説明

伸縮性複合セル構造

【課題】伸縮性複合セル構造を提供する。
【解決手段】三次元的ブロックを構成する伸縮性複合セル構造において、実質的に部材面内に歪を発生することなく、その実寸からゼロに近くまで広範囲に伸縮が行われ、セルの内部空間を保持および変化を可能とする伸縮性複合セル構造を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元的ブロックを構成する伸縮性複合セル構造に関するものである。ここにセルとは英語でcellに相当し、小室、細胞、巣屋とよばれる内部空間を意味する。さらに詳細には、実質的に部材面内に歪を発生することなく伸縮が行われ、前記内部空間を保持かつ変化させる伸縮性複合セル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元的ブロックを構成する複合セル構造というものは多く知られているが、その代表例は、ハニカム構造であろう。これは六角柱状の管を、隙間なく集積した幾何学的形状を基とし、工学的には多数の薄板を相互に千鳥に接合し、その後開くという過程で製作されるのが一般的である。これらの構造は、もっぱらその形状の状態で、たとえばサンドイッチ構造などに使われるものである。
【0003】
仮想的であるが、もしこのような三次元的ブロックを構成する複合セル構造で、その形状を駆動して伸縮変化させ、結果としてその内部空間を変化させることが可能であるならば、その利用は新しい可能性をもたらすであろう。さらにこの伸縮が、その過程において、セル壁面の部材に歪を実質上発生しない、つまり剛体折り紙と呼ばれる変形で行われるならば、駆動力をあまり必要とせずに、大きな変化をもたらすことになる。もし筒の軸方向に歪なしで伸縮できるセル構造の三次元ブロックが存在すれば、これを利用する新規で多様なデバイスが実現可能であろう。しかし現実にはそのような構造が知られていない。ハニカム構造は、筒の軸に直交方向に伸縮することができるが、利用性の高い軸方向には破壊なしに伸縮することは不可能である。
【0004】
最近になって、三次元ブロックではないが、筒型の単一セル構造について、伸縮の過程で、部材に歪を実質上発生しない、かつその内部に好ましい利用空間を保持するという目的を達成できる筒型伸縮構造が発明された(特許文献1)。この技術を発展させれば、三次元的ブロックを構成する複合セル構造を創出する可能性が示された。
【0005】
【特許文献1】特許出願2009−239831
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、三次元的ブロックを構成する伸縮性複合セル構造において、実質的に部材面内に歪を発生することなく伸縮が行われ、セルの内部空間を保持かつ変化が可能な伸縮性複合セル構造を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る伸縮性複合セル構造は、平面上で、軸方向に直交して左右にのびる平行線で規定される帯状の領域内について、その中央部に該平行線を上底下底とする実質的に等脚台形を配し、該等脚台形の両側に対称的に、該等脚台形の斜辺と等しい傾斜角をもちかつ該平行線を二辺とする平行四辺形を複数かつ偶数個を隙間無く配した基本領域A1により、平面上で、該基本領域から始めて、該基本領域の下に該平行線についての第一鏡像A2を形成し、さらに同様の操作で第一鏡像の鏡像である第二の鏡像A3を形成し、順次これを繰り返すことで形成されたものを形状パターンAとし、さらに別の平面上で、前記第一の鏡像A2をB1とし、B1から始めて、前記と同様の操作を順次繰り返すことで形成されたものを形状パターンBとし、該形状パターンA,Bの形状が刻印された仮想の平面シートをそれぞれシートA,シートBとし、これらに含まれる等脚台形および該平行四辺形のすべての辺を折り筋とし、該等脚台形の斜辺を図面上手前に山折りとし、他の辺はこれに適合する折り目とし、シートAとシートBを、背面で合わせ、相接する前記偶数番目でかつ端部の平行四辺形の部分で互いに接合して形成される多面体形状をPとし、多面体形状Pの筒壁部分を抽出した多面体形状をQとし、多面体形状Qの複数個を前記軸方向に垂直方向の敷詰め配列して形成される複合多面体形状をRとし、該複合多面体形状Rを平面部分は剛性のある面材、稜線はヒンジで実体として構成する構造を特徴とする伸縮性複合セル構造である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る三次元的ブロックを構成する伸縮性複合セル構造の第一の効果は、その三次元形状を大きく変化させることができることにある。その変化量は実物のサイズと同等レベルの大きさであり、またその両極限において理論的にゼロになる。ここに理論的とは面材の厚みをゼロとした場合に相当する。
【0009】
第二の効果は、このような大きな変化が、剛体折り紙と呼ばれる折り畳み構造の特性により、折り目を除いて、それを構成する面材には、伸縮の過程で歪なしで経過することである。このことは、伸縮性の材料に頼らざるを得なかった従来の状況を変えて、多様な材質を利用することが可能となった。
【0010】
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1(a)において、1は左右にのびる平行線、2は帯状の領域、3は等脚台形、3−1は該等脚台形の上底あるいは下底、3−2は該等脚台形の斜辺、3−3は該等脚台形の小さい内角、4は該等脚台形に隣接する奇数番目の平行四辺形、5は複数番目で且つ端部の平行四辺形である。以下、説明の明瞭を優先して、一番目と二番目の平行四辺形で構成される単純なものについて取り扱い、それぞれを4と5にする。また等脚台形には三角形も含まれる。図では、中央部に等脚台形を配し、その左右に二つの平行四辺形4、5を配して、基本領域A1を構成する。該基本領域A1を、下側の平行線1について鏡映して鏡像A2を形成し、さらに同様の操作を繰り返して、鏡像群A3、A4、、、、を形成したものの結合をパターンAとする。
【0012】
ついで、図1(b)において、前記A2を基本領域B1として、下側の平行線1について鏡映して鏡像B2を形成し、さらに同様の操作を繰り返して、鏡像群B3、B4、、、、を形成したものの結合をパターンBとする。要するに、パターンBは、パターンAを一帯状領域だけずらしたものである。
【0013】
上記で定義される幾何学的条件で決定される三次元形状の、直感的な理解のため、厚みの無い仮想的な平面シートを用いる。パターンA、Bをそれぞれ転写したシートA、Bについて、すべての辺を折り目とすると、意味のある全体形状は折り目の正負(山折りと谷折り)によって、二つがある。今便宜上、等脚台形3の斜辺をすべて山折りと指定することにより、他のすべての折り目の正負、そして三次元形状は自動的に確定する。
【0014】
いま、シートAとシートBを、鏡像群A1,A2,A3,...と鏡像群B1,B2,B3,....を対応させて、背面であわせ、折り目を形成すると、図2(a)に示すような、多面体Pが生成される。その中央部は多面体的な筒状6であり、外部にはひれ状の構造7が形成されている。なお、このひれ状の構造は図1(a)で複数番目で端部の平行四辺形5の部分5−1からなり、その外側部分は適宜削除してある。このひれ状の形態を観察すると、シートAとシートBがこの部分5−1で背中合わせで接している。
【0015】
該多面体Pを上下方向に収縮させると、図2(b)の平面図に示されるように完全に平らに畳み込まれる。このとき、理想的にシートの厚さゼロ、折りのヒンジが完全と仮定すると、伸縮にたいする抵抗はなく、シート面内の変形もなく、畳み込まれる。最初の状態は平面、最後の状態も異なる平面となる。
【0016】
図2で示された多面体Pにおいては、前記のように、ひれ状の構造7の部分が存在している。図3(a)、(b)を参照して。そのシートAとシートBが接面する部分において、これらの両シートが稜線5−3だけて結合されるように、余分な部分を取り去ると、筒壁部分5−2が残り、これにより単一の筒壁よりなる多面体Q(図4(a))が定義される。
【0017】
これを詳細に説明すると、図3は、筒壁だけを構成する部分を、図1のパターンAとBに対応するパターンCとDについて示したものである。容易に観察されるように、図3では、パターンCおよびDにおいて、複数番目で且つ端部の平行四辺形5の必要最小限の部分5−2が示されている。そしてその稜線5−3で、平行四辺形4の斜辺4−1と結合され、小角錐状突起7を形成し、その結果シート、C,Dが結合されて、単壁の多面体Qが構成される。(図4(a))。前記と同様に、生成された構造を縦方向に縮めると、図4(b)で示されるように、完全に平らに畳み込まれる。
【0018】
次に図3、4を参照して、単位領域C1、D1から構成される要素CD1三個を図5に示す。注目すべきは、CD1の中央面の六角形8は対辺が平行で長さが等しい六角形であることだ。CD1の形状の主要部は、この六角形8から派生される等しい傾斜の壁面で構成されている。視察により、これら三個の等しいCD1は、互いに隙間なく結合することがわかる。さらにこの操作を続けると、厚みのある二次元空間を隙間なく充填する。ただし、これは通常のタイル貼りとは違って、タイルのエッジが、傾斜していることは独特である。理論は省略するが、このような操作でできる敷詰めでは、壁面は常に二重に覆われる。従って、その二分の一が純粋な多面体となるが、本発明では、壁面の多重を含めて区別しない。
【0019】
次に、CD1は多面体Qを代表するから、CD1の空間充填は、多面体Qの集合が空間充填であることになり、三次元空間の多面体Rが形成される。多面体Rに実体(面材とヒンジ)を与えれば三次元的ブロックを構成する伸縮性複合セル構造Rとなる。図6には、多面体Rの伸縮過程を示す。その両極限で完全に平面に畳みこまれることが表示されている。完全な極限は平面となり識別困難であるので、図では極限の直前を示す。
【0020】
前記の図6では、単一の面材として表現されているが、実体は、単一または複数の面材であってもよいし、あるいは混在してもよい。このことは、ハニカム構造と同様である。
【実施例1】
【0021】
前記のように、三次元的ブロックを構成する伸縮性複合セル構造Rの第一の特徴は、その三次元形状を大きく変化させることができることにある。その変化量は実物のサイズと同等レベルの大きさであり、またその両極限において容積は理論的にゼロになる。ここに理論的とは面材の厚みをゼロとした場合に相当する。
【0022】
第二の特徴は、このような大きな変化が、剛体折り紙と呼ばれる折り畳み構造の特性により、折り目を除いて、それを構成する面材には、伸縮の過程で歪なしで経過することである。このことは、伸縮性の材料に頼らざるを得なかった従来の状況を変えて、多様な材質を利用することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)パターンAの形状の平面図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面上で、軸方向に直交して左右にのびる平行線で規定される帯状の領域内について、その中央部に該平行線を上底下底とする実質的に等脚台形を配し、該等脚台形の両側に対称的に、該等脚台形の斜辺と等しい傾斜角をもちかつ該平行線を二辺とする平行四辺形を複数かつ偶数個を隙間無く配した基本領域A1により、平面上で、該基本領域から始めて、該基本領域の下に該平行線についての第一鏡像A2を形成し、さらに同様の操作で第一鏡像の鏡像である第二の鏡像A3を形成し、順次これを繰り返すことで形成されたものを形状パターンAとし、さらに別の平面上で、前記第一の鏡像A2をB1とし、B1から始めて、前記と同様の操作を順次繰り返すことで形成されたものを形状パターンBとし、該形状パターンA,Bの形状が刻印された仮想の平面シートをそれぞれシートA,シートBとし、これらに含まれる等脚台形および該平行四辺形のすべての辺を折り筋とし、該等脚台形の斜辺を図面上手前に山折りとし、他の辺はこれに適合する折り目とし、シートAとシートBを、背面で合わせ、相接する前記偶数番目でかつ端部の平行四辺形の部分で互いに接合して形成される多面体形状をPとし、多面体形状Pの筒壁部分を抽出した多面体形状をQとし、多面体形状Qの複数個を前記軸方向に垂直方向の敷詰め配列して形成される複合多面体形状をRとし、該複合多面体形状Rを平面部分は剛性のある面材、稜線はヒンジで実体として構成する構造を特徴とする伸縮性複合セル構造。

【図1】(b)パターンBの形状の平面図
【図2】(a)シートA,Bによる多面体Pの斜視図
【図2】(b)シートA,Bによる多面体Pの収縮時の平面図
【図3】(a)パターンCの形状の平面図
【図3】(b)パターンDの形状の平面図
【図4】(a)シートC,Dによる多面体Qの斜視図
【図4】(b)シートC,Dによる多面体Qの収縮時の平面図
【図5】多面体Qの部分による空間充填の説明図
【図6】(a)、(b)、(c)、(d)伸縮性複合セル構造(多面体R)の伸縮過程の斜視図
【符号の説明】
【0024】
1 平行線
2 帯状領域
3 等脚台形
3−1 等脚台形の底
3−2 等脚台形の斜辺
3−3 等脚台形の小さい内角
4 中心から奇数番目の平行四辺形
4−1 中心から奇数番目の平行四辺形の斜辺
5 中心から偶数番目で且つ端部の平行四辺形
5−1 中心から偶数番目で且つ端部の平行四辺形の接合部分
5−2 中心から偶数番目で且つ端部の平行四辺形の必要最小限の部分
5−3 中心から偶数番目で且つ端部の平行四辺形の必要最小限の部分と平行四辺形4の稜線の結合線
6 ひれ状突起
7 小角錐状突起
8 六角形
A1、A2、A3、A4、、、基本領域(図1(a))
B1、B2、B3、B4、、、基本領域(図1(b))
C1、C2、C3、C4、、 基本領域(図3(a))
D1、D2、D3、D4、、 基本領域(図3(b))
A 図1(a)のパターンとシート
B 図1(b)のパターンとシート
C 図3(a)のパターンとシート
D 図3(b)のパターンとシート
CD1 C1、D1から構成される要素
P 多面体
Q 単壁よりなる多面体
R 伸縮性複合セル構造(多面体)
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−42044(P2012−42044A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200314(P2010−200314)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(591048139)
【出願人】(507077293)
【Fターム(参考)】