説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】ラビングスジがなく、フィルム全体にわたって均一な光学特性を有し、液晶表示装置のコントラストを増大させる位相差フィルムの簡便・安価な製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の位相差フィルムの製造方法は、基材の表面をラビング処理する工程と、該基材のラビング処理された表面に液晶化合物を塗布する工程と、を含む。ラビング処理工程に用いられるラビングロールの起毛布はレーヨン製であり、布厚は1.8mm〜2.0mmであり、ラビング布の押し込み量は0.2mm〜0.5mmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、ラビングスジがなく、フィルム全体にわたって均一な光学特性を有し、液晶表示装置のコントラストを増大させる位相差フィルムの簡便・安価な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばプラスチックフィルム表面に液晶化合物を塗布して配向させることにより位相差フィルムを製造する方法が知られている。このような製造方法においては、液晶化合物をフィルム表面上で配向させるために、例えば起毛布によってフィルム表面を一方向に擦るラビング処理を施すのが一般的である。ラビング処理においては、液晶化合物の配向性を高めるために、種々の技術が提案されている。例えば、ラビング処理の強度を所定の範囲に制御することにより、液晶化合物の配向性を高める可能性があることが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
しかし、従来の技術はいずれも、ラビングに起因するスジ(以下、ラビングスジとも称する)の発生を良好に防止することはきわめて困難である。さらに、因果関係は明らかではないが、このようなラビングスジが発生すると、得られる位相差フィルムを液晶表示装置に用いる場合にコントラストが低下するという問題がある。
【特許文献1】特開2006−235611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、ラビングスジがなく、フィルム全体にわたって均一な光学特性を有し、液晶表示装置のコントラストを増大させる位相差フィルムの簡便・安価な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の位相差フィルムの製造方法は、基材の表面をラビング処理する工程と、該基材のラビング処理された表面に液晶化合物を塗布する工程と、を含み、該ラビング処理工程に用いられるラビングロールの起毛布がレーヨン製であり、布厚が1.8mm〜2.0mmであり、ラビング布の押し込み量が0.2mm〜0.5mmである。
【0006】
好ましい実施形態においては、上記ラビング処理工程における上記起毛布の静電気量は50V〜200Vである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、起毛布がレーヨン製であり、特定の布厚を有するラビングロールを用いて、特定の押し込み量でラビング処理を行うことにより、ラビングスジが顕著に防止され、結果として、フィルム全体にわたって均一な光学特性を有し、高い直交透過率を有し、液晶表示装置のコントラストを増大させる位相差フィルムが得られる。しかも、本発明の製造方法は、高価な設備も複雑な処理も必要とされないので、コストおよび生産効率の観点からも非常に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は、本発明の好ましい実施形態による位相差フィルムの製造方法におけるラビング処理工程を説明するための模式図である。図1に示すように、1つの実施形態においては、長尺の基材Fがラビング処理装置100を搬送されながら、当該基材表面にラビング処理が施される。ラビング処理装置100は、例えば、駆動ロール1、2と、駆動ロール1、2間に架設され、長尺の基材Fを支持して搬送する無限軌道の搬送ベルト3と、搬送ベルト3の上方において上下方向に昇降可能に配設されたラビングロール4と、基材Fを支持する搬送ベルト3の下面を支持するバックアップロール機構5とを備える。ラビング処理の方向は、目的に応じて適切に設定され得る。例えば、ラビング処理は、基材Fの搬送方向Aに沿って行われてもよく、基材Fの搬送方向Aに対して直交する方向に行われてもよく、基材Fの搬送方向Aに対して所定の角度を規定するようにして行われてもよい。例えば、円偏光板用の位相差フィルムを作成する場合には、ラビング処理は、搬送方向に対して45°の角度で行われる。45°の角度でラビング処理を行うことにより、得られる位相差フィルム(代表的には、液晶化合物の配向硬化フィルムまたは固化フィルム)は、当該ラビング処理方向に対応した方向(すなわち、フィルム長手方向に対して45°方向)に遅相軸を有する。偏光子用フィルムは、その製造方法に起因して長手方向に吸収軸を有するので、偏光子の吸収軸と位相差フィルムの遅相軸が45°の角度を有するようにして、ロール・ツー・ロールで貼り合わせることができる。このような場合、位相差フィルムの面内位相差を可視光の約1/4に設定することにより、良好な円偏光特性を有する円偏光板が、非常に優れた製造効率で得られ得る。なお、位相差フィルムの面内位相差は、液晶化合物の塗布厚みを調整することにより制御され得る。なお、図示例では長尺の基材Fを搬送しながら連続的にラビング処理する形態を説明しているが、所定のサイズに打ち抜いたフィルム1枚ごとにラビング処理を施してもよいことは言うまでもない。
【0009】
上記ラビング処理は、基材Fに直接施してもよく、基材に配向膜を形成し、当該配向膜に施してもよい。
【0010】
基材Fとしては、表面に塗布された液晶化合物が適切に配向する限り、任意の適切なフィルムが用いられ得る。基材Fを構成する材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)、ポリノルボルネン等のポリオレフィン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、およびこれらのアロイが挙げられる。1つの実施形態においては、基材Fは、偏光子の保護フィルムとしても機能し得る。このようなフィルムであれば、位相差フィルムを偏光子に積層して位相差層付偏光板を作製する際に、積層工程が簡略化され、かつ、位相差層付偏光板の薄型化に貢献し得る。このようなフィルムとしては、TACフィルム、ポリノルボルネン等のフィルムが挙げられる。
【0011】
基材Fの厚みは、目的に応じて適切に設定され得る。基材の厚みは、好ましくは10μm〜100μm、さらに好ましくは50μm〜75μmである。厚みがこのような範囲であれば、搬送性に優れ、かつ、偏光子の保護フィルムとしても適用可能である基材が得られ得る。基材Fの表面粗さRzは、好ましくは120nm〜600nm、さらに好ましくは200nm〜500nm、特に好ましくは300nm〜450nmである。Rzが小さすぎると、基材搬送時にキズが生じやすくなる。Rzが大きすぎると、凹凸が大きすぎてラビング処理を施すことが困難になる場合があり、また、基材表面に異物が付着し易くなる。なお、本明細書において「表面粗さRz」とは、JIS B0601(2001)で規定されている最大高さを意味する。
【0012】
上記配向膜を構成する材料としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアミドが挙げられる。配向膜は、例えば、これらのポリマーの溶液を基材表面に塗布することにより形成される。塗布方法の具体例としては、スピンコート法、バーコート法、スロットダイコート法、ディップコート法が挙げられる。配向膜の厚みは、基材の表面粗さ等に応じて適切に設定され得る。配向膜の厚みは、好ましくは0.1μm〜5μm、さらに好ましくは0.2μm〜3μm、特に好ましくは0.5μm〜2.5μmである。
【0013】
ラビングロール4は、台座の外周面に起毛布4aが巻回されて構成されている。本発明においては、起毛布の材質はレーヨンである。毛をラビングロールの回転軸に対して斜め方向に植毛することができ、帯電が少なく、かつ、帯電した場合でもその除去が容易だからである。図2(a)は、図1のラビングロールの概略断面図である。ラビングロールの布厚Tは、1.8mm〜2.0mmであり、好ましくは1.85mm〜1.95mmである。布厚が1.8mm未満である場合には、起毛布の毛の弾性が強くなりすぎて、ラビングスジが発生する場合がある。布厚が2.0mmを超える場合には、毛の弾性が不十分となり、均一なラビングが困難となる場合がある。
【0014】
1つの実施形態においては、起毛布4aの毛は、ラビングロールの回転軸C0に対して直交する方向に植毛されている。別の実施形態においては、起毛布4aの毛は、図2(b)に示すように、ラビングロールの回転軸C0に対して直交する方向から所定の角度θをなすようにして植毛されてもよい。例えば、角度θは、所望されるラビング処理方向と平行である。1つの実施形態においては、ラビング処理工程における上記起毛布の静電気量は、好ましくは50V〜200Vである。静電気量をこのような範囲とすることにより、輝点数が改善され得る。
【0015】
本発明の位相差フィルムの製造方法においては、ラビングロール4の押し込み量は、0.2mm〜0.5mm、さらに好ましくは0.3mm〜0.4mmである。押し込み量が0.2mm未満である場合には、均一なラビングを行うことが困難な場合がある。押し込み量が0.5mmを超えると、ラビングスジが生じる場合がある。なお、本明細書において「ラビングロール4の押し込み量」とは、基材F表面に対してラビングロール4の位置を変動させた場合において、ラビングロールに巻回した起毛布の毛先が最初に基材F表面に接した位置を原点(0点)とし、当該原点から基材Fに向けてラビングロール4を押し込んだ量(毛先の位置の変動量)を意味する。
【0016】
ラビングロール4の回転数は、好ましくは1〜3000rpm、さらに好ましくは500〜2000rpmである。基材Fの搬送速度は、好ましくは1〜50m/分、さらに好ましくは1〜10m/分である。このような条件でラビング処理を行うことにより、基材の特性に悪影響を与えることなく、良好な配向を得ることができる。
【0017】
次いで、基材Fのラビング処理表面に液晶化合物が塗布される。塗布された液晶化合物を固化または硬化させることにより、当該液晶化合物の配向状態が固定され、位相差フィルムが得られる。固化は、例えば、液晶化合物をラビング処理表面に塗布した後、液晶化合物が液晶相を示す温度まで加熱し、乾燥させた後、液晶相を示す状態で室温まで急冷することにより行われる。硬化は、例えば、重合性液晶モノマーを用い、液晶モノマーが液晶相を示す温度まで加熱し、乾燥させた後、液晶相を示す状態で室温まで冷却し、紫外線などを照射することにより行うことができる。このようにして得られる位相差フィルムは、代表的には、nx>ny=nzの屈折率分布を有する。位相差フィルムの面内位相差は、上記のように、液晶化合物の塗布厚みを調整することにより制御され得る。液晶化合物を用いることにより、得られる位相差フィルムのnxとnyとの差を非液晶材料に比べて格段に大きくすることができる。その結果、所望の面内位相差を得るための位相差フィルムの厚みを格段に小さくすることができる。例えば、130〜150nmの面内位相差が所望される場合、1.3〜1.5μmの厚みでこのような位相差が実現され得る。
【0018】
液晶化合物は、ポリマーであってもよく、オリゴマーであってもよく、低分子化合物またはモノマーであってもよい。液晶化合物の液晶性の発現機構は、リオトロピックでもサーモトロピックでもどちらでもよい。液晶化合物は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。液晶化合物が液晶モノマーである場合、例えば、重合性モノマーおよび/または架橋性モノマーであることが好ましい。これは、液晶モノマーを重合または架橋させることによって、液晶モノマーの配向状態を固定できるからである。液晶モノマーを配向させた後に、例えば、液晶モノマー同士を重合または架橋させれば、それによって配向状態を固定することができる。ここで、重合によりポリマーが形成され、架橋により3次元網目構造が形成されることとなるが、これらは非液晶性である。したがって、形成された位相差フィルムは、例えば、液晶化合物に特有の温度変化による液晶相、ガラス相、結晶相への転移が起きることはない。その結果、位相差フィルムは、温度変化に影響されない、極めて安定性に優れた位相差フィルムとなる。上記液晶モノマーの具体例としては、下記式(1)〜(16)で表される化合物が挙げられる。
【化1】

【0019】
代表的には、上記液晶化合物は、当該液晶化合物を適切な溶媒に溶解または分散した溶液または分散液(以下、塗布液とも称する)として塗布される。
【0020】
上記溶媒としては、上記液晶化合物を溶解または分散し得る任意の適切な溶媒が採用され得る。使用される溶媒の種類は、液晶化合物の種類等に応じて適宜選択され得る。溶媒の具体例としては、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、フェノール、p−クロロフェノール、o−クロロフェノール、m−クレゾール、o−クレゾール、p−クレゾールなどのフェノール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピルなどのエステル系溶媒、t−ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールのようなアルコール系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド系溶媒、アセトニトリル、ブチロニトリルのようなニトリル系溶媒、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル系溶媒、あるいは二硫化炭素、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、酢酸エチルセロソルブ等が挙げられる。好ましくは、トルエン、キシレン、メシチレン、MEK、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸エチルセロソルブである。これらの溶媒は、単独で、または2種類以上を組み合わせて用いられ得る。
【0021】
上記塗布液は、必要に応じて任意の適切な添加剤をさらに含有し得る。添加剤の具体例としては、重合開始剤や架橋剤が挙げられる。これらは、液晶化合物として重合性および/または架橋性液晶モノマーを用いる場合に特に好適に用いられる。上記重合開始剤の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等が挙げられる。上記架橋剤の具体例としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート架橋剤等が挙げられる。これらは、単独で、または2種類以上を組み合わせて用いられ得る。他の添加剤の具体例としては、老化防止剤、変性剤、界面活性剤、染料、顔料、変色防止剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。これらもまた、単独で、または2種類以上を組み合わせて用いられ得る。
【0022】
上記塗布液における液晶化合物の含有量は、液晶化合物の種類や目的とする位相差フィルムの厚み等に応じて適宜設定され得る。具体的には、液晶化合物の含有量は、好ましくは5〜50重量%であり、さらに好ましくは10〜40重量%であり、最も好ましくは15〜30重量%である。
【0023】
塗布方法としては、任意の適切な方法が採用され得る。具体例としては、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、エクストルージョン法、カーテンコート法、スプレコート法等が挙げられる。塗布効率の観点から、ワイヤーバーコート法、スピンコート法およびエクストルージョン法が好ましい。
【0024】
塗布液の加熱温度は、液晶化合物の種類に応じて適宜決定され得る。具体的には、加熱温度は、好ましくは40〜120℃であり、さらに好ましくは50〜100℃であり、最も好ましくは65〜95℃である。このような温度範囲であれば、液晶化合物を十分に配向させることができ、かつ、基材Fの選択範囲が広い。また、加熱時間は、好ましくは30秒以上であり、さらに好ましくは1分以上であり、特に好ましくは2分以上である。加熱時間が30秒未満である場合には、液晶化合物が十分に液晶状態をとらない場合がある。一方、加熱時間は、好ましくは10分以下であり、さらに好ましくは8分以下であり、最も好ましくは7分以下である。加熱時間が10分を超えると、添加剤が昇華するおそれがある。
【0025】
以上のようにして、基材F上に位相差フィルム(液晶配向固化フィルムまたは硬化フィルム)が形成される。得られた位相差フィルムは、基材Fから所望の光学部材に転写して用いてもよく、基材Fと位相差フィルムの積層体をそのまま用いてもよい。
【0026】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
1.ラビング処理
基材Fとして、親水化処理を施した易接着ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを使用し、その表面に厚み0.5μmのポリビニルアルコール(PVA)配向膜を形成した。当該基材(の配向膜)に対して、図1および図2に示すようなラビングロールを用いてラビング処理を施した。搬送ベルト3表面の鏡面仕上げは表面粗さRa=0.01μm、駆動ロール1および2の外径は550mm、基材の搬送速度は5m/分、バックアップロール機構を構成する各バックアップロールの外径はすべて90mm、隣接する各バックアップロールの回転軸方向の中心間距離はすべて80mm、各バックアップロールの回転軸方向の幅はすべて30mmとした。また、ラビングロール4(起毛布4aを含む)の半径は76.89mmとし、レーヨン製の起毛布を巻回したものを用いた。ラビングロールの起毛布の布厚は、1.8mmであった。ラビング処理は、基材の搬送方向Aに対して直交方向から45°ずらした方向に行った。ラビングロール4の回転数は1300rpm、押し込み量は0.5mmとした。なお、配向膜の厚み測定には、大塚電子製の分光光度計:MCPD2000を用いた。
【0028】
2.位相差フィルムの作製
ネマチック液晶相を示す重合性液晶化合物(BASF社製、商品名「Paliocolor LC242」)0gと、この重合性液晶化合物に対する光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名「イルガキュア907」)0.03gとを、固形分が20重量%となるようにトルエンで希釈し、塗布液を調製した。上記基材Fのラビング処理表面に、上記塗布液をキャップコーターにより塗布した。次いで、90℃で2分間加熱処理し、液晶化合物を配向させた。このようにして得られた液晶層に、メタルハライドランプを用いて100mJ/cm(積算光量)の紫外線を照射し、該液晶層を硬化させることによってnx>ny=nzの屈折率分布を有する正の一軸性位相差フィルム(コーティングAプレート)を形成した。位相差フィルムの厚みおよび面内位相差は、塗布液の塗布量を変えることにより調整し、厚みを1.4μm、目標とする面内位相差Re(590)を140nmとした。ここで、Re(590)は、23℃における波長590nmの光で測定したフィルム面内の位相差をいい、Re(590)=(nx−ny)×dで求められる。nxは面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、nyは面内で遅相軸に垂直な方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、d(nm)はフィルムの厚みである。なお、厚み方向位相差Rth(590)はRth(590)=(nx−nz)×dで求められ、本実施例においてはny=nzであるので、Rth(590)もまた140nmである。nzは、フィルム厚み方向の屈折率である。
【0029】
(実施例2)
押し込み量を0.20mmとしたこと以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムを作成した。
【0030】
(実施例3)
ラビングロールの起毛布の布厚を2.0mmとしたこと以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムを作成した。
【0031】
(比較例1)
ラビングロールの起毛布として布厚2.0mmのコットン布を用いたこと以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムを作成した。
【0032】
(比較例2)
押し込み量を0.60mmとしたこと以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムを作成した。
【0033】
(比較例3)
ラビングロールの起毛布の布厚を1.7mmとしたこと以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムを作成した。
【0034】
(比較例4)
ラビングロールの起毛布の布厚を2.1mmとしたこと以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムを作成した。
【0035】
(比較例5)
押し込み量を0.10mmとしたこと以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムを作成した。
【0036】
(比較例6)
ラビングロールの起毛布の布厚を2.2mmとしたこと、および、押し込み量を0.10mmとしたこと以外は実施例1と同様にして、位相差フィルムを作成した。
【0037】
(評価結果)
(1)ラビングスジ
実施例および比較例で得られたフィルムを目視により観察した。ラビングスジが認識できない場合を○、ラビングスジが認められる場合を×とした。
【0038】
(2)直交透過率
実施例および比較例で得られた位相差フィルムを、それぞれの偏光子の吸収軸が直交する2枚の偏光板(日東電工製、商品名UEG1723)の間に配置し、日立製作所社製U−4100により直交透過率を測定した。
【0039】
(3)静電気量
デジタル式静電気測定器(春日電機社製、KSD−0108)を用いて、フィルムからの距離10cmで測定した。
【0040】
(4)輝点数
23℃の暗室でバックライトを点灯させてから30分経過した後、黒表示を行い、その表示面を目視によって観察した。以下の基準で評価した。
○:輝点が観測されないか、観測されたとしても実用上問題となるレベルではなかった
×:輝点が数多く観測され、実用上問題となるレベルであった
【0041】
(5)コントラスト
実施例および比較例で得られた位相差フィルムをソニー社製:商品名「プレイステーションポータブル(PSP)」液晶セルに図3の概念図に示すように実装して、トプコン社製BM5を用いて黒輝度および白輝度を測定した上でコントラスト比を算出し、評価した。実装の具体的手順については下記の通りである。
【0042】
ネマチック液晶相を示す重合性液晶化合物(BASF社製、商品名「Paliocolor LC242」)90重量部、カイラル剤(BASF社製、商品名「Paliocolor LC756」)10重量部、光重合開始剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名「イルガキュア907」)5重量部、およびメチルエチルケトン300重量部を均一に混合し、液晶組成物を調製した。この液晶組成物を基材(二軸延伸PETフィルム)上にスピンコーティング法を用いてコーティングした。次いで、80℃で3分間加熱処理し、さらに紫外線(20mJ/cm、波長365nm)を照射して重合処理し、nx=ny>nzの屈折率分布を有するネガティブCプレート(コレステリック配向硬化層)を基材上に形成した。ネガティブCプレートの厚みは2.0μm、面内位相差Re(590)は0nm、厚み方向位相差Rth(590)は120nmであった。このようにして得られたネガティブCプレートを、上記PSPから取り出した液晶セルの両面にそれぞれアクリル系粘着剤(厚み20μm)を介して貼り付けた。
【0043】
次いで、上記貼り付けられたネガティブCプレートの外側(液晶セルと反対側)にそれぞれ、実施例または比較例で得られた位相差フィルムを、アクリル系粘着剤(厚み12μm)を介して貼り付けた。
【0044】
さらに、上記貼り付けられた位相差フィルムの外側(ネガティブCプレートと反対側)にそれぞれ、偏光板(日東電工製、TEG5456DU)を、アクリル系粘着剤(厚み12μm)を介して貼り付けて、液晶パネルを作製した。このとき、位相差フィルムの遅相軸と偏光板の偏光子の吸収軸との軸角度が図5に示すような関係となるように、各フィルムを貼り付けた。
【0045】
評価結果を下記表1に示す。
【表1】

【0046】
表1から明らかなように、実施例1〜3では、ラビングロールの起毛布の材質をレーヨンとし、布厚を1.8mm〜2.0mmとし、かつ、押し込み量を0.2mm〜0.5mmとすることにより、ラビングスジ、直交透過率およびコントラストのいずれについても良好な結果を得ることができた。一方、これらのうちの1つでも範囲から外れると、ラビングスジ、直交透過率およびコントラストのいずれもが、大きく低下した。したがって、起毛布の材質と布厚と押し込み量とを特定して組み合わせることにより、相乗効果的に、優れた光学特性を有する位相差フィルムが得られることがわかる。さらに、ラビングロールの起毛布の材質と布厚と押し込み量とを適切に設定することにより、起毛布の静電気量が適切な範囲となり、輝点数が改善され得る。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の製造方法により得られる位相差フィルムは、液晶表示装置、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ等の各種画像表示装置に好適に用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、本発明の好ましい実施形態による位相差フィルムの製造方法におけるラビング処理工程を説明するための模式図である。
【図2】(a)は、図1のラビングロールの回転軸方向から見た概略断面図であり、(b)はラビングロールの起毛布の植毛状態を説明するための模式平面図である。
【図3】実施例におけるコントラスト評価で用いた位相差フィルムの実装状態を説明する側方概念図である。
【符号の説明】
【0049】
4 ラビングロール
4a 起毛布
100 ラビング処理装置
A 搬送方向
F 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面をラビング処理する工程と、
該基材のラビング処理された表面に液晶化合物を塗布する工程と、を含み
該ラビング処理工程に用いられるラビングロールの起毛布がレーヨン製であり、布厚が1.8mm〜2.0mmであり、ラビング布の押し込み量が0.2mm〜0.5mmである
位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記ラビング処理工程における前記起毛布の静電気量が50V〜200Vである、請求項1に記載の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−128731(P2009−128731A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305235(P2007−305235)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】