説明

低分子量ポリアニリンがグラフトしたカーボンナノチューブ及びその分散液

【課題】有機溶媒に対する親和性に優れ、有機溶媒中で良好に分散し得る化学修飾型カーボンナノチューブを提供する。
【解決手段】表面にカルボキシル基を有する、例えば、多層カーボンナノチューブなどの各種カーボンナノチューブと、例えば、3〜300量体などの多量体アニリンとが、アミド結合にて結合されてなる化学修飾型カーボンナノチューブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が化学修飾されたカーボンナノチューブに関し、さらに詳述すると、オリゴまたはポリアニリンで化学修飾されたカーボンナノチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNTと略記する場合もある)は、ナノテクノロジーの有用な素材として、広範な分野での応用の可能性が検討されている。
その用途としては、トランジスタや、顕微鏡用プローブなどのように単独のCNTそのものを使用する方法と、電子放出電極や燃料電池用電極、またはCNTを分散させた導電性複合体などのように多数のCNTをまとめてバルクとして使用する方法とに大別される。
【0003】
単独のCNTを使用する場合、CNTを溶媒中に加えてこれに超音波を照射した後、電気泳動等で単一に分散しているCNTのみを取り出す方法などが用いられている。
一方、バルクで用いる導電性複合体では、マトリックス材となる重合体などの中に良好に分散させる必要がある。
しかし、カーボンナノチューブは、一般的に分散し難いものであり、通常の分散手段により得られた複合体ではCNTの分散が不完全な状態となる。このためCNTの表面改質や、表面化学修飾などの種々の手法によってその分散性を高める検討がなされている。
【0004】
例えば、CNTをドデシルスルホン酸ナトリウムなどの界面活性剤を含有する水溶液に添加する方法(特許文献1:特開平6−228824号公報参照)があるが、この手法では、CNT表面に非導電性の有機物が付着するため、導電性が損なわれてしまう。
また、CNT表面にコイル状構造を有するポリマーを付着させる方法も知られている。具体的には、ポリ−m−フェニレンビニレン−co−ジオクトキシ−p−フェニレンビニレンを含む溶媒中にCNTを加え、沈殿するCNT複合材を分離、精製する方法が提案されている(特許文献2:特開2000−44216号公報)が、このポリマーは共役系が不完全であり、この場合も、CNTの導電性が損なわれてしなう。
【0005】
さらに、CNT表面にカルボキシル基を導入したり(特許文献3;米国特許第6368569号明細書)、アミノ基を導入したり(特許文献4,5:米国特許第6187823号明細書、米国特許第6331262号明細書)、グアニジン基を導入したり(特許文献6:特開2006−206568号公報)する手法も知られているが、これらの場合も分散性は不十分である。
【0006】
また、CNTの導電性を向上させる目的で、CNTと各種ポリマーとのハイブリッド化が検討されている。
その1つとして、CNTとポリアニリンとのハイブリット化物(組成物)が知られている(非特許文献1:European Polymer Journal, 38, 2002, p.2497-2501)が、この組成物も分散性に劣る。
【0007】
【特許文献1】特開平6−228824号公報
【特許文献2】特開2000−44216号公報
【特許文献3】米国特許第6368569号明細書
【特許文献4】米国特許第6187823号明細書
【特許文献5】米国特許第6331262号明細書
【特許文献6】特開2006−206568号公報
【非特許文献1】European Polymer Journal, 38, 2002, p.2497-2501
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、有機溶媒に対する親和性に優れ、有機溶媒中で良好に分散し得る化学修飾型カーボンナノチューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、表面にカルボキシル基を導入したカーボンナノチューブに、多量体アニリンをアミド結合によりグラフト化してなる化学修飾型カーボンナノチューブが、有機溶媒に対する親和性に優れており、有機溶媒中で高度に分散し得ることを見出すとともに、この分散液から作製された薄膜中において、カーボンナノチューブが薄膜全体に良好に分散してネットワーク構造を形成し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
1. 表面にカルボキシル基を有するカーボンナノチューブと、多量体アニリンとが、アミド結合で結合されてなることを特徴とする化学修飾型カーボンナノチューブ、
2. 前記カーボンナノチューブが、多層カーボンナノチューブである1の化学修飾型カーボンナノチューブ、
3. 前記カルボキシル基が、前記カーボンナノチューブ中に、0.1〜1mmol/g存在する1または2の化学修飾型カーボンナノチューブ、
4.前記多量体アニリンが、3〜300量体アニリンである1〜3のいずれかの化学修飾型カーボンナノチューブ、
5. 1〜4のいずれかの化学修飾型カーボンナノチューブが有機溶媒中に分散している組成物、
6. 5の組成物から得られる薄膜
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカーボンナノチューブは、その表面が多量体アニリンで修飾されているため、有機溶媒に対する親和性が高く、有機溶媒中で良好に分散する。
また、この分散液を用いて作製した薄膜中でも、カーボンナノチューブが膜全体に分散して存在し、ネットワーク構造を構築する。
本発明のカーボンナノチューブを含む薄膜は、半導体素材、導電体素材等として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る化学修飾型カーボンナノチューブは、表面にカルボキシル基を有するカーボンナノチューブと、多量体アニリンとが、アミド結合で結合されてなるものである。
カーボンナノチューブ(CNT)は、アーク放電法、化学気相成長法、レーザー・アブレーション法等によって作製されるが、本発明に使用されるCNTはいずれの方法によって得られたものであってもよい。また、CNTには1枚の炭素膜(グラフェン・シート)が円筒状に巻かれた単層CNT(以下、SWCNTと記載)と、2枚のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた2層CNT(以下、DWCNTと記載)と、複数のグラフェン・シートが同心円状に巻かれた多層CNT(以下、MWCNTと記載)とがあるが、本発明においては、SWCNT、DWCNT、MWCNTをそれぞれ単体で、または複数を組み合わせて使用できる。
【0013】
本発明において、CNT表面のカルボキシル基の量は、特に限定されるものでないが、一定量の多量体アニリンをグラフト化してCNTの分散性を十分に高めるためには、CNT中に0.1〜1mmol/g存在することが好ましく、0.3〜0.7mmol/g存在することがより好ましい。
CNT表面へのカルボキシル基の導入法は、例えば、Goh, H.W., Goh, S.H., Xu, G.Q., Pramoda, K.P., Zhang, W.D. “Crystallization and dynamic mechanical behavior of double-C-60-end-capped poly(ethylene oxide)/multi-walled carbon nanotube composites” Chem. Phys. Lett. 379 236-241 (2003)等に記載される手法を用いればよい。
【0014】
一方、多量体アニリンの製造法としても、特に限定されるものではなく、W.J. Zhang, J. Feng, A.G. MacDiarmid, and A.J. Epstein “Synthesis of oligomeric anilines” Synthetic Metals 84 119-120 (1997)等に記載される手法を用いればよい。
CNTにグラフト化する多量体アニリンは、分子量が大きいほど導電性の面では有利である。しかし、分子量の増加に伴って溶媒への溶解性が低下し、グラフト化したCNTの分散性向上効果が不十分となる、あるいはその分散性が低下する場合があるうえに、CNTのカルボキシル基と反応する末端NH2の反応性が低下し、CNTのグラフト化が困難になる場合があるため、3〜300量体であることが好ましく、より好ましくは3〜100量体、さらに好ましくは3〜32量体である。
【0015】
表面にカルボキシル基を有するCNTに、多量体アニリンをグラフト化する手法としては、カルボキシル基含有CNTと多量体アニリンとを、縮合剤および塩基の存在下、溶媒中で加熱する手法を用いることができる。
縮合剤としては、特に限定されるものではなく、公知の縮合剤から適宜選択することができ、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、亜リン酸トリフェニルなどが挙げられる。
【0016】
塩基としても特に限定されるものではなく、例えば、ピリジン、4−メチルアミノピリジンなどが挙げられる。
縮合剤および塩基の添加量は、いずれも多量体アニリンに対して等モル量から10倍モル量程度とすることができる。
反応溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等が挙げられる。
反応温度は、使用溶媒の沸点以下であればよく、通常、20〜200℃程度である。
反応時間は、通常、12〜48時間程度である。
反応終了後は、多量体アニリンの溶解能を有するアセトンやメタノールなどの有機溶媒で洗浄し、さらに濾過することで目的物を得ることができる。なお、目的物をソックスレー抽出によってさらに精製してもよい。
【0017】
本発明の化学修飾型カーボンナノチューブは、各種有機溶媒中で分散させ、組成物とすることができる。
このような有機溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル等のエーテル系化合物;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;DMF、NMP等のアミド系化合物;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物;メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール等のアルコール類;ノルマルヘプタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類などが挙げられ、中でもアセトン、NMPが好ましい。なお、上記有機溶媒は、1種単独でまたは2種以上混合して用いることができる。
【0018】
本発明の組成物の調製法は任意であり、有機溶媒とCNTとを適宜混合して調製すればよい。
この際、CNTおよび有機溶媒からなる混合物を分散化処理することが好ましい。分散化処理としては、ボールミル、ビーズミル、ジェットミルなどを用いた湿式処理や、バス型やプローブ型のソニケータを用いる超音波処理が挙げられるが、処理効率を考慮すると、超音波処理が好適である。
処理時間は任意であるが、5分間から10時間程度が好ましく、30分間から5時間程度がより好ましい。
なお、上記分散化処理時に加熱してもよく、この場合の処理温度や時間は特に限定されるものではないが、使用する溶媒の沸点付近の温度で1分間から1時間行うことが好ましく、3分間から30分間行うことがより好ましい。
【0019】
本発明の組成物におけるCNTの濃度は、有機溶媒中で分散し得る範囲であれば特に限定されるものではないが、本発明においては、組成物中に0.0001〜10質量%程度とすることが好ましく、0.001〜5質量%程度とすることがより好ましい。
【0020】
本発明の組成物は、上述した各種有機溶媒に可溶な汎用合成樹脂と混合して複合化させることもできる。
汎用合成樹脂の具体例としては、ポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP),エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA),エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン(PS),耐衝撃性ポリスチレン(HIPS),アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS),アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)等のスチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。
汎用合成エンプラの具体例としては、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0021】
本発明のCNT含有組成物(溶液)は、PET、ガラス、ITOなどの適当な基板上にキャスト法、スピンコート法、バーコート法、ロールコート法、ディップコート法などの適宜な方法により塗布して製膜することが可能である。
得られた薄膜は、カーボンナノチューブの金属的性質を活かした帯電防止膜、透明電極等の導電性材料、あるいは半導体的性質を活かした光電変換素子、電解発光素子などに好適に用いることができる。
【実施例】
【0022】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0023】
[合成例1]MWCNT−COOHの合成
濃硝酸400ml(5.4mol)にMWCNT(CNT社製、長さ1〜25μm、直径10〜50nm、黒鉛化処理無し)15gを加え、24時間撹拌した。撹拌終了後、吸引ろ過を行い、処理物を単離した。次に、得られた処理物を2.5mol/l硝酸400ml(1mol)に加え、130℃で48時間撹拌した。反応終了後、反応生成物を吸引ろ過し、イオン交換水で十分に洗浄した。さらに、遠心分離(3000rpm)を行い、反応生成物を単離した。最後に、反応生成物を24時間ソックスレー抽出(テトラヒドロフラン)することによりMWCNT表面にCOOH基が修飾されたMWCNT−COOH10.5g(収率70%)を得た。
FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計、FT−710、HORIBA(株)製、分解能4、スキャン回数200回)によって、1710cm-1にカルボキシル基のC=O伸縮振動に起因する吸収を確認し、目的物であることを同定した(図1)。
【0024】
[合成例2]4量体アニリンの合成
0.1MHCl水溶液206ml(0.021mol)にN−フェニル−1,4−フェニレンジアミン2.5g(0.014mol)を溶解させ、0℃に冷却した。別容器で0.1MHCl水溶液36ml(0.004mol)にFeCl3・6H2O6.13g(0.026mol)を溶解させ、0℃に冷却した。上記2つの溶液を混合し、0℃で4時間撹拌した。反応終了後、反応生成物を吸引ろ過し、0.1MHCl水溶液で十分に洗浄した。得られた反応生成物をイオン交換水150mlに加えて2時間撹拌し、その後0.1Mアンモニア水溶液1000ml(0.1mol)を同容器に加え、さらに48時間撹拌し、脱ドープ体へと導いた。反応終了後、反応生成物を吸引ろ過し、0.1Mアンモニア水溶液で十分に洗浄後、60℃で24時間減圧乾燥することにより、エメラルジンベース状態である4量体アニリン(4EB)1.78g(収率:71%)を得た。
FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計、FT−710、HORIBA(株)製、分解能8、スキャン回数10回)によって、1594cm-1,1504cm-1にベンゼン環に起因する吸収を、3000〜3500cm-1に第一および第二アミンに起因する吸収を確認し、目的物であることを同定した(図2)。
【0025】
[実施例1]MWCNT表面への4量体アニリングラフト
脱水NMP100mlにMWCNT−COOH0.4g(0.16mmol)を加え、1時間減圧しながら超音波(30W)を照射して分散溶液を調製した。この分散溶液に、4EB0.583g(1.6mmol)、蒸留したピリジン1.27g(16mmol)、および亜リン酸トリフェニル0.495g(1.6mmol)をこの順で加え、100℃で24時間撹拌した。反応終了後、反応溶液をメタノール250mlに加え、吸引ろ過を行いメタノールで十分に洗浄し、反応生成物を単離した。得られた反応生成物を、メタノール200mlに加えて30分間煮沸し、吸引ろ過を行いメタノールで十分に洗浄した。0.1MHCl水溶液150ml(0.015mol)に反応生成物を加え、1時間撹拌後、吸引ろ過を行い、イオン交換水で十分に洗浄し、さらに0.1Mアンモニア水溶液400ml(0.04mol)に得られた反応生成物を加え、12時間撹拌後、吸引ろ過を行い、イオン交換水で十分に洗浄した。最後に、反応生成物を10日間ソックスレー抽出(アセトン)することによりMWCNT表面に4EBが修飾されたMWCNT−4EB0.314g(収率:63%)を得た。
FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計、FT−710、HORIBA(株)製、分解能4、スキャン回数200回)によって、1562cm-1に4EBのベンゼンに起因する吸収が見られ、カルボキシル基のC=O伸縮振動に起因する吸収(1710cm-1)が小さくなり、第二アミドのC=O伸縮振動に起因する吸収を1675cm-1に確認し、目的物であることを同定した(図3)。
なお、元素分析から、MWCNTに対する4EB量は22.7質量%であった。
【0026】
[実施例2]MWCNT−4EB分散溶液(NMP)
NMPに、実施例1で合成したMWCNT−4EBを、MWCNT量が0.1質量%となるように加え、1時間超音波(30W)を照射して分散溶液を調製した。
この分散溶液を偏光顕微鏡(BX50,オリンパス光学工業(株)製、以下同様)で観察したところ、溶液中でMWCNTが良好に分散していた。また、この分散溶液を2ヶ月間室温で放置したところ、MWCNTの沈殿は生じなかった。
【0027】
[実施例3]MWCNT−4EB分散溶液(アセトン)
NMPをアセトンに変更した以外は、実施例2と同様にして分散溶液を調製した。
この分散溶液を偏光顕微鏡で観察したところ、溶液中でMWCNTが良好に分散していた。また、この分散溶液を2ヶ月間室温で放置したところ、MWCNTの沈殿は生じなかった。
【0028】
[実施例4]MWCNT−4EB分散溶液(NMP)
MWCNT−4EBを、MWCNT量が0.3質量%となるように加えた以外は、実施例2と同様にして分散溶液を調製した。
この分散溶液を偏光顕微鏡で観察したところ、溶液中でMWCNTが良好に分散していた。また、この分散溶液を2ヶ月間室温で放置したところ、MWCNTの沈殿は生じなかった。
【0029】
[実施例5]MWCNT−4EB分散溶液(アセトン)
MWCNT−4EBを、MWCNT量が0.3質量%となるように加えた以外は、実施例3と同様にして分散溶液を調製した。
この分散溶液を偏光顕微鏡で観察したところ、溶液中でMWCNTが良好に分散していた。また、この分散溶液を2ヶ月間室温で放置したところ、MWCNTの沈殿は生じなかった。
【0030】
[実施例6]MWCNT−4EB分散溶液(NMP)
MWCNT−4EBを、MWCNT量が0.5質量%となるように加えた以外は、実施例2と同様にして分散溶液を調製した。
この分散溶液を偏光顕微鏡で観察したところ、溶液中でMWCNTが良好に分散していた(図4参照)。また、この分散溶液を2ヶ月間室温で放置したところ、MWCNTの沈殿は生じなかった。
【0031】
[実施例7]MWCNT−4EB分散溶液(アセトン)
MWCNT−4EBを、MWCNT量が0.5質量%となるように加えた以外は、実施例3と同様にして分散溶液を調製した。
この分散溶液を偏光顕微鏡で観察したところ、溶液中でMWCNTが良好に分散していた。また、この分散溶液を2ヶ月間室温で放置したところ、MWCNTの沈殿は生じなかった。
【0032】
上記実施例2,4,6で調製した分散溶液を、ドクターブレード法(可変式ドクターブレード、テスター産業(株)製、バーコーター(自動塗工装置PI−1210)、テスター産業(株)製)およびスピンコート法(SPINCOATER 1H−D7 (MAKASA(株))製)によりガラス基板上に塗布した薄膜の走査型電子顕微鏡観察の結果、基板上でMWCNTがネットワーク構造を形成していた。実施例2の結果を図7に示す。
ドクターブレード法では塗布速度(機器上で1〜7まであり、7が最も速い)によって膜厚を制御し、スピンコート法では分散溶液のMWCNT濃度によって膜厚を制御した。
結果のまとめを表1に示す。
【0033】
【表1】

(1)液の分散性
○:目視できる凝集塊がない(数μm以下)
×:目視できる凝集塊が存在する(数十μm以上)
(2)ガラス上の分散性
○:目視できる凝集塊がない(数μm以下)
×:目視できる凝集塊が存在する(数十μm以上)
【0034】
[比較例1]MWCNT分散溶液(NMP)
NMPにMWCNT0.1質量%を加え、1時間超音波(30W)を照射して分散溶液を調製した。
この分散溶液を偏光顕微鏡で観察したところ、溶液中でMWCNTが巨大な凝集塊を形成していた。また、この分散溶液を2ヶ月間室温で放置したところ、MWCNTの沈殿が生じた。
【0035】
[比較例2]MWCNT分散溶液(アセトン)
NMPをアセトンに変更した以外は、比較例1と同様にして分散溶液を調製した。
この分散溶液を偏光顕微鏡で観察したところ、溶液中でMWCNTが巨大な凝集塊を形成していた。また、この分散溶液を2ヶ月間室温で放置したところ、MWCNTの沈殿が生じた。
【0036】
[比較例3]MWCNT−COOH分散溶液(NMP)
NMPにMWCNT−COOHをMWCNT量が0.1質量%となるように加え、1時間超音波(30W)を照射して分散溶液を調製した。
この分散溶液を偏光顕微鏡で観察したところ、溶液中でMWCNTが凝集塊を形成していた。また、この分散溶液を2ヶ月間室温で放置したところ、MWCNTの沈殿が生じた。
さらに、この分散溶液をスピンコート法でガラス基板上に塗布した薄膜の走査型電子顕微鏡観察の結果、基板上でMWCNTが凝集構造を形成していた(図8参照)。
【0037】
[比較例4]MWCNT−COOH分散溶液(アセトン)
NMPをアセトンに変更した以外は、比較例3と同様にして分散溶液を調製した。
この分散溶液を偏光顕微鏡で観察したところ、溶液中でMWCNTが凝集塊を形成していた。また、この分散溶液を2ヶ月間室温で放置したところ、MWCNTの沈殿が生じた。
さらに、この分散溶液をスピンコート法でガラス基板上に塗布した薄膜の走査型電子顕微鏡観察の結果、基板上でMWCNTが凝集構造を形成していた。
【0038】
[比較例5]MWCNT−COOH分散溶液(NMP)
MWCNT−COOHをMWCNT量が0.5質量%となるように加えた以外は比較例3と同様にして分散溶液を調製した。
この分散溶液を偏光顕微鏡で観察したところ、溶液中でMWCNTが凝集塊を形成していた(図5参照)。また、この分散溶液を2ヶ月間室温で放置したところ、MWCNTの沈殿が生じた。
さらに、この分散溶液をスピンコート法でガラス基板上に塗布した薄膜の走査型電子顕微鏡観察の結果、基板上でMWCNTが凝集構造を形成していた。
【0039】
[比較例6]MWCNT−COOH分散溶液(アセトン)
MWCNT−COOHをMWCNT量が0.5質量%となるように加えた以外は比較例4と同様にして分散溶液を調製した。
この分散溶液を偏光顕微鏡で観察したところ、溶液中でMWCNTが凝集塊を形成していた。また、この分散溶液を2ヶ月間室温で放置したところ、MWCNTの沈殿が生じた。
さらに、この分散溶液をスピンコート法でガラス基板上に塗布した薄膜の走査型電子顕微鏡観察の結果、基板上でMWCNTが凝集構造を形成していた。
【0040】
[比較例7]MWCNT−COOH+4EBポストブレンド分散溶液
NMPに、MWCNT−COOHをMWCNT量が0.5質量%となるように加え、さらにMWCNT−4EBに含まれる4EBと同量の4EB(MWCNTに対して22.7質量%)を加え、1時間超音波(30W)を照射して分散溶液を調製した。この分散溶液は、多数の凝集塊が形成された(図6参照)。
比較例1,3,7のまとめを表2に示す。
【0041】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】合成例1で得られたMWCNT−COOHのFT−IRスペクトルを示す図である。
【図2】合成例2で得られた4量体アニリン(4EB)のFT−IRスペクトルを示す図である。
【図3】実施例1で得られたMWCNT−4EBのFT−IRスペクトルを示す図である。
【図4】実施例6で調製したMWCNT−4EB分散溶液(0.5質量%)の性状を示す写真であり、分散溶液を壁面に付着させた後の状態を撮影したものである。
【図5】比較例5で調製したMWCNT−COOH分散溶液(0.5質量%)の性状を示す写真であり、分散溶液を壁面に付着させた後の状態を撮影したものである。
【図6】比較例7で調製したMWCNT−COOH+4EBポストブレンド分散溶液(0.5質量%)の性状を示す写真であり、分散溶液を壁面に付着させた後の状態を撮影したものである。
【図7】実施例2で調製したMWCNT−4EB分散溶液(0.1質量%)から作製した薄膜のSEM写真である。
【図8】比較例3で調製したMWCNT−COOH分散溶液(0.1質量%)から作製した薄膜のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にカルボキシル基を有するカーボンナノチューブと、多量体アニリンとが、アミド結合で結合されてなることを特徴とする化学修飾型カーボンナノチューブ。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブが、多層カーボンナノチューブである請求項1記載の化学修飾型カーボンナノチューブ。
【請求項3】
前記カルボキシル基が、前記カーボンナノチューブ中に、0.1〜1mmol/g存在する請求項1または2記載の化学修飾型カーボンナノチューブ。
【請求項4】
前記多量体アニリンが、3〜300量体アニリンである請求項1〜3のいずれか1項記載の化学修飾型カーボンナノチューブ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の化学修飾型カーボンナノチューブが有機溶媒中に分散している組成物。
【請求項6】
請求項5記載の組成物から得られる薄膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−274900(P2009−274900A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126695(P2008−126695)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年11月15日 社団法人高分子学会東北支部主催の「2007 高分子学会東北支部研究発表会」において文書をもって発表
【出願人】(501496201)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】