説明

伸線装置用のキャプスタン及び伸線装置

【課題】線材が巻架されるキャプスタンの外周面を簡単に研磨可能であるとともに、線材とキャプスタンとの不要な接触による外傷を防止可能な伸線装置用のキャプスタン及びこのキャプスタンを使用した伸線装置を提供する。
【解決手段】伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにつれて線径が段階的に縮径されつつ伸線される線材が巻架される伸線装置用のキャプスタン10であって、伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにしたがい漸次その径が大きくなるテーパ形状とされた巻架部12を備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金等の貴金属又は貴金属合金からなる線材の伸線装置用のキャプスタン及びこのキャプスタンを備えた伸線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に開示されているように、線材が伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにしたがい段階的に縮径されつつ伸線される伸線装置が知られている。この伸線装置は、線材が巻架される一対の第1キャプスタン及び第2キャプスタンを備えており、互いの軸線が平行となるように配置されている。これら第1、第2キャプスタンは、それぞれモータにより回転駆動される軸部と、同軸で結合された外径の異なる複数のプーリとを備えている。
【0003】
これら第1、第2キャプスタンの間には、伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにしたがい段階的に縮径加工を行う複数の中間ダイスが設けられており、伸線される線材は、初期ダイスを通過した後に第2キャプスタンに設けられた初期プーリの外周に巻架されて半周し、次に、第1キャプスタンに設けられた第1プーリの外周に巻架されて半周し、次に、第1中間ダイスを通過して、第2キャプスタンに設けられた第1プーリの外周に巻架されて半周し、以後、同様にして、第1キャプスタン及び第2キャプスタンに設けられた複数のプーリのそれぞれの外周に巻架されて各半周することを繰り返しながら、複数の中間ダイスを通過する際に次第に縮径して伸線されていき、最終的には仕上げダイスを通過した後に巻取ボビンに巻き取られる。
【0004】
線材長さは、各中間ダイスを通過して縮径されるにつれて長くなっていくので、たるみを生じないように伸線を行うために、前記複数のプーリの外径は、伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにつれて段階的に大きくされている。そして、これら複数のプーリの幅方向端部には、巻架された線材がプーリから外れないように径方向外方に張り出したフランジ部が形成されている。
【特許文献1】特開2002−205111号公報(図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述の伸線装置においては、ダイスに線材を供給する第1キャプスタンのプーリとダイスから繰り出される線材が巻架されるプーリとがキャプスタンの軸線方向で同一位置に配置され、第2キャプスタンのプーリから第1キャプスタンのプーリへと線材を繰り出す際に、線材は前記軸線に対して傾斜する方向に架け渡されることになる。このため、線材に発生する張力のバランスによっては、線材がプーリの幅方向に移動してプーリの幅方向両端部に形成されたフランジ部に接触してしまい、線材の表面が傷つくおそれがあった。
【0006】
また、線材はプーリの外周面を一定のスリップ率でスリップしながら移動しているので、プーリの外周面の表面粗さが線材の張力に大きく影響を与えることになる。ここで、線材の張力がばらつくと、線材に大きな引張力が作用して断線したり、線材が緩んで折り曲がったりしてしまうので、プーリの外周面の表面粗さを一定に保つ必要がある。ところが、従来のキャプスタンにおいては、外径の異なるプーリが同軸で結合されているので、その外周面を容易に研磨することができず、表面粗度を一定に保つことは非常に困難であった。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、線材が巻架されるキャプスタンの外周面を簡単に研磨可能であるとともに、線材とキャプスタンとの不要な接触による外傷を防止可能な伸線装置用のキャプスタン及びこのキャプスタンを使用した伸線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明に係る伸線装置用のキャプスタンは、伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにつれて線径が段階的に縮径されつつ伸線される線材が巻架される伸線装置用のキャプスタンであって、伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにしたがい漸次その径が大きくなるテーパ形状とされた巻架部を備えていることを特徴としている。
【0009】
この構成の伸線装置用のキャプスタンにおいては、線材が巻架される巻架部が、伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにしたがい漸次その径が大きくなるテーパ形状とされているので、異なる外径のプーリを複数配設することなく、線材に対して縮径加工を連続的に行うことが可能となる。また、線材が巻架される巻架部に径方向外方に張り出したフランジ部が設けられていないので、線材とキャプスタンとの不要な接触を抑制して、線材の外傷を防止できる。
【0010】
また、線材が巻架される巻架部の外周面が凹凸のないテーパ面とされているので、この外周面の研磨を比較的簡単に行うことができ、その表面粗度を一定に保つことができる。よって、巻架部の外周面をスリップしながら通過する線材の張力のばらつきを抑えることが可能となり、断線や折り曲がり等のトラブルを未然に防止することができる。
【0011】
また、本発明に係る伸線装置は、前述の伸線装置用のキャプスタンを備えた伸線装置であって、線材を縮径させる縮径加工部と、この縮径加工部に供給される前記線材を巻架する第1キャプスタンと、前記縮径加工部から繰り出される前記線材を巻架する第2キャプスタンと、を有し、これら第1キャプスタン及び第2キャプスタンは、前記伸線装置用のキャプスタンからなり、前記第1キャプスタンは、その軸線が前記第2キャプスタンの軸線に対して傾斜するように配設されていることを特徴としている。
【0012】
この構成の伸線装置においては、第1キャプスタンの軸線を第2キャプスタンの軸線に対して傾斜するように配設することで、第1キャプスタンに巻架された線材を縮径加工部に供給する際の角度を調整することが可能となり、縮径加工をスムーズに行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、線材が巻架されるキャプスタンの外周面を簡単に研磨可能であるとともに、線材とキャプスタンとの不要な接触による外傷を防止可能な伸線装置用のキャプスタン及びこのキャプスタンを使用した伸線装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態について添付した図面を参照して説明する。図1に本発明の実施形態である伸線装置用のキャプスタンを示す。また、図2に、本実施形態である伸線装置用のキャプスタンを備えた伸線装置の概略を示す。
【0015】
まず、本実施形態である伸線装置用のキャプスタンについて説明する。
このキャプスタン10は、軸線Oに沿って延びる軸部11と、線材Wが巻架される巻架部12と、この巻架部12の伸線方向下流側端部に連設された台座部13と、を備えている。軸部11の伸線方向上流側端部は、このキャプスタン10を軸線O回りに回転させる回転駆動部としてのモータ14に連結されている。
【0016】
巻架部12は、伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにしたがい漸次その径が大きくなるテーパ形状とされており、その外周面は凹凸のない滑らかなテーパ面とされている。ここで、この巻架部12がなすテーパ形状の片面のテーパ角θ、つまり、軸線Oに直交する側から見て軸線Oと巻架部12の稜線とがなす角度θは、1°≦θ≦20°の範囲内に設定され、より具体的には、θ=5°に設定されている。なお、このテーパ角θについては、後述する中間ダイスBの配置や個数によって設定されることになる。
【0017】
次に、前述のキャプスタン10が使用される伸線装置20について説明する。
この伸線装置20は、前述のキャプスタン10を2つ(第1キャプスタン10L及び第2キャプスタン10R)備えている。これら第1キャプスタン10Lと第2キャプスタン10Rとの間には、線材Wを縮径加工するための中間ダイスBが配置されている。この中間ダイスBに線材Wを供給する側(図2において左側)が第1キャプスタン10Lとされ、中間ダイスBから繰り出される線材Wを巻架する側(図2において右側)が第2キャプスタン10Rとされている。
【0018】
ここで、本実施形態では、図2に示すように、複数段の中間ダイスBが第2キャプスタン10Rの軸線ORと平行になるように配設されている。また、中間ダイスBよりも伸線方向上流側には、初期ダイスBSが配設されている。また、中間ダイスBよりも伸線方向下流側に仕上げダイスBFが配設され、この仕上げダイスBFのさらに伸線方向下流側に、伸線された線材Wを巻き取るための巻取ボビン21が配置されている。
なお、複数の中間ダイスBは、線材Wを順次縮径させるために伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにしたがい段階的に小径となるダイス孔(図示なし)をそれぞれ有している。
【0019】
そして、本実施形態においては、中間ダイスBに対して線材Wを供給する第1キャプスタン10Lは、図2に示すように、テーパ形状とされた巻架部12Lのうち中間ダイスBへの供給方向反対側の稜線が、前記供給方向に対して直交するように配置されている。つまり、第1キャプスタン10Lは、その軸線OLが第2キャプスタン10Rの軸線ORに対して傾斜するように配設されているのである。ここで、軸線OLと軸線ORとがなす角度は、第1キャプスタン10Lのテーパ角θと同じく5°に設定されている。
【0020】
このような構成とされた伸線装置20は、伸線方向上流側から供給された線材Wが初期ダイスBSのダイス孔に通されることで初期加工がなされ、第2キャプスタン10Rの上方部分に巻架された後に第1キャプスタン10Lに送られ、この第1キャプスタン10Lに巻架された後に、第1中間ダイスB1へと供給される。これを段階的に繰り返していき、第1キャプスタン10Lに巻架された線材Wが仕上げダイスBFへと供給され、仕上げ加工がなされた線材Wが巻取ボビン21によって巻き取られる。これにより、線材Wを所定の線径へと伸線加工する。
【0021】
次に、伸線装置20における中間ダイスBの配置と第1キャプスタン10L及び第2キャプスタン10Rのテーパ角θとの関係について説明する。
第1キャプスタン10Lの巻架部12Lのうち外径がDの部分に巻架された線材が中間ダイスBへと供給され、この中間ダイスBにおいて減面率αとなる縮径加工が行われ、第2キャプスタン10Rの巻架部12Rのうち外径がDの部分に巻架されるとする。
減面率αは、中間ダイスBに供給される線材Wの直径din、中間ダイスBから繰り出される線材Wの直径doutとすると、
α=1−(din/dout) …(1)
で表される。ここで中間ダイスBに供給される線材Wの速度Vin、中間ダイスBから繰り出される線材Wの速度Voutとすると、(1)式は、
α=1−(Vin/Vout) …(2)
で表されることになる。
【0022】
次に、第1キャプスタン10Lにおけるスリップ率S、第2キャプスタン10Rにおけるスリップ率Sは、第1キャプスタン10Lの回転数をr,第2キャプスタン10Rを回転数rとすると、
=1−(Vin/(π・D・r)) …(3)
=1−(Vout/(π・D・r)) …(4)
で表される。なお、スリップ率とは、キャプスタン10の周速度に対するキャプスタン10の外周面上を通過する線材Wの遅れを表すものである。
【0023】
ここで、第1キャプスタン10Lにおけるスリップ率Sと第2キャプスタン10Rにおけるスリップ率Sとが一致する(S=S)ことから、
in/ Vout=(D・r)/(・D・r)=1−α …(5)
さらに、中間ダイスBの前後における第1キャプスタン10Lの外径Dと第2キャプスタン10Rの外径Dとが同一(D=D)であることから、
/r=1−α → r=r×(1−α) …(6)
となる。
【0024】
また、n段目の第2キャプスタン10Rでのスリップ率S(n)とn+1段目の第1キャプスタン10Lでのスリップ率S(n+1)が同一となるので、
1−(Vout(n)/(π・D(n)・r))
= 1−(Vin(n+1)/(π・D(n+1)・r))…(7)
ここで、Vout(n)=Vin(n+1)とが同一であることから、
(n)・r=D(n+1)・r …(8)
(n+1)×(1−α)=D(n) …(9)
となる。
【0025】
n=1からの帰納法により、
(n+1)×(1−α)=D(1) …(10)
(n+1)×(1−α)=D(1) …(11)
となり、減面率αと第1中間ダイスB1部分の第2キャプスタン10Rの外径D(1)から、第1キャプスタン10L及び第2キャプスタン10Rの各段の外径が決定されることになる。
【0026】
ここで、第1中間ダイスB1が配設された位置から第n中間ダイスBnが配設された位置までの距離をH(n)とすると、
(n)=D(1)+2H(n)tanθ …(12)
また、(11)式から、
(n)=D(1)/(1−α)n−1 …(13)
(12)式、(13)式から、第1中間ダイスB1が配設された位置から第n中間ダイスBnが配設された位置までの距離H(n)は(14)式のように表される。
【0027】
【数1】

【0028】
以上のように、中間ダイスBの段数、配置間隔、減面率αなどからキャプスタン10のテーパ角θが決定されることになる。
【0029】
このような構成とされた本実施形態であるキャプスタン10では、線材Wが巻架される巻架部12が、伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにしたがい漸次その径が大きくなるテーパ形状とされているので、線材Wに対して複数の中間ダイスBにより段階的に縮径加工を行うことが可能となり、伸線加工をスムーズに行うことができる。
また、キャプスタン10には径方向外方に張り出した部分が形成されていないので、線材Wとキャプスタン10との不要な接触を抑制して線材Wの外傷を防止できる。
【0030】
さらに、巻架部12の外周面が凹凸のないテーパ面とされているので、巻架部12の外周面の研磨を比較的簡単に行うことができ、その表面粗度を一定に保つことができる。これにより、線材Wの張力のばらつきが抑えられ、断線や折り曲がり等のトラブルを未然に防止することができる。
【0031】
また、本実施形態であるキャプスタン10を備えた伸線装置20においては、第1キャプスタン10Lが、テーパ状とされた巻架部12Lのうち中間ダイスBへの供給方向反対側の稜線が、前記供給方向に対して直交するように配置されているので、中間ダイスBに対して線材Wを真っ直ぐに供給することが可能となり、縮径加工をスムーズに行うことができる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、伸線装置において、第1キャプスタンが、その軸線OLが第2キャプスタンの軸線ORに対して傾斜するように配設されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、図3に示すように、軸線OLと軸線ORとが互いに平行となるように配置されていてもよい。
また、キャプスタンの形状や構造は、本実施形態に限定されることはなく、伸線装置の構造等に合わせた形状や構造とすればよい。
【実施例】
【0033】
具体的な数値を用いて、伸線装置における中間ダイスの配置とキャプスタンのテーパ角との関係について具体的に説明する。
10段の中間ダイスを配設したものとし、その段における第1キャプスタンの外径、第2キャプスタンの外径との関係を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
テーパ角θ=5°としたキャプスタンを用いた場合には、中間ダイスの位置を表1に示すように配設することで、縮径加工を連続的に行い伸線加工を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態である伸線装置用のキャプスタンの側面図である。
【図2】図1に示す伸線装置用のキャプスタンが備えられた伸線装置の概略説明図である。
【図3】図1に示す伸線装置用のキャプスタンが備えられた他の伸線装置の概略説明図である。
【符号の説明】
【0037】
10 キャプスタン
10L 第1キャプスタン
10R 第2キャプスタン
12 巻架部
20 伸線装置
B 中間ダイス(縮径加工部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにつれて線径が段階的に縮径されつつ伸線される線材が巻架される伸線装置用のキャプスタンであって、
伸線方向上流側から伸線方向下流側に向かうにしたがい漸次その径が大きくなるテーパ形状とされた巻架部を備えていることを特徴とする伸線装置用のキャプスタン。
【請求項2】
請求項1に記載の伸線装置用のキャプスタンを備えた伸線装置であって、
線材を縮径させる縮径加工部と、この縮径加工部に供給される前記線材が巻架される第1キャプスタンと、前記縮径加工部から繰り出される前記線材が巻架される第2キャプスタンと、を有し、これら第1キャプスタン及び第2キャプスタンは、前記伸線装置用のキャプスタンからなり、
前記第1キャプスタンは、その軸線が前記第2キャプスタンの軸線に対して傾斜するように配設されていることを特徴とする伸線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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