説明

介護用浴槽

【課題】車椅子に乗った状態で被介護者は安全に、介助者には少ない負担で入浴作業ができるし、高齢者や身体に障害がある人も楽に、安全に入浴することができる介護用浴槽を提供する。
【解決手段】浴槽本体1の壁部1Bに設けた出入り用開口部6は、横引き扉14で開閉し、固定パッキン15と側面可動パッキン10で止水する。出入り用開口部6の下面6Cに床側ゴムマット12と車輪落込み凹部13を設け、横引き扉14の下面に扉側ゴムマットを設け、走行輪が軸支してある。閉扉時に走行輪が車輪落込み凹部13に転入し、開口6と横引き扉14との間はゴムマット12で液密に閉塞し、横引き扉14は浴槽本体1にロックされる。横引き扉14は手元操作と遠隔操作スイッチ24、25で開閉操作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被介護者が車椅子に乗った状態で入浴することができるし、高齢者や足の不自由な人も浴槽の壁部を跨ぐことなく安全かつ楽に入浴することができ、また介助者にも作業が楽な介護用浴槽に関する。
【背景技術】
【0002】
被介護者や高齢者にとって入浴は楽しみであるが、浴槽はお湯を貯める必要から壁部が必須の構成になっており、この壁部があるために被介護者や高齢者が安全に、無理なく入浴することは困難というよりも不可能である。このため、例えば、車椅子を必要とする被介護者が入浴する場合は、浴槽の近傍に設置し、ハンモック状の吊り上げ具で被介護者を車椅子から吊り上げて入浴させるリフト式入浴装置が提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、車椅子や高齢者が出入りし易いように浴槽の壁部に開口部を設け、開口部をドア式扉で開閉するようにした被介護者用浴槽が提案されている。更に、高齢者のためには洗い場に対して浴槽を低く設置し、浴槽内に出入り用の踏み台を設けることにより浴槽への出入りを楽にした高齢者用浴槽も提案されている。
【特許文献1】特開平11−28238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述したリフト式入浴装置は、浴槽周りにある程度の広さがなければ設置できないという欠点、複数の介助者が必要であるという欠点、被介護者は吊り上げられることから不安感を感じるという欠点、入浴のための準備に手間と時間が掛るという欠点、装置に相応の費用が掛るという欠点がある。また、ドア式扉を設けた浴槽は、外開き及び内開きのいずれの方式でも、扉が動く範囲を空けておかなければならないため、浴槽に円滑に出入りできないという欠点がある。
【0005】
本発明は上述した従来技術の諸欠点に鑑みなされたもので、車椅子に乗った状態で被介護者には安全に、介助者には負担を少なく入浴作業をさせることができるし、高齢者や足の不自由な人も楽に、安全に入浴することができる介護用浴槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために構成された本発明の手段は、底部から4面の壁部が起立してなる浴槽本体と、該浴槽本体の一の壁部に上端から略底部側まで形成した出入り用開口部と、前記一の壁部に横方向にスライド可能に設けられ、前記出入り用開口部を液密に閉塞する横引き扉とからなる。
【0007】
そして、前記出入り用開口部を形成した前記一の壁部の下側口縁に弾性止水材を設けると共に車輪落込み凹部を設け、前記横引き扉の下面に弾性止水材を設けると共に走行輪を軸支し、閉扉時には該走行輪を前記車輪落込み凹部に転入させることにより、前記出入り用開口と横引き扉との間を前記弾性止水材で液密に閉塞し、かつ該横引き扉を前記浴槽本体にロックするようにしたことにある。
【0008】
また、前記横引き扉は電動式に構成し、手元操作スイッチと遠隔操作スイッチにより開閉操作可能にするとよい。
【0009】
更に、前記出入り用開口部の口縁と前記横引き扉には、その何れか一方に磁性体を設け、他方に該磁性体と磁着する磁着片を設ける構成にするとよい。
【0010】
また、前記浴槽本体には、入浴者の首から肩にかけて広く温水を噴射するシャワー装置を設けるとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は上述の如く構成したから、下記の諸効果を奏する。
(1)浴槽本体の壁部に出入り用開口部を設けたから、車椅子に乗った状態で入浴できるし、高齢者や下肢の不自由な人でも歩行する感覚で入浴することが可能であり、快適であるし安全性に優れている。
(2)出入り用開口部は横引き扉で開閉する構成にしたから、ドア式扉と異なって開閉のためのスペースが不要であり、浴室を大型にする必要がないし、入浴する人も円滑に出入りすることができる。
(3)横引き扉は電動式に構成し、遠隔操作スイッチと手元操作スイッチにより作動可能にしたから、1人の介助者で横引き扉を開閉して入浴作業を行うことができる。
(4)浴槽本体と横引き扉が接する面には弾性止水材を設け、かつ閉扉時には横引き扉の車輪を浴槽本体の底側に落込む構成にしたから、液密性を高く入浴中のお湯の漏洩を確実に防止することができる。
(5)横引き扉は、閉扉時には浴槽本体の床側に車輪が落込む構成にして自動的にロックされた状態になるから、ドア式扉がロック忘れのために突然開くといった危険性が皆無である。
(6)浴槽本体と横引き扉は弾性止水材だけでなく、磁性体により互いに磁着させて止水するようにしたから、使用者はお湯の漏洩を心配することなく安心して入浴することができる。
(7)浴槽本体には広くお湯を噴射するシャワー装置を設けたから、車椅子使用のために首まで湯に浸かることの出来ない被介護者の首から肩にお湯を掛けて暖めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳述する。図1乃至図3おいて、1は浴槽本体を示す。該浴槽本体1は平面略長方形の底部1Aと、該底部1Aの外縁から起立する4面の前壁部1B、後壁部1C、左右の横壁部1D、1Eとからなり、基本構成は従来の浴槽と同様になっている。そして、横壁部1Dの上面には混合水栓2、底部1Aの片隅には排水口3、他側角隅の上部側には溢流口4が設けてあり、後壁部1Cの上面には安全バー5が設けてある。
【0013】
6は前記前壁部1Bに設けた出入り用開口部を示す。該出入り用開口部6は車椅子が出入り可能な横幅で、前壁部1Bの上端から底部1Aにかけて略凵状に形成してある。そして、一側の開口側面6Aに臨んで前壁部1Bには後述する横引き扉14を格納する横長コ字状の扉収納部7が凹設してあり、上面はカバー7Aによって閉塞するようにしてある。また、一側の開口側面6Aに対向する他側の開口側面6Bに臨んで前壁部1Bにはコ字状の扉先端嵌入部8が凹設してあり、上面はカバー8Aによって閉塞するようにしてある。
【0014】
図3及び図6において、9、9は前記扉収納部7を形成する内面7B、7Bの先端側に貼着した一対の一側固定パッキンで、該各一側固定パッキン9は当接面を凹V字面に形成してある。10、10は前記扉先端嵌入部8を形成する内面8B、8Bに貼着した一対の他側固定パッキン、11は扉先端嵌入部8の奥面8Cに貼着した扉受けパッキンで、該扉受けパッキン11は当接面を波型に形成してある。更に、12は出入り用開口部6の開口下面6Cから扉収納部7内の下面にかけて設けた床側ゴムマットで、該床側ゴムマット12には扉収納部7の開口寄りの位置と、扉先端嵌入部8に位置して2個一対の車輪落込み凹部13、13、13、13が前後に形成してある(図3、図6参照)。
【0015】
図4及び図5において、14は出入り用開口部6を開閉可能に閉塞する横引き扉を示す。該横引き扉14は、出入り用開口部6の横幅より横長に形成した一対の側板14A、14A、前板14B、幅広のパッキン支持板14C、後板14D、天板14E及び底板14Fとから扁平箱状に構成し、内部には複数の補強板14Gが離間して設けてある。また、図6において、15、15は前記パッキン支持板14Cの張出し面に貼着した側面可動パッキンで、該各側面可動パッキン15は当接面を凸V字面に形成したものからなり、閉扉時に一側固定パッキン9の凹V字面と嵌合させることにより止水性を確実にしてある。
【0016】
16は横引き扉14の前板14Bに貼着した先端パッキンで、該先端パッキン16は扉受けパッキン11と嵌合するように波型に形成して止水性を高めてある。また、17は前記底板14Fの下面に貼着した扉側ゴムマットで、該扉側ゴムマット17は床側ゴムマット12と衝合することにより、水の漏洩を防止するものである。更に、一側固定パッキン9と側面可動パッキン15、また扉受けパッキン11と先端パッキン16には互いに磁着する磁石片が内設(図示せず)してあり、閉扉時にはこれら磁石片が磁着することによってパッキン9と15同士、11と16同士がより強固に密着して止水するようにしてある。なお、上記のように磁石片を埋設する方法の他に、各パッキンを磁性ゴム材で形成しても良い。
【0017】
18、18は横引き扉14の底板14Fに軸支した前車輪、19、19は該底板14Fに軸支した後車輪で、該各前車輪18及び後車輪19は各駆動軸に夫々設けた可逆型の駆動モータ20、20によって駆動することにより、横引き扉14は進退するようになっている。
【0018】
21は横引き扉14を開閉動作するために該扉14内に設置した制御盤で、該制御盤21には横引き扉14の後板14Dに設けられ、浴槽本体1の後壁部1E接離する開扉検知センサ22、扉先端嵌入部8内で扉受けパッキン11に埋設した閉扉検知センサ23、浴槽本体1の前壁部1Bの上面に設けてカバー8Aで覆った手元操作スイッチ24が電気的に接続してある。また、該制御盤21は遠隔操作スイッチ25によっても操作可能にしてある。
【0019】
そして、制御盤21は、手元操作スイッチ24や遠隔操作スイッチ25から送られる閉扉信号或いは開扉信号より駆動モータ20、20を始動して横引き扉14を前進或いは後退させて出入り用開口部6を開閉し、開扉検知センサ22及び閉扉検知センサ23からの信号により両駆動モータ20を停止するように構成してある。又、横引き扉14が確実に閉扉し、或いは開扉したら制御盤21は、警報音を発し、ランプが点灯(消灯)するようにしてある。このように横引き扉14は電動式に構成し、手元操作スイッチ24と遠隔操作スイッチ25によって作動するようにしてあるから、介助者は作業を楽に行うことができる。なお、開扉検知センサ22は横引き扉14に設けたが、扉収納部7内に位置して浴槽本体1に設けてもよい。
【0020】
更に、26は浴槽本体1の一の横壁部1D上面に設けたシャワー装置を示す。車椅子に乗って入浴した人は、浴槽本体1内では胸あたりまでしか湯に浸かることが出来ず、肩から上は湯面から露出しているために寒い思いをするという問題がある。この問題を解消するために設置したシャワー装置26である。シャワー装置26の特徴は、入浴した人の首から肩にかけて広く温水を掛けることができるように、高さ方向に伸縮自在な給湯管26Aに複数個、本実施の形態では3個のシャワーヘッド26B、26B、26Bを横設したことにある。なお、温水シャワー装置26の温水供給管、水供給管、開閉弁、操作ノブなどの基本構成は公知の温水シャワー装置と実質的に同じであるから、その詳細は省略する。
【0021】
本実施の形態に係る介護用浴槽は上述の構成からなるが、次にその作動について説明する。先ず、浴槽本体1内に開放状態にある出入り用開口部6から被介護者は車椅子で乗り入れ、介助者は手元或いは遠隔操作スイッチ24(25)により横引き扉14を前進させ、4個の前、後車輪18、19を車輪落込み凹部13、13、・・に確実に嵌合させる。これにより横引き扉14は浴槽本体1の底部1A側に若干落下した状態になり、床側ゴムマット12に扉側ゴムマット17が密着して出入り用開口部6の開口下面6C側からお湯が漏洩する事態を防止している。
【0022】
また、閉扉検知センサ23からの信号によって横引き扉14が確実に閉じた状態にあることを音声、ランプなどで確認することができる。また、一側固定パッキン9と側面可動パッキン15、扉受けパッキン11と先端パッキン16は互いに嵌合し、磁石片の磁力によって密接するので、出入り用開口部6の両開口側縁6A、6Bからお湯が漏洩するのを確実に防止している。入浴が終了したら、介助者は排水口3からお湯を抜き、手元或いは遠隔の操作スイッチ24(25)により横引き扉14を後退させて出入り用開口部6を開扉する。横引き扉14が完全に後退したかは、開扉検知センサ22からの信号による警報音、ランプなどにより確認することができる。
【0023】
上記した入浴のための作動は、高齢者や身体に障害がある人が入浴する場合も基本的に異なるところはない。
【0024】
なお、本実施の形態では浴槽本体1に1個の混合水栓2を設けたが、入浴時には早急にお湯を満たす必要があるから、混合水栓の給湯能力を勘案して複数個の混合水栓2、2、・・を設ける構成にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る介護用浴槽の外観斜視図である。
【図2】介護用浴槽の平面図である。
【図3】介護用浴槽の分解構成説明図である。
【図4】横引き扉の構成説明図である。
【図5】横引き扉の内部構成を示す平面図である。
【図6】出入り用開口部と横引き扉の説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 浴槽本体
6 出入り用開口部
10 側面固定パッキン
11 扉受けパッキン
12 床側ゴムマット(弾性止水材)
14 横引き扉
15 側面可動パッキン
16 先端パッキン
17 扉側ゴムマット(弾性止水材)
18、19 車輪
24 手元操作スイッチ
25 遠隔操作スイッチ
26 シャワー装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部から4面の壁部が起立してなる浴槽本体と、該浴槽本体の一の壁部に上端から略底部側まで形成した出入り用開口部と、前記一の壁部に横方向にスライド可能に設けられ、前記出入り用開口部を液密に閉塞する横引き扉とから構成してなる介護用浴槽。
【請求項2】
前記出入り用開口部を形成した前記一の壁部の下側口縁に弾性止水材を設けると共に車輪落込み凹部を設け、前記横引き扉の下面に弾性止水材を設けると共に走行輪を軸支し、閉扉時には該走行輪を前記車輪落込み凹部に転入させることにより、前記出入り用開口と横引き扉との間を前記弾性止水材で液密に閉塞し、かつ該横引き扉を前記浴槽本体にロックするようにしてなる請求項1記載の介護用浴槽。
【請求項3】
前記横引き扉は電動式に構成し、手元操作スイッチと遠隔スイッチにより開閉操作可能にしてあることを特徴とする請求項1又は2記載の介護用浴槽。
【請求項4】
前記出入り用開口部の口縁と前記横引き扉には、その何れか一方に磁性体を設け、他方に該磁性体と磁着する磁着片を設けたことを特徴とする請求項1記載の介護用浴槽。
【請求項5】
前記浴槽本体には、入浴者の首から肩にかけて広く温水を噴射するシャワー装置を設けてあることを特徴とする請求項1記載の介護用浴槽。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−330(P2009−330A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164736(P2007−164736)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【特許番号】特許第4150062号(P4150062)
【特許公報発行日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(507210904)
【Fターム(参考)】