低分子干渉RNA(siRNA)を用いた記憶形成に関わる遺伝子の同定方法
本発明は、(a)遺伝子に特異的で十分な低分子干渉RNA(siRNA)を動物に投与し、遺伝子の機能を阻害する工程;(b)該動物を、処理されていない正常動物の転写依存性記憶形成を誘導するのに十分な条件下で訓練する工程;および(c)該処理された動物の訓練によって誘導される転写依存性記憶形成のレベルを決定する工程を含む、動物における転写依存性記憶形成と関連した遺伝子または遺伝子産物の同定方法に関する。本発明は、遺伝子および遺伝子産物を同定するための、海馬における低分子干渉RNA(siRNA)の使用方法であって、遺伝子および遺伝子産物の阻害が短期記憶(STM)ではなく文脈および時間的長期記憶(LTM)に影響を及ぼす方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、2007年5月15日に出願された米国仮特許出願番号第60/938,165号の35 U. S. C. §119の下での利益を主張しており、その全内容および実体は参照によって本明細書に援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、低分子干渉RNA(siRNA)分子を用いた記憶形成に関わる遺伝子の同定方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
ヒトを含む多くの生物が有する特性は、過去の出来事の記憶である。この特性は、何十年も研究されており、多くの派生した問題を説明する多くの情報が現在利用可能である。例えば、2つの記憶の基本型:短期記憶を含む転写非依存性記憶、および長期記憶を含む転写依存性記憶が同定されている。
【0004】
記憶形成と関連する遺伝子の同定によって、(a)認知機能不全の遺伝的疫学、(b)(特定の認知形態について異なる成績レベルと関連する)これらの遺伝子の異なる対立形質を有する個体のための診断ツールおよび(c)様々な形態の認知機能不全を最終的に改善する薬物発見のための新規標的(特定の薬物は診断試験によって特定の形態の認知機能不全と適合させることができる)が提供される。従って、記憶形成と関連する遺伝子を同定する技術が利用可能になることは有用である。
【0005】
記憶の比較的未知な局面は、記憶の発生に寄与する遺伝子の同定である。記憶形成に寄与することがある遺伝子の同定方法が、転写依存性記憶形成中に転写制御されるさらなる「下流」遺伝子を同定するためのディファレンシャルスクリーニングの使用を通じて、米国特許第7,005,256号に記載されている。DNAプローブは、当該技術分野で一般的に公知な方法によって、分散訓練または集中訓練されたハエの頭部から抽出したRNAを用いて合成された。RNAをハエ頭部から抽出した。ハエの分散訓練および集中訓練は、以前に記載されたように行われた。相補的DNA(cDNA)プローブが抽出RNAから合成された。次に複合cDNAプローブミックスを、DNA配列を含むマイクロアレイチップ上にハイブリダイズさせた。ハイブリダイズしたDNAプローブのシグナルを増幅し、検出した。統計学的比較は、分散訓練群と集中訓練群との間で検出されたシグナルの比較によって行われ、候補遺伝子が同定された。
【0006】
しかし、かかる遺伝子が転写依存性記憶形成中に転写制御されることを確認するために候補遺伝子の試験方法が必要である。
【0007】
RNA干渉(RNAi)は、遺伝子機能の生物学的機構を調べるための新規遺伝子サイレンシング技術を提供し、インビボでの標的確認の可能性がある。合成21ヌクレオチド低分子干渉RNA二本鎖(siRNA)によるRNAiは、培養細胞中の遺伝子機能を研究するために使用されている(Elbashirら、2001, Nature 411 :494-498)。しかし、インビボでのCNSへの合成siRNAの首尾よい送達は、非修飾siRNAの低い効率によって制限されているので、大量のsiRNAの使用またはウイルスベクターからのsiRNA発現を要する(Thakkerら、2004, Proc. Natl Acad Sci USA 101 :17270-17275);(Xiaら、2002, Nat. Biotechnol. 20:1006-1010)。さらに、記憶形成に対するRNAiの特定の効果はこれまで示されていない。
【0008】
文脈および痕跡条件付けの両方は、完全な海馬の機能を要する(PhillipsおよびLeDoux, 1992, Behav. neurosci 1006:274-285); (McEchronら、1998, Hippocampus 8:638-646)。文脈条件付けにおいて、以前の中立文脈は、穏やかで回避できない足衝撃と組み合わされている。痕跡条件付けにおいて、短い間隔(痕跡)を、音などの条件付け刺激(CS)と衝撃などの非条件付け刺激(US)との間に課す。この短い間隔によって、海馬を十分必要とするように学習課題の複雑さを増大させる(Kimら、1995, Behav. Neurosci. 109:195-203); (McGlinchey-Berrothら、1997, Behav Neursci 111:973-882); (ClarkおよびSquire, 1998, Science 280:77-81); (McEchronら、1998, Hippocampus 8:638-646); (Buchel ら、1999, J. Neurosci 19:10869-10876)。従って、痕跡条件付けは文脈条件付けと類似しており、動物は単純に条件付け刺激と非条件付け刺激を関連付けるだけでなく、条件付け刺激と条件付け刺激にさらされる文脈全体を関連付ける。
【0009】
海馬における文脈および時間的長期記憶の発生と関連する遺伝子およびタンパク質産物を同定することが必要である。
【発明の概要】
【0010】
(発明の概要)
本発明は、候補遺伝子のsiRNAが転写依存性記憶形成、特に長期記憶形成に関わる候補遺伝子の阻害効果を決定するために使用できるという発見に関するものである。
【0011】
特に、一態様において、本発明は、(a)遺伝子に特異的で十分なsiRNAを動物に投与し、遺伝子の機能を阻害する工程; (b)該動物を、処理されていない正常動物の転写依存性記憶形成を誘導するのに十分な条件下で訓練する工程;およびc)該処理された動物の訓練によって誘導される転写依存性記憶形成のレベルを決定する工程を含む方法を含むものである。
【0012】
別の態様において、処理されていない動物の転写依存性記憶形成に対する処理された動物の転写依存性記憶形成の増大の決定は、遺伝子の阻害が転写依存性記憶形成の増強をもたらすことを示す。別の態様において、処理されていない動物の転写依存性記憶形成に対する処理された動物の転写依存性記憶形成の減少の決定は、遺伝子の阻害が転写依存性記憶形成の阻害をもたらすことを示す。
【0013】
特定の態様において、転写依存性記憶形成が長期記憶形成である。別の態様において、転写依存性記憶形成が特定の認知課題の成績によって明示される。
【0014】
本発明の別の態様は、(a)遺伝子に特異的で十分なsiRNAを動物に投与し、遺伝子の機能を阻害する工程; (b)該動物を、処理されていない正常動物の長期記憶形成を誘導するのに十分な条件下で訓練する工程; および(c)該処理された動物の訓練によって誘導される長期記憶形成のレベルを決定する工程を含む方法を含むものである。
【0015】
一態様において、処理されていない動物の長期記憶形成に対する処理された動物の長期記憶形成の増大の決定は、遺伝子の阻害が長期記憶形成の増強をもたらすことを示す。別の態様において、処理されていない動物の長期記憶形成に対する処理された動物の長期記憶形成の減少の決定は、遺伝子の阻害が長期記憶形成の阻害をもたらすことを示す。
【0016】
特定の態様において、長期記憶形成が特定の認知課題の成績によって明示される。
【0017】
本発明の別の態様は、(a)遺伝子に特異的で十分なsiRNAを動物に投与し、遺伝子の機能を阻害する工程; (b)該動物を、処理されていない正常動物の特定の認知課題の成績における改善を生じるのに十分な条件下で訓練する工程;および(c)該処理された動物の訓練によって生じる認知成績のレベルを決定する工程を含む方法を含むものである。
【0018】
一態様において、処理されていない動物の認知成績のレベルに対する処理された動物の認知成績のレベルの決定は、遺伝子の阻害が認知成績の増強をもたらすことを示す。別の態様において、処理されていない動物の認知成績のレベルに対する処理された動物の認知成績のレベルの減少の決定は、遺伝子の阻害が認知成績の阻害をもたらすことを示す。
【0019】
特定の態様において、認知成績が長期記憶形成である。別の態様において、認知成績が特定の認知課題の成績によって明示される。
【0020】
全ての態様において、siRNAが、訓練期間の前または訓練期間と同時に投与することができる。全ての態様において、動物が非ヒト哺乳動物であり得る。全ての態様において、工程(b)の訓練が、複数訓練期間を含むことができる。全ての態様において、工程(b)の訓練が、分散訓練プロトコルを含むことができる。全ての態様において、工程(b)の訓練が、1回または複数回の試行による文脈恐怖訓練プロトコルを含むことができる。全ての態様において、工程(b)の訓練が、1回または複数回の試行による痕跡恐怖条件付けを含むことができる。全ての態様において、訓練が、文脈記憶、時間的記憶、空間的記憶、エピソード記憶、受動回避記憶、能動回避記憶、社会伝達の食物嗜好記憶、条件付け味覚回避、および社会的認識記憶からなる群より選択される記憶パラダイム(memory paradigm)に関することができる。
【0021】
本発明のこれらおよび他の局面は、以下の詳細な説明および付属の図面を参照して明らかになる。しかし、本質的な精神および範囲を逸脱することなく、さまざまな変化、変更および置換が本明細書に開示される特定の態様に対して行われてもよいことが理解される。また、図面は本発明の例示態様の例示的および象徴的な提示であることを意図すること、および他の例示されていない態様が本発明の範囲内であることがさらに理解される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1aは、CREB siRNAで処理した後のNeuro2A細胞のCREB mRNA、PP1α mRNA、NMDAレセプターサブユニット1(Grin1) mRNAおよびシナプトタグミンI(Syt1) mRNAを示す棒グラフである。2〜4回の実験反復の平均±標準誤差を示す。オープンバー:溶媒(vehicle)、ストライプバー:ノンターゲッティング、灰色バー:CREB1 siRNA;黒色バー:CREB2 siRNA。図1bは、PP1α siRNAで処理した後のNeuro2A細胞のCREB mRNA、PP1α mRNA、NMDAレセプターサブユニット1(Grin1) mRNAおよびシナプトタグミンI(Syt1) mRNAのレベルを示す棒グラフである。2回の実験反復の平均±標準誤差を示す。オープンバー:溶媒、ストライプバー:ノンターゲッティング、灰色バー:PP1α siRNA
【図2】図2aは、Cy3標識siRNAおよび22kDaポリエチレンイミン担体を注入した海馬の冠状切片の写真である。図2bは、ノンターゲッティング(スクランブル)siRNA注入またはCREB siRNA注入後のマウスの海馬のCREBタンパク質およびシナプトタグミンタンパク質レベルのウエスタンブロットである。図2bは、また、ノンターゲッティング(スクランブル)siRNA注入またはCREB1 siRNA注入後のマウスの海馬CREBタンパク質およびシナプトタグミンタンパク質のレベルを示す棒グラフを示す。図2cは、ノンターゲッティング(スクランブル)siRNA注入またはCREB siRNA注入後の、訓練中(直後のすくみ)、訓練30分後(短期記憶)および訓練24時間後(長期記憶)のマウスの文脈すくみの割合を示す棒グラフである。図2dは、ノンターゲッティング(スクランブル)siRNA注入またはCREB siRNA注入後の、訓練中(直後のすくみ)、訓練30分後(短期記憶)および訓練24時間後(長期記憶)のマウスのすくみの割合を示す棒グラフである。
【図3】図3aは、ノンターゲッティング(スクランブル)siRNA注入またはCREB siRNA2注入後の、訓練中、訓練30分後および訓練24時間後のC57BL/6マウスの文脈すくみの割合を示す棒グラフである。図3bは、訓練後siRNA注入のための訓練プロトコルの概略図式である。図3cは、図3bに示されるプロトコルによる、ノンターゲッティング(スクランブル)siRNA注入またはCREB siRNA2注入後の、訓練中および訓練7日後のC57BL/6マウスの文脈すくみの割合を示す棒グラフである。
【図4】図4aは、PP1α siRNA注入後の海馬におけるPP1αおよびCREBタンパク質のレベルを示すウエスタンブロットである。図4aは、また、PP1α siRNA注入後の海馬におけるPP1αおよびCREBタンパク質のレベルの棒グラフである。図4bは、ノンターゲッティング(スクランブル)siRNA注入またはPP1α siRNA注入後の、訓練中および訓練24時間後のC57BL/6マウスの文脈すくみの割合を示す棒グラフである。図4cは、訓練中、前条件付け刺激訓練24時間後および音条件付け刺激訓練24時間後のC57BL/6マウスのすくみの割合を示す棒グラフである。
【図5】図5aは、文脈記憶形成に対する訓練試行数の影響を示す棒グラフである。マウスは、増加する数のCS-US組で訓練され、文脈記憶を4日後に評価した。図5bは、時間的記憶形成に対する痕跡間隔の影響を示す棒グラフである。マウスは、遅延条件付けと比べて、徐々に長くなる痕跡間隔および音記憶を用いた痕跡恐怖条件付けで訓練された。
【図6】図6aは、リアルタイムPCRによって測定されたマウスCNSのmRNA発現のレベルの表である。図6bは、リアルタイムPCRによって測定されたマウスCNSのmRNA発現のレベルの表である。
【図7】図7は、siRNA処理24時間後のNeuro2A細胞中のGpr12のmRNAレベルの棒グラフである。
【図8】図8aは、文脈記憶に対するマウス海馬におけるGpr12 siRNAの効果の棒グラフである。図8bは、文脈記憶に対するマウス扁桃体におけるGpr12 siRNAの効果の棒グラフである。
【図9】図9は、痕跡恐怖記憶に対するマウス海馬におけるGpr12 siRNAの効果の棒グラフである。
【図10】図10は、注入した海馬に対するノンターゲッティング(A)およびGpr12 siRNA (B)のニッスル染色の写真である。カニューレ挿入部位の背側および腹側の海馬スライスを示す。
【図11】図11は、Gpr12 siRNA処理2日および3日後の海馬Gpr12 mRNA レベルの棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(発明の詳細な説明)
本発明は、候補遺伝子のsiRNAが転写依存性記憶形成、特に長期記憶形成に関わる候補遺伝子の阻害効果を同定するおよび特徴づけるために使用できるという発見に関するものである。
【0024】
転写非依存性記憶としては、短期記憶、中間(または中期)記憶および(ハエの)麻酔耐性記憶などの様々な「記憶段階」が挙げられる。これらの形態に共通するものは、RNA転写の薬理学的阻害剤がこれらの記憶を阻害しないことである。転写依存性記憶は、通常、長期記憶と称され、RNA合成の阻害剤は長期記憶の発生を阻害する。
【0025】
本発明は、(a)遺伝子に特異的で十分なsiRNAを動物に投与し、遺伝子の機能を阻害する工程; (b)該動物を、処理されていない正常動物の転写依存性記憶形成を誘導するのに十分な条件下で訓練する工程;および(c)該処理された動物の訓練によって誘導される転写依存性記憶形成のレベルを決定する工程を含む、非ヒト動物における転写依存性記憶形成と関連する遺伝子または遺伝子産物の同定方法に関する。
【0026】
特定の「長期記憶」を生じるために、動物は、調節された実験条件下での特定の訓練プロトコルに供される。パブロフ条件付け手順において、例えば、2つの特定の刺激が、接近した時間で提示され、「連想学習および記憶」を生じる。2つの刺激のうちの1つが「条件付け刺激」(CS)と特定され、他の刺激が「非条件付け刺激」(US)と特定される。USは、通常、「反射」様式での訓練の前に「非条件付け応答」(UR)を誘発する自然の強化因子である。CS-US組を用いて、「条件付け応答」(CR)は、USの提示前の(またはUSの提示の非存在下で)CSに応答して現れ始める。特定のCS-US組に対するCRが「学習」された後、記憶形成が始まる。
【0027】
この特定の実験経験の記憶形成は、2つの一般形態:転写非依存性形態および転写依存性形態で存在することができる。前者は、短期記憶および中間(または中期)記憶などの様々な「記憶段階」を含む。これらの形態に共通するものは、RNA転写の薬理学的阻害剤がこれらの記憶を阻害しないことである。後者の形態は、通常、長期記憶と称され、RNA合成の阻害剤が長期記憶の発生を阻害する。
【0028】
動物モデルにおいて、様々な実験処置、例えば、遺伝子変異、薬理学的遮断、解剖学的病変または特定の訓練プロトコルが、これらの種類の記憶の1つ以上に影響を及ぼすことができる。特に、いくつかの実験処置によって、通常量の転写非依存性記憶が生じるが、転写依存性記憶は生じない。このような観察によって、有益なDNAチップの比較の基礎が構成される。一般に、比較は、2つの実験プロトコル:転写非依存性記憶および転写依存性記憶の両方を誘導するのに十分なもの(実験群)ならびに転写非依存性記憶のみを生じるもの(対照群)の間で行われる。次に、これらの2つのプロトコル間での転写レベルの任意の検出可能な差異が、実験で誘導された学習の転写依存性記憶に特異的に寄与する場合がある。これらの転写物は、本明細書で「候補記憶遺伝子」(Candidate Memory Gene)(CMG)と称される。
【0029】
実験条件は特定の種類の学習を誘導するように調節されるが、他の実験で調節されない形態の学習も行われてもよい。従って、対照群は特定の実験課題の転写依存性記憶を生じない場合があるが、それでも対照群は調節されない学習経験の転写依存性記憶を生じる場合がある。かかる経験の1つの種類は、CSもしくはUSだけ(単独)に応答してまたは(「連想学習」にとって重要な要件である)時間的に組み合わされないCS-US提示に応答して生じる、潜在的に「非連想」形態の学習である。従って、転写依存性「非特異的」記憶が、上記に定義されるように、対照群で存在してもよい。この観察によって、「非特異的」学習と関わる幅広い種類の転写物が生じ、本発明者らは候補可塑性遺伝子(Candidate Plasticity Gene)(CPG)と称する。上記に定義されるように、実験群と未処置(非訓練)動物との間のDNAチップ比較がCMGと共にCPGをもたらす。
【0030】
ショウジョウバエでの行動遺伝学研究によって、パブロフの匂い衝撃学習パラダイム後の記憶形成に対して異なる効果を有する一組の訓練プロトコルが確立された。10回を合わせた「集中」訓練期間(即ち、期間の間に休息間隔がない)は、最大学習(獲得)および転写非依存性記憶(タンパク質合成依存性ではない)(早期記憶、短期記憶)をもたらす。対照的に、10回の「分散」訓練期間(即ち、期間の間に15分間の休息間隔がある)は、同等レベルの学習および転写非依存性記憶(早期記憶)ならびに最大レベルの転写依存性記憶(タンパク質合成依存性長期記憶(LTM)を含む)をもたらす。LTMは、分散訓練を要する;48回もの集中訓練期間は、LTMを誘導することができない(Tully ら、Cell, 79:35 47 (1994))。分散訓練によって誘導されるタンパク質合成依存性LTMは、CREBリプレッサーの過剰発現によって完全に阻害される(Yinら、Cell, 79:49 58 (1994))。分散訓練後に得られる記憶曲線は、タンパク質合成およびCREB依存性LTMが阻害されるが、正常のハエの集中訓練によって生じるものと類似している。対照的に、CREBアクチベーターの過剰発現は、少ない訓練(1つの訓練期間)または集中訓練を用いてLTMを誘導する(Yinら、Cell, 81 : 107 115 (1995))。従って、LTMの誘導は、タンパク質合成依存性およびCREB依存性の両方によるものである。これらの結果によって、分散訓練プロトコルと集中訓練プロトコルとの間の唯一の機能的な差異は前者の後の転写依存性記憶の発生であることが示される。
【0031】
上記の統計学的手順は、「統計学的候補」を示唆するだけである。使用される統計学的方法(および他のかかる方法)の基本的な側面は、「偽陽性」および「偽陰性」候補が「真陽性」と共に得られることである。従って、遺伝子転写における経験依存性変化を検出する独立した方法は、「統計学的候補」に適用される必要がある。
【0032】
ほとんどのマウス遺伝子は、ヒトホモログを有することが示されている。ヒトホモログがマウスホモログとしてマウスで機能置換できるという知識が拡大しており、本発見は対応するヒトホモログを直接関係付けるものである。
【0033】
分散対集中訓練によって生じる長期記憶に対するディファレンシャル効果は、動物界で広く観察される現象である。特に、長期記憶に対する分散集中ディファレンシャル効果が、ラット(哺乳動物モデル系)の条件付け恐怖強化驚愕効果について最近確立された。恐怖強化驚愕パラダイムにおいて、記憶は、以前に足衝撃と組み合わせた条件付け刺激(CS)の存在下での驚愕の大きさの増大によって示される。ラットの集中訓練(10秒間の試行間間隔を有する4回のCS-衝撃組)は、本質的に転写依存性記憶を生じないが、分散訓練(8分間の試行間間隔を有する4組)は、有意な転写依存性記憶を生じる(Josselynら、Society for Neurosci., 24: 926, Abstract 365.10 (1998))。
【0034】
特に定義されていない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語は、本発明の属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0035】
当業者は、本明細書に記載されるものと類似から同等の多くの方法および材料を認識するが、これらは本発明の実施に使用することができる。実際、本発明は、本明細書に記載される方法および材料に限定されない。本発明の目的のために、以下の用語を定義する。
【0036】
定義
用語「動物」は、本明細書で使用される場合、哺乳動物および他の動物、脊椎動物および無脊椎動物(例えば、鳥類、魚類、爬虫類、昆虫(例えば、ショウジョウバエ種)、アメフラシ)を含む。用語「哺乳動物」および「哺乳類」は、本明細書で使用される場合、子供に授乳するおよび子供を生む(真獣類もしくは胎盤哺乳動物)または卵を産む(後獣類もしくは非胎盤哺乳動物)、単孔類、有袋類および胎盤類などの任意の脊椎動物のことをいう。哺乳類種の例としては、ヒトおよび他の霊長類(例えば、サル、チンパンジー)、げっ歯類(例えば、ラット、マウス、モルモット)および反芻動物(例えば、ウシ、ブタ、ウマ)が挙げられる。本発明の方法は、非ヒト哺乳動物に使用される。
【0037】
本明細書で使用される場合、「対照動物」または「正常動物」は、動物の転写依存性記憶形成を誘導するのに十分な条件下で訓練される動物と同じ種類の動物およびそうでない場合は同等の動物(例えば、同様の年齢、性別)である。
【0038】
「調節する」は、遺伝子の発現、または1つ以上のタンパク質もしくはタンパク質サブユニットをコードするRNA分子もしくは同等のRNA分子のレベル、または1つ以上のタンパク質もしくはタンパク質サブユニットの活性が、発現、レベル、または活性がモジュレーターの非存在下で観察されるものより高いまたは低いように、上方調節または下方調節されることを意味する。例えば、用語「調節する」は、「阻害する」ことを意味する場合があるが、語「調節する」の使用は、この定義に限定されない。
【0039】
「阻害する」、「下方調節する」、または「減少する」は、遺伝子の発現、または1つ以上のタンパク質もしくはタンパク質サブユニットをコードするRNA分子もしくは同等のRNA分子のレベル、または1つ以上のタンパク質もしくはタンパク質サブユニットの活性が、本発明の核酸分子(例えば、siRNA)の非存在下で観察されるものより低く減少することを意味する。一態様において、siRNA分子を用いた阻害、下方調節または減少は、不活性もしくは弱めたsiRNA分子の存在下で観察されるレベルより低い。別の態様において、siRNA分子を用いた阻害、下方調節、または減少は、例えば、スクランブル配列もしくはミスマッチを有するsiRNA分子の存在下で観察されるレベルより低い。別の態様において、siRNA分子を用いた阻害、下方調節または減少は、標的RNA分子または同等のRNA分子の発現レベルが、siRNA分子の非存在下でのレベルと比べて、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、または70%減少することを意味する。
【0040】
「増強する」または「増強」は、正常、生化学もしくは生理学の作用または効果と比べて、強化する、増大する、改善するまたは高くするもしくは良好にする能力を意味する。例えば、長期記憶形成の増強とは、動物の正常の長期記憶形成に対して動物の長期記憶形成を強化するまたは増大する能力のことをいう。結果として、長期記憶の獲得は、早くまたは良好に保持される。認知課題の成績の増強とは、動物による認知課題の正常成績に対して、動物による特定の認知課題の成績を強化するまたは改善する能力のことをいう。
【0041】
用語「候補記憶遺伝子」または「標的遺伝子」または「遺伝子」は、RNAをコードする核酸、例えば、限定されないが、ポリペプチドをコードする構造遺伝子を含む核酸配列を意味する。標的遺伝子は、細胞に由来する遺伝子または内因性遺伝子であり得る。「標的核酸」は、発現または活性が調節される任意の核酸配列を意味する。標的核酸は、DNAまたはRNAであり得る。
【0042】
「相同配列」は、遺伝子、遺伝子転写物および/または非コーディングポリヌクレオチドなどの1つ以上のポリヌクレオチド配列が共有するヌクレオチド配列を意味する。例えば、相同配列は、関連するが異なるタンパク質、例えば遺伝子ファミリーの異なる一員、異なるタンパク質エピトープ、異なるタンパク質アイソフォームをコードする2つ以上の遺伝子または完全に多様な遺伝子、例えばサイトカインおよびその対応するレセプターが共有するヌクレオチド配列であり得る。相同配列は、非コーディングDNAもしくはRNA、調節配列、イントロン、および転写制御もしくは転写調節の部位などの2つ以上の非コーディングポリヌクレオチドが共有するヌクレオチド配列であり得る。相同配列はまた、1つより多くのポリヌクレオチド配列が共有する保存配列領域を含むことができる。相同性は、完全な相同性(例えば、100%)である必要はなく、部分相同配列が、また、本発明によって考えられる(例えば、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、89%、88%、87%、86%、85%、84%、83%、82%、81%、80%など)。
【0043】
「保存配列領域」は、ポリヌクレオチド中の1つ以上の領域のヌクレオチド配列が、世代間で、またはある生物システム、被験体もしくは生物から別の生物システム、被験体、もしくは生物へと有意に変化しないことを意味する。ポリヌクレオチドは、コーディングおよび非コーディングDNAおよびRNAの両方を含むことができる。
【0044】
「センス領域」は、siRNA分子のアンチセンス領域に相補性を有するsiRNA分子のヌクレオチド配列を意味する。また、siRNA分子のセンス領域は、標的核酸配列と相同性を有する核酸配列を含むことができる。
【0045】
「アンチセンス領域」は、標的核酸配列に相補性を有するsiRNA分子のヌクレオチド配列を意味する。また、siRNA分子のアンチセンス領域は、siRNA分子のセンス領域と相補性を有する核酸配列を任意に含むことができる。
【0046】
「相補性」は、核酸が従来のワトソンクリックまたは他の従来でない種類のいずれかによって別の核酸配列と(1つまたは複数の)水素結合を形成することができることを意味する。本発明の核酸分子に言及する際、核酸分子とその相補的配列の結合自由エネルギーは、核酸の関連する機能、例えばRNAi活性が進むことを可能にするのに十分である。核酸分子の結合自由エネルギーの測定は、当該技術分野で周知である(例えば、Turnerら、1987, CSH Symp. Quant. Biol. LII pp. 123-133; Frierら、1986, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 83:9373-9377; Turnerら、1987, J. Am. Chem. Soc. 109:3783-3785参照)。相補性の割合は、第二核酸配列と水素結合(例えば、ワトソン-クリック塩基対形成)を形成することができる核酸分子中の連続残基の割合を示す(例えば、10個のヌクレオチドを有する第二核酸配列に対形成した第一オリゴヌクレオチド中の全部で10個のヌクレオチドのうち5、6、7、8、9、または10個のヌクレオチドは、それぞれ50%、60%、70%、80%、90%、および100%相補性を示す)。「完全な相補性」は、核酸配列の連続残基全てが第二核酸配列中の同数の連続残基と水素結合することを意味する。
【0047】
「RNA」は、少なくとも1つのリボヌクレオチド残基を含む分子を意味する。「リボヌクレオチド」は、β-D-リボフラノ―ス部分の2’位でヒドロキシル基を有するヌクレオチドを意味する。該用語としては、二重鎖RNA、単鎖RNA、単離RNA、例えば部分精製RNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組み換え生成RNA、ならびに1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または改変によって天然RNAと異なる改変RNAが挙げられる。かかる改変としては、例えばsiRNAの(1つまたは複数の)末端への、または例えばRNAの1つ以上のヌクレオチドの内部への非ヌクレオチド物質の付加を挙げることができる。また、本発明のRNA分子中のヌクレオチドは、非天然ヌクレオチドまたは化学合成ヌクレオチドもしくはデオキシヌクレオチドなどの非標準ヌクレオチドを含むことができる。これらの改変RNAは、アナログまたは天然RNAのアナログと呼ばれることがある。
【0048】
用語「ホスホロチオエート」は、本明細書で使用される場合、RNA分子中のヌクレオチド間結合のことをいい、2つのヌクレオチド間の少なくとも1つの結合が硫黄原子を含む。従って、用語ホスホロチオエートとは、ホスホロチオエートヌクレオチド間結合およびホスホロジチオエートヌクレオチド間結合の両方のことをいう。
【0049】
用語「ホスホノアセテート結合」は、本明細書で使用される場合、RNA分子中のヌクレオチド間結合のことをいい、2つのヌクレオチド間の少なくとも1つの結合がアセチル基または保護アセチル基を含む。例えば、Sheehanら、2003 Nucleic Acids Research 31, 4109-4118または米国特許公開第2006/0247194号参照。
【0050】
用語「チオホスホノアセテート結合」は、本明細書で使用される場合、アセチル基または保護アセチル基および硫黄原子を含む少なくとも1つのヌクレオチド間結合を含むRNA分子のことをいう。例えば、Sheehanら、2003 Nucleic Acids Research 31, 4109-4118または米国特許公開第2006/0247194号参照。
【0051】
候補遺伝子の同定
本発明の候補遺伝子は、多くの手段によって最初に同定することができる。記憶形成に寄与できる遺伝子の同定方法は、転写依存性記憶形成中に転写制御されるさらなる「下流」遺伝子を同定するディファレンシャルスクリーニングの使用を通じて、米国特許第7,005,256号に記載されている。動物が転写依存性記憶形成を誘発するのに必要な条件下で訓練された。訓練した動物の脳組織(例えば扁桃体、海馬)からRNAを抽出した。抽出物を用いてDNAプローブを合成し、マイクロアレイチップ上の相補DNA配列へのDNAプローブのハイブリダイゼーションに適切な条件下で、動物のゲノムの遺伝子のDNA配列を含むマイクロアレイチップとDNAプローブを接触させた。転写非依存性記憶形成中に生成したRNAと比べて転写依存性記憶形成中に生成したRNAから検出されたシグナル間での統計学的比較が、候補記憶遺伝子を同定するために行われた。
【0052】
訓練プロトコル
様々な種で、長期記憶(LTM)は、2つの主な生物学的性質によって定義される。第一に、長期記憶形成には、新規タンパク質の合成が必要とされる。第二に、長期記憶形成はcAMP応答性転写を伴い、cAMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)ファミリー転写因子によって媒介される。
【0053】
転写依存性記憶は、特定の実験条件を用いて誘導することができる。第一態様において、転写依存性記憶は、恐怖強化驚愕応答のための分散訓練プロトコルを用いて非ヒト動物で誘導される。第二態様において、転写依存性記憶は、シャトルボックス回避プロトコルを用いて非ヒト動物で誘導される。第三態様において、転写依存性記憶は、文脈恐怖条件付けプロトコルを用いて非ヒト動物で誘導される。
【0054】
文脈恐怖条件は連想学習の一形態であり、連想学習において動物が足衝撃などの有害刺激(非条件付け刺激、US)と以前に組み合わせた訓練環境(条件付け刺激、CS)を認識するように学習する。後で同じ状況にさらされた場合、条件付けされた動物は、すくみ行動などの様々な条件付け恐怖応答を示す(Fanselow, M. S., Behav. Neurosci., 98:269-277 (1984); Fanselow, M. S., Behav. Neurosci., 98:79-95 (1984);およびPhillips, R. G. and LeDoux, J. E., Behav. Neurosci., 106:274-285 (1992))。文脈条件付けは、神経基質が媒介する恐怖動機付け学習を調査するために使用されている(Phillips, R. G. and LeDoux, J. E., Behav. Neurosci., 106:274-285 (1992);およびKim, J. J.ら、Behav. Neurosci., 107:1093-1098 (1993))。マウスおよびラットの最近の研究によって、文脈条件付け訓練中の海馬系と非海馬系との間での機能相互作用の証拠が提供された(Maren, S.ら、Behav. Brain Res., 88(2):261-274 (1997); Maren, S.ら、Neurobiol. Learn. Mem., 67(2):142-149 (1997);およびFrankland, P. W. ら、Behav. Neurosci., 112:863-874 (1998))。具体的に(訓練前病変ではなく)海馬の訓練後の病変は、文脈恐怖を大きく減少させ、1)海馬は文脈学習ではなく文脈記憶に不可欠であることおよび2)訓練中の海馬の非存在下で、非海馬系が文脈条件付けを支持できることを示す。
【0055】
文脈条件付けは、海馬依存性学習および記憶に対する様々な変異の影響 (Bourtchouladzeら、Cell, 79:59-68 (1994); Bourtchouladzeら、Learn Mem., 5(4-5):365-374 (1998); Kogan, J. H.ら、Current Biology, 7(1):1-11 (1997); Silva A. J.ら、Current Biology, 6(11):1509-1518 (1996); Abel, T.ら、Cell, 88:615-626 (1997);およびGiese, K. P.ら、Science, 279:870-873 (1998))、ならびにマウスの種の違い(Logue, S. F.ら、Neuroscience, 80(4):1075-1086 (1997); Chen, C.ら、Behav. Neurosci., 110:1177-1180 (1996); およびNguyen, P. V.ら、Learn Mem., 7(3): 170-179 (2000))を研究するために広く使用されている。数分の訓練期間で強固な学習を誘発することができるために、短期および長期記憶の時間的に別々のプロセスの生物学を研究するために文脈条件付けが特に有用である(Kim, J. J.ら、Behav. Neurosci., 107:1093-1098 (1993); Abel, T.ら、Cell, 88:615-626 (1997); Bourtchouladzeら、Cell, 79:59-68 (1994); Bourtchouladzeら、Learn Mem., 5(4-5):365-374 (1998))。従って、文脈条件付けは、海馬依存性記憶形成における様々な新規遺伝子の役割を評価するための優れたモデルを提供する。
【0056】
他の訓練プロトコルは、また、当業者によって理解されるように、本発明に従って使用することができる。これらの訓練プロトコルは、限定されないが、海馬および/または扁桃体依存性記憶形成または認知成績の評価に当てることができる。さらなる適切な訓練プロトコルの非限定的な例としては、複数訓練期間、分散訓練期間、1回または複数回の試行による文脈恐怖訓練、1回または複数回の試行による痕跡恐怖条件付け、文脈記憶、一般的に、時間的記憶、空間的記憶、エピソード記憶、受動回避記憶、能動回避記憶、社会伝達の食物嗜好記憶、条件付け味覚回避、および/または社会的認識記憶を組み込んだものおよび/またはこれらに関するものが挙げられる。
【0057】
RNA分子
本発明によって1つまたは複数の標的配列が同定されると、適切なsiRNAは、例えば、合成または細胞での発現によって生成することができる。一態様において、siRNA分子のアンチセンス鎖をコードするDNA配列を、PCRによって作製することができる。別の態様において、siRNAコーディングDNAが、哺乳動物への移入を容易にするプラスミドまたはウイルスベクターなどのベクターにクローニングされる。別の態様において、siRNA分子は、化学または酵素手段を用いて合成されてもよい。
【0058】
本発明の一態様において、本発明のsiRNA分子の各配列は、独立して、約18〜約30ヌクレオチド長であり、特定の態様において約18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30ヌクレオチド長である。一態様において、siRNA分子は、約19〜23塩基対、好ましくは約21塩基対を含む。別の態様において、siRNA分子は、約24〜28塩基対、好ましくは約26塩基対を含む。個々のsiRNA分子は、単鎖および対形成二本鎖(「センス」および「アンチセンス」)の形態であってもよく、ヘアピンループなどの二次構造を含んでもよい。また、個々のsiRNA分子は、前駆体分子として送達することができ、続いて活性分子を生じるように改変される。単鎖形態のsiRNA分子の例としては、DNA配列の非転写領域(例えば、プロモーター領域)に対する単鎖アンチセンスsiRNAが挙げられる。さらに別の態様において、ヘアピンまたは環状構造を含む本発明のsiRNA分子は、約35〜約55(例えば、約35、40、45、50または55)ヌクレオチド長、または約38〜約44(例えば、約38、39、40、41、42、43または44)ヌクレオチド長であり、約16〜約22(例えば、約16、17、18、19、20、21または22)塩基対を含む。
【0059】
以下の考察は、現在知られている低分子干渉RNAによって媒介されるRNA干渉の提案された機構を説明するが、限定されることを意味せず、先行技術で認められていない。化学修飾された低分子干渉核酸は、siRNA分子のように、RNAiを媒介する類似または改善された能力を有し、インビボで改善された安定性および活性を有することが予想される。従って、この考察は、siRNAのみに限定されることを意味せず、全体としてsiRNAに適用することができる。
【0060】
RNA干渉とは、低分子干渉RNA(siRNA)によって媒介される動物における配列特異的転写後遺伝子サイレンシングのプロセスのことをいう(Fireら、1998, Nature, 391, 806)。植物で相当するプロセスは、一般に、転写後遺伝子サイレンシングまたはRNAサイレンシングと呼ばれ、また、真菌における抑制(quelling)と呼ばれる。転写後遺伝子サイレンシングのプロセスは、多様な植物相および門によって一般に共有される外因遺伝子の発現を妨げるために使用される進化的に保存された細胞防御機構であると考えられている(Fireら、1999, Trends Genet., 15, 358)。外因遺伝子発現のかかる保護は、ウイルス感染に由来する二本鎖RNA(dsRNA)の生成、または相同単鎖RNAもしくはウイルスゲノムRNAを特異的に破壊する細胞応答を介した宿主ゲノムへのトランスポゾンエレメントのランダムな統合に応答して進化したかもしれない。細胞中のdsRNAの存在は、十分に特徴付けされていない機構を介したRNAi応答を誘発する。この機構は、プロテインキナーゼPKRおよびリボヌクレアーゼLによるmRNAの非特異的切断を生じる2',5'-オリゴアデニレートシンセターゼのdsRNA媒介活性化により生じるインターフェロン応答と異なっているように思われる。
【0061】
細胞中の長いdsRNAの存在は、ダイサーと呼ばれるリボヌクレアーゼIII酵素の活性を刺激する。ダイサーは、低分子干渉RNA(siRNA)として公知のdsRNAの短い部分へのdsRNAのプロセッシングに関わる(Bersteinら、2001, Nature, 409, 363)。ダイサー活性に由来する低分子干渉RNAは、典型的に、約21〜約23ヌクレオチド長であり、約19塩基対の二重鎖を含む。また、ダイサーは、転写制御に関連する、保存された構造の前駆体RNAからの21および22ヌクレオチド低分子一時RNA(stRNA)の切除に関連している(Hutvagnerら、2001, Science, 293, 834)。また、RNAi応答は、siRNAを含むエンドヌクレアーゼ複合体を特徴とし、これは、一般的にRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と呼ばれ、siRNAと相同な配列を有する単鎖RNAの切断を媒介する。標的RNAの切断は、siRNA二重鎖のガイド配列に相補的な領域の中間で生じる(Elbashirら、2001, Genes Dev., 15, 188)。また、RNA干渉は、また、おそらくクロマチン構造を調節し、それによって標的遺伝子配列の転写を妨げる細胞機構によって、低分子RNA(例えば、マイクロRNAまたはmRNA)媒介遺伝子サイレンシングを伴うことができる(例えば、Allshire, 2002, Science, 297, 1818-1819; Volpeら、2002, Science, 297, 1833-1837; Jenuwein, 2002, Science, 297, 2215-2218;およびHallら、2002, Science, 297, 2232-2237参照)。
【0062】
RNAiは、様々な系で研究されている。Fireら、 1998, Nature, 391, 806によって最初に線虫でRNAiが観察された。WiannyおよびGoetz, 1999, Nature Cell Biol., 2, 70は、マウス胚中のdsRNAによって媒介されるRNAiを記載している。Hammondら、2000, Nature, 404, 293は、dsRNAをトランスフェクトしたショウジョウバエ細胞におけるRNAiを記載している。Elbashirら、2001, Nature, 411, 494は、ヒト胚性腎臓およびHeLa細胞を含む哺乳動物培養細胞において、21個の合成ヌクレオチドRNAの二重鎖の導入によって誘導されるRNAiを記載している。ショウジョウバエ胚溶解物の最近の研究によって、効率的なRNAi活性を媒介するのに不可欠なsiRNAの長さ、構造、化学組成、および配列のための特定の要件が明らかにされた。これらの研究によって、21ヌクレオチドsiRNA二重鎖が2つの2-ヌクレオチド3'末端ヌクレオチド突出を含む場合に最も活性であることが示された。さらに、2'-デオキシまたは2'-O-メチルヌクレオチドでの1つまたは両方のsiRNA鎖の置換は、RNAi活性を無効にするが、デオキシヌクレオチドでの3'末端siRNAヌクレオチドの置換は、許容されることが示された。siRNA二重鎖の中央のミスマッチ配列も、RNAi活性を無効にすることが示された。また、これらの研究によっても、標的RNAの切断部位の位置が3'末端よりも5'末端のsiRNAガイド配列によって定義されることが示される(Elbashirら、2001, EMBO J., 20, 6877)。他の研究によって、siRNA二重鎖の標的相補鎖上の5'リン酸がsiRNA活性に必要であること、およびATPがsiRNA上の5'リン酸部分を維持するために利用されることが示された(Nykanenら、2001 , Cell, 107, 309);しかし、5'リン酸を欠くsiRNA分子は、外因的に導入される場合に活性であり、siRNA構築物の5'-リン酸化がインビボで起こる場合があることを示唆している。
【0063】
一態様において、本発明は、修飾siRNA分子を特徴とする。リン酸骨格に考慮される修飾の例としては、1つ以上のホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、メチルホスホネートなどのホスホネート、アルキルホスホトリエステルなどのホスホトリエステル、モルホリノ、アミデートカルバメート、カルボキシメチル、アセトアミデード、ポリアミド、スルホネート、スルホンアミド、スルファメート、ホルムアセタール、チオホルムアセタール、および/またはアルキルシリル置換を含むリン酸骨格修飾が挙げられる。オリゴヌクレオチド骨格修飾の概説のために、HunzikerおよびLeumann, 1995, Nucleic Acid Analogues: Modern Synthetic Methods中、Synthesis and Properties, VCH, 331-417, ならびにMesmaekerら、1994, Carbohydrate Modifications in Antisense Research中のNovel Backbone Replacements for Oligonucleotides, ACS, 24-39を参照。
【0064】
糖部分に考慮される修飾の例としては、2'-アルキルピリミジン、例えば2'-O-メチル、2'-フルオロ、アミノ、およびデオキシ修飾などが挙げられる(例えば、Amarzguiouiら、2003, Nucleic Acids Res. 31 :589-595. 米国特許公開第2007/0104688号参照)。塩基に考慮される修飾の例としては、脱塩基糖、2-O-アルキル修飾ピリミジン、4-チオウラシル、5-ブロモウラシル、5-ヨードウラシル、および5-(3-アミノアリル)-ウラシルなどが挙げられる。ロックド核酸、即ちLNAもまた、組み込むことができる。多くの他の修飾が公知であり、上記基準を満たす限り使用することができる。また、修飾の例が、米国特許第5,684,143号、第5,858,988号および第6,291,438号ならびに米国公開特許出願第2004/0203145号A1に開示されており、それぞれは、参照によって本明細書に援用される。他の修飾は、Herdewijn (2000), Antisense Nucleic Acid Drug Dev. 10:297-310, Eckstein (2000) Antisense Nucleic Acid Drug Dev. 10:117-21, Rusckowskiら (2000) Antisense Nucleic Acid Drug Dev. 10:333-345, Steinら(2001) Antisense Nucleic Acid Drug Dev. 11:317-25およびVorobjevら (2001) Antisense Nucleic Acid Drug Dev. 11: 77-85に開示されており、それぞれは参照によって本明細書に援用される。
【0065】
RNAは、酵素または部分/全体有機合成によって生成されてもよく、修飾リボヌクレオチドは、インビトロでの酵素合成または有機合成によって導入することができる。一態様において、各鎖は、化学調製される。RNA分子を合成する方法は、当該技術分野で公知である。
【0066】
本発明によって使用できる他の方法としては、限定されないが、相同性組み換え、ドミナントネガティブ遺伝子構築物のトランスジェニック発現、正常遺伝子構築物のトランスジェニック発現、および標的遺伝子中のアミノ酸配列の任意の他の改変が挙げられる。また、様々のかかる遺伝子構築物を脳細胞に送達するためにウイルスベクターを使用することができる; かかる構築物としては、RNAi経路を介して作用するいくつかのもの(ショートヘアピンRNA、二重鎖RNA等)が挙げられる。
【0067】
製剤
siRNA試料は、適切に製剤化することができ、以下のことが生じる場合に十分量の試料が細胞に入り遺伝子サイレンシングを誘導することを可能にする任意の手段によって、細胞の環境に適切に導入することができる。多くのdsRNA製剤は当該技術分野で公知であり、siRNAが標的細胞に入って作用することができる限り使用することができる。例えば、米国公開特許出願第2004/0203145号 A1および第2005/0054598号A1を参照、それぞれは参照によって本明細書に援用される。例えば、siRNAは、リン酸緩衝食塩水溶液、リポソーム、ミセル構造、およびカプシドなどのバッファ溶液中に配合することができる。カチオン性脂質を用いたsiRNA製剤は、細胞へのdsRNAのトランスフェクションを容易にするために使用することができる。例えば、カチオン性脂質、例えばリポフェクチン(米国特許第5,705,188号、参照によって本明細書に援用される)、カチオン性グリセロール誘導体、およびポリカチオン性分子、例えばポリリジン(公開PCT国際出願WO 97/30731、参照によって本明細書に援用される)を使用することができる。適切な脂質としてはオリゴフェクトアミン、リポフェクトアミン(Life Technologies)、NC388 (Ribozyme Pharmaceuticals, Inc., Boulder, Colo.)またはFuGene 6(Roche)が挙げられ、全ては製造業者の説明書に従って使用することができる。
【0068】
一態様において、本発明のsiRNA分子は、ポリエチレンイミン(例えば、直鎖または分枝鎖PEI)および/またはポリエチレンイミン誘導体、例えばガラクトースPEI、コレステロールPEI、抗体誘導体化PEI、およびそのポリエチレングリコールPEI(PEG-PEI)誘導体などの移植PEIに配合または複合体化される(例えば、本明細書に参照によって援用されるOgrisら、2001, AAPA PharmSci, 3, 1-11; Furgesonら、2003, Bioconjugate Chem., 14, 840-847; Kunathら、2002, Pharmaceutical Research, 19, 810-817; Choiら、2001, Bull. Korean Chem. Soc., 22, 46-52; Bettingerら、1999, Bioconjugate Chem., 10, 558-561; Petersonら、2002, Bioconjugate Chem., 13, 845-854; Erbacherら、1999, Journal of Gene Medicine Preprint, 1, 1-18; Godbeyら、1999, PNAS USA, 96, 5177-5181; Godbeyら、1999, Journal of Controlled Release, 60, 149-160; Dieboldら、1999, Journal of Biological Chemistry, 274, 19087-19094; Thomasおよび Klibanov, 2002, PNAS USA, 99, 14640-14645;ならびにSagara, 米国特許第6,586,524号を参照。
【0069】
細胞の環境にsiRNAを導入する方法は、細胞の種類および環境の構成に依存することを理解することができる。例えば、細胞が液体内に見える場合、1つの好ましい製剤は、リポフェクトアミンなどの脂質製剤であり、siRNAは細胞の液体環境に直接添加することができる。また、脂質製剤は、例えば静脈、筋肉内、または腹腔内注射、あるいは経口もしくは吸入もしくは当該技術分野で公知の他の方法などによって動物に投与することができる。製剤が、哺乳動物、より具体的にヒトなどの動物への投与に適切である場合、製剤は、また、薬学的に許容され得る。オリゴヌクレオチドを投与する薬学的に許容され得る製剤は、公知であり、使用することができる。いくつかの例において、バッファまたは食塩水溶液中にsiRNAを配合することが好ましく、細胞に配合されたdsRNAを直接注入することが好ましくあってもよい。dsRNA二重鎖の直接注入も行われてもよい。siRNAを導入する適切な方法について、参照によって本明細書に援用される米国公開特許出願第2004/0203145号 A1を参照。
【0070】
siRNAは、薬理学有効量のsiRNAを含む。薬理学有効量または治療有効量とは、意図された薬理学、治療または予防結果を生じるのに有効なsiRNAの量のことをいう。語句「薬理学有効量」および「治療有効量」または単純に「有効量」とは、意図される薬理学、治療または予防結果を生じるのに有効なRNAの量のこという。例えば、疾患または障害と関連する測定可能なパラメーターの少なくとも20%の減少がある場合に所定の臨床治療が有効と考えられるとすると、該疾患または障害の治療のための薬物の治療有効量は、該パラメーターの少なくとも20%の減少を実行するのに必要な量である。
【0071】
siRNAの適切な量を導入する必要があり、これらの量は標準法を用いて実験で決定することができる。典型的に、細胞の環境中の個々のsiRNA種の有効濃度は、約50nmol/l以下、10nmol/l以下であり、または約1nmol/l以下の濃度である組成物を使用することができる。他の態様において、方法は、約200pmol/l以下の濃度を利用し、約50pmol/l以下の濃度も多くの状況で使用することができる。
【0072】
一般的に、siRNAの適切な用量単位は、0.001〜0.25mg/レシピエントkg体重/日の範囲、または0.01〜20μg/kg体重/日の範囲、または0.01〜10μg/kg体重/日の範囲、または0.10〜5μg/kg体重/日の範囲、または0.1〜2.5μg/kg体重/日の範囲である。
【0073】
siRNAは、毎日1回投与することができる。しかし、siRNA製剤は、また、1日あたり適切な間隔で投与される2、3、4、5、6回以上の分割用量を含む用量単位で投薬されてもよい。その場合、各分割用量に含まれるsiRNAは、毎日全体の用量単位を達成するために対応して少なくする必要がある。また、用量単位は、例えば、数日間にわたるsiRNAの徐放および一定の放出を提供する従来の徐放製剤を用いて、数日間にわたる単一用量のために調合することができる。徐放製剤は当該技術分野で周知である。この態様において、用量単位は、対応する毎日の複数用量を含む。製剤に関係なく、医薬組成物は、動物の標的遺伝子の発現を阻害するのに十分な量のsiRNAを含む必要がある。組成物は、siRNAの複数単位の合計が十分な用量を共に含むように、調合することができる。
【0074】
データは、適切な用量範囲を計算するために、細胞培養アッセイから得ることができる。本発明の組成物の用量は、毒性がほとんどないか全く無い(公知の方法によって決定される)ED50を含む循環濃度の範囲内にある。用量は、使用される投薬形態および利用される投与経路に応じてこの範囲内で変化してもよい。本発明の方法に使用される任意の化合物について、治療有効用量は、細胞培養アッセイから最初に推定することができる。血漿中のdsRNAレベルが、標準法、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定されてもよい。
【0075】
充分な量のsiRNAが細胞に入り、その効果を発揮することができるようにsiRNA組成物が製剤化されることを条件として、細胞が生存可能な任意の細胞外マトリックスにsiRNA組成物を添加して該方法を実施することができる。例えば、該方法は、液体培地または細胞増殖培地などの液体、組織外植片、または哺乳動物、特にヒトなどの動物を含む生物全体に存在する細胞を用いた使用に従う。
【0076】
送達方法
遺伝子の標的配列に特異的なsiRNAのアンチセンス鎖をコードするDNA配列を発現のために哺乳動物細胞に導入する。遺伝子中の1つより多くの配列(異なるプロモーター領域配列および/またはコーディング領域配列など)を標的とするために、それぞれの標的とされた遺伝子配列に特異的な別々のsiRNAコーディングDNA配列を同時に細胞内に導入することができる。別の態様に従って、哺乳動物細胞を、遺伝子中の複数の配列を標的とする複数のsiRNAに接触させてもよい。
【0077】
本発明のsiRNAは、当該技術分野に公知の任意の手段、例えば静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、経皮、気道(エーロゾル)、直腸、膣および局所(口内および舌下を含む)投与を含む非経口経路等により投与することができる。いくつかの態様において、医薬組成物は、静脈内もしくは腹腔内の点滴または注射により投与される。
【0078】
一態様において、本発明は、本発明の核酸分子を中枢神経系および/または末梢神経系に送達するための方法の使用を特徴とする。実験により、ニューロンによる核酸の効果的なインビボ取り込みが示された。核酸の神経細胞への局所投与の例として、Sommer et al., 1998, Antisense Nuc. Acid Drug Dev., 8, 75には、c-fosに対する15塩基のホスホロチオエートアンチセンス核酸分子をマイクロインジェクションでラットの脳へと投与する試験が記載されている。核酸の神経細胞への全身投与の例として、Epa et al., 2000, Antisense Nuc. Acid Drug Dev., 10, 469には、βシクロデキストリンアダマンタンオリゴヌクレオチドコンジュゲートを使用して神経分化したPC12細胞中のp75ニューロトロフィンレセプターを標的としたインビボマウス試験が記載されている。IP投与の2週間経過後、背根神経節(DRG)細胞においてp75ニューロトロフィンレセプターアンチセンスの顕著な取り込みが観察された。また、DRGニューロンにおいて、顕著で一定したp75のダウンレギュレーションが観察された。ニューロンに対する核酸のターゲッティングについてのさらなるアプローチがBroaddusら、1998, J. Neurosurg., 88(4), 734;Karleら、1997, Eur. J. Pharmocol., 340(2/3), 153;Bannaiら、1998, Brain Research, 784(1,2), 304;Rajakumarら、1997, Synapse, 26(3), 199;Wu-pongら、1999, BioPharm, 12(1), 32;Bannaiら、1998, Brain Res. Protoc., 3(1), 83;Simantovら、1996, Neuroscience, 74(1), 39に記載されている。従って、本発明の核酸分子は、神経細胞に送達されやすく神経細胞によって取り込まれやすい。
【0079】
候補遺伝子をターゲッティングする本発明の核酸分子の送達は種々の異なる戦略により提供される。使用可能なCNS送達の従来のアプローチとしては、限定されないが、鞘内および脳内脳室投与、カテーテルおよびポンプの埋め込み、損傷もしくは病変の部位での直接注射または灌流、脳動脈系への注射、または脳血液関門の化学的もしくは浸透圧開放が挙げられる。他のアプローチとしては、種々の輸送および担体系の使用ではあるが、例えばコンジュゲートおよび生分解性ポリマーの使用を挙げることができる。さらに、例えばKaplittら、米国特許第6,180,613号およびDavidson, WO 04/013280に記載されるように遺伝子治療アプローチを使用して、CNS中で核酸分子を発現させることができる。
【0080】
該方法は、siRNAを適切な細胞に導入する工程を含む。用語「導入」は、インビトロまたはインビボのいずれかで、DNAを細胞内に導入する種々の方法を包含する。かかる方法としては、形質転換、形質導入、トランスフェクション、および感染が挙げられる。ベクターは、siRNA分子をコードするDNAを細胞に導入するための有用かつ好ましい物質である。導入は少なくとも1つのベクターを使用して達成されてもよい。可能性のあるベクターとしては、プラスミドベクターおよびウイルスベクターが挙げられる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、またはアデノウイルスベクターもしくはアデノ随伴ベクターなどの他のベクターが挙げられる。一態様において、DNA配列は別々のベクターに含まれ、別の態様において、DNA配列は同一のベクターに含まれる。DNA配列は、多重カセット単位として同一のベクターに挿入されてもよい。細胞または組織へのsiRNA分子またはsiRNA分子をコードするDNAの代替的な送達を本発明に使用してもよく、リポソーム、化学溶媒、エレクトロポレーション、ウイルスベクター、飲作用、食作用および他の形態の外因性物質の自発的または誘導性細胞取り込み、ならびに当該技術分野に公知の他の送達系が挙げられる。
【0081】
適切なプロモーターとしては、干渉RNA分子をコードする配列に操作上結合または連結されると該RNA分子の発現を促進するプロモーターが挙げられる。かかるプロモーターとしては、当該技術分野において公知の細胞性プロモーターおよびウイルスプロモーターが含まれる。一態様において、プロモーターは、好ましくは干渉RNA分子をコードするDNA配列のすぐ上流に位置するRNA Pol IIIプロモーターである。限定されないが、当該技術分野に公知のウイルスLTR、ならびにアデノウイルス、SV40、およびCMVプロモーターなどの、種々のウイルスプロモーターを使用してもよい。
【0082】
一態様において、本発明では、ヒト細胞中の短く規定されたリボザイム転写産物の発現のために以前から使用されている哺乳動物U6 RNA Pol IIIプロモーター、より好ましくはヒトU6 snRNA Pol IIIプロモーターを使用する(Bertrandら、1997;Goodら、1997)。U6 Pol IIIプロモーターおよびその単純終結配列(4〜6ウリジン)は細胞内でsiRNAを発現することが見出された。適切に選択された干渉RNAまたはsiRNAコーディング配列を転写カセットに挿入して、該RNA分子の内因性発現および機能を試験するための最適な系を提供することができる。
【0083】
発現測定
標的遺伝子の発現は、当該技術分野において現在公知であるかまたは後に開発される任意の適切な方法により測定することができる。標的遺伝子の発現を測定するために使用される方法が標的遺伝子の性質に依存することを理解し得る。例えば、標的遺伝子がタンパク質をコードする場合、用語「発現」は遺伝子由来のタンパク質または転写産物のことを表し得る。このような例において、標的遺伝子の発現は、標的遺伝子に対応するmRNAの量を測定すること、またはタンパク質の量を測定することにより決定することができる。タンパク質は、染色、またはイムノブロッティングなどのタンパク質アッセイで評価することができるか、または該タンパク質が測定可能な反応を触媒する場合に反応速度を測定することで評価することができる。全てのかかる方法は当該技術分野において公知であり、使用可能である。遺伝子産物がRNA種である場合、発現は遺伝子産物に対応するRNAの量を決定することで測定できる。測定は、細胞、細胞抽出物、組織、組織抽出物または任意の他の適切な供給物質で行うことができる。
【0084】
標的遺伝子の発現が減少したかどうかの決定は、遺伝子発現の変化を高精度で検出可能な任意の適切な方法によってなされ得る。典型的に、決定は、siRNAの少なくとも一部が細胞質に入るように、未消化のsiRNAを細胞の環境に導入し、次いで標的遺伝子の発現を測定することによりなされる。同一の未処理細胞において同様の測定がなされ、それぞれの測定から得られた結果が比較される。
【実施例】
【0085】
実施例1-Neuro2A細胞を使用したCREBおよびPPIを標的とするsiRNAのスクリーニング
CREBおよびPP1のαアイソフォームを標的とする一組のsiRNAをNeuro2Aマウス神経芽細胞株でスクリーニングした。いくつかの対照遺伝子のmRNAレベルに影響を及ぼさずに、CREBおよびPP1αを効果的に標的とし得るいくつかの適切なsiRNAを同定した(図1)。
【0086】
インビボ等級のsiSTABLE siRNA(Dharmacon Inc., Lafayette, USA)。安定性を高めるためにsiRNAを化学的に修飾した。21塩基のsiSTABLEノンターゲッティングsiRNAを対照として使用した(センス鎖:5'-UAGCGACUAAACACAUCAAUU-3';(配列番号:1) アンチセンス鎖:5'-UUGAUGUGUUUAGUCGCUAUU-3')(配列番号:2)(Dharmacon Inc., Lafayette, USA)。多成分合理設計アルゴリズムを使用してsiRNAを設計した(Reynolds, A.ら Nat Biotechnol 22, 326-30 (2004))。
【0087】
リアルタイムPCR。Neuro2A細胞を100nM siSTABLE siRNAおよびDharmafect 3担体(Dharmacon)で処理した。製造業者の指示に従いQIAgen RNeasyキット(Qiagen)を使用してRNAを単離した。TaqMan逆転写酵素キット(Applied Biosystems)を使用してcDNAを生成した。cDNAを合成してABIプリズムおよびSDS 2.1ソフトウェアを使用してリアルタイムPCRを行った。CREB、シナプトタグミン I(SYT1)、PP1α、NR1およびTATA結合タンパク質(TBP)それぞれについて、必要に応じてABIアッセイ(Applied Biosystems)を使用した。qPCR反応を3回行ないCT値を平均した。次いでTATA結合タンパク質(TBP)に対してデータを標準化してΔCT値を溶媒(vehicle)処理対照のパーセンテージとして決定した。示されるデータは平均+/-標準誤差である。
【0088】
4つの非修飾siRNAの一組を、Neuro2a細胞を使用してインビトロでCREBおよびPP1αに対して試験した。
【0089】
Neuro2A細胞をCREB siRNAまたはノンターゲッティング対照siRNAで処理し、24時間後にmRNAレベルを評価した。ANOVAの後にScheffeペアワイズ比較により、CREB siRNA1およびCREB siRNA2がCREBのmRNAレベルを有意に減少させたことが明らかになった(溶媒およびノンターゲッティングsiRNAの両方に対するCREBについてp<0.05)。対照的に、シナプトタグミン I(Syt1)、NMDAレセプターサブユニット1(Grin1)およびタンパク質ホスファターゼ1(Ppp1ca)のmRNAレベルは、ノンターゲッティングまたはCREB siRNAを用いた処理により有意に影響を受けなかった(全ての比較についてp>0.05)。siRNA処理の48時間および72時間後にCREB mRNAの有意なノックダウンも観察された。
【0090】
図1aは、siSTABLE CREB siRNAによる処理後のmRNAレベルを示す。2〜4回の実験の繰り返しの平均±標準誤差を示す。オープンバー:溶媒;ストライプのバー:ノンターゲッティングsiRNA;灰色バー:CREB1 siRNA;黒色バー:CREB2 siRNA。
【0091】
同様の方法で、Neuro2A細胞をPP1α siRNA1またはノンターゲッティング対照siRNAで処理した。図1bは、siSTABLE PP1α siRNA処理後のmRNAレベルを示す。2回の繰り返しの平均±標準誤差を示す。オープンバー:溶媒;ストライプのバー:ノンターゲッティングsiRNA;灰色バー:PP1αsiRNA。ANOVA後にScheffeペアワイズ比較により、PP1α siRNA1はPP1αのmRNAレベルを有意に減少させることが明らかになった(溶媒およびノンターゲッティングsiRNAの両方に対するPP1αについてp<0.05)。シナプトタグミン I(Syt1)、NMDAレセプターサブユニット1(Grin1)およびCREB(Creb)のmRNAレベルはPP1α siRNAを用いた処理により有意に影響を受けなかった(全ての比較についてp>0.05)。siRNA処理の48時間および72時間後にPP1α mRNAの有意なノックダウンも観察された。
【0092】
bDNAアッセイ。製造業者の指示に従ってQuantiGene bDNAアッセイキット(Bayer)を使用して、CREB1およびPP1αのmRNAレベルを定量した。溶媒処理対照群に対してmRNAレベルを標準化した。3回の実験の反復を行いそれぞれのsiRNAについてノックダウン効率の平均±標準誤差を決定した。
【0093】
いくつかのsiRNAはCREBおよびPP1α mRNAレベルの減少において同様の効率(≧60%)を示し、さらなるインビボ特徴づけのために以下:
CREB siRNA1センス鎖5'-CAAUACAGCUGGCUAACAAUU-3'; 配列番号:3
CREB siRNA1アンチセンス鎖5'-UUGUUAGCCAGCUGUAUUGUU-3'; 配列番号:4
CREB siRNA2センス鎖センス鎖5'-GCAAGAGAAUGUCGUAGAAUU-3'; 配列番号:5
CREB siRNA2アンチセンス鎖5'-UUCUACGACAUUCUCUUGCUU-3'; 配列番号:6
PP1αセンス鎖5'-UAGCGACUAAACACAUCAAUU-3'; 配列番号:7
PP1αアンチセンス鎖5'-UUGAUGUGUUUAGUCGCUAUU-3'; 配列番号:8
のsiRNAを選んだ。
【0094】
実施例2-マウスにおける合成CREB siRNAのインビボ送達
CNSにおける合成siRNAのインビボ送達は制限された拡散および取り込みにより阻害される。
【0095】
被験体。若い成体(10〜12週齢)C57BL/6雄マウスを使用した。到着したらすぐに、マウスを標準的な実験ケージにグループに分けて飼育し(5匹マウス)、12:12時間の明暗周期で維持した。実験は常に該周期の明期で行った。海馬のカニューレ挿入手術後、マウスを一度個々のケージに戻し、実験の終了までそのまま維持した。訓練および試験時間以外は、マウスは食餌および水に制約なしにありつけた。国立衛生研究所(NIH)ガイドラインと一致し、かつ施設内の動物管理使用委員会に承認を受けた標準条件下でマウスを維持および飼育した。
【0096】
動物手術およびsiRNA注入。siRNAの注入のために、マウスを20mg/kgのアベルチンで麻酔し、33ゲージガイドのカニューレを背側海馬(座標:1.2mmの深さに対してA=-1.8mm、L=+/-1.5mm)に左右対称に埋め込んだ(Franklin, K. & Paxinos, G. The Mouse Brain in Stereotaxic Coordinates (1997))。手術から回復して5〜7日後、動物にsiRNAを注入した。siRNAは、5%グルコースで0.5μg/μlに希釈して、6当量の22kDaの直鎖ポリエチレンイミン(PEI)(Fermentas)と混合した。
【0097】
直鎖の22kDa PEIは、CNSにおいてプラスミドDNAの遺伝子送達に使用した場合、良好なトランスフェクション効率を有し、CNS毒性を有さなかったので、直鎖の22kDa PEIを使用してインビボRNAiを促進させた(Tan, P. H.,ら、Gene Ther 12, 59-66 (2005);Ouatas, T.,ら、Int J Dev Biol 42, 1159-64 (1998);Goula, D. ら、Gene Ther 5, 712-7 (1998))。
【0098】
室温で10分間インキュベーションした後、ポリエチレン製のチューブでマイクロシリンジにつながれた注入カニューレにより2μlのsiRNA混合物をそれぞれの海馬に注入した。完全な注入術には約2分かかり、ストレスを最小限にするために動物を慎重に扱った。全部で3回のsiRNAの注入を3日間かけて行った(1μg siRNA/海馬/日)。最後のsiRNA注入の3日後にマウスを訓練し、24時間後に試験した。同様に、最後のsiRNA処理の3日後、CREBおよびPP1αのタンパク質レベルを試験した。
【0099】
マウスにCy3標識siRNAおよび担体を注入し、24時間後に蛍光をモニターした(図2a)。Cy3標識siRNAの注入のために、マウスを20mg/kgアベルチンで麻酔し、0.5μgのsiRNAポリエチレンイミン混合物を6箇所に注入し、ほとんどの海馬形成を包含した。siRNA注入の24時間後に動物を屠殺した。凍結した脳を15μmの切片にスライスして、Zeiss Axioplan 2顕微鏡を使用してCy3の蛍光画像を得た。
【0100】
図2aは、Cy3標識siRNAおよび22kDaポリエチレンイミン担体を注入した海馬の冠状面切片の写真である。Cy3標識は注入部位から数mm離れて見られ、錐体細胞層に蓄積した。Cy3標識は背側海馬に見られ、注入部位からかなり広がっていた。重要なことに、Cy3標識は錐体細胞層のCA1ニューロンに見られ、siRNAのニューロンへの取り込みが示された。注入部位ではない反対側のニューロンおよび海馬の腹側部分の標識がsiRNAの取り込みを示すことに注意。従って、合成21塩基のsiRNAはインビボで海馬のニューロンを効果的に標的とした。
【0101】
組織学。CREBおよびノンターゲッティングsiRNAを注入した動物を行動実験の1日後に屠殺した。凍結した脳を15μmの切片にスライスし、クレシルバイオレットで染色した。海馬の形態を連続切片の写真で評価した。
【0102】
ウェスタンブロット解析。マウスを頚椎脱臼により屠殺して、海馬を迅速に取り出しドライアイスで凍結した。それぞれの海馬を、Roche完全プロテアーゼインヒビター錠剤を含む300μlのRIPAタンパク質溶解バッファ(Upstate Biotechnology)に溶解した。製造業者の指示に従ってBiorad DC適合性タンパク質アッセイキット(Biorad)を使用してタンパク質濃度を測定した。20または40μgの溶解物をSDS-PAGEで分離して、ニトロセルロース膜に転写した。CREBおよびPP1αに対するポリクローナル抗体(Upstate Biotechnologyそれぞれ06-863および07-273)ならびにシナプトタグミン I(p65)に対するポリクローナル抗体(Sigma S2177)を使用して標準的な手法に従い、タンパク質の免疫検出を行った。ブロットをはがしてβアクチン(Sigma A2066)に対して標準化した。
【0103】
CREBのn末端エピトープ(アミノ酸5〜24)に対する抗体を使用したウェスタンブロット解析により、siRNA1はこの時点でシナプトタグミン I発現に影響を及ぼすことなく海馬のCREBタンパク質レベルを有意に減少させたことが明らかになった(CREB:p<0.05、F1,11=6.28;シナプトタグミン I:p=0.49、F1,11=0.51、図2b)。図2bは、siRNA注入後のCREBおよびシナプトタグミンの海馬タンパク質レベルの棒グラフを示す。CREB siRNA処理マウスは有意に低い海馬CREBのレベルを有したが、siRNAはシナプトタグミンのタンパク質レベルには影響を及ぼさなかった(CREB:P<0.05、F(1,11)=6.279;シナプトタグミン:p=0.49、F(1,11)=0.51;両方の群についてn=6)。
【0104】
実施例3-文脈および痕跡条件付けにおけるCREBのsiRNA媒介性ノックダウンの効果
文脈恐怖条件付けにおけるCREBのsiRNA媒介性ノックダウンの効果を試験した。CREB遺伝子の全てのスプライシングバリアントに共通な領域(NM_009952の1114-1132、CREB遺伝子のエクソン7に相当)をターゲッティングするsiRNAを使用した。(Lonze and Ginty, 2002, Neuron, 35,:605-623))に従った命名法。マウスをCREB siRNA1またはノンターゲッティング対照siRNAで1日に1回、3日間連続して処理した。3日後に行動試験を開始した(図3bも参照)。以前の研究でsiRNA二本鎖によりCNS中で遺伝子ノックダウンを生じさせるには数日かかることが示されていたので、この設計は、海馬のsiRNAノックダウンのパイロット実験に基づいて選択した((Salahpourら、2007, Biol. Psychiatry 61 :65-69) Tanら、2005, Gene Therapy 12:59-66;Thakkerら、2004, Proc. Natl. Acad. Sci USA 101 :17270-17275)。
【0105】
本質的に、記載される通りに文脈条件付けを行った(Bourtchuladze, R. ら、Cell 79, 59-68 (1994);Bourtchouladzeら、Learn Mem 5, 365-374 (1998))。マウスを条件付けチャンバー(Med Associates, Inc., VA)に入れて2分間探索させた。次いで、1分間の試行間隔をあけて、全部で2回(弱い記憶)または5回(強い記憶)の足ショックを与えた(0.5mA、2秒間)。最後の足ショック後30秒間、すくみをスコアリングした(即座のすくみ)。次いでマウスをホームケージに戻した。30分(STM)または24時間(LTM)後に記憶を試験した。文脈記憶を評価するために、マウスを訓練したチャンバー内で、5秒間隔ですくみ行動を3分間スコアリングした。
【0106】
統計学的解析。全ての行動実験は釣り合いの取れた様式で設計および実行したが、これは(i)各実験条件について同数の実験マウスおよび対照マウスを使用したこと;(ii)各実験条件を数回繰り返し、繰り返した日数を加算して最終対象数としたことを意味する。各期間の進行を撮影した。各実験において、訓練および試験中の被験体の処理について実験者に知らせなかった(盲目)。ソフトウェアパッケージ(StatView 5.0.1; SAS Institute, Inc)を使用してスチューデント非対称t検定によりデータを解析した。反復測定ANOVAの後にJmpソフトウェアを使用した対比解析により痕跡条件付けを解析した。文章および図面中の全ての値は平均±標準誤差で表した。
【0107】
マウスをノンターゲッティングまたはCREB siRNA1で処理して、5CS-US組み合わせで訓練して強固な文脈記憶を誘導した。訓練状況中に試験した場合、CREB siRNA1注入マウスは訓練24時間後に試験された有意に低い長期記憶(LTM)を示した(p<0.001、両グループについてn=17)(図2c)。対照的に、CREB siRNA1は、訓練の30分後の短期文脈記憶(STM)または訓練中の即座の記憶には影響しなかった(STM:p=0.89、両グループについてn=8;即座のすくみ:p=0.2、両グループについてn=17;図2c)。重要なことに、ノンターゲッティング対照siRNA処理動物における文脈記憶は非処理マウスで観察されたものと同様であった(53.9±5.2%、n=20)。
【0108】
直鎖PEIと組み合わせたCREBおよびノンターゲッティングsiRNAは海馬の形成に明確な損傷を何ら生じなかった。これは行動結果により強調された。
【0109】
文脈記憶および時間的記憶の両方は海馬を必要とするが、時間的記憶の形成の基礎にある分子機構についてはほとんどわかっていない。文脈記憶および痕跡恐怖記憶が海馬においてCREBに関する要件を共有するかどうかを試験するために、発明者らは痕跡条件付けにおけるCREB siRNA1の効果を試験した(図2d)。CREBおよびノンターゲッティングsiRNA注入マウスを15秒の痕跡間隔で訓練して、音CSに対する記憶を24時間後に試験した(図5)。
【0110】
痕跡条件付けについて、条件付け刺激(CS)、2800Hzで20秒間続く75dBの音の開始前に、マウスを条件付けチャンバーに2分間入れた。15秒後、ショック非条件付け刺激(US)を与えた。試行の間に1分の間隔をあけて、全部で3回のCS-US組み合わせを与え、強い痕跡記憶を誘導した。60秒の痕跡間隔をあけて1回のCS-US組合せを使用して、時間的記憶の増強を評価した。チャンバー内でさらに30秒たった後、マウスをホームケージに戻した。訓練の24時間後にマウスを試験した。新しいチャンバー(改変したホームケージ)内で試験を行った。5秒間の運動の完全な欠如として定義されるすくみ行動をスコアリングして、痕跡条件付けについての記憶を評価した。音CSの開始前(前CS)に2分間および音提示(CS)中20秒間にすくみをスコアリングした。
【0111】
要因内にあるような音CS提示による反復測定ANOVAにより、試行相互作用による有意な治療が明らかとなった(F3,128=8.39、p<0.0001)。CREB siRNA1を注入したマウスは音CSに対して有意な記憶障害を示した(前CS:p=0.15、CS:p<0.005、ノンターゲッティングについてn=34およびCREB siRNA1処理マウスについてn=32)。重要なことに、CREB siRNA1ではなくノンターゲッティング処理されたマウスは音CSについての記憶を形成した(音CS提示の効果:それぞれノンターゲッティングについてp<0.001およびCREB siRNA1についてp=0.14)。文脈記憶に関して、対照siRNA処理マウスの痕跡記憶は未処理動物と同様であった(前CS:19.2±7.0%、CS:40.0±6.5%、n=10)。従って、CREBは文脈LTMだけでなく時間的LTMにも必要である。
【0112】
合成siRNAは有意な的外れの活性を生じることがある。かかる的外れの効果はsiRNA配列特異的であり、標的非依存性である(Jackson, A. L.ら、Nat Biotechnol 21, 635-7 (2003))。本発明の結果は、CREB siRNAがSTMではなくLTMを特異的に阻害することを示すが、非特異的ターゲッティングによっても長期記憶は影響を受けることがあった。
【0113】
この事に取り組むために、本発明者らは2種類の実験:(i)CREBに対する第2のsiRNAの試験、および(ii)訓練後のsiRNAの注入を行った。
【0114】
結果の特異性を確認するために、CREB遺伝子の異なる領域(NM_009952の1114〜1132、CREB遺伝子のエクソン9に相当)を標的とするCREBに対する第2のsiRNAを注入した。Neuro2A細胞で試験した場合、CREB siRNA2は明らかな的外れの活性を何ら示さなかった(図1a)。CREB siRNA1と同様に、CREB siRNA2はSTMまたは学習ではなく文脈LTMを弱めた。(LTM:p<0.05、両方のグループについてn=12、STM:p=0.794、両方のグループについてn=6、即座のすくみ:p=0.99、両方のグループについてn=12;図3a)。並行した生化学実験において、siRNA2の注入により、訓練の時点で海馬のCREBのレベルが有意に減少された(1.00±0.07対0.73±0.05、p<0.05、F1,11=9.65;ノンターゲッティングおよびCREB siRNA2処理マウスそれぞれについてn=6)。
【0115】
記憶形成に関する背側海馬におけるCREBの役割の以前の結果により、訓練後1日より長く遅れてではなく訓練の時間の周辺でCREBは空間的記憶形成に必要とされることが示された。従って、文脈記憶形成に関するCREB siRNAの効果の時間的特性を試験するために、5回のUS文脈条件付けでカニューレ挿入マウスを訓練し、24時間後にsiRNA注入を開始した。他のすべての実験と同様に、マウスを繰り返し3日間かけてsiRNAで処理し、最後のsiRNA注入の4日後に記憶を試験した(図3b)。訓練後のCREBまたはノンターゲッティング対照siRNAの注入は、文脈LTMに影響を及ぼさなかった(LTM(7日間記憶:p=0.99、即座のすくみ:p=0.48、両方のグループについてn=8、図3c)。従って、条件付け中のCREBのsiRNAノックダウンは長期記憶を特異的に弱めたが、訓練後のCREBの減少は記憶の保持に影響を及ぼさない。文脈記憶は、行動訓練後2週間以内の背側海馬の訓練後の病変に非常に感受性がある(Anagnostarasら、2001, Hippocampus 11:8-17)。結果的に、siRNAが海馬に損傷を与えるならば、訓練実験後に注入した場合には文脈記憶を弱めることが予想される。従って、発明者らの結果は、ウイルスベクターから発現されたshRNAのサブセットについて示唆されたように、ここで試験されたsiRNAがインビボで海馬のニューロンに対して有意な非特異的な損傷を生じる可能性は低いことを示す(Alvarezら、2006, J. Neurosci 26:7820-7825)。
【0116】
この結果は、CREBが海馬の記憶形成に必要とされることを示す。siRNA媒介性の海馬におけるCREBのノックダウンにより文脈および音の痕跡恐怖条件付けについてのLTMが阻害されたがSTMはそのまま残った。文脈および時間的な記憶は両方、海馬におけるCREBの要件を共有する。
【0117】
並行した生化学実験において、siRNA2の注入は、海馬CREBのレベルを有意に減少した(1.00±0.07対0.73±0.05、p<0.05、F1,11=9.65;ノンターゲッティングおよびCREB siRNA2処理マウスについてそれぞれn=6一方向ANOVA。
【0118】
実施例4-文脈および痕跡条件付けにおけるPP1のsiRNA媒介性ノックダウンの効果
海馬記憶形成の研究に対するsiRNAアプローチの適切さをさらに評価するために、記憶抑制遺伝子タンパク質ホスファターゼ1(PP1)を標的とした。PP1はCaMKIIαおよびAMPAイオノトロピーグルタミン酸レセプターの負の制御因子として作用する((Lisman and Zhabotinsky, 2001 , Neuron 31:191-201)に概説)。PP1はPKAまたはCaMKIVにより活性化されたCREBを脱リン酸化し、記憶形成中のCREBの活性を阻害する(Bitoら、1996, Cell 87:1203-1214)(Lonze, B. E. & Ginty, D. D.2002, Neuron 35, 605-23;Genoux, D.ら、2002, Nature 418:970-5)。以前の結果により、前脳でのインヒビター1の過剰発現によるPP1の遺伝子阻害が物体認識記憶を促進させ、記憶形成時のCRE依存性転写を高めることが示されている(Genoux, D.ら、2002, Nature 418:970-5)。従って、CREBのsiRNAノックダウンが記憶形成を阻害したので、siRNA媒介性のPP1のノックダウンは文脈および時間的記憶を促進するはずである。げっ歯類の海馬において少なくとも3種類のPP1のアイソフォームが発現している(α、βおよびγ1;(da Cruz e Silvaら、1995, J. Neurosci. 15:3375-3389))。樹状突起および核に局在し海馬形成の際に豊富に存在するので、PP1のαサブユニット(PP1α)を標的とした(Ouimetら、1995, Proc. Natl, Acad Sci USA 92:3396-3400)。
【0119】
マウスを弱い記憶を誘導する文脈条件付けパラダイムで訓練した(図5a、Tully, T.,ら、Nat Rev Drug Discov 2, 267-77 (2003)も参照)。図5aには、文脈記憶形成における試行数の効果が示される。マウスを漸増する数のCS-US組み合わせで訓練して4日後に文脈記憶を評価した。1回または2回のCS-US組み合わせによる訓練では最大下の記憶が誘導された(それぞれ、1回についてn=22、2回についてn=20、5回についてn=20、10回ショックUS提示についてn=22)。
【0120】
CREB siRNAについて記載されたものと同じ方法でマウスをPP1αまたは対照のsiRNAで処理し、次いで2回のCS-US組み合わせを用いた文脈恐怖条件付けにおいて訓練して弱い文脈記憶を誘導した(図5a、(Tullyら、2003, Nat. Rev. Drug Discov. 2:267-277))。PP1α siRNA注入動物は、訓練の24時間後に有意に高いすくみを示した(LTM:p<0.05、ノンターゲッティングについてn=29およびPP1α siRNA処理マウスについてn=32、図4b)。重要なことに、PP1αsiRNAは、訓練手順中に即座のすくみには影響を及ぼさなかった(即座のすくみ:p=0.20、図4b)。従って、海馬へのPP1αsiRNAの注入により文脈LTMが促進された。
【0121】
これらの所見と一致して、PP1αタンパク質レベルはPP1α siRNAの注入の結果、海馬において減少したが、CREBのタンパク質レベルは影響を受けなかった(PP1α:F1,11=8.72、p<0.05;CREB:F1,11=1.74、p=0.22;ノンターゲッティングsiRNAについてn=6、PP1α siRNAおよびCREBタンパク質レベルのそれぞれについてn=6およびn=5、図4a)。PP1α siRNAは海馬の形態において明らかな変化を何ら生じなかった。
【0122】
痕跡条件付けにおけるPP1の役割も調べた。CSとUSの間隔が増加するにつれて痕跡条件付けは徐々に困難になる。実際に、CSとUSの痕跡間隔が60秒以上の場合にC57BL/6マウスは不充分な記憶を示す(図5)。図5bには、時間的記憶形成における痕跡間隔の効果が示される。遅延条件付けと比較して徐々に長くなる痕跡間隔および音記憶を使用してマウスを痕跡恐怖条件付けで訓練した。30秒以上の痕跡間隔により、音CSについての不充分な長期記憶が生じた(遅延条件付けならびに5秒、15秒、30秒、60秒、100秒および120秒それぞれの痕跡間隔についてn=29、n=20、n=25、n=18、n=28、n=16およびn=12)。
【0123】
マウスを1回のCS/US組み合わせおよび60秒間の痕跡間隔で訓練した場合、PP1α siRNAにより痕跡記憶が改善された(図4c)。反復測定ANOVAにより、試行相互作用による有意な治療が明らかになった(F3,95=4.38、p<0.01)。PP1α siRNA処理マウスは、音(CS)について対照siRNA注入マウスよりも有意にすくんだ(前CS:p=0.17、CS:p<0.005、ノンターゲッティング対照についてn=23およびPP1α siRNA処理マウスについてn=25)。重要なことに、対照siRNAではなくPP1α処理マウスは音提示時のすくみ応答が増加した(音CS提示の効果:ノンターゲッティングおよびPP1αsiRNAそれぞれについてp=0.31およびp<0.005)。従って、文脈条件付けと同様に、海馬PP1αのsiRNA媒介性ノックダウンにより痕跡条件付けが促進された。
【0124】
要約すると、このことは、PP1が海馬の記憶形成を阻害することを示す。海馬におけるPP1αのsiRNA媒介性ノックダウンは文脈および時間的記憶形成の両方の促進に充分である。この記憶形成の促進はsiRNAの不都合な効果により説明することができないので、これらの所見は、siRNAアプローチが記憶の分子機構の研究に受け入れられることを示す。
【0125】
実施例5-Neuro2A細胞を使用したGpr12をターゲッティングするsiRNAのスクリーニング
リアルタイムPCRによる発現プロファイリングにより、末梢組織ではほとんど発現がないマウスおよびヒトのCNSにおけるGpr12 mRNA発現が明らかにされた(図6)。
【0126】
表1に示されるマウスGpr12およびヒトGpr12のmRNAおよびタンパク質の配列。
【0127】
Gpr12はマウスCNSに広く存在しており(図6a)、食事ならびに感覚情報の統合(視床)、運動制御(小脳)、および自律機能(脳幹)に関連する脳の領域である視床、脳幹および小脳で最も高い発現レベルを示す。海馬および新皮質においても高レベルのGpr12が観察され、この2つの脳の領域は記憶の形成に重要である(Fanselow 2005 J Comp Physiol Psychol 93, 736-744)。これらの結果はマウスCNSにおけるインサイチュハイブリダイゼーションにより観察されたものと同様である(Ignatov 2003 J Neurosci 23, 907-914)。マウスにおいて、Gpr12発現は、肝臓を除くほとんどの末梢組織で検出レベル未満であった。
【0128】
ヒトCNSにおいてGpr12発現は、海馬、新皮質および小脳で最も高かった(図6b)。
【0129】
Gpr12に最も相同なGpr3およびGpr6は、マウスおよびヒト両方のCNSに存在した(図6a/b)。しかし、Gpr12 mRNAレベルはヒトCNSにおいてGpr3および6のレベルよりもかなり高いことがわかる。これは、Gpr6の発現が海馬、視床および新皮質で非常に顕著であるマウスの場合と対照的である。
【0130】
マウスCNSにおけるGpr12の機能の評価のためにインビボ等級のsiSTABLE siRNA(Dharmacon Inc., Lafayette, USA)を使用した。siRNAを化学的に修飾して安定性を高めた。21塩基のsiSTABLEノンターゲッティングsiRNAを対照として使用した。
【0131】
siRNAの効果の評価のために、siGENOME siRNAおよびDharmafect 3(Dharmacon, Lafayette, USA)を使用してNeuro2A細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に海馬組織について記載されるようにRNAを単離し、cDNAを合成した。処理ごとに、3個体のRNA調製およびcDNA合成を行った。標的mRNAレベルはcDNA複製当たり2回決定し、各実験繰り返しごとにΔCT値を平均した(n=3 RNA/cDNA調製;それぞれ2回のqPCR決定の平均として表した)。
【0132】
インビトロでGpr12 mRNAを有効に減少する3種類のsiRNAを同定した(図7)。siRNA2は処理の24時間後に溶媒対照の31%までGpr12 mRNAレベルを減少し、Gpr12のインビボ評価のために選択した。Gpr12-2 siRNA用のインビボ等級のsiSTABLE siRNAをDharmacon(Lafayette, USA)から入手した。
【0133】
Gpr12に対するいくつかの非修飾(siGENOME)siRNAを、Neuro2A細胞を使用してインビトロでのbDNAアッセイ(QuantiGene bDNAアッセイキット, Bayer)により試験した。多成分合理設計アルゴリズムを使用してsiRNAを設計し(Reynoldsら、(2004). Nat Biotechnol 22, 326-330)、BLAST検索によりGpr12に対する特異性について調節した。
【0134】
さらなるインビボ特徴づけのために以下:
Gpr12 siRNA2センス鎖GAGGCACGCCCAUCAGAUAUU; 配列番号:15
Gpr12 siRNA2アンチセンス鎖UAUCUGAUGGGCGUGCCUCUU; 配列番号:16
ノンターゲッティングsiRNAセンス鎖UAGCGACUAAACACAUCAAUU; 配列番号:17
ノンターゲッティングsiRNAアンチセンス鎖UUGAUGUGUUUAGUCGCUAUU; 配列番号:18
のsiRNAを選択した。
【0135】
実施例6-マウスにおける合成Gpr12 siRNAのインビボ送達
動物および環境。若い成体(10〜12週齢)のC57BL/6雄マウス(Taconic, NY)を使用した。到着したらすぐに、マウスを標準的な実験ケージにグループに分けて飼育し(5匹マウス)、12:12時間の明暗周期で維持した。実験は常に該周期の明期で行った。カニューレ挿入手術後、マウスを一度それぞれのケージに戻して実験の終了までそのまま維持した。訓練および試験時間を除き、マウスは制約なしで食餌および水にありつけた。国立衛生研究所(NIH)のガイドラインと一致し、施設内の動物管理使用委員会に承認を受けた標準条件下でマウスを維持および飼育した。
【0136】
動物手術およびsiRNA注入。siRNAの注入のために、マウスを20mg/kgのアベルチンで麻酔し、33ゲージガイドのカニューレを背側海馬(座標:1.2mmの深さに対してA=-1.8mm、L=+/-1.5mm)または扁桃体(座標:4.0mmの深さに対してA=-1.58mm、L=+/-2.8mm)に左右対称に埋め込んだ(Franklin and Paxinos, 1997 The Mouse Brain in Stereotaxic Coordinates)。手術から回復して5〜9日後、動物にsiRNAを注入した。siRNAは、5%グルコースで0.5μg/μlに希釈して、6当量の22kDaの直鎖ポリエチレンイミン(Fermentas)と混合した。室温で10分間インキュベーションした後、ポリエチレン製のチューブでマイクロシリンジにつながれた注入カニューレにより2μlをそれぞれの海馬に注入した。完全な注入術には約2分かかり、ストレスを最小限にするために動物を慎重に扱った。全部で3回のsiRNAの注入を3日間かけて行った(1μg siRNA/海馬/日)。
【0137】
siRNA媒介性Gpr12のノックダウンは、海馬形成に損傷を生じることがある。siRNA処理した脳の海馬の形態を評価した。
【0138】
行動実験の1日後にsiRNA注入動物を屠殺した。凍結した脳を15μmの切片にスライスしてクレシルバイオレットで染色した。連続切片の写真で海馬の形態を評価した。カニューレの検証のために、動物に1μlのメチルブルー色素を注入し、その後すぐに屠殺した。凍結した脳を15μmの切片にスライスした。色素染色の位置を顕微鏡で決定して比較した(Franklin and Paxinos, 1997 The Mouse Brain in Stereotaxic Coordinates)。被験体の処理について盲目的にカニューレ検証を行った。
【0139】
ノンターゲッティングsiRNA(図10a)とGpr12 siRNA処理マウス(図10b)間で明らかな海馬の形態の違いはなかった。従って、Gpr12 siRNAは脳の形態に何ら明らかな変化を生じなかった。錐体細胞層への損傷はカニューレ挿入の領域に限定された。図10に見られる損傷(中央のパネル)は海馬のカニューレの除去により促進されることに注意されたい。これは実際の手術により海馬の形態の変化が誘導されたことを表さず、これは最小であると見なされ実験被験体の行動成績に影響を及ぼさない。
【0140】
インビボにおけるsiRNAによる標的ノックダウンを確認するために、本発明者らはマウスを海馬内のsiRNAで3日間処理し、最後のsiRNA注入の2日後および3日後にGpr12 mRNAレベルを決定した(図11)。
【0141】
インビボにおけるgpr12ノックダウンの評価のために、グループ当たり6匹のマウスのsiRNAを注入した海馬組織を集めた。製造業者の指示に従ってQIAgen RNeasyキット(Qiagen)を使用して6個体のRNA調製を行った。TaqMan逆転写酵素キット(Applied Biosystems)を使用してcDNAを生成した。ABIプリズムおよびSDS 2.1ソフトウェアを使用してRNA/cDNA複製当たり2回のリアルタイムPCR反応を行なった。Gpr12のmRNAレベルを試験するために必要に応じてABIアッセイ(Applied Biosystems)を使用した。各cDNA試料についての平均CT値を決定した。次いで、TATA結合タンパク質(TBP)に対してデータを標準化し、ΔCT値を決定した。ノンターゲッティング対照siRNA処理対照群に対してmRNAレベルを標準化した。
【0142】
ノンターゲッティング対照siRNA(n=6)と比較した場合、Gpr12 siRNA(n=6)は処理の2日後に海馬のGpr12のmRNAレベルを有意に減少した(p<0.01)。処理の3日後にはGpr12 siRNAの有意な効果はなく、Gpr12 mRNAノックダウンは一過的であったことが示された(p=0.25)。これらの結果により、siRNAはインビボで海馬においてGpr12 mRNAを減少したことが確認された。しかし、標的mRNAおよびタンパク質レベルはGpr12 siRNAにより異なった影響を受けることがある。Gpr12の実際のタンパク質レベルは、siRNA処理後、より強い程度におよびより長期間減少し得る。
【0143】
実施例7-文脈および痕跡条件付けに関するGpr12のsiRNA媒介性ノックダウンの効果
文脈記憶を評価するために、CREBノックアウトマウスの記憶の評価のために元来開発された、標準化された文脈恐怖条件付け課題を使用した((Bourtchuladzeら、1994 Cell 79, 59-68)。訓練日に、非条件付け刺激(US)、2秒間の0.5mAの足ショックの開始前に、マウスを条件付けチャンバー(Med Associates, Inc., VA)に2分間入れた。弱い訓練(2回の訓練試行)のために、ショック間に1分の試行間隔をあけてUSを2回繰り返した。強い訓練(5回の試験試行)のために、ショック間に1分の試行間隔をあけて5回の足ショックを与えた(Bourtchouladze ら、1998 Learn Mem 5, 365-374.);(Scottら、2002 J Mol Neurosci 19, 171-177);(Tullyら、2003 Nat Rev Drug Discov 2, 267-277)。自動化ソフトウェアパッケージ(Med Associates, Inc.,VA)を使用して訓練を実施した。最後の訓練試行の後、マウスを条件付けチャンバー内にさらに30秒間残し、その後ホームケージに戻した。訓練の24時間後に文脈記憶を試験した。マウスを同じ訓練チャンバーに入れ、すくみ行動をスコアリングして条件付けを評価した。すくみは5秒間の完全な運動の欠如として定義した((Fanselow and Bolles, 1979 J Comp Physiol Psychol 93, 736-744.);(Bourtchuladzeら、1994 Cell 79, 59-68);(Bourtchouladzeら、1998 Learn Mem 5, 365-374)。全試験時間は3分間続いた。各実験対象後、実験装置を75%エタノール、水で完全に洗浄し、乾燥させて換気した。各実験を撮影した。全ての実験者は薬物および訓練条件について盲目であった。
【0144】
全ての行動実験は釣り合いの取れた様式で設計および実施され、これは(i)各実験条件について発明者が同数の実験マウスおよび対照マウスを使用したこと;(ii)各実験条件を数回繰り返し、繰り返した日数を加算して最終対象数としたことを意味する。各期間の進行を撮影した。各実験において、訓練および試験中の被験体の処理については実験者には知らせなかった(盲目)。ソフトウェアパッケージ(StatView 5.0.1 ; SAS Institute, Inc)を使用して、スチューデント非対称t検定によりデータを解析した。記載される場合以外は、文章および図面中の全ての値は平均±標準誤差で表す。
【0145】
最初に、文脈記憶における海馬Gpr12の機能を調べた。マウスの海馬にノンターゲッティング(n=19)またはGpr12 siRNA(n=20)を注入した。最後のsiRNA注入の3日後、弱い文脈記憶を誘導するように設計された文脈条件付けパラダイムで動物を訓練した(Scottら、2002 J Mol Neurosci 19, 171-177.)、(Tullyら、2003 Nat Rev Drug Discov 2, 267-277)。Gpr12 DM-2 siRNA処理動物は、訓練後24時間で有意に増強された文脈記憶を示した(24時間記憶:p<0.05、図8a)。
【0146】
次に、文脈記憶形成について、扁桃体におけるGpr12の機能を調べた。マウスの扁桃体にノンターゲッティング(n=20)またはGpr12 siRNA(n=21)を注入して、文脈記憶を試験した。海馬におけるGpr12ノックダウンと同様に、Gpr12 siRNA処理動物は、訓練後24時間で有意に増強された文脈記憶を示した(24時間記憶:p<0.01、図8b)。誤ったカニューレ挿入のために、4匹のマウス(2xのノンターゲッティングsiRNA、2xのGpr12-2 siRNA)を解析から除外した。
【0147】
痕跡条件付け訓練について、標準化されたマウス文脈恐怖条件付け器具を使用した(Med Associates, Inc., VA;(Bourtchuladzeら、1994 Cell 79, 59-68);(Bourtchouladzeら、1998 Learn Mem 5, 365-374)。訓練日に、条件付け刺激(CS)、75dBで20秒間続く2800Hzの音の開始前に、マウスを条件付けチャンバーに2分間入れた。音を終了して60秒後、0.5mAショック非条件付け刺激(US)を2秒間動物に与えた。以前の実験により、この訓練パラダイムがC57BL/6マウスにおいて不充分な痕跡恐怖記憶を誘導すること、およびこの記憶はCREB経路のエンハンサーによって促進できることが明らかにされている。チャンバー内でさらに30秒間たった後、マウスをホームケージに戻した。各実験対象後、実験装置を75%エタノール、水で完全に洗浄し、乾燥させて数分間換気した。
【0148】
文脈条件付けの効果が混同することを避けるために、別の実験室に置いた新しいチャンバー内で試験を行った。内部条件付けチャンバーを取り除いて、マウスケージと取り換えた。それぞれを区別するために、違う色のテープを各ケージの背面に貼った。被験体から被験体への匂いの混入の可能性を減らすために、3つの異なるケージを交替で使用した。チャンバーの内部に30ワットの電灯を配置して、訓練と試験との間の光の違いを確実にした。エタノールの代わりに石鹸溶液を使用して、ケージを洗浄した。それぞれの試験は、2分間の光のみ(前CS)、次いで20秒間の音提示(CS)、その後さらに30秒間の光のみ(後CS)で開始した。訓練中と同様の様式で、上述の文脈条件付けと同様に、マウスを1匹ずつ5秒間隔の「すくみ」についてスコアリングした。各実験の進行を撮影した。音記憶に特異的なすくみ応答の割合は、CSすくみから前CSすくみ(非特異的)を差し引いて決定した。
【0149】
痕跡恐怖記憶における海馬のGpr12の機能を調べた。文脈条件付けについて記載されるように、マウスの海馬にノンターゲッティング(n=20)またはGpr12 siRNA(n=23)を注入した。1回のCS/US組み合わせおよび60秒の痕跡間隔で訓練した場合、Gpr12 DM-2 siRNA処理動物は有意に高い痕跡条件付けを示した(CS-前CS:p<0.01、図9)。重要なことに、対照siRNAではなくGpr12 siRNA処理された動物は、音CS提示に対するすくみ応答を増加した。従って、文脈条件付けと同様に、siRNA媒介性の海馬Gpr12のノックダウンは痕跡条件付けを促進した。痕跡恐怖条件付けの間に、Gpr12 siRNAは即座のすくみに有意に影響を及ぼさなかった(ノンターゲッティングsiRNA:3.3±1.5%;Gpr12 siRNA:5.1±1.6%;p=0.44;データは示さず)。
【0150】
まとめると、これらの結果によって、Gpr12が、マウスおよびヒトにおける記憶の形成に重要である二つの側頭葉構造の海馬および扁桃体の両方における記憶形成の負の制御因子であることが強く示される。重要なことに、Gpr12 siRNAは「機能の増大」(すなわち、記憶形成の強化)を誘導した。行動可塑性におけるこの効果がGpr12 siRNAの副作用により誘導される可能性は低い。従って、本発明者らは、Gpr12が海馬および扁桃体における記憶の決定的な制御因子であることを結論付ける。
【0151】
本明細書中で発明の背景を説明するために使用される、本明細書中で言及される全ての刊行物、特許および特許出願、特に実施に関するさらなる詳細を提供する事例は、それぞれ個々の刊行物、特許または特許出願が参照により具体的かつ個別的に援用される場合と同程度に、参照により本明細書中に援用される。
【0152】
本発明はその好ましい態様を参照して具体的に示され記載されるが、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲を逸脱することなく、形態および詳細において種々の変更が本発明でなされ得ることが当業者に理解されよう。
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本願は、2007年5月15日に出願された米国仮特許出願番号第60/938,165号の35 U. S. C. §119の下での利益を主張しており、その全内容および実体は参照によって本明細書に援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、低分子干渉RNA(siRNA)分子を用いた記憶形成に関わる遺伝子の同定方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
ヒトを含む多くの生物が有する特性は、過去の出来事の記憶である。この特性は、何十年も研究されており、多くの派生した問題を説明する多くの情報が現在利用可能である。例えば、2つの記憶の基本型:短期記憶を含む転写非依存性記憶、および長期記憶を含む転写依存性記憶が同定されている。
【0004】
記憶形成と関連する遺伝子の同定によって、(a)認知機能不全の遺伝的疫学、(b)(特定の認知形態について異なる成績レベルと関連する)これらの遺伝子の異なる対立形質を有する個体のための診断ツールおよび(c)様々な形態の認知機能不全を最終的に改善する薬物発見のための新規標的(特定の薬物は診断試験によって特定の形態の認知機能不全と適合させることができる)が提供される。従って、記憶形成と関連する遺伝子を同定する技術が利用可能になることは有用である。
【0005】
記憶の比較的未知な局面は、記憶の発生に寄与する遺伝子の同定である。記憶形成に寄与することがある遺伝子の同定方法が、転写依存性記憶形成中に転写制御されるさらなる「下流」遺伝子を同定するためのディファレンシャルスクリーニングの使用を通じて、米国特許第7,005,256号に記載されている。DNAプローブは、当該技術分野で一般的に公知な方法によって、分散訓練または集中訓練されたハエの頭部から抽出したRNAを用いて合成された。RNAをハエ頭部から抽出した。ハエの分散訓練および集中訓練は、以前に記載されたように行われた。相補的DNA(cDNA)プローブが抽出RNAから合成された。次に複合cDNAプローブミックスを、DNA配列を含むマイクロアレイチップ上にハイブリダイズさせた。ハイブリダイズしたDNAプローブのシグナルを増幅し、検出した。統計学的比較は、分散訓練群と集中訓練群との間で検出されたシグナルの比較によって行われ、候補遺伝子が同定された。
【0006】
しかし、かかる遺伝子が転写依存性記憶形成中に転写制御されることを確認するために候補遺伝子の試験方法が必要である。
【0007】
RNA干渉(RNAi)は、遺伝子機能の生物学的機構を調べるための新規遺伝子サイレンシング技術を提供し、インビボでの標的確認の可能性がある。合成21ヌクレオチド低分子干渉RNA二本鎖(siRNA)によるRNAiは、培養細胞中の遺伝子機能を研究するために使用されている(Elbashirら、2001, Nature 411 :494-498)。しかし、インビボでのCNSへの合成siRNAの首尾よい送達は、非修飾siRNAの低い効率によって制限されているので、大量のsiRNAの使用またはウイルスベクターからのsiRNA発現を要する(Thakkerら、2004, Proc. Natl Acad Sci USA 101 :17270-17275);(Xiaら、2002, Nat. Biotechnol. 20:1006-1010)。さらに、記憶形成に対するRNAiの特定の効果はこれまで示されていない。
【0008】
文脈および痕跡条件付けの両方は、完全な海馬の機能を要する(PhillipsおよびLeDoux, 1992, Behav. neurosci 1006:274-285); (McEchronら、1998, Hippocampus 8:638-646)。文脈条件付けにおいて、以前の中立文脈は、穏やかで回避できない足衝撃と組み合わされている。痕跡条件付けにおいて、短い間隔(痕跡)を、音などの条件付け刺激(CS)と衝撃などの非条件付け刺激(US)との間に課す。この短い間隔によって、海馬を十分必要とするように学習課題の複雑さを増大させる(Kimら、1995, Behav. Neurosci. 109:195-203); (McGlinchey-Berrothら、1997, Behav Neursci 111:973-882); (ClarkおよびSquire, 1998, Science 280:77-81); (McEchronら、1998, Hippocampus 8:638-646); (Buchel ら、1999, J. Neurosci 19:10869-10876)。従って、痕跡条件付けは文脈条件付けと類似しており、動物は単純に条件付け刺激と非条件付け刺激を関連付けるだけでなく、条件付け刺激と条件付け刺激にさらされる文脈全体を関連付ける。
【0009】
海馬における文脈および時間的長期記憶の発生と関連する遺伝子およびタンパク質産物を同定することが必要である。
【発明の概要】
【0010】
(発明の概要)
本発明は、候補遺伝子のsiRNAが転写依存性記憶形成、特に長期記憶形成に関わる候補遺伝子の阻害効果を決定するために使用できるという発見に関するものである。
【0011】
特に、一態様において、本発明は、(a)遺伝子に特異的で十分なsiRNAを動物に投与し、遺伝子の機能を阻害する工程; (b)該動物を、処理されていない正常動物の転写依存性記憶形成を誘導するのに十分な条件下で訓練する工程;およびc)該処理された動物の訓練によって誘導される転写依存性記憶形成のレベルを決定する工程を含む方法を含むものである。
【0012】
別の態様において、処理されていない動物の転写依存性記憶形成に対する処理された動物の転写依存性記憶形成の増大の決定は、遺伝子の阻害が転写依存性記憶形成の増強をもたらすことを示す。別の態様において、処理されていない動物の転写依存性記憶形成に対する処理された動物の転写依存性記憶形成の減少の決定は、遺伝子の阻害が転写依存性記憶形成の阻害をもたらすことを示す。
【0013】
特定の態様において、転写依存性記憶形成が長期記憶形成である。別の態様において、転写依存性記憶形成が特定の認知課題の成績によって明示される。
【0014】
本発明の別の態様は、(a)遺伝子に特異的で十分なsiRNAを動物に投与し、遺伝子の機能を阻害する工程; (b)該動物を、処理されていない正常動物の長期記憶形成を誘導するのに十分な条件下で訓練する工程; および(c)該処理された動物の訓練によって誘導される長期記憶形成のレベルを決定する工程を含む方法を含むものである。
【0015】
一態様において、処理されていない動物の長期記憶形成に対する処理された動物の長期記憶形成の増大の決定は、遺伝子の阻害が長期記憶形成の増強をもたらすことを示す。別の態様において、処理されていない動物の長期記憶形成に対する処理された動物の長期記憶形成の減少の決定は、遺伝子の阻害が長期記憶形成の阻害をもたらすことを示す。
【0016】
特定の態様において、長期記憶形成が特定の認知課題の成績によって明示される。
【0017】
本発明の別の態様は、(a)遺伝子に特異的で十分なsiRNAを動物に投与し、遺伝子の機能を阻害する工程; (b)該動物を、処理されていない正常動物の特定の認知課題の成績における改善を生じるのに十分な条件下で訓練する工程;および(c)該処理された動物の訓練によって生じる認知成績のレベルを決定する工程を含む方法を含むものである。
【0018】
一態様において、処理されていない動物の認知成績のレベルに対する処理された動物の認知成績のレベルの決定は、遺伝子の阻害が認知成績の増強をもたらすことを示す。別の態様において、処理されていない動物の認知成績のレベルに対する処理された動物の認知成績のレベルの減少の決定は、遺伝子の阻害が認知成績の阻害をもたらすことを示す。
【0019】
特定の態様において、認知成績が長期記憶形成である。別の態様において、認知成績が特定の認知課題の成績によって明示される。
【0020】
全ての態様において、siRNAが、訓練期間の前または訓練期間と同時に投与することができる。全ての態様において、動物が非ヒト哺乳動物であり得る。全ての態様において、工程(b)の訓練が、複数訓練期間を含むことができる。全ての態様において、工程(b)の訓練が、分散訓練プロトコルを含むことができる。全ての態様において、工程(b)の訓練が、1回または複数回の試行による文脈恐怖訓練プロトコルを含むことができる。全ての態様において、工程(b)の訓練が、1回または複数回の試行による痕跡恐怖条件付けを含むことができる。全ての態様において、訓練が、文脈記憶、時間的記憶、空間的記憶、エピソード記憶、受動回避記憶、能動回避記憶、社会伝達の食物嗜好記憶、条件付け味覚回避、および社会的認識記憶からなる群より選択される記憶パラダイム(memory paradigm)に関することができる。
【0021】
本発明のこれらおよび他の局面は、以下の詳細な説明および付属の図面を参照して明らかになる。しかし、本質的な精神および範囲を逸脱することなく、さまざまな変化、変更および置換が本明細書に開示される特定の態様に対して行われてもよいことが理解される。また、図面は本発明の例示態様の例示的および象徴的な提示であることを意図すること、および他の例示されていない態様が本発明の範囲内であることがさらに理解される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1aは、CREB siRNAで処理した後のNeuro2A細胞のCREB mRNA、PP1α mRNA、NMDAレセプターサブユニット1(Grin1) mRNAおよびシナプトタグミンI(Syt1) mRNAを示す棒グラフである。2〜4回の実験反復の平均±標準誤差を示す。オープンバー:溶媒(vehicle)、ストライプバー:ノンターゲッティング、灰色バー:CREB1 siRNA;黒色バー:CREB2 siRNA。図1bは、PP1α siRNAで処理した後のNeuro2A細胞のCREB mRNA、PP1α mRNA、NMDAレセプターサブユニット1(Grin1) mRNAおよびシナプトタグミンI(Syt1) mRNAのレベルを示す棒グラフである。2回の実験反復の平均±標準誤差を示す。オープンバー:溶媒、ストライプバー:ノンターゲッティング、灰色バー:PP1α siRNA
【図2】図2aは、Cy3標識siRNAおよび22kDaポリエチレンイミン担体を注入した海馬の冠状切片の写真である。図2bは、ノンターゲッティング(スクランブル)siRNA注入またはCREB siRNA注入後のマウスの海馬のCREBタンパク質およびシナプトタグミンタンパク質レベルのウエスタンブロットである。図2bは、また、ノンターゲッティング(スクランブル)siRNA注入またはCREB1 siRNA注入後のマウスの海馬CREBタンパク質およびシナプトタグミンタンパク質のレベルを示す棒グラフを示す。図2cは、ノンターゲッティング(スクランブル)siRNA注入またはCREB siRNA注入後の、訓練中(直後のすくみ)、訓練30分後(短期記憶)および訓練24時間後(長期記憶)のマウスの文脈すくみの割合を示す棒グラフである。図2dは、ノンターゲッティング(スクランブル)siRNA注入またはCREB siRNA注入後の、訓練中(直後のすくみ)、訓練30分後(短期記憶)および訓練24時間後(長期記憶)のマウスのすくみの割合を示す棒グラフである。
【図3】図3aは、ノンターゲッティング(スクランブル)siRNA注入またはCREB siRNA2注入後の、訓練中、訓練30分後および訓練24時間後のC57BL/6マウスの文脈すくみの割合を示す棒グラフである。図3bは、訓練後siRNA注入のための訓練プロトコルの概略図式である。図3cは、図3bに示されるプロトコルによる、ノンターゲッティング(スクランブル)siRNA注入またはCREB siRNA2注入後の、訓練中および訓練7日後のC57BL/6マウスの文脈すくみの割合を示す棒グラフである。
【図4】図4aは、PP1α siRNA注入後の海馬におけるPP1αおよびCREBタンパク質のレベルを示すウエスタンブロットである。図4aは、また、PP1α siRNA注入後の海馬におけるPP1αおよびCREBタンパク質のレベルの棒グラフである。図4bは、ノンターゲッティング(スクランブル)siRNA注入またはPP1α siRNA注入後の、訓練中および訓練24時間後のC57BL/6マウスの文脈すくみの割合を示す棒グラフである。図4cは、訓練中、前条件付け刺激訓練24時間後および音条件付け刺激訓練24時間後のC57BL/6マウスのすくみの割合を示す棒グラフである。
【図5】図5aは、文脈記憶形成に対する訓練試行数の影響を示す棒グラフである。マウスは、増加する数のCS-US組で訓練され、文脈記憶を4日後に評価した。図5bは、時間的記憶形成に対する痕跡間隔の影響を示す棒グラフである。マウスは、遅延条件付けと比べて、徐々に長くなる痕跡間隔および音記憶を用いた痕跡恐怖条件付けで訓練された。
【図6】図6aは、リアルタイムPCRによって測定されたマウスCNSのmRNA発現のレベルの表である。図6bは、リアルタイムPCRによって測定されたマウスCNSのmRNA発現のレベルの表である。
【図7】図7は、siRNA処理24時間後のNeuro2A細胞中のGpr12のmRNAレベルの棒グラフである。
【図8】図8aは、文脈記憶に対するマウス海馬におけるGpr12 siRNAの効果の棒グラフである。図8bは、文脈記憶に対するマウス扁桃体におけるGpr12 siRNAの効果の棒グラフである。
【図9】図9は、痕跡恐怖記憶に対するマウス海馬におけるGpr12 siRNAの効果の棒グラフである。
【図10】図10は、注入した海馬に対するノンターゲッティング(A)およびGpr12 siRNA (B)のニッスル染色の写真である。カニューレ挿入部位の背側および腹側の海馬スライスを示す。
【図11】図11は、Gpr12 siRNA処理2日および3日後の海馬Gpr12 mRNA レベルの棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(発明の詳細な説明)
本発明は、候補遺伝子のsiRNAが転写依存性記憶形成、特に長期記憶形成に関わる候補遺伝子の阻害効果を同定するおよび特徴づけるために使用できるという発見に関するものである。
【0024】
転写非依存性記憶としては、短期記憶、中間(または中期)記憶および(ハエの)麻酔耐性記憶などの様々な「記憶段階」が挙げられる。これらの形態に共通するものは、RNA転写の薬理学的阻害剤がこれらの記憶を阻害しないことである。転写依存性記憶は、通常、長期記憶と称され、RNA合成の阻害剤は長期記憶の発生を阻害する。
【0025】
本発明は、(a)遺伝子に特異的で十分なsiRNAを動物に投与し、遺伝子の機能を阻害する工程; (b)該動物を、処理されていない正常動物の転写依存性記憶形成を誘導するのに十分な条件下で訓練する工程;および(c)該処理された動物の訓練によって誘導される転写依存性記憶形成のレベルを決定する工程を含む、非ヒト動物における転写依存性記憶形成と関連する遺伝子または遺伝子産物の同定方法に関する。
【0026】
特定の「長期記憶」を生じるために、動物は、調節された実験条件下での特定の訓練プロトコルに供される。パブロフ条件付け手順において、例えば、2つの特定の刺激が、接近した時間で提示され、「連想学習および記憶」を生じる。2つの刺激のうちの1つが「条件付け刺激」(CS)と特定され、他の刺激が「非条件付け刺激」(US)と特定される。USは、通常、「反射」様式での訓練の前に「非条件付け応答」(UR)を誘発する自然の強化因子である。CS-US組を用いて、「条件付け応答」(CR)は、USの提示前の(またはUSの提示の非存在下で)CSに応答して現れ始める。特定のCS-US組に対するCRが「学習」された後、記憶形成が始まる。
【0027】
この特定の実験経験の記憶形成は、2つの一般形態:転写非依存性形態および転写依存性形態で存在することができる。前者は、短期記憶および中間(または中期)記憶などの様々な「記憶段階」を含む。これらの形態に共通するものは、RNA転写の薬理学的阻害剤がこれらの記憶を阻害しないことである。後者の形態は、通常、長期記憶と称され、RNA合成の阻害剤が長期記憶の発生を阻害する。
【0028】
動物モデルにおいて、様々な実験処置、例えば、遺伝子変異、薬理学的遮断、解剖学的病変または特定の訓練プロトコルが、これらの種類の記憶の1つ以上に影響を及ぼすことができる。特に、いくつかの実験処置によって、通常量の転写非依存性記憶が生じるが、転写依存性記憶は生じない。このような観察によって、有益なDNAチップの比較の基礎が構成される。一般に、比較は、2つの実験プロトコル:転写非依存性記憶および転写依存性記憶の両方を誘導するのに十分なもの(実験群)ならびに転写非依存性記憶のみを生じるもの(対照群)の間で行われる。次に、これらの2つのプロトコル間での転写レベルの任意の検出可能な差異が、実験で誘導された学習の転写依存性記憶に特異的に寄与する場合がある。これらの転写物は、本明細書で「候補記憶遺伝子」(Candidate Memory Gene)(CMG)と称される。
【0029】
実験条件は特定の種類の学習を誘導するように調節されるが、他の実験で調節されない形態の学習も行われてもよい。従って、対照群は特定の実験課題の転写依存性記憶を生じない場合があるが、それでも対照群は調節されない学習経験の転写依存性記憶を生じる場合がある。かかる経験の1つの種類は、CSもしくはUSだけ(単独)に応答してまたは(「連想学習」にとって重要な要件である)時間的に組み合わされないCS-US提示に応答して生じる、潜在的に「非連想」形態の学習である。従って、転写依存性「非特異的」記憶が、上記に定義されるように、対照群で存在してもよい。この観察によって、「非特異的」学習と関わる幅広い種類の転写物が生じ、本発明者らは候補可塑性遺伝子(Candidate Plasticity Gene)(CPG)と称する。上記に定義されるように、実験群と未処置(非訓練)動物との間のDNAチップ比較がCMGと共にCPGをもたらす。
【0030】
ショウジョウバエでの行動遺伝学研究によって、パブロフの匂い衝撃学習パラダイム後の記憶形成に対して異なる効果を有する一組の訓練プロトコルが確立された。10回を合わせた「集中」訓練期間(即ち、期間の間に休息間隔がない)は、最大学習(獲得)および転写非依存性記憶(タンパク質合成依存性ではない)(早期記憶、短期記憶)をもたらす。対照的に、10回の「分散」訓練期間(即ち、期間の間に15分間の休息間隔がある)は、同等レベルの学習および転写非依存性記憶(早期記憶)ならびに最大レベルの転写依存性記憶(タンパク質合成依存性長期記憶(LTM)を含む)をもたらす。LTMは、分散訓練を要する;48回もの集中訓練期間は、LTMを誘導することができない(Tully ら、Cell, 79:35 47 (1994))。分散訓練によって誘導されるタンパク質合成依存性LTMは、CREBリプレッサーの過剰発現によって完全に阻害される(Yinら、Cell, 79:49 58 (1994))。分散訓練後に得られる記憶曲線は、タンパク質合成およびCREB依存性LTMが阻害されるが、正常のハエの集中訓練によって生じるものと類似している。対照的に、CREBアクチベーターの過剰発現は、少ない訓練(1つの訓練期間)または集中訓練を用いてLTMを誘導する(Yinら、Cell, 81 : 107 115 (1995))。従って、LTMの誘導は、タンパク質合成依存性およびCREB依存性の両方によるものである。これらの結果によって、分散訓練プロトコルと集中訓練プロトコルとの間の唯一の機能的な差異は前者の後の転写依存性記憶の発生であることが示される。
【0031】
上記の統計学的手順は、「統計学的候補」を示唆するだけである。使用される統計学的方法(および他のかかる方法)の基本的な側面は、「偽陽性」および「偽陰性」候補が「真陽性」と共に得られることである。従って、遺伝子転写における経験依存性変化を検出する独立した方法は、「統計学的候補」に適用される必要がある。
【0032】
ほとんどのマウス遺伝子は、ヒトホモログを有することが示されている。ヒトホモログがマウスホモログとしてマウスで機能置換できるという知識が拡大しており、本発見は対応するヒトホモログを直接関係付けるものである。
【0033】
分散対集中訓練によって生じる長期記憶に対するディファレンシャル効果は、動物界で広く観察される現象である。特に、長期記憶に対する分散集中ディファレンシャル効果が、ラット(哺乳動物モデル系)の条件付け恐怖強化驚愕効果について最近確立された。恐怖強化驚愕パラダイムにおいて、記憶は、以前に足衝撃と組み合わせた条件付け刺激(CS)の存在下での驚愕の大きさの増大によって示される。ラットの集中訓練(10秒間の試行間間隔を有する4回のCS-衝撃組)は、本質的に転写依存性記憶を生じないが、分散訓練(8分間の試行間間隔を有する4組)は、有意な転写依存性記憶を生じる(Josselynら、Society for Neurosci., 24: 926, Abstract 365.10 (1998))。
【0034】
特に定義されていない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語は、本発明の属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0035】
当業者は、本明細書に記載されるものと類似から同等の多くの方法および材料を認識するが、これらは本発明の実施に使用することができる。実際、本発明は、本明細書に記載される方法および材料に限定されない。本発明の目的のために、以下の用語を定義する。
【0036】
定義
用語「動物」は、本明細書で使用される場合、哺乳動物および他の動物、脊椎動物および無脊椎動物(例えば、鳥類、魚類、爬虫類、昆虫(例えば、ショウジョウバエ種)、アメフラシ)を含む。用語「哺乳動物」および「哺乳類」は、本明細書で使用される場合、子供に授乳するおよび子供を生む(真獣類もしくは胎盤哺乳動物)または卵を産む(後獣類もしくは非胎盤哺乳動物)、単孔類、有袋類および胎盤類などの任意の脊椎動物のことをいう。哺乳類種の例としては、ヒトおよび他の霊長類(例えば、サル、チンパンジー)、げっ歯類(例えば、ラット、マウス、モルモット)および反芻動物(例えば、ウシ、ブタ、ウマ)が挙げられる。本発明の方法は、非ヒト哺乳動物に使用される。
【0037】
本明細書で使用される場合、「対照動物」または「正常動物」は、動物の転写依存性記憶形成を誘導するのに十分な条件下で訓練される動物と同じ種類の動物およびそうでない場合は同等の動物(例えば、同様の年齢、性別)である。
【0038】
「調節する」は、遺伝子の発現、または1つ以上のタンパク質もしくはタンパク質サブユニットをコードするRNA分子もしくは同等のRNA分子のレベル、または1つ以上のタンパク質もしくはタンパク質サブユニットの活性が、発現、レベル、または活性がモジュレーターの非存在下で観察されるものより高いまたは低いように、上方調節または下方調節されることを意味する。例えば、用語「調節する」は、「阻害する」ことを意味する場合があるが、語「調節する」の使用は、この定義に限定されない。
【0039】
「阻害する」、「下方調節する」、または「減少する」は、遺伝子の発現、または1つ以上のタンパク質もしくはタンパク質サブユニットをコードするRNA分子もしくは同等のRNA分子のレベル、または1つ以上のタンパク質もしくはタンパク質サブユニットの活性が、本発明の核酸分子(例えば、siRNA)の非存在下で観察されるものより低く減少することを意味する。一態様において、siRNA分子を用いた阻害、下方調節または減少は、不活性もしくは弱めたsiRNA分子の存在下で観察されるレベルより低い。別の態様において、siRNA分子を用いた阻害、下方調節、または減少は、例えば、スクランブル配列もしくはミスマッチを有するsiRNA分子の存在下で観察されるレベルより低い。別の態様において、siRNA分子を用いた阻害、下方調節または減少は、標的RNA分子または同等のRNA分子の発現レベルが、siRNA分子の非存在下でのレベルと比べて、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、または70%減少することを意味する。
【0040】
「増強する」または「増強」は、正常、生化学もしくは生理学の作用または効果と比べて、強化する、増大する、改善するまたは高くするもしくは良好にする能力を意味する。例えば、長期記憶形成の増強とは、動物の正常の長期記憶形成に対して動物の長期記憶形成を強化するまたは増大する能力のことをいう。結果として、長期記憶の獲得は、早くまたは良好に保持される。認知課題の成績の増強とは、動物による認知課題の正常成績に対して、動物による特定の認知課題の成績を強化するまたは改善する能力のことをいう。
【0041】
用語「候補記憶遺伝子」または「標的遺伝子」または「遺伝子」は、RNAをコードする核酸、例えば、限定されないが、ポリペプチドをコードする構造遺伝子を含む核酸配列を意味する。標的遺伝子は、細胞に由来する遺伝子または内因性遺伝子であり得る。「標的核酸」は、発現または活性が調節される任意の核酸配列を意味する。標的核酸は、DNAまたはRNAであり得る。
【0042】
「相同配列」は、遺伝子、遺伝子転写物および/または非コーディングポリヌクレオチドなどの1つ以上のポリヌクレオチド配列が共有するヌクレオチド配列を意味する。例えば、相同配列は、関連するが異なるタンパク質、例えば遺伝子ファミリーの異なる一員、異なるタンパク質エピトープ、異なるタンパク質アイソフォームをコードする2つ以上の遺伝子または完全に多様な遺伝子、例えばサイトカインおよびその対応するレセプターが共有するヌクレオチド配列であり得る。相同配列は、非コーディングDNAもしくはRNA、調節配列、イントロン、および転写制御もしくは転写調節の部位などの2つ以上の非コーディングポリヌクレオチドが共有するヌクレオチド配列であり得る。相同配列はまた、1つより多くのポリヌクレオチド配列が共有する保存配列領域を含むことができる。相同性は、完全な相同性(例えば、100%)である必要はなく、部分相同配列が、また、本発明によって考えられる(例えば、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、89%、88%、87%、86%、85%、84%、83%、82%、81%、80%など)。
【0043】
「保存配列領域」は、ポリヌクレオチド中の1つ以上の領域のヌクレオチド配列が、世代間で、またはある生物システム、被験体もしくは生物から別の生物システム、被験体、もしくは生物へと有意に変化しないことを意味する。ポリヌクレオチドは、コーディングおよび非コーディングDNAおよびRNAの両方を含むことができる。
【0044】
「センス領域」は、siRNA分子のアンチセンス領域に相補性を有するsiRNA分子のヌクレオチド配列を意味する。また、siRNA分子のセンス領域は、標的核酸配列と相同性を有する核酸配列を含むことができる。
【0045】
「アンチセンス領域」は、標的核酸配列に相補性を有するsiRNA分子のヌクレオチド配列を意味する。また、siRNA分子のアンチセンス領域は、siRNA分子のセンス領域と相補性を有する核酸配列を任意に含むことができる。
【0046】
「相補性」は、核酸が従来のワトソンクリックまたは他の従来でない種類のいずれかによって別の核酸配列と(1つまたは複数の)水素結合を形成することができることを意味する。本発明の核酸分子に言及する際、核酸分子とその相補的配列の結合自由エネルギーは、核酸の関連する機能、例えばRNAi活性が進むことを可能にするのに十分である。核酸分子の結合自由エネルギーの測定は、当該技術分野で周知である(例えば、Turnerら、1987, CSH Symp. Quant. Biol. LII pp. 123-133; Frierら、1986, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 83:9373-9377; Turnerら、1987, J. Am. Chem. Soc. 109:3783-3785参照)。相補性の割合は、第二核酸配列と水素結合(例えば、ワトソン-クリック塩基対形成)を形成することができる核酸分子中の連続残基の割合を示す(例えば、10個のヌクレオチドを有する第二核酸配列に対形成した第一オリゴヌクレオチド中の全部で10個のヌクレオチドのうち5、6、7、8、9、または10個のヌクレオチドは、それぞれ50%、60%、70%、80%、90%、および100%相補性を示す)。「完全な相補性」は、核酸配列の連続残基全てが第二核酸配列中の同数の連続残基と水素結合することを意味する。
【0047】
「RNA」は、少なくとも1つのリボヌクレオチド残基を含む分子を意味する。「リボヌクレオチド」は、β-D-リボフラノ―ス部分の2’位でヒドロキシル基を有するヌクレオチドを意味する。該用語としては、二重鎖RNA、単鎖RNA、単離RNA、例えば部分精製RNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、組み換え生成RNA、ならびに1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換および/または改変によって天然RNAと異なる改変RNAが挙げられる。かかる改変としては、例えばsiRNAの(1つまたは複数の)末端への、または例えばRNAの1つ以上のヌクレオチドの内部への非ヌクレオチド物質の付加を挙げることができる。また、本発明のRNA分子中のヌクレオチドは、非天然ヌクレオチドまたは化学合成ヌクレオチドもしくはデオキシヌクレオチドなどの非標準ヌクレオチドを含むことができる。これらの改変RNAは、アナログまたは天然RNAのアナログと呼ばれることがある。
【0048】
用語「ホスホロチオエート」は、本明細書で使用される場合、RNA分子中のヌクレオチド間結合のことをいい、2つのヌクレオチド間の少なくとも1つの結合が硫黄原子を含む。従って、用語ホスホロチオエートとは、ホスホロチオエートヌクレオチド間結合およびホスホロジチオエートヌクレオチド間結合の両方のことをいう。
【0049】
用語「ホスホノアセテート結合」は、本明細書で使用される場合、RNA分子中のヌクレオチド間結合のことをいい、2つのヌクレオチド間の少なくとも1つの結合がアセチル基または保護アセチル基を含む。例えば、Sheehanら、2003 Nucleic Acids Research 31, 4109-4118または米国特許公開第2006/0247194号参照。
【0050】
用語「チオホスホノアセテート結合」は、本明細書で使用される場合、アセチル基または保護アセチル基および硫黄原子を含む少なくとも1つのヌクレオチド間結合を含むRNA分子のことをいう。例えば、Sheehanら、2003 Nucleic Acids Research 31, 4109-4118または米国特許公開第2006/0247194号参照。
【0051】
候補遺伝子の同定
本発明の候補遺伝子は、多くの手段によって最初に同定することができる。記憶形成に寄与できる遺伝子の同定方法は、転写依存性記憶形成中に転写制御されるさらなる「下流」遺伝子を同定するディファレンシャルスクリーニングの使用を通じて、米国特許第7,005,256号に記載されている。動物が転写依存性記憶形成を誘発するのに必要な条件下で訓練された。訓練した動物の脳組織(例えば扁桃体、海馬)からRNAを抽出した。抽出物を用いてDNAプローブを合成し、マイクロアレイチップ上の相補DNA配列へのDNAプローブのハイブリダイゼーションに適切な条件下で、動物のゲノムの遺伝子のDNA配列を含むマイクロアレイチップとDNAプローブを接触させた。転写非依存性記憶形成中に生成したRNAと比べて転写依存性記憶形成中に生成したRNAから検出されたシグナル間での統計学的比較が、候補記憶遺伝子を同定するために行われた。
【0052】
訓練プロトコル
様々な種で、長期記憶(LTM)は、2つの主な生物学的性質によって定義される。第一に、長期記憶形成には、新規タンパク質の合成が必要とされる。第二に、長期記憶形成はcAMP応答性転写を伴い、cAMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)ファミリー転写因子によって媒介される。
【0053】
転写依存性記憶は、特定の実験条件を用いて誘導することができる。第一態様において、転写依存性記憶は、恐怖強化驚愕応答のための分散訓練プロトコルを用いて非ヒト動物で誘導される。第二態様において、転写依存性記憶は、シャトルボックス回避プロトコルを用いて非ヒト動物で誘導される。第三態様において、転写依存性記憶は、文脈恐怖条件付けプロトコルを用いて非ヒト動物で誘導される。
【0054】
文脈恐怖条件は連想学習の一形態であり、連想学習において動物が足衝撃などの有害刺激(非条件付け刺激、US)と以前に組み合わせた訓練環境(条件付け刺激、CS)を認識するように学習する。後で同じ状況にさらされた場合、条件付けされた動物は、すくみ行動などの様々な条件付け恐怖応答を示す(Fanselow, M. S., Behav. Neurosci., 98:269-277 (1984); Fanselow, M. S., Behav. Neurosci., 98:79-95 (1984);およびPhillips, R. G. and LeDoux, J. E., Behav. Neurosci., 106:274-285 (1992))。文脈条件付けは、神経基質が媒介する恐怖動機付け学習を調査するために使用されている(Phillips, R. G. and LeDoux, J. E., Behav. Neurosci., 106:274-285 (1992);およびKim, J. J.ら、Behav. Neurosci., 107:1093-1098 (1993))。マウスおよびラットの最近の研究によって、文脈条件付け訓練中の海馬系と非海馬系との間での機能相互作用の証拠が提供された(Maren, S.ら、Behav. Brain Res., 88(2):261-274 (1997); Maren, S.ら、Neurobiol. Learn. Mem., 67(2):142-149 (1997);およびFrankland, P. W. ら、Behav. Neurosci., 112:863-874 (1998))。具体的に(訓練前病変ではなく)海馬の訓練後の病変は、文脈恐怖を大きく減少させ、1)海馬は文脈学習ではなく文脈記憶に不可欠であることおよび2)訓練中の海馬の非存在下で、非海馬系が文脈条件付けを支持できることを示す。
【0055】
文脈条件付けは、海馬依存性学習および記憶に対する様々な変異の影響 (Bourtchouladzeら、Cell, 79:59-68 (1994); Bourtchouladzeら、Learn Mem., 5(4-5):365-374 (1998); Kogan, J. H.ら、Current Biology, 7(1):1-11 (1997); Silva A. J.ら、Current Biology, 6(11):1509-1518 (1996); Abel, T.ら、Cell, 88:615-626 (1997);およびGiese, K. P.ら、Science, 279:870-873 (1998))、ならびにマウスの種の違い(Logue, S. F.ら、Neuroscience, 80(4):1075-1086 (1997); Chen, C.ら、Behav. Neurosci., 110:1177-1180 (1996); およびNguyen, P. V.ら、Learn Mem., 7(3): 170-179 (2000))を研究するために広く使用されている。数分の訓練期間で強固な学習を誘発することができるために、短期および長期記憶の時間的に別々のプロセスの生物学を研究するために文脈条件付けが特に有用である(Kim, J. J.ら、Behav. Neurosci., 107:1093-1098 (1993); Abel, T.ら、Cell, 88:615-626 (1997); Bourtchouladzeら、Cell, 79:59-68 (1994); Bourtchouladzeら、Learn Mem., 5(4-5):365-374 (1998))。従って、文脈条件付けは、海馬依存性記憶形成における様々な新規遺伝子の役割を評価するための優れたモデルを提供する。
【0056】
他の訓練プロトコルは、また、当業者によって理解されるように、本発明に従って使用することができる。これらの訓練プロトコルは、限定されないが、海馬および/または扁桃体依存性記憶形成または認知成績の評価に当てることができる。さらなる適切な訓練プロトコルの非限定的な例としては、複数訓練期間、分散訓練期間、1回または複数回の試行による文脈恐怖訓練、1回または複数回の試行による痕跡恐怖条件付け、文脈記憶、一般的に、時間的記憶、空間的記憶、エピソード記憶、受動回避記憶、能動回避記憶、社会伝達の食物嗜好記憶、条件付け味覚回避、および/または社会的認識記憶を組み込んだものおよび/またはこれらに関するものが挙げられる。
【0057】
RNA分子
本発明によって1つまたは複数の標的配列が同定されると、適切なsiRNAは、例えば、合成または細胞での発現によって生成することができる。一態様において、siRNA分子のアンチセンス鎖をコードするDNA配列を、PCRによって作製することができる。別の態様において、siRNAコーディングDNAが、哺乳動物への移入を容易にするプラスミドまたはウイルスベクターなどのベクターにクローニングされる。別の態様において、siRNA分子は、化学または酵素手段を用いて合成されてもよい。
【0058】
本発明の一態様において、本発明のsiRNA分子の各配列は、独立して、約18〜約30ヌクレオチド長であり、特定の態様において約18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30ヌクレオチド長である。一態様において、siRNA分子は、約19〜23塩基対、好ましくは約21塩基対を含む。別の態様において、siRNA分子は、約24〜28塩基対、好ましくは約26塩基対を含む。個々のsiRNA分子は、単鎖および対形成二本鎖(「センス」および「アンチセンス」)の形態であってもよく、ヘアピンループなどの二次構造を含んでもよい。また、個々のsiRNA分子は、前駆体分子として送達することができ、続いて活性分子を生じるように改変される。単鎖形態のsiRNA分子の例としては、DNA配列の非転写領域(例えば、プロモーター領域)に対する単鎖アンチセンスsiRNAが挙げられる。さらに別の態様において、ヘアピンまたは環状構造を含む本発明のsiRNA分子は、約35〜約55(例えば、約35、40、45、50または55)ヌクレオチド長、または約38〜約44(例えば、約38、39、40、41、42、43または44)ヌクレオチド長であり、約16〜約22(例えば、約16、17、18、19、20、21または22)塩基対を含む。
【0059】
以下の考察は、現在知られている低分子干渉RNAによって媒介されるRNA干渉の提案された機構を説明するが、限定されることを意味せず、先行技術で認められていない。化学修飾された低分子干渉核酸は、siRNA分子のように、RNAiを媒介する類似または改善された能力を有し、インビボで改善された安定性および活性を有することが予想される。従って、この考察は、siRNAのみに限定されることを意味せず、全体としてsiRNAに適用することができる。
【0060】
RNA干渉とは、低分子干渉RNA(siRNA)によって媒介される動物における配列特異的転写後遺伝子サイレンシングのプロセスのことをいう(Fireら、1998, Nature, 391, 806)。植物で相当するプロセスは、一般に、転写後遺伝子サイレンシングまたはRNAサイレンシングと呼ばれ、また、真菌における抑制(quelling)と呼ばれる。転写後遺伝子サイレンシングのプロセスは、多様な植物相および門によって一般に共有される外因遺伝子の発現を妨げるために使用される進化的に保存された細胞防御機構であると考えられている(Fireら、1999, Trends Genet., 15, 358)。外因遺伝子発現のかかる保護は、ウイルス感染に由来する二本鎖RNA(dsRNA)の生成、または相同単鎖RNAもしくはウイルスゲノムRNAを特異的に破壊する細胞応答を介した宿主ゲノムへのトランスポゾンエレメントのランダムな統合に応答して進化したかもしれない。細胞中のdsRNAの存在は、十分に特徴付けされていない機構を介したRNAi応答を誘発する。この機構は、プロテインキナーゼPKRおよびリボヌクレアーゼLによるmRNAの非特異的切断を生じる2',5'-オリゴアデニレートシンセターゼのdsRNA媒介活性化により生じるインターフェロン応答と異なっているように思われる。
【0061】
細胞中の長いdsRNAの存在は、ダイサーと呼ばれるリボヌクレアーゼIII酵素の活性を刺激する。ダイサーは、低分子干渉RNA(siRNA)として公知のdsRNAの短い部分へのdsRNAのプロセッシングに関わる(Bersteinら、2001, Nature, 409, 363)。ダイサー活性に由来する低分子干渉RNAは、典型的に、約21〜約23ヌクレオチド長であり、約19塩基対の二重鎖を含む。また、ダイサーは、転写制御に関連する、保存された構造の前駆体RNAからの21および22ヌクレオチド低分子一時RNA(stRNA)の切除に関連している(Hutvagnerら、2001, Science, 293, 834)。また、RNAi応答は、siRNAを含むエンドヌクレアーゼ複合体を特徴とし、これは、一般的にRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と呼ばれ、siRNAと相同な配列を有する単鎖RNAの切断を媒介する。標的RNAの切断は、siRNA二重鎖のガイド配列に相補的な領域の中間で生じる(Elbashirら、2001, Genes Dev., 15, 188)。また、RNA干渉は、また、おそらくクロマチン構造を調節し、それによって標的遺伝子配列の転写を妨げる細胞機構によって、低分子RNA(例えば、マイクロRNAまたはmRNA)媒介遺伝子サイレンシングを伴うことができる(例えば、Allshire, 2002, Science, 297, 1818-1819; Volpeら、2002, Science, 297, 1833-1837; Jenuwein, 2002, Science, 297, 2215-2218;およびHallら、2002, Science, 297, 2232-2237参照)。
【0062】
RNAiは、様々な系で研究されている。Fireら、 1998, Nature, 391, 806によって最初に線虫でRNAiが観察された。WiannyおよびGoetz, 1999, Nature Cell Biol., 2, 70は、マウス胚中のdsRNAによって媒介されるRNAiを記載している。Hammondら、2000, Nature, 404, 293は、dsRNAをトランスフェクトしたショウジョウバエ細胞におけるRNAiを記載している。Elbashirら、2001, Nature, 411, 494は、ヒト胚性腎臓およびHeLa細胞を含む哺乳動物培養細胞において、21個の合成ヌクレオチドRNAの二重鎖の導入によって誘導されるRNAiを記載している。ショウジョウバエ胚溶解物の最近の研究によって、効率的なRNAi活性を媒介するのに不可欠なsiRNAの長さ、構造、化学組成、および配列のための特定の要件が明らかにされた。これらの研究によって、21ヌクレオチドsiRNA二重鎖が2つの2-ヌクレオチド3'末端ヌクレオチド突出を含む場合に最も活性であることが示された。さらに、2'-デオキシまたは2'-O-メチルヌクレオチドでの1つまたは両方のsiRNA鎖の置換は、RNAi活性を無効にするが、デオキシヌクレオチドでの3'末端siRNAヌクレオチドの置換は、許容されることが示された。siRNA二重鎖の中央のミスマッチ配列も、RNAi活性を無効にすることが示された。また、これらの研究によっても、標的RNAの切断部位の位置が3'末端よりも5'末端のsiRNAガイド配列によって定義されることが示される(Elbashirら、2001, EMBO J., 20, 6877)。他の研究によって、siRNA二重鎖の標的相補鎖上の5'リン酸がsiRNA活性に必要であること、およびATPがsiRNA上の5'リン酸部分を維持するために利用されることが示された(Nykanenら、2001 , Cell, 107, 309);しかし、5'リン酸を欠くsiRNA分子は、外因的に導入される場合に活性であり、siRNA構築物の5'-リン酸化がインビボで起こる場合があることを示唆している。
【0063】
一態様において、本発明は、修飾siRNA分子を特徴とする。リン酸骨格に考慮される修飾の例としては、1つ以上のホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、メチルホスホネートなどのホスホネート、アルキルホスホトリエステルなどのホスホトリエステル、モルホリノ、アミデートカルバメート、カルボキシメチル、アセトアミデード、ポリアミド、スルホネート、スルホンアミド、スルファメート、ホルムアセタール、チオホルムアセタール、および/またはアルキルシリル置換を含むリン酸骨格修飾が挙げられる。オリゴヌクレオチド骨格修飾の概説のために、HunzikerおよびLeumann, 1995, Nucleic Acid Analogues: Modern Synthetic Methods中、Synthesis and Properties, VCH, 331-417, ならびにMesmaekerら、1994, Carbohydrate Modifications in Antisense Research中のNovel Backbone Replacements for Oligonucleotides, ACS, 24-39を参照。
【0064】
糖部分に考慮される修飾の例としては、2'-アルキルピリミジン、例えば2'-O-メチル、2'-フルオロ、アミノ、およびデオキシ修飾などが挙げられる(例えば、Amarzguiouiら、2003, Nucleic Acids Res. 31 :589-595. 米国特許公開第2007/0104688号参照)。塩基に考慮される修飾の例としては、脱塩基糖、2-O-アルキル修飾ピリミジン、4-チオウラシル、5-ブロモウラシル、5-ヨードウラシル、および5-(3-アミノアリル)-ウラシルなどが挙げられる。ロックド核酸、即ちLNAもまた、組み込むことができる。多くの他の修飾が公知であり、上記基準を満たす限り使用することができる。また、修飾の例が、米国特許第5,684,143号、第5,858,988号および第6,291,438号ならびに米国公開特許出願第2004/0203145号A1に開示されており、それぞれは、参照によって本明細書に援用される。他の修飾は、Herdewijn (2000), Antisense Nucleic Acid Drug Dev. 10:297-310, Eckstein (2000) Antisense Nucleic Acid Drug Dev. 10:117-21, Rusckowskiら (2000) Antisense Nucleic Acid Drug Dev. 10:333-345, Steinら(2001) Antisense Nucleic Acid Drug Dev. 11:317-25およびVorobjevら (2001) Antisense Nucleic Acid Drug Dev. 11: 77-85に開示されており、それぞれは参照によって本明細書に援用される。
【0065】
RNAは、酵素または部分/全体有機合成によって生成されてもよく、修飾リボヌクレオチドは、インビトロでの酵素合成または有機合成によって導入することができる。一態様において、各鎖は、化学調製される。RNA分子を合成する方法は、当該技術分野で公知である。
【0066】
本発明によって使用できる他の方法としては、限定されないが、相同性組み換え、ドミナントネガティブ遺伝子構築物のトランスジェニック発現、正常遺伝子構築物のトランスジェニック発現、および標的遺伝子中のアミノ酸配列の任意の他の改変が挙げられる。また、様々のかかる遺伝子構築物を脳細胞に送達するためにウイルスベクターを使用することができる; かかる構築物としては、RNAi経路を介して作用するいくつかのもの(ショートヘアピンRNA、二重鎖RNA等)が挙げられる。
【0067】
製剤
siRNA試料は、適切に製剤化することができ、以下のことが生じる場合に十分量の試料が細胞に入り遺伝子サイレンシングを誘導することを可能にする任意の手段によって、細胞の環境に適切に導入することができる。多くのdsRNA製剤は当該技術分野で公知であり、siRNAが標的細胞に入って作用することができる限り使用することができる。例えば、米国公開特許出願第2004/0203145号 A1および第2005/0054598号A1を参照、それぞれは参照によって本明細書に援用される。例えば、siRNAは、リン酸緩衝食塩水溶液、リポソーム、ミセル構造、およびカプシドなどのバッファ溶液中に配合することができる。カチオン性脂質を用いたsiRNA製剤は、細胞へのdsRNAのトランスフェクションを容易にするために使用することができる。例えば、カチオン性脂質、例えばリポフェクチン(米国特許第5,705,188号、参照によって本明細書に援用される)、カチオン性グリセロール誘導体、およびポリカチオン性分子、例えばポリリジン(公開PCT国際出願WO 97/30731、参照によって本明細書に援用される)を使用することができる。適切な脂質としてはオリゴフェクトアミン、リポフェクトアミン(Life Technologies)、NC388 (Ribozyme Pharmaceuticals, Inc., Boulder, Colo.)またはFuGene 6(Roche)が挙げられ、全ては製造業者の説明書に従って使用することができる。
【0068】
一態様において、本発明のsiRNA分子は、ポリエチレンイミン(例えば、直鎖または分枝鎖PEI)および/またはポリエチレンイミン誘導体、例えばガラクトースPEI、コレステロールPEI、抗体誘導体化PEI、およびそのポリエチレングリコールPEI(PEG-PEI)誘導体などの移植PEIに配合または複合体化される(例えば、本明細書に参照によって援用されるOgrisら、2001, AAPA PharmSci, 3, 1-11; Furgesonら、2003, Bioconjugate Chem., 14, 840-847; Kunathら、2002, Pharmaceutical Research, 19, 810-817; Choiら、2001, Bull. Korean Chem. Soc., 22, 46-52; Bettingerら、1999, Bioconjugate Chem., 10, 558-561; Petersonら、2002, Bioconjugate Chem., 13, 845-854; Erbacherら、1999, Journal of Gene Medicine Preprint, 1, 1-18; Godbeyら、1999, PNAS USA, 96, 5177-5181; Godbeyら、1999, Journal of Controlled Release, 60, 149-160; Dieboldら、1999, Journal of Biological Chemistry, 274, 19087-19094; Thomasおよび Klibanov, 2002, PNAS USA, 99, 14640-14645;ならびにSagara, 米国特許第6,586,524号を参照。
【0069】
細胞の環境にsiRNAを導入する方法は、細胞の種類および環境の構成に依存することを理解することができる。例えば、細胞が液体内に見える場合、1つの好ましい製剤は、リポフェクトアミンなどの脂質製剤であり、siRNAは細胞の液体環境に直接添加することができる。また、脂質製剤は、例えば静脈、筋肉内、または腹腔内注射、あるいは経口もしくは吸入もしくは当該技術分野で公知の他の方法などによって動物に投与することができる。製剤が、哺乳動物、より具体的にヒトなどの動物への投与に適切である場合、製剤は、また、薬学的に許容され得る。オリゴヌクレオチドを投与する薬学的に許容され得る製剤は、公知であり、使用することができる。いくつかの例において、バッファまたは食塩水溶液中にsiRNAを配合することが好ましく、細胞に配合されたdsRNAを直接注入することが好ましくあってもよい。dsRNA二重鎖の直接注入も行われてもよい。siRNAを導入する適切な方法について、参照によって本明細書に援用される米国公開特許出願第2004/0203145号 A1を参照。
【0070】
siRNAは、薬理学有効量のsiRNAを含む。薬理学有効量または治療有効量とは、意図された薬理学、治療または予防結果を生じるのに有効なsiRNAの量のことをいう。語句「薬理学有効量」および「治療有効量」または単純に「有効量」とは、意図される薬理学、治療または予防結果を生じるのに有効なRNAの量のこという。例えば、疾患または障害と関連する測定可能なパラメーターの少なくとも20%の減少がある場合に所定の臨床治療が有効と考えられるとすると、該疾患または障害の治療のための薬物の治療有効量は、該パラメーターの少なくとも20%の減少を実行するのに必要な量である。
【0071】
siRNAの適切な量を導入する必要があり、これらの量は標準法を用いて実験で決定することができる。典型的に、細胞の環境中の個々のsiRNA種の有効濃度は、約50nmol/l以下、10nmol/l以下であり、または約1nmol/l以下の濃度である組成物を使用することができる。他の態様において、方法は、約200pmol/l以下の濃度を利用し、約50pmol/l以下の濃度も多くの状況で使用することができる。
【0072】
一般的に、siRNAの適切な用量単位は、0.001〜0.25mg/レシピエントkg体重/日の範囲、または0.01〜20μg/kg体重/日の範囲、または0.01〜10μg/kg体重/日の範囲、または0.10〜5μg/kg体重/日の範囲、または0.1〜2.5μg/kg体重/日の範囲である。
【0073】
siRNAは、毎日1回投与することができる。しかし、siRNA製剤は、また、1日あたり適切な間隔で投与される2、3、4、5、6回以上の分割用量を含む用量単位で投薬されてもよい。その場合、各分割用量に含まれるsiRNAは、毎日全体の用量単位を達成するために対応して少なくする必要がある。また、用量単位は、例えば、数日間にわたるsiRNAの徐放および一定の放出を提供する従来の徐放製剤を用いて、数日間にわたる単一用量のために調合することができる。徐放製剤は当該技術分野で周知である。この態様において、用量単位は、対応する毎日の複数用量を含む。製剤に関係なく、医薬組成物は、動物の標的遺伝子の発現を阻害するのに十分な量のsiRNAを含む必要がある。組成物は、siRNAの複数単位の合計が十分な用量を共に含むように、調合することができる。
【0074】
データは、適切な用量範囲を計算するために、細胞培養アッセイから得ることができる。本発明の組成物の用量は、毒性がほとんどないか全く無い(公知の方法によって決定される)ED50を含む循環濃度の範囲内にある。用量は、使用される投薬形態および利用される投与経路に応じてこの範囲内で変化してもよい。本発明の方法に使用される任意の化合物について、治療有効用量は、細胞培養アッセイから最初に推定することができる。血漿中のdsRNAレベルが、標準法、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定されてもよい。
【0075】
充分な量のsiRNAが細胞に入り、その効果を発揮することができるようにsiRNA組成物が製剤化されることを条件として、細胞が生存可能な任意の細胞外マトリックスにsiRNA組成物を添加して該方法を実施することができる。例えば、該方法は、液体培地または細胞増殖培地などの液体、組織外植片、または哺乳動物、特にヒトなどの動物を含む生物全体に存在する細胞を用いた使用に従う。
【0076】
送達方法
遺伝子の標的配列に特異的なsiRNAのアンチセンス鎖をコードするDNA配列を発現のために哺乳動物細胞に導入する。遺伝子中の1つより多くの配列(異なるプロモーター領域配列および/またはコーディング領域配列など)を標的とするために、それぞれの標的とされた遺伝子配列に特異的な別々のsiRNAコーディングDNA配列を同時に細胞内に導入することができる。別の態様に従って、哺乳動物細胞を、遺伝子中の複数の配列を標的とする複数のsiRNAに接触させてもよい。
【0077】
本発明のsiRNAは、当該技術分野に公知の任意の手段、例えば静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、経皮、気道(エーロゾル)、直腸、膣および局所(口内および舌下を含む)投与を含む非経口経路等により投与することができる。いくつかの態様において、医薬組成物は、静脈内もしくは腹腔内の点滴または注射により投与される。
【0078】
一態様において、本発明は、本発明の核酸分子を中枢神経系および/または末梢神経系に送達するための方法の使用を特徴とする。実験により、ニューロンによる核酸の効果的なインビボ取り込みが示された。核酸の神経細胞への局所投与の例として、Sommer et al., 1998, Antisense Nuc. Acid Drug Dev., 8, 75には、c-fosに対する15塩基のホスホロチオエートアンチセンス核酸分子をマイクロインジェクションでラットの脳へと投与する試験が記載されている。核酸の神経細胞への全身投与の例として、Epa et al., 2000, Antisense Nuc. Acid Drug Dev., 10, 469には、βシクロデキストリンアダマンタンオリゴヌクレオチドコンジュゲートを使用して神経分化したPC12細胞中のp75ニューロトロフィンレセプターを標的としたインビボマウス試験が記載されている。IP投与の2週間経過後、背根神経節(DRG)細胞においてp75ニューロトロフィンレセプターアンチセンスの顕著な取り込みが観察された。また、DRGニューロンにおいて、顕著で一定したp75のダウンレギュレーションが観察された。ニューロンに対する核酸のターゲッティングについてのさらなるアプローチがBroaddusら、1998, J. Neurosurg., 88(4), 734;Karleら、1997, Eur. J. Pharmocol., 340(2/3), 153;Bannaiら、1998, Brain Research, 784(1,2), 304;Rajakumarら、1997, Synapse, 26(3), 199;Wu-pongら、1999, BioPharm, 12(1), 32;Bannaiら、1998, Brain Res. Protoc., 3(1), 83;Simantovら、1996, Neuroscience, 74(1), 39に記載されている。従って、本発明の核酸分子は、神経細胞に送達されやすく神経細胞によって取り込まれやすい。
【0079】
候補遺伝子をターゲッティングする本発明の核酸分子の送達は種々の異なる戦略により提供される。使用可能なCNS送達の従来のアプローチとしては、限定されないが、鞘内および脳内脳室投与、カテーテルおよびポンプの埋め込み、損傷もしくは病変の部位での直接注射または灌流、脳動脈系への注射、または脳血液関門の化学的もしくは浸透圧開放が挙げられる。他のアプローチとしては、種々の輸送および担体系の使用ではあるが、例えばコンジュゲートおよび生分解性ポリマーの使用を挙げることができる。さらに、例えばKaplittら、米国特許第6,180,613号およびDavidson, WO 04/013280に記載されるように遺伝子治療アプローチを使用して、CNS中で核酸分子を発現させることができる。
【0080】
該方法は、siRNAを適切な細胞に導入する工程を含む。用語「導入」は、インビトロまたはインビボのいずれかで、DNAを細胞内に導入する種々の方法を包含する。かかる方法としては、形質転換、形質導入、トランスフェクション、および感染が挙げられる。ベクターは、siRNA分子をコードするDNAを細胞に導入するための有用かつ好ましい物質である。導入は少なくとも1つのベクターを使用して達成されてもよい。可能性のあるベクターとしては、プラスミドベクターおよびウイルスベクターが挙げられる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、またはアデノウイルスベクターもしくはアデノ随伴ベクターなどの他のベクターが挙げられる。一態様において、DNA配列は別々のベクターに含まれ、別の態様において、DNA配列は同一のベクターに含まれる。DNA配列は、多重カセット単位として同一のベクターに挿入されてもよい。細胞または組織へのsiRNA分子またはsiRNA分子をコードするDNAの代替的な送達を本発明に使用してもよく、リポソーム、化学溶媒、エレクトロポレーション、ウイルスベクター、飲作用、食作用および他の形態の外因性物質の自発的または誘導性細胞取り込み、ならびに当該技術分野に公知の他の送達系が挙げられる。
【0081】
適切なプロモーターとしては、干渉RNA分子をコードする配列に操作上結合または連結されると該RNA分子の発現を促進するプロモーターが挙げられる。かかるプロモーターとしては、当該技術分野において公知の細胞性プロモーターおよびウイルスプロモーターが含まれる。一態様において、プロモーターは、好ましくは干渉RNA分子をコードするDNA配列のすぐ上流に位置するRNA Pol IIIプロモーターである。限定されないが、当該技術分野に公知のウイルスLTR、ならびにアデノウイルス、SV40、およびCMVプロモーターなどの、種々のウイルスプロモーターを使用してもよい。
【0082】
一態様において、本発明では、ヒト細胞中の短く規定されたリボザイム転写産物の発現のために以前から使用されている哺乳動物U6 RNA Pol IIIプロモーター、より好ましくはヒトU6 snRNA Pol IIIプロモーターを使用する(Bertrandら、1997;Goodら、1997)。U6 Pol IIIプロモーターおよびその単純終結配列(4〜6ウリジン)は細胞内でsiRNAを発現することが見出された。適切に選択された干渉RNAまたはsiRNAコーディング配列を転写カセットに挿入して、該RNA分子の内因性発現および機能を試験するための最適な系を提供することができる。
【0083】
発現測定
標的遺伝子の発現は、当該技術分野において現在公知であるかまたは後に開発される任意の適切な方法により測定することができる。標的遺伝子の発現を測定するために使用される方法が標的遺伝子の性質に依存することを理解し得る。例えば、標的遺伝子がタンパク質をコードする場合、用語「発現」は遺伝子由来のタンパク質または転写産物のことを表し得る。このような例において、標的遺伝子の発現は、標的遺伝子に対応するmRNAの量を測定すること、またはタンパク質の量を測定することにより決定することができる。タンパク質は、染色、またはイムノブロッティングなどのタンパク質アッセイで評価することができるか、または該タンパク質が測定可能な反応を触媒する場合に反応速度を測定することで評価することができる。全てのかかる方法は当該技術分野において公知であり、使用可能である。遺伝子産物がRNA種である場合、発現は遺伝子産物に対応するRNAの量を決定することで測定できる。測定は、細胞、細胞抽出物、組織、組織抽出物または任意の他の適切な供給物質で行うことができる。
【0084】
標的遺伝子の発現が減少したかどうかの決定は、遺伝子発現の変化を高精度で検出可能な任意の適切な方法によってなされ得る。典型的に、決定は、siRNAの少なくとも一部が細胞質に入るように、未消化のsiRNAを細胞の環境に導入し、次いで標的遺伝子の発現を測定することによりなされる。同一の未処理細胞において同様の測定がなされ、それぞれの測定から得られた結果が比較される。
【実施例】
【0085】
実施例1-Neuro2A細胞を使用したCREBおよびPPIを標的とするsiRNAのスクリーニング
CREBおよびPP1のαアイソフォームを標的とする一組のsiRNAをNeuro2Aマウス神経芽細胞株でスクリーニングした。いくつかの対照遺伝子のmRNAレベルに影響を及ぼさずに、CREBおよびPP1αを効果的に標的とし得るいくつかの適切なsiRNAを同定した(図1)。
【0086】
インビボ等級のsiSTABLE siRNA(Dharmacon Inc., Lafayette, USA)。安定性を高めるためにsiRNAを化学的に修飾した。21塩基のsiSTABLEノンターゲッティングsiRNAを対照として使用した(センス鎖:5'-UAGCGACUAAACACAUCAAUU-3';(配列番号:1) アンチセンス鎖:5'-UUGAUGUGUUUAGUCGCUAUU-3')(配列番号:2)(Dharmacon Inc., Lafayette, USA)。多成分合理設計アルゴリズムを使用してsiRNAを設計した(Reynolds, A.ら Nat Biotechnol 22, 326-30 (2004))。
【0087】
リアルタイムPCR。Neuro2A細胞を100nM siSTABLE siRNAおよびDharmafect 3担体(Dharmacon)で処理した。製造業者の指示に従いQIAgen RNeasyキット(Qiagen)を使用してRNAを単離した。TaqMan逆転写酵素キット(Applied Biosystems)を使用してcDNAを生成した。cDNAを合成してABIプリズムおよびSDS 2.1ソフトウェアを使用してリアルタイムPCRを行った。CREB、シナプトタグミン I(SYT1)、PP1α、NR1およびTATA結合タンパク質(TBP)それぞれについて、必要に応じてABIアッセイ(Applied Biosystems)を使用した。qPCR反応を3回行ないCT値を平均した。次いでTATA結合タンパク質(TBP)に対してデータを標準化してΔCT値を溶媒(vehicle)処理対照のパーセンテージとして決定した。示されるデータは平均+/-標準誤差である。
【0088】
4つの非修飾siRNAの一組を、Neuro2a細胞を使用してインビトロでCREBおよびPP1αに対して試験した。
【0089】
Neuro2A細胞をCREB siRNAまたはノンターゲッティング対照siRNAで処理し、24時間後にmRNAレベルを評価した。ANOVAの後にScheffeペアワイズ比較により、CREB siRNA1およびCREB siRNA2がCREBのmRNAレベルを有意に減少させたことが明らかになった(溶媒およびノンターゲッティングsiRNAの両方に対するCREBについてp<0.05)。対照的に、シナプトタグミン I(Syt1)、NMDAレセプターサブユニット1(Grin1)およびタンパク質ホスファターゼ1(Ppp1ca)のmRNAレベルは、ノンターゲッティングまたはCREB siRNAを用いた処理により有意に影響を受けなかった(全ての比較についてp>0.05)。siRNA処理の48時間および72時間後にCREB mRNAの有意なノックダウンも観察された。
【0090】
図1aは、siSTABLE CREB siRNAによる処理後のmRNAレベルを示す。2〜4回の実験の繰り返しの平均±標準誤差を示す。オープンバー:溶媒;ストライプのバー:ノンターゲッティングsiRNA;灰色バー:CREB1 siRNA;黒色バー:CREB2 siRNA。
【0091】
同様の方法で、Neuro2A細胞をPP1α siRNA1またはノンターゲッティング対照siRNAで処理した。図1bは、siSTABLE PP1α siRNA処理後のmRNAレベルを示す。2回の繰り返しの平均±標準誤差を示す。オープンバー:溶媒;ストライプのバー:ノンターゲッティングsiRNA;灰色バー:PP1αsiRNA。ANOVA後にScheffeペアワイズ比較により、PP1α siRNA1はPP1αのmRNAレベルを有意に減少させることが明らかになった(溶媒およびノンターゲッティングsiRNAの両方に対するPP1αについてp<0.05)。シナプトタグミン I(Syt1)、NMDAレセプターサブユニット1(Grin1)およびCREB(Creb)のmRNAレベルはPP1α siRNAを用いた処理により有意に影響を受けなかった(全ての比較についてp>0.05)。siRNA処理の48時間および72時間後にPP1α mRNAの有意なノックダウンも観察された。
【0092】
bDNAアッセイ。製造業者の指示に従ってQuantiGene bDNAアッセイキット(Bayer)を使用して、CREB1およびPP1αのmRNAレベルを定量した。溶媒処理対照群に対してmRNAレベルを標準化した。3回の実験の反復を行いそれぞれのsiRNAについてノックダウン効率の平均±標準誤差を決定した。
【0093】
いくつかのsiRNAはCREBおよびPP1α mRNAレベルの減少において同様の効率(≧60%)を示し、さらなるインビボ特徴づけのために以下:
CREB siRNA1センス鎖5'-CAAUACAGCUGGCUAACAAUU-3'; 配列番号:3
CREB siRNA1アンチセンス鎖5'-UUGUUAGCCAGCUGUAUUGUU-3'; 配列番号:4
CREB siRNA2センス鎖センス鎖5'-GCAAGAGAAUGUCGUAGAAUU-3'; 配列番号:5
CREB siRNA2アンチセンス鎖5'-UUCUACGACAUUCUCUUGCUU-3'; 配列番号:6
PP1αセンス鎖5'-UAGCGACUAAACACAUCAAUU-3'; 配列番号:7
PP1αアンチセンス鎖5'-UUGAUGUGUUUAGUCGCUAUU-3'; 配列番号:8
のsiRNAを選んだ。
【0094】
実施例2-マウスにおける合成CREB siRNAのインビボ送達
CNSにおける合成siRNAのインビボ送達は制限された拡散および取り込みにより阻害される。
【0095】
被験体。若い成体(10〜12週齢)C57BL/6雄マウスを使用した。到着したらすぐに、マウスを標準的な実験ケージにグループに分けて飼育し(5匹マウス)、12:12時間の明暗周期で維持した。実験は常に該周期の明期で行った。海馬のカニューレ挿入手術後、マウスを一度個々のケージに戻し、実験の終了までそのまま維持した。訓練および試験時間以外は、マウスは食餌および水に制約なしにありつけた。国立衛生研究所(NIH)ガイドラインと一致し、かつ施設内の動物管理使用委員会に承認を受けた標準条件下でマウスを維持および飼育した。
【0096】
動物手術およびsiRNA注入。siRNAの注入のために、マウスを20mg/kgのアベルチンで麻酔し、33ゲージガイドのカニューレを背側海馬(座標:1.2mmの深さに対してA=-1.8mm、L=+/-1.5mm)に左右対称に埋め込んだ(Franklin, K. & Paxinos, G. The Mouse Brain in Stereotaxic Coordinates (1997))。手術から回復して5〜7日後、動物にsiRNAを注入した。siRNAは、5%グルコースで0.5μg/μlに希釈して、6当量の22kDaの直鎖ポリエチレンイミン(PEI)(Fermentas)と混合した。
【0097】
直鎖の22kDa PEIは、CNSにおいてプラスミドDNAの遺伝子送達に使用した場合、良好なトランスフェクション効率を有し、CNS毒性を有さなかったので、直鎖の22kDa PEIを使用してインビボRNAiを促進させた(Tan, P. H.,ら、Gene Ther 12, 59-66 (2005);Ouatas, T.,ら、Int J Dev Biol 42, 1159-64 (1998);Goula, D. ら、Gene Ther 5, 712-7 (1998))。
【0098】
室温で10分間インキュベーションした後、ポリエチレン製のチューブでマイクロシリンジにつながれた注入カニューレにより2μlのsiRNA混合物をそれぞれの海馬に注入した。完全な注入術には約2分かかり、ストレスを最小限にするために動物を慎重に扱った。全部で3回のsiRNAの注入を3日間かけて行った(1μg siRNA/海馬/日)。最後のsiRNA注入の3日後にマウスを訓練し、24時間後に試験した。同様に、最後のsiRNA処理の3日後、CREBおよびPP1αのタンパク質レベルを試験した。
【0099】
マウスにCy3標識siRNAおよび担体を注入し、24時間後に蛍光をモニターした(図2a)。Cy3標識siRNAの注入のために、マウスを20mg/kgアベルチンで麻酔し、0.5μgのsiRNAポリエチレンイミン混合物を6箇所に注入し、ほとんどの海馬形成を包含した。siRNA注入の24時間後に動物を屠殺した。凍結した脳を15μmの切片にスライスして、Zeiss Axioplan 2顕微鏡を使用してCy3の蛍光画像を得た。
【0100】
図2aは、Cy3標識siRNAおよび22kDaポリエチレンイミン担体を注入した海馬の冠状面切片の写真である。Cy3標識は注入部位から数mm離れて見られ、錐体細胞層に蓄積した。Cy3標識は背側海馬に見られ、注入部位からかなり広がっていた。重要なことに、Cy3標識は錐体細胞層のCA1ニューロンに見られ、siRNAのニューロンへの取り込みが示された。注入部位ではない反対側のニューロンおよび海馬の腹側部分の標識がsiRNAの取り込みを示すことに注意。従って、合成21塩基のsiRNAはインビボで海馬のニューロンを効果的に標的とした。
【0101】
組織学。CREBおよびノンターゲッティングsiRNAを注入した動物を行動実験の1日後に屠殺した。凍結した脳を15μmの切片にスライスし、クレシルバイオレットで染色した。海馬の形態を連続切片の写真で評価した。
【0102】
ウェスタンブロット解析。マウスを頚椎脱臼により屠殺して、海馬を迅速に取り出しドライアイスで凍結した。それぞれの海馬を、Roche完全プロテアーゼインヒビター錠剤を含む300μlのRIPAタンパク質溶解バッファ(Upstate Biotechnology)に溶解した。製造業者の指示に従ってBiorad DC適合性タンパク質アッセイキット(Biorad)を使用してタンパク質濃度を測定した。20または40μgの溶解物をSDS-PAGEで分離して、ニトロセルロース膜に転写した。CREBおよびPP1αに対するポリクローナル抗体(Upstate Biotechnologyそれぞれ06-863および07-273)ならびにシナプトタグミン I(p65)に対するポリクローナル抗体(Sigma S2177)を使用して標準的な手法に従い、タンパク質の免疫検出を行った。ブロットをはがしてβアクチン(Sigma A2066)に対して標準化した。
【0103】
CREBのn末端エピトープ(アミノ酸5〜24)に対する抗体を使用したウェスタンブロット解析により、siRNA1はこの時点でシナプトタグミン I発現に影響を及ぼすことなく海馬のCREBタンパク質レベルを有意に減少させたことが明らかになった(CREB:p<0.05、F1,11=6.28;シナプトタグミン I:p=0.49、F1,11=0.51、図2b)。図2bは、siRNA注入後のCREBおよびシナプトタグミンの海馬タンパク質レベルの棒グラフを示す。CREB siRNA処理マウスは有意に低い海馬CREBのレベルを有したが、siRNAはシナプトタグミンのタンパク質レベルには影響を及ぼさなかった(CREB:P<0.05、F(1,11)=6.279;シナプトタグミン:p=0.49、F(1,11)=0.51;両方の群についてn=6)。
【0104】
実施例3-文脈および痕跡条件付けにおけるCREBのsiRNA媒介性ノックダウンの効果
文脈恐怖条件付けにおけるCREBのsiRNA媒介性ノックダウンの効果を試験した。CREB遺伝子の全てのスプライシングバリアントに共通な領域(NM_009952の1114-1132、CREB遺伝子のエクソン7に相当)をターゲッティングするsiRNAを使用した。(Lonze and Ginty, 2002, Neuron, 35,:605-623))に従った命名法。マウスをCREB siRNA1またはノンターゲッティング対照siRNAで1日に1回、3日間連続して処理した。3日後に行動試験を開始した(図3bも参照)。以前の研究でsiRNA二本鎖によりCNS中で遺伝子ノックダウンを生じさせるには数日かかることが示されていたので、この設計は、海馬のsiRNAノックダウンのパイロット実験に基づいて選択した((Salahpourら、2007, Biol. Psychiatry 61 :65-69) Tanら、2005, Gene Therapy 12:59-66;Thakkerら、2004, Proc. Natl. Acad. Sci USA 101 :17270-17275)。
【0105】
本質的に、記載される通りに文脈条件付けを行った(Bourtchuladze, R. ら、Cell 79, 59-68 (1994);Bourtchouladzeら、Learn Mem 5, 365-374 (1998))。マウスを条件付けチャンバー(Med Associates, Inc., VA)に入れて2分間探索させた。次いで、1分間の試行間隔をあけて、全部で2回(弱い記憶)または5回(強い記憶)の足ショックを与えた(0.5mA、2秒間)。最後の足ショック後30秒間、すくみをスコアリングした(即座のすくみ)。次いでマウスをホームケージに戻した。30分(STM)または24時間(LTM)後に記憶を試験した。文脈記憶を評価するために、マウスを訓練したチャンバー内で、5秒間隔ですくみ行動を3分間スコアリングした。
【0106】
統計学的解析。全ての行動実験は釣り合いの取れた様式で設計および実行したが、これは(i)各実験条件について同数の実験マウスおよび対照マウスを使用したこと;(ii)各実験条件を数回繰り返し、繰り返した日数を加算して最終対象数としたことを意味する。各期間の進行を撮影した。各実験において、訓練および試験中の被験体の処理について実験者に知らせなかった(盲目)。ソフトウェアパッケージ(StatView 5.0.1; SAS Institute, Inc)を使用してスチューデント非対称t検定によりデータを解析した。反復測定ANOVAの後にJmpソフトウェアを使用した対比解析により痕跡条件付けを解析した。文章および図面中の全ての値は平均±標準誤差で表した。
【0107】
マウスをノンターゲッティングまたはCREB siRNA1で処理して、5CS-US組み合わせで訓練して強固な文脈記憶を誘導した。訓練状況中に試験した場合、CREB siRNA1注入マウスは訓練24時間後に試験された有意に低い長期記憶(LTM)を示した(p<0.001、両グループについてn=17)(図2c)。対照的に、CREB siRNA1は、訓練の30分後の短期文脈記憶(STM)または訓練中の即座の記憶には影響しなかった(STM:p=0.89、両グループについてn=8;即座のすくみ:p=0.2、両グループについてn=17;図2c)。重要なことに、ノンターゲッティング対照siRNA処理動物における文脈記憶は非処理マウスで観察されたものと同様であった(53.9±5.2%、n=20)。
【0108】
直鎖PEIと組み合わせたCREBおよびノンターゲッティングsiRNAは海馬の形成に明確な損傷を何ら生じなかった。これは行動結果により強調された。
【0109】
文脈記憶および時間的記憶の両方は海馬を必要とするが、時間的記憶の形成の基礎にある分子機構についてはほとんどわかっていない。文脈記憶および痕跡恐怖記憶が海馬においてCREBに関する要件を共有するかどうかを試験するために、発明者らは痕跡条件付けにおけるCREB siRNA1の効果を試験した(図2d)。CREBおよびノンターゲッティングsiRNA注入マウスを15秒の痕跡間隔で訓練して、音CSに対する記憶を24時間後に試験した(図5)。
【0110】
痕跡条件付けについて、条件付け刺激(CS)、2800Hzで20秒間続く75dBの音の開始前に、マウスを条件付けチャンバーに2分間入れた。15秒後、ショック非条件付け刺激(US)を与えた。試行の間に1分の間隔をあけて、全部で3回のCS-US組み合わせを与え、強い痕跡記憶を誘導した。60秒の痕跡間隔をあけて1回のCS-US組合せを使用して、時間的記憶の増強を評価した。チャンバー内でさらに30秒たった後、マウスをホームケージに戻した。訓練の24時間後にマウスを試験した。新しいチャンバー(改変したホームケージ)内で試験を行った。5秒間の運動の完全な欠如として定義されるすくみ行動をスコアリングして、痕跡条件付けについての記憶を評価した。音CSの開始前(前CS)に2分間および音提示(CS)中20秒間にすくみをスコアリングした。
【0111】
要因内にあるような音CS提示による反復測定ANOVAにより、試行相互作用による有意な治療が明らかとなった(F3,128=8.39、p<0.0001)。CREB siRNA1を注入したマウスは音CSに対して有意な記憶障害を示した(前CS:p=0.15、CS:p<0.005、ノンターゲッティングについてn=34およびCREB siRNA1処理マウスについてn=32)。重要なことに、CREB siRNA1ではなくノンターゲッティング処理されたマウスは音CSについての記憶を形成した(音CS提示の効果:それぞれノンターゲッティングについてp<0.001およびCREB siRNA1についてp=0.14)。文脈記憶に関して、対照siRNA処理マウスの痕跡記憶は未処理動物と同様であった(前CS:19.2±7.0%、CS:40.0±6.5%、n=10)。従って、CREBは文脈LTMだけでなく時間的LTMにも必要である。
【0112】
合成siRNAは有意な的外れの活性を生じることがある。かかる的外れの効果はsiRNA配列特異的であり、標的非依存性である(Jackson, A. L.ら、Nat Biotechnol 21, 635-7 (2003))。本発明の結果は、CREB siRNAがSTMではなくLTMを特異的に阻害することを示すが、非特異的ターゲッティングによっても長期記憶は影響を受けることがあった。
【0113】
この事に取り組むために、本発明者らは2種類の実験:(i)CREBに対する第2のsiRNAの試験、および(ii)訓練後のsiRNAの注入を行った。
【0114】
結果の特異性を確認するために、CREB遺伝子の異なる領域(NM_009952の1114〜1132、CREB遺伝子のエクソン9に相当)を標的とするCREBに対する第2のsiRNAを注入した。Neuro2A細胞で試験した場合、CREB siRNA2は明らかな的外れの活性を何ら示さなかった(図1a)。CREB siRNA1と同様に、CREB siRNA2はSTMまたは学習ではなく文脈LTMを弱めた。(LTM:p<0.05、両方のグループについてn=12、STM:p=0.794、両方のグループについてn=6、即座のすくみ:p=0.99、両方のグループについてn=12;図3a)。並行した生化学実験において、siRNA2の注入により、訓練の時点で海馬のCREBのレベルが有意に減少された(1.00±0.07対0.73±0.05、p<0.05、F1,11=9.65;ノンターゲッティングおよびCREB siRNA2処理マウスそれぞれについてn=6)。
【0115】
記憶形成に関する背側海馬におけるCREBの役割の以前の結果により、訓練後1日より長く遅れてではなく訓練の時間の周辺でCREBは空間的記憶形成に必要とされることが示された。従って、文脈記憶形成に関するCREB siRNAの効果の時間的特性を試験するために、5回のUS文脈条件付けでカニューレ挿入マウスを訓練し、24時間後にsiRNA注入を開始した。他のすべての実験と同様に、マウスを繰り返し3日間かけてsiRNAで処理し、最後のsiRNA注入の4日後に記憶を試験した(図3b)。訓練後のCREBまたはノンターゲッティング対照siRNAの注入は、文脈LTMに影響を及ぼさなかった(LTM(7日間記憶:p=0.99、即座のすくみ:p=0.48、両方のグループについてn=8、図3c)。従って、条件付け中のCREBのsiRNAノックダウンは長期記憶を特異的に弱めたが、訓練後のCREBの減少は記憶の保持に影響を及ぼさない。文脈記憶は、行動訓練後2週間以内の背側海馬の訓練後の病変に非常に感受性がある(Anagnostarasら、2001, Hippocampus 11:8-17)。結果的に、siRNAが海馬に損傷を与えるならば、訓練実験後に注入した場合には文脈記憶を弱めることが予想される。従って、発明者らの結果は、ウイルスベクターから発現されたshRNAのサブセットについて示唆されたように、ここで試験されたsiRNAがインビボで海馬のニューロンに対して有意な非特異的な損傷を生じる可能性は低いことを示す(Alvarezら、2006, J. Neurosci 26:7820-7825)。
【0116】
この結果は、CREBが海馬の記憶形成に必要とされることを示す。siRNA媒介性の海馬におけるCREBのノックダウンにより文脈および音の痕跡恐怖条件付けについてのLTMが阻害されたがSTMはそのまま残った。文脈および時間的な記憶は両方、海馬におけるCREBの要件を共有する。
【0117】
並行した生化学実験において、siRNA2の注入は、海馬CREBのレベルを有意に減少した(1.00±0.07対0.73±0.05、p<0.05、F1,11=9.65;ノンターゲッティングおよびCREB siRNA2処理マウスについてそれぞれn=6一方向ANOVA。
【0118】
実施例4-文脈および痕跡条件付けにおけるPP1のsiRNA媒介性ノックダウンの効果
海馬記憶形成の研究に対するsiRNAアプローチの適切さをさらに評価するために、記憶抑制遺伝子タンパク質ホスファターゼ1(PP1)を標的とした。PP1はCaMKIIαおよびAMPAイオノトロピーグルタミン酸レセプターの負の制御因子として作用する((Lisman and Zhabotinsky, 2001 , Neuron 31:191-201)に概説)。PP1はPKAまたはCaMKIVにより活性化されたCREBを脱リン酸化し、記憶形成中のCREBの活性を阻害する(Bitoら、1996, Cell 87:1203-1214)(Lonze, B. E. & Ginty, D. D.2002, Neuron 35, 605-23;Genoux, D.ら、2002, Nature 418:970-5)。以前の結果により、前脳でのインヒビター1の過剰発現によるPP1の遺伝子阻害が物体認識記憶を促進させ、記憶形成時のCRE依存性転写を高めることが示されている(Genoux, D.ら、2002, Nature 418:970-5)。従って、CREBのsiRNAノックダウンが記憶形成を阻害したので、siRNA媒介性のPP1のノックダウンは文脈および時間的記憶を促進するはずである。げっ歯類の海馬において少なくとも3種類のPP1のアイソフォームが発現している(α、βおよびγ1;(da Cruz e Silvaら、1995, J. Neurosci. 15:3375-3389))。樹状突起および核に局在し海馬形成の際に豊富に存在するので、PP1のαサブユニット(PP1α)を標的とした(Ouimetら、1995, Proc. Natl, Acad Sci USA 92:3396-3400)。
【0119】
マウスを弱い記憶を誘導する文脈条件付けパラダイムで訓練した(図5a、Tully, T.,ら、Nat Rev Drug Discov 2, 267-77 (2003)も参照)。図5aには、文脈記憶形成における試行数の効果が示される。マウスを漸増する数のCS-US組み合わせで訓練して4日後に文脈記憶を評価した。1回または2回のCS-US組み合わせによる訓練では最大下の記憶が誘導された(それぞれ、1回についてn=22、2回についてn=20、5回についてn=20、10回ショックUS提示についてn=22)。
【0120】
CREB siRNAについて記載されたものと同じ方法でマウスをPP1αまたは対照のsiRNAで処理し、次いで2回のCS-US組み合わせを用いた文脈恐怖条件付けにおいて訓練して弱い文脈記憶を誘導した(図5a、(Tullyら、2003, Nat. Rev. Drug Discov. 2:267-277))。PP1α siRNA注入動物は、訓練の24時間後に有意に高いすくみを示した(LTM:p<0.05、ノンターゲッティングについてn=29およびPP1α siRNA処理マウスについてn=32、図4b)。重要なことに、PP1αsiRNAは、訓練手順中に即座のすくみには影響を及ぼさなかった(即座のすくみ:p=0.20、図4b)。従って、海馬へのPP1αsiRNAの注入により文脈LTMが促進された。
【0121】
これらの所見と一致して、PP1αタンパク質レベルはPP1α siRNAの注入の結果、海馬において減少したが、CREBのタンパク質レベルは影響を受けなかった(PP1α:F1,11=8.72、p<0.05;CREB:F1,11=1.74、p=0.22;ノンターゲッティングsiRNAについてn=6、PP1α siRNAおよびCREBタンパク質レベルのそれぞれについてn=6およびn=5、図4a)。PP1α siRNAは海馬の形態において明らかな変化を何ら生じなかった。
【0122】
痕跡条件付けにおけるPP1の役割も調べた。CSとUSの間隔が増加するにつれて痕跡条件付けは徐々に困難になる。実際に、CSとUSの痕跡間隔が60秒以上の場合にC57BL/6マウスは不充分な記憶を示す(図5)。図5bには、時間的記憶形成における痕跡間隔の効果が示される。遅延条件付けと比較して徐々に長くなる痕跡間隔および音記憶を使用してマウスを痕跡恐怖条件付けで訓練した。30秒以上の痕跡間隔により、音CSについての不充分な長期記憶が生じた(遅延条件付けならびに5秒、15秒、30秒、60秒、100秒および120秒それぞれの痕跡間隔についてn=29、n=20、n=25、n=18、n=28、n=16およびn=12)。
【0123】
マウスを1回のCS/US組み合わせおよび60秒間の痕跡間隔で訓練した場合、PP1α siRNAにより痕跡記憶が改善された(図4c)。反復測定ANOVAにより、試行相互作用による有意な治療が明らかになった(F3,95=4.38、p<0.01)。PP1α siRNA処理マウスは、音(CS)について対照siRNA注入マウスよりも有意にすくんだ(前CS:p=0.17、CS:p<0.005、ノンターゲッティング対照についてn=23およびPP1α siRNA処理マウスについてn=25)。重要なことに、対照siRNAではなくPP1α処理マウスは音提示時のすくみ応答が増加した(音CS提示の効果:ノンターゲッティングおよびPP1αsiRNAそれぞれについてp=0.31およびp<0.005)。従って、文脈条件付けと同様に、海馬PP1αのsiRNA媒介性ノックダウンにより痕跡条件付けが促進された。
【0124】
要約すると、このことは、PP1が海馬の記憶形成を阻害することを示す。海馬におけるPP1αのsiRNA媒介性ノックダウンは文脈および時間的記憶形成の両方の促進に充分である。この記憶形成の促進はsiRNAの不都合な効果により説明することができないので、これらの所見は、siRNAアプローチが記憶の分子機構の研究に受け入れられることを示す。
【0125】
実施例5-Neuro2A細胞を使用したGpr12をターゲッティングするsiRNAのスクリーニング
リアルタイムPCRによる発現プロファイリングにより、末梢組織ではほとんど発現がないマウスおよびヒトのCNSにおけるGpr12 mRNA発現が明らかにされた(図6)。
【0126】
表1に示されるマウスGpr12およびヒトGpr12のmRNAおよびタンパク質の配列。
【0127】
Gpr12はマウスCNSに広く存在しており(図6a)、食事ならびに感覚情報の統合(視床)、運動制御(小脳)、および自律機能(脳幹)に関連する脳の領域である視床、脳幹および小脳で最も高い発現レベルを示す。海馬および新皮質においても高レベルのGpr12が観察され、この2つの脳の領域は記憶の形成に重要である(Fanselow 2005 J Comp Physiol Psychol 93, 736-744)。これらの結果はマウスCNSにおけるインサイチュハイブリダイゼーションにより観察されたものと同様である(Ignatov 2003 J Neurosci 23, 907-914)。マウスにおいて、Gpr12発現は、肝臓を除くほとんどの末梢組織で検出レベル未満であった。
【0128】
ヒトCNSにおいてGpr12発現は、海馬、新皮質および小脳で最も高かった(図6b)。
【0129】
Gpr12に最も相同なGpr3およびGpr6は、マウスおよびヒト両方のCNSに存在した(図6a/b)。しかし、Gpr12 mRNAレベルはヒトCNSにおいてGpr3および6のレベルよりもかなり高いことがわかる。これは、Gpr6の発現が海馬、視床および新皮質で非常に顕著であるマウスの場合と対照的である。
【0130】
マウスCNSにおけるGpr12の機能の評価のためにインビボ等級のsiSTABLE siRNA(Dharmacon Inc., Lafayette, USA)を使用した。siRNAを化学的に修飾して安定性を高めた。21塩基のsiSTABLEノンターゲッティングsiRNAを対照として使用した。
【0131】
siRNAの効果の評価のために、siGENOME siRNAおよびDharmafect 3(Dharmacon, Lafayette, USA)を使用してNeuro2A細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に海馬組織について記載されるようにRNAを単離し、cDNAを合成した。処理ごとに、3個体のRNA調製およびcDNA合成を行った。標的mRNAレベルはcDNA複製当たり2回決定し、各実験繰り返しごとにΔCT値を平均した(n=3 RNA/cDNA調製;それぞれ2回のqPCR決定の平均として表した)。
【0132】
インビトロでGpr12 mRNAを有効に減少する3種類のsiRNAを同定した(図7)。siRNA2は処理の24時間後に溶媒対照の31%までGpr12 mRNAレベルを減少し、Gpr12のインビボ評価のために選択した。Gpr12-2 siRNA用のインビボ等級のsiSTABLE siRNAをDharmacon(Lafayette, USA)から入手した。
【0133】
Gpr12に対するいくつかの非修飾(siGENOME)siRNAを、Neuro2A細胞を使用してインビトロでのbDNAアッセイ(QuantiGene bDNAアッセイキット, Bayer)により試験した。多成分合理設計アルゴリズムを使用してsiRNAを設計し(Reynoldsら、(2004). Nat Biotechnol 22, 326-330)、BLAST検索によりGpr12に対する特異性について調節した。
【0134】
さらなるインビボ特徴づけのために以下:
Gpr12 siRNA2センス鎖GAGGCACGCCCAUCAGAUAUU; 配列番号:15
Gpr12 siRNA2アンチセンス鎖UAUCUGAUGGGCGUGCCUCUU; 配列番号:16
ノンターゲッティングsiRNAセンス鎖UAGCGACUAAACACAUCAAUU; 配列番号:17
ノンターゲッティングsiRNAアンチセンス鎖UUGAUGUGUUUAGUCGCUAUU; 配列番号:18
のsiRNAを選択した。
【0135】
実施例6-マウスにおける合成Gpr12 siRNAのインビボ送達
動物および環境。若い成体(10〜12週齢)のC57BL/6雄マウス(Taconic, NY)を使用した。到着したらすぐに、マウスを標準的な実験ケージにグループに分けて飼育し(5匹マウス)、12:12時間の明暗周期で維持した。実験は常に該周期の明期で行った。カニューレ挿入手術後、マウスを一度それぞれのケージに戻して実験の終了までそのまま維持した。訓練および試験時間を除き、マウスは制約なしで食餌および水にありつけた。国立衛生研究所(NIH)のガイドラインと一致し、施設内の動物管理使用委員会に承認を受けた標準条件下でマウスを維持および飼育した。
【0136】
動物手術およびsiRNA注入。siRNAの注入のために、マウスを20mg/kgのアベルチンで麻酔し、33ゲージガイドのカニューレを背側海馬(座標:1.2mmの深さに対してA=-1.8mm、L=+/-1.5mm)または扁桃体(座標:4.0mmの深さに対してA=-1.58mm、L=+/-2.8mm)に左右対称に埋め込んだ(Franklin and Paxinos, 1997 The Mouse Brain in Stereotaxic Coordinates)。手術から回復して5〜9日後、動物にsiRNAを注入した。siRNAは、5%グルコースで0.5μg/μlに希釈して、6当量の22kDaの直鎖ポリエチレンイミン(Fermentas)と混合した。室温で10分間インキュベーションした後、ポリエチレン製のチューブでマイクロシリンジにつながれた注入カニューレにより2μlをそれぞれの海馬に注入した。完全な注入術には約2分かかり、ストレスを最小限にするために動物を慎重に扱った。全部で3回のsiRNAの注入を3日間かけて行った(1μg siRNA/海馬/日)。
【0137】
siRNA媒介性Gpr12のノックダウンは、海馬形成に損傷を生じることがある。siRNA処理した脳の海馬の形態を評価した。
【0138】
行動実験の1日後にsiRNA注入動物を屠殺した。凍結した脳を15μmの切片にスライスしてクレシルバイオレットで染色した。連続切片の写真で海馬の形態を評価した。カニューレの検証のために、動物に1μlのメチルブルー色素を注入し、その後すぐに屠殺した。凍結した脳を15μmの切片にスライスした。色素染色の位置を顕微鏡で決定して比較した(Franklin and Paxinos, 1997 The Mouse Brain in Stereotaxic Coordinates)。被験体の処理について盲目的にカニューレ検証を行った。
【0139】
ノンターゲッティングsiRNA(図10a)とGpr12 siRNA処理マウス(図10b)間で明らかな海馬の形態の違いはなかった。従って、Gpr12 siRNAは脳の形態に何ら明らかな変化を生じなかった。錐体細胞層への損傷はカニューレ挿入の領域に限定された。図10に見られる損傷(中央のパネル)は海馬のカニューレの除去により促進されることに注意されたい。これは実際の手術により海馬の形態の変化が誘導されたことを表さず、これは最小であると見なされ実験被験体の行動成績に影響を及ぼさない。
【0140】
インビボにおけるsiRNAによる標的ノックダウンを確認するために、本発明者らはマウスを海馬内のsiRNAで3日間処理し、最後のsiRNA注入の2日後および3日後にGpr12 mRNAレベルを決定した(図11)。
【0141】
インビボにおけるgpr12ノックダウンの評価のために、グループ当たり6匹のマウスのsiRNAを注入した海馬組織を集めた。製造業者の指示に従ってQIAgen RNeasyキット(Qiagen)を使用して6個体のRNA調製を行った。TaqMan逆転写酵素キット(Applied Biosystems)を使用してcDNAを生成した。ABIプリズムおよびSDS 2.1ソフトウェアを使用してRNA/cDNA複製当たり2回のリアルタイムPCR反応を行なった。Gpr12のmRNAレベルを試験するために必要に応じてABIアッセイ(Applied Biosystems)を使用した。各cDNA試料についての平均CT値を決定した。次いで、TATA結合タンパク質(TBP)に対してデータを標準化し、ΔCT値を決定した。ノンターゲッティング対照siRNA処理対照群に対してmRNAレベルを標準化した。
【0142】
ノンターゲッティング対照siRNA(n=6)と比較した場合、Gpr12 siRNA(n=6)は処理の2日後に海馬のGpr12のmRNAレベルを有意に減少した(p<0.01)。処理の3日後にはGpr12 siRNAの有意な効果はなく、Gpr12 mRNAノックダウンは一過的であったことが示された(p=0.25)。これらの結果により、siRNAはインビボで海馬においてGpr12 mRNAを減少したことが確認された。しかし、標的mRNAおよびタンパク質レベルはGpr12 siRNAにより異なった影響を受けることがある。Gpr12の実際のタンパク質レベルは、siRNA処理後、より強い程度におよびより長期間減少し得る。
【0143】
実施例7-文脈および痕跡条件付けに関するGpr12のsiRNA媒介性ノックダウンの効果
文脈記憶を評価するために、CREBノックアウトマウスの記憶の評価のために元来開発された、標準化された文脈恐怖条件付け課題を使用した((Bourtchuladzeら、1994 Cell 79, 59-68)。訓練日に、非条件付け刺激(US)、2秒間の0.5mAの足ショックの開始前に、マウスを条件付けチャンバー(Med Associates, Inc., VA)に2分間入れた。弱い訓練(2回の訓練試行)のために、ショック間に1分の試行間隔をあけてUSを2回繰り返した。強い訓練(5回の試験試行)のために、ショック間に1分の試行間隔をあけて5回の足ショックを与えた(Bourtchouladze ら、1998 Learn Mem 5, 365-374.);(Scottら、2002 J Mol Neurosci 19, 171-177);(Tullyら、2003 Nat Rev Drug Discov 2, 267-277)。自動化ソフトウェアパッケージ(Med Associates, Inc.,VA)を使用して訓練を実施した。最後の訓練試行の後、マウスを条件付けチャンバー内にさらに30秒間残し、その後ホームケージに戻した。訓練の24時間後に文脈記憶を試験した。マウスを同じ訓練チャンバーに入れ、すくみ行動をスコアリングして条件付けを評価した。すくみは5秒間の完全な運動の欠如として定義した((Fanselow and Bolles, 1979 J Comp Physiol Psychol 93, 736-744.);(Bourtchuladzeら、1994 Cell 79, 59-68);(Bourtchouladzeら、1998 Learn Mem 5, 365-374)。全試験時間は3分間続いた。各実験対象後、実験装置を75%エタノール、水で完全に洗浄し、乾燥させて換気した。各実験を撮影した。全ての実験者は薬物および訓練条件について盲目であった。
【0144】
全ての行動実験は釣り合いの取れた様式で設計および実施され、これは(i)各実験条件について発明者が同数の実験マウスおよび対照マウスを使用したこと;(ii)各実験条件を数回繰り返し、繰り返した日数を加算して最終対象数としたことを意味する。各期間の進行を撮影した。各実験において、訓練および試験中の被験体の処理については実験者には知らせなかった(盲目)。ソフトウェアパッケージ(StatView 5.0.1 ; SAS Institute, Inc)を使用して、スチューデント非対称t検定によりデータを解析した。記載される場合以外は、文章および図面中の全ての値は平均±標準誤差で表す。
【0145】
最初に、文脈記憶における海馬Gpr12の機能を調べた。マウスの海馬にノンターゲッティング(n=19)またはGpr12 siRNA(n=20)を注入した。最後のsiRNA注入の3日後、弱い文脈記憶を誘導するように設計された文脈条件付けパラダイムで動物を訓練した(Scottら、2002 J Mol Neurosci 19, 171-177.)、(Tullyら、2003 Nat Rev Drug Discov 2, 267-277)。Gpr12 DM-2 siRNA処理動物は、訓練後24時間で有意に増強された文脈記憶を示した(24時間記憶:p<0.05、図8a)。
【0146】
次に、文脈記憶形成について、扁桃体におけるGpr12の機能を調べた。マウスの扁桃体にノンターゲッティング(n=20)またはGpr12 siRNA(n=21)を注入して、文脈記憶を試験した。海馬におけるGpr12ノックダウンと同様に、Gpr12 siRNA処理動物は、訓練後24時間で有意に増強された文脈記憶を示した(24時間記憶:p<0.01、図8b)。誤ったカニューレ挿入のために、4匹のマウス(2xのノンターゲッティングsiRNA、2xのGpr12-2 siRNA)を解析から除外した。
【0147】
痕跡条件付け訓練について、標準化されたマウス文脈恐怖条件付け器具を使用した(Med Associates, Inc., VA;(Bourtchuladzeら、1994 Cell 79, 59-68);(Bourtchouladzeら、1998 Learn Mem 5, 365-374)。訓練日に、条件付け刺激(CS)、75dBで20秒間続く2800Hzの音の開始前に、マウスを条件付けチャンバーに2分間入れた。音を終了して60秒後、0.5mAショック非条件付け刺激(US)を2秒間動物に与えた。以前の実験により、この訓練パラダイムがC57BL/6マウスにおいて不充分な痕跡恐怖記憶を誘導すること、およびこの記憶はCREB経路のエンハンサーによって促進できることが明らかにされている。チャンバー内でさらに30秒間たった後、マウスをホームケージに戻した。各実験対象後、実験装置を75%エタノール、水で完全に洗浄し、乾燥させて数分間換気した。
【0148】
文脈条件付けの効果が混同することを避けるために、別の実験室に置いた新しいチャンバー内で試験を行った。内部条件付けチャンバーを取り除いて、マウスケージと取り換えた。それぞれを区別するために、違う色のテープを各ケージの背面に貼った。被験体から被験体への匂いの混入の可能性を減らすために、3つの異なるケージを交替で使用した。チャンバーの内部に30ワットの電灯を配置して、訓練と試験との間の光の違いを確実にした。エタノールの代わりに石鹸溶液を使用して、ケージを洗浄した。それぞれの試験は、2分間の光のみ(前CS)、次いで20秒間の音提示(CS)、その後さらに30秒間の光のみ(後CS)で開始した。訓練中と同様の様式で、上述の文脈条件付けと同様に、マウスを1匹ずつ5秒間隔の「すくみ」についてスコアリングした。各実験の進行を撮影した。音記憶に特異的なすくみ応答の割合は、CSすくみから前CSすくみ(非特異的)を差し引いて決定した。
【0149】
痕跡恐怖記憶における海馬のGpr12の機能を調べた。文脈条件付けについて記載されるように、マウスの海馬にノンターゲッティング(n=20)またはGpr12 siRNA(n=23)を注入した。1回のCS/US組み合わせおよび60秒の痕跡間隔で訓練した場合、Gpr12 DM-2 siRNA処理動物は有意に高い痕跡条件付けを示した(CS-前CS:p<0.01、図9)。重要なことに、対照siRNAではなくGpr12 siRNA処理された動物は、音CS提示に対するすくみ応答を増加した。従って、文脈条件付けと同様に、siRNA媒介性の海馬Gpr12のノックダウンは痕跡条件付けを促進した。痕跡恐怖条件付けの間に、Gpr12 siRNAは即座のすくみに有意に影響を及ぼさなかった(ノンターゲッティングsiRNA:3.3±1.5%;Gpr12 siRNA:5.1±1.6%;p=0.44;データは示さず)。
【0150】
まとめると、これらの結果によって、Gpr12が、マウスおよびヒトにおける記憶の形成に重要である二つの側頭葉構造の海馬および扁桃体の両方における記憶形成の負の制御因子であることが強く示される。重要なことに、Gpr12 siRNAは「機能の増大」(すなわち、記憶形成の強化)を誘導した。行動可塑性におけるこの効果がGpr12 siRNAの副作用により誘導される可能性は低い。従って、本発明者らは、Gpr12が海馬および扁桃体における記憶の決定的な制御因子であることを結論付ける。
【0151】
本明細書中で発明の背景を説明するために使用される、本明細書中で言及される全ての刊行物、特許および特許出願、特に実施に関するさらなる詳細を提供する事例は、それぞれ個々の刊行物、特許または特許出願が参照により具体的かつ個別的に援用される場合と同程度に、参照により本明細書中に援用される。
【0152】
本発明はその好ましい態様を参照して具体的に示され記載されるが、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲を逸脱することなく、形態および詳細において種々の変更が本発明でなされ得ることが当業者に理解されよう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)遺伝子に特異的で十分なsiRNAを動物に投与し、遺伝子の機能を阻害する工程;
(b)該動物を、処理されていない正常動物の転写依存性記憶形成を誘導するのに十分な条件下で訓練する工程 ;および
(c)該処理された動物の訓練によって誘導される転写依存性記憶形成のレベルを決定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
処理されていない動物の転写依存性記憶形成に対する処理された動物の転写依存性記憶形成の増大の決定は、遺伝子の阻害が転写依存性記憶形成の増強をもたらすことを示す、請求項1記載の方法。
【請求項3】
処理されていない動物の転写依存性記憶形成に対する処理された動物の転写依存性記憶形成の減少の決定は、遺伝子の阻害が転写依存性記憶形成の阻害をもたらすことを示す、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記siRNAが訓練期間の前または訓練期間と同時に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
転写依存性記憶形成が長期記憶形成である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
転写依存性記憶形成が特定の認知課題の成績によって明示される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記動物が非ヒト哺乳動物である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
工程(b)の訓練が複数訓練期間を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
工程(b)の訓練が分散訓練プロトコルを含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
工程(b)の訓練が1回または複数回の試行による文脈恐怖訓練プロトコルを含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
工程(b)の訓練が1回または複数回の試行による痕跡恐怖条件付けを含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記訓練が、文脈記憶、時間的記憶、空間的記憶、エピソード記憶、受動回避記憶、能動回避記憶、社会伝達の食物嗜好記憶、条件付け味覚回避、および社会的認識記憶からなる群より選択される記憶パラダイムに関する、請求項1記載の方法。
【請求項13】
(a)遺伝子に特異的で十分なsiRNAを動物に投与し、遺伝子の機能を阻害する工程;
(b)該動物を、処理されていない正常動物の長期記憶形成を誘導するのに十分な条件下で訓練する工程; および
(c)該処理された動物の訓練によって誘導される長期記憶形成のレベルを決定する工程
を含む、方法。
【請求項14】
処理されていない動物の長期記憶形成に対する処理された動物の長期記憶形成の増大の決定は、遺伝子の阻害が長期記憶形成の増強をもたらすことを示す、請求項13記載の方法。
【請求項15】
処理されていない動物の長期記憶形成に対する処理された動物の長期記憶形成の減少の決定は、遺伝子の阻害が長期記憶形成の阻害をもたらすことを示す、請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記siRNAが訓練期間の前または訓練期間と同時に投与される、請求項13記載の方法。
【請求項17】
長期記憶形成が特定の認知課題の成績によって明示される、請求項13記載の方法。
【請求項18】
前記動物が非ヒト哺乳動物である、請求項13記載の方法。
【請求項19】
工程(b)の訓練が複数訓練期間を含む、請求項13記載の方法。
【請求項20】
工程(b)の訓練が分散訓練プロトコルを含む、請求項13記載の方法。
【請求項21】
工程(b)の訓練が1回または複数回の試行による文脈恐怖訓練プロトコルを含む、請求項13記載の方法。
【請求項22】
工程(b)の訓練が1回または複数回の試行による痕跡恐怖条件付けを含む、請求項13記載の方法。
【請求項23】
前記訓練が、文脈記憶、時間的記憶、空間的記憶、エピソード記憶、受動回避記憶、能動回避記憶、社会伝達の食物嗜好記憶、条件付け味覚回避、および社会的認識記憶からなる群より選択される記憶パラダイムに関する、請求項13記載の方法。
【請求項24】
(a)遺伝子に特異的で十分なsiRNAを動物に投与し、遺伝子の機能を阻害する工程;
(b)該動物を、処理されていない正常動物の特定の認知課題の成績における改善を生じるのに十分な条件下で訓練する工程;および
(c)該処理された動物の訓練によって生じる認知成績のレベルを決定する工程
を含む、方法。
【請求項25】
処理されていない動物の認知成績のレベルに対する処理された動物の認知成績のレベルの決定は、遺伝子の阻害が認知成績の増強をもたらすことを示す、請求項24記載の方法。
【請求項26】
処理されていない動物の認知成績のレベルに対する処理された動物の認知成績のレベルの減少の決定は、遺伝子の阻害が認知成績の阻害をもたらすことを示す、請求項24記載の方法。
【請求項27】
前記siRNAが訓練期間の前または訓練期間と同時に投与される、請求項24記載の方法。
【請求項28】
認知成績が長期記憶形成である、請求項24記載の方法。
【請求項29】
認知成績が特定の認知課題の成績によって明示される、請求項24記載の方法。
【請求項30】
前記動物が非ヒト哺乳動物である、請求項24記載の方法。
【請求項31】
工程(b)の訓練が複数訓練期間を含む、請求項24記載の方法。
【請求項32】
工程(b)の訓練が分散訓練プロトコルを含む、請求項24記載の方法。
【請求項33】
工程(b)の訓練が1回または複数回の試行による文脈恐怖訓練プロトコルを含む、請求項24記載の方法。
【請求項34】
工程(b)の訓練が1回または複数回の試行による痕跡恐怖条件付けを含む、請求項24記載の方法。
【請求項35】
前記訓練が、文脈記憶、時間的記憶、空間的記憶、エピソード記憶、受動回避記憶、能動回避記憶、社会伝達の食物嗜好記憶、条件付け味覚回避、および社会的認識記憶からなる群より選択される記憶パラダイムに関する、請求項24記載の方法。
【請求項1】
(a)遺伝子に特異的で十分なsiRNAを動物に投与し、遺伝子の機能を阻害する工程;
(b)該動物を、処理されていない正常動物の転写依存性記憶形成を誘導するのに十分な条件下で訓練する工程 ;および
(c)該処理された動物の訓練によって誘導される転写依存性記憶形成のレベルを決定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
処理されていない動物の転写依存性記憶形成に対する処理された動物の転写依存性記憶形成の増大の決定は、遺伝子の阻害が転写依存性記憶形成の増強をもたらすことを示す、請求項1記載の方法。
【請求項3】
処理されていない動物の転写依存性記憶形成に対する処理された動物の転写依存性記憶形成の減少の決定は、遺伝子の阻害が転写依存性記憶形成の阻害をもたらすことを示す、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記siRNAが訓練期間の前または訓練期間と同時に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
転写依存性記憶形成が長期記憶形成である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
転写依存性記憶形成が特定の認知課題の成績によって明示される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記動物が非ヒト哺乳動物である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
工程(b)の訓練が複数訓練期間を含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
工程(b)の訓練が分散訓練プロトコルを含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
工程(b)の訓練が1回または複数回の試行による文脈恐怖訓練プロトコルを含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
工程(b)の訓練が1回または複数回の試行による痕跡恐怖条件付けを含む、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記訓練が、文脈記憶、時間的記憶、空間的記憶、エピソード記憶、受動回避記憶、能動回避記憶、社会伝達の食物嗜好記憶、条件付け味覚回避、および社会的認識記憶からなる群より選択される記憶パラダイムに関する、請求項1記載の方法。
【請求項13】
(a)遺伝子に特異的で十分なsiRNAを動物に投与し、遺伝子の機能を阻害する工程;
(b)該動物を、処理されていない正常動物の長期記憶形成を誘導するのに十分な条件下で訓練する工程; および
(c)該処理された動物の訓練によって誘導される長期記憶形成のレベルを決定する工程
を含む、方法。
【請求項14】
処理されていない動物の長期記憶形成に対する処理された動物の長期記憶形成の増大の決定は、遺伝子の阻害が長期記憶形成の増強をもたらすことを示す、請求項13記載の方法。
【請求項15】
処理されていない動物の長期記憶形成に対する処理された動物の長期記憶形成の減少の決定は、遺伝子の阻害が長期記憶形成の阻害をもたらすことを示す、請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記siRNAが訓練期間の前または訓練期間と同時に投与される、請求項13記載の方法。
【請求項17】
長期記憶形成が特定の認知課題の成績によって明示される、請求項13記載の方法。
【請求項18】
前記動物が非ヒト哺乳動物である、請求項13記載の方法。
【請求項19】
工程(b)の訓練が複数訓練期間を含む、請求項13記載の方法。
【請求項20】
工程(b)の訓練が分散訓練プロトコルを含む、請求項13記載の方法。
【請求項21】
工程(b)の訓練が1回または複数回の試行による文脈恐怖訓練プロトコルを含む、請求項13記載の方法。
【請求項22】
工程(b)の訓練が1回または複数回の試行による痕跡恐怖条件付けを含む、請求項13記載の方法。
【請求項23】
前記訓練が、文脈記憶、時間的記憶、空間的記憶、エピソード記憶、受動回避記憶、能動回避記憶、社会伝達の食物嗜好記憶、条件付け味覚回避、および社会的認識記憶からなる群より選択される記憶パラダイムに関する、請求項13記載の方法。
【請求項24】
(a)遺伝子に特異的で十分なsiRNAを動物に投与し、遺伝子の機能を阻害する工程;
(b)該動物を、処理されていない正常動物の特定の認知課題の成績における改善を生じるのに十分な条件下で訓練する工程;および
(c)該処理された動物の訓練によって生じる認知成績のレベルを決定する工程
を含む、方法。
【請求項25】
処理されていない動物の認知成績のレベルに対する処理された動物の認知成績のレベルの決定は、遺伝子の阻害が認知成績の増強をもたらすことを示す、請求項24記載の方法。
【請求項26】
処理されていない動物の認知成績のレベルに対する処理された動物の認知成績のレベルの減少の決定は、遺伝子の阻害が認知成績の阻害をもたらすことを示す、請求項24記載の方法。
【請求項27】
前記siRNAが訓練期間の前または訓練期間と同時に投与される、請求項24記載の方法。
【請求項28】
認知成績が長期記憶形成である、請求項24記載の方法。
【請求項29】
認知成績が特定の認知課題の成績によって明示される、請求項24記載の方法。
【請求項30】
前記動物が非ヒト哺乳動物である、請求項24記載の方法。
【請求項31】
工程(b)の訓練が複数訓練期間を含む、請求項24記載の方法。
【請求項32】
工程(b)の訓練が分散訓練プロトコルを含む、請求項24記載の方法。
【請求項33】
工程(b)の訓練が1回または複数回の試行による文脈恐怖訓練プロトコルを含む、請求項24記載の方法。
【請求項34】
工程(b)の訓練が1回または複数回の試行による痕跡恐怖条件付けを含む、請求項24記載の方法。
【請求項35】
前記訓練が、文脈記憶、時間的記憶、空間的記憶、エピソード記憶、受動回避記憶、能動回避記憶、社会伝達の食物嗜好記憶、条件付け味覚回避、および社会的認識記憶からなる群より選択される記憶パラダイムに関する、請求項24記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2010−527243(P2010−527243A)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508598(P2010−508598)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/063806
【国際公開番号】WO2008/144455
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(508171860)ヘリコン セラピューティクス,インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/063806
【国際公開番号】WO2008/144455
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(508171860)ヘリコン セラピューティクス,インコーポレイテッド (8)
【Fターム(参考)】
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