説明

伝送線路型ノイズフィルタ

【課題】高周波数領域まで低インピーダンスを維持できる小型で且つ高性能な伝送線路型ノイズフィルタを提供する。
【解決手段】ノイズフィルタ10は、所定の長さLのタンタル細線1と、タンタル細線1の中央部周囲を被覆するように形成した長さhの導電体層2と、タンタル細線1の両端に接続する第1陽極端子3a及び第2陽極端子bと、導電性接着剤4を用いて導電体層2に接続した陰極端子5と、タンタル細線1と導電体層2の間に設けられた容量形成部6を備える。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ノイズフィルタに関し、特に広帯域で高周波特性に優れた伝送線路型ノイズフィルタに関する。
【0002】
【従来の技術】
デジタル技術はIT(Information Technology)産業を支える重要な技術である。最近ではコンピュータや通信関連機器だけでなく、家庭電化製品や車載用機器にもLSI等のデジタル回路技術が使用されている。
【0003】
LSIなどで発生した高周波電流は、LSI近傍にとどまらず、プリント回路基板等の実装回路基板内の広い範囲に広がり、信号配線やグランド配線に誘導結合し、信号ケーブルなどから電磁波として漏洩する。
従来のアナログ回路の一部をデジタル回路に置き換えた回路や、アナログ入出力をもつデジタル回路など、アナログ回路とデジタル回路が混載される回路では、デジタル回路からアナログ回路への電磁干渉問題が深刻になってきている。
【0004】
この対策には高周波電流の発生源であるLSIを供給電源系から高周波的に分離すること、即ち電源デカップリングの手法が有効である。従来からデカップリング用素子にはバイパスコンデンサなどのノイズフィルタが使用されてきており、電源デカップリングの動作原理は簡単明瞭だが、デジタル回路の高速化に対応できる低インピーダンスのノイズフィルタの開発は大幅に遅れていた。特にコンデンサの自己共振現象のため高周波数領域まで低インピーダンスを維持するのは困難であった。
【0005】
このため、より高速、高周波化されるデジタル回路に対応するためには、高周波数帯域までデカップリングを維持できる、低インピーダンスのノイズフィルタが望まれている。従来の交流回路に用いられるノイズフィルタとしてのコンデンサは、2端子構成の集中定数型ノイズフィルタを構成しており、固体電解コンデンサ及び電気二重層コンデンサやセラミックコンデンサが多く用いられている。
【0006】
これらのコンデンサを用いて交流回路内における電気的ノイズの除去を広い周波数帯域にわたって行う場合には、複数種類のコンデンサ、例えば自己共振振動数が異なるアルミ電解コンデンサ、タンタルコンデンサ、セラミックコンデンサ等の異種のコンデンサを交流回路内に複数備えることによって行われていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のノイズフィルタにおいては、広帯域の周波数の電気的ノイズを除去するために使用する複数のノイズフィルタの選定が煩わしかった。又、異種のノイズフィルタを複数設置するためにコストが高くなるという問題があった。
【0008】
LSIなどの高速化、高周波数化に伴い、発生するノイズは広帯域化、高周波数化している。このようなノイズの除去に必要なノイズフィルタはより高性能なものが求められている。
【0009】
従って、本発明の目的は、高周波数領域まで低インピーダンスを維持できる小型で且つ高性能な伝送線路型ノイズフィルタを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
そのため、本発明による伝送線路型ノイズフィルタは、弁作用金属で形成された所定の長さを有する金属細線と、該金属細線の中央部周囲を被覆する前記弁作用金属の焼結体と、該焼結体の表面に形成された誘電体皮膜と、該誘電体皮膜の表面に形成された固体電解質層と、該固体電解質層の表面に形成された導電体層と、前記金属細線の両端にそれぞれ接続した陽極端子と、前記導電体層に接続した陰極端子を有することを特徴とする。
【0011】
このとき、前記焼結体は、前記弁作用金属の粉末をプレス成形した後、所定の温度で焼結したもの、或いは、前記弁作用金属の粉末を含む泥漿から形成したグリーンシートを、前記金属細線を巻芯として巻回した後、所定の温度で焼結したものとすることができる。又、前記誘電体皮膜は前記弁作用金属の酸化皮膜であるのが好ましい。尚、前記弁作用金属としては、タンタル又はニオブを用いることができる。
【0012】
又、前記固体電解質層は単一或いは複数の導電性高分子化合物層で構成することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
次に、本発明について図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明の伝送線路型ノイズフィルタの一実施形態を示す図で、(a)は模式的な外観斜視図で、(b)は平面図、(c)及び(d)はそれぞれ(a)のA−A’線及びB−B’線に沿った断面図である。又、図2は図1のP部を模式的に拡大した図である。尚、図1(b),(c)及び(d)は、本実施形態のノイズフィルタ10を実装基板50の電極(図示せず)上に載置した状態を模式的に示す図となっている。図1を参照すると、本実施形態のノイズフィルタ10は、所定の長さLの弁作用を有する金属細線であるタンタル細線1と、タンタル細線1の中央部周囲を被覆するように形成した長さhの導電体層2と、タンタル細線1の両端に接続する第1陽極端子3a及び第2陽極端子bと、銀ペースト等の導電性接着剤4を用いて導電体層2に接続した陰極端子5と、タンタル細線1と導電体層2の間に設けられた容量形成部6を備えている。容量形成部6は、図2を参照すると、タンタル細線1の中央部周囲にタンタル細線1と一体化した焼結体となっているタンタル焼結体21の表面を酸化して形成された誘電体皮膜である酸化タンタル皮膜22と、この酸化タンタル皮膜22の表面に形成された固体電解質層23を含み、タンタル焼結体21と固体電解質層23をそれぞれ陽極と陰極とする固体電解容量を形成する。導電体層2は、この固体電解質層23の表面に形成されたグラファイト層25と、グラファイト層25の表面に形成された銀塗料層26を含む。この銀塗料層26に導電性接着剤4を用いて陰極端子5が接続されている。尚、固体電解質層23は、酸化タンタル皮膜22と直に接する第1導電性高分子化合物層24aと、この第1導電性高分子化合物層24aの上に形成された第2導電性高分子化合物層24bの2層で構成されている。
【0015】
尚、導電体層2の長さhや、タンタル細線1の長手方向に直交する導電体層2の断面サイズは、ノイズフィルタの所望の特性に応じて適宜定めればよい。
【0016】
固体電解質層23としては、ピロール、アニリン、チオフェン及びフラン等のような環状有機化合物のモノマー又はその誘導体の重合体を含む導電性高分子化合物を用いることができ、化学酸化重合により酸化タンタル皮膜22の表面に導電性高分子化合物層を形成することができる。又、固体電解質層23を複数、例えば2層の導電性高分子化合物で構成する場合は、前述の導電性高分子化合物の中から選択(同一材料の重複選択も可)して2層構造とすればよい。このとき、少なくとも酸化タンタル皮膜22の表面と直に接する導電性高分子化合物層は化学酸化重合法により形成される。
【0017】
本実施形態のノイズフィルタ10では、タンタル細線1を中心導体、導電体層2を外部導体とする同軸線路型の伝送線路を構成できる。又、この構成はタンタル細線1と陰極端子5との間に周波数特性に優れた極めて大きな容量が付加されるので、広い周波数範囲で特性インピーダンスを低く維持でき、広い周波数範囲で低インピーダンス特性のノイズフィルタを構成できる。
【0018】
次に本実施形態のノイズフィルタ10の製造方法の概略を説明する。
先ず、所定の長さLの直線状のタンタル細線1の長さ方向(以下、第1方向とする)の中央部周囲に多孔質の金属粉体であるタンタル粉末20を例えば図3に示すように金型30で第1方向の長さがhになるようにプレス成形して焼結し、焼結体(図示せず)を準備した後、この焼結体のタンタル21の表面を陽極酸化して酸化タンタル皮膜(誘電体)22を形成する。
【0019】
次に、酸化タンタル皮膜22表面に、固体電解質層23を形成する。具体的には、先ず化学酸化重合により第1導電性高分子化合物層24aとして例えばポリピロール層を酸化タンタル皮膜22の表面に形成し、続いてこの第1導電性高分子化合物層24aの上に第2導電性高分子化合物層24bとして例えば導電性粉末を含むポリピロール層を化学酸化重合或いは電解酸化重合により形成する。
【0020】
次に、陰極側電極を引き出すために、第2導電性高分子化合物層24bの上にグラファイト層25、銀塗料層26を重ねて形成する。この後、露出しているタンタル細線1の一端に第1陽極端子3aを、他端に第2陽極端子3bをそれぞれ溶接し、導電性接着剤4を用いて陰極端子5と銀塗料層26とを接着した後、例えばエポキシ樹脂(図示せず)等で封止、外装してノイズフィルタ10を完成する。
【0021】
尚、焼結体は、図4に示すようにタンタル粉末を含む泥漿から所定の幅hと厚さのグリーンシート28を形成し、所定の長さL(但し、L>hとする)のタンタル細線1を巻芯にしてタンタル細線1の両端部を露出させて中央部に所定回数だけ巻回した後、焼結した焼結巻回体40を用いることもできる。
【0022】
以上説明したように、本発明の伝送線路型ノイズフィルタは、タンタルのような弁作用金属の金属細線からなる中心導体と、中心導体と同じ弁作用金属粉末の焼結体の酸化皮膜からなる誘電体層で低インピーダンスの伝送線路を形成し、広い周波数帯域でノイズ除去性能に優れたノイズフィルタを構成できる。
【0023】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものでなく、その要旨の範囲内で変更可能である。例えば、上記実施形態は弁作用金属としてタンタルを用いた例で説明したが、ニオブ(Nb)を用いることもできる。又、図1では、導電体層2の外形形状が角柱状、即ちタンタル細線1の長手方向に直交する導電体層2の断面が矩形状の場合を示したが、外形形状が円柱状、即ちタンタル細線1の長手方向に直交する導電体層2及び容量形成部6の断面が図5に示すように円形状であってもよい。尚、図5は、導電体層2及び容量形成部6が円柱状の場合の図1(d)に相当する図である。
【0024】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の伝送線路型ノイズフィルタは、小型で且つ高性能なノイズフィルタを実現しており、従来のように自己共振振動数の異なる複数のノイズフィルタを設置することなく、単独で広い周波数帯域のノイズを除去することができるという効果が得られる。
【0025】
従って、高周波数で動作する交流回路の広帯域の周波数の電気的ノイズを除去するために従来のように使用する複数のノイズフィルタを選定したり、異種のノイズフィルタを複数設置する必要が無くなり、交流回路の実現コストを削減できるという効果も得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の伝送線路型ノイズフィルタの一実施形態を示す図で、(a)は模式的な外観斜視図で、(b)は平面図、(c)及び(d)はそれぞれ(a)のA−A’線及びB−B’線に沿った断面図である。
【図2】図1のP部を模式的に拡大した図である。
【図3】本発明の伝送線路型ノイズフィルタの製造方法で、タンタル粉末のプレス成形を用いる際の模式図である。
【図4】本発明の伝送線路型ノイズフィルタの製造方法で、グリーンシートを用いる際の模式図である。
【図5】本発明の伝送線路型ノイズフィルタの陰極の外形形状を円柱状としたときの、図1(d)に相当する模式的な断面図である。
【符号の説明】
1  タンタル細線
2  導電体層
3a  第1陽極端子
3b  第2陽極端子
4  導電性接着剤
5  陰極端子
6  容量形成部
10  ノイズフィルタ
20  タンタル粉末
21  タンタル
22  酸化タンタル皮膜
23  固体電解質層
24a  第1導電性高分子化合物層
24b  第2導電性高分子化合物層
25  グラファイト層
26  銀塗料層
28  グリーンシート
30  金型
40  焼結巻回体
50  実装基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁作用金属で形成された所定の長さを有する金属細線と、該金属細線の中央部周囲を被覆する前記弁作用金属の焼結体と、該焼結体の表面に形成された誘電体皮膜と、該誘電体皮膜の表面に形成された固体電解質層と、該固体電解質層の表面に形成された導電体層と、前記金属細線の両端にそれぞれ接続した陽極端子と、前記導電体層に接続した陰極端子を有することを特徴とする伝送線路型ノイズフィルタ。
【請求項2】
前記焼結体は、前記弁作用金属の粉末をプレス成形した後、所定の温度で焼結したものである請求項1記載の伝送線路型ノイズフィルタ。
【請求項3】
前記焼結体は、前記弁作用金属の粉末を含む泥漿から形成したグリーンシートを、前記金属細線を巻芯として巻回した後、所定の温度で焼結したものである請求項1記載の伝送線路型ノイズフィルタ。
【請求項4】
前記誘電体皮膜は前記弁作用金属の酸化皮膜である請求項1乃至3いずれか1項に記載の伝送線路型ノイズフィルタ。
【請求項5】
前記弁作用金属がタンタル又はニオブである請求項1乃至4いずれか1項に記載の伝送線路型のイズフィルタ。
【請求項6】
前記固体電解質層が導電性高分子化合物層である請求項1乃至6いずれか1項に記載の伝送線路型ノイズフィルタ。
【請求項7】
前記固体電解質層が複数の導電性高分子化合物層からなる請求項1乃至6いずれか1項に記載の伝送線路型ノイズフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2004−7105(P2004−7105A)
【公開日】平成16年1月8日(2004.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−158526(P2002−158526)
【出願日】平成14年5月31日(2002.5.31)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】