説明

低分子量ニトリルゴムの調製方法

本発明は、当技術分野で公知のものよりも低い分子量および狭い分子量分布を有する任意に水素化されていてもよいニトリルゴムポリマーの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、当技術分野で公知のものよりも低い分子量および狭い分子量分布を有する任意に水素化されていてもよいニトリルゴムポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリロニトリル−ブタジエンゴム(少なくとも1種の共役ジエンと少なくとも1種の不飽和ニトリルと任意にさらなるコモノマーとを含むコポリマーであるニトリルゴム;NBR)の選択的水素化により調製される水素化ニトリルゴム(HNBR)は、非常に良好な耐熱性と優れた耐オゾン性および耐薬品性と優れた耐油性とを有する特殊ゴムである。このゴムは高レベルの機械的性質(特定的には高い耐摩耗性)を兼備しているので、NBRおよびHNBRが、とくに、自動車産業(シール、ホース、軸受パッド)、油産業(ステーター、油井ヘッドシール、バルブプレート)、電気産業(ケーブルシース)、機械技術産業(ホイール、ローラー)、および造船産業(パイプシール、継手)において、広く使用されてきたことは、驚くに値しない。
【0003】
市販のNBRおよびHNBRは、55〜105の範囲内のムーニー粘度、200,000〜500,000g/molの範囲内の分子量を有し、さらにHNBRは、3.0超の多分散度および1〜18%の範囲内の残留二重結合(RDB)含有率(IR分光法による)を有する。
【0004】
NBRおよびHNBRの加工上の制約の1つは、比較的高いムーニー粘度である。原理的には、より低い分子量およびより低いムーニー粘度を有するNBRおよびHNBRは、より良好な加工性を有するであろう。素練り(機械的分解)によりおよび化学的手段(たとえば強酸の使用)によりポリマーの分子量を減少させようとする試みがなされてきたが、そのような方法は、ポリマー中への官能基(たとえばカルボン酸基およびエステル基)の導入およびポリマーのマイクロ構造の変化を引き起こすという欠点を有する。この結果、ポリマーの性質は不利な方向に変化する。それに加えて、これらのタイプの手法では、手法自体の性質上、広い分子量分布を有するポリマーが生成される。
【0005】
低ムーニー(55未満)および改良された加工性を有する任意に水素化されていてもよいニトリルゴムでも、現在入手可能なゴムと同一のマイクロ構造を有するものについては、現用技術を用いて製造することは困難である。NBRを水素化してHNBRを生成させると、原料ポリマーのムーニー粘度のさらに大きな増加を生じる。このムーニー増加比(MIR)は、ポリマーグレード、水素化レベル、および供給原料の性質にもよるが、一般的には約2である。さらに、NBR自体の製造に関連する制約によっても、HNBR供給原料の低粘度範囲は影響を受ける。現在、入手可能な最も低いムーニー粘度の製品の1つは、55(100℃にてML1+4)のムーニー粘度および18%のRDBを有するテルバン(Therban)(登録商標)VP KA 8837(バイエル(Bayer)から入手可能)である。
【0006】
主族のアルキル化剤と組み合わされた特定の金属塩が温和な条件下でオレフィン重合を促進するのにきわめて有効であるというカール・チーグラー(Karl Ziegler)の発見は、現在まで、化学研究および化学製造に多大な影響を及ぼしてきた。いくつかの「チーグラー型」触媒は、提案された配位−挿入機構を促進するだけでなく、図1に示されるようなスキームに基づくアルケンの相互交換(またはメタセシス)反応であるまったく異なる化学過程にも影響を及ぼすことが早い段階で見いだされた。
【0007】
非環式ジエンメタセシス(またはADMET)は、多種多様な遷移金属錯体さらには非金属系により触媒される。当初は、金属酸化物、硫化物、または金属塩をベースとする不均一触媒系が、オレフィンのメタセシスに使用された。しかしながら、安定性が不十分である点(とくにヘテロ置換基に対して)ならびに多数の活性部位および副反応に起因して選択性が欠如している点は、不均一系の主要な欠点である。
【0008】
オレフィンメタセシスを行うために、均一系も考案され使用されてきた。これらの系は、活性および制御の点で不均一触媒系よりもかなり優れた利点を提供する。たとえば、特定のロジウム系錯体は、電子豊富オレフィンのメタセシスに効果的な触媒である。
【0009】
特定の金属アルキリデン錯体がオレフィンのメタセシスを触媒可能であるという発見は、新しい世代の明確に定義された高活性シングルサイト触媒の開発の引き金となった。これらのうち、ビス−(トリシクロヘキシルホスフィン)−ベンジリデンルテニウムジクロリド(一般にグラブス(Grubbs)触媒として知られる)は、空気および湿分に対して顕著な非感受性を有しかつ種々の官能基に対して高い耐性を有するため、広く使用されてきた。モリブデン系メタセシス触媒とは異なり、このルテニウムカルベン触媒は、酸、アルコール、アルデヒド、および第四級アミン塩に対して安定であり、しかもさまざまな溶媒(C、CHCl、THF、t−BuOH)中で使用可能である。
【0010】
遷移金属触媒アルケンメタセシスの利用は、それ以来、合成法としてますます注目されるようになってきた。最もよく使用される触媒は、Mo系、W系、およびRu系である。研究努力は、主に、小分子の合成に向けられてきたが、オレフィンメタセシスをポリマー合成に応用することにより、今までにない性質を有する新しいポリマー材料(たとえば高立体規則性ポリ−ノルボルナジエン)の調製が可能になっている。
【0011】
不飽和エラストマーから低分子量化合物を製造する手段としてオレフィンメタセシスを利用することに関心が高まってきている。不飽和ポリマーの分子量低下の原理を図2に示す。適切な触媒を使用すれば、ポリマーの不飽和部とコオレフィンとのクロスメタセシスが可能である。最終結果として、不飽和部位でポリマー鎖が開裂し、より低い分子量を有するポリマーフラグメントが生成される。それに加えて、この方法の他の効果として、ポリマー鎖長の「均一化」により、多分散度が低減される。用途および加工の観点からみると、原料ポリマーの分子量分布が狭ければ、加硫ゴムの物理的性質が改良され、一方、より低い分子量にすれば、良好な加工挙動が提供される。
【0012】
古典的なMoおよびWの触媒系の存在下における1,3−ブタジエンとさまざまなコモノマー(スチレン、プロペン、ジビニルベンゼンおよびエチルビニルベンゼン、アクリロニトリル、ビニルトリメチルシランおよびジビニルジメチルシラン)とのコポリマーのいわゆる「解重合」が研究されてきた。同様に、WClとSnMe共触媒またはPhC≡CH共触媒とを用いるニトリルゴムの分解が1988年に報告された。しかしながら、そのような研究の焦点は、従来の化学的手段により特性付け可能な低分子フラグメントだけを製造することであり、低分子量ニトリルゴムポリマーの調製に関する教示を含んでいない。さらに、そのような方法では、制御が行われず、広範にわたる生成物が生成される。
【0013】
明確に定義されたグラブス(Grubbs)触媒またはシュロック(Schrock)触媒の存在下において置換型オレフィンまたはエチレン(連鎖移動剤として)の存在下で1,4−ポリブタジエンの触媒解重合を行うこともまた可能である。ポリマー主鎖に沿って内部不飽和を含有するゲル化ポリマーから低分子量のポリマーまたはオリゴマーを製造するための一般構造式{M(=NR)(OR(=CHR);M=Mo、W}で示されるモリブデン化合物またはタングステン化合物の使用が、米国特許第5,446,102号明細書で権利請求の対象となっている。しかしながら、この場合も、開示された方法では制御が行われず、低分子量ニトリルゴムポリマーの調製に関する教示はない。
【0014】
国際出願の米国特許第5,446,102号明細書、PCT/CA02/00965号パンフレット、および国際公開第03/002613−A1号パンフレットには、ニトリルブタジエンゴムのオレフィンメタセシスにより、任意に、続いて、得られたメタセシスされたNBRの水素化により、当技術分野で公知のものよりも低い分子量および狭い分子量分布を有する水素化ニトリルゴムおよび非水素化ニトリルゴムを調製しうることが開示されている。これらの文献では、本発明に係る触媒とは異なるいわゆるグラブス(Grubbs)触媒が使用される。
【特許文献1】米国特許第5,446,102号明細書
【特許文献2】PCT/CA02/00966号パンフレット
【特許文献3】PCT/CA02/00965号パンフレット
【特許文献4】国際公開第03/002613−A1号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは、このたび、ニトリルブタジエンゴムのオレフィンメタセシスにより、HNBRの場合には続いて、得られたメタセシスされたNBRの水素化により、当技術分野で公知のものよりも低い分子量および狭い分子量分布を有する任意に水素化されていてもよいニトリルゴムを調製しうることを見いだした。
【課題を解決するための手段】
【0016】
したがって、開示された本発明の一態様は、
a)一般式1
【0017】
【化1】

〔式中、
は、OsまたはRuであり;
Rは、水素、またはC〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C20アルキル、アリール、C〜C20カルボキシレート、C〜C20アルコキシ、C〜C20アルケニルオキシ、C〜C20アルキニルオキシ、アリールオキシ、C〜C20アルコキシカルボニル、C〜C20アルキルチオ、C〜C20アルキルスルホニル、およびC〜C20アルキルスルフィニルよりなる群から選択される炭化水素であり;
Xは、任意のアニオン性配位子から選択され;そして
は、単環式であるか多環式であるかを問わず、中性π結合配位子、好ましくは、限定されるものではないが、アレーン、置換型アレーン、ヘテロアレーンであり;
Lは、ホスフィン類、スルホン化ホスフィン類、フッ素化ホスフィン類、官能化ホスフィン類(3個までのアミノアルキル基、アンモニウムアルキル基、アルコキシアルキル基、アルコキシルカルボニルアルキル基、ヒドロキシカルボニルアルキル(hydrocycarbonylalkyl)基、ヒドロキシアルキル基、またはケトアルキル基を有する)、ホスファイト類、ホスフィナイト類、ホスホナイト類、ホスフィンアミン類、アルシン類、スチルベン類(stibenes)、エーテル類、アミン類、アミド類、イミン類、スルホキシド類、チオエーテル類、およびピリジン類よりなる群から選択される配位子であり;
は、非配位性アニオンである〕
で示される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物および任意に少なくとも1種のコオレフィンの存在下でニトリルゴムを反応させる工程と、
b)水素化ニトリルゴムが望まれるのであれば、工程a)の生成物を水素化する工程と、
を含む、任意に水素化されていてもよいニトリルゴムの調製方法である。
【0018】
本発明に係る方法によれば、30,000〜250,000の範囲内の分子量(M)、3〜50の範囲内のムーニー粘度(100℃にてML1+4)、および2.5未満のMWD(または多分散指数)を有する水素化ニトリルゴムを生成しうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本明細書全体を通して使用される「ニトリルポリマー」(NBR)という用語は、広義に解釈されることが意図されており、少なくとも1種の共役ジエン、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリル、および任意にさらなる1種以上の共重合性モノマーから誘導される反復単位を有するコポリマーを包含するものとする。
【0020】
共役ジエンは、任意の公知の共役ジエン、特定的にはC〜C共役ジエンでありうる。好ましい共役ジエンは、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、2,3−ジメチルブタジエン、およびそれらの混合物である。さらにより好ましいC〜C共役ジエンは、ブタジエン、イソプレン、およびそれらの混合物である。最も好ましいC〜C共役ジエンは、ブタジエンである。
【0021】
不飽和のα,β−不飽和ニトリルは、任意の公知のα,β−不飽和ニトリル、特定的にはC〜Cα,β−不飽和ニトリルでありうる。好ましいC〜Cα,β−不飽和ニトリルは、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、およびそれらの混合物である。最も好ましいC〜Cα,β−不飽和ニトリルは、アクリロニトリルである。
【0022】
好ましくは、コポリマーは、1種以上の共役ジエンから誘導される反復単位を40〜85重量パーセントの範囲内でかつ1種以上の不飽和ニトリルから誘導される反復単位を15〜60重量パーセントの範囲内で含む。より好ましくは、コポリマーは、1種以上の共役ジエンから誘導される反復単位を60〜75重量パーセントの範囲内でかつ1種以上の不飽和ニトリルから誘導される反復単位を25〜40重量パーセントの範囲内で含む。最も好ましくは、コポリマーは、1種以上の共役ジエンから誘導される反復単位を60〜70重量パーセントの範囲内でかつ1種以上の不飽和ニトリルから誘導される反復単位を30〜40重量パーセントの範囲内で含む。
【0023】
任意に、コポリマーは、不飽和カルボン酸などの1種以上の共重合性モノマーから誘導される反復単位をさらに含みうる。好適な不飽和カルボン酸の例は、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸、およびそれらの混合物であるが、これらに限定されるものではない。1種以上の共重合性モノマーから誘導される反復単位は、ニトリルゴムのニトリル部分またはジエン部分のいずれかと置き換えられるであろう。また、当業者には明らかであろうが、上記の数値は、結果として100重量パーセントになるように調整されなければならないであろう。記載の不飽和カルボン酸の場合、ニトリルゴムは、好ましくは、1種以上の不飽和カルボン酸から誘導される反復単位をゴムの1〜10重量パーセントの範囲内で含有する。ただし、この量に対応する量の共役ジオレフィンが置き換えられる。
【0024】
他の好ましい選択肢としてのさらなるモノマーは、不飽和モノ−もしくはジ−カルボン酸またはそれらの誘導体(たとえば、エステル、アミドなど)であり、それらの混合物も包含される。
【0025】
HNBRを生成するには、最初に、基質をメタセシス反応に付し、次に、水素化する。
【0026】
メタセシス
メタセシス反応は、以下の一般式1で示される1種以上の化合物の存在下で行われる。
【0027】
【化2】

〔式中、
は、OsまたはRuであり;
Rは、水素、またはC〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C20アルキル、アリール、C〜C20カルボキシレート、C〜C20アルコキシ、C〜C20アルケニルオキシ、C〜C20アルキニルオキシ、アリールオキシ、C〜C20アルコキシカルボニル、C〜C20アルキルチオ、C〜C20アルキルスルホニル、およびC〜C20アルキルスルフィニルよりなる群から選択される炭化水素であり;
Xは、任意のアニオン性配位子から選択され;そして
は、単環式であるか多環式であるかを問わず、中性π結合配位子、好ましくは、限定されるものではないが、アレーン、置換型アレーン、ヘテロアレーンであり;
Lは、ホスフィン類、スルホン化ホスフィン類、フッ素化ホスフィン類、官能化ホスフィン類(3個までのアミノアルキル基、アンモニウムアルキル基、アルコキシアルキル基、アルコキシルカルボニルアルキル基、ヒドロキシカルボニルアルキル(hydrocycarbonylalkyl)基、ヒドロキシアルキル基、またはケトアルキル基を有する)、ホスファイト類、ホスフィナイト類、ホスホナイト類、ホスフィンアミン類、アルシン類、スチルベン類、エーテル類、アミン類、アミド類、イミン類、スルホキシド類、チオエーテル類、およびピリジン類よりなる群から選択される配位子であり;
は、非配位性アニオンであり;
Lがトリアルキルホスフィンであり、Lが1−メチル−4−イソ−プロピルフェニルであり、Xが塩化物イオンであり、Rがフェニルであり、かつMがルテニウムであるときの式1で示される化合物が好ましい〕
【0028】
化合物の量は、当該化合物の性質および触媒活性に依存するであろう。典型的には、化合物対NBRの比は、0.005〜5の範囲内、好ましくは0.025〜1の範囲内、より好ましくは0.1〜0.5の範囲内である。
【0029】
メタセシス反応は、コオレフィンがまったく存在しなくても実施可能である。しかしながら、メタセシス反応をコオレフィンの存在下で行った場合、反応速度が改良される。コオレフィンは、炭化水素であっても官能化されていてもよいが、メタセシス触媒を失活させたり他の形で反応を妨害したりするものであってはならない。好ましいオレフィンとしては、エチレン、イソブテン、スチレン、または1−ヘキセンなどのC〜C16の線状もしくは分枝状のオレフィンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。コオレフィンが液体(たとえば1−ヘキセン)である場合、利用されるコオレフィンの量は、好ましくは1〜200重量%の範囲内である。コオレフィンがガス(たとえばエチレン)である場合、利用されるコオレフィンの量は、通常、反応槽内の圧力が210Pa〜2.510Paの範囲内、好ましくは110Pa〜110Paの範囲内、より好ましくは5.210Pa〜410Paの範囲内になるような量である。
【0030】
メタセシス反応は、触媒を失活させたり他の形で反応を妨害したりしない任意の好適な溶媒中で実施可能である。好ましい溶媒としては、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、シクロヘキサンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。最も好ましい溶媒は、モノクロロベンゼン(MCB)である。特定の場合には、コオレフィンは、それ自体が溶媒(たとえば1−ヘキセン)として作用しうるので、その場合には、他の溶媒は必要でない。
【0031】
反応混合物中のNBRの濃度は、それほど重要ではないが、たとえば、混合物が粘稠すぎて効率的に攪拌できない場合であっても、反応が妨害されないような濃度でなければならないことは明らかである。好ましくは、NBRの濃度は、1〜40重量%の範囲内、最も好ましくは6〜15重量%の範囲内である。
【0032】
メタセシス反応は、好ましくは20〜140℃の範囲内、より好ましくは60〜120℃の範囲内の温度で行われる。
【0033】
反応時間は、セメント濃度、触媒の使用量、および反応が行われる温度をはじめとするいくつかの因子に依存するであろう。メタセシスは、通常、典型的条件下で最初の2時間以内に終了する。メタセシス反応の進行は、標準的分析技術により、たとえば、GPCまたは溶液粘度を用いて、モニターしうる。本明細書全体を通して言及されたときは常に、ポリマーの分子量分布は、ウォーターズ・ミレニアム(Waters Millenium)ソフトウェアバージョン3.05.01を実行して、ウォーターズ2690セパレーション・モジュール(Waters 2690 Separation Module)およびウォーターズ410ディファレンシャル・リフレクトメーター(Waters 410 Differential Refractometer)を用いるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、決定されたものである。サンプルは、0.025%のBHTで安定化されたテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。測定に使用したカラムは、ポリマー・ラボ(Polymer Labs)製の3本の逐次混合Bゲルカラムであった。使用した比較標準は、アメリカン・ポリマー・スタンダード・コーポレーション(American Polymer Standards Corp.)製のポリスチレン標準であった。
【0034】
水素化
メタセシス反応で得られる生成物の還元は、当技術分野で公知の標準的還元技術を用いて実施可能である。たとえば、ウィルキンソン(Wilkinson)触媒{(PPhRhCl}などの当業者に公知の均一水素化触媒を使用しうる。
【0035】
NBRの水素化法は、公知であり、本発明に係る水素化生成物の製造にも使用可能である。ロジウムまたはチタンが触媒として一般に使用されるが、金属の形態(ただし、好ましくは金属化合物の形態)で、白金、イリジウム、パラジウム、レニウム、ルテニウム、オスミウム、コバルト、または銅を使用することも可能である。たとえば、米国特許第3,700,637号明細書;DE−PS2,539,132号明細書;EP−A−134023号明細書;DE−OS3541689号明細書;DE−OS3540918号明細書;EP−A298386号明細書;DE−OS3529252号明細書;DE−OS3433392号明細書;米国特許第4,464,515号明細書;および米国特許第4,503,196号明細書を参照されたい。
【0036】
均一相中における水素化に好適な触媒および溶媒は、以下にならびにバイエル・アーゲー(Bayer AG)のGB1558491号明細書およびEP471,250号明細書(参照によりすでに本明細書に援用されているものとする)に記載されている。本発明に有用である水素化用の触媒および溶媒を限定しようとするものではなく、これらは、単に例として提供されたにすぎない。
【0037】
選択的水素化は、ロジウム含有触媒を利用して達成可能である。好ましい触媒は、式
(RB)RhX
で示される。式中、各Rは、C〜C−アルキル基、C〜C−シクロアルキル基、C〜C15−アリール基、またはC〜C15−アラルキル基であり、Bは、リン、ヒ素、硫黄、またはスルホキシド基S=Oであり、Xは、水素またはアニオン、好ましくはハロゲン化物イオン、より好ましくは塩化物イオンまたは臭化物イオンであり、lは、2、3、または4であり、mは、2または3であり、そしてnは、1、2、または3、好ましくは1または3である。好ましい触媒は、トリス−(トリフェニルホスフィン)−ロジウム(I)−クロリド、トリス(トリフェニルホスフィン)−ロジウム(III)−クロリド、およびトリス−(ジメチルスルホキシド)−ロジウム(III)−クロリド、ならびに式((CP)RhHで示されるテトラキス−(トリフェニルホスフィン)−ロジウムヒドリド、さらにはトリフェニルホスフィン部分がトリシクロヘキシル−ホスフィン部分で置き換えられた対応する化合物である。触媒は、少量で使用可能である。ポリマーの重量を基準にして、0.01〜1.0重量%、好ましくは0.03%〜0.5重量%、最も好ましくは0.1〜0.3重量%の範囲内の量が好適である。
【0038】
R、m、およびBが先に定義したとおりでありかつmが好ましくは3であるときの式RmBで示される配位子である共触媒と触媒とを併用することは公知である。好ましくは、Bはリンであり、かつR基は同一であるかまたは異なりうる。したがって、トリアリール、トリアルキル、トリシクロアルキル、ジアリールモノアルキル、ジアルキルモノアリール、ジアリールモノシクロアルキル、ジアルキルモノシクロアルキル、ジシクロアルキルモノアリール、またはジシクロアルキルモノアリールを共触媒に使用しうる。共触媒配位子の例は、米国特許第4,631,315号明細書(その開示内容は参照により援用されるものとする)に与えられている。好ましい共触媒配位子は、トリフェニルホスフィンである。共触媒配位子は、コポリマーの重量を基準にして、好ましくは0.3〜5重量%、より好ましくは0.5〜4重量%の範囲内で使用される。また、ロジウム含有触媒化合物対共触媒の重量比は、好ましくは1:3〜1:55の範囲内、より好ましくは1:5〜1:45の範囲内である。共触媒の重量は、ゴム100部の重量を基準にして、好適には0.1〜33、より好適には0.5〜20、好ましくは1〜5、最も好ましくは2超〜5未満の範囲内である。
【0039】
水素化は、有利にはin situで、すなわち、メタセシス生成物を最初に単離する必要もなく、メタセシス工程が行われたのと同一の反応槽内で、実施可能である。水素化触媒を単に槽に添加し、次に、水素で処理してHNBRを生成させる。
【0040】
本発明における水素化は、好ましくは出発ニトリルポリマー中に存在する残留二重結合(RDB)の50%超が水素化される、好ましくはRDBの90%超が水素化される、より好ましくはRDBの95%超が水素化される、最も好ましくはRDBの99%超が水素化されるものと解釈される。
【0041】
本発明に係る低ムーニーのNBRおよび好ましいHNBRは、当技術分野で公知の標準的技術により特性付け可能である。たとえば、ポリマーの分子量分布は、ウォーターズ・ミレニアム(Waters Millenium)ソフトウェアバージョン3.05.01を実行して、ウォーターズ2690セパレーション・モジュール(Waters 2690 Separation Module)およびウォーターズ410ディファレンシャル・リフレクトメーター(Waters 410 Differential Refractometer)を用いるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、決定された。サンプルは、0.025%のBHTで安定化されたテトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。測定に使用したカラムは、ポリマー・ラボ(Polymer Labs)製の3本の逐次混合Bゲルカラムであった。使用した比較標準は、アメリカン・ポリマー・スタンダード・コーポレーション(American Polymer Standards Corp.)製のポリスチレン標準であった。
【0042】
ゴムのムーニー粘度は、ASTM試験D1646を用いて決定した。
【実施例】
【0043】
実施例1〜3
トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウムクロリド(ウィルキンソン(Wilkinson)水素化触媒)、トリフェニルホスフィン(TPP)、およびモノクロロベンゼン(MCB)は、それぞれ、ジェイエムアイ(JMI)、エルフ・アトケム(Elf Atochem)、およびピーピージー(PPG)から購入したものであり、入手したままの状態で使用した。カチオン性トリシクロヘキシルホスフィン−(η−1−メチル−4−イソ−プロピルフェニル)−2−フェニル−インデニリデン−ルテニウムクロリド(Ru触媒)のトリフレート(SOCF)塩は、応用化学/国際英語版(Angew.Chem.Int.Ed.Engl);2003年,第42巻,4524−4527頁に記載されているように調製した。
【0044】
メタセシス
以下の条件下でパール(Parr)高圧反応器中でメタセシス反応を行った:
【0045】
【表1】

【0046】
実施例1〜2の場合、反応器を所望の温度に加熱し、Ru触媒を含有する60mLのモノクロロベンゼン溶液を反応器に添加した。反応器を所望のエチレン圧力に加圧した。反応の継続時間にわたり温度を一定に保持した。温度コントローラーおよび熱センサーに接続された冷却コイルを用いて温度を調整した。6%セメントで溶液粘度測定を行って反応の進行をモニターした。
【0047】
水素化
以下の条件下でメタセシスのときと同一の反応器中で水素化反応を行った:
【0048】
【表2】

【0049】
メタセシス反応から得られたセメントを十分な攪拌下でH(100psi)で3回脱ガスした。反応器の温度を130℃に上昇させ、ウィルキンソン(Wilkinson)触媒とトリフェニルホスフィンとを含有する60mLのモノクロロベンゼン溶液を反応器に添加した。温度を138℃に上昇させ、反応の継続時間にわたり一定に保持した。IR分光法を用いて種々の時間間隔で残留二重結合(RDB)レベルを測定することにより水素化反応をモニターした。
【0050】
【表3】

【0051】
テルバン(Therban)(登録商標)A3407は、バイエル(Bayer)から市販されているものであり、比較を目的として使用される。それは、単純な水素化により実施例1〜2のときと同一の基質を用いて作製される。典型的な市販品では、Mnは97kg/molであり、一方、Mwは314kg/molである。予想どおり、分子量(MwおよびMn)は、メタセシス反応により低減され、ポリマー重量分布は、3.4(出発基質)から2.0(メタセシス生成物)まで低下する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】アルケンの相互交換(またはメタセシス)反応のスキームを示している。
【図2】不飽和ポリマーの分子量低下の原理を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)一般式I
【化1】

〔式中、
は、OsまたはRuであり;
Rは、水素、またはC〜C20アルケニル、C〜C20アルキニル、C〜C20アルキル、アリール、C〜C20カルボキシレート、C〜C20アルコキシ、C〜C20アルケニルオキシ、C〜C20アルキニルオキシ、アリールオキシ、C〜C20アルコキシカルボニル、C〜C20アルキルチオ、C〜C20アルキルスルホニル、およびC〜C20アルキルスルフィニルよりなる群から選択される炭化水素であり;
Xは、任意のアニオン性配位子から選択され;そして
は、単環式であるか多環式であるかを問わず、中性π結合配位子、好ましくは、限定されるものではないが、アレーン、置換型アレーン、ヘテロアレーンであり;
Lは、ホスフィン類、スルホン化ホスフィン類、フッ素化ホスフィン類、官能化ホスフィン類(上限3個のアミノアルキル基、アンモニウムアルキル基、アルコキシアルキル基、アルコキシルカルボニルアルキル基、ヒドロキシカルボニルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、またはケトアルキル基を有する)、ホスファイト類、ホスフィナイト類、ホスホナイト類、ホスフィンアミン類、アルシン類、スチルベン類、エーテル類、アミン類、アミド類、イミン類、スルホキシド類、チオエーテル類、およびピリジン類よりなる群から選択される配位子であり;
は、非配位性アニオンである〕
で示される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種の化合物の存在下で、かつ任意にさらに少なくとも1種のコオレフィンの存在下で、ニトリルゴムを反応させる工程と、水素化ニトリルポリマーの場合、
b)工程a)の生成物を水素化する工程と、
を含む、任意に水素化されていてもよいニトリルゴムの調製方法。
【請求項2】
前記ニトリルゴムが水素化され、かつ前記水素化が均一触媒条件下で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記水素化が、in situで、すなわち、工程a)の生成物を最初に単離することなく行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
Lがトリアルキルホスフィンであり、Lが1−メチル−4−イソ−プロピルフェニルであり、Xが塩化物イオンであり、Rがフェニルであり、かつMがルテニウムである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
化合物対ニトリルゴムの比が0.005〜5の範囲内である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1種のコオレフィンの存在下で行われる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
モノクロロベンゼン、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン、およびシクロヘキサンよりなる群から選択される不活性溶媒中で行われる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ニトリルゴムが水素化され、かつ前記水素化が、式:
(RB)RhX
〔式中、
各Rは、独立して、C〜C−アルキル基、C〜C−シクロアルキル基、C〜C15−アリール基、およびC〜C15−アラルキル基よりなる群から選択され;
Bは、リン、ヒ素、硫黄、およびスルホキシド基(S=O)よりなる群から選択され;
は、水素およびアニオンよりなる群から選択され;そして
lは、2、3、または4であり、mは、2または3であり、かつnは、1、2、または3である〕
で示される触媒を用いて行われる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記水素化触媒が(PPhRhClである、請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−534796(P2007−534796A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−500021(P2007−500021)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【国際出願番号】PCT/CA2005/000252
【国際公開番号】WO2005/080455
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(506241042)ランクセス・インコーポレーテッド (20)
【Fターム(参考)】