説明

位相差フィルム

【課題】高位相差を発現し、さらに延伸後のフィルム面内の位相差のバラツキが少ない、環状オレフィン系樹脂を用いた高性能な位相差フィルムを提供する。
【解決手段】位相差フィルムに用いられる環状オレフィン系樹脂組成物として、環状オレフィン系樹脂(A)と、(A)と異なる環状オレフィン系樹脂(B)と、を含み、(A)成分のガラス転移点が100℃から150℃であり、(A)成分と(B)成分とのガラス転移点の差が30℃以内であり、(A)成分と(B)成分との合計量に対して、(A)成分の含有量が70質量%以上であるものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類の環状オレフィン系樹脂を用いて、位相差性能を向上させた位相差フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年液晶表示装置の進歩は著しく、液晶表示装置は、携帯電話、パソコンモニターといった小型、中型のものだけでなく、テレビ用の大型のものまで広く用いられようとしている。液晶表示装置には様々な高分子フィルムが用いられており、その中には、液晶の色補償ために用いられる位相差フィルムがある。位相差フィルムに用いる高分子素材としてはポリカーボネート等がよく使われてきた。
【0003】
ところで、位相差フィルムは、鮮明な色彩と精細な画像を得るために、位相差が全面に均一であり、高温や高湿度なる厳しい環境下においても光学特性が変化しないことが求められる。通常ポリカーボネート(PC)からなるフィルムを延伸、配向させてなるフィルムが位相差フィルムとして用いられているが、ポリカーボネートは光弾性定数が約9×10−12cm/dyneと大きいため、複屈折が大きくなりすぎること、不均一となること、組立時や環境変化に基づいて生じた僅かな応力で位相差が変化すること等の問題があった。またポリカーボネートフィルムは、表面硬度が小さいために、フィルム製造時やデバイス組立時に傷がつきやすいという問題もあった。
【0004】
そこで、最近では環状オレフィン系樹脂と呼ばれる樹脂が注目を浴びている。環状オレフィン系樹脂とは、脂環族構造を入れて耐熱性を高め非晶性にしたポリオレフィンであり、透明性が高くまた吸水率が低いため寸法安定性に優れるという特徴がある。さらに芳香族成分を含まないため光弾性定数が極めて低いという特徴があり、テレビ用等液晶表示装置の大型化に伴いその優れた物性が次第に注目されるようになってきているのが現状である。
【0005】
一般に、位相差フィルムは、製膜したフィルムを延伸することで所望の位相差を発現させるように製造する。上記環状オレフィン系樹脂は、固有複屈折が低いことから、延伸による位相差の発現が小さいことがあり、所望の位相差値を持つ位相差フィルムを得にくいという問題が生じている。このような性質を持つ環状オレフィン系樹脂で高位相差を実現するためには、分子の配合性が優れている必要がある。すなわち、延伸によりフィルムの変形を伴いながら、分子鎖を配向させる際に分子鎖が変形に追従してまっすぐ伸びやすい構造である必要がある。
【0006】
そのような位相差を生じやすい構造の環状オレフィン系樹脂を得るために、環状オレフィンモノマー成分に由来する繰り返し単位と、非環式オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位との連続性を制御することで分子鎖の剛直性を制御する技術が開示されている(特許文献1)。
【特許文献1】国際公開WO 2006/057309号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1のような技術を用いても、所望の位相差を実現することはできない。そして、特許文献1のような、樹脂材料に含まれるモノマーの繰り返し単位やその連続性を制御する方法は、既に十分に検討されており、このような技術の改良のみでは、より位相差値の高いフィルムを得ることは困難である。
【0008】
また、環状オレフィン系樹脂を用いた位相差フィルムは従来から知られているが、上記の通り高い位相差を得るためには、分子鎖をまっすぐ伸びた構造にする必要がある。このような構造を実現するためには、延伸倍率を高くすることが効果的である。しかし、延伸倍率を高くすると、フィルム面内の位相差のバラツキが大きくなり位相差フィルムとして好適に用いることができない。
【0009】
そこで、位相差値の制御が容易であるという環状オレフィン系樹脂の性質を生かしつつ、より高位相差を発現し、さらに延伸後のフィルム面内の位相差のバラツキが少ない高性能な位相差フィルムが強く求められている。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高位相差を発現し、さらに延伸後のフィルム面内の位相差のバラツキが少ない、環状オレフィン系樹脂を用いた高性能な位相差フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、位相差フィルムに用いられる環状オレフィン系樹脂組成物が、環状オレフィン系樹脂(A)と(A)と異なる環状オレフィン系樹脂(B)との二種類の環状オレフィン系樹脂を含み、(A)成分のガラス転移点が100℃から150℃であり、(B)成分のガラス転移点と(A)成分のガラス転移点との差が30℃以内であり、(A)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分との合計量に対して、70質量%以上であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下の物を提供する。
【0012】
(1) 環状オレフィン系樹脂(A)と、(A)と異なる環状オレフィン系樹脂(B)と、を含む樹脂組成物からなるフィルムを延伸処理してなる位相差フィルムであって、前記(A)成分のガラス転移点が100℃から150℃であり、前記(A)成分と前記(B)成分とのガラス転移点の差が30℃以内であり、前記(A)成分と前記(B)成分との合計量に対して、前記(A)成分の含有量が70質量%以上である位相差フィルム。
【0013】
(2) DSCで測定したガラス転移点の転移幅ΔTg(外挿開始温度と外挿終了温度との差)が8℃以下である(1)に記載の位相差フィルム。
【0014】
ここで、ガラス転移点の転移幅ΔTgは、JIS−K7121でいう補外ガラス転移終了温度(Teg)と補外ガラス転移開始温度(Tig)の差であり、ΔTg=Teg−Tigである。
【0015】
(3) 前記(A)成分は、環状オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位40mol%から60mol%と、非環式オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位60mol%から40mol%と、を含み、前記環状オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位が二量体として存在する割合が、20mol%以上であり、前記二量体において、メソ型二連鎖部位とラセモ型二連鎖部位との比(メソ型二連鎖部位/ラセモ型二連鎖部位)が10以上であり、前記環状オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位が三量体として存在する割合が20mol%以下である(1)又は(2)に記載の位相差フィルム。
【0016】
(4) 前記(A)成分及び前記(B)成分における環状オレフィン系モノマーがノルボルネン系モノマーである(1)から(3)のいずれかに記載の位相差フィルム。
【0017】
(5) 前記(A)成分の数平均分子量が20,000から500,000であり、前記(B)成分の数平均分子量が30,000から500,000である(1)から(4)のいずれかに記載の位相差フィルム。
【0018】
(6) 一軸延伸倍率が2.0倍以下である(1)から(5)のいずれかに記載の位相差フィルム。
【0019】
(7) 一軸延伸倍率1.2倍、厚さ70μm換算で、波長590nmにおける位相差が170nm以上である(1)から(6)のいずれかに記載の位相差フィルム。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、位相差フィルムに用いられる環状オレフィン系樹脂組成物が、環状オレフィン系樹脂(A)と(A)と異なる環状オレフィン系樹脂(B)との二種類の環状オレフィン系樹脂を含み、(A)成分のガラス転移点が100℃から150℃であり、(B)成分のガラス転移点と(A)成分のガラス転移点との差が30℃以内であり、(A)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分との合計量に対して、70質量%以上であれば、単独の環状オレフィン系樹脂を用いて位相差フィルムを作製した場合等と比較して、ポリマー鎖の配向緩和が抑えられ、より高い位相差を生じさせることができる。ポリマーの配向緩和が抑制される機構については、まだ十分に解明されていないが、異なる樹脂間の分子間相互作用が強いことで配向緩和が抑制されることや、一方の樹脂の分子鎖の運動性が十分高い状態で、他方の樹脂の分子鎖の運動性が十分高くない場合には、単独の場合よりも配向緩和が抑制されること等が考えられる。
【0021】
また、本発明のように(A)成分と(B)成分とをブレンドすれば、特に延伸最中、延伸直後のポリマー鎖の配向緩和を抑えることができる。その結果、さらに位相差フィルムの位相差値を高めることができる。
【0022】
さらに、上記構成を持つ本発明の位相差フィルムは、小さな延伸倍率でも大きな位相差値を実現することができるので、位相差フィルム面内の位相差値のバラツキが小さい位相差フィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0024】
本発明の位相差フィルムは、環状オレフィン系樹脂(A)と(A)と異なる環状オレフィン系樹脂(B)とを含むことを特徴とする。上記特定の二種類の樹脂を特定の量含有することで、ポリマー鎖の配向緩和(特に延伸最中、延伸直後のポリマー鎖の配向緩和)を抑えることができ、位相差値を向上させることができる。
【0025】
<環状オレフィン系樹脂(A)>
(A)成分は、ガラス転移点が100℃から150℃の範囲にあることが特徴である。上記ガラス転移点にあるものであれば特に限定されず、以下のような環状オレフィン系樹脂を用いることができる。
【0026】
本発明に用いられる環状オレフィン系樹脂は、環状オレフィン系モノマーを共重合成分として含むものであり、環状オレフィン系モノマーを主鎖に含むポリオレフィン系樹脂である。例えば、(a1)環状オレフィンの付加重合体又はその水素添加物、(a2)環状オレフィンと非環式オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物、(a3)環状オレフィンの開環(共)重合体又はその水素添加物、を挙げることができる。
【0027】
また、本発明に用いられる環状オレフィン系モノマーを共重合成分として含む環状オレフィン系樹脂としては、(a4)上記(a1)〜(a3)の樹脂に、さらに極性基を有する不飽和化合物をグラフト及び/又は共重合したもの、を含む。極性基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、エポキシ基、アミド基、エステル基、ヒドロキシル基等を挙げることができ、極性基を有する不飽和化合物としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、マレイン酸アルキル(炭素数1〜10)エステル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル等を挙げることができる。
【0028】
本発明においては、(a2)環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物を好ましく用いることができる。
【0029】
本発明の組成物に好ましく用いられる(a2)環状オレフィンと非環式オレフィンの付加共重合体としては、特に限定されるものではない。好ましい例としては、非環式オレフィン系モノマーと、下記一般式(I)で示される環状オレフィン系モノマー(ノルボルネン)と、を含む共重合体を挙げることができる。
【0030】
【化1】

(式中、R〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基等からなる群より選ばれるものであり、RとR10、R11とR12は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、R又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。また、nは、0又は正の整数を示し、nが2以上の場合には、R〜Rは、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【0031】
非環式オレフィン系モノマーとしては、上記環状オレフィン系モノマーと共重合可能なものであれば特に限定されないが、α−オレフィンであることが好ましく、より好ましくはエチレンである。非環式オレフィン系モノマーは単独で用いてもよいし、必要に応じて2種以上を併用してもよい。
【0032】
(A)成分は、環状オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位40mol%〜60mol%と、非環式オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位60mol%〜40mol%と、を含むものであることが好ましい。より好ましくは、環状オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位45mol%〜55mol%、非環式オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位55mol%〜45mol%である。上記好ましい範囲より、環状オレフィン系モノマーの含有量が多くなると、加工に要する温度が高くなり加工性が低下しやすく、また、得られる位相差フィルムが着色しやすいので好ましくない。環状オレフィン系モノマーの含有量が少なくなると耐熱性の点で位相差フィルムとして好ましいものが得られにくい。
【0033】
(A)成分には、上記環状オレフィン系モノマー、非環式オレフィン系モノマーと共重合可能な他のモノマー成分に由来する繰り返し単位を含有してもよい。このような他のモノマー成分としては、特に限定されない。また、(A)成分において、上記他のモノマーに由来する繰り返し単位の含有量は10mol%以下であることが好ましく、より好ましくは5mol%以下であり、さらに好ましくは3mol%以下である。上記好ましい範囲を超えると耐熱性等の位相差フィルムの性能に影響があるため好ましくない。
【0034】
(A)成分は、環状オレフィン系モノマーの含有量に対して、環状オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位が二量体として存在する割合が、20mol%以上であることが好ましく、より好ましくは25mol%以上である。二量体の含有量が上記範囲にあれば、分子の配向性が向上するので、ブレンドによるポリマー鎖の配向緩和抑制の効果と併せると、従来のものと比較して極めて高い位相差性能を実現することができる。
【0035】
上記二量体の立体規則性には、下記式(II)のメソ型と下記式(III)のラセモ型とがあることが知られている。(A)成分における上記立体異性体の存在比率(メソ型二連鎖部位/ラセモ型二連鎖部位)は特に限定されないが、10以上であることが好ましく、より好ましくは12以上である。メソ型の方が分子の対称性がよく、直線状に並びやすいので、分子鎖が配向しやすくなるため、ブレンドによる効果と併せることで、さらに位相差性能を向上させることができる。一方、ラセモ型であると、環状オレフィン系モノマーの橋頭位の炭素同士の立体障害のため環状オレフィン系モノマー同士がねじれやすくなり、分子鎖が折れ曲がりやすくなる。結果として、上記立体異性体の存在比率が上記好ましい範囲を下回ると位相差発現性が低下しやすくなるため好ましくない。
【0036】
(A)成分における上記立体異性体の存在比率(メソ型二連鎖部位/ラセモ型二連鎖部位)は、二連鎖部位中の一方の立体異性体の存在割合で表すことも可能であり、二連鎖部位中のメソ型二連鎖部位の存在割合(メソ含量)は、(メソ型二連鎖部位/(メソ型二連鎖部位+ラセモ型二連鎖部位))である。
【0037】
【化2】

【0038】
【化3】

【0039】
(A)成分のガラス転移点は100℃〜150℃である。含有量の多い(A)成分のガラス転移点が100℃を下回ると得られる位相差フィルムの耐熱性が低下してしまう。一方、150℃を上回るとフィルムの靭性が低下する傾向にあり、さらに共重合体の溶融粘度が高くなりすぎてフィルムの溶融製膜が困難になる。より好ましいガラス転移点の範囲は110〜145℃である。
【0040】
(A)成分の数平均分子量は特に限定されないが20,000〜500,000であることが好ましく、より好ましくは30,000〜200,000である。上記好ましい範囲を下回ると、得られる位相差フィルムが脆くなり破断しやすくなるので好ましくない。上記好ましい範囲を上回ると溶融押出時に樹脂圧が高くなり成形が困難になったり、溶液キャスト時の適正樹脂濃度が低くなって生産性が悪化したりする場合があるので好ましくない。
【0041】
(A)成分の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は1.5〜8.0であることが好ましい。より好ましくは、1.8〜6.0である。
【0042】
分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりトルエンを溶媒として60℃で測定することができる。分子量は、示差屈折率系と差圧粘度計を用いてユニバーサルキャリブレーションを作成し、このユニバーサルキャリブレーションを使って算出した。ユニバーサルキャリブレーションの作成には標準ポリスチレンを用いた。
【0043】
また、上記環状オレフィン系樹脂(B)の分子量は、Melt Volume Rate(MVR)を指標とすることもできる。MVRは、ISO 1133に基づいて測定でき、温度260℃、荷重2.16kgで、10分間の間に排出された樹脂の体積量(mL/10分)を意味する。環状オレフィン系樹脂(B)のMVRの好ましい下限は0.3mL/10分、好ましい上限は80mL/10分である。0.3mL/10分未満であると、成形性に劣ることがあり、80mL/10分を超えると、充分な強度を有する成形体が得られないことがある。より好ましい下限は0.5mL/10分、より好ましい上限は50mL/10分である。
【0044】
(A)成分の含有量は(A)成分と後述する(B)成分との合計量に対して、70質量%以上である。70質量%を下回るとブレンドによる位相差値を高める効果が得られない。より好ましい含有量は80質量部以上である。
【0045】
上記環状オレフィン系樹脂(A)は、重合触媒、重合条件を最適化することにより製造することができる。
【0046】
上記ノルボルネン系共重合体の製造に使用される触媒としては、メタロセン触媒と助触媒としてのメチルアルモキサンとの複合触媒系が利用できる。メタロセン触媒の好適な例としては、ラセミ−エチリデン−ビス(インデニル)ジルコニウムジクロライド、ラセミ−ジメチルシリル−ビス(2−メチル−ベンゾインデニル)ジルコニウムジクロライド、ラセミ−イソプロピリデン−ビス(テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロライド、イソプロピリデン(1−インデニル)(3−イソプロピル−シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド等が挙げられる。なかでも、ラセミ−イソプロピリデン−ビス(テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロライドが好適である。他の触媒系であっても、上記特徴的な微小構造が得られるものであれば、本発明のノルボルネン系共重合体の製造に使用することができる。
【0047】
上記環状オレフィン系樹脂(A)の製造方法としては、従来公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば、環状オレフィン系モノマーと非環式オレフィン系モノマーとを反応器に導入し、そこに触媒系の溶液又は分散液を加え、所定の反応温度にすることで得られる。得られる環状オレフィン系樹脂(A)中のモノマーに由来する繰り返し単位の比率等は、反応の温度と圧力とを最適に設定することにより制御することができる。なお、非環式オレフィン系モノマーは気体状であることが多いことから、共重合体中のオレフィンモノマーの導入率を一定にするためにオレフィンの圧力を一定に保つことが好ましい。重合反応終了後には、アルコールを添加する等の方法により触媒を失活させ、反応系から除去する。
【0048】
環状オレフィン系樹脂(A)は、本発明の目的を阻害しない範囲で、その特性を改良するために、他の相溶性又は非相溶性の重合体を含んでもよい。これらの重合体は、別の層を形成したり、又は環状オレフィン系樹脂(A)と混合したりすることができる。混合は溶融状態もしくは溶液状態で行うことができる。このような樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック重合体等が挙げられる。
【0049】
環状オレフィン系樹脂(A)は、平滑性、成形性の向上等を目的に、滑剤を含有することが好ましい。滑剤を含有することにより、押出成形法にて製膜を行う際に、スクリューによる剪断がかかってもペレット同士又はペレットとバレルとの摩擦が低減され、ゲル粒子が発生するのを抑えることができる。
【0050】
滑剤は通常、成型機に投入される際に樹脂ペレットとともに供給される(外添)か、又は、樹脂ペレットの内部に含有されている(内添)。本発明においては、滑剤を内添することが好ましい。内添することにより、外添の場合に押し出し機の根元で滑剤が滞留し、滑剤が劣化することによって発生する欠点を抑えられる;外添の場合に滑剤の粉の飛散に伴う製造環境のクリーン度の低下を抑えることができる;ペレタイズの際にフィルターを通すことができるので、滑剤中の異物を効果的に除去できる等の種々の効果を得ることができる。
【0051】
環状オレフィン系樹脂(A)は、通常、濃厚な重合溶液として得られることから、当該重合溶液に、必要に応じて酸化防止剤、安定剤等の充填剤等に加え、滑剤を配合した後、脱溶媒の過程を経て、例えばペレタイザー等を用いてペレット化することで、滑剤が内添されたペレットを得ることができる。上記滑剤としては特に限定されないが、長鎖脂肪族炭化水素基を有する脂肪酸エステル化合物、長鎖脂肪族炭化水素基を有するアミド化合物、及び、長鎖脂肪族炭化水素基を有する塩からなる群より選択される少なくとも1種が好適である。
【0052】
環状オレフィン系樹脂(A)組成物における滑剤の含有量の好ましい下限は、上記環状オレフィン系樹脂(A)100重量部に対して0.01重量部、好ましい上限は3重量部である。より好ましい下限は0.03重量部、より好ましい上限は2.5重量部であり、さらに好ましい下限は0.05重量部、さらに好ましい上限は2重量部である。
【0053】
上記ノルボルネン系共重合体組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、フェノール系、リン系等の老化防止剤;フェノール系等の熱劣化防止剤;アミン系等の帯電防止剤;ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤等の従来公知の添加剤を含有してもよい。
【0054】
<環状オレフィン系樹脂(B)>
本発明の(B)成分は、(A)成分と同様に環状オレフィン系モノマーを共重合成分として含むものであり、環状オレフィン系モノマーを主鎖に含むポリオレフィン系樹脂である。例えば、(a1)環状オレフィンの付加重合体又はその水素添加物、(a2)環状オレフィンと非環式オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物、(a3)環状オレフィンの開環(共)重合体又はその水素添加物、を挙げることができる。また、(A)成分と同様に(a4)上記(a1)〜(a3)の樹脂に、さらに極性基を有する不飽和化合物をグラフト及び/又は共重合したもの、を含む。そして、(A)成分と同様に(a2)が好ましく、さらに好ましくは、上記式(I)で表すことができる環状オレフィンとα−オレフィンの付加共重合体又はその水素添加物である。ただし、(B)成分は(A)成分と同一のものではなく、分子量、Tg、連鎖構造の少なくとも一つが異なるものである。ここで、連鎖構造の違いとは、環状オレフィン系モノマーに由来する繰返し単位が二量体として存在する割合、メソ型二連鎖部位/ラセモ型二連鎖部位の比、等のコンフィギュレーションの違いのことである。
【0055】
(B)成分は環状オレフィン系モノマーの含有量が40mol%〜60mol%であることが好ましい。より好ましくは45mol%〜55mol%である。
【0056】
(B)成分は、上記環状オレフィン系モノマーの含有量に対して、環状オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位が二量体として存在する割合が、20mol%以上であることが好ましく、より好ましくは25mol%以上である。
【0057】
(B)成分における上記立体異性体の存在比率(メソ型二連鎖部位/ラセモ型二連鎖部位)も特に限定されないが、3以上であることが好ましく、より好ましくは7以上であり、さらに好ましくは12以上である。
【0058】
(B)成分は、上記環状オレフィン系モノマーの含有量、上記二量体として存在する割合、上記立体異性体の存在比率のいずれか一以上が上記好ましい範囲にあることで、(A)成分と(B)成分との相互作用は特に好ましいものとなり、ポリマー鎖の配向緩和を抑制する効果(特に延伸最中や延伸直後のポリマー鎖の配向緩和を抑える効果)が高まる。その結果、本発明の効果である位相差値を高めること、フィルム面内の位相差のバラツキを抑えること、が顕著になる。
【0059】
(B)成分のガラス転移点は、(A)成分のガラス転移点との差が30℃以内であればよい。(B)成分のガラス転移点が上記範囲にあることで、(A)成分と(B)成分との相互作用により、配向緩和が抑制されて、高い位相差値を実現することができる。特に低延伸倍率であっても高い位相差値を実現することができるので、位相差フィルム面内の位相差値のバラツキを抑えた高性能な位相差フィルムを得ることができる。これは、溶融状態での流動性が異なる2種類の樹脂が共存することで、少なくとも一方の樹脂の分子鎖の配向挙動と緩和挙動が、単独での緩和挙動と異なることにより実現されるものであると推測される。より好ましい(A)成分のガラス転移点と(B)成分のガラス転移点との差は20℃以内であり、さらに好ましくは15℃以内である。また、(B)成分のガラス転移点温度は(A)成分のガラス転移点温度よりも高い方がより好ましい。なお、本発明には(B)成分のガラス転移点が、100℃〜150℃の場合も含まれる。この場合、本発明の位相差フィルムは100℃〜150℃のガラス転移点を持つ環状オレフィン系樹脂を二種類含むことになるが、一方の含有量が両者の合計量に対して70質量%以上であれば、ポリマー鎖の配向緩和(特に延伸最中、延伸直後のポリマー鎖の配向緩和)を抑えることができ、位相差値の高い位相差フィルムを得ることができる。
【0060】
(B)成分の数平均分子量は特に限定されないが30,000〜500,000であることが好ましく、より好ましくは35,000〜200,000である。上記範囲内にあれば本発明の効果がより顕著に現れるため好ましい。
【0061】
また、上記環状オレフィン系樹脂(B)の分子量は、Melt Volume Rate(MVR)を指標とすることもできる。MVRは、ISO 1133に基づいて測定でき、温度260℃、荷重2.16kgで、10分間の間に排出された樹脂の体積量(mL/10分)を意味する。環状オレフィン系樹脂(B)のMVRの好ましい下限は0.3mL/10分、好ましい上限は80mL/10分である。0.3mL/10分未満であると、成形性に劣ることがあり、80mL/10分を超えると、充分な強度を有する成形体が得られないことがある。より好ましい下限は0.5mL/10分、より好ましい上限は50mL/10分である。
【0062】
環状オレフィン系樹脂(B)は、環状オレフィン系樹脂と同様の方法で製造することができる。
【0063】
(A)成分と(B)成分の混合(ブレンド)は、両成分が溶解する溶媒に溶解した後、共通の貧溶媒に沈殿させる方法又は高温で溶媒を蒸発させる方法(溶液ブレンド)、タンブラー等であらかじめ予備混合し、押出し機で溶融させて混合する方法等(溶融ブレンド)、一般的に樹脂のブレンドに用いられている方法を用いることができる。また、一方の樹脂の製造時に、最終工程のペレット化前に他方の樹脂を添加することで混合しても良い。
【0064】
<位相差フィルムの製造方法>
本発明の位相差フィルムは、上記環状オレフィン系樹脂(A)と上記環状オレフィン系樹脂(B)とを含む原料組成物を製膜してフィルムを作製した後、延伸処理を施すことにより製造することができる。
【0065】
上記フィルムを作製する方法としては特に限定されず、例えば、溶融押出製膜法、カレンダー製膜法、溶液キャスト(流延)製膜法等の従来公知の製膜法を用いることができる。なかでも、生産性に優れ、環境共生的でもあることから、溶融押出製膜法が好適である。なお、環状オレフィン系樹脂(A)と環状オレフィン系樹脂(B)とは、通常ペレットブレンドで投入されるが、これに限らす、あらかじめコンパウンドされていてもよい。
【0066】
上記フィルムに位相差を付与して位相差フィルムとするためには、DSC法(JIS K7121記載の方法)によって昇温速度10℃/分の条件で求められるガラス転移点(Tg)付近まで温度を上げた状態で延伸することが必要となる。上記延伸処理の方法としては特に限定されず、例えば、縦一軸延伸、横一軸延伸、同時二軸延伸、逐次二軸延伸等が挙げられる。また、延伸のタイミングは特に限定されず、インライン延伸でもよくオフライン延伸よいが、好ましくは製膜後のインライン延伸である。
【0067】
上記延伸処理における温度は、延伸倍率等の条件にもよるが、ガラス転移点(Tg)付近で行うことが好ましい。ガラス転移点(Tg)よりも過度に低温で延伸を行うと、一般的には、高い位相差値を付与できるが、クレーズ等の発生による白化やフィルムの破断が起こる可能性が高くなる。また、白化が起きなくとも、位相差の軸方向を精度良くそろえることが困難になったり、高温雰囲気で耐久試験を行うと、位相差値の低下が起こり充分な耐久性が得られなかったりする等の不具合も生じやすくなる。一方、ガラス転移点(Tg)よりも過度に高温で延伸を行うと、必要とされる位相差値を得にくくなる。
【0068】
本発明では、位相差フィルムが環状オレフィン系樹脂(A)と環状オレフィン系樹脂(B)とを含むので、位相差フィルムを延伸後に室温(25℃)まで急冷すれば、延伸直後のポリマー鎖の配向緩和を抑える効果を高めることができる。
【0069】
延伸倍率は、特に限定されないが、所望の位相差値さえ得られれば、延伸倍率は1.7倍以下であることが好ましく、より好ましくは1.4倍以下である。低延伸倍率で、高い位相差値を実現できれば、位相差フィルム面内の位相差のバラツキが小さくなるので好ましい。本発明の位相差フィルムによれば、樹脂(A)と樹脂(B)との相互作用により、延伸倍率を過度に上げることなく位相差値の高い位相差フィルムを得ることができる。したがって、従来品以上の位相差値を実現した位相差フィルムを高品質で得ることができる。
【0070】
<位相差フィルム>
上記のような方法で製造された位相差フィルムは、上記(A)、(B)の二種類の環状オレフィン系樹脂を含むので、従来のものと比較して、大きな位相差値を持つ位相差フィルムを得ることができる。上記二種類の環状オレフィン系樹脂の相互作用により、ポリマー鎖の配向緩和(特に延伸最中や延伸直後のポリマー鎖の配向緩和)を抑えることができる等の効果が得られるからである。
【0071】
位相差フィルムのガラス転移点の転移幅は8℃以下であることが好ましい。8℃以下であれば、(A)と(B)との相溶性が高く、(A)と(B)との相互作用が強まるので、ポリマー鎖の配向緩和(特に延伸最中や延伸直後のポリマー鎖の配向緩和)を抑える効果がより高まり、結果として、位相差値の極めて高い位相差フィルムを得ることができる。なお、ガラス転移点(Tg)は、DSC法(JIS K7121記載の方法)によって昇温速度10℃/分の条件で測定した値を採用する。
【0072】
本発明の位相差フィルムは一軸延伸の延伸倍率が1.2倍、厚さ70μm換算で、波長590nmにおける位相差が170nm以上であることが好ましい。上記のように、低延伸倍率で、高い位相差値を実現できる。なお、上記延伸倍率は、貯蔵弾性率が5MPaになる温度で延伸した時の延伸倍率である。
【0073】
位相差フィルムの厚さは特に限定されないが、厚みがあるほうが位相差は高くなる。しかし、近年では小型・薄型・軽量化の技術が求められており、位相差フィルムにおいても薄いものが求められている。本発明の位相差フィルムは70μm程度の非常に薄い膜厚であっても、極めて高い位相差を実現することができる。
【0074】
位相差フィルムは、可視光領域である測定波長400〜700nmにおいて直線偏光を円偏光に、円偏光を直線偏光に変換する作用を有する必要がある。これを位相差フィルム一枚で実現しようとすると、λ/4板の場合は測定波長λ=400〜700nmにおいて位相差がλ/4(nm)(100〜175)となる。λ/2板の場合は、測定波長λ=400〜700nmにおいて位相差がλ/2(nm)(200〜350)となる。本発明の位相差フィルムであれば、より低い延伸倍率で加工することができ、それによって位相差フィルム面内の位相差のバラツキが小さい高性能なλ/2板やλ/4板を得ることができる。
【実施例】
【0075】
原材料として、下記の方法で合成した製造実施例1から3の環状オレフィン系樹脂、及び市販の環状オレフィン系樹脂6015S−04(Topas Advanced Polymers社製)、8007S−04(Topas Advanced Polymers社製)、6013S−04(Topas Advanced Polymers社製)を用いた。
【0076】
製造実施例1の合成は、連続重合装置に、ノルボルネン、炭化水素系溶媒、エチレン、及び水素を、ノルボルネンの濃度2.95mol/L、エチレンの濃度が1.05mol/L、水素対エチレンの比率が0.21×10−3の条件で供給した。同時に触媒としてラセミ−イソプロピリデン−ビス(テトラヒドロインデニル)ジルコニウムクロライド、助触媒としてメチルアルモキサン(10%トルエン溶液)からなる触媒系を反応装置に供給した。反応装置の温度は90℃に保たれた。次の工程において、高温・減圧によって溶媒が除去された。溶融状態にある共重合体をストランド状に押出し、これを切断して、長さ3mm、直径2mmのペレットにした。共重合体には0.6%の酸化防止剤(商品名イルガノックス1010、チバスペシャルティケミカルズ社製)及び0.4%の滑剤(ペンタエリスリトールテトラステアレート)が添加された。
【0077】
触媒と反応条件を適切に選択し、製造実施例1と同様にして製造実施例2、3、4の環状オレフィン系樹脂を合成した。
【0078】
【表1】

【0079】
<原材料の評価>
これらの原材料の環状オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位が二量体として存在する割合、環状オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位が三量体として存在する割合、二量体として存在する環状オレフィン系モノマーの割合、環状オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位の含有量を下記の方法で求めた。
【0080】
鎖状オレフィン系単量体と橋架環式シクロアルケン系単量体(ノルボルネン系単量体)の割合、及び二連子部位、三連子部位、並びにメソ−ラセモ比は、13C−NMRによって観測されたスペクトルの積分値より算出できる。ここで、十分に分離していない複数のピークの積分値を求める場合は、JEOL製NMRデータ処理ソフト「ALICE for Windows(登録商標) Ver.5」を用いてピーク分割し、それぞれのピークの積分値を求めた。
【0081】
それぞれのスペクトルにより同定されるポリマーの一次構造は、「Maclomol. Chem. Phs. 1999, Vol. 200, Page 1340」、「Macromolecules 2004, Vol. 37, Page 9681」、「Macromolecules 2000, Vol. 33 , Page 8931」等に記載されている。
【0082】
鎖状オレフィン系単量体がエチレンで、橋架環式シクロアルケン系単量体(ノルボルネン系単量体)がノルボルネンである場合を例にとって、以下に、具体的なパラメータの算出方法について説明する。
【0083】
まず、組成の算出について説明する。組成は、13C―NMRによって得られたスペクトルチャートの
ケミカルシフト値44.5−56.0ppmに観測される積分値:IC2,C3(ノルボルネン環の2,3位に由来)、
ケミカルシフト値37.0−44.0ppmに観測される積分値:IC1,C4(ノルボルネン環の1,4位の炭素に由来)、
ケミカルシフト値36.5−33.0ppmに観測される積分値:IC7(ノルボルネン環の7位の炭素に由来)、
ケミカルシフト値44.5−56.0ppmに観測される積分値:IC5,C6+IE(ノルボルネン環の5,6位の炭素及びエチレン部の炭素に由来)より、以下の式から求めることができる。
【0084】
【数1】

【0085】
二連子部位、三連子部位の量の比率は、「Maclomol. Chem. Phs. 1999, Vol. 200, Page 1340」に記載されている6つのトリアド(EEE、EEN、NEN、NNN、NNE、ENE)の分布を求め、以下の式から算出することができる。
【0086】
【数2】

【0087】
二量体として存在する環状オレフィン系モノマーに由来する繰返し単位の内、メソ型二連鎖部位とラセモ型二連鎖部位の存在比率、すなわち、メソ/ラセモ比(M/R)、及び、メソ型二連鎖部位の存在割合、すなわち、メソ含量(M/(M+R))は、13C−NMRによって得られたスペクトルのENNEに由来する以下のピークから求めた。
すなわち、
28.3ppm(C5−メソ体)に観測されるピークの積分値:IC5−m
29.7ppm(C5−ラセモ体)に観測されるピークの積分値:IC5−r
31.6ppm(C6−メソ体)に観測されるピークの積分値:IC6−m
31.3ppm(C6−ラセモ体)に観測されるピークの積分値:IC6−r
33.1−33.4ppm(C7−メソ体)に観測されるピークの積分値:IC7−m
33.4−33.7ppm(C7−ラセモ体)に観測されるピークの積分値IC7−r
より、以下の式から算出することができるM及びRから求めた。
【数3】

【0088】
なお、本発明におけるサンプル調製条件及び測定条件の一例は以下の通りである。
溶媒:1,1,2,2−テトラクロロエタン−d2(10容量%ヘキサメチルジシラン含有)
濃度:70mg/mL
装置:Bruker AVANCE600(水素原子の共鳴周波数:600MHz)
サンプルチューブ径:10mm
測定方法:パワーゲート式
パルス幅:15μsec
遅延時間:2.089sec
データ取り込み時間:0.911sec
観測周波数幅:35971.22Hz
デカップリング:完全デカップリング
積算回数:18000回
ケミカルシフトのリファレンス:ヘキサメチルジシランのピークを−2.43ppmとする。
【0089】
分子量は以下の条件で測定した。
(測定条件)
装置: Viscotek 社製 TDA TDA 302
溶媒:トルエン
カラム:昭和電工製 Shodex GPC K−806 を三本直列に連結した。
流速: 1.0ml/分
温度: 60℃
試料濃度: 2mg/mL
注入量: 100μl
標準試料:ポリスチレン
解析:ユニバーサルキャリブレーション
繰り返した測定回数: 3回
【0090】
MVRはISO 1133に基づいて測定でき、温度260℃、荷重2.16kgで、10分間の間に排出された樹脂の体積量(mL/10分)を測定した。
【0091】
<位相差フィルムの製造>
表2に示すエチレン―ノルボルネン共重合体の樹脂ペレット単独、及び、表3に配合の樹脂組成物(ペレットブレンド)をTダイつき押出機に供給し、溶融温度230℃、引き取り速度20m/分で冷却ロール上に溶融押出し、幅300mm、厚み100μmのフィルムを得た。その後、恒温ユニットを備えた引っ張り試験機(ORIENTEC社製テンシロン UCT−5T)を用いて、評価フィルムを幅20mmに切り出し、チャック間20mmで貯蔵弾性率が5MPaになる温度で1分間予熱したのち、引っ張り速度50mm/分で1.2倍、1.4倍、1.8倍のそれぞれの倍率に延伸し、設定倍率延伸後、速やかに室温に冷却することにより、延伸サンプルを得た。
【0092】
貯蔵弾性率が5MPaになる温度は、共重合体組成物をフィルム状に製膜し、動的粘弾性測定装置(TAインスツル社製 RSA3)を用いて該フィルムに0.01%の歪みを10Hzで与え、20〜200℃まで5℃/分で昇温させたときに得られた貯蔵弾性率(E’)から見積もった。
【0093】
得られた実施例及び比較例の位相差フィルムのガラス転移点をDSC法(JIS K7121記載の方法)によって昇温速度10℃/分の条件で測定した。測定結果を表2、3に示す。さらに、「6015S−04」、「8007S−04」、実施例、比較例1について、ガラス転移点の転移幅を外挿開始温度と外挿終了温度との差から測定した。測定結果を表2、3に示す。
【0094】
<位相差フィルムの評価1>
得られた実施例及び比較例の位相差フィルム中央部の位相差値Reを、23℃、50%RH下で、自動複屈折計(王子計測機器社製、KOBRA−WPR、測定波長590nm)を用いて測定した。測定結果を表3に示す。
【0095】
【表2】

【0096】
【表3】

【0097】
実施例1、表2の結果から、単体の環状オレフィン系樹脂(A)又は(B)を用いた位相差フィルムよりも、環状オレフィン系樹脂(A)と環状オレフィン系樹脂(B)との二種類の環状オレフィン系樹脂を含み、(A)成分のガラス転移点が100℃から150℃であり、(B)成分のガラス転移点と(A)成分のガラス転移点との差が30℃以内であり、(A)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分との合計量に対して、70質量%以上である位相差フィルムの方が低延伸倍率で高い位相差値を発現できることが確認された。
【0098】
表3の実施例及び比較例1から分かるように、環状オレフィン系樹脂(A)と環状オレフィン系樹脂(B)とのガラス転移点の差が30℃を超えると、二種類の環状オレフィン系樹脂をブレンドすることにより得られる位相差値向上の効果が生じないことが確認された。
【0099】
表3の実施例及び比較例2から分かるように、環状オレフィン系樹脂(A)の含有量が、(A)成分と(B)成分との合計量に対して、70質量%を下回ると、二種類の環状オレフィン系樹脂をブレンドすることにより得られる位相差値向上の効果が生じないことが確認された。
【0100】
表2、表3の結果から、実施例のガラス転移点の転移幅は、単体の環状オレフィン系樹脂(A)、(B)の転移幅とほぼ同じである。したがって、二種類の環状オレフィン系樹脂により位相差値が向上する効果は、二種類の環状オレフィン系モノマーの相溶性が高い場合に得られることが確認された。
【0101】
<位相差フィルムの評価2>
実施例2、実施例3、比較例1、製造実施例1にひずみを加えた際の0.01秒後の弾性係数(E)を基準にその経時変化をプロットした。結果を図1に示す。
【0102】
図1から分かるように、単体の環状オレフィン系樹脂を用いた場合や比較例1のブレンド位相差フィルムと比較して、本発明の環状オレフィン系樹脂(A)、(B)のブレンド位相差フィルムでは、延伸最中のポリマー鎖の配向緩和を抑制できることが確認された。
【0103】
表2、3の延伸後、直ちに室温まで急冷した位相差フィルムの位相差値から分かるように、単体の環状オレフィン系樹脂を用いた場合と比較して、本発明の環状オレフィン系樹脂(A)、(B)のブレンド位相差フィルムでは、延伸直後のポリマー鎖の配向緩和を抑制できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】位相差フィルムにひずみを加えた際の0.01秒後の弾性係数(E)を基準にその経時変化をプロットした図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系樹脂(A)と、(A)と異なる環状オレフィン系樹脂(B)と、を含む樹脂組成物からなるフィルムを延伸処理してなる位相差フィルムであって、
前記(A)成分のガラス転移点が100℃から150℃であり、
前記(A)成分と前記(B)成分とのガラス転移点の差が30℃以内であり、
前記(A)成分と前記(B)成分との合計量に対して、前記(A)成分の含有量が70質量%以上である位相差フィルム。
【請求項2】
DSCで測定したガラス転移点の転移幅ΔTg(外挿開始温度と外挿終了温度との差)が8℃以下である請求項1に記載の位相差フィルム。
【請求項3】
前記(A)成分は、環状オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位40mol%から60mol%と、非環式オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位60mol%から40mol%と、を含み、
前記環状オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位が二量体として存在する割合が、20mol%以上であり、
前記二量体において、メソ型二連鎖部位とラセモ型二連鎖部位との比(メソ型二連鎖部位/ラセモ型二連鎖部位)が10以上であり、
前記環状オレフィン系モノマーに由来する繰り返し単位が三量体として存在する割合が20mol%以下である請求項1又は2に記載の位相差フィルム。
【請求項4】
前記(A)成分及び前記(B)成分における環状オレフィン系モノマーがノルボルネン系モノマーである請求項1から3のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項5】
前記(A)成分の数平均分子量が20,000から500,000であり、
前記(B)成分の数平均分子量が30,000から500,000である請求項1から4のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項6】
一軸延伸倍率が2.0倍以下である請求項1から5のいずれかに記載の位相差フィルム。
【請求項7】
一軸延伸倍率1.2倍、厚さ70μm換算で、波長590nmにおける位相差が170nm以上である請求項1から6のいずれかに記載の位相差フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2009−258571(P2009−258571A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121659(P2008−121659)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】