説明

人形毛髪用繊維

【課題】 自然な風合いと深みのある色合いと光沢とを有し、カール加工、植毛加工性も良好な人形用毛髪繊維等を提供する。
【解決手段】 塩化ビニリデン系樹脂からなり、繊度の平均偏差率が4.5〜15の範囲にある人形毛髪用繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人形の頭部に植えて毛髪とした場合に、人毛と同様な自然な風合いが得られる塩化ビニリデン系の人形毛髪用繊維等に関する。
【背景技術】
【0002】
人形の頭部等に植えられる人形毛髪は、人間の毛髪に近い外観や手触り感さらには風合い等を有することが求められる。このような人形毛髪用繊維としては、合成線状ポリアミド、アクリル樹脂、塩化ビニリデン系樹脂等の各種の合成樹脂を材料として用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
近年、玩具会社は、さまざまなヘアデザインの人形を競って開発しており、人形毛髪に対するカール加工性や植毛加工性等の要求度は高くなる一方である。特に高級人形においては、合成樹脂を材料とした繊維の場合に生じるプラスチック的なテカリの改善が強く求められており、人間の毛髪により近い自然で深みのある光沢と自然な風合いとが得られる繊維が要望されている。そのため、例えば、繊維の断面を異形形状とすることで、人間の毛髪により近い自然な風合いを実現しようとする発明も各種開示されている(例えば、特許文献2の図3、4参照)。
【0004】
しかし、合成樹脂を材料とした繊維の表面は、例え繊維断面を異形形状にしたとしても、キューティクルと呼ばれる独特な表面構造を持つ人間の毛髪とはかなり異なっており、人間毛髪に近い自然な光沢と風合いとを実現することはなかなかに困難で、未だ満足できる人形毛髪は得られていないのが実情である。
【特許文献1】特開昭61−113814号公報
【特許文献2】特開平8−296115号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、自然な風合いと深みのある色合いと光沢とを有し、カール加工、植毛加工性も良好な人形用毛髪繊維等を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1は、塩化ビニリデン系樹脂からなり、繊度の平均偏差率が4.5〜15の範囲にある人形毛髪用繊維である。また、発明の第2は、押出量に経時的な変動を生ぜしめながら溶融紡糸し、続いて冷却することを特徴とする上記の人形毛髪用繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の人形毛髪用繊維は、カール加工性や植毛加工性等の各種加工性が良好であり、また、ブラッシングする際の非脱毛性にも優れる。さらに自然な風合いと深みのある色合いと光沢を有して、人間の毛髪にかなり近い光沢、風合い、手触り感を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明について、特にその好ましい実施の形態を中心に具体的に説明する。本発明の人形毛髪用繊維は、塩化ビニリデン系樹脂を含む樹脂組成物を紡糸することで得られる。塩化ビニリデン系樹脂を用いることで、人間の毛髪にかなり近い、自然な風合いと深みのある色合いと光沢と手触り感とが得られやすくなる。
【0009】
塩化ビニリデン系樹脂は、塩化ビニリデンモノマー単独を重合することで得ても良いが、繊維の物性をより改善するために、塩化ビニリデンモノマーを主体とし、塩化ビニリデンモノマーと共重合可能な少なくとも1種類のエチレン誘導体モノマーを含めたモノマー混合物を重合して得るのが好ましい。ここで主体とするとは、塩化ビニリデンモノマーがモノマー混合物全体の50重量%以上を占めることを言う。
【0010】
モノマー混合物に含めても良いエチレン誘導体モノマーとしては、アクリルニトリルやメタクリロニトリルのごときエチレン性不飽和カルボン酸のニトリル、メチルアクリレートやメチルメタクリレートのごときアクリル酸やメタクリル酸のアルキルエステル、ヒドロキシプロピルアクリレートやヒドロキシエチルアクリレートやヒドロキシブチルアクリレートのごときヒドロキシアルキルエステル、酢酸ビニルのごとき飽和カルボン酸のビニルエステル、アクリルアミドのごときエチレン性不飽和カルボン酸のアミド、アクリル酸のごときエチレン性不飽和カルボン酸、アリルアルコールのごときエチレン性不飽和アルコール、塩化ビニルのごときハロゲン化ビニルなどが例示される。これらの中で熱安定性が良い点でメチルアクリレートまたは塩化ビニルが好ましく、より好ましくは塩化ビニルである。
【0011】
モノマー組成物における塩化ビニリデンモノマーとエチレン誘導体モノマーの好ましい重量比は、使用されるエチレン誘導体モノマーによって異なるものの、例えば、エチレン誘導体モノマーが塩化ビニルの場合には、塩化ビニリデンモノマー/塩化ビニルモノマーの好ましい重量比は65/35以上98/2以下である。塩化ビニルモノマーを35重量%以下とすることで得られる塩化ビニリデン系樹脂の透明度が維持され、塩化ビニルモノマーを2重量%以下とすることで塩化ビニリデン系樹脂の溶融粘度が低く維持されて、溶融押出がより容易になる。より好ましくは、塩化ビニリデンモノマー/塩化ビニルモノマーの重量比が80/20以上95/5以下である。また、例えば、エチレン誘導体モノマーがメチルアクリレートの場合には、塩化ビニリデンモノマー/メチルアクリレートモノマーの重量比は、80/20〜99/1の範囲とするのが好ましい。塩化ビニリデン系樹脂を得るには、まず、上記のモノマー類を、攪拌翼を備えた反応槽に投入して、これを一定の重合条件下、攪拌しながら重合すればよい。
【0012】
塩化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量は、5万〜8万と小さくするのが好ましい。重量平均分子量を小さくすることで、得られる繊維の強度が従来より低下するものの人形毛髪として必要な強度は維持しつつ、生産性を向上することが可能になる。重量平均分子量を5万以上とすることで、人形毛髪に必要な強度が確保され、人形頭部への植毛時における植毛加工性やブラッシング時の非脱毛性が良好となる。また、重量平均分子量を8万以下とすることで、紡糸時における押出機内部における熱分解や紡口の詰まりが生じにくく重量平均分子量は、5万5千以上7万5千以下であることが好ましく、6万以上7万以下であることがより好ましい。
【0013】
塩化ビニリデン系樹脂を用いて人形毛髪用繊維を紡糸するには、上記の塩化ビニリデン系樹脂と、必要により繊維物性等の改良のためのその他の成分とを混合し、よく混練して得られた樹脂組成物を用いる。樹脂組成物には、塩化ビニリデン系樹脂を90重量%以上含有せしめることが好ましく、人形毛髪に求められる強度と風合い等が得られると共に、繊維表面のベタツキが生じにくく手触りの良い人形毛髪用繊維が得られやすくなる。また、他の成分を含有せしめて塩化ビニリデン系樹脂を99.98重量%以下とすることで、静電気によるトラブルや櫛通りが改善された人形毛髪用繊維が得られやすくなる。樹脂組成物における塩化ビニリデン系樹脂の含有量は、91重量%以上97重量%以下であることがより好ましく、92重量%以上95重量%以下であることがさらに好ましい。
【0014】
人形毛髪用繊維は、上記の樹脂組成物を用い、後述のバラつきを生ぜしめる条件を満たしながら塩化ビニリデン系樹脂用押出機に供給し、溶融押出しして紡口より紡出した後、冷水槽で冷却し、目的に応じた延伸温度や延伸倍率で延伸してからボビン等に巻き取ることで製造できる。
【0015】
人形毛髪用繊維は、繊度(デニール)の平均偏差率(U%)が4.5〜15の範囲にある。つまり、繊維の太さ(=単位長さ当たりの重量)が一定の割合でバラついていることを要する。ここにいう繊維太さのバラつきは、一本の繊維内で長さ方向に太さがバラついていることを意味する。これを具体的に説明する。図1は、本発明の人形毛髪用繊維の直径を、繊維の長さ方向に沿って移動しながら測定した場合の繊度(デニール)の変動を示したムラ曲線の模式図である。横軸が繊維の長さ方向、縦軸が繊度の偏差を意味する。図1からわかるように、人形毛髪用繊維は、長さ方向に沿って太さが変動しており、平均繊度の周りに不規則に太くなったり細くなったりを繰り返している。このバラつきの程度を下記式(1)の平均偏差率:U%(単位は%)で表す。なお、式(1)において、nは測定点数を、上線付きのXは繊度の平均値を、Xは各測定点での繊度を、それぞれ意味する。
【0016】
【数1】

【0017】
図1で、測定開始点を意味する直線Aと測定終了点を意味する直線Bとの間の長さLの間隔において、ムラ曲線と上線付きXの直線とに挟まれた面積、すなわち図1中で右下がり斜線が付された面積をfとし、同じ間隔において、偏差が−100%の直線と上線付きXの直線とに囲まれた面積、すなわち図1中で右上がり斜線が付された面積をFとすると、試験長さL内における平均偏差率U%は、Fに対するfの面積の百分率となる。これを下記式(2)に示す。
【0018】
【数2】

【0019】
人形毛髪用繊維は、このU%が4.5〜15の範囲にあることを要する。合成樹脂性繊維では一般に繊度は安定してことが好ましいとされおり、平均偏差率も小さいことが望ましいとされる。ところが、まったく意外なことに、上記のように繊維内で太さをバラつかせることで、塩化ビニリデン系樹脂を用いた繊維に対して、人間毛髪に近い自然な風合いや光沢を付与することが可能になることが判明した。この理由は不明であるが、太さのバラつきにより、キューティクルに覆われた人間毛髪の表面における光散乱に近似した光散乱が繊維表面で生じるのではないかと推測している。
【0020】
U%を4.5以上とすることで、人間毛髪に近い自然な風合いや光沢が付与され、また、U%を15以下とすることで、繊維の引っ張り強度や伸度の低下が、製造段階において許容できる範囲に留まり、植毛加工時等における糸切れ不良等が発生しにくい。また、人形毛髪とした場合の滑らかな手触り感が得られる。U%は、好ましくは5〜14であり、さらに好ましくは6〜13であり、もっとも好ましくは7〜12である。
【0021】
ここで、平均偏差率U%の測定方法は、一対の対向させた電極の間に糸を走行させ、糸が占める容積に比例する静電容量の微小変化を検出する方法を用いている。この方法による連続測定器としては、計測器工業(株)やスイスのZellweger Uster社が供給する試験機が広く知られている。これらの装置では、バラつきの程度を連続測定して、そのままをチャートに記録することもできるが、一般に、繊度の変動の大きさは、平均偏差を平均値で割ったU%が使われることが多い。
【0022】
このように繊度にバラつきを付与するには、溶融紡糸における押出量に経時的な変動が生じるようにすればよい。そのためには、押出機のスクリューの回転数を電気的に直接制御し、回転数に経時的な変動が生じるようにすればよいのであるが、通常使用される押出機はそのような直接的な制御が困難なことが多い。そこで、以下のごとき方法を用いるのが好ましい。
【0023】
(1)使用原料を工夫する。具体的には、原料ポリマーに粉体粒径や粉体形状の異なる混合物を用いることで、その嵩密度と固体摩擦の不均一性に起因して生じる単軸押出機でのスクリューへの食込み斑と固体輸送部の変動、および圧縮部での溶融斑により、押出量変動を大きくする。(2)押出機のスクリュー等のデザインに工夫をする。例えば、単軸押出機の場合、スクリューが浅い一様な溝を備えて一定量の樹脂を押し出すための計量化部に対して、その長さを短くすることで計量精度を低下させる。あるいは押し出しの際の圧縮比やスクリュー溝深さを、安定的な押出条件となる範囲からやや逸脱するように変更する。(3)押出機の温度条件を工夫する。例えば、押出機バレルの温度設定(加熱・冷却)を安定的な押し出しとなる範囲からやや逸脱するように変更し、樹脂温度を変化させて押出量変動を大きくする。また、これらのうちの複数を選択して組み合わせて用いてもよい。
【0024】
人形毛髪繊維を紡糸するための樹脂組成物に添加しても良い他の成分としては、例えば、可塑剤、熱安定剤、塩化ビニリデン系樹脂以外の他の樹脂、界面活性剤、滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、顔料等を挙げることができる。これら他の成分は、特定の物性の改善には一定の効果があるが、繊維表面のベタツキ感を増大させて手触り感を低下させる等の好ましくない作用を伴う場合があるため、樹脂組成物における合計含有量は0.02重量%以上10重量%以下とするのが好ましく、より好ましくは3重量%以上9重量%以下、さらに好ましくは5重量%以上8重量%以下である。
【0025】
可塑剤としては、ジイソブチルアジペート、ジブチルアジペート、クエン酸アセチルトリブチル、セバチン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、フタル酸ジオクチル等を例示することができ、得られる繊維の手触り感の改善の観点から、ジイソブチルアジペート、ジブチルアジペート、クエン酸アセチルトリブチルとするのが好ましく、ジイソブチルアジペートまたはジブチルアジペートとするのがさらに好ましい。可塑剤を用いることで溶融押出しの加工性が改良され、繊維の生産性をさらに向上させることができるが、一方で、繊維表面のベタツキが生じ易くなり、人形毛髪とした場合の手触り感が低下しやすくなる。可塑剤量は、樹脂組成物において5重量%以下とするのが好ましく、より好ましくは2重量%以上5重量%以下である。
【0026】
熱安定剤としては、エポキシ化アマニ油、エポキシ化大豆油、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エポキシ化ステアリン酸ブチル、エポキシ化ステアリン酸オクチル、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、パラフィン等を例示することができる。好ましくはエポキシ化安定剤であり、最も好ましいのはエポキシ化アマニ油である。熱安定剤を用いることで塩化ビニリデン系樹脂の熱分解を低減することができるが、一方で、可塑剤と同様に繊維表面のベタツキが生じ易くなり手触り感が低下しやすくなる。熱安定剤は、樹脂組成物において5重量%以下とするのが好ましく、より好ましくは1重量%以上4重量%以下である。
【0027】
滑剤としては、モンタン酸エステルワックス、ステアリン酸、流動パラフィン、脂肪酸アミド等が例示され、好ましくは脂肪酸アミドである。脂肪酸アミドとしては、N,N’−エチレンビス(ステアロアミド)、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、N,N’−メチレンビス(ステアロアミド)、メチロール・ステアロアミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、N−オレイルパルミトアミド、N−ステアリルエルカアミド、硬化牛脂アミド等が挙げられる。好ましくは、炭素数18以上の脂肪酸アミドであり、さらに好ましくは硬化牛脂アミドである。
【0028】
滑剤は、樹脂組成物において0.01〜0.3重量%となるように添加するのが好ましい。0.01重量%以上添加することにより、繊維表面の滑り性が高くなってサラサラとした手触り感が得られやすくなる。また、0.3重量%以下とすることで、滑剤の繊維表面への析出が少なく透明性が高い繊維が得られる。また、繊維表面のベタツキが生じにくく手触りの良い人形毛髪が得られやすくなる。好ましくは0.03重量%以上0.20重量%以下であり、さらに好ましくは0.05重量%以上0.1重量%以下である。
【0029】
帯電防止剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、アルキルベンゼンスルホネート、第4級アンモニウム塩、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。好ましくはグリセリン脂肪酸エステルである。グリセリン脂肪酸エステルとしては、脂肪酸モノグリセライド、脂肪酸ジグリセライド、脂肪酸トリグリセライドのいずれでも良く、例えば、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、酢酸グリセライド、ステアリン酸グリセライド、オレイン酸グリセライド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシルイン酸エステル等が挙げられる。中でも脂肪酸モノグリセライドが好ましく、さらには、ステアリン酸グリセライド、オレイン酸グリセライドがより好ましい。
【0030】
帯電防止剤は、樹脂組成物において0.01〜0.3重量%となるように添加するのが好ましい。0.01重量%以上添加することにより、帯電防止の効果が得られやすくなる。また、0.3重量%以下とすることで、帯電防止剤の繊維表面への析出が少なくて透明性が高く、繊維表面のベタツキが生じにくくて手触りの良い人形毛髪が得られやすくなる。好ましくは0.03重量%以上0.20重量%以下であり、さらに好ましくは0.05重量%以上0.1重量%以下である。
【0031】
紫外線吸収剤としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’ジ−tert−ブチルフェニル)−5’−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−{2’−ヒドロキシ−3’−(3”,4”,5”,6”−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5’−メチルフェニル}ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス{4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール}、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メタアクリロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2,4−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシルオキシベンゾフェノン、2−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ジヒドロキシ−4,4’−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニル)メタン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤等を例示することができる。
【0032】
顔料としては、有機顔料、無機顔料、蛍光顔料、感温変色顔料を例示することができる。さらにこれらの顔料の分散性を高め、顔料の二次凝集をふせぐため、スチレン系樹脂やアクリル系樹脂等をベースにした加工顔料や液体可塑剤中に顔料分散させたペースト顔料を用いてもよい。
【0033】
人形毛髪用繊維の断面構造は、均一構造、中空構造、多層構造等のいずれであってもよいし、断面形状は、通常の円形状であってもよいし、三角形、多角形、Y字形、星形、扁平形状等の異形形状であってもよい。人形毛髪とした場合の軽い滑らかな手触り感が得られることから、特に、円形形状の中空構造とするのが好ましい。また、繊維は、これらの様々な構造や形状の単糸を組み合わせたマルチフィラメントであってもよい。マルチフィラメントとして用いる場合、本発明の繊維以外の他の繊維と混繊してもよい。
【0034】
人形毛髪用繊維を中空糸とする場合、繊維の中空率は3〜30%であることが好ましい。ここで中空率とは、繊維の長さ方向に直角となる面の断面形状を顕微鏡で観察した場合に、繊維外径で画される断面積に対して、繊維の中空部分の断面積が占める割合を言う。この中空率が3%以上で、人形毛髪に求められる軽い手触り感とボリューム感とが得られやすくなり、30%以下で人形毛髪に必要とされる強度が確保されて糸割れ等が発生しにくく、人形頭部への植毛時における植毛加工性やブラッシング時の非脱毛性も良好となる。
【0035】
人形毛髪用繊維の平均外径(上記の上線付きX)は、0.01〜0.2mmであることが好ましい。ここで平均外径とは、繊維の長さ方向に直角となる面の断面形状を顕微鏡で観察した場合に、繊維断面の外接円の直径を複数の断面に関して求め、それらの数平均により得られる値を言う。平均外径が0.01mm以上で人形毛髪に必要とされる強度が確保され、0.2mm以下で天然毛髪に類似する柔らかい手触り感が得られる。
【0036】
得られた人形毛髪用繊維は、必要によりカール処理等の成形処理が行われる。図2は、繊維にカール処理を行うカーリング装置の一例の概略構成を示した模式図である。紡糸された繊維が巻回された1または2以上のボビン7から繊維が取り出され、パイプ糸道6を経由して束の状態でマシンヘッド5に供給される。マシンヘッド5は、図面に向かって左右方向に延びるマンドレル3を中心として回転しており、ボビン7と反対側からマンドレル3上に繊維を吐出する。繊維はマンドレル3に巻き付いた状態で図面左側に順次移動し、マンドレル3の周囲に設けられた加熱ヒーター4により加熱されて、巻き付いた状態のままで繊維形状が固定される。そして、図面に向かって左側に移動して加熱ヒーター4を通過した繊維は、マンドレル3の端部でマンドレル3から外れ、カールした形状のまま樹脂製袋1に収納される。これでカール処理が完了する。
【0037】
必要によりカール処理等が行われた繊維は、人形頭部に植毛されて人形毛髪となる。図3は、人形頭部に植毛ミシンを用いて繊維を植毛する場合の概略構成例を示した図である。繊維が巻回されたボビン13から、繊維14が引き出されて、ミシン本体8の懸垂部に設けられた回転パイプ糸道11を経由して人形頭部9の上に導かれる。ミシン針10が、内側から上向きに人形頭部9を貫通して、繊維14を引っ掛けて人形頭部9内に引き込むようにして植毛する。人形頭部9の位置と回転パイプ糸道11の出口とを相対的に移動させることで、人形頭部9の必要部分全体に植毛が行われる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例や比較例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の具体的態様に限定されるものではない。なお、各種物性の評価方法は下記の通りである。
《塩化ビニリデン系樹脂の粉体の平均粒径、不定形粒子の外径》
【0039】
重合で得られた塩化ビニリデン系樹脂を乾燥し、得られた粉体の顕微鏡写真を撮影し、ランダムに選択した粉体粒子50個の粒径を測定して、その単純平均を平均粒径とした。また、不定形粒子の場合は、粉体粒子と同様に顕微鏡写真を撮影し、不定形粒子が外接する円の直径を測定し、やはり50個の単純平均を求めて外径とした。
《平均外径、中空率》
【0040】
10本の中空単糸をエポキシ樹脂で固め、長さ方向に直角の断面を切り出して顕微鏡観察により測定した。測定は、各断面の外周の長径と短径とを計測して単純平均して単糸外径とし、さらに内周の長径と短径とを測定して単糸内径とし、単糸外径と単糸内径とから各単糸の中空部分の面積割合を計算した。最後に、これらの値の10本の平均値をそれぞれ求めて、平均外径と中空率とした。
《平均偏差率U%の測定》
【0041】
電気容量式糸むら試験器[計測器工業株式会社製、商品名:Keisokki Evenness Tester Model KET−80C]を使用して、実施例、比較例で得たマルチフィラメントを、走行速度25m/minで2分間の連続測定を行い、得られたU%の値(N=5点)を平均して求めた。
《人形ヘアの風合い評価》
(1)人形ヘッドa(ストレートヘア)の製作
【0042】
塩化ビニルシート(厚さ約1mm)で出来た直径約6cmの球形の人形ヘッドに、図3に示したものと同様の人形植毛用ミシン(DOLLY CO.LTD社製、商品名:TUNF−28B、植毛速度800RPM、繊維カット長25cm)を使用し、実施例、比較例で得られた繊維をそれぞれ、人形ヘッドの頭頂部から後頭部(垂直部分)と側頭部(垂直部分)にかけて約50cm2の面積を植毛した。さらに、垂直に立てた長さ30cmの固定棒の頂部に、植毛した上記の人形ヘッドを固定し、毛髪を市販の犬猫ペット用スリッカーブラシで真下にブラッシングした後、繊維束の下面をハサミで切り揃え、ストレートヘアの人形ヘッドaを製作した。
(2)人形ヘッドb(カールヘア)の製作
【0043】
使用した繊維を、実施例、比較例で得られた13mmφのカール繊維に変更する以外は、全て上記人形ヘッドaの製作と同様な方法にて、カールヘアの人形ヘッドbを製作した。
(3)風合い評価
【0044】
上記人形ヘッドa、bをそれぞれ固定棒に固定した状態で5個ずつ横に並べ、それらの風合いについて、20人のモニターにより以下の官能評価を行った。評価内容と評価基準は以下の通りである。
【0045】
<光沢の評価>
・角度を変えて観察した時、輝きに変化があり、人毛に近い自然な光沢を感じる:3点
・角度を変えて観察した時、輝きにやや変化があり、自然に近い光沢を感じる:2点
・角度を変えて観察した時、輝きが一様で、人工的な光沢を感じる:1点
【0046】
次に、20人のモニターがそれぞれにつけた点数を単純平均して評価点数を求め、以下の基準で光沢の評価とした。
3.0点以下2.5点以上:A
2.5点未満2.0点以上:B
2.0点未満1.0点以上:C
【0047】
<色合いの評価>
・色調に深みがあり、人毛に近い自然な色合いを感じる:3点
・色調にやや変化があり、自然に近い色合いを感じる:2点
・色調が一様で、人工的な色合いを感じる:1点
【0048】
次に、20人のモニターがそれぞれにつけた点数を単純平均して評価点数を求め、以下の基準で色合いの評価とした。
3.0点以下2.5点以上:A
2.5点未満2.0点以上:B
2.0点未満1.0点以上:C
【0049】
<手触り感の評価>
・柔らかさと皮膚触感に変化があり、人毛に近い自然な手触り感を感じる:3点
・柔らかさと皮膚触感にやや変化があり、自然に近い手触り感を感じる:2点
・柔らかさと皮膚触感が一様で、人工的な手触り感を感じる:1点
【0050】
次に、20人のモニターがそれぞれにつけた点数を単純平均して評価点数を求め、以下の基準で手触り感の評価とした。
3.0点以下2.5点以上:A
2.5点未満2.0点以上:B
2.0点未満1.0点以上:C
【0051】
<風合いの総合評価基準>
・上記光沢、色合い、手触り感の評価結果で、Aが2個以上で、Cが無いもの:◎
・上記光沢、色合い、手触り感の評価結果で、Aが1個で、Cが無いもの:○
・上記光沢、色合い、手触り感の評価結果で、Cが1個あるもの:△
・上記光沢、色合い、手触り感の評価結果で、Cが2個以上あるもの:×
《カール加工性》
【0052】
図2に示したものと同様のカーリング装置を用いて、回転速度4000rpm、加熱槽温度180±5℃の条件で、実施例、比較例で得られた繊維を其々4kg巻/本ボビンより取り出し、15mmφのカール品を連続製造した。その際、芯棒4上において、コイル状糸の走行異常(詰り、糸束の縺れ)の発生回数(回数/ボビン1本当たり)を観察し、以下の評価基準により評価した。
1回未満:◎
1回以上3回未満:○
3回以上5回未満:△
3回以上:×
《植毛加工性》
【0053】
塩化ビニルシート(厚さ1mm)で出来た直径2.5cmの球形の人形ヘッドに、図3に示したものと同様の人形植毛用ミシン(DOLLY CO.LTD社製、商品名:TUNF−28B、植毛速度1000RPM、繊維カット長20cm)を使用して、実施例、比較例で得られた繊維をそれぞれ、人形ヘッドの頭頂部から後頭部(垂直部分)と側頭部(垂直部分)にかけて約7cm2の面積に植毛した。人形ヘッド100個あたりの植毛時に発生した糸切れ回数をカウントして糸切れ発生率(%)とし、これを用いて以下の基準で評価した。
1%未満:◎
1%以上5%未満:○
5%以上10%未満:△
10%以上:×
《ブラッシング非脱毛性》
【0054】
塩化ビニルシート(厚さ1mm)で出来た直径2.5cmの球形の人形ヘッドに、図3に示したものと同様の人形植毛用ミシン(DOLLY CO.LTD社製、商品名:TUNF−28B、植毛速度1000RPM、繊維カット長20cm)を使用して、実施例、比較例で得られた繊維をそれぞれ、人形ヘッドの頭頂部から後頭部(垂直部分)と側頭部(垂直部分)にかけて約7cm2の面積に植毛した。
【0055】
さらに地面から垂直に立てた長さ30cmの固定棒の頂部に、植毛した上記の人形ヘッドを固定し、室温23℃、湿度80%RHの条件下で、毛髪を市販の犬猫ペット用スリッカーブラシで真下に20回ブラッシングした後、脱毛した髪の重量を測定し、脱毛比率を求めて以下の評価基準で評価した。
1wt%未満:◎
1wt%以上3wt%未満:○
3wt%以上5wt%未満:△
5wt%以上:×
[実施例1〜3]
【0056】
塩化ビニリデン85重量%、塩化ビニル15重量%からなる塩化ビニリデン−塩化ビニルモノマー混合物を常法に従って重合し、乾燥して得られた樹脂粉末を分級して、粒径の異なる球状粉体A(平均粒径180μ)と球状粉体B(平均粒径330μ)とを用意した。別途、これらの球状粉体に融点付近の温度を短時間かけて、圧縮作成したフィルム状物を、粉砕して得られた不定形粉体C(外径約1〜3mm)を用意した。これらを下記に示す配合比にて混合して3種類の混合物とし、次に、それぞれの混合物に対し、可塑剤(クエン酸アセトトリブチル:3重量%)、熱安定剤(エポキシ化アマニ油:2重量%)、顔料(カーボンブラック:0.25重量%、Pigment Blue 15 :0.05重量%)、及び添加剤(ステアリン酸グリセライド:0.03重量%、タルク:0.3重量%)を混合して、下記に示す3種類の樹脂組成物(I〜III)を用意した。
・樹脂配合比=球状粉体A/球状粉体B=60/40・・・・樹脂組成物(I)
・樹脂配合比=球状粉体B/不定形粉体C=80/20・・・樹脂組成物(II)
・樹脂配合比=球状粉体A/不定形粉体C=70/30・・・樹脂組成物(III)
【0057】
各樹脂組成物をそれぞれ、単軸押出機[スクリュー径:D=50mm、全長:L=1000mm、計量化部長さ=200mm]を用い、押出温度183℃で中空用紡口より溶融紡出し、冷水槽で急冷した後、速度差ローラーで4倍延伸して、断面中空円形で平均外径約70μm(中空率約15%)の黒色の単糸10本よりなるマルチフィラメントを製造した。
【0058】
得られた3種類の繊維について、U%、人形ヘアの風合い、カール加工性、植毛加工性、ブラッシング脱毛性を評価した。結果を表1に示す。得られた繊維は、いずれも人毛に近い自然な風合いを有したドールヘアとなり、また、カール加工性、植毛加工性、実用強度の優れた性能を兼備していることが確かめられた。
[比較例1〜2]
【0059】
実施例1、3の球状粉体A、球状粉体B、不定形粉体Cの配合比を下記に示すように変更し、実施例1と同様の可塑剤、安定剤、顔料、添加剤を混合して下記の2種類の樹脂組成物を得た。
・樹脂配合比=球状粉体A/球状粉体B=90/10・・・・樹脂組成物(IV)
・樹脂配合比=球状粉体A/不定形粉体C=50/50・・・樹脂組成物(V)
【0060】
各樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の方法にて、黒色の単糸10本よりなるマルチフィラメントを得て、各評価を行った。結果を表1に示す。樹脂組成物(IV)からなる繊維(比較例1)は、風合いに劣り、高級なドールヘアとしては、不満足なものであった。また、樹脂組成物(V)からなる繊維(比較例2)は、加工性に問題があり、実用強度も低いものであった。
[実施例4]
【0061】
押出温度を178℃に下げた以外は比較例1と同じ方法により、黒色の単糸10本よりなるマルチフィラメントを得た。当該繊維についてU%、人形ヘアの風合い、カール加工性、植毛加工性、ブラッシング脱毛性を評価した。結果を表1に示す。得られた繊維は、風合いが改善され、ドールヘアとして、満足なものとなった。
[実施例5]
【0062】
単軸押出機[スクリュー径:D=50mm、全長:L=1200mm、計量化部長さ=250mm]を変更した以外は、比較例2と同じ方法により、黒色の単糸10本よりなるマルチフィラメントを得た。当該繊維について、U%、人形ヘアの風合い、カール加工性、植毛加工性、ブラッシング脱毛性を評価した。結果を表1に示す。得られた繊維は、加工性と実用強度の改善が見られ、ドールヘアとして、満足なものとなった。
【0063】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】繊度の変動を示したムラ曲線例の模式図である。
【図2】カーリング装置の概略構成例を示した模式図である。
【図3】植毛ミシンを用いて植毛する場合の概略構成例を示した模式図である。
【符号の説明】
【0065】
1 樹脂製袋
2 カールされた人形毛髪用繊維
3 マンドレル
4 加熱ヒーター
5 カーリングマシンヘッド
6 パイプ糸道
7 ボビンに巻かれた繊維
8 植毛ミシン本体
【0066】
9 人形ヘッド
10 ミシン針
11 回転パイプ糸道
12 植毛された人形毛髪
13 ボビンに巻かれた人形毛髪用繊維
14 巻解かれた人形毛髪用繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデン系樹脂からなり、繊度の平均偏差率が4.5〜15の範囲にある人形毛髪用繊維。
【請求項2】
押出量に経時的な変動を生ぜしめながら溶融紡糸し、続いて冷却することを特徴とする請求項1に記載の人形毛髪用繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−2040(P2008−2040A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174963(P2006−174963)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】