説明

位置検出装置

【課題】車速パルス信号を用いずに、移動体の現在位置を精度良く検出できる位置検出装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る位置検出装置は、ロール角算出部19は右側方向加速度センサ11とヨー方向角速度センサ16の出力信号に基づいてロール角を算出し、姿勢角算出処理部13は、ピッチ方向角速度センサ15、ヨー方向角速度センサ16、ロール角算出部19の出力信号に基づいて移動体の姿勢角を算出する。進行方向加速度センサ10は移動体の進行方向の加速度を検出し、走行距離算出部12は加速度センサ10において検出された加速度と、姿勢角算出処理部13において算出された移動体の姿勢角に基づいて移動体の走行距離を算出する。位置算出部14は姿勢角算出処理部13において算出された移動体の姿勢角と、走行距離算出部12において算出された移動体の走行距離に基づいて移動体の現在位置を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加速度センサと角速度センサを用い、車両などの移動体の位置を検出する位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に搭載され、出発地から目的地までの推奨経路に従って案内を行うナビゲーション装置が広く普及している。このナビゲーション装置では、トンネル、市街地、高架下等においてGPS(Global Positioning System)受信機が衛星からの電波を受信できない場合、加速度センサ、角速度センサおよび速度センサを含む自立センサと、走行速度に応じてパルス周期が変化する車速パルス信号とを用いて、現在位置を算出する。そして、水平面を基準とした2次元の地図上に現在位置を表示することが一般的である。
【0003】
しかしながら、PND(Personal/Portable Navigation
Device)のようなポータブル型のナビゲーション装置は、通常、車外へ持ち運び可能に構成されるので、その構成上、車両への取付けは容易であるが、煩雑な取付け作業を必要とする車速パルス信号の出力は接続されないことが多く、車速パルス信号を得ることが難しい。さらに、ポータブル型のナビゲーション装置は、車外で利用される場合もあり、車速パルス信号が全く得られないこともある。従って、水平面を基準とした2次元の地図上に正確な現在位置を表示するためには、車速パルス信号なしで現在位置を算出する必要がある。
【0004】
これを実現する従来技術として、図6に示すように、移動体1の進行方向の加速度を検出する第1の加速度センサ2と、移動体の右側方向を示す軸回りの角速度を検出する第1の角速度センサ3と、移動体の垂直下方向を示す軸回りの角速度を検出する第2の角速度センサ4とを備えるセンサ構成で現在位置を算出する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。より具体的には、図7に示すように、車両1に設けられた第1の加速度センサ2を用いて車両進行方向の加速度Axを検出する。そして、第1の角速度センサ3で検出した角速度Wyの時間積分で求めた車両の傾斜角αを用いて重力加速度Gの進行方向成分の加速度Ag(=Gsinα)を算出する。車両の移動に伴う加速度Accは、ベクトル換算でAcc=Ax+Agと表される。このため、Accを時間で2階積分すれば、車両の走行距離を算出することができる。
そして、図8に示すように、第2の角速度センサ4で検出した角速度Wzの時間積分で求めた車両1の方位角βを算出すれば、水平面を基準とした2次元の地図上における車両1の進行方向が分かり、上述した走行距離と合わせて車両の現在位置を算出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−292248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、第1の角速度センサ3で検出した角速度Wyで車両の傾斜角αを算出する場合、その他の2軸の角度(車両1の垂直下方向軸回り及び進行方向軸回りの角度)に伴う角速度を考慮する必要がある。同様に、第2の角速度センサ4で検出した角速度Wzで車両1の方位角βを算出する場合も、その他の2軸の角度(車両1の右側方向回り及び
進行方向軸回りの角度)に伴う角速度を考慮する必要がある。これを角速度センサの他軸感度と呼ぶ。
【0007】
より具体的には、図9に示すように、水平面に対して車両1が傾斜角αで傾くことによって、第2の角速度センサ4で検出した角速度Wzは、Wz×cosαが方位角βを算出するための角速度となり、Wz×sinαは車両進行方向軸回りの角度を算出するための角速度に影響を及ぼす。
そのため、車両に設けられた角速度センサで正確に車両の角度(以下、姿勢角と称す)を算出するためには、3軸方向の角速度センサを必要とし、それぞれ検出した角速度と算出した姿勢角を用いて、水平面に対する角速度に変換し、他軸感度の影響を取り除く必要がある。
このため、上記特許文献1に開示された技術では、車両進行方向軸回りの角速度を検出する第3の角速度センサを備えていないため、その車両進行方向軸回りの角度(以下、ロール角と称す)に伴う他軸感度が誤差として残り、正確に車両の傾斜角αや方位角βを算出できなかった。
加速度センサと角速度センサのみでナビゲーション装置の位置検出装置を構成する場合、特に、ロール角に伴う角速度によって生じる傾斜角αの誤差が、最終的には、現在位置の誤差の大きな要因となる。より具体的には、傾斜角αに1[deg]の誤差が含まれると、車両の移動に伴う加速度Accに約0.17[m/s・s](=Gsin(1°))の誤差が生じることになり、20秒間で約34[m]も現在位置がズレることになる。
従って、図10に示すように、この現在位置の誤差によって、特に、交差点が連続するような場所では、車両1の右左折するタイミングを正確に案内できないため、ナビゲーション装置としては致命的なものとなる。
それ故、本発明は、従来の問題を解決するためになされたものであり、車速パルス信号を用いずに角速度センサの他軸感度の影響を取り除き、移動体の傾斜角αを算出し、算出した傾斜角αを利用して移動体の現在位置を精度良く算出できる位置検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る位置検出装置は、移動体のピッチ方向の角速度を検出するピッチ方向角速度検出部と、前記移動体のヨー方向の角速度を検出するヨー方向角速度検出部と、前記移動体の進行方向の加速度を検出する進行方向加速度検出部と、前記移動体の右側方向の加速度を検出する右側方向加速度検出部と、前記ヨー方向角速度検出部が検出した角速度と前記右側方向加速度検出部が検出した加速度に基づいてロール角を算出するロール角算出部と、前記ピッチ方向角速度検出部と前記ヨー方向角速度検出部が検出した角速度と前記ロール角算出部が算出したロール角に基づいて前記移動体の姿勢角を算出する姿勢角算出処理部と、前記進行方向加速度検出部が検出した加速度と前記姿勢角算出処理部が算出した前記移動体の姿勢角に基づいて前記移動体の走行距離を算出する走行距離算出部と、前記姿勢角算出処理部が算出した前記移動体の姿勢角と前記走行距離算出部が算出した前記移動体の走行距離に基づいて前記移動体の現在位置を算出する位置算出部とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車速パルス信号を用いずに角速度センサの他軸感度の影響を取り除き、移動体の傾斜角を算出し、算出した傾斜角を利用して移動体の現在位置を精度良く算出する位置検出装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る位置検出装置の構成を示すブロック図
【図2】車両座標系を示した図
【図3】車両が走行する一般的な傾斜道路の傾斜角の一例を示した図
【図4】車両が一般的な傾斜道路を走行している様子と、そのときの傾斜角(ピッチ角、ロール角)の一例を示した図
【図5】位置検出装置の位置検出処理の流れを示したフロー図
【図6】従来の位置検出装置における構成を示す図
【図7】従来の位置検出装置の処理を説明するための図
【図8】従来の位置検出装置の処理を説明するための図
【図9】傾斜角に伴う角速度センサの他軸感度の一例を示す図
【図10】従来の位置検出装置の車両位置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る位置検出装置について具体的に説明する。なお、本実施形態では、位置検出装置を備えるナビゲーション装置が、例えば移動体である自動車などの車両に搭載される場合を例に挙げて説明する。
【0012】
まず図1を参照して、本発明の実施形態に係る位置検出装置の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る位置検出装置の構成を示すブロック図である。
【0013】
図1において、進行方向加速度センサ10と、右側方向加速度センサ11は、それぞれ加速度を検出する加速度検出部であり、進行方向加速度センサ10は進行方向の加速度を走行距離算出部12に出力し、右側方向加速度センサ11は右側方向の加速度をロール角算出部19へ出力する。ピッチ方向角速度センサ15と、ヨー方向角速度センサ16は、それぞれ角速度を検出する角速度検出部であり、例えば振動型ジャイロや光ファイバジャイロ等のジャイロ装置によって構成されている。なお、車両用ナビゲーション装置に搭載される角速度センサとしては、振動型ジャイロ(安価のため)を用いる。ピッチ方向角速度センサ15、ヨー方向角速度センサ16は、姿勢角算出処理部13に信号を出力する。また、ヨー方向角速度センサ16は、ロール角算出部19にも信号を出力する。姿勢角算出処理部13は、ピッチ方向角速度センサ15、ヨー方向角速度センサ16、ロール角算出部19の入力信号に基づいて、姿勢角を算出し、走行距離算出部12と位置算出部14に信号を出力する。走行距離算出部12は、進行方向加速度センサ10から検出される加速度に、姿勢角算出処理部13から得られる姿勢角を用いて、走行距離を算出し、位置算出部14へ出力している。
図2は、車両20の車両座標系を示した図である。図2において、Xb軸は車両の進行方向を示す軸であり、Yb軸は車両の右側方向を示す軸であり、Zb軸はXb−Yb軸平面に対して垂直下方向を示す軸である。そしてこれらXb軸、Yb軸、Zb軸からなる座標系を、車両座標系とする。ピッチ方向角速度センサ15は、図2に示すように、車両20の車両座標系におけるYb軸回りの角速度を検出する。また、ヨー方向角速度センサ16は、車両座標系におけるZb軸回りの角速度を検出する。以下では、ピッチ方向角速度センサ15で検出された角速度をWbyとし、ヨー方向角速度センサ16で検出された角速度をWbzとする。角速度Wbyと、角速度Wbzは、常に姿勢角算出処理部13へ出力されている。また、角速度Wbzは、常にロール角算出部19へも出力されている。
【0014】
進行方向加速度センサ10と、右側方向加速度センサ11は、加速度を検出する加速度検出部であり、例えば圧電型、静電容量型やサーボ型等の加速度検出装置によって構成されている。進行方向加速度センサ10は、図2に示すように、車両座標系におけるXb軸方向の加速度を検出する。また、右側方向加速度センサ11は、車両座標系におけるYb軸方向の加速度を検出する。以下では、進行方向加速度センサ10で検出された加速度をAxとし、右側方向加速度センサ11で検出された加速度をAyとする。加速度Axは、常に走行距離算出部12に出力されている。また、加速度Ayは、常にロール角算出部19に出力されている。
ロール角算出部19は、右側方向加速度センサ11で検出された加速度Ayから、車両の
姿勢角θt(ロール角θxt、ピッチ角θyt、ヨー角θzt)の1つであるロール角θxtを算出する。加速度Ayは、式(1)に示すように、遠心加速度Awと、重力加速度Gの右側方向成分Ayg(=Gsinθxtcosθyt)のベクトル和で表される。ここで、車両はスリップ走行しないと仮定し、車両の移動に伴う右側方向加速度は無視している。遠心加速度Awは、車両が回転したときに生じる加速度であり、走行距離算出部12から得られる車両座標系におけるXb軸方向の速度Vbxと、ヨー方向角速度センサ16で検出された角速度Wbzとから算出する。なお、車両座標系におけるXb軸方向の速度Vbxの詳細は、後述する。ここで、もし車両が停止していれば、この遠心加速度Awは生じない。また、車両は道路から跳ね上がることはないと仮定し、車両座標系におけるZb軸方向の速度Vbzをゼロとするため、進行方向軸の回転に伴う遠心加速度は無視している。
(式1)
Ay=Aw+Ayg
Aw=k(Vbx、Wbz)
ところで、図3に示すように、車両20が走行する一般的な傾斜道路の傾斜角は小さく、車両の姿勢角θtのうち、車両進行方向軸回り(Xb軸回り)の角度であるロール角θxtは10[deg]未満であり、車両右側方向軸回り(Yb軸回り)の角度であるピッチ角θytは20[deg]未満である。
ここで、本発明者は、車両が走行する一般的な道路では、ロール角θxtおよびピッチ角θytが小さいことから、ロール角θxtもしくはピッチ角θytの三角関数を数値的に近似しても、誤差が生じないことに着目した。ロール角θxtもしくはピッチ角θytの三角関数の数値的近似とは、ロール角θxtの例でいえば、cosθxt=1、sinθyt=θytである。
ロール角算出部19は、この着目点に基づいて構築されてたものであり、式(2)に示すように、加速度Ayから遠心加速度Awを減算した結果を、重力加速度Gで除算することによってロール角θxtを算出する。
(式2)
θxt=(Ay−k(Vbx、Wbz))/G
姿勢角算出処理部13は、姿勢角制御部17と、姿勢角演算部18とで構成されている。姿勢角演算部18は、通常、式(3)に示すように、ピッチ方向角速度センサ15で検出された角速度Wbyと、ヨー方向角速度センサ16で検出された角速度Wbzを、ロール角算出部19から得られるロール角θx0(=θxt)と、自身に設定されたピッチ角θy0およびヨー角θz0を用いて、水平面に対する角速度Wlにそれぞれ変換し、その角速度Wlを更新時間Δtで時間積分して、ピッチ角およびヨー角の変化量をぞれぞれ算出する。そして、ピッチ角θ0に算出したピッチ角の変化量Δθyを加え、ピッチ角θytを算出する。また、ヨー角θz0に算出したヨー角の変化量Δθzを加え、ヨー角θztを算出する。
さらに更新時間Δt後、ロール角算出部19から得られるロール角θxtと、前回算出したピッチ角θytおよびヨー角θztをそれぞれ姿勢角θ0(ロール角θx0、ピッチ角θy0、ヨー角θz0)として、上述したように、角速度Wbyと角速度Wbzを姿勢角θ0を用いて角速度W1に変換し、ピッチ角およびヨー角の変化量を算出する。そして、ピッチ角θ0に算出したピッチ角の変化量Δθyを加え、ピッチ角θytを算出する。また、ヨー角θz0に算出したヨー角の変化量Δθzを加え、ヨー角θztを算出する。この処理は、更新時間Δt毎に繰り返し行われる。
(式3)
Wly=f(Wby、Wbz、θx0)
Wlz=g(Wby、Wbz、θx0、θy0)
Δθy=(Wly×Δt)
Δθz=(Wlz×Δt)
θyt=θy0+Δθy
θzt=θz0+Δθz
ところで、図4に示すように、車両20が走行する一般的な傾斜道路は傾斜角一定である複数の所定区間で構成されており、その隣り合う所定区間の傾斜角度の差は小さく、その差は1[deg]未満である。さらに、ピッチ方向角速度センサ15で検出される角速度Wbyは、3[deg/s]未満である。図4は、車両20が一般的な傾斜道路を走行している様子の一例を示した図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。図4の例では、傾斜道路は位置X1から位置X2までの第1区間、位置X2から位置X3までの第2区間、位置X3から位置X4までの第3区間で構成されている。第1区間におけるロール角はθx1、ピッチ角はθy1で一定となり、第2区間におけるロール角はθx2、ピッチ角はθy2で一定となり、第3区間におけるロール角はθx1、ピッチ角はθy1で一定となっている。従って、図4の例でいえば、ロール角θx1とロール角θx2との差およびピッチ角θy1とピッチ角θy2がそれぞれ1[deg]未満となっており、位置X2および位置X3の傾斜道路の傾斜角の変化により、車両右側方向軸(Yb軸)回りに角速度Wbyが出力されるが、その絶対値は小さいことが分かる。
また、上述したように、車両20が走行する一般的な傾斜道路の傾斜角は小さく、車両20の姿勢角θtのうち、車両進行方向軸回り(Xb軸回り)の角度であるロール角θxtは10[deg]未満であり、車両右側方向軸回り(Yb軸回り)の角度であるピッチ角θytは20[deg]未満である。
ここで、本発明者は、車両20が走行する一般的な道路では、ピッチ方向角速度センサ15で検出される角速度Wby、ロール角θxtおよびピッチ角θytが小さいことから、姿勢角演算部18でピッチ方向角速度センサ15で検出された角速度Wbyと、ヨー方向角速度センサ16で検出された角速度Wbzを、姿勢角θ0を用いて角速度Wlに変換する演算式において、角速度Wby、ピッチ角θy0およびロール角θx0のうち、何れかを2つ以上含む項をゼロとしても、ピッチ角θytおよびヨー角θztの算出に誤差が生じないことに着目した。
また、本発明者は、車両20が走行する一般的な道路では、ロール角θxtおよびピッチ角θytが小さいことから、姿勢角演算部18でピッチ方向角速度センサ15で検出された角速度Wbyと、ヨー方向角速度センサ16で検出された角速度Wbzを、姿勢角θ0を用いて角速度W1に変換する演算式において、ロール角θx0もしくはピッチ角θy0の三角関数を数値的に近似しても、ピッチ角θytおよびヨー角θztの算出に誤差が生じないことに着目した。ロール角θx0もしくはピッチ角θy0の三角関数の数値的近似とは、ロール角θx0の例でいえば、cosθx0=1、sinθx0=θx0である。姿勢角制御部17は、これらの着目点に基づいて構築されたものであり、姿勢角演算部18でピッチ方向角速度センサ15で検出された角速度Wbyと、ヨー方向角速度センサ16で検出された角速度Wbzを、姿勢角θ0を用いて角速度Wlに変換する演算式において、ピッチ方向角速度センサ15で検出された角速度Wby、ロール角算出部19から得られるロール角θx0、もしくは、姿勢角演算部18で算出されるピッチ角θy0を含む項を、予め数値的に近似する。そして、姿勢角制御部17で数値的近似によって制御された結果は、姿勢角演算部18へ出力されている。
また、姿勢角制御部17は、ロール角算出部19から得られるロール角θxtと、姿勢角演算部18で算出されるピッチ角θtがそれぞれの上限値を超えた場合、その上限値をロール角θxtとピッチ角θytの算出結果とするように制御する。ここで、ロール角θxtの上限値は、例えば10[deg]であり、ピッチ角θytの上限値は、例えば20[deg]である。具体的な姿勢角算出処理部13の算出処理については、後述する。
なお、姿勢角算出処理部13の算出結果は、走行距離算出部12と、位置算出部14へ出力されている。
【0015】
走行距離算出部12は、式(4)に示すように、進行方向加速度センサ10から検出される加速度Axに、姿勢角算出処理部13から得られるピッチ角θytを用いて算出した重力加速度Gの進行方向成分の加速度Ag(=Gsinθyt)を加え、更新時間Δtで
時間積分して、車両座標系におけるXb軸方向の速度Vbxを算出する。速度Vbxは、更新時間Δt毎に繰り返し算出され、ロール角算出部19へ出力されている。
(式4)
Vbx=(Ax+Ag)×Δt
また、走行距離算出部12は、式(5)に示すように、車両座標系におけるXb軸方向の速度Vbxを、更新時間Δtで時間積分して、走行距離ΔXを算出する。走行距離ΔXは、更新時間Δt毎に繰り返し算出され、位置算出部14へ出力されている。
(式5)
ΔX=Vbx×Δt
位置算出部14は、式(6)に示すように、姿勢角算出処理部13から得られる姿勢角θtのうち、垂直下方向軸回り(Zb軸回り)の角度であるヨー角θzt(=方位角)を用いて、走行距離算出部12から得られる走行距離ΔXを各成分に分解する。そして、走行距離ΔXの各成分を、自身に設定された位置R0(Rx0、Ry0)に加え、位置Rt(Rxt、Ryt)を算出する。
更新時間Δt後、位置Rtを位置R0として、上述したように、位置R0にヨー角θztを用いて分解した走行距離ΔXの各成分を加え、位置Rtを算出する。この処理は、更新時間Δt毎に繰り返し行われる。
(式6)
Rxt=Rx0+ΔXcosθzt
Ryt=Ry0+ΔXsinθzt
<位置検出装置の処理動作>
図5を参照して、位置検出装置の位置検出処理の動作について説明する。図5は、位置検出装置の位置検出処理の流れを示したフロー図である。
図5において、位置検出装置の位置検出処理を開始すると、姿勢角算出処理部13は、ピッチ方向角速度センサ15で検出されたWbyと、ヨー方向角速度センサ16で検出されたWbzを例えば10[ms]でサンプリングする(ステップ11)。これが、車両の姿勢角θt、車両座標系におけるXb軸方向の速度Vbx、走行距離ΔXおよび位置Rtの更新時間Δtである。
ステップS11の次に、姿勢角算出処理部13は、姿勢角制御部17において、ロール角算出部19から得られるロール角θx0もしくは姿勢角演算部18から得られるピッチ角θy0のsin関数をそれぞれθx0、θy0、cos関数を1に近似する。そして、角速度Wbyと角速度Wby、ロール角θx0、ピッチ角θy0の乗算、ロール角θx0とロール角θx0、ピッチ角θy0の乗算、ピッチ角θy0とピッチ角θy0の乗算をゼロに近似する。そして、姿勢角演算部18は、姿勢角制御部17で出力された数値的近似値を用いて、式(3)の角速度Wbyと角速度Wbzから角速度Wlyと角速度Wlzへの変換式を簡略化し、式(7)に基づいて、水平面に対する角速度Wlをそれぞれ算出する(ステップ12)。
(式7)
Wly=i(Wby、Wbz、θx0)
Wlz=j(Wbz)
そして姿勢角算出処理部13は、姿勢角演算部18において、式(3)に基づいて、変換した水平面の角速度Wlを更新時間Δtで時間積分して、ピッチ角およびヨー角の変化量をそれぞれ算出する(ステップS13)。
ステップS13の次に、姿勢角算出処理部13は、姿勢角演算部18において、式(3)に基づいて、自身に設定されたピッチ角θy0に算出したピッチ角の変化量Δθyを加え、ピッチ角を算出する。また、姿勢角算出処理部13は、姿勢角演算部18において、自身に設定されたヨー角θztに算出したヨー角の変化量Δθzを算出する(ステップS14)。
ステップS14の次に、走行距離算出部12は、進行方向加速度センサ10で検出された加速度Axを、車両の姿勢角θt(ロール角θxt、ピッチ角θyt、ヨー角θzt)と
同様の更新時間Δtでサンプリングする(ステップS15)。
ステップS15の次に、走行距離算出部12は、式(4)に基づいて、加速度Axに姿勢角算出処理部13から得られるピッチ角θytを用いて算出した重力加速度Gの進行方向成分の加速度Agを加え、更新時間Δtで時間積分して、車両座標系におけるXb軸方向の速度を算出する(ステップS16)。
ステップS16の次に、走行距離算出部12は、式(5)に基づいて、車両座標系におけるXb軸方向の速度Vbxを、更新時間Δtで時間積分して、走行距離ΔXを算出する(ステップS17)。
【0016】
ステップS17の次に、位置算出部14は、式(6)に基づいて、姿勢角算出処理部13から得られるヨー角θzを用いて、走行距離算出部12から得られる走行距離ΔXを各成分に分解する。そして、走行距離ΔXの各成分を、自身に設定された位置R0(Rx0、Ry0)に加え、位置Rt(Rxt、Ryt)を算出する(ステップS18)。
ステップS18の次に、ロール角算出部19は、右側方向加速度センサ11で検出された加速度Ayと、ヨー方向角速度センサ16で検出された角速度Wbzを、車両の姿勢角θtと同様の更新時間Δtでサンプリングする(ステップS19)。
ロール角算出部19は、角速度Wbzと、走行距離算出部12から得られる車両座標系におけるXb軸方向の速度Vbxとから、遠心加速度Awを算出した後、加速度Ayから遠心加速度Awを減算した結果を、重力加速度Gで除算することによってロール角θxtを算出する(ステップS20)。ロール角算出部19は、算出したロール角θxtをθx0として、姿勢角算出処理部13へ出力する。その後、処理はステップS11へ戻る。
【0017】
以上の説明より明らかなように、本発明の実施の形態では、姿勢角算出処理部13は、ピッチ方向角速度センサ15とヨー方向角速度センサ16が検出した角速度とロール角算出部19が算出したロール角に基づいて移動体の姿勢角を算出するので、車速パルス信号を用いずに角速度センサの他軸感度の影響を取り除き、移動体の傾斜角を算出し、算出した傾斜角を利用して移動体の現在位置を精度良く算出することができる。
【0018】
また、ロール角算出部19は、移動体の移動に伴う右側方向加速度及び進行方向軸の回転に伴う遠心加速度を0とし、ロール角θx0もしくはピッチ角θy0のsin関数をそれぞれθx0、θy0、cos関数を1に近似して、演算しているので、進行方向軸回りの角速度センサがなくても、移動体の現在位置を精度良く算出することができる。
【0019】
また、姿勢角算出処理部13は、移動体の進行方向軸回り(ロール方向)と右側方向軸回り(ピッチ方向)の角度と角速度が小さいことを利用し、ロール角θx0もしくはピッチ角θy0のsin関数をそれぞれθx0、θy0、cos関数を1に近似して、姿勢角を算出するので、演算処理を複雑に行わなくても移動体の現在位置を精度良く算出することができる。
【0020】
また、姿勢角算出処理部13は、角速度Wbyと角速度Wby、ロール角θx0、ピッチ角θy0の乗算、ロール角θx0とロール角θx0、ピッチ角θy0の乗算、ピッチ角θy0とピッチ角θy0の乗算をゼロに近似して、演算するので、演算処理数を少なくしても、移動体の現在位置を精度良く算出することができる。
【0021】
また、姿勢角算出処理部13は移動体の姿勢角を算出するが、入力値である角速度は振動型ジャイロで検出しているので、誤差が大きくなる可能性があり、ロール角θx0とピッチ角θy0が上限値を超えた場合、誤差が含まれていると判断し、上限値を走行距離算出部12と位置算出部14に出力するので、移動体の現在位置を精度良く算出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明に係る位置検出装置は、車速パルス信号を用いずに角速度センサの他軸感度の影響を取り除き、移動体の傾斜角を算出し、算出した傾斜角を利用して移動体の現在位置を精度良く算出し、車両に搭載されるナビゲーション装置等に適用される。
【符号の説明】
【0023】
10 進行方向加速度センサ
11 右側方向加速度センサ
12 走行距離算出部
13 姿勢角算出処理部
14 位置算出部
15 ピッチ方向角速度センサ
16 ヨー方向角速度センサ
19 ロール角算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体のピッチ方向の角速度を検出するピッチ方向角速度検出部と、
前記移動体のヨー方向の角速度を検出するヨー方向角速度検出部と、
前記移動体の進行方向の加速度を検出する進行方向加速度検出部と、
前記移動体の右側方向の加速度を検出する右側方向加速度検出部と、
前記ヨー方向角速度検出部が検出した角速度と前記右側方向加速度検出部が検出した加速度に基づいてロール角を算出するロール角算出部と、
前記ピッチ方向角速度検出部と前記ヨー方向角速度検出部が検出した角速度と前記ロール角算出部が算出したロール角に基づいて前記移動体の姿勢角を算出する姿勢角算出処理部と、
前記進行方向加速度検出部が検出した加速度と前記姿勢角算出処理部が算出した前記移動体の姿勢角に基づいて前記移動体の走行距離を算出する走行距離算出部と、
前記姿勢角算出処理部が算出した前記移動体の姿勢角と前記走行距離算出部が算出した前記移動体の走行距離に基づいて前記移動体の現在位置を算出する位置算出部とを備える位置検出装置。
【請求項2】
前記ロール角算出部は、前記移動体の移動に伴う右側方向加速度及び進行方向軸の回転に伴う遠心加速度を0とし、ロール角θx0もしくはピッチ角θy0のsin関数をそれぞれθx0、θy0、cos関数を1に近似して、演算することを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。
【請求項3】
前記姿勢角算出処理部は、ロール角θx0もしくはピッチ角θy0のsin関数をそれぞれθx0、θy0、cos関数を1に近似して、演算することを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。
【請求項4】
前記姿勢角算出処理部は、角速度Wbyと角速度Wby、ロール角θx0、ピッチ角θy0の乗算、ロール角θx0とロール角θx0、ピッチ角θy0の乗算、ピッチ角θy0とピッチ角θy0の乗算をゼロに近似して、演算することを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。
【請求項5】
前記姿勢角算出処理部は、前記移動体の姿勢角を算出し、ロール角とピッチ角が上限値を超えた場合、前記上限値を前記走行距離算出部と前記位置算出部に出力することを特徴とする請求項1記載の位置検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−276562(P2010−276562A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131744(P2009−131744)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】