説明

低汚染性水性被覆組成物及びその被覆物

【課題】水系塗料からなる塗膜において、屋外に曝露されたとき従来に比べ雨筋状の汚染を低減でき、特に塗膜形成直後からの汚れが防止でき、持続性に優れ、かつ塗料としての貯蔵安定性が良好な低汚染性水性被覆組成物及びその被覆物を提供すること。
【解決手段】(A)水性樹脂組成物、及び、
(B)平均粒子径4〜100nmの水分散型無機粒子(固形分)1〜300質量部を乳化安定化剤として、1種又は2種以上のα,β−エチレン性不飽和単量体100質量部を乳化重合して得られる水性分散体を含有することを特徴とする低汚染性水性被覆組成物及びその被覆物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築内装材や外装材等に用いられる低汚染性水性被覆組成物及びその被覆物に関するものである。詳しくは、水分散型無機粒子を用いて合成したエマルションを含む塗料を塗装することで、塗膜表面を親水化して水濡れ性を良くし、雨水が塗膜と汚染物質との界面に浸透して汚染物質を洗い流す機能を有する、耐汚染性とその効果持続性に優れた塗膜を形成可能な低汚染性水性被覆組成物及びその被覆物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から有機溶剤希釈型塗料が多く用いられてきたが、シックハウス症候群や大気中への有機溶媒の放散等の環境問題等が提起され、水性塗料への転換が加速度的に進行している。また一方で、消費者ニーズはこれらの商品の塗膜の長期耐久性・高機能化への期待感の高まりも見せている。
【0003】
また、建築材料等の塗膜に大気中の塵芥や油性物質、排気ガス中に含まれるカーボン等の非極性の汚染物質が付着、蓄積した場合、雨水によって流去せずに蓄積し、汚れの状態が不均一で目立ち易くなる。これら塗膜の汚染性を改善する手法として、コロイダルシリカ等の親水性成分を添加することで塗膜を親水性にして水濡れ性を改良する方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2)。しかし、これらは度重なる降雨によって親水性成分が流出することにより良好な耐汚染性を長期間維持することが困難であった。
【0004】
更に、その流出を抑えるために、親水性成分とポリマーを化学的に結合させる、あるいは、アルコキシシラン化合物を添加し、その加水分解縮重合によって高分子化することで流出を低減することも提案されているが、乳化重合する際に界面活性剤を必須として使用されているために、塗膜全体の親水性が向上し、耐水性、耐温水白化性が著しく劣る結果となっている(例えば、特許文献3)。
【0005】
更に、反応性の界面活性剤を使用することでこれらの塗膜性能の向上を提案されているが(例えば、特許文献4)、耐雨筋汚染性及び耐水性の両立との根本的な解決には至っていないのが現状である。
【特許文献1】特開2005−120165号公報
【特許文献2】特開平11−116885号公報
【特許文献3】特許第2637955号明細書
【特許文献4】特開昭59−217702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記の様な課題を解決することであり、大気中の塵芥や油性物質の吸着による塗膜表面の汚染が少なく、降雨後の雨筋跡が残り難い耐汚染性が長期にわたり良好で、かつ耐水性に優れた塗膜を形成する低汚染性水性被覆組成物及びその被覆物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従って、
(A)水性樹脂組成物、及び、
(B)平均粒子径4〜100nmの水分散型無機粒子(固形分)1〜300質量部を乳化安定化剤として、1種又は2種以上のα,β−エチレン性不飽和単量体100質量部を乳化重合して得られる水性分散体
を含有することを特徴とする低汚染性水性被覆組成物及びその被覆物が提供される。
【発明の効果】
【0008】
上述のように、本発明によって、水系塗料に用いることにより長期にわたり耐汚染性が良好で耐水性に優れた塗膜を形成することができる低汚染性水性被覆組成物及びその被覆物を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
本発明者等は、上記の目的を達成するために種々の研究を重ねた結果、(A)水性樹脂組成物、及び、(B)平均粒子径4〜100nmの水分散型無機粒子(固形分)1〜300質量部を乳化安定化剤として、1種又は2種以上のα,β−エチレン性不飽和単量体100質量部を乳化重合して得られる水性分散体とを含有することを特徴とする低汚染性水性被覆組成物を塗料等に用いると長期にわたり耐汚染性が良好で耐水性に優れた塗膜を形成することができることを見出した。
【0011】
(A)水性樹脂組成物としては、水を媒体とする塗料用樹脂組成物であればよく、好ましくは下記の
(1)均一構造を有するエマルション、多段階乳化重合法によって得られる異相構造を有するエマルションの一方又は両方を含む水溶性樹脂、
(2)ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩又は、それらの共重合体を含む重量平均分子量が、5,000〜100,000である水溶性樹脂、
(3)有機溶剤媒体で重合及び又は縮合されたアクリルやアルキド、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン等を水にて相転換及び強制乳化により得られる水性樹脂組成物、
が挙げられる。
【0012】
均一構造を有するエマルションは、緻密な塗膜形成が可能となり耐透水性やクリア性に優れた塗膜を得ることができ、異相構造エマルションは異なるガラス転移温度の単量体を組み合わせることなどにより成膜性に優れ不粘着性等に優れた塗膜を得ることができる等、これらのエマルションを用いることにより、形成される塗膜特性の幅を広げることができる。
【0013】
また、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩又は、それらの共重合体を含む水溶性樹脂を用いることで、塗装作業性に優れた塗料の設計や、より親水性の高い塗膜の形成により耐汚染性に優れた塗膜を得ることができる。それらの水溶性樹脂の重量平均分子量は5,000〜100,000であることが好ましく、その重量平均分子量が5,000未満の時は塗膜の強靱性、耐候性が劣り易くなる。また、重量平均分子量が100,000を超える場合には高粘度になるために塗装作業性が悪くなり好ましくない。
【0014】
有機溶剤媒体で重合及び又は縮合されたアクリルやアルキド、エポキシ、ポリエステル、ポリウレタン樹脂等を水にて相転換及び強制乳化により得られた水性樹脂組成物は、被塗物に対する密着性や強靱性に優れた塗膜を形成することが可能となる。
【0015】
(B)水性分散体は、平均粒子径4〜100nmの水分散型無機粒子(固形分)1〜300質量部を乳化安定化剤として1種又は2種以上のα,β−エチレン性不飽和単量体100質量部を乳化重合して得られるが、単量体を一括して仕込む単量体一括仕込み法や、単量体を連続的に滴下する単量体滴下法等、あるいは、これらを組み合わせる方法等が挙げられるが、概して以下のような製造方法によって製造される。
【0016】
まず、加熱・攪拌の可能な反応容器に上記の1種又は2種以上のα,β−エチレン性不飽和単量体を一部仕込み、平均粒子径4〜100nmの水分散型無機粒子と水(好ましくは脱イオン水)、及び開始剤、更に必要に応じて連鎖移動剤を仕込み充分に混合する。この混合溶液を温度20℃〜80℃に保ちながら、更に残りの1種又は2種以上のα,β−エチレン性不飽和単量体を少しずつ滴下しながら攪拌し、1〜24時間ほど乳化重合を行うと水分散型無機粒子を分散安定剤とする水性分散体(B)が得られる。この場合、1種又は2種以上のα,β−エチレン性不飽和単量体100質量部に対し、平均粒子径4〜100nmの水分散型無機粒子は1〜300質量部であり、更に好適には10〜250質量部である。1質量部よりも少ない場合は、重合時の安定性及び貯蔵安定性が悪く、得られた塗膜についても純水との接触角が高く耐汚染性効果が得られない。一方、300質量部を超える場合はフリーの水分散型無機粒子の量が多くなるために、経時における塗膜からの溶出量が多くなり、艶の低下や塗膜の脆弱化を引き起こす要因となる。
【0017】
水性分散体(B)に利用可能なα,β−エチレン性不飽和単量体としては、以下のような単量体が挙げられる。メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、及びアクリロニトリル等で、これらから選ばれた1種又は2種以上の単量体が使用できる。
【0018】
更に、本発明ではα,β−エチレン性不飽和単量体として、カルボキシル基含有単量体、アミノ基含有単量体、アミド基含有単量体、ヒドロキシル基含有単量体、アルコキシシリル基含有単量体の群の中から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0019】
具体例としては、カルボキシル基含有単量体として、アクリル酸、(メタ)アクリル酸、フマール酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、及びクロトン酸等が挙げられる。
【0020】
アミノ基含有単量体としては、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、及び4−ビニルピリジン等が挙げられる。
【0021】
アミド基含有単量体としては、アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、及びN−ビニル−2−ピロリドン等が挙げられる。
【0022】
ヒドロキシル基含有単量体としては、アリルアルコール、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、及びポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0023】
アルコキシシリル基含有単量体としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、β−(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、β−(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシブチルフェニルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、及びγ−(メタ)アクリロキシプロピルジエチルメトキシシラン等が挙げられる。
【0024】
これらの内、アクリル酸、(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、ジメチルアミノ(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、4−ビニルピリジン、N−ビニル−2−ピロリドン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の単量体は、水分散型無機粒子をポリマー粒子表面に化学的及び、又は電気的に吸着・固定化するのに優れるため、特に好ましい。その他の官能基を有する単量体も水分散型無機粒子の吸着・固定化には寄与しないが、併用することは可能である。例えば、グリシジル(メタ)アクリレートやアリルグリシジルエーテル、2個以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物と活性水素原子を有するエチレン性不飽和単量体との反応によって得られるエポキシ基含有単量体やそのオリゴマー;(メタ)アクリロイルイソシアネート、イソシアネートエチル(メタ)アクリレート、m−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルメタクリレート等のイソシアネート含有単量体;N−メチロール基を有したN−メチロールアクリルアミドや酢酸ビニル、塩化ビニル、更にはエチレン、ブタジエン、アクリロニトリル、ジアルキルフマレート等が代表的なものとして挙げられる。これらについても、1種又は2種以上の単量体が利用できる。
【0025】
更に、得られる塗膜の機能を向上させるために、架橋構造を導入することも可能である。一般的に架橋構造は、“粒子内部架橋構造”と“粒子間架橋構造”の2種に大別される。
【0026】
この“粒子内架橋構造”や“粒子間架橋構造”をエマルション粒子に組み込むことで、塗膜とした時の強靱性、耐ブロッキング性、不粘着性、耐溶剤性等の塗膜性能を大幅に向上させ得ることができる。
【0027】
粒子内・間架橋構造を得るための単量体の例を列挙すると、以下のようになる。
【0028】
粒子内架橋:分子中に重合性不飽和二重結合を2個以上有する単量体である。
ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等を使用する方法や;
乳化重合反応時に温度にて相互に反応する官能基を持つ単量体を組み合わせて、例えば、カルボキシル基とグリシジル基や、水酸基とイソシアネート基等の組み合わせの官能基を持つエチレン性不飽和単量体を選択含有させた単量体混合物を使用する方法;
加水分解縮合反応する、(メタ)アクリロキシプピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等、加水分解性シリル基含有エチレン性不飽和単量体を含有させた単量体混合物を使用する方法;
等の方法により製造させることができる。
【0029】
粒子間架橋:カルボニル基を有するエチレン性不飽和単量体を共重合させた後、分子中に2個以上のヒドラジド基を有する化合物を混合する方法が最も代表的な例として挙げられる。
【0030】
カルボニル基含有エチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクロレインや、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ホルミルスチロール、(メタ)アクリルオキシアルキルプロパナール、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート−アセチルアセテート、ブタンジオール−1,4−アクリレート−アセチルアクリレート、ビニルエチルケトン、及びビニルイソブチルケトン等が挙げられる。特に、アクロレインや、ジアセトンアクリルアミド及びビニルメチルケトンが好ましい。
【0031】
上記カルボニル基の対となる、分子中に2個以上のヒドラジド基を有する化合物としては、例えば、カルボヒドラジドや、蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン2酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、1,2,4−ベンゼントリヒドラジド、及びチオカルボジヒドラジド等が挙げられる。これらの中でも、エマルションへの分散性や耐水性のバランスからカルボヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド及びコハク酸ジヒドラジドが好ましい。
【0032】
また、下記一般式(a)で表される(C)加水分解性シランを用いると、コロイダルシリカの表面OH基と架橋結合を形成してフィルム強度を向上し、耐久性、耐汚染性、硬度、耐熱性がより良好になる。
【0033】
(R−Si−(R4−n (a)
式(a)中、nは0〜3の整数であり、Rは水素原子、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数5〜10のアリール基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、ビニル基、炭素数1〜10のアクリル酸アルキル基、又は炭素数1〜10のメタクリル酸アルキル基から選ばれる。n個のRは同一であっても、異なってもよい。Rは炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基又は水酸基から選ばれる。(4−n)個のRは同一であっても、異なってもよい。
【0034】
上記加水分解性シランの一般例を挙げると、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等がある。
【0035】
更に、得られる塗膜の耐候性・耐光性を向上させるために、光安定機能や紫外線吸収機能を組み込むことも可能である。
【0036】
重合性光安定性単量体は、具体的に例えば、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルアミノ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−クロトノイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−(メタ)アクリロイル−4−シアノ−4−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、及び1−クロトノイル−4−クロトノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等が挙げられる。
【0037】
重合性紫外線吸収性単量体としては、具体的に例えば、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシメチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシヘキシル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチル−3’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−5−メトキシ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−5−シアノ−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−5−t−ブチル−2H−ベンゾトリアゾール、及び2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−5−ニトロ−2H−ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0038】
もちろん、非反応型の光安定剤や紫外線吸収剤を重合時に併用することも可能である。
【0039】
本発明において、水性分散体(B)の製造の際に使用される平均粒子径4〜100nmの水分散型無機粒子としては、水分散型コロイダルシリカ(SiO)を使用することが好ましい。上記範囲内にあることで重合時の安定性及び、塗膜表面の親水化に優れる、更には平均粒子径50nm以下の水分散型球状コロイダルシリカがより好ましい。水分散型コロイダルシリカの平均粒子径が100nmより大きくなると、ポリマー粒子も沈降し易くなるので、貯蔵安定性が低下する。一方平均粒子径の下限を4nmとしたのは、現在容易に入手可能な平均粒子径を示したのであって、4nm未満となると非常に高価で入手困難になり使用用途が狭まってしまう。また、水分散型コロイダルシリカの形状には、球状、鎖状のものや異形状のもの等もあるが、本発明ではこれらを使用することも可能であり、好ましくは球状、鎖状の一方又は両方を使用できる。水分散型コロイダルシリカの形状や平均粒子径は、電子顕微鏡による観察で確認することができる。
【0040】
水分散型コロイダルシリカの具体例としては、例えば、日産化学工業(株)製のスノーテックスST−20、ST−O、ST−C、ST−S、ST−Nや、(株)ADEKA製のアデライトAT−20、AT−20N、AT−20A、AT−300等が挙げられる。これらのうち1種又は2種以上の水分散型コロイダルシリカを併用しても構わない。
【0041】
乳化重合時に用いられる前記重合開始剤としては、従来から一般的にラジカル重合に使用されているものが使用可能であるが、中でも水溶性のものが好適であり、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩類;2,2’−アゾビス(2−アミノジプロパン)ハイドロクロライドや、4,4’−アゾビス−シアノバレリックアシッド、2,2’−アゾビス(2−メチルブタンアミドオキシム)ジハイドロクロライドテトラハイドレート等のアゾ系化合物;過酸化水素水、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の過酸化物等が挙げられる。更に、L−アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウム等の還元剤と、硫酸第一鉄等を組み合わせたレドックス系も使用できる。
【0042】
前記連鎖移動剤としては、例えば、ラウリルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタンや、チオグリコール酸−2−エチルヘキシル、2−メチル−t−ブチルチオフェノール、四臭化炭素、及びα−メチルスチレンダイマー等を挙げることができる。これらを適宜使用することによって、塗膜の光沢や、成膜性、不粘着性を制御することができる。
【0043】
本発明の被覆組成物において上記水性分散体(B)の乳化重合を行う際には、乳化剤として通常用いるアニオン性、ノニオン性、カチオン性の界面活性剤を一切使用しない場合にも安定な粒子が得られる為、該被覆組成物により形成される被覆物に含まれる界面活性剤を減らすことが可能になり、耐水性、耐候性、耐汚染性を向上させることができる。
【0044】
本発明でいう乳化剤として用いられる界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪酸塩や、高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシノニルフェニルエーテルスルホン酸アンモニウム、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコールエーテル硫酸塩、スルホン酸基又は硫酸エステル基と重合性の炭素−炭素不飽和二重結合を分子中に有する、いわゆる反応性乳化剤等のアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテルや、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、又は前述の骨格と重合性の炭素−炭素不飽和二重結合を分子中に有する反応性ノニオン性界面活性剤等のノニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩や、第4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0045】
また、本発明の被覆組成物において水性分散体(B)の乳化重合を行う際には、コロイド安定化剤として、ポリビニルアルコール(変性タイプも含む)、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリアルキレングリコール、水溶性樹脂、高分子界面活性剤を使用すると、上記乳化剤と同様に塗膜の耐水性、耐温水白化性、耐候性等の特性を著しく低下させるため、これらを一切使用しない方が好ましい。
【0046】
このように得られた水性分散体(B)は、pH6未満の酸性域及びpH12より高い強塩基域において、水分散型無機粒子が凝集固化し、沈殿する可能性があるため、pHが、6〜12であることが好ましく、更にはpH7〜11であることがより好ましい。合成後の水性分散体(B)のpHがこの範囲外の場合には、一般的に用いるpH調整剤を用いてpH調整を行うことも可能である。
【0047】
pH調整剤としては、従来から中和剤として公知の各種含窒素塩基性化合物が特に制限なく利用できる。具体的には、例えば、トリメチルアミンや、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のアルキルアミン類、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、エチルプロパノールアミン等のアルコールアミン類、モルホリン、アンモニア等の揮発性含窒素塩基性化合物が代表的なものとして挙げられる。これらのうち1種又は2種以上のpH調整剤を併用しても構わない。
【0048】
また、γ−アミノプロピルトリメトキシシランや、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−シクロへキシル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−シクロヘキシル−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシランも中和剤の一部として併用可能である。
【0049】
上記のように得られた水性分散体(B)は、水性樹脂組成物(A)の固形分100質量%に対し、固形分0.5〜50質量%であることが好ましく、0.5質量%未満のときは、得られる塗膜表面の親水性が低く、純水との接触角が高くなる為に耐汚染性が不十分となり易くなる。また、50質量%を超えると塗膜表面からの水溶出量が増え、塗膜の脆弱化や艶引けの原因になりうるので好ましくない。
【0050】
上記のように得た水性樹脂組成物(A)及び水性分散体(B)を含む水性被覆組成物を、ガラス基板上に塗装し、温度10℃〜200℃で2分〜10日間乾燥させた塗膜を用い、静的表面接触角計CA−X型(協和界面科学社製)で測定した塗膜表面の純水との接触角が、60°以下であることが塗膜の耐汚染性に優れるため好ましく、更には40°以下であることがより好ましい。
【0051】
本発明の水性被覆組成物の用途は、建築内装材や外装材等に用いられる水性塗料用として用いることが好ましい。塗料として使用する場合には、水性被覆組成物だけをクリアー塗料として使用可能であるが、一般的に使用されるベンガラ、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム等の着色顔料や、炭酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、アルミナ、ミョウバン、白土、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、珪藻土等の体質顔料、更には、光触媒活性を有する酸化チタン、シミ止め・吸着機能を有するフライポンタイト、活性亜鉛華、珪酸マグネシウム等の機能性顔料も添加することが可能である。塗料としての各種機能を付与させるためには、増粘剤や、分散剤、沈降防止剤や、防カビ剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を適宜添加してもよい。
【0052】
この様にして得られた水性被覆組成物は、各種無機質素材や金属素材、木材素材、プラスチック素材等に適用でき、自然乾燥、若しくは、50℃以上の温度で強制乾燥させることにより優れた塗膜を形成することが可能である。また、成膜に際しては、成膜温度を下げる目的で、エチレングリコールモノブチルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート等の有機溶剤(造膜助剤)を任意に添加することも可能である。
【0053】
本発明の水性被覆組成物を用いることで、長期にわたり耐汚染性が良好で、耐水性に優れる塗膜を有する被覆物が提供できる。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の「部」及び「%」は、特に断りのない限り、それぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0055】
(水性樹脂組成物A1の製造例)
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、イオン交換水210部、(α−スルホナト−ω−(1−(アリルオキシメチル−アルキルオキシポリオキシエチレンのアンモニウム塩;エチレンオキシド平均付加モル数10モル)(商品名:アクアロンKH−10、反応性アニオン乳化剤、第一工業製薬(株)製)5部をそれぞれ仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら、80℃まで昇温した。
【0056】
次いで、過硫酸カリウム(重合開始剤)1.2部を加え、メタクリル酸メチル240部、アクリル酸ブチル123部、アクリル酸シクロヘキシル130部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM503、信越化学(株)製)2部、メタクリル酸5部、アクアロンKH−10 5部、水300部をディスパーで乳化攪拌して得られた乳化混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で1時間攪拌を続けながら熟成し、40℃まで冷却した後、50%ジメチルエタノールアミンにてpH9.0に調整し、均一構造を有するエマルション粒子が分散した水性樹脂組成物A1を得た。
【0057】
(水性樹脂組成物A2の製造例)
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、イオン交換水210部、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(商品名:ニューコール707SF、非反応性アニオン乳化剤、日本乳化剤(株)製)5部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名:ET−160、非反応性ノニオン乳化剤、第一工業製薬(株)製)10部をそれぞれ仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら、80℃まで昇温した。
【0058】
次いで、過硫酸カリウム(重合開始剤)1.2部を加え、メタクリル酸メチル218部、アクリル酸2−エチルヘキシル25部、メタクリル酸4部、ニューコール707SF10部、水120部からなる乳化混合液を2時間かけて滴下した。次いで、メタクリル酸メチル75部、アクリル酸2−エチルヘキシル165部、ダイアセトンアクリルアミド10部、メタクリル酸5部、ニューコール707SF10部、脱イオン水120部からなる乳化混合液を2時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で2時間攪拌を続けながら熟成し、40℃まで冷却した後、50%ジメチルエタノールアミンにてpH9.0に調整し、アジピン酸ジヒドラジド5部を添加して更に30分間撹拌させて溶解し、多段階乳化重合法による異相構造エマルション粒子が分散した水性樹脂組成物A2を得た。
【0059】
(水性樹脂組成物A3の製造例)
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、イソプロパノール100部を仕込み、窒素で置換しながら、80℃まで昇温した。次いで、アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)3部を加え、メタクリル酸メチル130部、アクリル酸ブチル85部、アクリル酸シクロヘキシル75部、アクリル酸50部からなる混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で4時間撹拌を続けながら熟成し、50℃に冷却後、N,N−ジメチルエタノールアミンと脱イオン水の混合液を添加し、pHを8に調製した。次いで、還流冷却器及び撹拌機を備えた反応器を用いて、減圧〔1.3×10Pa(100トール)〕下、脱溶剤を行った後、水で固形分35%になるように希釈調整を行い、重量平均分子量85,000の水溶性樹脂を得、水性樹脂組成物A3とした。分子量測定は、東ソー株式会社製HLC−8020GPCを用いて測定し、測定カラムはTSKgelG2000Hを使用し、検量線の作成にはポリスチレンスタンダードを用いた。
【0060】
(水性樹脂組成物A4の製造例)
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、イソプロパノール170部を仕込み、窒素で置換しながら、80℃まで昇温した。次いで、アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)3部を加え、メタクリル酸メチル148部、アクリル酸2−エチルヘキシル90部、アクリル酸シクロヘキシル80部、メタクリル酸ヒドロキシエチル5部、アクリル酸17部からなる混合液を4時間かけて滴下した。滴下終了後、80℃で4時間撹拌を続けながら熟成し、50℃に冷却後、N,N−ジメチルエタノールアミン10部と脱イオン水490部を添加した。次いで、還流冷却器及び撹拌機を備えた反応器を用いて、減圧〔1.3×10Pa(100トール)〕下、脱溶剤を行った後、水で固形分35%になるように希釈調整を行い、相転換法によって得た水性樹脂組成物A4を得た。
【0061】
(水性分散体B1の製造例)
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、水分散型球状コロイダルシリカ(商品名:スノーテックスS、日産化学工業(株)製、固形分30%、平均粒子径8〜11nm、Na安定型)500部、脱イオン水350部を仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら、80℃まで昇温・保持した。次いで、過硫酸カリウム2部を加え、予め別容器で撹拌混合しておいたメタクリル酸メチル210部、アクリル酸2−エチルヘキシル90部の混合溶液を、4時間かけて連続滴下した。滴下終了後、80℃で2時間攪拌を続けながら熟成し、室温まで冷却した後にアンモニア水溶液を添加して、pH9〜10に調整し、水性分散体B1を得た。水性分散体B1におけるα,β−エチレン性不飽和単量体100質量部に対し、水分散型コロイダルシリカ(固形分)は50質量部であった。
【0062】
(水性分散体B2の製造例)
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、水分散型球状コロイダルシリカ(商品名:スノーテックス20L、日産化学工業(株)製、固形分20%、平均粒子径40〜50nm、Na安定型)850部を仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら、80℃まで昇温・保持した。次いで、過硫酸カリウム1.5部を加え、予め別容器で撹拌混合しておいたメタクリル酸メチル55部、アクリル酸ブチル23部、メタクリル酸ジエチルアミノエチル1.5部の混合溶液を、4時間かけて連続滴下した。滴下終了後、80℃で2時間攪拌を続けながら熟成し、室温まで冷却した後にアンモニア水溶液を添加して、pH9〜10に調整し、水性分散体B2を得た。水性分散体B2におけるα,β−エチレン性不飽和単量体100質量部に対し、水分散型コロイダルシリカ(固形分)は214質量部であった。
【0063】
(水性分散体B3の製造例)
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、水分散型鎖状コロイダルシリカ(商品名:スノーテックスPS−S、日産化学工業(株)製、固形分20%、平均粒子径10〜18nmの粒子が80〜120nmに結合、Na安定型)790部を仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら、80℃まで昇温・保持した。次いで、過硫酸カリウム1.5部を加え、予め別容器で撹拌混合しておいたスチレン28部、メタクリル酸メチル50部、アクリル酸ブチル32部、4−ビニルピリジン8部、メタクリル酸シクロヘキシル40部の混合溶液を、4時間かけて連続滴下した。滴下終了後、80℃で2時間攪拌を続けながら熟成し、室温まで冷却した後にアンモニア水溶液を添加して、pH9〜10に調整し、水性分散体B3を得た。水性分散体B3におけるα,β−エチレン性不飽和単量体100質量部に対し、水分散型コロイダルシリカ(固形分)は105質量部であった。
【0064】
(水性分散体B4の製造例)
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、水分散型球状コロイダルシリカ(商品名:スノーテックス20、日産化学工業(株)製、固形分20%、平均粒子径10〜20nm、Na安定型)45部、アクアロンKH−10 6部、脱イオン水500部を仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら、80℃まで昇温・保持した。次いで、過硫酸カリウム2部を加え、予め別容器で撹拌混合しておいたスチレン45部、メタクリル酸メチル230部、アクリル酸2−エチルヘキシル120部、メタクリル酸8部の混合溶液を、4時間かけて連続滴下した。滴下終了後、80℃で2時間攪拌を続けながら熟成し、室温まで冷却した後にアンモニア水溶液を添加して、pH9〜10に調整し、水性分散体B4を得た。水性分散体B4におけるα,β−エチレン性不飽和単量体100質量部に対し、水分散型コロイダルシリカ(固形分)は2質量部であった。
【0065】
(水性分散体B5の製造例)
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、水分散型球状コロイダルシリカ(商品名:スノーテックスMP−2040、日産化学工業(株)製、固形分40%、平均粒子径200nm、Na塩型)400部、脱イオン水400部を仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら、80℃まで昇温・保持した。次いで、過硫酸カリウム2部を加え、予め別容器で撹拌混合しておいたメタクリル酸メチル210部、アクリル酸2−エチルヘキシル90部の混合溶液を、4時間かけて連続滴下した。滴下終了後、80℃で2時間攪拌を続けながら熟成し、室温まで冷却した後にアンモニア水溶液を添加して、pH9〜10に調整し、水性分散体B5を得た。水性分散体B5におけるα,β−エチレン性不飽和単量体100質量部に対し、水分散型コロイダルシリカ(固形分)は53質量部であった。
【0066】
(水性分散体B6の製造例)
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、水分散型球状コロイダルシリカ(商品名:スノーテックスS)を800部仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら、80℃まで昇温・保持した。次いで、過硫酸カリウム1.5部を加え、予め別容器で撹拌混合しておいたメタクリル酸メチル39部、アクリル酸2−エチルヘキシル15部、メタクリル酸ジエチルアミノエチル6部の混合溶液を、4時間かけて連続滴下した。滴下終了後、80℃で2時間攪拌を続けながら熟成し、室温まで冷却した後にアンモニア水溶液を添加して、pH9〜10に調整し、水性分散体B6を得た。水性分散体B6におけるα,β−エチレン性不飽和単量体100質量部に対し、水分散型コロイダルシリカ(固形分)は400質量部であった。
【0067】
(水性分散体B7の製造例)
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、水分散型球状コロイダルシリカ(商品名:スノーテックスS)500部、ポリエチレングリコール(商品名:PEG#200、日本油脂製、分子量200g/mol)15部、脱イオン水350部を仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら、80℃まで昇温・保持した。次いで、過硫酸カリウム2部を加え、予め別容器で撹拌混合しておいたメタクリル酸メチル210部、アクリル酸2−エチルヘキシル90部の混合溶液を、4時間かけて連続滴下した。滴下終了後、80℃で2時間攪拌を続けながら熟成し、室温まで冷却した後にアンモニア水溶液を添加して、pH9〜10に調整し、水性分散体B7を得た。水性分散体B7におけるα,β−エチレン性不飽和単量体100質量部に対し、水分散型コロイダルシリカ(固形分)は50質量部であった。
【0068】
(実施例1〜11及び比較例1〜5)
表1に示すように配合し、更に脱イオン水を12部、顔料として酸化チタン(商品名:タイペークCR−90、石原産業(株)製)を20部、添加剤としてノニオン性界面活性剤(商品名:Disperbyk−190、ビックケミージャパン(株)製)を0.2部、ウレタン系増粘剤(商品名:プライマルRM−8W、ローム・アンド・ハース(株)製)を2部、シリコーン系消泡剤(商品名:SNデフォーマー1312、サンノプコ(株)製)を0.4部、エチレングリコールを2部添加して各塗料を作製し、以下のように各種性能評価を行った。
【0069】
<接触角>
適当量の成膜助剤を添加した各試験塗料をガラス板に6milアプリケーターで塗布し、60℃で2時間乾燥した後に室温で1日乾燥させた。協和界面科学製FACE接触角計CA−X型を使用して純水との静的接触角を測定し、結果を表1に示した。
【0070】
<耐水性>
適当量の成膜助剤を添加した各試験塗料をガラス板上に6milアプリケーターで塗装し、50℃で6時間乾燥後、室温で一日養生した。その後、試験板を23℃の水に1週間浸し、乾燥後の塗膜の白化度合いを目視で判定した。
【0071】
[評価基準]
◎:塗膜の変色が全くない。
○:塗膜の変色がほとんどない、若しくは、やや青みがかった透明である。
△:塗膜が局所的に白化している。
×:塗膜が全体に白化している。
【0072】
<耐温水白化性>
適当量の成膜助剤を添加した各試験塗料を黒板上に6milアプリケーターで塗装し、50℃で6時間乾燥後、室温で一日養生した。その後、試験板を60℃温水に24時間浸し、乾燥後の塗膜の白化度合いを目視で判定した。
【0073】
[評価基準]
◎:塗膜の変色が全くない。
○:塗膜の変色がない、若しくは、やや青みがかった透明である。
△:塗膜が局所的に白化している。
×:塗膜が全体に白化している。
【0074】
<溶出性>
各試験塗料をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)板に6milアプリケーターで塗装し、70℃で2時間乾燥した後に室温で1日乾燥させた。作製した膜を剥がして、10cm×10cmの正方形に裁断し膜重量を測定したのちに23℃のイオン交換水に24時間浸漬した。取り出した膜を23℃で減圧乾燥し、下記一般式にて塗膜からの水への溶出率を算出した;
溶出率(%)={1−(浸漬後の皮膜絶乾重量)/(浸漬前の皮膜絶乾重量)}×100
【0075】
[評価基準]
◎:溶出率1%未満(塗膜の劣化が全くなく、試験開始時の状態が維持されている)
○:溶出率1%以上2%未満(塗膜の劣化がほとんどなく、艶も維持されている)
△:溶出率2%以上5%未満(塗膜表面が若干洗い流され、艶が一部低下する)
×:溶出率5%以上(塗膜表面が脆弱化し、艶が全体的に低下する)
<耐雨筋汚染性>
白色塗料を塗装したスレート板(寸法10cm×30cm×厚さ5mm)に上記実施例1〜11及び比較例1〜5の各塗料に適宜成膜助剤を添加したものをスプレー塗装し、60℃で2時間乾燥させた。これを10日間養生した後に、水平面に対して10度に傾斜し、かつ長さ30cmで深さ3mmの溝が3mmピッチで刻まれた屋根を有する架台に、屋根に降った雨が塗膜の表面に筋状に流れ落ちるように南向きに垂直に取り付け、その状態で1ヶ月、6ヶ月、12ヶ月暴露した後、塗膜の外観を未試験の塗膜と比較して汚染状態を目視観察した。結果を表1に示した。
【0076】
[評価基準]
◎:汚れが全く付着しておらず、試験開始時と同等の状態を維持している。
○:わずかな汚れはあるが、雨筋はほとんど確認されない。
△:局所的な汚れがあり、雨筋がうっすらと確認される。
×:全面にかなりの汚れがあり、雨筋がしっかりと確認される。
【0077】
<貯蔵安定性>
上記実施例1〜11及び比較例1〜5の各塗料を各々100mlガラス製サンプル瓶に入れ、密栓した状態で50℃恒温室に1ヶ月間貯蔵し、その状態を以下のように評価した。
【0078】
[評価基準]
○:試験前と同じ状態であり、変化なし。
△:目視で沈殿ブツは確認されないが、塗装したときの外観に差を生じる。
×:目視で沈殿ブツが確認された。
【0079】
【表1】

【0080】
実施例に示した水性分散体(B)を含有する各塗料は、エマルション粒子に固定化されたコロイダルシリカを含むことから塗膜の純水との接触角が低くなり、塗膜表面が親水化して水濡れ性が良化し、雨水が塗膜と汚染物質との界面に浸透して汚染物質を洗い流すため耐雨筋汚染性及びその持続性にも優れていた。
【0081】
比較例1は一般的なエマルション塗料で、初期から純水との接触角が高いために耐雨筋汚染性が悪くなった。比較例2はエマルション粒子とコロイダルシリカが別々に存在するために耐雨筋汚染性の持続性に乏しく、耐水性、耐温水白化性も悪くなった。比較例3は加水分解性シランが経時で反応する為に、耐雨筋汚染性は向上するものの貯蔵安定性が低下した。比較例4は水分散型無機粒子のコロイダルシリカの平均粒子径が200nmと大きいために粒子が大きくなり、貯蔵安定性が悪くなった。比較例5は水分散型無機粒子の水分散型コロイダルシリカ量が400重量部と多いために塗料内にフリーで存在する量が多くなり、塗膜からの溶出率が増加した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水性樹脂組成物、及び、
(B)平均粒子径4〜100nmの水分散型無機粒子(固形分)1〜300質量部を乳化安定化剤として、1種又は2種以上のα,β−エチレン性不飽和単量体100質量部を乳化重合して得られる水性分散体
を含有することを特徴とする低汚染性水性被覆組成物。
【請求項2】
前記水性分散体(B)の乳化重合時に、乳化剤として、アニオン性、ノニオン性、カチオン性の界面活性剤を一切使用していない請求項1に記載の低汚染性水性被覆組成物。
【請求項3】
前記水性分散体(B)の乳化重合時に、コロイド安定化剤として、ポリビニルアルコール、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリアルキレングリコール、水溶性樹脂、高分子界面活性剤を一切使用していない請求項1又は2に記載の低汚染性水性被覆組成物。
【請求項4】
前記水性樹脂組成物(A)の固形分100質量%に対し、前記水性分散体(B)の固形分が0.5〜50質量%である請求項1〜3の何れかに記載の低汚染性水性被覆組成物。
【請求項5】
前記水性樹脂組成物(A)が、均一構造を有するエマルション、多段階乳化重合法によって得られる異相構造エマルションの一方又は両方を含む水性樹脂組成物である請求項1〜4の何れかに記載の低汚染性水性被覆組成物。
【請求項6】
前記水性樹脂組成物(A)が、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、又は、それらの共重合体からなる水溶性樹脂を含み、かつその重量平均分子量が5,000〜100,000である請求項1〜4の何れかに記載の低汚染性水性被覆組成物。
【請求項7】
前記水性樹脂組成物(A)が、相転換及び強制乳化法により得られる水性樹脂組成物である請求項1〜4の何れかに記載の低汚染性水性被覆組成物。
【請求項8】
前記水分散型無機粒子が、水分散型コロイダルシリカであり、該水分散型コロイダルシリカの形状が球状、鎖状の一方又は両方である請求項1〜7の何れかに記載の低汚染性水性被覆組成物。
【請求項9】
前記α,β−エチレン性不飽和単量体が、カルボキシル基含有単量体、アミノ基含有単量体、アミド基含有単量体、ヒドロキシル基含有単量体、アルコキシシリル基含有単量体の群の中から選ばれる少なくとも一種を含む請求項1〜8の何れかに記載の低汚染性水性被覆組成物。
【請求項10】
更に、下記一般式(a)で表される(C)加水分解性シランを含む請求項1〜9の何れかに記載の低汚染性水性被覆組成物。
(R−Si−(R4−n (a)
(式(a)中、nは0〜3の整数であり、Rは水素原子、炭素数1〜16の脂肪族炭化水素基、炭素数5〜10のアリール基、炭素数5〜6のシクロアルキル基、ビニル基、炭素数1〜10のアクリル酸アルキル基、又は炭素数1〜10のメタクリル酸アルキル基から選ばれる。n個のRは同一であっても、異なってもよい。Rは炭素数1〜8のアルコキシ基、アセトキシ基又は水酸基から選ばれる。(4−n)個のRは同一であっても、異なってもよい。)
【請求項11】
前記低汚染性水性被覆組成物を塗布して乾燥することにより、形成される塗膜表面の純水との接触角が60°以下である請求項1〜10の何れかに記載の低汚染性水性被覆組成物。
【請求項12】
前記請求項1〜11の何れかに記載の低汚染性水性被覆組成物を基材上に塗付して形成された塗膜を有することを特徴とする被覆物。

【公開番号】特開2008−239779(P2008−239779A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81835(P2007−81835)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】