説明

介護環境の消臭装置及びポータブルトイレ

【課題】悪臭を効果的に消臭する介護環境の消臭装置及びポータブルトイレを提供することにある。
【解決手段】悪臭成分を分解する生菌、またはその芽胞のうち少なくとも一方を含む消臭液を用いる介護環境の消臭装置であって、上記消臭液を霧化手段により散布することを特徴とする介護環境の消臭装置及び同消臭装置が取り付けられたことを特徴とするポータブルトイレ。消臭液が枯草菌と、悪臭成分と反応し消臭する作用を有する天然消臭剤とを含むことを特徴とする介護環境の消臭装置又は同装置付設ポータブルトイレ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消臭機能を有する介護環境の消臭装置及びポータブルトイレに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より介護者及び被介護者その他介護環境に出入りする者にとり、悪臭が問題になっている。とりわけ居室内等で用いる可搬型の便器であるポータブルトイレが要介護者用等に用いられている。このようなポータブルトイレは悪臭が室内に拡散するという問題がある。一方被介護者のオムツを交換する部屋等においても同様に悪臭が問題となっている。悪臭の原因は排泄物及びその変質物より発する化学物質によるものであることが多い。
【0003】
このため消臭剤をスプレー容器に入れて手動でスプレー(特許文献1)すること等が行われており、消臭剤として無機化合物(特許文献2)や有機化合物(特許文献3)が提案されている。これらの消臭剤は単なる芳香で悪臭をマスキングするだけのものではなく、化学的に悪臭成分と反応することにより臭気を減じるものである。
【0004】
このためには噴霧液滴は小さい方が好ましい。ポータブルトイレ用途に限定したものではないが、消臭剤を霧状化させるのに超音波発生装置を使用して0.1〜0.3ミクロンにて散布することが提案されている(特許文献4)。しかしながら、この方法では悪臭物質を雰囲気気体中で反応させるには好適であるが、消臭剤を悪臭物質と反応させ消臭するには悪臭物質と等価な反応剤が必要となる。したがって本来排便直後に漂う気相成分に対する一時的な消臭効果に本来的に留まる。
【0005】
さらに、排泄物の表面を覆う又は表面のみ消臭化するという効果にとどまるため、内部の悪臭物質又は内部で繁殖し悪臭を生成する微生物によるものまでは効果が及ばず、貯留糞便を水洗便所で投棄処分するとき等には悪臭の問題が残る。しかも、気相成分と反応させて悪臭を除去することはできても、便器の裏側に飛散付着した汚物飛沫から発生する臭気は除去できない。
【0006】
一方悪臭源である糞尿を速やかに発酵させ消臭する方法も考えられている。例えば、新規バチルス属微生物を家畜糞、人糞に散布すると、その発酵が促進され、短期間で悪臭を消臭できることが開示されている(特許文献5)。しかし、この特許文献5に開示されている新規バチルス属微生物による人糞等の発酵促進は、人糞等を微生物分解するため時間を要するという問題があり、居室内でポータブルトイレを使用する時の悪臭を瞬時に消臭するような用途には適用できないものである。また、生菌は突然変異が生じる可能性があるため保存管理を要する。さらに、生菌の分散液を超音波で霧化して散布しようとしても、生菌が超音波振動により損傷を受けて悪臭の消臭作用を十分に発揮できないおそれがある。
【0007】
さらに、生体物質と合成・分解反応を行う酵素を多く含む液を消臭液に用い、これを収容する容器に超音波振動を与えて消臭液を霧化させ、この霧をファンで送り込んだ空気とともに放出させる消臭装置が提案されている(特許文献6)。しかし、この消臭装置においては、酵素の保存安定性上問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開2003−205021号公報
【特許文献2】特開2003−38623号公報
【特許文献3】特開平7-100194号広報
【特許文献4】特開2002−336341号公報
【特許文献5】特許第3040234号
【特許文献6】実用新案登録公報第3009505号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は悪臭を効果的に消臭する介護環境の消臭装置及びポータブルトイレを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の介護環境の消臭装置は、悪臭成分を分解する生菌、またはその芽胞のうち少なくとも一方を含む消臭液を用いる介護環境の消臭装置であって、上記消臭液を霧化手段により散布することを特徴とする。
【0011】
また、請求項2記載の介護環境の消臭装置は、請求項1記載の介護環境の消臭装置において、霧化手段によって生じる霧滴の平均粒径が1〜5μmであることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3記載の介護環境の消臭装置は、請求項1又は2記載の介護環境の消臭装置において、前記消臭液が枯草菌と、悪臭成分と反応し消臭する作用を有する天然消臭剤とを含むことを特徴とする。
【0013】
また、請求項4記載の介護環境の消臭装置は、請求項1乃至3のいずれかに記載の介護環境の消臭装置において、前記消臭液霧化手段の起動を臭いセンサーによる臭気成分の検知信号により自動的に行うことを特徴とする。
【0014】
また、請求項5記載の介護環境の消臭装置は、請求項1乃至4のいずれかに記載の介護環境の消臭装置において、前記霧化手段が超音波振動を利用したものであることを特徴とする。
【0015】
さらに、請求項6記載のポータブルトイレは、請求項1乃至5のいずれかに記載の介護環境の消臭装置が取り付けられたことを特徴とするポータブルトイレである。
【0016】
請求項7記載のポータブルトイレは、請求項6記載のポータブルトイレにおいて、前記消臭装置には、霧化手段によって霧化された霧滴が搬送パイプを通して搬送され、この搬送パイプの先端に霧滴噴出口が取着されていて、この霧滴噴出口が便座カバーに脱着自在に取り付けられていることを特徴とする。
【0017】
本発明において、生菌とは、悪臭成分を分解する菌であり、動物が感染しても問題となることのない菌が使用される。
このような菌としては、枯草菌が好ましく、中でも好気性あるいは通性嫌気性で、土壌中に広く存在し、病原性を示すことの少ないバチルスが好適である。病原性真菌の発育を抑制するものがさらに好ましい。
【0018】
また、この生菌の芽胞とは、生菌が栄養不足等で正常な活動ができないときに、一時的防御のために冬眠状態にある状態を表わす名称で、反面、生育好適条件に置かれると芽胞状態から脱し、栄養生殖活動を開始する。生育好適条件とは、栄養物が豊富に存在する状態である。本発明で栄養物は排泄物や便器に付着した排泄物の飛沫物が相当する。
【0019】
そして、本発明では上記生菌、またはその芽胞のうち少なくとも一方を含む消臭液を用いる。
本発明で消臭液として生菌の芽胞を含ませる場合には、芽胞が環境変化に強く、長期にわたって保存することが可能で、悪臭成分を分解する作用を長期にわたって維持することができるからである。
芽胞は外部刺激に強く、超音波発振器による霧化時に損傷を受け難く、さらに、形態が球形に近く霧化に好都合であることも芽胞を使用する理由である。
また、消臭液に生菌を含ませる場合には、菌が絶えず増殖して突然変異が生じ、菌が変質するおそれがあるため、菌の増殖を防ぐ対策が必要となる。例えば、菌が増殖しない低温に維持することも対策の一つである。
【0020】
本発明の消臭装置では、消臭液の霧化手段を有し、この霧化手段により消臭液が霧滴として噴霧されて使用される。霧滴の平均粒径は1〜5μmであるのが好ましい。霧滴の平均粒径が1〜5μmであると消臭液の噴霧を受けても濡れることがないため、衣服や肌が濡れることが無く長時間噴霧できるので好都合である。
消臭液を1〜5μmの霧滴として噴霧するには、霧化手段として超音波振動子を用いた霧化装置を用いることが好ましい。超音波振動子を用いた霧化装置によれば、霧化が簡単でかつ安定した霧滴の噴霧を行うことができるからである。
【0021】
この霧化手段はポータブルトイレ等の使用者や介護者が手動スイッチによってオン、オフするものであっても、圧力や光で着座、離座等を検知し、あるいは離座後タイマーでオフするものであっても良い。起動を臭いセンサーによる悪臭成分の検知信号により自動的に行うようにすると、居室に悪臭が発生しても自動的に消臭液が消臭装置から噴霧されて悪臭を消臭できる。また、ポータブルトイレを使用する人が認知症等により消臭装置の起動を失念しても居室に悪臭が拡散するのを防止できるため好ましい。
【0022】
また、消臭液が、悪臭成分を分解する生菌、またはその芽胞のうち少なくとも一方と、悪臭成分と反応し消臭する作用を有する天然消臭剤とを含むものとすることにより、消臭液を噴霧した瞬間には天然消臭剤による消臭効果で悪臭が解消され、後には、生菌または排泄物を栄養として生育好適条件におかれた芽胞が生菌状態に変じ栄養生殖活動をすることにより悪臭成分が分解されて長期にわたって消臭される。
【0023】
また、本発明の消臭装置がポータブルトイレに取り付けられたものとすると、トイレの使用時には必ず消臭液が噴霧され、トイレの使用による悪臭が居室内に拡散するのを防止できる。
【0024】
特に、前記消臭装置には、霧化手段によって霧化された霧滴が搬送パイプを通して搬送され、この搬送パイプの先端に霧滴噴出口が取着されていて、この霧滴噴出口が便座カバーに着脱自在に取り付けられていると、トイレ内に排泄される糞尿や飛び散って便座内面に付着する飛散物に直接消臭液を噴霧することができ、悪臭を効果的に消臭できる。また便座カバーは汚れると洗濯等のため取り替えるがこの便座カバーにパイプを着脱自在に取り付けられるようにしておくと容易に噴出口を取り付けることができる。例えば、パイプの端部や噴出口に、あるいは便座カバーに、マジックファスナー(登録商標)やクリップを取り付けておき、これで噴出口と便座カバーとを固定できるようにしてもよいし、便座カバーに取り付けられたリングにパイプ端部や噴出口を嵌合固定できるようにしても良い。噴出口が汚れた場合には噴出口を搬送パイプから外して洗浄すれば良く、噴出口の洗浄も容易となる。
また、便座内面に付着する飛散物は生菌または芽胞の作用により分解されて消臭でき、ポータブルトイレを常に衛生的に保持できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の介護環境の消臭装置は、悪臭成分を分解する生菌、またはその芽胞のうち少なくとも一方を含む消臭液を用いる介護環境の消臭装置であって、上記消臭液を霧化手段により散布することを特徴とするので、消臭液を長期間消臭装置内に保存しておいても消臭液の消臭効果を長期に持続でき、悪臭成分である排泄物に噴霧すると、生菌または芽胞が栄養物の豊富な生育好適条件に置かれて芽胞状態から脱し、栄養生殖活動を開始する芽胞が、悪臭成分を分解して悪臭を消臭することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の介護環境の消臭装置による消臭効果を確認するために次のような臭気強度試験と快・不快度試験を行った。
(実験方法)
密閉アクリル容器(内容積7.0リットル)内の底面中央に静置されたシャーレ上のコットンシートの上に、アンモニア水溶液を1ml滴下した。
室内空気をアクリル容器内に約25分間通気した。
容器内アンモニア濃度が12±1ppmの規定値になったことを確認後、霧滴の噴霧を開始した。噴霧ガスは表1及び表2に示す通り、コントロール(蒸留水)、消臭剤水溶液、芽胞水溶液、消臭剤+芽胞水溶液の4種類とし、噴霧ガスの流速は2.5l/minとした。
各噴霧ガスを1分間噴霧後の空気を臭い袋(プラスチックバッグ)にそれぞれ採取した。
各噴霧ガスの試料袋内の空気を、5人の被験者に提示して嗅いだ結果を臭気強度及び快・不快度尺度上の数値で回答させた。
尚、臭気強度は、環境庁告示の「6段階臭気強度表示法」により評価した数値であり、快・不快度は、環境庁告示「9段階快・不快度表示法」により評価した数値である。
臭気強度の結果は表1、及び快・不快度の結果は表2の通りである。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
この表1の平均値と標準偏差の結果をグラフに表わしたのが図1であり、表2の平均値と標準偏差の結果をグラフに表わしたのが図2である。
【0030】
表1及び図1から芽胞水溶液はコントロール(蒸留水)よりやや臭気強度が弱くなり、また、消臭剤+芽胞水溶液は消臭剤水溶液よりやや臭気強度が弱くなっており、芽胞を含む消臭液の消臭効果が表れているものと思われる。
また、表2及び図2から芽胞水溶液はコントロール(蒸留水)よりやや不快度が弱くなり、また、消臭剤+芽胞水溶液は消臭剤水溶液よりやや快度が強くなっており、上記臭気強度と同様に、芽胞を含む消臭液の消臭効果が表れているものと思われる。
【0031】
次に、請求項4記載の消臭装置における消臭液霧化手段の起動を臭いセンサーによる臭気成分の検知信号により自動的に行うためのセンサー素子について説明する。
【0032】
図3は臭いセンサー素子の一例を示す平面図で、厚さ0.254mm、1辺1.5mmの正方形の96%アルミナ基板の表面に、厚さ約4μmの白金電極を2箇所設け、これら電極間を1.1mm×0.8mmの標準感ガス体塗布領域を設けたものである。
【0033】
この臭いセンサー素子の作成法の1例としては、ZnSbゾル溶液の0.2〜0.8マイクロリットルをヒーター付きアルミナ基板上に滴下して乾燥した後、これを900℃の空気中で3時間焼成する方法がある。
しかし、アルミナ基板を900℃の高温で焼成するとヒーターが損なわれるおそれがあるため、ヒーター保護のため、酸素中あるいはオゾン含有雰囲気(100〜3000ppm)中で700℃程度の低温で焼成するのが好ましい。
【0034】
この臭いセンサーの特性を測定する回路の一例を示すものが図4である。図4において、Vは測定電圧、rは基準抵抗、Eは印加電圧、Rはセンサー抵抗を示す。
【0035】
また、上記作成法で得られたZnSb厚膜センサーによるCHSH(メチルメルカプタン、糞便中の主要悪臭成分の一つ)ガスとHS(硫化水素、異常発酵時の悪臭成分であるが代表的悪臭の例)ガスに対する感度の濃度依存性(300℃)を調べたところ、図5の通りであった。
この例では、ほぼ20ppbの濃度まで検知可能であり、この20ppbの濃度は人間の臭覚の検知限界であることを考えると、得られた上記センサーは人間の臭覚の検知限界領域まで検知できるので、臭いセンサーの特性としては申し分の無いものである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の介護環境の消臭装置による消臭効果の臭気強度の比較を示すグラフである。
【図2】本発明の介護環境の消臭装置による消臭効果の快・不快度の比較を示すグラフである。
【図3】本発明の介護環境の消臭装置における臭いセンサーの1例を示す平面図である。
【図4】本発明の介護環境の消臭装置における臭いセンサーの特性を測定する回路の一例を示すものである。
【図5】本発明の介護環境の消臭装置におけるZnSb厚膜臭いセンサーによるCHSHガスとHSガスに対する感度の濃度依存性(300℃)示すグラフである。
【図6】本発明のポータブルトイレにおける霧滴噴出口が便座カバーに脱着自在に取り付けられている1態様を表す図面代用写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
悪臭成分を分解する生菌、またはその芽胞のうち少なくとも一方を含む消臭液を用いる介護環境の消臭装置であって、上記消臭液を霧化手段により散布することを特徴とする介護環境の消臭装置。
【請求項2】
霧化手段によって生じる霧滴の平均粒径が1〜5μmであることを特徴とする請求項1記載の介護環境の消臭装置。
【請求項3】
前記消臭液が枯草菌と、悪臭成分と反応し消臭する作用を有する天然消臭剤とを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の介護環境の消臭装置。
【請求項4】
前記消臭液霧化手段の起動を臭いセンサーによる臭気成分の検知信号により自動的に行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の介護環境の消臭装置。
【請求項5】
前記霧化手段が超音波振動を利用したものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の介護環境の消臭装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の介護環境の消臭装置が取り付けられたことを特徴とするポータブルトイレ。
【請求項7】
前記消臭装置には、霧化手段によって霧化された霧滴が搬送パイプを通して搬送され、この搬送パイプの先端に霧滴噴出口が取着されていて、この霧滴噴出口が便座カバーに脱着自在に取り付けられていることを特徴とする請求項6記載のポータブルトイレ。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−247177(P2006−247177A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69172(P2005−69172)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度、独立行政法人科学技術振興機構、大学発ベンチャー創出推進事業「消臭による快適介護環境の創出に関する研究」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)」
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(505091400)株式会社キャリアネットワーク京都 (3)
【Fターム(参考)】