説明

低汚染性樹脂製浮子

【課題】軽量で、低コストで製造でき、水棲生物が付着しにくい樹脂製浮子であって、水棲生物が付着しても容易に掻き落とすことができる樹脂製浮子の提供。
【解決手段】樹脂製浮子が多層構造となっており、樹脂層は2aと2bからなる2層構造となっている。最外層樹脂層2aに光触媒が配合されている。さらに、樹脂層2aと樹脂層2bの色を変え、樹脂2aが剥がれ落ちた後に樹脂層2bが表面に現れるようにしておけば、浮子の交換時期を容易に知ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貝類、藻類などの水棲生物が付着しにくい樹脂製浮子に関する。
【背景技術】
【0002】
定置網漁などで海中に網を敷設したり、近年盛んになってきた栽培漁業においてロープや網が水中に敷設したりするときに、浮子が利用されている。このような、浮子は、長期間に亙り海水中に浸漬されるために、カサネカンザシ、ケイソウ、イガイ、フジツボ等の水棲生物が浮子に付着し、その結果浮力が低下して沈没して浮子の役割を果たさなくなる。
【0003】
そのために、3、4ヶ月ごとに付着した水棲生物を掻き落す必要がある。通常この掻き落し作業は手作業で行われるために、大変な労力を要する作業であった。浮子などの水棲生物が付着しにくくする試みが行われている。たとえば、ポリエチレンオキシドと亜酸化銅とを含む熱可塑性樹脂からなる発泡体浮子が提案されている(特開平6−145017号公報)が、この方法では十分な防汚効果が得られていない。
【0004】
特開平11−104629号公報には、表面に光触媒を塗布した筏を利用した水の浄化方法が提案されている。しかしながら、単に表面に塗布された光触媒層は容易に表面から離脱しその効果を失うという問題があった。また、光触媒の利用例としては、特開2003-231814号公報に記載されているような、樹脂中にアナターゼ型酸化チタンを練り込んだ樹脂組成物を用いることによって、浴槽などのぬめりなどを防止する例が知られている。
【0005】
しかしながら、従来提案には、水棲生物が付着しにくく、付着しても容易に掻き落とせる浮子について提案するものはなかった。本願発明者らは、軽量で、低コストで製造でき、水棲生物が付着しにくく、付着しても容易に掻き落とせる樹脂製浮子の開発に鋭意努力した結果、本願発明に到達した。
【0006】
【特許文献1】特開平6−145017号公報
【特許文献2】特開平11−104629号公報
【特許文献3】特開2003−231814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、軽量で、低コストで製造でき、水棲生物が付着しにくい樹脂製浮子を提供する。
また、本発明は、水棲生物が付着しても容易に掻き落すことができる樹脂製浮子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、光触媒を配合した樹脂からなる樹脂製浮子を提供する。
【0009】
前記光触媒が、二酸化チタンである樹脂製浮子は、本発明の好ましい態様である。
【0010】
前記樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン、ABS樹脂から選ばれた少なくとも1種である前記した樹脂製浮子は、本発明の好ましい態様である。
【0011】
前記浮子が多層構造の樹脂で形成されており、少なくとも最外層の樹脂層に光触媒が配合されている前記した樹脂製浮子は、本発明の好ましい態様である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、軽量で、低コストで製造でき、水棲生物が付着しにくい樹脂製浮子が提供される。
また、本発明によって、水棲生物が付着しても容易に剥がれ落ちるか掻き落すことができる樹脂製浮子を提供される。
もし水棲生物が強固に付着したとしても、光触媒を配合した樹脂自体が分解を起こし、浮子表面から剥がれ落ちることにより水棲生物が容易に剥がれ落ちると共に、剥がれ落ちた後もさらに新たな表面を形成して、その後も前記効果を保つことができる。
また、この作用によって日光の照射が少ない浮子下面に水棲生物が付着したとしても、日光の照射がある部分より樹脂の分解が進み、下面の水棲生物を掻き落とすことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の浮子は、光触媒を配合した樹脂からなる。
【0014】
本発明で使用される光触媒としては、光が当たると触媒機能を発揮する物質であって、自身は反応の前後で変化はしないが、光を吸収することでエネルギーの高い状態になり、そのエネルギーを自ら受容したり、反応物質に与えたりして化学反応を促進できる物質をいう。光触媒機能を有する物質の例として、チタン、亜鉛カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン・ビスマス、バナジウム・ニオブ、タングステン、マンガン、鉄・銅、モリブデンの酸化物を挙げることができる。これらの物質以外に、半導体光触媒と呼ばれるタンタル、ストロンチウム、ルテニウム、チタン、ニッケル、亜鉛、ニオブ、カリウム等の一種類または複数の元素を含む酸化物粉末を挙げることもできる。中でも二酸化チタンが好ましい。特にはアナターゼ型の結晶構造を有する二酸化チタンが好ましい。
【0015】
本発明の浮子に使用できる樹脂にはとくに制限はなく、通常浮子として使用される樹脂から適宜選択して使用することができる。好ましい樹脂の例をあげれば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。特に好ましいのは、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン、ABS樹脂などである。
【0016】
本発明の浮子の成形は、射出成形法などの従来公知の成形方法で、所望の形状に成形することができる。樹脂製浮子は、発泡体であってもよい、例えば従来公知の発泡成形法によって、低発泡成形体としてもいいし、高発泡体であってもよい。
【0017】
樹脂に光触媒を配合する方法には特に制限はなく、所望の成分を成形機にて混練して成形することができる。また予めマスターバッチを作製する方法を採用してもよい。
本発明において、光触媒の配合量には特に制限はなく、浮子を使用する地域や性能、肉厚寸法とのバランスなどの応じて適宜選択することができる。
【0018】
本発明の樹脂製浮子には、必要に応じて酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、滑剤、ブロッキング防止剤、無機充填剤、発泡剤、発泡助剤、架橋剤などの添加剤を添加することができる。
【0019】
本発明の浮子の形状には特に制限はなく、球形、楕円球、俵形、箱形、その他の形状など任意の形状を採り得る。球形、楕円球または断面円形の俵形が好ましい。
【0020】
本発明の樹脂製浮子には、ロープと連結させることができる構造を有しているが、その構造としては任意の構造を採用しうる。たとえば、ロープが貫通しうる中通し構造、浮子にロープを結びつけられる通孔を有する耳状物を設けた構造、外周にロープを巻きつけられる表面凹部溝又は表面凸部突起を周設した構造などを挙げることができる。
【0021】
本発明の浮子は二層以上の多層構造であってもよい。その場合同一樹脂からなる多層構造体であっても、異種樹脂で構成される多層構造体の形態であってもよい。多層構造の場合、少なくとも最外層は光触媒を配合した樹脂層である。本発明の浮子を多層構造として、その最外層に光触媒を配合するように構成すれば、光触媒を配合した最外層が全て分解したとしても浮子が穴あきや破損などによって浮力を失う不具合は生じにくくなるので、本発明の好ましい態様である。
【0022】
本発明の樹脂製浮子には、取扱いを容易にするために把手を設けてもいいし、作業の安全を期すために、浮子表面に凹凸を形成してもよい。
【0023】
以下に、図を用いて本発明の樹脂製浮子を説明する。図1は、本発明の中通し構造の楕円球にロープ8を通して使用状態にある樹脂製浮子を示す概略図である。図2は、図1の中通し構造の楕円球樹脂製浮子の断面示す図であるが、樹脂層2で構成される樹脂製浮子1は、中空部3と、ロープを貫通させる中通し部4を有しており、樹脂層2には、光触媒が配合されている。
【0024】
図3は図2に示した中通し構造の楕円球樹脂製浮子が多層構造となっている態様を示す断面図である。図3では樹脂層は2aと2bからなる2層構造となっている。最外層樹脂層2aに光触媒が配合されている。樹脂層2bにも光触媒を配合してもよいが、樹脂層2aに光触媒が配合されていれば、本発明の効果が発現するので、特に樹脂層2bにまで配合するする必要はない。さらに、樹脂層2aと樹脂層2bの色を変え、樹脂層2aが自身の分解によって剥がれ落ちた後に樹脂層2bの色が表面に現れるようにしておけば、浮子の交換時期を容易に知ることができる。
【0025】
図4に球形樹脂製浮子の外観を示す概略図が示されている。図4の樹脂製浮子1には、ロープを結びつけられる通孔を有する耳状物5が設けられている。耳状物4は球形樹脂製浮子上に2個以上設けてもよい。図5には、俵形樹脂製浮子の外観を示す正面図が示されている。樹脂製浮子1は、外周にロープを巻きつけられる表面凹部溝6が2本周設された構造となっている。図5には、取扱いを容易にするために把手7が設けられている。
【実施例】
【0026】
以下に実施例及び比較例によって、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【0027】
(実施例1)
ポリプロピレン樹脂(商品名サンレット、三井化学株式会社製)に、光触媒として酸化チタン光触媒(商品名 AMT−100、テイカ社製)を5重量%配合して、楕円球状中通し構造の樹脂製浮子を製造した。
得られた、浮子にロープを通し、海中に4ヶ月浮かべて、水棲生物の付着状態を観察し、続いて付着した水棲生物を手作業で掻き落とした。付着状態及び掻き落とし作業の結果を比較例1の結果と対比して表1に示した。
(比較例1)
実施例1において、光触媒を使用しないほかは同様にして浮子を製造し、同様の方法で水棲生物の付着状態を観察し、続いて付着した水棲生物を手作業で掻き落とした。付着状態及び掻き落とし作業の結果を実施例1の結果と対比して表1に示した。
【0028】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によって提供される樹脂製浮子は、軽量で、低コストで製造でき、水棲生物が付着しにくい樹脂製浮子である。
また、本発明によって提供される樹脂製浮子は、水棲生物しても容易に剥がれ落ちるか掻き落すことができる樹脂製浮子である。
本発明の樹脂製浮子を使用すると、水棲生物の付着を減少させ、付着してもその除去が容易であるので、水棲生物の付着により生じる作業を大幅に軽減することができる。
本発明によって提供される樹脂製浮子においては、もし水棲生物が強固に付着したとしても、光触媒を配合した樹脂自体が分解を起こし、浮子表面から剥がれ落ちることにより水棲生物が容易に剥がれ落ちると共に、剥がれ落ちた後もさらに新たな表面を形成して、その後も前記効果を保つことができるので、長時間その効果を持続する。
また、この作用によって日光の照射が少ない浮子下面に水棲生物が付着したとしても、日光の照射がある部分より樹脂の分解が進み、下面の水棲生物を掻き落とすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の中通し構造の楕円球である樹脂製浮子の外観図を示す概略図である。
【図2】図1に示した中通し構造の楕円球樹脂製浮子の断面図である。
【図3】図2に示した中通し構造の楕円球樹脂製浮子が多層構造となっている態様を示す断面図である。
【図4】球形樹脂製浮子の外観を示す概略図である。
【図5】俵形樹脂製浮子の正面図である。
【符号の説明】
【0031】
1:樹脂製浮子
2、2a、2b:樹脂層
3:中空
4:中通し構造
5:通孔を有する耳状物
6:表面凹部溝
7:把手
8:ロープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒を配合した樹脂からなる樹脂製浮子。
【請求項2】
前記光触媒が、二酸化チタンであることを特徴と請求項1に記載の樹脂製浮子。
【請求項3】
樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン、ABS樹脂から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂製浮子。
【請求項4】
前記浮子が多層構造の樹脂で形成されており、少なくとも最外層の樹脂層に光触媒が配合されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂製浮子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−222066(P2007−222066A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−46418(P2006−46418)
【出願日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(000176176)三信化工株式会社 (34)
【出願人】(591115877)森六株式会社 (15)
【Fターム(参考)】