説明

低摩擦摺動部材及び潤滑油組成物

【課題】ダイヤモンドライクカーボン膜を有する摺動面と有機材料との間に適用して摩擦特性が向上した低摩擦摺動部材及びこれに用いられる潤滑油組成物の提供。
【解決手段】ダイヤモンドライクカーボン膜を有する摺動部と有機材料との間の摺動面にピリジン類、ピロール類、ピリミジン類、ピラゾール類、ピリダジン類、インダゾール類、ピラジン類、トリアジン類、トリアゾール類、テトラゾール類、オキサゾール類、オキサジアゾール類、チアジアゾール類、フラン類、ジオキサン類、ピラン類、チオフェン類から選ばれる化合物に由来する複素環式化合物ならびに酸アミド、脂肪族エステル、および脂肪族アミンから選ばれる一種の無灰系摩擦調整剤と基油を含む潤滑油組成物を介在せしめてなる低摩擦摺動部材及びこれに用いられる潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の材料の組み合わせからなる摺動面に特定の化学構造を有する複素環式化合物等からなる無灰系摩擦調整剤を含む潤滑油組成物が存在する低摩擦摺動部材及びこれに用いられる潤滑油組成物に関する。さらに詳しくは、少なくとも一部にダイヤモンドライクカーボン膜を有する摺動部と有機材料との摺動面に同潤滑油組成物を介在させた低摩擦摺動部材及びこれに用いられる潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧シリンダー、リップシールなどの密封装置においては、摩擦抵抗が低く密着性に優れ潤滑油の漏洩がないことが求められる。ニトリルブタジエンゴム(NBR)のようなゴム材料の場合、摩擦抵抗が大きく、一方、フッ素樹脂の場合、摩擦抵抗は低減するものの、シール部材間に十分な密着性を確保することが困難となる。
【0003】
密封装置における摩擦抵抗の低減には、シール部のゴム材料をダイヤモンドライクカーボン(DLC)で被覆したものがある(特許文献1)。しかし、ゴム材料をDLCで被覆した場合、剥離や割れが発生し易く耐久性に問題がある。
【0004】
【特許文献1】特開2003−343632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、密封装置用の低摩擦摺動部材及びこれに用いられる潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、DLCコーティングされた摺動部と有機材料との摺動部における摩擦特性を向上させるべく研究を行った結果、金属材料にDLCコーティングした摺動面と有機材料との摺動面用の無灰系摩擦低減剤として特定の化学構造を有する複素環式化合物等を含む潤滑油組成物を介在させることにより、低摩擦摺動部材となり得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記(1)〜(11)
(1)少なくとも一部にダイヤモンドライクカーボン膜を有する摺動面と有機材料との間に、下記の一般式(I)
【0007】
【化1】

【0008】
[一般式(I)中、X1、X2およびX3はNまたはNH(Nは窒素)、O(酸素)、S(硫黄)から選ばれるいずれか少なくとも一つの元素を示し、それぞれが異種の元素でもよい。(C)x、(C)yおよび(C)vはアルキレン基もしくはR1、R2またはY1およびY2が1個または2個置換したアルキレン基の残基を示す。xおよびyは0〜2、vは0〜5の整数(後記するようにpが1の場合はvは0〜3の整数)、mおよびnは0または1であり、m、n、vは同時に0にはならない。R1およびR2は、それぞれ、水素原子又は炭素数6〜30のアルキル基、アルケニル基、アルキル及びアルケニルアミノ基、アルキル及びアルケニルアミド基、アルキル及びアルケニルエーテル基、アルキル及びアルケニルカルボキシル基、シクロアルキル基、アリール基から選ばれる基であり、R1、R2は同一でも異なっていても良いが、pが0の場合、R1とR2は同時に水素原子になることはない。Y1およびY2は水素原子または炭化水素残基、アミノ基、アミド基、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、ハロゲン原子から選ばれる官能基または同官能基を含む炭化水素残基、または同官能基に同官能基を含む炭化水素残基が付加した基である。Zは下記構造単位(II)
【0009】
【化2】

【0010】
を示し、pは0または1である。X4はNまたはNH(Nは窒素)、O(酸素)、S(硫黄)から選ばれるいずれかの元素を示す。(C)w、(C)uおよび(C)tはアルキレン基もしくはR3、R4、またはY3が置換したアルキレン基の残基を示す。wは0〜2、uは0〜4、kは0〜2、tは0〜3の整数であり、pが1の場合、vは0〜3の整数である。R3およびR4は同一でも異なっていても良いが、R1、R2、R3、R4は同時に水素原子になることはない。Y3は水素原子または炭化水素残基、アミノ基、アミド基、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、ハロゲン原子から選ばれる官能基または同官能基を含む炭化水素残基である。一般式(I)および構造単位(II)における環状部分は二重結合を有していてもよい]
で表される複素環式化合物、ならびに酸アミド、脂肪族エステル、および脂肪族アミンから選ばれる少なくとも一種の無灰系摩擦調整剤と基油を含む潤滑油組成物を介在せしめてなる低摩擦摺動部材、
(2)一般式(I)におけるpが0であり、X1、X2およびX3がN(窒素)またはO(酸素)から選ばれるいずれかの元素である上記(1)に記載の低摩擦摺動部材、
(3)一般式(I)におけるpが1であり、X1、X2、X3およびX4がN(窒素)またはO(酸素)から選ばれるいずれかの元素である上記(1)に記載の低摩擦摺動部材、
(4)一般式(I)がピリジン類、ピロール類、ピリミジン類、ピラゾール類、ピリダジン類、インダゾール類、ピラジン類、トリアジン類、トリアゾール類、テトラゾール類、オキサゾール類、オキサジアゾール類、チアゾール類、チアジアゾール類、フラン類、ジオキサン類、ピラン類、チオフェン類から選ばれる化合物に由来する複素環骨格を有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の低摩擦摺動部材、
(5)湿式条件下で使用される上記(1)〜(4)のいずれかに記載の低摩擦摺動部材、
(6)ダイヤモンドライクカーボン膜が水素含有量5原子%以下のアモルファスカーボン系材料である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の低摩擦摺動部材、
(7)有機材料がニトリルブタジエンゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、ウレタンゴムおよびシリコーンゴムから選ばれるいずれかの材料である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の低摩擦摺動部材、
(8)酸アミドがオレイン酸アミドである上記(1)または(5)〜(7)のいずれかに記載の低摩擦摺動部材、
(9)脂肪族エステルがグリセリンモノオレエートである上記(1)または(5)〜(7)のいずれかに記載の低摩擦摺動部材、
(10)脂肪族アミンがN,N-ジポリオキシエチレン-N-オレイルアミンである上記(1)または(5)〜(7)のいずれかに記載の低摩擦摺動部材および
(11)上記1〜10のいずれかに記載の低摩擦摺動部材用の潤滑油組成物であって、無灰系摩擦調整剤の添加量が組成物全量基準で0.1〜3.0質量%であることを特徴とする潤滑油組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、例えば、油圧シリンダー、リップシール、ショックアブソーバー等における摺動部の摩擦特性が向上し、優れた摩耗低減効果を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明で用いられる無灰系摩擦調整剤の中で上記一般式(I)で表される複素環式化合物について説明する。
前記一般式(I)において、Zは前記構造単位(II)を示し、pは0または1である。
【0013】
pが0の場合でX1〜X3のいずれかまたは全部がNの場合は、それぞれのNの2個の結合手のうちの一方が二重結合となる場合がある。両方とも単結合の場合のNには、R1、R2、およびY1およびY2のうちの1個が結合しているか、水素が1個結合している状態を示す。
Cは全て炭素元素を示し、それぞれのCの2個の結合手中どちらか一方の結合手が二重結合となる場合がある。pが0の場合、Cの一方の結合手が二重結合の場合および二重結合がない場合とも残りの1個または2個の単結合の結合手の表示は省略されており、Cの残りの2個の単結合の結合手の表示は省略されており、省略されている結合手にR1、R2、Y1およびY2から選ばれる基が1個結合している状態を示す。pが1の場合、X1〜X3についてはpが0の場合と同じ条件であり、X4がNの場合は、Nの2個の結合手のうちの一方が二重結合となる場合がある。両方とも単結合の場合は、R3、R4、およびY3、水素から選ばれる基が1個結合している状態を示す。pが1の場合、一般式(I)中のCはpが0の場合と同じ条件であり、構造単位(II)中のCは全て炭素元素を示し、それぞれのCの2個の結合手中どちらか一方の結合手が二重結合となる場合がある。一方が二重結合の場合および二重結合がない場合とも残りの1個または2個の単結合の結合手の表示は省略されており、省略されている結合手にR3、R4、Y3、水素から選ばれる基が2個結合している状態を示す。R1、R2、R3およびR4は、それぞれ、水素原子又は炭素数6〜30のアルキル基、アルケニル基、アルキル及びアルケニルアミノ基、アルキル及びアルケニルアミド基、アルキル及びアルケニルエーテル基、アルキル及びアルケニルカルボキシル基、シクロアルキル基、アリール基から選ばれる基であり、R1、R2、R3およびR4は同一でも異なっていても良いが、R1とR2およびR3とR4は同時に水素原子になることはない。Y1、Y2および、Y3は水素原子または炭化水素残基、アミノ基、アミド基、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、ハロゲン原子から選ばれる官能基または同官能基を含む炭化水素残基、または同官能基に同官能基を含む炭化水素残基が付加した基であり、同一でも異なっていてもよい。
【0014】
(1)pが0の場合
mおよびnは0または1、vは0〜5、xおよびyは0〜2の整数であるが、化合物の安定性の観点から、好ましくは、m=n=0の場合、vは4または5、mまたはnのいずれかが0の場合、vは2または3、m=n=1の場合、vは0または1である。さらに好ましくは、m=n=0の場合、vは4または5、m=1、n=0の場合でvが2または3のとき、xは1または2、m=0、n=1の場合でvが2または3のとき、yは1または2、m=n=1の場合でvが0のとき、x=y=1またはx=1、y=2またはx=2、y=1、m=n=1の場合でvが1のとき、x=0、y=1または2、またはx=1または2、y=0またはx=y=1である。
1、X2、およびX3はN(窒素)、O(酸素)、S(硫黄)から選ばれるいずれか少なくとも一つの元素を示すが、化合物の安定性、化合物を含有する製品の耐劣化性、触媒被毒防止の観点から、好ましくは、X1、X2、およびX3はNまたはO(酸素)から選ばれるいずれかの元素である。
1、X2、X3のいずれかまたは全部がNの場合は、それぞれのNの2個の結合手のうちの一方が二重結合となる場合がある。両方とも単結合の場合は、R1、R2、およびY1のうちの1個が結合しているか、水素から選ばれる基が1個結合している状態を示す。
Cは全て炭素元素を示し、それぞれのCの2個の結合手中どちらか一方の結合手が二重結合となる場合がある。一方が二重結合の場合および二重結合がない場合とも残りの1個または2個の単結合の結合手の表示は省略されており、省略されている結合手にR1、R2、およびY2、水素から選ばれる基が1個結合している状態を示す。
1およびR2は、それぞれ、水素原子又は炭素数6〜30のアルキル基、アルケニル基、アルキル及びアルケニルアミノ基、アルキル及びアルケニルアミド基、アルキル及びアルケニルエーテル基、アルキル及びアルケニルカルボキシル基、シクロアルキル基、アリール基から選ばれる基であり、R1およびR2は同一でも異なっていても良いが、R1およびR2は同時に水素原子になることはない。
アルキル基等において、炭素数を6以上とすることにより、潤滑油基油に対する充分な溶解性を有し、かつ、優れた摩擦低減効果を有する化合物となり、炭素数を30以下とすることにより、優れた摩擦低減効果を有する化合物となる。
1およびR2は、好ましくは水素原子又は12〜24の炭化水素基であり、具体的には、オクチル基、オクテニル基、デシル基、デセニル基、ドデシル基、ドデセニル基、テトラデセン基、テトラデセニル基、ヘキサデセン基、ヘキサデセニル基、オクタデシル基、オクタデセニル基、オレイル基、ステアリル基、イソステアリル基等の炭素数24までのアルキル基又はアルケニル基であり、これらは直鎖状でも分岐状でもよい。
1およびY2は水素原子または炭化水素残基、アミノ基、アミド基、水酸基 、
カルボニル基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、ハロゲン原子から選ばれる官能基または同官能基を含む炭化水素残基であり、同一でも異なっていてもよい。
【0015】
(2)pが1の場合
1、X2およびX3はpが0の場合と同じである。X4もX1〜X3と同様にN(窒素)、O(酸素)、S(硫黄)から選ばれるいずれか少なくとも一つの元素を示すが、化合物の安定性、化合物を含有する製品の耐劣化性、触媒被毒防止の観点から、好ましくは、X1〜X4はNまたはОから選ばれるいずれかの化合物である。
1とR2はpが0の場合と同じ条件であり、R3とR4はR1とR2と同じ条件である。
1〜R4は同一でも異なっていても良いが、R1とR2およびR3とR4が同時に水素原子になることはない。
1およびY2はpが0の場合と同じ条件である。Y3はY1およびY2と同じ条件である。
m、n、x、y、vはpが0の場合と同じ条件である。wは0〜3の整数であるが、化合物の安定性の観点から、好ましくは、m=n=0の場合、wは1または2、mまたはnのいずれかが1で他方が0の場合、wは0である。
kは0〜3、uは0〜4、tは0〜3の整数であるが、化合物の安定性の観点から、好ましくは、k=0の場合、uは3または4、k=1の場合、uは0、1、2のいずれか、k=2の場合、uは0、さらに好ましくは、k=0の場合、uは3または4、k=1の場合でu=0のとき、tは2または3、k=1の場合でu=1のとき、tは1または2、k=1の場合でu=2のとき、tは0または1、k=2の場合でu=0のとき、tは1である。
1〜X3についてはpが0の場合と同じ条件であり、X4がNの場合は、Nの2個の結合手のうちの一方が二重結合となる場合がある。一方が単結合となるか、両方とも単結合の場合は、結合手にR3、R4、およびY2、水素から選ばれる基が1個結合している状態を示す。
pが1の場合、一般式(I)中のCはpが0の場合と同じであり、構造単位(II)中のCは全て炭素元素を示し、それぞれのCの2個の結合手中どちらか一方の結合手が二重結合となる場合がある。一方が二重結合の場合および二重結合がない場合とも残りの1個または2個の単結合の結合手の表示は省略されており、省略されている結合手にR3、R4、およびY3、水素から選ばれる基が2個結合している状態を示す。
【0016】
一般式(I)で表される複素環式化合物は、例えば、複素環の基本骨格となるピリジン等の化合物及びそれらの誘導体(a)と炭素数6〜30のアルキル基、アルケニル基、アミド基、シクロアルキル基、アリール基を有する化合物(b)とをモル比(a):(b)を1:5〜5:1、好ましくは、1:2〜2:1の割合で反応させて得られる反応生成物である。
モル比(a):(b)を1:5以上および5:1以下とすることにより、本発明の添加剤の有効成分量が少なくなるのを防ぎ、摩耗低減効果を示すために多量添加する必要が生じるのを防ぐ。
(a)と(b)の反応は、室温〜200℃、好ましくは約50〜150℃で行う。反応は、無触媒でも触媒の存在下で行なってもよい。
また、反応を行うに際して溶剤、例えば、ヘキサン、トルエン、キシレン、THF、DMF等の有機溶剤を使用することもできる。
【0017】
一般式(I)で表される複素環式化合物において、複素環の基本骨格となるピリジン等の化合物及びそれらの誘導体(a)としては、ピリジン、メチルピリジン、ジメチルピリジン、エチルピリジン、エチルメチルピリジン、ビニルピリジン、アミノピリジン、オキシピリジン、のようなピリジン類;ピロール、メチルピロール、エチルピロール、アミノピロール、ピロールカルボン酸のようなピロール類;2−アミノウラシル、5−メチルシトシン、ウラシル、チミンのようなピリミジン類;ベンゾピラゾール、メチルピラゾール、エチルピラゾール、アミノピラゾールのようなピラゾール類;ピリダジン、メチルピリダジン、エチルピリダジンのようなピリダジン類;6−アミノインダゾール、インダゾールのようなインダゾール類;メチルピラジン、エチルピラジン、アミノピラジンのようなピラジン類;1,2,3-ベンゾトリアジン、アミノトリアジンのようなトリアジン類;3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾールのようなトリアゾール類;5,5−ジメチルヒダントイン、メチルイミダゾリジン、エチルイミダゾリジン、アミノイミダゾリジンのようなイミダゾリジン類;グリセロールホルマール;メチルベンゾトリアゾール、エチルベンゾトリアゾール、アミノベンゾトリアゾールのようなベンゾトリアゾール類;メチルテトラゾール、アミノテトラゾールのようなテトラゾール類;メチルオキサゾール、アミノオキサゾールのようなオキサゾール類、メチルオキサジアゾール、アミノオキサジアゾールのようなオキサジアゾール類;メチルチアゾール、アミノチアゾールのようなチアゾール類;メチルチアジアゾール、アミノチアジアゾールのようなチアジアゾール類;フラン類;ジオキサン類;ピラン類;チオフェン類及びそれらの誘導体があげられる。
【0018】
また、化合物(a)に置換基として炭化水素基又はアミノ基、アミド基、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、ハロゲン基及びそれらで置換された炭化水素基または同官能基に同官能基を含む炭化水素残基が付加したものでもよい。
炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等があげられる。
【0019】
化合物(b)としては、オレイン酸クロライド、ヘプチルウンデカン酸クロライド、トリデカン酸クロライド、イソステアリン酸クロライド、ポリイソブタン(例えば、Mw=350)酸クロライド、オレイル酸ブロマイドのような高級脂肪酸ハロゲン化物類、オレイン酸無水物、ヘプチルウンデカン酸無水物、トリデカン酸無水物、イソステアリン酸無水物のような脂肪酸無水物類、オレイルブロマイド、ヘプチルウンデシルブロマイド、トリデシルブロマイド、イソステアリルブロマイドのような脂肪族ハロゲン化物類、オレイルトシレート、ヘプチルウンデシルトシレート、トリデシルトシレート、イソステアリルトシレートのような脂肪族トシレート類、オレイルメシレート、ヘプチルウンデシルメシレート、トリデシルメシレート、イソステアリルメシレートのような脂肪族メシレート類などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物として用いても良い。また、その他の合成方法として、アミジン類とグリオキザール類との反応やエチレンジアミン類とカルボン酸類との反応等により複素環式化合物を得る方法もある。
【0020】
一般式(I)で表される複素環式化合物におけるpが0の場合の環状構造部分またはpが1の場合の2つの環状構造部分は上記化合物(a)に由来する。Y1およびY2のうちの少なくとも一方は化合物(b)に由来する。
一般式(I)で表される複素環式化合物の基本骨格は、1つの環がN(窒素)及び/又はO(酸素)及び/又はS(硫黄)の数の合計が1〜3である飽和又は不飽和化合物である。
【0021】
次に、酸アミドについて述べる。
酸アミドは、1〜4価のカルボン酸とアルキルアミンまたはアルカノールアミンとを用いて得られる化合物である。
上記1価のカルボン酸としては、炭素数6〜30の炭化水素基を含むカルボン酸が好ましく、特に直鎖状または分枝状の飽和または不飽和の炭化水素基を有するカルボン酸が好ましい。
このような1価のカルボン酸を構成する炭化水素基としては、例えば、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ペンタイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基及びトリアコンチル基等のアルキル基や、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基、ペンタコセニル基、ヘキサコセニル基、ヘプタコセニル基、オクタコセニル基、ノナコセニル基及びトリアコンテニル基等のアルケニル基や、二重結合を2つ以上有する炭化水素基等を挙げることができる。また、2〜4価の多価カルボン酸としてはシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸が挙げられる。
【0022】
一方、上記アルキルアミン化合物としては、炭素数6〜30の直鎖状または分岐状の炭化水素基を有するアルキルアミン化合物が好ましく、該炭化水素基は上記のカルボン酸の炭化水素基として例示したものが挙げられる。
さらに、上記アルカノールアミン化合物としては、炭素数2〜6のヒドロキシアルキル基を有するアルカノールアミン化合物が好ましい。
摩擦低減効果の点から、酸アミド化合物は炭素数2〜6のヒドロキシアルキル基を有するアルカノールアミンと炭素数6〜30の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有する1価カルボン酸の反応で得られる酸アミド化合物が好ましい。1価カルボン酸の炭化水素基の炭素数は、さらに好ましくは8〜24、特に好ましくは8〜20である。
アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N−イソプロピルエタノールアミン、N,N−ジイソプロピルエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N−メチルイソプロパノールアミン、N,N−ジメチルイソプロパノールアミン、N−エチルイソプロパノールアミン、N,N−ジエチルイソプロパノールアミン、N−イソプロピルイソプロパノールアミン、N,N−ジイソプロピルイソプロパノールアミン、モノn−プロパノールアミン、ジn−プロパノールアミン、トリn−プロパノールアミン、N−メチルn−プロパノールアミン、N,N−ジメチルn−プロパノールアミン、N−エチルn−プロパノールアミン、N,N−ジエチルn−プロパノールアミン、N−イソプロピルn−プロパノールアミン、N,N−ジイソプロピルn−プロパノールアミン、モノブタノールアミン、ジブタノールアミン、トリブタノールアミン、N−メチルブタノールアミン、N,N−ジメチルブタノールアミン、N−エチルブタノールアミン、N,N−ジエチルブタノールアミン、N−イソプロピルブタノールアミン、N,N−ジイソプロピルブタノールアミン等が挙げられる。
炭素数6〜30の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有する1価カルボン酸としてはカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、およびリグノセリン酸等の飽和カルボン酸やミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、およびリノレン酸等の不飽和カルボン酸が挙げられ、その摩擦低減効果の点で不飽和カルボン酸が好ましい。
上記アルカノールアミンと炭素数6〜30の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有する1価カルボン酸の反応で得られる酸アミド化合物の好ましい例としては、オレイン酸モノエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、オレイン酸モノプロパノールアミド、オレイン酸ジプロパノールアミド等が挙げられる。
【0023】
次に、脂肪族エステルについて述べる。
脂肪族エステルとしては、一価の脂肪族アルコール及び/又は多価アルコールとからなる脂肪族完全または部分エステル、もしくは多価カルボン酸と脂肪族アルコールからなる完全または部分エステルが挙げられるが、好ましくは多価アルコールの部分エステルが使用される。
上記カルボン酸は好ましくは炭素数6〜30の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有するカルボン酸であり、該炭化水素基の炭素数はより好ましくは8〜24、特に好ましくは10〜20である。
炭素数6〜30の直鎖状又は分岐状炭化水素基としては、(C)酸アミド化合物の置換基として例示したものが挙げられ、カルボン酸としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、およびリグノセリン酸等の飽和カルボン酸やミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、およびリノレン酸等の不飽和カルボン酸が挙げられ、摩擦低減効果の点で不飽和カルボン酸が好ましい。
上記脂肪族多価アルコールは2〜6価のアルコールであり、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられ、摩擦低減効果の点でグリセリンが好ましい。
グリセリンと上記不飽和カルボン酸との反応で得られるカルボン酸部分エステル化合物としては、グリセリンモノミリストレート、グリセリンモノパルミトレート、グリセリンモノオレート等のモノエステルや、グリセリンジミリストレート、グリセリンジパルミトレート、グリセリンジオレート等のジエステルが挙げられ、モノエステルが好ましい。摩擦低減効果の観点から具体的な好適例として、グリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、ソルビタンモノオレート及びソルビタンジオレート、グリセリンモノステアレート、ソルビタンモノステアレートなどが挙げられる。
【0024】
次に、脂肪族アミンについて述べる。
ここで脂肪族アミンとは、ヒドロカルビル基の炭素数が、好ましくは6以上の第一アミン、第二アミン、および第三アミンを含むものである。
具体的には、ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン(オクタデシルアミン)、エイコシルアミン、ドコシルアミン、ラウリルアミン、ラウリルジエチルアミン、ラウリルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン、オレイルジエタノールアミン、及びN−ヒドロキシエチルオレイルイミダゾリン等の脂肪族アミン化合物や、これら脂肪族アミン化合物のN,N−ジポリオキシアルキレン−N−アルキル(又はアルケニル)(炭素数6〜28)等のアミンアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。
摩擦低減効果の観点から好適な例としては、N,N−ジポリオキシエチレン−N−オレイルアミン等が挙げられる。
脂肪族アミン化合物は、好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数8〜24、特に好ましくは炭素数10〜20の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有するアミン化合物である。炭素数6〜30の直鎖状又は分岐状炭化水素基としては、(C)酸アミド化合物の置換基として例示したものが挙げられる。上記(d2)脂肪族アミン化合物としては、脂肪族モノアミン又はそのアルキレンオキシド付加物、アルカノールアミン、脂肪族ポリアミン、イミダゾリン化合物等を例示できる。具体的には、ラウリルアミン、ラウリルジエチルアミン、ラウリルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン、オレイルジエタノールアミン、及びN−ヒドロキシエチルオレイルイミダゾリン等の脂肪族アミン化合物や、これら脂肪族アミン化合物のN,N−ジポリオキシアルキレン−N−アルキル(又はアルケニル)(炭素数6〜28)等のアミンアルキレンオキシド付加物が挙げられる。
【0025】
上記の一般式(I)で表される複素環式化合物、酸アミド、脂肪族エステル、または脂肪族アミンから選ばれる少なくとも一種の無灰系摩擦調整剤を必要に応じて添加される各種潤滑油添加剤とともに潤滑油基油と混合することにより、潤滑油組成物が得られる。
【0026】
各種潤滑油添加剤としては、下記のようなものがある。なお、カッコ内に後記する潤滑油基油を含む潤滑油組成物全量中の好ましい含有量及びより好ましい含有量を記載する。
ポリメタクリレート系等の粘度指数向上剤(好ましくは、1〜12質量%、より好ましくは1〜4質量%)、ベンゾトリアゾール系等の腐食防止剤(好ましくは、0.01〜3質量%、より好ましくは0.01〜1.5質量%)、アルキル化ジフェニルアミン等の酸化防止剤(好ましくは、0.01〜5質量%、より好ましくは0.01〜1.5質量%)、ポリブテニルコハク酸イミド等の分散剤(0.1〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%)、潤滑油流動性向上剤(好ましくは、0.01〜2質量%、より好ましくは0.01〜1.5質量%)、アルケニルコハク酸誘導体系等の防錆剤(好ましくは、0.01〜6質量%、より好ましくは0.01〜3質量%)、ポリメタクリレート等の流動点降下剤(好ましくは、0.01〜1.5質量%、より好ましくは0.01〜0.5質量%)、消泡剤(好ましくは、0.001〜0.1質量%、より好ましくは0.001〜0.01質量%)、亜リン酸エステル系等の摩耗防止剤(好ましくは、0.001〜5質量%、より好ましくは0.001〜1.5質量%)、シール膨潤剤(好ましくは、0.1〜8質量%、より好ましくは0.1〜4質量%)等が挙げられる。
なお、本発明における摩擦調整剤は潤滑油基油との合計量中0.01〜10質量%、好ましくは、0.05〜5質量%、より好ましくは、0.1〜2質量%になるように使用される。0.01質量%以上とすることにより、摩擦低減効果が発揮され、10質量%以下とすることにより、コスト増を避け、かつ、潤滑油基油が有する本来の特性を低下させることを防止することができる。
【0027】
潤滑油基油としては、特に限定されることなく、鉱油系および合成系の各種の潤滑油基油を使用することができる。
鉱油系潤滑油基油として、具体的には、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を適宜組み合わせて精製した炭化水素油が挙げられる。
ここで、炭化水素油としては、例えば、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、芳香族系鉱油などの潤滑油のいずれでも使用することができる。
また、合成系の潤滑油基油として、具体的には、ポリフェニルエーテルのようなフェニルエーテル系合成油、ポリブテン、1―オクテンオリゴマー、1―デセンオリゴマー等またはこれらの水添物等のポリα―オレフィンのようなポリオレフィン系合成油、アルキルベンゼンのようなベンゼン系合成油、アルキルナフタレンのようなナフタレン系合成油、ジトリデシルグルタレート、ジ―2―エチルヘキシルアジペート、ジイソデシアジペート、ジトリデシアジペート、ジ―2―エチルヘキシルセバケート等のジエステルやトリメチロールプロパンカプリエート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2―エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステルのようなエステル系合成油、ポリオキシアルキレングリコールのようなグリコール系合成油、ポリフェニルエーテルのようなエーテル系合成油、シリコーンフッ素化油のようなシリコーン系合成油等を使用することができる。これらの基油は単独で用いてもよいし、2種類以上の混合物として用いても良い。
本発明で用いられる無灰系摩擦調整剤である上記一般式(I)で表される複素環式化合物、酸アミド、脂肪族エステルおよび脂肪族アミンの中から選ばれる少なくとも一種を潤滑油基油に添加した潤滑油組成物を油圧シリンダー、リップシール、ショックアブソーバー等におけるダイヤモンドライクカーボン膜を有する摺動部と有機材料との間の摺動面に適用した場合、摩擦低減効果が顕著で、摩擦低減剤として作用し、これらを組み合わせることにより低摩擦摺動部材が構成される。
【0028】
本発明で用いられる無灰系摩擦調整剤を含む潤滑油組成物を、摺動部の少なくとも一部にダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を有する摩擦摺動部材と組み合わせた低摩擦摺動部材が適応する箇所として以下のような具体例が挙げられる。自動車用エンジンや自動変速機など、回転軸部分におけるリップシール、車両用ショックアブソーバーにおいては、ピストンロッドとブッシュ、ピストンロッドとシュー等が挙げられる。
油圧システムにおいては、油圧シリンダーのピストンロッドとシリンダーパッキング等が挙げられる。
【0029】
ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を有する低摩擦摺動部材の相手部材である有機材料としては、ニトリルブタジエンゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、ウレタンゴムおよびシリコーンゴムが使用できる。
DLC膜を有する低摩擦摺動部材の母材はなんら制限されることなく、金属、樹脂、ゴム材等いずれの材料でも使用できる。
ここで、前記DLC膜を有する低摩擦摺動部材は表面にDLC膜を有し、同膜を構成するDLCは主として炭素元素からなる非晶質であり、炭素同士の結合形態がダイアモンド構造(SP3結合)とグラファイト構造(SP2結合)の両方からなるものである。
具体的には、炭素元素だけからなるa−C(アモルファスカーボン)、水素を含有するa−C:H(水素アモルファスカーボン)、及びチタン(Ti)やモリブデン(Mo)等の金属元素を一部に含むMeCが挙げられるが、本発明においては、無灰系摩擦調整剤に対して、水素含有量が5原子%以下のa−C系材料からなるDLC膜を有する低摩擦摺動部材が好適である。
【実施例】
【0030】
以下に本発明の実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
合成例1
500mlのフラスコに、3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール5.0g(0.05モル)、トリエチルアミン5.3g(0.053モル)、THF200mlを入れ、還流攪拌した。それにTHF50mlに溶解したオレイン酸クロライド15.0g(0.05モル)を滴下し、4時間反応させた。反応混合物をろ過し、THFを留去後、トルエン200mlに溶解して水洗した。硫酸マグネシウムで乾燥後、トルエンを留去して複素環式化合物を得た。得られた複素環式化合物の収量は16gであった。
得られた複素環式化合物の主成分の構造式は、一般式(I)におけるpが0、mおよびnはいずれも1、X1、X2およびX3がいずれもN、x、yおよびvのいずれかひとつが0、他の2つが1、R1およびR2の一方がオレイン酸アミド基、他方が水素、Y1がアミノ基、Y2が水素である。この複素環式化合物を「添加剤1」とする。
【0032】
合成例2
3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールの代わりにコウジ酸7.1g(0.05モル)を使用した以外は、合成例1と同様に反応を行った。得られた複素環式化合物の収量は16gであった。
得られた複素環式化合物の主成分の構造は、一般式(I)におけるpが0、mおよびnが0、X3がО、vが5、R1およびR2の一方がオレイルメチルエーテル基、他方が水素、Y1が水酸基、Y2がカルボニル基である化合物とR1およびR2の一方がオレイルエーテル基、他方が水素、Y1がヒドロキシメチル基、Y2がカルボニル基である化合物の混合物である。この複素環式化合物を「添加剤2」とする。
【0033】
合成例3
500mlのフラスコに、NaH1.3g(0.055モル)、DMF100mlを入れた。それにDMF100mlに溶解した3−アミノ−1,2,4−トリアゾール4.2g(0.05モル)を滴下し、100℃で2時間反応させた。次いで、反応混合物にオレイルブロマイド16.6g(0.05モル)を滴下し、100℃で4時間反応させた。DMFを留去後、トルエン200mlに溶解して水洗した。硫酸マグネシウムで乾燥後、トルエンを留去して複素環式化合物を得た。得られた複素環式化合物の収量は15gであった。
得られた複素環式化合物の主成分の構造式は、一般式(I)におけるpが0、mおよびnはいずれも1、X1、X2およびX3がいずれもN、x、yおよびvのいずれかひとつが0、他の2つが1、R1およびR2の一方がオレイル基、他方が水素、Y1がアミノ基、Y2が水素である。この複素環式化合物を「添加剤3」とする。
【0034】
実施例(参考例)1〜6
100ニュートラル留分の鉱油99.5質量部に「添加剤1〜6」をそれぞれ0.5質量部配合して潤滑油組成物を調製した。各潤滑油組成物と摺動部材の間の摩擦係数を下記の試験用摺動部材を用いてバウデン試験により評価した。実施例(参考例)1〜6の結果を表1に示す。表1において、「添加剤1〜6」を用いて下記の摺動部材(2)を使用した場合を参考例1〜6とする。
【0035】
比較例1
100ニュートラル留分の鉱油のみを使用し、摺動部材を変更して実施例と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0036】
比較例2
100ニュートラル留分の鉱油99.1質量部に、全質量基準で市販のMoDTCを0.4質量部、市販のZnDTPを0.5質量部配合して比較用の潤滑油組成物を調製し、摺動部材を変更して実施例と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0037】
<試験方法および試験条件>
試験方法
試験機: バウデン往復動試験機
試験用摺動部材:
(1)テストマテリアル1
SCM420Hの表面に水素原子5%未満のDLC膜を形成させた50×150mmの平板とNOK社製のNBR、A727の組み合わせ。
(2)テストマテリアル2
SCM420Hから形成された50×150mmの平板とNOK社製のNBR、A727の組み合わせ。
試験条件
温度:25℃
摺動速度:3.0mm/秒
荷重:10N
ストローク:10mm
【0038】
【表1】

【0039】
表1の実施例1〜6と比較例1〜2それぞれにおける摩擦係数を対比することにより、本発明で用いられる無灰系摩擦調整剤は、従来品よりも優れた摩擦低減効果を発揮することが分かる。
また、実施例1〜6と参考例1〜6とを対比することにより、同じ無灰系摩擦調整剤(添加剤1〜6)を用いて、かつ、ゴム材とダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜を有する部材との組み合わせ低摩擦摺動部材の場合はゴム材とDLC膜を有していない部材との組み合わせの場合より優れた摩擦低減効果を発揮することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明における無灰系摩擦調整剤を鉱油系の炭化水素油や合成系の潤滑油基油あるいはそれらの混合物に配合したものは、ダイヤモンドライクカーボン膜を有する摺動部と有機材料との間の摺動面における摩擦特性を向上させ、しかも無灰系であることから、今後の環境対応型摩擦調整剤として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部にダイヤモンドライクカーボン膜を有する摺動面と有機材料との間に、下記の一般式(I)
【化1】

[一般式(I)中、X1、X2およびX3はNまたはNH(Nは窒素)、O(酸素)、S(硫黄)から選ばれるいずれか少なくとも一つの元素を示し、それぞれが異種の元素でもよい。(C)x、(C)yおよび(C)vはアルキレン基もしくはR1、R2またはY1およびY2が1個または2個置換したアルキレン基の残基を示す。xおよびyは0〜2、vは0〜5の整数(後記するようにpが1の場合はvは0〜3の整数)、mおよびnは0または1であり、m、n、vは同時に0にはならない。R1およびR2は、それぞれ、水素原子又は炭素数6〜30のアルキル基、アルケニル基、アルキル及びアルケニルアミノ基、アルキル及びアルケニルアミド基、アルキル及びアルケニルエーテル基、アルキル及びアルケニルカルボキシル基、シクロアルキル基、アリール基から選ばれる基であり、R1、R2は同一でも異なっていても良いが、pが0の場合、R1とR2は同時に水素原子になることはない。Y1およびY2は水素原子または炭化水素残基、アミノ基、アミド基、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、ハロゲン原子から選ばれる官能基または同官能基を含む炭化水素残基、または同官能基に同官能基を含む炭化水素残基が付加した基である。Zは下記構造単位(II)
【化2】

を示し、pは0または1である。X4はNまたはNH(Nは窒素)、O(酸素)、S(硫黄)から選ばれるいずれかの元素を示す。(C)w、(C)uおよび(C)tはアルキレン基もしくはR3、R4、またはY3が置換したアルキレン基の残基を示す。wは0〜2、uは0〜4、kは0〜2、tは0〜3の整数であり、pが1の場合、vは0〜3の整数である。R3およびR4は同一でも異なっていても良いが、R1、R2、R3、R4は同時に水素原子になることはない。Y3は水素原子または炭化水素残基、アミノ基、アミド基、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、ハロゲン原子から選ばれる官能基または同官能基を含む炭化水素残基である。一般式(I)および構造単位(II)における環状部分は二重結合を有していてもよい]
で表される複素環式化合物、ならびに酸アミド、脂肪族エステル、および脂肪族アミンから選ばれる少なくとも一種の無灰系摩擦調整剤と基油を含む潤滑油組成物を介在せしめてなる低摩擦摺動部材。
【請求項2】
一般式(I)におけるpが0であり、X1、X2およびX3がN(窒素)またはO(酸素)から選ばれるいずれかの元素である請求項1に記載の低摩擦摺動部材。
【請求項3】
一般式(I)におけるpが1であり、X1、X2、X3およびX4がN(窒素)またはO(酸素)から選ばれるいずれかの元素である請求項1に記載の低摩擦摺動部材。
【請求項4】
一般式(I)がピリジン類、ピロール類、ピリミジン類、ピラゾール類、ピリダジン類、インダゾール類、ピラジン類、トリアジン類、トリアゾール類、テトラゾール類、オキサゾール類、オキサジアゾール類、チアゾール類、チアジアゾール類、フラン類、ジオキサン類、ピラン類、チオフェン類から選ばれる化合物に由来する複素環骨格を有する請求項1〜3のいずれかに記載の低摩擦摺動部材。
【請求項5】
湿式条件下で使用される請求項1〜4のいずれかに記載の低摩擦摺動部材。
【請求項6】
ダイヤモンドライクカーボン膜が水素含有量5原子%以下のアモルファスカーボン系材料である請求項1〜5のいずれかに記載の低摩擦摺動部材。
【請求項7】
有機材料がニトリルブタジエンゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、ウレタンゴムおよびシリコーンゴムから選ばれるいずれかの材料である請求項1〜6のいずれかに記載の低摩擦摺動部材。
【請求項8】
酸アミドがオレイン酸アミドである請求項1または5〜7のいずれかに記載の低摩擦摺動部材。
【請求項9】
脂肪族エステルがグリセリンモノオレエートである請求項1または5〜7のいずれかに記載の低摩擦摺動部材。
【請求項10】
脂肪族アミンがN,N-ジポリオキシエチレン-N-オレイルアミンである請求項1または5〜7のいずれかに記載の低摩擦摺動部材。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の低摩擦摺動部材用の潤滑油組成物であって、無灰系摩擦調整剤の添加量が組成物全量基準で0.1〜3.0質量%であることを特徴とする潤滑油組成物。

【公開番号】特開2008−115267(P2008−115267A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299421(P2006−299421)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】