説明

低分子量及び高分子量の多糖の架橋;注射用単相ヒドロゲルの調製;多糖及び得られたヒドロゲル

【課題】
【解決手段】本発明は、:
多糖及びその誘導体から選択される少なくとも一種の重合体を架橋するための方法であって、水性溶媒中で、有効量かつ非過剰量の少なくとも一種の架橋剤を使用して実施し、少なくとも一種の低分子量重合体及び少なくとも一種の高分子量重合体を含む混合物を対象に実施することを特徴とする方法;
多糖及びその誘導体から選択される少なくとも一種の架橋型重合体の注射用単相ヒドロゲルを調製する方法;並びに、
上記の各方法によりそれぞれ得られる架橋型重合体及び注射用単相ヒドロゲル:
に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
−多糖及びその誘導体から選択される少なくとも一種の重合体を架橋するための新規方法;
−少なくとも一種の上記重合体の注射用単相ヒドロゲルを調製するための方法;並びに、
−上記各々の方法によってそれぞれ得られる架橋型重合体及び注射用単相ヒドロゲル
に関する。
【背景技術】
【0002】
上記架橋型重合体に基づく当該ヒドロゲルは、特に、形成外科、美容外科、歯科外科の手術における、及び、眼科学や整形外科等における増量材として、並びに、一般的に外科や泌尿器科等における組織接着防止材として、多くの販路がある。上記ヒドロゲルは、声帯の治療に特に適切である。この種の物質についての上述の販路については当業者であれば熟知するが、これらに何ら限定されるものではない。
【0003】
本発明は、次の組み合わせについて、すなわち物性、レマネンス(remanence)及び(許容される注射力及び注射針の直径による)手による注射特性について特に有用である、注射用単相ヒドロゲルを得ることを目的とし、当該重合体の架橋作業を最適化するために鋭意研究した結果によるものである。
【0004】
本発明において、注目すべきは、本明細書中で従来技術のヒドロゲル及び本発明のヒドロゲルの両方について使用する「注射用」という用語は、従来の注射針(直径0.1〜0.5mm)を有する注射器を使用して手で注射可能であるということを指す。本発明の範囲内において、特に、30G(1/2)、27G(1/2)、26G(1/2)及び25Gの皮下注射針で注射可能なヒドロゲルの調製が可能である。
【0005】
従来技術によれば、架橋度が0又は低架橋度又は高架橋度の多糖及びその誘導体(特にヒアルロン酸塩)を使用してヒドロゲル(特に注射用ヒドロゲル)が既に調製されている。
【0006】
具体的に、注射特性の問題に関して、特に連続相が上記ヒドロゲルに基づく二相組成物が提案されている。この連続相は、可塑剤、すなわち分散相を注射するための媒体としての役割を果たす。この分散相は事実上固体であり、かつ、上記連続相とは事実上区別される。
【0007】
特許文献1中に記載される二相組成物は上述のように、二つの生体吸収性相(連続相及び分散相)からなり、スラリー状である。上記二つの相は、ヒラン(Hylan)(組織からの抽出を容易にするためin situで化学改変した天然ヒアルロン酸)の繊維から有利に調製される。
【0008】
また、特許文献2中に記載される二相組成物は、上記より更に明瞭に区別された二つの生体吸収性相を有し、分散相は(ヒアルロン酸及びその塩から選択される)高架橋度の高分子ヒドロゲルの不溶性分画からなる。
【0009】
特許文献3中に記載される二相組成物は、タンパク質、多糖及びその誘導体から選択される架橋型又は非架橋型重合体の水溶液中に懸濁された状態の非生体吸収性分散相(アクリル酸及び/又はメタクリル酸及び/又はこれらの酸の少なくとも一種の誘導体の重合及び架橋によって得られる(共)重合体の少なくとも一種のヒドロゲルの粒子)を含む。
【0010】
このような二相系は、注射中の流動が不均質であり、特に注射後に(架橋度が0又は低架橋度の)連続相が急速に消失するため、所望の効果(特に増量効果)が少なくとも部分的に損なわれる恐れが必然的にあり、完全に満足のいくものではない。
【0011】
従って、上記の種類の重合体から得られる単相ヒドロゲルもまた並行して提案されている。
【0012】
特許文献4及び5中においては、当該物質は注射用ヒドロゲルではなく、固体の粘稠度を有する物質である。上記文献が実際に記載するのは、外科手術で生じた空間の一時的な充填に使用される眼科用インプラントである。また、特許文献6中に記載されるヒドロゲルは、硝子体の代替物質として提案されている。当該重合体(ヒアルロン酸ナトリウム)は架橋度が非常に低いため、この重合体の使用により注射用ヒドロゲルの取得が可能である。特許文献7中に記載される単相ヒドロゲルは、移植後にフリーラジカルから保護するための防腐剤を含む。更に、特許文献8中には、全体に非常に均質なこの種のヒドロゲルを形成可能な方法が記載されている。
【0013】
上記単相ヒドロゲルは全て、有効量かつ非過剰量の少なくとも一種の架橋剤の水性溶媒溶液を使用して架橋した高分子量の重合体により得られるものである。
【0014】
この従来技術に照らして、本発明者らは、当該重合体の架橋効力の改善により、特に、移植したヒドロゲルの分解抵抗性(レマネンス)を改善すると同時に、許容される条件下で上記ヒドロゲルの注射特性を維持することを目的とした。
【0015】
架橋効力を改善するために、本発明者らは当初、架橋剤の増量について考慮した。しかしこの方法は、当該重合体の変性及び得られる架橋体の化学汚染が不可避的に生じるという理由から、直ちに退けられた。
【0016】
次に、本発明者らは、反応混合物中の重合体濃度の増大について考慮した。しかし、この第二の方法も同様に、慣習的に従来使用される重合体(すなわち高分子量重合体)が原因で、論理に基づいて退けられた。従って通常は、高分子量(Mw≧10Da、≒2×10Da、3×10Da)のヒアルロン酸ナトリウムをほぼ最大濃度(約105〜110mg/g)で使用する。ヒアルロン酸ナトリウムのこれより高濃度での使用は、反応混合物の粘度が過剰に高くなるために困難であり、またこの場合、溶解度や不十分な均質性等の問題が不可避的に生じる。
【0017】
一方、反応媒体の高濃度化は、低分子量重合体について可能であることが分かっている。分子量300,000Daで固有粘度600ml/gのヒアルロン酸ナトリウムを、濃度110〜200mg/gの範囲に高濃度化可能である。当業者であればこの二つのパラメーター(分子量(M)及び固有粘度(η))間の関係をよく熟知している。この関係は、Mark−Houwinkの式「M=kηα」から得られる。k及びαの値は、当該重合体の性質により変化する。しかし残念ながら、得られる架橋型重合体を使用すると、上記条件下で不均質な注射用二相ヒドロゲルが形成される。
【特許文献1】欧州特許EP−A−0466300
【特許文献2】PCT特許WO−A−9633751
【特許文献3】PCT特許WO−A−0001428
【特許文献4】PCT特許WO−A−9835639
【特許文献5】PCT特許WO−A−9835640
【特許文献6】米国特許US−A−4716154
【特許文献7】PCT特許WO−A−0205753
【特許文献8】PCT特許WO−A−0206350
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記範囲内において、本発明者らは予想外にも、低分子量重合体と高分子量重合体を会合させることにより、優れた特性の組み合わせを取得できる(すなわち、架橋度が過剰ではなく(従来技術と同程度で)、物性及びレマネンス特性が改善された注射用単相ヒドロゲルを形成可能である)ことを立証した。この低分子量/高分子量の会合によって、次の要因を十二分に満足するヒドロゲルの取得が可能である:
−単相であること;
−従来技術による物質よりも物性及びレマネンスが良好であること;
−従来と同程度の又は改善された注射特性を、従来の注射器具を使用して従来の注射力により実現可能であること。
【課題を解決するための手段】
【0019】
従って、本発明の架橋方法の主な要素は反応物の高濃度化(低分子量重合体を使用した従来技術による反応混合物の濃度よりも高濃度)であって、これにより、得られる架橋体が均質となり、その結果、得られるヒドロゲルが均質となる。しかし、この高濃度の反応物の架橋度は、高分子量重合体の使用量に「左右」される。
【0020】
従って、本発明の第一の主題によれば、本発明は、
多糖及びその誘導体から選択される少なくとも一種の重合体を架橋するための方法であって、
水性溶媒中で、有効量かつ非過剰量の少なくとも一種の架橋剤を使用して実施する
ことを特徴とする方法
に関する。この方法は、少なくとも一種の低分子量重合体及び少なくとも一種の高分子量重合体を含む混合物を対象に実施するという点で改善されている。
【0021】
当然のことながら、上記混合物は、反応媒体中の重合体濃度が比較的高くなり得る量の上記低分子量重合体を含み、かつ、得られる上記架橋型重合体の粘稠度が均質になり得る量の上記高分子量重合体を含む。
【0022】
本発明の架橋方法は、多糖及びその誘導体から選択される重合体の架橋方法である。従って、当該重合体は天然物でも合成物でもよい。天然重合体の例としては、ヒアルロン酸及びその塩、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリン及びヘパラン硫酸等の他のグリコサミノグリカン、アルギン酸及びその生物学的に許容される塩、デンプン、アミロース、デキストラン、キサンタン、プルラン等がある。天然多糖の合成誘導体の例としては、カルボキシセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のアルキルセルロース、酸化デンプン等がある。
【0023】
本発明の方法は、任意の上記重合体の架橋について、上記重合体が低分子量の場合でも高分子量の場合でも適切に使用できる。
【0024】
本発明の方法は、上記重合体からなり、少なくとも一種の低分子量重合体及び少なくとも一種の高分子量重合体を含む混合物の架橋に対して適切である。
【0025】
当該分子量について使用される「低分子量」及び「高分子量」という用語は、当該混合物及び含有重合体の性質により異なるため、本発明の記載の現段階でより正確な定義が不可能であるのは明瞭である。同様に、含有重合体の相対的な使用割合についても概して記載不可能である。しかし、当業者であれば、低分子量重合体を含む反応媒体を高濃度化し、かつ、少なくとも一種の高分子量重合体を配合して当該架橋を緩和及び調節するという本発明の目的を十分に理解している。本発明は、単相ヒドロゲルの前駆物質である粘着性架橋体の取得を目指すものである。また、凝集物については、架橋終了後には粘着性である可能性があるが、上記注射用ヒドロゲル調製時にはその粘着性が消滅する可能性があるため、凝集物の形成は防ぐことが望ましい。
【0026】
上記の説明は、経験的なものである。全く予測不可能な結果が得られた。
【0027】
本発明のある有利な変形形態の範囲内において、反応媒体は、少なくとも二種の異なる分子量を有する単一の重合体を含み、この分子量のうち少なくとも一種が低く、少なくとも一種が高い。この有利な変形形態の範囲内において、この重合体は、単一の低分子量及び単一の高分子量を有することが好ましい。
【0028】
当該重合体は、有利にはヒアルロン酸塩である。当該重合体は、ナトリウム塩、カリウム塩及びそれらの混合物から選択されることが非常に有利である。当該重合体は、ナトリウム塩(NaHA)からなることが好ましい。
【0029】
この種の重合体の架橋は塩基性水性溶媒中で実施することが、当業者には理解される。上記架橋は一般的に、当該重合体の溶解に有利なpH条件下で実施することが明白である。
【0030】
この種の重合体(ヒアルロン酸塩)の架橋については、架橋を実施するためのある好ましい変形形態において、反応混合物は次のものを含む:
−少なくとも一種の低分子量m(m≦9.9×10Da、有利には10Da≦m≦9.9×10Da)のヒアルロン酸塩;及び、
−少なくとも一種の高分子量M(M≧10Da、有利には10Da≦M≦10Da、非常に有利には1.1×10Da≦M≦5×10Da)のヒアルロン酸塩:
上記低分子量及び高分子量の塩は、有利には同じ性質を有し、非常に有利にはヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)からなる。
【0031】
このような範囲内において、上記反応混合物は、反応混合物中における固有粘度が1900ml/g未満、すなわち「Σω[η<1900ml/g(式中、ωは固有粘度[ηの重合体分画iの質量分率)」であることが有利である。当業者は、固有粘度パラメーターに熟知し、かつ、上記パラメーターの加法則について承知している。
【0032】
上述の条件により、レマネンス特性及び注射特性が最適化された単相ヒドロゲルの取得が可能である。またこの条件により、低分子量(m)及び高分子量(M)の塩の相対的な割合が固定される。
【0033】
本明細書の範囲内(分子量m及びMのNaHA)において、反応混合物は少なくとも一種の低分子量mのヒアルロン酸塩を有利には50重量%より多く、非常に有利には70重量%より多く含み、従って論理上は、少なくとも一種の高分子量Mのヒアルロン酸塩を有利には50重量%未満、非常に有利には30重量%未満含む。
【0034】
一般的に、予想した効果を得るために、反応混合物は少なくとも一種の高分子量Mのヒアルロン酸塩を少なくとも5重量%含む。
【0035】
本発明の架橋方法は、有利には、単一の低分子量m及び単一の高分子量Mのヒアルロン酸ナトリウムを対象に実施する。ここで、上記パラメーターは非常に有利には以下のとおりである:m≒3×10Da、及び、M≒3×10Da。
【0036】
多糖及びその誘導体を水酸基により架橋するとして知られる任意の薬剤を、架橋剤としてあらゆる種の重合体に対して使用できるが、上記架橋剤は、特に使用するエポキシ化合物又はその誘導体を架橋できるように、少なくとも二官能型である。
【0037】
二官能型の架橋剤は、単独での又は混合物としての使用が推奨される。エピクロロヒドリン、ジビニルスルホン、1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ブタン(又は、1、4−ビスグリシドキシブタン又は1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE))、1,2−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)エチレン、1−(2,3−エポキシプロピル)−2,3−エポキシシクロヘキサン、並びに、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド及びクロトンアルデヒド等のアルデヒドの、単独での又は混合物としての使用が特に推奨される。1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ブタン(BDDE)の使用が最も特別に推奨される。
【0038】
当業者であれば、有効量かつ非過剰量の架橋剤使用量の決定方法を知るであろう。次の割合で定義される架橋度(τ)が理論上0.5〜70%、有利には4〜50%となるような有効量かつ非過剰量の使用が推奨される:
【0039】
【数1】

【0040】
本発明の架橋方法は、当該重合体の使用状態の点において新規である。他の点においては、本発明の架橋方法は、少なくとも一種の架橋剤を使用する従来の方法によって実施する。上記架橋剤は、一般的には溶解した重合体と反応させることが知られているが、PCT特許WO−A−0206350記載の方法により水和中に上記重合体と反応させることも何ら除外されない。
【0041】
本発明の架橋方法により得られる架橋体を配合することにより、一般的に、所望の注射用単相ヒドロゲルの形成が可能である。必要であれば、上記架橋体を予め中和する。ヒアルロン酸塩は実際には塩基性媒体中で架橋されることが分かっている。上記配合は、(当該ヒドロゲルが一般的に人体への注射を意図したものであるため)人体にとって適切なpHに緩衝した溶液中で実施し、上記pHは6.5〜7.5、有利には7〜7.4、非常に有利には7.1〜7.3である。上記架橋型重合体は上記溶液中で平衡状態にある。また、人体の浸透圧と同じ浸透性が得られる。予想外にも、この配合段階後に得られる本発明の架橋型重合体の希釈物は単相ヒドロゲルである。
【0042】
本発明を実施するためのある好ましい変形形態において、本発明の注射用ヒドロゲルは、ヒアルロン酸塩(上記参照)からなる少なくとも一種の重合体の混合物を架橋し、得られる架橋体を中和した後、pH7.1〜7.3に緩衝した溶液中に濃度10〜40mg/g、有利には20〜30mg/gで配合することによって調製する。
【0043】
(本発明の第一の主題である架橋方法によって得られる)架橋型重合体から注射用単相ヒドロゲルを調製する方法は、本発明の第二の主題である。
【0044】
次に本発明の第三及び第四の主題について、これらはそれぞれ、上述するように、上記架橋方法(第一の主題)を実施して得られる架橋型重合体、及び、上記架橋型重合体の配合(第二の主題)により得られる注射用単相ヒドロゲルからなる。
【0045】
上記重合体及びヒドロゲルは、有利には低分子量ヒアルロン酸ナトリウム及び高分子量ヒアルロン酸ナトリウムを含み、上記低分子量ヒアルロン酸ナトリウムの割合は非常に有利には50重量%より大きい。
【0046】
注射用単相ヒドロゲルの構造(本発明の第四の主題)は新規である。その粘稠度は分解に対して抵抗性がある。この上記ヒドロゲルの抵抗性は、従来技術による物質の抵抗性よりもはるかに大きい。
【0047】
当業者であれば、(特にこの種の)ヒドロゲルの粘稠度の算出方法の一つが次のパラメーターの測定であることを承知している:
【0048】
【数2】

【0049】
本発明のヒドロゲルは、本明細書の導入部で示す販路を有する。この販路は、上記の目的に対して特に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
ここで、以下の実施例により、本発明の多様な特徴について例証する。
【0051】
より正確には、実施例1は従来技術(高分子量重合体の架橋)を例証する。
【0052】
また、実施例2は、本明細書の導入部で示す認識(上記低分子量重合体の架橋)を例証する。
【0053】
実施例3及び4は、本発明(使用量が相対的に異なる、上記低分子量重合体及び高分子量重合体の架橋)を例証する。
【0054】
まず最初に、当該物質の特徴を調べるためのいくつかの測定法について記載する。
【0055】
<固有粘度の測定>
ヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)の固有粘度(ml/g)を、NaHAについてのヨーロッパ薬局方(2.2.9)に従って、ウベローデ毛細管式粘度計を使用することにより測定する。
【0056】
<放出力の測定(この試験については特定の基準はない)>
NaHAに基づくゲルの注射特性を、標準的な注射器に入れたゲルを27G(1/2)の針から速度12.5mm/分で放出するのに要する力(ニュートン、N)の測定により決定する。上記試験は、Verstatet(R)引張装置(Mecmesin社販売)を使用して実施した。
【0057】
<レマネンスの測定>
ゲルの粘稠度は、圧力調節式レオメーター(TA Instruments社、Carrimed CSL 500)及び4cm2oの円錐平板系を使用して、一定変数域で、周波数(0.05〜10Hz)に対する弾性率(G’)及び粘性率(G’’)のレオロジー測定による25℃での値である。このレオメーターは、定期的に検査及び調整する。架橋したゲルが分解すると粘稠度が変化する。粘稠度は、周波数1Hzにおけるパラメーター「タンジェントデルタ(tan.Δ=G’’/G’)」の経時的な値の増大によって測定される。ゲルは、温度93℃に加熱すると分解する。この温度でtan.Δ=0.65(ゲルが分解した状態に相当)となった時間を測定する。任意に、実施例1のゲルのレマネンス率を1と設定した(上記時間に相当)。他のゲルのレマネンス率の値は相対値である。
【0058】
<ヒドロゲルの外観>
(単相)
顕微鏡観察による外観:明瞭な液相はない(ゲルが微細に破砕されてファセット状になっている)。
肉眼観察による外観:柔軟で容易に流動する。
(二相)
顕微鏡観察による外観:ゲル断片が低粘度液体媒体中に浸漬された状態。
肉眼観察による外観:「ピューレ状」非常に容易に破砕され、ゲルの凝集はなく、容易に流動しない。
【実施例1】
【0059】
<高分子量の繊維>
固有粘度2800ml/gで水分量8.7%のヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)繊維3.5gを量り取り、0.25NのNaOH25.6gを添加する。スパチュラを使用して手で標準的に均質化することにより、2時間かけて繊維を水和させる。1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)溶液0.96gを0.25N水酸化ナトリウム溶液中に1/5に希釈したものを反応媒体中に添加し、これを15分間機械的に均質化した後、50℃±1℃に自動温度調節した浴中に浸漬する。
R=[BDDE]/[NaHA]=6%;[NaHA]=105mg/g
【0060】
2時間反応させる。架橋した物質をリン酸バッファー溶液中で中和してpH7.2とした後、透析する。得られたヒドロゲルの濃度を調節し([NaHA]=26mg/g)、このヒドロゲルを機械的に均質化した後、注射器に充填してオートクレーブ中で湿式加熱により滅菌する。
滅菌後の注射力:25N
ヒドロゲルのレマネンス率:1.0
単相ヒドロゲル
【実施例2】
【0061】
<低分子量の繊維>
固有粘度600ml/gで水分量5.5%のヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)繊維1.56gを量り取り、0.25NのNaOH7.15gを添加する。スパチュラを使用して手で標準的に2時間かけて均質化することにより、繊維を水和させる。1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)溶液0.31gを0.25N水酸化ナトリウム溶液中に1/5に希釈したものを反応媒体中に添加し、これを15分間機械的に均質化した後、50℃±1℃に自動温度調節した浴中に浸漬する。
R=[BDDE]/[NaHA]=6.8%;[NaHA]=174mg/g
【0062】
2時間反応させる。架橋した物質をリン酸バッファー溶液中で中和してpH7.2とした後、透析する。得られたヒドロゲルの濃度を調節し([NaHA]=26mg/g)、このヒドロゲルを機械的に均質化した後、注射器に充填してオートクレーブ中で滅菌する。
滅菌後の注射力:24N
ヒドロゲルのレマネンス率:6.0
二相ヒドロゲル
【実施例3】
【0063】
<繊維の混合物>
固有粘度600ml/gで水分量5.5%のヒアルロン酸ナトリウム(NaHA)繊維0.763g、及び、固有粘度2800ml/gで水分量9.3%のヒアルロン酸ナトリウム繊維0.237gを量り取る。混合物中における割合(重量):600/2800:77/23(w/w)。
【0064】
方法は実施例2の方法と同一である。
R=[BDDE]/[NaHA]=7%;[NaHA]=140mg/g;[NaHA]=26mg/g
滅菌後の注射力:15N
ヒドロゲルのレマネンス率:3.6
単相ヒドロゲル
【実施例4】
【0065】
<繊維の混合物>
実施例3の実験を割合(重量)を変えて実施する。混合物中における割合(重量):600/2800:90/10(w/w)。
【0066】
方法は実施例2の方法と同一である。
R[BDDE]/[NaHA]=6.5%;[NaHA]=140mg/g;[NaHA]=26mg/g
滅菌後の注射力:14N
ヒドロゲルのレマネンス率:7.7
単相ヒドロゲル
【0067】
上記実施例を、下記表中にまとめる。
【0068】
【表1】

【0069】
付随の図は、実施例1〜4で調製した四種のヒドロゲルそれぞれについて、次の曲線を示す:
Tan.Δ=f(応力の周波数数)
【0070】
本発明(実施例3及び4)のヒドロゲルのレオロジー特性は、従来技術のヒドロゲル(実施例1)のものとは異なる。
【0071】
また、本発明のヒドロゲルは単相であり、従って、実施例2のヒドロゲル(二相)とは大きく異なる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例1〜4で調製した四種のヒドロゲルそれぞれについて、Tan.Δ=f(応力の周波数数)の曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖及びその誘導体から選択される少なくとも一種の重合体を架橋するための方法であって、
水性溶媒中で、有効量かつ非過剰量の少なくとも一種の架橋剤を使用して実施し、
少なくとも一種の低分子量重合体及び少なくとも一種の高分子量重合体を含む混合物を対象に実施する
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記混合物は、少なくとも二種の異なる分子量を有する単一の重合体を含み(この分子量のうち少なくとも一種が低く、少なくとも一種が高い)、有利には二種の異なる分子量(一種が低く一種が高い)を有する単一の重合体を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記重合体は、有利にはヒアルロン酸塩である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒアルロン酸塩は、ナトリウム塩、カリウム塩及びそれらの混合物から選択され、有利にはナトリウム塩からなる
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記混合物は次のものを含む:
−少なくとも一種の低分子量m(m≦9.9×10Da、有利には10Da≦m≦9.9×10Da)のヒアルロン酸塩;及び、
−少なくとも一種の高分子量M(M≧10Da、有利には10Da≦M≦10Da、非常に有利には1.1×10Da≦M≦5×10Da)のヒアルロン酸塩:
前記低分子量及び高分子量の塩は、有利には同じ性質を有し、非常に有利にはヒアルロン酸ナトリウムからなる:
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記混合物は、固有粘度が1900ml/g未満である
ことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記混合物は少なくとも一種の低分子量mのヒアルロン酸塩を50重量%より多く、有利には70重量%より多く含み、少なくとも一種の高分子量Mのヒアルロン酸塩を50重量%未満、有利には30重量%未満含む
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記混合物は少なくとも一種の高分子量ヒアルロン酸塩を少なくとも5重量%含む
ことを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記混合物は、分子量約3×10Daのヒアルロン酸ナトリウムを約90重量%、及び、分子量約3×10Daのヒアルロン酸ナトリウムを約10重量%含む
ことを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記架橋剤は、二官能型の架橋剤及びその混合物から選択され、有利にはエピクロロヒドリン、ジビニルスルホン、1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ブタン、1,2−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)エチレン、1−(2,3−エポキシプロピル)−2,3−エポキシシクロヘキサン、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド及びクロトンアルデヒド等のアルデヒド、並びに、これらの混合物から選択され、非常に有利には1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ブタンからなる
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも一種の架橋剤の有効量かつ非過剰量は、次の割合で定義される架橋度が理論上0.5〜70%、有利には4〜50%となるような量である:
100×(前記架橋剤中の反応基の総数)/(含有重合体分子中の二糖単位の総数):
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
多糖及びその誘導体から選択される少なくとも一種の架橋型重合体の注射用単相ヒドロゲルを調製する方法であって、
以下:
請求項1〜11のいずれか1項に記載の、混合物を架橋すること;及び、
この架橋した混合物を、必要であれば中和して、pH6.5〜7.5、有利には7〜7.4、非常に有利には7.1〜7.3に緩衝した溶液中に配合すること:
を含む
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
以下:
請求項3〜11のいずれか1項に記載の、混合物を架橋すること;及び、
この架橋した混合物を、中和して、pH7.1〜7.3に緩衝した溶液中に、濃度10〜40mg/g、有利には20〜30mg/gで配合すること:
を含む
ことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の架橋方法を実施することにより得られる架橋型重合体。
【請求項15】
請求項12又は13に記載の方法を実施することにより得られる注射用単相ヒドロゲル。
【請求項16】
低分子量ヒアルロン酸ナトリウム及び高分子量ヒアルロン酸ナトリウムを架橋した状態で含む
ことを特徴とする請求項15に記載の注射用単相ヒドロゲル。

【図1】
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【公表番号】特表2006−522851(P2006−522851A)
【公表日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505785(P2006−505785)
【出願日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【国際出願番号】PCT/FR2004/000870
【国際公開番号】WO2004/092222
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(505377267)
【Fターム(参考)】