説明

低熱膨張係数を有するハニカム及びそれから作製された物品

本発明は、ハニカムおよびそれから作製された物品に関し、物品は、構造用樹脂またはマトリックス樹脂を備えたセル壁を有し、セル壁の面が、ハニカムのZ寸法に平行であり、ハニカムセル壁が、融点が120℃〜350℃で、熱膨張係数が180ppm/℃以下の5〜35重量部の熱可塑性材料と、1デニール当たり525グラム(1dtex当たり480グラム)以上の弾性率を有し、軸方向の熱膨張係数が2ppm/℃以下の65〜95重量部の高弾性率繊維とを、ハニカムセル壁中の熱可塑材および高弾性率繊維の総量に基づいて含み、ASTM E831により測定される、ハニカムのZ寸法における熱膨張係数が10ppm/℃以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その厚さが実質的に温度変化の影響を受けない高性能ハニカムに関する。
【背景技術】
【0002】
高弾性率ハニカムは、航空機等、温度変化による寸法安定性が重要な様々な用途に用いられている。従来から、そのようなハニカムは、高弾性率パラ−アラミド繊維とメタ−アラミドフィブリドバインダーから作製された紙から製造されてきた。これらアラミド材料の性質のために、それらから作製されたハニカムは、非常に寸法安定性がある。熱可塑性バインダーから作製された紙は、ハニカムへ製造されるとき、所望の構成の最終のサンドイッチパネルへと加工している間、ハニカムを成型し易くするだろう。しかしながら、熱可塑性バインダーから作製されたハニカムは、温度変化により過剰の寸法変化を被る可能性がある。従って必要とされているのは、ハニカムへと作製したとき、広い温度範囲にわたって寸法的に温度の影響を実質的に受けないハニカムをもたらす、熱可塑性バインダーを用いる紙組成である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、構造用樹脂またはマトリックス樹脂を備えたセル壁を有するハニカムに関し、セル壁の面が、ハニカムのZ寸法(dimension)に平行であり、ハニカムセル壁が、融点が120℃〜350℃で、熱膨張係数が180ppm/℃未満の5〜35重量部の熱可塑性材料と、1デニール当たり525グラム(1dtex当たり480グラム)以上の弾性率を有し、軸方向の熱膨張係数が2ppm/℃以下の65〜95重量部の高弾性率繊維とを、ハニカムセル壁中の熱可塑材および高弾性率繊維の総量に基づいて含み、ASTM E831により測定される、ハニカムのZ寸法における熱膨張係数が10ppm/℃以下である。本発明はまた、パネルや空力構造物をはじめとする、ハニカムから作製された物品にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【図1a−1b】六角形ハニカムの図である。
【図2】六角セル形ハニカムの他の図である。
【図3】フェースシートを備えたハニカムの図である。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明は、その厚さまたは「Z」寸法が実質的に温度変化の影響を受けない、高弾性率繊維と熱可塑性材料とを含む紙から作製されたハニカムに関する。
【0006】
図1aは、本発明のハニカムの一例である。図1bは、図1aに図示したハニカムの直交図であり、図2は、ハニカムの三次元図である。図示されているのは、六角セル2を有するハニカム1である。ハニカムの「Z」寸法または厚さは、図2に示されている。六角セルが図示されているが、他の幾何学的配置も可能であり、四角およびフレックスコアセルが、他の最も一般的に可能な配置である。かかるセルタイプは当該技術分野において周知であり、可能な幾何学セルタイプのさらなる情報については、T.BitzerによるHoneycomb Technology(Chapman&Hall,publishers,1997)を参照のこと。
【0007】
多くの実施形態において、ハニカムには、構造用樹脂またはマトリックス樹脂、典型的には、ハニカムのセル壁を完全に含浸、飽和または被覆する熱硬化性樹脂が提供されている。樹脂は、さらに架橋または硬化されて、最終的な特性(剛性や強度)をハニカムに与える。ある実施形態において、これら構造用樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂およびこれらの混合物が挙げられる。
【0008】
本発明のハニカムは、ASTM E831により測定される、ハニカムのZ寸法における熱膨張係数(CTE)が10ppm/℃以下、好ましくは5ppm/℃以下である。かかる寸法安定性は、材料が(回転する場合)、膨張および収縮する際、構造に著しい脆弱部を形成する、温度の2つの極限間でサイクルする宇宙空間用途等の用途にとって重要である。その他の用途としては、離着陸および飛行(約8000メートルより上)の際に、ハニカムが極端な温度変化に露出される翼構造の前縁が挙げられる。かかる材料は、温度により寸法変化がない、またはCTEができる限りゼロに近いのが望ましい。従って、本明細書で用いる、正のCTE制限とは、材料の寸法が、その量を超えて増大しない、または膨張しないことを意味し、負のCTE制限とは、寸法が、その量を超えて減少しない、または収縮しないことを意味する。
【0009】
ハニカムのCTEは、TA Instrumentsの熱機械分析機を用いて、ハニカムで直接測定することができる。好ましい試料サイズは、3mmセルサイズのハニカムについて、6mm×6mm×25mm(測定の方向)である。これらの測定はまた、フェースシートの特性が、複合体の特性から差し引かれる安定したハニカム(すなわち、1つ以上のフェースシートを備えたハニカム)でも行うことができる。
【0010】
ハニカムのセル壁は、高弾性率繊維と熱可塑性材料とを含む紙から作製されているのが好ましい。ある実施形態において、紙という用語は、その通常の意味で用いられており、従来のウェットレイ製紙プロセスおよび設備を用いて作製された不織シートを指す。しかしながら、ある実施形態における紙の定義には、一般に、バインダー材料を必要とし、適切なハニカム構造を与えるのに十分な特性を有する不織シートが含まれる。
【0011】
本発明で用いる紙の厚さは、ハニカムの最終用途または所望の特製に応じて異なり、ある実施形態においては、典型的に、1〜5ミル(25〜130マイクロメートル)の厚さである。ある実施形態において、紙の坪量は、1平方ヤード当たり0.5〜6オンス(1平方メートル当たり15〜200グラム)である。
【0012】
本発明のハニカムで用いる紙は、融点が120℃〜350℃で、熱膨張係数が180ppm/℃未満の5〜35重量部の熱可塑性材料と、525gpd(1dtex当たり480グラム)以上の弾性率を有し、軸方向のCTEが2ppm/℃以下の65〜95重量部の高弾性率繊維とを、紙中の熱可塑材および高弾性率繊維の総量に基づいて含む。ある好ましい実施形態において、熱可塑材は、100ppm/℃未満のCTEを有し、ある好ましい実施形態においては、高弾性率繊維は、(−1)ppm/℃以下の軸方向のCTEを有する。ある実施形態において、高弾性率繊維は、紙に、約80〜95重量部の量で存在し、ある実施形態において、熱可塑性材料は、紙に、5〜20重量部の量で存在する。ある実施形態において、紙組成中の少なくとも50wt.%の高弾性率繊維は、フロックの形態である。
【0013】
紙はまた、無機粒子も含むことができ、代表的な粒子としては、マイカ、バーミキュライト等が挙げられ、これらの粒子を添加すると、改善された耐火性、熱伝導率、寸法安定性等の特性を、紙および最終ハニカムに付与することができる。
【0014】
本発明で用いる紙は、研究室スクリーンから、Fourdrinierまたはインクラインドワイヤ製紙機のような通常使用される機械を含む、商業的なサイズの製紙機器まで、任意の規模の機器で形成できる。典型的なプロセスには、フロックおよび/またはパルプ等の高弾性率繊維状材料とバインダー材料の水性液体中での分散液を調製し、液体を分散液から流出させて、湿潤組成物とし、湿潤紙組成物を乾燥することが含まれる。分散液は、繊維を分散させてからバインダー材料を添加するか、またはバインダー材料を分散させてから繊維を添加するかのいずれかにより調製される。最終分散液はまた、繊維の分散液と、バインダー材料の分散液を混合することによっても調製することができ、分散液は任意により無機材料などの他の添加剤を含むことができる。バインダー材料が繊維の場合には、高弾性率繊維との混合物をまず作製することにより、繊維を分散液に添加する、または繊維を分散液に別個に添加することができる。分散液中の繊維の濃度は、分散液の総重量に基づいて、0.01〜1.0重量パーセントとすることができる。分散液中のバインダー材料の濃度は、固体の総重量に基づいて、35重量パーセントまでとすることができる。典型的なプロセスにおいて、分散液の水性液体は、通常、水であるが、pH調節材料、形成助剤、界面活性剤、消泡剤等の様々なその他の材料を挙げることができる。通常、分散液を、スクリーンまたはその他の穿孔支持体に導き、分散した固体を保持してから液体を通過させて、湿潤紙組成物を得ることにより、水性液体は分散液から流出される。湿潤組成物は、支持体に形成されると、通常、真空またはその他の圧力によりさらに脱水されて、残りの液体を蒸発させることによりさらに乾燥される。
【0015】
ある好ましい実施形態において、高弾性率繊維状材料および熱可塑性バインダー、例えば、短繊維または短繊維とバインダー粒子の混合物を、一緒にスラリー化して、混合物を形成し、これを、ワイヤスクリーンまたはベルト上で紙へと変換することができる。様々な種類の繊維状材料およびバインダーから製紙する例示のプロセスについては、米国特許第3,756,908号明細書(Gross)、同第4,698,267号明細書および同第4,729,921号明細書(Tokarsky)、同第5,026,456号明細書(Heslerら)、同第5,223,094号明細書(Kirayogluら)、同第5,314,742号明細書(Kirayogluら)、同第6,458,244号明細書および同第6,551,456号明細書(Wangら)および同第6,929,848号明細書および米国特許出願公開第2003−0082974号明細書(Samuelsら)を参照のこと。
【0016】
紙が形成されたら、ホットカレンダ加工するのが好ましい。これによって、紙の密度および強度が増大する。通常、紙の1つ以上の層を、金属−金属、金属−複合体または複合体−複合体ロール間のニップでカレンダ加工する。あるいは、紙の1つ以上の層を、プラテンプレスにおいて、特定の組成および最終用途にとって最適な圧力、温度および時間で圧縮することができる。このようにして紙をカレンダ加工するとまた、形成された紙の気孔率が減じる。ある実施形態においては、ハニカムで用いる紙はカレンダ加工された紙である。カレンダ加工や圧縮前、後、またはその代わりの独立した工程としての、放射ヒータやニップでないロール等での紙の熱処理は、緻密化なしで、または緻密化に加えて、強化またはその他特性修正が望ましい場合に実施することができる。
【0017】
ハニカムは、高弾性率繊維を含むが、本明細書で使用される場合、高弾性率繊維は1デニール当たり525グラム(1dtex当たり480グラム)以上の引張りまたはヤング率を有するものである。繊維の高弾性率によって、最終ハニカム構造および対応のパネルの必要な剛性が与えられる。好ましい実施形態において、繊維のヤング率は、1デニール当たり900グラム(1dtex当たり820グラム)以上である。好ましい実施形態において、高レベルの機械的特性を最終ハニカム構造に与えるには、繊維靭性は、1デニール当たり少なくとも21グラム(1dtex当たり19グラム)であり、その伸びは、少なくとも2%である。高弾性率繊維の軸方向のCTEは、2ppm/C以下であり、好ましい実施形態においては(−1)ppm/C以下である。
【0018】
好ましい実施形態において、高弾性率繊維は、耐熱性繊維である。「耐熱性繊維」とは、空気中で500℃まで、1分当たり20℃の速度で加熱したときに、繊維が、繊維重量の90パーセントを好ましくは保持することを意味する。かかる繊維は、通常、難燃性である。すなわち、繊維またはその繊維から作製された布の限界酸素指数(LOI)が、繊維または布が空気中で燃えないようなものであり、好ましいLOI範囲は約26以上である。
【0019】
高弾性率繊維は、フロック、パルプまたはこれらの混合物の形態とすることができるが、多くの実施形態において、フロックは好ましくは繊維の形態である。「フロック」とは、長さ2〜25ミリメートル、好ましくは3〜7ミリメートル、直径3〜20マイクロメートル、好ましくは5〜14マイクロメートルの繊維のことを意味する。フロックは、連続スパンフィラメントを特定の長さのピースに切断することによって一般に製造される。フロック長さが、2ミリメートル未満だと、通常、適切な長さの紙とするには短かすぎ、フロック長さが、25ミリメートルを超えると、均一なウェットレイドウェブを形成するのは非常に難しい。5マイクロメートル未満、特に、3マイクロメートル未満の直径を有するフロックは、適切な断面均一性および再現性で製造するのが難しい。フロック直径が、20マイクロメートルを超えると、軽〜中程度の坪量の均一な紙を形成するのは非常に難しい。
【0020】
本明細書で用いる際「パルプ」という用語は、茎と通常そこから延びるフィブリルとを有する高弾性率材料の粒子を意味し、茎は、通常、円柱で、直径は約10〜50マイクロメートル、フィブリルは、通常、茎に付加した微細な毛髪状部材であり、直径はマイクロメートルの僅か何分の一または数マイクロメートルであり、長さは約10〜100マイクロメートルである。
【0021】
ある実施形態において、本発明において有用な高弾性率繊維としては、パラ−アラミド、ポリベンズアゾール、ポリピリダゾールポリマー、液晶ポリエステル、炭素またはこれらの混合物から作製された繊維が挙げられる。好ましい1つの実施形態において、高弾性率繊維は、アラミドポリマー、特に、パラ−アラミドポリマーから作製される。特に好ましい実施形態において、高弾性率繊維は、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)である。
【0022】
本明細書で用いる際、アラミドという用語は、少なくとも85%のアミド(−CONH−)結合が、2つの芳香族環に直接付加したポリアミドのことを意味する。「パラ−アラミド」とは、2つの環またはラジカルが、分子鎖に沿って互いにパラ配位していることを意味する。添加剤をアラミドと共に用いることができる。実際、10重量パーセントまでの他のポリマー材料をアラミドとブレンドできる、またはアラミドのジアミンに代えて、10パーセントの他のジアミン、またはアラミドの二酸クロリドに代えて10パーセントの他の二酸クロリドを有するコポリマーを用いることができることを見出した。ある実施形態において、好ましいパラ−アラミドは、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)である。本発明に有用なパラ−アラミド繊維を製造する方法は、概して、例えば、米国特許第3,869,430号明細書、同第3,869,429号明細書および同第3,767,756号明細書に開示されている。かかる芳香族ポリアミド繊維およびこれらの繊維の様々な形態は、E.I.du Pont de Nemours and Company(Wilmington,Delaware)から、Kevlar(登録商標)繊維という商品名および帝人株式会社(Teijin,Ltd.)からTwaron(登録商標)という商品名で入手可能である。
【0023】
本発明において有用な市販のポリベンズアゾール繊維としては、日本の東洋紡績株式会社(Toyobo)より入手可能なZylon(登録商標)PBO−AS(ポリ(p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)繊維、Zylon(登録商標)PBO−HM(ポリ(p−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール))繊維が挙げられる。本発明において有用な市販の炭素繊維としては、Toho Tenax America,Inc.より入手可能なTenax(登録商標)繊維が挙げられる。本発明において有用な市販の液晶ポリエステル繊維としては、Swicofil AG Textile Servicesより入手可能なVectran(登録商標)HS繊維が挙げられる。
【0024】
本発明のハニカムは、120°〜350℃の融点と、180ppm/℃以下、ある好ましい実施形態においては、100ppm/℃以下のCTEを有する熱可塑性材料を5〜35重量部有する。熱可塑材とは、その従来のポリマー定義を有することを意味する。すなわち、これらの材料は、加熱すると粘性液体のように流れ、冷却すると固化し、後の加熱と冷却工程で、繰り返し可逆的にそうなる。他のある好ましい実施形態において、熱可塑材の融点は、180℃〜300℃である。他のある好ましい実施形態において、熱可塑材の融点は、220℃〜250℃である。紙は、融点が120℃未満の熱可塑性材料で作製できるが、この紙は、製紙後に、望ましくない溶融流れ、張り付きおよびその他の問題を生じ易い。例えば、ハニカム製造中、交点線接着剤を紙に適用した後、通常、熱を加えて、溶剤を接着剤から除去する。他の工程で、紙のシートを併せてプレスして、シートを交点線で接着する。これらの工程のいずれかの間に、紙が低融点熱可塑性材料を有していると、その材料が流れて、紙のシートを、製造機器および/または他のシートに接合して望ましくない。従って、紙に用いる熱可塑性材料は、紙の形成およびカレンダ加工中に溶融したり流れるが、ハニカムの製造中には、明らかには溶融したり流れたりしない。融点が350℃より高い熱可塑性材料は望ましくない。それらは、軟化するのに高い温度を必要として、紙の他の成分が、紙製造中に分解し始めるからである。2種類以上の熱可塑性材料が存在するこれらの実施形態においては、熱可塑性材料の少なくとも30%の融点が350℃を超えてはならない。
【0025】
ポリマー、繊維またはハニカムのCTEは、試験方法ASTM E831に指定されるようにして、熱機械分析機により測定される。ポリマー試料は、直接試験することができる。繊維試料は、一方向複合体として試験されることが多い。繊維は、単一方向に並べてから、熱硬化性樹脂、例えば、エポキシ樹脂で含浸される。熱膨張係数を軸方向で測定する。ハニカム試料は、Z方向で試験される。試験は、セルを橋架けするか、セルの隅部で試験するかのいずれかにより、多数のセル壁で実施しなければならない。
【0026】
熱可塑性材料は、ハニカムに用いる紙中の高弾性率繊維を結合する。熱可塑性材料は、フレーク、粒子、パルプ、フィブリド、フロックまたはこれらの混合物の形態とすることができる。ある実施形態において、これらの材料は、フィルム厚さが約0.1〜5マイクロメートルおよびその厚さに垂直な最低寸法が少なくとも30マイクロメートルである離散したフィルム状粒子を形成することができる。好ましい一実施形態において、厚さに垂直な粒子の最大寸法は、最大で1.5mである。
【0027】
本発明に有用な熱可塑性材料としては、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド−イミド、ポリエーテル−イミド、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリエステルおよびこれらの混合物からなる群から選択される熱可塑性材料が挙げられる。ある好ましい実施形態において、熱可塑性材料としては、ポリプロピレンまたはポリエステルポリマーおよび/またはコポリマーが挙げられる。
【0028】
本明細書で用いる際「フィブリド」という用語は、長さと幅が約100〜1000マイクロメートル、厚さが僅か約0.1〜1マイクロメートルとして知られる小さくフィルム状の実質的に二次元粒子の極微粉砕ポリマー生成物のことを意味する。フィブリドは、典型的に、ポリマー溶液を、溶液の溶剤と非混和性の液体の凝固浴へ流すことにより作製される。ポリマーが凝固する際、ポリマー溶液のストリームは、激しいせん断力および乱流を受ける。
【0029】
ある実施形態において、本発明において紙に用いる好ましい熱可塑性ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート(PET)またはポリエチレンナフタレート(PEN)ポリマーである。これらのポリマーは、様々なコモノマーを含み、例えば、ジエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリ(エチレングリコール)、グルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、イソフタル酸等が挙げられる。これらのコモノマーに加えて、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリメチロールプロパン、トリメチロールオエタンおよびペンタエリスリトール等の分岐剤を用いてもよい。PETは、テレフタル酸、その低級アルキルエステル(例えば、ジメチルテレフタレート)およびエチレングリコール、これらのブレンドまたは混合物のいずれかから公知の重合技術により得られる。PENは、2,6−ナフタレンジカルボン酸およびエチレングリコールから公知の重合技術により得られる。
【0030】
他の実施形態において、用いるのに好ましい熱可塑性ポリエステルは、液晶ポリエステルである。「液晶ポリエステル」(LCP)とは、参考文献として援用される米国特許第4,118,372号明細書に記載されているようなTOT試験またはそれを適切に修正したものを用いて試験したときに、異方性であるポリエステルポリマーを意味する。LCPのある好ましい形態は、「全芳香族」、すなわち、ポリマー主鎖中の基の全てが芳香族(エステル基等の結合基以外)で、芳香族でない側鎖が存在している。本発明の熱可塑性材料として有用なLCPの融点は、350℃までである。本発明の好ましいLCPとしては、E.I.du Pont de Nemours and Companyより入手可能なZenite(登録商標)およびTicona Coより入手可能なVectra(登録商標)LCPの対応等級が挙げられる。
【0031】
その他の材料、特に、熱可塑性組成物によく見出されるものや熱可塑性組成物での使用に好適なものが、熱可塑性材料に存在していてもよい。これらの材料は、好ましくは、化学的に不活性で、ハニカムの操作環境で適切に熱的に安定でなければならない。かかる材料としては、例えば、フィラー、強化剤、顔料および核剤のうち1つ以上が挙げられる。その他のポリマーが存在していて、ポリマーブレンドを形成してもよい。ある実施形態において、組成物の25重量パーセント未満のその他のポリマーが存在しているのが好ましい。他の好ましい実施形態において、その他のポリマーは、潤滑剤や処理助剤として機能するような合計で少量(5重量パーセント未満)のポリマー以外は、熱可塑性材料に存在しない。
【0032】
本発明の一実施形態は、高弾性率繊維と熱可塑性材料から作製されたハニカムを含む物品であり、熱可塑性材料の融点が、120℃〜350℃で、CTEが180ppm/℃、好ましくは100ppm/℃以下であり、ASTM E831により測定される、ハニカムのZ寸法における熱膨張係数が、10ppm/℃以下、好ましくは5ppm/℃以下である。物品に用いると、ハニカムは、所望であれば、構造用部品として機能し得る。ある好ましい実施形態において、ハニカムは、空力構造物の少なくとも一部に用いられる。ある実施形態において、ハニカムには、衛星の構造用部品としての用途がある。ハニカムの軽量構造上の特性のために、ある好ましい用途は、軽量であることによって、空気を通して対象物を推進する必要のある燃料や出力を省力できる空力構造物である。
【0033】
本発明の他の実施形態は、高弾性率繊維と熱可塑性材料とを含む紙から作製されたハニカムを含むパネルである。熱可塑性材料は、離散したフィルム状粒子の形態で紙に少なくとも部分的に存在している。1つ以上のフェースシートを、ハニカムの面に取り付けてパネルを形成してもよい。フェースシートによって、構造に一体性が与えられ、ハニカムコアの機械的特性を実現する補助となる。また、フェースシートは、ハニカムのセルをシールして、材料がセルから出ないようにするか、またはフェースシートが材料をセル中に保持するのを補助する。図3に、接着剤を用いて、一面に取り付けられたフェースシート6を有するハニカム5を示す。第2のフェースシート7は、ハニカムの反対の面に取り付けられており、2つの対向するフェースシートが取り付けられたハニカムでパネルを形成する。材料8の追加の層を、所望であればパネルのいずれかの側に取り付けることができる。ある好ましい実施形態において、ハニカムの両側に適用されたフェースシートは、材料の2層を含む。ある好ましい実施形態において、フェースシートは、織布またはクロスプライ単方向布を含む。ある実施形態において、クロスプライ単方向布は、0/90クロスプライである。所望であれば、フェースシートは、エンボス加工やその他処理等、装飾面を有していて、見た目の良い外側表面を形成してもよい。ガラス繊維および/または炭素繊維を含む布が、フェースシート材料として有用である。
【0034】
ある実施形態において、ハニカムは、米国特許第5,137,768号明細書、米国特許第5,789,059号明細書、米国特許第6,544,622号明細書、米国特許第3,519,510号明細書および米国特許第5,514,444号明細書に記載されたような方法により作製することができる。ハニカムを作製するこれらの方法では、通常、数多くの接着剤の線(交点線)を、高弾性率紙の一表面にある幅およびピッチで適用または印刷した後、接着剤を乾燥する必要がある。典型的に、接着樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂およびその他樹脂から選択されるが、熱硬化性樹脂を用いるのが好ましい。
【0035】
交点線適用後、高弾性率紙を所定の間隔で切断して、複数のシートを形成する。切断したシートは、互いに積み重ねて、各シートが、適用された接着剤交点線のピッチの半分または間隔の半分、他のシートとずれるようにする。積み重ねた高弾性率繊維を含有する紙のシートを、圧力および熱を与えることにより、交点線に沿って互いにボンドする。ボンドしたシートを、シートの面に垂直な方向に引き離す、または膨張して、セルを有するハニカムを形成する。従って、形成されたハニカムセルは、数多くの線に沿って互いにボンドされ、膨張した紙シートから作製されたセル壁により分離された中空の円筒状セルの平面アセンブリで構成されている。
【0036】
ある実施形態において、ハニカムは、膨張後、典型的に、構造用樹脂で含浸される。典型的に、これは、膨張したハニカムを、熱硬化性樹脂浴に浸漬することにより行われるが、他の樹脂またはスプレー等の手段を用いて、膨張したハニカムを被覆および完全に含浸したり、かつ/または飽和することもできる。ハニカムを樹脂で完全に含浸した後、飽和したハニカムを加熱して樹脂を架橋することにより、樹脂は硬化される。通常、この温度は、多くの熱硬化性樹脂について、150℃〜180℃の範囲である。
【0037】
樹脂含浸および硬化前または後、ハニカムをスライスへと切断してもよい。このようにして、大きなブロックのハニカムから、ハニカムの多数の薄片またはスライスを得ることができる。ハニカムは、通常、セルエッジの面に垂直にスライスにされるので、ハニカムの細胞状の特徴は保持される。
【0038】
ハニカムは、粒子形状、特定の紙組成および/またはその他理由に応じて、無機粒子をさらに含むことができ、これらの粒子を、製紙中に紙に組み込むか(例えば、マイカフレーク、バーミキュライト等)、またはマトリックスまたは構造用樹脂に組み込んでもよい(例えば、シリカ粉末、金属酸化物等)。
【0039】
試験方法
ポリマーおよびハニカムの熱膨張係数は、ASTM E831により測定する。繊維の熱膨張係数は、ASTM E381に従って直接、または複合体構造から測定することができる。
【0040】
融点は、試験方法ASTM D3418により測定される。融点は、最大融解吸熱とみなされ、10℃/分の加熱速度での第2の熱で測定される。2つ以上の融点が存在する場合には、ポリマーの融点が、最大融点とみなされる。
【0041】
繊維弾性率、強度および伸びは、ASTM D885を用いて測定する。紙密度は、ASTM D374により測定される紙厚さおよびASTM D646により測定される坪量を用いて計算する。繊維デニールは、ASTM D1907を用いて測定する。
【実施例】
【0042】
これは、低熱膨張係数を有するハニカムの例である。LCPのストランド切断ペレットを、直径30.5cmのSprout−WaldronタイプC−2976−A単一回転ディスクリファイナーに1回通過させて叩解する。プレート間のギャップは、約25マイクロメートル、供給速度は、約60g/分であり、ペレット1kg当たり水約4kgの量で、水を連続的に添加する。LCPは、米国特許第5,110,896号明細書の実施例5に開示された、モル比50/50/70/30/350のヒドロキノン/4,4’−ビフェノール/テレフタル酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/4−ヒドロキシ安息香酸から誘導された組成を有している。このLCPについては、ガラス転移温度は観察できず、融点は約342℃である。圧縮したLCPの面における熱膨張係数は、35ppm/℃である。得られるLCPパルプを、Bantam(登録商標)Micropulverizer,Model CFでさらに叩解して、30メッシュのスクリーンに通す。70重量部のパラ−アラミドフロックと30重量部のLCPパルプを含有するアラミド/熱可塑性紙を、従来の製紙設備で形成する。パラ−アラミドフロックは、E.I.du Pont de Nemours and Company(Wilmington,DE)(DuPont)より、KEVLAR(登録商標)49という商品名で販売されているポリ(パラ−フェニレンテレフタルアミド)繊維であり、公称フィラメント線密度は、1フィラメント当たり1.5デニール(1フィラメント当たり1.7dtex)、公称切断長さは、6.7mmである。この繊維の引張り係数は1デニール当たり930グラム(1dtex当たり850グラム)、引張り強度は24グラム/デニール(22グラム/dtex)、伸びは2.5パーセント、軸方向の熱膨張係数は、−4ppm/Cである。紙を、線圧力1200N/cmで、335℃でカレンダ加工する。これにより、密度0.75g/cm3のアラミド/熱可塑性紙が生成される。
【0043】
ハニカムを、カレンダ加工された紙から形成する。接着剤の交点線を、幅2mmおよびピッチ5mmで紙表面に適用する。接着剤は、Shell Chemical Co.より販売されているEpon826というエポキシ樹脂70重量部、Wilmington Chemical Corp(Wilmington,DE,USA)より販売されているHeloxy WC8006というエラストマー変性エポキシ樹脂30重量部、Union Carbide Corp.より販売されているUCAR BRWE 5400というビスフェノールA−ホルムアルデヒド樹脂硬化剤54重量部、Dow Chemical Companyより販売されているDowanol PMというグリコールエーテル溶剤中硬化触媒としての2−メチルイミダゾール0.6重量部、Miller−Stephenson Chemical Co.より販売されているEponol 55−B−40というポリエーテル樹脂7重量部、およびCabot Corpより販売されているCab−O−Silというヒュームドシリカ1.5重量部を含む50%固溶体である。接着剤を、紙の上で、130℃のオーブンにて6.5分間部分的に乾燥する。
【0044】
接着剤交点線のあるシートを長さ500mmに切断する。40のシートを互いに積み重ねて、各シートが適用された接着剤交点線のピッチの半分または間隔の半分、他のシートとずれるようにする。ずれは、片側から他方へ交互になされ、最後のスタックが、均一に垂直になるようにする。
【0045】
積み重ねたシートを、接着剤の軟化点で、ホットプレスすると、接着剤の交点線が溶融し、熱を取り除くと、接着剤が硬化して、シートを互いにボンドする。上記の交点線接着剤については、ホットプレスは、140℃で30分間、次に、177℃で40分間、1平方cmの圧力当たり3.5kgで操作する。
【0046】
ボンドされたアラミドシートを、積み重ね方向の反対の方向に膨張させて、等辺断面を有するセルを形成する。各シートを、互いに伸長させて、シートが、ボンドされた交点線のエッジに沿って折り曲げられ、ボンドされていない部分は、シートを互いに分離する引張り力の方向に伸長されるようにする。フレームを用いて膨張させ、ハニカムを膨張した形状に保持する。
【0047】
膨張したハニカムを、Durez CorporationのPYLOPHEN23900溶剤系フェノール樹脂を含む浴に入れる。フェノール樹脂は、樹脂を2−プロパノール、水およびエタノールに溶解または分散させた液体形態で用いる。樹脂は、セル壁の内部表面に張り付いてそれを覆い、紙の孔を充填し、貫通もする。
【0048】
樹脂を含浸した後、ハニカムを浴から取り出し、140℃のホットエアにより30分間、177℃で40分間、乾燥炉にて乾燥させて、溶剤を除去し、フェノール樹脂を硬化する。樹脂浴における含浸工程と、乾燥炉における乾燥工程を、ハニカム中の熱硬化性樹脂の合計含量が約33重量パーセントに達するよう、2回繰り返す。ハニカムを保持しているフレームを取り外す。サイズ6mm×6mm×25mmのハニカム試料を、ASTM E831に従って、TA Instruments(New Castle,Delaware(USA))製Q−400 Thermomechanical Analyzerを用いて試験すると、約3ppm/℃のCTEを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造用樹脂またはマトリックス樹脂を備えたセル壁を有するハニカムであって、前記セル壁の面が、前記ハニカムのZ寸法に平行であり、前記ハニカムセル壁が、
a)融点が120℃〜350℃で、熱膨張係数が180ppm/℃未満の熱可塑性材料5〜35重量部と、
b)1デニール当たり525グラム(1dtex当たり480グラム)以上の弾性率を有し、軸方向の熱膨張係数が2ppm/℃以下の高弾性率繊維65〜95重量部とを、前記ハニカムセル壁中の前記熱可塑材および高弾性率繊維の総量に基づいて含み、
前記ハニカムの前記Z寸法における熱膨張係数が10ppm/℃以下である、ハニカム。
【請求項2】
前記熱可塑性材料が、5〜20重量部の量で存在する請求項1に記載のハニカム。
【請求項3】
前記高弾性率繊維が、約80〜95重量部の量で存在する請求項1に記載のハニカム。
【請求項4】
前記熱可塑性材料の熱膨張係数が、100ppm/℃以下である請求項1に記載のハニカム。
【請求項5】
前記高弾性率繊維の軸方向の熱膨張係数が、(−1)ppm/℃以下である請求項1に記載のハニカム。
【請求項6】
前記ハニカムの前記Z方向の熱膨張係数が、5ppm/℃以下である請求項1に記載のハニカム。
【請求項7】
前記熱可塑材が、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミド−イミド、ポリエーテル−イミド、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリエステルおよびこれらの混合物からなる群から選択される請求項1に記載のハニカム。
【請求項8】
前記熱可塑性材料が、無機添加剤を含む請求項1に記載のハニカム。
【請求項9】
前記高弾性率繊維の少なくとも50重量パーセントが、フロックの形態にある請求項1に記載のハニカム。
【請求項10】
前記フロックの切断長さが、2mm〜25mmである請求項9に記載のハニカム。
【請求項11】
前記高弾性率繊維が、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)繊維を含む請求項1に記載のハニカム。
【請求項12】
前記高弾性率繊維が、パラ−アラミド、ポリベンズアゾール、ポリピリダゾールポリマー、液晶ポリエステル、炭素またはこれらの混合物からなる群から選択される請求項1に記載のハニカム。
【請求項13】
前記構造用樹脂またはマトリックス樹脂が、熱硬化性樹脂である請求項1に記載のハニカム。
【請求項14】
無機粒子をさらに含む請求項1に記載のハニカム。
【請求項15】
請求項1に記載のハニカムを含む物品。
【請求項16】
請求項1に記載のハニカムを含む空力構造物。
【請求項17】
請求項1に記載のハニカムを含むパネル。
【請求項18】
前記ハニカムの面に取り付けられたフェースシートをさらに含む請求項17に記載のパネル。

【公表番号】特表2010−513064(P2010−513064A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−541415(P2009−541415)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【国際出願番号】PCT/US2007/025719
【国際公開番号】WO2008/076405
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】