低熱膨張性光導波路フィルム
【課題】 線熱膨張係数が小さく、かつ、透明性に優れる光導波回路用の透明基材を用いた低熱膨張性光導波路フィルムを提供する。
【解決手段】 平均繊維径が4〜200nmの繊維およびマトリクス材料を含有し、50μm厚換算における波長350nm〜2μmの光線透過率が60%以上である繊維強化複合材料からなる透明基板1と、透明基板1上に形成されたコア2A,2Bとを有する低熱膨張性光導波路フィルムを提供する。
【解決手段】 平均繊維径が4〜200nmの繊維およびマトリクス材料を含有し、50μm厚換算における波長350nm〜2μmの光線透過率が60%以上である繊維強化複合材料からなる透明基板1と、透明基板1上に形成されたコア2A,2Bとを有する低熱膨張性光導波路フィルムを提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維強化複合材料を用いてなる低熱膨張性光導波路フィルムに関する。詳しくは、本発明は、繊維にマトリクス材料を含浸させてなる高透明性の繊維強化複合材料からなる基板を用いた低熱膨張性光導波路フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野などで使用される光導波路は、一般的に、基板上にコアが形成され、さらにはコアを覆うようにクラッドが形成されてなるものである。
【0003】
このような光導波路の中でも、特許文献1や特許文献2などには、基板が樹脂からなるものが開示されている。
【特許文献1】特開2004−191414号公報
【特許文献2】特開2003−322738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1や特許文献2などに開示されている光導波路は、樹脂からなる基板の線熱膨張係数の温度依存性が大きいため、光導波回路基板自体が温度変化に対して伸び縮みし、光信号の入出射位置の位置ずれや、反り、形状変化が起こり易いという問題や、温度条件によって光の伝送特性が変化し、安定な伝送特性が得られないという問題があった。
【0005】
そこで、線熱膨張係数を低減するために、ガラス繊維強化樹脂などの線熱膨張係数の小さい無機ガラス材料などからなる補強材料とした基板を用いて光導波回路基板を作製することや、低線熱膨張係数材料と樹脂との積層基板などが考えられる。しかし、ガラス繊維強化樹脂などの場合、ガラス繊維材料は通常その太さが数μm以上と大きく、充填する樹脂材料との屈折率差により光の反射や散乱が大きいため、光透過性が低くなってしまう。また、低線熱膨張係数材料と樹脂との積層基板の場合は、界面で材料特性が明確に変わるため、低線熱膨張係数材料部分と光導波路部分の線熱膨張係数差で界面に歪みや応力集中が起こり、破損や界面剥離が起こったり、応力による光弾性効果により光導波回路の伝送特性の変化が起こる。
【0006】
したがって、線熱膨張係数が小さく、かつ、透明性に優れる光導波回路用の透明基材の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、線熱膨張係数が小さく、かつ、透明性に優れる光導波回路用の透明基材を用いた低熱膨張性光導波路フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の低熱膨張性光導波路フィルムは、平均繊維径が4〜200nmの繊維およびマトリクス材料を含有し、50μm厚換算における波長350nm〜2μmの光線透過率が60%以上である繊維強化複合材料からなる透明基板と、該透明基板上に形成されたコアとを有することを特徴とする。
【0009】
前記透明基板の一方の面にコアが直接形成されてなることが好ましい。
前記透明基板と積層したクラッド内に埋め込まれたコアが形成されてなることが好ましい。
【0010】
前記繊維はセルロース繊維であることが好ましい。
前記セルロース繊維は化学修飾および/または物理修飾されたものであることが好ましい。
前記セルロース繊維はアセチル化および/またはメタクロイル化されていることが好ましい。
【0011】
前記セルロース繊維はバクテリアセルロースであることが好ましい。
前記バクテリアセルロースは離解処理されていないことが好ましい。
前記バクテリアセルロースは三次元交差構造体をなしていることが好ましい。
前記バクテリアセルロースは、バクテリアおよび該バクテリアから産生され、該バクテリアに連なるセルロースを含む産生物をアルカリ処理してバクテリアを溶解除去したものであることが好ましい。
【0012】
前記セルロース繊維が植物繊維から分離されたものであることが好ましい。
前記セルロース繊維はミクロフィブリル化セルロース繊維をさらに磨砕処理されたものであることが好ましい。
前記繊維強化複合材料における前記繊維の含有率が10重量%以上であることが好ましい。
【0013】
前記マトリクス材料は有機高分子、無機高分子、または有機高分子と無機高分子とのハイブリッド高分子であることが好ましい。
前記マトリクス材料は合成高分子であることが好ましい。
前記マトリクス材料は結晶化度が10%以下、かつ、ガラス転移温度が110℃以上の合成樹脂であることが好ましい。
【0014】
前記繊維強化複合材料の線熱膨張係数が0.05×10−5〜5×10−5K−1であることが好ましい。
前記繊維強化複合材料の曲げ強度が30MPa以上であることが好ましい。
前記繊維強化複合材料の比重が1.0〜2.5であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の低熱膨張性光導波路フィルムによれば、繊維強化複合材料からなる透明基板を用いることにより、その低熱膨張性(線熱膨張係数が0.05×10−5〜5×10−5K−1)と高光透過性(50μm厚換算における波長350nm〜2μmの光線透過率が60%以上)に基づいて、光導波回路基板の実装時に、次のような優れた効果が奏される。
すなわち、透明基板の優れた光透過性により、コア内の光を、透明基板を透過させ、取り出し、あるいは反対に透明基板を透過させた光をコアに入射させる際、透明基板内に高い光透過率で光を透過させることができ、透明基板を透過することによる光量の減衰を抑えることができる。
また、透明基板の低熱膨張性により、透明基板の面方向の熱膨張を抑制することができ、温度変化に伴う光結合位置の位置ずれを防止して、光信号を確実に送受信することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施した低熱膨張性光導波路フィルムについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
本発明の低熱膨張性光導波路フィルムは、繊維強化複合材料からなる透明基板と、この透明基板上に形成されたコアとから概略構成されており、好ましくは透明基板上に直接コアが形成されてなり、必要に応じて、透明基板と積層したクラッドに埋め込まれたコアが形成されてなるものである。なお、本発明の低熱膨張性光導波路フィルムでは、繊維強化複合材料からなる透明基板が下部クラッド層をなし、透明基板上に設けられたコアを覆うクラッドが上部クラッド層をなしている。
【0018】
図1(a)〜図1(e)は本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの実施の形態を示す概略断面(光の進行方向に直交する断面)図である。
【0019】
本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの構造には特に制限がなく、例えば、図1(a)に示すように、繊維強化複合材料からなる透明基板1上にスラブ型のコア2Aが設けられたスラブ型低熱膨張性光導波路フィルム10Aが挙げられる。また、図1(b)に示すように、繊維強化複合材料からなる透明基板1上にリッジ(リブ型)のコア2Bが設けられたリッジ(リブ)型低熱膨張性光導波路フィルム10Bが挙げられる。また、図1(c)に示すように、リッジ(リブ)型低熱膨張性光導波路フィルムにさらにコア2Bを覆うクラッド3が設けられた埋め込み型低熱膨張性光導波路フィルム10Cが挙げられる。また、図1(d)に示すように、透明基板1の一方の面にコア2Bとクラッド3を二層に積層した片側積層構造の低熱膨張性光導波路フィルム10Dが挙げられる。さらに、図1(e)に示すように、透明基板1の両面に各々コア2Bとクラッド3を設けた両面(表裏面)積層構造の低熱膨張性光導波路フィルム10Eが挙げられる。
【0020】
透明基板1をなす繊維強化複合材料は、繊維およびマトリクス材料を含み、50μm厚換算における波長350nm〜2μmの光線透過率が60%以上である。
ここで、光波長帯としては、LDやLEDなどの固体レーザ、さらには色素レーザやガスレーザなどを光源として用いることが可能であるため、可視光域および近赤外光域の350nm〜2μmでの使用が可能である。
可視光域の光波長を利用する場合には、380nm〜780nmにおける光透過性が優れた材料を利用することが望ましい。
また、光ファイバ通信、長距離通信、データ通信などとの波長の整合をとる場合には、750nm〜1.7μmの光波長における光透過性が高い材料の方が望ましい。
特に、近距離データの光通信などとの整合をとる場合には、780nm付近および820nm〜860nmの光波長域を使用することが、石英系光ファイバ通信、長距離光通信などとの整合をとる場合には、1.3μm付近と1.55μm付近の波長帯を使用することが望ましい。
【0021】
繊維強化複合材料に含まれる繊維は、単繊維が引き揃えられることなく、かつ相互間にマトリクス材料が入り込むように十分に離隔して存在するものであってもよい。この場合、繊維の平均径(以下、「平均繊維径」と称することもある。)は単繊維の平均径となる。また、この繊維は、複数(多数であってもよい)本の単繊維が束状に集合して1本の糸条を構成しているものであってもよい。この場合、平均繊維径は1本の糸条の径の平均値として定義される。後述するバクテリアセルロースは、後者の糸条よりなるものである。
【0022】
繊維強化複合材料に含まれる繊維の平均径(平均繊維径)は4〜200nmであり、好ましくは4〜100nmであり、より好ましくは4〜60nmである。
平均繊維径が200nmを超えると、可視光の波長に近づき、マトリクス材料との界面で可視光の屈折が生じ易くなり、この繊維強化複合材料からなる透明基板を低熱膨張性光導波路フィルムの基板として適用し難くなる。一方、平均繊維径が4nm未満の繊維は製造が困難である。本発明で用いられる繊維として好適な後述のバクテリアセルロースの単繊維径は4nm程度である。
【0023】
なお、繊維強化複合材料に含まれる繊維は、平均繊維径が4〜200nmの範囲外の繊維を含んでもよいが、その割合は繊維全体量の30重量%以下であることが好ましい。繊維強化複合材料に含まれる全ての繊維の繊維径は200nm以下、特に100nm以下、とりわけ60nm以下であることが望ましい。
【0024】
繊維の長さについては特に限定されないが、平均長さで100nm以上が好ましい。繊維の平均長さが100nm未満では、繊維による補強効果が低く、繊維強化複合材料の強度が不十分となるおそれがある。繊維中には繊維長さ100nm未満のものが含まれていてもよいが、その割合は繊維全体量の30重量%以下であることが好ましい。
【0025】
上述のような繊維としては、セルロース繊維が好ましい。セルロース繊維を用いると、後述するように、得られる繊維強化複合材料の線熱膨張係数をより小さくすることができるので好ましい。
【0026】
セルロース繊維とは、植物細胞壁の基本骨格などを構成するセルロースのミクロフィブリル、または、これを構成する繊維のことである。また、セルロース繊維は、通常、繊維径4nm程度の単位繊維の集合体である。本発明では、このようなセルロース繊維の中でも、結晶構造を40%以上含有するものが、繊維強化複合材料の強度を十分に高くし、線熱膨張係数をより小さくする上で好ましい。
【0027】
本発明で用いられるセルロース繊維としては、植物から分離されたもの、バクテリアから産生されるバクテリアセルロースなどが挙げられるが、これらの中でもバクテリアセルロースが好ましい。バクテリアセルロースは、産生物を水洗、またはアルカリ処理して、バクテリアを溶解除去することによって得られるものである。バクテリアセルロースの中でも、後述する離解処理がなされていないバクテリアセルロースは、50μm厚換算における波長350nm〜2μmの光線透過率が60%以上の単位繊維の集合体からなるセルロース繊維を得る上で好適である。
【0028】
地球上においてセルロースを産生し得る生物は、植物界は言うに及ばず、動物界ではホヤ類、原生生物界では各種藻類、卵菌類、粘菌類などに分布しており、また、モネラ界では藍藻および酢酸菌、土壌細菌の一部に分布している。現在のところ、菌界(真菌類)にはセルロース産生能は確認されていない。これらの中でも酢酸菌としては、アセトバクター(Acetobacter)属などが挙げられ、より具体的には、アセトバクターアセチ(Acetobacteraceti)、アセトバクターサブスピーシーズ(Acetobacter subsp.)、アセトバクターキシリナム(Acetobacter xylinum)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
このようなバクテリアを培養することにより、バクテリアからセルロース(バクテリアセルロース)が産生される。得られた産生物は、バクテリア、および、このバクテリアから産生されて、このバクテリアに連なるセルロース(バクテリアセルロース)を含むものである。そこで、この産生物を培地から取り出し、産生物を水洗、またはアルカリ処理してバクテリアを除去することにより、バクテリアを含まない含水バクテリアセルロースが得られる。さらに、この含水バクテリアセルロースから水分を除去することにより、バクテリアセルロースが得られる。
【0030】
上記のようなバクテリアを培養するために用いられる培地としては、寒天状の固体培地や、液体培地(培養液)が挙げられる。培養液としては、例えば、ココナッツミルク(全窒素分0.7重量%、脂質28重量%)7重量%、および、ショ糖8重量%を含有し、酢酸によりpHを3.0に調整した培養液(以下、「ココナッツミルク培養液」と称することもある。)や、グルコース2重量%、バクトイーストエクストラ0.5重量%、バクトペプトン0.5重量%、リン酸水素ニナトリウム0.27重量%、クエン酸0.115重量%、および、硫酸マグネシウム七水和物0.1重量%を含有し、塩酸によりpHを5.0に調整した水溶液(以下、「SH培養液」と称することもある。)などが挙げられる。
【0031】
バクテリアの培養方法としては、例えば、二つの方法が挙げられる。
第一の方法では、まず、ココナッツミルク培養液に、アセトバクターキシリナム(Acetobacter xylinum)FF−88などの酢酸菌を植菌し、30℃にて、5日間、静置培養して、一次培養液を得る。次いで、得られた一次培養液のゲル分を取り除いた後、液体部分を、再びココナッツミルク培養液に5重量%の割合で加え、30℃にて、10日間、静置培養して、二次培養液を得る。この二次培養液には、約1重量%のセルロース繊維が含まれている。
【0032】
第二の方法では、まず、凍結乾燥保存状態の酢酸菌の菌株にSH培養液を加え、25〜30℃にて、1週間、静置培養する。培養液の表面にはバクテリアセルロースが生成するが、これらのうち、厚みが比較的厚いものを選択し、その株の培養液を少量分取して新しいSH培養液に加える。そして、このバクテリアセルロースの株を加えたSH培養液を大型培養器に入れ、25〜30℃にて、7〜30日間、静地培養する。バクテリアセルロースは、このように、「既存の培養液の一部を新しい培養液に加え、約7〜30日間、静置培養する」ことの繰り返しにより得られる。
【0033】
菌がセルロースを作り難いなどの不具合が生じた場合には、以下の手順に従って、バクテリアを培養する。
まず、培養液に寒天を加えて調製した寒天培地上に、菌培養中の培養液を少量撒き、1週間ほど放置してコロニーを形成させる。それぞれのコロニーを観察して、比較的セルロースをよく産生するようなコロニーを寒天培地から取り出し、取り出したコロニーを新しい培養液に投入し、培養する。
【0034】
このようにして産生させたバクテリアセルロースを培養液から取り出した後、バクテリアセルロース中に残存するバクテリアを除去する。バクテリアセルロース中に残存するバクテリアを除去する方法としては、水洗またはアルカリ処理が用いられる。バクテリアセルロース中に残存するバクテリアを溶解除去するためのアルカリ処理としては、培養液から取り出したバクテリアセルロースを0.01〜10重量%程度のアルカリ水溶液に1時間以上注加する方法が用いられる。アルカリ処理を施した場合には、アルカリ水溶液からバクテリアセルロースを取り出した後、十分水洗して、アルカリ水溶液を除去する。
【0035】
このようにして産生されたバクテリアセルロースは水分を含んでおり、通常、含水率が95〜99.9重量%である。そこで、次いで、このバクテリアセルロースの水分を除去する。
【0036】
水分を含むバクテリアセルロースの水分除去法としては、特に限定されないが、放置やコールドプレスなどにより、まず水をある程度抜いた後、そのまま放置するか、または、ホットプレスなどにより残存している水を完全に除去する方法、コールドプレスした後、乾焼機により乾燥するか、または、自然乾燥させて水を除去する方法などが挙げられる。
【0037】
水分を含むバクテリアセルロースの水をある程度抜く方法として用いられる放置とは、水分を含むバクテリアセルロースをそのまま放置して、時間をかけて水を徐々に揮発させる方法のことである。
【0038】
水分を含むバクテリアセルロースの水をある程度抜く方法として用いられるコールドプレスとは、水分を含むバクテリアセルロースに熱を加えずに圧力のみを加えて、水分を含むバクテリアセルロースの水を抜き出す方法のことであり、ある程度までの水を絞り出すことができる。このコールドプレスにおいて、水分を含むバクテリアセルロースに加えられる圧力は、0.01MPa〜10MPaが好ましく、0.1MPa〜3MPaがより好ましい。圧力が0.01MPa未満では、水の残存量が多くなる傾向がある。一方、圧力が10MPaを超えると、得られるバクテリアセルロースが破壊されることがある。コールドプレスを行う温度は特に限定されないが、操作の便宜上、常温が好ましい。
【0039】
バクテリアセルロースに残存している水を完全に除去する方法として用いられる放置は、時間をかけてバクテリアセルロースを乾燥させる方法である。
【0040】
バクテリアセルロースに残存している水を完全に除去する方法として用いられるホットプレスは、熱を加えながら圧力を加えることにより、バクテリアセルロースから水を抜き出す方法であり、残存している水を完全に除去することができる。このホットプレスにおいて、バクテリアセルロースに加えられる圧力は、0.01MPa〜10MPaが好ましく、0.2MPa〜3MPaがより好ましい。圧力が0.01MPa未満では、水を除去できなくなる場合がある。一方、圧力が10MPaを超えると、得られるバクテリアセルロースが破壊されることがある。また、ホットプレスを行う温度は100〜300℃が好ましく、110〜200℃がより好ましい。温度が100℃未満では、水の除去に時間を要する。一方、温度が300℃を超えると、バクテリアセルロースの分解などが生じるおそれがある。
【0041】
乾燥機によりバクテリアセルロースを乾燥する温度(以下、「乾燥温度」と略す。)は、100〜300℃が好ましく、110〜200℃がより好ましい。乾燥温度が100℃未満では、水の除去ができなくなる場合がある。一方、乾燥温度が300℃を超えると、セルロース繊維の分解などが生じるおそれがある。
【0042】
このようにして得られるバクテリアセルロースは、その培養条件やその後の水分除去時の加圧、加熱条件などによっても異なるが、通常、嵩密度1.1〜1.3kg/m3程度、厚み40μm〜60μm程度のシート状(以下、「BCシート」と称すことがある。)をなしている。
【0043】
繊維強化複合材料は、上記のような1枚のBCシート、または、積層した複数枚(二枚以上)のBCシートに、マトリクス材料からなる含浸用液状物を含浸させてなるものでる。
【0044】
本発明で用いられるバクテリアセルロースは、嵩密度1.2kg/m3、かつ、厚み40μmのシート状物について、JIS P 8117に規定されている方法に従って測定した透気度が80000sec/100cc以上であることが好ましく、10000sec/100cc以上であることが特に好ましく、15000sec/100cc以上であることがとりわけ好ましい。透気度が上記の範囲内にあるBCシートは、繊維強化複合材料の透明性を高める。
【0045】
ところで、バクテリアセルロースと樹脂を複合化して複合材料を形成する場合には、バクテリアセルロース含有産生物を離解して用いるが、バクテリアセルロースを離解して得られるシートについて、上記と同様にして測定した透気度は、4500sec/100cc程度と低い。これは、離解によりバクテリアセルロースの単繊維に剪断力が加えられ、バクテリアセルロース単繊維が互いに密着したり絡まり合ったりすることにより、バクテリアセルロースのネットワーク構造が粗大化したことによるものである。このように透気度が低く、ネットワーク構造の粗いBCシートを繊維強化複合材料に適用すると、繊維強化複合材料の強度および透光性が不十分となる。
【0046】
一方、本発明で用いられるバクテリアセルロースは、離解処理が施されていない。このように離解処理が施されていないことから、本発明で用いられるバクテリアセルロースは、三次元交差構造をなすものとなる(以下、三次元交差構造をなすバクテリアセルロースを「三次元交差バクテリアセルロース構造体」と称することがある。)。この「三次元交差バクテリアセルロース構造体」とは、バクテリアセルロースが三次元的な交差構造をとることにより嵩高(スカスカ)の状態ではあるが一つの構造体として扱えるようになっている物体」を意味している。
【0047】
三次元交差バクテリアセルロース構造体は、バクテリアがセルロースを産生(排出)しながらランダムに動き回ることによりセルロースが複雑に(三次元的に)交差している構造をなしている。この複雑な交差は、バクテリアが分裂してセルロースが分岐することにより、さらに複雑化する。
【0048】
三次元交差バクテリアセルロース構造体は、セルロース繊維を産生するバクテリアを上述のように、培養液で培養することにより形成される。三次元交差バクテリアセルロース構造体は、適当な形状、例えば、フィルム状、板状、ブロック状、所定の形状(例えばレンズ状)などの形状に従って形成される。このようにすれば、目的に応じて、任意の形状の三次元交差バクテリアセルロース構造体を得ることができる。
【0049】
三次元交差バクテリアセルロース構造体は培養後、上述したようにバクテリアを除去するために水洗やアルカリ処理などの洗浄処理が施されるが、これらの処理によって、三次元交差構造をなすバクテリアセルロースは、その三次元交差構造が崩れることがない。また、三次元交差バクテリアセルロース構造体を圧縮するなどして、バクテリアセルロースに含まれる水分を除去しても、この三次元交差構造は保たれることが確認されている。
【0050】
繊維強化複合材料の強度、透明性などは、バクテリアセルロースの三次元交差構造が保たれている場合に特に効果的に発揮される。すなわち、バクテリアセルロースが三次元交差バクテリアセルロース構造体をなしていることにより、繊維強化複合材料の強度、透明性などは、上述のように高くなる。
【0051】
ところで、この三次元交差バクテリアセルロース構造体を、より一層細くするために、この三次元交差バクテリアセルロース構造体が解離処理や解繊処理などと呼ばれる工程、すなわち、乳鉢と乳棒、すり鉢、ひき臼などによりすりつぶす工程を経ると、三次元交差バクテリアセルロース構造体は、三次元交差構造が破壊されて、セルロース繊維が短く引きちぎられ、その短繊維が毛玉状やフィルム状に集合(凝集)してしまう。その結果、このようなバクテリアセルロースは、ナノサイズ(ナノオーダー)のセルロース繊維からなる三次元交差バクテリアセルロース構造体とは全く異なる性状、形態のものとなる。したがって、本発明では、三次元交差バクテリアセルロース構造体に解離処理や解繊処理などを施すことは好ましくない。
【0052】
本発明では、セルロース繊維としては、上述のようなバクテリアセルロースを用いることが好ましいが、海草やホヤの被嚢、植物細胞壁などに、叩解・粉砕などの処理、高温高圧水蒸気処理、リン酸塩などを用いた処理などを施したセルロース繊維を用いてもよい。
【0053】
上記の叩解・粉砕などの処理は、リグニンなどを除去した植物細胞壁、あるいは、海草やホヤの被嚢に、直接、力を加え、叩解や粉砕を行い、これらを形成する繊維をバラバラにし、セルロース繊維を得る処理法である。
【0054】
より具体的には、叩解・粉砕などの処理は、パルプなどを高圧ホモジナイザーで処理して、平均繊維径0.1μm〜10μm程度にミクロフィブリル化したミクロフィブリル化セルロース繊維(以下、「MFC」と略記する。)を0.1〜3重量%程度の水懸濁液とし、さらにグラインダーなどで繰り返し磨砕処理または融砕処理して、平均繊維径10nm〜100nm程度のナノオーダーのMFC(以下、「Nano MFC」と略記する。)を得ることができる。このNano MFCを0.01〜1重量%程度の水懸濁液とし、これを濾過することによりシート化し、繊維強化複合材料に適用される。
【0055】
上記の磨砕処理または融砕処理は、例えば、栗田機械製作所製グラインダー「ピュアファインミル」などを用いて行うことができる。
【0056】
このグラインダーは、上下二枚のグラインダーの間隙を原料が通過するときに発生する衝撃、遠心力、剪断力により、原料を超微粒子に粉砕する石臼式粉砕機である。このグラインダーは、剪断、磨砕、微粒化、分散、乳化、フィブリル化を同時に行うことができる。
【0057】
磨砕処理または融砕処理は、増幸産業(株)製超微粒磨砕機「スーパーマスコロイダー」を用いて行うこともできる。スーパーマスコロイダーは、間隔を自由に調整できる2つの無気孔砥石が上下に組み合わされてなる石臼形式の超微粒磨砕機であり、上部砥石は固定されており、下部砥石が高速回転するようになっている。このスーパーマスコロイダーでは、ホッパーに投入された原料が遠心力によって上部砥石と下部砥石の間隙に送り込まれ、そこで生じる強大な圧縮、剪断、転がり摩擦力などにより、原料が次第にすり潰され、超微粒化される。このスーパーマスコロイダーによれば、単なる粉砕の域を越えて、原料を融けるように超微粒化することができる。
【0058】
上記の高温高圧水蒸気処理は、リグニンなどを除去した植物細胞壁、あるいは、海草やホヤの被嚢を高温高圧水蒸気に曝すことにより、これらを形成する繊維をバラバラにし、セルロース繊維を得る処理法である。
【0059】
上記のリン酸塩などを用いた処理は、海草やホヤの被嚢、植物細胞壁などの表面をリン酸エステル化することにより、セルロース繊維間の結合力を弱めた後、リファイナー処理を施すことにより、繊維をバラバラにし、セルロース繊維を得る処理法である。具体的には、例えば、リグニンなどを除去した植物細胞壁、あるいは、海草やホヤの被嚢を、尿素を50重量%と、リン酸を32重量%とを含む溶液に浸漬し、60℃にて、この溶液をセルロース繊維間に十分に染み込ませた後、180℃に加熱してリン酸化を進める。次いで、これを水洗した後、3重量%の塩酸水溶液中、60℃にて、2時間、加水分解処理をして、再度水洗する。その後、3重量%の炭酸ナトリウム水溶液中において、室温にて、20分間程処理することにより、リン酸化を完了させる。そして、このリン酸化した処理物をリフアイナーで解繊することにより、セルロース繊維が得られる。
【0060】
本発明で用いられるセルロース繊維は、上述のようなセルロース繊維を化学修飾または物理修飾のいずれか一方、あるいは、化学修飾および物理修飾して機能性を高めたものであってもよい。
化学修飾としては、エーテル化、エステル化、イソシアネート化などによって、アセチル基、メタクリロイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、iso−ブタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピパロイル基、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基などを付加させることなどが挙げられる。化学修飾の方法としては、例えば、BCシート、あるいは、Nano MFCシートを無水酢酸中に浸漬して加熱し、アセチル化する方法が挙げられる。このように、BCシート、あるいは、Nano MFCシートをアセチル化することにより、光線透過率を低下させることなく、これらのシートの吸水性の低下、耐熱性の向上を図ることができる。
【0061】
物理修飾としては、金属やセラミック原料を、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングなどの物理蒸着法(PVD法)、化学蒸着法(CVD法)、無電解メッキや電解メッキなどのメッキ法などにより表面被覆させる方法が挙げられる。
【0062】
本発明では、上述した様々な種類の繊維強化複合材料の繊維が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0063】
繊維強化複合材料における繊維の含有率は、10重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることが特に好ましく、50重量%以上であることがとりわけ好ましく、かつ、99重量%以下であることが好ましく、95重量%以下であることが特に好ましい。繊維強化複合材料における繊維の含有率が上記範囲内であれば、セルロース繊維などの繊維による繊維強化複合材料の曲げ強度および曲げ弾性率の向上、または、線熱膨張係数の低減の効果が十分となるとともに、マトリクス材料による繊維間の接着、または、繊維間の空間の充填が十分となり、繊維強化複合材料の強度や透明性、表面の平坦性が向上する。
【0064】
繊維強化複合材料をなすマトリクス材料としては、有機高分子、無機高分子、または有機高分子と無機高分子とのハイブリッド高分子などの1種、または、2種以上が好適に用いられる。
【0065】
以下に本発明に好適なマトリクス材料を例示するが、本発明で用いるマトリクス材料は以下のものに限定されない。
【0066】
有機高分子としては、天然高分子や合成高分子が挙げられる。
無機高分子としては、ガラス、シリケート材料、チタネート材料などのセラミックスなどが挙げられ、これらは例えばアルコラートの脱水縮合反応により形成されるものである。
【0067】
天然高分子としては、再生セルロース系高分子が挙げられ、再生セルロース系高分子としては、例えばセロハン、トリアセチルセルロースなどが挙げられる。
【0068】
合成高分子としては、ビニル系樹脂、重縮合系樹脂、重付加系樹脂、付加縮合系樹脂、開環重合系樹脂などが挙げられる。
【0069】
ビニル系樹脂としては、ポリオレフイン、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、フッ素樹脂、(メタ)アクリル系樹脂などの汎用樹脂や、ビニル重合によって得られるエンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックなどが挙げられる。これらのビニル系樹脂は、各樹脂内において構成される各単量体の単独重合体や共重合体であってもよい。
【0070】
ポリオレフインとしては、エチレン、プロピレン、スチレン、ブタジェン、ブテン、イソプレン、クロロプレン、イソプチレン、イソプレンなどの単独重合体または共重合体、あるいは、ノルポルネン骨格を有する環状ポリオレフインなどが挙げられる。
【0071】
塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどの単独重合体または共重合体が挙げられる。
【0072】
酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニルの加水分解体であるポリビニルアルコール、酢酸ビニルに、ホルムアルデヒドやn−ブチルアルデヒドを反応させたポリビニルアセタール、ポリビニルアルコールやプチルアルデヒドなどを反応させたポリビニルブチラールなどが挙げられる。
【0073】
フッ素樹脂としては、テトラクロロエチレン、ヘキサフロロプロピレン、クロロトリフロロエチレン、フッ化ビリニデン、フッ化ビニル、ペルフルオロアルキルビニルエーテルなどの単独重合体または共重合体が挙げられる。
【0074】
(メタ)アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類などの単独重合体または共重合体が挙げられる。「(メタ)アクリル」とは、「アクリルまたはメタクリルのいずれか一方」あるいは「アクリルおよびメタクリルの両方」を意味する。
【0075】
(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸またはメタクリル酸が挙げられる。
(メタ)アクリロニトリルとしては、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルが挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸系単量体、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルなどが挙げられる。
【0076】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどが挙げられる。
【0077】
シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸系単量体としては、(メタ)アクリル酸シクロへキシル、イソボルニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチルなどが挙げられる。
【0078】
(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−t−オクチル(メタ)アクリルアミドなどのN置換(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0079】
重縮合系樹脂としては、アミド系樹脂やポリカーボネートなどが挙げられる。
【0080】
アミド系樹脂としては、6,6−ナイロン、6−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン、4,6−ナイロン、6,10−ナイロン、6,12−ナイロンなどの脂肪族アミド系樹脂や、フェニレンジアミンなどの芳香族ジアミンと塩化テレフタロイルや塩化イソフタロイルなどの芳香族ジカルボン酸またはその誘導体からなる芳香族ポリアミドなどであってもよい。
【0081】
ポリカーボネートとは、ビスフェノールAやその誘導体であるビスフェノール類と、ホスゲンまたはフェニルジカーボネートとの反応物のことである。
【0082】
重付加系樹脂としては、エステル系樹脂、Uポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルエーテルケトン、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ウレタン樹脂などが挙げられる。
【0083】
エステル系樹脂としては、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、不飽和ポリエステルなどが挙げられる。
芳香族ポリエステルとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの後述するジオール類とテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸との共重合体が挙げられる。
【0084】
脂肪族ポリエステルとしては、後述するジオール類とコハク酸、吉草酸などの脂肪族ジカルボン酸との共重合体や、グリコール酸や乳酸などのヒドロキシカルボン酸の単独重合体または共重合体、後述するジオール類、上記の脂肪族ジカルボン酸および上記のヒドロキシカルボン酸の共重合体などが挙げられる。
不飽和ポリエステルとしては、後述するジオール類、無水マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸、および、必要に応じてスチレンなどのビニル単量体との共重合体が挙げられる。
【0085】
Uポリマーとしては、ビスフェノールAやその誘導体であるビスフェノール類、テレフタル酸およびイソフタル酸などからなる共重合体が挙げられる。
【0086】
液晶ポリマーはとしては、P−ヒドロキシ安息香酸と、テレフタル酸、P,P’−ジオキシジフェノール、P−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、ポリテレフタル酸エチレンなどとの共重合体が挙げられる。
【0087】
ポリエーテルケトン類としては、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンや4,4’−ジヒドロベンゾフェノンなどの単独重合体や共重合体が挙げられる。
【0088】
ポリエーテルエーテルケトンとしては、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンとハイドロキノンなどとの共重合体が挙げられる。
【0089】
アルキド樹脂としては、ステアリン酸、パルチミン酸などの高級脂肪酸と無水フタル酸などの二塩基酸、および、グリセリンなどのポリオールなどからなる共重合体が挙げられる。
【0090】
ポリイミド系樹脂としては、無水ポリメリト酸や4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどの共重合体であるピロメリト酸型ポリイミド、無水塩化トリメリト酸やp−フェニレンジアミンなどの芳香族ジアミンや、後述するジイソシアネート化合物などからなる共重合体であるトリメリト酸型ポリイミド、ビフェニルテトラカルボン酸、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、P−フェニレンジアミンなどからなるビフェニル型ポリイミド、ベンゾフェノンテトラカルボン酸や4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどからなるベンゾフェノン型ポリイミド、ビスマレイイミドや4,4’−ジアミノジフェニルメタンなどからなるビスマレイイミド型ポリイミドなどが挙げられる。
【0091】
ポリスルホンとしては、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンやビスフェノールAなどの共重合体が挙げられる。
【0092】
ポリフェニレンスルフィドとしては、P−ジクロロベンゼンや硫化ナトリウムなどの共重合体が挙げられる。
【0093】
ポリエーテルスルホンとしては、4−クロロ−4’−ヒドロキシジフェニルスルホンの重合体が挙げられる。
【0094】
ウレタン樹脂としては、ジイソシアネート類とジオール類との共重合体が挙げられる。
ジイソシアネート類としては、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロへキシレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0095】
ジオール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどの比較的低分子量のジオールや、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオールなどが挙げられる。
【0096】
付加縮合系樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。
【0097】
フェノール樹脂としては、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、フェニルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどの単独重合体または共重合体が挙げられる。
【0098】
尿素樹脂やメラミン樹脂としては、ホルムアルデヒドや尿素、メラミンなどの共重合体が挙げられる。
【0099】
開環重合系樹脂としては、ポリアルキレンオキシド、ポリアセタール、エポキシ樹脂などが挙げられる。
ポリアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどの単独重合体または共重合体が挙げられる。
【0100】
ポリアセタールとしては、トリオキサン、ホルムアルデヒド、エチレンオキシドなどの共重合体が挙げられる。
エポキシ樹脂としては、エチレングリコールなどの多価アルコールとエピクロロヒドリンとからなる脂肪族系エポキシ樹脂、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとからなる脂肪族系エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0101】
このようなマトリクス材料の中でも、特に、透明性に優れ、高耐久性の繊維強化複合材料を形成する上では、非晶質かつガラス転移温度(Tg)の高い合成高分子が好ましい。このようなマトリクス材料の非晶質の程度としては、結晶化度が10%以下であることが好ましく、5%以下であることが特に好ましい。また、マトリックス材料のガラス転移温度は110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることが特に好ましく、130℃以上であることがとりわけ好ましい。
【0102】
マトリックス材料の結晶化度が10%を超えると、繊維強化複合材料の透明性に劣り、マトリックス材料の結晶化度が高くなり過ぎると、繊維強化複合材料の可視光の透過率が低下する。なお、結晶化度は、非晶質部と結晶質部の密度から結晶化度を算定する密度法により求められる。
マトリックス材料のガラス転移温度が110℃未満では、例えば、繊維強化複合材料が沸騰水に接触した場合に変形するなど、透明部品、光学部品などとしての用途において、耐久性に問題が発生する。なお、ガラス転移温度は示差走査熱量測定法(DSC法)による測定により求められる。
【0103】
本発明において、マトリックス材料をなす好ましい透明なマトリクス樹脂としては、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ノボラック樹脂、ユリア樹脂、グアナミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化型ポリイミド、スチリルピリジン系樹脂、トリアジン系樹脂などの熱硬化樹脂が挙げられ、これらの中でも特に透明性の高いアクリル樹脂、メタクリル樹脂が好ましい。
【0104】
これらのマトリクス材料は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0105】
次に、繊維強化複合材料の製造方法について説明する。
【0106】
繊維強化複合材料を製造するには、上述のようなマトリクス材料を用いた含浸用液状物を調製し、この含浸用液状物を上記の繊維に含浸させた後、この含浸用液状物を硬化させる。
【0107】
含浸用液状物としては、流動状のマトリクス材料、流動状のマトリクス材料の原料、マトリクス材料を流動化させた流動化物、マトリクス材料の原料を流動化させた流動化物、マトリクス材料の溶液、および、マトリクス材料の原料の溶液から選ばれる1種または2種以上が用いられる。
【0108】
流動状のマトリクス材料としては、マトリクス材料そのものが流動状であるものなどが挙げられる。
【0109】
流動状のマトリクス材料の原料としては、例えば、プレポリマーやオリゴマーなどの重合中間体などが挙げられる。
【0110】
マトリクス材料を流動化させた流動化物としては、例えば、熱可塑性のマトリクス材料を加熱溶融させた状態のものなどが挙げられる。
【0111】
マトリクス材料の原料を流動化させた流動化物としては、例えば、プレポリマーやオリゴマーなどの重合中間体が固形状の場合、これらを加熱溶融させた状態のものなどが挙げられる。
【0112】
マトリクス材料の溶液やマトリクス材料の原料の溶液としては、マトリクス材料やマトリクス材料の原料を溶媒などに溶解させた溶液が挙げられる。ここで用いられる溶媒は、溶解対象のマトリクス材料やマトリクス材料の原料に応じて適宜決定されるが、後工程でこれを除去するに当たり、蒸発除去する場合、マトリクス材料やマトリクス材料の原料が分解しない程度の温度以下の沸点を有するものが好ましい。
【0113】
繊維強化複合材料を製造するには、上述のような含浸用液状物を、繊維の集合体、好ましくは上述のようなBCシートの単層体、または、BCシートを複数枚(二枚以上)積層した積層体に含浸させて、繊維間に含浸用液状物を十分に浸透させる。この含浸工程は、その一部または全部を、圧を変化させた状態で行うのが好ましい。この圧を変化させる方法としては、減圧雰囲気下または加圧雰囲気下で含浸工程を行う方法が挙げられる。減圧雰囲気下または加圧雰囲気下で含浸工程を行うことにより、繊維間に存在する空気を上記の含浸用液状物と置き換えることが容易となり、繊維間に気泡が残存するのを防止することができる。
【0114】
減圧条件としては、雰囲気の圧力(気圧)を0.133kPa(1mmHg)〜93.3kPa(700mmHg)とすることが好ましい。雰囲気の圧力(気圧)が93.3kPa(700mmHg)を超えると、繊維間の空気の除去が不十分となり、繊維間に空気が残存することがある。雰囲気の圧力(気圧)は0.133kPa(1mmHg)より低くてもよいが、減圧設備が過大となりすぎる傾向がある。
【0115】
減圧下における含浸工程の処理温度は、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。この処理温度が0℃より低いと、繊維間の空気の除去が不十分となり、繊維間に空気が残存することがある。さらに、処理温度の上限は、例えば含浸用液状物に溶媒を用いた場合、その溶媒の沸点(減圧下での沸点)が好ましい。処理温度が溶媒の沸点を超えると、溶媒の揮発が激しくなり、かえって、繊維間に気泡が残存しやすくなる傾向がある。
【0116】
加圧条件としては、雰囲気の圧力(気圧)を1.1MPa〜10MPaとすることが好ましい。雰囲気の圧力(気圧)が1.1MPa未満では、繊維間の空気の除去が不十分となり、繊維間に空気が残存することがある。雰囲気の圧力(気圧)は10MPaを超えてもよいが、加圧設備が過大となりすぎる傾向がある。
【0117】
加圧下における含浸工程の処理温度は、0〜300℃が好ましく、10〜100℃がより好ましい。この処理温度が0℃未満では、繊維間の空気の除去が不十分となり、繊維間に空気が残存することがある。一方、処理温度が300℃を超えると、マトリクス材料が変性するおそれがある。
【0118】
繊維に含浸させた含浸用液状物を硬化させるには、その含浸用液状物の硬化方法に従って硬化させればよい。
すなわち、含浸用液状物が流動状のマトリクス材料の場合は、架橋反応、鎖延長反応などによって硬化させる。
含浸用液状物が流動状のマトリクス材料の原料の場合は、重合反応、架橋反応、鎖延長反応などによって硬化させる。
【0119】
含浸用液状物がマトリクス材料を流動化させた流動化物の場合は、冷却などによって硬化させる。
含浸用液状物がマトリクス材料の原料を流動化させた流動化物の場合は、冷却などと、重合反応、架橋反応、鎖延長反応などとの組合せによって硬化させる。
【0120】
含浸用液状物がマトリクス材料の溶液の場合は、溶液中の溶媒の蒸発や風乾などによる除去などによって硬化させる。
含浸用液状物がマトリクス材料の原料の溶液の場合は、溶液中の溶媒の除去などと、重合反応、架橋反応、鎖延長反応などとの組合せによって硬化させる。
上記の蒸発除去には、常圧下における蒸発除去だけでなく、減圧下における蒸発除去も含まれる。
【0121】
このようにして得られる繊維強化複合材料は、50μm厚換算における波長350nm〜2μmの光線透過率が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上である。繊維強化複合材料の50μm厚換算における波長350nm〜2μmの光線透過率が60%未満では、繊維強化複合材料は半透明または不透明となり、本発明の目的を達成し得ず、自動車、電車、船舶などの移動体の窓材料、ディスプレイ、住宅、建築物、各種光学部品など、透明性が要求される用途への使用が困難となることがある。
【0122】
繊維強化複合材料の線熱膨張係数は、0.05×10−5〜5×10−5K−1が好ましく、0.2×10−5〜2×10−5K−1がより好ましく、0.3×10−5〜1×10−5K−1が特に好ましい。繊維強化複合材料の線熱膨張係数は0.05×10−5K−1より小さくてもよいが、セルロース繊維などの線熱膨張係数を考慮すると、実現が難しいことがある。一方、線熱膨張係数が5×10−5K−1を超えると、繊維強化複合材料に含まれる繊維による繊維補強効果が発現せず、ガラスや金属材料との線熱膨張係数との違いから、雰囲気温度により、繊維強化複合材料を用いて形成された低熱膨張性光導波路フィルムの結像性能や屈折率が劣化することがある。
【0123】
繊維強化複合材料の曲げ強度は、30MPa以上であることが好ましく、100MPa以上であることがより好ましい。繊維強化複合材料の曲げ強度が30MPa未満では、十分な強度が得られず、繊維強化複合材料を用いて形成された低熱膨張性光導波路フィルムを力の加わる用途に適用することに影響を与えることがある。曲げ強度の上限は、通常、600MPa程度であるが、繊維の配向を調整するなどの改良手法により、1GPa、さらには1.5GPa程度の高い曲げ強度を実現することも期待される。
【0124】
繊維強化複合材料の曲げ弾性率は、0.1GPa〜100GPaであることが好ましく、1GPa〜40GPaであることがより好ましい。繊維強化複合材料の曲げ弾性率が0.1GPa未満では、十分な強度が得られず、繊維強化複合材料を用いて形成された低熱膨張性光導波路フィルムを力の加わる用途に適用することに影響を与えることがある。一方、曲げ弾性率が100GPaを超えるものは実現が困難である。
【0125】
繊維強化複合材料の比重は、1.0〜2.5であることが好ましい。より具体的には、マトリクス材料としてガラスなどのシリケート化合物や、チタネート化合物、アルミナなどの無機高分子以外の有機高分子や、無機高分子であっても多孔質材料を用いる場合には、繊維強化複合材料の比重は、1.0〜1.8が好ましく、1.2〜1.5がより好ましく、1.3〜1.4がさらに好ましい。ガラス以外のマトリクス材料の比重は、一般的に1.6未満であり、かつ、セルロース繊維の比重が1.5程度であるので、繊維強化複合材料の比重を1.0よりも小さくしようとすると、セルロース繊維などの含有率が低下し、セルロース繊維などによる強度向上が不十分となる傾向がある。一方、比重が1.8を超えると、得られる繊維強化複合材料の重量が大きくなり、ガラス繊維強化材料と比較して、軽量化を目的とする用途に使用することが不利となる。
【0126】
また、マトリクス材料としてガラスなどのシリケート化合物や、チタネート化合物、アルミナなどの無機高分子(多孔質材料を除く)を用いる場合には、繊維強化複合材料の比重は、1.5〜2.5が好ましく、1.8〜2.2がより好ましい。ガラスの比重は、一般的に2.5以上であり、かつ、セルロース繊維の比重が1.5程度であるので、繊維強化複合材料の比重を2.5よりも大きくしようとすると、セルロース繊維などの含有率が低下し、セルロース繊維などによる強度向上が不十分となる傾向がある。一方、比重が1.5未満では、繊維間の空隙へのマトリックス材料の充填が不十分となるおそれがある。
【0127】
本発明において、繊維強化複合材料の線熱膨張係数は、繊維強化複合材料を50℃から150℃に昇温させた際の線熱膨張係数であり、ASTM D 696に規定されている条件下で測定した値である。また、繊維強化複合材料の曲げ強度は、JIS K 7203に規定されている方法に従って測定した値である。また、繊維強化複合材料の比重は、20℃において、単位体積当たりの質量を測定して密度を求め、水の密度(1.004g/cm3(20℃))とから換算して求めた値である。
【0128】
このような繊維強化複合材料は、透明性などに優れ、さらに繊維とマトリクス材料との複合化で様々な優れた機能性を有するため、低熱膨張性光導波路フィルムに好適に用いることができる。
【0129】
コア2A,2Bを形成する材料としては、上述のマトリックス材料と同様のもので、使用光波長における光透過性が高く、共重合やブレンドなどの手法により、屈折率が後述のクラッド材料よりも使用光波長における比屈折率(Δ)で0.1〜15%程度高い値に調製された材料が挙げられる。
【0130】
クラッド3を形成する材料としては、上述のマトリックス材料と同様のものが挙げられる。
【0131】
このような低熱膨張性光導波路フィルムは、光の出射または入射のために、必要に応じて、例えば図2(a)〜図2(e)に示すような切削加工あるいは、図2(f)、図2(g)に示すグレーティングが施されて実装に供される。
なお、図2(a)〜図2(g)において、符号1は透明基板、2はコア、3はクラッドを示し、Lは光信号を示す。また、図2(a)〜図2(g)は、低熱膨張性光導波路フィルムの光の進行方向に沿う概略断面であるが、この図において、光信号の進行方向を示すために、断面を示すハッチングは省略してある。
【0132】
図2(a)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Fは、低熱膨張性光導波路フィルムの光の進行方向の先端に45°の傾斜面10fを形成することにより、光の進行方向を透明基板1側(裏面側)へ90°反射させるものである。
この低熱膨張性光導波路フィルム10Fは、例えば、図1(c)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Cの光の進行方向の先端に、半導体基板切削用に利用されているダイシングソーのブレード先端を斜めに加工した切削ブレードにより45°の傾斜面10fを形成することにより得られる。
【0133】
図2(b)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Gは、低熱膨張性光導波路フィルム10Fと同様の傾斜面10g(ただし傾斜角度θ°)を形成することにより、光の進行方向を透明基板1側へ(180−2θ)°反射させるものである。
この低熱膨張性光導波路フィルム10Gは、例えば、図1(c)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Cの光の進行方向の先端に、上記の切削ブレードにより傾斜角度θ°の傾斜面10gを形成することにより得られる。
【0134】
図2(c)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Hは、低熱膨張性光導波路フィルムの中間部分にV字溝10hを形成することにより、双方向からの光を透明基板1側へ反射させるものである。
この低熱膨張性光導波路フィルム10Gは、例えば、図1(c)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Cの光の進行方向の中央部に、上記の切削ブレードによりV字溝10hを形成することにより得られる。あるいは、低熱膨張性光導波路フィルム10Cのクラッド3の上にレジスト膜を形成し、次いで、このレジスト膜にグレイマスク、もしくは、多段階(複数回)の露光により低熱膨張性光導波路フィルム10Cの光の進行方向の中央部にV字溝を形成し、反応性イオンエッチングなどのドライエッチング法により、低熱膨張性光導波路フィルム10Cの光の進行方向の中央部にV字溝10hを形成することにより得られる。
【0135】
図2(d)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Iは、一方の内壁面が透明基板1の板面に直交するV字溝10iを形成することにより、光を透明基板1とは反射側(表面側)へ反射させるものである。
この低熱膨張性光導波路フィルム10Iは、例えば、図1(c)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Cの光の進行方向の中央部に、上記の切削ブレードによりV字溝10iを形成することにより得られる。
【0136】
図2(e)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Jは、図1(e)に示す両面積層構造の低熱膨張性光導波路フィルム10Eに45°の傾斜面10jを形成することにより、2つの光を90°反射させるものである。
この低熱膨張性光導波路フィルム10Jは、例えば、図1(e)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Eの光の進行方向の先端に、上記の切削ブレードにより45°の傾斜面10jを形成することにより得られる。
【0137】
図2(f)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Kは、コア2(あるいはその近傍のクラッド部分)に屈折率が周期的に変化するグレーティング部分2aを形成したものである。
図2(g)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Lは、コア2の表面に周期的な凹凸のグレーティング部分2bを形成したものである。これらの低熱膨張性光導波路フィルム10Kおよび低熱膨張性光導波路フィルム10Lは、コア2の実効屈折率をN、放射される側の媒体の屈折率をn、コア2の伝播光の波数をk、グレーティングの周期をΛ、qを整数(0、±0、±1、±2、±3、・・・)としたときに、下記の式(1)を満たす整数qがある場合には、下記の式(2)で表される角度θに光入出力されるものである。
【0138】
【数1】
【0139】
【数2】
【0140】
このような本発明の低熱膨張性光導波路フィルムは、上述の繊維強化複合材料からなる透明基板を基板として用いることにより、その低熱膨張性(線熱膨張係数が0.05×10−5〜5×10−5K−1)と高光透過性(50μm厚換算における波長350nm〜2μmの光線透過率が60%以上)に基づいて、低熱膨張性光導波路フィルムの実装時に、次のような優れた効果が奏される。
【0141】
透明基板の優れた光透過性により、上述の図2(a)〜図2(c)などの手法によってコア2内の光を、透明基板1を透過させ、取り出し、あるいは反対に透明基板1を透過させた光をコア2に入射させる際、透明基板1内に高い光透過率で光を透過させることができ、透明基板1を透過することによる光量の減衰を抑えることができる。
【0142】
透明基板の低熱膨張性により、透明基板1の面方向の熱膨張を抑制することができ、温度変化に伴う光結合位置の位置ずれを防止して、光信号を確実に送受信することができるようになる。
【0143】
図2(a)に示すような傾斜面10fを設けたテーパ型低熱膨張性光導波路フィルム10Fを、図3(a)に示すように、送信部となるLD(Laser Diode)モジュールや、受信部となるPD(Photo Diode)モジュールが設けられた実装基板20に取り付けて光を送受信する場合、温度変化による熱膨張により低熱膨張性光導波路フィルム10Fの透明基板1が面方向に伸び、傾斜面10fの位置が、図3(a)の破線で示す位置となることがある。このように傾斜面10fの位置がずれると、コア2を通過して傾斜面10fで反射した光がPDに入射しないばかりでなく、LDから発せられた光が傾斜面10fで反射してコア2に入射しなくなる。
【0144】
同様に、図2(g)に示すようなコア2の表面に周期的な凹凸のグレーティング部分2bを形成したグレーティング型低熱膨張性光導波路フィルム10Lを、図3(b)に示すように、送信部となるLD(Laser Diode)モジュールや、受信部となるPD(Photo Diode)モジュールが設けられた実装基板20に取り付けて光を送受信する場合、温度変化による熱膨張により低熱膨張性光導波路フィルム10Lの透明基板1が面方向に伸び、低熱膨張性光導波路フィルム10Lの実装基板20に固定されていない側の端面の位置が図3(b)の破線で示す位置となり、グレーティング部分2bの位置がずれることがある。このようにグレーティング部分2bの位置がずれると、コア2を通過してグレーティング部分2bで出射した光がPDに入射しないばかりでなく、LDから発せられた光がグレーティング部分2bで反射してコア2に入射しなくなる。
【0145】
このような低熱膨張性光導波路フィルムの透明基板の熱膨張による位置ずれは、シリコン製基板、石英ガラス製基板などでは問題にならなかった。しかし、プラスチック製基板では、熱膨張率の小さいものが提供されておらず、このことが、プラスチック製基板は、軽量かつ安価で、耐衝撃性、加工性に優れるなどの様々な利点を有するにもかかわらず、低熱膨張性光導波路フィルムの透明基板としての実用化が難しいとされていた原因となっていた。
【0146】
これに対して、本発明によれば、低熱膨張性の繊維強化複合材料を低熱膨張性光導波路フィルムの透明基板材料として用いることにより、透明基板として樹脂系材料を用いた上で、実装時の光結合位置の位置ずれの問題のない低熱膨張性光導波路フィルムを提供することができる。
【0147】
次に、本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの製造方法について説明する。
本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの製造方法としては、ドライエッチング法、直接露光法、型押し法の3つの方法が挙げられる。
【0148】
ドライエッチング法は、フォトリソグラフィと、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching;RIE)とを用いてコアの形状加工を行う方法である。
【0149】
図4を参照して、ドライエッチング法について説明する。
まず、図4(a)に示すように、下部クラッド層をなす透明基板1の一方の面1aに、紫外線硬化型樹脂を塗布した後、この紫外線硬化型樹脂を硬化させてコア層2Cを形成する。
【0150】
次いで、図4(b)に示すように、コア層2Cの上にスピンコート法によりレジストを塗布した後、露光、現像して、所定のコアの形状をなすレジストマスク4を形成する。
【0151】
次いで、図4(c)に示すように、反応性イオンエッチング(RIE)により、コア層2Cを所定の形状に加工する。
【0152】
次いで、図4(d)に示すように、レジストマスク4を除去すると、透明基板1の一方の面1aに、所定の形状のコア層2Cが形成されたリッジ型低熱膨張性光導波路フィルム10Mが得られる。
【0153】
さらに、図4(e)に示すように、低熱膨張性光導波路フィルム10Mのコア層2Cを覆うように上述のマトリックス材料と同様の材料からなるクラッド(上部クラッド層)3を形成すれば、埋め込み型低熱膨張性光導波路フィルム10Nが得られる。
【0154】
直接露光法は、透明基板の上に、コアを形成する紫外線硬化型樹脂を塗布した後、フォトマスクを透過した紫外光を直接利用して、紫外線硬化型樹脂を硬化させ、未硬化の紫外線硬化型樹脂を溶媒などにより除去することにより、コアの形状加工を行う方法である。
【0155】
図5を参照して、直接露光法について説明する。
まず、図5(a)に示すように、下部クラッド層をなす透明基板1の一方の面1aに、スピンコート法によりコアを形成する紫外線硬化型樹脂5を塗布する。
【0156】
次いで、図5(b)に示すように、紫外線硬化型樹脂5の上に、透明基板1と対向するようにフォトマスク6を配置し、このフォトマスク6を介して紫外線硬化型樹脂5に紫外光を照射する。
【0157】
次いで、図5(c)に示すように、アセトン、エタノールなどの有機溶媒などにより洗浄して、未硬化の紫外線硬化型樹脂の部分を除去すると、透明基板1の一方の面1aに、所定の形状のコア2Dが形成されたリッジ型低熱膨張性光導波路フィルム10Pが得られる。
【0158】
さらに、図5(d)に示すように、低熱膨張性光導波路フィルム10Qのコア2Dを覆うように上述のマトリックス材料と同様の材料からなるクラッド(上部クラッド層)3を形成すれば、埋め込み型低熱膨張性光導波路フィルム10Qが得られる。
【0159】
型押し法は、金属などの十分な強度を有する任意の材質によって形成された型を利用して、透明基板にコアの形状加工を行う方法である。
【0160】
図6を参照して、型押し法について説明する。
まず、図6(a)あるいは図6(b)に示すように、下部クラッド層をなす透明基板1に、所定のコアの形状をなす凹部を形成する。
【0161】
図6(a)に示す方法では、透明基板1を塑性変形可能な樹脂で形成し、この透明基板1の一方の面1aと対向するように、加熱・加圧可能、かつ、所定のコアの形状をなす凸部7aが設けられた型7を配置する。次いで、この型7により透明基板1を加熱・加圧し、凸部7aを透明基板1の一方の面1aに密着させ、透明基板1を塑性変形させて、図6(c)に示すように、透明基板1に所定のコアの形状をなす凹部1cを形成する。
【0162】
一方、図6(b)に示す方法では、透明基板1の一方の面と対向するように、型7を配置する。次いで、透明基板1と型7との間隙に紫外線硬化型樹脂または熱硬化性樹脂を充填する。次いで、紫外線硬化型樹脂を充填した場合には、透明基板1の型7と対向している面とは反対の面から紫外光を照射して、紫外線硬化型樹脂を硬化させ、図6(c)に示すように、透明基板1に所定のコアの形状をなす凹部1cを形成する。また、熱硬化性樹脂を充填した場合には、型7を加熱して、熱硬化性樹脂を硬化させ、図6(c)に示すように、透明基板1に所定のコアの形状をなす凹部1cを形成する。
【0163】
次いで、図6(d)に示すように、透明基板1の凹部1cにコアを形成する紫外線硬化型樹脂を充填し、この紫外線硬化型樹脂に紫外光を照射して硬化させると、所定の形状のコア2Eが形成されたリッジ型低熱膨張性光導波路フィルム10Rが得られる。
【0164】
さらに、図6(e)に示すように、低熱膨張性光導波路フィルム10Rのコア2Eを覆うように上述のマトリックス材料と同様の材料からなるクラッド(上部クラッド層)3を形成すれば、埋め込み型低熱膨張性光導波路フィルム10Sが得られる。
【0165】
また、上述の型押し法では、セルロース繊維などの繊維を含むマトリックス材料が硬化してなる繊維強化複合材料からなる透明基板を用いて、低熱膨張性光導波路フィルムを製造する方法を示したが、本発明で用いられる型押し法では、以下のようにして低熱膨張性光導波路フィルムを製造することもできる。
【0166】
図7を参照して、型押し法の他の例について説明する。
まず、図7(a)に示すように、未硬化の紫外線硬化型樹脂からなるマトリックス材料8がセルロース9に含浸されてなるセルロースシート11を複数枚積層し、所定のコアの形状をなす凸部7aが設けられた型7と、ガラス板12との間に配置する。
【0167】
次いで、図7(b)に示すように、積層されたセルロースシート11を型7とガラス板12で挟み込むとともに、ガラス板12の型7と対向している面とは反対の面から紫外光を照射して、紫外線硬化型樹脂からなるマトリックス材料8を硬化させる。
【0168】
マトリックス材料8を硬化させた後、図6(c)に示すように、型7およびガラス板12を取り外すと、所定のコアの形状をなす凹部1cが形成され、マトリックス材料8とセルロース9とからなる透明基板(下部クラッド層)1が得られる。
【0169】
以下、上述の型押し法と同様にして、リッジ型低熱膨張性光導波路フィルムまたは埋め込み型低熱膨張性光導波路フィルムを製造することができる。
【0170】
なお、ここでは、透明基板1を下部クラッド層とした低熱膨張性光導波路フィルムを例示したが、本発明はこれに限定されない。本発明では、透明基板の一方の面に、上述のマトリックス材料と同様の材料からなる下部クラッド層を形成した後、この下部クラッド層の上にコアを形成してもよい。
【0171】
また、本発明では、低熱膨張性光導波路フィルムに、図2(f)または図2(g)に示すようなグレーティング部を形成する場合には、上述のドライエッチング法、直接露光法、型押し法以外にも、以下のようにして低熱膨張性光導波路フィルムを製造することもできる。
【0172】
図8を参照して、図2(f)に示すような、コア2(あるいはその近傍のクラッド部分)に屈折率が周期的に変化するグレーティング部分2aを形成した低熱膨張性光導波路フィルム10Kの製造方法について説明する。
まず、図8(a)に示すように、下部クラッド層をなす透明基板1の一方の面1aに、紫外線硬化型樹脂を塗布した後、この紫外線硬化型樹脂を硬化させてコア2を形成する。
【0173】
次いで、図8(b)に示すように、コア2の上にスピンコート法によりレジストを塗布した後、露光、現像して、所定の間隔の格子形状をなすレジストパターン13を形成する。
【0174】
次いで、図8(c)に示すように、反応性イオンエッチング(RIE)により、コア2に所定の間隔の格子形状をなす複数の凹状のグレーティング部分2aを形成する。
【0175】
次いで、図8(d)に示すように、レジストパターン13を除去し、さらに、図8(e)に示すように、コア2を覆うように上述のマトリックス材料と同様の材料からなるクラッド(上部クラッド層)3を形成すれば、埋め込み型低熱膨張性光導波路フィルム10Kが得られる。
【0176】
次に、図9を参照して、図2(g)に示すような、コア2の表面に周期的な凹凸のグレーティング部分2bを形成した低熱膨張性光導波路フィルム10Lの製造方法について説明する。
まず、図9(a)に示すように、下部クラッド層をなす透明基板1の一方の面1aに、紫外線硬化型樹脂を塗布した後、この紫外線硬化型樹脂を硬化させてコア2を形成する。
【0177】
次いで、図9(b)に示すように、コア2の上にスピンコート法によりレジストを塗布した後、露光、現像して、所定の間隔の格子形状をなすレジストパターン13を形成する。
【0178】
次いで、図9(c)に示すように、反応性イオンエッチング(RIE)を行った後、レジストパターン13を除去することにより、コア2に所定の間隔の格子形状をなす複数の凹凸状のグレーティング部分2bを形成する。
【0179】
次いで、図9(d)に示すように、コア2を覆うように上述のマトリックス材料と同様の材料からなるクラッド(上部クラッド層)3を形成すれば、埋め込み型低熱膨張性光導波路フィルム10Lが得られる。
【実施例】
【0180】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0181】
(実施例)
「低熱膨張性光導波路フィルムの作製」
アクリル樹脂を含浸させたセルロースフィルムを、所定の間隔で、所定のコア形状をなす凸部が設けられた金型上に三枚重ねてガラス基板により押圧成形し、紫外(UV)光を照射して、反応硬化させ、110℃にて20分間、乾燥窒素雰囲気中、イナートオーブンで加熱、ポストキュアすることにより、表面に光導波路のコア形状の凹部が形成された板状フィルム(下部クラッド層)を得た。アクリル樹脂としては、TCDDMA(希釈なし、紫外線硬化タイプ、ガラス転移温度(Tg)=270℃、屈折率(nD)=1.531、三菱化学社製)を使用した。
次いで、この板状フィルムの上に、スピンコート法によりコア材料となるエポキシ樹脂を塗布し、紫外(UV)光を照射して反応硬化させ、110℃にて20分間、乾燥窒素雰囲気中、イナートオーブンで加熱することにより、コア層を形成した。このエポキシ樹脂としては、C2839(紫外線硬化タイプ、屈折率(nD)=1.547(クラッドとの比屈折率差(Δ):約1.0%)、NTTアドバンステクノロジ社製)を使用した。
次いで、上記コア層および板状フィルムの表面に、スピンコート法により、上記のアクリル樹脂(TCDDMA)を塗布し、上記下部クラッド層およびコア層と同様に、紫外光を照射して硬化、ポストキュアすることにより、上部クラッド層を形成し、埋め込み型の低熱膨張性光導波路フィルムを得た。
【0182】
「評価」
以上により得られた実施例の低熱膨張性光導波路フィルムの断面観察、線熱膨張係数、挿入損失の各評価項目について、次の方法を用いて評価した。
(1)断面観察
得られた低熱膨張性光導波路フィルムの断面形状を評価し、67μm×53μmの方形状の埋め込み型の光導波路が作製出来ていることを確認できた。低熱膨張性光導波路フィルムの断面写真を図10(a)に、低熱膨張性光導波路フィルムのコア部分の拡大写真を図10(b)に示す。
【0183】
(2)線熱膨張係数
ASTM D 696に規定されている測定方法に準拠して、低熱膨張性光導波路フィルムの線熱膨張係数を測定した。
使用装置:TMA/SS6100、セイコーインスツルメンツ社製
測定温度範囲:室温(25℃)〜160℃
昇温速度:5℃/min
雰囲気:N2中
荷重:3g
試料形状:4mm×25mmのフィルム
試料長:15mm
測定回数:3回
結果を図11に示す。
【0184】
(3)挿入損失
光源と入射ファイバ間にモードスクランブラを介して得られた低熱膨張性光導波路フィルムに光を入射させ、この低熱膨張性光導波路フィルムから出射される光をコア径200μmのファイバで受光して、光の挿入損失を測定した。
光源(光波長632.8nm光源):LD LIGHT SOURCE KLHS−635、Kette社製
光源(光波長857.3nm光源):HP−81551MM LIGHTWAVE MULTIMETER 8153A、HEWLETT PACKARD社製
光パワーメータ:HP−81530A LIGHTWAVE MULTIMETER 8153A、HEWLETT PACKARD社製
入射ファイバ:コア径50μmのGIファイバ
受光ファイバ:コア径200μmのPCFファイバ
試料長:32.0mm
また、波長0.85μmの光を入射した場合に、低熱膨張性光導波路フィルムから光が出射される様子を撮影した写真を図12に示す。
【0185】
図10の写真から、上述のように作製した実施例の低熱膨張性光導波路フィルムは、下部クラッド層、コア層、上部クラッド層が形成されていることが確認できた。
また、図11の結果から、実施例の低熱膨張性光導波路フィルムは、線熱膨張係数が25℃〜160℃において、約20ppm[1/℃]であることが確認できた。
また、実施例の低熱膨張性光導波路フィルムは、試料長32.0mmにおいて、光波長632.8nmにて光の挿入損失6.4dB、光波長857.3nmにて光の挿入損失5.1dBであった。なお、ここでは、光の挿入損失には、光導波路フィルム端部での光の結合損失が含まれている。
さらに、図12の写真から、実施例の低熱膨張性光導波路フィルムは、波長0.85μmの光を入射した場合に、光がコア内に閉じこめられ、光導波路を光伝播していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明の低熱膨張性光導波路フィルムは、上記のような光信号回路基板以外にも、例えばディスプレイのバックライトの導光板や照明用導光シート、ディスプレイなどの表示装置、CDやDVDなどの記録媒体の信号読み取り用ピックアップヘッドやイメージスキャナーのヘッドなどにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの実施の形態を示す概略断面(光の進行方向に直交する断面)図である。
【図2】本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの光反射構造の例を示す図である。
【図3】本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの実装形態を示す説明図である。
【図4】本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの製造方法であるドライエッチング法を示す概略断面図である。
【図5】本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの製造方法である直接露光法を示す概略断面図である。
【図6】本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの製造方法である型押し法を示す概略断面図である。
【図7】本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの製造方法である型押し法の他の例を示す概略断面図である。
【図8】本発明のグレーティング部を有する低熱膨張性光導波路フィルムの製造方法の一例を示す概略断面図である。
【図9】本発明のグレーティング部を有する低熱膨張性光導波路フィルムの製造方法の他の例を示す概略断面図である。
【図10】実施例で得られた低熱膨張性光導波路フィルムの光の進行方向に直交する断面の写真である。
【図11】実施例で得られた低熱膨張性光導波路フィルムの線熱膨張係数を測定した結果を示すグラフである。
【図12】実施例で得られた低熱膨張性光導波路フィルムに波長0.85μmの光を入射した場合に、この低熱膨張性光導波路フィルムから光が出射される様子を撮影した写真である。
【符号の説明】
【0188】
1・・・透明基板、2,2A,2B,2C,2D,2E・・・コア、3・・・クラッド、4・・・レジストマスク、5・・・紫外線硬化型樹脂、6・・・フォトマスク、7・・・型、8・・・マトリックス材料、9・・・セルロース、10A,10B,10C,10D,10E,10F,10G,10H,10I,10J,10K,10L,10M,10N,10P,10Q,10R,10S・・・低熱膨張性光導波路フィルム、11・・・セルロースシート、12・・・ガラス板、13・・・レジストパターン。
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維強化複合材料を用いてなる低熱膨張性光導波路フィルムに関する。詳しくは、本発明は、繊維にマトリクス材料を含浸させてなる高透明性の繊維強化複合材料からなる基板を用いた低熱膨張性光導波路フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野などで使用される光導波路は、一般的に、基板上にコアが形成され、さらにはコアを覆うようにクラッドが形成されてなるものである。
【0003】
このような光導波路の中でも、特許文献1や特許文献2などには、基板が樹脂からなるものが開示されている。
【特許文献1】特開2004−191414号公報
【特許文献2】特開2003−322738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1や特許文献2などに開示されている光導波路は、樹脂からなる基板の線熱膨張係数の温度依存性が大きいため、光導波回路基板自体が温度変化に対して伸び縮みし、光信号の入出射位置の位置ずれや、反り、形状変化が起こり易いという問題や、温度条件によって光の伝送特性が変化し、安定な伝送特性が得られないという問題があった。
【0005】
そこで、線熱膨張係数を低減するために、ガラス繊維強化樹脂などの線熱膨張係数の小さい無機ガラス材料などからなる補強材料とした基板を用いて光導波回路基板を作製することや、低線熱膨張係数材料と樹脂との積層基板などが考えられる。しかし、ガラス繊維強化樹脂などの場合、ガラス繊維材料は通常その太さが数μm以上と大きく、充填する樹脂材料との屈折率差により光の反射や散乱が大きいため、光透過性が低くなってしまう。また、低線熱膨張係数材料と樹脂との積層基板の場合は、界面で材料特性が明確に変わるため、低線熱膨張係数材料部分と光導波路部分の線熱膨張係数差で界面に歪みや応力集中が起こり、破損や界面剥離が起こったり、応力による光弾性効果により光導波回路の伝送特性の変化が起こる。
【0006】
したがって、線熱膨張係数が小さく、かつ、透明性に優れる光導波回路用の透明基材の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、線熱膨張係数が小さく、かつ、透明性に優れる光導波回路用の透明基材を用いた低熱膨張性光導波路フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の低熱膨張性光導波路フィルムは、平均繊維径が4〜200nmの繊維およびマトリクス材料を含有し、50μm厚換算における波長350nm〜2μmの光線透過率が60%以上である繊維強化複合材料からなる透明基板と、該透明基板上に形成されたコアとを有することを特徴とする。
【0009】
前記透明基板の一方の面にコアが直接形成されてなることが好ましい。
前記透明基板と積層したクラッド内に埋め込まれたコアが形成されてなることが好ましい。
【0010】
前記繊維はセルロース繊維であることが好ましい。
前記セルロース繊維は化学修飾および/または物理修飾されたものであることが好ましい。
前記セルロース繊維はアセチル化および/またはメタクロイル化されていることが好ましい。
【0011】
前記セルロース繊維はバクテリアセルロースであることが好ましい。
前記バクテリアセルロースは離解処理されていないことが好ましい。
前記バクテリアセルロースは三次元交差構造体をなしていることが好ましい。
前記バクテリアセルロースは、バクテリアおよび該バクテリアから産生され、該バクテリアに連なるセルロースを含む産生物をアルカリ処理してバクテリアを溶解除去したものであることが好ましい。
【0012】
前記セルロース繊維が植物繊維から分離されたものであることが好ましい。
前記セルロース繊維はミクロフィブリル化セルロース繊維をさらに磨砕処理されたものであることが好ましい。
前記繊維強化複合材料における前記繊維の含有率が10重量%以上であることが好ましい。
【0013】
前記マトリクス材料は有機高分子、無機高分子、または有機高分子と無機高分子とのハイブリッド高分子であることが好ましい。
前記マトリクス材料は合成高分子であることが好ましい。
前記マトリクス材料は結晶化度が10%以下、かつ、ガラス転移温度が110℃以上の合成樹脂であることが好ましい。
【0014】
前記繊維強化複合材料の線熱膨張係数が0.05×10−5〜5×10−5K−1であることが好ましい。
前記繊維強化複合材料の曲げ強度が30MPa以上であることが好ましい。
前記繊維強化複合材料の比重が1.0〜2.5であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の低熱膨張性光導波路フィルムによれば、繊維強化複合材料からなる透明基板を用いることにより、その低熱膨張性(線熱膨張係数が0.05×10−5〜5×10−5K−1)と高光透過性(50μm厚換算における波長350nm〜2μmの光線透過率が60%以上)に基づいて、光導波回路基板の実装時に、次のような優れた効果が奏される。
すなわち、透明基板の優れた光透過性により、コア内の光を、透明基板を透過させ、取り出し、あるいは反対に透明基板を透過させた光をコアに入射させる際、透明基板内に高い光透過率で光を透過させることができ、透明基板を透過することによる光量の減衰を抑えることができる。
また、透明基板の低熱膨張性により、透明基板の面方向の熱膨張を抑制することができ、温度変化に伴う光結合位置の位置ずれを防止して、光信号を確実に送受信することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施した低熱膨張性光導波路フィルムについて、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
本発明の低熱膨張性光導波路フィルムは、繊維強化複合材料からなる透明基板と、この透明基板上に形成されたコアとから概略構成されており、好ましくは透明基板上に直接コアが形成されてなり、必要に応じて、透明基板と積層したクラッドに埋め込まれたコアが形成されてなるものである。なお、本発明の低熱膨張性光導波路フィルムでは、繊維強化複合材料からなる透明基板が下部クラッド層をなし、透明基板上に設けられたコアを覆うクラッドが上部クラッド層をなしている。
【0018】
図1(a)〜図1(e)は本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの実施の形態を示す概略断面(光の進行方向に直交する断面)図である。
【0019】
本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの構造には特に制限がなく、例えば、図1(a)に示すように、繊維強化複合材料からなる透明基板1上にスラブ型のコア2Aが設けられたスラブ型低熱膨張性光導波路フィルム10Aが挙げられる。また、図1(b)に示すように、繊維強化複合材料からなる透明基板1上にリッジ(リブ型)のコア2Bが設けられたリッジ(リブ)型低熱膨張性光導波路フィルム10Bが挙げられる。また、図1(c)に示すように、リッジ(リブ)型低熱膨張性光導波路フィルムにさらにコア2Bを覆うクラッド3が設けられた埋め込み型低熱膨張性光導波路フィルム10Cが挙げられる。また、図1(d)に示すように、透明基板1の一方の面にコア2Bとクラッド3を二層に積層した片側積層構造の低熱膨張性光導波路フィルム10Dが挙げられる。さらに、図1(e)に示すように、透明基板1の両面に各々コア2Bとクラッド3を設けた両面(表裏面)積層構造の低熱膨張性光導波路フィルム10Eが挙げられる。
【0020】
透明基板1をなす繊維強化複合材料は、繊維およびマトリクス材料を含み、50μm厚換算における波長350nm〜2μmの光線透過率が60%以上である。
ここで、光波長帯としては、LDやLEDなどの固体レーザ、さらには色素レーザやガスレーザなどを光源として用いることが可能であるため、可視光域および近赤外光域の350nm〜2μmでの使用が可能である。
可視光域の光波長を利用する場合には、380nm〜780nmにおける光透過性が優れた材料を利用することが望ましい。
また、光ファイバ通信、長距離通信、データ通信などとの波長の整合をとる場合には、750nm〜1.7μmの光波長における光透過性が高い材料の方が望ましい。
特に、近距離データの光通信などとの整合をとる場合には、780nm付近および820nm〜860nmの光波長域を使用することが、石英系光ファイバ通信、長距離光通信などとの整合をとる場合には、1.3μm付近と1.55μm付近の波長帯を使用することが望ましい。
【0021】
繊維強化複合材料に含まれる繊維は、単繊維が引き揃えられることなく、かつ相互間にマトリクス材料が入り込むように十分に離隔して存在するものであってもよい。この場合、繊維の平均径(以下、「平均繊維径」と称することもある。)は単繊維の平均径となる。また、この繊維は、複数(多数であってもよい)本の単繊維が束状に集合して1本の糸条を構成しているものであってもよい。この場合、平均繊維径は1本の糸条の径の平均値として定義される。後述するバクテリアセルロースは、後者の糸条よりなるものである。
【0022】
繊維強化複合材料に含まれる繊維の平均径(平均繊維径)は4〜200nmであり、好ましくは4〜100nmであり、より好ましくは4〜60nmである。
平均繊維径が200nmを超えると、可視光の波長に近づき、マトリクス材料との界面で可視光の屈折が生じ易くなり、この繊維強化複合材料からなる透明基板を低熱膨張性光導波路フィルムの基板として適用し難くなる。一方、平均繊維径が4nm未満の繊維は製造が困難である。本発明で用いられる繊維として好適な後述のバクテリアセルロースの単繊維径は4nm程度である。
【0023】
なお、繊維強化複合材料に含まれる繊維は、平均繊維径が4〜200nmの範囲外の繊維を含んでもよいが、その割合は繊維全体量の30重量%以下であることが好ましい。繊維強化複合材料に含まれる全ての繊維の繊維径は200nm以下、特に100nm以下、とりわけ60nm以下であることが望ましい。
【0024】
繊維の長さについては特に限定されないが、平均長さで100nm以上が好ましい。繊維の平均長さが100nm未満では、繊維による補強効果が低く、繊維強化複合材料の強度が不十分となるおそれがある。繊維中には繊維長さ100nm未満のものが含まれていてもよいが、その割合は繊維全体量の30重量%以下であることが好ましい。
【0025】
上述のような繊維としては、セルロース繊維が好ましい。セルロース繊維を用いると、後述するように、得られる繊維強化複合材料の線熱膨張係数をより小さくすることができるので好ましい。
【0026】
セルロース繊維とは、植物細胞壁の基本骨格などを構成するセルロースのミクロフィブリル、または、これを構成する繊維のことである。また、セルロース繊維は、通常、繊維径4nm程度の単位繊維の集合体である。本発明では、このようなセルロース繊維の中でも、結晶構造を40%以上含有するものが、繊維強化複合材料の強度を十分に高くし、線熱膨張係数をより小さくする上で好ましい。
【0027】
本発明で用いられるセルロース繊維としては、植物から分離されたもの、バクテリアから産生されるバクテリアセルロースなどが挙げられるが、これらの中でもバクテリアセルロースが好ましい。バクテリアセルロースは、産生物を水洗、またはアルカリ処理して、バクテリアを溶解除去することによって得られるものである。バクテリアセルロースの中でも、後述する離解処理がなされていないバクテリアセルロースは、50μm厚換算における波長350nm〜2μmの光線透過率が60%以上の単位繊維の集合体からなるセルロース繊維を得る上で好適である。
【0028】
地球上においてセルロースを産生し得る生物は、植物界は言うに及ばず、動物界ではホヤ類、原生生物界では各種藻類、卵菌類、粘菌類などに分布しており、また、モネラ界では藍藻および酢酸菌、土壌細菌の一部に分布している。現在のところ、菌界(真菌類)にはセルロース産生能は確認されていない。これらの中でも酢酸菌としては、アセトバクター(Acetobacter)属などが挙げられ、より具体的には、アセトバクターアセチ(Acetobacteraceti)、アセトバクターサブスピーシーズ(Acetobacter subsp.)、アセトバクターキシリナム(Acetobacter xylinum)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
このようなバクテリアを培養することにより、バクテリアからセルロース(バクテリアセルロース)が産生される。得られた産生物は、バクテリア、および、このバクテリアから産生されて、このバクテリアに連なるセルロース(バクテリアセルロース)を含むものである。そこで、この産生物を培地から取り出し、産生物を水洗、またはアルカリ処理してバクテリアを除去することにより、バクテリアを含まない含水バクテリアセルロースが得られる。さらに、この含水バクテリアセルロースから水分を除去することにより、バクテリアセルロースが得られる。
【0030】
上記のようなバクテリアを培養するために用いられる培地としては、寒天状の固体培地や、液体培地(培養液)が挙げられる。培養液としては、例えば、ココナッツミルク(全窒素分0.7重量%、脂質28重量%)7重量%、および、ショ糖8重量%を含有し、酢酸によりpHを3.0に調整した培養液(以下、「ココナッツミルク培養液」と称することもある。)や、グルコース2重量%、バクトイーストエクストラ0.5重量%、バクトペプトン0.5重量%、リン酸水素ニナトリウム0.27重量%、クエン酸0.115重量%、および、硫酸マグネシウム七水和物0.1重量%を含有し、塩酸によりpHを5.0に調整した水溶液(以下、「SH培養液」と称することもある。)などが挙げられる。
【0031】
バクテリアの培養方法としては、例えば、二つの方法が挙げられる。
第一の方法では、まず、ココナッツミルク培養液に、アセトバクターキシリナム(Acetobacter xylinum)FF−88などの酢酸菌を植菌し、30℃にて、5日間、静置培養して、一次培養液を得る。次いで、得られた一次培養液のゲル分を取り除いた後、液体部分を、再びココナッツミルク培養液に5重量%の割合で加え、30℃にて、10日間、静置培養して、二次培養液を得る。この二次培養液には、約1重量%のセルロース繊維が含まれている。
【0032】
第二の方法では、まず、凍結乾燥保存状態の酢酸菌の菌株にSH培養液を加え、25〜30℃にて、1週間、静置培養する。培養液の表面にはバクテリアセルロースが生成するが、これらのうち、厚みが比較的厚いものを選択し、その株の培養液を少量分取して新しいSH培養液に加える。そして、このバクテリアセルロースの株を加えたSH培養液を大型培養器に入れ、25〜30℃にて、7〜30日間、静地培養する。バクテリアセルロースは、このように、「既存の培養液の一部を新しい培養液に加え、約7〜30日間、静置培養する」ことの繰り返しにより得られる。
【0033】
菌がセルロースを作り難いなどの不具合が生じた場合には、以下の手順に従って、バクテリアを培養する。
まず、培養液に寒天を加えて調製した寒天培地上に、菌培養中の培養液を少量撒き、1週間ほど放置してコロニーを形成させる。それぞれのコロニーを観察して、比較的セルロースをよく産生するようなコロニーを寒天培地から取り出し、取り出したコロニーを新しい培養液に投入し、培養する。
【0034】
このようにして産生させたバクテリアセルロースを培養液から取り出した後、バクテリアセルロース中に残存するバクテリアを除去する。バクテリアセルロース中に残存するバクテリアを除去する方法としては、水洗またはアルカリ処理が用いられる。バクテリアセルロース中に残存するバクテリアを溶解除去するためのアルカリ処理としては、培養液から取り出したバクテリアセルロースを0.01〜10重量%程度のアルカリ水溶液に1時間以上注加する方法が用いられる。アルカリ処理を施した場合には、アルカリ水溶液からバクテリアセルロースを取り出した後、十分水洗して、アルカリ水溶液を除去する。
【0035】
このようにして産生されたバクテリアセルロースは水分を含んでおり、通常、含水率が95〜99.9重量%である。そこで、次いで、このバクテリアセルロースの水分を除去する。
【0036】
水分を含むバクテリアセルロースの水分除去法としては、特に限定されないが、放置やコールドプレスなどにより、まず水をある程度抜いた後、そのまま放置するか、または、ホットプレスなどにより残存している水を完全に除去する方法、コールドプレスした後、乾焼機により乾燥するか、または、自然乾燥させて水を除去する方法などが挙げられる。
【0037】
水分を含むバクテリアセルロースの水をある程度抜く方法として用いられる放置とは、水分を含むバクテリアセルロースをそのまま放置して、時間をかけて水を徐々に揮発させる方法のことである。
【0038】
水分を含むバクテリアセルロースの水をある程度抜く方法として用いられるコールドプレスとは、水分を含むバクテリアセルロースに熱を加えずに圧力のみを加えて、水分を含むバクテリアセルロースの水を抜き出す方法のことであり、ある程度までの水を絞り出すことができる。このコールドプレスにおいて、水分を含むバクテリアセルロースに加えられる圧力は、0.01MPa〜10MPaが好ましく、0.1MPa〜3MPaがより好ましい。圧力が0.01MPa未満では、水の残存量が多くなる傾向がある。一方、圧力が10MPaを超えると、得られるバクテリアセルロースが破壊されることがある。コールドプレスを行う温度は特に限定されないが、操作の便宜上、常温が好ましい。
【0039】
バクテリアセルロースに残存している水を完全に除去する方法として用いられる放置は、時間をかけてバクテリアセルロースを乾燥させる方法である。
【0040】
バクテリアセルロースに残存している水を完全に除去する方法として用いられるホットプレスは、熱を加えながら圧力を加えることにより、バクテリアセルロースから水を抜き出す方法であり、残存している水を完全に除去することができる。このホットプレスにおいて、バクテリアセルロースに加えられる圧力は、0.01MPa〜10MPaが好ましく、0.2MPa〜3MPaがより好ましい。圧力が0.01MPa未満では、水を除去できなくなる場合がある。一方、圧力が10MPaを超えると、得られるバクテリアセルロースが破壊されることがある。また、ホットプレスを行う温度は100〜300℃が好ましく、110〜200℃がより好ましい。温度が100℃未満では、水の除去に時間を要する。一方、温度が300℃を超えると、バクテリアセルロースの分解などが生じるおそれがある。
【0041】
乾燥機によりバクテリアセルロースを乾燥する温度(以下、「乾燥温度」と略す。)は、100〜300℃が好ましく、110〜200℃がより好ましい。乾燥温度が100℃未満では、水の除去ができなくなる場合がある。一方、乾燥温度が300℃を超えると、セルロース繊維の分解などが生じるおそれがある。
【0042】
このようにして得られるバクテリアセルロースは、その培養条件やその後の水分除去時の加圧、加熱条件などによっても異なるが、通常、嵩密度1.1〜1.3kg/m3程度、厚み40μm〜60μm程度のシート状(以下、「BCシート」と称すことがある。)をなしている。
【0043】
繊維強化複合材料は、上記のような1枚のBCシート、または、積層した複数枚(二枚以上)のBCシートに、マトリクス材料からなる含浸用液状物を含浸させてなるものでる。
【0044】
本発明で用いられるバクテリアセルロースは、嵩密度1.2kg/m3、かつ、厚み40μmのシート状物について、JIS P 8117に規定されている方法に従って測定した透気度が80000sec/100cc以上であることが好ましく、10000sec/100cc以上であることが特に好ましく、15000sec/100cc以上であることがとりわけ好ましい。透気度が上記の範囲内にあるBCシートは、繊維強化複合材料の透明性を高める。
【0045】
ところで、バクテリアセルロースと樹脂を複合化して複合材料を形成する場合には、バクテリアセルロース含有産生物を離解して用いるが、バクテリアセルロースを離解して得られるシートについて、上記と同様にして測定した透気度は、4500sec/100cc程度と低い。これは、離解によりバクテリアセルロースの単繊維に剪断力が加えられ、バクテリアセルロース単繊維が互いに密着したり絡まり合ったりすることにより、バクテリアセルロースのネットワーク構造が粗大化したことによるものである。このように透気度が低く、ネットワーク構造の粗いBCシートを繊維強化複合材料に適用すると、繊維強化複合材料の強度および透光性が不十分となる。
【0046】
一方、本発明で用いられるバクテリアセルロースは、離解処理が施されていない。このように離解処理が施されていないことから、本発明で用いられるバクテリアセルロースは、三次元交差構造をなすものとなる(以下、三次元交差構造をなすバクテリアセルロースを「三次元交差バクテリアセルロース構造体」と称することがある。)。この「三次元交差バクテリアセルロース構造体」とは、バクテリアセルロースが三次元的な交差構造をとることにより嵩高(スカスカ)の状態ではあるが一つの構造体として扱えるようになっている物体」を意味している。
【0047】
三次元交差バクテリアセルロース構造体は、バクテリアがセルロースを産生(排出)しながらランダムに動き回ることによりセルロースが複雑に(三次元的に)交差している構造をなしている。この複雑な交差は、バクテリアが分裂してセルロースが分岐することにより、さらに複雑化する。
【0048】
三次元交差バクテリアセルロース構造体は、セルロース繊維を産生するバクテリアを上述のように、培養液で培養することにより形成される。三次元交差バクテリアセルロース構造体は、適当な形状、例えば、フィルム状、板状、ブロック状、所定の形状(例えばレンズ状)などの形状に従って形成される。このようにすれば、目的に応じて、任意の形状の三次元交差バクテリアセルロース構造体を得ることができる。
【0049】
三次元交差バクテリアセルロース構造体は培養後、上述したようにバクテリアを除去するために水洗やアルカリ処理などの洗浄処理が施されるが、これらの処理によって、三次元交差構造をなすバクテリアセルロースは、その三次元交差構造が崩れることがない。また、三次元交差バクテリアセルロース構造体を圧縮するなどして、バクテリアセルロースに含まれる水分を除去しても、この三次元交差構造は保たれることが確認されている。
【0050】
繊維強化複合材料の強度、透明性などは、バクテリアセルロースの三次元交差構造が保たれている場合に特に効果的に発揮される。すなわち、バクテリアセルロースが三次元交差バクテリアセルロース構造体をなしていることにより、繊維強化複合材料の強度、透明性などは、上述のように高くなる。
【0051】
ところで、この三次元交差バクテリアセルロース構造体を、より一層細くするために、この三次元交差バクテリアセルロース構造体が解離処理や解繊処理などと呼ばれる工程、すなわち、乳鉢と乳棒、すり鉢、ひき臼などによりすりつぶす工程を経ると、三次元交差バクテリアセルロース構造体は、三次元交差構造が破壊されて、セルロース繊維が短く引きちぎられ、その短繊維が毛玉状やフィルム状に集合(凝集)してしまう。その結果、このようなバクテリアセルロースは、ナノサイズ(ナノオーダー)のセルロース繊維からなる三次元交差バクテリアセルロース構造体とは全く異なる性状、形態のものとなる。したがって、本発明では、三次元交差バクテリアセルロース構造体に解離処理や解繊処理などを施すことは好ましくない。
【0052】
本発明では、セルロース繊維としては、上述のようなバクテリアセルロースを用いることが好ましいが、海草やホヤの被嚢、植物細胞壁などに、叩解・粉砕などの処理、高温高圧水蒸気処理、リン酸塩などを用いた処理などを施したセルロース繊維を用いてもよい。
【0053】
上記の叩解・粉砕などの処理は、リグニンなどを除去した植物細胞壁、あるいは、海草やホヤの被嚢に、直接、力を加え、叩解や粉砕を行い、これらを形成する繊維をバラバラにし、セルロース繊維を得る処理法である。
【0054】
より具体的には、叩解・粉砕などの処理は、パルプなどを高圧ホモジナイザーで処理して、平均繊維径0.1μm〜10μm程度にミクロフィブリル化したミクロフィブリル化セルロース繊維(以下、「MFC」と略記する。)を0.1〜3重量%程度の水懸濁液とし、さらにグラインダーなどで繰り返し磨砕処理または融砕処理して、平均繊維径10nm〜100nm程度のナノオーダーのMFC(以下、「Nano MFC」と略記する。)を得ることができる。このNano MFCを0.01〜1重量%程度の水懸濁液とし、これを濾過することによりシート化し、繊維強化複合材料に適用される。
【0055】
上記の磨砕処理または融砕処理は、例えば、栗田機械製作所製グラインダー「ピュアファインミル」などを用いて行うことができる。
【0056】
このグラインダーは、上下二枚のグラインダーの間隙を原料が通過するときに発生する衝撃、遠心力、剪断力により、原料を超微粒子に粉砕する石臼式粉砕機である。このグラインダーは、剪断、磨砕、微粒化、分散、乳化、フィブリル化を同時に行うことができる。
【0057】
磨砕処理または融砕処理は、増幸産業(株)製超微粒磨砕機「スーパーマスコロイダー」を用いて行うこともできる。スーパーマスコロイダーは、間隔を自由に調整できる2つの無気孔砥石が上下に組み合わされてなる石臼形式の超微粒磨砕機であり、上部砥石は固定されており、下部砥石が高速回転するようになっている。このスーパーマスコロイダーでは、ホッパーに投入された原料が遠心力によって上部砥石と下部砥石の間隙に送り込まれ、そこで生じる強大な圧縮、剪断、転がり摩擦力などにより、原料が次第にすり潰され、超微粒化される。このスーパーマスコロイダーによれば、単なる粉砕の域を越えて、原料を融けるように超微粒化することができる。
【0058】
上記の高温高圧水蒸気処理は、リグニンなどを除去した植物細胞壁、あるいは、海草やホヤの被嚢を高温高圧水蒸気に曝すことにより、これらを形成する繊維をバラバラにし、セルロース繊維を得る処理法である。
【0059】
上記のリン酸塩などを用いた処理は、海草やホヤの被嚢、植物細胞壁などの表面をリン酸エステル化することにより、セルロース繊維間の結合力を弱めた後、リファイナー処理を施すことにより、繊維をバラバラにし、セルロース繊維を得る処理法である。具体的には、例えば、リグニンなどを除去した植物細胞壁、あるいは、海草やホヤの被嚢を、尿素を50重量%と、リン酸を32重量%とを含む溶液に浸漬し、60℃にて、この溶液をセルロース繊維間に十分に染み込ませた後、180℃に加熱してリン酸化を進める。次いで、これを水洗した後、3重量%の塩酸水溶液中、60℃にて、2時間、加水分解処理をして、再度水洗する。その後、3重量%の炭酸ナトリウム水溶液中において、室温にて、20分間程処理することにより、リン酸化を完了させる。そして、このリン酸化した処理物をリフアイナーで解繊することにより、セルロース繊維が得られる。
【0060】
本発明で用いられるセルロース繊維は、上述のようなセルロース繊維を化学修飾または物理修飾のいずれか一方、あるいは、化学修飾および物理修飾して機能性を高めたものであってもよい。
化学修飾としては、エーテル化、エステル化、イソシアネート化などによって、アセチル基、メタクリロイル基、プロパノイル基、ブタノイル基、iso−ブタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピパロイル基、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基などを付加させることなどが挙げられる。化学修飾の方法としては、例えば、BCシート、あるいは、Nano MFCシートを無水酢酸中に浸漬して加熱し、アセチル化する方法が挙げられる。このように、BCシート、あるいは、Nano MFCシートをアセチル化することにより、光線透過率を低下させることなく、これらのシートの吸水性の低下、耐熱性の向上を図ることができる。
【0061】
物理修飾としては、金属やセラミック原料を、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングなどの物理蒸着法(PVD法)、化学蒸着法(CVD法)、無電解メッキや電解メッキなどのメッキ法などにより表面被覆させる方法が挙げられる。
【0062】
本発明では、上述した様々な種類の繊維強化複合材料の繊維が単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0063】
繊維強化複合材料における繊維の含有率は、10重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることが特に好ましく、50重量%以上であることがとりわけ好ましく、かつ、99重量%以下であることが好ましく、95重量%以下であることが特に好ましい。繊維強化複合材料における繊維の含有率が上記範囲内であれば、セルロース繊維などの繊維による繊維強化複合材料の曲げ強度および曲げ弾性率の向上、または、線熱膨張係数の低減の効果が十分となるとともに、マトリクス材料による繊維間の接着、または、繊維間の空間の充填が十分となり、繊維強化複合材料の強度や透明性、表面の平坦性が向上する。
【0064】
繊維強化複合材料をなすマトリクス材料としては、有機高分子、無機高分子、または有機高分子と無機高分子とのハイブリッド高分子などの1種、または、2種以上が好適に用いられる。
【0065】
以下に本発明に好適なマトリクス材料を例示するが、本発明で用いるマトリクス材料は以下のものに限定されない。
【0066】
有機高分子としては、天然高分子や合成高分子が挙げられる。
無機高分子としては、ガラス、シリケート材料、チタネート材料などのセラミックスなどが挙げられ、これらは例えばアルコラートの脱水縮合反応により形成されるものである。
【0067】
天然高分子としては、再生セルロース系高分子が挙げられ、再生セルロース系高分子としては、例えばセロハン、トリアセチルセルロースなどが挙げられる。
【0068】
合成高分子としては、ビニル系樹脂、重縮合系樹脂、重付加系樹脂、付加縮合系樹脂、開環重合系樹脂などが挙げられる。
【0069】
ビニル系樹脂としては、ポリオレフイン、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、フッ素樹脂、(メタ)アクリル系樹脂などの汎用樹脂や、ビニル重合によって得られるエンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチックなどが挙げられる。これらのビニル系樹脂は、各樹脂内において構成される各単量体の単独重合体や共重合体であってもよい。
【0070】
ポリオレフインとしては、エチレン、プロピレン、スチレン、ブタジェン、ブテン、イソプレン、クロロプレン、イソプチレン、イソプレンなどの単独重合体または共重合体、あるいは、ノルポルネン骨格を有する環状ポリオレフインなどが挙げられる。
【0071】
塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどの単独重合体または共重合体が挙げられる。
【0072】
酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニルの加水分解体であるポリビニルアルコール、酢酸ビニルに、ホルムアルデヒドやn−ブチルアルデヒドを反応させたポリビニルアセタール、ポリビニルアルコールやプチルアルデヒドなどを反応させたポリビニルブチラールなどが挙げられる。
【0073】
フッ素樹脂としては、テトラクロロエチレン、ヘキサフロロプロピレン、クロロトリフロロエチレン、フッ化ビリニデン、フッ化ビニル、ペルフルオロアルキルビニルエーテルなどの単独重合体または共重合体が挙げられる。
【0074】
(メタ)アクリル系樹脂としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類などの単独重合体または共重合体が挙げられる。「(メタ)アクリル」とは、「アクリルまたはメタクリルのいずれか一方」あるいは「アクリルおよびメタクリルの両方」を意味する。
【0075】
(メタ)アクリル酸としては、アクリル酸またはメタクリル酸が挙げられる。
(メタ)アクリロニトリルとしては、アクリロニトリルまたはメタクリロニトリルが挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸系単量体、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルなどが挙げられる。
【0076】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどが挙げられる。
【0077】
シクロアルキル基を有する(メタ)アクリル酸系単量体としては、(メタ)アクリル酸シクロへキシル、イソボルニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ブトキシエチルなどが挙げられる。
【0078】
(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−t−オクチル(メタ)アクリルアミドなどのN置換(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0079】
重縮合系樹脂としては、アミド系樹脂やポリカーボネートなどが挙げられる。
【0080】
アミド系樹脂としては、6,6−ナイロン、6−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン、4,6−ナイロン、6,10−ナイロン、6,12−ナイロンなどの脂肪族アミド系樹脂や、フェニレンジアミンなどの芳香族ジアミンと塩化テレフタロイルや塩化イソフタロイルなどの芳香族ジカルボン酸またはその誘導体からなる芳香族ポリアミドなどであってもよい。
【0081】
ポリカーボネートとは、ビスフェノールAやその誘導体であるビスフェノール類と、ホスゲンまたはフェニルジカーボネートとの反応物のことである。
【0082】
重付加系樹脂としては、エステル系樹脂、Uポリマー、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン類、ポリエーテルエーテルケトン、不飽和ポリエステル、アルキド樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ウレタン樹脂などが挙げられる。
【0083】
エステル系樹脂としては、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、不飽和ポリエステルなどが挙げられる。
芳香族ポリエステルとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの後述するジオール類とテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸との共重合体が挙げられる。
【0084】
脂肪族ポリエステルとしては、後述するジオール類とコハク酸、吉草酸などの脂肪族ジカルボン酸との共重合体や、グリコール酸や乳酸などのヒドロキシカルボン酸の単独重合体または共重合体、後述するジオール類、上記の脂肪族ジカルボン酸および上記のヒドロキシカルボン酸の共重合体などが挙げられる。
不飽和ポリエステルとしては、後述するジオール類、無水マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸、および、必要に応じてスチレンなどのビニル単量体との共重合体が挙げられる。
【0085】
Uポリマーとしては、ビスフェノールAやその誘導体であるビスフェノール類、テレフタル酸およびイソフタル酸などからなる共重合体が挙げられる。
【0086】
液晶ポリマーはとしては、P−ヒドロキシ安息香酸と、テレフタル酸、P,P’−ジオキシジフェノール、P−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、ポリテレフタル酸エチレンなどとの共重合体が挙げられる。
【0087】
ポリエーテルケトン類としては、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンや4,4’−ジヒドロベンゾフェノンなどの単独重合体や共重合体が挙げられる。
【0088】
ポリエーテルエーテルケトンとしては、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンとハイドロキノンなどとの共重合体が挙げられる。
【0089】
アルキド樹脂としては、ステアリン酸、パルチミン酸などの高級脂肪酸と無水フタル酸などの二塩基酸、および、グリセリンなどのポリオールなどからなる共重合体が挙げられる。
【0090】
ポリイミド系樹脂としては、無水ポリメリト酸や4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどの共重合体であるピロメリト酸型ポリイミド、無水塩化トリメリト酸やp−フェニレンジアミンなどの芳香族ジアミンや、後述するジイソシアネート化合物などからなる共重合体であるトリメリト酸型ポリイミド、ビフェニルテトラカルボン酸、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、P−フェニレンジアミンなどからなるビフェニル型ポリイミド、ベンゾフェノンテトラカルボン酸や4,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどからなるベンゾフェノン型ポリイミド、ビスマレイイミドや4,4’−ジアミノジフェニルメタンなどからなるビスマレイイミド型ポリイミドなどが挙げられる。
【0091】
ポリスルホンとしては、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンやビスフェノールAなどの共重合体が挙げられる。
【0092】
ポリフェニレンスルフィドとしては、P−ジクロロベンゼンや硫化ナトリウムなどの共重合体が挙げられる。
【0093】
ポリエーテルスルホンとしては、4−クロロ−4’−ヒドロキシジフェニルスルホンの重合体が挙げられる。
【0094】
ウレタン樹脂としては、ジイソシアネート類とジオール類との共重合体が挙げられる。
ジイソシアネート類としては、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロへキシレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0095】
ジオール類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどの比較的低分子量のジオールや、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオールなどが挙げられる。
【0096】
付加縮合系樹脂としては、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。
【0097】
フェノール樹脂としては、フェノール、クレゾール、レゾルシノール、フェニルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどの単独重合体または共重合体が挙げられる。
【0098】
尿素樹脂やメラミン樹脂としては、ホルムアルデヒドや尿素、メラミンなどの共重合体が挙げられる。
【0099】
開環重合系樹脂としては、ポリアルキレンオキシド、ポリアセタール、エポキシ樹脂などが挙げられる。
ポリアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシドなどの単独重合体または共重合体が挙げられる。
【0100】
ポリアセタールとしては、トリオキサン、ホルムアルデヒド、エチレンオキシドなどの共重合体が挙げられる。
エポキシ樹脂としては、エチレングリコールなどの多価アルコールとエピクロロヒドリンとからなる脂肪族系エポキシ樹脂、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとからなる脂肪族系エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0101】
このようなマトリクス材料の中でも、特に、透明性に優れ、高耐久性の繊維強化複合材料を形成する上では、非晶質かつガラス転移温度(Tg)の高い合成高分子が好ましい。このようなマトリクス材料の非晶質の程度としては、結晶化度が10%以下であることが好ましく、5%以下であることが特に好ましい。また、マトリックス材料のガラス転移温度は110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることが特に好ましく、130℃以上であることがとりわけ好ましい。
【0102】
マトリックス材料の結晶化度が10%を超えると、繊維強化複合材料の透明性に劣り、マトリックス材料の結晶化度が高くなり過ぎると、繊維強化複合材料の可視光の透過率が低下する。なお、結晶化度は、非晶質部と結晶質部の密度から結晶化度を算定する密度法により求められる。
マトリックス材料のガラス転移温度が110℃未満では、例えば、繊維強化複合材料が沸騰水に接触した場合に変形するなど、透明部品、光学部品などとしての用途において、耐久性に問題が発生する。なお、ガラス転移温度は示差走査熱量測定法(DSC法)による測定により求められる。
【0103】
本発明において、マトリックス材料をなす好ましい透明なマトリクス樹脂としては、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ノボラック樹脂、ユリア樹脂、グアナミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化型ポリイミド、スチリルピリジン系樹脂、トリアジン系樹脂などの熱硬化樹脂が挙げられ、これらの中でも特に透明性の高いアクリル樹脂、メタクリル樹脂が好ましい。
【0104】
これらのマトリクス材料は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0105】
次に、繊維強化複合材料の製造方法について説明する。
【0106】
繊維強化複合材料を製造するには、上述のようなマトリクス材料を用いた含浸用液状物を調製し、この含浸用液状物を上記の繊維に含浸させた後、この含浸用液状物を硬化させる。
【0107】
含浸用液状物としては、流動状のマトリクス材料、流動状のマトリクス材料の原料、マトリクス材料を流動化させた流動化物、マトリクス材料の原料を流動化させた流動化物、マトリクス材料の溶液、および、マトリクス材料の原料の溶液から選ばれる1種または2種以上が用いられる。
【0108】
流動状のマトリクス材料としては、マトリクス材料そのものが流動状であるものなどが挙げられる。
【0109】
流動状のマトリクス材料の原料としては、例えば、プレポリマーやオリゴマーなどの重合中間体などが挙げられる。
【0110】
マトリクス材料を流動化させた流動化物としては、例えば、熱可塑性のマトリクス材料を加熱溶融させた状態のものなどが挙げられる。
【0111】
マトリクス材料の原料を流動化させた流動化物としては、例えば、プレポリマーやオリゴマーなどの重合中間体が固形状の場合、これらを加熱溶融させた状態のものなどが挙げられる。
【0112】
マトリクス材料の溶液やマトリクス材料の原料の溶液としては、マトリクス材料やマトリクス材料の原料を溶媒などに溶解させた溶液が挙げられる。ここで用いられる溶媒は、溶解対象のマトリクス材料やマトリクス材料の原料に応じて適宜決定されるが、後工程でこれを除去するに当たり、蒸発除去する場合、マトリクス材料やマトリクス材料の原料が分解しない程度の温度以下の沸点を有するものが好ましい。
【0113】
繊維強化複合材料を製造するには、上述のような含浸用液状物を、繊維の集合体、好ましくは上述のようなBCシートの単層体、または、BCシートを複数枚(二枚以上)積層した積層体に含浸させて、繊維間に含浸用液状物を十分に浸透させる。この含浸工程は、その一部または全部を、圧を変化させた状態で行うのが好ましい。この圧を変化させる方法としては、減圧雰囲気下または加圧雰囲気下で含浸工程を行う方法が挙げられる。減圧雰囲気下または加圧雰囲気下で含浸工程を行うことにより、繊維間に存在する空気を上記の含浸用液状物と置き換えることが容易となり、繊維間に気泡が残存するのを防止することができる。
【0114】
減圧条件としては、雰囲気の圧力(気圧)を0.133kPa(1mmHg)〜93.3kPa(700mmHg)とすることが好ましい。雰囲気の圧力(気圧)が93.3kPa(700mmHg)を超えると、繊維間の空気の除去が不十分となり、繊維間に空気が残存することがある。雰囲気の圧力(気圧)は0.133kPa(1mmHg)より低くてもよいが、減圧設備が過大となりすぎる傾向がある。
【0115】
減圧下における含浸工程の処理温度は、0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。この処理温度が0℃より低いと、繊維間の空気の除去が不十分となり、繊維間に空気が残存することがある。さらに、処理温度の上限は、例えば含浸用液状物に溶媒を用いた場合、その溶媒の沸点(減圧下での沸点)が好ましい。処理温度が溶媒の沸点を超えると、溶媒の揮発が激しくなり、かえって、繊維間に気泡が残存しやすくなる傾向がある。
【0116】
加圧条件としては、雰囲気の圧力(気圧)を1.1MPa〜10MPaとすることが好ましい。雰囲気の圧力(気圧)が1.1MPa未満では、繊維間の空気の除去が不十分となり、繊維間に空気が残存することがある。雰囲気の圧力(気圧)は10MPaを超えてもよいが、加圧設備が過大となりすぎる傾向がある。
【0117】
加圧下における含浸工程の処理温度は、0〜300℃が好ましく、10〜100℃がより好ましい。この処理温度が0℃未満では、繊維間の空気の除去が不十分となり、繊維間に空気が残存することがある。一方、処理温度が300℃を超えると、マトリクス材料が変性するおそれがある。
【0118】
繊維に含浸させた含浸用液状物を硬化させるには、その含浸用液状物の硬化方法に従って硬化させればよい。
すなわち、含浸用液状物が流動状のマトリクス材料の場合は、架橋反応、鎖延長反応などによって硬化させる。
含浸用液状物が流動状のマトリクス材料の原料の場合は、重合反応、架橋反応、鎖延長反応などによって硬化させる。
【0119】
含浸用液状物がマトリクス材料を流動化させた流動化物の場合は、冷却などによって硬化させる。
含浸用液状物がマトリクス材料の原料を流動化させた流動化物の場合は、冷却などと、重合反応、架橋反応、鎖延長反応などとの組合せによって硬化させる。
【0120】
含浸用液状物がマトリクス材料の溶液の場合は、溶液中の溶媒の蒸発や風乾などによる除去などによって硬化させる。
含浸用液状物がマトリクス材料の原料の溶液の場合は、溶液中の溶媒の除去などと、重合反応、架橋反応、鎖延長反応などとの組合せによって硬化させる。
上記の蒸発除去には、常圧下における蒸発除去だけでなく、減圧下における蒸発除去も含まれる。
【0121】
このようにして得られる繊維強化複合材料は、50μm厚換算における波長350nm〜2μmの光線透過率が60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上である。繊維強化複合材料の50μm厚換算における波長350nm〜2μmの光線透過率が60%未満では、繊維強化複合材料は半透明または不透明となり、本発明の目的を達成し得ず、自動車、電車、船舶などの移動体の窓材料、ディスプレイ、住宅、建築物、各種光学部品など、透明性が要求される用途への使用が困難となることがある。
【0122】
繊維強化複合材料の線熱膨張係数は、0.05×10−5〜5×10−5K−1が好ましく、0.2×10−5〜2×10−5K−1がより好ましく、0.3×10−5〜1×10−5K−1が特に好ましい。繊維強化複合材料の線熱膨張係数は0.05×10−5K−1より小さくてもよいが、セルロース繊維などの線熱膨張係数を考慮すると、実現が難しいことがある。一方、線熱膨張係数が5×10−5K−1を超えると、繊維強化複合材料に含まれる繊維による繊維補強効果が発現せず、ガラスや金属材料との線熱膨張係数との違いから、雰囲気温度により、繊維強化複合材料を用いて形成された低熱膨張性光導波路フィルムの結像性能や屈折率が劣化することがある。
【0123】
繊維強化複合材料の曲げ強度は、30MPa以上であることが好ましく、100MPa以上であることがより好ましい。繊維強化複合材料の曲げ強度が30MPa未満では、十分な強度が得られず、繊維強化複合材料を用いて形成された低熱膨張性光導波路フィルムを力の加わる用途に適用することに影響を与えることがある。曲げ強度の上限は、通常、600MPa程度であるが、繊維の配向を調整するなどの改良手法により、1GPa、さらには1.5GPa程度の高い曲げ強度を実現することも期待される。
【0124】
繊維強化複合材料の曲げ弾性率は、0.1GPa〜100GPaであることが好ましく、1GPa〜40GPaであることがより好ましい。繊維強化複合材料の曲げ弾性率が0.1GPa未満では、十分な強度が得られず、繊維強化複合材料を用いて形成された低熱膨張性光導波路フィルムを力の加わる用途に適用することに影響を与えることがある。一方、曲げ弾性率が100GPaを超えるものは実現が困難である。
【0125】
繊維強化複合材料の比重は、1.0〜2.5であることが好ましい。より具体的には、マトリクス材料としてガラスなどのシリケート化合物や、チタネート化合物、アルミナなどの無機高分子以外の有機高分子や、無機高分子であっても多孔質材料を用いる場合には、繊維強化複合材料の比重は、1.0〜1.8が好ましく、1.2〜1.5がより好ましく、1.3〜1.4がさらに好ましい。ガラス以外のマトリクス材料の比重は、一般的に1.6未満であり、かつ、セルロース繊維の比重が1.5程度であるので、繊維強化複合材料の比重を1.0よりも小さくしようとすると、セルロース繊維などの含有率が低下し、セルロース繊維などによる強度向上が不十分となる傾向がある。一方、比重が1.8を超えると、得られる繊維強化複合材料の重量が大きくなり、ガラス繊維強化材料と比較して、軽量化を目的とする用途に使用することが不利となる。
【0126】
また、マトリクス材料としてガラスなどのシリケート化合物や、チタネート化合物、アルミナなどの無機高分子(多孔質材料を除く)を用いる場合には、繊維強化複合材料の比重は、1.5〜2.5が好ましく、1.8〜2.2がより好ましい。ガラスの比重は、一般的に2.5以上であり、かつ、セルロース繊維の比重が1.5程度であるので、繊維強化複合材料の比重を2.5よりも大きくしようとすると、セルロース繊維などの含有率が低下し、セルロース繊維などによる強度向上が不十分となる傾向がある。一方、比重が1.5未満では、繊維間の空隙へのマトリックス材料の充填が不十分となるおそれがある。
【0127】
本発明において、繊維強化複合材料の線熱膨張係数は、繊維強化複合材料を50℃から150℃に昇温させた際の線熱膨張係数であり、ASTM D 696に規定されている条件下で測定した値である。また、繊維強化複合材料の曲げ強度は、JIS K 7203に規定されている方法に従って測定した値である。また、繊維強化複合材料の比重は、20℃において、単位体積当たりの質量を測定して密度を求め、水の密度(1.004g/cm3(20℃))とから換算して求めた値である。
【0128】
このような繊維強化複合材料は、透明性などに優れ、さらに繊維とマトリクス材料との複合化で様々な優れた機能性を有するため、低熱膨張性光導波路フィルムに好適に用いることができる。
【0129】
コア2A,2Bを形成する材料としては、上述のマトリックス材料と同様のもので、使用光波長における光透過性が高く、共重合やブレンドなどの手法により、屈折率が後述のクラッド材料よりも使用光波長における比屈折率(Δ)で0.1〜15%程度高い値に調製された材料が挙げられる。
【0130】
クラッド3を形成する材料としては、上述のマトリックス材料と同様のものが挙げられる。
【0131】
このような低熱膨張性光導波路フィルムは、光の出射または入射のために、必要に応じて、例えば図2(a)〜図2(e)に示すような切削加工あるいは、図2(f)、図2(g)に示すグレーティングが施されて実装に供される。
なお、図2(a)〜図2(g)において、符号1は透明基板、2はコア、3はクラッドを示し、Lは光信号を示す。また、図2(a)〜図2(g)は、低熱膨張性光導波路フィルムの光の進行方向に沿う概略断面であるが、この図において、光信号の進行方向を示すために、断面を示すハッチングは省略してある。
【0132】
図2(a)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Fは、低熱膨張性光導波路フィルムの光の進行方向の先端に45°の傾斜面10fを形成することにより、光の進行方向を透明基板1側(裏面側)へ90°反射させるものである。
この低熱膨張性光導波路フィルム10Fは、例えば、図1(c)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Cの光の進行方向の先端に、半導体基板切削用に利用されているダイシングソーのブレード先端を斜めに加工した切削ブレードにより45°の傾斜面10fを形成することにより得られる。
【0133】
図2(b)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Gは、低熱膨張性光導波路フィルム10Fと同様の傾斜面10g(ただし傾斜角度θ°)を形成することにより、光の進行方向を透明基板1側へ(180−2θ)°反射させるものである。
この低熱膨張性光導波路フィルム10Gは、例えば、図1(c)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Cの光の進行方向の先端に、上記の切削ブレードにより傾斜角度θ°の傾斜面10gを形成することにより得られる。
【0134】
図2(c)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Hは、低熱膨張性光導波路フィルムの中間部分にV字溝10hを形成することにより、双方向からの光を透明基板1側へ反射させるものである。
この低熱膨張性光導波路フィルム10Gは、例えば、図1(c)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Cの光の進行方向の中央部に、上記の切削ブレードによりV字溝10hを形成することにより得られる。あるいは、低熱膨張性光導波路フィルム10Cのクラッド3の上にレジスト膜を形成し、次いで、このレジスト膜にグレイマスク、もしくは、多段階(複数回)の露光により低熱膨張性光導波路フィルム10Cの光の進行方向の中央部にV字溝を形成し、反応性イオンエッチングなどのドライエッチング法により、低熱膨張性光導波路フィルム10Cの光の進行方向の中央部にV字溝10hを形成することにより得られる。
【0135】
図2(d)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Iは、一方の内壁面が透明基板1の板面に直交するV字溝10iを形成することにより、光を透明基板1とは反射側(表面側)へ反射させるものである。
この低熱膨張性光導波路フィルム10Iは、例えば、図1(c)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Cの光の進行方向の中央部に、上記の切削ブレードによりV字溝10iを形成することにより得られる。
【0136】
図2(e)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Jは、図1(e)に示す両面積層構造の低熱膨張性光導波路フィルム10Eに45°の傾斜面10jを形成することにより、2つの光を90°反射させるものである。
この低熱膨張性光導波路フィルム10Jは、例えば、図1(e)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Eの光の進行方向の先端に、上記の切削ブレードにより45°の傾斜面10jを形成することにより得られる。
【0137】
図2(f)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Kは、コア2(あるいはその近傍のクラッド部分)に屈折率が周期的に変化するグレーティング部分2aを形成したものである。
図2(g)に示す低熱膨張性光導波路フィルム10Lは、コア2の表面に周期的な凹凸のグレーティング部分2bを形成したものである。これらの低熱膨張性光導波路フィルム10Kおよび低熱膨張性光導波路フィルム10Lは、コア2の実効屈折率をN、放射される側の媒体の屈折率をn、コア2の伝播光の波数をk、グレーティングの周期をΛ、qを整数(0、±0、±1、±2、±3、・・・)としたときに、下記の式(1)を満たす整数qがある場合には、下記の式(2)で表される角度θに光入出力されるものである。
【0138】
【数1】
【0139】
【数2】
【0140】
このような本発明の低熱膨張性光導波路フィルムは、上述の繊維強化複合材料からなる透明基板を基板として用いることにより、その低熱膨張性(線熱膨張係数が0.05×10−5〜5×10−5K−1)と高光透過性(50μm厚換算における波長350nm〜2μmの光線透過率が60%以上)に基づいて、低熱膨張性光導波路フィルムの実装時に、次のような優れた効果が奏される。
【0141】
透明基板の優れた光透過性により、上述の図2(a)〜図2(c)などの手法によってコア2内の光を、透明基板1を透過させ、取り出し、あるいは反対に透明基板1を透過させた光をコア2に入射させる際、透明基板1内に高い光透過率で光を透過させることができ、透明基板1を透過することによる光量の減衰を抑えることができる。
【0142】
透明基板の低熱膨張性により、透明基板1の面方向の熱膨張を抑制することができ、温度変化に伴う光結合位置の位置ずれを防止して、光信号を確実に送受信することができるようになる。
【0143】
図2(a)に示すような傾斜面10fを設けたテーパ型低熱膨張性光導波路フィルム10Fを、図3(a)に示すように、送信部となるLD(Laser Diode)モジュールや、受信部となるPD(Photo Diode)モジュールが設けられた実装基板20に取り付けて光を送受信する場合、温度変化による熱膨張により低熱膨張性光導波路フィルム10Fの透明基板1が面方向に伸び、傾斜面10fの位置が、図3(a)の破線で示す位置となることがある。このように傾斜面10fの位置がずれると、コア2を通過して傾斜面10fで反射した光がPDに入射しないばかりでなく、LDから発せられた光が傾斜面10fで反射してコア2に入射しなくなる。
【0144】
同様に、図2(g)に示すようなコア2の表面に周期的な凹凸のグレーティング部分2bを形成したグレーティング型低熱膨張性光導波路フィルム10Lを、図3(b)に示すように、送信部となるLD(Laser Diode)モジュールや、受信部となるPD(Photo Diode)モジュールが設けられた実装基板20に取り付けて光を送受信する場合、温度変化による熱膨張により低熱膨張性光導波路フィルム10Lの透明基板1が面方向に伸び、低熱膨張性光導波路フィルム10Lの実装基板20に固定されていない側の端面の位置が図3(b)の破線で示す位置となり、グレーティング部分2bの位置がずれることがある。このようにグレーティング部分2bの位置がずれると、コア2を通過してグレーティング部分2bで出射した光がPDに入射しないばかりでなく、LDから発せられた光がグレーティング部分2bで反射してコア2に入射しなくなる。
【0145】
このような低熱膨張性光導波路フィルムの透明基板の熱膨張による位置ずれは、シリコン製基板、石英ガラス製基板などでは問題にならなかった。しかし、プラスチック製基板では、熱膨張率の小さいものが提供されておらず、このことが、プラスチック製基板は、軽量かつ安価で、耐衝撃性、加工性に優れるなどの様々な利点を有するにもかかわらず、低熱膨張性光導波路フィルムの透明基板としての実用化が難しいとされていた原因となっていた。
【0146】
これに対して、本発明によれば、低熱膨張性の繊維強化複合材料を低熱膨張性光導波路フィルムの透明基板材料として用いることにより、透明基板として樹脂系材料を用いた上で、実装時の光結合位置の位置ずれの問題のない低熱膨張性光導波路フィルムを提供することができる。
【0147】
次に、本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの製造方法について説明する。
本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの製造方法としては、ドライエッチング法、直接露光法、型押し法の3つの方法が挙げられる。
【0148】
ドライエッチング法は、フォトリソグラフィと、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching;RIE)とを用いてコアの形状加工を行う方法である。
【0149】
図4を参照して、ドライエッチング法について説明する。
まず、図4(a)に示すように、下部クラッド層をなす透明基板1の一方の面1aに、紫外線硬化型樹脂を塗布した後、この紫外線硬化型樹脂を硬化させてコア層2Cを形成する。
【0150】
次いで、図4(b)に示すように、コア層2Cの上にスピンコート法によりレジストを塗布した後、露光、現像して、所定のコアの形状をなすレジストマスク4を形成する。
【0151】
次いで、図4(c)に示すように、反応性イオンエッチング(RIE)により、コア層2Cを所定の形状に加工する。
【0152】
次いで、図4(d)に示すように、レジストマスク4を除去すると、透明基板1の一方の面1aに、所定の形状のコア層2Cが形成されたリッジ型低熱膨張性光導波路フィルム10Mが得られる。
【0153】
さらに、図4(e)に示すように、低熱膨張性光導波路フィルム10Mのコア層2Cを覆うように上述のマトリックス材料と同様の材料からなるクラッド(上部クラッド層)3を形成すれば、埋め込み型低熱膨張性光導波路フィルム10Nが得られる。
【0154】
直接露光法は、透明基板の上に、コアを形成する紫外線硬化型樹脂を塗布した後、フォトマスクを透過した紫外光を直接利用して、紫外線硬化型樹脂を硬化させ、未硬化の紫外線硬化型樹脂を溶媒などにより除去することにより、コアの形状加工を行う方法である。
【0155】
図5を参照して、直接露光法について説明する。
まず、図5(a)に示すように、下部クラッド層をなす透明基板1の一方の面1aに、スピンコート法によりコアを形成する紫外線硬化型樹脂5を塗布する。
【0156】
次いで、図5(b)に示すように、紫外線硬化型樹脂5の上に、透明基板1と対向するようにフォトマスク6を配置し、このフォトマスク6を介して紫外線硬化型樹脂5に紫外光を照射する。
【0157】
次いで、図5(c)に示すように、アセトン、エタノールなどの有機溶媒などにより洗浄して、未硬化の紫外線硬化型樹脂の部分を除去すると、透明基板1の一方の面1aに、所定の形状のコア2Dが形成されたリッジ型低熱膨張性光導波路フィルム10Pが得られる。
【0158】
さらに、図5(d)に示すように、低熱膨張性光導波路フィルム10Qのコア2Dを覆うように上述のマトリックス材料と同様の材料からなるクラッド(上部クラッド層)3を形成すれば、埋め込み型低熱膨張性光導波路フィルム10Qが得られる。
【0159】
型押し法は、金属などの十分な強度を有する任意の材質によって形成された型を利用して、透明基板にコアの形状加工を行う方法である。
【0160】
図6を参照して、型押し法について説明する。
まず、図6(a)あるいは図6(b)に示すように、下部クラッド層をなす透明基板1に、所定のコアの形状をなす凹部を形成する。
【0161】
図6(a)に示す方法では、透明基板1を塑性変形可能な樹脂で形成し、この透明基板1の一方の面1aと対向するように、加熱・加圧可能、かつ、所定のコアの形状をなす凸部7aが設けられた型7を配置する。次いで、この型7により透明基板1を加熱・加圧し、凸部7aを透明基板1の一方の面1aに密着させ、透明基板1を塑性変形させて、図6(c)に示すように、透明基板1に所定のコアの形状をなす凹部1cを形成する。
【0162】
一方、図6(b)に示す方法では、透明基板1の一方の面と対向するように、型7を配置する。次いで、透明基板1と型7との間隙に紫外線硬化型樹脂または熱硬化性樹脂を充填する。次いで、紫外線硬化型樹脂を充填した場合には、透明基板1の型7と対向している面とは反対の面から紫外光を照射して、紫外線硬化型樹脂を硬化させ、図6(c)に示すように、透明基板1に所定のコアの形状をなす凹部1cを形成する。また、熱硬化性樹脂を充填した場合には、型7を加熱して、熱硬化性樹脂を硬化させ、図6(c)に示すように、透明基板1に所定のコアの形状をなす凹部1cを形成する。
【0163】
次いで、図6(d)に示すように、透明基板1の凹部1cにコアを形成する紫外線硬化型樹脂を充填し、この紫外線硬化型樹脂に紫外光を照射して硬化させると、所定の形状のコア2Eが形成されたリッジ型低熱膨張性光導波路フィルム10Rが得られる。
【0164】
さらに、図6(e)に示すように、低熱膨張性光導波路フィルム10Rのコア2Eを覆うように上述のマトリックス材料と同様の材料からなるクラッド(上部クラッド層)3を形成すれば、埋め込み型低熱膨張性光導波路フィルム10Sが得られる。
【0165】
また、上述の型押し法では、セルロース繊維などの繊維を含むマトリックス材料が硬化してなる繊維強化複合材料からなる透明基板を用いて、低熱膨張性光導波路フィルムを製造する方法を示したが、本発明で用いられる型押し法では、以下のようにして低熱膨張性光導波路フィルムを製造することもできる。
【0166】
図7を参照して、型押し法の他の例について説明する。
まず、図7(a)に示すように、未硬化の紫外線硬化型樹脂からなるマトリックス材料8がセルロース9に含浸されてなるセルロースシート11を複数枚積層し、所定のコアの形状をなす凸部7aが設けられた型7と、ガラス板12との間に配置する。
【0167】
次いで、図7(b)に示すように、積層されたセルロースシート11を型7とガラス板12で挟み込むとともに、ガラス板12の型7と対向している面とは反対の面から紫外光を照射して、紫外線硬化型樹脂からなるマトリックス材料8を硬化させる。
【0168】
マトリックス材料8を硬化させた後、図6(c)に示すように、型7およびガラス板12を取り外すと、所定のコアの形状をなす凹部1cが形成され、マトリックス材料8とセルロース9とからなる透明基板(下部クラッド層)1が得られる。
【0169】
以下、上述の型押し法と同様にして、リッジ型低熱膨張性光導波路フィルムまたは埋め込み型低熱膨張性光導波路フィルムを製造することができる。
【0170】
なお、ここでは、透明基板1を下部クラッド層とした低熱膨張性光導波路フィルムを例示したが、本発明はこれに限定されない。本発明では、透明基板の一方の面に、上述のマトリックス材料と同様の材料からなる下部クラッド層を形成した後、この下部クラッド層の上にコアを形成してもよい。
【0171】
また、本発明では、低熱膨張性光導波路フィルムに、図2(f)または図2(g)に示すようなグレーティング部を形成する場合には、上述のドライエッチング法、直接露光法、型押し法以外にも、以下のようにして低熱膨張性光導波路フィルムを製造することもできる。
【0172】
図8を参照して、図2(f)に示すような、コア2(あるいはその近傍のクラッド部分)に屈折率が周期的に変化するグレーティング部分2aを形成した低熱膨張性光導波路フィルム10Kの製造方法について説明する。
まず、図8(a)に示すように、下部クラッド層をなす透明基板1の一方の面1aに、紫外線硬化型樹脂を塗布した後、この紫外線硬化型樹脂を硬化させてコア2を形成する。
【0173】
次いで、図8(b)に示すように、コア2の上にスピンコート法によりレジストを塗布した後、露光、現像して、所定の間隔の格子形状をなすレジストパターン13を形成する。
【0174】
次いで、図8(c)に示すように、反応性イオンエッチング(RIE)により、コア2に所定の間隔の格子形状をなす複数の凹状のグレーティング部分2aを形成する。
【0175】
次いで、図8(d)に示すように、レジストパターン13を除去し、さらに、図8(e)に示すように、コア2を覆うように上述のマトリックス材料と同様の材料からなるクラッド(上部クラッド層)3を形成すれば、埋め込み型低熱膨張性光導波路フィルム10Kが得られる。
【0176】
次に、図9を参照して、図2(g)に示すような、コア2の表面に周期的な凹凸のグレーティング部分2bを形成した低熱膨張性光導波路フィルム10Lの製造方法について説明する。
まず、図9(a)に示すように、下部クラッド層をなす透明基板1の一方の面1aに、紫外線硬化型樹脂を塗布した後、この紫外線硬化型樹脂を硬化させてコア2を形成する。
【0177】
次いで、図9(b)に示すように、コア2の上にスピンコート法によりレジストを塗布した後、露光、現像して、所定の間隔の格子形状をなすレジストパターン13を形成する。
【0178】
次いで、図9(c)に示すように、反応性イオンエッチング(RIE)を行った後、レジストパターン13を除去することにより、コア2に所定の間隔の格子形状をなす複数の凹凸状のグレーティング部分2bを形成する。
【0179】
次いで、図9(d)に示すように、コア2を覆うように上述のマトリックス材料と同様の材料からなるクラッド(上部クラッド層)3を形成すれば、埋め込み型低熱膨張性光導波路フィルム10Lが得られる。
【実施例】
【0180】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0181】
(実施例)
「低熱膨張性光導波路フィルムの作製」
アクリル樹脂を含浸させたセルロースフィルムを、所定の間隔で、所定のコア形状をなす凸部が設けられた金型上に三枚重ねてガラス基板により押圧成形し、紫外(UV)光を照射して、反応硬化させ、110℃にて20分間、乾燥窒素雰囲気中、イナートオーブンで加熱、ポストキュアすることにより、表面に光導波路のコア形状の凹部が形成された板状フィルム(下部クラッド層)を得た。アクリル樹脂としては、TCDDMA(希釈なし、紫外線硬化タイプ、ガラス転移温度(Tg)=270℃、屈折率(nD)=1.531、三菱化学社製)を使用した。
次いで、この板状フィルムの上に、スピンコート法によりコア材料となるエポキシ樹脂を塗布し、紫外(UV)光を照射して反応硬化させ、110℃にて20分間、乾燥窒素雰囲気中、イナートオーブンで加熱することにより、コア層を形成した。このエポキシ樹脂としては、C2839(紫外線硬化タイプ、屈折率(nD)=1.547(クラッドとの比屈折率差(Δ):約1.0%)、NTTアドバンステクノロジ社製)を使用した。
次いで、上記コア層および板状フィルムの表面に、スピンコート法により、上記のアクリル樹脂(TCDDMA)を塗布し、上記下部クラッド層およびコア層と同様に、紫外光を照射して硬化、ポストキュアすることにより、上部クラッド層を形成し、埋め込み型の低熱膨張性光導波路フィルムを得た。
【0182】
「評価」
以上により得られた実施例の低熱膨張性光導波路フィルムの断面観察、線熱膨張係数、挿入損失の各評価項目について、次の方法を用いて評価した。
(1)断面観察
得られた低熱膨張性光導波路フィルムの断面形状を評価し、67μm×53μmの方形状の埋め込み型の光導波路が作製出来ていることを確認できた。低熱膨張性光導波路フィルムの断面写真を図10(a)に、低熱膨張性光導波路フィルムのコア部分の拡大写真を図10(b)に示す。
【0183】
(2)線熱膨張係数
ASTM D 696に規定されている測定方法に準拠して、低熱膨張性光導波路フィルムの線熱膨張係数を測定した。
使用装置:TMA/SS6100、セイコーインスツルメンツ社製
測定温度範囲:室温(25℃)〜160℃
昇温速度:5℃/min
雰囲気:N2中
荷重:3g
試料形状:4mm×25mmのフィルム
試料長:15mm
測定回数:3回
結果を図11に示す。
【0184】
(3)挿入損失
光源と入射ファイバ間にモードスクランブラを介して得られた低熱膨張性光導波路フィルムに光を入射させ、この低熱膨張性光導波路フィルムから出射される光をコア径200μmのファイバで受光して、光の挿入損失を測定した。
光源(光波長632.8nm光源):LD LIGHT SOURCE KLHS−635、Kette社製
光源(光波長857.3nm光源):HP−81551MM LIGHTWAVE MULTIMETER 8153A、HEWLETT PACKARD社製
光パワーメータ:HP−81530A LIGHTWAVE MULTIMETER 8153A、HEWLETT PACKARD社製
入射ファイバ:コア径50μmのGIファイバ
受光ファイバ:コア径200μmのPCFファイバ
試料長:32.0mm
また、波長0.85μmの光を入射した場合に、低熱膨張性光導波路フィルムから光が出射される様子を撮影した写真を図12に示す。
【0185】
図10の写真から、上述のように作製した実施例の低熱膨張性光導波路フィルムは、下部クラッド層、コア層、上部クラッド層が形成されていることが確認できた。
また、図11の結果から、実施例の低熱膨張性光導波路フィルムは、線熱膨張係数が25℃〜160℃において、約20ppm[1/℃]であることが確認できた。
また、実施例の低熱膨張性光導波路フィルムは、試料長32.0mmにおいて、光波長632.8nmにて光の挿入損失6.4dB、光波長857.3nmにて光の挿入損失5.1dBであった。なお、ここでは、光の挿入損失には、光導波路フィルム端部での光の結合損失が含まれている。
さらに、図12の写真から、実施例の低熱膨張性光導波路フィルムは、波長0.85μmの光を入射した場合に、光がコア内に閉じこめられ、光導波路を光伝播していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0186】
本発明の低熱膨張性光導波路フィルムは、上記のような光信号回路基板以外にも、例えばディスプレイのバックライトの導光板や照明用導光シート、ディスプレイなどの表示装置、CDやDVDなどの記録媒体の信号読み取り用ピックアップヘッドやイメージスキャナーのヘッドなどにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの実施の形態を示す概略断面(光の進行方向に直交する断面)図である。
【図2】本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの光反射構造の例を示す図である。
【図3】本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの実装形態を示す説明図である。
【図4】本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの製造方法であるドライエッチング法を示す概略断面図である。
【図5】本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの製造方法である直接露光法を示す概略断面図である。
【図6】本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの製造方法である型押し法を示す概略断面図である。
【図7】本発明の低熱膨張性光導波路フィルムの製造方法である型押し法の他の例を示す概略断面図である。
【図8】本発明のグレーティング部を有する低熱膨張性光導波路フィルムの製造方法の一例を示す概略断面図である。
【図9】本発明のグレーティング部を有する低熱膨張性光導波路フィルムの製造方法の他の例を示す概略断面図である。
【図10】実施例で得られた低熱膨張性光導波路フィルムの光の進行方向に直交する断面の写真である。
【図11】実施例で得られた低熱膨張性光導波路フィルムの線熱膨張係数を測定した結果を示すグラフである。
【図12】実施例で得られた低熱膨張性光導波路フィルムに波長0.85μmの光を入射した場合に、この低熱膨張性光導波路フィルムから光が出射される様子を撮影した写真である。
【符号の説明】
【0188】
1・・・透明基板、2,2A,2B,2C,2D,2E・・・コア、3・・・クラッド、4・・・レジストマスク、5・・・紫外線硬化型樹脂、6・・・フォトマスク、7・・・型、8・・・マトリックス材料、9・・・セルロース、10A,10B,10C,10D,10E,10F,10G,10H,10I,10J,10K,10L,10M,10N,10P,10Q,10R,10S・・・低熱膨張性光導波路フィルム、11・・・セルロースシート、12・・・ガラス板、13・・・レジストパターン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が4〜200nmの繊維およびマトリクス材料を含有し、50μm厚換算における波長350nm〜2μmの光線透過率が60%以上である繊維強化複合材料からなる透明基板と、該透明基板上に形成されたコアとを有することを特徴とする低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項2】
前記透明基板の一方の面にコアが直接形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項3】
前記透明基板と積層したクラッド内に埋め込まれたコアが形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項4】
前記繊維はセルロース繊維であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項5】
前記セルロース繊維は化学修飾および/または物理修飾されたものであることを特徴とする請求項4に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項6】
前記セルロース繊維はアセチル化および/またはメタクロイル化されていることを特徴とする請求項5に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項7】
前記セルロース繊維はバクテリアセルロースであることを特徴とする請求項4ないし6のいずれか1項に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項8】
前記バクテリアセルロースは離解処理されていないことを特徴とする請求項7に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項9】
前記バクテリアセルロースは三次元交差構造体をなしていることを特徴とする請求項8に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項10】
前記バクテリアセルロースは、バクテリアおよび該バクテリアから産生され、該バクテリアに連なるセルロースを含む産生物をアルカリ処理してバクテリアを溶解除去したものであることを特徴とする請求項7に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項11】
前記セルロース繊維が植物繊維から分離されたものであることを特徴とする請求項4ないし6のいずれか1項に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項12】
前記セルロース繊維はミクロフィブリル化セルロース繊維をさらに磨砕処理されたものであることを特徴とする請求項11に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項13】
前記繊維強化複合材料における前記繊維の含有率が10重量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項14】
前記マトリクス材料は有機高分子、無機高分子、または有機高分子と無機高分子とのハイブリッド高分子であることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項15】
前記マトリクス材料は合成高分子であることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項16】
前記マトリクス材料は結晶化度が10%以下、かつ、ガラス転移温度が110℃以上の合成樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項17】
前記繊維強化複合材料の線熱膨張係数が0.05×10−5〜5×10−5K−1であることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項18】
前記繊維強化複合材料の曲げ強度が30MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項19】
前記繊維強化複合材料の比重が1.0〜2.5であることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項1】
平均繊維径が4〜200nmの繊維およびマトリクス材料を含有し、50μm厚換算における波長350nm〜2μmの光線透過率が60%以上である繊維強化複合材料からなる透明基板と、該透明基板上に形成されたコアとを有することを特徴とする低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項2】
前記透明基板の一方の面にコアが直接形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項3】
前記透明基板と積層したクラッド内に埋め込まれたコアが形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項4】
前記繊維はセルロース繊維であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項5】
前記セルロース繊維は化学修飾および/または物理修飾されたものであることを特徴とする請求項4に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項6】
前記セルロース繊維はアセチル化および/またはメタクロイル化されていることを特徴とする請求項5に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項7】
前記セルロース繊維はバクテリアセルロースであることを特徴とする請求項4ないし6のいずれか1項に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項8】
前記バクテリアセルロースは離解処理されていないことを特徴とする請求項7に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項9】
前記バクテリアセルロースは三次元交差構造体をなしていることを特徴とする請求項8に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項10】
前記バクテリアセルロースは、バクテリアおよび該バクテリアから産生され、該バクテリアに連なるセルロースを含む産生物をアルカリ処理してバクテリアを溶解除去したものであることを特徴とする請求項7に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項11】
前記セルロース繊維が植物繊維から分離されたものであることを特徴とする請求項4ないし6のいずれか1項に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項12】
前記セルロース繊維はミクロフィブリル化セルロース繊維をさらに磨砕処理されたものであることを特徴とする請求項11に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項13】
前記繊維強化複合材料における前記繊維の含有率が10重量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項14】
前記マトリクス材料は有機高分子、無機高分子、または有機高分子と無機高分子とのハイブリッド高分子であることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項15】
前記マトリクス材料は合成高分子であることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項16】
前記マトリクス材料は結晶化度が10%以下、かつ、ガラス転移温度が110℃以上の合成樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項17】
前記繊維強化複合材料の線熱膨張係数が0.05×10−5〜5×10−5K−1であることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項18】
前記繊維強化複合材料の曲げ強度が30MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【請求項19】
前記繊維強化複合材料の比重が1.0〜2.5であることを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張性光導波路フィルム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2006−208982(P2006−208982A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−23748(P2005−23748)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
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