説明

伸びと穴広げ性に優れた高強度熱延鋼板およびその製造方法

【課題】 高価な元素を含有させることなく、伸びと穴広げ性が優れる高強度熱延鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 質量%で、C:0.03〜0.10%、Mn:0.5〜2.5%、P:0.04%以下、S:0.01%以下、N:0.01%以下を含み、かつSiとAlの添加量の合計が:0.1〜2.5%であり、残部がFe及び不可避的不純物からなり、金属組織が面積率80%以上のフェライトと3〜15%のマルテンサイトを含み、パーライトが3%未満である混合組織であり、板厚の1/4厚における円相当直径3μm以上のマルテンサイト個数密度が5個/10000μm以下であり、さらにR/D>1.0[R:平均マルテンサイト間隔(μm)、D:マルテンサイト平均直径(μm)]を満たすことを特徴とする伸びと穴広げ性に優れた高強度熱延鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸びと穴広げ性に優れた高強度熱延鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な環境意識の高まりから、自動車分野では二酸化炭素排出量の削減や燃費向上が強く求められている。これらの課題に対しては車体の軽量化が極めて有効であり、高強度鋼板の適用による軽量化が押し進められている。現在、自動車の足回り部品には引張強度が440MPa級の熱延鋼板が多く使用されているが、車体軽量化に対応すべく、さらなる高強度鋼板の適用が望まれている。
【0003】
自動車の足回り部材は高い剛性を確保するため、形状が複雑であるものが多い。したがってプレス成形においてはバーリング加工、伸びフランジ加工、伸び加工など複数の加工が施されるため、素材となる熱延鋼板にはこれらに対応した加工性が求められる。一般に、バーリング加工性と伸びフランジ加工性は、穴広げ試験で測定される穴広げ率と相関があり、穴広げ率を高めるための研究が多くなされている。
【0004】
フェライトとマルテンサイトから構成されるDual Phase鋼(以下、DP鋼と表記する。)は高強度ながら伸びに優れるものの、穴広げ性は低い。これはフェライトとマルテンサイトの強度差が大きいために、成形に伴ってマルテンサイト近傍のフェライトに大きな歪、応力集中が発生し、クラックが発生することが理由である。この知見を元に、組織間強度差を低減することで穴広げ率を高めた熱延鋼板が開発されている。
【0005】
特許文献1ではベイナイトまたはベイニティックフェライトを主相として強度を確保し、穴広げ性を大きく向上させた鋼板が提案されている。単一組織鋼とすることで前述したような歪、応力集中が発生せず、高い穴広げ率が得られるというものである。しかしながら、ベイナイトやベイニティックフェライトの単一組織鋼としたことで大きく伸びが劣化し、伸びと穴広げ性の両立を達成することはできていない。
【0006】
近年では単一組織鋼の組織として伸びに優れるフェライトを利用し、Ti、Mo等の炭化物を利用して高強度化を図った鋼板が提案されている(例えば、特許文献2〜4)。しかし特許文献2にて提案された鋼板は多量のMoを含有し、特許文献3にて提案された鋼板は多量のVを含有する。さらに特許文献4にて提案された鋼板は、結晶粒を微細化するため、圧延の途中に冷却することが必要である。そのため合金コストや製造コストが高くなるという問題がある。また、この鋼板においてもフェライト自体を大きく高強度化させたことにより伸びは劣化してしまっている。ベイナイトやベイニティックフェライトの単一組織鋼の伸びは上回るものの、伸びー穴広げ性バランスは必ずしも十分ではなかった。
【0007】
また特許文献5ではDP鋼中のマルテンサイトをベイナイトとし、フェライトとの組織間強度差を小さくすることで穴広げ性を高めた複合組織鋼板が提案されている。しかし、強度を確保するためにベイナイト組織の面積率を高めた結果、伸びが劣化し、伸び−穴広げ性バランスは十分ではなかった。また、特許文献6では、穴拡げ性と成形性を具備するために、焼入れと焼入れ後のマルテンサイトの焼き戻しに加え、焼き入れ前でのフェライト中の固溶C量を制御し、フェライトの優れた延性と、焼き戻しマルテンサイトを用いた強度と穴拡げ性の両立を図った穴拡げ性と成形性に優れた高強度鋼板が開示されているが、さらに伸び−穴広げ性バランスを向上させることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−193190号公報
【特許文献2】特開2003−089848号公報
【特許文献3】特開2007−063668号公報
【特許文献4】特開2004−143518号公報
【特許文献5】特開2004−204326号公報
【特許文献6】特開2007−302918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は高価な元素を含有させることなく、伸びと穴広げ性が優れる高強度熱延鋼板およびその製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、高強度でありながら高い伸びを有するDP鋼の組織構成と伸びおよび穴広げ性の関係について詳細な調査を行い、従来鋼種に対して伸びと穴広げ性を共に向上させる方法について検討した。その結果、マルテンサイトの分散状態を制御することによって、DP鋼の高い伸びを維持したまま穴広げ性を向上させる手法を見出した。すなわちフェライトとマルテンサイトの様に強度差が大きく、一般的に穴広げ性が低いとされるDP組織であっても、マルテンサイトの面積率、平均直径を制御し、式(1)を満たすことで、高い伸びを維持したまま穴広げ性を高めることができることを明らかにした。
【0011】
本発明はこのような知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0012】
(1)質量%で、
C:0.03〜0.10%、
Mn:0.5〜2.5%、
P:0.04%以下、
S:0.01%以下、
N:0.01%以下、
を含み、かつSiとAlの添加量の合計が:0.1〜2.5%であり、残部がFe及び不可避的不純物からなり、金属組織が面積率80%以上のフェライトと3〜15%のマルテンサイトを含み、パーライトが3%未満である混合組織であり、板厚の1/4厚における円相当直径3μm以上のマルテンサイト個数密度が5個/10000μm以下であり、さらに下記式(1)を満たすことを特徴とする伸びと穴広げ性に優れた高強度熱延鋼板。
R/D≧1.0 ・・・式(1)
ここで、R:下記式(2)で規定する平均マルテンサイト間隔(μm)、D:マルテンサイト平均直径(μm)
【0013】
【数1】

・・・式(2)
ここで、V:マルテンサイト面積率(%)、D:マルテンサイト平均直径(μm)
【0014】
(2)さらにNb:0.06%以下、Ti:0.20%以下のいずれか一種または二種を含むことを特徴とする上記(1)に記載の伸びと穴広げ性に優れた高強度熱延鋼板。
【0015】
(3)さらに質量%で、V:0.02〜0.20%、W:0.1〜0.5%、Mo:0.05〜0.40%のいずれか一種または二種以上を含むことを特徴とする上記(1)または(2)に記載の伸びと穴広げ性に優れた高強度熱延鋼板。
【0016】
(4)さらに質量%で、Cr:1.0%以下、Cu:1.2%以下,Ni:0.6%以下、B:0.005%以下のいずれか一種または二種以上を含むことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の伸びと穴広げ性に優れた高強度熱延鋼板。
【0017】
(5)さらに質量%で、REM:0.0005〜0.01%、Ca:0.0005〜0.01%のいずれか一種または二種を含むことを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の伸びと穴広げ性に優れた高強度熱延鋼板。
【0018】
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の化学成分を有するスラブを1150〜1300℃に加熱した後、粗圧延の全ての圧下パスのうち、最終の4パス以上を1000〜1050℃の温度域で行い、かつこの温度域での圧下率の合計が30%以上となるように圧延し、粗圧延終了から60秒以内に仕上げ圧延を開始し、仕上げ圧延終了温度を850〜950℃として圧延を行い、50℃/s以上の冷却速度で600〜750℃の範囲内に冷却し、5〜10秒間空冷した後、20℃/sec以上の冷却速度で冷却し、400℃以下で巻き取ることを特徴とする伸びと穴広げ性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高価な元素を含有させることなく、伸びと穴広げ性が共に優れる高強度熱延鋼板を得ることができ、産業上の貢献が極めて顕著である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】マルテンサイト平均直径(μm)Dとマルテンサイト面積分率V(%)の関係を示す図である。()内はλ値を示す。
【図2】平均マルテンサイト間隔Rをマルテンサイト平均直径Dの二乗で除したR/Dと穴拡げ率(%)との関係を示す図である。
【図3】板厚の1/4厚における円相当直径3μm以上のマルテンサイト個数密度N(個/10000μm)と穴広げ率(λ、%)の関係を示す図である。円相当直径3μm以上のマルテンサイト個数密度(個/10000μm)が5以上だと穴広げ性が低くなることを示している。なおこのグラフにはR/Dが1.0超のデータのみを載せている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
DP鋼は軟質なフェライト中に硬質なマルテンサイトを分散させた鋼板であり、高強度でありながら高い伸びを実現している。しかしながら変形時には、フェライトとマルテンサイトの強度差に起因した歪、応力集中が発生し、延性破壊を引き起こすボイドが生成しやすいため、穴広げ性は非常に低い。しかしながらボイド生成挙動に関する詳細な調査は行われておらず、DP鋼のミクロ組織と延性破壊の関係は必ずしも明確ではなかった。
【0022】
そこで本発明者らは様々な組織構成を有するDP鋼において、組織とボイド生成挙動の関係およびボイド生成挙動と穴広げ性の関係について詳細な調査を行った。その結果、DP鋼の穴広げ性には硬質第二相組織であるマルテンサイトの分散状態が大きく影響していることを明らかにした。さらに式(1)で求められる平均マルテンサイト間隔をマルテンサイトの平均直径の二乗で除した値を1.0以上とすることで、DP鋼のように組織間強度差が大きい組織であっても高い穴広げ性が得られることを見出した。
【0023】
穴広げ加工における亀裂の発生および進展はボイドの生成、成長、連結を素過程とする延性破壊によって引き起こされる。DP鋼の様に強度差の大きな組織においては、硬質なマルテンサイトを起因として高い歪、応力の集中が発生するためボイドが形成されやすく、穴広げ性が低い。
【0024】
しかしながら、組織とボイド生成挙動の関係およびボイド生成挙動と穴広げ性の関係を詳細に調査したところ、硬質第二相であるマルテンサイトの分散状態によっては、ボイドの生成、成長、連結が遅延し、高い穴広げ性が得られる場合があることが明らかになった。
【0025】
具体的にはマルテンサイトサイズの微細化によってボイド生成が遅延することが明らかとなった。これはマルテンサイトが小さくなるとともに、その近傍に形成される歪、応力集中領域が狭くなるためだと考えられる。またマルテンサイトの個数密度や平均直径によって変化するマルテンサイト間の間隔が大きいと、マルテンサイトを起点として形成するボイド間の距離も同時に拡大し、連結しづらくなることを見出した。
【0026】
上記の知見を元に、高い穴広げ性を有するDP組織について検討を行った。その結果、図1に示すように、マルテンサイトの面積率とサイズを一定範囲に制御することで高い穴広げ性が得られることがわかった。
【0027】
さらに図2に示す様に平均マルテンサイト間隔Rをマルテンサイト平均直径Dの二乗で除した下記式(1)を満たす値であるR/Dは、穴拡げ率(%)と明確な相関関係を有していて、R/Dを1.0以上とすることでDP組織であっても高い穴広げ性が得られ、伸びと穴広げ性が優れた熱延鋼板が得られることがわかった。
R/D≧1.0 ・・・式(1)
ここで、R:下記式(2)で規定する平均マルテンサイト間隔(μm)、D:マルテンサイト平均直径(μm)
【0028】
【数2】

・・・式(2)
ここで、V:マルテンサイト面積率(%)、D:マルテンサイト平均直径(μm)
【0029】
式(1)はボイド生成、連結のしづらさを現わしており、マルテンサイトの面積率、平均直径から式(2)により求められる平均マルテンサイト間隔Rをマルテンサイトの平均直径の二乗で除した形になっている。なお、平均は算術平均を意味する。マルテンサイト間の距離が拡大するほどマルテンサイトを起点に生成するボイドが連結しづらくなること、マルテンサイトの微細化によってボイド生成、連結が抑制されることを現わしている。
【0030】
マルテンサイトの微細化によってボイドの連結が抑制される理由は定かではないが、ボイドの成長が大きく遅延することが理由と考えられる。マルテンサイトが小さいと、マルテンサイトを起点に生成するボイドのサイズも微細化する。生成したボイドは成長して連結に至るが、ボイドサイズの微細化とともにボイド表面積/ボイド体積の比が大きくなり、すなわち表面張力が大きくなるためにボイドの成長が遅延するためだと考えられる。
【0031】
しかしながら図3に示すように、式(1)を満たしていても、粗大なマルテンサイトが存在すると、局所的な破壊が進行し、穴広げ性が低くなってしまうことも判明した。これを防ぐためには板厚の1/4厚位置における円相当直径3μm以上のマルテンサイト個数密度を5個/10000μm以下とする必要がある。
【0032】
以下、本発明の鋼板成分について詳細に説明する。なお、成分についての「%」は質量%を意味する。
【0033】
(C:0.03〜0.10%)
Cはマルテンサイトを生成させ、強化に寄与する重要な元素である。マルテンサイトを生成させるためには0.03%以上とする必要がある。しかし0.10%を超えるとマルテンサイトの面積率が高まり、穴広げ性が低下するため、0.10%を上限とする。好ましい範囲は0.04〜0.07%である。
【0034】
(Mn:0.5〜2.5%)
Mnはフェライトの強化および焼き入れ性に関わる重要な元素である。焼き入れ性を高め、マルテンサイトを生成させるためには0.5%以上添加する必要がある。ただし2.5%を超えて添加するとフェライトを十分に生成させることができないため、2.5%を上限とする。好ましい範囲は0.8〜2.0%であり、さらに好ましくは1.0〜1.5%である。
【0035】
(P:0.04%以下)
Pは、不純物元素であり、0.040%を超えると溶接部の脆化が顕著になるため、上限を0.04%以下とする。Pの下限値は特に定めないが、0.0001%未満とすることは、経済的に不利である。
【0036】
(S:0.01%以下)
Sは、不純物元素であり、溶接性、鋳造時及び熱延時の製造性に悪影響を及ぼすことから、上限を0.01%以下とする。また、Sを過剰に含有すると、粗大なMnSを形成し、穴広げ性を低下させることから、穴広げ性向上のためには、含有量を低減することが好ましい。Sの下限値は特に定めないが、0.0001%未満とすることは、経済的に不利であることからこの値を下限値とすることが好ましい。
【0037】
(N:0.01%以下)
Nは、不純物元素であり、含有量が0.01%を超えると、粗大な窒化物を形成し、曲げ性や穴広げ性を劣化させることから、上限を0.01%以下とする。また、Nの含有量が増加すると、溶接時のブローホール発生の原因になることから低減することが好ましい。下限は、少ない方が望ましく特に定めないが、N含有量を0.0005%未満とするには、製造コストが上昇するので、0.0005%以上とすることが好ましい。
【0038】
(Si+Al:0.1〜2.5%)
SiおよびAlはフェライトの強化およびフェライトの生成に関わる重要な元素である。ただしSiとAlの添加量の合計が2.5%を超えるとその効果が飽和し、コストが増大するためこれを上限とする。フェライトを生成させるためには添加量の合計で0.1%以上添加することが必要であるので、Si+Al:0.1〜2.5%としたが、好ましい範囲は0.5〜1.5%であり、さらに好ましくは0.8〜1.3%である。
【0039】
本発明の鋼板に用いる鋼の成分は、以上のような元素を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなるが、さらに下記の元素を添加しても良い。
【0040】
(Nb:0.06%以下、Ti:0.20%以下)
Nb、Tiはフェライトの析出強化に関する元素である。Nbを0.06%を超えて添加するとフェライト変態が大幅に遅延し、伸びが劣化してしまうため0.06%を上限とする。またTiを0.2%を超えて添加するとフェライトが過剰に強化され、高い伸びが得られなくなるため0.2%を上限とする。フェライトを強化するためにはそれぞれNb:0.005%以上、Ti:0.02%以上添加すると良い。好ましい範囲はそれぞれNb:0.01〜0.03%、Ti:0.06〜0.16%であり、さらに好ましくはNb:0.015〜0.025%、Ti:0.08〜0.14%である。
【0041】
(V:0.02〜0.20%、W:0.1〜0.5%、Mo:0.05〜0.40%のいずれか一種または二種以上)
V、Mo、Wは強化に寄与する元素であり、添加しても構わない。高強度化の効果を得るにはそれぞれV:0.02%以上、Mo:0.05%以上、W:0.1%以上添加する必要がある。しかし、添加しすぎると成形性が劣化する場合があるため、V:0.2%、Mo:0.4%、W:0.5%を上限とする。
【0042】
(Cr:1.0%以下、Cu:1.2%以下,Ni:0.6%以下、B:0.005%以下のいずれか一種または二種以上)
更に高強度化のためにCr、Cu、Ni、Bのいずれか一種または二種以上を添加してもよい。高強度化の効果を得るにはそれぞれCr:0.01%以上、Cu:0.1%以上、Ni:0.05%以上、B:0.0001%以上添加する必要がある。しかし、添加し過ぎると成形性の劣化を招く場合があるため、Cr:1.0%、Cu:1.2%、Ni:0.6%、B:0.005%を上限とする。
【0043】
(REM:0.0005〜0.01%、Ca:0.0005〜0.01%のいずれか一種または二種)
更に、介在物の形態を制御するため、REM:0.0005〜0.01%、Ca:0.0005〜0.01%のいずれか一種または二種を添加してもよい。Ca、REMは、酸化物や硫化物の形態の制御に有効な元素であり、好ましい下限値はCa:0.0005%、REM:0.0005%である。一方、過剰に添加すると成形性を損なうことがあるため、好ましい上限はそれぞれ0.01%である。なお本発明において、REMとはLa及びランタノイド系列の元素を指すものであり、ミッシュメタルにて添加されることが多く、LaやCe等の系列の元素を複合で含有する。金属LaやCeを添加してもよい。
【0044】
以下、本発明の組織について詳細に説明する。
フェライトは伸びを確保する上で最も重要な組織である。フェライトの面積率が80%未満では従来のDP鋼が有する高い伸びを実現することができない。しかしフェライト面積率が97%を超えると、マルテンサイトが少なくなるため、マルテンサイトによる強化を活用することができなくなり、その他の手法によって、たとえば析出強化量を高めることで強度を確保すると均一伸びが低下してしまう。
【0045】
マルテンサイトは強度および伸びを確保する上で重要な組織である。マルテンサイトの面積率が3%未満になると、均一伸びを確保することが難しい。また15%を超えると穴広げ性が劣化するため、15%を上限とする。また粗大なマルテンサイトがあると、局所的に破壊が進行し、穴広げ性が低下する。これを抑制するためには平均直径3μm以上のマルテンサイトの個数密度を5個/10000μm以下とする必要がある。
【0046】
パーライトは穴広げ性を劣化させるため、無い方が良い。ただし、面積率3%以下であれば大きく影響しないため、これを上限として許容する。
【0047】
その他の組織としてベイナイトが存在しても良い。ベイナイトは高強度化に寄与する組織であるが、多量に活用して高強度化するとフェライトの面積率が低くなり、高い伸びを達成することができなくなる。したがって本発明においてベイナイトは必須ではなく、面積率0%でも構わない。本発明の熱延鋼板は引張強度630Mpa以上、好ましくは740Mpa以上が得られる。
【0048】
以下、本発明の熱延鋼板の製造方法について説明する。
【0049】
まず常法により鋼を溶製し、鋳造して鋼片を製造する。鋳造は生産性の観点から連続鋳造が好ましい。
【0050】
本発明の成分を有するスラブを圧延前に加熱する。加熱温度が1150℃未満では、粗圧延時の圧延荷重が著しく高まるため生産性を阻害する。上限は特に定めないが、1300℃超にすることは製造コスト上好ましくない。また鋳造したスラブを熱間のまま直送圧延しても良い。析出強化による高強度化効果を得るためにはNb、Ti等の元素を溶体化する必要があるため、1200℃以上に加熱することが好ましい。
【0051】
加熱後、粗圧延を行う。粗圧延の全ての圧下パスのうち、最終の4パス以上を1000〜1050℃範囲内で行い、かつこの温度域の圧下率の合計を30%以上とし、さらに粗圧延の最終パスから60秒以内に仕上げ圧延を開始する。粗大なマルテンサイトを生成させないためには、オーステナイトを微細化することが重要である。これには仕上げ圧延前に繰り返し再結晶させることが効果的だが、1050℃超では再結晶後の粒成長が著しく速いため、細粒効果が小さい。1000℃未満では完全に再結晶しないまま次の圧下が行われ、未再結晶部分と再結晶部分での粒径が不均一となり、その結果平均直径3μm以上のマルテンサイト個数密度が増加する。また合計圧下率が30%未満だと十分に微細化することができない。ただし30%以上の圧延を行っても、圧下パス数が4回未満ではオーステナイト粒径が不均一になり、結果粗大なマルテンサイトが生成する。また、このような粗圧延を行っても、仕上げ圧延開始までに長時間経過すると、粒が粗大化するため60秒以内に仕上げ圧延を開始する必要がある。
【0052】
仕上げ圧延終了温度は850〜950℃とする。950℃を超えると再結晶γ粒径が粗大化するため、フェライトの核生成サイトが減少することで、フェライト変態が大幅に遅延する。一方850℃未満では圧延負荷が大きくなるため、これを下限とする。
【0053】
仕上げ圧延の後、一次冷却を行い、空冷した後、さらに二次冷却を行って、巻き取る。一次冷却速度は50℃/s以上とする。冷却速度が低いとフェライト粒径が粗大化する。マルテンサイトはフェライト変態が進行した残部オーステナイトが変態して得られるものである。フェライト粒径が粗大化すると、残部のマルテンサイトも粗大化してしまう。上限は特に定めないが100℃/sを超える冷却速度とすることは設備コストが過剰になるため好ましくない。
【0054】
一次冷却停止温度は600〜750℃とする。600℃未満では空冷時にフェライト変態を十分に進めることができない。また750℃を超えるとフェライト変態が過剰に進み、その後の冷却時にパーライト変態が起こり、穴広げ性も劣化する。
【0055】
空冷時間は5〜10秒とする。5秒未満ではフェライト変態を十分に進行させることができない。また10秒を超えて空冷すると、パーライト変態が起こり、穴広げ性が劣化するため、空冷時間は5〜10秒とした。
【0056】
二次冷却速度は20℃/s以上とする。20℃/s未満では冷却中にベイナイト変態が過剰に進行し、フェライトの面積率が十分に得られないため、均一伸びが劣化する。上限は特に定めないが100℃/sを超える冷却速度とすることは設備コストが過剰になるため好ましくない。
【0057】
巻取り温度は室温〜400℃とする。400℃を超えるとベイナイト変態が過剰に進行し、マルテンサイトが十分に得られないため均一伸びを確保することができない。好ましい範囲は250℃以下であり、さらに好ましくは100℃以下であり、室温であってもよい。
【実施例】
【0058】
表1に示す化学成分を有する鋼を溶解し、鋳造して得られた鋼片を表2に示す条件で圧延を行った。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
得られた鋼板から試料を採取し、光学顕微鏡を用いて板厚1/4厚における金属組織の観察を行った。試料の調整として、圧延方向の板厚断面を観察面として研磨し、ナイタール試薬、レペラー試薬にてエッチングした。ナイタール試薬にてエッチングした倍率500倍の光学顕微鏡写真から画像解析によりフェライトの面積率、パーライトの面積率を求めた。またレペラー試薬にてエッチングした倍率500倍の光学顕微鏡写真から画像解析によりマルテンサイトの面積率、平均直径を求めた。平均直径とは各マルテンサイト粒の円相当直径を個数平均したものである。ベイナイトの面積率はフェライト、パーライトおよびマルテンサイトの残部として求めた。
【0062】
引張強度(TS)は、板幅方向1/4位置から圧延方向に垂直な方向に採取したJIS Z 2201の5号試験片を用いて、JIS Z 2241に準拠して評価した。伸び(EL)は引張強度(TS)とともに測定した。穴広げ試験は日本鉄鋼連盟規格JFS T 1001−1996記載の試験方法に準拠して評価した。表3に鋼板の組織、機械的特性を示した。表3中において、Vはフェライト、Vはベイナイト、Vはパーライト、Vはマルテンサイトのそれぞれの面積率%である。Dはマルテンサイト平均直径(μm)で、Nは板厚の1/4厚における円相当直径3μm以上の10000μm当りのマルテンサイト個数密度である。
【0063】
【表3】

【0064】
結果について説明する。鋼No.C〜G2、H、J、K、M、N、P、R〜T、V〜W2、X、Z〜AB、AD〜AJは本発明の実施例であり、鋼成分、製造条件および組織が本発明の要件を満たしており、伸びと穴広げ性が共に優れている。一方下記は比較例であり、次に示す理由により効果を得ることができなかった。
【0065】
鋼No.AはMnの添加量が高く、フェライト変態が十分に進まなかったため、フェライト分率が80%未満であり、均一伸びが低い。
【0066】
鋼No.BはNbの添加量が高く、フェライト変態が十分に進まなかったため、フェライト分率が80%未満であり、均一伸びが低い。
【0067】
鋼No.G3は空冷時間が長すぎるため、パーライトが適正範囲を超えて生成しており穴広げ性が低い。
【0068】
鋼No.G4はFTが高すぎるため、フェライト変態が十分に進まず、フェライト分率が80%未満であり、均一伸びが低い。
【0069】
鋼No.G5は空冷時間が短すぎるため、フェライト変態が十分に進まず、フェライト分率が80%未満であり、均一伸びが低い。
【0070】
鋼No.G6は一次冷却速度が遅いため、マルテンサイトの平均直径が大きく、その結果式1を満たさないため、穴広げ性が低い。
【0071】
鋼No.G7、Lは1000〜1050℃での圧下パス数が少ないため、粗大なマルテンサイトの個数密度が高く、穴広げ性が低い。
【0072】
鋼No.G8は1000〜1050℃での圧下率が小さいため、マルテンサイトの平均直径が大きく、その結果式1を満たさないため穴広げ性が低い。
【0073】
鋼No.G9は粗圧延終了から仕上げ圧延開始までの時間が長いため、オーステナイトが粗大化し、マルテンサイトの平均直径が大きく、その結果R/Dが小さくなり、穴広げ性が低い。
【0074】
鋼No.IはCが規定範囲の上限よりも多く添加されており、マルテンサイト面積率が高いため、穴広げ性が低い。
【0075】
鋼No.OはSi+Alの合計添加量が規定範囲の下限に達しておらず、フェライト変態が十分に進まなかったため、均一伸びが低い。
【0076】
鋼No.Qは一次冷却速度が遅いため、マルテンサイトの平均直径が大きく、その結果式1を満たさないため、穴広げ性が低い。
【0077】
鋼No.UはTiが規定範囲の上限よりも多く添加されており、フェライトが過剰に強化されたために均一伸びが低い。
【0078】
鋼No.W3は空冷温度が高すぎるため、パーライトが生成しており、穴広げ性が低い。
【0079】
鋼No.W4はCTが高すぎるため、マルテンサイトをほとんど生成させることができず、均一伸びが低い。
【0080】
鋼No.W5は空冷温度が低すぎるため、フェライト変態が十分に進まず、フェライト分率が80%未満であり、均一伸びが低い。
【0081】
鋼No.W6は二次冷却速度が低いため、ベイナイトが生成し、フェライト分率が80%未満であり、均一伸びが低い。
【0082】
鋼No.YはCの添加量が規定範囲の下限に達しておらず、マルテンサイトの面積率が3%未満となり、均一伸びが低い。
【0083】
鋼No.ACはMnの添加量が規定範囲の下限に達しておらず、マルテンサイトが生成していないため、均一伸びが低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.03〜0.10%、
Mn:0.5〜2.5%、
P:0.04%以下、
S:0.01%以下、
N:0.01%以下、
を含み、
かつSiとAlの添加量の合計が:0.1〜2.5%であり、
残部がFe及び不可避的不純物からなり、金属組織が面積率80%以上のフェライトと3〜15%のマルテンサイトを含み、パーライトが3%未満である混合組織であり、板厚の1/4厚における円相当直径3μm以上のマルテンサイト個数密度が5個/10000μm以下であり、さらに下記式(1)を満たすことを特徴とする伸びと穴広げ性に優れた高強度熱延鋼板。
R/D≧1.0 ・・・式(1)
ここで、R:下記式(2)で規定する平均マルテンサイト間隔(μm)、D:マルテンサイト平均直径(μm)
【数1】

・・・式(2)
ここで、V:マルテンサイト面積率(%)、D:マルテンサイト平均直径(μm)
【請求項2】
さらに質量%で、
Nb:0.06%以下、
Ti:0.20%以下
のいずれか一種または二種を含むことを特徴とする請求項1に記載の伸びと穴広げ性に優れた高強度熱延鋼板。
【請求項3】
さらに質量%で、
V:0.02〜0.20%、
W:0.1〜0.5%、
Mo:0.05〜0.40%
のいずれか一種または二種以上を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の伸びと穴広げ性に優れた高強度熱延鋼板。
【請求項4】
さらに質量%で、
Cr:1.0%以下、
Cu:1.2%以下、
Ni:0.6%以下、
B:0.005%以下
のいずれか一種または二種以上を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の伸びと穴広げ性に優れた高強度熱延鋼板。
【請求項5】
さらに質量%で、
REM:0.0005〜0.01%、
Ca:0.0005〜0.01%の
いずれか一種または二種を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の伸びと穴広げ性に優れた高強度熱延鋼板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の化学成分を有するスラブを1150〜1300℃に加熱した後、粗圧延の全ての圧下パスのうち、最終の4パス以上を1000〜1050℃の温度域で行い、かつこの温度域での圧下率の合計が30%以上となるように圧延し、粗圧延終了から60秒以内に仕上げ圧延を開始し、仕上げ圧延終了温度を850〜950℃として圧延を行い、50℃/s以上の冷却速度で600〜750℃の範囲内に冷却し、5〜10秒間空冷した後、20℃/sec以上の冷却速度で冷却し、400℃以下で巻き取ることを特徴とする伸びと穴広げ性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−19048(P2013−19048A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−133652(P2012−133652)
【出願日】平成24年6月13日(2012.6.13)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】