説明

付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物

【課題】高熱伝導性を有し、かつ、取り扱い性が良好であり、高硬度の硬化物を与える熱伝導性シリコーン組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも、
(A)下記式(1)で表される構造を有する化合物:100質量部、
【化1】


(B)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有し、下記平均組成式(2)で表される有機ケイ素化合物:(A)成分の脂肪族不飽和基に対する(B)成分のSiH基のモル比が0.2〜5となる量、
SiO(4−a−b)/2 (2)
(C)白金族金属を含むヒドロシリル化触媒:触媒量、及び
(D)熱伝導性充填剤:300超〜2,500質量部
を含むものであることを特徴とする付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加硬化型のシリコーン組成物に関し、特に、付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トランジスター、IC、メモリー素子等の電子部品を搭載したプリント回路基板やハイブリッドICの高密度・高集積化にともなって、これら電子部品等が発する熱を効率よく放熱するために、電子部品と基板等との間に熱伝導性シリコーングリース、熱伝導性シリコーンゲル組成物、熱伝導性シリコーンゴム組成物等の熱伝導性シリコーン組成物が使用されている。
【0003】
しかし、このような熱伝導性シリコーン組成物をある一定以上の硬さの硬化物とするためには、充填剤を高充填したり、ベースにあらかじめ三次元架橋させたシリコーンを使用したりする必要があった。その場合、組成物の粘度が上がり、取り扱い性が低下してしまうという問題点があった(特許文献1)。
【0004】
これに対し、熱伝導性シリコーン組成物中に熱伝導性充填剤の表面処理剤を添加して粘度を下げる方法(特許文献2、3)があるが、硬化後の硬度までもが著しく低下してしまうという問題点があった。
【0005】
また、特許文献4には、高透明性の付加硬化型シリコーン組成物が記載されているが、熱伝導性については全く考慮されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−143978号公報
【特許文献2】特開2000−256558号公報
【特許文献3】特開2001−139815号公報
【特許文献4】特開2010−132795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、高熱伝導性を有し、かつ、取り扱い性が良好であり、高硬度の硬化物を与える熱伝導性シリコーン組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、少なくとも、
(A)下記式(1)で表される構造を有する化合物:100質量部、
【化1】

(式中、Rは脂肪族不飽和基である。Rは同種又は異種の、非置換又は置換の一価炭化水素基である。Arは同種又は異種の、ヘテロ原子を有してもよい、非置換又はハロゲン原子置換のアリール基である。nは1〜100の整数である。)
(B)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有し、下記平均組成式(2)で表される有機ケイ素化合物:(A)成分の脂肪族不飽和基に対する(B)成分のSiH基のモル比が0.2〜5となる量、
SiO(4−a−b)/2 (2)
(式中、Rはケイ素原子に結合した、同種又は異種の、脂肪族不飽和基以外の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、全Rの10モル%以上はアリール基である。a及びbは、0.7≦a≦2.1、0.001≦b≦1.0、かつ0.8≦a+b≦3.0を満足する正数である。)
(C)白金族金属を含むヒドロシリル化触媒:触媒量、及び
(D)熱伝導性充填剤:300超〜2,500質量部
を含むものであることを特徴とする付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物を提供する。
【0009】
このような本発明の組成物は、高熱伝導性を有し、取り扱い性も良好で、高硬度の硬化物を与えることができるものである。
【0010】
この場合、前記(D)成分の熱伝導性充填剤が、金属粉末、金属酸化物、金属窒化物、及び金属炭化物からなる群から選ばれるいずれか一種、あるいはこのうち二種以上の混合物であることが好ましい。
【0011】
このような前記(D)成分の熱伝導性充填剤であれば、より高い熱伝導性を与える組成物とすることができる。
【0012】
また、前記付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物の25℃における粘度が、0.1〜1,000Pa・sであることが好ましい。
このように、25℃における粘度が上記範囲の組成物であれば、より適度な粘度を有する組成物となり、その取り扱い性、作業性が優れたものとなる。
【0013】
また、前記付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物を硬化させた硬化物のタイプDデュロメータ硬度が30〜100であることが好ましい。
このように、前記組成物を硬化させた硬化物のタイプDデュロメータ硬度が30〜100であれば、より衝撃等にも耐え得る十分な硬度となり好ましい。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、高熱伝導性を有し、かつ、取り扱い性が良好であり、その硬化物が高硬度である、付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物を与えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明につき詳しく説明する。
上述のように、従来の熱伝導性シリコーン組成物には、取り扱い性が低下してしまうという問題点や、硬化後の硬度までもが著しく低下してしまうという問題点があった。
【0016】
そこで、本発明者は、鋭意検討を行った結果、シリコーン成分の主骨格をポリジアリールシロキサンとし、熱伝導性充填剤を所定量加えることにより、硬化前は低粘度で取り扱い性も良好であり、かつ硬化後は高硬度の硬化物を与え、さらには高熱伝導性を与える熱伝導性シリコーン組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0017】
即ち、本発明の付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物は、少なくとも、
(A)下記式(1)で表される構造を有する化合物:100質量部、
【化2】

(式中、Rは脂肪族不飽和基である。Rは同種又は異種の、非置換又は置換の一価炭化水素基である。Arは同種又は異種の、ヘテロ原子を有してもよい、非置換又はハロゲン原子置換のアリール基である。nは1〜100の整数である。)
(B)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有し、下記平均組成式(2)で表される有機ケイ素化合物:(A)成分の脂肪族不飽和基に対する(B)成分のSiH基のモル比が0.2〜5となる量、
SiO(4−a−b)/2 (2)
(式中、Rはケイ素原子に結合した、同種又は異種の、脂肪族不飽和基以外の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、全Rの10モル%以上はアリール基である。a及びbは、0.7≦a≦2.1、0.001≦b≦1.0、かつ0.8≦a+b≦3.0を満足する正数である。)
(C)白金族金属を含むヒドロシリル化触媒:触媒量、及び
(D)熱伝導性充填剤:300超〜2,500質量部
を含むものであることを特徴とする。
【0018】
以下、本発明の組成物の各成分について、詳しく説明する。
[(A)成分]
(A)成分は、下記式(1)で表される構造を有する、主鎖がジアリールシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端が脂肪族不飽和基を含有するトリオルガノシロキシ基で封鎖された、直鎖状のジオルガノポリシロキサンである。
【化3】

(式中、Rは脂肪族不飽和基である。Rは同種又は異種の、非置換又は置換の一価炭化水素基である。Arは同種又は異種の、ヘテロ原子を有してもよい、非置換又はハロゲン原子置換のアリール基である。nは1〜100の整数である。)
【0019】
(A)成分のジオルガノポリシロキサンは、一種単独で用いてもよく、分子量、ケイ素原子に結合した有機基(前記RとR)の種類等が相違する二種以上を併用してもよい。
【0020】
(A)成分は、後述の(B)及び(C)成分とともに使用することにより、粘度が低く、取り扱いが容易な樹脂ベースとなり、さらに(D)成分を混合することにより、硬化後の硬さが非常に高くなる。
【0021】
(A)成分において、上記式(1)中のArは同種又は異種の、ヘテロ原子を有してもよい、非置換又はハロゲン原子置換のアリール基である。前記アリール基は、フェニル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基、又はフラニル基等のヘテロ原子(O,S,N)を含む芳香族基であり、前記アリール基は炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が塩素原子、臭素原子、フッ素原子等ハロゲン原子で置換されていてもよい。Arは好ましくは非置換の芳香族炭化水素基であり、特に好ましくはフェニル基である。
【0022】
上記式(1)中のRは脂肪族不飽和基である。前記Rは、付加反応開始前(硬化開始前)には本発明の組成物を未硬化の状態に安定に維持することができ、かつ、付加反応開始後(硬化開始後)には該組成物を容易に硬化させることができるものである限り特に限定されず、例えば、エチレン性不飽和基及びアセチレン性不飽和基が挙げられる。前記脂肪族不飽和基は、一種単独で用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
ここで、「エチレン性不飽和基」とは、炭素−炭素二重結合を含み、更に酸素原子、窒素原子等のヘテロ原子を含む又は含まない有機基をいい、その具体例としては、ビニル基、アリル基、5−ヘキセニル基、プロペニル基、ブテニル基等の炭素原子数2〜20、好ましくは2〜10のアルケニル基;1,3−ブタジエニル基等の炭素原子数4〜10のアルカジエニル基;アクリロイルオキシ基(−O(O)CCH=CH)、メタクリロイルオキシ基(−O(O)CC(CH)=CH)等の、前記アルケニル基とカルボニルオキシ基との組み合わせ;アクリルアミド基(−NH(O)CCH=CH)等の、前記アルケニル基とカルボニルアミノ基との組み合わせが挙げられる。
【0024】
また、「アセチレン性不飽和基」とは、炭素−炭素三重結合を含み、更に酸素、窒素等のヘテロ原子を含む又は含まない有機基をいい、その具体例としては、エチニル基、プロパルギル基等の炭素原子数2〜20、好ましくは2〜10のアルキニル基;エチニルカルボニルオキシ基(−O(O)CC≡CH)等の、前記アルキニル基とカルボニルオキシ基との組み合わせが挙げられる。
【0025】
中でも、(A)成分の原料を得るときの生産性及びコスト並びに(A)成分の反応性等の観点から、前記脂肪族不飽和基としては、前記アルケニル基が好ましく、ビニル基、アリル基及び5−ヘキセニル基がより好ましく、特にビニル基が好ましい。
【0026】
上記式(1)中のRは同種又は異種の、非置換又は置換の一価炭化水素基である。前記Rは、前記Rの脂肪族不飽和基として例示したもの、及び前記脂肪族不飽和基以外の一価炭化水素基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素原子数1〜6のアルキル基;クロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等の炭素原子数1〜4のハロアルキル基;フェニル基、トリル基等の炭素原子数6〜10のアリール基等が挙げられる。中でも、炭素原子数1〜6のアルキル基、フェニル基、ビニル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。
【0027】
(A)成分において、前記ジアリールシロキサン単位の重合度nは1〜100の整数であり、1〜20であることが好ましく、2〜10であることが特に好ましい。nが100より大きいと取り扱い性が悪くなる。
【0028】
このような(A)成分は、例えばジクロロジフェニルシランやジアルコキシジフェニルシラン等の二官能性シランを加水分解・縮合させた後、又は加水分解・縮合と同時に、脂肪族不飽和基含有の末端封止剤で、加水分解・縮合化合物の末端を封止することにより得ることができる。
【0029】
[(B)成分]
(B)成分は、1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子(即ち、SiH基)を有し、下記平均組成式(2)
SiO(4−a−b)/2 (2)
(式中、Rはケイ素原子に結合した、同種又は異種の、脂肪族不飽和基以外の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、全Rの10モル%以上はアリール基である。a及びbは、0.7≦a≦2.1、0.001≦b≦1.0、かつ0.8≦a+b≦3.0を満足する正数である。)
で表される有機ケイ素化合物であり、(A)成分の脂肪族不飽和基中の二重結合とヒドロシリル化付加反応し、架橋剤として作用する。(B)成分は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0030】
上記平均組成式(2)中のRとしては、例えば、上記式(1)中のRとしての、脂肪族不飽和基以外の非置換又は置換の一価炭化水素基として具体的に例示した、炭素原子数1〜6のアルキル基若しくはハロアルキル基、及び炭素原子数6〜10のアリール基等が挙げられる。Rは、好ましくは炭素原子数1〜6のアルキル基、又は炭素原子数6〜10のアリール基であり、より好ましくはメチル基又はフェニル基である。
【0031】
上記平均組成式(2)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサンとしては、例えば、式:RHSiOで示されるオルガノハイドロジェンシロキサン単位を少なくとも4個含む環状化合物、式:RSiO1/2(HRSiO)SiRで示される化合物、式:HRSiO1/2(HRSiO)SiRHで示される化合物、式:HRSiO1/2(HRSiO)(RSiO)SiRHで示される化合物等が挙げられる。上記式中、Rは前記のとおりであり、cは少なくとも2、d及びeは少なくとも1である。
【0032】
あるいは、上記平均組成式(2)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサンは、式:HSiO3/2で示されるシロキサン単位、式:RHSiOで示されるシロキサン単位及び/又は式:RHSiO1/2で示されるシロキサン単位を含むものであってもよい。また、SiH基を含まないモノオルガノシロキサン単位、ジオルガノシロキサン単位、トリオルガノシロキサン単位及び/又はSiO4/2単位を含んでいてもよい。上記式中のRは前記のとおりである。
【0033】
(B)成分が上記平均組成式(2)を満たすオルガノハイドロジェンポリシロキサンである限り、該オルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造に特に制限はなく、例えば、直鎖状、環状、分岐鎖状、三次元網状構造(樹脂状)等の、従来製造されている各種のオルガノハイドロジェンポリシロキサンを使用することができる。
【0034】
前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個(通常、2〜300個程度)、好ましくは3個以上(通常、3〜200個、好ましくは4〜100個程度)のSiH基を有する。前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンが直鎖状構造又は分岐鎖状構造を有する場合、これらのSiH基は、分子鎖末端及び分子鎖非末端部分のどちらか一方にのみ位置していても、その両方に位置していてもよい。
【0035】
上記平均組成式(2)で表されるオルガノハイドロジェンシロキサンに含まれる全オルガノシロキサン単位のうち、Rがフェニル基である割合が10モル%以上であり、より好ましくは10〜80モル%であり、更に好ましくは20〜50モル%である。
【0036】
前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンの1分子中のケイ素原子の数(重合度)は、好ましくは2〜1,000個、より好ましくは3〜200個、更により好ましくは4〜100個程度である。更に、前記オルガノハイドロジェンポリシロキサンは25℃で液状であることが好ましく、回転粘度計により測定された25℃における粘度は、好ましくは1〜1,000mPa・s、より好ましくは5〜100mPa・s程度である。
【0037】
(B)成分の具体例としては、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジフェニルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、これらの各例示化合物において、メチル基の一部又は全部がエチル基、プロピル基等の他のアルキル基で置換されたオルガノハイドロジェンポリシロキサン、式:RSiO1/2で示されるシロキサン単位と式:RHSiO1/2で示されるシロキサン単位と式:SiOで示されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体、式:RHSiO1/2で示されるシロキサン単位と式:SiOで示されるシロキサン単位とからなるオルガノシロキサン共重合体、式:RHSiOで示されるシロキサン単位と式:RSiO3/2で示されるシロキサン単位及び式:HSiO3/2で示されるシロキサン単位のどちらか一方又は両方とからなるオルガノシロキサン共重合体、及び、これらのオルガノポリシロキサンの二種以上からなる混合物が挙げられる。上記式中のRは、前記のとおりである。
【0038】
(B)成分の配合量は、(C)成分のヒドロシリル化触媒の存在下に本組成物を硬化させるのに十分な量、即ち、(A)成分中の脂肪族不飽和基に対する(B)成分中のSiH基のモル比が0.2〜5、好ましくは0.5〜2となる量である。
【0039】
[(C)成分]
(C)成分の白金族金属系ヒドロシリル化触媒としては、(A)成分中のケイ素原子結合脂肪族不飽和基と(B)成分中のSiH基とのヒドロシリル化付加反応を促進するものであればいかなる触媒を使用してもよい。(C)成分は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0040】
(C)成分としては、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の白金族金属や、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィン類、ビニルシロキサン及びアセチレン化合物いずれかとの配位化合物、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の白金族金属化合物が挙げられるが、特に好ましくは白金化合物である。
【0041】
(C)成分の配合量は、ヒドロシリル化触媒としての触媒量でよく、好ましくは(A)及び(B)成分の合計質量に対して白金族金属元素の質量換算で0.1〜1,000ppmの範囲であり、より好ましくは1〜500ppmの範囲である。
【0042】
[(D)成分]
(D)成分は本発明の組成物に熱伝導性を付与するための熱伝導性充填剤であり、熱伝導性充填剤として公知のものを使用することができ、一種単独で使用しても、二種以上を併用してもよい。
組成物により高い熱伝導性を付与することができるため、本発明においては、このような(D)成分として、金属粉末、金属酸化物、金属窒化物、及び金属炭化物からなる群から選ばれるいずれか一種、あるいはこのうち二種以上の混合物を用いることが好ましい。
【0043】
その具体例としては、アルミニウム粉末、銅粉末、ニッケル粉末等の金属系粉末;アルミナ粉末、酸化ケイ素粉末、酸化マグネシウム粉末、酸化ベリリウム粉末、酸化クロム粉末、酸化チタン粉末等の金属酸化物系粉末;窒化ホウ素粉末、窒化アルミニウム粉末等の金属窒化物系粉末;炭化ホウ素粉末、炭化チタン粉末、炭化珪素粉末等の金属炭化物系粉末;及びこれらの二種以上の混合物が挙げられる。
【0044】
本発明の組成物又は本発明の組成物を硬化して得られるシリコーン硬化物に電気絶縁性が要求される場合には、(D)成分は、金属酸化物系粉末、金属窒化物系粉末、又は金属炭化物系粉末であることが好ましく、アルミナ粉末であることが特に好ましい。
【0045】
また、(D)成分の形状としては、例えば、球状、棒状、針状、円盤状、不定形状が挙げられる。
ここで、「球状」とは、全表面が凸表面で構成されている形状であることを意味する。よって、(D)成分の形状が球状である場合、(D)成分においては、面と面との交差で生じる稜線や辺は存在せず、最長軸の長さ/最短軸の長さ(アスペクト比)が、通常、1〜2、好ましくは1〜1.6、より好ましくは1〜1.4である。
「棒状」とは、一つの軸方向に伸長しており、太さが最長軸方向に沿ってほぼ一定している形状であることを意味する。
「針状」とは、「棒状」と同様に一つの軸方向に伸長した形状ではあるが、最長軸方向に沿って先端に接近するにつれて太さが小さくなる部分を有し、それ以外の部分では太さが最長軸方向に沿ってほぼ一定しており、該先端においてとがっている形状を意味する。
「円盤状」とは、最長軸の長さ、最短軸の長さに加えて厚みを有する扁平な形状を意味する。
「不定形状」とは、特定の形状に分類されない形状を意味する。
【0046】
(D)成分の平均粒径は特に限定されないが、0.1〜100μmの範囲内であることが好ましく、0.1〜50μmの範囲内であることがより好ましい。平均粒径が0.1〜100μmの範囲内であれば、本発明の組成物は流動性と熱伝導性とのバランスが良好となりやすい。
ここで、「平均粒径」とは、レーザー光回折法を用いた粒度分布測定装置により求めた累積重量平均値D50(又はメジアン径)である。
【0047】
本発明の組成物における(D)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して300超〜2,500質量部であり、310〜1,500質量部の範囲内であることがより好ましく、320〜800質量部の範囲内であることが特に好ましい。(D)成分の含有量が300質量部以下であると、本発明の組成物の熱伝導性が不十分となり、2,500質量部を超えると組成物の粘度が高くなりすぎ、取り扱い性ひいては作業効率が悪くなる。
尚、上記範囲内であっても(D)成分の含有量が比較的多い場合(例えば800質量部を超える場合)は、ウエッター(分散剤)を用いることにより配合をより容易とすることができる。ウエッターとしては、シリコーンゴム組成物や熱伝導性シリコーンゴム組成物に使用される公知のものでよく、例えば水酸基やアルコキシ基を含有するシランや低分子量のシロキサンが例示される。
【0048】
[その他の成分]
本発明の組成物には、前記(A)〜(D)成分以外にも、本発明の目的を損なわない範囲で、その他の任意の成分を配合することができる。その具体例としては、以下のものが挙げられる。これらのその他の成分は、各々、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0049】
・(A)成分以外の脂肪族不飽和基含有化合物
本発明の組成物には、(A)成分以外にも、(B)成分と付加反応する脂肪族不飽和基含有化合物を配合してもよい。(A)成分以外のこのような脂肪族不飽和基含有化合物としては、硬化物の形成に関与するものが好ましく、1分子あたり少なくとも2個の脂肪族不飽和基を有する(A)成分以外のポリオルガノシロキサンが挙げられる。その分子構造は、例えば、直鎖状、環状、分岐鎖状、三次元網状等いずれでもよい。
【0050】
また、(A)成分以外の脂肪族不飽和基含有化合物として、脂肪族不飽和基含有有機化合物を配合することも可能である。該脂肪族不飽和基含有有機化合物の具体例としては、ブタジエン、多官能性アルコールから誘導されたジアクリレート等のモノマー;ポリエチレン、ポリプロピレン又はスチレンと他のエチレン性不飽和化合物(例えば、アクリロニトリル又はブタジエン)とのコポリマー等のポリオレフィン;アクリル酸、メタクリル酸、又はマレイン酸のエステル等の官能性置換有機化合物から誘導されたオリゴマー又はポリマーが挙げられる。
【0051】
(A)成分以外の脂肪族不飽和基含有化合物は室温で液体であっても固体であってもよく、このような(A)成分以外の脂肪族不飽和基含有化合物を配合する場合の配合量は、(A)成分100質量部に対して1〜100質量部であることが好ましく、特に2〜50質量部であることが好ましい。
【0052】
・付加反応制御剤
ポットライフを確保するために、付加反応制御剤を本発明の組成物に配合することができる。付加反応制御は、前記(C)成分のヒドロシリル化触媒に対して硬化抑制効果を有する化合物であれば特に限定されず、従来から公知のものを用いることもできる。その具体例としては、トリフェニルホスフィン等のリン含有化合物;トリブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ベンゾトリアゾール等の窒素含有化合物;硫黄含有化合物;アセチレンアルコール類(例えば、1−エチニルシクロヘキサノール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール)等のアセチレン系化合物;アルケニル基を2個以上含む化合物;ハイドロパーオキシ化合物;マレイン酸誘導体等が挙げられる。
【0053】
付加反応制御剤による硬化抑制効果の度合は、その付加反応制御剤の化学構造によって異なる。よって、使用する付加反応制御剤の各々について、その添加量を最適な量に調整することが好ましい。最適な量の付加反応制御剤を添加することにより、組成物は室温での長期貯蔵安定性及び加熱硬化性に優れたものとなる。
【0054】
・接着性付与剤
本発明の組成物には、接着性が必要な場合は、被着体となるプラスチックや金属との接着性を向上させるために用いられる成分(接着性付与剤)を加えても良い。該接着性付与剤としては、接着性を付与する官能基を含有するケイ素化合物等が挙げられる。
【0055】
・充填剤表面処理剤
本発明の組成物中の熱伝導性充填剤に対し、シリコーン成分の濡れを改善する必要がある場合、シランカップリング剤等の表面処理剤を硬化物の物性を著しく低下させない範囲で加えても良い。
【0056】
・その他の任意成分
硬化物の着色、酸化劣化等の発生を抑えるために、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール等の従来公知の酸化防止剤を本発明の組成物に配合することができる。更に、必要に応じて、染料、顔料、難燃剤等を本発明の組成物に配合してもよい。
【0057】
[組成物の粘度]
本発明の組成物は、粘度が低く、取り扱いが容易である。具体的には0.1〜1,000Pa・sであり、好ましくは0.1〜100Pa・sであり、最も好ましくは0.5〜50Pa・sである。
【0058】
[硬化物]
本発明の組成物は、公知の硬化条件下で公知の硬化方法により硬化させて硬化物とすることができる。具体的には、通常、80〜200℃、好ましくは100〜160℃で加熱することにより、本発明の組成物を硬化させることができる。加熱時間は、0.5分〜5時間程度、特に1分〜3時間程度が好ましい。得られる硬化物はタイプDデュロメータ硬度30以上であるものが好ましく、30〜100であるものがより好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、調製例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
尚、下記の例で、粘度(硬化前)は回転粘度計を用いて25℃で測定した値である。
硬度(硬化後)は硬化物を作製し、JIS−K6253に準じて測定した。
熱伝導率(硬化後)は、各々のサンプルの厚み10mmの硬化物を作製し、京都電子工業株式会社製、迅速熱伝導率系QTM−500(熱線法)を用いて測定した。
【0060】
また、下記の例において、シリコーンオイル又はシリコーンレジンの平均組成を示す記号は以下の通りの単位を示す。又、各シリコーンオイル又は各シリコーンレジンのモル数は、各成分中に含有されるビニル基又はSiH基のモル数を示すものである。
:(CHHSiO1/2
Vi:(CH=CH)(CHSiO1/2
ΦVi:(CH=CH)(C)(CH)SiO1/2
:(CH)HSiO2/2
D:(CHSiO2/2
Φ:(CSiO2/2
【0061】
[調製例1]白金触媒の調製
六塩化白金酸とsym−テトラメチルジビニルジシロキサンとの反応生成物を、白金含量が0.5質量%となるようにトルエンで希釈して、本実施例及び比較例で使用する白金触媒(触媒X)を調製した。
【0062】
[調製例2]平均組成式:MΦviΦ2.8のシリコーンオイルの合成
500mLのフラスコに水200g、及びトルエン117gを入れ、75℃に加温し、そこへジクロロジフェニルシラン100gを滴下し、80℃で3時間撹拌を続けた。室温に冷却した後、水相を分離した。有機相を無水硫酸ナトリウム10gで乾燥、ろ別し、ジクロロジフェニルシラン加水分解オリゴマーのトルエン溶液を得た。減圧濃縮によりトルエンを除去し、ジメチルジフェニルジビニルジシロキサン40.9gを加え混合した。更に濃硫酸5.0gを添加し、50℃/15mmHgの条件下、5時間縮合反応を行った。トルエン100g、10質量%ぼう硝水100gを加えて混合した後、水相を分離した。有機相を重曹水洗浄及び水洗浄し、その後減圧濃縮によりトルエンを除去した。得られた白濁液体をろ過し、無色透明の平均組成式:MΦviΦ2.8のシリコーンオイルを得た。
【0063】
[実施例1]
粘度1.6Pa・s、前記平均組成式:MΦviΦ2.8のシリコーンオイル100g(231ミリモル)、及び粘度0.02Pa・s、平均組成式:MΦのシリコーンオイル38g(233ミリモル)、平均粒径が5μmである不定形状のアルミナ粉末320gの混合物を、制御剤としてのエチニルシクロヘキサノール0.28g及び触媒X0.56gと混合してシリコーン組成物を得た。この組成物を150℃で2時間加熱して硬化させ、得られたエラストマーの物性を測定した。各測定結果を表1に示す。
【0064】
[実施例2]
粘度1.6Pa・s、前記平均組成式:MΦviΦ2.8のシリコーンオイル100g(231ミリモル)、及び粘度0.02Pa・s、平均組成式:MΦのシリコーンオイル38g(233ミリモル)、平均粒径が5μmである不定形状のアルミナ粉末400gの混合物を、制御剤としてのエチニルシクロヘキサノール0.28g及び触媒X0.56gと混合してシリコーン組成物を得た。この組成物を150℃で2時間加熱して硬化させ、得られたエラストマーの物性を測定した。各測定結果を表1に示す。
【0065】
[比較例1]
粘度0.6Pa・s、平均組成式:Mvi170のシリコーンオイル100g(15.6ミリモル)、及び粘度0.01Pa・s、平均組成式:M5.712.3のシリコーンオイル2.8g(15.5ミリモル)、平均粒径が5μmである不定形状のアルミナ粉末320gの混合物を、制御剤としてのエチニルシクロヘキサノール0.28g及び触媒X0.56gと混合してシリコーン組成物を得た。この組成物を150℃で2時間加熱して硬化させ、得られたエラストマーの物性を測定した。各測定結果を表1に示す。
【0066】
[比較例2]
粘度1.6Pa・s、平均組成式:Mvi300のシリコーンオイル100g(8.92ミリモル)、及び粘度0.01Pa・s、平均組成式:M5.712.3のシリコーンオイル1.6g(8.87ミリモル)、平均粒径が5μmである不定形状のアルミナ粉末400gの混合物を、制御剤としてのエチニルシクロヘキサノール0.28g及び触媒X0.56gと混合してシリコーン組成物を得た。この組成物を150℃で2時間加熱して硬化させ、得られたエラストマーの物性を測定した。各測定結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示されるように、実施例1〜2の組成物は、高熱伝導率で、取り扱い性に優れた適度な粘度を有し、硬化物の硬度も高硬度であった。
一方、比較例1〜2の組成物は、熱伝導率と粘度は実施例のものと同程度であったが、硬化物の硬度が著しく低いものであった。
【0069】
以上のことから、本発明の組成物が、高熱伝導性のシリコーン組成物を得るために熱伝導性充填剤が高充填されていても、取り扱い性が良好であり、その硬化物は高硬度であることが実証され、これにより効率よく放熱することができ、作業効率も良く、衝撃等にも耐えられるものであることがわかったといえる。
【0070】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
(A)下記式(1)で表される構造を有する化合物:100質量部、
【化1】

(式中、Rは脂肪族不飽和基である。Rは同種又は異種の、非置換又は置換の一価炭化水素基である。Arは同種又は異種の、ヘテロ原子を有してもよい、非置換又はハロゲン原子置換のアリール基である。nは1〜100の整数である。)
(B)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有し、下記平均組成式(2)で表される有機ケイ素化合物:(A)成分の脂肪族不飽和基に対する(B)成分のSiH基のモル比が0.2〜5となる量、
SiO(4−a−b)/2 (2)
(式中、Rはケイ素原子に結合した、同種又は異種の、脂肪族不飽和基以外の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、全Rの10モル%以上はアリール基である。a及びbは、0.7≦a≦2.1、0.001≦b≦1.0、かつ0.8≦a+b≦3.0を満足する正数である。)
(C)白金族金属を含むヒドロシリル化触媒:触媒量、及び
(D)熱伝導性充填剤:300超〜2,500質量部
を含むものであることを特徴とする付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
前記(D)成分の熱伝導性充填剤が、金属粉末、金属酸化物、金属窒化物、及び金属炭化物からなる群から選ばれるいずれか一種、あるいはこのうち二種以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
前記付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物の25℃における粘度が、0.1〜1,000Pa・sであることを特徴とする請求項1又は2に記載の付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
前記付加硬化型熱伝導性シリコーン組成物を硬化させた硬化物のタイプDデュロメータ硬度が30〜100であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の組成物。

【公開番号】特開2012−140548(P2012−140548A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189(P2011−189)
【出願日】平成23年1月4日(2011.1.4)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】