説明

低収縮性熱接着性繊維

【課題】 主体繊維の特徴を損なうことなく、寸法安定性及び柔軟性に優れた不織布を得ることができる低収縮性熱接着性繊維を提供する。
【解決手段】 融点又は流動開始温度が200℃以下の低融点ポリエステルからなる繊維であって、少なくとも繊維表面は結晶開始温度80〜140℃、融点160〜200℃である結晶性低融点ポリエステルからなり、120℃熱処理時の乾熱収縮率が10%以下であることを特徴とする低収縮性熱接着性繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常のポリエステルに比べて低い融点を示すポリエステルからなる熱接着性能を有する繊維であって、不織布等とする際の熱処理により繊維の全成分が溶融し、柔軟性及び寸法安定性に優れた不織布を得るのに好適な熱接着性繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維、特にポリエステル繊維は、その優れた寸法安定性、耐候性、機械的特性、耐久性、さらにはリサイクル性等から、衣料、産業資材として不可欠のものとなっており、様々な分野において、ポリエステル繊維が多く使用されている。
【0003】
特に、ルーフィング資材、自動車用内装材、カーペットの基布等に用いる不織布、枕やマットレス等の寝装用品の詰物、キルティング用の中入れ綿等の繊維構造体においては、構成繊維(主体繊維という)相互間を接着する目的で、熱接着性繊維が広く普及している。これらの繊維構造体の主体繊維としては、比較的安価で、優れた物性を有するポリエステル繊維が最も多く使用されており、これを接着する熱接着性繊維もポリエステル系のものが好ましく、種々のポリエステル系熱接着性繊維及びそれを用いて接着した繊維構造物が提案されている。
【0004】
従来のポリエステル繊維からなる繊維構造体を熱接着するために用いられる熱接着性繊維は、一般的に、芯成分にポリエチレンテレフタレート(PET)、鞘成分にイソフタル酸を共重合した低融点ポリマーを配した芯鞘型複合短繊維が用いられている(特許文献1参照)。
【0005】
前記のようなイソフタル酸を共重合した低融点ポリマーは、非晶性で明確な融点を示さず、ガラス転移点以上となれば軟化が始まるものである。このため、繊維の製造時に熱処理を施すことが困難であり、不織布等にした後の加熱接着処理をする際に収縮が発生する。したがって、得られる不織布等の製品の寸法安定性が悪くなったり、また、高温雰囲気下で使用すると接着強力が低下したり変形が発生するという問題があった。
【0006】
このような問題点を解決するものとして、鞘成分に結晶性を有する共重合低融点ポリマーを配し、芯成分に融点220℃以上のポリアルキレンテレフタレートを配した芯鞘型複合短繊維が提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【0007】
しかしながら、このような結晶性を有する共重合低融点ポリマーを配した芯鞘型複合繊維を用いても、得られる繊維構造体は高温雰囲気下に対する耐熱性は改善されるが、その芯部にはホモポリエステルが用いられた芯鞘複合構造となっているため、主体繊維と混綿し、熱接着性繊維の鞘部の融点よりも高い温度で熱処理し、接着加工を行って繊維構造体となした後も芯部が溶融せず、残存することとなる。したがって、不織布を得る際には、主体繊維と熱接着性繊維の芯部とが網目構造を形成し、形態安定性には優れるが、主体繊維の動きが制約され、柔軟性に劣る不織布となっていた。
【0008】
そこで、本発明者等は、特願2003−58497号において、上記の問題点を解決するものとして、特定範囲の融点を有する結晶性低融点ポリエステルからなるものを提案した。この熱接着性繊維は、繊維の全てが溶融する全融タイプの熱接着性繊維であって、主体繊維の特徴を損なうことなく、寸法安定性及び柔軟性に優れた不織布を得ることができるものであった。
【0009】
本発明者等はこの発明をもとに、より寸法安定性及び柔軟性に優れた不織布を得ることができる熱接着性繊維について、さらに研究を重ねた。
【特許文献1】特許第3313878号公報
【特許文献2】特開平11−217731号公報
【特許文献3】特開平11−12349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題点を解決し、主体繊維の特徴を損なうことなく、さらに寸法安定性及び柔軟性に優れた不織布を得ることができる熱接着性繊維を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討の結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は以下の(1)、(2)を要旨とするものである。
(1)融点又は流動開始温度が200℃以下の低融点ポリエステルからなる繊維であって、少なくとも繊維表面は結晶開始温度80〜140℃、融点160〜200℃である結晶性低融点ポリエステルからなり、120℃熱処理時の乾熱収縮率が10%以下であることを特徴とする低収縮性熱接着性繊維。
(2)結晶開始温度80〜140℃、融点160〜200℃である結晶性低融点ポリエステルを鞘部に、融点又は流動開始温度が200℃以下の低融点ポリエステルを芯部とした芯鞘型複合繊維であって、120℃熱処理時の乾熱収縮率が10%以下であることを特徴とする低収縮性熱接着性繊維。
【発明の効果】
【0012】
本発明の熱接着性繊維は、少なくとも繊維表面が特定の結晶開始温度及び融点を有する結晶性低融点ポリエステルを用いているので、低熱収縮率の繊維とすることができ、操業性よく得ることが可能である。そして、繊維全体が低融点ポリエステルからなるものであるため、不織布にする際には繊維の全体が溶融する全融タイプのバインダー繊維として使用することができ、主体繊維と混綿してウエブとした後の熱処理においても収縮が少なく、主体繊維の特徴を損なうことなく、寸法安定性及び柔軟性に優れた不織布を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の低収縮性熱接着性繊維は、融点又は流動開始温度が200℃以下の低融点ポリエステルからなる繊維であって、少なくとも繊維表面が結晶開始温度80〜140℃、融点160〜200℃である結晶性低融点ポリエステルからなる繊維である。そして、不織布とする際には、融点の低いポリマーで構成されているため、バインダー繊維として使用することが好ましく、繊維の全部が溶融する全融タイプのバインダー繊維として用いることができる。
【0014】
そして、本発明の低収縮性熱接着性繊維は、繊維を構成するポリマーの融点又は流動開始温度が200℃以下であって、少なくとも繊維表面が結晶開始温度80〜140℃、融点160〜200℃である結晶性低融点ポリエステルからなるものであるため、繊維の全体が結晶開始温度80〜140℃、融点160〜200℃である結晶性低融点ポリエステルのみからなるもの(単一型繊維)であってもよく、また、繊維表面のみが結晶開始温度80〜140℃、融点160〜200℃である結晶性低融点ポリエステルで構成されており、繊維表面以外は融点又は流動開始温度が200℃以下の低融点ポリエステルで構成されている複合型の繊維であってもよい。
【0015】
上記の複合型の繊維としては、例えば海島型や芯鞘型等の複合繊維が挙げられるが、中でも本発明においては、結晶開始温度80〜140℃、融点160〜200℃である結晶性低融点ポリエステルを鞘部に用いた芯鞘型の複合繊維とすることが好ましい。
【0016】
このように本発明の繊維を複合型の繊維とする場合、繊維の表面や鞘部を結晶性低融点ポリエステルとし、繊維表面以外の部分や芯部を形成するポリマーは、融点又は流動開始温度が200℃以下の低融点ポリエステルであればよいので、繊維の表面や鞘部に用いた結晶性低融点ポリエステルと同様の結晶性のものであってもよいし、また、非晶性のものであってもよい。
【0017】
一般に低融点ポリエステルは結晶性に乏しいが、結晶性に乏しいポリエステルや非結晶性のポリエステルを繊維表面に用いると、繊維の製造工程で熱処理を施すことができないため、不織布等の加工に適した低熱収縮率の繊維を得るのが困難である。本発明においては、少なくとも繊維表面に結晶性の低融点ポリエステルを用いた単一型もしくは複合型の繊維とすることにより、繊維の製造過程で熱処理を施すことが可能になったので、繊維の熱収縮率(乾熱収縮率)を低くする、具体的には、120℃熱処理時の乾熱収縮率を10%以下とすることが可能となった。
【0018】
そして、本発明の低収縮性熱接着性繊維は、120℃熱処理時の乾熱収縮率が10%以下であり、中でも5%以下とすることが好ましい。
【0019】
120℃熱処理時の乾熱収縮率が10%を超えると、不織布を作成する際には主体繊維とバインダー繊維とを混綿してウエブを作成するが、ウエブの熱処理工程で生じる収縮が大きくなり、得られる不織布の寸法安定性が低下し、地合が悪くなりやすい。これにより、得られる不織布の引張強度や柔軟性も乏しいものとなりやすい。
【0020】
したがって、本発明の低収縮性熱接着性繊維は、主に主体繊維と混綿してウエブを形成し、このウエブに熱処理を施し、本発明の繊維を溶融させて接着成分とし、主体繊維同士を融着させるサーマルスルー不織布用途に好適に用いられる。
【0021】
そして、本発明では、単一型、複合型の繊維ともに、結晶性低融点ポリエステルの結晶開始温度を80〜140℃、中でも90〜120℃とすることが好ましく、また、融点を160〜200℃、中でも165〜195℃とすることが好ましい。
【0022】
結晶開始温度(Tc)が80℃未満では、好適な結晶性を得ることが困難となる。一方、140℃を超えると、融点(Tm)が200℃を超えることとなり好ましくない。
【0023】
融点(Tm)が160℃未満であると、繊維の乾熱収縮率を10%以下に下げるために十分な熱処理を施すことができない。一方、200℃を超えると、不織布を得る際の熱接着加工温度を高くする必要があり、加工性、経済性が劣るばかりか、主体繊維の熱変化を招き、主体繊維の風合いや物性を損ねるため好ましくない。
【0024】
また、結晶性低融点ポリエステルはガラス転移点(Tg)が35〜80℃であることが好ましく、さらに好ましくは40〜70℃である。Tgが35℃未満であると、溶融紡糸時に単糸間の密着が発生し、製糸性が悪くなりやすく、一方、Tgが80℃を超えると、製糸工程において高温で延伸することが必要となり、延伸による塑性変形と同時に部分的な結晶化が始まり、糸切れが発生するなど延伸性が低下しやすくなる。
【0025】
次に、複合型繊維の場合、上記の結晶性低融点ポリエステル以外の他ポリマーとしては、融点又は流動開始温度200℃以下の低融点ポリエステルとする。このような、融点又は流動開始温度200℃以下の低融点ポリエステルは、中でも融点または流動開始温度が180℃以下であることが好ましい。つまり、繊維表面以外の部分を構成するポリエステル成分は結晶性のものでも非晶性のものでもよく、結晶性のものの場合は融点を、非晶性のものの場合は流動開始温度を200℃以下とする。これらの温度が200℃を超えると、不織布とする際の熱接着加工温度を高くする必要があり、加工性、経済性が劣るばかりか、主体繊維の熱変化を招き、主体繊維の風合いや物性等の特徴を損ねるため好ましくない。
【0026】
このような低融点ポリエステルの融点または流動開始温度の下限は、繊維を製造する過程において、紡糸や延伸時にトラブルが生じることなく、繊維特性が得られる範囲のものであれば特に限定するものではないが、得られる不織布の熱安定性を考慮すると概ね80℃以上が好ましく、より好ましくは130℃以上である。
【0027】
さらに、複合型繊維の場合、繊維表面を構成する結晶性低融点ポリエステルと他ポリマー(低融点ポリエステル)との融点または流動開始温度の差は80℃以下であることが好ましく、中でも50℃以下とすることが好ましい。なお、結晶性低融点ポリエステルと他ポリマーのどちらの融点または流動開始温度が高いものであってもよい。
【0028】
不織布とする際には、いずれか一方のポリマーの融点または流動開始温度の高い側の温度よりも高い温度で熱接着処理をすることが必要であるが、融点または流動開始温度の差が80℃を超えると、融点または流動開始温度の低い側のポリマーが溶融した後も高温側のポリマーが溶融するまで高温下に曝されることになり、経済的に好ましくないばかりか、熱処理により、低温側のポリマーの分解が起こりやすくなり好ましくない。
【0029】
なお、融点とは、結晶性を有する熱可塑性樹脂のDSC測定における結晶融解温度を意味し、流動開始温度とは、結晶性を有しない熱可塑性樹脂のフローテスト時の流動し始める温度を意味する。
【0030】
そして、本発明においては、融点は示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DSC7)を用い、昇温速度20℃/分で測定し、融解吸収曲線の極値を与える温度を融点とした。
【0031】
一方、流動開始温度は、フロテスター(島津製作所CFT−500型)を用い、荷重10MPa、ノズル径0.5mmの条件で、初期温度50℃より10℃/分の割合で昇温していき、ポリマーがダイから流出し始める温度を求めるものである。
【0032】
また、結晶開始温度(Tc)とガラス転移点(Tg)は、融点と同様に示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製DSC7)を用い、昇温速度20℃/分で測定するものである。
【0033】
次に、本発明の熱接着性繊維を構成する結晶性低融点ポリエステル成分としては、テレフタル酸成分、エチレングリコール成分を含有し、全グリコール成分に対して1,4−ブタンジオール成分を30〜70モル%共重合した共重合ポリエステルであることが好ましい。
【0034】
また、このような共重合ポリエステルにおいては、全酸成分に対して脂肪族ラクトン成分もしくはアジピン酸成分のうち少なくとも一成分を10モル%以下共重合した共重合ポリエステルであることが好ましい。
【0035】
1,4−ブタンジオール成分を共重合する場合、全グリコール成分に対して30〜70モル%となるようにすることが好ましい。共重合量が30モル%未満であったり、70モル%を超えると、Tm、Tcが上がる傾向となり、本発明で規定する範囲外のものとなりやすい。
【0036】
また、脂肪族ラクトン成分を共重合する場合、その共重合量は全酸成分に対して10モル%以下とすることが好ましく、中でも5モル%以下とすることが好ましい。脂肪族ラクトン成分が10モル%を超えると、結晶性が低下してTgが低くなりやすく、延伸工程で熱処理を施しても収縮率を低くすることが困難となりやすい。また、紡糸時に単糸密着が発生して製糸性が悪くなったり、紡糸後の未延伸糸同士の密着が生じる傾向がある。
【0037】
脂肪族ラクトン成分としては、炭素数4〜11のラクトンが好ましく、特に好ましいラクトンとしては、ε−カプロラクトン(ε−CL)が挙げられる。
【0038】
また、アジピン酸成分を共重合する場合、その共重合量は全酸成分に対して、10モル%以下とすることが好ましく、中でも5モル%以下とすることが好ましい。アジピン酸成分の共重合量が10モル%より多いと結晶性が低下してTgが低くなりやすく、延伸工程で熱処理を施しても収縮率を低くすることが困難となりやすい。また、紡糸時に単糸密着が発生して製糸性が悪くなったり、紡糸後の未延伸糸同士の密着が生じる傾向がある。
【0039】
本発明の熱接着性繊維が複合型繊維の場合に用いる他のポリマー、複合型繊維が芯鞘型繊維の場合に芯部に用いるポリマーとしては、融点又は流動開始温度200℃以下の低融点ポリエステルとするが、このようなポリエステルとしては、結晶性、非晶性のいずれのものでもよいが、中でも、製糸性やコストの点からイソフタル酸を共重合したPETを用いることが好ましい。イソフタル酸共重合PETは一般に非晶性であり、イソフタル酸の共重合量は20〜40モル%とすることが好ましい。
【0040】
なお、本発明の熱接着性繊維を構成するこれらのポリマーには、発明の効果を妨げない範囲であれば、酸化チタンなどの顔料、ヒンダードフェノール系化合物などの抗酸化剤その他各種添加剤を含有していてもよい。また、その特性を損なわない範囲で、イソフタル酸、フタル酸、セバシン酸、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の共重合成分を少量含有していてもよい。
【0041】
本発明の熱接着性繊維を複合型繊維とする場合は、芯鞘形状や海島形状とすることが好ましいが、中でも芯鞘形状が好ましい。そして、芯部と鞘部の比率は、体積比(芯/鞘)として30/70〜70/30の範囲が好ましく、さらに好ましくは40/60〜60/40である。
【0042】
また、本発明の熱接着性繊維の断面形状は特に規定するものではなく、丸断面のみならず、多角形や多葉断面形状のもの等が挙げられる。
【0043】
さらに、本発明の熱接着性繊維は、マルチフィラメント、モノフィラメント、長繊維、短繊維のいずれであってもよく、繊度や繊維長は用途、加工方法等、目的に応じて適宜選択すればよい。繊維の製造の容易さからは短繊維とすることが好ましく、繊度2〜20dtex、繊維長25〜80mmとすることが好ましい。
【0044】
次に、本発明の熱接着性繊維の製造方法について、単一型の繊維であって、短繊維形状のものを得る場合の製造例を用いて説明する。
【0045】
上記したような結晶性低融点ポリエステルを常用の溶融紡糸装置を用いて溶融紡糸する。紡出された糸条を冷却固化した後、紡糸油剤を付与し、集束して未延伸糸条束とする。得られた未延伸糸条束を定法により延伸した後、定張又は緊張熱処理を施す。このとき、結晶性低融点ポリエステルの融点より低い温度、例えば130〜160℃のヒートドラムを用い、緊張率1.00〜1.03倍の定張又は緊張熱処理を行うことが好ましい。続いて仕上げ油剤を付与し、必要に応じて捲縮を施し、カットして短繊維とする。
【0046】
本発明の熱接着性繊維は不織布を得るのに好適なものであり、主体繊維を融着させるためのバインダー繊維として用いると、寸法安定性及び引張強力、柔軟性に優れた不織布を得ることができる。主体繊維は、用途等に応じてポリマー種類、繊度、強伸度等適宜選択すればよい。
【0047】
そして、本発明の熱接着性繊維を用いて不織布を製造する際には、上記のようにして得た短繊維状の熱接着性繊維と主体繊維(短繊維状)とを質量比で10/90〜50/50に混合することが好ましい。熱接着性繊維の割合が10質量%に満たない場合、熱接着性繊維と主体繊維との接着点が少ないため、得られる不織布の強力が不十分となりやすい。一方、50質量%を超えると、接着点が多くなるため、繊維構造体の風合いが硬くなりやすい。
【0048】
本発明の熱接着性繊維は、結晶開始温度、融点を特定の範囲とした結晶性低融点ポリエステルを少なくとも繊維表面に用いているため、製造工程において熱処理を施すことができ、低熱収縮率の繊維とすることができるので、不織布等にする際の熱処理工程で収縮することなく柔軟性に優れた不織布とすることができる。また、不織布等にする際、その融点よりも高い温度で熱処理すると、本発明の繊維全体が水滴状に溶融し、主体繊維の繊維同士が重なる交点部分に溶融したポリマーが移動し、その位置で繊維間を接着させるので、溶融した接着成分が主体繊維の動きを制約することがなく、柔軟性に優れた不織布を得ることができる。
【実施例】
【0049】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例における各特性値の測定方法及び評価方法は次の通りである。
(1)結晶開始温度(Tc)、融点(Tm)、流動開始温度、ガラス転移点(Tg)
前記の方法で測定した。
(2)極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、温度20℃で測定した。
(3)繊度
JIS L−1015−7−5−1Aの方法により測定した。
(4)繊維長
JIS L−1015−7−4−1Cの方法により測定した。
(6)操業性
紡糸、延伸の状況で下記の2段階で評価した。
○:紡糸時の切れ糸回数が3回/日・錘以下であり、繊維の密着がなく、かつ、延伸 時にローラ巻き付きの発生がない場合
×:紡糸時の切れ糸回数が3回/日・錘を超えるか、繊維の密着が発生するか、また は延伸時にローラ巻き付きの発生があった場合
(7)不織布の風合い
得られた不織布を15cm×15cmの正方形に切断し、パネラーによる手触りにより、風合いの柔軟性を下記の2段階で官能評価した。
○:良好
×:不良
(8)不織布の引張強度
得られた不織布を、多くの短繊維の長手方向が整列する方向を長辺として、2.5cm×15cmの短冊状に切断し、TOYO BALDWIN社製テンシロンUTM-4-100型を使用して、初期試料長10cm、引張速度100mm/分の条件で繰り返し30回の測定を行った。得られた不織布の引張強度により下記の3段階で評価した。
○:引張強度1000cN以上
△:引張強度500〜1000cN未満
×:引張強度500cN未満
(9)乾熱収縮率
JIS L−1015−7−15の方法に従い、熱処理温度を120℃として測定した。
【0050】
実施例1
結晶性低融点ポリエステルとして、1,4−ブタンジオールを50mol%共重合した極限粘度0.78、Tc98℃、Tm181℃、Tg48℃の共重合PETを用い、紡糸温度270℃、吐出量408g/分、紡糸速度850m/分の条件で、孔数225個の丸型断面の紡糸ノズルで紡出し、未延伸糸を得た。
得られた未延伸糸を集束し、12ktexの糸条束にした後、延伸倍率4.2倍、延伸温度50℃で延伸し、150℃のヒートドラムで緊張率1.01倍の緊張熱処理を施し、仕上げ油剤を0.12質量%となるように付与した後、押し込み式クリンパーで捲縮を施し、切断して単糸繊度5.5dtex、繊維長51mmの接着性繊維を得た。
この熱接着性繊維30質量%と、繊度1.7dtex、繊維長51mm、強度6.0cN/dtex、伸度30%のPETからなるポリエステル繊維70質量%を混合し、カード機にかけウェブとした後、連続熱処理機にて190℃、1分の熱処理を行い、目付35g/mの短繊維不織布を得た。
【0051】
比較例1
実施例1の結晶性低融点ポリエステルに代えて、イソフタル酸を33.0モル%共重合したPETであって、極限粘度0.68、流動開始温度135℃、Tg69℃の低融点PET(非晶性)を用い、延伸後、ヒートドラムを加熱せず(室温で)緊張処理を行った以外は実施例1と同様にして熱接着性繊維を得た。
そして、ウェブとした後の熱処理を温度160℃に変更した以外は、実施例1と同様にして短繊維不織布を得た。
【0052】
実施例2
結晶性低融点ポリエステルとして、1,4−ブタンジオールを50mol%共重合した極限粘度0.78、Tc98℃、Tm181℃、Tg48℃の共重合PETを用いた。この結晶性低融点ポリエステルを鞘成分とし、イソフタル酸を33.0モル%共重合したPETであって、極限粘度0.68、流動開始温度135℃、Tg69℃の低融点PET(非晶性)を芯成分に用い、両ポリエステルを複合体積比(芯/鞘)50/50とし、紡糸温度270℃、吐出量408g/分、紡糸速度850m/分の条件で、孔数225個の丸型断面の芯鞘型複合紡糸ノズルで紡出し、未延伸糸を得た。
得られた未延伸糸を集束し、12ktexの糸条束にした後、延伸倍率4.2倍、延伸温度50℃で延伸し、150℃のヒートドラムで緊張率1.01倍の緊張熱処理を施し、仕上げ油剤を0.12質量%の付着量となるように付与した後、押し込み式クリンパーで捲縮を施し、切断して単糸繊度5.5dtex、繊維長51mmの芯鞘型熱接着性繊維を得た。
この熱接着性複合繊維30質量%と、繊度1.7dtex、繊維長51mm、強度6.0cN/dtex、伸度30%のPETからなるポリエステル繊維70質量%を混合し、カード機にかけウェブとした後、連続熱処理機にて190℃、1分の熱処理を行い、目付35g/mの短繊維不織布を得た。
【0053】
実施例3〜6、比較例2〜5
芯成分及び鞘成分のポリエステルの成分を表2に記載のように種々変更し、延伸後、ヒートドラムでの緊張熱処理温度を表2に示す値に変更した以外は実施例2と同様にして芯鞘型の熱接着性繊維を得た。そして、ウェブとした後の熱処理温度を表2に示す値に変更した以外は、実施例2と同様にして短繊維不織布を得た。
【0054】
実施例1〜6、比較例1〜5で得られた熱接着性繊維と不織布の評価結果を表1、2に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
表1、2から明らかなように、実施例1〜6の熱接着性繊維は操業性よく得ることができ、乾熱収縮率が低いものであった。そして、この繊維をバインダー繊維に用いて得られた短繊維不織布は、ウエブとしたときの熱処理による収縮が小さく、優れた柔軟性、機械的性能、熱安定性(耐熱性)を有するものであった。
【0058】
一方、比較例1の熱接着性繊維は、構成するポリマーが結晶性のものではないため、延伸時に高温で熱処理できず、乾熱収縮率が高いものとなった。このため、得られた短繊維不織布は地合の悪い物であり、柔軟性に乏しいものであった。比較例2の熱接着性繊維は、芯成分に用いた低融点ポリエステルの流動開始温度が高かったため、芯部が溶融せず、得られた不織布の柔軟性が不十分であった。比較例3の熱接着性芯鞘複合繊維は、鞘部に用いた結晶性低融点ポリエステルの1,4−ブタンジオールの共重合量が少なかったため、Tm、Tc、Tgともに高いものとなった。このため、不織布を得る際には熱接着処理時に鞘成分が溶融しなかったため、主体繊維が接着されず、不織布を得ることができなかった。比較例4、5の熱接着性繊維は、鞘部に用いた結晶性低融点ポリエステルの融点が低く、延伸時の熱処理温度を高くできなかったため、乾熱収縮率が高いものであった。このため、得られた短繊維不織布は地合の悪い物であり柔軟性に乏しいものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点又は流動開始温度が200℃以下の低融点ポリエステルからなる繊維であって、少なくとも繊維表面は結晶開始温度80〜140℃、融点160〜200℃である結晶性低融点ポリエステルからなり、120℃熱処理時の乾熱収縮率が10%以下であることを特徴とする低収縮性熱接着性繊維。
【請求項2】
結晶開始温度80〜140℃、融点160〜200℃である結晶性低融点ポリエステルを鞘部に、融点又は流動開始温度が200℃以下の低融点ポリエステルを芯部とした芯鞘型複合繊維であって、120℃熱処理時の乾熱収縮率が10%以下であることを特徴とする低収縮性熱接着性繊維。
【請求項3】
結晶性低融点ポリエステルが、テレフタル酸成分、エチレングリコール成分を含有し、全グリコール成分に対して1,4−ブタンジオール成分を30〜70モル%共重合した共重合ポリエステルである請求項1又は2記載の低収縮性熱接着性繊維。
【請求項4】
結晶性低融点ポリエステルが、テレフタル酸成分、エチレングリコール成分を含有し、全グリコール成分に対して1,4−ブタンジオール成分を30〜70モル%共重合し、全酸成分に対して脂肪族ラクトン成分もしくはアジピン酸成分のうち少なくとも一成分を10モル%以下共重合した共重合ポリエステルである請求項1又は2記載の低収縮性熱接着性繊維。
【請求項5】
低融点ポリエステルが、イソフタル酸を共重合したポリエチレンテレフタレートである請求項1〜4のいずれかに記載の低収縮性熱接着性繊維。