説明

代謝性骨疾患の治療剤

【課題】 代謝性骨疾患の病状を、副作用がなく、短期間の服用で、改善させることができる治療剤、健康食品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明の代謝性骨疾患治療剤は、松科植物の新芽と、水と、糖質とを混合し、自然発酵させて得られる。松科植物としては松属の植物が好ましい。また、本発明の代謝性骨疾患治療剤等は、当該代謝性骨疾患治療剤から分離された酵母を使用して得られる発酵生成物を用いて製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨粗鬆症およびリウマチ性骨疾患を含む代謝性骨疾患の治療剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
骨は、約80%のリン酸カルシウムなどの無機質および約20%のコラーゲンなどの有機質からなる骨基質と、数種類の骨の細胞群から構成される。骨は常に新陳代謝を繰り返しており、古くなった骨の一部を破骨細胞が壊し(骨吸収)、骨芽細胞が骨を修復する(骨形成)ことにより骨代謝が行われる。
【0003】
代謝性骨疾患としては、例えば、骨粗鬆症、リウマチ性骨疾患、骨軟化症、くる病、骨paget病及び変形性骨炎が挙げられる。
【0004】
これらの中でも、例えば、骨粗鬆症は、骨吸収が骨形成を上回ることにより骨量が減少して骨の脆弱性及び骨折の危険が高まった状態である。骨粗鬆症の症状としては、例えば、腰痛、背部痛、易骨挫折、脊椎圧迫骨折等が挙げられる。骨粗鬆症は、致命的な疾病ではないが、罹患すると生活の質を大きく低下させることから、この治療に非常に大きな関心が寄せられている。
【0005】
従来の骨粗鬆症の治療剤としては、例えば、特許文献1の従来技術の欄に記載されている通り、エストロゲンでは生殖器において癌を誘発するおそれがあると言われており、カルシトニンでは投与方法が筋肉内注射であるため患者に与える負担が大きい。また、これらの治療剤では、骨粗鬆症の治療効果はそれほど期待できなかった。
【特許文献1】特許公報2003−95971
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、代謝性骨疾患の病状を改善させることができる治療剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の代謝性骨疾患治療剤は、松科植物の新芽と、水と、糖質とを混合し、これを自然発酵させて得られるもので、代謝性骨疾患に有効な治療剤である。前記松科植物としては松属の植物が好ましく、また前記糖質としては砂糖が好ましい。
【0008】
また、本発明の代謝性骨疾患治療剤は、松の新芽と、水と、砂糖とを混合し、自然発酵させて得られるもので、代謝性骨疾患に有効な治療剤である。
【0009】
さらに、本発明は上記の代謝性骨疾患治療剤の製造方法を包含し、この代謝性骨疾患治療剤の製造方法は、(1)滅菌した水に糖質を溶解し、糖質を溶解した溶液を調製する工程と、(2)前記糖質を溶解した溶液に松科植物の新芽を加え、自然発酵させる工程とを含む。前記松科植物としては松属の植物が好ましく、また前記糖質としては砂糖が好ましい。
【0010】
また、本発明の代謝性骨疾患治療剤の製造方法は、(1)滅菌した水に砂糖を溶解し、砂糖を溶解した溶液を調製する工程と、(2)前記砂糖を溶解した溶液に松の新芽を加え、自然発酵させる工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
前記の自然発酵としては、嫌気的な条件下、10〜70℃、好ましくは20〜60℃で、2〜8ヶ月、好ましくは5〜8ヶ月、より好ましくは6〜8ヶ月行う。
【0012】
より具体的な代謝性骨疾患治療剤の製造方法としては、(1)熱湯に砂糖を溶解し、周囲温度まで冷却させた砂糖水溶液を調製する工程と、(2)前記砂糖水溶液に、水洗した松の新芽を加え、容器に入れて密封し、自然発酵させる工程とを含むものであり、この自然発酵は、密閉した容器を直射日光の当たる場所で初冬頃まで行うことが好ましい。
【0013】
また、本発明は、松科植物の新芽と、水と、糖質とを混合し、自然発酵させて得られる代謝性骨疾患症状改善のための健康食品をも意図するものであり、この健康食品(健康飲料を含む)は松の新芽と、水と、砂糖とを混合し、自然発酵させて得られたものであることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明は、上記の自然発酵を行った発酵産物、すなわち本発明の代謝性骨疾患治療剤から分離された酵母を用いた任意の発酵生成物の代謝性骨疾患治療の薬剤或いは健康食品の製造における使用に関する。当該酵母は、本出願人による国際特許出願(国際公開WO 01/95922号)に開示した酵母であり、平成13年(2001)3月12日に、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(旧名称:経済産業省技術総合研究所生命工学工業技術研究所(National Institsute of Bioscience and Human-Technology National institute of Advanced Industrial Science and Technology)、茨城県つくば市東1−1−3、2001月4月1日をもって、名称が変更されている)に、ハルイサンA−3として寄託され、受託番号FERM BP−7499で特定される酵母である。また、この寄託された酵母と同等の菌体的性質を有する一連の酵母の使用も本発明に含まれるものである。なお、ここで、代謝性骨疾患症状改善のための健康食品(健康飲料を含む)とは、体質を改善し、健康を維持すること、特に代謝性骨疾患の症状を改善することを目的に使用するサプリメントなどの食品および飲料を意味するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の代謝性骨疾患治療剤は、代謝性骨疾患病状を短期間の服用で、副作用もなく、改善させることができるものであり、したがって、本発明によれば、極めて有用な代謝性骨疾患治療剤並びに代謝性骨疾患症状改善のための健康食品および健康飲料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の代謝性骨疾患治療剤は、松科植物の新芽と、水と、糖質とを混合し、自然発酵させて得られるものである。
【0017】
本発明で使用できる松科植物としては、いわゆるモミ(Abies firma Sieb. Zucc.)、ウラジオモミ(Abies homolepis Sieb. Zucc.)、オオシラビソ(Abies mariesii M.T. Mast.)、アオドドマツ(Abies sachalinensis (Friedr. Schmidt) M.T. Mast. var marie)、トドマツ(Abies sachalinensis (Friedr. Schmidt) M.T. Mast.)、シラベ(Abies veitchii Lindl.)、ヒマラヤスギ(Cedrus deodara (Roxb. ex D. Don) G. Don)、グイマツ(Larix gmelini(Rupr.) Kuzeneva)、カラマツ(Larix kaempferi(Lamb.) Carriere)、ドイツトウヒ(Picea abies (L.) Karst.)、アカエゾマツ(Picea glehnii (Friedr. Schmidt) M.T. Masters)、トウヒ(Picea jezoensis (Sieb. Zucc.) Carriere var. hondoensis)、エゾマツ(Picea jezoensis (Sieb. Zucc.) Carriere)、ヤツガタケトウヒ(Picea koyamae Shirasawa)、ハリモミ(Picea polita (Sieb. Zucc.) Carriere)、アイグロマツ(Pinus x densi-thunbergii Uyeki)、アカマツ(Pinus densiflora Sieb. Zucc.)、タギョウショウ(Pinus densiflora Sieb. Zucc. cv. Umbraculifera)、チョウセンゴヨウ(Pinus koraiensis Sieb. Zucc.)、ダイオウショウ(Pinus palustris Mill.)、ヒメコマツ(Pinus parviflora Sieb. Zucc. var. parviflora)、キタゴヨウ(Pinus parviflora Sieb. Zucc. Var. pentaphylla (Mayr)Henry)、ハイマツ(Pinus pumila (Pall.) Regel)、リギダマツ(Pinus rigida Mill.)、ストローブマツ(Pinus strobus L.)、ヨーロッパアカマツ(Pinus sylvestris L.)、テーダマツ(Pinus teada L.)、クロマツ(Pinus thunbergii Parl.)、トガサワラ(Pseudotsuga japonica (Shiras.) Beissn.)、コメツガ(Tsuga diversifolia (Maxim.) M.T. Mast.)、ツガ(Tsuga sieboldii Carriere)などが例示される。この中でも松属の植物である、アイグロマツ、アカマツ、タギョウショウ、チョウセンゴヨウ、ダイオウショウ、ヒメコマツ、キタゴヨウ、ハイマツ、リギダマツ、ストローブマツ、ヨーロッパアカマツ、テーダマツ、クロマツが好ましく、特に、アカマツ、ダギョウショウ、チョウセンゴヨウ、ダイオウショウ、ハイマツ、クロマツなどは一般に育成されている松であり、入手の容易さの面からも好ましいものである。
【0018】
また、本発明の使用する糖質としては、ショ糖、転化糖、麦芽糖のようなものが例示される。これらのうちショ糖が入手の容易さの点で好ましいが、使用するショ糖としては、白砂糖、黒砂糖、三温糖、甜菜糖、きび砂糖などいずれの砂糖でも使用できるが、白砂糖が好ましい。
【0019】
使用する水は、予め滅菌したものを用い、雑菌の繁殖を防止することが好ましく、滅菌方法としては、一般に行われる公知の方法が使用でき、例えば、煮沸などのような方法によって行うことができる。
【0020】
本発明の代謝性骨疾患治療剤は、上記の滅菌した水を用いて糖質を溶解した水溶液に、松科植物の新芽を加え、これを自然発酵することにより得られるが、水溶液に加える松科植物の新芽は、いかなる種類の松科植物から採取した新芽でもよいが、特に、松属の植物から採取した新芽が好ましい。採取の時期は、松科植物の花が咲きおわったときが好ましく、この時期に採取した新芽が代謝性骨疾患治療剤としての有効性がもっとも高く好ましいものである。松の場合でいえば、その土地の気候にもよるが、一般に4月上旬〜6月下旬頃に、枝の先端に赤みがかった雌花が咲き、新枝の周りに黄色の雄花が咲くので、これらの花が咲き終わった後に、枝の先端部にある新芽を採取して用いることが好ましい。
【0021】
発酵に用いる原液の調製は、水約1リットルに対して、糖質を約0.5kgの割合で溶解し、得られた溶液に対して松科植物の新芽約25本の割合で添加する。この場合、糖質は完全に溶解している必要はなく、未溶解のまま液中に存在していても差し支えない。また、発酵させる原液には、上記の割合で松の新芽のような松科植物の新芽を含んでいればよく、新芽以外の葉や花を含むものであっても差し支えない。
【0022】
自然発酵は、嫌気的な条件下で行い、10〜70℃、好ましくは20〜60℃で、2〜8ヶ月、好ましくは5〜8ヶ月、より好ましくは6〜8ヶ月静置して発酵を行う。嫌気的な条件としては、例えば、密閉した遮光容器に充填するなどの方法が採用され、この密閉した容器を直射日光の当たる場所に、初冬頃まで載置することにより達成される。自然発酵の期間が経過した後、容器を開封して、松科植物の新芽などの固形物を取り除くことにより、本発明の代謝性骨疾患治療剤が得られる。なお、上記の初冬頃は、新芽の採取時期、すなわち仕込み時期との兼ね合いであり、製造する地方で開花時期が4月上旬から5月初旬で、花が咲き終わり新芽を採取する時期を5月中旬から6月初旬とすれば、発酵終了の時期が初冬(11月中旬)となるが、あくまでも1つの目安であり、任意に変更することができる。
【0023】
本発明の代謝性骨疾患治療剤は、自然発酵により得られた発酵産物をそのまま用いるものであるが、これに、甘味料や着香剤などを添加し、飲みやすいものに仕立てもよく、長期保存などのため、保存剤などの各種添加剤を添加してもよい。
【0024】
本発明の代謝性骨疾患治療剤を適用するには、一般に大人の場合、1日に2〜3回、各々、約30〜50ミリリットルを服用させる。また、小人の場合には、大人の半量を服用させる。また、本発明の代謝性骨疾患治療剤は、毒性もなくまた変異原性もなく安全なものであるので、前記の服用量を超える量を用いても何ら問題はない。
【0025】
本発明の自然発酵により得られた発酵産物は、代謝性骨疾患治療剤としてばかりでなく健康食品または健康飲料としても使用することができる。健康食品または健康飲料とは、治療を主目的とするものではないが、体質を改善し、健康状態を維持するために使用するものである。したがって、本発明の代謝性骨疾患症状改善のための健康食品(健康飲料も含む)は、代謝性骨疾患の症状を改善する、すなわちそれらの症状を軽減し、或いは予防するためにも用いることができる。この場合、消費者の嗜好を考慮し、上記の甘味料や着香剤などを添加し、食しやすく、飲みやすく、かつ嗜好に適合するものに仕上げることが好ましい。
【0026】
さらに、本発明は、上記の発酵産物から分離された酵母を用いて発酵させた生成物や当該生成物からの抽出物を使用する代謝性骨治療剤および代謝性骨疾患症状改善のための健康食品(健康飲料を含む)の製造方法を提供する。
【0027】
上記酵母の分離に関しては、国際公開WO 01/95922号パンフレットにも詳述されている。具体的に、本発明の代謝性骨疾患治療剤である発酵産物を用いて、GPLP寒天平板培養法により平板上に培養し、培養平板上に優勢に生育している集落を釣菌し、分離酵母を得た。分離酵母について形態観察および性状試験を行い、文献(Kurtzman, C. P. et al., 「The yeasts, A Taxonomic Study」4版(1998)、Elsevier Science B.V.;Barnett, J. A. et al., 「Yeasts:Characeristics and identification」3版(2000)、Cambridge University Press、これらの文献は引用により本願明細書の一部として組み込まれる)を参考にして同定した。なお、発酵産物中の酵母数は1.4×10/gであった。分離酵母の性状試験結果を表1に、分離酵母の子嚢胞子の一例を図1に示した。
【表1】


【0028】
以上の結果によれば、分離酵母は形態上および性状上チゴサッカロミセス ビスポラス(Zygosaccharomyces bisporus)と同定される。このチゴサッカロミセス ビスポラスは子嚢菌酵母の一属で、それぞれ独立した細胞間で接合し、球形〜楕円形の子嚢胞子を1〜4個形成するものである。また、チゴサッカロミセス ビスポラスは、耐浸透圧性の酵母で発酵食品、清涼飲料水などから分離されるものである。
【0029】
一方、分離された酵母に対する、対象株とのDNA相同性試験を行ったところ、次のような結果が得られた。すなわち、江崎孝行ら、日本細菌学会誌、45巻、851頁(1990)、および高橋正明ら、東京農業大学アイソトープセンター研究報告、7号、69頁(1993)(これらの文献は引用により本願明細書の一部として組み込まれる)に従い、対象株としてチゴサッカロミセス ビスポラス IFO 1131およびチゴサッカロミセス バイリー IFO 1098(Zygosaccharomyces bailii IFO 1098)を用いて、得られた酵母とのDNA相同性試験を、マイクロプレートを用いたフォトビオチン標識法により、DNA−DNAハイブリダイゼーション試験を行った。なお、DNAの調製は、Jahnke, K.-D. et al., Trans. Br. mycol. Soc., Vol,87, pp.175-191 (1986)(この文献は引用により本願明細書の一部として組み込まれる)に従い調製した。結果を表2に示した。
【表2】

【0030】
上記の対象株との相同性試験の結果によれば、本発明の酵母は、形態上および性状上チゴサッカロミセス ビスポラスと同定されるが、DNAの配列自体はチゴサッカロミセス ビスポラスよりもむしろチゴサッカロミセス バイリーに近いものであり、いずれの対象株とも相違する新種の株であることが理解される。
【0031】
出願人は、このチゴサッカロミセス属に属すると推定される新種の酵母を「ハルイサンA−3」と命名した。なお、この新種の酵母「ハルイサンA−3」が新種の株ではなく新種の種あるいは属であるか否かは、現時点では明確ではない。しかしながら、出願人は、分離され「ハルイサンA−3」と命名された新種の酵母を、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブタペスト条約に従い、2001年3月12日に、受託番号FERM BP−7499として、新名称:独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(旧名称:経済産業省技術総合研究所生命工学工業技術研究所(National Institsute of Bioscience and Human-Technology National institute of Advanced Industrial Science and Technology)、日本国茨城県つくば市東1丁目1番地3)に寄託した。なお、上記寄託機関は、2001年4月1日をもって独立行政法人化され、独立行政法人産業技術総合研究所と改編されたことにより、2001年4月1日に名称が変更されたものである。
【0032】
本発明の分離された新種の酵母は、松科植物の新芽とともに代謝性骨疾患治療剤としての有効性に大きく寄与しているものと考えられ、極めて有用な酵母である。
【0033】
次に、本発明の代謝性骨疾患治療剤を、例をあげて詳しく説明するが、本発明は以下の例示により限定されるものではない。
【0034】
(実施例1:代謝性骨治療剤の製造例)
本発明の代謝性骨疾患の治療剤は、次のようにして製造することができる。
【0035】
クロマツ、アカマツ、カラマツの松の新芽を、松に花が咲き終わった頃(福島県では、5月中旬〜6月初旬)に、採取し、採取した松の新芽をよく水洗する。熱湯に、白砂糖を加えて溶解させ、室温付近まで冷ました砂糖水と水洗した松の新芽とを容器、たとえば、プラスチック製容器にいれて、密封して、初冬頃(福島県では、11月中旬頃)まで、直射日光の当たる場所に載置することにより、自然発酵させることにより製造する。初冬頃に容器を開封し、松を取り除くと、本発明の代謝性骨疾患の治療剤が得られる。
【0036】
使用した砂糖水は、水約2リットルに対して、約1Kgの白砂糖の割合で用い、松は、約50本の割合で用いた。
【0037】
上記のようにして、約2リットルの水に1Kgの白砂糖、約50本の松の新芽を用いて製造したところ、約1.2リットル(仕込んだ砂糖水の約60%)の白色の濁りを有する液状の代謝性骨疾患治療剤が得られた。この治療剤について、含有成分を分析すると、表3に示すような結果が得られた。
【表3】

【0038】
この分析は、主に食品一般に関する上記検査項目についてのみに行われたものであり、本発明の代謝性骨疾患治療剤には、これら以外の成分が存在している可能性がある。したがって、どの成分が代謝性骨疾患の治療剤として特に有効であるかは、特定することができないが、代謝性骨疾患治療剤としての薬効を奏するものであった。
【0039】
次に、上記のようにして製造した複数の本発明の代謝性骨疾患治療剤について、治療剤中に含有されるカビ数、酵母数、一般細菌数(生菌数)について調べた。カビ数および酵母数については、GPLP寒天平板培養法で行い、一般細菌数(生菌数)については、抗真菌剤添加SCDLP寒天平板培養法で、酒石酸を用いて培地のpHを3.5に調整したものと、培地を調整しないものとの2とおりの試験を行い測定した。得られた結果を表4に示した。
【表4】

【0040】
上記の結果によれば、本発明の代謝性骨疾患治療剤中には、カビの発生は認められず、また一般細菌(生菌数)も極めて少ないことがわかる。また、酵母は発酵産物のロットにより若干のバラツキはあるが、発酵産物中には10〜10個/gのオーダーで酵母が存在していることがわかる。この発酵産物中に存在する酵母が寄託した新種の酵母に該当するものである。
【0041】
(試験例1:代謝性骨疾患治療剤の経口毒性)
次に、本発明の代謝性骨疾患治療剤の経口毒性について検討した。本発明の代謝性骨疾患治療剤の原液およびこれに蜂蜜(10重量%)を加えたものを用いて、これらの被験物質をそれぞれ2000mg/kg投与する群と、対照群として注射用水を投与する群(投与量0mg/kg)とについて、1群雌雄各5例のSD系[Crj:CD(SD)IGS]ラットに経口胃ゾンデを取り付けたディスポーザブルシリンジ(1mL容量)を用いて強制経口投与し、その後15日間(投与日を含む)の観察期間を設け、毒性徴候および概略の致死量について検討した。
【0042】
試験期間を通じて対照群を含む、本発明の代謝性骨疾患治療剤およびこれに蜂蜜を加えたものの2000mg/kg投与群の雌雄に死亡は認められなかった。また、一般状態、体重および剖検においても被験物質投与に起因する変化は認められなかった。以上の結果から、本試験条件下における本発明の代謝性骨疾患治療剤の概略の致死量は雌雄ともに2000mg/kg以上であると結論された。
【0043】
(試験例2:代謝性骨疾患治療剤の変異原性)
次に、本発明の代謝性骨疾患治療剤の変異原性について検討した。本発明の代謝性骨疾患治療剤の変異原性について、Amesらの変法(Maron,D.M. et al.,「Revised methods for the Salmonella mutagenicity test」、Mutation Res., Vol.113, pp.173‐215 (1983)、この文献は引用により本願明細書の一部として組み込まれる)に準拠したプレート法を用い、ネズミチフス菌のヒスチジン要求性であるTA98、TA100、TA1535、TA1537株および大腸菌のトリプトファン要求性であるWP2uvrA株にそれぞれ処置し、その変異原性を代謝活性化による場合とよらない場合との双方で検討した。
【0044】
試験の用量としては、312.5、625、1250、2500および5000μg/plateで行った。この結果、各試験菌株の被験物質群の復帰変異コロニー数は、代謝活性化系の有無にかかわらず、用量依存性ならびに陰性対照群の2倍以上の増加を認めなかった。また、生育阻害および被験物質の沈澱は認められなかった。結果を図2および3に示した。図2は、塩基対置換型菌株(TA100:□、TA1535:○、WP2uvrA:△)を用いた場合の結果が示してある。図中、Aは代謝活性化によらない場合であり、Bは代謝活性化による場合で、S9mixが添加された場合の結果がそれぞれ示してある。図3は、フレームシフト型菌株(TA98:□、TA1537:○)を用いた場合の結果が示してある。図中、Aは代謝活性化によらない場合であり、Bは代謝活性化による場合で、S9mixが添加された場合の結果がそれぞれ示してある。なお、陰性対照物質としては、被験物質の調製時に溶媒として用いた注射用蒸留水を使用した。また、陽性対照物質としては、2-(2-Furyl)-3-(5-nitro-2-furyl)acrylamide(AF−2)、2-Aminoanthracene(2−AA)、Sodium azide(SA)、および、9-Aminoacridine(9−AA)の各化合物を使用した。AF−2、9AA、2−AAはDMSOで、SAは注射用蒸留水でそれぞれ溶解し、菌株および代謝活性化によらない場合、代謝活性化による場合に応じて、それぞれ使用した。
【0045】
以上の結果から、この試験条件下における本発明の代謝性骨疾患治療剤の変異原性は陰性と判断された。
【0046】
(試験例3:代謝性骨疾患治療剤の破骨細胞形成阻害効果)
本発明の代謝性骨疾患治療剤により破骨細胞の分化を阻害する効果を試験した。
【0047】
Macrophage RAW264細胞を、破骨細胞分化因子RANKLおよび本発明の代謝性骨疾患治療剤を含む10%のウシ胎児血清(FBS)を添加したα−MEM培地(以下、「10%FBS−MEM」とする。)で、3日間培養した。
【0048】
本発明の代謝性骨疾患治療剤として、発酵期間が2、5および6ヶ月のものを用い、これらの原液を種々の濃度(0.00003〜1.0% v/v)にてあらかじめ上記培地に含めておいた。一般に、Macrophage RAW264細胞は、破骨細胞分化因子RANKLを含む培地で3日間培養すると破骨細胞に分化するものであり、RANKLが含まれていないとMacrophage RAW264細胞には影響与えず破骨細胞への分化は誘導されない。
【0049】
破骨細胞の分化段階の程度は、破骨細胞のマーカー酵素である酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRAP)を測定することによって評価した。
【0050】
本試験の手順は、具体的には、96穴プレート上で培養された細胞を90%エタノールで固定した後、TRAP酵素反応液100 ml(4-nitrophenyl phosphate disodium salt 6H2O(和光純薬社) 1.36mg/mlと10 mM tartrateを含む 50 mM Citrate Buffer (pH 4.6))を加えて20〜30分37度で反応させた。反応液全量を取り、予め100 mlの0.1N-NaOHが入っているプレートに移すことによって酵素反応を止めた後、酵素反応産物を405 nm吸光度で測定した。
【0051】
この結果を図4(a)〜(c)に本発明の治療剤の発酵期間ごとに棒グラフで示す。本発明の治療剤の破骨細胞形成阻害効果を図4に示す。縦軸は、対照群に対するTRAP活性の相対値(%)、すなわち、本発明の治療剤を含まない培地(コントロール)で培養した細胞のTRAP 活性の吸光度に対する、本発明の治療剤を含む培地で培養した細胞のTRAP 活性の吸光度を割合(%)で示す。横軸は、培地における本発明の治療剤原液の濃度(%、v/v)を示す。
【0052】
発酵期間が6ヶ月の本発明の治療剤を含む培地では、治療剤の濃度にかかわらずTRAP活性の相対値が著しく減少し、破骨細胞の分化を大きく阻害した。発酵期間が2ヶ月および5ヶ月の本発明の代謝性骨疾患治療剤を含む培地では、治療剤濃度が高い領域においてTRAP活性の相対値が著しく減少され破骨細胞の分化を大きく阻害した。
【0053】
(試験例4:代謝性骨疾患治療剤の細胞毒性)
本発明の代謝性骨疾患治療剤の細胞毒性を試験するために、試験例3において培養した各培地における生存細胞数を、XTTアッセイを用いて計測した。XTTアッセイは、テトラゾリウム塩を発色基質として使用し、その吸光度を測定することにより生細胞数を測定するものである。
【0054】
まず、試験例3の96穴プレート上の細胞培地にXTT標識混合液50 mlを加えて37度で18時間培養し、480 nmでの吸光度(対照波長は650 nm)を測定した。
【0055】
細胞生存率を図4(a)〜(c)に本発明の治療剤の発酵期間ごとに折れ線グラフで示す。縦軸はXTT活性の相対値(%)、即ち、コントロール培地で培養した細胞のXTT活性の吸光度に対する本発明の治療剤を含む培地で培養した細胞のXTT活性の吸光度を割合(%)で示す。横軸は、培地における本発明の治療剤原液の濃度(%、v/v)を示す。
【0056】
図4(a)〜(c)によると、本発明の治療剤濃度が0.3%以下では、治療剤の発酵期間にかかわらず、XTT活性はほぼ100%である。これにより、上記の範囲に於いて、本発明の治療剤の細胞毒性は、コントロールの細胞と比較してほぼ同等、すなわち、細胞毒性はほとんどないと判断された。
【0057】
治療剤濃度が1.0%においては、発酵期間6ヶ月および5ヶ月では減少し、発酵期間2ヶ月では対照群に近い値を示した。これは、発酵期間2ヶ月ではまだ細胞毒性成分が形成されていないからであると思われる。
【0058】
図5に、コントロール培地と、本発明の代謝性骨疾患治療剤(6ヶ月発酵, 0.03% v/v含有)を含む培地でそれぞれ培養した細胞をTRAP染色した際の顕微鏡写真を示す。
【0059】
コントロール培地と比較すると、本発明の治療剤を含む培地はTRAP染色された赤い細胞が減少している。この結果から、本発明の代謝性骨疾患治療剤により破骨細胞の前駆細胞から破骨細胞への分化が阻害される可能性が示される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、本発明の代謝性骨疾患治療剤(発酵産物)から分離された分離酵母の子嚢胞子の一例を示す顕微鏡写真(微分干渉、×2400)である。培地は、マルトエキス寒天培地を使用した。
【図2】図2は、本明の代謝性骨疾患治療剤の変異原性のスクリーニング試験結果を示すグラフであり、塩基対置換型菌株(TA100:□、TA1535:○、WP2uvrA:△)を用いた場合の結果が示してある。また、図中、Aは代謝活性化によらない場合(−S9)であり、Bは代謝活性化による場合(+S9)の結果がそれぞれ示してある。
【図3】図3は、本発明の代謝性骨疾患治療剤の変異原性のスクリーニング試験結果を示すグラフであり、フレームシフト型菌株(TA98:□、TA1537:○)を用いた場合の結果が示してある。また、図中、Aは代謝活性化によらない場合(−S9)であり、Bは代謝活性化による場合(+S9)の結果がそれぞれ示してある。
【図4】図4は、本発明の代謝性骨疾患治療剤の発酵期間(2,5,6ヶ月)ごとに、TRAP活性に基づく相対値(%)を示してある(棒グラフ)と共にXTT活性に基づく相対値を示してある(折れ線グラフ)。
【図5】図5は、本発明の代謝性骨疾患治療剤を含む培地中の細胞の状態を示した顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
松科植物の新芽と、水と、糖質とを混合し、自然発酵させて得られる代謝性骨疾患治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−16348(P2006−16348A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196673(P2004−196673)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(504256936)株式会社 マーテルマーニャ・ハルイサン (1)
【Fターム(参考)】