説明

低温用酸素検知剤組成物

【課題】 5℃程度の低温下でも比較的応答速度の早い酸素検知剤を提供する。
【解決手段】 クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸およびこれらのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムとの塩からなる群から選択した少なくとも1種の有機酸或いは有機酸塩と有機色素、還元剤およびアルカリ性物質を必須成分として混合した複合体からなる低温用酸素検知剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸素検知剤に関する。より詳しくは酸素の有無あるいは濃度を色の変化により識別でき、しかも酸素濃度の変化に対する応答性が優れた低温用酸素検知剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、酸化還元により可逆的に色が変わる有機色素を利用した酸素検知剤が提案されている。例えば、特許文献1および特許文献2には、チアジン染料あるいはアジン染料、オキサジン染料などの有機色素と還元剤、及び塩基性物質とからなる固形状の酸素検知剤が開示されている。また、特許文献3には、チアジン染料等と還元性糖類とアルカリ性物質とを樹脂溶液中に溶解もしくは分散させた酸素インジケーターインキ組成物が開示されている。市販の酸素検知剤(登録商標エージレスアイ、三菱瓦斯化学(株)製)は、有機色素、還元剤およびアルカリ性物質が担体に含浸された錠剤等の形状からなり、包装容器内の酸素濃度が0.1容量%未満の脱酸素状態であることを簡便に色で示す機能製品であり、脱酸素剤(登録商標エージレス、三菱瓦斯化学(株)製)と共に食品の鮮度保持、及び医療医薬品の品質保持等に使用されている。
【0003】
しかしながら、従来の酸素検知剤は、低温下における反応性が不充分で、低温下において変色機能が低下するため、脱酸素状態を酸素検知剤の色彩にて確認するために、時間がかかる欠点を有していた。
【0004】
【特許文献1】特開昭53−117495号公報
【特許文献2】特開昭53−120493号公報
【特許文献3】特開昭56−84772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、酸素濃度に対する優れた応答性を有する酸素検知剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決する方法を検討した結果、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸およびこれらのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムとの塩からなる群から選択した少なくとも1種の有機酸或いは有機酸塩と有機色素、還元剤およびアルカリ性物質を必須成分として混合した複合体からなる低温用酸素検知剤組成物である。
本発明では、さらに、層状ケイ酸塩及びカチオン界面活性剤を必須成分とする低温用酸素検知剤組成物であり、本酸素検知剤組成物は、液状或いは固形の形状とすることが適宜可能であり、形状が粉末状であること、担体に保持させてなることができ、粉末あるいは固形の酸素検知剤を成形してなる酸素検知体、紙、布または糸に含浸させてなる酸素検知体、酸素検知剤組成物を含有する酸素検知インキ、該酸素検知インキを塗布または印刷した酸素検知体として、特に、低温における酸素濃度変化を検知する方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低温下でも変色速度が早く安定して脱酸素雰囲気の状態を検知することができる酸素検知剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の酸素検知組成物は、有機色素、還元剤およびアルカリ性物質を必須の構成成分とする検知剤組成物に、応答性の改善のために特定の有機酸またはその塩を配合してなるものである。
【0009】
本発明で用いる応答性の改善のためのに用いる特定の有機酸またはその塩は、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、酒石酸およびグルコン酸である有機酸、およびこれら有機酸のナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムとの塩が挙げられる。塩としては、例えば、クエン酸ナトリウムとしてはクエン酸水素1ナトリウム、クエン酸水素2ナトリウム、クエン酸3ナトリウムであり、その水素塩も含む。本発明では、特に、クエン酸およびクエン酸ナトリウムが好ましい。
【0010】
本発明で用いられる有機色素は、分子内に動きやすいπ電子を有する長い共役二重結合系を含んでいる芳香族化合物であって、酸化還元により可逆的に色彩が変わる可変性有機色素である。本発明の可変性有機色素として、酸化還元指示薬、あるいはチアジン染料、アジン染料、オキサジン染料、インジゴイド染料、チオインジゴイド染料などが好適に用いられる。例えば、メチレンブルー、ニューメチレンブルー、メチレングリーン、バリアミンブルーB、ジフェニルアミン、フェロイン、カプリブルー、サフラニンT、インジゴ、インジゴカルミン、インジゴ白、インジルビンなどが挙げられる。好ましくは、メチレンブルーに代表されるチアジン染料である。可変性有機色素に組み合わせて不変性有機色素を使用することもできる。
【0011】
本発明で用いられる還元剤は、酸素濃度が大気中より低い条件下で上記の有機色素を還元する化合物であって、例えば、グルコース、フルクトース、キシロースなどの単糖類、マルトースなどの還元性二糖類、アスコルビン酸およびその塩、亜ジチオン酸およびその塩、システインおよびその塩などが挙げられる。
【0012】
本発明で用いられるアルカリ性物質は、還元剤の還元活性を高める化合物であって、アルカリ性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどの水酸化塩や炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウムなどの炭酸塩などが選択できる。
【0013】
本酸素検知剤には、所望により、層状ケイ酸塩を添加配合することができ、これにより色素の色調異変を防止することができる。層状ケイ酸塩の例として、例えば、スメクタイト族が好ましく、例えば、モンモリロナイトおよびバイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト等の天然のスメクタイト族に属する層状ケイ酸塩(天然スメクタイト)が挙げられる。この他、無機化合物を出発原料として水熱合成された、スメクタイト族に属する層状ケイ酸塩(合成スメクタイト)を使用することもできる。中でも好ましい層状ケイ酸塩は、合成スメクタイトである。
【0014】
上記層状ケイ酸塩を添加する際には、さらに、カチオン界面活性剤を添加配合することが好ましい。層状ケイ酸塩とともに配合されるカチオン界面活性剤の例として、例えば、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルベンジルアンモニウムクロリド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロリド、ジステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロリドなどが好ましいものとして挙げられる。
【0015】
本発明の酸素検知組成物おいて、有機酸(又は有機酸塩)、有機色素、還元剤およびアルカリ性物質との仕込み量的条件は、有機酸(又は有機酸塩)に1重量部に対して、有機色素は、0.001重量部〜10重量部、好ましくは、0.01重量部〜1重量部である。同様に、還元剤は、0.01重量部〜100重量部、好ましくは、0.1重量部〜10重量部である。同様に、アルカリ性物質は、0.001重量部〜1000重量部、好ましくは、0.01重量部〜100重量部である。層状ケイ酸塩を添加する際は、前記した各成分に加えて、有機酸(又は有機酸塩)に1重量部に対して、層状ケイ酸塩は、0.001重量部〜1000重量部、好ましくは、0.01重量部〜100重量部であり、カチオン界面活性剤は、0.001重量部〜1000重量部、好ましくは、0.01重量部〜100重量部である。
【0016】
本発明の酸素検知組成物は、固体状あるいは液体状の有機酸、有機色素、還元剤およびアルカリ性物質、所望により、さらに層状ケイ酸塩及びカチオン界面活性剤を乳鉢等を用いて混合して得られる。この際、必要に応じて少量の水やアルコールなどの溶媒を加えて、溶液状又は懸濁液状としても良い。
【0017】
このようにして混合した状態の酸素検知組成物は、そのままで固形もしくは液状または乾燥させて粉末状として適宜、実用に供する。粉末状形態のまま酸素検知剤として使用することもできるし、成形して錠剤形態の酸素検知体として用いることもできる。また、溶媒を含む溶液又は懸濁液を紙・布・糸などに含浸させることにより、フィルム状、シート状、糸状形態などにして酸素検知体として用いることができる。
さらに、適当な溶媒を選定することにより、印刷インキとして使用することもでき、グラビア印刷、凸版印刷、平板印刷、スクリーン印刷などの方法で紙・布・フィルムなどに印刷した酸素検知体として用いることができる
【実施例】
【0018】
実施例1〜6
表1に示した有機酸(塩)1.0g、可変性有機色素メチレンブルー0.01g、不変性有機色素アシッドレッド0.005g、グルコース1.0gおよび水酸化ナトリウム0.01gが溶解している酸素検知剤組成物水溶液10mLと水酸化マグネシウム25gを乳鉢で混合して水分を乾燥し、酸素検知剤組成物を水酸化マグネシウムに含浸させた。得られた含浸物を打錠機にて成形し、青紫色錠剤形態(1錠0.2g)の酸素検知剤を得た。
【0019】
実施例1〜6にて得られた錠剤型の酸素検知剤を用いて以下の変色試験を行った。
市販の脱酸素剤(商品名:エージレスSA、三菱瓦斯化学(株)製)とともにガスバリア性透明容器内に密封し、常温条件(25℃)または低温条件(5℃)下にて保存し、ジルコニア式酸素濃度計を用いて容器内酸素濃度を追跡した。容器内酸素濃度が0.1容量%未満になった時点から、酸素検知剤が脱酸素雰囲気であることを表示するピンク色に変色するまでの時間を25℃または5℃における応答時間遅れとして求めた。
結果を表1に示した。
【0020】
容器内酸素濃度が0.1容量%未満の脱酸素雰囲気になった後、常温条件25℃条件下では、殆ど1時間未満に酸素検知剤はピンク色を示し、また低温条件5℃下では、5時間もしくは7時間後に酸素検知剤はピンク色になった。いずれの条件下でも開封による空気曝露により速やかに再び有酸素雰囲気であることを表示する青紫色になった。同一の酸素検知剤を用いて繰り返しこの変色試験操作を行ったところ、前記の結果が再現され、酸素濃度により可逆的な変化であることが判った。
【0021】
比較例1
有機酸(塩)を含まない他は実施例1と同様にして錠剤型の従来型酸素検知剤を作成し、これを用いて、実施例1と同様の試験を行った。結果を表1に示した。
容器内酸素濃度が0.1容量%未満の脱酸素雰囲気になった後、常温条件である25℃条件下では、酸素検知剤が脱酸素雰囲気を表示するピンク色を示すのに4時間を要し、また低温条件である5℃下では、酸素検知剤がピンク色に変色するのに24時間を要した。また、開封による空気曝露により速やかに青紫色に変色した。
【0022】
本願発明(実施例1〜6)の酸素検知剤は無酸素雰囲気になるのに追随して脱酸素雰囲気を表示するピンク色を示し、低温条件である5℃下においてもピンク色に変色する時間遅れは比較的短かった。また、比較例1の結果より、特定の有機酸(塩)を配合していない従来型酸素検知剤は無酸素雰囲気になった後、脱酸素雰囲気を表示するピンク色に変色するのに時間遅れがあり、低温条件では大幅な時間遅れが生じた。
【0023】
表1
有機酸(塩) 応答時間遅れ(25℃) 応答時間遅れ(5℃)
実施例1 クエン酸 0時間 5時間
実施例2 クエン酸ナトリウム 0時間 5時間
実施例3 グルコン酸 1時間未満 7時間
実施例4 グルコン酸ナトリウム 1時間未満 7時間
実施例5 酒石酸 1時間未満 7時間
実施例6 酒石酸ナトリウム 1時間未満 7時間
比較例1 なし 4時間 24時間
【0024】
実施例7
クエン酸ナトリウム1.0g、合成スメクタイト5.0g/L水分散液15mL、メチレンブルー0.03g、フルクトース2.5g、水酸化ナトリウム0.01gおよびセチルトリメチルアンモニウムクロリド0.32gが溶解している酸素検知剤組成物水溶液10mLと水酸化マグネシウム25gを乳鉢で混合して水分を乾燥し、酸素検知剤組成物を水酸化マグネシウムに含浸させた。得られた含浸物を打錠機にて成形し、青紫色錠剤形態(1錠0.2g)の酸素検知剤を得た。
【0025】
上記で得た錠剤型の酸素検知剤を用いて実施例1〜6と同様の変色試験を低温条件5℃下にて行った。ガスバリア性容器内が酸素濃度0.1容量%未満の脱酸素雰囲気になった後、8時間後に白色に変色した。
【0026】
比較例2
クエン酸ナトリウムを添加しない他は実施例7と同様の組成にて錠剤を成形し、青色錠剤型の酸素検知剤を得た。
得られた青色錠剤型の酸素検知剤を用いて実施例7と同様の変色試験を低温条件5℃下にて行った。ガスバリア性容器内が酸素濃度0.1容量%未満の脱酸素雰囲気になった後、48時間後に白色に変色した。
【0027】
実施例8
酒石酸ナトリウム1.0g、メチレンブルーの0.01g、及びD−キシロース1.0gが溶解している水溶液5mLを乳鉢で混合し、0.1NのNaOHを滴下してpH11.0に調整した後、濾紙に含浸させ青色フィルム状の酸素検知剤を得た。
得られたフィルム状の酸素検知剤を用いて実施例1〜6と同様の変色試験を低温条件5℃下にて行った。ガスバリア性容器内が酸素濃度0.1容量%未満の脱酸素雰囲気になった後、6時間後に白色に変色した。
開封による空気曝露により速やかに再び青色になった。同一の酸素検知剤を用いて繰り返しこの変色試験操作を行ったところ、前記の結果が再現され、酸素濃度により可逆的な変化であることが判った。
【0028】
比較例3
実施例8と同様の構成で、酒石酸ナトリウムを添加しない組成液にて濾紙に含浸させ、青色フィルム状の酸素検知剤を得た。
得られた青色フィルム状の酸素検知剤を用いて実施例1〜6と同様の変色試験を低温条件5℃下にて行った。ガスバリア性容器内が酸素濃度0.1容量%未満の脱酸素雰囲気になった後、24時間後に白色に変色した。
【0029】
以上の結果より、本願発明(実施例8)のフィルム状酸素検知剤は脱酸素雰囲気下になるのに追随して脱酸素雰囲気を表示するピンク色を示し、低温条件である5℃下においてもピンク色に変色する時間遅れは比較的短かった。また、比較例3の結果より、従来型組成のフィルム状酸素検知剤は無酸素雰囲気になった後、脱酸素雰囲気を表示するピンク色に変色するのに時間遅れがあり、低温条件では大幅な時間遅れが生じた。この事から、組成に有機酸および有機酸塩から選ばれる少なくとも1種を添加することにより、本願発明の酸素検知剤は、脱酸素雰囲気への移行に対する短時間応答性が常温においておよび特に低温において向上することが示された。
【0030】
表2
有機酸 応答時間遅れ(5℃)
実施例7 クエン酸ナトリウム 8時間
比較例2 なし 48時間
実施例8 酒石酸ナトリウム 6時間
比較例3 なし 24時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸およびこれらのナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムとの塩からなる群から選択した少なくとも1種の有機酸或いは有機酸塩と有機色素、還元剤およびアルカリ性物質を必須成分として混合した複合体からなる低温用酸素検知剤組成物。
【請求項2】
さらに、層状ケイ酸塩及びカチオン界面活性剤を必須成分とする請求項1に記載の低温用酸素検知剤組成物。
【請求項3】
請求項1記載の酸素検知剤組成物が固形であり、形状が粉末状であることを特徴とする酸素検知剤。
【請求項4】
請求項1記載の酸素検知剤組成物が液状であり、該酸素検知剤組成物を担体に保持させてなる酸素検知剤。
【請求項5】
請求項3または4記載の酸素検知剤を成形してなる酸素検知体。
【請求項6】
請求項1記載の酸素検知組成物が液状であり、該酸素検知剤組成物を紙、布または糸に含浸させてなる酸素検知体。
【請求項7】
請求項1記載の酸素検知剤組成物を含有する酸素検知インキ。
【請求項8】
請求項7記載の酸素検知インキを塗布または印刷した酸素検知体。
【請求項9】
請求項5、6、8のいずれか一項記載の酸素検知体を使用して低温における酸素濃度変化を検知する方法。

【公開番号】特開2007−3258(P2007−3258A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181602(P2005−181602)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】