説明

伝送モードの変換構造

【課題】 誘電体導波管の内部にTEMモード導波路とモード変換構造を一体に形成し、半導体素子を誘電体導波管内に実装(内蔵)できるモード変換構造を提供する。
【解決手段】 接合面に導体パターンが形成された4枚の誘電体基板11〜14が接合された伝送モードの変換構造において、内側に位置する2枚の薄い誘電体基板間13、14に、一端側に引き出される共面線路を構成する導体ストリップ15が中央側でスロット結合され、他端側に向かってスロットの幅が広げられた第1の導体パターンを具え、2枚の薄い誘電体基板とそれらの外側に配置される厚い誘電体基板との間に、第1の導体パターンの共面線路に対向する位置にアース導体となる第2および第3の導体パターン18、19をそれぞれ具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝送モードの変換構造に係るものである。詳しくは、誘電体導波管の内部に半導体素子を実装するなどのために、誘電体導波管と一体にTEMモードの線路を形成して誘電体導波管の基本モードであるTEモードと結合させる構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
誘電体導波管は低損失で小型の伝送線路であり、共振器、フィルタおよびアンテナ等への応用が検討され、実用化されつつある。誘電体導波管を利用して高周波モジュールを構成する場合、誘電体導波管はTEモード導波路であるのに対して半導体素子等の入出力線路はマイクロストリップやコプレーナ線路等のTEMモード導波路であるので、誘電体導波管で構成されたフィルタ等には配線基板の平面回路との接続構造を設ける必要がある。この接続構造を介することによって同じ配線基板の平面回路に半導体素子とともに搭載し、接続することになる。
【0003】
しかし、この接続構造はプリント配線基板技術を用いたモジュールの構成方法すなわち接続構造となってしまうので、誘電体導波管の低損失性という利点が活かされないことになる。特にミリ波帯においてはプリント配線基板に形成されたマクロストリップ線路やコプレーナ線路の利用は放射損失が増大するという問題がある。誘電体導波管の内部に半導体素子を搭載(内蔵)できれば誘電体導波管の低損失という特性を最大限に活かす高周波モジュールが得られる。
【0004】
そのためには、誘電体導波管の内部にTEMモード導波路とモード変換構造を一体に形成することが必要となるが、これまで誘電体導波管内部に一体に形成されたTEMモード導波路は実用化されていないだけでなく提案もなされていない。
【特許文献1】特開2005−217601号公報
【特許文献2】特開2004−187224号公報
【特許文献3】特開2002−111312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、誘電体導波管の低損失性を活かした小型のモノリシック構造をモジュールを実現するものである。すなわち、誘電体導波管の内部にTEMモード導波路とモード変換構造を一体に形成し、半導体素子を誘電体導波管内に実装(内蔵)できるモード変換構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、誘電体導波管を誘電体基板の接合によって構成し、それらの接合面に形成する導体パターンによってTEM導波路と変換構造を形成することによって、上記の課題を解決するものである。すなわち、接合面に導体パターンが形成された4枚の誘電体基板が接合された伝送モードの変換構造において、内側に位置する2枚の薄い誘電体基板間に、共面線路を構成する導体ストリップがスロット結合され、共面線路の反対側に向かってスロットの幅が広げられた第1の導体パターンを具え、2枚の薄い誘電体基板とそれらの外側に配置される厚い誘電体基板との間に、第1の導体パターンの共面線路に対向する位置にアース導体となる第2および第3の導体パターンをそれぞれ具えたことに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0007】
誘電体導波管内部に形成されたコプレーナ線路状の導波路を伝播するTEMモードは、スロット線路を経て誘電体導波管の基本モードであるTEモードへ変換される。線路は全て誘電体導波管の外部電極に覆われているので、放射損が存在せず、低損失の変換が行なわれる。そして、誘電体導波管の内部にTEMモードの導波路が設けられるため、ここにダイオード、トランジスタおよびMMICなどの半導体素子を搭載することができる。このTEMモード導波路はコプレーナ線路状であるのでフリップチップ実装にも対応している。TEMモードの導波路部分は2つのシールドパターンで挟まれるのでTEMモードのみが伝播可能となるので、複数のモードの混在による特性の劣化を防ぐことができる。
【実施例】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施例について説明する。本発明による伝送モードの変換構造はTEMモードのコプレーナ線路が内蔵された誘電体導波管で、図3に示すように外観は直方体の誘電体ブロック10となる。図1はその誘電体ブロックの分解斜視図で、4枚の誘電体基板11〜14とその間に形成される3つの導体パターン15−17、18、19で構成される。誘電体基板は、外側に位置する2枚の厚い誘電体基板11、12と、内側に位置する2枚の薄い誘電体基板からなり、その接合面に導体パターン15〜19が印刷された後に接合されることによって一体化されてブロック化される。
【0009】
図2は3つの導体パターンの正面図を示すもので、中央に位置する導体パターン15〜17とそれらを両側から挟んで対向する2つの導体パターン18、19の3つの導体パターンが誘電体基板間に形成される。中央に位置する導体パターン15〜17は図の左側にコプレーナ線路を3つの導体パターンで構成している。導体ストリップ15を含む導体パターンと、それを平面的に両側から挟む導体パターン16、17からなる構造を採用している。中央に位置する導体ストリップ15は中央で折り曲げられて一方の外側に引き出されて接合後にはアース導体と接続される。導体パターン18、19は図の左側の導体ストリップ15の位置において両側から導体ストリップ15を挟むように形成されており、導体ストリップ15のなくなる位置から右側では両側近傍にのみ細い導体パターンとして存在している。
【0010】
誘電体基板13、14間の中央の接合部に設けられる導体パターン15〜17は、図の左側ではコプレーナ線路とみなされ、途中でスロット線路に変換される構造とみなすことができる。スロット変換された位置から右側では、誘電体導波管のTEモードと整合を得るためにスロットの幅が段階的に広げられている。他の接合面に設けられた導体パターン18、19は誘電体ブロックを覆うアース導体に接続されており、コプレーナ線路部分を挟んで覆うようにシールドしており、これによってコプレーナ線路部分ではTEMモードのみが伝播可能となっている。誘電体基板の接合面に導体パターンを印刷等によって形成した後に接合することによって内部に導体パターンを具えた誘電体ブロックが形成される。
【0011】
図4は誘電体導波管内部に形成された導波路の断面で見た電界分布の模式図である。(a)はTEMモード、(b)はTEモードを示している。本発明において、図1〜図3で示す左側のコプレーナ線路部分では同軸線路と類似したTEMモードの導波路となり、電界は中心導体から放射状に広がる。それに対して右側の誘電体導波管では中心導体が存在しないので、TEMモードは伝播せず、TEモードの導波路となって電界は垂直方向成分が主体となる。
【0012】
図5は、図4の断面構造においてシールドパターンがない場合とある場合について、一番目と2番目の伝播モードの位相定数を計算した結果を示す。シールドパターンを設けることにより28GHz以下の周波数では高次モードが遮断状態となって1番目のモード(TEMモード)だけが伝播可能となっていることがわかる。
【0013】
また、変換構造の特性を電磁界解析により計算した結果を図6に示す。この計算例では20GHzから26GHzの周波数範囲で、反射損失20dB以上の広帯域な変換特性が得られていることが分かる。これらの計算例では誘電体基板として比誘電率4.5の誘電体材料を用い、中央部2枚の誘電体基板の厚みを0.3mmとし、外側の2枚の誘電体基板の厚みを2.1mmとしているので、結果として誘電体導波管(ブロック)断面の長辺寸法は4.8mmとなっている。なお、短辺寸法は2.5mmとしている。
【0014】
コプレーナ線路状のTEMモード導波路を設けたことにより、誘電体導波管内部にダイオードやトランジスタあるいはMMIC等の半導体素子を実装する(内蔵する)ことができる。図7はチップ状の半導体素子20を実装する例を示したものである。この場合、半導体チップを誘電体導波管の内部に収容できるように誘電体基板の一部をくり抜いた構造を示している。
【0015】
本発明は、上記の例に限られるものではなく、誘電体ブロック内に共面線路、スロット線路および誘電体導波管が一体に形成されるものであれば適用でき、さらに共面線路た誘電体導波管と他の素子や線路を接続することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明によれば、誘電体導波管を高周波モジュールに利用することが可能となり、半導体素子を誘電体導波管内に組み込んだ小型で低損失の高周波モジュールを実現することが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例を示す分解斜視図
【図2】導体パターンの正面図
【図3】本発明の実施例を示す斜視図
【図4】モードの説明図
【図5】位相定数の説明図
【図6】変換特性の説明図
【図7】本発明の他の実施例を示す斜視図
【符号の説明】
【0018】
10:誘電体ブロック
11〜14:誘電体基板
15〜19:導体パターン
20:半導体素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体ブロックの一端側に共面線路が、他端側に誘電体導波管が一体に形成され、共面線路の端部がスロット線路を介して誘電体導波管に結合される伝送モードの変換構造。
【請求項2】
誘電体ブロックの一端側に共面線路が、他端側に誘電体導波管が一体に形成され、共面線路の端部がスロット線路を介して誘電体導波管に結合されることによって、共面線路のTEMモードと誘電体導波管のTEモードを変換できる伝送モードの変換構造。
【請求項3】
接合面に導体パターンが形成された4枚の誘電体基板が接合された伝送モードの変換構造において、
内側に位置する2枚の薄い誘電体基板間に、一端側に引き出される共面線路を構成する導体ストリップが中央側でスロット結合され、他端側に向かってスロットの幅が広げられた第1の導体パターンを具え、
2枚の薄い誘電体基板とそれらの外側に配置される厚い誘電体基板との間に、第1の導体パターンの共面線路に対向する位置にアース導体となる第2および第3の導体パターンをそれぞれ具えたことを特徴とする伝送モードの変換構造。
【請求項4】
誘電体ブロック内に共面線路、スロット線路および誘電体導波管が一体に形成され、共面線路がスロット線路を介して誘電体導波管に結合される伝送モードの変換構造。
【請求項5】
誘電体ブロック内に共面線路、スロット線路および誘電体導波管が一体に形成され、共面線路がスロット線路を介して誘電体導波管に結合されることによって、共面線路のTEMモードと誘電体導波管のTEモードを変換できる伝送モードの変換構造。
【請求項6】
接合面に導体パターンが形成された4枚の誘電体基板が接合された伝送モードの変換構造において、
内側に位置する2枚の薄い誘電体基板間に、共面線路を構成する導体ストリップがスロット結合され、共面線路の反対側に向かってスロットの幅が広げられた第1の導体パターンを具え、
2枚の薄い誘電体基板とそれらの外側に配置される厚い誘電体基板との間に、第1の導体パターンの共面線路に対向する位置にアース導体となる第2および第3の導体パターンをそれぞれ具えたことを特徴とする伝送モードの変換構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−54073(P2008−54073A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228586(P2006−228586)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000003089)東光株式会社 (243)
【Fターム(参考)】