説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】延伸装置に供給する原反を交換することなく、1種類の原反から、位相差値が同一かつ波長分散性が異なる複数種の位相差フィルムを製造する方法を提供する。
【解決手段】固有複屈折が正の樹脂(A)からなる樹脂層と固有複屈折が負の樹脂(B)からなる樹脂層とを有し、樹脂(A),(B)間のガラス転移温度の差ΔTgが5〜15℃である帯状の原反を延伸装置を用いて延伸して位相差フィルムを得る第1工程と、延伸装置において原反を交換せずに延伸温度を第1工程から変更して、得られる位相差フィルムの波長分散性を制御するとともに、その位相差値を延伸倍率により制御して、第1工程で得たフィルムとは位相差値が同一、波長分散性違いの位相差フィルムを得る第2工程とを含み、第2工程において、前記ΔTgを有する原反が示す、延伸温度と得られた位相差フィルムが示す波長分散性との関係に基づき、延伸温度を第1工程から変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造を有する位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)などの画像表示装置に、色調の補償、視野角の補償などを目的として、位相差フィルムが組み込まれる。位相差フィルムは、一般に、樹脂フィルムの延伸体からなる。樹脂フィルムに含まれる重合体が配向して生じる複屈折により、位相差が得られる。
【0003】
樹脂フィルムの延伸体が2以上積層された構造を有する位相差フィルムがある。このような積層構造を有する位相差フィルムとすることによって、その光学特性、例えば位相差の波長分散性、が制御される。特許文献1には、位相差の値および波長分散性が異なる2種の位相差フィルムを、互いの光軸が直交するように接着、積層した位相差フィルムが開示されている。特許文献2には、λ/4板およびλ/2板を互いの光軸が交差するように貼り合わせた位相差フィルムが開示されている。特許文献1,2では、可視光域の全体にわたって特定の波長板として機能しうる位相差フィルムの実現が試みられている。しかし、光学特性が異なる2種以上の位相差フィルムを互いの光軸に留意しながら接着、貼り合わせる方法は、連続生産が困難であり、生産性に劣る。
【0004】
画像表示装置の表示特性向上のために、少なくとも可視光域において光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる波長分散性(逆波長分散性)を示す位相差フィルムが望まれる。特許文献3には、固有複屈折が正の樹脂からなる層と固有複屈折が負の樹脂からなる層とが積層された積層フィルムである原反を特定の方向に一軸延伸して、両層の延伸体からなる積層構造を有する位相差フィルムを得る方法が開示されている。この方法では、波長分散性がフラットな位相差フィルムならびに逆波長分散性を示す位相差フィルムが実現できる。これに加えて特許文献3の方法では、双方の層を積層した後に延伸を加えるため、当該位相差フィルムの連続生産、例えば、層自体の押出成形から位相差フィルムの形成までを一貫して行う生産、が可能である。
【0005】
本明細書では、少なくとも可視光域において光の波長が短くなるほど位相差が小さくなる波長分散性を、一般的な高分子ならびに当該高分子により形成された光学フィルムが示す位相差の波長分散性とは逆であることに基づいて、「逆波長分散性」と呼ぶ。これ以降、「波長分散性」は、位相差フィルムが示す「位相差の波長分散性」を意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-27118号公報
【特許文献2】特開平10-68816号公報
【特許文献3】特開2009-237534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
位相差フィルムに望まれる波長分散性は、その用途によって異なる。用途が同じ、例えばLCDの光学補償に用いる位相差フィルムであったとしても、各種LCDの光学的な設計事項に対応して、異なる波長分散性を示す位相差フィルムが求められる。これに加えて、λ/4板など、特定の位相差の値を示す位相差フィルムが求められており、位相差の値が同一でありながら波長分散性が異なる位相差フィルムを効率よく得ることができる製造方法の実現が望まれる。
【0008】
従来、積層構造を有する位相差フィルムであって、位相差の値が同一でありながら波長分散性が異なる位相差フィルムを得るために、原反である積層樹脂フィルムの構成、例えば、各層を構成する樹脂の組成ならびに各層の厚さなど、を個別に選択することが行われている。換言すれば、当該位相差フィルムを得るために、延伸する原反を、その構成が異なるものに逐一交換する必要がある。これは、位相差フィルムの製造コストが増大する要因となる。特に、原反あるいは原反を構成する層自体の押出成形から位相差フィルムの形成までを一貫して行う場合に、押出成形機の内部を逐一、新たな樹脂で「洗う」必要があるなど、製造コストの増大が著しい。また、特定の波長分散性を示す位相差フィルムを必要な量だけ発注するといった位相差フィルムユーザーの要求に柔軟に対応することが困難である。
【0009】
本発明は、逆波長分散性を示す位相差フィルムを製造可能であるとともに、位相差の値が同一かつ波長分散性違いの位相差フィルムを得るために原反の交換を必要とせず、1つの原反からこのような位相差フィルムが得られる、位相差フィルムの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の製造方法は、正の固有複屈折を有する樹脂(A)からなる樹脂層Aと、負の固有複屈折を有する樹脂(B)からなる樹脂層Bとを有し、前記樹脂(A),(B)間のガラス転移温度の差ΔTgが5℃以上15℃以下である帯状の積層樹脂フィルムを原反として、前記原反を延伸装置を用いて延伸して位相差フィルムを得る第1工程と、前記延伸装置において前記原反を交換することなく、前記延伸装置における前記原反の延伸温度を前記第1工程から変更して、前記原反の延伸により形成される位相差フィルムが示す位相差の波長分散性を制御するとともに、当該位相差フィルムが示す位相差の値を前記延伸装置における前記原反の延伸倍率により制御して、前記第1工程で得た位相差フィルムとは位相差の波長分散性が異なるが位相差の値が同一である位相差フィルムを得る第2工程と、を含み、前記第2工程において、前記ΔTgを有する前記原反が示す、延伸時の延伸温度と当該延伸により形成された位相差フィルムが示す位相差の波長分散性との関係に基づいて、前記延伸温度を前記第1工程から変更する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法では、原反である、正の固有複屈折を有する樹脂(A)からなる樹脂層Aと、負の固有複屈折を有する樹脂(B)からなる樹脂層Bとを有する積層樹脂フィルムを延伸して位相差フィルムを形成する。延伸によって樹脂層A,Bに含まれる重合体が配向すると、延伸後の樹脂層A,Bのそれぞれに重合体の配向による複屈折が生じ、位相差が発現する。ここで、樹脂(A),(B)の固有複屈折の正負が互いに逆であるため、樹脂層A,Bにより生じた複屈折が互いに打ち消し合う。そして、複屈折が打ち消し合う程度が波長により異なるために、得られた位相差フィルムの波長分散性の制御が可能となる。本発明の製造方法では、例えば、可視光域においてフラットな波長分散性を示す位相差フィルムあるいは逆波長分散性を示す位相差フィルムが得られる。
【0012】
これに加えて、本発明の製造方法では、原反の樹脂層A,Bを構成する樹脂(A),(B)間のガラス転移温度の差ΔTgが5℃以上15℃以下である。樹脂層を延伸する際に、当該層に含まれる重合体が配向する程度は、当該層のガラス転移温度(Tg)と延伸温度との大小関係および温度差に大きく影響される。具体的には、延伸温度が層のTgよりも低いほど(過度に低い場合は、樹脂層が破断するなど、延伸そのものが不可能となるが)重合体の配向の程度が強くなり、生じる複屈折が大きくなる。その影響の大きさは、延伸温度がTgからどれだけ離れた領域で変化するかによっても異なる。例えば、延伸温度が同じだけ変化した場合においても、そもそもの延伸温度が層のTgから離れていたときほど、延伸温度の当該変化によって生じる複屈折の変化が大きい。すなわち、Tgが異なる樹脂層間では、延伸温度の変化に伴って生じる複屈折の変化量が各層で異なる。
【0013】
2以上の延伸樹脂層が積層された位相差フィルムでは、各層において生じる複屈折の打ち消し合いによって波長分散性が定まる。このため、当該位相差フィルムでは、延伸温度の変化によってその波長分散性が変化する。樹脂層A,Bを構成する樹脂(A),(B)間のΔTgが5℃以上15℃以下の場合、すなわち、5℃以上15℃以下のΔTgを有する原反では、延伸時の延伸温度と、当該延伸により形成された位相差フィルムが示す波長分散性との間に、位相差フィルムとしての波長分散性の制御に適した関係が成立する。ΔTgが5℃未満になると、延伸温度の変化による波長分散性の変化が小さすぎて、位相差フィルムとしての波長分散性の制御が困難である。ΔTgが15℃を超えると、延伸時の延伸温度と、当該延伸により形成された位相差フィルムが示す波長分散性との間に、波長分散性の制御に適した関係が成立しない。一方、2以上の延伸樹脂層が積層された位相差フィルムが示す位相差の値は、各層において生じる複屈折の大きさに純粋に依存するため、延伸倍率による制御が可能である。
【0014】
本発明者らが見出したこれらの知見に基づき、本発明の製造方法では、5℃以上15℃以下のΔTgを示す原反を用い、上記第1,第2工程を実施することによって、位相差の値が同一ながら波長分散性が異なる位相差フィルムを得るために原反の交換を必要とせず、1つの原反から、同一の延伸装置を用いて、位相差値が同一かつ波長分散性違いの位相差フィルムが得られる。
【0015】
なお、延伸時の延伸温度と、当該延伸により形成された位相差フィルムが示す波長分散性との間に成立する関係は、典型的には、比例関係である。ただし、比例関係は、必ずしも一次直線である必要はなく、延伸温度の変化に伴って比例の傾きが変化してもよい。傾きは連続的に変化しても段階的に変化してもよく、段階的に変化した場合、延伸温度と波長分散性との関係を表すグラフを描いたときに屈曲点が生じることがある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の製造方法の一例を示す模式図である。
【図2】図1に示す製造方法において形成した位相差フィルムの一例を示す模式図である。
【図3】本発明の製造方法の別の一例を示す模式図である。
【図4】実施例で評価した、原反の延伸温度と当該原反の延伸により形成された位相差フィルムの波長分散性との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書における「樹脂」は「重合体」よりも広い概念である。樹脂は、例えば1種または2種以上の重合体から構成されてもよいし、必要に応じて、重合体以外の材料、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラーなどの添加剤、相溶化剤、安定化剤などを含んでいてもよい。ただし、樹脂が2種以上の重合体から構成される場合、位相差フィルムとしての使用のために、重合体同士は互いに相溶する必要がある。
【0018】
樹脂のガラス転移温度(Tg)はJIS K7121に準拠して求めることができる。樹脂が2種以上の重合体から構成される場合においても、当該重合体同士は互いに相溶しているため、測定されるTgは基本的に1点である。重合体に基づくTgが2点以上測定される場合には、樹脂における各重合体の含有率(重量%)を基準として各Tgの加重平均を求め、これを樹脂のTgとすればよい。添加剤等については、それが低分子である場合、樹脂のTgに影響を与えない。添加剤がポリマー成分を有する粒子、例えば、機械的特性の向上を目的として位相差フィルムに加えられるゴム質粒子である場合、当該粒子に由来するTgが測定される場合がある。しかし、この場合、これらの粒子に由来するTgと、フィルムを構成する重合体に由来するTgとは容易に区別することが可能であり、後者を樹脂のTgとすればよい。これらの粒子は原反の延伸により配向せず、すなわち、位相差フィルムの波長分散性および位相差の値に影響を与えない。
【0019】
樹脂の固有複屈折の正負は、樹脂に含まれる重合体の分子鎖が一軸配向した層(例えば、当該樹脂の一軸延伸フィルム)において、当該層の主面に垂直に入射した光のうち、当該層における分子鎖が配向する方向(配向軸)に平行な振動成分に対する「層の屈折率n1」から、配向軸に垂直な振動成分に対する「層の屈折率n2」を引いた値「n1−n2」に基づいて判断できる。固有複屈折の値は、樹脂に含まれる各々の重合体に対して、その分子構造に基づく計算を行うことにより求めることができる。樹脂の固有複屈折の正負は、当該樹脂に含まれる各重合体により生じる複屈折の兼ね合いにより決定される。一の重合体からなる樹脂の固有複屈折の正負は、当該重合体の固有複屈折の正負と同一である。
【0020】
本明細書では、2つの位相差フィルムが示す位相差の差が±5nm以内である場合、当該2つの位相差フィルムが示す位相差は同一であるとする。
【0021】
原反である積層樹脂フィルムは、樹脂層Aと樹脂層Bとを有する。原反における樹脂層A,Bの層数および積層パターンは限定されない。原反が樹脂層Aを2層以上有するとき、全ての樹脂層Aが同一の樹脂(A)からなっても、一部の樹脂層Aが、他の樹脂層Aとは異なる樹脂(A)からなってもよい。樹脂層Bおよび樹脂(B)についても同様である。積層パターンは、例えば、樹脂層A/樹脂層B、樹脂層A/樹脂層B/樹脂層A、樹脂層B/樹脂層A/樹脂層Bである。
【0022】
原反は、本発明の効果が得られる限り、樹脂層A,B以外の層を有していてもよい。当該層は、例えば、形成される位相差フィルムの光学特性に影響を与えない粘着層である。当該層が、延伸により複屈折を発現する樹脂層である場合、原反を構成する各樹脂層間におけるガラス転移温度の差ΔTgは、全て5℃以上15℃未満であることが好ましい。原反は、典型的には、樹脂層A,Bからなる。
【0023】
原反は、典型的には、未延伸の積層フィルムであるが、本発明の効果が得られる限り、少なくとも1つの樹脂層が予め延伸されていてもよい。
【0024】
本発明の製造方法は、原反である帯状の積層樹脂フィルムを延伸装置を用いて延伸して位相差フィルムAを得る第1工程と;延伸装置における原反の延伸温度を第1工程から変更して、原反の延伸により形成される位相差フィルムが示す位相差の波長分散性を制御するとともに、当該位相差フィルムが示す位相差の値を延伸装置における原反の延伸倍率により制御して、第1工程で得た位相差フィルムとは位相差の波長分散性が異なるが位相差の値が同一である位相差フィルムBを得る第2工程と;を含む。第2工程は、延伸装置において、第1工程に用いた原反を交換することなく行われる。第2工程では、5℃以上15℃以下のΔTgを有する原反が示す、延伸時の延伸温度と当該延伸により形成された位相差フィルムが示す波長分散性との関係に基づいて、延伸温度を第1工程から変更する。位相差フィルムA,Bは、樹脂層A,Bの延伸体(延伸樹脂層A,B)を有する。位相差の値は、例えば面内位相差である。
【0025】
図1に、本発明の製造方法の一例を示す。図1に示す方法では、原反である帯状の積層樹脂フィルム1を、当該原反1が巻回されたロール2から延伸装置3に送り出し、送り出された原反1を延伸装置3で延伸して、帯状の位相差フィルム4を形成している。原反1は、正の固有複屈折を有する樹脂(A)からなる樹脂層Aと、負の固有複屈折からなる樹脂(B)からなる樹脂層Bとを有し、樹脂(A),(B)間のガラス転移温度の差ΔTgは5℃以上15℃以下である。原反1の延伸により形成された位相差フィルム4は、巻回されてロール5となる。ここで、延伸装置3に送り出す原反1を交換することなく、延伸装置3における原反1の延伸温度および延伸倍率を変更する。延伸温度および延伸倍率の変化前における位相差フィルム4の形成が第1工程に相当し、そのとき形成された位相差フィルム4が位相差フィルムAに相当する。一方、延伸温度および延伸倍率の変化後における位相差フィルム4の形成が第2工程に相当し、そのとき形成された位相差フィルム4が位相差フィルムBに相当する。ただし、延伸温度および延伸倍率を変化させた後、製造系が安定するまでは、位相差フィルムBが形成されないことがある。
【0026】
第2工程で行われる、延伸装置3における原反1の延伸温度の変更は、形成される位相差フィルム4の波長分散性を調整し、望む波長分散性を示す位相差フィルム4を得るために必要である。延伸温度の変更の基準となる上記関係は、例えば、使用する原反1について予め当該関係を評価して得たデータを、表あるいはグラフなどの形式により保持しておくとよい。この場合、当該データに基づいて、望む波長分散性に対応する延伸温度を導き出し、導き出した当該温度へ、原反1の延伸温度を変更するとよい。
【0027】
第2工程における原反1の延伸倍率の変更は、延伸温度を変更した後の第2工程において得られる位相差フィルム4の位相差値を調整し、第1工程と同一の位相差値を得るために行われる。このため、延伸温度の変更による位相差フィルム4の位相差値の変化が僅かである場合、延伸倍率の変更量(調整量)も僅かあるいはほとんどゼロとなることがある。
【0028】
第2工程における原反1の延伸温度および延伸倍率の変更は、同時に行ってもよいし、延伸温度を変更した後に延伸倍率を変更してもよい。前者の場合、例えば、使用する原反1について、予め上記関係を評価して得たデータならびに延伸倍率と得られる位相差値との関係を評価して得たデータを、表あるいはグラフなどの形式により保持しておくとよい。当該データ群に基づいて、原反1の延伸温度および延伸倍率を変更する。後者の場合、例えば、上記データ群に基づいて、原反1の延伸温度を変更した後に延伸倍率を変更してもよいし、延伸温度の変更後における位相差フィルム4が示す位相差の値に基づいて延伸倍率を制御して(変更して)、第1工程で得た位相差フィルム4と位相差の値が同一である位相差フィルム4を得てもよい。
【0029】
延伸温度および延伸倍率の変更(延伸条件の変更)は、原反1を延伸装置3に送り出しながら行ってもよいし、原反1の延伸装置3への送り出しを一時停止した状態で行ってもよい。いずれの場合においても、図2に示すように、延伸条件の変更の前に延伸された部分A(位相差フィルムA)と、延伸条件の変更の後に延伸された部分B(位相差フィルムB)とを有する帯状の位相差フィルム4が得られる。位相差フィルム4の部分A,B間では、位相差の値が同一であり、波長分散性が互いに異なる。部分Cは、延伸装置3における原反1の延伸条件が変化し、新たな延伸条件で安定するまでに当該装置3で延伸された部分に対応する。原反1の延伸装置3への送り出しを一時停止した状態で延伸条件を変更することにより、形成される部分Cの量の低減が図れる。なお、図2はあくまでも模式図であり、実際に形成した位相差フィルム4における部分A,Cの境界および部分B,Cの境界は、必ずしも図2に示すように明確であるとは限らない。図2に示す位相差フィルム4は、その右側が、原反1の送り出し方向(位相差フィルム4の巻き取り方向)に対応する。
【0030】
図3に、本発明の製造方法の別の一例を示す。図3に示す製造方法では、図1に示す製造方法と同様に、延伸装置3で原反1を延伸して位相差フィルム4を形成している。そして、形成した帯状の位相差フィルム4における、延伸条件の変更の前に延伸された部分Aと延伸条件の変更の後に延伸された部分Bとを、切断・切り替え装置6により互いに切り離して、部分Aを含む帯状の位相差フィルム4a(位相差フィルムA)と、部分Bを含む帯状の位相差フィルム4b(位相差フィルムB)とを得ている。位相差フィルム4a,4bは、それぞれ巻回されてロール5a,5bとなる。このように、本発明の製造方法は、第1および第2工程によって形成した位相差フィルムにおける、延伸条件の変更前に延伸された部分A(第1工程で形成された位相差フィルムA)と、延伸条件の変更後に延伸された部分B(第2工程で形成された位相差フィルムB)とを互いに切り離して、それぞれの位相差フィルムを個別に得る工程をさらに含んでいてもよい。部分Aと部分Bとを切り離すために位相差フィルム4を切断する位置は、任意に設定できる。
【0031】
第1および第2工程における原反の延伸は、公知の方法に従えばよい。延伸方法は、例えば、一軸延伸および二軸延伸である。
【0032】
延伸装置3は、当業者であれば、公知の装置を採用し、または公知の装置を応用して構築できる。切断・切り替え装置6についても同様である。
【0033】
図1,3に示す例において原反1はロール2から供給されて延伸されるが、延伸のための原反の供給方法は限定されない。例えば、原反の形成(例えば、押出成形)から、当該原反の延伸までを一貫して連続的に行ってもよい。
【0034】
原反である積層樹脂フィルムの形成方法は限定されない。原反は、例えば、樹脂(A)および(B)の共押出成形により形成でき、この場合、位相差フィルムの製造コストが低減する。また、原反の形成から位相差フィルムの製造までを連続的に行うことも可能となる。原反は、樹脂(A)からなる樹脂層Aと、樹脂(B)からなる樹脂層(B)とを別個に形成し、形成した当該樹脂層A,Bを互いに積層することで形成してもよい。
【0035】
本発明の製造方法では、少なくとも可視光域においてフラットな波長分散性を示す位相差フィルムならびに逆波長分散性を示す位相差フィルムが得られる。
【0036】
本発明の製造方法では、延伸条件により、大きな面内位相差を示す位相差フィルムが得られる。例えば、波長590nmの光に対する面内位相差が100〜150nmである位相差フィルムが得られる。当該位相差フィルムは、λ/4板としての使用に好適である。
【0037】
本発明の製造方法では、本発明の効果が得られる限り、第1および第2工程以外の任意の工程を有していてもよい。当該工程は、例えば、形成した位相差フィルムに対してさらなる層(例えば樹脂層)を積層する工程、あるいは形成した位相差フィルムに対してコーティング処理、表面処理などの後加工を施す工程である。
【0038】
以下、樹脂(A),(B)について説明する。
【0039】
樹脂(A),(B)は、それぞれ正の固有複屈折および負の固有複屈折を有するとともに、位相差フィルムとして使用できる樹脂である限り、限定されない。
【0040】
樹脂(A),(B)から選ばれる少なくとも1つの樹脂のTgが110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることがさらに好ましい。樹脂(A),(B)の双方の樹脂のTgが110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることがさらに好ましい。この場合、耐熱性に優れる位相差フィルムが得られる。耐熱性に優れる位相差フィルムでは、画像表示装置における光源の近傍に配置される場合など、使用時に位相差フィルムが熱に晒される場合においても、当該フィルムが示す位相差の経時的な変動が抑制される。また、耐熱性の向上によって後加工の際の加工温度を上げられるため、位相差フィルムの生産性がさらに高くなる。
【0041】
樹脂(A),(B)から選ばれる少なくとも1つが主鎖に環構造を有する重合体を主成分として含むことが好ましく、双方の樹脂が当該重合体を主成分として含むことが好ましい。この場合、当該重合体を主成分として含む樹脂のTgが上昇する。また、環構造の種類によっては、位相差フィルムが示す位相差が大きくなる。主成分とは、含有率が最大の成分をいい、当該含有率は通常50重量%以上であり、60重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましい。
【0042】
[樹脂(A)]
樹脂(A)は、典型的には、正の固有複屈折を有する重合体(C)を主成分として含む。樹脂(A)は重合体(C)からなってもよい。
【0043】
重合体(C)は、例えば、(メタ)アクリル重合体、シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体から選ばれる少なくとも1種である。シクロオレフィン重合体およびセルロース誘導体は、主鎖に環構造を有する。
【0044】
(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である環構造をさらに含む重合体の場合、(メタ)アクリル酸エステル単位および環構造の合計が全構成単位の50モル%以上であれば、(メタ)アクリル重合体となる。
【0045】
シクロオレフィン重合体は、シクロオレフィン単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。
【0046】
セルロース誘導体は、トリアセチルセルロース(TAC)単位、セルロースアセテートプロピオネート単位、セルロースアセテートブチレート単位、セルロースアセテートフタレート単位などの繰り返し単位を、全構成単位の50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70モル%以上有する重合体である。
【0047】
重合体(C)は、(メタ)アクリル重合体が好ましい。(メタ)アクリル重合体は、透明度が高く、表面強度などの機械的特性に優れる。このため、画像表示装置への使用に好適な位相差フィルムが得られる。
【0048】
(メタ)アクリル重合体は、主鎖に環構造を有することが好ましい。
【0049】
(メタ)アクリル重合体が主鎖に有していてもよい環構造は、例えば、エステル基、イミド基または酸無水物基を有する環構造である。環構造は、当該環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体に対して、正の固有複屈折を与える作用を有することが好ましい。
【0050】
より具体的には、環構造は、ラクトン環構造、グルタルイミド構造または無水グルタル酸構造である。これらの環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体は、大きな正の固有複屈折を有する。このため、当該重合体を主成分として含む樹脂(A)からなる樹脂層Aとすることによって、波長分散性の制御の自由度がさらに向上する。
【0051】
環構造は、ラクトン環構造および/またはグルタルイミド構造が好ましく、ラクトン環構造がより好ましい。これらの環構造、特にラクトン環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体は、配向によって生じる複屈折の波長分散性が特に小さい。このため、樹脂層Bを構成する樹脂(B)との組み合わせによっては、波長分散性の制御の自由度がさらに向上する。
【0052】
ラクトン環構造は特に限定されず、例えば、以下の式(1)に示す構造である。
【0053】
【化1】

【0054】
式(1)において、R1、R2およびR3は、互いに独立して、水素原子または炭素数1〜20の範囲の有機残基である。当該有機残基は酸素原子を含んでいてもよい。
【0055】
有機残基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素数が1〜20の範囲のアルキル基;エテニル基、プロペニル基などの炭素数が1〜20の範囲の不飽和脂肪族炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの炭素数が1〜20の範囲の芳香族炭化水素基;上記アルキル基、上記不飽和脂肪族炭化水素基または上記芳香族炭化水素基における水素原子の1つ以上が、水酸基、カルボキシル基、エーテル基およびエステル基から選ばれる少なくとも1種の基により置換された基;である。
【0056】
式(1)に示すラクトン環構造は、例えば、メタクリル酸メチル(MMA)と2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)とを含む単量体群を共重合した後、得られた共重合体における隣り合ったMMA単位とMHMA単位とを脱アルコール環化縮合させて形成できる。このとき、R1はH、R2はCH3、R3はCH3である。
【0057】
グルタルイミド構造は、以下の式(2)に示す環構造である。グルタルイミド構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体群を重合した後、得られた重合体をメチルアミンなどのイミド化剤によりイミド化して形成できる。
【0058】
【化2】

【0059】
式(2)において、R4、R5およびR6は、互いに独立して、水素原子または式(1)における有機残基として例示した基である。
【0060】
無水グルタル酸構造は、以下の式(3)に示す環構造である。無水グルタル酸構造は、例えば、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸とを含む単量体群を共重合した後、得られた共重合体を分子内で脱アルコール環化縮合させて形成できる。
【0061】
【化3】

【0062】
式(3)において、R7およびR8は、互いに独立して、水素原子または式(1)における有機残基として例示した基である。
【0063】
式(1)〜(3)の説明において例示した、環構造を形成する各方法では、環構造の形成に用いる重合体は全て(メタ)アクリル重合体であり、形成される環構造は全て(メタ)アクリル酸エステル単位の誘導体である。
【0064】
(メタ)アクリル重合体が主鎖に環構造を有する場合、当該重合体における環構造の含有率は特に限定されないが、通常5〜90重量%であり、20〜90重量%が好ましい。当該含有率は、30〜90重量%、35〜90重量%、40〜80重量%および45〜75重量%になるほど、さらに好ましい。環構造の含有率は、特開2001-151814号公報に記載の方法により求めることができる。
【0065】
(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリルエステル単位およびその誘導体である環構造以外の構成単位を有していてもよい。
【0066】
重合体(C)は、公知の方法により製造できる。
【0067】
樹脂(A)は、2種以上の重合体(C)を含んでいてもよい。また、本発明の効果が得られる限り、重合体(C)以外の重合体を含んでいてもよい。
【0068】
樹脂(A)は、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラーなどの添加剤を含んでいてもよい。
【0069】
[樹脂(B)]
樹脂(B)は、典型的には、負の固有複屈折を有する重合体(D)を主成分として含む。樹脂(B)は重合体(D)からなってもよい。
【0070】
重合体(D)は特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル重合体である。
【0071】
(メタ)アクリル重合体は、主鎖に環構造を有することが好ましい。
【0072】
(メタ)アクリル重合体が主鎖に有していてもよい環構造は、例えば、エステル基、イミド基または酸無水物基を有する環構造である。環構造は、当該環構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体に対して、負の固有複屈折を与える作用を有することが好ましい。
【0073】
より具体的には、環構造は、N−置換マレイミド構造である。N−置換マレイミド構造を主鎖に有する(メタ)アクリル重合体は、当該構造の置換基の種類によっては、大きな負の固有複屈折を有する。このため、当該重合体を主成分として含む樹脂(B)からなる樹脂層Bとすることによって、逆波長分散性の制御の自由度がさらに向上する。
【0074】
N−置換マレイミド構造は、以下の式(4)に示す環構造である。
【0075】
【化4】

【0076】
式(4)において、R9は、水素原子、炭素数1〜6の直鎖アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基またはフェニル基であり、R10およびR11は、互いに独立して、水素原子またはメチル基である。
【0077】
(メタ)アクリル重合体が主鎖に環構造を有する場合、当該重合体における環構造の含有率は特に限定されないが、通常5〜90重量%であり、20〜90重量%が好ましい。当該含有率は、30〜90重量%、35〜90重量%、40〜80重量%および45〜75重量%になるほど、さらに好ましい。
【0078】
(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリルエステル単位およびその誘導体である環構造以外の構成単位を有していてもよい。
【0079】
重合体(D)は、公知の方法により製造できる。
【0080】
樹脂(B)は、2種以上の重合体(D)を含んでいてもよい。また、本発明の効果が得られる限り、重合体(D)以外の重合体を含んでいてもよい。
【0081】
樹脂(B)は、必要に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、フィラーなどの添加剤を含んでいてもよい。
【0082】
本発明の製造方法では、樹脂(A)が、ラクトン環構造を主鎖に有するとともに、固有複屈折が正である(メタ)アクリル重合体を主成分として含み、樹脂(B)が、N−置換マレイミド構造を主鎖に有するとともに、固有複屈折が負である(メタ)アクリル重合体を主成分として含むことが好ましい。
【0083】
本発明の製造方法により得た位相差フィルムおよび本発明の位相差フィルムは、LCDなどの画像表示装置への使用に好適である。
【実施例】
【0084】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0085】
最初に、本実施例において作製した重合体および位相差フィルムの評価方法を示す。
【0086】
[重合反応率、樹脂組成分析]
各製造例における重合反応率は、得られた重合溶液に残留する未反応単量体の量から算出した。未反応単量体の量は、ガスクロマトグラフィー(島津製作所製、GC17A)により測定した。
【0087】
[脱アルコール反応率(ラクトン環化率)]
製造例で作成した(メタ)アクリル重合体におけるラクトン環構造の含有率は、ダイナミックTG法により、以下のようにして求めた。最初に、ラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体に対してダイナミックTG測定を実施し、150℃から300℃の間の重量減少率を測定して、得られた値を実測重量減少率(X)とした。150℃は、重合体に残存する水酸基およびエステル基が環化縮合反応を開始する温度であり、300℃は、重合体の熱分解が始まる温度である。これとは別に、前駆体に含まれる全ての水酸基が脱アルコール反応を起こしてラクトン環が形成されたと仮定して、その反応による重量減少率(即ち、前駆体の脱アルコール環化縮合反応率が100%であったと仮定した重量減少率)を算出し、理論重量減少率(Y)とした。具体的には、理論重量減少率(Y)は、前駆体における、脱アルコール反応に関与する水酸基を有する構成単位の含有率から求めることができる。なお、前駆体の組成は、測定対象である(メタ)アクリル重合体の組成から導いた。次に、式[1−(実測重量減少率(X)/理論重量減少率(Y))]×100(%)により、(メタ)アクリル重合体の脱アルコール反応率を求めた。測定対象である(メタ)アクリル重合体において、求めた脱アルコール反応率の分だけラクトン環構造が形成されていると考えられる。そこで、前駆体における、脱アルコール反応に関与する水酸基を有する構成単位の含有率に、求めた脱アルコール反応率を乗じ、ラクトン環構造の重量に換算することで、アクリル樹脂におけるラクトン環構造の含有率とした。
【0088】
[重量平均分子量]
重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求めた。測定に用いた装置および測定条件は以下の通りである。
【0089】
システム:東ソー製
カラム:TSK-GEL SuperHZM-M 6.0×150 2本直列
ガードカラム:TSK-GEL SuperHZ-L 4.6×35 1本
リファレンスカラム:TSK-GEL SuperH-RC 6.0×150 2本直列
溶離液:クロロホルム 流量0.6mL/分
カラム温度:40℃
【0090】
[ガラス転移温度(Tg)]
重合体および樹脂層のTgは、ASTM-D-3418に準拠して、中点法により求めた。具体的には、示差走査熱量計(リガク製、DSC−8230)を用い、窒素フロー(50mL/分)雰囲気下、約10mgのサンプルを30℃から250℃まで昇温(昇温速度10℃/分)して得られたDSC曲線から評価した。リファレンスには、α−アルミナを用いた。
【0091】
[樹脂層の厚さ]
樹脂層の厚さは、デジマチックマイクロメーター(ミツトヨ社製)を用いて測定した。
【0092】
[面内位相差および波長分散性]
作製した位相差フィルムの面内位相差Re(波長590nmの光に対する面内位相差)は、位相差フィルム・光学材料検査装置RETS-100(大塚電子製)を用いて測定した。
【0093】
作製した位相差フィルムの波長分散性は、上記波長590nmの光に対する面内位相差[Re(590)]とは別に、波長447nmの光に対する面内位相差[Re(447)]を別途求め、これらの比[Re(447)/Re(590)]により評価した。当該比が1未満の場合、位相差フィルムは逆波長分散性を示す。
【0094】
(製造例1)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた内容積30Lの反応釜に、7000gのメタクリル酸メチル(MMA)、3000gの2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)および重合溶媒として12000gのトルエンを仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として6.0gのt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、商品名:ルペロックス570)を添加するとともに、100gのトルエンに上記t−アミルパーオキシイソノナノエート12.0gを溶解させた溶液を2時間かけて滴下しながら、約105〜110℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに4時間の熟成を行った。重合反応率は92.9%、重合により形成した(メタ)アクリル重合体におけるMHMA単位の含有率は30.2重量%であった。
【0095】
次に、得られた重合溶液に、環化縮合反応の触媒(環化触媒)として、20gのリン酸オクチル/リン酸ジオクチル混合物(堺化学製、Phoslex A-8)を加え、約80〜105℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。次に、メチルエチルケトン4000gを加えて重合溶液を希釈した後に、240℃のオートクレーブ中、加圧下(ゲージ圧にして最大2MPa)において、環化縮合反応をさらに1.5時間進行させた。
【0096】
次に、得られた重合溶液をベント付きスクリュー二軸押出機に導入し、さらに26.5gのオクチル酸亜鉛(ニッカオクチックス亜鉛18%、日本化学産業製)、4.4gの酸化防止剤(IRGANOX1010(チバスペシャリティケミカルズ製)2.2g+アデカスタブAO-412S(旭電化工業製)2.2g)および61.6gのトルエンの混合液を押出機に導入して、環化縮合反応のさらなる進行と揮発成分の脱揮とを行った。押出機への混合液の導入速度は、20g/hとした。
【0097】
次に、押出機の先端から排出された重合体を水浴で冷却し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体(C−1)からなる透明なペレットを得た。得られたペレットに対してダイナミックTGの測定を行ったところ、実測重量減少率(X)は0.21重量%であった。また、重合体(C−1)の重量平均分子量は11.0万であり、Tgは140℃であった。
【0098】
(製造例2)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた、内容積1000Lの反応釜に、30重量部のメタクリル酸メチル(MMA)、15重量部の2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル(MHMA)、5重量部のメタクリル酸n−ブチル(BMA)、重合溶媒として50重量部のトルエンおよび酸化防止剤として0.025重量部のアデカスタブ2112(ADEKA製)を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、重合開始剤として0.03重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエート(アルケマ吉富製、ルペロックス570)を添加するとともに、0.7重量部のトルエンに0.06重量部のt−アミルパーオキシイソノナノエートを溶解させた溶液を6時間かけて滴下しながら、約105〜111℃の還流下で溶液重合を進行させ、さらに2時間の熟成を行った。熟成後の重合反応率は96.2%であり、この時点で得られた中間体におけるMHMA単位の含有率は30.2重量%であった。
【0099】
次に、得られた重合溶液に、環化触媒として0.1重量部のリン酸2−エチルヘキシル(堺化学工業製、Phoslex A-8)を加え、約85〜105℃の還流下において2時間、ラクトン環構造を形成するための環化縮合反応を進行させた。これに続き、オートクレーブにより重合溶液を240℃で30分間加熱して、環化縮合反応をさらに進行させた。
【0100】
次に、このようにして得た重合溶液を、多管式熱交換機により220℃にまで昇温した後、バレル温度250℃、回転速度170rpm、減圧度13.3〜400hPa(10〜300mmHg)、リアベント数1個およびフォアベント数4個(上流側から第1、第2、第3、第4ベントと称する)のベントタイプスクリュー二軸押出機(Φ=42mm、L/D=42)に、樹脂量換算で15kg/時の処理速度で導入し、環化縮合反応のさらなる進行と脱揮とを行った。このとき、第1ベントの後から、別途準備しておいた酸化防止剤・失活剤混合溶液を0.46kg/時の注入速度で注入した。これに加えて、第2ベントの後から、別途準備しておいた紫外線吸収剤溶液を0.52kg/時の注入速度で注入した。
【0101】
酸化防止剤・失活剤混合溶液には、0.8重量部のチバスペシャリティケミカルズ製Irganox1010、0.8重量部のADEKA製アデカスタブAO−412Sおよび9.8重量部のオクチル酸亜鉛(日本化学工業製、ニッカオクチクス亜鉛18%)をトルエン88.6重量部に溶解させた溶液を用いた。
【0102】
紫外線吸収剤溶液には、75重量部のチバスペシャリティケミカルズ製TINUVIN477(有効成分80重量%)をトルエン25重量部に溶解させた溶液を用いた。
【0103】
次に、押出機の先端から排出された重合体を水浴で冷却し、ペレタイザーによりペレット化して、主鎖にラクトン環構造を有する(メタ)アクリル重合体(C−2)からなる透明なペレットを得た。重合体(C−2)の重量平均分子量は12.8万であり、Tgは128℃であった。
【0104】
(製造例3)
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入管を備えた反応装置に、単量体としてN−フェニルマレイミド(PMI)9.9重量部およびメタクリル酸メチル(MMA)32.85重量部、重合溶媒としてトルエン55.0重量部ならびに重合開始剤としてt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(化薬アクゾ製、商品名:カヤカルボンBIC-75)0.032重量部を仕込み、これに窒素を通じつつ、105℃まで昇温させた。昇温に伴う還流が始まったところで、スチレン(St)2.25重量部と上記重合開始剤0.032重量部を添加して、約105〜110℃の環流下で溶液重合を進行させ、さらに2時間の熟成を行った。
【0105】
次に、このようにして得た重合溶液を、減圧下240℃で1時間乾燥させて、MMA単位、St単位およびPMI単位からなる透明な重合体(D−1)を得た。共重合体(D−1)の組成は、MMA:St:PMI=71重量%:23重量%:6重量%である。
【0106】
共重合体(D−1)のTgは138℃であり、重量平均分子量は10.0万であった。
【0107】
(製造例4)
製造例1で作製した重合体(C−1)のペレットを、単軸押出機(シリンダー径20mm、温度280℃)およびコートハンガー型ダイ(幅150mm、温度290℃)により押出成形して、重合体(C−1)により構成された樹脂(A−1)からなる厚さ約70μmの樹脂フィルム(F1)を得た。フィルム(F1)のTgは140℃であった。
【0108】
作製したフィルム(F1)の固有複屈折の正負を調べるため、以下の評価を行った。最初に、作製したフィルム(F1)から、その流れ方向に80mm、幅方向に20mmのフィルム片を切り出した。次に、切り出したフィルム片を、その流れ方向に一軸延伸した。一軸延伸には、加温室を取り付けたオートグラフ(島津製作所製)を用い、評価対象であるフィルム(F1)のTgである140℃を延伸温度とし、延伸倍率を2倍とした。なお、フィルム片をオートグラフに取り付ける際に、当該フィルム片における流れ方向の両端部のそれぞれ20mmをチャックの取り付けしろとしたため、実質的に延伸されたフィルム片の部分は、流れ方向に40mm、幅方向に20mmであった。この延伸により形成された延伸フィルムの光軸を位相差フィルム・光学材料検査装置RETS-100(大塚電子製)を用いて評価したところ、配向角は0°近傍であり、すなわち、重合体(C−1)および当該重合体により構成された樹脂(A−1)の固有複屈折は正であった。
【0109】
(製造例5)
重合体(C−1)のペレットの代わりに、製造例2で作製した重合体(C−2)のペレットを用いた以外は製造例4と同様にして、重合体(C−2)により構成された樹脂(A−2)からなる厚さ約225μmの樹脂フィルム(F2)を得た。フィルム(F2)のTgは128℃であった。また、製造例4のフィルム(F1)と同様に評価したフィルム(F2)の配向角は0°近傍であり、すなわち、重合体(C−2)および当該重合体により構成された樹脂(A−2)の固有複屈折は正であった。ただし、フィルム(F2)から切り出したフィルム片の延伸温度は、評価対象であるフィルム(F2)のTgである128℃とした。
【0110】
(製造例6)
重合体(C−1)のペレットの代わりに、製造例3で作製した重合体(D−1)のペレットを用いた以外は製造例4と同様にして、重合体(D−1)により構成された樹脂(B−1)からなる厚さ約96μmの樹脂フィルム(F3)を得た。フィルム(F3)のTgは138℃であった。また、製造例4のフィルム(F1)と同様に評価したフィルム(F3)の配向角は90°近傍であり、すなわち、重合体(D−1)および当該重合体により構成された樹脂(B−1)の固有複屈折は負であった。ただし、フィルム(F3)から切り出したフィルム片の延伸温度は、評価対象であるフィルム(F3)のTgである138℃とした。
【0111】
(製造例7)
重合体(C−1)のペレットの代わりに、市販されているシクロオレフィン重合体のペレット(JSR製、ARTON RH5200J)を用いた以外は製造例4と同様にして、当該重合体により構成された樹脂(A−3)からなる厚さ約40μmの樹脂フィルム(F4)を得た。フィルム(F4)のTgは144℃であった。また、製造例4のフィルム(F1)と同様に評価したフィルム(F4)の配向角は0°近傍であり、すなわち、当該シクロオレフィン重合体および当該重合体により構成された樹脂(A−3)の固有複屈折は正であった。ただし、フィルム(F4)から切り出したフィルム片の延伸温度は、評価対象であるフィルム(F4)のTgである144℃とした。
【0112】
(製造例8)
重合体(C−1)のペレットの代わりに、市販されているポリスチレンペレット(東洋スチレン製、トーヨースチロールHI H650)を用いた以外は製造例4と同様にして、当該重合体により構成された樹脂(B−2)からなる厚さ約150μmの樹脂フィルム(F5)を得た。フィルム(F5)のTgは100℃であった。また、製造例4のフィルム(F1)と同様に評価したフィルム(F5)の配向角は90°近傍であり、すなわち、当該ポリスチレンおよび当該重合体により構成された樹脂(B−2)の固有複屈折は負であった。ただし、フィルム(F5)から切り出したフィルム片の延伸温度は、評価対象であるフィルム(F5)のTgである100℃とした。
【0113】
(実施例1)
製造例7で作成したフィルム(F4)と、製造例6で作成したフィルム(F3)とを、各々のフィルム形成時の流れ方向が一致するように積層して、F3/F4/F3の3層積層構造を有する積層樹脂フィルムを作成した。フィルム(F3)と(F4)とのΔTgは6℃である。
【0114】
次に、作製した積層樹脂フィルムから、その流れ方向に80mm、幅方向に20mmのフィルム片を切り出した。切り出したフィルム片を原反として、加温室を取り付けたオートグラフ(島津製作所製)を用いて以下の表1に示す延伸条件により自由端一軸延伸し、位相差フィルムを得た。延伸方向は、各フィルムの流れ方向とした。なお、フィルム片をオートグラフに取り付ける際に、当該フィルム片における流れ方向の両端部のそれぞれ20mmをチャックの取り付けしろとしたため、実質的に延伸されたフィルム片の部分は、流れ方向に40mm、幅方向に20mmであった。
【0115】
得られた位相差フィルムの特性を、延伸条件とともに以下の表1に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
表1に示すように、延伸温度の変更に伴って位相差フィルムの波長分散性が変化し、延伸倍率の調整と組み合わせることで面内位相差が同一かつ波長分散性違いの位相差フィルムが得られた。また、図4に示すように、原反の延伸温度と、延伸により形成された位相差フィルムの波長分散性との間には、位相差フィルムとしての波長分散性の制御に適した比例関係が成立していた。この関係の傾き(波長分散性の温度依存性)は、およそ0.0060/℃であった。
【0118】
(実施例2)
製造例5で作製したフィルム(F2)と、製造例6で作製したフィルム(F3)とを、各々のフィルム形成時の流れ方向が一致するように積層して、F2/F3/F2の3層積層構造を有する積層樹脂フィルムを作製した。フィルム(F2)と(F3)とのΔTgは10℃である。
【0119】
次に、作製した積層フィルムを、実施例1と同様に以下の表2に示す延伸条件により自由端一軸延伸し、位相差フィルムを得た。
【0120】
得られた位相差フィルムの特性を、延伸条件とともに以下の表2に示す。
【0121】
【表2】

【0122】
表2に示すように、延伸温度の変更に伴って位相差フィルムの波長分散性が変化し、延伸倍率の調整と組み合わせることで面内位相差が同一かつ波長分散性違いの位相差フィルムが得られた。また、図4に示すように、原反の延伸温度と、延伸により形成された位相差フィルムの波長分散性との間には、位相差フィルムとしての波長分散性の制御に適した比例関係が成立していた。この関係の傾きは、およそ0.0125/℃であった。本発明者らの検討によれば、位相差フィルムとしての波長分散性の制御に適した当該傾きは、0.0020〜0.018/℃が好ましく、0.005〜0.015/℃がより好ましい。
【0123】
(比較例1)
製造例4で作製したフィルム(F1)と、製造例6で作製したフィルム(F3)とを、各々1層ずつ、各フィルム形成時の流れ方向が一致するように積層して積層樹脂フィルムを作製した。フィルム(F1)と(F3)とのΔTgは2℃である。
【0124】
次に、作製した積層樹脂フィルムを、実施例1と同様に以下の表3に示す延伸条件により自由端一軸延伸し、位相差フィルムを得た。
【0125】
得られた位相差フィルムの特性を、延伸条件とともに以下の表3に示す。
【0126】
【表3】

【0127】
表3に示すように、延伸温度を変更しても、得られる位相差フィルムの波長分散性はほとんど変化しなかった。表3の結果および図4に示すように、原反の延伸温度と、延伸により形成された位相差フィルムの波長分散性との間には、延伸温度が変化しても波長分散性がほぼ同一となる関係が成立しており、位相差フィルムとしての波長分散性の制御に適した関係が成立していなかった。
【0128】
(比較例2)
製造例7で作製したフィルム(F4)と、製造例8で作製したフィルム(F5)とを、各々のフィルム形成時の流れ方向が一致するように積層して、F5/F4/F5の3層積層構造を有する積層樹脂フィルムを作製した。フィルム(F4)と(F5)とのΔTgは44℃である。
【0129】
次に、作製した積層樹脂フィルムを、実施例1と同様に以下の表4に示す延伸条件により自由端一軸延伸し、位相差フィルムを得た。
【0130】
得られた位相差フィルムの特性を、延伸条件とともに以下の表4に示す。
【0131】
【表4】

【0132】
表4に示すように、延伸温度の変更により、得られる位相差フィルムの波長分散性が僅かな延伸温度差によって非常に大きく変動した(上記傾きが、0.0200/℃)。表4の結果および図4に示すように、原反の延伸温度と、延伸により形成された位相差フィルムの波長分散性との間には、位相差フィルムとしての波長分散性の制御に適した関係が成立していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の製造方法により得た位相差フィルムは、LCDなどの画像表示装置への使用に好適である。
【符号の説明】
【0134】
1 原反
2 (原反1の)ロール
3 延伸装置
4 位相差フィルム
5 (位相差フィルム4の)ロール
6 切断・切り替え装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正の固有複屈折を有する樹脂(A)からなる樹脂層Aと、負の固有複屈折を有する樹脂(B)からなる樹脂層Bとを有し、前記樹脂(A),(B)間のガラス転移温度の差ΔTgが5℃以上15℃以下である帯状の積層樹脂フィルムを原反として、
前記原反を延伸装置を用いて延伸して位相差フィルムを得る第1工程と、
前記延伸装置において前記原反を交換することなく、前記延伸装置における前記原反の延伸温度を前記第1工程から変更して、前記原反の延伸により形成される位相差フィルムが示す位相差の波長分散性を制御するとともに、当該位相差フィルムが示す位相差の値を前記延伸装置における前記原反の延伸倍率により制御して、前記第1工程で得た位相差フィルムとは位相差の波長分散性が異なるが位相差の値が同一である位相差フィルムを得る第2工程と、を含み、
前記第2工程において、
前記ΔTgを有する前記原反が示す、延伸時の延伸温度と当該延伸により形成された位相差フィルムが示す位相差の波長分散性との関係に基づいて、前記延伸温度を前記第1工程から変更する、位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記第2工程において、
前記延伸温度を前記第1工程から変更して、前記原反の延伸により形成される前記位相差フィルムが示す位相差の波長分散性を制御し、
前記延伸温度の変更後における当該位相差フィルムが示す位相差の値に基づいてさらに前記延伸倍率を制御して、前記第1工程で得た位相差フィルムと位相差の値が同一である前記位相差フィルムを得る、請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
少なくとも可視光域において、波長が短くなるほど位相差が小さくなる波長分散性を示す前記位相差フィルムを得る、請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
波長590nmの光に対する面内位相差が100〜150nmの範囲にある前記位相差フィルムを得る、請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記樹脂(A),(B)から選ばれる少なくとも1つの樹脂のガラス転移温度が130℃以上である請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記樹脂(A),(B)から選ばれる少なくとも1つが、主鎖に環構造を有する重合体を主成分として含む請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−63624(P2012−63624A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208471(P2010−208471)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】