説明

低い密度を有する透明なガラスセラミック

【課題】主結晶相としての高温石英混晶を有し、2.5g・cm-3より低い密度を有する新たな組成のガラスセミックスの提供。
【解決手段】主結晶相としての高温石英混晶を有し、2.5g・cm-3未満の密度ρを有し、酸化物ベースの重量%で3〜4.5Li2O、18〜24Al23、55〜70SiO2、0.1〜<2.3TiO2、0.1〜<1.8ZrO2、0.2〜4ΣTiO2+ZrO2、0〜1.5BaO、1〜6ΣMgO+ZnO、>4〜10B23、0〜<1ΣNa2O+K2O、0〜1.5通常の清澄剤(SnO2、As23、Sb23、CeO2)を含むLi2O-Al23-SiO2系の低い密度を有する透明なガラスセラミック。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明は、低い密度を有する透明なガラスセラミックに関する。
【0002】
主結晶相として高温石英混晶(β−石英固溶体)を有するLi2O−Al23−SiO2系のガラスセラミックの密度が、同一の組成および同一の結晶相割合の場合でも、僅かな範囲で変化される理由は、セラミック化の最中に出発ガラスが晒される収縮がセラミック化プログラムによって僅かな程度影響を受けるからであることが知られている。しかしながら、主結晶相として高温石英混晶を有しかつLi2O−Al23−SiO2系からなる従来のガラスセラミックの密度は、あらゆる処置にもかかわらず、常に2.5g・cm-3を上回っている。例えば、ショット社によって特に光学用途のためのゼロデュア(登録商標)の名前で販売されているガラスセラミックは、2.53g・cm-3の密度を有する。
【0003】
主結晶相として高温石英混晶を有し、2.5g・cm-3より低い密度を有するLi2O−Al23−SiO2系のガラスセラミックを製造しようとする場合、このガラスセラミックのために、新たな組成を見出さねばならない。EP1840093A1から、β−リチア輝石の主結晶相を有するガラスセラミックが既知であるが、これでは、2.5g・cm-3より低い密度を達成することができない。
【0004】
本発明の課題は、主結晶相として高温石英混晶(β−石英固溶体)を有し、2.5g・cm-3より低い密度を有するLi2O−Al23−SiO2系のガラスセラミックを見出すことである。更に、ガラスセラミックが、高い透過率および少ない固有着色(Eigenfaerbung)を有することが意図される。
【0005】
上記課題は、酸化物ベースの重量%で、
Li2O 3〜4.5
Al23 18〜24
SiO2 55〜70
TiO2 0.1〜<2.3
ZrO2 0.2〜<1.8
ΣTiO2+ZrO2 0.2〜4
BaO 0〜1.5
ΣMgO+ZnO >1〜6
23 >5〜10
ΣNa2O+K2O 0〜<1
通常の清澄剤(SnO2、As23、Sb23、CeO2) 0〜1.5
を含むガラスセラミックによって解決される。
【0006】
酸化物Li2O、Al23およびSiO2は、高温石英混晶(β−石英固溶体)および/またはキータイト混晶(キータイト固溶体)を有するガラスセラミックの必要な成分である。Li2Oの含量が3重量%未満である場合、結晶相割合が、意図された使用にとって余りにも低い(高温石英混晶の所望の割合は、<60体積%である)。4.5重量%を超えるLi2Oの含量は、結晶成長速度を高め、失透安定性を危うくする。Li2Oの含量は、3〜4重量%であることが好ましい。何故ならば、この範囲では、達成可能な結晶相含量と、十分な失透安定性との間の特に好都合な妥協があるからである。Al23の含量は18〜24重量%である。この範囲では、溶融物は、良好な加工性を保証すべく十分に低い粘性を有する。Al23の含量が18重量%未満である場合、達成可能なセラミック化速度が下がり、透明度は余りに低いであろう。
【0007】
Al23の含量は19.5〜21.5重量%の範囲にあることが好ましい。
【0008】
SiO2の含量は55〜70重量%である。SiO2の含量が高ければ、密度は一層低くなる。しかしながら、SiO2の含量が、70重量%の、好ましくは66重量%の上限を上回らないほうがよい。何故ならば、上回れば、未処理ガラス(Gruenglas)を処理するための温度範囲が、>1550℃の値を有し、このような温度では、ガラスを処理するためには技術的に一層難しくなるからである。
【0009】
SiO2の含量が55重量%の下限を下回ると、セラミック化速度が下がる。SiO2の含有量は、少なくとも56重量%であることが好ましい。
【0010】
アルカリ酸化物Na2OおよびK2Oの存在によって、ガラスの溶融性および失透挙動が、製造の際に、改善されることが知られている。しかしながら、Na2OおよびK2Oの含量が合計で1重量%より低いことが意図される。何故ならば、これらの酸化物の1重量%より高い割合が、ガラスセラミックの熱膨張係数を高めるからである。Na2OおよびK2Oの含量は、合計で、0〜0.9重量%、特に0.3〜0.5重量%であることが好ましい。
【0011】
アルカリ土類酸化物CaOおよびBaOも、一般的に、溶融挙動への同様に好ましい効果を示す。しかしながら、本発明の組成物では、CaOはないほうが好ましいが、最大限0.5重量%が許容され得る。本発明の組成物では、CaOはセラミック化の最中に異物相の形成をもたらすので、回避されることが意図される。BaOも、溶融挙動への類似の効果を示す。しかしながら、BaOの高い割合は、密度の増大をもたらす。それ故に、BaOの割合は、最大1.5重量%である。溶融性および透明性を改善するためには、BaOを0.1〜0.8重量%の量で添加することが好ましい。本発明の組成物はBaOを全く含まないことが特に好ましい。しかしながら、このことは、溶融性(Einschmeltzbarkeit)の理由から、必ずしも実現されるわけではない。
【0012】
TiO2およびZrO2は、知られるように、成核剤として作用する。この場合、TiO2の含量は2.3重量%未満であり、ZrO2の含量は1.8重量%未満であり、TiO2+ZrO2の合計は、0.2〜4重量%である。TiO2およびZrO2が、これらの限界を上回りおよび下回るとき、成核剤の析出速度と、結果として生じる高温石英混晶の含量と、透明性とは、不満足なほどに低い。TiO2およびZrO2の好ましい最低限量は、それぞれ、1重量%のTiO2および1重量%のZrO2である。TiO2およびZrO2の合計は2〜4重量%であることが好ましい。
【0013】
Fe23の微量濃度に関連したガラスセラミックの増大する着色の故に、MgOおよびZnOの割合は、合計1ないし6重量%に限定されねばならない。この合計内では、MgOの量は0.5重量%を、ZnOの量は2.5重量%を上回らないことが好ましい。MgOおよびZnOの含量は、合計で、1重量%ないし2.5重量%であることが特に好ましい。
【0014】
低い密度を得るために重要な成分は、B23である。何故ならば、この成分は、微細構造を緩ませ、セラミック化の最中にガラスセラミックの圧縮を減じるからである。B23は、5重量%を超え、10重量%までの量で、存在する。しかしながら、B23がより高い場合には、ガラスセラミックの透過率が低下し、あるいは、失透傾向が、成形(成形温度(Va))の際に、増大するという危険性が存する。B23の含量は5重量%を超え、9重量%までであることが好ましい。
【0015】
SnO2は、ガラス系の中で、0〜1重量%の量で存在し得る。SnO2が、清澄剤および成核剤として作用することが可能である。しかしながら、SnO2が存在しないことが好ましい。
【0016】
成分ZnOおよびMgOにおいて記述した色の問題の故に、Fe23の含量は200重量ppm未満、好ましくは130重量ppm未満であるべきである。対応して、鉄の含有量の少ない原料が用いられることに注意しなければならない。更に、ガラスは、CaO、F、Pb酸化物および着色性酸化物を有しないことが好ましい。
【0017】
ガラスセラミックの製造は、原料のそれ自体知られた溶融、続いてのガラスの清澄および成形によってなされる。清澄は、化学的または物理的方法によってなされ得る。As23、Sb23、CeO2、SnO2、硫酸塩化合物または塩化物化合物のようなそれ自体既知の清澄剤が用いられる場合、これらの清澄剤は、0.1ないし1.5重量%の通常の量で用いられる。物理的方法は、例えば、減圧清澄または高温清澄である。
【0018】
ガラスを成形して、例えば板ガラスに形成した後に、ガラスのそれ自体知られたセラミック化がなされて、ガラスセラミックが形成される。そのためには、ガラスセラミックは、好ましい成核剤相TiZrO4の高い核密度を析出させるために、それ自体既知の手法で、例えば、630℃〜770℃の温度で、15分を超える時間処理され、続いて、高温石英混晶ガラスセラミックを形成するための結晶化が、700℃〜950℃の温度範囲で、少なくとも5分の滞留時間で実行される。かくして、ガラスセラミックにおける高温石英混晶の微結晶(Kristallit)の大きさは、100nm未満、特に、80nm未満である。このことは、優れた透明性をもたらす。20℃〜300℃の範囲でのガラスセラミックの熱膨張係数は、+0.3〜0.6・10-6-1未満、好ましくは0.5・10-6-1未満である。
【0019】
DIN5031に従って測定されたガラスセラミックの輝度値Y(A/2°)は、4mmの厚さの板ガラスについて、80を超え、好ましくは87を超える。CIE−xyY表色系の輝度値Yは、常に、2°の視角での透過標準光Aについて特定され、個々の波長において分解された透過スペクトルから、CIEで定められた視覚感度曲線(三刺激曲線)によって、算出される。輝度値は、しばしば、分光透過率とも呼ばれる。未処理ガラスからガラスセラミックを製造するための1つの好ましいセラミック化方法は、未処理ガラスを、10〜15K・min-1の加熱速度で、650±10℃の温度に加熱し、続いて、1〜5K・min-1の加熱速度で、710±50℃の温度に更に加熱し、核を形成すべく、この温度で60±30分放置し、続いて、0.5〜5K・min-1の加熱速度で、850±50℃の結晶化温度に加熱し、未処理ガラスを、この温度に20±15分保って、結晶化することである。この後、任意の冷却速度で、しかし、一般的には、1〜20K・min-1の冷却速度で冷却を行なう。
【0020】
本発明を、実施例を参照してさらに詳述する。
【0021】
出発ガラスを、ガラス産業で通常の原料を用いて、1620℃の温度で溶融しかつ清澄した。焼結されたシリカガラス(クォーザル(登録商標)、ショット社)で作られた坩堝において溶融した後に、溶融物を、白金坩堝に移し変え、1600℃の温度で、30分間、撹拌によって均質化した。1640℃で2時間の放置後に、140×100×30mmの寸法の鋳込み成形品を鋳込み成形し、熱応力を緩和するために、冷却炉で、650℃から始めて室温まで冷却した。これらの鋳込み成形品から、試験サンプル、例えば、熱膨張係数を測定するための棒、透過率を測定するための小板を作製した。ついで、ガラスセラミックの検査のために必要な大きさのガラス状のサンプルを、以下に挙げる核形成条件および結晶化条件を用いて、ガラスセラミックに変換した。この目的のために、サンプルを、10K・min-1の加熱速度で、650℃の温度に加熱し、この温度に達した後に、約5K・min-1の加熱速度でTg+20Kの温度に加熱し、核形成のために、この温度で30分放置した。続いて、サンプルを、10K・min-1の加熱速度で、高温石英混晶に関する示差熱分析器(DTA)によって測定された生成の最大速度(Ausscheidungsmaximum)の範囲における温度に加熱し、この温度で10分間放置し、続いて、5K・min-1の平均冷却速度で、室温まで冷却した(空気中で)。
【0022】
出発ガラスおよび製造されたガラスセラミックについて、密度ρ[g・cm-3]と、結晶相割合KPhAと、輝度値Y(A/2°)とを測定した。
【0023】
例が、表1に纏められている。
【表1】

【0024】
僅かな固有色および高い輝度値(高いスペクトル光透過率)Y(A/2°)の故に、ガラスセラミックは、多様なシステム、例えば、レンジ上面、煙突用視界窓、半導体基板、またはガラスコンポーネント、例えば耐火性ガラス、高温用途のための視界窓等に使用するために、特によく適している。特に、ガラスセラミックは、破壊、銃撃作用または圧力波作用に対して保護するための耐衝撃性の硬いガラス系におけるコンポーネントとして適している。当然ながら、ガラスセラミックまたは未処理ガラスは、必要な場合には、特に美的な効果を上げるために、通常の着色酸化物によって着色することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主結晶相として高温石英混晶を有し、2.5g・cm-3未満の密度ρを有し、酸化物ベースの重量%で、
3〜4.5 Li2
18〜24 Al23
55〜70 SiO2
0.1〜2.3未満 TiO2
0.2〜1.8未満 ZrO2
0.2〜4 ΣTiO2+ZrO2
0〜1.5 BaO
0〜0.5 CaO
1〜6 ΣMgO+ZnO
>5〜10 B23
0〜<1 ΣNa2O+K2
0〜1.5 通常の清澄剤(SnO2、As23、Sb23、CeO2
を含む、Li2O-Al23-SiO2系のガラスセラミック。
【請求項2】
酸化物ベースの重量%で、
3〜4 Li2
19.5〜21.5 Al23
56〜66 SiO2
2〜4 ΣTiO2+ZrO2
0.1〜0.8 BaO
0〜2.5 ZnO
0〜0.5 MgO
1〜2.5 ΣZnO+MgO
>5〜9 B23
0〜0.9 ΣNa2O+K2
0〜1.5 通常の清澄剤(SnO2、As23、Sb23、CeO2
を含む請求項1に記載のガラスセラミック。
【請求項3】
80を超え、特に87を超える、DIN5031に従う輝度値Y(A/2°)を有する請求項1または2に記載のガラスセラミック。
【請求項4】
レンジ上面、煙突用視界窓またはオーブンの視界窓、半導体基板、ガラスコンポーネント、耐火性ガラス、高温用途のための視界窓、あるいは、破壊、射撃作用または圧力波作用に対し保護するための耐衝撃性の硬いガラス系のための、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のセラミックの使用。

【公開番号】特開2010−132546(P2010−132546A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278536(P2009−278536)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(505458670)ショット・アーゲー (32)
【Fターム(参考)】