説明

位置検出システム

【課題】 簡易な形状で体内に容易に埋め込むことが可能な磁気マーカーを用いた位置検出システムを提供する。
【解決手段】 磁歪材料を用いた磁歪振動子、前記磁歪振動子の磁気機械結合係数を調整するためのバイアス部材、およびそれらを内包するケースを有するマーカーと、並びに、前記磁歪振動子を磁歪振動させるための交流磁場発生装置、前記磁歪振動子が発生する交流磁場を検出する複数の検出素子、および前記検出素子から検出した磁場を信号処理してマーカーの位置および向きを同定する信号処理部分を有する検出器からなる位置検出システムを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マーカーの位置および方向を検知する位置検出システムに係り、特に移動体の位置および方向の検出が容易で、複数のマーカーの検出も可能な位置検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の位置検出システムとして、赤外線又は超音波を利用したものがある。従来の赤外線又は超音波を利用した移動体の位置検出システムにおける位置検出方法は、測定器から赤外線又は超音波を移動体に発射し、赤外線又は超音波が反射して戻ってくるまでの時間から距離を求めて移動体の位置を検出するものである。これらの位置検出システムは、移動体が一定の移動ルートにいない限り赤外線又は超音波を移動体に当てられないという問題がある。
【0003】
この位置検出システムは、医療分野に用いられ、ガンなどの放射線治療において治療部位を特定するために役立つことが期待されている。体内のガン細胞は呼吸、拍動、腸のぜん動等を含む人間の動きによって常にその位置が動いており、現在はガンの治療を行う際にはガン細胞の動く範囲を仮定して、ある程度大きなエリアに放射線を照射することが行われている。しかし、ガンの治療部位が詳細に解らない限り、ガン周辺の健全な細胞に放射線が照射され、ダメージを受ける可能性がある。このため、放射線の照射範囲をより絞れる位置情報の検出方法の開発が望まれている。
その方式の1つとして、マーカーをあらかじめガン細胞に埋め込み、そのマーカーを標的として放射線を照射する方式がある。この方式で常にマーカーの位置を検出し、そのマーカーの位置に放射線の照射位置を追尾させることで、より照射範囲の狭い放射線治療が実現する。
【0004】
位置検出システムとして、特許文献1に記載されるように、磁気マーカを用いたものがある。特許文献1では、磁気マーカ位置検出方法として、測定空間に対向するように磁気センサーユニット装着板に装着された対をなす3次元磁気センサーユニットからの出力に基づいて磁気モーメントを求める第1の過程と、測定空間を予め定めたサイズの空間に分割して局所範囲とし、第1の過程にて求めた磁気モーメントに基づいて磁気マーカが存在する局所範囲を判別する第2の過程と、第2の過程において磁気マーカが存在すると判別された局所範囲内において磁気マーカの位置および方向を求める第3の過程とを含む検出方法が記載されている。
【特許文献1】特開2000−337811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の位置検出システムは、磁気マーカーの詳細が不明である。もし永久磁石を用いたものであれば、強い磁場が常に体内で発生する為、患者に何かしらの影響が出る恐れがある。また、LC共振回路などを磁気マーカーとすることも考えられるが、その場合には磁気マーカーにインダクタやコンデンサが必要になり、磁気マーカーが大型化する。また、LC共振回路は湿度の影響を受けやすく、体内に入った時に感度が落ちるなど、動作状態が不安定になりやすい。また、インダクタとコンデンサの間に配線を行う必要があり、この配線が破断して放射線照射装置がマーカーを見失う可能性ある。たとえば、長期間にわたる断続的な放射線治療などにおいては、特にその可能性が高くなると思われる。
又、半導体を用いた電波発信機をマーカーとして用いる事も可能であるが、放射線治療用に強力な放射線を用いる場合等に、放射線により半導体がダメージを受ける可能性もある。
【0006】
したがって本発明の目的は、上記の問題点を解決し、簡易な形状で体内に容易に埋め込むことが可能な磁気マーカーを用いた位置検出システムを提供することに有る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の位置検出システムは、磁歪材料を用いた磁歪振動子、前記磁歪振動子の磁気機械結合係数を調整するためのバイアス部材、およびそれらを内包するケースを有するマーカーと、並びに、前記磁歪振動子を磁歪振動させるための交流磁場発生装置、前記磁歪振動子が発生する交流磁場を検出する複数の検出素子、および前記検出素子から検出した磁場を信号処理してマーカーの位置および向きを同定する信号処理部分を有する検出器からなることを特徴とする。
【0008】
検出素子は5箇所以上設置されたものが好ましい。
【0009】
検出器に、可視化処理手段が設けられるものが好ましい。
【0010】
検出素子は、前記磁歪振動子の磁気双曲子で発生する交流磁界を検出するものが好ましい。
【0011】
磁歪材料はアモルファス軟磁性材料を用いることができる。
【0012】
ケースは非磁性材料からなるものを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
簡易な形状で体内に容易に埋め込むことも可能で、かつ有害な物質を使用しない磁気マーカーを用いた位置検出システムを提供できる。また、マーカーが直径1.5mm以下のものでも使用できるため、注射針を通して体内にマーカーを入れることもでき、体内へのマーカー挿入の際に患者への負担が格段に軽減される位置検出システムを提供できる。
また、磁歪材料の長さによって共振を起こす周波数を変えられるため、特定の共振周波数のみを検出する位置検出システムを提供でき、モーションキャプチャシステムなどに好適なS/N比の良い位置検出システムが得られる。
また、異なる交流磁場を発生するマーカーを用いることで、同時に複数のマーカーの位置および向きを同定することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものではない。
【0015】
本発明では位置検出のための電波発信源として磁歪材料を用い、磁歪振動波の伝播時間を測定することによって座標位置を決定することに特徴を有する。電波発信源のマーカーは、図2に示すような、例えば磁歪材料からなる磁歪振動子(以後、レゾネータ材5)と、そのレゾネータ材5に備えられた半硬質磁石などのバイアス部材6からなる複合材を用い、この複合材を機械的に振動可能な状態で非磁性ケース7内に設置したものが用いられる。レゾネータ材5は、比透磁率が比較的低いB−Hカーブを有する軟磁性材料が好ましい。地磁気や外部からの磁界の影響を受けずらくすることができ、また、バイアス磁界の変動により共振周波数や出力が変化するのを防ぐことができる。但し、比透磁率が低すぎると電気機械結合係数が減少してしまい、本用途への適用が難しくなるため、適宜調整することが好ましい。Ni−Fe−Co系アモルファス材などが適した磁気特性を持つ。
【0016】
検出原理は、図3の模式図を示すように、交流磁場発生装置によりレゾネータ材を磁歪振動させた時に出る交流磁場の大きさ(検出信号)を測定するものである。本発明の位置検出システムの全体の模式図を図1に示す。1はマーカーであり、2は交流磁場発生装置である。交流磁場発生装置によりマーカーが置かれている空間内に交流磁場を発生させ、マーカー1の構成の一部である磁歪特性をもっている部材がその部材の長さによって特定の周波数に共振し、その共振周波数において大きな磁歪振動が発生する。この交流磁場を、複数の検出素子3で検出し、信号処理部4で信号処理してマーカーの位置および向きを同定する。同定したマーカーの位置、向きは、可視化処理手段(モニタ)8に映し出され、画像で確認できる。磁歪振動子が振動することによって磁気双極子が発生する為、その3軸方向の位置(x、y、z)、および向き(Φ、θ)が出力として検出可能である。
検出信号は時間と共に減衰するため、その減衰率を測定することでノイズの除去も可能となる。
【0017】
磁歪材料の長さによって共振を起こす周波数が異なってくるため、ある特定の共振周波数を持つマーカーを用い、その特定の共振周波数のみを検出することにより、多周波数の外来ノイズを除去してS/N比の良い位置検出システムが得られる。例えばモーションキャプチャシステムなどに適用することができる。
【0018】
また、異なる交流磁場を発生するマーカーを用いることで、同時に複数のマーカーの位置および向きを同定することもできる。この場合、交流磁場発生装置から複数の、或いは連続した周波数の磁場を発生させる。検出素子側ではそれぞれの周波数での検出周波数素子を設定することでそれぞれのマーカーからの検出信号を得て個別に位置を同定する。
【0019】
検出素子は5箇所以上あれば、マーカーの3軸方向の位置(x、y、z)、および向き(Φθ)が出力として検出可能である。図1に示すように、同一壁面上に複数個並べて検出素子を設ければよい。又、図1ではコイルを多数並べた検出素子群を図示したが、他にMR素子、MI素子、ホールセンサ、フラックスゲートセンサなど、他の形式の検出素子を用いても良い。
あらかじめ交流磁場発生装置が発生する磁場分布を知っておくことにより、励振磁場を発生させながら、あるいは、励振磁場の発生を止めることなくマーカーが存在する場合と存在しない場合の磁場分布の差を計算することにより継続的にマーカーの位置や向きを知ることが可能である。又、交流磁場発生装置からの磁界を断続し、交流磁場発生装置からの磁場を止めた状態でマーカーが発生する交流磁界を検出することで、S/N比の良い位置検出が可能となる。交流磁場発生装置からの磁界を断続し、交流磁場発生装置からの磁場を止めた状態でマーカーが発生する交流磁界を検出する場合には、単に特定周波数の信号を検出するのみならず、図3に示すとおりに交流磁場発生時間帯から一定の時間を置いた検出時間窓1、そして検出時間窓からさらに一定の時間Δtを置いた検出時間窓Δtの2つの時間窓で信号を検出する事により、よりS/N比を向上させることが可能となる。すなわち、共振マーカは内部損失があり、この損失値はマーカの部材の材質や形状等の構成によって固有値を持っている。この損失の固有値によって、磁歪によって誘起されたマーカから発生する交流磁界が時間とともに減少する。したがって、この減少度合いをあらかじめ知っておくことにより、時間窓1での検出信号の大きさと時間窓Δtでの検出信号の大きさの比をあらかじめ知ることが可能となる。この時間窓1と時間窓Δtでの検出信号の大きさが上記のあらかじめ知っている比でない場合には、検出された信号が実は外部の擾乱信号である可能性が大きいとして、実信号との峻別が可能となる。
【0020】
位置を同定するための算出方法として、以下の式を用い、ガウス−ニュートン法により最適化を行った。(式中、iは各々の検出素子3の番号、nは検出素子3の設置数、Br(i)は検出素子iで検出された磁束密度、Bl(i)は検出素子iでの理論値の磁束密度、r(i)は検出素子iの中心からマーカーまでの位置ベクトル、Mはマーカの磁気モーメント、θはx−z平面に投射したモーメントの方向ベクトルとx軸との角度、φはモーメントの方向ベクトルとy軸との角度、pはマーカーのパラメータにより構成されるベクトル量を指す)
【0021】
【数1】

【数2】

【数3】

【0022】
磁歪材料はアモルファス軟磁性材料を用いることができる。主に薄帯形状のものが用いえるが、細いリボンやワイヤー状のものも用いることができる。その他の磁歪材料であっても、薄いものや細い形状のものであれば適宜使用可能である。
【0023】
アモルファス軟磁性材料として、例えば、原子比組成が(Fe1−p−qNiCo100−y−zM’(但し、MはP,Si,B,GeおよびCから選択される1種又は2種以上の元素、M’はMg,Ca,およびZnから選択される1種又は2種以上の元素)であり、0≦p≦0.6,0≦q≦0.6,0≦p+q≦0.85,15≦y+z≦30,0≦z≦8であるアモルファス非晶質磁歪材を用いることができる。Ni,Coは、地磁気など外部からの外乱磁界の影響を低減することができるが、0.85原子%以下である必要がある。この理由は、この範囲をはずれると大きな電気機械結合係数Kが得られず信号が著しく小さくなってしまうためである。メタロイド元素としてのP,Si,B,Ge,Cの含有量を15〜30原子%に限定したのは、この範囲を外れると非晶質材を得ることが実質的に困難になるためである。M‘は、Al,Ga,In,Sn,Zn,Cu、Ag,Au,白金族元素、Sc,Y、希土類元素、Mn、Re、Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,Wから選ばれた少なくとも1種の元素であり、その含有量zは8原子%以下である。含有量zが8原子%を超えると電気機械結合係数の著しい減少を招き信号が減少し好ましくない。上記の合金組成からなる溶湯をロール冷却することで板厚5μm〜100μm程度の薄帯形状の磁歪材料が得られる。また、回転液中防糸法などによりワイヤーを製造することもできる。この磁歪材料を熱処理することで、好ましい磁気特性を得ることができる。
【0024】
熱処理は通常アルゴンガス、窒素ガス、ヘリウム等の不活性ガス中で行う。磁界中熱処理を行うことにより、誘導磁気異方性を付与することができる。磁界中熱処理は、熱処理期間の少なくとも一部の期間合金が飽和するのに十分な強さの磁界を印加してを行う。印加する磁界は、直流、交流、繰り返しのパルス磁界のいずれを用いても良い。磁場の印加方向は薄帯材料の場合は幅方向もしくは厚さ方向とした場合、電気機械結合係数が高くなりより好ましい結果が得られる。また、熱処理の際に、薄帯やワイヤーに張力や圧縮力をかけながら熱処理し、磁気特性を改善することができる。
【0025】
バイアス部材は磁歪材の磁化曲線形状や寸法により、適宜最適な形状、材質のものを用いることが好ましい。磁歪材料が薄帯形状である場合、バイアス部材も同様の薄帯形状が好ましい。この薄帯形状の磁歪材料とバイアス部材を張り合わせて磁歪部材とすることができる。磁歪材料は一般に透磁率が高いため、弱い磁石でもバイアス部材として使用できる。FeCrCo系磁石や半硬質磁石、フェライトボンド磁石などを使用することができる。
【0026】
ケースは非磁性材料からなるものを用いることが好ましい。この位置検出システムに用いられる交流磁場発生装置の周波数は、数10kHzから100kHz程度であり、磁性材を用いると著しく磁束のシールド効果が発生し、検出能を下げてしまう。マーカーのケースの内部は、磁歪材料が振動可能なように空間が存在したものが良い。材質は体に無害なものが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の位置検出システムの全体の模式図である。
【図2】マーカー内部の磁歪振動子とバイアス部材の模式図である。
【図3】検出の原理を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1:マーカー、2:交流磁場発生装置、3:検出素子群、4:信号処理部、5:磁歪材料、6:バイアス部材、7:ケース


【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁歪材料を用いた磁歪振動子、前記磁歪振動子の磁気機械結合係数を調整するためのバイアス部材、およびそれらを内包するケースを有するマーカーと、並びに、前記磁歪振動子を磁歪振動させるための交流磁場発生装置、前記磁歪振動子が発生する交流磁場を検出する複数の検出素子、および前記検出素子から検出した磁場を信号処理してマーカーの位置および向きを同定する信号処理部分を有する検出器からなることを特徴とする位置検出システム。
【請求項2】
前記検出素子は5箇所以上設置されていることを特徴とする請求項1に記載の位置検出システム。
【請求項3】
前記検出器に、可視化処理手段が設けられることを特徴とする請求項1または2に記載の位置検出システム。
【請求項4】
前記検出素子は、前記磁歪振動子の磁気双曲子で発生する交流磁界を検出するものであることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の位置検出システム。
【請求項5】
前記磁歪材料はアモルファス軟磁性材料であることを特徴とする請求項1乃至4に記載の位置検出システム。
【請求項6】
前記ケースは非磁性材料からなることを特徴とする請求項1乃至5に記載の位置検出システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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