の開閉を繰り返したりする複雑な構造となっていた。
さらに生理食塩水のパックを血液回路にセットし、その生理食塩水を自然落下させて、血液回路とアナライザ内の血液を生理食塩水で置換させて、血液を体内に戻すという方法もある。
【特許文献1】特開平6−14993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の透析液ポンプによる返血方法にあっては、透析液ポンプの加圧強制力で無理に血液回路中の残血を患者の体内に戻すことになるので、血液回路中に気泡などが存在した場合には、気泡トラップや気泡センサなどが備えられていたとしても、その気泡が体内に強制的に送り込まれてしまうという危険があった。さらには、大量の透析液を正・逆方向に送り出すために負荷が過大になりトラブルの原因となる可能性が高かった。
【0007】
またこの方法では、透析液ポンプを利用して返血を行うため、新たな透析液を随時補給することになるので透析液の消費量が増大することになり、究極的には人工透析のコストアップにつながるという根本的な問題点が存在していた。
一方、生理食塩水のパックをセットする方法によれば、返血の都度新たな生理食塩水のパックを用意しなければならないので、同様に透析液(生理食塩水)の使用量が増大する問題があった。
【0008】
本発明は、透析液ポンプを用いずに、人工透析における作業を従来の透析操作マニュアルに沿った手順で自動化でき、汎用型の標準化血液回路を使用しながら、洗浄・プライミング工程時に本来排水されてしまう透析液(もちろんきれいな状態のもの)を、そのまま洗浄・プライミング工程や、補液工程や返血工程時に使用する透析液として、補液回路中の補液収納体に予め一時貯留しておき、このようにして透析液の有効利用を図ることで、上記した問題点をすべて解決できる人工透析における流路の回路機構及び人工透析における透析液の一時貯留方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る、人工透析における流路の回路機構及び人工透析における透析液の一時貯留方法の請求項1のものは、人工透析を行うダイアライザの片側に動脈側血液回路管を接続し、ダイアライザの他側に静脈側血液回路管を接続し、この動脈側血液回路管と静脈側血液回路管とで血液回路を構成し、前記ダイアライザ内の半透膜を介して血液通過部と仕切られる透析液室に透析液を送り込む透析液供給管と、この透析液室から透析液を排出する透析液排水管とをダイアライザに取り付け、この透析液供給管と透析液排水管とで透析液回路を構成し、前記血液回路の動脈側血液回路管と連通する状態で補液回路を備え、補液回路の先端に補液収納体を取り付け、この補液収納体は、洗浄・プライミング工程時に動脈側血液回路管を流れる透析液が一時的に貯留される構成であり、前記透析液回路の透析液排水管は、その流路の開閉が可能となる構成であり、前記血液回路の動脈側血液回路管と静脈側血液回路管の端縁部付近には、各血液回路管の流路の開閉が可能となる血液クランパが備えられ、前記補液回路の動脈側血液回路管との接続部付近には、補液回路の流路の開閉が可能となる補液クランパが備えられていることを特徴とする人工透析における回路機構である。
【0010】
また請求項2は、動脈側血液回路管と静脈側血液回路管のそれぞれに、流路中の気泡を捕捉して血液回路外に排出できるエアトラップを備えてなる請求項1記載の人工透析における回路機構である。
【0011】
また請求項3は、動脈側血液回路管の側壁付近に、各血液回路管の流路内の血液を送液することができる血液ポンプを備えてなる請求項1又は2記載の人工透析における回路機構である。
【0012】
さらに請求項4は、動脈側血液回路管に、抗凝固薬を注入するための抗凝固薬回路を備えてなる請求項1乃至3のいずれかに記載の人工透析における回路機構である。
【0013】
請求項5は、静脈側血液回路管に備えたエアトラップに静脈圧を計測できる静脈圧回路を備えてなる請求項2乃至4のいずれかに記載の人工透析における回路機構である。
【0014】
請求項6は、血液回路内の気泡の有無を判断する気泡センサを備えてなる請求項1乃至5のいずれかに記載の人工透析における回路機構である。
【0015】
また請求項7は、血液回路内を通過する物質が血液か透析液であるかを判断する透過度センサを備えてなる請求項1乃至6のいずれかに記載の人工透析における回路機構である。
【0016】
さらに請求項8は、請求項1記載の人工透析における回路機構を用いて、
第1工程として、動脈側血液回路管を開閉する血液クランパを開とし、補液回路を開閉する補液クランパ及び静脈側血液回路管を開閉する血液クランパを閉にした状態において、ダイアライザの透析液供給管よりダイアライザ内に透析液を流通させて、ダイアライザと動脈側血液回路管を洗浄し、第2工程として、動脈側血液回路管を開閉する血液クランパと静脈側血液回路管を開閉する血液クランパを閉とし、補液回路を開閉する補液クランパを開にした状態において、ダイアライザの透析液供給管よりダイアライザ内に透析液を流通させて、補液収納体に透析液を貯留し、第3工程として、ダイアライザの透析液供給管を閉とし、動脈側血液回路管を開閉する血液クランパを閉とし、補液回路を開閉する補液クランパを開とし、静脈側血液回路管を開閉する血液クランパを開にした状態において、補液収納体から補液回路を経由して透析液をダイアライザ及び静脈側血液回路に流通させて、ダイアライザと静脈側血液回路管を洗浄することを特徴とする人工透析における透析液の一時貯留方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る人工透析における流路の回路機構及び人工透析における透析液の一時貯留方法によれば、洗浄・プライミング工程時に補液収納体内に一時貯留させた新しい透析液を利用して、人工透析のダイアライザ、血液回路を洗浄したり、返血工程時にその透析液を利用できるので、透析液の使用量の増大を抑え、有効で効率的な人工透析が行えるという優れた効果がある。
【0018】
血液回路と補液回路、さらには補液回路と補液収納体とが連通して一体化した状態で配置されダイアライザから供給された透析液を使用して各回路を洗浄するため、血液回路の洗浄と補液収納体への透析液の一時貯留とが一回の操作で行うことができる。
【0019】
血液ポンプを利用せずに、人工透析後に血液回路内に残留した血液は、自然落下による補液収納体からの透析液で自然に体内に戻されるため、空気が強制的に体内に送り込まれるという事故は起こらない。
【0020】
さらに動脈、静脈それぞれの血液回路に、透過度センサと各回路の開閉用クランパとが連動して設置されていることにより、血液回路内に流通させた透析液が不必要に体内に流入するという事故は起こらない。
【0021】
また本発明では逆回転するような血液ポンプを備えた人工透析装置を必要としないため、人工透析装置の価格を安価に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の人工透析における流路の回路機構及び人工透析における透析液の一時貯留方法の実施の形態を説明する。
図1〜図7は洗浄・プライミング工程を説明する回路図、図8〜図12は返血工程を説明する回路図で、図1は洗浄・プライミング工程の基本回路図、図2〜図7はその作業手順図、図8は返血工程の基本回路図、図9〜図12はその作業手順図である。
【0023】
最初に本発明に係る回路の各配置について説明すると、人工透析を行うダイアライザ(透析器)1の片側には動脈側血液回路管2が接続されており、他側には静脈側血液回路管3が接続されており、この動脈側血液回路管2と静脈側血液回路管3とで血液回路5が構成されている。
前記ダイアライザ1の構成は公知のものであり、その内部には半透膜(図示しない)を介して、血液通過部と透析液室(いずれも図示しない)が備えられている。
【0024】
またこのダイアライザ1には、ダイアライザ1内の透析液室に透析液を送り込むための透析液供給管5と、ダイアライザ内で不要となった透析液を外部に排水するための透析液排水管6とが取り付けられており、この透析液供給管5と透析液排水管6とで透析液回路7が構成されている。ここで透析液排水管6は、適宜の手段で必要に応じてダイアライザ1との連通状態を遮断できる構成になっていて、状況の変化によりいつでもその連通状態を回復できる構成になっている。
【0025】
つぎに前記動脈側血液回路管2には補液回路8が連通状に接続されており、この補液回路8の先端には、例えば1000〜2000ml程度、より好ましくは1500〜2000ml程度の容量のパック容器又はその他の適宜の容器から構成される補液収納体9が取り付けられている。この補液収納体9には、洗浄・プライミング工程時に、透析液供給管5からダイアライザ1内に送り込まれた透析液が、ダイアライザ1内の半透膜を経由して動脈側血液回路管2に流れ込み、その透析液が補液回路8の下方から上方に向かって流れ込むようになっている。
【0026】
ついで、前記動脈側血液回路管2と静脈側血液回路管3の端縁部付近(人体との接続口付近)には、各流路の開閉が可能となる血液クランパ10、11が備えられているため、この血液クランパ10を開けば動脈側血液回路管2が開通状となり、それを閉めれば閉鎖状となる。同様に、血液クランパ11を開けば静脈側血液回路管3が開通状となり、それを閉めれば閉鎖状となる。
【0027】
続いて前記補液回路8の動脈側血液回路管2との接続口付近には、補液回路の流路の開閉が可能となる補液クランパ12が備えられているため、この補液クランパ12を開けば補液回路8が開通状となり、それを閉めれば閉鎖状となる。
【0028】
また本発明に係る回路機構には、動脈側血液回路管2と静脈側血液回路管3の適所位置に、血液回路4の流路中の気泡の存在をチェックし、気泡が存在した場合には、それを捕捉して血液回路4外に排出させることができるエアトラップ13,14が備えられている。ここでエアトラップ13は動脈側血液回路管2内の気泡を排出し、エアトラップ14は静脈側血液回路管3内の気泡を排出することになる。
【0029】
さらに血液回路4内に気泡が存在した場合には、それがそのまま体内に送り込まれることがないようにするため、気泡センサ18を血液回路4の適宜位置に設置しておくことが有効である。気泡センサ18は気泡の存在をチェックした際に、前記血液クランパ10,11と連動して必要な回路の流路を閉鎖する信号を送るように構成されている。
【0030】
また図中の符号20は、血液回路4の適所に設置したアクセスポートで、血液回路4に薬液を注入したり、血液回路4内の血液を採血したりするために外部の回路や採血針などと簡単かつ確実に連結するためのパーツである。さらに符号21はポンプセグメントであり、後述する血液ポンプ15と動脈側血液回路管2を挟んで対峙しており、血液ポンプ15の機能を確実に発揮させたり、血液ポンプ15とポンプセグメント21で挟まれている動脈側血液回路管2部分の流路を閉塞したり、開放したりするためのパーツである。
【0031】
ついで本発明に係る回路機構には、各血液回路管4内の流路内の血液を送液できる血液ポンプ15が、動脈側血液回路管2の側壁付近に備えられている。この血液ポンプ15を駆動させて、動脈から血液を動脈側血液回路管2内に導き、ダイアライザ1を経由して血液透析を終え、透析されたきれいな血液を静脈側血液回路管3内に流れ込ませ、さらに静脈に戻すという流れを作る。
【0032】
また本発明に係る回路機構では、血液が固まるのを防止するための抗凝固薬を注入するための抗凝固薬回路16を動脈側血液回路管2に備えたり、静脈側血液回路管3に備えたエアトラップ14に静脈圧を計測できる静脈圧回路17を備えたり、血液回路4内を通過する物質が血液であるか透析液であるかを判断する透過度センサ19を備えることができる。この透過度センサを備えることにより、返血工程時に血液回路4から体内に戻される静脈側血液回路管3内を通過する物質が、血液から透析液に変化した段階でその状況をチェックして、体内に不要の透析液が送られないように対処することができることとなる。
【0033】
人工透析前の洗浄・プライミング工程(準備作業)としては、第1に、動脈側血液回路管の血液クランパ10を閉、補液クランパ12及び静脈側血液回路管の血液クランパ11も閉にした状態にして、ダイアライザ1に透析液供給管5から透析液を流通させて、ダイアライザを洗浄する(このとき透析液排水管6は、ダイアライザに開にした状態で接続されているので、透析液は透析液排水管6より外部に排水される)。
【0034】
第2に、動脈側血液回路管の血液クランパ10を開とし、補液クランパ12及び静脈側血液回路管の血液クランパ11を閉にして、ダイアライザ1に透析液供給管5から透析液を流通させて、動脈側血液回路管2を洗浄する(このとき透析液排水管6は、ダイアライザと閉状態とされているので、透析液は透析液排水管6に流れることはない)。
【0035】
第3に、動脈側血液回路管の血液クランパ10及び静脈側血液回路管の血液クランパ11を閉、補液クランパ12を開にした状態において、前記同様ダイアライザ1及び動脈側血液回路管2に透析液を流通させて、透析液を補液回路8経由で補液収納体9に貯留する。
【0036】
第4に、動脈側血液回路管の血液クランパ10を閉、補液クランパ12及び静脈側血液回路管の血液クランパ11を開、及び静脈用血液回路に設置したエアトラップ14を閉にした状態において、動脈側血液回路管2に設置した血液ポンプ15を回転させ、補液収納体9内に貯留している透析液の一部を流通させて、動脈側血液回路管2、ダイアライザ1及び静脈用血液回路管3を洗浄する。
このとき補液収納体9内の透析液は、全部を使用することなく、後述する返血工程時の使用分として、少なくとも500ml程度は残しておく必要がある。
【0037】
つぎに、人工透析後の返血作業を説明すると、第1に、動脈側血液回路管の血液クランパ10、補液クランパ12を開とし、静脈側血液回路管の血液クランパ11を閉とした状態において、人工透析終了後に血液ポンプ15を稼働させることなく、補液回路8及びこれから動脈側穿刺針の接続部に延びる動脈側血液回路2内に残留している血液を、補液収納体9から自然落下する透析液の作用で体内に返血する。このとき、血液ポンプ15と対峙する位置にあるポンプセグメント21を血液ポンプ15と接触させて、血液ポンプ15とポンプセグメント21とで挟まれた動脈側血液回路管2部分の流路を閉鎖しておくことで、血液回路4内に残留している動脈側穿刺針の接続部側の一部の血液を返血する。
【0038】
第2に、動脈側血液回路管2に設置した透過度センサ19によって、補液クランパ12と動脈側血液回路管の血液クランパ10との間の動脈側血液回路管2に透析液が流通していると判断したとき(すなわちその部分の血液が返血されたとき)には、動脈側血液回路管の血液クランパ10を閉の状態とし、透析液が体内に流通することを防止する。
【0039】
第3に、動脈側血液回路管の血液クランパ10を閉、補液クランパ12及び静脈側血液回路管の血液クランパ11を開にした状態にして、残りの動脈側血液回路管2及び静脈用血液回路管3内の返血を、静脈側穿刺針の方向に、前記と同様に補液収納体9から自然落下する透析液の作用で体内に送って返血する。このとき、血液ポンプ15と対峙する位置にあるポンプセグメント21を血液ポンプ15から離して、血液ポンプ15とポンプセグメント21とで挟まれた動脈側血液回路管2部分の流路を開放しておく。
【0040】
第4に、静脈側血液回路管3に設置した透過度センサ19によって、静脈側血液回路管3に透析液が流通していると判断したとき(すなわちその部分の血液が返血されたとき)には、静脈側血液回路管の血液クランパ11を閉の状態とし、透析液が体内に流通することを防止する。
上記により血液回路4内の全ての血液の返血工程が終了した後には、動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針を患者の体内から抜き取って返血工程は完了する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、人工透析を行う医療現場の分野で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】洗浄・プライミング工程の基本回路図である。
【図2】洗浄・プライミング工程の作業手順図1である。
【図3】洗浄・プライミング工程の作業手順図2である。
【図4】洗浄・プライミング工程の作業手順図3である。
【図5】洗浄・プライミング工程の作業手順図4である。
【図6】洗浄・プライミング工程の作業手順図5である。
【図7】洗浄・プライミング工程の作業手順図6である。
【図8】返血工程の基本回路図である。
【図9】返血工程の作業手順図1である。
【図10】返血工程の作業手順図2である。
【図11】返血工程の作業手順図3である。
【図12】返血工程の作業手順図4である。
【符号の説明】
【0043】
1 ダイアライザ
2 動脈側血液回路管
3 静脈側血液回路管
4 血液回路
5 透析液供給管
6 透析液排水管
7 透析液回路
8 補液回路
9 補液収納体
10 動脈側血液回路管の血液クランパ
11 静脈側血液回路管の血液クランパ
12 補液クランパ
13 動脈側血液回路管のエアトラップ
14 静脈側血液回路管のエアトラップ
15 血液ポンプ
16 抗凝固薬回路
17 静脈圧回路
18 気泡センサ
19 透過度センサ
20 アクセスポート
21 ポンプセグメント
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイアライザ(透析器)を使用する人工透析であって、透析血液中の老廃物の除去、水分の除去、電解質の調節、血液のpHの調節などの人工透析を行った後に、血液回路及びダイアライザ中に滞留している血液を安全かつ効率的に患者の体内に戻すことができる人工透析における流路の回路機構及び人工透析における透析液の一時貯留方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医療の現場ではダイアライザを利用した人工透析が広く実施されており、この人工透析(血液透析)における主な作業としては、洗浄・プライミング、透析、返血という作業が存在する。
ここで洗浄・プライミングとは、人工透析の準備段階で、患者の血液を通過させる血液回路(動脈側穿刺針の接続部からダイアライザ入り口までの動脈側血液回路と、ダイアライザ出口から静脈側穿刺針の接続部までの静脈側血液回路とがある)とダイアライザの内部を洗浄して、透析すべき血液を受け入れるための準備をする工程のことであり、透析とは、ダイアライザの働きで血液と透析液を半透膜を介して、拡散作用に基づき、血液中の老廃物を除去したり、過剰になった電解質を取り除き、不足している電解質を補い、あるいは限外ろ過作用に基づき、余分な水分を除去したりするなどして血液を正常化させる工程のことであり、返血とは、透析終了後に、患者の体内から血液回路とダイアライザに導いている血液を、患者の体内に残りのない状態で戻す工程のことである。
【0003】
従来行われている洗浄・プライミングの工程は、ダイアライザの透析液回路の供給側から透析液を注入(このとき透析液回路の排水側は閉じられている)し、この透析液を半透膜をすり抜けるように加圧して、透析液を強制的に血液回路及びダイアライザ中に送り込んで、血液回路及びダイアライザの内部を洗浄していた。
【0004】
また従来行われている返血の工程は、ダイアライザの透析液回路の供給側から透析液を加圧注入(このとき透析液回路の排水側は閉じられているので、加圧注入された透析液は血液回路に送り込まれる)し、このようにして透析液を強制的に血液回路中に送り込んで、血液回路中の残血を透析液で押し戻すという形態で返血が行われていた。
【0005】
ここで血液回路中に透析液を送り込む手段としては、ダイアライザの透析液回路の途中に設置してある透析液ポンプ(除水ポンプ)を利用する方法が採用されていた。
この方法は、透析液ポンプを回転させて上記の透析液に圧力をかけ、ダイアライザ中の半透膜を強制的に通過した透析液が血液回路中に送り込まれていたが、透析液ポンプは、洗浄・プライミング、透析の工程時にも随時使用されるものであり、各工程によっては透析液を排水側の透析液回路から排水する場合もあることから、透析液ポンプは正転又は逆転を繰り返すことになり、同様に透析液回路の排水側はその流路の開閉を繰り返したりする複雑な構造となっていた。
さらに生理食塩水のパックを血液回路にセットし、その生理食塩水を自然落下させて、血液回路とアナライザ内の血液を生理食塩水で置換させて、血液を体内に戻すという方法もある。
【特許文献1】特開平6−14993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の透析液ポンプによる返血方法にあっては、透析液ポンプの加圧強制力で無理に血液回路中の残血を患者の体内に戻すことになるので、血液回路中に気泡などが存在した場合には、気泡トラップや気泡センサなどが備えられていたとしても、その気泡が体内に強制的に送り込まれてしまうという危険があった。さらには、大量の透析液を正・逆方向に送り出すために負荷が過大になりトラブルの原因となる可能性が高かった。
【0007】
またこの方法では、透析液ポンプを利用して返血を行うため、新たな透析液を随時補給することになるので透析液の消費量が増大することになり、究極的には人工透析のコストアップにつながるという根本的な問題点が存在していた。
一方、生理食塩水のパックをセットする方法によれば、返血の都度新たな生理食塩水のパックを用意しなければならないので、同様に透析液(生理食塩水)の使用量が増大する問題があった。
【0008】
本発明は、透析液ポンプを用いずに、人工透析における作業を従来の透析操作マニュアルに沿った手順で自動化でき、汎用型の標準化血液回路を使用しながら、洗浄・プライミング工程時に本来排水されてしまう透析液(もちろんきれいな状態のもの)を、そのまま洗浄・プライミング工程や、補液工程や返血工程時に使用する透析液として、補液回路中の補液収納体に予め一時貯留しておき、このようにして透析液の有効利用を図ることで、上記した問題点をすべて解決できる人工透析における流路の回路機構及び人工透析における透析液の一時貯留方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る、人工透析における流路の回路機構及び人工透析における透析液の一時貯留方法の請求項1のものは、人工透析を行うダイアライザの片側に動脈側血液回路管を接続し、ダイアライザの他側に静脈側血液回路管を接続し、この動脈側血液回路管と静脈側血液回路管とで血液回路を構成し、前記ダイアライザ内の半透膜を介して血液通過部と仕切られる透析液室に透析液を送り込む透析液供給管と、この透析液室から透析液を排出する透析液排水管とをダイアライザに取り付け、この透析液供給管と透析液排水管とで透析液回路を構成し、前記血液回路の動脈側血液回路管と連通する状態で補液回路を備え、補液回路の先端に補液収納体を取り付け、この補液収納体は、洗浄・プライミング工程時に動脈側血液回路管を流れる透析液が一時的に貯留される構成であり、前記透析液回路の透析液排水管は、その流路の開閉が可能となる構成であり、前記血液回路の動脈側血液回路管と静脈側血液回路管の端縁部付近には、各血液回路管の流路の開閉が可能となる血液クランパが備えられ、前記補液回路の動脈側血液回路管との接続部付近には、補液回路の流路の開閉が可能となる補液クランパが備えられていることを特徴とする人工透析における回路機構である。
【0010】
また請求項2は、動脈側血液回路管と静脈側血液回路管のそれぞれに、流路中の気泡を捕捉して血液回路外に排出できるエアトラップを備えてなる請求項1記載の人工透析における回路機構である。
【0011】
また請求項3は、動脈側血液回路管の側壁付近に、各血液回路管の流路内の血液を送液することができる血液ポンプを備えてなる請求項1又は2記載の人工透析における回路機構である。
【0012】
さらに請求項4は、動脈側血液回路管に、抗凝固薬を注入するための抗凝固薬回路を備えてなる請求項1乃至3のいずれかに記載の人工透析における回路機構である。
【0013】
請求項5は、静脈側血液回路管に備えたエアトラップに静脈圧を計測できる静脈圧回路を備えてなる請求項2乃至4のいずれかに記載の人工透析における回路機構である。
【0014】
請求項6は、血液回路内の気泡の有無を判断する気泡センサを備えてなる請求項1乃至5のいずれかに記載の人工透析における回路機構である。
【0015】
また請求項7は、血液回路内を通過する物質が血液か透析液であるかを判断する透過度センサを備えてなる請求項1乃至6のいずれかに記載の人工透析における回路機構である。
【0016】
さらに請求項8は、請求項1記載の人工透析における回路機構を用いて、
第1工程として、動脈側血液回路管を開閉する血液クランパを開とし、補液回路を開閉する補液クランパ及び静脈側血液回路管を開閉する血液クランパを閉にした状態において、ダイアライザの透析液供給管よりダイアライザ内に透析液を流通させて、ダイアライザと動脈側血液回路管を洗浄し、第2工程として、動脈側血液回路管を開閉する血液クランパと静脈側血液回路管を開閉する血液クランパを閉とし、補液回路を開閉する補液クランパを開にした状態において、ダイアライザの透析液供給管よりダイアライザ内に透析液を流通させて、補液収納体に透析液を貯留し、第3工程として、ダイアライザの透析液供給管を閉とし、動脈側血液回路管を開閉する血液クランパを閉とし、補液回路を開閉する補液クランパを開とし、静脈側血液回路管を開閉する血液クランパを開にした状態において、補液収納体から補液回路を経由して透析液をダイアライザ及び静脈側血液回路に流通させて、ダイアライザと静脈側血液回路管を洗浄することを特徴とする人工透析における透析液の一時貯留方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る人工透析における流路の回路機構及び人工透析における透析液の一時貯留方法によれば、洗浄・プライミング工程時に補液収納体内に一時貯留させた新しい透析液を利用して、人工透析のダイアライザ、血液回路を洗浄したり、返血工程時にその透析液を利用できるので、透析液の使用量の増大を抑え、有効で効率的な人工透析が行えるという優れた効果がある。
【0018】
血液回路と補液回路、さらには補液回路と補液収納体とが連通して一体化した状態で配置されダイアライザから供給された透析液を使用して各回路を洗浄するため、血液回路の洗浄と補液収納体への透析液の一時貯留とが一回の操作で行うことができる。
【0019】
血液ポンプを利用せずに、人工透析後に血液回路内に残留した血液は、自然落下による補液収納体からの透析液で自然に体内に戻されるため、空気が強制的に体内に送り込まれるという事故は起こらない。
【0020】
さらに動脈、静脈それぞれの血液回路に、透過度センサと各回路の開閉用クランパとが連動して設置されていることにより、血液回路内に流通させた透析液が不必要に体内に流入するという事故は起こらない。
【0021】
また本発明では逆回転するような血液ポンプを備えた人工透析装置を必要としないため、人工透析装置の価格を安価に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の人工透析における流路の回路機構及び人工透析における透析液の一時貯留方法の実施の形態を説明する。
図1〜図7は洗浄・プライミング工程を説明する回路図、図8〜図12は返血工程を説明する回路図で、図1は洗浄・プライミング工程の基本回路図、図2〜図7はその作業手順図、図8は返血工程の基本回路図、図9〜図12はその作業手順図である。
【0023】
最初に本発明に係る回路の各配置について説明すると、人工透析を行うダイアライザ(透析器)1の片側には動脈側血液回路管2が接続されており、他側には静脈側血液回路管3が接続されており、この動脈側血液回路管2と静脈側血液回路管3とで血液回路5が構成されている。
前記ダイアライザ1の構成は公知のものであり、その内部には半透膜(図示しない)を介して、血液通過部と透析液室(いずれも図示しない)が備えられている。
【0024】
またこのダイアライザ1には、ダイアライザ1内の透析液室に透析液を送り込むための透析液供給管5と、ダイアライザ内で不要となった透析液を外部に排水するための透析液排水管6とが取り付けられており、この透析液供給管5と透析液排水管6とで透析液回路7が構成されている。ここで透析液排水管6は、適宜の手段で必要に応じてダイアライザ1との連通状態を遮断できる構成になっていて、状況の変化によりいつでもその連通状態を回復できる構成になっている。
【0025】
つぎに前記動脈側血液回路管2には補液回路8が連通状に接続されており、この補液回路8の先端には、例えば1000〜2000ml程度、より好ましくは1500〜2000ml程度の容量のパック容器又はその他の適宜の容器から構成される補液収納体9が取り付けられている。この補液収納体9には、洗浄・プライミング工程時に、透析液供給管5からダイアライザ1内に送り込まれた透析液が、ダイアライザ1内の半透膜を経由して動脈側血液回路管2に流れ込み、その透析液が補液回路8の下方から上方に向かって流れ込むようになっている。
【0026】
ついで、前記動脈側血液回路管2と静脈側血液回路管3の端縁部付近(人体との接続口付近)には、各流路の開閉が可能となる血液クランパ10、11が備えられているため、この血液クランパ10を開けば動脈側血液回路管2が開通状となり、それを閉めれば閉鎖状となる。同様に、血液クランパ11を開けば静脈側血液回路管3が開通状となり、それを閉めれば閉鎖状となる。
【0027】
続いて前記補液回路8の動脈側血液回路管2との接続口付近には、補液回路の流路の開閉が可能となる補液クランパ12が備えられているため、この補液クランパ12を開けば補液回路8が開通状となり、それを閉めれば閉鎖状となる。
【0028】
また本発明に係る回路機構には、動脈側血液回路管2と静脈側血液回路管3の適所位置に、血液回路4の流路中の気泡の存在をチェックし、気泡が存在した場合には、それを捕捉して血液回路4外に排出させることができるエアトラップ13,14が備えられている。ここでエアトラップ13は動脈側血液回路管2内の気泡を排出し、エアトラップ14は静脈側血液回路管3内の気泡を排出することになる。
【0029】
さらに血液回路4内に気泡が存在した場合には、それがそのまま体内に送り込まれることがないようにするため、気泡センサ18を血液回路4の適宜位置に設置しておくことが有効である。気泡センサ18は気泡の存在をチェックした際に、前記血液クランパ10,11と連動して必要な回路の流路を閉鎖する信号を送るように構成されている。
【0030】
また図中の符号20は、血液回路4の適所に設置したアクセスポートで、血液回路4に薬液を注入したり、血液回路4内の血液を採血したりするために外部の回路や採血針などと簡単かつ確実に連結するためのパーツである。さらに符号21はポンプセグメントであり、後述する血液ポンプ15と動脈側血液回路管2を挟んで対峙しており、血液ポンプ15の機能を確実に発揮させたり、血液ポンプ15とポンプセグメント21で挟まれている動脈側血液回路管2部分の流路を閉塞したり、開放したりするためのパーツである。
【0031】
ついで本発明に係る回路機構には、各血液回路管4内の流路内の血液を送液できる血液ポンプ15が、動脈側血液回路管2の側壁付近に備えられている。この血液ポンプ15を駆動させて、動脈から血液を動脈側血液回路管2内に導き、ダイアライザ1を経由して血液透析を終え、透析されたきれいな血液を静脈側血液回路管3内に流れ込ませ、さらに静脈に戻すという流れを作る。
【0032】
また本発明に係る回路機構では、血液が固まるのを防止するための抗凝固薬を注入するための抗凝固薬回路16を動脈側血液回路管2に備えたり、静脈側血液回路管3に備えたエアトラップ14に静脈圧を計測できる静脈圧回路17を備えたり、血液回路4内を通過する物質が血液であるか透析液であるかを判断する透過度センサ19を備えることができる。この透過度センサを備えることにより、返血工程時に血液回路4から体内に戻される静脈側血液回路管3内を通過する物質が、血液から透析液に変化した段階でその状況をチェックして、体内に不要の透析液が送られないように対処することができることとなる。
【0033】
人工透析前の洗浄・プライミング工程(準備作業)としては、第1に、動脈側血液回路管の血液クランパ10を閉、補液クランパ12及び静脈側血液回路管の血液クランパ11も閉にした状態にして、ダイアライザ1に透析液供給管5から透析液を流通させて、ダイアライザを洗浄する(このとき透析液排水管6は、ダイアライザに開にした状態で接続されているので、透析液は透析液排水管6より外部に排水される)。
【0034】
第2に、動脈側血液回路管の血液クランパ10を開とし、補液クランパ12及び静脈側血液回路管の血液クランパ11を閉にして、ダイアライザ1に透析液供給管5から透析液を流通させて、動脈側血液回路管2を洗浄する(このとき透析液排水管6は、ダイアライザと閉状態とされているので、透析液は透析液排水管6に流れることはない)。
【0035】
第3に、動脈側血液回路管の血液クランパ10及び静脈側血液回路管の血液クランパ11を閉、補液クランパ12を開にした状態において、前記同様ダイアライザ1及び動脈側血液回路管2に透析液を流通させて、透析液を補液回路8経由で補液収納体9に貯留する。
【0036】
第4に、動脈側血液回路管の血液クランパ10を閉、補液クランパ12及び静脈側血液回路管の血液クランパ11を開、及び静脈用血液回路に設置したエアトラップ14を閉にした状態において、動脈側血液回路管2に設置した血液ポンプ15を回転させ、補液収納体9内に貯留している透析液の一部を流通させて、動脈側血液回路管2、ダイアライザ1及び静脈用血液回路管3を洗浄する。
このとき補液収納体9内の透析液は、全部を使用することなく、後述する返血工程時の使用分として、少なくとも500ml程度は残しておく必要がある。
【0037】
つぎに、人工透析後の返血作業を説明すると、第1に、動脈側血液回路管の血液クランパ10、補液クランパ12を開とし、静脈側血液回路管の血液クランパ11を閉とした状態において、人工透析終了後に血液ポンプ15を稼働させることなく、補液回路8及びこれから動脈側穿刺針の接続部に延びる動脈側血液回路2内に残留している血液を、補液収納体9から自然落下する透析液の作用で体内に返血する。このとき、血液ポンプ15と対峙する位置にあるポンプセグメント21を血液ポンプ15と接触させて、血液ポンプ15とポンプセグメント21とで挟まれた動脈側血液回路管2部分の流路を閉鎖しておくことで、血液回路4内に残留している動脈側穿刺針の接続部側の一部の血液を返血する。
【0038】
第2に、動脈側血液回路管2に設置した透過度センサ19によって、補液クランパ12と動脈側血液回路管の血液クランパ10との間の動脈側血液回路管2に透析液が流通していると判断したとき(すなわちその部分の血液が返血されたとき)には、動脈側血液回路管の血液クランパ10を閉の状態とし、透析液が体内に流通することを防止する。
【0039】
第3に、動脈側血液回路管の血液クランパ10を閉、補液クランパ12及び静脈側血液回路管の血液クランパ11を開にした状態にして、残りの動脈側血液回路管2及び静脈用血液回路管3内の返血を、静脈側穿刺針の方向に、前記と同様に補液収納体9から自然落下する透析液の作用で体内に送って返血する。このとき、血液ポンプ15と対峙する位置にあるポンプセグメント21を血液ポンプ15から離して、血液ポンプ15とポンプセグメント21とで挟まれた動脈側血液回路管2部分の流路を開放しておく。
【0040】
第4に、静脈側血液回路管3に設置した透過度センサ19によって、静脈側血液回路管3に透析液が流通していると判断したとき(すなわちその部分の血液が返血されたとき)には、静脈側血液回路管の血液クランパ11を閉の状態とし、透析液が体内に流通することを防止する。
上記により血液回路4内の全ての血液の返血工程が終了した後には、動脈側穿刺針及び静脈側穿刺針を患者の体内から抜き取って返血工程は完了する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、人工透析を行う医療現場の分野で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】洗浄・プライミング工程の基本回路図である。
【図2】洗浄・プライミング工程の作業手順図1である。
【図3】洗浄・プライミング工程の作業手順図2である。
【図4】洗浄・プライミング工程の作業手順図3である。
【図5】洗浄・プライミング工程の作業手順図4である。
【図6】洗浄・プライミング工程の作業手順図5である。
【図7】洗浄・プライミング工程の作業手順図6である。
【図8】返血工程の基本回路図である。
【図9】返血工程の作業手順図1である。
【図10】返血工程の作業手順図2である。
【図11】返血工程の作業手順図3である。
【図12】返血工程の作業手順図4である。
【符号の説明】
【0043】
1 ダイアライザ
2 動脈側血液回路管
3 静脈側血液回路管
4 血液回路
5 透析液供給管
6 透析液排水管
7 透析液回路
8 補液回路
9 補液収納体
10 動脈側血液回路管の血液クランパ
11 静脈側血液回路管の血液クランパ
12 補液クランパ
13 動脈側血液回路管のエアトラップ
14 静脈側血液回路管のエアトラップ
15 血液ポンプ
16 抗凝固薬回路
17 静脈圧回路
18 気泡センサ
19 透過度センサ
20 アクセスポート
21 ポンプセグメント
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工透析を行うダイアライザの片側に動脈側血液回路管を接続し、ダイアライザの他側に静脈側血液回路管を接続し、この動脈側血液回路管と静脈側血液回路管とで血液回路を構成し、
前記ダイアライザ内の半透膜を介して血液通過部と仕切られる透析液室に透析液を送り込む透析液供給管と、この透析液室から透析液を排出する透析液排水管とをダイアライザに取り付け、この透析液供給管と透析液排水管とで透析液回路を構成し、
前記血液回路の動脈側血液回路管と連通する状態で補液回路を備え、補液回路の先端に補液収納体を取り付け、この補液収納体は、洗浄・プライミング工程時に動脈側血液回路管を流れる透析液が一時的に貯留される構成であり、
前記透析液回路の透析液排水管は、その流路の開閉が可能となる構成であり、
前記血液回路の動脈側血液回路管と静脈側血液回路管の端縁部付近には、各血液回路管の流路の開閉が可能となる血液クランパが備えられ、
前記補液回路の動脈側血液回路管との接続部付近には、補液回路の流路の開閉が可能となる補液クランパが備えられていることを特徴とする人工透析における回路機構。
【請求項2】
動脈側血液回路管と静脈側血液回路管のそれぞれに、流路中の気泡を捕捉して血液回路外に排出できるエアトラップを備えてなる請求項1記載の人工透析における回路機構。
【請求項3】
動脈側血液回路管の側壁付近に、各血液回路管の流路内の血液を送液することができる血液ポンプを備えてなる請求項1又は2記載の人工透析における回路機構。
【請求項4】
動脈側血液回路管に、抗凝固薬を注入するための抗凝固薬回路を備えてなる請求項1乃至3のいずれかに記載の人工透析における回路機構。
【請求項5】
静脈側血液回路管に備えたエアトラップに静脈圧を計測できる静脈圧回路を備えてなる請求項2乃至4のいずれかに記載の人工透析における回路機構。
【請求項6】
血液回路内の気泡の有無を判断する気泡センサを備えてなる請求項1乃至5のいずれかに記載の人工透析における回路機構。
【請求項7】
血液回路内を通過する物質が血液か透析液であるかを判断する透過度センサを備えてなる請求項1乃至6のいずれかに記載の人工透析における回路機構。
【請求項8】
請求項1記載の人工透析における回路機構を用いて、
第1工程として、動脈側血液回路管を開閉する血液クランパを開とし、補液回路を開閉する補液クランパ及び静脈側血液回路管を開閉する血液クランパを閉にした状態において、ダイアライザの透析液供給管よりダイアライザ内に透析液を流通させて、ダイアライザと動脈側血液回路管を洗浄し、
第2工程として、動脈側血液回路管を開閉する血液クランパと静脈側血液回路管を開閉する血液クランパを閉とし、補液回路を開閉する補液クランパを開にした状態において、ダイアライザの透析液供給管よりダイアライザ内に透析液を流通させて、補液収納体に透析液を貯留し、
第3工程として、ダイアライザの透析液供給管を閉とし、動脈側血液回路管を開閉する血液クランパを閉とし、補液回路を開閉する補液クランパを開とし、静脈側血液回路管を開閉する血液クランパを開にした状態において、補液収納体から補液回路を経由して透析液をダイアライザ及び静脈側血液回路に流通させて、ダイアライザと静脈側血液回路管を洗浄することを特徴とする人工透析における透析液の一時貯留方法。
【請求項1】
人工透析を行うダイアライザの片側に動脈側血液回路管を接続し、ダイアライザの他側に静脈側血液回路管を接続し、この動脈側血液回路管と静脈側血液回路管とで血液回路を構成し、
前記ダイアライザ内の半透膜を介して血液通過部と仕切られる透析液室に透析液を送り込む透析液供給管と、この透析液室から透析液を排出する透析液排水管とをダイアライザに取り付け、この透析液供給管と透析液排水管とで透析液回路を構成し、
前記血液回路の動脈側血液回路管と連通する状態で補液回路を備え、補液回路の先端に補液収納体を取り付け、この補液収納体は、洗浄・プライミング工程時に動脈側血液回路管を流れる透析液が一時的に貯留される構成であり、
前記透析液回路の透析液排水管は、その流路の開閉が可能となる構成であり、
前記血液回路の動脈側血液回路管と静脈側血液回路管の端縁部付近には、各血液回路管の流路の開閉が可能となる血液クランパが備えられ、
前記補液回路の動脈側血液回路管との接続部付近には、補液回路の流路の開閉が可能となる補液クランパが備えられていることを特徴とする人工透析における回路機構。
【請求項2】
動脈側血液回路管と静脈側血液回路管のそれぞれに、流路中の気泡を捕捉して血液回路外に排出できるエアトラップを備えてなる請求項1記載の人工透析における回路機構。
【請求項3】
動脈側血液回路管の側壁付近に、各血液回路管の流路内の血液を送液することができる血液ポンプを備えてなる請求項1又は2記載の人工透析における回路機構。
【請求項4】
動脈側血液回路管に、抗凝固薬を注入するための抗凝固薬回路を備えてなる請求項1乃至3のいずれかに記載の人工透析における回路機構。
【請求項5】
静脈側血液回路管に備えたエアトラップに静脈圧を計測できる静脈圧回路を備えてなる請求項2乃至4のいずれかに記載の人工透析における回路機構。
【請求項6】
血液回路内の気泡の有無を判断する気泡センサを備えてなる請求項1乃至5のいずれかに記載の人工透析における回路機構。
【請求項7】
血液回路内を通過する物質が血液か透析液であるかを判断する透過度センサを備えてなる請求項1乃至6のいずれかに記載の人工透析における回路機構。
【請求項8】
請求項1記載の人工透析における回路機構を用いて、
第1工程として、動脈側血液回路管を開閉する血液クランパを開とし、補液回路を開閉する補液クランパ及び静脈側血液回路管を開閉する血液クランパを閉にした状態において、ダイアライザの透析液供給管よりダイアライザ内に透析液を流通させて、ダイアライザと動脈側血液回路管を洗浄し、
第2工程として、動脈側血液回路管を開閉する血液クランパと静脈側血液回路管を開閉する血液クランパを閉とし、補液回路を開閉する補液クランパを開にした状態において、ダイアライザの透析液供給管よりダイアライザ内に透析液を流通させて、補液収納体に透析液を貯留し、
第3工程として、ダイアライザの透析液供給管を閉とし、動脈側血液回路管を開閉する血液クランパを閉とし、補液回路を開閉する補液クランパを開とし、静脈側血液回路管を開閉する血液クランパを開にした状態において、補液収納体から補液回路を経由して透析液をダイアライザ及び静脈側血液回路に流通させて、ダイアライザと静脈側血液回路管を洗浄することを特徴とする人工透析における透析液の一時貯留方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−62000(P2008−62000A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275779(P2006−275779)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(306035694)株式会社セピ・ココ (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(306035694)株式会社セピ・ココ (3)
【Fターム(参考)】
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