説明

伝送装置、伝送システム及び通信制御方法

【課題】時刻同期処理を行なう際、上位レイヤでは、下位レイヤにおいて生じた通信処理遅延を認識できず、時刻誤差を修正することができない場合があるので、時刻同期を高精度に処理できる伝送装置を提供する。
【解決手段】他の伝送装置との通信制御を行なう通信レイヤにおいて、時刻同期処理に用いられるメッセージの通信処理で生じた遅延に関する情報を生成し、通信レイヤよりも上位の時刻同期レイヤにおいて、生成した遅延に関する情報に基づいて他の伝送装置との時刻同期処理を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝送装置、伝送システム及び通信制御方法に関する。前記伝送装置は、例えば、他の伝送装置との間で時刻同期を行なう伝送装置を含む。
【背景技術】
【0002】
ネットワーク上の分散クロックに同期するためのプロトコルとして、例えば、IEEE1588(PTP:Precision Time Protocol)が規定されている(下記非特許文献1)。
PTPでは、時刻の基準となる装置(以下、単に基準装置(Master)ともいう)と、基準装置に従属する装置(以下、単に従属装置(Slave)ともいう)との間で所定のメッセージが送受信され、従属装置は、当該メッセージを用いて基準装置と時刻同期を行なう。
【0003】
例えば、従属装置は、基準装置と従属装置との間の時刻差(Offset)と、ネットワークや装置間のレイテンシを含めた経路による遅延(Delay)とを演算し、各演算結果に基づいてクロックを補正することにより、従属装置の時刻を基準装置の時刻に同期させる。
ここで、PTPによる時刻同期方法の一例を図1に示す。
この図1に例示するように、まず、従属装置は、基準装置から同期メッセージ(Sync)を受信すると、同期メッセージを受信した時点における自局の時刻t2を記憶する(図1中、“Timestamps known by slave”参照)。
【0004】
また、従属装置は、基準装置から補足メッセージ(Follow_Up)を受信すると、基準装置において同期メッセージが送信された時刻t1を当該補足メッセージから抽出して記憶する。なお、補足メッセージはオプションであり、用いられない場合もある。この場合、同期メッセージは、基準装置において同期メッセージが送信された時刻t1を含み、従属装置は、同期メッセージから時刻t1を抽出して記憶する。ここで、時刻t2と時刻t1との差分tms(>0)は、基準装置と従属装置との間の時刻差(Offset)と遅延(Delay)との和(Offset+Delay)に等しい。
【0005】
その後、従属装置は、遅延情報要求メッセージ(Delay_Req)を基準装置に送信する。このとき、従属装置は、遅延情報要求メッセージを送信した時点における自局の時刻t3を記憶する。
基準装置は、従属装置から遅延情報要求メッセージを受信すると、当該遅延情報要求メッセージを受信した時刻t4を含む遅延情報応答メッセージ(Delay_Resp)を生成して、従属装置へ送信する。
【0006】
従属装置は、基準装置から上記遅延情報要求メッセージに対する応答である遅延情報応答メッセージを受信すると、基準装置において遅延情報要求メッセージが受信された時刻t4を当該遅延情報応答メッセージから抽出して記憶する。ここで、時刻t4と時刻t3との差分tsm(>0)は、遅延(Delay)と基準装置と従属装置との間の時刻差(Offset)との差(Delay-Offset)に等しい。
【0007】
従って、基準装置と従属装置との間の時刻差(Offset)は、次式(1)で求められる。
【0008】
【数1】

【0009】
従属装置は、以上のようにして求めた時刻差(Offset)に基づいて、自局の時刻を補正することにより、基準装置と時刻同期を実現する。
なお、下記特許文献1には、例えば、マスターノードからスレーブノードにメッセージを送信する場合とスレーブノードからマスターノードにメッセージを送信する場合とで伝送遅延を一致させることにより、時刻同期を高精度に実行する技術が記載されている。
【0010】
また、下記特許文献2には、例えば、マスタカウンタ及びスレーブカウンタのサンプリング時点としてフレームパルスを使用することにより、IPアクセスを提供する無線ネットワークでクロック同期の高精度化を図る技術が記載されている。
さらに、下記特許文献3には、例えば、スレーブ装置の時計部の時刻補正を、誤差が含まれるオフセットの演算結果を使用して行なわないことにより、時刻同期化を高精度で実現する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−213101号公報
【特許文献2】特開2008−193698号公報
【特許文献3】特開2010−190635号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】IEEE Std 1588,“IEEE Standard for a Precision Clock Synchronization Protocol for Networked Measurement and Control Systems”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
時刻同期処理を行なう際、当該時刻同期処理が行なわれるレイヤ(以下、単に上位レイヤともいう)よりも下位のレイヤ(以下、単に下位レイヤともいう)において、通信処理遅延が発生することがある。
しかしながら、上位レイヤでは、下位レイヤにおいて生じた通信処理遅延を認識しないので、下位レイヤにおいて生じた通信処理遅延に伴う時刻誤差を修正することができず、時刻同期処理を高精度に行なうことができない場合がある。
【0014】
そこで、本発明は、時刻同期をより高精度に行なうことを目的の1つとする。
なお、前記目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本発明の他の目的の一つとして位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)第1の案として、他の伝送装置宛のメッセージを送信する送信部と、前記他の伝送装置からのメッセージを受信する受信部と、前記の各メッセージを用いて時刻同期処理を行なう処理部とをそなえ、該処理部が、前記他の伝送装置との通信制御を行なう通信レイヤにおいて、前記送信部及び前記受信部での前記の各メッセージの通信処理を制御するとともに、前記通信処理における遅延に関する情報を出力する通信処理部と、前記通信レイヤよりも上位の時刻同期レイヤにおいて、前記通信処理部から出力された前記遅延に関する情報に基づいて前記他の伝送装置との前記時刻同期処理を行なう時刻同期処理部とをそなえる、伝送装置を用いることができる。
【0016】
(2)また、第2の案として、基準装置と従属装置との間で時刻同期処理を行なう伝送システムにおいて、前記基準装置及び前記従属装置の少なくともいずれかが、上記の伝送装置である、伝送システムを用いることができる。
(3)さらに、第3の案として、他の伝送装置との通信制御を行なう通信レイヤにおいて、時刻同期処理に用いられるメッセージの通信処理で生じた遅延に関する情報を生成し、前記通信レイヤよりも上位の時刻同期レイヤにおいて、生成した前記遅延に関する情報に基づいて前記他の伝送装置との時刻同期処理を行なう、通信制御方法を用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
時刻同期をより高精度に行なうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】PTPによる時刻同期処理の一例を示す図である。
【図2】メッセージの再送が発生した場合の時刻同期処理の一例を示す図である。
【図3】伝送システムの構成の一例を示す図である。
【図4】図3に示す基準装置の構成の一例を示す図である。
【図5】基準装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【図6】図3に示す従属装置の構成の一例を示す図である。
【図7】従属装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【図8】伝送システムのメッセージシーケンスの一例を示す図である。
【図9】基準装置の他の構成例を示す図である。
【図10】図9に示す基準装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【図11】従属装置の他の構成例を示す図である。
【図12】図11に示す従属装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【図13】伝送システムのメッセージシーケンスの他の一例を示す図である。
【図14】基準装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【図15】従属装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、あくまでも例示に過ぎず、以下に示す各実施形態及び変形例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。即ち、各実施形態及び変形例を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できることはいうまでもない。
〔1〕本例の実施形態の一例について
(1.1)通信処理遅延に伴う時刻誤差について
通信処理遅延としてメッセージの再送による遅延が発生した場合の時刻同期処理の一例を図2に示す。なお、図2では、PTPによる時刻同期処理を例として説明しているが、時刻同期処理のプロトコルをPTPに限定する意図はない。
【0020】
この図2に例示するように、例えば、基準装置から従属装置へ同期メッセージの再送処理が、物理レイヤ(PHY)やMAC(Media Access Control)レイヤなどの通信レイヤ(以下、下位レイヤともいう)で行なわれることがある。なお、当該通信レイヤは、時刻同期処理が行なわれる時刻同期レイヤ(以下、上位レイヤともいう)よりも下位のレイヤである。
【0021】
このような場合、同期メッセージが基準装置で送信されてから従属装置で受信されるまでに、再送回数に応じた遅延(ReTxDelay(>0))が生じる。
しかしながら、従属装置において、時刻同期処理を行なう上位レイヤでは、下位レイヤで生じた上記遅延(ReTxDelay)を認識することができない。このため、従属装置の上位レイヤは、同期メッセージの送信時刻t1,同期メッセージの受信時刻t2,遅延情報要求メッセージの送信時刻t3,遅延情報応答メッセージの受信時刻t4に基づき、
【0022】
【数2】

【0023】
として求めたOffsetを用いて時刻同期処理を実施する。なお、時刻t1〜t4は、0<t1<t2<t3<t4を満たす。
しかしながら、上記再送遅延(ReTxDelay)を考慮した場合の正しいOffsetは、次式(2)で表される。
【0024】
【数3】

【0025】
従って、同期メッセージの再送が1回行なわれた場合に生じる時刻誤差は、ReTxDelay/2となる。
また、図2に示す例では、同期メッセージが1回だけ再送される例を示したが、同期メッセージが複数回再送される場合や、遅延情報要求メッセージ(Delay_Req)などの他のメッセージが1または複数回再送される場合もあり、これらの場合、上記時刻誤差はさらに大きくなる。
【0026】
また、通信処理遅延として、適応符号化変調(AMC:Adaptive Modulation and Coding)を用いた場合の遅延が考えられる。例えば、AMCを用いる無線システムでは、各メッセージ送信時の変調方式及び符号化率が無線伝搬環境に応じて異なることがあり、このような場合、上記時刻誤差の原因となる通信処理遅延が無線伝搬環境に応じて変化する。
具体的には例えば、同一の伝送路上で同サイズの情報を送信するとして、変調方式がQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)且つ符号化率が1/2である場合と、変調方式が16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)且つ符号化率が1/2である場合とを比較すれば、変調方式が16QAMである場合の通信処理遅延は、変調方式がQPSKである場合の通信処理遅延の1/2となる。
【0027】
そこで、本例では、下位レイヤが、メッセージの通信処理遅延に関する情報を、時刻同期処理を行なう上位レイヤに通知するとともに、上位レイヤが、下位レイヤから通信された情報に基づいて時刻同期処理を行なうことで、時刻同期をより高精度に行なう。
(1.2)伝送システムの構成例
本例の伝送システムの構成例を図3に示す。
【0028】
この図3に示す伝送システム1は、例示的に、基準装置2と、従属装置3−1,3−2,3−3とをそなえる。なお、以下では、従属装置3−1,3−2,3−3を区別しない場合、単に従属装置3と表記する。また、従属装置3の数は、図3に例示する数に限定されない。
基準装置2は、従属装置3と無線または有線により接続される伝送装置であって、従属装置3へ時刻同期処理に用いる各種のメッセージを送信したり、従属装置3から時刻同期処理に用いる各種のメッセージを受信したりすることができる。
【0029】
また、従属装置3は、基準装置2と無線または有線により接続される伝送装置であって、基準装置2と上記各種のメッセージをやり取りすることにより、従属装置3における時刻を基準装置2の時刻に同期させることができる。
なお、基準装置2及び従属装置3は、上記各種のメッセージ以外のデータを送受信することもできる。
【0030】
(1.3)基準装置2の構成例
基準装置2の構成例を図4に示す。
この図4に示す基準装置2は、例示的に、基準装置側クロック21と、時刻カウンタ22と、送信部26と、受信部27と、処理部28とをそなえる。
基準装置側クロック21は、クロック信号を発生する。基準装置側クロック21は、例えば、水晶発振子や原子時計などを用いた発振回路を含む。
【0031】
時刻カウンタ22は、基準装置側クロック21で発生されたクロック信号を計数(カウント)することにより時刻情報を生成、出力する。
処理部28は、後述する同期メッセージ及び遅延情報応答メッセージを用いて時刻同期処理を行なう。このため、処理部28は、例示的に、時刻情報生成部23と、遅延情報応答生成部24と、通信制御部25とをそなえる。
【0032】
時刻情報生成部23は、時刻カウンタ22から出力される時刻情報を基準時刻として、基準時刻を通知するための時刻情報の一例である同期メッセージ(Sync)を生成する。同期メッセージには、基準時刻に基づいて算出された、当該同期メッセージの送信時刻が含まれる。なお、同期メッセージの送信時刻の通知に補足メッセージ(Follow_Up)を用いる場合、補足メッセージに同期メッセージの送信時刻が含まれる。
【0033】
通信制御部25は、時刻情報生成部23で生成された同期メッセージや、後述する遅延情報応答生成部24で生成された遅延情報応答メッセージ(Delay_Resp)を従属装置3に送信すべく、これらの情報を送信部26に送出する。
また、通信制御部25は、上記送信した情報が従属装置3で正常に受信されなかった場合に再送制御を行なうこともできる。当該再送制御は、従属装置3からフィードバック送信されるACK(ACKnowledgment)/NACK(Negative ACKnowledgment)に基づいて行なわれる。
【0034】
さらに、従属装置3から送信された遅延情報要求メッセージ(Delay_Req)が受信部27で正常に受信された場合は、ACKを従属装置3に送信する一方、従属装置3からの遅延情報要求メッセージが受信部27で正常に受信されなかった場合は、NACKを従属装置3に送信することもできる。
また、通信制御部25は、例えば、従属装置3から送信されるデータに含まれる、当該データが初回送信された新規データであるのか、再送された再送データであるのかを示す識別子に基づいて、従属装置3から送信された遅延情報要求メッセージを最初に受信してから、再送された遅延情報要求メッセージを正しく受信できるまでの時間を算出することができる。
【0035】
また、通信制御部25は、例えば、上記識別子に基づいて、従属装置3から遅延情報要求メッセージが再送された回数を計数し、当該計数の結果と1回あたりの再送で生じる処理遅延とから上記遅延時間を算出してもよい。
さらに、通信制御部25は、例えば、従属装置3から送信される遅延情報要求メッセージについての変調方式や符号化率などに関する情報に基づいて、遅延情報要求メッセージについての通信処理に要した遅延時間を算出してもよい。
【0036】
これにより、通信制御部25は、下位レイヤで生じた通信処理に起因する遅延時間を算出することが可能となる。
なお、以下では、再送処理に起因する遅延時間や再送回数などの再送処理の状況や、データの変調方式や符号化率などのことを単に受信状態ということがある。
また、通信制御部25は、遅延情報要求メッセージの受信状態を遅延情報応答生成部24に通知し、遅延情報応答メッセージの生成を指示する。
【0037】
なお、基準装置2と従属装置3との間の通信路で変調方式や符号化率を伝搬路環境に応じて適応的に制御できる場合、通信制御部25は、受信部27で測定した受信品質などに応じて、送信部26での変調方式や符号化率を適切に設定し、各種情報の送信を行なうようにしてもよい。
即ち、通信制御部25は、下位レイヤとしての通信レイヤにおける送信部26及び受信部27での各メッセージの通信処理を制御するとともに、通信処理における遅延に関する情報を出力する通信処理部の一例として機能する。
【0038】
送信部26は、通信制御部25の指示に従って,各種情報を従属装置3に送信する。
また、受信部27は、従属装置3から送信された遅延情報要求メッセージを受信したり、従属装置3が基準装置2から送信された各種情報を正常に受信できたかどうかを示すACK/NACKを従属装置3から受信したりする。
例えば、基準装置2と従属装置3とが無線接続される場合、送信部26及び受信部27は、個別または共用のアンテナとして構成され得る。また、例えば、基準装置2と従属装置3とが有線接続される場合、送信部26及び受信部27は、伝送路に応じたコネクタまたは有線インタフェース装置として構成され得る。
【0039】
遅延情報応答生成部24は、従属装置3から遅延情報要求メッセージを受信した時刻を時刻カウンタ22から時刻情報t4として取得するとともに、通信制御部25から遅延情報要求メッセージの受信状態に関する情報(受信状態情報S1)を取得する。
そして、遅延情報応答生成部24は、例えば、時刻情報t4と遅延情報要求メッセージの受信状態情報S1とを用いて、従属装置3から遅延情報要求メッセージを受信した時刻t4から再送処理や変調方式、符号化率などの通信処理に関する遅延を除去する。具体的には例えば、遅延情報応答生成部24は、次式(3)を用いて時刻t4から通信処理に関する遅延を除去することにより時刻t4´(t3<t4´<t4)に補正し、当該補正時刻t4´を含む遅延情報応答メッセージを生成して、通信制御部25に送出する。
【0040】
【数4】

【0041】
上記の式(3)において、D1は受信状態情報S1に応じて決定される遅延時間である。例えば、受信状態情報S1が再送回数の場合、遅延情報応答生成部24は、再送回数に基づいて算出される、再送処理に起因する遅延時間(D1rx)をD1として上記補正に用いることができる。また、受信状態情報S1が変調方式や符号化率に関する情報の場合、遅延情報応答生成部24は、変調方式や符号化率に基づいて算出される、遅延情報要求メッセージについての通信処理に要した遅延時間(D1mcs)をD1として上記補正に用いることができる。
【0042】
例えば、変調方式がQPSK且つ符号化率が1/2であり、伝送速度が100kbpsの伝送路に100Bytesの情報を送信する場合、D1mcsは次式(4)で表される。
【0043】
【数5】

【0044】
また、変調方式が16QAM且つ符号化率が1/2であり、伝送速度が100kbpsの伝送路に100Bytesの情報を送信する場合、D1mcsは次式(5)で表される。
【0045】
【数6】

【0046】
即ち、時刻情報生成部23及び遅延情報応答生成部24は、通信レイヤよりも上位の時刻同期レイヤにおいて、通信制御部25から出力された遅延に関する情報に基づいて従属装置3との時刻同期処理を行なう時刻同期処理部の一例として機能する。
なお、上述した例では、遅延情報応答生成部24が、従属装置3から遅延情報要求メッセージを受信した時刻をt4からt4´に補正したが、例えば、受信状態情報S1を受信時刻情報t4とともに遅延情報応答メッセージに含めて従属装置3に送信し、従属装置3が受信状態情報S1に基づいて、時刻情報t4をt4´に補正してもよい。
【0047】
ここで、基準装置2の動作例を図5に示す。
この図5に例示するように、まず、受信部27は、遅延情報要求メッセージを従属装置3から受信する(ステップS11)。
次に、遅延情報応答生成部24は、通信制御部25から受信状態情報S1を取得し、取得した受信状態情報S1に基づいて遅延時間D1を算出する(ステップS12)。
【0048】
そして、遅延情報応答生成部24は、遅延情報要求メッセージの受信時刻t4を時刻カウンタ22から取得し(ステップS13)、遅延情報要求メッセージの受信時刻をt4´に補正する(ステップS14)。
次いで、遅延情報応答生成部24は、補正後の時刻t4´を含む遅延情報応答メッセージを生成して従属装置3に送信する(ステップS15)。
【0049】
以上のように、本例の基準装置2は、従属装置3から送信された遅延情報要求メッセージについて、当該メッセージの受信時刻から当該メッセージの通信処理に要した遅延時間を除去する補正を行なって、当該補正後の時刻を含んだ遅延情報応答メッセージを従属装置3に送信することができる。
(1.4)従属装置3の構成例
従属装置3の構成例を図6に示す。
【0050】
この図6に示す従属装置3は、例示的に、従属装置側クロック31と、時刻カウンタ32と、送信部36と、受信部37と、処理部38とをそなえる。
従属装置側クロック31は、クロック信号を発生する。従属装置側クロック31は、例えば、水晶発振子や原子時計などを用いた発振回路を含む。
時刻カウンタ32は、従属装置側クロック31で発生されるクロック信号を計数(カウント)する。
【0051】
受信部37は、時刻情報の一例としての同期メッセージや、遅延情報応答メッセージや、基準装置2が従属装置3から送信されたデータを正常に受信したか否かを表すACK/NACKを基準装置2から受信する。
送信部36は、通信制御部35の指示に従って、遅延情報要求メッセージや、基準装置2から送信されたデータを正常に受信したか否かを表すACK/NACKを基準装置2に送信する。
【0052】
例えば、基準装置2と従属装置3とが無線接続される場合、送信部36及び受信部37は、個別または共用のアンテナとして構成され得る。また、例えば、基準装置2と従属装置3とが有線接続される場合、送信部36及び受信部37は、伝送路に応じたコネクタまたは有線インタフェース装置として構成され得る。
処理部38は、同期メッセージ,遅延情報要求メッセージ及び遅延情報応答メッセージを用いて時刻同期処理を行なう。このため、処理部38は、例示的に、情報解析部33と、遅延情報要求生成部34と、通信制御部35とをそなえる。
【0053】
通信制御部35は、遅延情報要求生成部34が生成した遅延情報要求メッセージを基準装置2に送信するために送信部36に送出する。
また、通信制御部35は、基準装置2へ送信した遅延情報要求メッセージが正常に基準装置2で受信されなかった場合に再送制御を行なう。当該再送制御は、受信部37で受信された基準装置3からのACK/NACKに基づいて行なわれる。
【0054】
さらに、基準装置2から送信された同期メッセージや遅延情報応答メッセージが受信部37で正常に受信された場合は、ACKを基準装置2に送信する一方、基準装置2からの同期メッセージや遅延情報応答メッセージが受信部37で正常に受信されなかった場合は、NACKを基準装置2に送信することもできる。
また、通信制御部35は、例えば、基準装置2から送信されるデータに含まれる、当該データが初回送信された新規データであるのか、再送された再送データであるのかを示す識別子に基づいて、基準装置2から送信された同期メッセージを最初に受信してから、再送された同期メッセージを正しく受信できるまでの時間を算出することができる。
【0055】
また、通信制御部35は、例えば、上記識別子に基づいて、基準装置2から同期メッセージが再送された回数を計数し、当該計数の結果と1回あたりの再送で生じる処理遅延とから上記遅延時間を算出してもよい。
さらに、通信制御部35は、例えば、基準装置2から送信される同期メッセージについての変調方式や符号化率などに関する情報に基づいて、同期メッセージについての通信処理に要した遅延時間を算出してもよい。
【0056】
これにより、通信制御部35は、下位レイヤで生じた通信処理に起因する遅延時間を算出することが可能となる。
また、通信制御部35は、上記算出した同期メッセージについての通信処理に要した遅延時間と同期メッセージの受信状態とを情報解析部33に通知する。
なお、基準装置2と従属装置3との間の通信路で変調方式や符号化率を伝搬路環境に応じて適応的に制御できる場合、通信制御部35は、受信部37で測定した受信品質などに応じて、送信部36での変調方式や符号化率を適切に設定し、各種情報の送信を行なうようにしてもよい。
【0057】
即ち、通信制御部35は、下位レイヤとしての通信レイヤにおける送信部36及び受信部37での各メッセージの通信処理を制御するとともに、通信処理における遅延に関する情報を出力する通信処理部の一例として機能する。
遅延情報要求生成部34は、情報解析部33の指示により遅延情報要求メッセージを生成し、生成した遅延情報要求メッセージを基準装置2に送信するため、通信制御部35に転送する。また、遅延情報要求生成部34は、遅延情報要求メッセージを生成した時刻t3を時刻カウンタ32から取得し、取得した時刻t3を情報解析部33に通知する。
【0058】
情報解析部33は、基準装置2から送信された時刻情報t1と、当該時刻情報を受信したときの受信状態情報S2とを通信制御部35より取得するとともに、時刻情報t1の受信時刻t2(t1<t2<t3)を時刻カウンタ32から取得する。
そして、情報解析部33は、基準装置2から時刻情報を受信した場合は、遅延情報要求生成部34に遅延情報要求メッセージを基準装置2へ送信するように指示をするとともに、時刻カウンタ32から当該遅延情報要求メッセージの送信時刻t3の通知を受ける。
【0059】
また、情報解析部33は、基準装置2から遅延情報応答メッセージを受信した場合は、当該遅延情報応答メッセージから遅延情報要求メッセージが基準装置2で受信された時刻t4を取得する。
そして、情報解析部33は、例えば、時刻情報t2と受信状態情報S2とを用いて、基準装置2から同期メッセージを受信した時刻t2から再送処理や変調方式、符号化率などの通信処理に関する遅延を除去する。具体的には例えば、情報解析部33は、次式(6)を用いて時刻t2から通信処理に関する遅延を除去することにより時刻t2´(t1<t2´<t2)に補正する。
【0060】
【数7】

【0061】
上記の式(6)において、D2は受信状態情報S2に応じて決定される遅延時間である。例えば、受信状態情報S2が再送回数の場合、情報解析部33は、再送回数に基づいて算出される、再送処理に起因する遅延時間(D2rx)をD2として上記補正に用いることができる。また、受信状態情報S2が変調方式や符号化率に関する情報の場合、情報解析部33は、変調方式や符号化率に基づいて算出される、遅延情報要求メッセージについての通信処理に要した遅延時間(D2mcs)をD2として上記補正に用いることができる。
【0062】
例えば、変調方式がQPSK且つ符号化率が1/2であり、伝送速度が100kbpsの伝送路に100Bytesの情報を送信する場合、D2mcsは次式(7)で表される。
【0063】
【数8】

【0064】
また、変調方式が16QAM且つ符号化率が1/2であり、伝送速度が100kbpsの伝送路に100Bytesの情報を送信する場合、D2mcsは次式(8)で表される。
【0065】
【数9】

【0066】
そして、情報解析部33は、基準装置2から遅延情報応答メッセージ(t4)を受信した場合、基準装置2の時刻と従属装置3の時刻との差分(オフセット)を次式(9)に基づいて導出し、導出したオフセットを用いて時刻カウンタ32の補正を行なう。
【0067】
【数10】

【0068】
即ち、情報解析部33及び遅延情報要求生成部34は、通信レイヤよりも上位の時刻同期レイヤにおいて、通信制御部35から出力された遅延に関する情報に基づいて基準装置2との時刻同期処理を行なう時刻同期処理部の一例として機能する。
ここで、従属装置3の動作例を図7に示す。
この図7に例示するように、まず、受信部37,通信制御部35及び情報解析部33は、時刻情報t1と受信状態情報S2とを取得する(ステップS21)。
【0069】
次に、情報解析部33は、同期メッセージの受信時刻t2を時刻カウンタ32から取得し(ステップS22)、受信状態情報S2に基づいて、時刻t2をt2´に補正する(ステップS23)。
そして、情報解析部33及び遅延情報要求生成部34は、遅延情報要求メッセージを生成し、通信制御部35及び送信部36に遅延情報要求メッセージの送信を指示する(ステップS24)。
【0070】
また、情報解析部33は、遅延情報要求メッセージの送信時刻t3を時刻カウンタ32から取得する(ステップS25)。
さらに、受信部37,通信制御部35及び情報解析部33は、基準装置2から遅延情報応答メッセージを受信し、時刻t4´を取得する(ステップS26)。
そして、情報解析部33は、時刻t1,時刻t2´,時刻t3及び時刻t4´に基づいて、オフセットを算出する(ステップS27)。
【0071】
以上のように、本例の従属装置3は、基準装置2から送信された同期メッセージについて、当該メッセージの受信時刻から当該メッセージの通信処理に要した遅延時間を除去する補正を行なって、当該補正後の時刻に基づいてオフセットを算出することができる。
そして、従属装置3は、上記算出したオフセットを用いて従属装置3の時刻を補正することにより、基準装置2の時刻に同期させることができるので、時刻同期をより高精度に行なうことができる。
【0072】
上記伝送システム1の動作例を図8に示す。
この図8に例示するように、同期メッセージについての通信処理遅延に関する情報が、従属装置3の下位レイヤから従属装置3の上位レイヤに通知され、当該上位レイヤにおいて、時刻t2から時刻t2´への補正が行なわれる。
また、遅延情報要求メッセージについての通信処理遅延に関する情報が、基準装置2の下位レイヤから基準装置2の上位レイヤに通知され、当該上位レイヤにおいて、時刻t4から時刻t4´への補正が行なわれる。そして、補正後の時刻t4´を含んだ遅延情報応答メッセージが、基準装置2から従属装置3へ送信される。
【0073】
以上のように、上述した例では、各メッセージの受信側が、各メッセージの通信処理に起因して生じた遅延に基づいて各メッセージの受信時刻を補正することにより、時刻同期処理の精度を向上させることを可能とする。
〔2〕本例の実施形態の他の例について
上述した例では、各メッセージの受信側において補正を行なったが、各メッセージの送信側において同様の補正を行なうようにしてもよい。
【0074】
以下、基準装置2の変形例である基準装置2A及び従属装置3の変形例である従属装置3Aの構成例及び動作例について説明する。
(2.1)基準装置2Aの構成例
基準装置2Aの構成例を図9に示す。
この図9に示す基準装置2Aは、例示的に、基準装置側クロック21と、時刻カウンタ22と、送信部26と、受信部27と、処理部28Aとをそなえる。
【0075】
基準装置側クロック21は、クロック信号を発生する。基準装置側クロック21は、例えば、水晶発振子や原子時計などを用いた発振回路を含む。
時刻カウンタ22は、基準装置側クロック21で発生されるクロック信号を計数(カウント)する。
処理部28Aは、同期メッセージ,補足メッセージ及び遅延情報応答メッセージを用いて時刻同期処理を行なう。このため、処理部28Aは、例示的に、同期情報生成部30と、補足情報生成部29と、遅延情報応答生成部24と、通信制御部25とをそなえる。
【0076】
同期情報生成部30は、時刻カウンタ22での計数結果から得られる基準時刻に基づいて、時刻情報の一例である同期メッセージを生成する。
また、補足情報生成部29は、同期情報生成部30で生成された同期メッセージの送信時刻を時刻カウンタ22から取得して、取得した送信時刻を含んだ補足メッセージを生成する。なお、補足メッセージを用いる場合、同期メッセージは、同期メッセージの送信時刻を含んでいなくてもよい。
【0077】
通信制御部25は、同期情報生成部30で生成された同期メッセージや、補足情報生成部29で生成された補足メッセージや、遅延情報応答生成部24で生成された遅延情報応答メッセージを従属装置3Aに送信すべく、これらの情報を送信部26に送出する。
また、通信制御部25は、上記送信した情報が従属装置3Aで正常に受信されなかった場合に再送制御を行なうこともできる。当該再送制御は、従属装置3Aからフィードバック送信されるACK/NACKに基づいて行なわれる。
【0078】
さらに、従属装置3Aから送信された遅延情報要求メッセージが受信部27で正常に受信された場合は、ACKを従属装置3Aに送信する一方、従属装置3Aからの遅延情報要求メッセージが受信部27で正常に受信されなかった場合は、NACKを従属装置3Aに送信することもできる。
また、通信制御部25は、例えば、同期メッセージを最初に送信した時刻から、従属装置3Aで正常に受信される同期メッセージを送信した時刻までの期間を算出することができる。
【0079】
また、通信制御部25は、例えば、同期メッセージの再送回数や従属装置3AからのNACK受信回数を計数し、当該計数の結果と1回あたりの再送で生じる処理遅延とから上記遅延時間を算出してもよい。
さらに、通信制御部25は、例えば、同期メッセージについての変調方式や符号化率などに関する情報に基づいて、同期メッセージについての通信処理に要した遅延時間を算出してもよい。
【0080】
これにより、通信制御部25は、下位レイヤで生じた通信処理に起因する遅延時間を算出することが可能となる。
なお、ここでも、再送処理に起因する遅延時間や再送回数などの再送処理の状況や、データの変調方式や符号化率などのことを単に受信状態ということがある。
また、通信制御部25は、同期メッセージの受信状態を補足情報生成部29に通知し、補足メッセージの生成を指示する。
【0081】
なお、基準装置2Aと従属装置3Aとの間の通信路で変調方式や符号化率を伝搬路環境に応じて適応的に制御できる場合、通信制御部25は、受信部27で測定した受信品質などに応じて、送信部26での変調方式や符号化率を適切に設定し、各種情報の送信を行なうようにしてもよい。
即ち、通信制御部25は、下位レイヤとしての通信レイヤにおける送信部26及び受信部27での各メッセージの通信処理を制御するとともに、通信処理における遅延に関する情報を出力する通信処理部の一例として機能する。
【0082】
送信部26は、通信制御部25の指示に従って,各種情報を従属装置3Aに送信する。
また、受信部27は、従属装置3Aから送信された遅延情報要求メッセージを受信したり、従属装置3Aが基準装置2Aから送信された各種情報を正常に受信できたかどうかを示すACK/NACKを従属装置3から受信したりする。
例えば、基準装置2Aと従属装置3Aとが無線接続される場合、送信部26及び受信部27は、個別または共用のアンテナとして構成され得る。また、例えば、基準装置2Aと従属装置3Aとが有線接続される場合、送信部26及び受信部27は、伝送路に応じたコネクタまたは有線インタフェース装置として構成され得る。
【0083】
遅延情報応答生成部24は、従属装置3Aから遅延情報要求メッセージを受信した時刻を時刻カウンタ22から時刻情報t4として取得する。
ここで、補足情報生成部29は、例えば、通信制御部25から同期メッセージの受信状態に関する情報(受信状態情報S3)を取得する。
そして、補足情報生成部29は、時刻情報t1と同期メッセージの受信状態情報S3とを用いて、補足メッセージに含まれる時刻情報t1から再送処理や変調方式、符号化率などの通信処理に関する遅延を除去する。具体的には例えば、補足情報生成部29は、次式(10)を用いて時刻t1から通信処理に関する遅延を除去することにより時刻t1´(t1<t1´<t2)に補正し、当該補正時刻t1´を含む補足メッセージを生成して、通信制御部25に送出する。
【0084】
【数11】

【0085】
上記の式(10)において、D3は受信状態情報S3に応じて決定される遅延時間である。例えば、受信状態情報S3が再送回数の場合、補足情報生成部29は、再送回数に基づいて算出される、再送処理に起因する遅延時間(D3rx)をD3として上記補正に用いることができる。また、受信状態情報S3が変調方式や符号化率に関する情報の場合、補足情報生成部29は、変調方式や符号化率に基づいて算出される、同期メッセージについての通信処理に要した遅延時間(D3mcs)をD3として上記補正に用いることができる。
【0086】
例えば、変調方式がQPSK且つ符号化率が1/2であり、伝送速度が100kbpsの伝送路に100Bytesの情報を送信する場合、D3mcsは次式(11)で表される。
【0087】
【数12】

【0088】
また、変調方式が16QAM且つ符号化率が1/2であり、伝送速度が100kbpsの伝送路に100Bytesの情報を送信する場合、D3mcsは次式(12)で表される。
【0089】
【数13】

【0090】
即ち、同期情報生成部30,補足情報生成部29及び遅延情報応答生成部24は、通信レイヤよりも上位の時刻同期レイヤにおいて、通信制御部25から出力された遅延に関する情報に基づいて従属装置3Aとの時刻同期処理を行なう時刻同期処理部の一例として機能する。
なお、上述した例では、補足情報生成部29が、同期メッセージの送信時刻をt1からt1´に補正したが、例えば、受信状態情報S3を受信時刻情報t1とともに補足メッセージに含めて従属装置3Aに送信し、従属装置3Aが受信状態情報S3に基づいて、時刻情報t1をt1´に補正してもよい。
【0091】
ここで、基準装置2Aの動作例を図10に示す。
この図10に例示するように、まず、補足情報生成部29は、同期メッセージの送信時刻t1を時刻カウンタ22から取得する(ステップS31)。
次に、補足情報生成部29は、通信制御部25から受信状態情報S3を取得し、取得した受信状態情報S3に基づいて遅延時間D3を算出する(ステップS32)。
【0092】
そして、補足情報生成部29は、算出した遅延時間D3に基づいて、同期メッセージの送信時刻t1をt1´に補正する(ステップS33)。
次いで、補足情報生成部29は、補正後の時刻t1´を含む補足メッセージを生成して従属装置3Aに送信する(ステップS34)。
以上のように、本例の基準装置2Aは、従属装置3A宛の同期メッセージについて、当該メッセージの最初の送信時刻から当該メッセージの通信処理に要した遅延時間を除去する補正を行なって、当該補正後の時刻を含んだ補足メッセージを従属装置3Aに送信することができる。
【0093】
(2.2)従属装置3Aの構成例
従属装置3Aの構成例を図11に示す。
この図11に示す従属装置3Aは、例示的に、従属装置側クロック31と、時刻カウンタ32と、送信部36と、受信部37と、処理部38Aとをそなえる。
従属装置側クロック31は、クロック信号を発生する。従属装置側クロック31は、例えば、水晶発振子や原子時計などを用いた発振回路を含む。
【0094】
時刻カウンタ32は、従属装置側クロック31で発生されるクロック信号を計数(カウント)する。
受信部37は、基準装置3Aから送信された同期メッセージ,補足メッセージ及び遅延情報応答メッセージや、基準装置2Aが従属装置3Aから送信されたデータを正常に受信したか否かを表すACK/NACKを基準装置2Aから受信する。
【0095】
送信部36は、通信制御部35の指示に従って、遅延情報要求メッセージや、基準装置2Aから送信されたデータを正常に受信したか否かを表すACK/NACKを基準装置2Aに送信する。
例えば、基準装置2Aと従属装置3Aとが無線接続される場合、送信部36及び受信部37は、個別または共用のアンテナとして構成され得る。また、例えば、基準装置2Aと従属装置3Aとが有線接続される場合、送信部36及び受信部37は、伝送路に応じたコネクタまたは有線インタフェース装置として構成され得る。
【0096】
処理部38Aは、同期メッセージ,補足メッセージ,遅延情報要求メッセージ及び遅延情報応答メッセージを用いて時刻同期処理を行なう。このため、処理部38Aは、例示的に、情報解析部33Aと、遅延情報要求生成部34と、通信制御部35とをそなえる。
通信制御部35は、遅延情報要求生成部34が生成した遅延情報要求メッセージを基準装置2Aに送信するために送信部36に送出する。
【0097】
また、通信制御部35は、基準装置2Aへ送信した遅延情報要求メッセージが正常に基準装置2Aで受信されなかった場合に再送制御を行なう。当該再送制御は、受信部37で受信された基準装置2AからのACK/NACKに基づいて行なわれる。
さらに、基準装置2Aから送信された同期メッセージや補足メッセージや遅延情報応答メッセージが受信部37で正常に受信された場合は、ACKを基準装置2Aに送信する一方、基準装置2Aからの同期メッセージや補足メッセージや遅延情報応答メッセージが受信部37で正常に受信されなかった場合は、NACKを基準装置2Aに送信することもできる。
【0098】
また、通信制御部35は、例えば、遅延情報要求メッセージを最初に送信した時刻から、基準装置2Aで正常に受信される遅延情報要求メッセージを送信した時刻までの期間を算出することができる。
また、通信制御部35は、例えば、遅延情報要求メッセージの再送回数や基準装置2AからのNACK受信回数を計数し、当該計数の結果と1回あたりの再送で生じる処理遅延とから上記遅延時間を算出してもよい。
【0099】
さらに、通信制御部35は、例えば、遅延情報要求メッセージについての変調方式や符号化率などに関する情報に基づいて、遅延情報要求メッセージについての通信処理に要した遅延時間を算出してもよい。
これにより、通信制御部35は、下位レイヤで生じた通信処理に起因する遅延時間を算出することが可能となる。
【0100】
また、通信制御部35は、上記算出した遅延情報要求メッセージについての通信処理に要した遅延時間と遅延情報要求メッセージの受信状態とを情報解析部33Aに通知する。
なお、基準装置2Aと従属装置3Aとの間の通信路で変調方式や符号化率を伝搬路環境に応じて適応的に制御できる場合、通信制御部35は、受信部37で測定した受信品質などに応じて、送信部36での変調方式や符号化率を適切に設定し、各種情報の送信を行なうようにしてもよい。
【0101】
即ち、通信制御部35は、下位レイヤとしての通信レイヤにおける送信部36及び受信部37での各メッセージの通信処理を制御するとともに、通信処理における遅延に関する情報を出力する通信処理部の一例として機能する。
遅延情報要求生成部34は、情報解析部33Aの指示により遅延情報要求メッセージを生成し、生成した遅延情報要求メッセージを基準装置2Aに送信するため、通信制御部35に転送する。また、遅延情報要求生成部34Aは、遅延情報要求メッセージを生成した時刻t3を時刻カウンタ32から取得し、取得した時刻t3を情報解析部33Aに通知する。
【0102】
情報解析部33Aは、基準装置2Aから送信された補足メッセージに含まれる時刻情報t1´と、当該時刻情報を受信したときの受信状態情報S4とを通信制御部35より取得するとともに、時刻情報t1´の受信時刻t2(t1´<t2<t3)を時刻カウンタ32から取得する。
そして、情報解析部33Aは、基準装置2Aから補足メッセージを受信した場合は、遅延情報要求生成部34に遅延情報要求メッセージを基準装置2Aへ送信するように指示をするとともに、時刻カウンタ32から当該遅延情報要求メッセージの送信時刻t3の通知を受ける。
【0103】
また、情報解析部33Aは、基準装置2Aから遅延情報応答メッセージを受信した場合は、当該遅延情報応答メッセージから遅延情報要求メッセージが基準装置2で受信された時刻t4を取得する。
そして、情報解析部33Aは、例えば、時刻情報t3と遅延情報要求メッセージの受信状態情報S4とを用いて、遅延情報要求メッセージを最初に送信した時刻t3から再送処理や変調方式、符号化率などの通信処理に関する遅延を除去する。具体的には例えば、情報解析部33Aは、次式(13)を用いて時刻t3から通信処理に関する遅延を除去することにより時刻t3´(t3<t3´<t4)に補正する。
【0104】
【数14】

【0105】
上記の式(13)において、D4は受信状態情報S4に応じて決定される遅延時間である。例えば、受信状態情報S4が再送回数の場合、情報解析部33Aは、再送回数に基づいて算出される、再送処理に起因する遅延時間(D4rx)をD4として上記補正に用いることができる。また、受信状態情報S4が変調方式や符号化率に関する情報の場合、情報解析部33Aは、変調方式や符号化率に基づいて算出される、遅延情報要求メッセージについての通信処理に要した遅延時間(D4mcs)をD4として上記補正に用いることができる。
【0106】
例えば、変調方式がQPSK且つ符号化率が1/2であり、伝送速度が100kbpsの伝送路に100Bytesの情報を送信する場合、D4mcsは次式(14)で表される。
【0107】
【数15】

【0108】
また、変調方式が16QAM且つ符号化率が1/2であり、伝送速度が100kbpsの伝送路に100Bytesの情報を送信する場合、D4mcsは次式(15)で表される。
【0109】
【数16】

【0110】
そして、情報解析部33Aは、基準装置2Aから遅延情報応答メッセージ(t4)を受信した場合、基準装置2Aの時刻と従属装置3Aの時刻との差分(オフセット)を次式(16)に基づいて導出し、導出したオフセットを用いて時刻カウンタ32の補正を行なう。
【0111】
【数17】

【0112】
即ち、情報解析部33A及び遅延情報要求生成部34は、通信レイヤよりも上位の時刻同期レイヤにおいて、通信制御部35から出力された遅延に関する情報に基づいて基準装置2Aとの時刻同期処理を行なう時刻同期処理部の一例として機能する。
ここで、従属装置3Aの動作例を図12に示す。
この図12に例示するように、まず、受信部37,通信制御部35及び情報解析部33Aは、基準装置2Aから送信された補足メッセージに含まれる時刻情報t1´を取得する(ステップS41)。
【0113】
次に、情報解析部33Aは、同期メッセージの受信時刻t2を時刻カウンタ32から取得する(ステップS42)。
そして、情報解析部33A及び遅延情報要求生成部34は、遅延情報要求メッセージを生成し、通信制御部35及び送信部36に遅延情報要求メッセージの送信を指示する(ステップS43)。
【0114】
また、情報解析部33Aは、遅延情報要求メッセージの送信時刻t3を時刻カウンタ32から取得する(ステップS44)。
さらに、情報解析部33Aは、通信制御部35から受信状態情報S4を取得し、取得した受信状態情報S4に基づいて、遅延時間D4を算出する(ステップS45)。
そして、情報解析部33Aは、算出した遅延時間D4に基づいて、遅延情報要求メッセージの送信時刻t3を時刻t3´に補正する(ステップS46)。
【0115】
さらに、受信部37,通信制御部35及び情報解析部33Aは、基準装置2Aから遅延情報応答メッセージを受信し、時刻t4を取得する(ステップS47)。
そして、情報解析部33Aは、時刻t1´,時刻t2,時刻t3´及び時刻t4に基づいて、オフセットを算出する(ステップS48)。
以上のように、本例の従属装置3Aは、基準装置2A宛の遅延情報要求メッセージについて、当該メッセージの最初の送信時刻から当該メッセージの通信処理に要した遅延時間を除去する補正を行なって、当該補正後の時刻に基づいてオフセットを算出することができる。
【0116】
そして、従属装置3Aは、上記算出したオフセットを用いて従属装置3Aの時刻を補正することにより、基準装置2Aの時刻に同期させることができるので、時刻同期をより高精度に行なうことができる。
上記伝送システム1の動作例を図13に示す。
この図13に例示するように、同期メッセージについての通信処理遅延に関する情報が、基準装置2Aの下位レイヤから基準装置2Aの上位レイヤに通知され、当該上位レイヤにおいて、時刻t1から時刻t1´への補正が行なわれる。そして、補正後の時刻t1´を含んだ補足メッセージが、基準装置2Aから従属装置3Aへ送信される。
【0117】
また、遅延情報要求メッセージについての通信処理遅延に関する情報が、従属装置3Aの下位レイヤから従属装置3Aの上位レイヤに通知され、当該上位レイヤにおいて、時刻t3から時刻t3´への補正が行なわれる。
以上のように、上述した例では、各メッセージの送信側が、各メッセージの通信処理に起因して生じた遅延に基づいて各メッセージの送信時刻を補正することにより、時刻同期処理の精度を向上させることを可能とする。
【0118】
なお、伝送システム1では、上述の受信側で時刻情報の補正を行なう処理と上述の送信側で時刻情報の補正を行なう処理とを適宜組み合わせて行なうようにしてもよい。
〔3〕ハードウェア構成例について
ここで、図14に基準装置2,2Aのハードウェア構成例を示す。
IF部201は、従属装置3,3Aと通信を行なうためのインタフェース装置であり、無線インタフェースや有線インタフェースを含む。クロック202は、時刻を計数するための装置であり、水晶発振子や、原子時計などを含む。プロセッサ203は、データを処理する装置であり、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)などを含む。メモリ204は、データを記憶する装置であり、例えばROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などを含む。
【0119】
なお、一例として、図4に例示する基準装置2及び図9に例示する基準装置2Aの各構成と図14に例示する各構成との対応関係は、例えば次の通りである。
クロック202は、例えば、基準装置側クロック21に対応する。IF部201は、例えば、送信部26及び受信部27に対応する。プロセッサ203及びメモリ204は、例えば、時刻カウンタ22,時刻情報生成部23,遅延情報応答生成部24,通信制御部25,同期情報生成部30,補足情報生成部29及び処理部28,28Aに対応する。
【0120】
また、図15に従属装置3,3Aのハードウェア構成例を示す。
IF部301は、基準装置2,2Aと通信を行なうためのインタフェース装置であり、無線インタフェースや有線インタフェースを含む。クロック302は、時刻を計数するための装置であり、水晶発振子や、原子時計などを含む。プロセッサ303は、データを処理する装置であり、例えばCPUやDSPなどを含む。メモリ304は、データを記憶する装置であり、例えばROMやRAMなどを含む。
【0121】
なお、一例として、図6に例示する従属装置3及び図11に例示する従属装置3Aの各構成と図15に例示する各構成との対応関係は、例えば次の通りである。
クロック302は、例えば、従属装置側クロック31に対応する。IF部301は、例えば、送信部36及び受信部37に対応する。プロセッサ303及びメモリ304は、例えば、時刻カウンタ32,情報解析部33,33A,遅延情報要求生成部34,通信制御部35及び処理部38,38Aに対応する。
【0122】
〔4〕その他
なお、上述した基準装置2,2A及び従属装置3,3Aの各構成及び各機能は、必要に応じて取捨選択されてもよいし、適宜組み合わせて用いられてもよい。即ち、上述した本発明の機能を発揮できるように、上記の各構成及び各機能は取捨選択されたり、適宜組み合わせて用いられたりしてもよい。
【0123】
例えば、従属装置3,3Aは、次式(17)に基づいてオフセットを算出し、算出したオフセットに基づいて時刻を補正してもよい。
【0124】
【数18】

【0125】
この場合、いずれのメッセージの通信処理時に通信処理遅延が生じた場合であっても、従属装置3,3Aは、当該通信処理遅延を除去した上で時刻を補正することができるので、時刻同期の高精度化を確実に実現することが可能となる。
また、上述した例では、基準装置としての伝送装置と、従属装置としての他の伝送装置との間で本例の時刻同期処理を行なったが、例えば、基準装置と時刻同期した従属装置と、他の従属装置との間で本例の時刻同期処理を行なうようにしてもよい。
【0126】
この場合、基準装置と時刻同期した従属装置は、上述した例における基準装置と同様の構成及び機能を有し、他の従属装置は、上述した例における従属装置と同様の構成及び機能を有する。
【符号の説明】
【0127】
1 伝送システム
2,2A 基準装置
3−1,3−2,3−3,3,3A 従属装置
21 基準装置側クロック
22 時刻カウンタ
23 時刻情報生成部
24 遅延情報応答生成部
25 通信制御部
26 送信部
27 受信部
28,28A 処理部
29 補足情報生成部
30 同期情報生成部
31 従属装置側クロック
32 時刻カウンタ
33,33A 情報解析部
34 遅延情報要求生成部
35通信制御部
36 送信部
37 受信部
38,38A 処理部
201 IF部
202 クロック
203 プロセッサ
204 メモリ
301 IF部
302 クロック
303 プロセッサ
304 メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の伝送装置宛のメッセージを送信する送信部と、
前記他の伝送装置からのメッセージを受信する受信部と、
前記の各メッセージを用いて時刻同期処理を行なう処理部とをそなえ、
該処理部が、
前記他の伝送装置との通信制御を行なう通信レイヤにおいて、前記送信部及び前記受信部での前記の各メッセージの通信処理を制御するとともに、前記通信処理における遅延に関する情報を出力する通信処理部と、
前記通信レイヤよりも上位の時刻同期レイヤにおいて、前記通信処理部から出力された前記遅延に関する情報に基づいて前記他の伝送装置との前記時刻同期処理を行なう時刻同期処理部とをそなえる、
ことを特徴とする、伝送装置。
【請求項2】
前記遅延に関する情報は、前記の各メッセージの変調方式及び符号化率に関する情報を含む、
ことを特徴とする、請求項1記載の伝送装置。
【請求項3】
前記遅延に関する情報は、前記の各メッセージの再送処理遅延に関する情報または前記の各メッセージの再送回数に関する情報を含む、
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の伝送装置。
【請求項4】
前記時刻同期処理は、
前記受信部で受信した前記メッセージの受信時刻から前記通信処理における遅延時間を差し引く処理を含む、
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の伝送装置。
【請求項5】
前記時刻同期処理は、
前記送信部で送信した前記メッセージの送信時刻に前記通信処理における遅延時間を加える処理を含む、
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の伝送装置。
【請求項6】
前記時刻同期処理は、PTP(Precision Time Protocol)による時刻同期処理である、
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の伝送装置。
【請求項7】
基準装置と従属装置との間で時刻同期処理を行なう伝送システムにおいて、
前記基準装置及び前記従属装置の少なくともいずれかが、請求項1〜6のいずれか1項記載の伝送装置である、
ことを特徴とする、伝送システム。
【請求項8】
他の伝送装置との通信制御を行なう通信レイヤにおいて、時刻同期処理に用いられるメッセージの通信処理で生じた遅延に関する情報を生成し、
前記通信レイヤよりも上位の時刻同期レイヤにおいて、生成した前記遅延に関する情報に基づいて前記他の伝送装置との時刻同期処理を行なう、
ことを特徴とする、通信制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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