説明

代謝量算出装置

【課題】歩数計や心拍計に比べて、より高精度に代謝量を算出することができる代謝量算出装置を提供する。
【解決手段】被検者の筋肉伸縮量を検出する筋肉伸縮量検出センサ10と、筋肉伸縮量を時間積分した値に基づいて運動時の代謝量Q1を算出する運動代謝量算出手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の代謝量を算出する代謝量算出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、代謝量(エネルギー消費量)の算出には、歩数計や心拍計が用いられていた。歩数計は、歩行に伴う振動を検出し、検出された振動に基づいて代謝量を推定するものである(特許文献1参照)。また、心拍計は、心拍数と酸素摂取量とに強い相関があることを利用して、心拍数に基づいて代謝量を算出している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−54234号公報
【特許文献2】特開2001−161670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、歩数計は、歩行時における代謝量の算出は可能であるが、例えば、自転車を運転している場合などには、正確な代謝量を算出することができない。自転車を運転しているときには、振動を検出しにくいため、実際の代謝量に比べて小さくなってしまうことがある。さらに、歩数計は、歩行に関係のない振動であっても検出してしまうため、この場合には実際の代謝量よりも大きな代謝量として算出されてしまう。また、心拍数は、食事や感情の変化によって変化する。そのため、心拍計によっては、精度良く代謝量を算出することはできない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、歩数計や心拍計に比べて、より高精度に代謝量を算出することができる代謝量算出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る本発明は、
被検者の筋肉伸縮量を検出する筋肉伸縮量検出センサと、
前記筋肉伸縮量を時間積分した値に基づいて運動時の代謝量を算出する運動代謝量算出手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
被検者の筋肉伸縮量は、被検者の実際の活動に応じたものとなる。そして、本発明者は、筋肉伸縮量を時間積分した値が、代謝量に相関があることを見出した。そこで、筋肉伸縮量を検出することで、この筋肉伸縮量を時間積分した値に基づいて代謝量を算出することができるようになった。
【0008】
ここで、本発明では、筋肉伸縮量を用いている。そのため、歩数計によって検出できない自転車運転時においても、高精度に代謝量を算出できる。さらに、歩数計では、歩行に関係のない振動を検出した場合には、実際の代謝量より大きな代謝量とされていた。しかし、本発明によれば、実際の活動に応じた筋肉伸縮量を用いているため、活動に関係のない動作の影響を受けにくい。このことからも、高精度に代謝量を算出できる。また、心拍計の場合に問題であった食事の場合や感情の変化がある場合であっても、筋肉伸縮量は影響を受けないため、高精度に代謝量を算出できる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1において、
所定期間に前記筋肉伸縮量検出センサにより検出された前記筋肉伸縮量に対して周波数解析を行う周波数解析手段をさらに備え、
前記運動代謝量算出手段は、前記筋肉伸縮量の周波数が所定周波数以上である場合に、前記筋肉伸縮量を時間積分した値に基づいて運動時の代謝量を算出することである。
【0010】
運動時には、筋肉が伸長と収縮とを繰り返す。つまり、筋肉伸縮量の周波数が所定周波数以上である場合には、運動していると推定される。この場合に、筋肉伸縮量を時間積分した値を用いることで、運動時の代謝量を高精度に算出することができる。ここでいう運動とは、走行や自転車運転などの場合のみならず、ゆっくりとした歩行も含む。筋肉伸縮量の周波数は、走行や自転車運転などの場合には高周波数となり、ゆっくりとした歩行の場合には低周波数となる。ただし、ほとんど活動していない場合には、筋肉伸縮量の周波数は、ゆっくりとした歩行に比較してさらに低周波数となる。つまり、ゆっくりとした歩行の場合を含み、且つ、ほとんど活動していない場合を含まないように、所定周波数を設定すればよい。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2において、
前記筋肉伸縮量の周波数が前記所定周波数より小さい場合に、基礎代謝量を安静時の代謝量として算出する安静代謝量算出手段と、
前記運動時の代謝量と前記安静時の代謝量とを合計して総代謝量を算出する総代謝量算出手段と、
を備えることである。
【0012】
上述したように、運動時には、筋肉伸縮量の周波数が所定周波数以上となると推定される。一方、非運動時、すなわち安静時には、筋肉伸縮量の周波数は所定周波数より小さくなると推定される。そして、運動時には、筋肉伸縮量を時間積分した値に基づいて運動時の代謝量を算出することができるが、安静時には、同じ算出方法を適用することは適切ではないことを本発明者は見出した。そこで、安静時における代謝量は、基礎代謝量とすることした。そして、安静時の代謝量と運動時の代謝量とを合計することで、総代謝量を算出することができる。
【0013】
ここで、一般に、歩数計や心拍計は、運動時の代謝量を算出することができるものであった。これに対して、本発明の代謝量算出装置は、運動時のみならず、安静時の代謝量も勘案して、総代謝量を算出することができる。従って、例えば、被検者の1日に総代謝量を算出することもできる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項2または3において、
前記筋肉伸縮量の周波数が前記所定周波数以上である場合に、前記筋肉伸縮量を時間積分した値に基づいて運動時の推定心拍数を算出する推定心拍数算出手段を備えることである。
【0015】
これにより、代謝量のみならず、運動時の推定心拍数を算出することができる。上述したように、実際の心拍数は、食事や感情の変化などの影響を受ける。そして、心拍計は実際の心拍数を検出することができる。しかし、運動時の心拍数に特化した心拍数を抽出することは容易ではない。本発明によれば、運動時に特化した心拍数のみを抽出することができるため、運動に応じた心拍数の変化を確実に観察することができる。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項2〜4の何れか一項において、
前記周波数解析手段は、前記所定期間における前記筋肉伸縮量に対して周波数解析を行い、前記所定期間に検出された前記筋肉伸縮量の各周波数成分のうち前記筋肉伸縮量が最大値となる周波数を抽出し、抽出された当該周波数を前記所定期間における前記筋肉伸縮量の周波数として設定することである。
【0017】
筋肉伸縮量の周波数は、運動の種類によっても異なるが、同じ運動を行っていたとしても複数の周波数成分を含むことがある。このような場合には、筋肉伸縮量の周波数として、どの周波数成分を用いるかを明確にしておく必要がある。そこで、本発明によれば、所定期間において筋肉伸縮量が最大値となる周波数を抽出し、抽出された当該周波数を所定期間における筋肉伸縮量の周波数として設定する。これにより、運動時か安静時かの判定を確実できる。
【0018】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5の何れか一項において、
前記筋肉伸縮量検出センサは、前記被検者の皮膚の変形量に基づき前記筋肉伸縮量を検出することである。
被検者の皮膚の変形は、筋肉の伸縮に伴って生じる。つまり、被検者の皮膚の変形量を検出することで、被検者の筋肉伸縮量を検出することができる。
【0019】
請求項7に係る発明は、請求項6において、
前記筋肉伸縮量検出センサは、前記被検者の皮膚に当接して設けられ、前記皮膚の動きに応じて変形可能であって、当該変形量に応じた物理量を出力するセンサとすることである。
これにより、確実に筋肉伸縮量を検出できる。
【0020】
請求項8に係る発明は、請求項7において、
前記筋肉伸縮量検出センサは、当該筋肉伸縮量検出センサの変形量に応じて抵抗値、インピーダンス、静電容量の何れかを変化させるセンサとすることである。
【0021】
これにより、確実に被検者の筋肉伸縮量に応じた物理量を出力することができる。ここで、筋肉伸縮量センサとして、例えば、導電性の高分子材料を用いることができる。導電性高分子材料は、変形量に応じて抵抗値、インピーダンス、静電容量などが変化する。導電性高分子材料の他に、被検者の皮膚の動作を観察できる画像センサなどを用いることもできる。ただし、導電性高分子材料を用いる場合には、当該導電性高分子材料を被検者の皮膚に当接するように直接装着することが容易である。従って、装着性を考慮すると、導電性高分子材料などを当該センサとして適用することは、有用性が高くなる。
【0022】
請求項9に係る発明は、請求項1〜8の何れか一項において、
前記筋肉伸縮量検出センサは、前記被検者の脚部における前記筋肉伸縮量を検出することである。
通常の活動に際しては、脚部の筋肉を使用する。つまり、本発明によれば、通常の活動における運動に対して、高精度に運動時の代謝量を算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】代謝量算出装置を示す斜視図である。
【図2】代謝量算出装置のブロック構成図である。
【図3】代謝量算出装置の演算処理部における主演算処理を示すフローチャートである。
【図4】(a)走行時における筋肉伸縮量センサの出力値を示す図である。(b)ゆっくりとした歩行時における筋肉伸縮量センサの出力値を示す図である。(c)安静時における筋肉伸縮量センサの出力値を示す図である。
【図5】(a)走行時の出力値の周波数解析結果を示す図である。(b)ゆっくりとした歩行時の出力値の周波数解析結果を示す図である。(c)安静時の出力値の周波数解析結果を示す図である。
【図6】筋肉伸縮量センサの出力値の時間積分値に対する被検者の実際の心拍数および推定心拍数との関係を示す図である。
【図7】被検者の実際の心拍数と酸素摂取量との関係を示す図である。
【図8】代謝量算出装置の演算処理部における表示処理を示すフローチャートである。
【図9】(a)表示装置における表示画面1,すなわち現在の総代謝量および現在の推定心拍数を表示する画面である。(b)表示装置における表示画面2、すなわち総代謝量の時間経過グラフを表示する画面である。(c)表示装置における表示画面3、すなわち推定心拍数の時間経過グラフを表示する画面である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の代謝量算出装置を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0025】
(代謝量算出装置の構成)
本実施形態の代謝量算出装置について、図1を参照して説明する。図1に示すように、代謝量算出装置は、全体として環状に形成され、周方向に伸縮可能とされている。この代謝量算出装置は、被検者の大腿部の位置に配置される。この代謝量算出装置は、筋肉伸縮量検出センサ10と、コントローラ20と、表示装置30と、ベルト部材40とを備えている。
【0026】
筋肉伸縮量検出センサ10は、被検者の大腿部の皮膚に当接して設けられている。具体的には、筋肉伸縮量検出センサ10は、被検者の大腿四頭筋の動きに応じて動く皮膚に当接して設けられ、当該部位の皮膚の動きに応じて伸縮変形する。そして、筋肉伸縮量検出センサ10は、当該センサ10の伸縮変形量に応じた物理量を出力する。つまり、当該物理量は、大腿四頭筋の動きに応じた値となる。
【0027】
この筋肉伸縮量検出センサ10は、基材11と、センサ本体12と、電極13、14とから構成される。基材11は、長尺板状に形成され、長手方向に伸縮可能な織りゴム製からなる。基材11は、被検者の大腿部の前面、すなわち、大腿四頭筋の動きを検出できる位置に配置されている。
【0028】
センサ本体12は、基材11よりも一回り小さな長尺板状に形成され、基材11の表面(前面)に貼付されている。センサ本体12は、長手方向に伸縮可能であって、伸縮変形量が増加するにつれて電気抵抗が増加するように形成されている。すなわち、センサ本体12は、定電流が供給されている場合には、伸縮変形量に応じた電圧を出力できる。例えば、センサ本体12は、導電性フィラーを含有するゴム製からなる。このセンサ本体12の長手方向のばね定数は、基材11の長手方向のばね定数よりも大きく設定されている。つまり、センサ本体12は、基材11よりも伸縮しやすい。
【0029】
電極13、14は、センサ本体12の長手方向の両端にそれぞれ設けられている。つまり、電極13、14間の電気抵抗は、センサ本体12の電気抵抗に応じて変化する構成としている。これらの電極13、14は、基材11に固定されている。
【0030】
コントローラ20(運動代謝量算出手段、安静代謝量算出手段、総代謝量算出手段、推定心拍数算出手段)は、基材11の前面のうち電極13よりも基材11の一端側に配置されている。コントローラ20と、電極13、14に導線により電気的に接続されている。表示装置30は、基材11の前面のうちコントローラ20よりも基材11の一端側に配置されている。
【0031】
ベルト部材40は、伸縮可能な織りゴム製であって、長尺状に形成されている。ベルト部材40の長手方向の両端部は、基材11の両端部に連結されている。つまり、ベルト部材40と基材11とにより、環状を形成している。ベルト部材40は、大腿部の後面に配置されている。
【0032】
次に、図2を参照して、コントローラ20の詳細について説明する。図2に示すように、コントローラ20は、直流電源21と、電圧計22と、記憶装置23と、演算処理部24とを備えている。
【0033】
直流電源21は、センサ本体12に定電流を供給すると共に、コントローラ20内の各部に供給する電源としての役割を有している。電圧計22は、電極13、14の間の電圧を計測することができる。つまり、センサ本体12に直流電源21から定電流が供給された場合に、センサ本体12の電極13、14の間の電圧を計測できる。この電圧値は、センサ本体12の電気抵抗に応じた値となる。
【0034】
記憶装置23は、電圧計22により計測された電圧値(「センサ本体12から出力された出力値」に相当)のデータを記憶すると共に、演算処理部24により算出された推定心拍数、総代謝量を記憶する。また、記憶装置23は、電圧値の時間積算値と推定心拍数との関係マップを記憶している。この関係マップは、後述する図6に示すものである。
【0035】
演算処理部24は、センサ本体12から出力された出力値に基づいて代謝量算出処理を行うと共に、主演算処理の結果に基づいて表示装置30に対して表示処理を行う。演算処理部24における代謝量算出処理、および表示処理の詳細については、後述する。
【0036】
(演算処理部24における代謝量算出処理)
次に、演算処理部24における代謝量算出処理について図3〜図7を参照して説明する。図3に示すように、代謝量算出処理は、記憶装置23に既に記憶されているセンサ本体12から出力された出力値を、所定期間(例えば、2sec)の分だけ取得する(S1)。ここで、このセンサ本体12から出力された出力値は、筋肉伸縮量検出センサ10により検出された被験者の大腿四頭筋の筋肉伸縮量に相当する値である。また、所定期間とは、電圧計22により計測された電圧値のサンプリング周期よりも十分に長く設定され、後述する周波数解析をするために十分なデータ量となるような期間に設定されている。
【0037】
ここで、走行時、ゆっくりとした歩行時、および、安静時のそれぞれにおけるセンサ本体12からの出力値について、図4(a)〜図4(c)に示す。図4(a)(b)から明らかなように、センサ本体12からの出力値は、走行時および歩行時には、周期的な挙動を示している。さらに、走行時には、歩行時に比べて、出力値が高くなり、且つ、周期が短くなっている。また、安静時(具体的には、床に足を伸ばして着座している状態としている)には、センサ本体12からの出力値は、周期的な挙動ではなく、不規則な挙動を示している。
【0038】
続いて、取得した所定期間の出力データに基づいて周波数解析を行う(S2)。ただし、センサ本体12からの出力データそのものを周波数解析すると、各行為に応じて周波数の差が出にくいため、センサ本体12からの出力データに対して所定の係数を乗算したデータを用いた。この場合の図4(a)〜図4(c)の出力データの周波数解析結果について、図5(a)〜図5(c)に示す。図5(a)に示すように、走行時における周波数解析結果は、図5(a)に示すように、約45Hz付近が出力値のピークとなり、その高調波成分がやや高くなっている。また、ゆっくりとした歩行時における周波数解析結果は、図5(b)に示すように、約20Hz付近が出力値のピークとなり、その高調波成分がやや高くなっている。そして、安静時における周波数解析結果は、図5(c)に示すように、ゼロ付近が出力値のピークとなり、その他の周波数帯域においては出力値がほぼゼロに近い値となっている。
【0039】
続いて、周波数解析による出力値が最大値(ピーク)となる周波数Fが、周波数閾値fthより大きいか否かを判定する(S3)。この周波数閾値fthは、運動している状態か、それとも運動していない状態かを区別するための閾値である。ここでは、周波数閾値fthを、15Hzと設定している。つまり、走行時および歩行時における周波数解析による出力値最大の周波数Fは、周波数閾値fthよりも大きな周波数となる。一方、安静時における周波数解析による出力値最大の周波数Fは、周波数閾値fth以下の周波数となる。
【0040】
続いて、周波数解析による出力値最大の周波数Fが周波数閾値fthより大きい場合には(S3:Yes)、上述した所定期間におけるセンサ本体12からの出力データを時間積分して、時間積分値ISO(Integrated Sensor Output)を算出する(S4)。図4(a)(b)から明らかなように、走行時の時間積分値ISOは、歩行時の時間積分値ISOよりも大きな値となる。
【0041】
続いて、算出した時間積分値ISOに基づいて、推定心拍数HRを算出し、算出した推定心拍数HRを記憶装置23に記憶する(S5)。ここで、算出した時間積分値ISOと被検者の実際の心拍数または推定心拍数HRとの関係について説明する。時間積分値ISOと実際の心拍数との関係について実験を行った結果を、図6の黒丸印にて示す。実験値は、図6の黒丸印を三次式の関数にて最小自乗法により近似した実線近傍に一致する。このように、時間積分値ISOと実際の心拍数とは、ある相関を持っていることが分かる。そこで、時間積分値ISOと推定心拍数HRとの関係を、図6の三次式の実線にて示す関係マップとして記憶しておく。つまり、時間積分値ISOが決定されれば、図6の関係マップを用いることで、推定心拍数HRを得ることができる。
【0042】
続いて、推定心拍数HRに基づいて、酸素摂取量VO2の算出を行う(S6)。ここで、心拍数と酸素摂取量とは、ほぼ比例の関係または一次式の関係を有することが知られている。実際に実験を行った結果を図7に示す。図7に示すように、実際の心拍数と酸素摂取量の関係は、一次式の関係を有する。ただし、実際の心拍数が110HRを超える範囲にて、上記の関係を有することが知られている。ここでは、周波数解析による出力値最大の周波数Fが周波数閾値fthより大きい場合、すなわち、運動時における処理であるため、推定心拍数HRはほぼ110以上の場合である。つまり、当該処理においては、運動時における酸素摂取量を算出していることに相当する。
【0043】
続いて、算出された運動時の酸素摂取量VO2に基づいて、運動時における代謝量(以下、「運動代謝量」と称する)Q1を算出する(S7)。運動代謝量Q1は、酸素摂取量VO2に対してほぼ比例の関係を有する。例えば、一般には、運動代謝量Q1は、酸素摂取量VO2に5kcalを乗算した値にほぼ等しいと考えられている。そこで、ここでは、当該関係式に基づいて、運動代謝量Q1を算出する。
【0044】
一方、ステップS3において、周波数解析による出力値最大の周波数Fが周波数閾値fth以下の場合には(S3:No)、基礎代謝量に基づいて安静時における代謝量(以下、「安静代謝量」と称する)Q2を算出する。ここで、基礎代謝量は、被検者によって異なるものである。そこで、本実施形態においては、予め被検者に関する情報、例えば、性別、年齢、身長、体重などの情報を入力しておき、これらの情報に基づいて基礎代謝量を決定しておく。そして、安静代謝量は、基礎代謝量に上述した所定期間を乗算することにより算出される。
【0045】
続いて、現時点における総代謝量Qtを算出する(S9)。まず、初期においては、運動代謝量Q1が算出されたとすると、当該運動代謝量Q1が総代謝量Qtとなる。その後に、安静代謝量Q2が算出されると、既に算出された総代謝量Qtに、今回算出された安静代謝量Q2を加算して、総代謝量Qtを更新して記憶する。つまり、総代謝量Qtは、これまでの運動代謝量Q1とこれまでの安静代謝量Q2とを合計した値となる。そして、総代謝量Qtの更新を繰り返すことにより、代謝量算出装置の起動から現在までの総代謝量Qtを算出できる。ここで、記憶装置23には、現在の総代謝量Qtのみならず、これまでの総代謝量Qtの情報を記憶している。
【0046】
続いて、取得可能なデータが存在する場合には、ステップS1に戻り処理を繰り返す(S10)。一方、取得可能なデータが存在しない場合には、処理を終了する。
【0047】
(演算処理部24における表示処理)
次に、演算処理部24における表示処理について図8〜図9を参照して説明する。図8に示すように、まず、代謝量算出装置が起動されると、初期画面表示処理を実行する(S11)。初期画面は、図9(a)に示すように、画面上段に現在における総代謝量Qtが表示され、画面下段に現在における推定心拍数HRが表示されている。
【0048】
続いて、総代謝量時間経過グラフの表示要求がされたか否かを判定する(S12)。総代謝量時間経過グラフの表示要求は、表示装置30の表面に被検者が操作可能なボタン(図示せず)によって行われる。総代謝量時間経過グラフの表示要求がされた場合には(S12:Yes)、表示装置30の画面には、図9(b)に示すような総代謝量時間経過グラフが表示される(S13)。つまり、代謝量算出装置が起動されてから現在までにおいて、総代謝量の変化した挙動が表示される。
【0049】
一方、総代謝量時間経過グラフの表示要求がされていない場合には(S12:No)、推定心拍数時間経過グラフの表示要求がされたか否かを判定する(S14)。推定心拍数時間経過グラフの表示要求は、表示装置30の表面に被検者が操作可能なボタン(図示せず)によって行われる。推定心拍数時間経過グラフの表示要求がされた場合には(S14:Yes)、表示装置30の画面には、図9(c)に示すような推定心拍数時間経過グラフが表示される。つまり、代謝量算出装置が起動されてから現在までにおいて、推定心拍数HRの変化した挙動が表示される(S15)。ただし、推定心拍数HRは、上述した代謝量算出処理において説明したように、運動時のみ算出されるものである。従って、安静時と判定された場合には、推定心拍数HRはゼロとして表示される。
【0050】
一方、推定心拍数時間経過グラフの表示要求がされていない場合には(S14:No)、初期画面切替要求がされたか否かを判定する(S16)。初期画面切替要求は、表示装置30の表面に被検者が操作可能なボタン(図示せず)によって行われる。初期画面切替要求がされた場合には(S16:Yes)、表示装置30の画面には、図9(a)に示す画面に切り替えられる。初期画面切替要求がされていない場合には(S16:No)、代謝量算出装置がOFFされるまで、ステップS12に戻り処理を繰り返す。つまり、表示装置30の表示画面は、操作者による表示要求に応じた表示画面に適宜切り替えられる。
【0051】
(本実施形態の効果)
本実施形態において、被検者の筋肉伸縮量に相当するものを用いて代謝量の算出を行った。被検者の筋肉伸縮量は、被検者の実際の活動に応じたものとなる。また、筋肉伸縮量を時間積分した値が代謝量に相関があることを見出すことにより、筋肉伸縮量を検出することで運動時における代謝量を算出することができるようになった。
【0052】
従って、本実施形態によれば、歩数計によって検出できない自転車運転時においても高精度に代謝量を算出でき、歩数計において誤検出の原因であった活動に関係のない動作の影響を受けることもなく、高精度に代謝量を算出できる。また、心拍計の場合に問題であった食事の場合や感情の変化がある場合であっても、筋肉伸縮量は影響を受けないため、高精度に代謝量を算出できる。
【0053】
さらに、筋肉伸縮量の周波数に基づいて運動時であるか、それとも安静時であるかを区別することにより、確実に両者を区別することができる。従って、運動時の代謝量Q1は、筋肉伸縮量を時間積分した値に基づいて算出し、安静時の代謝量Q2は、基礎代謝量に基づいて算出することにより、全体としての総代謝量Qtを高精度に算出できる。
【0054】
ただし、筋肉伸縮量の周波数解析した結果では、通常、複数の周波数成分を含む。この複数の周波数成分の中で、どの周波数成分により判定するかは重要である。本実施形態においては、筋肉伸縮量の出力値最大の周波数Fを抽出して、当該周波数Fを判定基準として用いた。これにより、確実に、運動時であるか安静時であるかを判定することができる。
【0055】
さらに、本実施形態によれば、推定心拍数HRを算出している。ここで、実際の心拍数は、食事や感情の変化などの影響を受ける。しかし、本実施形態によれば、運動時の心拍数に特化した心拍数を抽出することができるため、運動に応じた心拍数の変化を確実に観察することができる。
【0056】
また、本実施形態においては、筋肉伸縮量の検出に際して、被検者の皮膚の動きを検出できるセンサを用いた。被検者の皮膚の近傍に、検出したい筋肉が存在すれば、当該皮膚の動きは、当該筋肉の動きに相当するものとなる。従って、被検者の皮膚の動きを検出することで、確実に、被検者の筋肉伸縮量を検出できる。
【0057】
また、本実施形態のおけるセンサ本体12は、センサ本体12の伸縮量に応じて抵抗が変化するものを用いている。このように、変形量に応じて物理量が変化するセンサを用いることで、確実に被検者の皮膚の動きを検出できる。さらに、小型化を図ることもできるため、被検者に対する装着性の点でも有効となる。さらに、筋肉伸縮量検出センサ10は、伸縮可能な材料により形成した。従って、装着性や、装着感を良好とすることができる。
【0058】
<その他>
上記実施形態においては、センサ本体12として、変形量に応じて抵抗が変化するものを用いた。この他に、センサ本体12として、変形量に応じてインピーダンスまたは静電容量が変化するものを適用することもできる。この場合には、電源として交流電源を供給することで、他は実質的に同様の構成を適用できる。
【0059】
また、上記実施形態においては、代謝量算出装置を被検者の大腿部に装着することとした。大腿部は、人間の通常の生活において最も使用する部位である。従って、大腿部に代謝量算出装置を装着することで、被検者の総代謝量Qtを算出することができる。ただし、上半身に特化した運動を行う場合、例えばベンチプレスを用いた運動や、下半身の身障者に対しては、腕部や腹部に代謝量算出装置を装着することで、適切な総代謝量Qtの算出が可能となる。
【符号の説明】
【0060】
10:筋肉伸縮量検出センサ
11:基材、 12:センサ本体、 13、14:電極
20:コントローラ
21:直流電源、 22:電圧計、 23:記憶装置、 24:演算処理部
30:表示装置
40:ベルト部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者の筋肉伸縮量を検出する筋肉伸縮量検出センサと、
前記筋肉伸縮量を時間積分した値に基づいて運動時の代謝量を算出する運動代謝量算出手段と、
を備えることを特徴とする代謝量算出装置。
【請求項2】
所定期間に前記筋肉伸縮量検出センサにより検出された前記筋肉伸縮量に対して周波数解析を行う周波数解析手段をさらに備え、
前記運動代謝量算出手段は、前記筋肉伸縮量の周波数が所定周波数以上である場合に、前記筋肉伸縮量を時間積分した値に基づいて運動時の代謝量を算出する請求項1に記載の代謝量算出装置。
【請求項3】
前記筋肉伸縮量の周波数が前記所定周波数より小さい場合に、基礎代謝量を安静時の代謝量として算出する安静代謝量算出手段と、
前記運動時の代謝量と前記安静時の代謝量とを合計して総代謝量を算出する総代謝量算出手段と、
を備える請求項2に記載の代謝量算出装置。
【請求項4】
前記筋肉伸縮量の周波数が前記所定周波数以上である場合に、前記筋肉伸縮量を時間積分した値に基づいて運動時の推定心拍数を算出する推定心拍数算出手段を備える請求項2または3に記載の代謝量算出装置。
【請求項5】
前記周波数解析手段は、前記所定期間における前記筋肉伸縮量に対して周波数解析を行い、前記所定期間に検出された前記筋肉伸縮量の各周波数成分のうち前記筋肉伸縮量が最大値となる周波数を抽出し、抽出された当該周波数を前記所定期間における前記筋肉伸縮量の周波数として設定する請求項2〜4の何れか一項に記載の代謝量算出装置。
【請求項6】
前記筋肉伸縮量検出センサは、前記被検者の皮膚の変形量に基づき前記筋肉伸縮量を検出する請求項1〜5の何れか一項に記載の代謝量算出装置。
【請求項7】
前記筋肉伸縮量検出センサは、前記被検者の皮膚に当接して設けられ、前記皮膚の動きに応じて変形可能であって、当該変形量に応じた物理量を出力するセンサである請求項6に記載の代謝量算出装置。
【請求項8】
前記筋肉伸縮量検出センサは、当該筋肉伸縮量検出センサの変形量に応じて抵抗値、インピーダンス、静電容量の何れかを変化させるセンサである請求項7に記載の代謝量算出装置。
【請求項9】
前記筋肉伸縮量検出センサは、前記被検者の脚部における前記筋肉伸縮量を検出する請求項1〜8の何れか一項に記載の代謝量算出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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