説明

低床LRVの車上集電装置

【課題】給電用架線と十分な接触面積をとり、大電流を通電可能な低床LRVの車上集電装置を提供する。
【解決手段】低床LRVの車上集電装置において、給電用架線13に接触面積を大にして接触可能である導電接触体17を有するパンタグラフ14と、低床LRVのバッテリーへの充電指令が出され、前記低床LRVが停車状態にある場合、前記パンタグラフ14の導電接触体17を前記給電用架線13に接触させる前記パンタグラフ14の駆動装置とを備え、低床LRVに搭載される大容量バッテリー10への大電流短時間充電を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低床LRVの車上集電装置に係り、特に、バッテリーへの大電流急速充電が可能な低床LRVの車上集電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両の車上集電装置は給電用架線に対してパンタグラフのすり板(舟体)を押し付け摺接することにより、集電するようにしている。
【0003】
しかしながら、かかる従来のパンタグラフによる集電方式は、すり板1列当たりの許容給電電流は1000A程度であるが、それは列車が動きパンタグラフと架線の通電接触点が常時移動することで発熱部が固定されない場合である。定点連続給電の場合は150A程度でも条件次第でトロリ線(架線)が溶断する。
【0004】
現在開発中であるバッテリ式低床LRV(Light Rail Vehicle)は、運行中の停車時間内に時折急速充電を行う必要がある。その場合、専用の充電設備を高電圧化して構築すれば、小電流の充電が可能であり、給電設備(給電用架線)との接触子構造も簡便にすることができるが、地上設備が高価となったり、絶縁離隔等で設置上の制約が生ずるといった問題がある。
【0005】
一方、直流600ボルト程度の低電圧給電設備とした場合には、地上設備は簡易になり、路面電化区間の電化設備等とも共通性が得られる面があるが、地上設備と低床LRV間で停車時に短時間に高電流授受を行う必要が生ずる。
【0006】
通常の電化区間列車の集電系は、走行中集電が普通であって、このような停車中の短時間大電流集電というものはあまり例がなく、かかる停車中の短時間大電流集電を行おうとすると、パンタグラフによる集電方式は通電電流を小さくせざる得ない。無理して集電しようとすると給電用架線へのパンタグラフの溶着(スポット溶接に近い)や架線の溶断が発生することも懸念される。
【特許文献1】なし
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、低床LRVは、停車時に大電流で急速にバッテリーの充電を行う必要がある。しかし、通常のすり板(舟体)を有するパンタグラフによる集電方式では、定点充電による約1000Aの通電電流が要求される低床LRVの車上集電装置に代わることは不可能である。これは走行前提のパンタグラフでは、すり板面積を増やすことで電流容量を上げることは、重量増加となり、架線への動的追従性や耐摩耗性の観点から許容されないためである。
【0008】
本発明は、上記状況に鑑みて、給電用架線と十分な接触面積をとり、大電流を通電可能な低床LRVの車上集電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕低床LRVの車上集電装置において、給電用架線に接触面積を大にして接触可能である導電接触体を有するパンタグラフと、低床LRVのバッテリーへの充電指令が出され、前記低床LRVが停車状態にある場合、前記パンタグラフの導電接触体を前記給電用架線に接触させる前記パンタグラフの駆動装置とを備え、低床LRVに搭載される大容量バッテリーへの大電流短時間充電を可能にすることを特徴とする。
【0010】
〔2〕上記〔1〕記載の低床LRVの車上集電装置において、前記パンタグラフの導電接触体が銅系焼結合金であることを特徴とする。
【0011】
〔3〕上記〔1〕又は〔2〕記載の低床LRVの車上集電装置において、通常のパンタグラフを並列に配置することを特徴とする。
【0012】
〔4〕上記〔3〕記載の低床LRVの車上集電装置において、前記通常のパンタグラフの絶縁基台上に前記給電用架線に略1000mm2 に接触面積を大にして接触可能である導電接触体を有するパンタグラフを付設することを特徴とする。
【0013】
〔5〕上記〔4〕記載の低床LRVの車上集電装置において、前記接触面積を大にするために、前記パンタグラフの導電接触体(舟数)を増加させることを特徴とする。
【0014】
〔6〕上記〔1〕から〔5〕の何れか一項記載の低床LRVの車上集電装置において、前記導電接触体を停留所に設けられる給電用剛体架線に接触させて給電することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
【0016】
(1)低床LRVに搭載される大容量バッテリーへの大電流短時間充電を行うことができる。
【0017】
(2)通常のパンタグラフの絶縁基台上に、給電用架線に接触面積を大にして接触可能である導電接触体を有するパンタグラフを付設することにより、コンパクトな構成とすることができる。
【0018】
(3)パンタグラフ自体も簡素な構成にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の低床LRVの車上集電装置は、給電用架線に接触面積を大にして接触可能である導電接触体を有するパンタグラフと、低床LRVのバッテリーへの充電指令が出され、前記低床LRVが停車状態にある場合、前記パンタグラフの導電接触体を前記給電用架線に接触させる前記パンタグラフの駆動装置とを備え、低床LRVに搭載される大容量バッテリーへの大電流短時間充電を可能にすることを特徴とする。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は本発明の実施例を示す低床LRVの全体側面構成図、図2はその低床LRVの正面図、図3はその低床LRVへの給電を行うための停留所における短区間の給電用架線例を示す図であり、図3(a)は無給電用架線区間での停留所区間のみ給電用剛体架線が設けられる場合の、停車中におけるパンタグラフからの給電方式、図3(b)は無給電用架線区間で停留所の所定区間のみ給電用剛体架線が設けられる場合の、停車中におけるパンタグラフからの給電方式、図3(c)は架線区間で停留所の区間のみ給電用剛体架線が設けられる場合の、停車中におけるパンタグラフからの給電方式、図3(d)は架線区間で給電用架線が設けられている場合の、惰行時のパンタグラフからの給電方式を示す図である。
【0022】
これらの図において、1はレール、2は低床LRV、3は台車、4は車輪、5は低床LRV2の車上に搭載される静止型補助電源、6は低床LRV2の車上に搭載される空調ユニット、7は低床LRVの車上の適正位置、つまり、給電用架線位置に合わせた車上の充電用パンタグラフ位置の適正位置(例えば、中央位置など)に配置される急速大電流充電対応パンタグラフ(接触面積が大)、8は低床LRV2の車上に搭載される架線ハイブリッド充電器一体型インバータ、9は大容量バッテリー(リチウムイオンバッテリー)10の収納部である。
【0023】
ここで、急速大電流充電対応パンタグラフ(接触面積が大)は、銅系焼結合金など(通常の架線集電用パンタグラフのすり板よりも抵抗率が低いまたは同等の材料)である。また、これは、接触面積を大にするために、集電舟数を通常のパンタグラフの数倍にしたり、接触面積を2000mm2 程度まで増大させることで、真実接触面積が現状100mm2 程度以下のものを1000mm2 程度まで増大して接触することができるように構成する。
【0024】
図3(a)に示すように、充電スポットを除き、給電を行うための架線が張られていない区間(以下、無給電架線区間という)での停車中充電方式においては、例えば、停留所11の上方に停留所11区間のみ給電用剛体架線11Aが設けらており、この給電用剛体架線11Aに低床LRVの車上の中央部などの適正位置に配置される急速大電流充電対応パンタグラフ7を接触させるとともに、台車3の複数の車輪4からレール1へと大電流通電の帰線を確保することにより、大電流の通電による大容量バッテリー10の充電を短時間で行うことができるようにしている。ここでは、給電用剛体架線11Aへはトランスや整流器(図示なし)を備えた地下トラフ12又は電柱(図示なし)から給電されるようにしている。なお、変電設備や柱上変圧器から停留所のトランスや整流器までの三相高圧母線の電圧は、例えば、6600V又は22000Vとすることができ、その結果給電電圧は、直流3000V,1500V,750V,600V,300Vなどとすることができる。
【0025】
また、図3(b)に示すように、無給電架線区間での停車中充電方式においては、屋根11B付きの停留所11の所定区間のみ給電用剛体架線11Cが設けられ、この給電用剛体架線11Cに低床LRVの車上の適正位置に配置される急速大電流充電対応パンタグラフ7を接触させることができるようにしている。ここでも、給電用剛体架線11Cへはトランスや整流器(図示なし)を備えた地下トラフ12又は電柱(図示なし)から給電されるようにしている。
【0026】
さらに、図3(c)に示すように、架線区間での停車中充電方式においては、停留所11の上方に停留所11区間のみ給電用剛体架線11Dが設けられ、この給電用剛体架線11Dへの給電は停留所11外の通常の給電用架線11Eから行われるようになっている。
【0027】
なお、図3(d)に示すように、通常の給電用架線11Eの架線区間での充電方式においては、惰行中に通常の給電用架線11Eから通常のパンタグラフを接触させるようにしている。
【0028】
そこで、低床LRVの車上の中央部などの適正位置に配置される急速大電流充電対応パンタグラフについて詳細に説明する。
【0029】
図4は本発明の実施例を示す低床LRVの車上の適正位置に配置される急速大電流充電対応パンタグラフがオフの場合を示す図、図5はそのパンタグラフがオンの場合を示す図、図6は本発明の実施例を示す低床LRVの車上の適正位置に配置される急速大電流充電対応パンタグラフの動作フローチャートである。
【0030】
図4においては、低床LRVの車上の適正位置に配置される急速大電流充電対応パンタグラフ14は給電用架線13とはオフになっており、通常の低床LRVの集電用パンタグラフ15は、ここでは、給電用架線13と接触している。なお、架線区間におけるバッテリー走行モード〔図3(a),(b)参照〕時には、給電用架線13と集電用パンタグラフ15とは常時離れており、架線ハイブリッドモード走行で停留所のみ急速充電対応型の給電用架線〔図3(c)参照〕の場合には、集電用パンタグラフ15と給電用架線13とは常時接触するようになっている。
【0031】
なお、停留所の給電用架線が通常の給電用架線〔図3(d)参照〕の場合には停車中急速充電はできず、惰行中または停車中にゆっくり充電することとなり、この場合も集電用パンタグラフ15は、給電用架線13と常時接触するようになっている。
【0032】
図5においては、低床LRVの車上の中央部などの適正位置に配置される急速大電流充電対応パンタグラフ14は給電用架線13にオンとなっている。つまり、アーム16の先端部に、給電用架線13との接触面積が大きくなるような形状(例えば、集電舟の大面積化、集電舟の数の増加など)の導電接触体(銅系焼結合金など)17を配置し、これが給電用架線13に接触することにより通電電流を大きくすることができる。
【0033】
次に、この急速大電流充電対応パンタグラフによる大容量バッテリーの急速大電流充電のフローを図6を参照しながら説明する。
【0034】
図6は本発明の実施例を示す低床LRVの車上の適正位置に配置される急速大電流充電対応パンタグラフの動作フローチャートである。
【0035】
(1)バッテリーの充電指令が出されたかをチェックする(ステップS1)。
【0036】
(2)ステップS1がYESの場合には、低床LRV2は停車したかをチェックする(ステップS2)。
【0037】
(3)ステップS2がYESの場合には、急速大電流充電対応パンタグラフ14を上昇させて、導電接触体(銅系焼結合金など)17を給電用架線13に押し当てて接触させる。ここで、導電接触体17は給電用架線13との接触面積を大きくとって通電電流が大きくなるようしている(ステップS3)。
【0038】
(4)この急速大電流充電対応パンタグラフ14を介して大通電電流を供給して大容量バッテリー10への充電を開始する(ステップS4)。
【0039】
(5)充電が完了したら(ステップS5)、急速大電流充電対応パンタグラフ14を下降させてオフにして大容量バッテリー10への充電を終了する。
【0040】
このように構成することにより、急速大電流充電対応パンタグラフによって、大電流で急速に大容量バッテリーへの充電を行うことができる。
【0041】
次に、本発明の実施例を示す急速大電流充電対応パンタグラフの変形例について説明する。
【0042】
図7はこの変形例の急速大電流充電対応パンタグラフの側面図、図8はこの急速大電流充電対応パンタグラフの上面図である。
【0043】
これらの図において、低床LRVの車上の中央部などの適正位置に配置される急速大電流充電対応パンタグラフ21は、アーム22の先端部の導電接触体(銅系焼結合金など)23を上昇、下降させることにより給電用架線24とのオン、オフが可能であり、通常の低床LRVの集電用パンタグラフ25はアーム26の先端部に設けられた舟体(シュー)27が押上げられることにより給電用架線24に接触可能なようになっている。
【0044】
ここでは、通常の低床LRVの集電用パンタグラフ25の舟体(シュー)27が右側に位置するように配置されているのに対して、低床LRVの車上の中央部などの適正位置に急速大電流充電対応パンタグラフ21の導電接触体(銅系焼結合金など)23は左側に位置するようにパンタグラフ25の空きスペースを利用して、低床LRVの車上の中央部などの適正位置に急速大電流充電対応パンタグラフ21を配置するようにしている。
【0045】
したがって、この変形例では急速大電流充電対応パンタグラフを従来のパンタグラフ内にコンパクトに構成することができる。
【0046】
図9は更なる変形例を示す急速大電流充電対応パンタグラフの構成図である。
【0047】
このパンタグラフは、低床LRVの屋根31上に配置される絶縁基台32上にモータ(図示なし)で駆動される回転駆動軸33が配置され、その回転駆動軸33に連結されたアーム34の上端には給電用架線36との接触面積の広い導電接触体(銅系焼結合金)35を有している。
【0048】
この図から明らかなように、アーム34の先端には導電接触体(銅系焼結合金)35を有し、回転駆動軸33の回転駆動によるパンタグラフであり、構成の簡素化を図るようにしている。
【0049】
また、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の低床LRVの車上集電装置はバッテリーへの急速大電流充電対応パンタグラフとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施例を示す低床LRVの全体側面構成図である。
【図2】本発明の実施例を示す低床LRVの正面図である。
【図3】本発明の実施例を示す低床LRVへの給電を行うための停留所における短区間の給電用架線例を示す図である。
【図4】本発明の実施例を示す低床LRVの車上の中央部などの適正位置に配置される急速大電流充電対応パンタグラフがオフの場合を示す図である。
【図5】本発明の実施例を示す低床LRVの車上の中央部などの適正位置に配置される急速大電流充電対応パンタグラフがオンの場合を示す図である。
【図6】本発明の実施例を示す低床LRVの車上の中央部などの適正位置に配置される急速大電流充電対応パンタグラフの動作フローチャートである。
【図7】本発明の変形例を示す急速大電流充電対応パンタグラフの側面図である。
【図8】図7に示す急速大電流充電対応パンタグラフの上面図である。
【図9】本発明の更なる変形例を示す急速大電流充電対応パンタグラフの構成図である。
【符号の説明】
【0052】
1 レール
2 低床LRV
3 台車
4 車輪
5 車上に搭載される静止型補助電源
6 車上に搭載される空調ユニット
7,14,21 車上の中央部に配置される急速大電流充電対応パンタグラフ(接触面積が大)
8 車上に搭載される架線ハイブリッド充電器一体型インバータ
9 大容量バッテリー(リチウムイオンバッテリー)の収納部
10 大容量バッテリー(リチウムイオンバッテリー)
11 停留所
11A,11C,11D 給電用剛体架線
11B 屋根
11E 通常の給電用架線
12 地下トラフ
13,24,36 給電用架線
16,22,26,34 アーム
17,23,35 導電接触体(銅系焼結合金など)
15,25 通常の低床LRVの集電用パンタグラフ
27 舟体(シュー)
31 低床LRVの屋根
32 絶縁基台
33 回転駆動軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)給電用架線に接触面積を大にして接触可能である導電接触体を有するパンタグラフと、
(b)低床LRVのバッテリーへの充電指令が出され、前記低床LRVが停車状態にある場合、前記パンタグラフの導電接触体を前記給電用架線に接触させる前記パンタグラフの駆動装置とを備え、
(c)低床LRVに搭載される大容量バッテリーへの大電流短時間充電を可能にすることを特徴とする低床LRVの車上集電装置。
【請求項2】
請求項1記載の低床LRVの車上集電装置において、前記パンタグラフの導電接触体が銅系焼結合金であることを特徴とする低床LRVの車上集電装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の低床LRVの車上集電装置において、通常のパンタグラフを並列に配置することを特徴とする低床LRVの車上集電装置。
【請求項4】
請求項3記載の低床LRVの車上集電装置において、前記通常のパンタグラフの絶縁基台上に前記給電用架線に略1000mm2 に接触面積を大にして接触可能である導電接触体を有するパンタグラフを付設することを特徴とする低床LRVの車上集電装置。
【請求項5】
請求項4記載の低床LRVの車上集電装置において、前記接触面積を大にするために、前記パンタグラフの導電接触体(舟数)を増加させることを特徴とする低床LRVの車上集電装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項記載の低床LRVの車上集電装置において、前記導電接触体を停留所に設けられる給電用剛体架線に接触させて給電することを特徴とする低床LRVの車上集電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−68242(P2007−68242A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247056(P2005−247056)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】