説明

伸線前鋼線及びその潤滑下地処理方法

【課題】 伸線前鋼線の表面に燐酸亜鉛被膜を形成し、防錆剤として消石灰をその上層に用いる事により、伸線性を低下させることなく、伸線後の潤滑剤の残留量を低減する事。
【解決手段】 表面に燐酸亜鉛被膜を付着させ、その上に防錆剤を塗着してある伸線前鋼線において、燐酸亜鉛被膜の付着量が5〜9g/m2で、燐酸亜鉛の結晶粒径平均が150μm以下であることを特徴とする伸線前鋼線。また、防錆剤としての消石灰が0.5〜2.0g/m2塗着されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は伸線性を低下させることなく、伸線後の防錆剤および燐酸亜鉛被膜残留量を低減できる伸線前鋼線及びその潤滑下地処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、伸線前鋼線は、熱間圧延によって製造された鋼線に燐酸塩処理等の潤滑下地処理を施し、消石灰等の防錆剤を塗着して、二次加工メーカに出荷されている。そして、伸線前鋼線を購入した二次加工メーカでは、潤滑剤(カルシウム系乾式潤滑剤等)を塗布して伸線加工を施すことによって所定の用途に用いる鋼線に加工されている。潤滑下地処理及び潤滑剤の塗着を行うのは、伸線時に鋼線内に発生する応力を低減して加工性の向上を図ると共に、ダイス等の工具の摩耗を防止して工具寿命を延長させることを目的として行われている。
【0003】
このため、従来は、塗着する潤滑剤の保持能力を大きくするための潤滑下地処理を行うことで、十分な潤滑効果を得るようにしていた。
【0004】
例えば、潤滑下地処理である燐酸亜鉛被膜の付着量を増大させると共に、被膜となる燐酸亜鉛の結晶を微細針状化して表面積を増大させ、潤滑剤の保持量を向上させる方法がある。この方法は、燐酸亜鉛処理溶液中に、Cu2+イオン20〜100mg/lおよびNi2+イオン40〜100mg/lのいずれか一方あるいは両方を添加した溶液を用いて処理する事を特徴としている。しかしこの方法ではリン酸亜鉛処理溶液中に銅やニッケルイオンを導入する必要があり、経済的ではない。
【0005】
従来、伸線した鋼線や鋼撚線等の鋼線材料は一般的に高強度、高剛性といった特性を有するために、ビードワイヤーとして広く使用されている。
ところが、乾式潤滑剤により伸線した鋼線材料をビードワイヤに適用する場合、残留した燐酸亜鉛被膜、乾式潤滑剤が、伸線後のブルーイング処理でも残留し、引き続き実施する例えばブロンズめっき工程でのメッキ付着性の劣化に結びつく。
ビードワイヤ表面のブロンズメッキ中の銅はタイヤゴム中の硫黄と反応して、鋼線材料とゴムの付着性を確保しているため、めっき付着性の悪化は、最悪の場合、鋼線材料がタイヤゴムから走行中に剥離する事を意味し、極めて危険である。そこで、特に、ビードワイヤでは、伸線性に支障がなく、伸線後の線材表面の残留物を大幅に減少させるビードワイヤの製造方法が開示されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この技術は、鋼線素材を燐酸亜鉛被覆処理後に、カルシウム系石鹸を主成分とする乾式潤滑剤を用いて伸線すると、伸線性は非常に良いが、線表面に多量の残留物が存在すること、また、ナトリウム系石鹸を主成分とする乾式潤滑剤を用いて伸線すると、伸線性は悪いが、線表面に残留物が殆ど残留しないことに着目して、両者の乾式潤滑剤を併用することを特徴とするものである。
【0007】
ところが、2種類の潤滑剤を併用して、伸線後の線材表面の潤滑剤残留物を減少させているので、潤滑剤を使い分けしなければならないという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開平6−182433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、上記現状に鑑み、伸線前鋼線の表面に特定の燐酸亜鉛被膜を形成し、防錆剤として消石灰をその上層に用いる事により、伸線性を低下させることなく、伸線後の潤滑剤の残留量を低減する事を課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、消石灰を鋼線の防錆剤として使用しても、伸線性を低下させることなく伸線でき、伸線後の鋼線表面の潤滑成分残留量を低減させた伸線前鋼線について鋭意研究を行った。その結果、伸線前鋼線の表面に形成する燐酸亜鉛被膜の結晶の大きさを150μm以下にして、被膜性状を緻密にすると、伸線性やダイス寿命を低下させずに伸線後の潤滑剤残留量を低く抑えることができることを見い出して本発明を完成した。
【0011】
本発明の要旨は、次の通りである。
【0012】
(1) 表面に燐酸亜鉛被膜を付着させ、その上に防錆剤を塗着してある伸線前鋼線において、燐酸亜鉛被膜の付着量が5〜9g/m2で、燐酸亜鉛の結晶粒径平均が150μm以下である伸線前鋼線。
【0013】
(2) 防錆剤としての消石灰が0.5〜2.0g/m2塗着されていることを特徴とする上記(1)に記載の伸線前鋼線。
【0014】
(3) 鋼線にZn2+:PO43-が1:2.4〜1:4で、かつ全酸度/遊離酸度が4.0〜5.0である燐酸亜鉛処理液を用いて、燐酸亜鉛被膜処理を施し、次いで、消石灰の水溶液を塗着し、乾燥することを特徴とする伸線前鋼線の潤滑下地処理方法。
【0015】
(4) 燐酸亜鉛処理液が、さらにFe2+を5g/l以下含有することを特徴とする上記(3)に記載の伸線前鋼線の潤滑下地処理方法。
【0016】
(5) 燐酸亜鉛処理液への浸漬時間が3〜5分で、処理液の温度が65〜80℃であることを特徴とする上記(3)または(4)に記載の伸線前鋼線の潤滑下地処理方法。
【0017】
(6) 消石灰の水溶液濃度が5〜10質量%で乾燥温度が100〜150℃であることを特徴とする上記(3)に記載の伸線前鋼線の潤滑下地処理方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、鋼線の伸線性(焼きつき、ビビリ)やダイス寿命を落とさずに、伸線
【0019】
後の鋼線表面での潤滑剤残留量を低く抑えることができる。また本発明の伸線鋼線をタイヤ用のビードワイヤに適用する場合には、潤滑剤の残留量が少ないのでメッキ性が改善され、ゴム密着性が良好となる。その結果タイヤの耐用寿命を長くすることができる。
【0020】
また、伸線前鋼線表面に塗着した消石灰は防錆能があるので、伸線前鋼線の輸送時の防錆処理が容易となる等の顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
伸線加工用鋼線は熱間圧延によって製造され、伸線加工に適した潤滑下地処理をして、線材コイルの形態で二次加工メーカに出荷されている。線材コイルは、二次加工メーカへ輸送されるが、輸送の途中には錆を発生するので、防錆処理を行うことが必要とされる。
【0023】
本発明者は、防錆剤として鋼線表面に塗着する消石灰が潤滑剤としての作用も有し、カルシウム系石鹸やナトリウム系石鹸またはステアリン酸カルシウムなどの伸線加工用潤滑剤との相性も良いことに着目した。また伸線性やダイス寿命を落とさずに、伸線後の鋼線表面に付着した潤滑剤残留量を低く抑えることができる伸線前鋼線の燐酸亜鉛被膜について鋭意研究を行った。
【0024】
燐酸亜鉛処理後に消石灰を塗布する本願の潤滑下地処理は、以下の点で新規なものである。従来は燐酸亜鉛被膜に多量の潤滑剤が保持されているほうが潤滑性が高く、伸線性が良いと評価されていた。
【0025】
このため、燐酸亜鉛被膜を厚くし、かつ燐酸亜鉛の結晶粒を大きくして、被膜の表面にひだ状の大きな凹凸を形成し、潤滑剤を保持するようにしていた。ところが、このような凹凸に保持された潤滑剤は、鋼線の伸線加工時に被膜中にかみ込み脱落しないで伸線加工後の鋼線表面に多く残留する。
【0026】
本発明者は必要以上の潤滑剤を伸線加工後に残留させないようにするには、燐酸亜鉛の被膜を薄くし、かつ結晶粒を微細化して潤滑剤が被膜中にかみ込まれないようにすることが重要であることを見出した。
【0027】
従来の燐酸亜鉛処理液は、一般にZn2+:PO43-が1:1.2〜1:1.5となっている。即ち、Znイオンの含有量を多くすることにより燐酸塩被膜を充分に付けることを行っていた。このため被膜が厚く、そして、被膜の結晶粒も大きくなっていて、潤滑剤を多く保持するようにしていた。
【0028】
本発明では、燐酸塩処理液中のZn2+:PO43-を1:2.4〜1:4とし、エッチング作用のあるPO43-含有量を多くして、かつ、全酸度/遊離酸度を4.0〜5.0に制御することにより、付着量5〜9g/m2の薄い燐酸亜鉛被膜を形成する。またこのとき形成させる被膜の結晶粒径平均は150μm以下にしている。本願における結晶粒径平均の測定法は倍率100倍のSEM像(走査電子顕微鏡像)(視野面積700μm×550μm)内にある結晶数をカウントして結晶1個あたりの面積を計算により求めた。結晶を円と見なして1個当り面積から直径を逆算して、これを結晶粒径平均とした。
SEM像における結晶数は、菊華状の燐酸亜鉛結晶の中心の個数をカウントした。
燐酸亜鉛処理は、燐酸亜鉛水溶液の浴中に鋼線を浸漬することによって行うのが一般的だが、他の方法を用いても良い。燐酸亜鉛浴に鋼線を浸漬して燐酸亜鉛処理するには、浴中の浸漬時間を3〜5分とする。3分以下の場合は線材コイルの密集部分で付着不良が発生しやすくなり、5分を越えると被膜の厚みにバラツキが生じやすくなるので良くない。処理液の温度は65〜80℃とした。80℃超では結晶成長が促進され微細結晶と成りにくい。65℃未満では被膜の形成速度が遅く非効率である。燐酸亜鉛処理後の鋼線は、アルカリ性水溶液(PH:12〜14)で洗浄して消石灰の塗布を行う。アルカリ洗浄を行うことにより鋼線表面に残留した酸が鋼線の表面性状に悪影響を及ぼさないようにする。また消石灰塗布後は、熱風等で乾燥温度100〜150℃で乾燥する。
【0029】
燐酸亜鉛処理液中にFe2+を含有させると、被膜形成能が向上する。Fe2+含有量の上限は5g/lで、これ以上含有させても効果が飽和し、かえって不純物として被膜中にFeが含有され好ましくない。したがって、本発明ではFe2+含有量を5g/l以下とした。
【0030】
なお、本発明において、全酸度とはサンプル液10mLをホールピペットを用いて採取し、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液により、pHが8.3になるまで滴定し、これに要した上記水酸化ナトリウム水溶液の容量のことである。また遊離酸度とはサンプル液10mLをホールピペットを用いて採取し、0.1規定水酸化ナトリウム水溶液により、pHが3.8になるまで滴定し、これに要した上記水酸化ナトリウム水溶液の容量のことである。
【0031】
Zn2+:PO43-の比が1:2.4未満となると、形成される被膜が厚くて、大きな結晶粒径となり、付着量9g/m2以下で結晶粒径平均150μm以下の薄層被膜が得られない。一方、この比が1:4を超えると、エッチング成分であるPO43-が多くなりすぎて付着量5g/m2以上の被膜が得られず、鋼線表面に被膜が形成されない部分が存在するようになり、潤滑効果が劣化するので好ましくない。
【0032】
そして、付着量5〜9g/m2の燐酸亜鉛被膜は、鋼線表面全体にむら無く2μm程度の被膜厚さで付着していなければ、良好な伸線性を確保することができない。
【0033】
また、燐酸亜鉛処理液の全酸度/遊離酸度(酸比)が4.0未満となるとエッチング成分が多くなって、付着量5g/m2以上の被膜が得られず、一方、酸比が5.0を超えるとエッチング不足となり、被膜形成に長時間を要するため製造コストの上昇を招き好ましくない。したがって、本発明では燐酸亜鉛処理液の全酸度/遊離酸度を4.0〜5.0とした。なお、酸比の調整は、燐酸、硝酸等の酸あるいは炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリを添加することによって行うことができる。
【0034】
燐酸亜鉛被膜の付着量が5〜9g/m2の鋼線は、輸送、保管中に錆びが発生して支障が生じる場合がある。本発明では防錆性を向上させるために消石灰の水溶液を燐酸亜鉛被膜上に塗布し乾燥する。消石灰は潤滑性も有しており、伸線加工時にも障害を生じない。
【0035】
消石灰は、防錆性を確保するために 0.5〜2.0g/m2塗着させる必要がある。燐酸亜鉛被膜上に消石灰を塗着するには、消石灰の濃度が5〜10%の水溶液を鋼線表面に塗布し、乾燥温度100〜150℃で乾燥する。伸線前鋼線は十分に乾燥しなければならない。
【0036】
消石灰の濃度を5〜10%としたのは、5%以下では防錆効果が不足し、10%以上では伸線後に鋼線表面に残留してメッキ処理段階で悪影響を及ぼすからである。
【0037】
乾燥温度を100〜150℃としたのは、100℃以下では乾燥速度が遅くなって効率的ではなく、150℃より高温にするとリン酸亜鉛結晶結晶が焼けて剥離するなどの障害が発生する。
【0038】
本発明の伸線前鋼線を伸線加工すると、薄い燐酸亜鉛被膜は圧着されて高密度の状態で鋼線表面に付着するが、燐酸亜鉛の結晶粒径が150μm以下と表面凹凸が小さい微細結晶であるため、潤滑剤であるカルシウム系乾式潤滑剤が伸線時に燐酸亜鉛被膜に殆どかみ込まれない。伸線加工終了時にはカルシウム系乾式潤滑剤は、伸線鋼線から脱落して表面にほとんど残留しないため、潤滑剤と燐酸亜鉛被膜の残存合計量は1.5g/m2以下となる。
【0039】
図1は、被膜の付着量と伸線加工後に残留する燐酸亜鉛、消石灰等の残存量との関係を示す図である。
【0040】
図1に示すように、燐酸亜鉛と消石灰の被膜の合計付着量を11g/m以下、特に5.5〜9.5g/m2の範囲とすることにより、伸線後の潤滑剤残留量(被膜と消石灰等の合計量)を1.5g/m2以下にすることができた。
潤滑剤残留量が1.5g/m2以下となれば、ビードワイヤでのめっき不良の発生はなく、タイヤゴムとの密着性にも悪影響を与えない。
【0041】
図2は、燐酸亜鉛の結晶粒径と、伸線加工後に残留する燐酸亜鉛、消石灰等の残存量との関係を示す図である。
【0042】
図2に示すように燐酸亜鉛の結晶粒径を150μm以下とすることにより、伸線後の潤滑剤残留量(被膜と消石灰等の合計量)を1.5g/m2以下にすることができた。したがって、本発明では燐酸亜鉛の結晶粒径を150μm以下とした。なお、燐酸亜鉛の結晶粒径は小さい方が燐酸亜鉛と消石灰の残量を低くするのに望ましいが、実操業上からその下限(例えば30μm)を定めるのが好ましい。
【0043】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
以下の実施例は本発明の一部であり、本発明は以下の実施例に限定されない。
【実施例1】
【0044】
硬鋼線材(SWRH)7.0mmΦを供試材とし、酸洗後、リン酸亜鉛被膜処理を実施した。Zn2+:PO43-を1:2.8とし、Fe2+を4.5g/l含有、全酸度/遊離酸度を4.1に調整したリン酸亜鉛処理液(液温度72℃)に5分間浸漬してリン酸亜鉛被膜を7.37g/m2付着させた。SEM(走査電子顕微鏡)により被膜のリン酸亜鉛結晶を観察したところ結晶粒径は80μmであった。その後アルカリ洗浄を経て、防錆のために消石灰水溶液(濃度8wt%、液温度90℃)に浸漬して1.0g/m2の消石灰を付着させた。乾燥は120℃の熱風乾燥を行って伸線加工用のサンプルを製造した。
【0045】
上記伸線加工用サンプルに潤滑剤(カルシウム系伸線潤滑剤)を塗布して伸線加工を行った。
【0046】
伸線加工は七連の伸線機を用いて、減面率85〜95%の加工を施した。
【0047】
引続きブルーイング(熱処理)を行って、その後ビードワイヤサンプルに付着残存するリン酸亜鉛と消石灰及び潤滑剤の合計量を測定した。測定方法は下記の方法を用いた。
【0048】
まず線材のサンプル重量を測定する。次に三酸化クロム溶液にサンプルを浸漬して付着している潤滑剤などを溶解除去する。浸漬条件は濃度が5%の三酸化クロム溶液に15分間浸漬、溶液温度は75℃とした。次に乾燥後サンプル重量を再度測定して減量分を付着物重量とした。潤滑剤残存量はサンプルの表面積を計算して単位面積あたりの潤滑剤残存量で示す。
【0049】
その結果ブルーイング後の潤滑剤(リン酸亜鉛、消石灰、潤滑剤の合計)の残存量は1.39g/m2であり、焼付きなどの伸線時の障害も無く、樹脂密着性も良好であった。
【実施例2】
【0050】
リン酸亜鉛被膜処理を変更して、Fe2+を含有させず、Zn2+:PO43-が1:3.3、全酸度/遊離酸度を4.9とするリン酸亜鉛処理液を用いた。その他の条件は実施例1と同一である。その結果、リン酸亜鉛被膜の付着量は7.64g/m2で、結晶粒径は110μmであった。潤滑剤の残存量も0.849g/m2と低く、伸線性や、樹脂密着性もきわめて良好であった。
【実施例3】
【0051】
エッチング力を少し抑えた成分構成のリン酸亜鉛処理液を採用した。即ちZn2+:PO43-を1:2.4、全酸度/遊離酸度を4.9とするリン酸亜鉛処理液を用いた。その他の条件は実施例1と同一である。その結果、リン酸亜鉛被膜の付着量は7.53g/m2で、結晶粒径は140μmと少し大きな粒径となった。潤滑剤の残存量は1.13g/m2と低く、伸線性、樹脂密着性ともに良好な結果を示した。
(比較例)
比較例1、2、3ともにPO43-の濃度を下げてエッチング力を抑え、Zn2+を相対的に高めたために、形成される燐酸亜鉛被膜の付着量が増加した。このためボンデ液の温度を下げたり、浸漬時間を短くする操作を行った。消石灰の塗布処理条件は実施例1と同じである。形成されたリン酸亜鉛の結晶粒径は180μm以上の大きなものとなり、伸線加工時に潤滑剤などが被膜中にかみ込まれるため、潤滑剤の残存量が2.45g/m2以上と高くなって、樹脂密着性が悪化した。
【0052】
以上に述べた実施例及び比較例の処理条件及び伸線後の潤滑剤残存量を併せて表1に示した。
【0053】
また、燐酸亜鉛被膜付着量、結晶粒径及び消石灰塗布量等の被膜の状態を表2にまとめて示した。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】被膜の付着量と、伸線加工後に残留する燐酸亜鉛、消石灰等の残存量との関係を示す図である。
【図2】燐酸亜鉛の結晶粒径と、伸線加工後に残留する燐酸亜鉛、消石灰等の残存量との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に燐酸亜鉛被膜を付着させ、その上に防錆剤を塗着してある伸線前鋼線において、燐酸亜鉛被膜の付着量が5〜9g/m2で、燐酸亜鉛の結晶粒径平均が150μm以下であることを特徴とする伸線前鋼線。
【請求項2】
防錆剤としての消石灰が0.5〜2.0g/m2塗着されていることを特徴とする請求項1に記載の伸線前鋼線。
【請求項3】
鋼線にZn2+:PO43-が1:2.4〜1:4で、かつ全酸度/遊離酸度が4.0〜5.0である燐酸亜鉛処理液を用いて、燐酸亜鉛被膜処理を施し、次いで、消石灰の水溶液を塗着し、乾燥することを特徴とする伸線前鋼線の潤滑下地処理方法。
【請求項4】
燐酸亜鉛処理液が、さらにFe2+を5g/l以下含有することを特徴とする請求項3に記載の伸線前鋼線の潤滑下地処理方法。
【請求項5】
燐酸亜鉛処理液への浸漬時間が3〜5分で、処理液の温度が65〜80℃であることを特徴とする請求項3または4に記載の伸線前鋼線の潤滑下地処理方法。
【請求項6】
消石灰の水溶液濃度が5〜10質量%で乾燥温度が100〜150℃であることを特徴とする請求項3記載の伸線前鋼線の潤滑下地処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−187789(P2006−187789A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−2281(P2005−2281)
【出願日】平成17年1月7日(2005.1.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】