説明

任意波形発生装置のインターリーブ・チャンネル校正方法

【課題】任意波形発生装置の校正方法を改善する。
【解決手段】Sパラメータを用いて任意波形発生装置を校正する。任意波形発生装置が有するチャンネルとしては、単一の非インタリーブ・チャンネルでも良いし、インターリーブされた複数チャンネルでも良い。差動信号を生成する場合でも良く、2チャンネルを1対として、複数のチャンネル対を校正できる。このとき、各チャンネルは、単一の非インタリーブ・チャンネルでも良いし、インターリーブされた複数チャンネルで1つのチャンネルを構成する場合でも良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験測定装置に関し、特に、任意波形発生装置の校正に関する。
【背景技術】
【0002】
任意波形発生装置(AWG)は、事実上任意の波形を有するアナログ信号を生成するのに利用される試験測定装置である。その動作においては、ユーザが所望のアナログ信号をポイント毎にデジタル値の列として定義する。そして、AWGは、これらデジタル値を繰り出して、正確なデジタル・アナログ・コンバータを用いてアナログ信号を供給する。米国オレゴン州ビーバートンのテクトロニクス社が供給するAWG7000シリーズ任意波形発生装置のようなAWGは、広帯域信号の生成用途、高速シリアル・データ受信装置のストレス試験などのアプリケーションで利用されるが、この場合、複雑な信号の生成が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−228815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
様々な理由により、AWGで生成した信号の周波数特性を測定すると、その入力波形データの周波数特性と異なることがしばしばある。AWGの出力応答を補正するための校正技術が提案されてきているが、完全に満足できるものは未だにない。
【0005】
そこで、AWGを校正するための改善された方法へのニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態は、Sパラメータを用いて任意波形発生装置を校正する改善された方法と、これら方法を用いて構成された任意波形発生装置を提供する。この方法としては、任意波形発生装置の単一の非インタリーブ・チャンネルを校正するための方法、複数のインタリーブ・チャンネルを校正するための方法、差動信号を生成するための非インタリーブ及びインタリーブの両方の対のチャンネルを校正する方法が提供される。
【0007】
より具体的には、本発明の概念1は、任意波形発生装置の複数のインタリーブ・チャンネルを校正する方法であって、
複数の上記インタリーブ・チャンネル夫々の出力応答(τnnet)を測定するステップと、
上記出力応答(τnnet)に基いて、複数の上記インタリーブ・チャンネル夫々の補正フィルタ(gn)を計算するステップと
を具えている。
【0008】
本発明の概念2は、概念1の方法であって、
上記任意波形発生装置の出力ポートの最終的な信号源整合(Snet)を測定するステップと、
被測定デバイスの入力反射係数(ΓL)を決定するステップと
を更に具え、複数の上記補正フィルタ(gn)が上記τnnet、Snet及びΓLに基づいて計算されることを特徴としている。
【0009】
本発明の概念3は、概念1の方法であって、複数の上記インタリーブ・チャンネルで差動チャンネルの1つを構成することを特徴としている。
【0010】
本発明の概念4は、概念2の方法であって、このとき、ΓLが理想的な計算値であることを特徴としている。
【0011】
本発明の概念5は、概念2の方法であって、このとき、ΓLが測定値であることを特徴としている。
【0012】
本発明の概念6は、概念1の方法であって、このとき、
上記任意波形発生装置の出力ポートに外部デバイスが接続され、
上記外部デバイスの出力ポートにおいて上記校正が実効されることを特徴としている。
【0013】
本発明の概念7は、概念1〜6のいずれかによって校正された任意波形発生装置である。
【0014】
本発明の目的、効果及び他の新規な点は、以下の詳細な説明を添付の特許請求の範囲及び図面とともに読むことによって明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態による任意波形発生装置の単純化したハイレベル・ブロック図である。
【図2】図2は、図1に対応する第1信号フロー・グラフである。
【図3】図3は、図1に対応する第2信号フロー・グラフである。
【図4】図4は、図1に対応する方法のフローチャートである。
【図5】図5は、本発明の第2実施形態による任意波形発生装置の単純化したハイレベル・ブロック図である。
【図6】図6は、図5に対応する第1信号フロー・グラフである。
【図7】図7は、図5に対応する第2信号フロー・グラフである。
【図8】図8は、図5に対応する方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.反射波を考慮する
【0017】
従来のAWGの校正技術は、校正中の任意波形発生装置(AWG)と測定装置間又は使用中のAWGと被測定デバイス(DUT)間の反射波の相互作用の影響を考慮していないことから、本願発明者は、AWGの出力応答は不完全であると考えてきた。
【0018】
そこで、本発明の実施形態は、AWGのチャンネルを校正する方法と、こうした方法によって校正されたAWGを提供するに際し、これらについて、チャンネルの出力応答を考慮するだけでなく、校正中のAWGと測定装置間及び使用中のAWGとDUT間の反射波の相互作用の影響を考慮したものにしている。
【0019】
図1は、本発明の実施形態による単一の非インタリーブ・チャンネルを有するAWG100を示している。動作においては、プロセッサ105が、所望の出力アナログ信号を表す波形データを受ける。波形データは、メモリ、記憶デバイスなどに記憶しておき、ここからプロセッサ105に供給しても良い。プロセッサ105は、汎用マイクロプロセッサ上で動作するソフトウェアとして実現されても良いし、専用のASIC(特定用途向けIC)、FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)などで実現されても良い。プロセッサ105は、チャンネルの出力応答を補正するために、補正フィルタgを波形データに適用する。補正フィルタgは、時間領域において補正フィルタgと波形データを畳み込み積分するか、又は、周波数領域において両者を乗算することによって、波形データに適用することができる。処理済み波形データは、デジタル・アナログ・コンバータ(DAC)110を用いてアナログ信号に変換される。アナログ信号は、アナログ出力回路115でフィルタ処理される。アナログ出力回路115は、増幅回路、減衰回路、スイッチ、再構成フィルタなどを含んでいても良い。続いて、フィルタ処理アナログ信号は、被測定デバイス(DUT)120に印加される。ここで「単一の非インタリーブ・チャンネル」とは、DAC110からアナログ出力回路115までの1つの信号パスのことを指している。実施形態(図示せず)によっては、DAC110が差動出力信号を供給する。この場合、その2つの出力信号は、複数チャンネルの1対、又は、1つの差動チャンネルと考えても良い。
【0020】
いくつかの実施形態では、補正フィルタgは、次のように計算される。
【0021】
図2を参照すると、チャンネルの出力応答(振幅及び位相)は、サンプリング・オシロスコープのような校正された測定装置で測定される。信号源整合、又は、反射係数は、校正されたタイム・ドメイン・リフレクトメータ(TDR)やネットワーク・アナライザのような測定装置を用いて測定される。これに合わせて、これらは、信号源S21s及びS22sのSパラメータも形成する。今後の分析において明確にするため、これらは、τ及びΓsと夫々記述することにする。
【0022】
【数1】

【0023】
数式1は、AWG100を2ポート回路としてSパラメータで表した式である。このとき、S11s及びS12sは、ゼロである。これは、DACの入力端子は、その性質上、デジタルであるから入力端子に印加されるデジタル・データが反射で戻ってしまうことがなく、また、DACの出力端子に印加されるアナログ信号が入力端子へと通過することはできないからである。また、2ポート回路のSパラメータで周知の如く、τがポート1がポート2への伝達係数を表し、Γsがポート2の反射係数を表す(市川古都美、市川裕一著「高周波回路設計のためのSパラメータ詳解」CQ出版社、2008年1月1日初版、第34頁〜第35頁)。
【0024】
分析を実行するには、DUTの入力反射係数(ΓL)が既知でなければならない。このとき、図2に示すように、a1=asgなので、数式1を展開することにより、応答の等式は、数式2のように記述できる。また、数式3に示すように、a2は、b2にDUTの入力反射係数(ΓL)をかけたものとすることができる。
【0025】
【数2】

【0026】
【数3】

【0027】
数式3を数式2に代入すると、次の結果となる。
【0028】
【数4】

【0029】
2について解くために数式4を変形させると、次の結果となる。
【0030】
【数5】

【0031】
数式5を数式3に代入すると、次の結果となる。
【0032】
【数6】

【0033】
A.校正
【0034】
校正された測定装置は、整合された50オーム信号源からの入力波の位相及び振幅を正しく測定する装置として定義される。その入力端子は、必ずしも整合されている必要はなく、入力反射係数ΓLを有しているとする。同様に、校正されたAWGは、整合された50オーム負荷中に正確な波形を生成できるAWGと定義され、出力反射係数ΓSを有しているとする。この場合、数5は、入力反射係数ΓL及び出力反射係数ΓSが充分に小さいとして、数式7のように簡略化できる。なお、式中のmatchは、整合を意味する。
【0035】
【数7】

【0036】
そして、整合していれば、asとb2の関係は、数式8で示される。
【0037】
【数8】

【0038】
従って、数式7及び数式8から数式9が得られる。
【0039】
【数9】

【0040】
しかし、校正された装置及び信号源を(g=1として)組み合わせると、その測定結果(measは、measuredの略、測定結果を意味する)は,数式5からわかるように、次のようになる。
【0041】
【数10】

【0042】
数式10を変形すると、次のようになる。
【0043】
【数11】

【0044】
数式11を数式9に代入すると、次のようになる。
【0045】
【数12】

【0046】
B.DUTの駆動
【0047】
新しいデバイスを校正された信号源で駆動すると、得られる前進波は、次のように示される。
【0048】
【数13】

【0049】
最後に、DUTの入力反射係数を考慮しなければならない。所望の出力は、asmatchτなので、補正フィルタgは、次のようになる。
【0050】
【数14】

【0051】
このとき、gmatchは、整合した負荷を想定した補正フィルタを表し、ΓLDUTは、DUTの入力反射係数を表し、ΓSは、AWGの出力反射係数を表す。
【0052】
実施形態によっては、整合された50オームの負荷、開放回路、その他の特定のインピーダンスに対し、補正フィルタを組み入れたときに正しく機能するように、補正フィルタが出力応答を補正すべく、DUTの入力反射係数に理想的な計算値が選択される。この補正フィルタは、製造過程で生成されてAWGに記憶され、DUTのSパラメータが利用できないときに使用される。別の実施形態では、DUTの入力反射係数は、ユーザが測定した値であり、この場合、DUTに対して補正フィルタを組み入れたときに正しく機能するように、補正フィルタが出力応答を補正する。
【0053】
先に図示及び説明したAWGは、単一の非インタリーブ・チャンネルだけを有していたが、この同じ校正手法は、インタリーブされた複数のチャンネル(以下、複数のインタリーブ・チャンネルとも言う)を有するAWGの出力応答を改善するためにも利用可能であることが理解できるであろう。つまり、校正時のAWG及び測定装置間並びに使用時のAWG及びDUT間の反射波の相互作用を考慮することによって、インタリーブされたAWGの出力応答を改善できる。この場合、複数のインタリーブ・チャンネルをより高いレートの単一非インタリーブ・チャンネルとして扱い、そして、チャンネル(Γs)と整合する信号源が、詳しくは後述する任意波形発生装置(Snet)と整合する最終的な(正味の:net)信号源と等しいとすることで、上述のように説明した補正フィルタgをそのまま利用できる。
【0054】
C.外部デバイスの追加
【0055】
図3を参照すると、ケーブル、アップ・コンバータなどのような外部デバイス125がAWG100及びDUT120の間で使用される場合、外部デバイス125の出力端子において校正することが、更に望ましいものとなる。この場合、補正フィルタgは、基本的には上述と同じである。これは、外部デバイス125のSパラメータが信号源のパラメータと直列結合(cascaded)された場合、信号源の行列の第1行中の2つのパラメータはゼロであるため、信号源の新しい実効出力のSパラメータの形態は、同じままに維持されるからである。外部デバイス125を伴うことによって変化する信号源のパラメータは、外部デバイスのパラメータと、前面パネル部で既知の基準値を得ているAWG100のパラメータとを用いて、適切な位置で直接測定するか、又は、計算される。
【0056】
図4は、本発明の実施形態による任意波形発生装置のチャンネル校正方法400を示すフローチャートである。ステップ405では、チャンネルの出力応答(伝達係数τ)が測定される。ステップ410では、チャンネルの信号源整合(出力反射係数ΓS)が測定される。ステップ415では、DUTの入力反射係数(ΓL)を決定する。ステップ420では、τ、ΓS及びΓLに基づいて、チャンネルの補正フィルタ(g)が計算される。ステップ405、410及び415は、図示した順番で実行する必要はなく、任意の順番で実行可能である。
【0057】
2.インターリーブされた複数チャンネルの補正
【0058】
多くのAWGでは、複数チャンネルを一緒にしてインターリーブすることによって、より高いサンプル・レートを実現している。しかし、こうする場合、得られる出力応答を補正するのは、いくつかの理由から、一段と難しくなる。第1の理由は、インターリーブされた複数チャンネル夫々の出力応答を整合させるのが難しく、このため、単一の補正フィルタでは完全な補正が難しいからである。第2の理由は、全体の出力応答が、複数の信号源とDUT間の反射はもちろんのこと、複数信号源間の反射にも影響を受けてしまうことである。
【0059】
従って、本発明の実施形態は、任意波形発生装置のインタリーブされた複数チャンネルを校正する方法と、この校正方法によって校正された任意波形発生装置を提供するものであり、これらは、インタリーブされた複数チャンネルの出力応答、校正時のAWG及び測定装置間における反射波の相互作用並びに使用時のAWG及びDUT間における反射波の相互作用、そして、これらの影響が同時に生じる場合をも考慮している。後述する理由により、これら方法は各チャンネルの出力応答を個別に独立に補正し、フル・サンプル・レートの波形にではなく、各DACに入力される低いサンプル・レートの波形に対して補正フィルタを適用する。
【0060】
図5は、本発明の実施形態によるインタリーブされた2つのチャンネルを有するAWG500を示している。AWG500は、AWG100と似ているが、単一のDAC110の代わりとなる2つのDAC510A及び510Bと、合成部530を含む点で異なる。2つのDAC510A及び510Bは、互いに対して180度位相がシフトした2つのクロック信号(図示せず)でクロックされる。動作においては、プロセッサ505が、波形データを第1チャンネル用サンプルと第2チャンネル用サンプルとに分離し、そして、第1チャンネル用サンプルには第1補正フィルタg1を適用し、第2チャンネル用サンプルには第2補正フィルタg2を適用する。g1及びg2は、第1及び第2インタリーブ・チャンネルの出力応答を夫々補正するもので、校正時のAWG500及び測定装置間の反射波の相互作用、使用時のAWG500及びDUT120間の反射波の相互作用も考慮している。DAC510Aは、第1チャンネル用サンプルを第1アナログ信号に変換し、DAC510Bは、第2チャンネル用サンプルを第2アナログ信号に変換する。第1及び第2アナログ信号は、合成部530を用いて単一のアナログ信号に合成される。合成部530は、複数のアナログ信号を合成するのに利用できるものであれば、どのようなデバイスでも良い。得られるアナログ信号は、DAC510A及び510Bのそれぞれのサンプル・レートの2倍のサンプル・レートを有している。AWG100での場合のように、合成アナログ信号は、アナログ出力回路115でフィルタ処理され、DUT120に印加される。ここで「第1インタリーブ・チャンネル」とは、プロセッサ505からDAC510Aを通ってアナログ出力回路115に至る信号パスを指し、また、「第2インタリーブ・チャンネル」とは、プロセッサ505からDAC510Bを通ってアナログ出力回路115に至る信号パスを指している。
【0061】
実施形態によっては、補正フィルタg1及びg2は、次のように説明される。
【0062】
合成部530は、複数のアナログ信号を合成するのに利用できるものであれば、どのようなデバイスでも良い。しかし、以下の説明では、合成部530は、対称性のある抵抗性電力合成器を想定している。そこで、図6を参照すると、合成部530は、3×3のSパラメータ行列で表すことができる(即ち、3ポート回路のSパラメータ)。
【0063】
【数15】

【0064】
行列の表記法では、Sパラメータの等式は、次のように示される。
【0065】
【数16】

【0066】
このとき、B及びAは、次のように定義される。
【0067】
【数17】

【0068】
信号源のパラメータ及び合成部を考慮した出力の解法は、後述の付則で詳しく説明する。
【0069】
【数18】

【0070】
しかし、この手法で難しいのは、この解法では、合成部の内部の2ポートに沿って、各チャンネルの反射及び伝達パラメータを詳細に知る必要があることである。しかし、一度、装置が組み立てられてしまうと、個々のパラメータを直接測定するのは大変難しい。もしこれらが完全に決定できるとしても、応答は出力端子で観測できるだけなので、複雑な校正時測定値と計算を通して行う必要がある。
【0071】
一方、もしAWGを単一出力ポートの観点から考えれば、内部の相互作用の詳細は重要ではなくなる。図7は、この観点で描かれており、このとき、出力波は、各チャンネルから出力端子までの応答の合算であり、DUT120は、出力ポートにおける最終的な単一のポート反射係数と相互に作用する。最終的な3ポートSパラメータ回路の全体には、複数のDAC出力端子、相互接続配線及び合成部が含まれると考えることができる。この単純化によって、数式16及び17は、次のようになる。
【0072】
【数19】

【0073】
【数20】

【0074】
2つの信号源ポートは、理想化される。つまり、信号源及び実効合成部間に反射がないとして、これはS11及びS22がゼロを意味し、また、反射波b'1及びb'2がゼロとして、これは、S12、S13、S21、及びS23が全てゼロということを意味する。従って、
【0075】
【数21】

【0076】
ここでτ1net及びτ2netは、実効合成部を通して測定された2つの信号源の出力応答である。τ1net及びτ2netは、独立に測定される、つまり、DAC510Aの単一の出力応答は、DAC510Bをゼロに設定して測定され、DAC510Bの単一の出力応答は、DAC510Aをゼロに設定して測定される。
【0077】
さて、2つの信号源波と、負荷からの反射a3とに依存するb3についての数式が残る。
【0078】
【数22】

【0079】
【数23】

【0080】
数式23を数式22に代入すると、次の結果となる。
【0081】
【数24】

【0082】
これを変形すると、次となる。
【0083】
【数25】

【0084】
数式25は、出力ポ−トと負荷間の反射によって変化した各チャンネルからの応答の合算である。これは、信号源からの伝達が2つの信号源の合計である点を除けば、単一チャンネルに関する数式5と同一である。
【0085】
A.校正
【0086】
整合された負荷に組み入れる場合、出力信号は、次のようになる。
【0087】
【数26】

【0088】
もし他のDACをゼロに設定して各DACからの出力を独立に測定すると、2つの補正係数は、次のようになる。
【0089】
【数27】

【0090】
【数28】

【0091】
最終的に、校正された信号源の出力は、次のようになる。
【0092】
【数29】

【0093】
B.DUTの駆動
【0094】
単一チャンネルの場合のように、もしDUT反射係数が既知なら、信号源波形をこれに関して補正することができる。この部分の補正は、両方のDACについて同じなので、各DACについて全体のフィルタ中に含めるか、フル・サンプル・レートで始まる波形に適用することができる。
【0095】
【数30】

【0096】
ここで、
【0097】
【数31】

【0098】
従って、補正フィルタg1及びg2は、次のようになる。なお、reflは、reflection(反射)の略である。
【0099】
【数32】

【0100】
【数33】

【0101】
ここで、gmatch1及びgmatch2は、負荷が整合されているとしたときの第1及び第2補正フィルタである。
【0102】
上の説明では、2つのインタリーブ・チャンネルを持つシステムについて2つの補正フィルタを生成することを記述しているが、同様にして、もっと高次のインターリーブを用いるシステムについて、追加の補正フィルタを展開できることが理解できよう。つまり、3つのインタリーブ・チャンネルや4つのインタリーブ・チャンネルなどを有するシステムについて、複数の補正フィルタを生成できる。こうした場合、任意数のインタリーブ・チャンネルの表記を一般化するのに、g1、g2などは、まとめてgnと表記し、τ1net、τ2netなどは、まとめてτnnetと表記する。
【0103】
上述した補正フィルタは、複数のインタリーブ・チャンネルの個々の出力応答と、DUT及び複数信号源間の反射の影響の両方を同時に考慮するものであるが、複数のインタリーブ・チャンネルの個々の出力応答のみを考慮して補正フィルタを生成することもできる。つまり、実施形態によっては、各インタリーブ・チャンネルの出力応答を独立に測定し、測定した1つの出力応答だけに基づき各インタリーブ・チャンネルにつき1個として、複数の補正フィルタを生成することによって任意波形発生装置を補正する。この場合、各補正フィルタは、測定された対応する出力応答の逆特性に等しい。他の実施形態では、DUTの入力反射係数及びAWGの最終的な(正味の:net)信号源整合(出力反射係数)も測定され、これら補正フィルタの精度を改善するのに利用される。
【0104】
図8は、本発明の実施形態による任意波形発生装置の複数のインタリーブ・チャンネルを校正する方法800を示している。ステップ805では、複数のインタリーブ・チャンネルの1つにつき1個として、複数の出力応答(τnnet)が測定される。オプション(必須ではないが)で、ステップ810では、任意波形発生装置の出力ポートの最終的な(正味の:net)信号源整合(Snet)が測定される。オプションで、被試験デバイスの入力反射係数(ΓL)が測定される。ステップ820では、τnnet、Snet及びΓLに基いて、複数のインタリーブ・チャンネルの1つにつき1個として複数の補正フィルタ(gn)が計算される。ステップ805、810及び815は、必ずしも図示した順番で実行する必要はなく、任意の順番で実行可能である。
【0105】
3.差動信号生成に使用する1対のチャンネルを補正
【0106】
場合によっては、2チャンネルで1対を構成し、このチャンネル対を複数使用して複数の差動信号が生成される。このときの各チャンネルは、単一の非インタリーブ・チャンネルであったり、インタリーブされた複数チャンネル(インタリーブ・チャンネル)を1チャンネルとして構成した場合であったりする。これらチャンネルの夫々は、上述した技術を用いて個別に校正される。これに代えて、シングル・エンドのパラメータを差動パラメータに置き換えることにより、上述の技術を用いて、複数のチャンネルから成る複数の対を同時に校正することもできる。つまり、チャンネルのシングル・エンドの出力応答(τ)を、シングル・エンドの非インタリーブ・チャンネルの1対についての差動出力応答で置き換えるか、複数のインタリーブ・チャンネルからなる1対についての差動出力応答で置き換えるということである。
【0107】
上述のように、本発明は、試験測定装置の分野において、大きな利点があることが理解されよう。説明の都合上、本発明の具体的な実施形態を、図示し、説明してきたが、本発明の主旨と範囲から離れることなく、種々の変形が可能なことが理解できよう。
【0108】
付則
【0109】
先に定義したように、合成部は、3ポートSパラメータ行列で表現される。
【0110】
【数34】

【0111】
ここで、B、Aは次のように表される。
【0112】
【数35】

【0113】
2チャンネルと負荷についての反射係数を与えると、Aの各要素は、次のように表される。
【0114】
【数36】

【0115】
【数37】

【0116】
【数38】

【0117】
従って、数式34は、次のように表せる。
【0118】
【数39】

【0119】
ここで、
【0120】
【数40】

【0121】
次に、Bについて解くように変形すると、
【0122】
【数41】

【0123】
【数42】

【0124】
数式42は、(1−SΓ)-1S=Kを用いて、単純な行列式で表すことができる。
【0125】
【数43】

【0126】
そして、その結果、次のようになる。
【0127】
【数44】

【0128】
数式43は、B中の3つ全部の要素について解けるが、関心があるのはb3である。数式40及び43から、b3について解くと、
【0129】
【数45】

【0130】
しかし、a3は、単に次で表される。
【0131】
【数46】

【0132】
これを数式43に代入し、b3について解くことができる。
【0133】
1及びb2は、内部的なもので、as1及びas2が定義されたポートには存在しないので、数式43は完全なSパラメータの式ではない。しかし、これは、最終的な(net)実効Sパラメータ式を記述できることを示唆している。
【符号の説明】
【0134】
100 任意波形発生装置(AWG)
105 プロセッサ
110 DAC
115 アナログ出力回路
120 被測定デバイス(DUT)
125 外部デバイス(ケーブルなど)
500 AWG
510A 第1DAC
510B 第2DAC
530 合成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
任意波形発生装置の複数のインタリーブ・チャンネルを校正する方法であって、
複数のインタリーブ・チャンネル夫々の出力応答(τnnet)を測定するステップと、
上記出力応答(τnnet)に基いて、複数の上記インタリーブ・チャンネル夫々の補正フィルタ(gn)を計算するステップと
を具える任意波形発生装置のインターリーブ・チャンネル校正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−68619(P2013−68619A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−209440(P2012−209440)
【出願日】平成24年9月24日(2012.9.24)
【出願人】(391002340)テクトロニクス・インコーポレイテッド (234)
【氏名又は名称原語表記】TEKTRONIX,INC.
【Fターム(参考)】