説明

低品位炭を原料とする固形燃料の製造方法および製造装置

【課題】 低品位炭から脱水されると共に自然発火性が低くて輸送性および貯蔵性に優れた固形燃料を製造するに際し、重質油分の添加量の低減がはかれる固形燃料の製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】 [1] 溶媒油分を含む油を低品位炭と混合して原料スラリーを作り、該スラリーを水分蒸発処理した後、固液分離して固形燃料を得る固形燃料の製造方法であって、前記水分蒸発処理の終了後または中途段階のスラリーに重質油分を添加することを特徴とするもの、[2] 溶媒油分を含む油を低品位炭と混合して原料スラリーを作る混合槽1と、該スラリーを水分蒸発処理する蒸発器2、3と、この水分蒸発処理されたスラリーを固液分離する手段を有する固形燃料の製造装置であって、前記水分蒸発処理の終了後または中途段階のスラリーに重質油分を添加する手段を有することを特徴とするもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低品位炭を原料とする固形燃料の製造方法および製造装置に関する技術分野に属するものである。
【背景技術】
【0002】
低品位炭を原料とする固形燃料の製造技術に関し、従来公知のものとしては特開平7−233383号公報(特許文献1)に記載された固形燃料の製造方法がある。この公報に記載された固形燃料の製造方法は、重質油分と溶媒油分を含む混合油を多孔質炭と混合して原料スラリーを得、このスラリーを加熱して多孔質炭の脱水を進めると共に、多孔質炭の細孔内に重質油分と溶媒油分を含む混合油を含有せしめ、この後、このスラリーを固液分離することを特徴とする固形燃料の製造方法である(以下、この公報記載の固形燃料の製造方法を従来法Aという)。ここで、多孔質炭は低品位炭に相当する。
【0003】
従来法Aによれば、脱水されると共に、自然発火性が低くて、輸送性および貯蔵性に優れた固形燃料を得ることができる。
【0004】
即ち、多孔質炭(低品位炭)は多量の水分を含有するので、この輸送に際しては水分を輸送しているに等しい面もあって輸送コストが割高となり、かかる点において輸送性が悪く、また、水分含有量が多い分だけカロリーが低くなる。そこで、多孔質炭を脱水することが望まれるが、この脱水をチューブラードライヤーなどの乾燥蒸発型脱水法により行うと、脱水された多孔質炭の細孔内に存在する活性点への酸素の吸着および酸化反応によって自然発火事故を起こすという危険がある。
【0005】
これに対し、従来法Aにおいては、原料スラリー(重質油分と溶媒油分を含む混合油と多孔質炭との混合体)の加熱により多孔質炭の細孔内の水分が気化蒸発する(多孔質炭が脱水される)と共に、細孔内は重質油分を含む混合油によって被覆され、遂にはこの混合油、特に重質油分が優先して細孔内を充満するので、上記のような細孔内に存在する活性点への酸素の吸着および酸化反応が抑制され、このため自然発火が抑制される。従って、脱水されると共に、自然発火性が低くて、輸送性および貯蔵性に優れた固形燃料を得ることができる。
【0006】
上記のような固形燃料の製造を行うための装置に関し、上記公報(特開平7−233383号公報)には、重質油分と溶媒油分を含む混合油を多孔質炭と混合して原料スラリーを作る混合槽と、該原料スラリーを加熱して水蒸気を除去する蒸発器と、該加熱された処理済みスラリーを固液分離する固液分離器とを有することを特徴とする固形燃料の製造装置が記載されている(以下、この公報記載の固形燃料の製造装置を従来装置Aという)。ここで、多孔質炭は低品位炭に相当する。
【特許文献1】特開平7−233383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来法A(上記公報記載の固形燃料の製造方法)においては、前述のように、重質油分と溶媒油分を含む混合油を多孔質炭と混合して原料スラリーを得、このスラリーを加熱して多孔質炭の脱水を進めると共に、多孔質炭の細孔内に重質油分と溶媒油分を含む混合油を含有せしめ、この後、このスラリーを固液分離する。これにより、脱水されると共に自然発火性が低くて輸送性および貯蔵性に優れた固形燃料を得ることができる。つまり、多量の水分を含有する多孔質炭(低品位炭)から、脱水されると共に自然発火性が低くて輸送性および貯蔵性に優れた固形燃料を得ることができる。
【0008】
しかし、重質油分の添加はコストアップの要因となるので、その添加量の低減が望まれる。
【0009】
本発明はこのような事情に着目してなされたものであって、その目的は、低品位炭から脱水されると共に自然発火性が低くて輸送性および貯蔵性に優れた固形燃料を製造するに際し、重質油分の添加量の低減がはかれる固形燃料の製造方法および製造装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意研究を行なった結果、本発明を完成するに至った。本発明によれば上記目的を達成することができる。
【0011】
このようにして完成され上記目的を達成することができた本発明は、低品位炭を原料とする固形燃料の製造方法および製造装置に係わり、特許請求の範囲の請求項1記載の固形燃料の製造方法(本発明に係る固形燃料の製造方法)および請求項2記載の固形燃料の製造装置(本発明に係る固形燃料の製造装置)であり、それは次のような構成としたものである。
【0012】
即ち、請求項1記載の固形燃料の製造方法は、溶媒油分を含む油を低品位炭と混合して原料スラリーを作り、この原料スラリーを水分蒸発処理した後、固液分離して固形燃料を得る固形燃料の製造方法であって、前記水分蒸発処理の終了後または中途段階のスラリーに重質油分を添加することを特徴とする固形燃料の製造方法である。
【0013】
請求項2記載の固形燃料の製造装置は、溶媒油分を含む油を低品位炭と混合して原料スラリーを作る混合槽と、この原料スラリーを水分蒸発処理する蒸発器と、この水分蒸発処理されたスラリーを固液分離する固液分離手段を有する固形燃料の製造装置であって、前記水分蒸発処理の終了後または中途段階のスラリーに重質油分を添加する手段を有することを特徴とする固形燃料の製造装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る固形燃料の製造方法によれば、低品位炭から脱水されると共に自然発火性が低くて輸送性および貯蔵性に優れた固形燃料を製造するに際し、重質油分の添加量の低減がはかれる。
【0015】
本発明に係る固形燃料の製造装置によれば、上記のような本発明に係る固形燃料の製造方法を遂行することができ、ひいては、上記のような作用効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明者らは、前述の目的を達成するために鋭意実験および検討を重ねた。その結果、原料スラリーを水分蒸発処理した後、固液分離して固形燃料を得るに際し、重質油分の添加は水分蒸発処理の終了後または中途段階のスラリーに対して行うようにすると、重質油分の添加量が従来法Aの場合より少なくても、得られる固形燃料は自然発火性が低く、且つ、成型性に優れたものとなり(脱水されると共に自然発火性が低く、且つ、成型性に優れた固形燃料が得られ)、従って、重質油分の添加量が従来法Aの場合よりも少なくてよく、このため、重質油分の添加量の低減がはかれることを見出した。
【0017】
本発明は、かかる知見に基づき完成されたものである。このようにして完成された本発明に係る固形燃料の製造方法は、溶媒油分を含む油を低品位炭と混合して原料スラリーを作り、この原料スラリーを水分蒸発処理した後、固液分離して固形燃料を得る固形燃料の製造方法であって、前記水分蒸発処理の終了後または中途段階のスラリーに重質油分を添加することを特徴とする固形燃料の製造方法である。即ち、原料スラリーを水分蒸発処理した後、固液分離して固形燃料を得るに際し、重質油分の添加は水分蒸発処理の終了後または中途段階のスラリーに対して行うようにするものである。
【0018】
本発明に係る固形燃料の製造方法によれば、前述の知見からわかるように、重質油分の添加量が従来法Aの場合より少なくても、得られる固形燃料は自然発火性が低く、且つ、成型性に優れたものとなり(脱水されると共に自然発火性が低く、且つ、成型性に優れた固形燃料が得られ)、従って、重質油分の添加量が従来法Aの場合よりも少なくてよく、このため、重質油分の添加量の低減がはかれる。即ち、低品位炭から脱水されると共に自然発火性が低くて輸送性および貯蔵性に優れ、且つ、成型性に優れた固形燃料を製造するに際し、重質油分の添加量の低減がはかれる。
【0019】
上記のように、重質油分の添加は水分蒸発処理の終了後または中途段階のスラリーに対して行うようにすると、重質油分の添加量が従来法Aの場合より少なくても、得られる固形燃料は自然発火性が低く、且つ、成型性に優れたものとなる(脱水されると共に自然発火性が低く、且つ、成型性に優れた固形燃料が得られる)。この理由について、以下説明する。
【0020】
重質油分の添加を水分蒸発処理の終了後のスラリーに対して行うようにする場合、水分蒸発処理時にはスラリー中の低品位炭が脱水される(低品位炭の細孔内の水分が気化蒸発する)と共に、溶媒油分を含む油が低品位炭(多孔質炭)の細孔内に入り込み、細孔内に充満する。この水分蒸発処理の終了後のスラリーに対して重質油分を添加するということになる。
【0021】
この水分蒸発処理の終了後のスラリーに対して重質油分を添加すると、多孔質炭の細孔内に既に溶媒油分が存在しているため、この重質油分は拡散によって多孔質炭の細孔内に入り込む。このため、長時間保持しないと、重質油分は多孔質炭の細孔内に充満しない。従って、この重質油分の添加量が従来法Aの場合と同程度に多く、且つ、重質油分の添加後に長時間そのまま保持する場合には、重質油分が多孔質炭の細孔内に充満することになるかもしれないが、重質油分の添加後は水分蒸発処理することなく固液分離するので、重質油分を添加したままの状態で長時間保持するようなことはなく、このため、重質油分が多孔質炭の細孔内に充満することなく、多孔質炭の細孔内表面および外表面(細孔内表面以外の表面)に付着し、それらの表面を被覆するか、あるいは、重質油分が多孔質炭の外表面に付着して多孔質炭の外表面を被覆すると共に細孔入口を塞ぎ、これにより、細孔内活性点への酸素の吸着および酸化反応を抑制することができ、ひいては、得られる固形燃料は自然発火性が低いものとなる。なお、たとえ重質油分の添加後に比較的長時間そのまま保持したとしても、重質油分の添加量が少ない(従来法Aの場合より少ない)場合は、上記と同様、重質油分が多孔質炭の細孔内に充満することなく、多孔質炭の外表面および細孔内表面に付着し、それらの表面を被覆するか、あるいは、多孔質炭の外表面を被覆すると共に細孔入口を塞ぎ、これにより、細孔内活性点への酸素の吸着および酸化反応を抑制することができる。
【0022】
このとき、添加された重質油分は多孔質炭の外表面に優先して付着する。このため、多孔質炭の細孔内表面および外表面に重質油分が付着する場合、多孔質炭の外表面の方が細孔内表面よりも単位面積あたりの重質油分付着量が多い。また、このように多孔質炭の外表面に優先して付着するので、前述のように重質油分が多孔質炭の外表面に付着して多孔質炭の外表面を被覆すると共に細孔入口を塞ぐ可能性があり、この場合には、細孔内表面にも若干重質油分が付着するかもしれないが、多孔質炭の外表面の方が単位面積あたりの重質油分付着量が極めて多い。それ故に、重質油分の添加量が従来法Aの場合より少なくても、多孔質炭の外表面での重質油分の付着量は従来法Aの場合と同等もしくはそれ以上となるようにすることができ、ひいては、得られる固形燃料は成型性に優れたものとなる。
【0023】
従って、重質油分の添加を水分蒸発処理終了後のスラリーに対して行うようにすると、重質油分の添加量が従来法Aの場合より少なくても、得られる固形燃料は自然発火性が低く、且つ、成型性に優れたものとなる(脱水されると共に自然発火性が低く、且つ、成型性に優れた固形燃料が得られる)。
【0024】
重質油分の添加を水分蒸発処理の中途段階のスラリーに対して行うようにする場合、この重質油分の添加時点までの水分蒸発処理時にはスラリー中の低品位炭がある程度脱水される(低品位炭の細孔内の水分がある程度気化蒸発する)と共に、溶媒油分を含む油が低品位炭(多孔質炭)の細孔内に入り込み、細孔内に充満する。この水分蒸発処理の中途段階のスラリーに対して重質油分を添加するということになる。
【0025】
この水分蒸発処理の中途段階のスラリーに対して重質油分の添加を行うようにすると、その添加量が従来法Aの場合と同程度に多く、且つ、重質油分の添加時点以降の水分蒸発処理の後に長時間そのまま保持する場合には、重質油分が多孔質炭の細孔内に充満することになるかもしれないが、重質油分の添加時点以降の水分蒸発処理の時間は短かく(従来法Aの場合の水分蒸発処理時間より短く)、この水分蒸発処理の後は固液分離するので、重質油分の添加後長時間保持することはなく(重質油分添加時点から固液分離までの時間が短かく)、このため、重質油分が多孔質炭の細孔内に充満することなく、多孔質炭の外表面および細孔内表面に付着し、それらの表面を被覆するか、あるいは、重質油分が多孔質炭の外表面に付着して多孔質炭の外表面を被覆すると共に細孔入口を塞ぎ、これにより、細孔内活性点への酸素の吸着および酸化反応を抑制することができ、ひいては、得られる固形燃料は自然発火性が低いものとなる。
【0026】
このとき、添加された重質油分は多孔質炭の外表面に優先して付着する。このため、前述の水分蒸発処理終了後のスラリーに対して重質油分の添加を行うようにする場合と同様の理由により、重質油分の添加量が従来法Aの場合より少なくても、多孔質炭の外表面での重質油分の付着量は従来法Aの場合と同等もしくはそれ以上となるようにすることができ、ひいては、得られる固形燃料は成型性に優れたものとなる。
【0027】
従って、重質油分の添加を水分蒸発処理の中途段階のスラリーに対して行うようにすると、重質油分の添加量が従来法Aの場合より少なくても、得られる固形燃料は自然発火性が低く、且つ、成型性に優れたものとなる(脱水されると共に自然発火性が低く、且つ、成型性に優れた固形燃料が得られる)。
【0028】
ただし、この水分蒸発処理の中途段階のスラリーに対して重質油分の添加を行うようにする場合は、この重質油分の添加時点以降も水分蒸発処理をするので、重質油分が多孔質炭の外表面に付着して多孔質炭の外表面を被覆すると共に細孔入口を塞ぐことは少なくなり、多孔質炭の細孔内表面および外表面に重質油分が付着することが多くなる。
【0029】
この多孔質炭の細孔内表面および外表面に重質油分が付着する際も、多孔質炭の外表面に優先して付着するので、多孔質炭の外表面の方が細孔内表面よりも単位面積あたりの重質油分付着量が多い。しかし、重質油分の添加時点以降も水分蒸発処理をするので、重質油分が多孔質炭の細孔内に入り込む機会が多く、より具体的には、この重質油分の添加時点以降の水分蒸発処理の間に重質油分が入り込み、このため、前述の水分蒸発処理終了後のスラリーに対して重質油分の添加を行うようにする場合よりも、多孔質炭の細孔内に入り込む重質油分の量が多くなり、ひいては、多孔質炭の外表面での重質油分付着量と細孔内表面での重質油分付着量との差は小さくなる。従って、多孔質炭の外表面での重質油分の付着量(ひいては成型性)を前述の水分蒸発処理終了後のスラリーに対して重質油分の添加を行うようにする場合と同等にしようとする場合、細孔内表面での重質油分付着量が前述の水分蒸発処理終了後のスラリーに対して重質油分の添加を行うようにする場合よりも多くなる。このため、必要な重質油分の添加量が前述の水分蒸発処理終了後のスラリーに対して重質油分の添加を行うようにする場合よりも多くなる。
【0030】
重質油分の添加時点以前の水分蒸発処理の時間が長く、重質油分の添加時点以降の水分蒸発処理の時間が短いほど、多孔質炭の外表面での重質油分付着量と細孔内表面での重質油分付着量との差が大きくなり、必要な重質油分の添加量が小さくなり、前述の水分蒸発処理終了後のスラリーに対して重質油分の添加を行うようにする場合に近くなってくる。かかる点から、重質油分の添加時点以前の水分蒸発処理の時間を長く、重質油分の添加時点以降の水分蒸発処理の時間を短くすることが望ましい。即ち、重質油分の添加を行う水分蒸発処理の中途段階の時点をできるだけ水分蒸発処理の終了に近い時点に設定することが望ましい。つまり、できるだけ水分蒸発処理の終了に近い時点のスラリーに対して重質油分の添加を行うことが望ましい。
【0031】
ところで、従来法Aにおいては、前述のように、原料スラリー(重質油分と溶媒油分を含む混合油と多孔質炭との混合体)の加熱により多孔質炭の細孔内の水分が気化蒸発すると共に、この多孔質炭の細孔内を混合油が充満し、細孔内表面は重質油分によって被覆される。このため、細孔内活性点への酸素の吸着および酸化反応が抑制されて自然発火が抑制され、従って、脱水されると共に自然発火性が低くて輸送性および貯蔵性に優れた固形燃料を得ることができる。このとき、多孔質炭の外表面にも重質油分が付着し、これにより優れた成型性を確保することができる。従って、従来法Aによれば、脱水されると共に自然発火性が低くて輸送性および貯蔵性に優れ、且つ、成型性に優れた固形燃料が得られることになる。
【0032】
ここで、多孔質炭と混合する混合油中の重質油分の濃度を低くした場合、即ち、重質油分の添加量を低減した場合、細孔内活性点への酸素の吸着および酸化反応を抑制することができたとしても、多孔質炭の外表面の重質油分付着量が減少し、得られる固形燃料の成型性が低下して不充分となる。
【0033】
即ち、本発明に係る固形燃料の製造方法においては、原料スラリーの水分蒸発処理の終了後(または中途段階)のスラリーに重質油分を添加するので、添加された重質油分は多孔質炭の外表面に優先して付着するが、従来法Aにおいては、原料スラリー(重質油分と溶媒油分を含む混合油と多孔質炭との混合体)に既に重質油分が含まれており、この原料スラリーが水分蒸発処理されるので、多孔質炭の細孔内の水分が蒸発すると同時もしくはその後に重質油分を含む混合油が多孔質炭の細孔内に入り込む。このため、重質油分は多孔質炭の外表面および細孔内表面にほぼ均等に付着すると考えられる。従って、従来法Aにおいて重質油分の添加量を本発明に係る固形燃料の製造方法の場合と同程度に低減すると、多孔質炭の細孔内表面には重質油分が充分に付着して細孔内活性点への酸素の吸着および酸化反応を抑制することができたとしても、多孔質炭の外表面の重質油分付着量が本発明に係る固形燃料の製造方法の場合よりも少なくなり、得られる固形燃料の成型性が低下して不充分となる。また、従来法Aにおいて多孔質炭の細孔内表面の重質油分付着量が本発明に係る固形燃料の製造方法の場合と同程度となるように重質油分の添加量を低減すると、細孔内活性点への酸素の吸着および酸化反応を抑制することができるが、多孔質炭の外表面の重質油分付着量が本発明に係る固形燃料の製造方法の場合よりも少なくなり、得られる固形燃料の成型性が低下して不充分となる。このように、従来法Aにおいて重質油分の添加量を低減した場合、多孔質炭の外表面の重質油分付着量が減少し、得られる固形燃料の成型性が低下して不充分となる。
【0034】
従来法Aにおいて重質油分の添加量を低減しても、多孔質炭の細孔内表面に重質油分が充分に付着する場合は、細孔内活性点への酸素の吸着および酸化反応を抑制することができるが、この場合は成型性を確保することは難しく、細孔内活性点への酸素の吸着および酸化反応を抑制する重質油分が多孔質炭の細孔内に充満する程に重質油分を添加した場合に多孔質炭の外表面に充分に重質油分が付着し、これにより優れた成型性を確保することができる。換言すれば、優れた成型性を確保するには、重質油分が多孔質炭の細孔内に充満する程に重質油分を添加する必要がある(この場合の重質油分添加量を、以下、重質油分添加量Aともいう)。このような重質油分の添加は、細孔内活性点への酸素の吸着および酸化反応を抑制する上では過剰である(この過剰な重質油分を、以下、過剰分Xともいう)。
【0035】
これに対し、本発明に係る固形燃料の製造方法においては、添加された重質油分は多孔質炭の外表面に優先して付着するので、重質油分の添加量が少なくても、細孔内活性点への酸素の吸着および酸化反応を抑制することができ、且つ、優れた成型性を確保することができる。重質油分の添加量は重質油分が多孔質炭の細孔内に充満する程にする必要はなく、これより少ない量でよい。例えば、重質油分添加量Aから過剰分Xを差し引いた量(A−X=B)でよく、この場合、重質油分の添加量は添加量B(=A−X)に低減され、過剰分Xの分だけ少なくなる。
【0036】
なお、水分蒸発処理後の固液分離により分離される液体分〔油分(溶媒油分および重質油分を含む)〕を、循環油として原料スラリーを作る個所に循環して、低品位炭(多孔質炭)と混合する方式(以下、方式Cという)を採用する場合、水分蒸発処理の際に、この循環油が多孔質炭の細孔内に入り込み、この循環油中の重質油分が多孔質炭の細孔内表面に付着する。しかし、この循環油中の重質油分の量は僅かであるので、この重質油分の付着量は僅かであり、細孔内活性点への酸素の吸着および酸化反応を抑制する(ひいては自然発火を抑制する)には全く不充分である。また、このときに多孔質炭の外表面にも重質油分が付着するが、この重質油分の付着量は僅かであり、成型性を確保するには全く不充分である。従って、上記方式Cを採用する場合においても、更に重質油分を添加する必要がある。このため、従来法Aの場合には、重質油分を原料スラリーを作る個所に添加して低品位炭と混合し、本発明に係る固形燃料の製造方法の場合には、原料スラリーの水分蒸発処理の終了後(または中途段階)のスラリーに重質油分を添加する。この場合も、本発明に係る固形燃料の製造方法の場合は従来法Aの場合よりも重質油分の添加量が少なくてよく、重質油分の添加量の低減がはかれる。即ち、本発明に係る固形燃料の製造方法の場合は、重質油分の添加量が従来法Aの場合より少なくても、細孔内活性点への酸素の吸着および酸化反応を抑制し得、且つ、優れた成型性を確保し得る。なお、上記重質油分の添加に際し、重質油分のみを添加するよりも、重質油分を溶媒油分と混合して混合油としてから添加した方が、流動性や拡散性に優れている点で望ましい。
【0037】
本発明に係る固形燃料の製造方法においては、重質油分の添加量が従来法Aの場合よりも少なくてよく、このため、重質油分の添加量の低減がはかれるだけでなく、重質油分の添加量が少なくなるので、水分蒸発処理後の固液分離に際し、油分の除去が容易になり、その効率が向上する。即ち、水分蒸発処理後、固液分離して固形燃料を得るに際し、通常は、水分蒸発処理後のスラリーを遠心分離機等の機械的固液分離機により固液分離し、これにより分離された固体分を乾燥機等により乾燥処理(油分蒸発処理)して固形燃料を得るが、この乾燥処理に際し、その対象の固体分中の重質油分の量が少ないので、乾燥(油分蒸発)が容易になり、その効率が向上する。
【0038】
本発明に係る固形燃料の製造装置は、溶媒油分を含む油を低品位炭と混合して原料スラリーを作る混合槽と、この原料スラリーを水分蒸発処理する蒸発器と、この水分蒸発処理されたスラリーを固液分離する固液分離手段を有する固形燃料の製造装置であって、前記水分蒸発処理の終了後または中途段階のスラリーに重質油分を添加する手段を有することを特徴とする固形燃料の製造装置である。
【0039】
本発明に係る固形燃料の製造装置によれば、前述のような本発明に係る固形燃料の製造方法を遂行することができ、ひいては本発明に係る固形燃料の製造方法の場合と同様の作用効果を奏することができる。即ち、上記のような混合槽、蒸発器、固液分離手段を有するので、本発明に係る固形燃料の製造方法の原料スラリー作製、原料スラリーの水分蒸発処理、固液分離をすることができると共に、水分蒸発処理の終了後または中途段階のスラリーに重質油分を添加する手段を有するので、水分蒸発処理の終了後または中途段階のスラリーに重質油分を添加することができ、このため、前述のような本発明に係る固形燃料の製造方法を遂行することができ、ひいては本発明に係る固形燃料の製造方法の場合と同様の作用効果を奏することができる。
【0040】
本発明において、水分蒸発処理の中途段階のスラリーとは、水分蒸発処理が中途段階にあるスラリー、即ち、原料スラリーの水分蒸発処理が開始し終了するまでの間におけるスラリー(水分蒸発処理の開始から終了までの間のスラリー)のことである。このスラリーは、水分蒸発処理が半分進んだときのスラリーに限定されず、水分蒸発処理の開始から終了までの間のスラリーであればよく、水分蒸発処理が半分程度進んだときのスラリーや、水分蒸発処理が少し進んだときのスラリー、水分蒸発処理の終了直前のスラリー等が含まれる。
【0041】
原料スラリーの水分蒸発処理は、通常、多段に設けられた蒸発器(脱水槽)により多段に行われる。例えば、2段に設けられた蒸発器により2段に行われ、あるいは、3段に設けられた蒸発器により3段に行われる。前者の場合、1段目の蒸発器(脱水槽)により原料スラリーを水分蒸発処理し、この水分蒸発処理後のスラリーを2段目の蒸発器により水分蒸発処理する。後者の場合、1段目の蒸発器により原料スラリーを水分蒸発処理し、この水分蒸発処理後のスラリーを2段目の蒸発器により水分蒸発処理し、この水分蒸発処理後のスラリーを3段目の蒸発器により水分蒸発処理する。
【0042】
前者の例(2段)の場合、重質油分の添加を1段目の蒸発器により水分蒸発処理されたスラリーに対して行う。後者の例(3段)の場合、重質油分の添加を1段目の蒸発器により水分蒸発処理されたスラリーおよび/または2段目の蒸発器により水分蒸発処理されたスラリーに対して行う。これらは、いずれの場合も、重質油分の添加を水分蒸発処理の中途段階のスラリーに対して行ったことになる。
【0043】
なお、水分蒸発処理があまり進んでいないときのスラリーに重質油分の添加を行う場合は低減可能な重質油分添加量が小さく、この場合よりも水分蒸発処理が進んだときのスラリーに重質油分の添加を行う場合の方が低減可能な重質油分添加量が大きくなり、必要な重質油分の添加量が小さくなるので、できるだけ水分蒸発処理が進んだときのスラリー、例えば水分蒸発処理の終了に近いときのスラリーに重質油分の添加を行うようにすることが望ましい。例えば、水分蒸発処理を3段に設けられた蒸発器により3段に行う場合、重質油分の添加を2段目の蒸発器により水分蒸発処理されたスラリーに対して行うことが望ましい。
【0044】
本発明において、低品位炭とは、前述のように多量の水分を含有し、脱水することが望まれる石炭のことである。かかる低品位炭には、例えば、褐炭、亜炭、亜れき青炭等がある。例えば、褐炭には、ビクトリア炭、ノースダコタ炭、ベルガ炭等があり、亜れき青炭には、西バンコ炭、ビヌンガン炭、サマランガウ炭等がある。低品位炭は上記例示のものに限定されず、多量の水分を含有し、脱水することが望まれる石炭は、いずれも本発明に係る低品位炭に含まれる。
【0045】
重質油分とは、真空残さ油のように、例えば400℃でも実質的に蒸気圧を示すことがないような重質分あるいはこれを含む油のことである。
【0046】
原料スラリーの水分蒸発処理とは、原料スラリー中の低品位炭を脱水する処理のことである。即ち、低品位炭に含まれる水分を蒸発させ、これにより発生した水蒸気を除去する処理のことである。
【0047】
混合槽としては、その種類は特には限定されず、種々のものを用いることができるが、通常は軸流型攪拌機等を用いる。
【0048】
蒸発器としては、その種類は特には限定されず、種々のものを用いることができ、加熱方式のもの、減圧方式のもの、あるいは、加熱および減圧方式のもの等を用いることができる。例えば、フラッシュ蒸発型、コイル型、強制循環式垂直管型等の蒸発器を用いることができる。通常は熱交換器を付帯した強制循環型等の蒸発器を用いる。
【0049】
水分蒸発処理の終了後または中途段階のスラリーに重質油分を添加する手段としては、その種類は特には限定されず、種々のものを用いることができ、例えば、水分蒸発処理の終了後または中途段階のスラリーと重質油分とを混合する混合部を設け、この混合部に重質油分を供給するようにしたものを用いることができる。水分蒸発処理を2段に設けられた蒸発器により2段に行う場合は、上記の混合部は2段目の蒸発器と固液分離機との間、あるいは、1段目の蒸発器と2段目の蒸発器との間に設けることができる。
【0050】
水分蒸発処理後、固液分離して固形燃料を得るに際し、通常は、前述のように、水分蒸発処理後のスラリーを機械的固液分離機により固液分離し、これにより分離された固体分を乾燥機等により乾燥処理(油分蒸発処理)して固形燃料を得る。この機械的固液分離器としては、その種類は特には限定されず、種々のものを用いることができ、例えば、遠心分離機、圧搾機、沈降槽、ろ過機等を用いることができるが、通常は遠心分離機等を用いる。
【実施例】
【0051】
本発明の実施例について、以下説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0052】
〔比較例1〕
比較例1に係る固形燃料の製造プロセスのフローを図1に示す。この製造プロセス中の原料スラリー作製部(混合部)、水分蒸発処理部(蒸発部)の詳細を図4に示す。
【0053】
図1、図4に示すように、原料の低品位炭(多孔質炭)を粉砕部で粉砕した後、これを原料スラリー作製部(混合部)即ち混合槽1に供給し、この混合槽1で重質油分と溶媒油分を含む混合油と混合して原料スラリーを作った。このとき、原料の低品位炭としてはインドネシアのSamarangau炭(サマランガウ炭)で、水分35質量%(重量%)のものを用いた。この低品位炭と混合する重質油分と溶媒油分を含む混合油としては、運転当初は灯油にアスファルトを混合した混合油を用い、それ以降は後述する固液分離部(機械分離)や最終乾燥部(蒸発分離)で出てくる油分を循環油として混合槽1に向けて循環し、この循環油に重質油分(アスファルト)と溶媒油分(灯油)とを添加したものを用いた。ここで、灯油は溶媒油分に属すものであり、アスファルトは重質油分に属すものである。混合油中でのアスファルトの量は、0.5重量%(質量%)となるようにした。混合槽1への混合油の添加による重質油分の添加量(混合油を添加するが、その中の重質油分に着目したときの、重質油分としての添加量)は、後述する固形燃料(固液分離により得られるケーキを乾燥機で油分蒸発処理したもの)での重質油分の付着量が、この固形燃料中の乾燥ベースでの多孔質炭(改質炭)に対して0.5質量%となるようにした。
【0054】
上記原料スラリーを予熱した後、蒸発部(蒸発器1および蒸発器2)で水分蒸発処理をした。即ち、1段目の蒸発器2により原料スラリーを水分蒸発処理し、この水分蒸発処理後のスラリーを2段目の蒸発器3により水分蒸発処理した。このとき、蒸発器としては熱交換器を付帯した強制循環型蒸発器を用いた。この蒸発器での加熱温度は、160℃である。
【0055】
この水分蒸発処理されたスラリーを固液分離部(機械分離)に送り、遠心分離機により固液分離した。これにより分離された固体分(ケーキ)は、最終乾燥部(蒸発分離)に送り、乾燥機(乾燥器)にてキャリアガスを流しながら加熱して油分を蒸発させ、これにより固形燃料を得た。この固形燃料は、乾燥機から冷却部に送られ、冷却されて粉末状固形燃料となるか、または、冷却部で冷却された後、成型部で成型されて成型固形燃料となるか、あるいは、冷却部に送られることなく、直接成型部に送られ、成型されて成型固形燃料となる。
【0056】
上記遠心分離機により分離された液体分(油分)は、循環油として混合槽1に向けて循環させた。上記乾燥機にて蒸発した油分(蒸発油分)は、キャリアガスと共に乾燥機から集塵器に送り、更に、冷却器(ガス冷却器)に送り、この冷却器にて蒸発油分を液化し、この液化された油分の一部を循環油として混合槽1に向けて循環させた。そして、これらの循環油を原料スラリーを作る際の油の一部として用いた。即ち、これらの循環油に重質油分(アスファルト)と溶媒油分(灯油)を添加して、混合槽1に供給した。このとき、重質油分(アスファルト)の添加量は、上記循環油に重質油分と溶媒油分を添加して得られる油(混合油)中での重質油分の量が0.5質量%となるようにした。この混合槽1への混合油の添加による重質油分の添加量(混合油を添加するが、その中の重質油分に着目したときの、重質油分としての添加量)は、前記固形燃料(固液分離により得られるケーキを乾燥機で油分蒸発処理したもの)での重質油分の付着量が、この固形燃料中の乾燥ベースでの多孔質炭(改質炭)に対して0.5質量%となるようにした。
【0057】
このような固形燃料の製造プロセスを連続して行った。この結果、脱水されると共に自然発火性が低くて輸送性および貯蔵性に優れ、且つ、成型性に優れた固形燃料を製造することができた。この固形燃料(固液分離により得られたケーキを乾燥機で油分蒸発処理したもの)での重質油分の付着量は、この固形燃料中の乾燥ベースでの多孔質炭(改質炭)に対して0.5質量%であった。
【0058】
〔比較例2〕
運転当初においては混合槽1へ混合油〔重質油分(アスファルト)と溶媒油分(灯油)との混合油〕を供給するが、この混合槽1への混合油の添加による重質油分の添加量(混合油を添加するが、その中の重質油分に着目したときの、重質油分としての添加量)は、比較例1の場合の60%の量とした。それ以降においては循環油に重質油分(アスファルト)と溶媒油分(灯油)を添加したもの(混合油)を混合槽1に供給するが、この混合槽1への混合油の添加による重質油分の添加量(混合油を添加するが、その中の重質油分に着目したときの、重質油分としての添加量)は、比較例1の場合の60%の量とした。これらの点を除き、比較例1の場合と同様の方法により、固形燃料の製造プロセスを連続して行った。
【0059】
この結果、脱水されると共に自然発火性が低くて輸送性および貯蔵性に優れた固形燃料を製造することができたが、この固形燃料は成型性が低くて不充分なものであった。この固形燃料(固液分離により得られたケーキを乾燥機で油分蒸発処理したもの)での重質油分の付着量は、この固形燃料中の乾燥ベースでの多孔質炭(改質炭)に対して0.3質量%であった。
【0060】
〔実施例1〕
実施例1に係る固形燃料の製造プロセスのフローを図2に示す。この製造プロセス中の原料スラリー作製部(混合部)、水分蒸発処理部(蒸発部)の詳細を図5に示す。
【0061】
図2、図5に示すように、原料炭(低品位炭)を粉砕部で粉砕した後、これを原料スラリー作製部(混合部)即ち混合槽1に供給し、この混合槽1で油(溶媒油分を含む)と混合して原料スラリーを作った。このとき、原料の低品位炭としては、比較例1の場合と同様のサマランガウ炭を用いた。この低品位炭と混合する油としては、運転当初は溶媒油分(灯油)を用い、それ以降は後述する固液分離部(機械分離)や最終乾燥部(蒸発分離)で出てくる油分を循環油として混合槽1に向けて循環して用いた。
【0062】
上記原料スラリーを予熱した後、蒸発部(蒸発器1および蒸発器2)で水分蒸発処理をし、その中途段階のスラリーに重質油分と溶媒油分を混合した混合油(以下、重質油分含有混合油ともいう)を添加した。即ち、1段目の蒸発器2により水分蒸発処理し、この水分蒸発処理後のスラリーに重質油分含有混合油を添加し、この重質油分含有混合油添加後のスラリーを2段目の蒸発器3により水分蒸発処理した。なお、重質油分としてはアスファルトを用いた。
【0063】
このとき、重質油分(アスファルト)の添加量は、後述する固形燃料(固液分離により得られるケーキを乾燥機で油分蒸発処理したもの)での重質油分の付着量が、この固形燃料中の乾燥ベースでの多孔質炭(改質炭)に対して0.3質量%となるようにした。この重質油分添加量は比較例1の場合〔固形燃料(固液分離により得られるケーキを乾燥機で油分蒸発処理したもの)での重質油分の付着量が、この固形燃料中の乾燥ベースでの多孔質炭(改質炭)に対して0.5質量%となる量〕よりも少なく、重質油分使用量は比較例1の場合よりも少ない(40%少ない)。即ち、重質油分使用量は比較例1の場合の60%であり、比較例1の場合よりも少ない。
【0064】
なお、蒸発器としては比較例1の場合と同様のものを用いた。この蒸発器での加熱温度は比較例1の場合と同様である。
【0065】
上記2段目の蒸発器3により水分蒸発処理されたスラリーを固液分離部(機械分離)に送り、遠心分離機により固液分離した。これにより分離された固体分(ケーキ)は、最終乾燥部(蒸発分離)に送り、乾燥機(乾燥器)にてキャリアガスを流しながら加熱して油分を蒸発させ、これにより固形燃料を得た。
【0066】
上記遠心分離機により分離された液体分(油分)は、循環油として混合槽1に向けて循環させた。上記乾燥機にて蒸発した油分(蒸発油分)は、比較例1の場合と同様の方法により液化し、この液化された油分の全量を循環油として混合槽1に向けて循環させた。そして、これらの循環油を原料スラリーを作る際の油として用いた。
【0067】
このような固形燃料の製造プロセスを連続して行った。この結果、脱水されると共に自然発火性が低くて輸送性および貯蔵性に優れ、且つ、成型性に優れた固形燃料を製造することができた。この固形燃料(固液分離により得られたケーキを乾燥機で油分蒸発処理したもの)での重質油分の付着量は、この固形燃料中の乾燥ベースでの多孔質炭(改質炭)に対して0.3質量%であった。この重質油分の付着量は、比較例1の場合に比較して少ない。これは、重質油分の使用量を比較例1の場合よりも少なくすることができる(即ち、比較例1の場合の60%に低減することができる)ことを示している。前述のように、実施例1の場合は、比較例1の場合に比較して、重質油分の添加量が少ない(40%少ない)。
【0068】
従って、実施例1の場合は、重質油分の添加量が比較例1の場合より少なくても、脱水されると共に自然発火性が低くて輸送性および貯蔵性に優れ、且つ、成型性に優れた固形燃料を製造することができることが確認された。即ち、実施例1の場合は、重質油分の添加量が比較例1の場合よりも少なくてよく、重質油分の添加量の低減がはかれ、ひいては重質油分の使用量の低減がはかれる(40%の低減がはかれる)ことが確認された。
【0069】
〔実施例2〕
実施例2に係る固形燃料の製造プロセス中の原料スラリー作製部(混合部)、水分蒸発処理部(蒸発部)の詳細を図6に示す。
【0070】
図6に示すように、原料の低品位炭(粉砕したもの)を混合槽1に供給し、この混合槽1で油(溶媒油分を含む)と混合して原料スラリーを作った。このとき、原料の低品位炭としては、比較例1の場合と同様のサマランガウ炭を用いた。この低品位炭と混合する油としては、比較例1の場合と同様、運転当初は溶媒油分(灯油)を用い、それ以降は循環油を用いた。
【0071】
上記原料スラリーを予熱した後、蒸発部(蒸発器4〜6)で水分蒸発処理をし、その中途段階のスラリーに重質油分含有混合油(重質油分と溶媒油分を混合した混合油)を添加した。即ち、1段目の蒸発器4により原料スラリーを水分蒸発処理し、この水分蒸発処理後のスラリーを2段目の蒸発器5により水分蒸発処理し、この水分蒸発処理後のスラリーに重質油分含有混合油を添加し、この重質油分添加後のスラリーを3段目の蒸発器6により水分蒸発処理した。なお、重質油分としてはアスファルトを用いた。
【0072】
このとき、重質油分(アスファルト)の添加量は、後述する固形燃料(固液分離により得られるケーキを乾燥機で油分蒸発処理したもの)での重質油分の付着量が、この固形燃料中の乾燥ベースでの多孔質炭(改質炭)に対して0.3質量%となるようにした。この重質油分添加量は比較例1の場合〔固形燃料(固液分離により得られるケーキを乾燥機で油分蒸発処理したもの)での重質油分の付着量が、この固形燃料中の乾燥ベースでの多孔質炭(改質炭)に対して0.5質量%となる量〕よりも少なく、重質油分使用量は比較例1の場合よりも少ない(40%少ない)。
【0073】
なお、蒸発器としては比較例1の場合と同様のものを用いた。この蒸発器での加熱温度は比較例1の場合と同様である。
【0074】
上記3段目の蒸発器6により水分蒸発処理されたスラリーを固液分離部(機械分離)に送り、遠心分離機により固液分離した。これにより分離された固体分(ケーキ)は、最終乾燥部(蒸発分離)に送り、乾燥機(乾燥器)にてキャリアガスを流しながら加熱して油分を蒸発させ、これにより固形燃料を得た。
【0075】
上記遠心分離機により分離された液体分(油分)は、循環油として混合槽1に向けて循環させた。上記乾燥機にて蒸発した油分(蒸発油分)は、比較例1の場合と同様の方法により液化し、この液化された油分の全量を循環油として混合槽1に向けて循環させた。そして、これらの循環油を原料スラリーを作る際の油として用いた。
【0076】
このような固形燃料の製造プロセスを連続して行った。この結果、脱水されると共に自然発火性が低くて輸送性および貯蔵性に優れ、且つ、成型性に優れた固形燃料を製造することができた。この固形燃料(固液分離により得られたケーキを乾燥機で油分蒸発処理したもの)での重質油分の付着量は、この固形燃料中の乾燥ベースでの多孔質炭(改質炭)に対して0.3質量%であった。この重質油分の付着量は、比較例1の場合に比較して少ない。これは、重質油分の使用量を比較例1の場合よりも少なくすることができる(比較例1の場合の60%の量に低減することができる)ことを示している。前述のように、実施例2の場合は、比較例1の場合に比較して、重質油分の添加量が少ない(40%少ない)。
【0077】
従って、実施例2の場合は、重質油分の添加量が比較例1の場合より少なくても、脱水されると共に自然発火性が低くて輸送性および貯蔵性に優れ、且つ、成型性に優れた固形燃料を製造することができることが確認された。即ち、実施例1の場合は、重質油分の添加量が比較例1の場合よりも少なくてよく、重質油分の添加量の低減がはかれ、ひいては重質油分の使用量の低減がはかれる(40%の低減がはかれる)ことが確認された。
【0078】
以上の実施例1〜2においては、水分蒸発処理の中途段階のスラリーに重質油分含有混合油(重質油分と溶媒油分を混合した混合油)を添加した。水分蒸発処理の終了後のスラリーに重質油分含有混合油を添加する場合は、例えば、図3に示すようなプロセスで実施する。即ち、蒸発部での水分蒸発処理の終了後のスラリーを混合部に導入すると共に、この混合部に重質油分含有混合油を供給して混合し、この重質油分含有混合油を混合(添加)したスラリーを固液分離部にて固液分離する。これ以降については、実施例1〜2の場合と同様の方法により、同様のことを行う。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、低品位炭を脱水すると共に自然発火性を低下させて改質炭とすると共に、その改質炭に優れた成型性をもたせようとする際に好適に用いることができて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】比較例1に係る固形燃料の製造プロセスのフローを示す図である。
【図2】本発明の実施例1に係る固形燃料の製造プロセスのフローを示す図である。
【図3】本発明の実施の形態例に係る固形燃料の製造プロセスのフローを示す図である。
【図4】比較例1に係る固形燃料の製造プロセス中の混合部および蒸発部の詳細を示す模式図である。
【図5】本発明の実施例1に係る固形燃料の製造プロセス中の混合部および蒸発部の詳細を示す模式図である。
【図6】実施例2に係る固形燃料の製造プロセス中の混合部および蒸発部の詳細を示す模式図である。
【符号の説明】
【0081】
1--混合槽、2--1段目の蒸発器、3--2段目の蒸発器、
4--1段目の蒸発器、5--2段目の蒸発器、6--3段目の蒸発器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒油分を含む油を低品位炭と混合して原料スラリーを作り、この原料スラリーを水分蒸発処理した後、固液分離して固形燃料を得る固形燃料の製造方法であって、前記水分蒸発処理の終了後または中途段階のスラリーに重質油分を添加することを特徴とする固形燃料の製造方法。
【請求項2】
溶媒油分を含む油を低品位炭と混合して原料スラリーを作る混合槽と、この原料スラリーを水分蒸発処理する蒸発器と、この水分蒸発処理されたスラリーを固液分離する固液分離手段を有する固形燃料の製造装置であって、前記水分蒸発処理の終了後または中途段階のスラリーに重質油分を添加する手段を有することを特徴とする固形燃料の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−138103(P2007−138103A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337129(P2005−337129)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【特許番号】特許第3920304号(P3920304)
【特許公報発行日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】