説明

介護評価指標推定装置及び介護評価指標推定方法

【課題】 被介護者にとって身体的及び心的負担を何ら負うことなく、且つ、介護者側の負担も大幅に軽減し、介護分野において被介護者の身体機能を評価するために使用される各種介護評価指標を高精度に推定することができる介護評価指標推定装置を提供する。
【解決手段】 介護評価指標推定装置は、被験者の心拍信号の強度を算出する心拍強度算出部5と、算出された心拍強度のデータについて、所定時間のデータのばらつきを示す分散値を算出する分散値算出部6と、算出された分散値に基づいて、被験者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定部7と、判定された睡眠段階に基づいて、睡眠の質を示す睡眠評価指標を算出する睡眠評価指標算出部8と、算出された睡眠評価指標に基づいて、介護分野において被介護者の身体機能を評価するために使用される介護評価指標を推定する介護評価指標推定部9とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、介護分野において被介護者の身体機能を評価するために使用される各種介護評価指標を推定する介護評価指標推定装置及び介護評価指標推定方法に関し、特に睡眠と介護評価指標との関係に着目した技術に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠は健康のバロメータであるといわれ、快適な睡眠をして気分のよい目覚めができれば、目覚めた際に颯爽とした気分となり健康を実感することは、日常において多く経験する。睡眠は、人間の身体活動及び心的活動に重要な影響を及ぼす要素であり、良好な睡眠をとることができれば身体的及び心的に健康的な日常活動が保証されるといってよい。快適な睡眠をとることができれば、心的に安定した状態となり、逆に、精神的に安定していれば、快適な睡眠をとることができる。すなわち、被験者の睡眠時の生体信号情報から睡眠の質を知ることができれば、快適な睡眠であるか否かという睡眠感を把握することが可能となり、さらに精神的な面での健康度、換言すれば心的健康度を把握することができると考えられる。
【0003】
本願発明者は、特許文献1のように、このような睡眠と心的健康度との関係に着目した技術について開発を行っている。具体的には、この特許文献1に記載された技術は、睡眠時の被験者の心拍信号に基づいて算出した心拍強度信号の一定時間内のデータの分散値を算出し、睡眠中の分散値の変動傾向に基づいて心的健康度及び睡眠感評価値を求めるものである。
【0004】
また、特許文献2には、睡眠時の生理情報に基づいて睡眠状態を判定し、この睡眠状態に応じた健康情報の提供を行う健康管理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】 特開2007−125337号公報
【特許文献2】 特開2007−7149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、睡眠は長時間とればよいというものではなく、過度の睡眠をとることは、人間の健康や寿命に影響することがわかりつつある。また、高齢者の睡眠は、若年層に比べ、深いノンレム睡眠段階が少ないことが知られている。このことから、高齢者の身体機能は、睡眠と何らかの因果関係を有し、睡眠の質を高めることが身体機能の向上につながり、認知症等の防止を図ることができると推察される。
【0007】
ここで、介護分野において被介護者の身体機能を評価するために使用される評価指標としては、認知症ケアを意識した介護者による高齢者(被介護者)の総合的機能評価尺度であるCPAT(Care Planning Assessment Tool)や、認知機能や記憶力を簡便に測定するための認知機能検査であるMMSE(Mini−Mental State Examination)等がある。
【0008】
CPATは、介護者が被介護者を観察し、約60項目の質問に対する被介護者の状況を収集することによって介護の要否等を把握することを目的とするツールであり、その得点として求められた評価指標は、介護にどれだけ手間がかかるかを示す被介護者の自立度を表す生活全般評価指標として介護プランの作成に有効利用されている。また、MMSEは、面接形式で11項目の質問を被介護者に与え、その回答をみることによって認知機能の程度を示す評価指標を求めるものである。
【0009】
介護現場においては、的確な介護による機能改善を図るために、このような各種介護評価指標を用いることにより、被介護者の状態を的確に把握することを試みている。
【0010】
しかしながら、このような各種介護評価指標は、それを求めるために多岐にわたる質問に対する回答を収集する必要があり、非常に手間を要する。また、これら各種介護評価指標と睡眠の質との関係については何ら研究がなされていないのが現状であり、この関係を見出すことができれば、介護による改善効果を定量化することができ、被介護者毎に必要な介護方法の最適化を図ることができるといえる。
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、被介護者にとって身体的及び心的負担を何ら負うことなく、且つ、介護者側の負担も大幅に軽減し、介護分野において被介護者の身体機能を評価するために使用される各種介護評価指標を高精度に推定することができる介護評価指標推定装置及び介護評価指標推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は、睡眠の質と介護分野において使用される各種介護評価指標との関係について鋭意研究を行った結果、これらの間に所定の相関があり、睡眠の質を的確に求めることができれば精度よく介護評価指標を推定することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、上述した目的を達成する本発明にかかる介護評価指標推定装置は、被験者の生体信号を検出する生体信号検出手段と、前記生体信号検出手段によって検出された生体信号の強度を算出する生体信号強度算出手段と、前記生体信号強度算出手段によって算出された生体信号強度のデータについて、所定時間のデータのばらつきを示す分散値を算出する分散値算出手段と、前記分散値算出手段によって算出された分散値に基づいて、前記被験者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定手段と、前記睡眠段階判定手段によって判定された睡眠段階に基づいて、睡眠の質を示す睡眠評価指標を算出する睡眠評価指標算出手段と、前記睡眠評価指標算出手段によって算出された睡眠評価指標に基づいて、介護分野において被介護者たる前記被験者の身体機能を評価するために使用される介護評価指標を推定する介護評価指標推定手段とを備えることを特徴としている。
【0014】
また、上述した目的を達成する本発明にかかる介護評価指標推定方法は、所定の生体信号検出手段によって被験者の生体信号を検出する生体信号検出工程と、信号処理を行うプロセッサによって前記生体信号検出工程にて検出された生体信号の強度を算出する生体信号強度算出工程と、前記プロセッサによって前記生体信号強度算出工程にて算出された生体信号強度のデータについて、所定時間のデータのばらつきを示す分散値を算出する分散値算出工程と、前記プロセッサによって前記分散値算出工程にて算出された分散値に基づいて、前記被験者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定工程と、前記プロセッサによって前記睡眠段階判定工程にて判定された睡眠段階に基づいて、睡眠の質を示す睡眠評価指標を算出する睡眠評価指標算出工程と、前記プロセッサによって前記睡眠評価指標算出工程にて算出された睡眠評価指標に基づいて、介護分野において被介護者たる前記被験者の身体機能を評価するために使用される介護評価指標を推定する介護評価指標推定工程とを備えることを特徴としている。
【0015】
このような本発明にかかる介護評価指標推定装置及び介護評価指標推定方法は、被介護者の生体信号強度の分散値に基づいて睡眠の質を示す睡眠評価指標を算出し、睡眠評価指標と介護評価指標との間の相関関係に基づいて、算出した睡眠評価指標に対応する介護評価指標を推定する。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、睡眠評価指標を的確に算出し、さらに、この睡眠評価指標に基づいて介護評価指標を高精度に推定することができることから、介護評価指標を求めるために多岐にわたる質問に対する回答を収集することなく、被介護者に身体的及び心的負担を何ら負わせず且つ介護者側の負担も大幅に軽減し、毎日の睡眠評価によって介護評価指標を高精度に推定することができ、被介護者毎に必要な介護方法の最適化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】 本発明の実施の形態として示す介護評価指標推定装置の構成を示す図である。
【図2】 本発明の実施の形態として示す介護評価指標推定装置の構成を示す図であり、図1において矢視方向からみたときの一部断面図である。
【図3】 本発明の実施の形態として示す介護評価指標推定装置において、介護評価指標を推定する際の一連の手順を示すフローチャートである。
【図4】 (a)は心拍強度の時系列データを示し、(b)は心拍強度の分散値の時系列データを示す図である。
【図5】 図4(b)に示す心拍強度の分散値の時系列データに対して300点移動平均処理を施して得られた時系列データを示す図である。
【図6】 分散値区分毎の発生頻度を示す図である。
【図7】 睡眠評価指標とCPATによる評価指標との関係を示す図である。
【図8】 睡眠評価指標とMMSEによる評価指標との関係を示す図である。
【図9】 他の生体信号検出部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0019】
この実施の形態は、介護分野において被介護者の身体機能を評価するために使用される各種介護評価指標を推定する介護評価指標推定装置である。特に、この介護評価指標推定装置は、被介護者の生体信号から求めた睡眠の質に基づいて介護評価指標を高精度に推定するものである。
【0020】
図1に、本発明の実施の形態として示す介護評価指標推定装置の処理をブロックとして表した構成を示し、図2に、図1において矢視方向からみたときの一部断面図を示している。すなわち、介護評価指標推定装置は、被験者(被介護者)の生体信号を検出する生体信号検出部1と、この生体信号検出部1によって検出された生体信号を増幅する信号増幅部2と、この信号増幅部2によって増幅された生体信号に対してフィルタリング処理を施すフィルタ部3と、このフィルタ部3を通過した心拍信号に対して自動的に利得制御を行う自動利得制御部4と、心拍信号の強度を算出する心拍信号強度算出部5と、この心拍強度算出部5によって算出された心拍強度の分散値を算出する分散値算出部6と、この分散値算出部6によって算出された心拍強度の分散値に基づいて被験者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定部7と、この睡眠段階判定部7によって判定された睡眠段階に基づいて睡眠の質を示す睡眠評価指標を算出する睡眠評価指標算出部8と、この睡眠評価指標算出部8によって算出された睡眠評価指標に基づいて介護評価指標を推定する介護評価指標推定部9とを備える。なお、これら各部のうち、少なくとも、心拍信号強度算出部5、分散値算出部6、睡眠段階判定部7、睡眠評価指標算出部8、及び、介護評価指標推定部9は、例えば、信号処理を行うコンピュータにおけるCPU(Central Processing Unit)やメモリ等のハードウェアを用いて実行可能なプログラムとして実装したり、コンピュータに装着可能な拡張ボードに搭載されたDSP(Digital Processing Unit)等の専用プロセッサを用いて実装したりすることができる。
【0021】
生体信号検出部1は、被験者の微細な生体信号を検出する無侵襲センサである。具体的には、生体信号検出部1は、圧力検出チューブ1aと、この圧力検出チューブ1aの内部に収容されている空気の微小な圧力変動を検出するセンサである微差圧センサ1bとから構成され、無侵襲な生体信号の検出手段を構成している。
【0022】
圧力検出チューブ1aとしては、生体信号の圧力変動範囲に対応して内部の圧力が変動するように適度な弾力を有するものを使用する。また、圧力検出チューブ1aとしては、圧力変化を適切な応答速度で微差圧センサ1bに伝達するために、チューブの中空部の容積を適切に選択する必要がある。圧力検出チューブ1aが適度な弾性と中空部容積とを同時に満足できない場合には、圧力検出チューブ1aの中空部に適切な太さの芯線をチューブ長さ全体にわたって装填し、中空部の容積を適切にとることができる。
【0023】
このような圧力検出チューブ1aは、寝台11上に敷設された硬質シート12上に配置される。介護評価指標推定装置においては、硬質シート12上に弾性を有するクッションシート13が敷設されており、圧力検出チューブ1aの上に被験者が横臥することになる。なお、圧力検出チューブ1aは、クッションシート13等に組み込んだ構成とすることにより、圧力検出チューブ1aの位置を安定させる構造としてもよい。
【0024】
微差圧センサ1bは、微小な圧力の変動を検出するセンサである。本実施の形態においては、微差圧センサ1bとして、低周波用のコンデンサマイクロフォンタイプのものを使用するが、これに限定されるものではなく、適切な分解能とダイナミックレンジとを有するものであればよい。本実施の形態において使用した低周波用のコンデンサマイクロフォンは、一般の音響用マイクロフォンが低周波領域に対して配慮されていないのに引き替え、受圧面の後方にチャンバーを設けることによって低周波領域の特性を大幅に向上させたものであり、圧力検出チューブ1a内の微小圧力変動を検出するのに好適なものである。また、このコンデンサマイクロフォンは、微小な差圧を計測するのに優れており、0.2Paの分解能と約50Paのダイナミックレンジとを有し、通常使用されるセラミックを利用した微差圧センサと比較して数倍の性能を持つものであり、生体信号が体表面に通して圧力検出チューブ1aに加えた微小な圧力を検出するのに好適なものである。また、周波数特性は、0.1Hz〜20Hzの間で略平坦な出力値を示し、心拍及び呼吸等の微小な生体信号を検出するのに適している。
【0025】
本実施の形態においては、一方が被験者の胸部の部位の生体信号を検出し、他方が被験者の臀部の部位を検出するように、2組の圧力検出チューブ1aが設けられており、被験者の就寝の姿勢にかかわらず生体信号を検出するように構成されている。なお、介護評価指標推定装置においては、胸部の部位又は臀部の部位の一方のみに圧力検出チューブ1aを配置する構成としてもよい。このような生体信号検出部1によって検出された生体信号は、信号増幅部2に供給される。介護評価指標推定装置は、このような無侵襲で生体信号を検出する構成とすることにより、日常生活において容易に使用することができる。
【0026】
信号増幅部2は、後の処理工程で処理できるように生体信号検出部1によって検出された信号を増幅する。この信号増幅部2によって増幅された生体信号は、フィルタ部3に供給される。
【0027】
フィルタ部3は、信号増幅部2によって増幅された生体信号から呼吸信号等の不要な信号をバンドパスフィルタ等によって除去することにより、心拍信号を抽出する。すなわち、生体信号検出部1によって検出された生体信号は、人体から発する様々な振動が混ざり合った信号であり、その中に心拍信号をはじめとして呼吸信号や寝返りを示す信号等の様々な信号が含まれている。このうち、心拍信号は、心臓のポンプ機能に基づく圧力の変化(すなわち血圧)が振動となって生体信号に含まれるものである。介護評価指標推定装置においては、これをフィルタ部3によって抽出することにより、心拍信号として認識する。このフィルタ部3を通過した心拍信号は、自動利得制御部4に供給される。
【0028】
自動利得制御部4は、フィルタ部3の出力が所定の信号レベルの範囲内に入るように自動的に利得制御を行ういわゆるAGC回路である。この自動利得制御部4による利得制御は、例えば信号のピーク値が所定の上限閾値を超えた場合に出力信号の振幅が小さくなるように利得を設定するとともに、ピーク値が所定の下限閾値を下回った場合に振幅が大きくなるように利得を設定している。自動利得制御部4は、このような利得制御を行った際の利得の値(係数)を心拍信号強度算出部5に供給する。
【0029】
心拍信号強度算出部5は、自動利得制御部4において心拍信号に対して施した利得制御の係数に基づいて、心拍信号の強度を算出する。上述したAGC回路から得られる利得の値は、信号の大きさが大きいときには小さく、また、信号の大きさが小さいときは大きく設定されることから、利得の値を用いて信号強度を示すには、利得の値と反比例するように信号強度を示す関数を設定するのが望ましい。心拍信号強度算出部5は、算出した心拍強度について個人差をなくして一般化するために、正規化して百分率表現値とした上で、分散算出部6に供給する。
【0030】
分散算出部6は、心拍強度算出部5によって算出された心拍強度のデータについて、所定時間のデータのばらつきを示す分散値を算出する。なお、本実施の形態においては、ある時点において、その時点までの一定時間内にサンプリングしたデータのばらつきを示す指標を分散値と称するものとすると、そのデータの標準偏差を分散値として採用している。具体的には、分散算出部6は、心拍強度のデータが1秒毎に測定されているものとすると、一連の心拍強度のデータのうち、60秒間のデータの分散値を算出する。ある時点から遡及して60秒間のデータ、すなわち、60個の心拍強度データの分散値を算出し、その後、次の1秒後から遡及して60秒間のデータの分散値を算出する、といった処理を繰り返し行う。この結果、分散算出部6は、心拍強度のばらつき(分散値)についての1秒間隔の時系列データを得ることができる。分散算出部6は、このようにして得られた時系列データを睡眠段階判定部7に供給する。
【0031】
睡眠段階判定部7は、分散値算出部6から供給された心拍強度の分散値の時系列データに基づいて、被験者の睡眠段階を判定する。すなわち、睡眠段階判定部7は、心拍強度の分散値の推移する傾向(変動傾向)に基づいて、睡眠中の被験者の睡眠段階、すなわち、レム睡眠及び4段階のノンレム睡眠の種別を判定する。なお、体動がある場合には、信号が大きく振れ且つその心拍強度の分散値も大きくなる。そこで、睡眠段階判定部7は、このような異常値の影響を除去するため、所定値を超える心拍強度の分散値をその所定値で置換する等の異常値処理を行う。そして、睡眠段階判定部7は、例えば300点といった所定個数の分散値のデータ毎に移動平均処理を行い、平滑化処理を行う。そして、睡眠段階判定部7は、平滑化処理を施した分散値の時系列データを、予め定められた分散値の区分に応じて、上述したレム睡眠及び4段階のノンレム睡眠に対応する5段階に分類し、区分毎の発生頻度(発生時間)を算出する。このとき、睡眠段階判定部7は、後に詳述するように、心拍強度の分散値が約2.5%である場合を国際睡眠深度判定基準における深い睡眠であるノンレム睡眠3段階及び4段階に対応させることにより、本発明による手法と国際睡眠深度判定基準とを関連付ける。この睡眠段階判定部7によって判定された睡眠段階判定結果は、睡眠評価指標算出部8に供給される。
【0032】
睡眠評価指標算出部8は、睡眠段階判定部7によって判定された睡眠段階に基づいて、睡眠の質を示す睡眠評価指標を算出する。具体的には、睡眠評価指標算出部8は、上述した分散値の時系列データの区分毎の発生頻度に対して所定の重み付けを行い、その値を睡眠評価指標として算出する。この睡眠評価指標算出部8による処理は、睡眠段階判定部7による処理とともに、後に詳述するものとする。
【0033】
介護評価指標推定部9は、睡眠評価指標算出部8によって算出された睡眠評価指標に基づいて、介護評価指標を推定する。具体的には、介護評価指標推定部9は、睡眠評価指標と介護評価指標との対応関係を示すマップデータを図示しないメモリ等に格納しておき、睡眠評価指標算出部8によって算出された睡眠評価指標に応じて、このメモリ等から介護評価指標を読み出す。ここで、介護評価指標としては、認知症ケアを意識した介護者による高齢者(被介護者)の総合的機能評価尺度であるCPAT、及び/又は、認知機能や記憶力を簡便に測定するための認知機能検査であるMMSE(Mini−Mental State Examination)が挙げられる。なお、睡眠評価指標とこれらの介護評価指標との対応関係については、後に詳述するものとする。介護評価指標推定部9は、上述した分散値の時系列データや睡眠評価指標等とともに、推定した介護評価指標を出力し、図示しない表示装置に表示させたり、印刷装置によって印刷させたり、記憶装置にデータとして記憶させたりする。
【0034】
このような介護評価指標推定装置は、図3に示すような一連の手順にしたがって、介護評価指標を推定する。
【0035】
まず、介護評価指標推定装置においては、図3に示すように、ステップS1において、心拍強度の信号を取り込む。すなわち、介護評価指標推定装置においては、生体信号検出部1によって検出された生体信号を信号増幅部2によって増幅し、フィルタ部3によって呼吸信号等の不要な信号をバンドパスフィルタ等によって除去して心拍信号を検出する。そして、介護評価指標推定装置においては、検出した心拍信号に対して自動利得制御部4によって利得制御を行うことによってピーク値を制御し、心拍強度算出部5により、このときの自動利得制御部4の利得の値を用いて心拍強度を算出する。これにより、図4(a)に示すような心拍強度の時系列データが得られる。
【0036】
続いて、介護評価指標推定装置においては、ステップS2において、分散値算出部6によって心拍強度の分散値を算出する。具体的には、分散値算出部6は、各時点から遡及して60秒間のデータの分散値(標準偏差)を算出する。これにより、図4(b)に示すような心拍強度の分散値の時系列データが得られる。なお、図4(b)に示す心拍強度の分散値の単位は、想定される最大の心拍強度の分散値を基準とする百分率である。
【0037】
そして、介護評価指標推定装置においては、ステップS3乃至ステップS6において、睡眠段階判定部7による睡眠段階の判定及び睡眠評価指標算出部8による睡眠評価指標の算出を行う。
【0038】
すなわち、介護評価指標推定装置においては、ステップS3において、睡眠段階判定部7により、心拍強度の分散値の時系列データのうち、所定値を超える心拍強度の分散値をその所定値で置換する等の異常値処理を行うとともに、所定個数の分散値のデータ毎に移動平均処理を行い、平滑化処理を行う。これにより、図5に示すような移動平均処理後の心拍強度の分散値の時系列データが得られる。
【0039】
続いて、介護評価指標推定装置においては、ステップS4において、睡眠段階判定部7により、平滑化処理を施した分散値の時系列データを、予め定められた分散値の区分に応じて5段階に分類し、区分毎の発生頻度(発生時間)を算出する。図6に、その結果の具体例を示している。この5段階の分散値の区分は、被験者に現れる最大の分散値(標準偏差)に対して割合で表したものであり、ここでは、2.5%以下、2.5〜3.5%、3.5〜4.5%、4.5〜5.5%、5.5%以上の5つの区分に分類し、これらの区分に該当する分散値(標準偏差)がどの程度の時間、出現するかを棒グラフで示したものである。そして、介護評価指標推定装置においては、ステップS5において、睡眠段階判定部7により、全睡眠時間に対する各区分の時間の割合を睡眠段階の判定結果として求める。
【0040】
なお、心拍強度の分散値区分は、時系列データの平均値及び標準偏差(分散値)を用いて区分の境界値を定めることにより、個人差による影響をなくすことができる。例えば、時系列データの平均値、平均値から標準偏差分だけ大きい値、平均値から標準偏差の2倍分だけ大きい値、平均値の標準偏差分だけ小さい値等を用いることによって正規化されるため、個人差による影響をなくすことが可能となる。図6に示す心拍強度の分散値区分は、このようにして正規化して定めたものである。
【0041】
ここで、いわゆる国際睡眠段階判定方法(ポリソノグラフ)においては、δ波成分の割合に基づいて睡眠深度を決定するが、本発明による手法との関係をみると、本願発明者による実験の結果、δ波成分の割合と心拍強度の分散値とは略反比例することがわかっている。また、δ波成分が20%以上の場合には、深い睡眠であると判定するが、これは、約2.5%以下の心拍強度の分散値に相当する。このように、介護評価指標推定装置においては、心拍強度の分散値が約3%(2.5%以下、2.5〜3.5%)である場合を国際睡眠深度判定基準における深い睡眠であるノンレム睡眠3段階及び4段階に対応させることにより、重要な深い睡眠の基準については、国際睡眠深度判定基準に合わせた処理を行っている。
【0042】
図4(b)及び図6からわかるように、心拍強度の分散値が小さいほど、深い睡眠であって精神的に安定していると考えられるため、心拍強度の分散値が2.5%以下の値を示す場合には、精神的に安定しており、分散値が高くなるにしたがって、浅い睡眠でよく眠れていないと考えてよい。
【0043】
そして、介護評価指標推定装置においては、ステップS6において、睡眠評価指標算出部8により、睡眠評価指標を算出する。このとき、睡眠評価指標算出部8は、次式(1)を用いて睡眠評価指標を算出する。
S=α・t+β・t+γ・t+δ・t+ε・t ・・・(1)
【0044】
上式(1)において、t,t,t,t,tは、それぞれ、分散値が2.5%以下、2.5〜3.5%、3.5〜4.5%、4.5〜5.5%、5.5%以上の区分に該当する分散値が発生した合計時間である。また、α,β,γ,δ,εは、それぞれ、国際睡眠深度判定基準と関連付けた重み係数であり、分散値が小さいほど大きな値となるように定められる。なお、図6に示した度数分布が得られた場合には、α=10、β=4、γ=2、δ=1、ε=0と定めて睡眠評価指数を算出すると、
S=2.17×10+1.65×4+1.07×2+1.22×1+1.23×0=31.66
となる。
【0045】
介護評価指標推定装置においては、このようにして睡眠評価指標を算出すると、ステップS7において、介護評価指標推定部9により、図示しないメモリ等に格納されたマップデータを参照し、睡眠評価指標算出部8によって算出された睡眠評価指標に対応する介護評価指標を読み出す。
【0046】
ここで、実際に25人の被験者に対して、CPATによる介護指標を求めるとともに本発明の手法によって睡眠評価指標を算出する調査を2回行い、その関係をプロットすると図7に示すように、睡眠評価指標が約35未満の領域では略二次関数にしたがった分布が得られ、睡眠評価指標が約35以上の領域では略一次関数にしたがった分布が得られた。すなわち、睡眠評価指標を変数Xとし、CPATによる介護指標をYとすると、CPATによる介護指標Yは、次式(2)によって推定することができる。
Y=a(X−b)+c (X<35)
Y=dX+e (35≦X) ・・・(2)
【0047】
また、実際に25人の被験者に対して、MMSEによる介護指標を求めるとともに本発明の手法によって睡眠評価指標を算出する調査を2回行い、その関係をプロットすると図8に示すように、3方向に放射状に広がる分布が得られた。なお、MMSEによる介護指標は、その値が大きいほど被験者の認知機能が高く、介護の必要性が少ないことを示している。したがって、図8に示す例においては、睡眠評価指標が約30以下の場合には、認知機能が良好な場合と悪い場合との双方が生じることから、認知機能からみたときの睡眠評価指標は大きい方が望ましいことがわかる。
【0048】
以上のことから、CPATとMMSEとを考慮した最適な睡眠評価指標は、約25〜50であることがわかる。このように、睡眠評価指標と介護評価指標との関係を定量化できたことは極めて有益である。
【0049】
介護評価指標推定装置においては、図7及び/又は図8に示すような睡眠評価指標と介護評価指標との対応関係を示すマップデータに基づいて、睡眠評価指標算出部8によって算出された睡眠評価指標に対応する介護評価指標を介護評価指標推定部9によって推定し、一連の処理を終了する。
【0050】
介護評価指標推定装置においては、このような一連の手順にしたがって、睡眠評価指標に基づいて介護評価指標を高精度に推定することができる。介護者は、このようにして推定された介護評価指標を閲覧することにより、被介護者の状態を的確に把握することができ、例えば睡眠評価指標が上述した約25〜50の範囲となるように介護者のケアを行うといったように、介護による機能改善を図る1つの手段として睡眠評価指標を効果的に利用することが可能となる。
【0051】
以上説明したように、本発明の実施の形態として示す介護評価指標推定装置においては、心拍強度の分散値に基づいて睡眠の質を示す睡眠評価指標を的確に算出し、さらに、この睡眠評価指標に基づいて介護評価指標を高精度に推定することができる。したがって、介護評価指標推定装置においては、介護評価指標を求めるために多岐にわたる質問に対する回答を収集することなく、被介護者に身体的及び心的負担を何ら負わせず且つ介護者側の負担も大幅に軽減し、毎日の睡眠評価によって介護評価指標を高精度に推定することができ、被介護者毎に必要な介護方法の最適化を図ることができる。
【0052】
また、リハビリテーション等を行って介護者の機能改善がなされた場合には、睡眠評価指標も推奨される範囲になることから、この介護評価指標推定装置を利用することにより、介護の効果を定量的に評価することが可能となる。
【0053】
さらに、介護の目的は、被介護者を活性化する施策を行い、少しでも自立できる方向に被介護者の状態を変化させることである。このような被介護者の状態変化の評価は、既存のように介護者の観察によって評価することも重要であるが、介護評価指標推定装置を利用して客観的に評価可能な指標を求めることは、介護者側の大きな励みになるという効果も奏する。
【0054】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。
【0055】
例えば、上述した実施の形態では、心拍信号を検出する方法として、被験者の身体の下に敷設した無拘束の生体信号検出部1によって得られた生体信号から心拍信号を抽出する方法を示したが、本発明は、継続的に心拍信号又は心拍信号と同等の信号が得られる検出手段であれば適用可能である。例えば、本発明は、手首や上腕部等の身体に装着するタイプの心拍計や脈拍計であってデータを連続的に記録することが可能なものであれば生体信号検出部1として適用可能である。
【0056】
また、生体信号検出部1としては、上述した中空チューブを用いる代わりに、図9に示すようなエアマット式の検出手段を用いてもよい。すなわち、図9に示す生体信号検出部20は、内部に空気を封入したエアマット20aの一端にエアチューブ20bが接続され、さらに、このエアチューブ20bに微差圧センサ20cが接続されて構成される。なお、微差圧センサ20cは、中空チューブを用いた生体信号検出部1の場合において説明したものと同様のものを用いることができる。
【0057】
さらに、上述した実施の形態では、心拍強度のばらつきを示す分散値として標準偏差を採用したが、本発明は、例えば、分散、偏差平方和、所定範囲等の統計量を採用してもよい。
【0058】
さらにまた、上述した実施の形態では、睡眠評価指標に基づいて、CPAT及び/又はMMSEによる評価指標を推定するものとして説明したが、本発明は、他の介護評価指標についても同様に適用することができる。
【0059】
このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0060】
1,20 生体信号検出部
1a 圧力検出チューブ
1b,20c 微差圧センサ
2 信号増幅部
3 フィルタ部
4 自動利得制御部
5 心拍強度算出部
6 分散値算出部
7 睡眠段階判定部
8 睡眠評価指標算出部
9 介護評価指標推定部
11 寝台
12 硬質シート
13 クッションシート
20a エアマット
20b エアチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の生体信号を検出する生体信号検出手段と、
前記生体信号検出手段によって検出された生体信号の強度を算出する生体信号強度算出手段と、
前記生体信号強度算出手段によって算出された生体信号強度のデータについて、所定時間のデータのばらつきを示す分散値を算出する分散値算出手段と、
前記分散値算出手段によって算出された分散値に基づいて、前記被験者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定手段と、
前記睡眠段階判定手段によって判定された睡眠段階に基づいて、睡眠の質を示す睡眠評価指標を算出する睡眠評価指標算出手段と、
前記睡眠評価指標算出手段によって算出された睡眠評価指標に基づいて、介護分野において被介護者たる前記被験者の身体機能を評価するために使用される介護評価指標を推定する介護評価指標推定手段とを備えること
を特徴とする介護評価指標推定装置。
【請求項2】
前記介護評価指標推定手段は、前記介護評価指標として、介護者による被介護者の総合的機能評価尺度であるCPATによる評価指標、及び/又は、認知機能若しくは記憶力を測定するための認知機能検査であるMMSEによる評価指標を推定すること
を特徴とする請求項1記載の介護評価指標推定装置。
【請求項3】
前記介護評価指標推定手段は、前記睡眠評価指標算出手段によって算出された睡眠評価指標が約35未満の場合には当該睡眠評価指標を変数とする所定の二次関数にしたがって、睡眠評価指標が約35以上の場合には当該睡眠評価指標を変数とする所定の一次関数にしたがって、CPATによる評価指標を推定すること
を特徴とする請求項3記載の介護評価指標推定装置。
【請求項4】
前記睡眠段階判定手段は、予め定められた分散値の区分に応じて、前記分散値算出手段によって算出された生体信号強度の分散値を国際睡眠深度判定基準における睡眠段階に分類し、前記被験者の睡眠段階を判定すること
を特徴とする請求項1乃至請求項3のうちいずれか1項記載の介護評価指標推定装置。
【請求項5】
前記睡眠段階判定手段は、前記分散値算出手段によって算出された生体信号強度の分散値が約3%である場合を、前記国際睡眠深度判定基準におけるノンレム睡眠3段階及び4段階に対応させるように分類すること
を特徴とする請求項4記載の介護評価指標推定装置。
【請求項6】
前記睡眠段階判定手段は、前記区分毎の生体信号強度の分散値の発生頻度を算出し、
前記睡眠評価指標算出手段は、前記区分毎の生体信号強度の分散値に重み付けして睡眠評価指標を算出すること
を特徴とする請求項4記載の介護評価指標推定装置。
【請求項7】
前記生体信号検出手段は、前記被験者の身体の下に敷設された手段によって生体信号を検出し、検出した生体信号から心拍信号を抽出すること
を特徴とする請求項1乃至請求項6のうちいずれか1項記載の介護評価指標推定装置。
【請求項8】
前記生体信号検出手段は、前記被験者の身体の下に敷設された手段の内部に収容されている空気の圧力変動を微差圧センサによって検出すること
を特徴とする請求項7記載の介護評価指標推定装置。
【請求項9】
所定の生体信号検出手段によって被験者の生体信号を検出する生体信号検出工程と、
信号処理を行うプロセッサによって前記生体信号検出工程にて検出された生体信号の強度を算出する生体信号強度算出工程と、
前記プロセッサによって前記生体信号強度算出工程にて算出された生体信号強度のデータについて、所定時間のデータのばらつきを示す分散値を算出する分散値算出工程と、
前記プロセッサによって前記分散値算出工程にて算出された分散値に基づいて、前記被験者の睡眠段階を判定する睡眠段階判定工程と、
前記プロセッサによって前記睡眠段階判定工程にて判定された睡眠段階に基づいて、睡眠の質を示す睡眠評価指標を算出する睡眠評価指標算出工程と、
前記プロセッサによって前記睡眠評価指標算出工程にて算出された睡眠評価指標に基づいて、介護分野において被介護者たる前記被験者の身体機能を評価するために使用される介護評価指標を推定する介護評価指標推定工程とを備えること
を特徴とする介護評価指標推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−83563(P2011−83563A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253450(P2009−253450)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(508131381)株式会社スリープシステム研究所 (9)
【Fターム(参考)】